異常事象検出(AED)技術のポリマープロセスへの適用
本発明は、ポリマーユニットでのプロセスユニットの異常事象を検出するための方法およびシステムである。この方法は、プロセスユニットの動作と統計的な工学モデルまたはヒューリスティックモデルとを比較する。統計モデルは、これらのユニットの正常動作の主成分分析によって開発される。また、工学モデルは、変数間の相関分析または単純な工学計算に基づくものである。プロセスユニットの動作と正常なモデル結果との差が異常状態を示したら、その異常状態の原因を判断して補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレンプロセス(PP)に適用される具体例付きのポリマープロセスの動作に関する。この例のPPは、9つの動作領域即ち、触媒調製領域(Cat Prep)、リアクタ(RX)、再利用ガスコンプレッサ、再利用ガス回収システム、ドライヤ、2つの顆粒領域、2つの押出機システムを含む。特に、本発明は、プロセスが正常動作から外れた時点を判断し、プロセスの異常部分を切り離す通知を自動的に生成することに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンプロセス(PP)は、プロピレンを重合させてポリプロピレンを製造するのに最も重要かつ広く用いられているプロセスの1つである。こうして製造されたポリプロピレンは、牛乳用のボトル、清涼飲料水用のボトル、診察着、おむつの裏地などのプラスチック製品を製造する際の中間材料として利用される。PPは、触媒調製ユニット、リアクタ、再利用ガスコンプレッサ、再利用ガス回収システム、ドライヤ、顆粒システム、2基の押出機からなる、極めて複雑かつしっかりと統合されたシステムである。図23は、典型的なPPレイアウトを示す。PPプロセスでは、非常に細かい粒子状の触媒を冷たい油およびグリースと混合し、極めて濃厚なペースト状の混合物にして利用する。このような触媒混合物は濃厚なペースト状であるため、触媒をポンプでリアクタに圧送するのが困難になり、触媒システムに詰まりの問題が発生しやすくなる。触媒混合物と新鮮なモノマー原料(プロピレンまたはC3=)をコモノマー(エチレン)と一緒に2基の大きなリアクタ(RX 1およびRX 2)に順次供給する。リアクタでは、モノマーが触媒と接触する際に極めて発熱性の高い反応が起こり、リアクタのスラリー中にポリマー顆粒が形成される。この反応によって生じる熱を取り除くために、リアクタジャケットのまわりにポンプで冷却水を連続的に圧送し、リアクタの温度を所望の目標値に維持する。最初の2基のリアクタには各々、塊の形成を防ぐ目的でポリマースラリーを連続的に循環させる大きなポンプがある。製品のグレードに応じて、PPには2種類の異なるリアクタ構成モードがある。一方の構成モードでは、2基のリアクタ(RX 1および2)を直列で利用するのに対し、他方のモードには、最初の2基のリアクタと直列に第3のリアクタ(RX 3)が必要である。リアクタから出るポリマースラリーをポンプで分離器まで圧送し、再利用のためにリアクタに戻す前に分離器で未反応のモノマーを除去してモノマー回収システムに送る。ポリマー顆粒についてはドライヤシステムに供給する。ドライヤシステムでは、最後に残った微量のモノマーを取り除き、微量の触媒残渣を水蒸気蒸留し、顆粒を完全に乾燥させる。この乾燥ポリマー顆粒を顆粒システムに送って添加剤と混合し、ペレット化のために2基の押出機に送る。続いて、このポリマーペレットを保管システムまたは積出システムに送る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PPは動的性質が複雑であるため、さまざまな根本的原因から異常なプロセス動作を生じやすいが、これが積み重なって重大な問題に至る可能性があり、ときにはプラントの運転停止を引き起こしてしまうことすらある。これらの動作は、生産損失や設備の破損から、環境排出物、怪我、死に至るまで、安全面および経済面で重要な意味を持つ場合がある。オペレータの主な仕事として、異常な状況の原因を特定し、適時に効率的な方法で補償措置または是正措置を講じることがある。
【0004】
現行の実務では、小さなプロセス外乱が生じたらプロセスを自動的に調節し、中程度から深刻な異常動作の場合には人間によるプロセスへの介入に頼り、極めて深刻な異常動作の場合は自動緊急プロセスシャットダウンシステムを用いる先端的なプロセス制御アプリケーションを使用している。通常、コンソールのオペレータに異常プロセス動作の開始を通知するのにはプロセスアラームが用いられている。これらのアラームは、主要なプロセス測定値(温度、圧力、流量、レベルおよび組成)があらかじめ規定された静的な動作域の組から外れると発せられる。この通知技術では、主要な測定値がPPなどの複雑なプロセスと相関している場合に、誤判定率を低く保ちつつ適時にアラームを発するのが困難である。
【0005】
主要なプロセス測定値には450を超える種類があり、これらが典型的なPPの動作をカバーしている。従来の分散制御システム(DCS)のシステムでは、こうしたセンサの一覧とその傾向をオペレータが俯瞰して、これを自分の頭の中にある正常なPP動作に関する知識と比較して、自らのスキルで潜在的な問題を発見しなければならない。稼働中のPPには膨大な数のセンサがあるため、異常を見落としやすく、簡単に見落とされてしまう。現行のDCSベースのモニタリング技術では、オペレータにとっての唯一の自動検出補助となるのが、所定の限界値から外れた場合に発せられる各センサのアラーム音に基づくDCSアラームシステムである。PPなどの大規模で複雑なプロセスでは、このタイプの通知はオペレータが行動を起こして問題を軽減するにはオペレータの耳に届くのが遅すぎることが多いため、明らかに制約の1つになる。本発明は、PPのオペレータに対して一層効果的な通知を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリマープロセスユニットの異常事象を検出するための方法およびシステムである。好ましい実施形態では、このポリマープロセスは、ポリオレフィンプロセスである。もう1つの好ましい実施形態では、ポリオレフィンプロセスはポリエチレンプロセスまたはポリプロピレンプロセスであるか、これらの組み合わせである。このプロセスでは、既存の異常事象検出(AED)技術を利用するが、グレード切り換えに伴う動作状態の頻繁な変更並びに、ときには異なる製品グレードを製造するためのリアクタ構成の変更によるPPの複雑な動的性質を扱えるように改良してある。この改良には、製品グレードの違いに合わせたモデルの開発、製品グレード切り換え状態の開始を検出するための機構、グレード遷移時間における通知抑制、動作モードおよびリアクタ構成の変更に基づいてオペレータに提示されるモデルの自動切り換えがある。オペレータは依然として同じオペレータインタフェースを利用しているため、モデルの自動切り換えはオペレータには分からない。PPのAEDアプリケーションは、高度に統合された多数の動的プロセスユニットを含む。この方法では、現行の動作を、カバーしているユニットでの正常動作のさまざまなモデルと比較する。ユニットの動作と正常動作との差からプロセスユニットにおける異常状態が示された場合は、その異常状態の原因を判断し、是正措置をとるために関連する情報を効率よくオペレータに提示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、改良された異常事象検出(AED)技術を利用して、PPの各セクションにおける異常状態を早期にオペレータに通知する方法である。この改良としては、製品グレードの違いに合わせた異なるモデルの開発並びに、動作モードおよびリアクタ構成の変更に応じてオペレータに提示されるモデルの自動切り換えがあげられる。オペレータは依然として同じオペレータインタフェースを利用しているため、モデルの切り換えはオペレータには分からない。PPのAEDアプリケーションは、高度に統合された多数の動的プロセスユニットを含む。この方法では、現行の動作を、カバーしているユニットでの正常動作のさまざまなモデルと比較する。ユニットの動作と正常動作との差からプロセスユニットにおける異常状態が示された場合は、その異常状態の原因を判断し、是正措置をとるために関連する情報を効率よくオペレータに提示する。
【0008】
スナップショットに基づくオン/オフ表示だけしか得られないアラーム式の技法とは対照的に、本方法ではファジィ理論を利用して動作上の問題の一因である異常を示す裏付けとなる証拠を複数組み合わせ、その確率をリアルタイムに推定する。この確率は、連続信号としてオペレータに提示されるため、現行の単一センサアラーム式のオン/オフ方法に伴うチャタリングが除去される。オペレータには、問題を完全に調査してその根本的原因まで掘り下げ、的確な措置を講じられるようにする一組のツールが与えられる。この手法を用いると、オペレータは、異常動作についての高度な警告(従来のアラームシステムよりも数分から数時間早い場合がある)を得られることが明らかになっている。こうした早期の通知によって、オペレータは、十分な情報に基づいた上で判断をして、問題の深刻化や事故を回避するための是正措置をとる。この方法はPPにもうまく応用されている。一例として、図27に、ポリ8動作領域での触媒詰まりの問題に対する完全な掘り下げを示す(下位の問題の詳細については後述する)。
【0009】
PPのAEDアプリケーションでは、特定の動作に関する知識の多種多様なソースを利用して、主成分分析(PCA)、バルブ流量モデル(VFM)などの相関に基づく工学モデル或いは、ヒューリスティックモデル(HM)即ちファジィ理論ネットワークにおいて構成される経験豊富なオペレータから収集した具体的な「操作上の経験則」、関連のセンサを監視するためのコントローラモニタリングおよびセンサ一貫性チェック(CM)の表示画面を、ファジィ理論ネットワークを利用して組み合わせる。このファジィ理論ネットワークは、証拠を集約して、潜在的な問題の総合した信頼度のレベルを示す。このため、ネットワークでは、初期の拡大段階でより高い信頼度で問題を検出することができ、オペレータに対して、重大な事故を回避すべく補償措置または是正措置を講じるために必須のリードタイムを与えることができる。これは、DCSシステムからの単一のセンサアラームに基づいてPPを監視する現行の実務に対する主な利点である。PPの複雑かつ高速の動的性質が原因で、オペレータが動作上の問題を軽減するにはアラームが届くのが遅すぎるか、複数のアラームがオペレータに殺到してオペレータを混乱させ、対応を支援するどころか阻害してしまう場合が極めて多い。
【0010】
PPユニットは、設備グループ(主要な機能セクションまたは動作セクションと呼ぶ)に分けられる。これらの設備グループは、その設計に応じて、異なるPPユニットごとに異なっていてもよい。PPユニットの特定のプロセスユニットを含む設備グループを選択する手順を付録1に記載する。
【0011】
好ましい実施形態では、本発明は、ポリプロピレンユニット(PP)の動作を以下の全般的モニタ即ち
1.全般的重合動作(ポリ8動作)
2.全般的ドライヤ動作(ドライヤ8動作)
3.全般的押出機1動作(EX801動作)
4.全般的押出機1動作(EX831動作)
およびこれらの特別関心モニタに分類するものである。
1.流量制御バルブモニタリング(ポリ8制御バルブ)
2.触媒領域警告(ポリ8触媒領域警告)
3.センサチェック(ポリ8センサ)
4.センサチェック(ポリ4センサ)
5.831顆粒領域警告
6.801顆粒領域警告
7.仕上げ4領域警告
【0012】
全般的モニタは、全般的動作に何らかの逸脱があればこれを検出して、多数のセンサをカバーする目的で、「グロスモデル検査」を実行する。特別要注意モニタが潜在的に重大な要注意領域をカバーし、早期検出の的を絞ったモデルで構成される。これらのモニタすべてに加えて、本アプリケーションは、正常/日常の動作事象から生じる通知を抑制し、特別な原因の動作による誤判定を排除するツールなどの、いくつかの実用的なツールを提供するものである。
【0013】
A.オペレータインタフェース
オペレータユーザインタフェースは、オペレータにプロセスの全体像を示すものであり、システムの必須構成要素である。表示は、PP動作の概要をオペレータに素早く提示して、拡大しつつある異常があればその確率を示すことを意図したものである。
【0014】
図24に本システムのオペレータインタフェースを示す。オペレータインタフェースの設計事項に関する詳細な説明については、付録1のセクションIVの「AED用のPCAモデルおよび簡単な工学モデルの配備」セクションのサブセクションIV「オペレータ対話およびインタフェース設計」に記載してある。本インタフェースは上述の異常性モニタで構成されている。これは、各動作領域における重要な異常の表示の一覧を表すために開発された。モデルで得られた結果と主要なセンサの状態とを比較することにより、異常の表示が生成される。ファジィ理論を用いて異常の表示を集約し、ある問題が生じる単一の確率を評価する。各セクションの正常動作に関する特定の知識に基づいて、本発明者らは、センサおよびモデル残差からの入力を取得して、ある問題の確率を評価するためのファジィ理論ネットワークを開発した。図25は、図29に示す対応したファジィ理論ネットワークを用いるポリ8触媒領域での触媒詰まりの問題の確率を示す。図26は、触媒詰まりの問題がポリ8動作領域とポリ8触媒領域の両方の異常性モニタに認められることを示す。図27は、ポリ8動作領域での触媒詰まりの問題の完全な掘り下げを示す。図28は、詰まりの場所を特定するポリ8触媒領域での触媒詰まりの問題の完全な掘り下げを示す。図29は、緑色のノードがポリ8触媒領域での触媒詰まりの問題の最終的な確実性を決定するためにまとめた下位の問題を表すファジィ理論ネットワークを示す。異常状態の推定確率を連続的な傾向として操作チームに提示して、図26に示すような状態の進行状況を示す。これは、各センサの状態を個別にチェックせずにプロセスの健全性の概要を知る上での大きな利点をオペレータにもたらす。更に重要なのは、そのカバー範囲が広く、事象を見逃す可能性が低くなることから、オペレータに「安心感」を与える点である。このため、それは正常性インジケータとしても利用可能である。確率が0.6に達すると問題インジケータは黄色(注意)に変わり、確率が0.9に達するとインジケータは赤色(警告)になる。
【0015】
本発明は、触媒調製、2基のループリアクタ(RX 1および2)と気相リアクタ(RX 3)とを含むリアクタ、モノマーガス再利用システム、再利用ガスコンプレッサ、ドライヤ、顆粒領域並びに、押出機801領域および押出EX831領域を含む2つの押出機システムの領域をカバーするために、5種類の主成分分析(PCA)モデルを含む。PCAモデルのカバー範囲は、異なるプロセシングユニットの相互作用に基づいて決定されたものであり、各モデルはこれを考慮するために重なり合うセンサを有する。触媒調製、リアクタ、モノマーガス再利用システム、再利用ガスコンプレッサには、有意な相互作用があるため、これらの領域を組み合わせて「ポリ8動作」と呼ぶ。PPには、異なる製品グレードを生成すべく2つのリアクタ構成モードを用いる2つの異なる動作状態がある(一方のモードでは2基のリアクタを直列に利用し、他方のモードでは3基のリアクタを直列に利用する)ため、これらの2つのモードに対処するための2つのPCAモデルが必要である。しかしながら、ポリ動作を支えるべく同時にオンラインになるのは1つのPCAモデルだけである。この場合、ファジィ理論ネットワークを利用して、オンラインのPCAモデルを適切なモデルに自動的に切り換える。図30は、切り換え開始を自動的に検出し、ポリ8動作の背景にあるオンラインPCAモデルを切り換えるよう設計されたファジィ理論ネットワークを示す。第3のPCAモデルでは、ドライヤと顆粒領域を組み合わせて、「ドライヤ8動作」を表す。第4および第5のPCAモデルは、「EX801動作」と「EX831動作」の表示を付した2つの押出領域を表す。加えて、重大な事象に発展する恐れがある状態を監視することを意図した多くの特別要注意モニタが存在する。その目的は、オペレータが措置のための十分なリードタイムを持てるよう、早期に問題を検出することである。
【0016】
正常動作下では、オペレータは供給量の変更やセットポイントの移動など、PCAモデルのいくつかのセンサに持続時間の短い高残差を生じ得るいくつかの日常的な作業を実行する。このような通知は冗長であり、新たな情報を与えるものではないため、本発明にはその開始を検出して通知を抑制するための機構を組み込んである。PPの日常の動作の一環として、製品グレードの切り換えが極めて頻繁になされ、これによってPPが極めて高速な動的プロセスになる。製品グレードファミリ内に、リアクタ構成の変更を必要としないグレード切り換え(フラインググレード切り換えと呼ばれる)がある。この場合、オペレータは、いくつかの主要な製品−品質コントローラに対して大きなセットポイントの変更を行って、PPを新たな動作状態に向けることができる。遷移状態では、いくつかのセンサに高残差が生じるため、異常状態が示される。既存のAED通知−抑制機構では、グレード切り換えに対処できなかったため、改良をほどこした。この改良には、グレード切り換えの開始を検出し、グレード切り換え状態を設定するための機構が含まれる。次に、グレード切り換え状態を一定の時間ラッチして、プロセスの遷移時間であることを示す。この遷移時間のあいだは、既存の機構を使って通知を抑制し、邪魔な警告がオペレータに殺到するのを回避する。これは、オペレータはすでに状態の変化を認識しており、PPをすでに厳重に監視しているためである。しかしながら、遷移時間のあいだもAEDはPCAモデルのパラメータを更新しつづけ、PPが新たな定常状態に達したらAEDからの通知を再開する。図31は、グレード切り換えの自動検出および遷移時間の設定のための追加されたファジィネットワーク理論を示す。また、リアクタ構成の変更を必要とする(リアクタ2基のモードからリアクタ3基のモード並びに、その逆)製品グレード切り換えもある。このAED通知抑制の改良は、この場合の抑制にも対処する。
【0017】
オペレータは、色が緑色から黄色に、次いで赤に変化する警告用の三角形によって、差し迫った問題について知らされる。本アプリケーションは、優先順位付けされた下位の問題の一覧を参照することにより、問題を更に調べていく掘り下げ能力をオペレータに提供するものである。この新規方法は、下位の問題に対する掘り下げ能力をオペレータに提供するものである。これによって、オペレータは根本的原因の探索結果を絞り込むことができ、すぐにでも補償措置または是正措置を講じることができるように状態の根本的原因の分離と診断が支援される。すでに図27に示したように、オペレータが下位の問題まで掘り下げるために赤の三角形をクリックすると、逸脱しているセンサを逸脱の度合いでソートした残差を示すパレート図が表示される。
【0018】
本アプリケーションは、パレート図方式を極めて広範囲に用いてオペレータに対して情報を示す。一連の提示は、正常動作を基準にした個々の逸脱について降順になされている。このようにすることで、少数の重大な不良要因まで絞り込まれたプロセスを簡潔かつ手短に見られるようになるため、コンソールのオペレータは講じるべき措置について情報に基づく判断をすることができる。図32に、パレート図として構成されたセンサのリストを通じてこの機能を示す。個々のバーをクリックすると、センサのタグ傾向対モデル予測を示すカスタムプロットが作成される。また、オペレータは「マルチ傾向ビュー」を用いて問題センサの傾向を見ることができる。たとえば、図33に、図32のパレート図におけるセンサの値の傾向とモデル予測を示す。図34は、同じ概念を、今度は正規化された射影偏差誤差に基づいて、バルブ−流量モデル(VFM)のランキングに適用したものを示す。この場合、バーをクリックすれば、正常動作の境界(図35)に照らした現在の動作点を示すX−Y散布図が生成される。
【0019】
PCAモデルに加えて、VFM、コントローラモニタリング(CM)、センサチェック(SC)およびヒューリスティックモデル(HM)などの工学関係を用いて構築された多くの特別要注意モニタがある。VFMはポリ8制御バルブの重要な設備をカバーする。HMは、ポリ8触媒、801顆粒、831顆粒および仕上げ4領域での重要な設備の詰まりの問題をカバーする。CMおよびSCは、ポリ8センサチェック領域およびポリ4センサチェック領域での重要なコントローラおよびセンサをカバーする。これらのモニタの基礎として、各領域で単一の異常信号を生成するファジィ理論ネットワークがある。図36は、コントローラモニタおよびセンサチェックのための掘り下げを示す。図37は、コントローラモニタおよびセンサチェックのためのファジィ理論ネットワークを示す。図38は、ヒューリスティックモデルのための掘り下げを示す。図39は、ヒューリスティックモデルのためのファジィ理論を示す。
【0020】
要約すれば、本発明の利点には以下のものが含まれる。
1.既存の異常事象検出(AED)技術を改良して、グレード切り換えによる動作状態の頻繁な変更にうまく対処し、ときには、異なる製品グレードを製造するためのリアクタ構成の変更にうまく対処すること。
2.監視のため、PP動作全体を11の動作領域即ち、重合リアクタ、ドライヤ、押出EX831、押出EX801、ポリ8流量制御バルブ、ポリ8触媒調製、ポリ8センサ、831顆粒、801顆粒および仕上げ4へ分解すること。
3.PP全体の動作状態を11の単一警告にまとめること。
4.PCAモデルが、モデルによりカバーする450を超えるセンサのモデル予測を提供すること。
5.これらのセンサの異常な逸脱を、5つのPCAモデルの二乗誤差の和に基づいて5つの警告にまとめること。
6.バルブ−流量モデルが、制御行為に影響するため不調の源であるかまたはその影響を受ける制御ループを監視する有効な方法を提供すること。
7.ポリ8触媒、801顆粒、831顆粒および仕上げ4領域での重要な設備の詰まりの問題をカバーするヒューリスティックモデルにより、改善された集約的かつ早期の検出機能が加わること。
8.コントローラモニタおよびセンサチェックにより、主要なプロセス変数のための改善された集約的かつ早期の検出機能が加わること。
9.特別な原因/日常の動作から生じる事象が抑制されて、誤判定が排除される。450を超える個別タグから、ちょうど12の信号に規模を大幅縮小することで、誤判定率が大幅に低下する。PCAモデリング方式は本質的に、単一センサアラームの問題を洗練された方法で解決する。
【0021】
B.PP用AEDモデルの開発と配備
本アプリケーションは、PPにおける異常動作を検出するために、PCAモデル、工学モデルおよび発見的方法を有する。第1ステップは、要注意ユニットの動作上の履歴的な問題を分析することを含む。この問題識別ステップは、アプリケーションの範囲を定める上で重要である。
【0022】
これらのモデルの開発について、付録1に概略的に示す。PPユニットのこれらのモデルの構築に関する具体的な要注意事項のうちのいくつかを以下に述べる。
【0023】
問題の識別
アプリケーション開発の第1ステップは、プロセス動作の利点となる重要な問題を識別することである。異常事象検出アプリケーションは一般に、2種類の問題に適用可能である。1つは、何らかの異常事象を求めてプロセス領域全体を監視する汎用的な異常事象アプリケーションである。このタイプでは数百の測定値を用いるが、特定の異常動作の履歴的な記録を一切必要としない。アプリケーションは、異常事象を検出して、これをプロセスの一部(タグ)に紐付けるだけである。問題の診断には、オペレータまたはエンジニアのスキルを必要とする。
【0024】
第2のタイプは、特定の異常動作に着目する。このタイプでは、異常性が検出されたら特定の診断を出す。一般に、これには少数(5〜20)の測定値しか含まれないが、事象の履歴データの記録が必要である。これらのモデルは、PCAに基づくものであってもよいし、上流/下流圧力、流量測定値およびバルブ出力などの流量制御バルブ周囲のセンサの履歴データに基づいて構成される、壊れた(broken)相関または範囲外の動作についてのメインプロセス流量バルブを監視するバルブ流量(VF)モデルなどの単純な工学的相関であってもよい。ヒューリスティックモデル(HM)は、経験豊富なオペレータから収集した具体的な「操作上の経験則」であり、これらの経験則から外れる状況を識別するためにファジィ理論ネットワークで構成される。コントローラモニタリング(CM)およびセンサチェック(SC)は、コントローラまたはセンサの性能を監視して、機能停止した機器、コントローラの故障または読み値が極めてばらついている機器を検出する。本発明では、広い範囲をカバーする目的で上記のモデルを利用する。オペレータまたはエンジニアは、自らのプロセス知識/専門性に原因を頼って正確に診断する。一般に、事象の大半は主に、機器やバルブに問題が生じた結果であるように見える。
【0025】
異常事象検出の問題を選択する際に、以下の問題の特性を考慮すべきである。異常がめったに起こらない(3〜4ヶ月ごと)ため、異常事象検出器を作る手間を正当化できない。また、特定の異常性が3〜4ヶ月ごとにしか発生しない場合、オペレータ各人からすれば数年間にわたってその事象を見ない可能性もある。その結果、その事象が起こったとしても、オペレータはどう対処すべきかわからない恐れがある。このため、問題の識別を広範囲に実施して、オペレータが定期的にアプリケーションと対話するようにする必要がある。
【0026】
問題を特定しようとするとき、異常事象検出のアプリケーションを正当化できるだけの十分な数の異常事象が存在しないとの誤った印象を現場担当者から受けるのが一般的である。一般に、異常事象がプロセスに対して影響を及ぼす頻度は過小評価されがちである。その理由は以下の通りである。
・異常事象の記録と分析がなされないことが多い。重大な損失が生じた事象だけが追跡および分析される。
・オペレータは毎日これらを取扱うため、異常事象も正常動作の一部と見なしがちである。
【0027】
定期的に繰り返し発生する異常事象が存在しない限り、アプリケーションは異常事象を定期的に(週5回を超えるなど)「見る」ためにプロセスの十分に大きな部分を包含している必要がある。
【0028】
I.PCAモデル
PCAモデルは、PP AEDの中核である。PCAは、実際のプロセス変数を、元の変数の一次結合である主成分(PC)と呼ばれる一組の「直交」または独立変数に変換する。背景にあるプロセスには、プロセスに影響する特定の単独作用を表す多くの自由度があることが観察されている。これらの異なる単独作用は、プロセス変動としてプロセスデータに出現する。プロセス変動は、供給量の変更などの意図的な変更または周囲温度の変動などの意図しない外乱に起因する場合がある。
【0029】
各々の主成分は、当該プロセスに対するこれらの異なる独立した影響によって生じたプロセス変動性の一意な部分を捕捉する。主成分は、プロセス変動が減少する順序で抽出される。後続する各々の主成分は、全体としてのプロセス変動性のうち、より小さい部分を捕捉する。主要な主成分は、プロセス変動の背景にある重要な発生源を表すものでなければならない。一例として、プロセスの変更に至る最も大きな単一の原因は通常、供給量の変更であるため、第1の主成分が供給量変更による効果を表すことが多い。
【0030】
アプリケーションは、プロセスの主成分分析(PCA)に基づくものであるが、これは「正常動作」の経験的モデルを生成する。PCAモデルの構築プロセスについては、付録1の「AED用PCAモデルの開発」セクションに詳述してある。以下、ポリマープロセス用の異常事象検出アプリケーション構築にPCAを適用する場合に必要な特別な検討事項について述べる。
【0031】
PP PCAモデルの開発
PPのために開発されたPCAモデルは5つある。2つのリアクタ構成モードをカバーするためのポリ8動作の背景にある2つのPCAモデルがポリ8_TCRとポリ8_ICPである。これらの2つのPCAモデルは、触媒調製、リアクタ、モノマーガス再利用システムおよび再利用ガスコンプレッサにセンサを含む。これらのシステム間に有意な相互作用があるためである。ポリ8_TCR PCAモデルは、最初の321のタグセットで開始され、155のタグまで洗練された。ポリ8_ICP PCAモデルは最初の414のタグセットで開始され、200のタグまで洗練された。ドライヤ8モデルは、ドライヤおよび顆粒領域での最初の76のタグセットで開始され、37のタグまで洗練された。EX801モデルは、押出1領域をカバーするのにタグが43から25まで狭められた。EX831モデルは、押出2領域をカバーするのにタグが43から25まで狭められた。ポリ8_TCR PCAモデルの詳細を付録2Aに示し、ポリ8_ICP PCAモデルを付録2Bに、ドライヤ8 PCAモデルを付録2Cに、EX801 PCAモデルを付録2Dに、EX831PCAモデルを付録2Eに示す。このようにすることで、PP動作全体を広範囲にわたってカバーし、早い段階で警告をすることができる。
【0032】
PCAモデルの開発は以下のステップを含む。
1)入力データおよび動作域の選択
2)履歴データの収集と前処理
3)データおよびプロセスの分析
4)初期モデルの生成
5)モデルの試験および調整
6)モデルの配備
【0033】
PCAモデルの構築に関する一般的な原理を、付録1の「AED用PCAモデルの構築」セクションのサブセクションI「概念的PCAモデルの設計」に述べる。これらのステップはモデル開発における試みの中心をなす。PCAモデルはデータ駆動式であるため、正常動作を表す訓練データの品質および量が良好であることが極めて重要である。基本的な開発戦略は、極めて粗いモデルから出発し、このモデルの忠実度を次第に改善していくことである。これには、モデルが実際のプロセス動作にどの程度匹敵するかを観察し、これらの観察結果に基づいてモデルを再訓練することが必要である。そのようなステップについて、次に簡潔に述べる。
