説明

畦塗り機

【課題】高い畦の天場処理ができ、また非天場処理時に旧畦の天場の上方位置に天場処理部を跳ね上げ可能な畦塗り機を提供する。
【解決手段】畦塗り機は、旧畦の天場を切り崩す天場処理部11と、旧畦を切り崩して土盛りを行う前処理部30と、盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付ける整畦部とを有する作業部を備える。天場処理部11は前処理部30の耕耘軸34と同軸上に回動支点Poを有して上下方向に回動自在な天場動力伝達ケース20の先端部に支持されるとともに、天場処理部11と作業部に設けられたサポートフレームとの間に接続された上下位置調整機構部60によって上下位置調整が可能である。上下位置調整機構部60は長さ調整が可能であり、その他端部は位置変更機構部70によってその揺動支点Pyが位置変更可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田を区画する旧畦を畦塗り修復して新畦を形成する畦塗り機に関する。
【背景技術】
【0002】
このような畦塗り機は、トラクタ等の走行機体の後部に装着されて、走行機体からの動力を受けて駆動され、旧畦に沿って移動しながら旧畦を整形して新畦を形成するものである。この畦塗り機は、旧畦を切り崩して土盛りを行う前処理部と、前処理部によって盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付ける整畦部とを主要な構成として備えている。
【0003】
この畦塗り機では、旧畦の上面に雑草等が繁茂し、また旧畦の上面が固くなっているような場合には、その上に新畦を形成しようとすると、旧畦と新畦との境界が分離し易くなり、形成後に新畦が崩れ易くなる虞がある。このため、旧畦の上面(天場)を切り崩す天場処理部を前処理部の進行方向前方に設けて、天場処理された旧畦の上面に新畦を形成する畦塗り機が開発されている(特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に記載の天場処理部は、前処理部の回転中心軸の端部に上下方向に回動自在に接続された伝動フレームの先端部に設けられ、伝動フレームに内蔵された動力伝達機構を介して前処理部からの動力が伝達されて回転するように構成されている。
【0005】
この伝動フレームには、天場処理部の上下位置を調整するとともに、天場処理部に作用する力を吸収可能な上下位置調整機構が接続されている。この上下位置調整機構は、前処理部を覆うカバー部材に回動自在に設けられた支持ブロックに調整ロッドが上下方向にスライド自在で且つ位置調節可能に設けられ、調整ロッドの下端部が伝動フレームに接続されて構成されている。このため、調整ロッドの位置を調節することで、天場処理部の上下位置を調整することができる。
【0006】
しかしながら、この上下位置調整機構は、天場処理部の上下位置調整時において、調整ロッドに設けられた複数の調整孔に調整ピンを挿抜する操作や、調整ロッドに設けられた調整カラーの調節等、複雑な操作が必要であり、また調整代が調整ロッドの長さ分しかないのでロッドの長さを超える調整ができない。このため、高さの高い畦の天場を削ったり、また天場処理を行わないときに天場の上方位置に天場処理部を大きく跳ね上げたりすることができない。
【0007】
また、特許文献2には、天場処理部の上下位置調整が簡単な操作で行える上下位置調整装置を備える畦塗り機が提案されている。この上下位置調整装置は、天場処理部に作用した力を圧縮ばねの弾性力で受ける緩衝機構を備えた筒状の第1支持部材と、第1支持部材内に挿入されて第1支持部材に対する突出長さの調整が可能な第2支持部材を有してなる。緩衝機構は、第1支持部材の基端側を摺動可能に支持する支点部材と、第1支持部材の中間部に設けられた突起部と支点部材との間の第1支持部材の外側面に装着された圧縮ばねとを有してなる。
【0008】
この特許文献2に記載の上下位置調整装置は、天場処理部の上下位置調整時に、第1支持部材に設けられた調整孔に連結ピンを挿抜する簡単な操作を主に行えばよいので、天場処理部の上下位置調整は容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭60−98903号公報