【0034】
入力データおよび動作域の選択
PCAモデルのタグの一覧がカバー範囲を表すため、要注意領域のすべてのタグを含む包括的な一覧から出発する。測定値および変数を選択するプロセスを、付録1の「AED用PCAモデルの構築」セクションのサブセクションII「入力データおよび動作域の選択」に概説しておく。信頼できないまたは誤った振る舞いを示すことがわかっている測定値はすべてリストから除外しておく必要がある。最初のPCAモデルが得られたら、反復的な手順で測定値が更に削減される。PPのための入力データの選択をめぐっての特別な要注意事項は、2基のリアクタでの構成モードを取り扱うためのタグリストの開発である。3−リアクタモードのタグリストには、3基のリアクタすべての動作をカバーするタグが含まれるが、2−リアクタモードのタグリストには、2基のリアクタのためのタグが含まれる。PPの動作域の選択をめぐる具体的な要注意事項は、すべての製品グレードのプロセス動作状態をカバーする範囲になるようにすることである。
【0035】
履歴データの収集と前処理
正常動作の良好なモデルを開発するには、正常動作の訓練データセットが必要である。このデータセットは以下のようでなければならない。
・正常動作範囲にわたる
・正常動作データだけを含む
【0036】
ある拠点で異常事象の履歴の完全な記録を有していることは極めて稀であるため、履歴データは訓練データセットを生成する出発点としてしか利用できない。オペレータのログ、オペレータ変更ジャーナル、アラームジャーナル、機器の保守記録などの操作記録は、異常プロセス履歴の部分的な記録となる。データ収集のプロセスを、付録Iの「AED用PCAモデルの開発」セクションのサブセクションIII「履歴データの収集」に詳述してある。
【0037】
PPの場合、履歴データは、あらゆる製品グレードの製造並びに夏期と冬期の両期間をカバーするために1.5年分の動作にわたっている。1分ごとにデータの平均を取ったところ、各々のタグについて時点数が約700,000を超えることがわかった。背景にある情報を保持したまま、データセットをより一層取り扱いやすくするために、タグリストをデータ収集と分析用にタグの2つのサブセットに分ける。
【0038】
内部に含まれる変動/情報を判定する目的で、すべてのタグについて、平均、最小/最大および標準偏差などの基本的統計量を計算した。また、動作ログを調べて、既知のユニット停止または異常動作を有するウィンドウに含まれるデータを除外した。候補となる各々の測定値を精査して、訓練データセットに含める際の適正性を判断した。
【0039】
バランスのよい訓練データセットの生成
動作ログを使用して、履歴データを、既知の異常動作が生じた期間と、異常動作が確認されなかった期間とに分ける。異常動作が確認されなかったデータが予備の訓練データセットとなる。PPの場合、動作ログを検討して、各製品グレードを製造した時間枠を判断した。次に、履歴データセットをグレードファミリごとに分けて保存する。各グレードファミリのデータセットを更に、既知の異常動作が生じた期間と異常動作が確認されなかった期間を除外するよう分析する。
【0040】
これらの除外を実施した後、各グレードファミリについて第1の粗いPCAモデルを構築する。これは極めて粗いモデルになるため、保持される主成分の正確な数は重要ではない。これは、モデルに含まれる測定値の個数の5%以下とする。PCの数は、最終的にプロセスの自由度の数に一致しなければならないが、これはプロセス外乱の異なるすべての発生源を含むため、通常は未知である。主成分をいくつ含めるかを判断するための標準的な方法がいくつか存在する。また、この段階で、可変スケーリングへの統計的なアプローチを用いるべきである。即ち、すべての変数をユニット分散に応じてスケーリングする。
【0041】
ここで、訓練データセットをこの予備モデルに通して、データがモデルに一致しない時間枠を識別しなければならない。これらの時間枠を調べて、その時点で異常事象が生じていたか否かを知る必要がある。生じていたと判定された場合、これらの時間枠には、既知の異常事象が生じている時間としてフラグを立てなければならない。これらの時間枠を訓練データセットから除外して、修正されたデータでモデルを再構築する必要がある。データおよびプロセス分析を用いてバランスのよい訓練データセットを生成するプロセスを、付録1の「AED用PCAモデルの開発」セクションのセクションIV「データおよびプロセス分析」に概説してある。
【0042】
初期モデルの生成
モデル開発戦略は、極めて粗いモデル(疑わしい訓練データセットの結果)から出発し、このモデルを用いて高品質の訓練データセットを収集することである。更に、このデータを用いてモデルを改良し、そのモデルを用いて更に品質のよい訓練データを収集し続ける。このプロセスを、モデルが満足すべき状態になるまで繰り返す。
【0043】
特定の測定値が選択され、訓練データセットが構築されたら、標準的な統計ツールを用いて短時間でモデルを構築することができる。各々の主成分により捕捉された分散率をパーセントで示す、このようなプログラムの例を図42に示す。
モデル構築プロセスについては、付録1の「AED用PCAモデルの開発」セクションのセクションV「モデルの生成」に記載しておく。
【0044】
モデルの試験および調整
初期モデルを作成後、新たな訓練データセットを作ることでこのモデルを強化する必要がある。これは、作成したモデルを用いてプロセスを監視することにより行われる。モデルが異常状況の可能性を示したならば、エンジニアがプロセス状況を調べてこれを分類する必要がある。エンジニアは3種類の異なる状況即ち、何らかの特別なプロセス動作が生じている、実際に異常な状況が生じている、或いは、プロセスは正常なのに表示が誤っているという、いずれかを見い出すことになろう。
【0045】
プロセスデータは、ガウス分布または正規分布をなさないであろう。このため、残余誤差の変動性から異常事象を検出するためのトリガを設定する標準的な統計方法を用いるべきではない。その代わりに、モデルの使用経験に基づいて経験的にトリガ点を設定する必要がある。付録1の「AED用PCAモデルの開発」セクションのセクションVI「モデルの試験および調整」にモデルを試験して強化する手順を記述してある。
【0046】
PCAモデルの配備
プロセスユニットにAEDをうまく配備するには、精密なモデルと、上手に設計されたユーザインタフェースと、適切なトリガ点とを組み合わせる必要がある。PCAモデルを配備する詳細な手順については、付録1の「AED用PCAモデルおよび単純な工学モデルの配備」に記述しておく。
【0047】
時間の経過につれて、開発者または拠点のエンジニアが、モデルのうちの1つを改善する必要があると判断する場合がある。プロセスの状態が変化したか、モデルが誤った表示を示しているかのいずれかである。この場合、訓練データセットを別のプロセスデータで拡張し、改良されたモデル係数を得ることができよう。トリガ点については、上述したものと同じ経験則を用いて再計算可能である。
【0048】
もう現在のプロセス動作を適切に表現していない古いデータについては、訓練データセットから削除しなければならない。特定のタイプの動作がもう実行されていない場合、その動作からのすべてのデータを削除しなければならない。大きなプロセス改良の後では、訓練データおよびAEDモデルを最初から作り直す必要があるかもしれない。
【0049】
PCAモデルに加えて、重大な事象に発展しかねない状態を監視することを意図した多数の特別要注意モニタがある。これらのモニタは、バルブ流量モデル(VFM)、コントローラモニタリング(CM)およびセンサチェック(SC)などの単純な工学相関或いは、経験豊富なオペレータから収集した具体的な「操作上の経験則」(ヒューリスティックモデル−HM)に基づいて開発された。
【0050】
II.他のPP AEDモデル
工学モデルの開発
工学モデルは、異常状態の特定の検出に的を絞った相関に基づくモデルで構成されている。工学モデルの構築に関する詳細な説明は、付録1の「AED用の単純な工学モデル」セクションに見られる。
【0051】
PPアプリケーションの工学モデル要件は、履歴プロセスデータの工学的評価と、コンソールのオペレータと設備の専門家へのインタビューを実施することにより決定された。工学的評価は、PP動作の重大な要注意事項の領域および最悪のケースのシナリオを含んでいた。工学的評価の結論について述べるために、PP AEDアプリケーション用に以下の工学モデルを開発した。
・バルブ−流量モデル(VFM)
・コントローラモニタ(CM)
・センサチェック(SC)
【0052】
流量−バルブ位置整合性モニタは、測定された流量(バルブ全体の降圧に関して補償)を流量のモデル推定と比較して導かれた。プロセスにおいて制御ループの状態が直接監視されているため、これらは強力なチェック方法である。流量のモデル推定は、係数をバルブ曲線の式(線形または放物線と仮定される)にフィットさせることで、履歴データから得られる。PP AEDアプリケーションでは、20の流量/バルブ位置整合性モデルが開発された。モノマー流量バルブの一例を図35に示す。履歴的に信頼できない性能を示した流量制御ループについても、いくつかのモデルが開発された。バルブ流量モデルの詳細を付録3Aに示してある。
【0053】
バルブ−流量モデルの不一致に加え、値の超過量を用いて、制御バルブが制御可能な範囲を超えている旨をオペレータに通知する別のチェック方法がある。図41にファジィネットワークの両構成要素を示し、値超過量の例を図40に示す。
【0054】
長期のセンサドリフトを補償するために、モデル推定に時間依存ドリフト項を追加した。オペレータはまた、センサを再較正した後または手動でバイパスバルブが変更された場合に、ドリフト項のリセットを要求することができる。流量推定装置をこのように改良したことで、オンライン検出アルゴリズム内の実装の堅牢性が大幅に向上した。
【0055】
コントローラモニタ(CM)およびセンサチェック(SC)は、履歴データを分析し、単純な工学計算を適用して導かれた。CMのモデルは、測定値が極めて低SDとなった場合に機能停止した機器を、測定値が高いSDとなった場合は極めてさまざまに変わる機器を検出するための標準偏差(SD)の計算から導かれた。CMに対する他の計算として、測定値がセットポイントに達することなく、セットポイントと交差もしない時間の長さの累計並びに、コントローラの故障を検出するための測定値とセットポイントとの偏差の累計があげられる。SCのモデルは、測定値間の関係について履歴データを分析して得られた。コントローラまたはセンサの状態が直接監視されてモデルと比較されるため、これらは強力なチェック方法である。測定値の相関の詳細を付録3Bにあげておく。下位の問題まで掘り下げた異常モニタを図36に示す。ファジィネットワークの構成要素を図37に示す。
【0056】
ヒューリスティックモデル(HM)は、経験豊富なオペレータから収集した特定の「操作上の経験則」である。これらのモデルは、これらの経験則から外れる状況を識別する。一例として、詳細を付録3Cに示す潜在的なラインの詰まりの問題を検出するための801顆粒領域プロセス変数の監視がある。下位の問題まで掘り下げた異常モニタを図38に示す。ファジィネットワークの構成要素を図39に示す。
【0057】
工学モデルおよびヒューリスティックモデルの配備
AED内で工学モデルを実装するための手順は相当に直接的である。計算モデル(VFM、CMおよびSCなど)の場合、通知のトリガ点は、まずモデル残差の標準偏差から導かれた。ユニット内の特定の既知のタイプの挙動(ポリ8触媒、801顆粒領域、831顆粒領域および仕上げ4領域の動作など)を識別するヒューリスティックモデルの場合、通知のトリガ点については、履歴データの分析結果にコンソールのオペレータからの入力を組み合わせて判断した。動作の最初の数ヶ月間、AEDの既知の表示はオペレータにより確認され、トリガ点が適切であることが保障され、必要に応じて変更された。付録1のセクション「AED用のPCAモデルおよび簡単な工学モデルの配備」に工学モデルの配備に関する詳細を記載してある。
【0058】
特定の状況下では、バルブ/流量診断により、オペレータに冗長な通知が行く可能性がある。そこで、バルブ/流量診断にモデル抑制を適用して、バルブ/流量の対に生じた問題に対する単一の警告がオペレータに届くようにした。
【0059】
C.AEDの追加ツール
円滑な日常のAED動作を容易にするために、AEDモデルを保守して実際の要注意事項への対応を支援するためのさまざまなツールが提供される。
【0060】
事象抑制/タグ無効化
正常動作下で、オペレータは日常のさまざまな操作(セットポイントの変更、保守中のタグおよびポンプスワップ(pump swap))を実施する。これらの動きの結果、センサによっては持続時間の短い高残差を生じる場合がある。実用上、AEDモデル側でこうした変更にまだ気付いていないのであれば、異常信号が出される可能性がある。こうした通知は冗長であり、新たな情報を与えるものではないため、本発明にはその開始を検出して事象通知を抑制するための機構を組み込んである。事象通知を一時的に抑制する目的で、ファジィネットは状態チェックを利用し、特定のタグを抑制する。他の状況では、PCAモデル、バルブ流量モデルおよびファジィネットのタグを特定の時間枠の間だけ一時的に無効にすることも可能である。ほとんどの場合、オペレータが再起動するのを忘れないように、再起動を12時間後に設定している。タグが長時間にわたってサービスから除外されている場合、これを無効化することもできる。PPでの日常の動作の場合、製品グレードの切り換えが極めて頻繁になされる。製品グレードファミリ内に、リアクタ構成の変更を必要としないグレード切り換え(フラインググレード切り換えと呼ばれる)がある。この場合、オペレータは、いくつかの主要な製品−品質コントローラに対して大きなセットポイントの変更を行って、PPを新たな動作状態に向けることができる。遷移状態では、いくつかのセンサに高残差が生じるため、異常状態が示される。こうしたグレード切り換えに対処できるように、既存のAED通知−抑制機構に改良をほどこした。この改良には、グレード切り換えの開始を検出し、グレード切り換え状態を設定するための機構が含まれる。次に、グレード切り換え状態を一定の時間ラッチして、プロセスの遷移時間であることを示す。この遷移時間のあいだは、既存の機構を使って通知を抑制し、邪魔な警告がオペレータに殺到するのを回避する。遷移時間のあいだもAEDはPCAモデルのパラメータを更新しつづけ、PPが新たな定常状態に達したらAEDからの通知を再開する。図31は、グレード切り換えの自動検出および遷移時間の設定のためのファジィ理論ネットワークを示す。また、リアクタ構成の変更を必要とする(リアクタ2基のモードからリアクタ3基のモード並びに、その逆)製品グレード切り換えもある。このAED通知抑制の改良は、この場合の抑制にも対処する。現在抑制されている事象のリストを図43に示す。
【0061】
事象の詳細のログ取得
上述のようなシステムから最大の利点を引き出すには、オペレータを訓練して、AEDシステムを日常的な業務プロセスに組み込むことが必要である。是正措置を講じる最終的な権限は依然としてオペレータにあるため、AEDの性能および強化について彼らに入力させることが重要である。AED事象の詳細を体系的に捕捉して精査し、フィードバックさせるために、オペレータにAED事象の書式が提示された。これは、事象の記録を維持して、AEDの利点を評価するのに役立った。AEDが稼動した時点から、いくつかの重大な事象が捕捉されて、操作担当者向けに文書化された。サンプル書式を図44に示す。
【0062】
別の解決策のほうがよい場合−繰り返し起こる事象のための是正措置
繰り返し起こる特定の問題が識別されたら、開発者はその問題を解決するための、よりよいプロセスが存在しない旨を確認しなければならない。特に、開発者は異常事象検出アプリケーションを構築しようとする前に以下の点を確認しなければならない。
・問題を永久に解決することができるか?往々にして、現場担当者が問題を調査して永久に解決するだけの十分な時間をとれなかったがために問題が存在する。この問題に組織の関心が向くと、永久的な解決策が見つかる場合が多い。これが最善のアプローチである。
・問題を直接測定することができるか?問題を検出するためのより信頼性の高い方法は、このプロセスにおける問題を直接測定できるセンサを設置することである。これを用いて、プロセス制御アプリケーションを介して問題を防止することも可能である。これが次善のアプローチである。
・異常動作に対するアプローチを測定する推論的測定法を開発することができるか?推論的測定法は、PCA異常事象モデルに極めて近い。問題の状態に対するアプローチを信頼できる形で測定するのに利用可能なデータ(デルタ圧力を用いるタワーフラッディングなど)が存在する場合、これを状態がいつ存在するかの検出だけでなく、状態が生じるのを防止する制御アプリケーションの基礎としても用いることができる。これが3番目によいアプローチである。
【0063】
異常事象検出アプリケーションはアラームシステムの代わりにならない
プロセス問題が急に生じる場合は常に、アラームシステムが異常事象検出アプリケーションと同程度に速く問題を識別する。オペレータが原因を診断するのを支援する上で、事象のシーケンス(測定値がいつもと違う形になる順序など)がアラームの順序よりも役に立つ場合がある。アプリケーションがオンラインになったら、この可能性を調べるべきである。
【0064】
しかしながら、異常事象がゆっくりと(15分を超える)拡大する場合、異常事象検出アプリケーションはオペレータに高機能の注意喚起を与えることができる。これらのアプリケーションはプロセスデータのパターンの変化に感応するものであり、単一の変数の大きな変動を必要としない。このため、アラームを回避することができる。プロセスが狭い動作領域から逸脱した場合にアラームシステムからオペレータに対してアラームを発する(真の安全アラームではない)ように構成されている場合、本アプリケーションでこれらのアラームの代わりをすることが可能である。
【0065】
異常事象の存在を検出するだけに加えて、AEDシステムはまた、オペレータが事象を調査できるよう逸脱したセンサを切り離す。現代のプラントには数千個のセンサがあり、人間がそのすべてをオンラインで監視することは不可能なことを考慮すれば、これは重要な利点である。このように、AEDシステムは、異常な状況を効率的かつ効果的に取り扱うためのオペレータツールキットに対するもう1つの強力な付加機能とみなせるものである。
【0066】
付録1
さまざまな規模の事象や外乱が常にプロセス動作に影響している。ほとんどの場合、これらの事象や外乱はプロセス制御システムにより対処される。しかしながら、プロセス制御システムがプロセス事象に適切に対処できない場合は常に、オペレータがプロセス動作に対して想定外の介入をする必要がある。本発明者らは、この状況を異常動作と定義し、その原因を異常事象と定義する。
【0067】
異常動作を検出して、オペレータが根本的原因の場所を切り離すのを支援するのに用いられるモデルの組を生成してオンライン配備するための方法論およびシステムが開発されている。好ましい実施形態では、モデルは主成分分析(PCA)を用いる。これらのモデルの組は、既知の工学関係を表す簡単なモデルと履歴データベースに存在する正常なデータパターンを表す主成分分析(PCA)モデルの両方で構成されている。これら多くのモデル計算の結果が組み合わされて、プロセスが異常動作に入りつつあるか否かをプロセスオペレータが容易に監視できるようにする少数の概略時間傾向となる。
【0068】
図1に、オンラインシステムにおける情報が、プロセス領域の正常性/異常性を示す概略指標に至るまでに、さまざまな変換、モデル計算、ファジィペトリネットおよび整理統合を経てどのように流れるかを示す。本システムの核心は、プロセス動作の正常性を監視するために用いるさまざまなモデルである。
【0069】
本発明に記載するPCAモデルは、連続的な精製および化学プロセスを広範に監視し、設備およびプロセスにおいて生じつつある問題を迅速に検出することを目的とする。その意図は、特定のコンソールのオペレータポストの責任権限の下で、すべてのプロセス設備およびプロセス動作の包括的な監視機能を提供することである。これには、数百から数千のプロセス測定値を有する多くの大規模な精製または化学プロセス動作ユニット(蒸留塔、リアクタ、コンプレッサ、熱交換トレインなど)を含み得る。監視機能は、長期にわたる性能低下ではなく、数分から数時間の時間尺度で広がる問題を検出するように設計されている。プロセスおよび設備の問題は事前に特定されている必要がない。これは、文献に引用されている、特定の重要なプロセス問題を検出してプロセス動作のはるかに小さい部分をカバーするよう構築されたPCAモデルを利用するのとは対照的である。
【0070】
この目的を達成するために、PCAモデルを開発して配備する方法は、以下を含む連続的な精製および化学プロセスへのそれらのアプリケーションのために必要とされる多くの新規な機能拡張を含んでいる。
・測定値入力を選択、分析、変換するためのPCAモデル基準および方法の設備範囲を確立するための基準
・PCA、主成分モデルの変動に基づく多変数統計モデルの開発
・付随する統計指標を再構成する単純な工学関係に基づくモデルの開発
・例外計算および連続的なオンラインモデル更新を提供するオンラインデータの前処理
・ファジィペトリネットを用いた、モデル指標が正常か異常かの解釈
・ファジィペトリネットを用いた、多数のモデル出力の、プロセス領域の正常性/異常性を示す単一の連続的な概略傾向への組み合わせ
・操作および保守作業を反映させるため、モデルおよびファジィペトリネットとのオペレータの対話設計。
【0071】
これらの拡張は、PCAおよび単純な工学モデルを効果的に用いることができるように、連続的な精製および化学プラントの操業の特徴並びに、対応するデータの特徴を扱うために必要である。これらの拡張によって、タイプIおよびタイプIIの誤りの多くを防止し、異常事象をより速く示すという利点が得られる。
【0072】
このセクションでは、PCAの一般的な背景については説明しない。これについては、非特許文献2などの標準的なテキストを参照されたい。
【0073】
古典的なPCAの手法では以下の統計的な仮定をするが、いずれも正常で連続的な精製および化学プラントのプロセス動作から生成されるデータによって、ある程度は仮定から外れる。
1.プロセスは静的である。その平均および分散は、時間に対して一定である。
2.変数同士の相互相関は、正常なプロセス動作の範囲にわたって線形である。
3.プロセスノイズの確率変数は相互に独立している。
4.プロセス変数の共分散行列は縮退していない(即ち半正定値)。
5.データは、「適切に」スケーリングされる(標準的な統計手法は単位分散へのスケーリング)。
6.(未補償の)プロセスダイナミクス(このための標準的な部分補償は当該モデルの遅延変数を包含すること)が存在しない。
7.すべての変数がある程度の相互相関を有する。
8.データは多変数正規分布を示す。
【0074】
その結果、入力の選択、分析および変換並びに、これに続くPCAモデルの構築にあたって、外れる度合いを評価して補償するためさまざまな調整が実行される。
【0075】
これらのPCAモデルをオンライン配備したら、モデル計算には、既知の動作および保守作業による影響を排除し、不成功または「不正な動作をしている」入力を無効にし、プロセスを通じた事象の伝播をオペレータが観察して承認することを可能にし、プロセスが正常に戻ったら自動的に計算を再開するために、特定の例外処理が必要になる。
【0076】
PCAモデルの利用は、正常動作の間は真でなければならない既知の工学関係に基づく単純な冗長性チェックによって補われる。これらは、物理的に冗長な測定値をチェックするような単純なものであってもよいし、物質収支バランスおよび工学収支バランスをチェックするような複雑なものであってもよい。
【0077】
冗長性チェックの最も簡単な形態は、たとえば以下のような簡単な2×2チェックである。
・温度1=温度2
・流量1=バルブ特性曲線1(バルブ1の位置)
・プロセスユニット1への物質流量=プロセスユニット1からの物質流量
【0078】
これらは、図2のバルブ流量プロットのような単純なx−yプロットとしてオペレータに提示される。各プロットには正常動作の領域があり、これをこのプロットでは灰色の部分で示す。この領域の外側での動作は異常であるとして信号が送られる。
【0079】
多重冗長性もまた、単一の多次元モデルでチェックすることができる。多次元冗長性の例としては、以下のものがある。
・圧力1=圧力2=....=圧力n
・プロセスユニット1への物質流量=プロセスユニット1からの物質流量=...=プロセスユニット2への物質流量
【0080】
多次元でのチェックは、「PCA的」モデルで表される。図3では、3種類の独立かつ冗長な尺度X1、X2、X3がある。X3が1ずつ変化すると、その都度X1はa13ずつ変化し、X2はa23ずつ変化する。この関係の組は、単一の主成分方向Pを有するPCAモデルとして表される。このタイプのモデルは、広いPCAモデルと同様の方法でオペレータに提示される。2次元の冗長性チェックを用いる場合と同様に、灰色の部分が正常動作の領域を示す。Pの主成分負荷量は、変動性が最大の方向からPを求める従来の方法ではなく、工学方程式から直接計算される。
【0081】
プロセス動作の特徴は、プロセス動作の正常な範囲、正常なフィールドでの設備の変化および保守作業を通じて、例外動作がこれらの関係を正確に保つことを必要とする。例外動作の例として以下のものがある。
・流量計周辺のバイパス弁の開口
・上流/下流の圧力変化の補償
・フィールド測定値の再カリブレーション
・動作モードに基づくプロセス流の方向変換
【0082】
ファジィペトリネットを用いてPCAモデルと工学冗長性チェックとを組み合わせて、プロセスオペレータに対し、自分の制御下にあるプロセス動作が正常であることを連続的に要約表示する(図4)。
【0083】
各PCAモデルから複数の統計指標が作成され、これら指標をプロセスオペレータが扱うプロセス設備の構成および階層に対応付ける。従来の二乗予測誤差SPEの和による指標の感度は、PCAモデルが対応する完全なプロセス領域の指定された部分からの入力に対するSPE指標への寄与分だけを含むサブセット指標を生成することにより向上する。PCAモデルからの各々の統計指標をファジィペトリネットに供給し、この指標を0から1のスケールに変換して、正常動作(値0)から異常動作(値1)までの範囲を連続的に示す。
【0084】
各冗長性チェックもまた、ファジィネットを用いて、連続的な正常−異常
の表示に変換される。これらのモデルで異常性を示すのに用いる2種の異なる指標がある。即ち、モデルからの偏差および動作域外の偏差である(図3に示す)。これらの偏差は、誤差の二乗とPCAモデルのホテリングT二乗指標との和に等しい。2より大きい次元をチェックする場合、どの入力に問題があるかを識別することが可能である。図3において、X3−X2関係が依然として正常エンベロープ内に含まれるため、問題は入力X1にある。各々の偏差尺度は、ファジィペトリネットにより0から1の縮尺に変換されて、正常動作(値0)から異常動作(値1)までの範囲を連続的に示す。
【0085】
オペレータの権限下にある各プロセス領域の場合、適用可能な正常−異常インジケータの組を単一の正常−異常インジケータと組み合わせる。これは、ファジィペトリ論理を用いて異常動作の最悪ケースの表示を選択して行われる。このようにして、オペレータはプロセス領域内のすべてのチェックのハイレベルな要約を得られる。このセクションでは、ファジィペトリネットの一般的な背景については説明しない。これについては、非特許文献1を参照されたい。
【0086】
異常事象アプリケーションを開発するためのプロセス全体を図5に示す。基本的な開発戦略は反復的であり、開発者は粗いモデルから出発して、正常動作および異常動作の両方の間、このモデルがどの程度実際のプロセス動作を表すかの観察結果に基づいて、当該モデルの能力を少しずつ向上させる。次に、これらの観察結果に基づいてモデルを再構築および再訓練する。
【0087】
異常事象検出用PCAモデルの開発
I.概念的PCAモデル設計
全体的な設計目的は以下の通りである。
・コンソールのオペレータが自分の操作権限下にあるすべてのプロセスユニットについてプロセス動作の連続的な状態(正常対異常)を把握できるようにする。
・オペレータが自身の操作権限内で急速(数分から数時間)に拡大しつつある異常事象を早期発見できるようにする。
・オペレータに対し、異常事象の根本的原因を診断するのに必要な主要なプロセスの情報だけを提供する。
【0088】
実際の根本的原因の診断は本発明の範囲外である。コンソールのオペレータは、自身のプロセス知識および訓練に基づいてプロセス問題を診断するよう求められる。
【0089】
異常動作の監視を全体として成功させるには、広範なプロセス範囲を有することが重要である。システムについて学んで自身の技術を維持するために、オペレータは定期的にシステムを使用することが必要である。特定の異常事象が稀にしか生じないため、オペレータはプロセスの小さい部分の異常動作監視を稀にしか使わず、おそらくは遂に異常事象を検出した際にオペレータがシステムを無視してしまう。この広範な範囲は、経済的に大きな関心事である特定のプロセス問題の検出に基づいてモデルを設計する、公開されているモデリングの目的とは対照的である(非特許文献3を参照のこと)。
【0090】
数千のプロセス測定値が、一人のコンソールのオペレータの操作権限下のプロセスユニット内にある。連続的な精製および化学プロセスは、これらの測定値に顕著な時間ダイナミクスを示し、データ同士の相互相関を破る。このため、相互相関を維持できる個別のPCAモデルにプロセス設備を分割する必要がある。
【0091】
概念上のモデル設計は、以下の4つの主な決定からなる。
・プロセス設備を、対応するPCAモデルを有する設備グループに再分割する。
・プロセス動作時間枠を、異なるPCAモデルを必要とするプロセス動作モードに再分割する。
・設備グループ内のどの測定値を各PCAモデルへの入力として指定すべきかを識別する。
・設備グループ内のどの測定値が既知の事象または他の例外動作を抑制するフラグとして機能すべきかを識別する。
【0092】
A.プロセスユニットの対応範囲
最初の決定は、単一のPCAモデルで対応する設備のグループを形成することである。これに含まれる特定のプロセスユニットは、プロセスの統合/相互作用を理解している必要がある。多変数拘束コントローラの設計と同様に、PCAモデルの境界は、すべての重要なプロセス相互作用およびプロセスの変化や外乱の主要な上流および下流における兆候を包含していなければならない。
【0093】
以下の規則を用いてこれらの設備グループを判定する。
【0094】
設備グループは、同一設備グループ内ですべての主要な物質とエネルギの統合および迅速な再利用を含むことにより定義される。プロセスが多変数拘束コントローラを用いる場合、コントローラモデルはプロセスユニット同士の相互作用点を明示的に識別する。そうでなければ、このプロセスの工学分析を通じて相互作用を識別する必要がある。
【0095】
プロセスグループは、プロセス設備グループ同士の相互作用が最小である点で分割されなければならない。最も明確な分割点が生じるのは、相互作用が次の下流ユニットへの供給を含む単一のパイプを介してのみ生じる場合である。この場合、温度、圧力、流量および原料組成が下流の設備グループに対する一次影響であり、すぐ下流にあるユニットの圧力が上流の設備グループへの一次影響である。これらの一次影響の測定値は、上流および下流の両方の設備グループのPCAモデルに含まれているべきである。
【0096】
上流と下流の設備グループの間にプロセス制御アプリケーションの影響を含める。プロセス制御アプリケーションは、上流と下流の設備グループの間に別の影響経路を提供する。フィードフォワード経路とフィードバック経路の両方が存在し得る。このような経路が存在する場合、これらの経路を駆動する測定値は両方の設備グループに含まれていなければならない。プロセス制御アプリケーションの分析により、プロセスユニット同士の主要な相互作用が示されることになる。
【0097】
有意な時間ダイナミクスが存在する場所(貯蔵タンク、長いパイプラインなど)では常に設備グループを分割する。PCAモデルは主に、プロセスの急速な変化(数分〜数時間の期間にわたり生じるものなど)を扱う。プロセスに影響を及ぼすのに数時間、数日または数週間もかかる影響は、PCAモデルに適していない。これらの影響が正常なデータパターンにとって重要な場合、これらの影響の測定値を動的に補償して、それらの有効時間を他のプロセス測定値と同期させる必要がある(動的補償についての説明を参照のこと)。
【0098】
B.プロセス動作モード
プロセス動作モードは、プロセスの挙動が大幅に異なる特定の時間枠として定義される。これらの例として、異なるグレードの製品の製造(ポリマーの製造など)、顕著なプロセス遷移(始動、停止、原料の交換など)、大きく異なる原料の処理(オレフィンの製造でエタンに代えてナフサを分解するなど)の処理または異なる構成のプロセス設備(異なる組のプロセスユニットが稼動)がある。
【0099】
これらの顕著な動作モードが存在する場合、各々の主要な動作モードに対して個別のPCAモデルを開発する必要があり得る。必要なモデルが少ない方がよい。開発者は、特定のPCAモデルが類似の動作モードに対応可能であると仮定すべきである。この仮定を、各動作モードからの新規データをモデルに通して当該モデルが正しく動作するか否かを確認することにより検証しなければならない。
【0100】
C.履歴的プロセス問題
異常事象検出システムの開発に組織的な関心が持たれるのは、経済的に重大な影響のある履歴的プロセス問題が存在しているためである。しかしながら、これらの重要な問題を分析して、これらの問題に取り組む最適なアプローチを知る必要がある。特に、開発者は、異常事象検出アプリケーションの構築を試みる前に以下の点を確認すべきである。
1.問題を永久に解決することができるか?往々にして、現場担当者が問題を調査して永久に解決するだけの十分な時間をとれなかったがために問題が存在する。この問題に組織の関心が向くと、永久的な解決策が見つかる場合が多い。これが最善のアプローチである。
2.問題を直接測定することができるか?問題を検出するためのより信頼性の高い方法は、このプロセスにおける問題を直接測定できるセンサを設置することである。これを用いて、プロセス制御アプリケーションを介して問題を防止することも可能である。これが次善のアプローチである。
3.異常動作に対するアプローチを測定する推論的測定法を開発することができるか?推論的測定法は通常、部分最小二乗法、PLS、PCA異常事象モデルに極めて近いモデルを用いて開発される。推論的測定法を開発するための他の一般的な代替案として、ニューラルネットおよび線形回帰モデルが含まれる。問題の状態に対するアプローチを信頼できる形で測定するのに利用可能なデータ(デルタ圧力を用いるタワーフラッディングなど)が存在する場合、これを状態がいつ存在するかの検出だけでなく、状態が生じるのを防止する制御アプリケーションの基礎としても用いることができる。これが3番目によいアプローチである。
【0101】
問題状態の直接測定およびこれらの状態の推論的測定法は、異常検出モデルの全体的なネットワークに容易に組み込むことが可能なものである。
【0102】
II.入力データおよび動作域の選択
設備グループでは、何千ものプロセス測定値があることになる。予備設計では、以下の事項を実施する。
・すべてのカスケード二次コントローラ測定値並びに、特にこれらのユニットへの最終二次出力(フィールド制御バルブへの信号)を選択する
・コンソールのオペレータがプロセスを監視するのに用いる主要な測定値(自身の操作系統に現れるものなど)を選択する
・担当エンジニアがプロセスの性能を測定するのに用いる測定値があればこれを選択する
・供給速度、供給温度または供給品質の上流測定値があればこれを選択する
・プロセスの動作領域、特に圧力に影響を及ぼす下流状態の測定値を選択する
・重要な測定のために追加的な冗長測定値を選択する
・非線形変換の計算に必要となるかもしれない測定値を選択する
・外乱(周囲温度など)の外部測定値があればこれを選択する
・プロセスの専門家がプロセス状態の重要な尺度であると考える他のあらゆる測定値を選択する
【0103】
上記のリストから以下の特性を有する測定値のみを含める。
・測定値に誤りまたは問題がある性能の履歴が含まれていない
・測定値は満足すべき信号対雑音比を有する
・測定値はデータセット内の他の測定値と相互に相関している
・測定値は正常動作する時間の10%を超えて飽和していない
・測定値は、稀にしか変化しない固定のセットポイントに厳密に制御されてはいない(制御階層の最終一次側)
・測定値は、長期にわたる「不良値」動作またはトランスミッタの限界まで飽和していない
・測定値は、極めて非線形であることが知られている値の範囲を超えない
・測定値は未加工測定値からの冗長計算ではない
・フィールド制御バルブへの信号は、時間の10%を超えて飽和していない
【0104】
A.モデル入力を選択するための評価
PCA異常検出モデル、信号対雑音比および相互相関への潜在的入力に優先順位付けを行うための2種の統計的な基準がある。
【0105】
1)信号対雑音試験
信号対雑音比は、入力信号における情報内容の尺度である。
【0106】
信号対雑音比は、以下のように計算される。
1.未加工信号は、プロセスのものに等しい近似動的時定数を有する指数フィルタを用いてフィルタリングされる。連続的な精製および化学プロセスの場合、この時定数は通常、30分〜2時間の範囲にある。他の低域通過フィルタを用いてもよい。指数フィルタの場合の式は以下の通りである。
Yn=P*Yn−1+(1−P)*Xn 指数フィルタの式 式1
P=Exp(−Ts/Tf) フィルタ定数の計算 式2
式中、
Yn 現在フィルタリングされる値
Yn−1 以前にフィルタリングされた値
Xn 現在の未加工値
P 指数フィルタ定数
Ts 測定値のサンプル時間
Tf フィルタ時定数
2.残留信号は、未加工信号からフィルタリングされた信号を減算することにより得られる。
Rn=Xn−Yn 式3
3.信号対雑音比は、フィルタリングされた信号の標準偏差を残留信号の標準偏差で除算した比である。
S/N=σY/σR 式4
【0107】
すべての入力が、4などの所定の最小値より大きいS/Nを示すことが好ましい。S/Nがこの最小値を下回る入力については、モデルに含めるべきか否かを判断するために個別に調べる必要がある。
【0108】
長期間にわたる定常状態動作があるとノイズ内容の推定が極端に長引くため、S/Nを計算するために用いるデータセットではこうした動作をすべて除外しなければならない。
【0109】
2)相互相関試験
相互相関は、入力データセットの情報冗長性の尺度である。任意の2つの信号間の相互相関は次式により計算される。
1.各入力のペアi、k間の共分散Sikを計算する。
【数1】
2.共分散からの入力の各ペアについて相関係数を計算する。
CCik=Sik/(Sii*Skk)1/2 式6
【0110】
入力がモデルに含まれていてはならないことをフラグする二つの状況がある。第1の状況が生じるのは、特定の入力と残りの入力データセットとの間に有意な相関が存在しない場合である。各々の入力に対して、0.4などの有意な相関係数を有する少なくとも1個の他の入力がデータセットに存在しなければならない。
【0111】
第2の状況が生じるのは、異なる識別器を有する何らかの計算に際して起こることが多いのであるが、同一の入力情報が(偶然に)2回含まれた場合である。1に近い(たとえば0.95を超える)相関係数を示す入力のペアはすべて個々にチェックして、両方の入力をモデルに含めるべきか否かを判断する必要がある。入力が物理的には独立しているが論理的には冗長である(即ち、2個の独立した熱電対が別々に同じプロセス温度を測定している)場合、これらの入力は両方ともモデルに含まれるべきである。
【0112】
2つの入力が互いの変換(即ち、温度と圧力補償された温度)である場合、これらの測定値のうちの1つと残りのデータセットとの間で有意に向上した相互相関が存在しない限り、オペレータが馴染んでいるほうの測定値を含めることが好ましい。こうして、相互相関が高いほうを含めるべきである。
【0113】
3)飽和した変数の識別および取り扱い
精製および化学プロセスは往々にして、厳しいか緩い拘束を受けて、結果的にモデル入力に対する飽和値および「不良値」が生じる。一般的な拘束は、計器トランスミッタの上下範囲、アナライザ範囲、最大および最小制御バルブ位置、プロセス制御アプリケーションの出力限度である。入力は、モデル構築およびこれらのモデルのオンライン利用の両方において入力を事前処理する際に特別な扱いを要する飽和に関していくつかのカテゴリに分類することができる。
【0114】
標準的なアナログ計器(4〜20ミリアンペアの電子トランスミッタなど)において、不良値は以下の2つの異なる原因で起こり得る。
・実際のプロセス状態がフィールドトランスミッタの範囲外にある
・フィールドとの接続が絶たれた
【0115】
これらの状況のいずれかが生じた場合、プロセス制御システムを個々の測定値に基づいて設定して、当該測定値が不良値であることを示す特別のコードを当該測定値の値に割り当てるか、測定値の最終良好値を維持する。これらの値は、プロセス制御システムで実行されるあらゆる計算全体に伝播する。「最終良好値」オプションが設定された場合、これは検出および除外が困難な誤った計算に至る恐れがある。一般に、「不良値」コードがシステム全体に伝播すると、不良測定値に依存する計算がすべて同様に不良としてフラグが立てられる。
【0116】
プロセス制御システムで設定されたオプションとは無関係に、不良値を含むこれらの時間枠は、訓練または試験データセットに含まれてはならない。開発者は、プロセス制御システムにおいてどのオプションが設定されたかを識別した後、不良値であるサンプルを除外するためのデータフィルタを設定する必要がある。オンライン実装の場合、プロセス制御システムでどのオプションが選択されたかとは無関係に、入力を事前処理して不良値を欠落値としてフラグ付けしなければならない。
【0117】
通常はかなりの時間枠にわたって不良値であるこれらの入力を、モデルから除外すべきである。
【0118】
拘束変数とは、測定値が何らかの限界にあって、この測定値が実際のプロセス状態(値がトランスミッタ範囲の最大または最小限にデフォルト化されている場合とは逆−不良値のセクションで説明)に一致する場合の変数である。このプロセス状況は、以下のいくつかの理由により生じ得る。
・プロセスの各部分は、特に優先的な状態、たとえばフレアシステムへの圧力解放流がない限り、通常は不活性である。これらの優先的状態が有効である時間枠は、データフィルタを設定することにより訓練および検証データセットから除外しなければならない。オンライン実装の場合、これらの優先事象は、選択されたモデル統計量を自動抑制するトリガ事象である
・プロセス制御システムは、プロセス動作制限、たとえば製品仕様限界に反してプロセスを駆動すべく設計されている。これらの拘束は一般に、2つのカテゴリに分類される。即ち、時々飽和するものと、通常は飽和しているものである。通常は飽和している入力はモデルから除外しなければならない。稀に(たとえば全時間の10%未満)飽和するだけの入力はモデルに含まれてよいが、飽和していない場合には時間枠に基づいてスケーリングしなければならない。
【0119】
B.プロセス制御アプリケーションからの入力
プロセス制御アプリケーションは、プロセスデータの相関構造に極めて重大な影響を及ぼす。特に以下の通りである。
・被制御変数の変動が大幅に減少するため、プロセスに顕著なプロセス外乱が出現したか、オペレータが主要なセットポイントを変えて意図的に動作点を動かした場合の短い時間枠を除いて、被制御変数内の動きは基本的にノイズである。
・被制御変数における通常の変動は、制御システムにより被操作変数(最終的にはフィールド内の制御バルブへ送られた信号)へ転送される。
【0120】
精製および化学プロセスの正常動作は通常、2つの異なるタイプの制御構造即ち、古典的制御カスケード(図6に示す)と、より最近の多変数拘束コントローラMVCC(図7に示す)とによって制御される。
【0121】
1)カスケード構造からモデル入力を選択
図6に、典型的な「カスケード」プロセス制御アプリケーションを示す。これは精製および化学プロセスでは極めて一般的な制御構造である。そのようなアプリケーションからの多くの潜在的なモデル入力が存在するが、当該モデルの候補である唯一のものは未加工プロセス測定値(本図の「PV」)およびフィールドバルブへの最終出力である。
【0122】
カスケード制御構造の最終一次側のPVは、極めて重要な測定値であるにもかかわらず、当該モデルへ含めるには適していない候補である。この測定値は通常、制御構造の目的がこの測定値をセットポイントに保つことであるため、動きが極めて限られる。自身のセットポイントが変えられた場合に最終一次側のPV内に動きがあってもよいが、通常これは稀である。一次側セットポイントの不定期的移動から生じるデータパターンは通常、モデルがデータパターンを特徴付けるに足るだけの影響力を訓練データセットに及ぼさない。
【0123】
最終一次側のセットポイントの変化から生じるデータパターンを特徴付けることがこのように困難なため、オペレータが当該セットポイントを動かしたならば、当該モデルの指標である二乗予測誤差SPEの和が顕著に増加しやすい。このため、最終一次側のセットポイントの変化はわずかでも「既知事象抑制」を起こす候補トリガの1つである。オペレータが最終一次側セットポイントを変えるたびに、「既知事象抑制」論理がSPE計算からその影響を自動的に排除する。
【0124】
開発者が最終一次側のPVをモデルに含めるのであれば、この測定値を、オペレータがセットポイントを変えた時からプロセスが新しいセットポイントの値の近くへ移動するまでの短い時間枠に基づいてスケーリングすべきである(たとえば、セットポイントが10から11まで変化した場合、PVが10.95に達したときに新規セットポイントの95%以内)。
【0125】
最終一次側のPVと極めて強い相関(たとえば相関係数が0.95を超える)を有する測定値もまたあり得る。たとえば、最終一次側のPVとして用いられる、温度測定の近傍に置かれた冗長な熱電対である。これらの冗長な測定値は、最終一次側のPV用に選択されたのと同じ方法で扱われなければならない。
【0126】
カスケード構造は、各々の二次側にセットポイントの限界を持つことができ、フィールド制御バルブへの信号に対して出力制限を設けることができる。これらの潜在的に拘束された動作の状態をチェックして、セットポイントに関連付けられた測定値が拘束された方法で操作されたか否か、またはフィールドバルブに対する信号が拘束されているか否かを判断することが重要である。これらの拘束された動作の間の日付を用いてはならない。
【0127】
2)多変数拘束コントローラ(MVCC)からのモデル入力の選択/計算
図7に、精製および化学プロセス向けの極めて一般的な制御構造である典型的なMVCCプロセス制御アプリケーションを示す。MVCCは動的数学モデルを用いて、被操作変数MV(通常は調整制御ループのバルブ位置またはセットポイント)の変化がどのように制御変数CV(プロセス状態を測定する従属温度、圧力、組成および流量)を変えるかを予測する。MVCCは、プロセス動作を動作限界まで押し上げようと試みる。これらの限界は、MV限界またはCV限界のいずれかであってよく、外部オプティマイザにより決定される。プロセス動作の限界数は、コントローラが操作可能なMVの数から、制御されている物質収支の数を差し引いたものに等しい。よって、MVCCが12個のMV、30個のCV、および2個のレベルを有する場合、プロセスは10の限界に向けて動作される。MVCCはまた、プロセスに対する測定された負荷外乱の影響を予測して、これらの負荷外乱(フィードフォワード変数FFとして知られる)を補償する。
【0128】
未加工MVまたはCVが、PCAモデルに含めるべきよい候補であるか否かは、MVまたはCVがMVCCによる動作限界に対して保持されている時間の割合に左右される。「拘束変数」のセクションで説明したように、時間の10%を超えて拘束される未加工変数は、PCAモデルへ含める候補としては適していない。通常、非拘束変数は「拘束変数」セクションで説明したように扱われなければならない。
【0129】
無拘束MVが調整制御ループに対するセットポイントである場合、このセットポイントを含めるべきではなく、代わりに当該調整制御ループの測定値を含めるべきである。また、当該調整制御ループからのフィールドバルブに対する信号も含めるべきである。
【0130】
無拘束MVがフィールドバルブ位置に対する信号である場合、これをモデルに含めるべきである。
【0131】
C.冗長測定値
プロセス制御システムデータベースは、PCAモデルへの候補入力の中で有意な冗長性を有する可能性がある。冗長性の一タイプとして「物理的冗長性」があり、これはプロセス設備内に互いに物理的に近接して配置された多数のセンサ(熱電対など)が存在する場合である。別のタイプの冗長性として「計算的冗長性」があり、これは未加工センサが新たな変数(圧力補償された温度または容積流量測定値から計算される質量流量)に数学的に組み合わされた場合である。
【0132】
原則として、未加工測定値および当該測定値から計算された入力は共に当該モデルに含まれてはならない。一般に好適なのは、プロセスオペレータが最も馴染んでいる測定値のバージョンを含めることである。この原則に対する例外は、当該モデル用にデータの相関構造を向上させる目的で未加工入力を数学的に変換しなければならない場合である。その場合、未加工測定ではなく、変換された変数を当該モデルに含めるべきである。
【0133】
物理的冗長性は、モデルの相互検証情報を提供するために極めて重要である。原則として、物理的に冗長な未加工測定値はモデルに含めるべきである。多数の物理的に冗長な測定値が存在する場合、これらの測定値は、主成分(可変スケーリングに関するセクションを参照のこと)の選択を阻害するのを防止すべく特別にスケーリングされなければならない。一般的なプロセスの例は、リアクタの暴走を捕捉すべくリアクタに設置された多数の熱電対から生じる。
【0134】
極めて巨大なデータベースをマイニングする場合、開発者はすべての候補入力で相互相関計算を行うことにより冗長な測定値を識別することができる。相互相関が極めて高い(たとえば0.95を超える)測定値ペアを個別に調べ、各ペアを物理的に冗長または計算的に冗長のいずれかに分類しなければならない。
【0135】
III.履歴データの収集
開発に要する努力の多くは、正常なプロセス動作のすべてのモードを含むことがわかっている良好な訓練データセットの作成にある。このデータセットは以下を満たさなければならない。
【0136】
正常動作域にわたること:動作域の小さい部分にわたるデータセットは、ほとんどがノイズからなる。定常状態動作の間のデータの範囲に比べたデータの範囲は、データセットの情報の品質をよく示している。
【0137】
すべての正常動作モード(季節的なモード変動を含む)を含んでいること。各々の動作モードは、異なる相関構造を有するものであってよい。動作モードを特徴付けるパターンがモデルにより捕捉されない限り、これらの非モデル化動作モードは異常動作として現れる。
【0138】
正常な動作データだけを含んでいること:強い異常動作データが訓練データに含まれている場合、モデルは誤ってこれらの異常動作を正常動作としてモデル化してしまう。その結果、後で当該モデルを異常動作と比較した際に、異常動作を検出することができないことがある。
【0139】
履歴は、オンラインシステムで用いるデータになるべく類似しているべきである:オンラインシステムは、異常事象を検出するのに十分速い周期でスポット値を提供することになる。連続的な精製および化学的操作の場合、このサンプリング周期は約1分である。データ履歴管理機能の限度内で、訓練データは可能な限り1分のスポット値に等価でなければならない。
【0140】
データ収集の戦略は、長期間(通常9ヶ月から18ヶ月間の範囲)の動作履歴から開始し、そこから明白または文書化された異常事象のある時間枠を除外しようとすることである。そのような長い時間枠を用いることによって、以下の事項が実現する。
・小さめの異常事象は、モデルパラメータに大きく影響する程度には十分な強度では訓練データセットに現れない
・大部分の動作モードが発生したはずであり、データ内に現れることになる
【0141】
A.履歴データの収集に関する事項
1)データ圧縮
多くの履歴データベースは、データ圧縮を用いてデータの記憶容量を最小化する。不都合なことに、これを実行すればデータの相関構造を乱す恐れがある。プロジェクトの開始時点では、データベースのデータ圧縮を無効にしてデータのスポット値の履歴を取っておくべきである。可能な場合は常に非圧縮データを用いて最終的なモデルを構築しなければならない。平均値は、利用できるデータが他になく、これが利用できる最短のデータ平均であるのでなければ、用いるべきではない。
【0142】
2)データ履歴の長さ
モデルが正常なプロセスパターンを適切に表すために、訓練データセットは、すべての正常動作モード、正常な動作変動、プロセスに生じる変化や正常な微小外乱の例を含む必要がある。これは、長期間(9〜18ヶ月など)にわたるプロセス動作のデータを用いることにより実現される。特に、精製および化学プロセスにおいて季節的(春夏秋冬)な動作の違いは極めて重要であり得る。
【0143】
時折、これらの長い範囲のデータが未だ利用できない場合(プロセス設備の切り替えその他の重要な再構成の後)がある。これらの場合、モデルは訓練データの短い(6週間など)初期セットから始めて、更にデータが収集されるにつれて訓練データセットを拡張して、モデルが安定するまで当該モデルを毎月更新する(新規データを追加してもモデル係数は変化しないなど)。
【0144】
3)補助履歴データ
この時間枠に対するさまざまな操作ジャーナルもまた収集しなければならない。これを用いて、動作時間枠を異常とみなすか、訓練データセットから除外する必要がある何らかの特別なモードにおいて動作している。特に、重要な履歴的異常事象をこれらのログから選択してモデル用のテストケースとすることができる。
【0145】
4)特定の測定履歴の欠如
往々にして、セットポイントおよびコントローラ出力は、プラントのプロセスデータの履歴管理機能で履歴化されないことが多い。これらの値の履歴化は、プロジェクトの開始時点で直ちに開始しなければならない。
【0146】
5)動作モード
もはや適切に現在のプロセス動作を表さない旧データは、訓練データセットから削除しなければならない。大規模なプロセス改良の後で、訓練データおよびPCAモデルを最初から作り直すことが必要な場合がある。特定のタイプの動作がもはや実行されていない場合、当該動作からのすべてのデータを訓練データセットから削除しなければならない。
【0147】
動作ログを用いて、異なる動作モードの下でいつプロセスが稼動したかを識別しなければならない。これらの異なるモードは別々のモデルを必要とする場合がある。モデルがいくつかの動作モードに対応することを意図している場合、各々の動作モデルからの訓練データセット内のサンプルの数はほぼ等しくなければならない。
【0148】
6)サンプリングレート
開発者は、拠点のプロセス履歴管理機能を使用して数ヶ月分のプロセスデータ、好ましくは1分間隔のスポット値を収集しなければならない。これが入手可能でない場合、なるべく平均化されておらず、かつ解像度が最も高いデータを使用すべきである。
【0149】
7)稀にサンプリングされる測定値
品質測定値(アナライザおよび研究室サンプル)は他のプロセス測定値よりも極めて長いサンプリング周期を有し、数十分毎〜1日1回の範囲である。これらの測定値をモデルに含めるには、これらの品質測定値の連続的な推定値を生成する必要がある。図8に、連続的な品質推定値のオンライン計算を示す。これと同じモデル構造を構築して履歴データに適用しなければならない。このように適用すると、この品質推定値はPCAモデルへの入力になる。
【0150】
8)モデルにより起動されるデータ注釈
極めて明らかな異常を除いて、履歴データの品質を判定するのは困難である。異常動作データを含めることによりモデルが偏る恐れがある。大量の履歴データを用いる戦略は、訓練データセットにおける異常な動作により生じるモデルのバイアスをある程度補償する。プロジェクトの開始に先立って履歴データから構築されたモデルは、品質に関しては疑いを持たなければならない。初期訓練データセットは、プロジェクトが継続している間に生じるプロセス状態の高い品質注釈を含むデータセットと入れ替えなければならない。
【0151】
モデル開発の戦略は、初期の「粗い」モデル(疑わしい訓練データセットの結果)から出発した後、モデルを用いて高品質の訓練データセットの収集を起動することである。モデルを用いてプロセスを監視するに従い、正常動作、特別動作、異常動作に関する注釈およびデータが集められる。モデルが異常動作のフラグを立てるか、または異常事象をモデルが見逃すたびに、事象の原因および持続期間に注釈が付けられる。このように、プロセス動作を監視するモデルの能力に対するフィードバックを訓練データに取り込むことができる。このデータを用いてモデルを改良し、当該モデルを用いて品質が向上した訓練データを収集し続ける。このプロセスは、モデルが満足すべき状態になるまで繰り返される。
【0152】
IV.データおよびプロセス分析
A.初期の粗いデータ分析
動作ログを用いて、プロセスの主要な性能指標を調べることにより、履歴データを、異常動作の存在が判明している期間と、異常動作が確認されなかった期間とに分ける。異常動作が確認されなかったデータが訓練データセットとなる。
【0153】
ここで、各測定値の履歴を調べて、訓練データセットの候補であるか否かを判断する必要がある。除外しなければならない測定値は以下の通りである。
・「不良値」である期間が長いもの
・自身のトランスミッタの上限または下限に固定された期間が長いもの
・極めてわずかな変動性しか示さないもの(自身のセットポイントに厳密に制御されているものを除く)
・自身の動作域に関して極めて大きい変動性を連続的に示すもの
・データセット内の他のどの測定値とも、相互相関をほとんどまたはまったく示さないもの
・信号対雑音比が低いもの
【0154】
データを調べる間、測定値が短期的に「不良値」を示すか、自身のトランスミッタ上限または下限に短期的に固定されている時間枠も除外しなければならない。
【0155】