【特許文献2】特開2006−304615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載の上下位置調整機構は、第1支持部材に対する第2支持部材の突出長さを調整するものであり、第2支持部材が第1支持部材に対して全縮状態になると、第1支持部材に対する第2支持部材の縮小方向の移動が規制されるので、特許文献1に記載の上下位置調整機構と同様に、調整代は第2支持部材の長さ分しかない。このため、この上下位置調整機構を備えた畦塗り機では、高い畦の天場を削り、また天場処理を行わないときに天場の上方位置に天場処理部を大きく跳ね上げることができない。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、高い畦の天場を削ることができ、また天場処理を行わないときに天場の上方位置に天場処理部を跳ね上げることができる畦塗り機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明の畦塗り機は、走行機体に装着され、旧畦の天場を切り崩す天場処理部と、旧畦を切り崩して土盛りを行う前処理部と、盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付ける整畦部とを有する作業部を備え、天場処理部は作業部に設けられた回動支点を中心として上下方向に移動可能に支持された畦塗り機であって、一端部が天場処理部に接続され、他端部が回動支点よりも上方の作業部に設けられた揺動支点に接続されて長さ調整が可能であり、この長さ調整によって天場処理部の上下位置を調整する上下位置調整機構部が設けられ、上下位置調整機構部の揺動支点は、その位置を変更可能な位置変更機構部を介して作業部に支持されていることを特徴とする(請求項1)。
【0013】
天場処理部は、作業部に設けられた回動支点を中心として上下方向に移動可能に支持されたものである。具体的には、天場処理部は作業部に設けられた回動支点を中心として上下方向に揺動自在に設けられたフレームの先端部に設けられ、該フレームを介して作業部に支持される。フレームは動力を天場処理部に伝達可能な動力伝達機構を備えるもの、又は備えないもののいずれでもよい。
【0014】
上下位置調整機構部は、天場処理部の上下位置を調節するものであり、具体的には、基端側部材に対して先端側部材が伸縮可能に構成され、基端側部材の一端部が作業部に回動自在に接続され、先端側部材が天場処理部に接続されて基端側部材に対して突出長さが調整可能に構成される。上下位置調整機構部の長さ調整は、先端側部材にその延伸方向に所定距離を有して複数の係合孔を設け、基端側部材に対する先端側部材の突出長さに対応する係合孔に基端側部材に挿通されたピンを通したり、また先端側部材をシリンダやモータ等のアクチュエータを介して基端側部材に対して突出入可能に構成して、アクチュエータの作動を制御するようにしたりしてもよい。
【0015】
本発明の「前記作業部に設けられた揺動支点」の位置は、天場処理部の回動支点よりも上方の位置であるとともに、上下位置調整機構部が天場処理部の移動とともに長さ調整されながら上下位置調整機構部の他端部を中心として回動可能な位置に設けられる。具体的には、前処理部の回転軸を中心として上下方向に回動自在に支持された伝動フレームの先端部に天場処理部が設けられる場合、前処理部を支持する主軸ケースに接続されて天場処理部側に延びるフレームの先端部の周辺や、前処理部を覆いフレームに支持された前処理部のカバー体の天部処理部側の周辺に、揺動支点が設けられる。
【0016】
位置変更機構部は、上下位置調整機構部の揺動支点の位置を、変更前の揺動支点の位置よりも上方で且つ変更前の揺動支点の位置よりも天場処理部側と反対側の位置に変更するように構成される。具体的には、位置変更機構部は、作業部に上下方向に回動自在に支持された支点ブラケットを有し、支点ブラケットの移動端側に上下位置調整機構部の他端部が回動自在に接続されて構成され、支点ブラケットは、該支点ブラケットの作業部側の回動支点を中心として回動して、その移動端側に接続された上下位置調整機構部の揺動支点を、支点ブラケットの回動支点を挟んで天場処理部側の下側位置及び該天場処理部と反対側の下側位置よりも上方の上側位置に選択的に移動自在である(請求項2)。
【0017】
本発明の「選択的に移動自在である」とは、支点ブラケットの回動に応じて、上下位置調整機構部の揺動支点が支点ブラケットの回動支点を挟んで天場処理部側の下側位置及び該天場処理部と反対側の下側位置よりも上方の上側位置のいずれかに移動できることをいう。このため、上下位置調整機構部の揺動支点が天場処理部と反対側の上側位置に移動すると、上下位置調整機構部の揺動支点の位置が天場処理部側の下側位置にある場合と比較して、天場処理部をより上方位置に移動させることができ、また天場処理部が上方位置にあるときの上下位置調整代を拡大することができる。
【0018】