これらの除外を実施すると、第1の粗いPCAモデルが構築されるはずである。これは極めて粗いモデルになるため、保持される主成分の正確な数は重要でない。これは通常、モデルに含まれる測定値の数の5%前後になる。PCの数は、最終的にプロセスの自由度の数に一致しなければならないが、これはプロセス外乱の異なるすべての発生源を含むため、通常は未知である。主成分をいくつ含めるかを判断するための標準的な方法がいくつか存在する。また、この段階で、可変スケーリングへの統計的なアプローチを用いるべきである。即ち、すべての変数をユニット分散に応じてスケーリングする。
X’=(X−Xavg)/σ 式7
【0156】
ここで、訓練データセットをこの予備モデルに通して、データがモデルに一致しない時間枠を識別しなければならない。これらの時間枠を調べて、その時点で異常事象が生じていたか否かを知る必要がある。生じていたと判定された場合、これらの時間枠には、既知の異常事象が生じている時間としてフラグを立てなければならない。これらの時間枠を訓練データセットから除外して、修正されたデータでモデルを再構築する必要がある。
【0157】
B.外れ値および異常動作期間の除外
以下のようにして明らかな異常事象を除去する。
文書化された事象の除外。拠点において異常事象の履歴の完全な記録が残されていることは極めて珍しい。しかしながら、顕著な動作問題は、オペレータのログ、オペレータ変更ジャーナル、アラームジャーナル、機器の保守記録などの動作記録に文書化されなければならない。これらは、異常事象の履歴の部分的な記録しか提供しない。
【0158】
主要性能指標KPIが異常である期間の除外。供給量、製品レート、製品品質などの測定値が共通の主要性能指標である。各々のプロセス動作には、ユニットに固有の別のKPIがあってもよい。この限られた測定値の集合を注意深く調べることにより、異常動作の期間が明確に示される。図9に、KPIのヒストグラムを示す。このKPIの動作目的はこれを最大化することであるため、このKPIが低い動作期間は異常動作である可能性がある。プロセス品質は、最適動作が仕様限界以内であって、正常な供給量の変動に対する感度が低いため、分析が最も容易なKPIであることが多い。
【0159】
C.ノイズの補償
ノイズとは、プロセスに関して有用な情報を含んでいない測定信号の高周波内容を指す。ノイズは、オリフィスプレートを横断する二相流またはレベルの撹乱などの特定のプロセス状態により生じ得る。ノイズは、電気インダクタンスにより生じ得る。しかしながら、おそらくはプロセス外乱により生じた顕著なプロセス変動性は有用な情報であって、フィルタリングで除去してはならない。
【0160】
精製および化学的プロセスの測定で生じる一次ノイズには2つのタイプがある。即ち、測定スパイクおよび指数相関を有する連続ノイズである。測定スパイクにより、信号は、自身の以前の値に近い値に戻る前に、サンプル数が少ない割に不合理なほど大幅に飛ぶ。ノイズスパイクは、ユニオンフィルタなどの従来のスパイク除外フィルタを用いて除外される。
【0161】
信号におけるノイズの量は、信号対雑音比として知られる尺度により定量化できる(図10参照)。これは、高周波ノイズに起因する信号変動性の程度に対するプロセス変動に起因する信号変動性の程度の比として定義される。4未満の値が、信号が顕著なノイズを含んでいてモデルの効果を阻害し得ることを示す典型的な値である。
【0162】
開発者が顕著なノイズを含む信号に遭遇するたびに、3つのうち1つを選択する必要がある。好ましい順に以下の通りである。
・ノイズの発生源を除去することにより信号を固定する(最良の対応策)
・フィルタリング技術を用いてノイズを除去/最小化する
・信号を当該モデルから除去する
【0163】
信号対雑音比が2〜4の間にある信号では一般に、指数相関を有する連続ノイズは、指数フィルタなどの従来の低域通過フィルタにより除去することができる。指数フィルタの式は以下の通りである。
Yn=P*Yn−1+(1−P)*Xn 指数フィルタの式 式8
P=Exp(−Ts/Tf) フィルタ定数の計算 式9
Ynは現在のフィルタリングされた値である
Yn−1は以前にフィルタリングされた値である
Xnは現在の未加工値である
Pは指数フィルタ定数である
TSは測定値のサンプル時間である
Tfはフィルタ時定数である
【0164】
信号対雑音比が極めて低い(たとえば2未満の)信号は、直接モデルに含まれる程度にはフィルタリング技術によっても十分に改善できないであろう。入力が重要と見なされる場合、スケーリング係数のサイズを大幅に増す(通常は2〜10の範囲)ことで、モデルの感度を下げるように変数のスケーリングを設定しなければならない。
【0165】
D.変換された変数
変換された変数は、2つの異なる理由からモデルに含まれなければならない。
【0166】
第1に、特定の設備およびプロセス化学の工学分析に基づいて、プロセス内で既知の非線形性を変換して当該モデルに含めなければならない。PCAの仮定の一つが、モデルの変数が線形に相関していることであるため、プロセスまたは設備の顕著な非線形性はこの相関構造を壊し、モデルからの偏差として現れる。これは、モデルの使用可能範囲に影響を及ぼす。
【0167】
既知の非線形変換の例としては以下のものがある。
・蒸留塔における還流対供給比
・高純度蒸留の組成のログ
・圧力補償された温度測定
・副流の生成
・バルブ位置への流れ(図2)
・指標的温度変化への反応率
【0168】
第2に、過去に生じたプロセス問題からのデータについても検討し、これらの問題が当該プロセスの測定値にどのように現れるかを理解する必要がある。たとえば、タワーのデルタ圧力と供給速度の関係は、フラッディング点に達するまでは比較的線形であるが、そこからデルタ圧力は指数的に増加する。タワーフラッディングは、この線形相関が崩れたことで検出されるため、デルタ圧力と供給量の両方が含まれなければならない。別の例として、触媒流問題が移送ラインのデルタ圧力に見られることが多い。従って、絶対圧力測定値をモデルに含めるのではなく、デルタ圧力を計算して含める必要がある。
【0169】
E.動的変換
図11に、プロセス動力学が2つの測定値の現在値同士の相関をどのように分断するかを示す。遷移時間中、一方の値は常に変化しているが他方はそうでなく、遷移時に現在値同士の相関は存在しない。しかしながら、この2つの測定値は、動的伝達関数を用いて主要な変数を変換することにより、時間同期に戻すことができる。データの時間同期化には通常、無駄時間動的モデル(式9にラプラス変換形式で示す)を有する第1オーダーで十分である。
【数2】
Y−未加工データ
Y’−時間同期化データ
T−時定数
Θ−無駄時間
S−ラプラス変換パラメータ
【0170】
この手法が必要とされるのは、モデルで用いる変数同士に顕著な動的分離がある場合のみである。通常、変数の1〜2%だけがこの処理を必要とする。これは、オペレータによって大きな刻みで変えられることの多いセットポイントなどの独立変数や、モデル化されている主プロセスユニットのかなり上流にある測定値に当てはまる。
【0171】
F.平均的な動作点の除去
連続的な精製および化学プロセスは、ある動作点から別の動作点へ常に移動されている。これらは、オペレータまたは最適化プログラムが主要なセットポイントを変更した意図的なものでもよく、熱交換器の汚れや触媒の非活性化等の遅いプロセス変動により生じるものでもよい。その結果、未加工データは静止していない。これらの動作点の変更は、静止データセットを生成するために除去する必要がある。さもなければ、これらの変更は異常事象として誤って現れる。
【0172】
プロセスの測定値は偏差変数即ち、移動平均動作点からの偏差に変換される。異常事象検出用のPCAモデルを生成する際に、平均動作点を除去する当該変換が必要である。これは、自身の未加工値から測定値の指数的にフィルタリングされた値(指数フィルタ式については式8、9を参照)を減算し、当該モデルでこの差を用いることにより行われる。
X’=X−Xfiltered 式10
X’−動作点変化を除去すべく変換された測定値
X−元の未加工測定値
Xfiltered−指標的にフィルタリングされた未加工測定値
【0173】
指数フィルタ用の時定数は、プロセスの主要な時定数とほぼ同じサイズでなければならない。多くの場合、時定数は約40分で十分である。この変換の結果、PCAモデルへの入力が、移動平均動作点からのプロセスの最近の変化の測定値となる。
【0174】
この変換を正確に実行すべく、多くの場合毎分またはそれ以上速くオンラインシステムと合致するサンプリング周期でデータを集めなければならない。これは結果的に、1年分の動作データに対応すべく各々の測定について525,600個のサンプルを集めることになる。この変換を計算したら、データセットを再サンプリングして、より管理しやすいサンプル数、一般に30,000〜50,000サンプルの範囲内に減らす。
【0175】
V.モデルの生成
特定の測定値が選択されて、訓練データセットが構築されたら、標準的なツールを用いてモデルを素早く構築することができる。
【0176】
A.モデル入力のスケーリング
PCAモデルの性能は、入力のスケーリングに左右される。スケーリングへの従来のアプローチは、訓練データセット内で各々の入力を自身の標準偏差σで分割することである。
Xi’=Xi/σi 式11
【0177】
多数のほぼ同一の測定値(固定された触媒反応床の多数の温度測定値など)を含む入力セットの場合、このアプローチは更に、測定値をほぼ同一の測定値の個数の二乗根で除算することで修正される。
【0178】
冗長なデータ群の場合
Xi’=Xi/(σi*sqrt(N)) 式12
ここで、N=冗長なデータ群における入力の個数
【0179】
これらの従来方式のアプローチは、連続的な精製および化学プロセスからの測定値に対しては不適当である。プロセスは通常、指定された動作点でうまく制御されているため、データの分布は定常状態動作からのデータと、「攪乱された」かつ動作点の変化した動作からのデータとの組み合わせである。これらのデータは、優位な定常状態動作データからの過度に小さい標準偏差を有する。その結果生じるPCAモデルは、プロセス測定値における微小から中程度の偏差に極端に影響される。
【0180】
連続的な精製および化学プロセスの場合、スケーリングは、正常なプロセス外乱のあいだ、または連続定常状態動作中に生じる変動性の程度に含まれない動作点変化の最中に生じる変動性の程度に基づくべきである。通常の無拘束変数の場合、スケーリング係数を決定する2つの異なる方式がある。
【0181】
第1の方式は、プロセスが定常状態で動作していないにもかかわらず、顕著な異常事象が生じていない時間枠を識別するものである。限られた個数の測定値が定常状態動作の主要な指標の役割を果たす。これらは一般に、プロセスの主要な性能指標であって、通常はプロセスの供給量、製品製造速度、製品品質を含む。これらの主要な尺度を用いて、動作を正常な定常状態動作、正常な撹乱された動作、および異常動作の期間に区分する。正常な撹乱された時間枠からの標準偏差が大部分の測定値に対する良好なスケーリング係数となる。
【0182】
撹乱された動作に基づいてスケーリングを明示的に計算する別の方式は、以下のように訓練データセット全体を用いるものである。スケーリング係数は、平均から3標準偏差外れたデータ分布に注目することにより近似することができる。たとえば、データの99.7%が平均の3標準偏差以内に存在し、データの99.99%が平均の4標準偏差以内に存在するはずである。平均から99.7%〜99.99%の間にあるデータ値の拡がりは、データセット内の「撹乱された」データの標準偏差の近似としての役割を果たすことができる。図12を参照されたい。
【0183】
最後に、測定値が拘束されることが多い(飽和変数に関する説明を参照)場合、スケーリング係数として用いる標準偏差の計算には変数が拘束されない時間枠だけを用いるべきである。
【0184】
B.主成分の個数を選択する
PCAは実際のプロセス変数を主成分PCと呼ばれる一組の独立変数に変換する。これは、元の変数の線形結合である(式13)。
PCi=Ai,1*X1+Ai,2*X2+Ai,3*X3+... 式13
【0185】
プロセスには、プロセスに影響を及ぼす特定の単独作用を表す多くの自由度がある。これらの異なる単独作用は、プロセス変動とし当該プロセスのデータに出現する。プロセス変動は、供給量の変更などの意図的な変更または周囲温度の変動などの意図しない外乱に起因する場合がある。
【0186】
各々の主成分は、プロセスに対するこれらの異なる独立した効果により生じるプロセスの変動性の一部をモデル化する。主成分は、データセットにおける変動が減少する方向で抽出され、後続する各々の主成分は、次第にプロセス変動性をモデル化しなくなっていく。顕著な主成分はプロセス変動の顕著な発生源を表す。たとえば、供給量の変更が最も大きいプロセス変動の発生源であるため、第1の主成分が通常は供給量変更による影響を表す。ある時点で開発者は、主成分によりモデル化されたプロセス変動が、いつ独立発生源を表さなくなったかを判断しなければならない。
【0187】
主成分の正確な個数を選択する工学的アプローチは、主成分の一次寄与分である変数のグループがもはや工学的に意味を持たなくなった時点で止めることである。PCによりモデル化されたプロセス変動の一次要因は、元の変数(それは、負荷と呼ばれる)の係数Ai,nに着目することにより識別される。規模が比較的大きいそれらの係数は、特定のPCの主要な寄与分である。プロセスをよく理解する者であれば、PCの主要な寄与分である変数の群に着目し、当該PCに名前(供給量効果など)を割り当てることができるはずである。次第に多くのPCがデータから抽出されるにつれて、係数のサイズが更に等しくなる。この時点で、特定のPCによりモデル化されている変動は基本的にノイズである。
【0188】
いつPCが単にノイズをモデル化しているかを判定する従来の統計的方法は、各々の新規PCによりモデル化されているプロセス変動がいつ一定になるかを識別することである。これはPRESS統計で測定され、各々の連続するPC(図13)によりモデル化された変化の量をプロットする。不都合なことに、この試験は、精製および化学プロセス用に構築されたPCAモデルにとっては曖昧なことが多い。
【0189】
VI.モデルの試験および調整
プロセスデータは、ガウス分布または正規分布をなさないであろう。このため、残余誤差の3標準偏差における異常事象を検出するトリガを設定する標準的な統計的方法を用いるべきではない。その代わりに、モデルの使用経験に基づいて経験的にトリガ点を設定する必要がある。
【0190】
最初に、拠点エンジニアが許容できる頻度、通常は毎日5、6回異常事象が通知されるようにトリガレベルを設定しなければならない。これは、訓練データセットのSPEX(これはQ統計またはDMODX統計とも呼ばれる)統計に着目して決定することができる。このレベルは、実際の異常事象を見逃すことなく、しかも誤警報に拠点のエンジニアが振り回されないように設定されている。
【0191】
A.モデルの強化
初期モデルを作成後、新たな訓練データセットを作ることでこのモデルを強化する必要がある。これは、作成したモデルを用いてプロセスを監視することにより行われる。モデルが異常状況の可能性を示したならば、エンジニアがプロセス状況を調べてこれを分類する必要がある。エンジニアは3種類の異なる状況即ち、何らかの特別なプロセス動作が生じている、実際に異常な状況が生じている、或いは、プロセスは正常なのに表示が誤っているという、いずれかを見い出すことになろう。
【0192】
新たな訓練データセットは、特殊動作および正常動作からのデータで構成されている。初期モデルを生成するために実行されたのと同じ分析をデータに対して実行し、モデルを再計算することが必要である。この新たなモデルでは、依然としてトリガレバーが経験的に設定されるが、今回はより良い注釈が付けられたデータを伴うため、このトリガ点を調整して、真の異常事象が生じた場合のみ通知を与えるようにすることができる。
【0193】
異常事象検出のための単純な工学モデル
プロセス設備の物理的、化学的および機械的な設計、並びに多くの類似測定の挿入により、連続的な精製および化学プロセスからのデータにかなりの程度の冗長性をもたらす。この冗長性は、同一の測定が存在する場合は物理的冗長性と呼ばれ、物理的、化学的または機械的関係を用いてプロセス状態の独立であるが等価な推定を実行する場合は計算的冗長性と呼ばれる。このクラスのモデルを工学的冗長性モデルと呼ぶ。
【0194】
I.二次元工学的冗長性モデル
これはモデルの最も簡単な形式であり、以下のような汎用の形式を有する。
F(yi)=G(xi)+フィルタリング済みバイアスi+オペレータバイアス+誤差i 式14
未加工バイアスi=F(yi)−{G(xi)+フィルタリング済みバイアスi+オペレータバイアス}=誤差i 式15
フィルタリング済みバイアスi=フィルタリング済みバイアスi−1+N*未加工バイアスi−1 式16
N−収束係数(0.0001など)
正常動作域:x最小<x<x最大
正常なモデル偏差:−(最大誤差)<誤差<(最大誤差)
【0195】
オペレータが、モデルのシフトを必要とする何らかのフィールド事象(バイパスフローの開口など)があったと判定するたびに、「オペレータバイアス」項が更新される。オペレータの命令があれば、式14が正確に満足される(誤差i=0)ように、オペレータバイアス項が更新される。
【0196】
工学的冗長性モデルにバイアスを与える持続的な未測定プロセス変動に対処すべく「フィルタリングされたバイアス」項は連続的に更新される。収束係数「N」は、ユーザーが指定した、通常は数日間にわたる期間の後で、あらゆる持続的な変化を除去すべく設定される。
【0197】
「正常動作域」および「正常なモデル偏差」は、工学的冗長性モデルの履歴データから決定される。大多数の場合、max_error値は単一の値であるが、これはまた、x軸位置に依存する値のベクトルであり得る。
【0198】
物質収支、エネルギ収支、推定アナライザ表示対実際のアナライザ表示、コンプレッサ曲線など、任意の二次方程式をこのように表すことができる。図14に、二次元のエネルギ収支を示す。
【0199】
適用例として、流量対バルブ位置モデルについてより詳細に述べる。
【0200】
A.流量対バルブ位置モデル
特に有益な工学的冗長性モデルは、流量対バルブ位置モデルである。図2にこのモデルをグラフ的に示す。このモデルの特定の形式は以下の通りである。
【数3】
式中、
流量:制御バルブを通る測定された流量
Delta_Pressure=測定された最も近い上流圧力−測定された最も近い下流圧力
Delta_Pressurereference:正常動作の間の平均デルタ圧力
a:履歴データにフィッティングされたモデルパラメータ
Cv:履歴データから経験的に決定されたバルブ特性曲線
VP:制御バルブへの信号(実際の制御バルブ位置でない)
である。
このモデルの目的は以下の通りである。
・詰まりつつある/詰まった制御バルブの検出
・凍結/故障した流量測定部の検出
・制御システムが流量の制御を喪失した箇所の制御バルブ動作の検出
【0201】
この流量対バルブ式の特定の構成は、人的要因の理由で選択されている。この形式で方程式をx−yプロットするのがオペレータにとって最も容易に理解される。これらのモデルのいずれも、オペレータが最も理解しやすそうな方法で構成することが重要である。
【0202】
B.流量対バルブ位置モデルの開発
連続的な精製および化学プロセスが受ける長い期間にわたる定常状態動作のため、制御バルブの動作全体にわたる十分なデータを得るには長い履歴的な記録(1〜2年)が必要になることがある。図15に、一定運転が長期間にわたる流量、バルブ位置およびデルタ圧力データの典型的な範囲を示す。最初の段階は、図に示すように、動作に何らかの重要な変動がある所で短い時間枠を切り離すことである。次に、これを履歴のさまざまな期間から取り出した正常動作の期間と混ぜる必要がある。
【0203】
往々にして、Upstream_Pressure(多くの場合ポンプ吐出)またはDownstream_Pressureを利用できない。そのような場合、欠落している測定値が当該モデルにおける固定されたモデルパラメータになる。両方の圧力が欠落している場合、当該モデルに圧力効果を含めることは不可能である。
【0204】
バルブ特性曲線は、線形バルブ曲線、二次バルブ曲線または区分的線形関数のいずれかにフィットする。区分的線形関数は、最も柔軟であって、任意の形状のバルブ特性曲線にもフィットする。
【0205】
バルブを直接横断して測定値が得られた場合、「a」の理論値は1/2である。測定値がそこに配置されることはめったにない。「a」は、圧力測定値の実際の位置決めに対応すべく経験的に決定されたパラメータとなる。
【0206】
往々にして、Delta_Pressureが変化する期間がほとんどない場合もある。正常動作期間中のDelta_Pressureのノイズがモデルフィッティングプログラムを混乱させるおそれがある。これに対処するために、モデルを二相で開発する。即ち、最初は、Delta_Pressureが変化する期間だけを含む小さいデータセットを用いてモデルのフィッティングを行う。次いで、決定された値で圧力依存性パラメータ(「a」と、おそらくは欠落している上流または下流圧力)を固定して、大きい方のデータセットを用いてモデルを再開発する。
【0207】
C.流量対バルブ異常性表示のファジィネット処理
任意の二次元工学的冗長性モデルと同様に、異常性の尺度にも2タイプ即ち、「正常動作域」と「正常モデル偏差」がある。「正常モデル偏差」は、正規化された指標即ち誤差/max_errorに基づいている。これは、タイプ4のファジィ識別器(図16)に送られる。開発者は、正規化された指標を用いて、標準的な方法で正常(値0)から異常(値1)への遷移を検出することができる。
【0208】
「正常動作域」インデックスは、正常領域からのバルブ位置の距離である。これは通常、バルブ位置が変化してもバルブ内の流量がほとんどまたは全く変化しないバルブの動作の領域を表す。開発者は再度、タイプ4のファジィ識別器を用いて、正常動作域の上下端および正常動作から異常動作への遷移の両方をカバーすることができる。
【0209】
D.複数の流量/バルブモデルのグループ化
オペレータが好む流量/バルブモデルのグループ化の一般的な方法は、これらのモデルのすべてを単一のファジィネットワークに入れて、傾向指示器によって、それらの重要な流量コントローラのすべてが機能していることをオペレータに教える。その場合、ファジィネットワーク(図4)へのモデル表示は、各々の流量/バルブモデルに対して「正常動作域」および「正常モデル偏差」の表示を含んでいる。この傾向は、最悪モデル表示からの識別器の結果を含むことになる。
【0210】
共通の設備タイプがグループ化された場合、このグループに注目するオペレータが好む別の方法として、流量/バルブのパレート図を用いるものがある(図17)。このチャートでは、上位10個の異常なバルブが左端の最も異常なものから右端の最も異常でないものまで動的に配置される。各々のパレートバーもまた、正常範囲内にあるモデル異常性表示の変動度を示す参照ボックスを備えている。図17の図は、「バルブ10」が実質的に正常ボックスの外側にあるが、他のものはすべて正常に振舞っていることを示す。オペレータは次に、図2と同様に「バルブ10」のプロットを調べて、流量制御ループに関する問題を診断する。
【0211】
II.多次元工学的冗長性モデル
次元が2より大きくなったら、高次元工学的冗長性チェックを扱うべく単一の「PCA状」モデルを開発する。多次元冗長性の例としては以下のものがある。
・圧力1=圧力2=....=圧力n
・プロセスユニット1への物質流量=プロセスユニット1からの物質流量=...プロセスユニット2への物質流量
【0212】
測定値の較正誤差のため、これらの式は各々で係数を補償する必要がある。よって、最初に開発すべきモデルセットは以下の通りである。
F1(yi)=a1G1(xi)+フィルタリング済みバイアス1,i+オペレータバイアス1+誤差1,i
F2(yi)=anG2(xi)+フィルタリング済みバイアス2,i+オペレータバイアス2+誤差2,i
Fn(yi)=anGn(xi)+フィルタリング済みバイアスn,i+オペレータバイアスn+誤差n,i
式18
【0213】
これらのモデルは、二次元の工学的冗長性モデルが開発されたのと同一の方法で開発される。
【0214】
このセットの多次元チェックは、ここで「PCA的」モデルに変換される。この変換は、PCAモデルにおける主成分を、主成分係数(負荷)が、この単独作用に起因する測定値の比例的変化を表す、プロセスに対する独立した効果のモデルとしての解釈に依存する。図3では、3種類の独立かつ冗長な尺度X1、X2、X3がある。X3が1ずつ変化すると、その都度X1はa1ずつ変化し、X2はa2ずつ変化する。この関係の組は、係数がスケーリングされてない工学単位である、単一の主成分モデルPとして表される。
P=a1X1+a2X2+a3X3 式19
式中、a3=1である。
【0215】
当該モデルのこの工学単位のバージョンは、以下のように標準的なPCAモデル形式に変換することができる。
【0216】
標準的な統計概念との類似性を示すならば、各次元Xの変換係数は、正常動作域に基づくものとすることができる。たとえば、平均前後の3σを用いて正常動作域を定義すれば、スケーリングされた変数は以下のように定義される。
Xscale=Xnormal operating range/6σ 式20
(正常動作データの99.7%は平均から3σ以内に入るはずである。)
Xmid=Xmid point of operating range 式21
(「平均」を正常動作域の中点として明示的に定義)
X’=(X−Xmid)/Xscale 式22
(平均とσが決定された後の標準的なPCAスケーリング)
【0217】
Xi用のP’負荷は以下の通りである。
【数4】
(負荷ベクトルを正規化する旨の要件)
【0218】
これはPを以下のように変換する。
P’=b1*X1+b2*X2+・・・+bn*XN 式24
P’“標準偏差”=b1+b2+・・・+bn 式25
【0219】
この変換により、計算、例外処理、オペレータへの提示および対話に標準的なPCA構造を用いて多次元工学的冗長性モデルを取り扱うことができる。
【0220】
異常事象検出のためのPCAモデルおよび単純な工学モデルの配備
I.オペレータおよび既知の事象抑制
抑制論理は、以下の目的に必要とされる。
・測定可能ないつもと違う事象から虚偽の表示を除外する方法を提供する
・オペレータが調べた異常な表示を消去する方法を提供する
・保守のため一時的にモデルまたは測定値を無効にする方法を提供する
・不良動作するモデルを、それらが再調整されるまで無効にする方法を提供する
・不良動作する機器を永久に無効にする方法を提供する
【0221】
抑制には2種類ある。即ち外部の測定可能な事象により自動的に起動される抑制と、オペレータにより開始される抑制である。これらの2種類の抑制の背後にある論理を図18、19に示す。これらの図はファジィ化モデル指標に生じている抑制を示しているが、抑制は、特定の測定値に対して、特定のモデル指標に対して、モデル全体に対して、或いはプロセス領域内のモデルの組み合わせに対しても生じ得る。
【0222】
オペレータが開始した抑制には、抑制が終了した時点を判定する2個のタイマーがある。1個のタイマーは、抑制された情報が正常状態に戻ってそのままであることを確かめる。このタイマーの典型的な値は15〜30分である。第2のタイマーは、正常状態に戻ったか否かに拘らず、異常事象のチェックを再起動させる。このタイマーの典型的な値は、オペレータの勤務シフト(8〜12時間)に等しいか、または半永久的な抑制の場合には極めて長時間となる。
【0223】
事象に基づく抑制の場合、測定可能なトリガが必要である。これは、オペレータによるセットポイントの変更、突然の測定値変化またはデジタル信号であり得る。この信号は、図20に示すタイミング信号に変換される。このタイミング信号は、以下の式を用いてトリガ信号から生成される。
Yn=P*Yn−1+(1−P)*Xn 指数フィルタの式 式26
P=Exp(−Ts/Tf) フィルタ定数の計算 式27
Zn=Xn−Yn タイミング信号の計算 式28
式中、
Yn トリガ信号の現在のフィルタリング済み値
Yn−1 トリガ信号の以前のフィルタリング済み値
Xn トリガ信号の現在の値
Zn 図20に示すタイミング信号
P 指数フィルタ定数
Ts 測定値のサンプル時間
Tf フィルタ時定数
である。
【0224】
タイミング信号が閾値(図20に0.05として示す)を超えている間は、事象は抑制されたままである。開発者は、フィルタ時定数Tfを変えることで抑制の長さを設定する。この機能のために簡単なタイマーを用いてもよいが、このタイミング信号は異なるサイズのトリガ信号に対応しており、変化が大きい場合には抑制をより長く、変化が小さい場合には抑制をより短く生成する。
【0225】
図21に、事象抑制とオペレータ抑制がPCAモデルのあらかじめ規定された入力の組を無効にする様子を示す。自動的に抑制される入力の組がオンラインモデル性能から決定される。オペレータが見たくない表示をPCAモデルが出す場合は常に、この表示を誤差の二乗和指標に対する少数の個々の寄与分まで辿ることができる。これらの個々の寄与分を抑制すべく、この指標の計算は以下のように修正される。
【数5】
wi−入力i(通常は1に等しい)に対する寄与分の重み
ei−入力iからの二乗和誤差の寄与分
【0226】
トリガ事象が生じた場合、抑制対象である入力の各々について寄与分の重みがゼロに設定される。これらの入力が再有効化される場合、寄与分の重みは段階的に値1に戻される。