また上下位置調整機構部の揺動支点が天場処理部側と反対側の上側位置に移動することで、天場処理部を跳ね上げると、天場処理部を上側位置側に接近した位置に移動させることができる。従って、天場処理部の格納時に、天場処理部を跳ね上げると、天場処理部を機体内側に移動させることが可能になり、天場処理部が外側に大きく突出する虞を無くすことができる。
【0019】
また本発明の位置変更機構部は、選択的に移動した上下位置調整機構部の揺動支点の位置を保持する位置保持機構部を有することを特徴とする(請求項3)。
【0020】
位置保持機構部は、選択的に移動した上下位置調整機構部の揺動支点の位置を位置決めして保持するものであり、具体的には、支点ブラケットを下側位置側及び上側位置側に附勢可能な弾性体と、支点ブラケットの位置を下側位置及び上側位置に位置決め可能なストッパ部材を有してなる。弾性体は、具体的には、板ばね・コイルばね・ねじりコイルばね等のばね部材である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係わる畦塗り機によれば、一端部が天場処理部に接続され、他端部が回動支点よりも上方の作業部に設けられた揺動支点に接続されて長さ調整が可能であり、この長さ調整によって天場処理部の上下位置を調整する上下位置調整機構部を有し、上下位置調整機構部の揺動支点は、その位置を変更可能な位置変更機構部を介して作業部に支持されることで、上下位置調整機構部の揺動支点を、変更前の揺動支点の位置よりも上方位置に移動させると、天場処理部をより上方位置に移動させることができる。このため、高い畦の天場を削ることができ、また天場処理を行わないときに天場の上方位置に天場処理部を跳ね上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機の平面図を示す。
【図2】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機の正面図を示す。
【図3】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機の側面図を示す。
【図4】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機に設けられた作業部の一部を断面で示した平面図を示す。
【図5】本発明の一実施の形態に係わる位置変更機構部が設けられた畦塗り機の概略平面図を示す。
【図6】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機の位置変更機構部の作用を説明するための説明図を示す。
【図7】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機の上下位置調整機構部が下側位置に移動時の位置変更機構部を示し、同図(a)は位置変更機構部の一部を断面で示した平面図であり、同図(b)は位置変更機構部の側面図である。
【図8】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機の上下位置調整機構部が上側位置に移動時の位置変更機構部を示し、同図(a)は位置変更機構部の一部を断面で示した平面図であり、同図(b)は位置変更機構部の側面図である。
【図9】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機の上下位置調整機構部の部分拡大側面図を示す。
【図10】本発明の一実施の形態に係わる畦塗り機によって形成される畦の断面図を示し、同図(a)は高さが比較的に低い畦の断面図であり、同図(b)は高さが比較的に高い畦の断面図であり、同図(c)は高さがより高い畦の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係わる畦塗り機の好ましい実施の形態を図1から図10に基づいて説明する。本実施の形態は、走行機体の前進走行に応じて畦塗り作業を行なう畦塗り機を例にして説明する。なお、畦塗り機には、各種のものがあり、本願発明はこれら各種の畦塗り機に対応可能であるので、本願発明の要部である位置変更機構部を備えた作業部については詳細に説明し、その他の畦塗り機の構成については概略的に説明する。
【0024】
畦塗り機1は、図1(平面図)に示すように、走行機体90の後部に装着され、走行機体90の走行位置に対して側方にオフセットした位置に移動されて、走行機体90からの動力を受けて畦塗り作業を行なう作業部10を備える。
【0025】