【0227】
II.PCAモデル分解
PCAモデルは広範なプロセス設備範囲を用いて構築されているが、モデル指標を分離して、オペレータのプロセスに対する認識によりよく合致して、異常事象の兆候に対する感度を向上させるグループに分けることができる。
【0228】
再び式29を参照すると、誤差の二乗和のいくつかのグループ分けが可能である。
【数6】
【0229】
通常、これらのグループ分けは設備のより小さいサブユニット周辺(装置の再沸器セクションなど)または設備の機能に関連するサブグループ分け(製品の品質など)に基づいている。
【0230】
各々の寄与分eiがプロセスノイズに基づいて常に誤差の二乗和に追加されるため、ノイズに起因する指標のサイズは当該指標に寄与する入力の個数に線形に増加する。誤差の二乗和計算への寄与がより小さいため、当該指標の信号対雑音比が向上して、異常事象に対する指標の応答性が向上する。
【0231】
同様の方法で、各々の主成分を設備のグループ分けに一致するように再分割することができ、各々のサブグループ用にホテリングT2指標に類似した指標を生成することができる。
【数7】
【0232】
これらの指標の閾値は、試験データをモデルに通して、試験データに対するそれらの性能に基づいて閾値の感度を設定することにより計算される。
【0233】
これらの新たな指標は、通常のPCAモデルが扱われるのと同一の方法でオペレータ向けに解釈される。元の入力に基づくパレート図を、誤差の二乗和の指標への最大寄与分およびT2計算における最大Pへの最大寄与分について示す。
【0234】
III.重なり合うPCAモデル
入力がいくつかのPCAモデルに現れることにより、モデルに影響を及ぼすすべての相互作用がモデルの範囲内で含まれるようになる。これにより、これらの入力が誤差の二乗和指標の主要な寄与分である場合、オペレータ向けに複数の表示を与えることがあり得る。
【0235】
この問題を回避するために、複数のPCAモデルに現れるあらゆる入力に対し、それらのPCAモデルの1個をその一次側モデルとして割り当てる。一次側PCAモデル向けの式29における寄与分の重みは1に保持される一方、非一次側PCAモデルの重みは0に設定される。
【0236】
IV.オペレータ対話およびインタフェース設計
オペレータインタフェースの主な目的は以下の通りである。
・オペレータの権限下にある主要プロセス領域が正常である旨の表示を連続的に提供する
・背景にあるモデル情報への迅速な(マウスクリック1、2回)ナビゲーションを提供する
・オペレータに対し、モデルを使用可能にする制御を提供する。図22は、オペレータが用いる一次側インタフェースにおいてこれらの設計目標がどのように表されるかを示す。
【0237】
ファジィペトリネットからの最終出力は、図4に示すように正常性傾向である。この傾向は、ファジィ識別関数に定義された異常性の最大尤度を示すモデル指標を表す。要約に示される傾向の個数には自由度があり、オペレータと話し合って決定される。この傾向の上に、オペレータが処置を講じるべき時に信号を出しやすくする2本の基準線があり、黄色の線は通常は0.6の値で設定され、赤色の線は通常は0.9の値で設定される。これらの線は、オペレータに対し、いつ処置を講じるべきであるかの指針を与える。傾向が黄色の線を越えた場合、図4における緑色の三角形が黄色に変わり、傾向が赤色の線を越えた場合、緑色の三角形は赤色になる。当該三角形にはまた、最も異常な表示を与えているモデルに関連付けられたディスプレイにオペレータを誘導する機能を備えている。
【0238】
当該モデルがPCAモデルであるか、または設備グループ(すべての制御バルブなど)の一部である場合、緑色の三角形を選択するとパレート図が作成される。PCAモデルの場合、モデル指標への多数の最大寄与分のうち、これは最も異常(左側)から最も異常でない(右側)までを示す。大抵は、主要な異常事象インジケータは最初の2、3個の測定値の中にある。パレート図は、異常の兆候であると見なされる前にどの程度測定が通常とは異なるかをオペレータに示すために、各バーの周辺に赤い囲み枠を含む。
【0239】
PCAモデルの場合、オペレータには、棒グラフパレートでの順序に合致する傾向パレートが与えられる。傾向パレートにより、各プロットは2個の傾向、即ち実際の測定値(シアン)と、すべてが正常(褐色)な場合に測定値が取るべきであった値のPCAモデルからの推定値とを有する。
【0240】
バルブ/流量モデルの場合、パレートの下での詳細は、二次元の流量対バルブ位置モデルプロットである。このプロットから、オペレータはモデルに対しオペレータバイアスを適用することができる。
【0241】
設備がグループ分けされていない場合、緑色の三角形を選択することにより、オペレータは概略傾向の下での最悪二次元モデルへ直接誘導される。
【0242】
各々のバーの下でオン/オフボタンを選択することにより、オペレータによる抑制をパレート図レベルで行うことができる。
【0243】
【表1】
【0244】
【表2】
【0245】
【表3】
【0246】
【表4】
【0247】
【表5】
【0248】
【表6】
【0249】
【表7】
【0250】
【表8】
【0251】
付録3
工学モデル/ヒューリスティックモデル
A.バルブ−流量−モデル
AED PPアプリケーション用に開発されたバルブモデルは全部で20ある。いずれのバルブモデルにもバイアス更新が実施されている。流量は以下のようにしてデルタ圧力に対して補償される。
補償流量=FL/(DP/StdDP)^a、
式中、FL=実際の流量、DP=上流圧力−下流圧力、StdDP=標準デルタ圧力、aはパラメータである。次に、推定の補償流量と実際の補償流量との間のプロットを作成し、モデルの整合性をチェックする(X−Yプロット)。以下、12のバルブ流量モデルの一覧をあげておく。以下のモデルでの変数の順序は、(OP、FL、UpP−DnP、StdDP、a、Bound)である。
【0252】
【表9】
【0253】
B.コントローラモニタ(CM)およびセンサチェック(SC)モニタ:
CMおよびSCは、ポリ8センサチェック領域およびポリ4センサチェック領域での重要なコントローラおよびセンサをカバーする。CMは、以下のいずれかがルールの限界から外れた場合に、機能停止した機器、ばらつきのある機器またはコントローラの故障を検出する。
1.標準偏差
2.測定値がセットポイントに達することなく、セットポイントと交差もしない時間の長さの累計
3.測定値とセットポイントとの偏差の累計
【0254】
SCは、相関ルールの限界から外れていないかどうか、センサ同士の関係をチェックする。
【0255】
CMモニタおよびSCモニタは、以下の重要な機器のために実装される。
【0256】
【表10】
【0257】
C.ヒューリスティックモデルモニタ:
触媒領域(ポリ8触媒)における触媒詰まりの問題並びに、顆粒領域(801顆粒、831顆粒および仕上げ4領域)でのラインの詰まりの問題を検出することに焦点を合わせた4つのヒューリスティックモデルモニタがある。
【0258】
ポリ8触媒ヒューリスティックモデルは、以下の変数がルールの限界から外れるか否かをチェックして、触媒領域での触媒詰まりの問題を検出することに焦点を合わせている。
1.触媒ラインの上流圧力
2.触媒シリンダの切り換え
3.触媒ラインの下流圧力
4.共触媒および触媒流量
5.触媒システムのフラッシュ流量
6.Pre−RX1温度
【0259】
801顆粒、831顆粒および仕上げ4領域ヒューリスティックモデルは、各領域における以下の変数がルールの限界から外れるか否かをチェックして、対象となる3つの顆粒領域での詰まりの問題を検出することに焦点を合わせている。
1.ウェイトフィーダー速度
2.原料流量
3.ブレンダー速度
4.ウェイトフィーダーモータ
5.圧力変動
【図面の簡単な説明】
【0260】
【図1】オンラインシステムにおける情報が、プロセス領域の正常性/異常性を示す概略指標に至るまでに、さまざまな変換、モデル計算、ファジィペトリネットおよび統合を経てどのように流れるかを示す。
【図2】単純なx−yプロットとしてのオペレータに対するバルブ流量のプロットを示す。
【図3】PCAモデルとして表現された三次元冗長度を示す。
【図4】ファジィネットワークの設定の概略図を示す。
【図5】異常事象アプリケーションを開発するためのプロセス全体の概略図を示す。
【図6】プロセス制御カスケードの構造の概略図を示す。
【図7】多変数拘束コントローラMVCCの構造の概略図を示す。
【図8】現在品質のオンライン推測的推定の概略図を示す。
【図9】履歴データのKPI分析を示す。
【図10】信号対雑音比の図を示す。
【図11】プロセスの動力学が2つの測定値の現在値の相関をいかにして分断し得るかを示す。
【図12】プロセスデータの確率分布を示す。
【図13】PRESS統計量の図を示す。
【図14】二次元のエネルギ収支モデルを示す。
【図15】長時間にわたって一定運転した場合の流量、バルブ位置およびデルタ圧力データの典型的な伸び(stretch)を示す。
【図16】タイプ4のファジィ識別器を示す。
【図17】流量対バルブのパレート図を示す。
【図18】オペレータ抑制論理の概略図を示す。
【図19】事象抑制論理の概略図を示す。
【図20】事象抑制の持続時間の設定を示す。
【図21】PCAモデルにおける入力のあらかじめ規定された集合を無効化する事象抑制およびオペレータ抑制を示す。
【図22】オペレータが使用する一次側インタフェースで設計目標がどのように表現されるかを示す。
【図23】簡略化したPPの概略レイアウトを示す。
【図24】PP動作用の全問題モニタのオペレータディスプレイを示す。
【図25】ポリ8動作領域での触媒詰まりの問題に対するファジィ理論に基づく連続異常性インジケータを示す。
【図26】ポリ8動作領域とポリ8触媒領域の両方の異常性モニタにおける触媒詰まりの問題のAED警告を示す。
【図27】裏付けとなる証拠と一緒に、ポリ8動作領域での触媒詰まりの問題に対する完全な掘り下げを示す。
【図28】ポリ8触媒領域での触媒詰まりの問題に対する掘り下げを問題領域の場所と一緒に示す。
【図29】ポリ8触媒領域での触媒詰まりの問題を検出するためのファジィ理論ネットワークを示す。
【図30】ポリ8動作の背景にあるPCAモデルの自動切り換えのために開発されたルールのあるファジィ理論ネットワークカップルを示す。
【図31】グレード切り換えの自動検出およびプロセス遷移時間の設定のために開発されたファジィ理論ネットワークを示す。
【図32】図27でハイライト表示した触媒詰まりの問題に対応する逸脱したセンサの残差を表すパレート図を示す。
【図33】図32におけるタグのマルチ傾向を示す。同図には、タグ値とモデル予測が示される。
【図34】逸脱しているバルブ流量モデルをランキング順位付けしたパレート図を示す。
【図35】バルブ流量モデルのX−Yプロット即ち、バルブ開口対流量を示す。
【図36】コントローラモニタおよびセンサ妥当性チェックのための掘り下げを示す。
【図37】コントローラモニタおよびセンサ妥当性チェックのためのファジィ理論ネットワークを示す。
【図38】ヒューリスティックモデルのための掘り下げを示す。
【図39】ヒューリスティックモデルのためのファジィ理論を示す。
【図40】バルブ流量モニタファジィネットを示す。
【図41】制御可能な範囲外のバルブの一例を示す。
【図42】各PCによって順次モデル化された変動量をプロットする、標準的な統計プログラムを示す。
【図43】事象抑制ディスプレイを示す。
【図44】AED事象フィードバックフォームを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレンプロセス(PP)に適用される具体例付きのポリマープロセスの動作に関する。この例のPPは、9つの動作領域即ち、触媒調製領域(Cat Prep)、リアクタ(RX)、再利用ガスコンプレッサ、再利用ガス回収システム、ドライヤ、2つの顆粒領域、2つの押出機システムを含む。特に、本発明は、プロセスが正常動作から外れた時点を判断し、プロセスの異常部分を切り離す通知を自動的に生成することに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンプロセス(PP)は、プロピレンを重合させてポリプロピレンを製造するのに最も重要かつ広く用いられているプロセスの1つである。こうして製造されたポリプロピレンは、牛乳用のボトル、清涼飲料水用のボトル、診察着、おむつの裏地などのプラスチック製品を製造する際の中間材料として利用される。PPは、触媒調製ユニット、リアクタ、再利用ガスコンプレッサ、再利用ガス回収システム、ドライヤ、顆粒システム、2基の押出機からなる、極めて複雑かつしっかりと統合されたシステムである。図23は、典型的なPPレイアウトを示す。PPプロセスでは、非常に細かい粒子状の触媒を冷たい油およびグリースと混合し、極めて濃厚なペースト状の混合物にして利用する。このような触媒混合物は濃厚なペースト状であるため、触媒をポンプでリアクタに圧送するのが困難になり、触媒システムに詰まりの問題が発生しやすくなる。触媒混合物と新鮮なモノマー原料(プロピレンまたはC3=)をコモノマー(エチレン)と一緒に2基の大きなリアクタ(RX 1およびRX 2)に順次供給する。リアクタでは、モノマーが触媒と接触する際に極めて発熱性の高い反応が起こり、リアクタのスラリー中にポリマー顆粒が形成される。この反応によって生じる熱を取り除くために、リアクタジャケットのまわりにポンプで冷却水を連続的に圧送し、リアクタの温度を所望の目標値に維持する。最初の2基のリアクタには各々、塊の形成を防ぐ目的でポリマースラリーを連続的に循環させる大きなポンプがある。製品のグレードに応じて、PPには2種類の異なるリアクタ構成モードがある。一方の構成モードでは、2基のリアクタ(RX 1および2)を直列で利用するのに対し、他方のモードには、最初の2基のリアクタと直列に第3のリアクタ(RX 3)が必要である。リアクタから出るポリマースラリーをポンプで分離器まで圧送し、再利用のためにリアクタに戻す前に分離器で未反応のモノマーを除去してモノマー回収システムに送る。ポリマー顆粒についてはドライヤシステムに供給する。ドライヤシステムでは、最後に残った微量のモノマーを取り除き、微量の触媒残渣を水蒸気蒸留し、顆粒を完全に乾燥させる。この乾燥ポリマー顆粒を顆粒システムに送って添加剤と混合し、ペレット化のために2基の押出機に送る。続いて、このポリマーペレットを保管システムまたは積出システムに送る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PPは動的性質が複雑であるため、さまざまな根本的原因から異常なプロセス動作を生じやすいが、これが積み重なって重大な問題に至る可能性があり、ときにはプラントの運転停止を引き起こしてしまうことすらある。これらの動作は、生産損失や設備の破損から、環境排出物、怪我、死に至るまで、安全面および経済面で重要な意味を持つ場合がある。オペレータの主な仕事として、異常な状況の原因を特定し、適時に効率的な方法で補償措置または是正措置を講じることがある。
【0004】
現行の実務では、小さなプロセス外乱が生じたらプロセスを自動的に調節し、中程度から深刻な異常動作の場合には人間によるプロセスへの介入に頼り、極めて深刻な異常動作の場合は自動緊急プロセスシャットダウンシステムを用いる先端的なプロセス制御アプリケーションを使用している。通常、コンソールのオペレータに異常プロセス動作の開始を通知するのにはプロセスアラームが用いられている。これらのアラームは、主要なプロセス測定値(温度、圧力、流量、レベルおよび組成)があらかじめ規定された静的な動作域の組から外れると発せられる。この通知技術では、主要な測定値がPPなどの複雑なプロセスと相関している場合に、誤判定率を低く保ちつつ適時にアラームを発するのが困難である。
【0005】
主要なプロセス測定値には450を超える種類があり、これらが典型的なPPの動作をカバーしている。従来の分散制御システム(DCS)のシステムでは、こうしたセンサの一覧とその傾向をオペレータが俯瞰して、これを自分の頭の中にある正常なPP動作に関する知識と比較して、自らのスキルで潜在的な問題を発見しなければならない。稼働中のPPには膨大な数のセンサがあるため、異常を見落としやすく、簡単に見落とされてしまう。現行のDCSベースのモニタリング技術では、オペレータにとっての唯一の自動検出補助となるのが、所定の限界値から外れた場合に発せられる各センサのアラーム音に基づくDCSアラームシステムである。PPなどの大規模で複雑なプロセスでは、このタイプの通知はオペレータが行動を起こして問題を軽減するにはオペレータの耳に届くのが遅すぎることが多いため、明らかに制約の1つになる。本発明は、PPのオペレータに対して一層効果的な通知を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリマープロセスユニットの異常事象を検出するための方法およびシステムである。好ましい実施形態では、このポリマープロセスは、ポリオレフィンプロセスである。もう1つの好ましい実施形態では、ポリオレフィンプロセスはポリエチレンプロセスまたはポリプロピレンプロセスであるか、これらの組み合わせである。このプロセスでは、既存の異常事象検出(AED)技術を利用するが、グレード切り換えに伴う動作状態の頻繁な変更並びに、ときには異なる製品グレードを製造するためのリアクタ構成の変更によるPPの複雑な動的性質を扱えるように改良してある。この改良には、製品グレードの違いに合わせたモデルの開発、製品グレード切り換え状態の開始を検出するための機構、グレード遷移時間における通知抑制、動作モードおよびリアクタ構成の変更に基づいてオペレータに提示されるモデルの自動切り換えがある。オペレータは依然として同じオペレータインタフェースを利用しているため、モデルの自動切り換えはオペレータには分からない。PPのAEDアプリケーションは、高度に統合された多数の動的プロセスユニットを含む。この方法では、現行の動作を、カバーしているユニットでの正常動作のさまざまなモデルと比較する。ユニットの動作と正常動作との差からプロセスユニットにおける異常状態が示された場合は、その異常状態の原因を判断し、是正措置をとるために関連する情報を効率よくオペレータに提示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、改良された異常事象検出(AED)技術を利用して、PPの各セクションにおける異常状態を早期にオペレータに通知する方法である。この改良としては、製品グレードの違いに合わせた異なるモデルの開発並びに、動作モードおよびリアクタ構成の変更に応じてオペレータに提示されるモデルの自動切り換えがあげられる。オペレータは依然として同じオペレータインタフェースを利用しているため、モデルの切り換えはオペレータには分からない。PPのAEDアプリケーションは、高度に統合された多数の動的プロセスユニットを含む。この方法では、現行の動作を、カバーしているユニットでの正常動作のさまざまなモデルと比較する。ユニットの動作と正常動作との差からプロセスユニットにおける異常状態が示された場合は、その異常状態の原因を判断し、是正措置をとるために関連する情報を効率よくオペレータに提示する。
【0008】
スナップショットに基づくオン/オフ表示だけしか得られないアラーム式の技法とは対照的に、本方法ではファジィ理論を利用して動作上の問題の一因である異常を示す裏付けとなる証拠を複数組み合わせ、その確率をリアルタイムに推定する。この確率は、連続信号としてオペレータに提示されるため、現行の単一センサアラーム式のオン/オフ方法に伴うチャタリングが除去される。オペレータには、問題を完全に調査してその根本的原因まで掘り下げ、的確な措置を講じられるようにする一組のツールが与えられる。この手法を用いると、オペレータは、異常動作についての高度な警告(従来のアラームシステムよりも数分から数時間早い場合がある)を得られることが明らかになっている。こうした早期の通知によって、オペレータは、十分な情報に基づいた上で判断をして、問題の深刻化や事故を回避するための是正措置をとる。この方法はPPにもうまく応用されている。一例として、図27に、ポリ8動作領域での触媒詰まりの問題に対する完全な掘り下げを示す(下位の問題の詳細については後述する)。
【0009】
PPのAEDアプリケーションでは、特定の動作に関する知識の多種多様なソースを利用して、主成分分析(PCA)、バルブ流量モデル(VFM)などの相関に基づく工学モデル或いは、ヒューリスティックモデル(HM)即ちファジィ理論ネットワークにおいて構成される経験豊富なオペレータから収集した具体的な「操作上の経験則」、関連のセンサを監視するためのコントローラモニタリングおよびセンサ一貫性チェック(CM)の表示画面を、ファジィ理論ネットワークを利用して組み合わせる。このファジィ理論ネットワークは、証拠を集約して、潜在的な問題の総合した信頼度のレベルを示す。このため、ネットワークでは、初期の拡大段階でより高い信頼度で問題を検出することができ、オペレータに対して、重大な事故を回避すべく補償措置または是正措置を講じるために必須のリードタイムを与えることができる。これは、DCSシステムからの単一のセンサアラームに基づいてPPを監視する現行の実務に対する主な利点である。PPの複雑かつ高速の動的性質が原因で、オペレータが動作上の問題を軽減するにはアラームが届くのが遅すぎるか、複数のアラームがオペレータに殺到してオペレータを混乱させ、対応を支援するどころか阻害してしまう場合が極めて多い。
【0010】
PPユニットは、設備グループ(主要な機能セクションまたは動作セクションと呼ぶ)に分けられる。これらの設備グループは、その設計に応じて、異なるPPユニットごとに異なっていてもよい。PPユニットの特定のプロセスユニットを含む設備グループを選択する手順を付録1に記載する。
【0011】
好ましい実施形態では、本発明は、ポリプロピレンユニット(PP)の動作を以下の全般的モニタ即ち
1.全般的重合動作(ポリ8動作)
2.全般的ドライヤ動作(ドライヤ8動作)
3.全般的押出機1動作(EX801動作)
4.全般的押出機1動作(EX831動作)
およびこれらの特別関心モニタに分類するものである。
1.流量制御バルブモニタリング(ポリ8制御バルブ)
2.触媒領域警告(ポリ8触媒領域警告)
3.センサチェック(ポリ8センサ)
4.センサチェック(ポリ4センサ)
5.831顆粒領域警告
6.801顆粒領域警告
7.仕上げ4領域警告
【0012】
全般的モニタは、全般的動作に何らかの逸脱があればこれを検出して、多数のセンサをカバーする目的で、「グロスモデル検査」を実行する。特別要注意モニタが潜在的に重大な要注意領域をカバーし、早期検出の的を絞ったモデルで構成される。これらのモニタすべてに加えて、本アプリケーションは、正常/日常の動作事象から生じる通知を抑制し、特別な原因の動作による誤判定を排除するツールなどの、いくつかの実用的なツールを提供するものである。
【0013】
A.オペレータインタフェース
オペレータユーザインタフェースは、オペレータにプロセスの全体像を示すものであり、システムの必須構成要素である。表示は、PP動作の概要をオペレータに素早く提示して、拡大しつつある異常があればその確率を示すことを意図したものである。
【0014】
図24に本システムのオペレータインタフェースを示す。オペレータインタフェースの設計事項に関する詳細な説明については、付録1のセクションIVの「AED用のPCAモデルおよび簡単な工学モデルの配備」セクションのサブセクションIV「オペレータ対話およびインタフェース設計」に記載してある。本インタフェースは上述の異常性モニタで構成されている。これは、各動作領域における重要な異常の表示の一覧を表すために開発された。モデルで得られた結果と主要なセンサの状態とを比較することにより、異常の表示が生成される。ファジィ理論を用いて異常の表示を集約し、ある問題が生じる単一の確率を評価する。各セクションの正常動作に関する特定の知識に基づいて、本発明者らは、センサおよびモデル残差からの入力を取得して、ある問題の確率を評価するためのファジィ理論ネットワークを開発した。図25は、図29に示す対応したファジィ理論ネットワークを用いるポリ8触媒領域での触媒詰まりの問題の確率を示す。図26は、触媒詰まりの問題がポリ8動作領域とポリ8触媒領域の両方の異常性モニタに認められることを示す。図27は、ポリ8動作領域での触媒詰まりの問題の完全な掘り下げを示す。図28は、詰まりの場所を特定するポリ8触媒領域での触媒詰まりの問題の完全な掘り下げを示す。図29は、緑色のノードがポリ8触媒領域での触媒詰まりの問題の最終的な確実性を決定するためにまとめた下位の問題を表すファジィ理論ネットワークを示す。異常状態の推定確率を連続的な傾向として操作チームに提示して、図26に示すような状態の進行状況を示す。これは、各センサの状態を個別にチェックせずにプロセスの健全性の概要を知る上での大きな利点をオペレータにもたらす。更に重要なのは、そのカバー範囲が広く、事象を見逃す可能性が低くなることから、オペレータに「安心感」を与える点である。このため、それは正常性インジケータとしても利用可能である。確率が0.6に達すると問題インジケータは黄色(注意)に変わり、確率が0.9に達するとインジケータは赤色(警告)になる。
【0015】
本発明は、触媒調製、2基のループリアクタ(RX 1および2)と気相リアクタ(RX 3)とを含むリアクタ、モノマーガス再利用システム、再利用ガスコンプレッサ、ドライヤ、顆粒領域並びに、押出機801領域および押出EX831領域を含む2つの押出機システムの領域をカバーするために、5種類の主成分分析(PCA)モデルを含む。PCAモデルのカバー範囲は、異なるプロセシングユニットの相互作用に基づいて決定されたものであり、各モデルはこれを考慮するために重なり合うセンサを有する。触媒調製、リアクタ、モノマーガス再利用システム、再利用ガスコンプレッサには、有意な相互作用があるため、これらの領域を組み合わせて「ポリ8動作」と呼ぶ。PPには、異なる製品グレードを生成すべく2つのリアクタ構成モードを用いる2つの異なる動作状態がある(一方のモードでは2基のリアクタを直列に利用し、他方のモードでは3基のリアクタを直列に利用する)ため、これらの2つのモードに対処するための2つのPCAモデルが必要である。しかしながら、ポリ動作を支えるべく同時にオンラインになるのは1つのPCAモデルだけである。この場合、ファジィ理論ネットワークを利用して、オンラインのPCAモデルを適切なモデルに自動的に切り換える。図30は、切り換え開始を自動的に検出し、ポリ8動作の背景にあるオンラインPCAモデルを切り換えるよう設計されたファジィ理論ネットワークを示す。第3のPCAモデルでは、ドライヤと顆粒領域を組み合わせて、「ドライヤ8動作」を表す。第4および第5のPCAモデルは、「EX801動作」と「EX831動作」の表示を付した2つの押出領域を表す。加えて、重大な事象に発展する恐れがある状態を監視することを意図した多くの特別要注意モニタが存在する。その目的は、オペレータが措置のための十分なリードタイムを持てるよう、早期に問題を検出することである。
【0016】
正常動作下では、オペレータは供給量の変更やセットポイントの移動など、PCAモデルのいくつかのセンサに持続時間の短い高残差を生じ得るいくつかの日常的な作業を実行する。このような通知は冗長であり、新たな情報を与えるものではないため、本発明にはその開始を検出して通知を抑制するための機構を組み込んである。PPの日常の動作の一環として、製品グレードの切り換えが極めて頻繁になされ、これによってPPが極めて高速な動的プロセスになる。製品グレードファミリ内に、リアクタ構成の変更を必要としないグレード切り換え(フラインググレード切り換えと呼ばれる)がある。この場合、オペレータは、いくつかの主要な製品−品質コントローラに対して大きなセットポイントの変更を行って、PPを新たな動作状態に向けることができる。遷移状態では、いくつかのセンサに高残差が生じるため、異常状態が示される。既存のAED通知−抑制機構では、グレード切り換えに対処できなかったため、改良をほどこした。この改良には、グレード切り換えの開始を検出し、グレード切り換え状態を設定するための機構が含まれる。次に、グレード切り換え状態を一定の時間ラッチして、プロセスの遷移時間であることを示す。この遷移時間のあいだは、既存の機構を使って通知を抑制し、邪魔な警告がオペレータに殺到するのを回避する。これは、オペレータはすでに状態の変化を認識しており、PPをすでに厳重に監視しているためである。しかしながら、遷移時間のあいだもAEDはPCAモデルのパラメータを更新しつづけ、PPが新たな定常状態に達したらAEDからの通知を再開する。図31は、グレード切り換えの自動検出および遷移時間の設定のための追加されたファジィネットワーク理論を示す。また、リアクタ構成の変更を必要とする(リアクタ2基のモードからリアクタ3基のモード並びに、その逆)製品グレード切り換えもある。このAED通知抑制の改良は、この場合の抑制にも対処する。
【0017】
オペレータは、色が緑色から黄色に、次いで赤に変化する警告用の三角形によって、差し迫った問題について知らされる。本アプリケーションは、優先順位付けされた下位の問題の一覧を参照することにより、問題を更に調べていく掘り下げ能力をオペレータに提供するものである。この新規方法は、下位の問題に対する掘り下げ能力をオペレータに提供するものである。これによって、オペレータは根本的原因の探索結果を絞り込むことができ、すぐにでも補償措置または是正措置を講じることができるように状態の根本的原因の分離と診断が支援される。すでに図27に示したように、オペレータが下位の問題まで掘り下げるために赤の三角形をクリックすると、逸脱しているセンサを逸脱の度合いでソートした残差を示すパレート図が表示される。
【0018】
本アプリケーションは、パレート図方式を極めて広範囲に用いてオペレータに対して情報を示す。一連の提示は、正常動作を基準にした個々の逸脱について降順になされている。このようにすることで、少数の重大な不良要因まで絞り込まれたプロセスを簡潔かつ手短に見られるようになるため、コンソールのオペレータは講じるべき措置について情報に基づく判断をすることができる。図32に、パレート図として構成されたセンサのリストを通じてこの機能を示す。個々のバーをクリックすると、センサのタグ傾向対モデル予測を示すカスタムプロットが作成される。また、オペレータは「マルチ傾向ビュー」を用いて問題センサの傾向を見ることができる。たとえば、図33に、図32のパレート図におけるセンサの値の傾向とモデル予測を示す。図34は、同じ概念を、今度は正規化された射影偏差誤差に基づいて、バルブ−流量モデル(VFM)のランキングに適用したものを示す。この場合、バーをクリックすれば、正常動作の境界(図35)に照らした現在の動作点を示すX−Y散布図が生成される。
【0019】
PCAモデルに加えて、VFM、コントローラモニタリング(CM)、センサチェック(SC)およびヒューリスティックモデル(HM)などの工学関係を用いて構築された多くの特別要注意モニタがある。VFMはポリ8制御バルブの重要な設備をカバーする。HMは、ポリ8触媒、801顆粒、831顆粒および仕上げ4領域での重要な設備の詰まりの問題をカバーする。CMおよびSCは、ポリ8センサチェック領域およびポリ4センサチェック領域での重要なコントローラおよびセンサをカバーする。これらのモニタの基礎として、各領域で単一の異常信号を生成するファジィ理論ネットワークがある。図36は、コントローラモニタおよびセンサチェックのための掘り下げを示す。図37は、コントローラモニタおよびセンサチェックのためのファジィ理論ネットワークを示す。図38は、ヒューリスティックモデルのための掘り下げを示す。図39は、ヒューリスティックモデルのためのファジィ理論を示す。
【0020】
要約すれば、本発明の利点には以下のものが含まれる。
1.既存の異常事象検出(AED)技術を改良して、グレード切り換えによる動作状態の頻繁な変更にうまく対処し、ときには、異なる製品グレードを製造するためのリアクタ構成の変更にうまく対処すること。
2.監視のため、PP動作全体を11の動作領域即ち、重合リアクタ、ドライヤ、押出EX831、押出EX801、ポリ8流量制御バルブ、ポリ8触媒調製、ポリ8センサ、831顆粒、801顆粒および仕上げ4へ分解すること。
3.PP全体の動作状態を11の単一警告にまとめること。
4.PCAモデルが、モデルによりカバーする450を超えるセンサのモデル予測を提供すること。
5.これらのセンサの異常な逸脱を、5つのPCAモデルの二乗誤差の和に基づいて5つの警告にまとめること。
6.バルブ−流量モデルが、制御行為に影響するため不調の源であるかまたはその影響を受ける制御ループを監視する有効な方法を提供すること。
7.ポリ8触媒、801顆粒、831顆粒および仕上げ4領域での重要な設備の詰まりの問題をカバーするヒューリスティックモデルにより、改善された集約的かつ早期の検出機能が加わること。
8.コントローラモニタおよびセンサチェックにより、主要なプロセス変数のための改善された集約的かつ早期の検出機能が加わること。
9.特別な原因/日常の動作から生じる事象が抑制されて、誤判定が排除される。450を超える個別タグから、ちょうど12の信号に規模を大幅縮小することで、誤判定率が大幅に低下する。PCAモデリング方式は本質的に、単一センサアラームの問題を洗練された方法で解決する。
【0021】
B.PP用AEDモデルの開発と配備
本アプリケーションは、PPにおける異常動作を検出するために、PCAモデル、工学モデルおよび発見的方法を有する。第1ステップは、要注意ユニットの動作上の履歴的な問題を分析することを含む。この問題識別ステップは、アプリケーションの範囲を定める上で重要である。
【0022】
これらのモデルの開発について、付録1に概略的に示す。PPユニットのこれらのモデルの構築に関する具体的な要注意事項のうちのいくつかを以下に述べる。
【0023】
問題の識別
アプリケーション開発の第1ステップは、プロセス動作の利点となる重要な問題を識別することである。異常事象検出アプリケーションは一般に、2種類の問題に適用可能である。1つは、何らかの異常事象を求めてプロセス領域全体を監視する汎用的な異常事象アプリケーションである。このタイプでは数百の測定値を用いるが、特定の異常動作の履歴的な記録を一切必要としない。アプリケーションは、異常事象を検出して、これをプロセスの一部(タグ)に紐付けるだけである。問題の診断には、オペレータまたはエンジニアのスキルを必要とする。
【0024】
第2のタイプは、特定の異常動作に着目する。このタイプでは、異常性が検出されたら特定の診断を出す。一般に、これには少数(5〜20)の測定値しか含まれないが、事象の履歴データの記録が必要である。これらのモデルは、PCAに基づくものであってもよいし、上流/下流圧力、流量測定値およびバルブ出力などの流量制御バルブ周囲のセンサの履歴データに基づいて構成される、壊れた(broken)相関または範囲外の動作についてのメインプロセス流量バルブを監視するバルブ流量(VF)モデルなどの単純な工学的相関であってもよい。ヒューリスティックモデル(HM)は、経験豊富なオペレータから収集した具体的な「操作上の経験則」であり、これらの経験則から外れる状況を識別するためにファジィ理論ネットワークで構成される。コントローラモニタリング(CM)およびセンサチェック(SC)は、コントローラまたはセンサの性能を監視して、機能停止した機器、コントローラの故障または読み値が極めてばらついている機器を検出する。本発明では、広い範囲をカバーする目的で上記のモデルを利用する。オペレータまたはエンジニアは、自らのプロセス知識/専門性に原因を頼って正確に診断する。一般に、事象の大半は主に、機器やバルブに問題が生じた結果であるように見える。
【0025】
異常事象検出の問題を選択する際に、以下の問題の特性を考慮すべきである。異常がめったに起こらない(3〜4ヶ月ごと)ため、異常事象検出器を作る手間を正当化できない。また、特定の異常性が3〜4ヶ月ごとにしか発生しない場合、オペレータ各人からすれば数年間にわたってその事象を見ない可能性もある。その結果、その事象が起こったとしても、オペレータはどう対処すべきかわからない恐れがある。このため、問題の識別を広範囲に実施して、オペレータが定期的にアプリケーションと対話するようにする必要がある。
【0026】
問題を特定しようとするとき、異常事象検出のアプリケーションを正当化できるだけの十分な数の異常事象が存在しないとの誤った印象を現場担当者から受けるのが一般的である。一般に、異常事象がプロセスに対して影響を及ぼす頻度は過小評価されがちである。その理由は以下の通りである。
・異常事象の記録と分析がなされないことが多い。重大な損失が生じた事象だけが追跡および分析される。
・オペレータは毎日これらを取扱うため、異常事象も正常動作の一部と見なしがちである。
【0027】
定期的に繰り返し発生する異常事象が存在しない限り、アプリケーションは異常事象を定期的に(週5回を超えるなど)「見る」ためにプロセスの十分に大きな部分を包含している必要がある。
【0028】
I.PCAモデル
PCAモデルは、PP AEDの中核である。PCAは、実際のプロセス変数を、元の変数の一次結合である主成分(PC)と呼ばれる一組の「直交」または独立変数に変換する。背景にあるプロセスには、プロセスに影響する特定の単独作用を表す多くの自由度があることが観察されている。これらの異なる単独作用は、プロセス変動としてプロセスデータに出現する。プロセス変動は、供給量の変更などの意図的な変更または周囲温度の変動などの意図しない外乱に起因する場合がある。
【0029】
各々の主成分は、当該プロセスに対するこれらの異なる独立した影響によって生じたプロセス変動性の一意な部分を捕捉する。主成分は、プロセス変動が減少する順序で抽出される。後続する各々の主成分は、全体としてのプロセス変動性のうち、より小さい部分を捕捉する。主要な主成分は、プロセス変動の背景にある重要な発生源を表すものでなければならない。一例として、プロセスの変更に至る最も大きな単一の原因は通常、供給量の変更であるため、第1の主成分が供給量変更による効果を表すことが多い。
【0030】
アプリケーションは、プロセスの主成分分析(PCA)に基づくものであるが、これは「正常動作」の経験的モデルを生成する。PCAモデルの構築プロセスについては、付録1の「AED用PCAモデルの開発」セクションに詳述してある。以下、ポリマープロセス用の異常事象検出アプリケーション構築にPCAを適用する場合に必要な特別な検討事項について述べる。
【0031】
PP PCAモデルの開発
PPのために開発されたPCAモデルは5つある。2つのリアクタ構成モードをカバーするためのポリ8動作の背景にある2つのPCAモデルがポリ8_TCRとポリ8_ICPである。これらの2つのPCAモデルは、触媒調製、リアクタ、モノマーガス再利用システムおよび再利用ガスコンプレッサにセンサを含む。これらのシステム間に有意な相互作用があるためである。ポリ8_TCR PCAモデルは、最初の321のタグセットで開始され、155のタグまで洗練された。ポリ8_ICP PCAモデルは最初の414のタグセットで開始され、200のタグまで洗練された。ドライヤ8モデルは、ドライヤおよび顆粒領域での最初の76のタグセットで開始され、37のタグまで洗練された。EX801モデルは、押出1領域をカバーするのにタグが43から25まで狭められた。EX831モデルは、押出2領域をカバーするのにタグが43から25まで狭められた。ポリ8_TCR PCAモデルの詳細を付録2Aに示し、ポリ8_ICP PCAモデルを付録2Bに、ドライヤ8 PCAモデルを付録2Cに、EX801 PCAモデルを付録2Dに、EX831PCAモデルを付録2Eに示す。このようにすることで、PP動作全体を広範囲にわたってカバーし、早い段階で警告をすることができる。
【0032】
PCAモデルの開発は以下のステップを含む。
1)入力データおよび動作域の選択
2)履歴データの収集と前処理
3)データおよびプロセスの分析
4)初期モデルの生成
5)モデルの試験および調整
6)モデルの配備
【0033】
PCAモデルの構築に関する一般的な原理を、付録1の「AED用PCAモデルの構築」セクションのサブセクションI「概念的PCAモデルの設計」に述べる。これらのステップはモデル開発における試みの中心をなす。PCAモデルはデータ駆動式であるため、正常動作を表す訓練データの品質および量が良好であることが極めて重要である。基本的な開発戦略は、極めて粗いモデルから出発し、このモデルの忠実度を次第に改善していくことである。これには、モデルが実際のプロセス動作にどの程度匹敵するかを観察し、これらの観察結果に基づいてモデルを再訓練することが必要である。そのようなステップについて、次に簡潔に述べる。
【0034】
入力データおよび動作域の選択
PCAモデルのタグの一覧がカバー範囲を表すため、要注意領域のすべてのタグを含む包括的な一覧から出発する。測定値および変数を選択するプロセスを、付録1の「AED用PCAモデルの構築」セクションのサブセクションII「入力データおよび動作域の選択」に概説しておく。信頼できないまたは誤った振る舞いを示すことがわかっている測定値はすべてリストから除外しておく必要がある。最初のPCAモデルが得られたら、反復的な手順で測定値が更に削減される。PPのための入力データの選択をめぐっての特別な要注意事項は、2基のリアクタでの構成モードを取り扱うためのタグリストの開発である。3−リアクタモードのタグリストには、3基のリアクタすべての動作をカバーするタグが含まれるが、2−リアクタモードのタグリストには、2基のリアクタのためのタグが含まれる。PPの動作域の選択をめぐる具体的な要注意事項は、すべての製品グレードのプロセス動作状態をカバーする範囲になるようにすることである。
【0035】
履歴データの収集と前処理
正常動作の良好なモデルを開発するには、正常動作の訓練データセットが必要である。このデータセットは以下のようでなければならない。
・正常動作範囲にわたる
・正常動作データだけを含む
【0036】
ある拠点で異常事象の履歴の完全な記録を有していることは極めて稀であるため、履歴データは訓練データセットを生成する出発点としてしか利用できない。オペレータのログ、オペレータ変更ジャーナル、アラームジャーナル、機器の保守記録などの操作記録は、異常プロセス履歴の部分的な記録となる。データ収集のプロセスを、付録Iの「AED用PCAモデルの開発」セクションのサブセクションIII「履歴データの収集」に詳述してある。
【0037】
PPの場合、履歴データは、あらゆる製品グレードの製造並びに夏期と冬期の両期間をカバーするために1.5年分の動作にわたっている。1分ごとにデータの平均を取ったところ、各々のタグについて時点数が約700,000を超えることがわかった。背景にある情報を保持したまま、データセットをより一層取り扱いやすくするために、タグリストをデータ収集と分析用にタグの2つのサブセットに分ける。
【0038】
内部に含まれる変動/情報を判定する目的で、すべてのタグについて、平均、最小/最大および標準偏差などの基本的統計量を計算した。また、動作ログを調べて、既知のユニット停止または異常動作を有するウィンドウに含まれるデータを除外した。候補となる各々の測定値を精査して、訓練データセットに含める際の適正性を判断した。
【0039】
バランスのよい訓練データセットの生成
動作ログを使用して、履歴データを、既知の異常動作が生じた期間と、異常動作が確認されなかった期間とに分ける。異常動作が確認されなかったデータが予備の訓練データセットとなる。PPの場合、動作ログを検討して、各製品グレードを製造した時間枠を判断した。次に、履歴データセットをグレードファミリごとに分けて保存する。各グレードファミリのデータセットを更に、既知の異常動作が生じた期間と異常動作が確認されなかった期間を除外するよう分析する。
【0040】
これらの除外を実施した後、各グレードファミリについて第1の粗いPCAモデルを構築する。これは極めて粗いモデルになるため、保持される主成分の正確な数は重要ではない。これは、モデルに含まれる測定値の個数の5%以下とする。PCの数は、最終的にプロセスの自由度の数に一致しなければならないが、これはプロセス外乱の異なるすべての発生源を含むため、通常は未知である。主成分をいくつ含めるかを判断するための標準的な方法がいくつか存在する。また、この段階で、可変スケーリングへの統計的なアプローチを用いるべきである。即ち、すべての変数をユニット分散に応じてスケーリングする。
【0041】
ここで、訓練データセットをこの予備モデルに通して、データがモデルに一致しない時間枠を識別しなければならない。これらの時間枠を調べて、その時点で異常事象が生じていたか否かを知る必要がある。生じていたと判定された場合、これらの時間枠には、既知の異常事象が生じている時間としてフラグを立てなければならない。これらの時間枠を訓練データセットから除外して、修正されたデータでモデルを再構築する必要がある。データおよびプロセス分析を用いてバランスのよい訓練データセットを生成するプロセスを、付録1の「AED用PCAモデルの開発」セクションのセクションIV「データおよびプロセス分析」に概説してある。
【0042】
初期モデルの生成
モデル開発戦略は、極めて粗いモデル(疑わしい訓練データセットの結果)から出発し、このモデルを用いて高品質の訓練データセットを収集することである。更に、このデータを用いてモデルを改良し、そのモデルを用いて更に品質のよい訓練データを収集し続ける。このプロセスを、モデルが満足すべき状態になるまで繰り返す。
【0043】
特定の測定値が選択され、訓練データセットが構築されたら、標準的な統計ツールを用いて短時間でモデルを構築することができる。各々の主成分により捕捉された分散率をパーセントで示す、このようなプログラムの例を図42に示す。
モデル構築プロセスについては、付録1の「AED用PCAモデルの開発」セクションのセクションV「モデルの生成」に記載しておく。
【0044】
モデルの試験および調整
初期モデルを作成後、新たな訓練データセットを作ることでこのモデルを強化する必要がある。これは、作成したモデルを用いてプロセスを監視することにより行われる。モデルが異常状況の可能性を示したならば、エンジニアがプロセス状況を調べてこれを分類する必要がある。エンジニアは3種類の異なる状況即ち、何らかの特別なプロセス動作が生じている、実際に異常な状況が生じている、或いは、プロセスは正常なのに表示が誤っているという、いずれかを見い出すことになろう。
【0045】
プロセスデータは、ガウス分布または正規分布をなさないであろう。このため、残余誤差の変動性から異常事象を検出するためのトリガを設定する標準的な統計方法を用いるべきではない。その代わりに、モデルの使用経験に基づいて経験的にトリガ点を設定する必要がある。付録1の「AED用PCAモデルの開発」セクションのセクションVI「モデルの試験および調整」にモデルを試験して強化する手順を記述してある。
【0046】
PCAモデルの配備
プロセスユニットにAEDをうまく配備するには、精密なモデルと、上手に設計されたユーザインタフェースと、適切なトリガ点とを組み合わせる必要がある。PCAモデルを配備する詳細な手順については、付録1の「AED用PCAモデルおよび単純な工学モデルの配備」に記述しておく。
【0047】
時間の経過につれて、開発者または拠点のエンジニアが、モデルのうちの1つを改善する必要があると判断する場合がある。プロセスの状態が変化したか、モデルが誤った表示を示しているかのいずれかである。この場合、訓練データセットを別のプロセスデータで拡張し、改良されたモデル係数を得ることができよう。トリガ点については、上述したものと同じ経験則を用いて再計算可能である。
【0048】
もう現在のプロセス動作を適切に表現していない古いデータについては、訓練データセットから削除しなければならない。特定のタイプの動作がもう実行されていない場合、その動作からのすべてのデータを削除しなければならない。大きなプロセス改良の後では、訓練データおよびAEDモデルを最初から作り直す必要があるかもしれない。
【0049】
PCAモデルに加えて、重大な事象に発展しかねない状態を監視することを意図した多数の特別要注意モニタがある。これらのモニタは、バルブ流量モデル(VFM)、コントローラモニタリング(CM)およびセンサチェック(SC)などの単純な工学相関或いは、経験豊富なオペレータから収集した具体的な「操作上の経験則」(ヒューリスティックモデル−HM)に基づいて開発された。
【0050】
II.他のPP AEDモデル
工学モデルの開発
工学モデルは、異常状態の特定の検出に的を絞った相関に基づくモデルで構成されている。工学モデルの構築に関する詳細な説明は、付録1の「AED用の単純な工学モデル」セクションに見られる。
【0051】
PPアプリケーションの工学モデル要件は、履歴プロセスデータの工学的評価と、コンソールのオペレータと設備の専門家へのインタビューを実施することにより決定された。工学的評価は、PP動作の重大な要注意事項の領域および最悪のケースのシナリオを含んでいた。工学的評価の結論について述べるために、PP AEDアプリケーション用に以下の工学モデルを開発した。
・バルブ−流量モデル(VFM)
・コントローラモニタ(CM)
・センサチェック(SC)
【0052】
流量−バルブ位置整合性モニタは、測定された流量(バルブ全体の降圧に関して補償)を流量のモデル推定と比較して導かれた。プロセスにおいて制御ループの状態が直接監視されているため、これらは強力なチェック方法である。流量のモデル推定は、係数をバルブ曲線の式(線形または放物線と仮定される)にフィットさせることで、履歴データから得られる。PP AEDアプリケーションでは、20の流量/バルブ位置整合性モデルが開発された。モノマー流量バルブの一例を図35に示す。履歴的に信頼できない性能を示した流量制御ループについても、いくつかのモデルが開発された。バルブ流量モデルの詳細を付録3Aに示してある。
【0053】
バルブ−流量モデルの不一致に加え、値の超過量を用いて、制御バルブが制御可能な範囲を超えている旨をオペレータに通知する別のチェック方法がある。図41にファジィネットワークの両構成要素を示し、値超過量の例を図40に示す。
【0054】
長期のセンサドリフトを補償するために、モデル推定に時間依存ドリフト項を追加した。オペレータはまた、センサを再較正した後または手動でバイパスバルブが変更された場合に、ドリフト項のリセットを要求することができる。流量推定装置をこのように改良したことで、オンライン検出アルゴリズム内の実装の堅牢性が大幅に向上した。
【0055】
コントローラモニタ(CM)およびセンサチェック(SC)は、履歴データを分析し、単純な工学計算を適用して導かれた。CMのモデルは、測定値が極めて低SDとなった場合に機能停止した機器を、測定値が高いSDとなった場合は極めてさまざまに変わる機器を検出するための標準偏差(SD)の計算から導かれた。CMに対する他の計算として、測定値がセットポイントに達することなく、セットポイントと交差もしない時間の長さの累計並びに、コントローラの故障を検出するための測定値とセットポイントとの偏差の累計があげられる。SCのモデルは、測定値間の関係について履歴データを分析して得られた。コントローラまたはセンサの状態が直接監視されてモデルと比較されるため、これらは強力なチェック方法である。測定値の相関の詳細を付録3Bにあげておく。下位の問題まで掘り下げた異常モニタを図36に示す。ファジィネットワークの構成要素を図37に示す。
【0056】
ヒューリスティックモデル(HM)は、経験豊富なオペレータから収集した特定の「操作上の経験則」である。これらのモデルは、これらの経験則から外れる状況を識別する。一例として、詳細を付録3Cに示す潜在的なラインの詰まりの問題を検出するための801顆粒領域プロセス変数の監視がある。下位の問題まで掘り下げた異常モニタを図38に示す。ファジィネットワークの構成要素を図39に示す。
【0057】
工学モデルおよびヒューリスティックモデルの配備
AED内で工学モデルを実装するための手順は相当に直接的である。計算モデル(VFM、CMおよびSCなど)の場合、通知のトリガ点は、まずモデル残差の標準偏差から導かれた。ユニット内の特定の既知のタイプの挙動(ポリ8触媒、801顆粒領域、831顆粒領域および仕上げ4領域の動作など)を識別するヒューリスティックモデルの場合、通知のトリガ点については、履歴データの分析結果にコンソールのオペレータからの入力を組み合わせて判断した。動作の最初の数ヶ月間、AEDの既知の表示はオペレータにより確認され、トリガ点が適切であることが保障され、必要に応じて変更された。付録1のセクション「AED用のPCAモデルおよび簡単な工学モデルの配備」に工学モデルの配備に関する詳細を記載してある。
【0058】
特定の状況下では、バルブ/流量診断により、オペレータに冗長な通知が行く可能性がある。そこで、バルブ/流量診断にモデル抑制を適用して、バルブ/流量の対に生じた問題に対する単一の警告がオペレータに届くようにした。
【0059】
C.AEDの追加ツール
円滑な日常のAED動作を容易にするために、AEDモデルを保守して実際の要注意事項への対応を支援するためのさまざまなツールが提供される。
【0060】
事象抑制/タグ無効化
正常動作下で、オペレータは日常のさまざまな操作(セットポイントの変更、保守中のタグおよびポンプスワップ(pump swap))を実施する。これらの動きの結果、センサによっては持続時間の短い高残差を生じる場合がある。実用上、AEDモデル側でこうした変更にまだ気付いていないのであれば、異常信号が出される可能性がある。こうした通知は冗長であり、新たな情報を与えるものではないため、本発明にはその開始を検出して事象通知を抑制するための機構を組み込んである。事象通知を一時的に抑制する目的で、ファジィネットは状態チェックを利用し、特定のタグを抑制する。他の状況では、PCAモデル、バルブ流量モデルおよびファジィネットのタグを特定の時間枠の間だけ一時的に無効にすることも可能である。ほとんどの場合、オペレータが再起動するのを忘れないように、再起動を12時間後に設定している。タグが長時間にわたってサービスから除外されている場合、これを無効化することもできる。PPでの日常の動作の場合、製品グレードの切り換えが極めて頻繁になされる。製品グレードファミリ内に、リアクタ構成の変更を必要としないグレード切り換え(フラインググレード切り換えと呼ばれる)がある。この場合、オペレータは、いくつかの主要な製品−品質コントローラに対して大きなセットポイントの変更を行って、PPを新たな動作状態に向けることができる。遷移状態では、いくつかのセンサに高残差が生じるため、異常状態が示される。こうしたグレード切り換えに対処できるように、既存のAED通知−抑制機構に改良をほどこした。この改良には、グレード切り換えの開始を検出し、グレード切り換え状態を設定するための機構が含まれる。次に、グレード切り換え状態を一定の時間ラッチして、プロセスの遷移時間であることを示す。この遷移時間のあいだは、既存の機構を使って通知を抑制し、邪魔な警告がオペレータに殺到するのを回避する。遷移時間のあいだもAEDはPCAモデルのパラメータを更新しつづけ、PPが新たな定常状態に達したらAEDからの通知を再開する。図31は、グレード切り換えの自動検出および遷移時間の設定のためのファジィ理論ネットワークを示す。また、リアクタ構成の変更を必要とする(リアクタ2基のモードからリアクタ3基のモード並びに、その逆)製品グレード切り換えもある。このAED通知抑制の改良は、この場合の抑制にも対処する。現在抑制されている事象のリストを図43に示す。
【0061】
事象の詳細のログ取得
上述のようなシステムから最大の利点を引き出すには、オペレータを訓練して、AEDシステムを日常的な業務プロセスに組み込むことが必要である。是正措置を講じる最終的な権限は依然としてオペレータにあるため、AEDの性能および強化について彼らに入力させることが重要である。AED事象の詳細を体系的に捕捉して精査し、フィードバックさせるために、オペレータにAED事象の書式が提示された。これは、事象の記録を維持して、AEDの利点を評価するのに役立った。AEDが稼動した時点から、いくつかの重大な事象が捕捉されて、操作担当者向けに文書化された。サンプル書式を図44に示す。
【0062】
別の解決策のほうがよい場合−繰り返し起こる事象のための是正措置
繰り返し起こる特定の問題が識別されたら、開発者はその問題を解決するための、よりよいプロセスが存在しない旨を確認しなければならない。特に、開発者は異常事象検出アプリケーションを構築しようとする前に以下の点を確認しなければならない。
・問題を永久に解決することができるか?往々にして、現場担当者が問題を調査して永久に解決するだけの十分な時間をとれなかったがために問題が存在する。この問題に組織の関心が向くと、永久的な解決策が見つかる場合が多い。これが最善のアプローチである。
・問題を直接測定することができるか?問題を検出するためのより信頼性の高い方法は、このプロセスにおける問題を直接測定できるセンサを設置することである。これを用いて、プロセス制御アプリケーションを介して問題を防止することも可能である。これが次善のアプローチである。
・異常動作に対するアプローチを測定する推論的測定法を開発することができるか?推論的測定法は、PCA異常事象モデルに極めて近い。問題の状態に対するアプローチを信頼できる形で測定するのに利用可能なデータ(デルタ圧力を用いるタワーフラッディングなど)が存在する場合、これを状態がいつ存在するかの検出だけでなく、状態が生じるのを防止する制御アプリケーションの基礎としても用いることができる。これが3番目によいアプローチである。
【0063】
異常事象検出アプリケーションはアラームシステムの代わりにならない
プロセス問題が急に生じる場合は常に、アラームシステムが異常事象検出アプリケーションと同程度に速く問題を識別する。オペレータが原因を診断するのを支援する上で、事象のシーケンス(測定値がいつもと違う形になる順序など)がアラームの順序よりも役に立つ場合がある。アプリケーションがオンラインになったら、この可能性を調べるべきである。
【0064】
しかしながら、異常事象がゆっくりと(15分を超える)拡大する場合、異常事象検出アプリケーションはオペレータに高機能の注意喚起を与えることができる。これらのアプリケーションはプロセスデータのパターンの変化に感応するものであり、単一の変数の大きな変動を必要としない。このため、アラームを回避することができる。プロセスが狭い動作領域から逸脱した場合にアラームシステムからオペレータに対してアラームを発する(真の安全アラームではない)ように構成されている場合、本アプリケーションでこれらのアラームの代わりをすることが可能である。
【0065】
異常事象の存在を検出するだけに加えて、AEDシステムはまた、オペレータが事象を調査できるよう逸脱したセンサを切り離す。現代のプラントには数千個のセンサがあり、人間がそのすべてをオンラインで監視することは不可能なことを考慮すれば、これは重要な利点である。このように、AEDシステムは、異常な状況を効率的かつ効果的に取り扱うためのオペレータツールキットに対するもう1つの強力な付加機能とみなせるものである。