作業部10は、詳細は後述するが、圃場の周辺に沿って形成された旧畦の上部を切り崩す天場処理部11と、切り崩した土の土盛りを行なう前処理部30と、盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付ける整畦部40とを有してなる。作業部10は、畦塗り機1に設けられたオフセット機構部50の進行方向に対して左右方向の揺動に拘わらずに作業部10の作業方向が走行機体90の進行方向Aと平行になるようにオフセット機構部50の移動端側に回動自在に保持されている。
【0026】
オフセット機構部50は、前端側をヒッチフレーム3に回動自在に連結されて後方側へ延びるオフセットフレーム51と、オフセットフレーム51の左側に沿って並設されて前端側がヒッチフレーム3の左側端部に回動自在に連結されたリンク部材52とを有してなる。リンク部材52の後端側は、オフセットフレーム51の後端部に回動自在に設けられてリンク部材側へ延びる連結部材53に回動自在に接続されている。オフセット機構部50は、オフセットフレーム51、リンク部材52、ヒッチフレーム3及び連結部材53によって平行リンク機構を形成している。
【0027】
オフセット機構部50の移動端側には垂直下方向に延びる主軸55が回転自在に設けられている。この主軸55は走行機体90からの駆動力を受けて回転可能に設けられ、主軸55の動力は作業部10に伝達される。作業部10に動力を伝達する機構については後述する。主軸55の外側には主軸55の中心軸線と同軸上に配置されて主軸55を覆う主軸ケース56が設けられ、この主軸ケース56の上端部はオフセットフレーム51の移動端下部に回動可能に連結され、主軸ケース56の下端部に作業部10が固定されている。このため、作業部10は主軸55の中心軸線を中心として回動可能である。
【0028】
整畦部40は、図4(部分断面平面図)を更に追加して説明すると、左右方向に延びて回転動自在に支持された回転軸41に取り付けられた多面体ドラム42と、多面体ドラム42の右側端部に取り付けられて横方向に延びる円筒部43とを有してなる。整畦部40は整畦動力伝達ケース45を介して主軸ケース56に連結されて支持される。整畦動力伝達ケース45内には図示しない整畦側動力伝達機構が内蔵され、この整畦側動力伝達機構は主軸55に繋がって、主軸55からの動力を整畦部40に伝達する。
【0029】
前処理部30は、前処理動力伝達ケース31を介して主軸ケース56に連結されて支持される。前処理動力伝達ケース31内には、主軸55からの動力を受けて回転駆動する前処理側駆動軸32を有した動力伝達機構33が内蔵されている。前処理側駆動軸32の先端部に前処理部30が接続されている。前処理部30の回転軸である耕耘軸34は前処理側駆動軸32に同軸上に接続されている。前処理部30の耕耘軸34は、平面視において旧畦K側に傾斜している。
【0030】
前処理部30は、耕耘軸34と、耕耘軸34の外周に放射状に取り付けられて耕耘軸34とともに回転する複数の耕耘爪35と、複数の耕耘爪35が取り付けられた耕耘軸34の軸方向後側に所定距離を有して配置されて耕耘爪35によって耕耘された土を旧畦側に土盛りする掬い爪36を有してなる。
【0031】
耕耘爪35及び掬い爪36における後方側と上部から旧畦側と反対側の側部にかけて及ぶ側とその前方側は、図1,図2,図4に示すように、カバー体37によって覆われている。カバー体37は、耕耘爪35及び掬い爪36の前方側及び後方側を覆う前板部37a及び後板部37cと、前板部37a及び後板部37cに接続されて耕耘爪35及び掬い爪36の外周上部から旧畦側と反対側の側部を覆う円弧状板部37bを有してなる。なお、旧畦側は土量調整用のガイドカバー37dやサイドカバー37eが設けられている(図1、図3参照)。
【0032】
天場処理部11は、天場動力伝達ケース20を介して前処理部30に支持されている。天場処理部11の回転軸12には複数の耕耘爪13が放射状に取り付けられ、この回転軸12は平面視において旧畦K側に傾斜している。天場動力伝達ケース20内にはチェーン伝達機構を構成する動力伝達機構21が設けられ、動力伝達機構21は前処理部30の耕耘軸34に接続されて前処理部30からの動力を天場処理部11に伝達可能である。
【0033】
天場動力伝達ケース20は、天場処理部11の回転軸12の基端側に配置されるとともに回転軸12に対して直交する方向に延びる。天場動力伝達ケース20の基端部は前処理部30の耕耘軸34の先端部に対して上下方向に回動自在に取り付けられている。このため、天場動力伝達ケース20は耕耘軸34の中心軸線を回動支点Po(図2、図6参照)として上下方向に回動自在である。天場動力伝達ケース20は前処理部30の耕耘軸34の軸方向矢視において上方へ突出するように屈曲して形成されている(図2参照)。
【0034】
天場動力伝達ケース20は、図1、図3、図6に示すように、主軸ケース56に取り付けられたサポートフレーム58と天場処理部11との間に設けられた上下位置調整機構部60を介して接続されて上下位置調整が可能である。上下位置調整機構部60は、天場処理部11に作用した力を圧縮ばね65の弾性力で受ける緩衝機構66を備えた第1支持部材61と、第1支持部材61に対して長さ調整される第2支持部材63とを有してなる。
【0035】
第1支持部材61の先端側に第2支持部材63が進退可能に挿入されている。第2支持部材63の先端部は天場処理部11を覆うカバー体15に枢支され、第1支持部材61の基端部は、サポートフレーム58の先端部に後述する位置変更機構部70を介して取り付けられている。
【0036】
サポートフレーム58は一端部が主軸ケース56に接続されて他端側が前処理動力伝達ケース31の上方をこのケースに沿って延びて、サポートフレーム58の先端部に前処理部30を覆うカバー体37を支持している。このサポートフレーム58の先端部には、図7(a)に示すように、フレーム側フランジ部58aが設けられ、このフレーム側フランジ部58aに軸部68を有する軸側フランジ部68aがボルト69等を介して締結固定されている。この軸部68に位置変更機構部70を介して第1支持部材61が接続されている。
【0037】
軸部68は、図6に示すように、天場処理部11を上方へ跳ね上げたときに、上下位置調整機構部60の基端側端部がオフセットアーム51に接触することなく近接した位置に移動するように、前処理体30の耕耘軸34よりも上方位置であってオフセットアーム51の上下方向の略中間部の位置の側方の近接した位置に配設されている。
【0038】
第1支持部材61は、図7(a)(平面図)及び図9(部分拡大側面図)に示すように、一端部が開口して他端部が閉じた挿入穴61aを有した棒状部材であり、先端部には連結ピン62を通す挿通孔61b(図7(b)参照)が設けられている。第1支持部材61の基端部は、軸部68に回動自在に取り付けられた一対の支点ブラケット71、71'の移動端側に回動自在に設けられた支点部材73に接続されている。
【0039】
このため、第1支持部材61は支点部材73を揺動支点Py(図7(b)参照)として上下方向に揺動自在であるとともに、軸部68に対する支点ブラケット71、71'の回動によって揺動支点Pyの位置を変更することが可能である。一対の支点ブラケット71、71'は、軸部68の軸方向に所定間隔を有して対向配置されている。支点ブラケット71、71'の詳細については後述する。
【0040】
第1支持部材61の中間部には、圧縮ばね65の一端部を当接させる円環状の突起部61cが設けられている。圧縮ばね65の他端部は、支点部材73の一方側端部に設けられたばね座73aに接触して、圧縮ばね65は自然長から所定長さ圧縮された状態で第1支持部材61の外周に挿着されている。
【0041】
第1支持部材61の基端部には移動規制部材80がボルト81を介して固定されている。移動規制部材80は、内部が中空なキャップ状に形成され、第1支持部材61の外径よりも大きな径を有するとともに、一対の支点ブラケット71、71'間内を挿抜可能な外径を有している。移動規制部材80は、内部が中空で一端側が開口する規制本体部82を備える。規制本体部82の開口側端部には第一支持部材61の外側端部を受け入れて保持可能な環状凹部82aが設けられている。
【0042】
規制本体部82の開口側端部と反対側端部の中央部にはボルト81の軸部81aを通す貫通孔82bが設けられている。この貫通孔82bに挿通されたボルト81の軸部81aを第1支持部材61の端部に螺合すると、環状凹部82aに第1支持部材61の端部が接触した状態で規制本体部82が第1支持部材61に固定される。また規制本体部82の開口側端の先端部は、支点部材73の他方側に形成された装着凹部73bの底面に接触可能である。このため、移動規制部材80によって第1支持部材61が支点部材73から第2支持部材側への抜脱を防止することができる。
【0043】
また、第1支持部材61に支点部材73側を向く力が作用した場合、その力の大きさが圧縮ばね65の附勢力よりも大きいときには、圧縮ばね65が縮小して作用した力の全部又は一部を吸収する。このため、第1支持部材61の軸方向に作用する衝撃力を緩和することができる。なお、圧縮ばね65と支点部材73からなる部分を以下、緩衝機構74と記す。
【0044】