【0066】
付録1
さまざまな規模の事象や外乱が常にプロセス動作に影響している。ほとんどの場合、これらの事象や外乱はプロセス制御システムにより対処される。しかしながら、プロセス制御システムがプロセス事象に適切に対処できない場合は常に、オペレータがプロセス動作に対して想定外の介入をする必要がある。本発明者らは、この状況を異常動作と定義し、その原因を異常事象と定義する。
【0067】
異常動作を検出して、オペレータが根本的原因の場所を切り離すのを支援するのに用いられるモデルの組を生成してオンライン配備するための方法論およびシステムが開発されている。好ましい実施形態では、モデルは主成分分析(PCA)を用いる。これらのモデルの組は、既知の工学関係を表す簡単なモデルと履歴データベースに存在する正常なデータパターンを表す主成分分析(PCA)モデルの両方で構成されている。これら多くのモデル計算の結果が組み合わされて、プロセスが異常動作に入りつつあるか否かをプロセスオペレータが容易に監視できるようにする少数の概略時間傾向となる。
【0068】
図1に、オンラインシステムにおける情報が、プロセス領域の正常性/異常性を示す概略指標に至るまでに、さまざまな変換、モデル計算、ファジィペトリネットおよび整理統合を経てどのように流れるかを示す。本システムの核心は、プロセス動作の正常性を監視するために用いるさまざまなモデルである。
【0069】
本発明に記載するPCAモデルは、連続的な精製および化学プロセスを広範に監視し、設備およびプロセスにおいて生じつつある問題を迅速に検出することを目的とする。その意図は、特定のコンソールのオペレータポストの責任権限の下で、すべてのプロセス設備およびプロセス動作の包括的な監視機能を提供することである。これには、数百から数千のプロセス測定値を有する多くの大規模な精製または化学プロセス動作ユニット(蒸留塔、リアクタ、コンプレッサ、熱交換トレインなど)を含み得る。監視機能は、長期にわたる性能低下ではなく、数分から数時間の時間尺度で広がる問題を検出するように設計されている。プロセスおよび設備の問題は事前に特定されている必要がない。これは、文献に引用されている、特定の重要なプロセス問題を検出してプロセス動作のはるかに小さい部分をカバーするよう構築されたPCAモデルを利用するのとは対照的である。
【0070】
この目的を達成するために、PCAモデルを開発して配備する方法は、以下を含む連続的な精製および化学プロセスへのそれらのアプリケーションのために必要とされる多くの新規な機能拡張を含んでいる。
・測定値入力を選択、分析、変換するためのPCAモデル基準および方法の設備範囲を確立するための基準
・PCA、主成分モデルの変動に基づく多変数統計モデルの開発
・付随する統計指標を再構成する単純な工学関係に基づくモデルの開発
・例外計算および連続的なオンラインモデル更新を提供するオンラインデータの前処理
・ファジィペトリネットを用いた、モデル指標が正常か異常かの解釈
・ファジィペトリネットを用いた、多数のモデル出力の、プロセス領域の正常性/異常性を示す単一の連続的な概略傾向への組み合わせ
・操作および保守作業を反映させるため、モデルおよびファジィペトリネットとのオペレータの対話設計。
【0071】
これらの拡張は、PCAおよび単純な工学モデルを効果的に用いることができるように、連続的な精製および化学プラントの操業の特徴並びに、対応するデータの特徴を扱うために必要である。これらの拡張によって、タイプIおよびタイプIIの誤りの多くを防止し、異常事象をより速く示すという利点が得られる。
【0072】
このセクションでは、PCAの一般的な背景については説明しない。これについては、非特許文献2などの標準的なテキストを参照されたい。
【0073】
古典的なPCAの手法では以下の統計的な仮定をするが、いずれも正常で連続的な精製および化学プラントのプロセス動作から生成されるデータによって、ある程度は仮定から外れる。
1.プロセスは静的である。その平均および分散は、時間に対して一定である。
2.変数同士の相互相関は、正常なプロセス動作の範囲にわたって線形である。
3.プロセスノイズの確率変数は相互に独立している。
4.プロセス変数の共分散行列は縮退していない(即ち半正定値)。
5.データは、「適切に」スケーリングされる(標準的な統計手法は単位分散へのスケーリング)。
6.(未補償の)プロセスダイナミクス(このための標準的な部分補償は当該モデルの遅延変数を包含すること)が存在しない。
7.すべての変数がある程度の相互相関を有する。
8.データは多変数正規分布を示す。
【0074】
その結果、入力の選択、分析および変換並びに、これに続くPCAモデルの構築にあたって、外れる度合いを評価して補償するためさまざまな調整が実行される。
【0075】
これらのPCAモデルをオンライン配備したら、モデル計算には、既知の動作および保守作業による影響を排除し、不成功または「不正な動作をしている」入力を無効にし、プロセスを通じた事象の伝播をオペレータが観察して承認することを可能にし、プロセスが正常に戻ったら自動的に計算を再開するために、特定の例外処理が必要になる。
【0076】
PCAモデルの利用は、正常動作の間は真でなければならない既知の工学関係に基づく単純な冗長性チェックによって補われる。これらは、物理的に冗長な測定値をチェックするような単純なものであってもよいし、物質収支バランスおよび工学収支バランスをチェックするような複雑なものであってもよい。
【0077】
冗長性チェックの最も簡単な形態は、たとえば以下のような簡単な2×2チェックである。
・温度1=温度2
・流量1=バルブ特性曲線1(バルブ1の位置)
・プロセスユニット1への物質流量=プロセスユニット1からの物質流量
【0078】
これらは、図2のバルブ流量プロットのような単純なx−yプロットとしてオペレータに提示される。各プロットには正常動作の領域があり、これをこのプロットでは灰色の部分で示す。この領域の外側での動作は異常であるとして信号が送られる。
【0079】
多重冗長性もまた、単一の多次元モデルでチェックすることができる。多次元冗長性の例としては、以下のものがある。
・圧力1=圧力2=....=圧力n
・プロセスユニット1への物質流量=プロセスユニット1からの物質流量=...=プロセスユニット2への物質流量
【0080】
多次元でのチェックは、「PCA的」モデルで表される。図3では、3種類の独立かつ冗長な尺度X1、X2、X3がある。X3が1ずつ変化すると、その都度X1はa13ずつ変化し、X2はa23ずつ変化する。この関係の組は、単一の主成分方向Pを有するPCAモデルとして表される。このタイプのモデルは、広いPCAモデルと同様の方法でオペレータに提示される。2次元の冗長性チェックを用いる場合と同様に、灰色の部分が正常動作の領域を示す。Pの主成分負荷量は、変動性が最大の方向からPを求める従来の方法ではなく、工学方程式から直接計算される。
【0081】
プロセス動作の特徴は、プロセス動作の正常な範囲、正常なフィールドでの設備の変化および保守作業を通じて、例外動作がこれらの関係を正確に保つことを必要とする。例外動作の例として以下のものがある。
・流量計周辺のバイパス弁の開口
・上流/下流の圧力変化の補償
・フィールド測定値の再カリブレーション
・動作モードに基づくプロセス流の方向変換
【0082】
ファジィペトリネットを用いてPCAモデルと工学冗長性チェックとを組み合わせて、プロセスオペレータに対し、自分の制御下にあるプロセス動作が正常であることを連続的に要約表示する(図4)。
【0083】
各PCAモデルから複数の統計指標が作成され、これら指標をプロセスオペレータが扱うプロセス設備の構成および階層に対応付ける。従来の二乗予測誤差SPEの和による指標の感度は、PCAモデルが対応する完全なプロセス領域の指定された部分からの入力に対するSPE指標への寄与分だけを含むサブセット指標を生成することにより向上する。PCAモデルからの各々の統計指標をファジィペトリネットに供給し、この指標を0から1のスケールに変換して、正常動作(値0)から異常動作(値1)までの範囲を連続的に示す。
【0084】
各冗長性チェックもまた、ファジィネットを用いて、連続的な正常−異常
の表示に変換される。これらのモデルで異常性を示すのに用いる2種の異なる指標がある。即ち、モデルからの偏差および動作域外の偏差である(図3に示す)。これらの偏差は、誤差の二乗とPCAモデルのホテリングT二乗指標との和に等しい。2より大きい次元をチェックする場合、どの入力に問題があるかを識別することが可能である。図3において、X3−X2関係が依然として正常エンベロープ内に含まれるため、問題は入力X1にある。各々の偏差尺度は、ファジィペトリネットにより0から1の縮尺に変換されて、正常動作(値0)から異常動作(値1)までの範囲を連続的に示す。
【0085】
オペレータの権限下にある各プロセス領域の場合、適用可能な正常−異常インジケータの組を単一の正常−異常インジケータと組み合わせる。これは、ファジィペトリ論理を用いて異常動作の最悪ケースの表示を選択して行われる。このようにして、オペレータはプロセス領域内のすべてのチェックのハイレベルな要約を得られる。このセクションでは、ファジィペトリネットの一般的な背景については説明しない。これについては、非特許文献1を参照されたい。
【0086】
異常事象アプリケーションを開発するためのプロセス全体を図5に示す。基本的な開発戦略は反復的であり、開発者は粗いモデルから出発して、正常動作および異常動作の両方の間、このモデルがどの程度実際のプロセス動作を表すかの観察結果に基づいて、当該モデルの能力を少しずつ向上させる。次に、これらの観察結果に基づいてモデルを再構築および再訓練する。
【0087】
異常事象検出用PCAモデルの開発
I.概念的PCAモデル設計
全体的な設計目的は以下の通りである。
・コンソールのオペレータが自分の操作権限下にあるすべてのプロセスユニットについてプロセス動作の連続的な状態(正常対異常)を把握できるようにする。
・オペレータが自身の操作権限内で急速(数分から数時間)に拡大しつつある異常事象を早期発見できるようにする。
・オペレータに対し、異常事象の根本的原因を診断するのに必要な主要なプロセスの情報だけを提供する。
【0088】
実際の根本的原因の診断は本発明の範囲外である。コンソールのオペレータは、自身のプロセス知識および訓練に基づいてプロセス問題を診断するよう求められる。
【0089】
異常動作の監視を全体として成功させるには、広範なプロセス範囲を有することが重要である。システムについて学んで自身の技術を維持するために、オペレータは定期的にシステムを使用することが必要である。特定の異常事象が稀にしか生じないため、オペレータはプロセスの小さい部分の異常動作監視を稀にしか使わず、おそらくは遂に異常事象を検出した際にオペレータがシステムを無視してしまう。この広範な範囲は、経済的に大きな関心事である特定のプロセス問題の検出に基づいてモデルを設計する、公開されているモデリングの目的とは対照的である(非特許文献3を参照のこと)。
【0090】
数千のプロセス測定値が、一人のコンソールのオペレータの操作権限下のプロセスユニット内にある。連続的な精製および化学プロセスは、これらの測定値に顕著な時間ダイナミクスを示し、データ同士の相互相関を破る。このため、相互相関を維持できる個別のPCAモデルにプロセス設備を分割する必要がある。
【0091】
概念上のモデル設計は、以下の4つの主な決定からなる。
・プロセス設備を、対応するPCAモデルを有する設備グループに再分割する。
・プロセス動作時間枠を、異なるPCAモデルを必要とするプロセス動作モードに再分割する。
・設備グループ内のどの測定値を各PCAモデルへの入力として指定すべきかを識別する。
・設備グループ内のどの測定値が既知の事象または他の例外動作を抑制するフラグとして機能すべきかを識別する。
【0092】
A.プロセスユニットの対応範囲
最初の決定は、単一のPCAモデルで対応する設備のグループを形成することである。これに含まれる特定のプロセスユニットは、プロセスの統合/相互作用を理解している必要がある。多変数拘束コントローラの設計と同様に、PCAモデルの境界は、すべての重要なプロセス相互作用およびプロセスの変化や外乱の主要な上流および下流における兆候を包含していなければならない。
【0093】
以下の規則を用いてこれらの設備グループを判定する。
【0094】
設備グループは、同一設備グループ内ですべての主要な物質とエネルギの統合および迅速な再利用を含むことにより定義される。プロセスが多変数拘束コントローラを用いる場合、コントローラモデルはプロセスユニット同士の相互作用点を明示的に識別する。そうでなければ、このプロセスの工学分析を通じて相互作用を識別する必要がある。
【0095】
プロセスグループは、プロセス設備グループ同士の相互作用が最小である点で分割されなければならない。最も明確な分割点が生じるのは、相互作用が次の下流ユニットへの供給を含む単一のパイプを介してのみ生じる場合である。この場合、温度、圧力、流量および原料組成が下流の設備グループに対する一次影響であり、すぐ下流にあるユニットの圧力が上流の設備グループへの一次影響である。これらの一次影響の測定値は、上流および下流の両方の設備グループのPCAモデルに含まれているべきである。
【0096】
上流と下流の設備グループの間にプロセス制御アプリケーションの影響を含める。プロセス制御アプリケーションは、上流と下流の設備グループの間に別の影響経路を提供する。フィードフォワード経路とフィードバック経路の両方が存在し得る。このような経路が存在する場合、これらの経路を駆動する測定値は両方の設備グループに含まれていなければならない。プロセス制御アプリケーションの分析により、プロセスユニット同士の主要な相互作用が示されることになる。
【0097】
有意な時間ダイナミクスが存在する場所(貯蔵タンク、長いパイプラインなど)では常に設備グループを分割する。PCAモデルは主に、プロセスの急速な変化(数分〜数時間の期間にわたり生じるものなど)を扱う。プロセスに影響を及ぼすのに数時間、数日または数週間もかかる影響は、PCAモデルに適していない。これらの影響が正常なデータパターンにとって重要な場合、これらの影響の測定値を動的に補償して、それらの有効時間を他のプロセス測定値と同期させる必要がある(動的補償についての説明を参照のこと)。
【0098】
B.プロセス動作モード
プロセス動作モードは、プロセスの挙動が大幅に異なる特定の時間枠として定義される。これらの例として、異なるグレードの製品の製造(ポリマーの製造など)、顕著なプロセス遷移(始動、停止、原料の交換など)、大きく異なる原料の処理(オレフィンの製造でエタンに代えてナフサを分解するなど)の処理または異なる構成のプロセス設備(異なる組のプロセスユニットが稼動)がある。
【0099】
これらの顕著な動作モードが存在する場合、各々の主要な動作モードに対して個別のPCAモデルを開発する必要があり得る。必要なモデルが少ない方がよい。開発者は、特定のPCAモデルが類似の動作モードに対応可能であると仮定すべきである。この仮定を、各動作モードからの新規データをモデルに通して当該モデルが正しく動作するか否かを確認することにより検証しなければならない。
【0100】
C.履歴的プロセス問題
異常事象検出システムの開発に組織的な関心が持たれるのは、経済的に重大な影響のある履歴的プロセス問題が存在しているためである。しかしながら、これらの重要な問題を分析して、これらの問題に取り組む最適なアプローチを知る必要がある。特に、開発者は、異常事象検出アプリケーションの構築を試みる前に以下の点を確認すべきである。
1.問題を永久に解決することができるか?往々にして、現場担当者が問題を調査して永久に解決するだけの十分な時間をとれなかったがために問題が存在する。この問題に組織の関心が向くと、永久的な解決策が見つかる場合が多い。これが最善のアプローチである。
2.問題を直接測定することができるか?問題を検出するためのより信頼性の高い方法は、このプロセスにおける問題を直接測定できるセンサを設置することである。これを用いて、プロセス制御アプリケーションを介して問題を防止することも可能である。これが次善のアプローチである。
3.異常動作に対するアプローチを測定する推論的測定法を開発することができるか?推論的測定法は通常、部分最小二乗法、PLS、PCA異常事象モデルに極めて近いモデルを用いて開発される。推論的測定法を開発するための他の一般的な代替案として、ニューラルネットおよび線形回帰モデルが含まれる。問題の状態に対するアプローチを信頼できる形で測定するのに利用可能なデータ(デルタ圧力を用いるタワーフラッディングなど)が存在する場合、これを状態がいつ存在するかの検出だけでなく、状態が生じるのを防止する制御アプリケーションの基礎としても用いることができる。これが3番目によいアプローチである。
【0101】
問題状態の直接測定およびこれらの状態の推論的測定法は、異常検出モデルの全体的なネットワークに容易に組み込むことが可能なものである。
【0102】
II.入力データおよび動作域の選択
設備グループでは、何千ものプロセス測定値があることになる。予備設計では、以下の事項を実施する。
・すべてのカスケード二次コントローラ測定値並びに、特にこれらのユニットへの最終二次出力(フィールド制御バルブへの信号)を選択する
・コンソールのオペレータがプロセスを監視するのに用いる主要な測定値(自身の操作系統に現れるものなど)を選択する
・担当エンジニアがプロセスの性能を測定するのに用いる測定値があればこれを選択する
・供給速度、供給温度または供給品質の上流測定値があればこれを選択する
・プロセスの動作領域、特に圧力に影響を及ぼす下流状態の測定値を選択する
・重要な測定のために追加的な冗長測定値を選択する
・非線形変換の計算に必要となるかもしれない測定値を選択する
・外乱(周囲温度など)の外部測定値があればこれを選択する
・プロセスの専門家がプロセス状態の重要な尺度であると考える他のあらゆる測定値を選択する
【0103】
上記のリストから以下の特性を有する測定値のみを含める。
・測定値に誤りまたは問題がある性能の履歴が含まれていない
・測定値は満足すべき信号対雑音比を有する
・測定値はデータセット内の他の測定値と相互に相関している
・測定値は正常動作する時間の10%を超えて飽和していない
・測定値は、稀にしか変化しない固定のセットポイントに厳密に制御されてはいない(制御階層の最終一次側)
・測定値は、長期にわたる「不良値」動作またはトランスミッタの限界まで飽和していない
・測定値は、極めて非線形であることが知られている値の範囲を超えない
・測定値は未加工測定値からの冗長計算ではない
・フィールド制御バルブへの信号は、時間の10%を超えて飽和していない
【0104】
A.モデル入力を選択するための評価
PCA異常検出モデル、信号対雑音比および相互相関への潜在的入力に優先順位付けを行うための2種の統計的な基準がある。
【0105】
1)信号対雑音試験
信号対雑音比は、入力信号における情報内容の尺度である。
【0106】
信号対雑音比は、以下のように計算される。
1.未加工信号は、プロセスのものに等しい近似動的時定数を有する指数フィルタを用いてフィルタリングされる。連続的な精製および化学プロセスの場合、この時定数は通常、30分〜2時間の範囲にある。他の低域通過フィルタを用いてもよい。指数フィルタの場合の式は以下の通りである。
Yn=P*Yn−1+(1−P)*Xn 指数フィルタの式 式1
P=Exp(−Ts/Tf) フィルタ定数の計算 式2
式中、
Yn 現在フィルタリングされる値
Yn−1 以前にフィルタリングされた値
Xn 現在の未加工値
P 指数フィルタ定数
Ts 測定値のサンプル時間
Tf フィルタ時定数
2.残留信号は、未加工信号からフィルタリングされた信号を減算することにより得られる。
Rn=Xn−Yn 式3
3.信号対雑音比は、フィルタリングされた信号の標準偏差を残留信号の標準偏差で除算した比である。
S/N=σY/σR 式4
【0107】
すべての入力が、4などの所定の最小値より大きいS/Nを示すことが好ましい。S/Nがこの最小値を下回る入力については、モデルに含めるべきか否かを判断するために個別に調べる必要がある。
【0108】
長期間にわたる定常状態動作があるとノイズ内容の推定が極端に長引くため、S/Nを計算するために用いるデータセットではこうした動作をすべて除外しなければならない。
【0109】
2)相互相関試験
相互相関は、入力データセットの情報冗長性の尺度である。任意の2つの信号間の相互相関は次式により計算される。
1.各入力のペアi、k間の共分散Sikを計算する。
【数1】
2.共分散からの入力の各ペアについて相関係数を計算する。
CCik=Sik/(Sii*Skk)1/2 式6
【0110】
入力がモデルに含まれていてはならないことをフラグする二つの状況がある。第1の状況が生じるのは、特定の入力と残りの入力データセットとの間に有意な相関が存在しない場合である。各々の入力に対して、0.4などの有意な相関係数を有する少なくとも1個の他の入力がデータセットに存在しなければならない。
【0111】
第2の状況が生じるのは、異なる識別器を有する何らかの計算に際して起こることが多いのであるが、同一の入力情報が(偶然に)2回含まれた場合である。1に近い(たとえば0.95を超える)相関係数を示す入力のペアはすべて個々にチェックして、両方の入力をモデルに含めるべきか否かを判断する必要がある。入力が物理的には独立しているが論理的には冗長である(即ち、2個の独立した熱電対が別々に同じプロセス温度を測定している)場合、これらの入力は両方ともモデルに含まれるべきである。
【0112】
2つの入力が互いの変換(即ち、温度と圧力補償された温度)である場合、これらの測定値のうちの1つと残りのデータセットとの間で有意に向上した相互相関が存在しない限り、オペレータが馴染んでいるほうの測定値を含めることが好ましい。こうして、相互相関が高いほうを含めるべきである。
【0113】
3)飽和した変数の識別および取り扱い
精製および化学プロセスは往々にして、厳しいか緩い拘束を受けて、結果的にモデル入力に対する飽和値および「不良値」が生じる。一般的な拘束は、計器トランスミッタの上下範囲、アナライザ範囲、最大および最小制御バルブ位置、プロセス制御アプリケーションの出力限度である。入力は、モデル構築およびこれらのモデルのオンライン利用の両方において入力を事前処理する際に特別な扱いを要する飽和に関していくつかのカテゴリに分類することができる。
【0114】
標準的なアナログ計器(4〜20ミリアンペアの電子トランスミッタなど)において、不良値は以下の2つの異なる原因で起こり得る。
・実際のプロセス状態がフィールドトランスミッタの範囲外にある
・フィールドとの接続が絶たれた
【0115】
これらの状況のいずれかが生じた場合、プロセス制御システムを個々の測定値に基づいて設定して、当該測定値が不良値であることを示す特別のコードを当該測定値の値に割り当てるか、測定値の最終良好値を維持する。これらの値は、プロセス制御システムで実行されるあらゆる計算全体に伝播する。「最終良好値」オプションが設定された場合、これは検出および除外が困難な誤った計算に至る恐れがある。一般に、「不良値」コードがシステム全体に伝播すると、不良測定値に依存する計算がすべて同様に不良としてフラグが立てられる。
【0116】
プロセス制御システムで設定されたオプションとは無関係に、不良値を含むこれらの時間枠は、訓練または試験データセットに含まれてはならない。開発者は、プロセス制御システムにおいてどのオプションが設定されたかを識別した後、不良値であるサンプルを除外するためのデータフィルタを設定する必要がある。オンライン実装の場合、プロセス制御システムでどのオプションが選択されたかとは無関係に、入力を事前処理して不良値を欠落値としてフラグ付けしなければならない。
【0117】
通常はかなりの時間枠にわたって不良値であるこれらの入力を、モデルから除外すべきである。
【0118】
拘束変数とは、測定値が何らかの限界にあって、この測定値が実際のプロセス状態(値がトランスミッタ範囲の最大または最小限にデフォルト化されている場合とは逆−不良値のセクションで説明)に一致する場合の変数である。このプロセス状況は、以下のいくつかの理由により生じ得る。
・プロセスの各部分は、特に優先的な状態、たとえばフレアシステムへの圧力解放流がない限り、通常は不活性である。これらの優先的状態が有効である時間枠は、データフィルタを設定することにより訓練および検証データセットから除外しなければならない。オンライン実装の場合、これらの優先事象は、選択されたモデル統計量を自動抑制するトリガ事象である
・プロセス制御システムは、プロセス動作制限、たとえば製品仕様限界に反してプロセスを駆動すべく設計されている。これらの拘束は一般に、2つのカテゴリに分類される。即ち、時々飽和するものと、通常は飽和しているものである。通常は飽和している入力はモデルから除外しなければならない。稀に(たとえば全時間の10%未満)飽和するだけの入力はモデルに含まれてよいが、飽和していない場合には時間枠に基づいてスケーリングしなければならない。
【0119】
B.プロセス制御アプリケーションからの入力
プロセス制御アプリケーションは、プロセスデータの相関構造に極めて重大な影響を及ぼす。特に以下の通りである。
・被制御変数の変動が大幅に減少するため、プロセスに顕著なプロセス外乱が出現したか、オペレータが主要なセットポイントを変えて意図的に動作点を動かした場合の短い時間枠を除いて、被制御変数内の動きは基本的にノイズである。
・被制御変数における通常の変動は、制御システムにより被操作変数(最終的にはフィールド内の制御バルブへ送られた信号)へ転送される。
【0120】
精製および化学プロセスの正常動作は通常、2つの異なるタイプの制御構造即ち、古典的制御カスケード(図6に示す)と、より最近の多変数拘束コントローラMVCC(図7に示す)とによって制御される。
【0121】
1)カスケード構造からモデル入力を選択
図6に、典型的な「カスケード」プロセス制御アプリケーションを示す。これは精製および化学プロセスでは極めて一般的な制御構造である。そのようなアプリケーションからの多くの潜在的なモデル入力が存在するが、当該モデルの候補である唯一のものは未加工プロセス測定値(本図の「PV」)およびフィールドバルブへの最終出力である。
【0122】
カスケード制御構造の最終一次側のPVは、極めて重要な測定値であるにもかかわらず、当該モデルへ含めるには適していない候補である。この測定値は通常、制御構造の目的がこの測定値をセットポイントに保つことであるため、動きが極めて限られる。自身のセットポイントが変えられた場合に最終一次側のPV内に動きがあってもよいが、通常これは稀である。一次側セットポイントの不定期的移動から生じるデータパターンは通常、モデルがデータパターンを特徴付けるに足るだけの影響力を訓練データセットに及ぼさない。
【0123】
最終一次側のセットポイントの変化から生じるデータパターンを特徴付けることがこのように困難なため、オペレータが当該セットポイントを動かしたならば、当該モデルの指標である二乗予測誤差SPEの和が顕著に増加しやすい。このため、最終一次側のセットポイントの変化はわずかでも「既知事象抑制」を起こす候補トリガの1つである。オペレータが最終一次側セットポイントを変えるたびに、「既知事象抑制」論理がSPE計算からその影響を自動的に排除する。
【0124】
開発者が最終一次側のPVをモデルに含めるのであれば、この測定値を、オペレータがセットポイントを変えた時からプロセスが新しいセットポイントの値の近くへ移動するまでの短い時間枠に基づいてスケーリングすべきである(たとえば、セットポイントが10から11まで変化した場合、PVが10.95に達したときに新規セットポイントの95%以内)。
【0125】
最終一次側のPVと極めて強い相関(たとえば相関係数が0.95を超える)を有する測定値もまたあり得る。たとえば、最終一次側のPVとして用いられる、温度測定の近傍に置かれた冗長な熱電対である。これらの冗長な測定値は、最終一次側のPV用に選択されたのと同じ方法で扱われなければならない。
【0126】
カスケード構造は、各々の二次側にセットポイントの限界を持つことができ、フィールド制御バルブへの信号に対して出力制限を設けることができる。これらの潜在的に拘束された動作の状態をチェックして、セットポイントに関連付けられた測定値が拘束された方法で操作されたか否か、またはフィールドバルブに対する信号が拘束されているか否かを判断することが重要である。これらの拘束された動作の間の日付を用いてはならない。
【0127】
2)多変数拘束コントローラ(MVCC)からのモデル入力の選択/計算
図7に、精製および化学プロセス向けの極めて一般的な制御構造である典型的なMVCCプロセス制御アプリケーションを示す。MVCCは動的数学モデルを用いて、被操作変数MV(通常は調整制御ループのバルブ位置またはセットポイント)の変化がどのように制御変数CV(プロセス状態を測定する従属温度、圧力、組成および流量)を変えるかを予測する。MVCCは、プロセス動作を動作限界まで押し上げようと試みる。これらの限界は、MV限界またはCV限界のいずれかであってよく、外部オプティマイザにより決定される。プロセス動作の限界数は、コントローラが操作可能なMVの数から、制御されている物質収支の数を差し引いたものに等しい。よって、MVCCが12個のMV、30個のCV、および2個のレベルを有する場合、プロセスは10の限界に向けて動作される。MVCCはまた、プロセスに対する測定された負荷外乱の影響を予測して、これらの負荷外乱(フィードフォワード変数FFとして知られる)を補償する。