第2支持部材63は、図6、図7(a)に示すように、第1支持部材61の挿入穴61aの内径よりも小径な外径を有して、第1支持部材61の挿入穴61a内を摺動可能である。第2支持部材63にはその軸方向に所定間隔を有して配置された複数の長さ調整孔63aが設けられている。これらの長さ調整孔63aは挿通孔61b(図7(b)参照)と連通して連結ピン62が挿通可能である。このため、複数の長さ調整孔63aのいずれかを挿通孔61bと連通し、連通したこれらの孔に連結ピン62を挿通することで、第1支持部材61から延出する第2支持部材63の長さを所望の長さにすることができるとともに、第2支持部材63を第1支持部材61に固定することができる。
【0045】
なお、図6においてAで示す上下位置調整機構部60はこれが全伸長状態にある場合を示し、図6においてB、B'で示す上下位置調整機構部60はこれが全縮小状態にある場合を示している。なお、第1支持部材61及び第2支持部材63の断面形状は、円形に限るものではなく、矩形状に形成されてもよい。この場合には、挿入穴61aの断面形状は第2支持部材63の断面形状と相似の形状にする。また第2支持部材63として、回転ネジ方式のものや電動又は油圧シリンダ等を利用して無段階調整ができるようにしてもよい。
【0046】
第1支持部材61の基端側端部は、前述した位置変更機構部70を介してサポートフレーム58に支持されている。位置変更機構部70は、図6,図7(a)、図7(b)に示すように、サポートフレーム58(図3参照)に取り付けられた軸部68を回動支点Pzとして上下方向に回動自在に設けられた一対の支点ブラケット71、71'と、支点ブラケット71、71'の支点部材73に接続された第1支持部材61の揺動支点Pyを、支点ブラケット71、71'の回動支点Pzを挟んで天場処理部側の位置(以下、「下側位置Pd」と記す、図7(b)参照)及び天場処理部11と反対側位置(以下、「上側位置Pu」と記す、図8(b)参照)に附勢するねじりコイルばね75と、支点ブラケット71、71'の回動を規制して第1支持部材61の揺動支点Pyを下側位置Pd及び上側位置Puに位置決めするストッパ部材76とを有してなる。なお、ねじりコイルばね75とストッパ部材76とを合わせて、以下「位置保持機構部77」と記す。
【0047】
支点ブラケット71、71'は、側面視において略長方形状を有し、その一端部には軸部68を挿通可能な孔部71aが設けられ、支点ブラケット71、71'の他端部には、支点部材73を挿着可能な支点孔部71cが設けられている。また軸部68の先端側に配置される支点ブラケット71の一端部には、ねじりコイルばね75の一方の腕部75aを係止する孔部を備えた係止突起部71bが設けられている。つまり、係止突起部71bは軸部68の先端側に配置される支点ブラケット71にのみ設けられ、軸部68の基端側に配置される支点ブラケット71'には設けられていない。
【0048】
これは、上下位置調整機構部60の揺動支点Pyが下側位置Pdに移動した状態で、支点ブラケット71、71'を回動支点Pzを中心として時計方向に回動させたときに、係止突起部71bがストッパ部材76に当接して支点ブラケット71、71'の回動が規制されるのを防止するためである。このため、支点ブラケット71'の軸部側の端部は、支点ブラケット71'が回動してもストッパ部材76の内側を移動可能な径を有した円弧状に形成されている。このため、ストッパ部材76は軸側フランジ部68aから突出して支点ブラケット71'を超えて延びるが、その先端部は支点ブラケット71の手前側に位置している。
【0049】
これら一対の支点ブラケット71、71'は所定距離を置いて対向配置されるが、これら支点ブラケット71、71'の孔部71a間には筒部71dが挿着されている。この筒部71d内に軸部68が挿入されて、一対の支点ブラケット71、71'は軸部68を中心として回動自在である。
【0050】
一対の支点ブラケット71、71'の支点孔部71c間には、前述した支点部材73が回動自在に挿入されている。支点部材73は、図9に示すように、円柱状に形成され、その軸方向中央部には、軸方向に対して直交する方向に延びる貫通孔73cが設けられている。この貫通孔73cに第1支持部材61が移動自在に挿入される。
【0051】
この貫通孔73cの一方側の開口部の周囲に前述した凹状のばね座73aが形成されている。ばね座73aは貫通孔73cよりも大径である。また貫通孔73cの他方側の開口部の周囲には、前述した移動規制部材80を挿入可能な挿入凹部73bが設けられている。挿入凹部73bは貫通孔73cよりも大径である。
【0052】
支点ブラケット71、71'を支持する軸部68に設けられた軸側フランジ部68aは、図7(a)及び図7(b)に示すように、側面視において略逆三角状に形成され、軸側フランジ部68aの下部には軸部68の先端部を超えて延びる腕部材68bが突設されている。腕部材68bの先端部には、ねじりコイルばね75の他方側の腕部75bを係止する係止部68cが設けられている。このため、ねじりコイルばね75は、支点ブラケット71の外側に配置されて、支点ブラケット71と軸側フランジ部68aとの間を接続する。ねじりコイルばね75の腕部75a、75bは、自然状態で一方の腕部75bに対して他方の腕部75aが所定のたわみ角を有するように構成されている。
【0053】
上下位置調整機構部60の揺動支点Pyが下側位置Pd(図7(b)参照)及び上側位置Pu(図8(b)参照)に移動すると、支点ブラケット71の外側端部にストッパ部材76が接触し、またねじりコイルばね75の腕部75a、75b間のたわみ角αは自然状態のたわみ角よりも小さくなるように構成されている。このため、上下位置調整機構部60の揺動支点Pyが下側位置Pd及び上側位置Puに移動すると、ねじりコイルばね75によって支点ブラケット71'がストッパ部材76側に附勢されて、支点ブラケット71、71'はストッパ部材76に接触した状態に維持される。
【0054】
従って、支点ブラケット71'が回動すると、支点ブラケット71、71'の姿勢に応じて、位置保持機構部77によって、上下位置調整機構部60の揺動支点Pyを下側位置Pd又は上側位置Puに位置決めして保持することができる。このため、支点ブラケット71、71'を回動させることにより、上下位置調整機構部60の揺動支点Pyの位置を、下側位置Pd又は上側位置Puに選択的に移動させることができる。
【0055】
ストッパ部材76は、軸側フランジ部68aに設けられた軸部68よりも下方であって軸側フランジ部68aの幅方向一方側に設けられている。ストッパ部材76は、板状に形成されて、その上面が傾斜して設けられている。なお、ストッパ部材76は、板状に限るものではなく、円柱状でもよい。
【0056】
このように構成された上下位置調整機構部60は、下側位置Pdと上側位置Puに移動可能であるので、図6及び図10(a)に示すように、形成される畦Uの高さを比較的に低くする場合(例えば、H1=25〜35cm)には、上下位置調整機構部60の揺動支点Pyの位置を下側位置Pdに移動させ、矢印Aが示す上下位置調整機構部60の第2支持部材63を第1支持部材61に対して延びきった全伸長状態又は全伸長状態よりも僅かに短い長さに調整した状態にする。
【0057】
その結果、天場処理部11の自重によって、天場動力伝達ケース20が回動支点Poを中心として反時計方向に回動するとともに、上下位置調整機構部60が揺動支点Pyを中心として反時計方向に回動して、回動支点Poに対する上下位置調整機構部60の先端側の枢支点Psの回動半径R1の回転軌跡と、上下位置調整機構部60の揺動支点Pyに対する上下位置調整機構部60の枢支点Psの回動半径R2の回転軌跡とが交差する点に、上下位置調整機構部60の枢支点Psが移動すると、天場動力伝達ケース20の回動及び上下位置調整機構部60の揺動が停止して、天場処理部11は高さが比較的に低い位置(例えば、H1=25〜35cm)に移動する。その結果、低い位置に移動した天場処理部11によって旧畦の天場が処理されるので、高さが比較的に低い畦を形成することができる。なお、高さが低い畦を形成する場合には、円筒部43として外径が比較的に大きい大径ローラ43'を使用する。
【0058】
また形成される畦Uの高さを比較的に高くする場合(例えば、H1=35〜45cm)には、図6及び図10(b)に示すように、矢印Bが示す上下位置調整機構部60の揺動支点Pyの位置を下側位置Pdに移動させ、上下位置調整機構部60の第2支持部材63を全縮状態又は全縮状態よりも僅かに長い長さに調整した状態にする。
【0059】
従って、天場処理部11は、その自重によって、天場動力伝達ケース20が回動支点Poを中心として反時計方向に回動するとともに、上下位置調整機構部60が揺動支点Pyを中心として反時計方向に回動する。そして、回動支点Poに対する上下位置調整機構部60の先端側の枢支点Psの回動半径R1の回転軌跡と、上下位置調整機構部60の揺動支点Pyに対する上下位置調整機構部60の枢支点Psの回動半径R2'の回転軌跡とが交差する点に、上下位置調整機構部60の枢支点Psが移動すると、天場動力伝達ケース20の回動及び上下位置調整機構部60の揺動が停止して、天場処理部11は高さが比較的に高い位置(例えば、H2=35〜45cm)に移動する。その結果、比較的に高い位置に移動した天場処理部11によって旧畦の天場が処理されるので、高さが比較的に高い畦(例えば、H2=35〜45cm)を形成することができる。なお、高さが比較的に高い畦を形成する場合には、円筒部43として外径が比較的に小さい小径ローラ43''を使用する。
【0060】
また畦形成時に天場処理部11を使用せずに法面のみを形成して高さがより高い畦(例えば、H1=45cm以上)を形成する場合や、天場処理部11を格納するために天場処理部11を格納位置に跳ね上げる場合には、図6、図10(c)に示すように、矢印B'が示す上下位置調整機構部60の揺動支点Pyの位置を上側位置Puに移動させ、上下位置調整機構部60の第2支持部材63を全縮状態にする。
【0061】
従って、天場処理部11は、その自重によって、天場動力伝達ケース20が回動支点Poを中心として反時計方向に回動するとともに、上下位置調整機構部60が揺動支点Pyを中心として反時計方向に回動する。そして、回動支点Poに対する上下位置調整機構部60の枢支点Psの回動半径R1'の回転軌跡と、上下位置調整機構部60の揺動支点Pyに対する上下位置調整機構部60の枢支点Psの回動半径R2''の回転軌跡とが交差する点に、上下位置調整機構部60の枢支点Psが移動すると、天場動力伝達ケース20の回動及び上下位置調整機構部60の揺動が停止して、天場処理部11は高さがより高い位置(例えば、H3=45cm以上)に移動する。その結果、多面体ドラム42から円筒部を取り外した整畦部40を使用すると、旧畦の上部が天場処理部11によって削られる虞はないので、多面体ドラム42による法面形成のみが行われて、高さが高い畦Uを形成することができる(図10(c)参照)。
【0062】
また天場処理部11の格納時には、矢印B'が示すように上下位置調整機構部60はオフセットフレーム51に近接した位置に移動されるとともに全縮状態にされるので、天場処理部11が格納状態の畦塗り機1の幅方向外側に大きく突出することはない。このため、格納状態の畦塗り機1をコンパクト化することができる。
【0063】
また上下位置調整機構部60は位置変更機構部70によって揺動支点Pyが2つの異なる上下位置に変更されるので、天場処理部11の上下位置調整代は異なる2種類の調整代を有することになる。このため、天場処理部11の上下位置調整をより細かくすることができる。
【0064】
なお、前述した実施例では、上下位置調整機構部60は第1支持部材61及び第2支持部材63を有して構成された例を示したが、上下位置調整機構部60は3つ以上の部材を有して構成されるものでもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 畦塗り機
10 作業部
11 天場処理部
30 前処理部
40 整畦部
60 上下位置調整機構部
70 位置変更機構部
71,71' 支点ブラケット
77 位置保持機構部
90 走行機体
K 旧畦
Pd 下側位置
Po、Pz 回動支点
Pu 上側位置
Py 揺動支点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体に装着され、旧畦の天場を切り崩す天場処理部と、前記旧畦を切り崩して土盛りを行う前処理部と、盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付ける整畦部とを有する作業部を備え、前記天場処理部は前記作業部に設けられた回動支点を中心として上下方向に移動可能に支持された畦塗り機であって、
一端部が前記天場処理部に接続され、他端部が前記回動支点よりも上方の前記作業部に設けられた揺動支点に接続されて長さ調整が可能であり、この長さ調整によって前記天場処理部の上下位置を調整する上下位置調整機構部が設けられ、
前記上下位置調整機構部の前記揺動支点は、その位置を変更可能な位置変更機構部を介して前記作業部に支持されていることを特徴とする畦塗り機。
【請求項2】
前記位置変更機構部は、前記作業部に上下方向に回動自在に支持された支点ブラケットを有し、
前記支点ブラケットの移動端側に前記上下位置調整機構部の前記他端部が回動自在に接続され、
前記支点ブラケットは、該支点ブラケットの作業部側の回動支点を中心として回動して、その移動端側に接続された前記上下位置調整機構部の前記揺動支点を、前記支点ブラケットの前記回動支点を挟んで前記天場処理部側の下側位置及び該天場処理部と反対側の前記下側位置よりも上方の上側位置に選択的に移動自在であることを特徴とする請求項1に記載の畦塗り機。
【請求項3】
前記位置変更機構部は、選択的に移動した前記上下位置調整機構部の前記揺動支点の位置を保持する位置保持機構部を有することを特徴とする請求項2に記載の畦塗り機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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