【0128】
未加工MVまたはCVが、PCAモデルに含めるべきよい候補であるか否かは、MVまたはCVがMVCCによる動作限界に対して保持されている時間の割合に左右される。「拘束変数」のセクションで説明したように、時間の10%を超えて拘束される未加工変数は、PCAモデルへ含める候補としては適していない。通常、非拘束変数は「拘束変数」セクションで説明したように扱われなければならない。
【0129】
無拘束MVが調整制御ループに対するセットポイントである場合、このセットポイントを含めるべきではなく、代わりに当該調整制御ループの測定値を含めるべきである。また、当該調整制御ループからのフィールドバルブに対する信号も含めるべきである。
【0130】
無拘束MVがフィールドバルブ位置に対する信号である場合、これをモデルに含めるべきである。
【0131】
C.冗長測定値
プロセス制御システムデータベースは、PCAモデルへの候補入力の中で有意な冗長性を有する可能性がある。冗長性の一タイプとして「物理的冗長性」があり、これはプロセス設備内に互いに物理的に近接して配置された多数のセンサ(熱電対など)が存在する場合である。別のタイプの冗長性として「計算的冗長性」があり、これは未加工センサが新たな変数(圧力補償された温度または容積流量測定値から計算される質量流量)に数学的に組み合わされた場合である。
【0132】
原則として、未加工測定値および当該測定値から計算された入力は共に当該モデルに含まれてはならない。一般に好適なのは、プロセスオペレータが最も馴染んでいる測定値のバージョンを含めることである。この原則に対する例外は、当該モデル用にデータの相関構造を向上させる目的で未加工入力を数学的に変換しなければならない場合である。その場合、未加工測定ではなく、変換された変数を当該モデルに含めるべきである。
【0133】
物理的冗長性は、モデルの相互検証情報を提供するために極めて重要である。原則として、物理的に冗長な未加工測定値はモデルに含めるべきである。多数の物理的に冗長な測定値が存在する場合、これらの測定値は、主成分(可変スケーリングに関するセクションを参照のこと)の選択を阻害するのを防止すべく特別にスケーリングされなければならない。一般的なプロセスの例は、リアクタの暴走を捕捉すべくリアクタに設置された多数の熱電対から生じる。
【0134】
極めて巨大なデータベースをマイニングする場合、開発者はすべての候補入力で相互相関計算を行うことにより冗長な測定値を識別することができる。相互相関が極めて高い(たとえば0.95を超える)測定値ペアを個別に調べ、各ペアを物理的に冗長または計算的に冗長のいずれかに分類しなければならない。
【0135】
III.履歴データの収集
開発に要する努力の多くは、正常なプロセス動作のすべてのモードを含むことがわかっている良好な訓練データセットの作成にある。このデータセットは以下を満たさなければならない。
【0136】
正常動作域にわたること:動作域の小さい部分にわたるデータセットは、ほとんどがノイズからなる。定常状態動作の間のデータの範囲に比べたデータの範囲は、データセットの情報の品質をよく示している。
【0137】
すべての正常動作モード(季節的なモード変動を含む)を含んでいること。各々の動作モードは、異なる相関構造を有するものであってよい。動作モードを特徴付けるパターンがモデルにより捕捉されない限り、これらの非モデル化動作モードは異常動作として現れる。
【0138】
正常な動作データだけを含んでいること:強い異常動作データが訓練データに含まれている場合、モデルは誤ってこれらの異常動作を正常動作としてモデル化してしまう。その結果、後で当該モデルを異常動作と比較した際に、異常動作を検出することができないことがある。
【0139】
履歴は、オンラインシステムで用いるデータになるべく類似しているべきである:オンラインシステムは、異常事象を検出するのに十分速い周期でスポット値を提供することになる。連続的な精製および化学的操作の場合、このサンプリング周期は約1分である。データ履歴管理機能の限度内で、訓練データは可能な限り1分のスポット値に等価でなければならない。
【0140】
データ収集の戦略は、長期間(通常9ヶ月から18ヶ月間の範囲)の動作履歴から開始し、そこから明白または文書化された異常事象のある時間枠を除外しようとすることである。そのような長い時間枠を用いることによって、以下の事項が実現する。
・小さめの異常事象は、モデルパラメータに大きく影響する程度には十分な強度では訓練データセットに現れない
・大部分の動作モードが発生したはずであり、データ内に現れることになる
【0141】
A.履歴データの収集に関する事項
1)データ圧縮
多くの履歴データベースは、データ圧縮を用いてデータの記憶容量を最小化する。不都合なことに、これを実行すればデータの相関構造を乱す恐れがある。プロジェクトの開始時点では、データベースのデータ圧縮を無効にしてデータのスポット値の履歴を取っておくべきである。可能な場合は常に非圧縮データを用いて最終的なモデルを構築しなければならない。平均値は、利用できるデータが他になく、これが利用できる最短のデータ平均であるのでなければ、用いるべきではない。
【0142】
2)データ履歴の長さ
モデルが正常なプロセスパターンを適切に表すために、訓練データセットは、すべての正常動作モード、正常な動作変動、プロセスに生じる変化や正常な微小外乱の例を含む必要がある。これは、長期間(9〜18ヶ月など)にわたるプロセス動作のデータを用いることにより実現される。特に、精製および化学プロセスにおいて季節的(春夏秋冬)な動作の違いは極めて重要であり得る。
【0143】
時折、これらの長い範囲のデータが未だ利用できない場合(プロセス設備の切り替えその他の重要な再構成の後)がある。これらの場合、モデルは訓練データの短い(6週間など)初期セットから始めて、更にデータが収集されるにつれて訓練データセットを拡張して、モデルが安定するまで当該モデルを毎月更新する(新規データを追加してもモデル係数は変化しないなど)。
【0144】
3)補助履歴データ
この時間枠に対するさまざまな操作ジャーナルもまた収集しなければならない。これを用いて、動作時間枠を異常とみなすか、訓練データセットから除外する必要がある何らかの特別なモードにおいて動作している。特に、重要な履歴的異常事象をこれらのログから選択してモデル用のテストケースとすることができる。
【0145】
4)特定の測定履歴の欠如
往々にして、セットポイントおよびコントローラ出力は、プラントのプロセスデータの履歴管理機能で履歴化されないことが多い。これらの値の履歴化は、プロジェクトの開始時点で直ちに開始しなければならない。
【0146】
5)動作モード
もはや適切に現在のプロセス動作を表さない旧データは、訓練データセットから削除しなければならない。大規模なプロセス改良の後で、訓練データおよびPCAモデルを最初から作り直すことが必要な場合がある。特定のタイプの動作がもはや実行されていない場合、当該動作からのすべてのデータを訓練データセットから削除しなければならない。
【0147】
動作ログを用いて、異なる動作モードの下でいつプロセスが稼動したかを識別しなければならない。これらの異なるモードは別々のモデルを必要とする場合がある。モデルがいくつかの動作モードに対応することを意図している場合、各々の動作モデルからの訓練データセット内のサンプルの数はほぼ等しくなければならない。
【0148】
6)サンプリングレート
開発者は、拠点のプロセス履歴管理機能を使用して数ヶ月分のプロセスデータ、好ましくは1分間隔のスポット値を収集しなければならない。これが入手可能でない場合、なるべく平均化されておらず、かつ解像度が最も高いデータを使用すべきである。
【0149】
7)稀にサンプリングされる測定値
品質測定値(アナライザおよび研究室サンプル)は他のプロセス測定値よりも極めて長いサンプリング周期を有し、数十分毎〜1日1回の範囲である。これらの測定値をモデルに含めるには、これらの品質測定値の連続的な推定値を生成する必要がある。図8に、連続的な品質推定値のオンライン計算を示す。これと同じモデル構造を構築して履歴データに適用しなければならない。このように適用すると、この品質推定値はPCAモデルへの入力になる。
【0150】
8)モデルにより起動されるデータ注釈
極めて明らかな異常を除いて、履歴データの品質を判定するのは困難である。異常動作データを含めることによりモデルが偏る恐れがある。大量の履歴データを用いる戦略は、訓練データセットにおける異常な動作により生じるモデルのバイアスをある程度補償する。プロジェクトの開始に先立って履歴データから構築されたモデルは、品質に関しては疑いを持たなければならない。初期訓練データセットは、プロジェクトが継続している間に生じるプロセス状態の高い品質注釈を含むデータセットと入れ替えなければならない。
【0151】
モデル開発の戦略は、初期の「粗い」モデル(疑わしい訓練データセットの結果)から出発した後、モデルを用いて高品質の訓練データセットの収集を起動することである。モデルを用いてプロセスを監視するに従い、正常動作、特別動作、異常動作に関する注釈およびデータが集められる。モデルが異常動作のフラグを立てるか、または異常事象をモデルが見逃すたびに、事象の原因および持続期間に注釈が付けられる。このように、プロセス動作を監視するモデルの能力に対するフィードバックを訓練データに取り込むことができる。このデータを用いてモデルを改良し、当該モデルを用いて品質が向上した訓練データを収集し続ける。このプロセスは、モデルが満足すべき状態になるまで繰り返される。
【0152】
IV.データおよびプロセス分析
A.初期の粗いデータ分析
動作ログを用いて、プロセスの主要な性能指標を調べることにより、履歴データを、異常動作の存在が判明している期間と、異常動作が確認されなかった期間とに分ける。異常動作が確認されなかったデータが訓練データセットとなる。
【0153】
ここで、各測定値の履歴を調べて、訓練データセットの候補であるか否かを判断する必要がある。除外しなければならない測定値は以下の通りである。
・「不良値」である期間が長いもの
・自身のトランスミッタの上限または下限に固定された期間が長いもの
・極めてわずかな変動性しか示さないもの(自身のセットポイントに厳密に制御されているものを除く)
・自身の動作域に関して極めて大きい変動性を連続的に示すもの
・データセット内の他のどの測定値とも、相互相関をほとんどまたはまったく示さないもの
・信号対雑音比が低いもの
【0154】
データを調べる間、測定値が短期的に「不良値」を示すか、自身のトランスミッタ上限または下限に短期的に固定されている時間枠も除外しなければならない。
【0155】
これらの除外を実施すると、第1の粗いPCAモデルが構築されるはずである。これは極めて粗いモデルになるため、保持される主成分の正確な数は重要でない。これは通常、モデルに含まれる測定値の数の5%前後になる。PCの数は、最終的にプロセスの自由度の数に一致しなければならないが、これはプロセス外乱の異なるすべての発生源を含むため、通常は未知である。主成分をいくつ含めるかを判断するための標準的な方法がいくつか存在する。また、この段階で、可変スケーリングへの統計的なアプローチを用いるべきである。即ち、すべての変数をユニット分散に応じてスケーリングする。
X’=(X−Xavg)/σ 式7
【0156】
ここで、訓練データセットをこの予備モデルに通して、データがモデルに一致しない時間枠を識別しなければならない。これらの時間枠を調べて、その時点で異常事象が生じていたか否かを知る必要がある。生じていたと判定された場合、これらの時間枠には、既知の異常事象が生じている時間としてフラグを立てなければならない。これらの時間枠を訓練データセットから除外して、修正されたデータでモデルを再構築する必要がある。
【0157】
B.外れ値および異常動作期間の除外
以下のようにして明らかな異常事象を除去する。
文書化された事象の除外。拠点において異常事象の履歴の完全な記録が残されていることは極めて珍しい。しかしながら、顕著な動作問題は、オペレータのログ、オペレータ変更ジャーナル、アラームジャーナル、機器の保守記録などの動作記録に文書化されなければならない。これらは、異常事象の履歴の部分的な記録しか提供しない。
【0158】
主要性能指標KPIが異常である期間の除外。供給量、製品レート、製品品質などの測定値が共通の主要性能指標である。各々のプロセス動作には、ユニットに固有の別のKPIがあってもよい。この限られた測定値の集合を注意深く調べることにより、異常動作の期間が明確に示される。図9に、KPIのヒストグラムを示す。このKPIの動作目的はこれを最大化することであるため、このKPIが低い動作期間は異常動作である可能性がある。プロセス品質は、最適動作が仕様限界以内であって、正常な供給量の変動に対する感度が低いため、分析が最も容易なKPIであることが多い。
【0159】
C.ノイズの補償
ノイズとは、プロセスに関して有用な情報を含んでいない測定信号の高周波内容を指す。ノイズは、オリフィスプレートを横断する二相流またはレベルの撹乱などの特定のプロセス状態により生じ得る。ノイズは、電気インダクタンスにより生じ得る。しかしながら、おそらくはプロセス外乱により生じた顕著なプロセス変動性は有用な情報であって、フィルタリングで除去してはならない。
【0160】
精製および化学的プロセスの測定で生じる一次ノイズには2つのタイプがある。即ち、測定スパイクおよび指数相関を有する連続ノイズである。測定スパイクにより、信号は、自身の以前の値に近い値に戻る前に、サンプル数が少ない割に不合理なほど大幅に飛ぶ。ノイズスパイクは、ユニオンフィルタなどの従来のスパイク除外フィルタを用いて除外される。
【0161】
信号におけるノイズの量は、信号対雑音比として知られる尺度により定量化できる(図10参照)。これは、高周波ノイズに起因する信号変動性の程度に対するプロセス変動に起因する信号変動性の程度の比として定義される。4未満の値が、信号が顕著なノイズを含んでいてモデルの効果を阻害し得ることを示す典型的な値である。
【0162】
開発者が顕著なノイズを含む信号に遭遇するたびに、3つのうち1つを選択する必要がある。好ましい順に以下の通りである。
・ノイズの発生源を除去することにより信号を固定する(最良の対応策)
・フィルタリング技術を用いてノイズを除去/最小化する
・信号を当該モデルから除去する
【0163】
信号対雑音比が2〜4の間にある信号では一般に、指数相関を有する連続ノイズは、指数フィルタなどの従来の低域通過フィルタにより除去することができる。指数フィルタの式は以下の通りである。
Yn=P*Yn−1+(1−P)*Xn 指数フィルタの式 式8
P=Exp(−Ts/Tf) フィルタ定数の計算 式9
Ynは現在のフィルタリングされた値である
Yn−1は以前にフィルタリングされた値である
Xnは現在の未加工値である
Pは指数フィルタ定数である
TSは測定値のサンプル時間である
Tfはフィルタ時定数である
【0164】
信号対雑音比が極めて低い(たとえば2未満の)信号は、直接モデルに含まれる程度にはフィルタリング技術によっても十分に改善できないであろう。入力が重要と見なされる場合、スケーリング係数のサイズを大幅に増す(通常は2〜10の範囲)ことで、モデルの感度を下げるように変数のスケーリングを設定しなければならない。
【0165】
D.変換された変数
変換された変数は、2つの異なる理由からモデルに含まれなければならない。
【0166】
第1に、特定の設備およびプロセス化学の工学分析に基づいて、プロセス内で既知の非線形性を変換して当該モデルに含めなければならない。PCAの仮定の一つが、モデルの変数が線形に相関していることであるため、プロセスまたは設備の顕著な非線形性はこの相関構造を壊し、モデルからの偏差として現れる。これは、モデルの使用可能範囲に影響を及ぼす。
【0167】
既知の非線形変換の例としては以下のものがある。
・蒸留塔における還流対供給比
・高純度蒸留の組成のログ
・圧力補償された温度測定
・副流の生成
・バルブ位置への流れ(図2)
・指標的温度変化への反応率
【0168】
第2に、過去に生じたプロセス問題からのデータについても検討し、これらの問題が当該プロセスの測定値にどのように現れるかを理解する必要がある。たとえば、タワーのデルタ圧力と供給速度の関係は、フラッディング点に達するまでは比較的線形であるが、そこからデルタ圧力は指数的に増加する。タワーフラッディングは、この線形相関が崩れたことで検出されるため、デルタ圧力と供給量の両方が含まれなければならない。別の例として、触媒流問題が移送ラインのデルタ圧力に見られることが多い。従って、絶対圧力測定値をモデルに含めるのではなく、デルタ圧力を計算して含める必要がある。
【0169】
E.動的変換
図11に、プロセス動力学が2つの測定値の現在値同士の相関をどのように分断するかを示す。遷移時間中、一方の値は常に変化しているが他方はそうでなく、遷移時に現在値同士の相関は存在しない。しかしながら、この2つの測定値は、動的伝達関数を用いて主要な変数を変換することにより、時間同期に戻すことができる。データの時間同期化には通常、無駄時間動的モデル(式9にラプラス変換形式で示す)を有する第1オーダーで十分である。
【数2】
Y−未加工データ
Y’−時間同期化データ
T−時定数
Θ−無駄時間
S−ラプラス変換パラメータ
【0170】
この手法が必要とされるのは、モデルで用いる変数同士に顕著な動的分離がある場合のみである。通常、変数の1〜2%だけがこの処理を必要とする。これは、オペレータによって大きな刻みで変えられることの多いセットポイントなどの独立変数や、モデル化されている主プロセスユニットのかなり上流にある測定値に当てはまる。
【0171】
F.平均的な動作点の除去
連続的な精製および化学プロセスは、ある動作点から別の動作点へ常に移動されている。これらは、オペレータまたは最適化プログラムが主要なセットポイントを変更した意図的なものでもよく、熱交換器の汚れや触媒の非活性化等の遅いプロセス変動により生じるものでもよい。その結果、未加工データは静止していない。これらの動作点の変更は、静止データセットを生成するために除去する必要がある。さもなければ、これらの変更は異常事象として誤って現れる。
【0172】
プロセスの測定値は偏差変数即ち、移動平均動作点からの偏差に変換される。異常事象検出用のPCAモデルを生成する際に、平均動作点を除去する当該変換が必要である。これは、自身の未加工値から測定値の指数的にフィルタリングされた値(指数フィルタ式については式8、9を参照)を減算し、当該モデルでこの差を用いることにより行われる。
X’=X−Xfiltered 式10
X’−動作点変化を除去すべく変換された測定値
X−元の未加工測定値
Xfiltered−指標的にフィルタリングされた未加工測定値
【0173】
指数フィルタ用の時定数は、プロセスの主要な時定数とほぼ同じサイズでなければならない。多くの場合、時定数は約40分で十分である。この変換の結果、PCAモデルへの入力が、移動平均動作点からのプロセスの最近の変化の測定値となる。
【0174】
この変換を正確に実行すべく、多くの場合毎分またはそれ以上速くオンラインシステムと合致するサンプリング周期でデータを集めなければならない。これは結果的に、1年分の動作データに対応すべく各々の測定について525,600個のサンプルを集めることになる。この変換を計算したら、データセットを再サンプリングして、より管理しやすいサンプル数、一般に30,000〜50,000サンプルの範囲内に減らす。
【0175】
V.モデルの生成
特定の測定値が選択されて、訓練データセットが構築されたら、標準的なツールを用いてモデルを素早く構築することができる。
【0176】
A.モデル入力のスケーリング
PCAモデルの性能は、入力のスケーリングに左右される。スケーリングへの従来のアプローチは、訓練データセット内で各々の入力を自身の標準偏差σで分割することである。
Xi’=Xi/σi 式11
【0177】
多数のほぼ同一の測定値(固定された触媒反応床の多数の温度測定値など)を含む入力セットの場合、このアプローチは更に、測定値をほぼ同一の測定値の個数の二乗根で除算することで修正される。
【0178】
冗長なデータ群の場合
Xi’=Xi/(σi*sqrt(N)) 式12
ここで、N=冗長なデータ群における入力の個数
【0179】
これらの従来方式のアプローチは、連続的な精製および化学プロセスからの測定値に対しては不適当である。プロセスは通常、指定された動作点でうまく制御されているため、データの分布は定常状態動作からのデータと、「攪乱された」かつ動作点の変化した動作からのデータとの組み合わせである。これらのデータは、優位な定常状態動作データからの過度に小さい標準偏差を有する。その結果生じるPCAモデルは、プロセス測定値における微小から中程度の偏差に極端に影響される。
【0180】
連続的な精製および化学プロセスの場合、スケーリングは、正常なプロセス外乱のあいだ、または連続定常状態動作中に生じる変動性の程度に含まれない動作点変化の最中に生じる変動性の程度に基づくべきである。通常の無拘束変数の場合、スケーリング係数を決定する2つの異なる方式がある。
【0181】
第1の方式は、プロセスが定常状態で動作していないにもかかわらず、顕著な異常事象が生じていない時間枠を識別するものである。限られた個数の測定値が定常状態動作の主要な指標の役割を果たす。これらは一般に、プロセスの主要な性能指標であって、通常はプロセスの供給量、製品製造速度、製品品質を含む。これらの主要な尺度を用いて、動作を正常な定常状態動作、正常な撹乱された動作、および異常動作の期間に区分する。正常な撹乱された時間枠からの標準偏差が大部分の測定値に対する良好なスケーリング係数となる。
【0182】
撹乱された動作に基づいてスケーリングを明示的に計算する別の方式は、以下のように訓練データセット全体を用いるものである。スケーリング係数は、平均から3標準偏差外れたデータ分布に注目することにより近似することができる。たとえば、データの99.7%が平均の3標準偏差以内に存在し、データの99.99%が平均の4標準偏差以内に存在するはずである。平均から99.7%〜99.99%の間にあるデータ値の拡がりは、データセット内の「撹乱された」データの標準偏差の近似としての役割を果たすことができる。図12を参照されたい。
【0183】
最後に、測定値が拘束されることが多い(飽和変数に関する説明を参照)場合、スケーリング係数として用いる標準偏差の計算には変数が拘束されない時間枠だけを用いるべきである。
【0184】
B.主成分の個数を選択する
PCAは実際のプロセス変数を主成分PCと呼ばれる一組の独立変数に変換する。これは、元の変数の線形結合である(式13)。
PCi=Ai,1*X1+Ai,2*X2+Ai,3*X3+... 式13
【0185】
プロセスには、プロセスに影響を及ぼす特定の単独作用を表す多くの自由度がある。これらの異なる単独作用は、プロセス変動とし当該プロセスのデータに出現する。プロセス変動は、供給量の変更などの意図的な変更または周囲温度の変動などの意図しない外乱に起因する場合がある。
【0186】
各々の主成分は、プロセスに対するこれらの異なる独立した効果により生じるプロセスの変動性の一部をモデル化する。主成分は、データセットにおける変動が減少する方向で抽出され、後続する各々の主成分は、次第にプロセス変動性をモデル化しなくなっていく。顕著な主成分はプロセス変動の顕著な発生源を表す。たとえば、供給量の変更が最も大きいプロセス変動の発生源であるため、第1の主成分が通常は供給量変更による影響を表す。ある時点で開発者は、主成分によりモデル化されたプロセス変動が、いつ独立発生源を表さなくなったかを判断しなければならない。
【0187】
主成分の正確な個数を選択する工学的アプローチは、主成分の一次寄与分である変数のグループがもはや工学的に意味を持たなくなった時点で止めることである。PCによりモデル化されたプロセス変動の一次要因は、元の変数(それは、負荷と呼ばれる)の係数Ai,nに着目することにより識別される。規模が比較的大きいそれらの係数は、特定のPCの主要な寄与分である。プロセスをよく理解する者であれば、PCの主要な寄与分である変数の群に着目し、当該PCに名前(供給量効果など)を割り当てることができるはずである。次第に多くのPCがデータから抽出されるにつれて、係数のサイズが更に等しくなる。この時点で、特定のPCによりモデル化されている変動は基本的にノイズである。
【0188】
いつPCが単にノイズをモデル化しているかを判定する従来の統計的方法は、各々の新規PCによりモデル化されているプロセス変動がいつ一定になるかを識別することである。これはPRESS統計で測定され、各々の連続するPC(図13)によりモデル化された変化の量をプロットする。不都合なことに、この試験は、精製および化学プロセス用に構築されたPCAモデルにとっては曖昧なことが多い。
【0189】
VI.モデルの試験および調整
プロセスデータは、ガウス分布または正規分布をなさないであろう。このため、残余誤差の3標準偏差における異常事象を検出するトリガを設定する標準的な統計的方法を用いるべきではない。その代わりに、モデルの使用経験に基づいて経験的にトリガ点を設定する必要がある。
【0190】
最初に、拠点エンジニアが許容できる頻度、通常は毎日5、6回異常事象が通知されるようにトリガレベルを設定しなければならない。これは、訓練データセットのSPEX(これはQ統計またはDMODX統計とも呼ばれる)統計に着目して決定することができる。このレベルは、実際の異常事象を見逃すことなく、しかも誤警報に拠点のエンジニアが振り回されないように設定されている。
【0191】
A.モデルの強化
初期モデルを作成後、新たな訓練データセットを作ることでこのモデルを強化する必要がある。これは、作成したモデルを用いてプロセスを監視することにより行われる。モデルが異常状況の可能性を示したならば、エンジニアがプロセス状況を調べてこれを分類する必要がある。エンジニアは3種類の異なる状況即ち、何らかの特別なプロセス動作が生じている、実際に異常な状況が生じている、或いは、プロセスは正常なのに表示が誤っているという、いずれかを見い出すことになろう。
【0192】
新たな訓練データセットは、特殊動作および正常動作からのデータで構成されている。初期モデルを生成するために実行されたのと同じ分析をデータに対して実行し、モデルを再計算することが必要である。この新たなモデルでは、依然としてトリガレバーが経験的に設定されるが、今回はより良い注釈が付けられたデータを伴うため、このトリガ点を調整して、真の異常事象が生じた場合のみ通知を与えるようにすることができる。
【0193】
異常事象検出のための単純な工学モデル
プロセス設備の物理的、化学的および機械的な設計、並びに多くの類似測定の挿入により、連続的な精製および化学プロセスからのデータにかなりの程度の冗長性をもたらす。この冗長性は、同一の測定が存在する場合は物理的冗長性と呼ばれ、物理的、化学的または機械的関係を用いてプロセス状態の独立であるが等価な推定を実行する場合は計算的冗長性と呼ばれる。このクラスのモデルを工学的冗長性モデルと呼ぶ。
【0194】
I.二次元工学的冗長性モデル
これはモデルの最も簡単な形式であり、以下のような汎用の形式を有する。
F(yi)=G(xi)+フィルタリング済みバイアスi+オペレータバイアス+誤差i 式14
未加工バイアスi=F(yi)−{G(xi)+フィルタリング済みバイアスi+オペレータバイアス}=誤差i 式15
フィルタリング済みバイアスi=フィルタリング済みバイアスi−1+N*未加工バイアスi−1 式16
N−収束係数(0.0001など)
正常動作域:x最小<x<x最大
正常なモデル偏差:−(最大誤差)<誤差<(最大誤差)
【0195】
オペレータが、モデルのシフトを必要とする何らかのフィールド事象(バイパスフローの開口など)があったと判定するたびに、「オペレータバイアス」項が更新される。オペレータの命令があれば、式14が正確に満足される(誤差i=0)ように、オペレータバイアス項が更新される。
【0196】
工学的冗長性モデルにバイアスを与える持続的な未測定プロセス変動に対処すべく「フィルタリングされたバイアス」項は連続的に更新される。収束係数「N」は、ユーザーが指定した、通常は数日間にわたる期間の後で、あらゆる持続的な変化を除去すべく設定される。
【0197】
「正常動作域」および「正常なモデル偏差」は、工学的冗長性モデルの履歴データから決定される。大多数の場合、max_error値は単一の値であるが、これはまた、x軸位置に依存する値のベクトルであり得る。
【0198】
物質収支、エネルギ収支、推定アナライザ表示対実際のアナライザ表示、コンプレッサ曲線など、任意の二次方程式をこのように表すことができる。図14に、二次元のエネルギ収支を示す。
【0199】
適用例として、流量対バルブ位置モデルについてより詳細に述べる。
【0200】
A.流量対バルブ位置モデル
特に有益な工学的冗長性モデルは、流量対バルブ位置モデルである。図2にこのモデルをグラフ的に示す。このモデルの特定の形式は以下の通りである。
【数3】
式中、
流量:制御バルブを通る測定された流量
Delta_Pressure=測定された最も近い上流圧力−測定された最も近い下流圧力
Delta_Pressurereference:正常動作の間の平均デルタ圧力
a:履歴データにフィッティングされたモデルパラメータ
Cv:履歴データから経験的に決定されたバルブ特性曲線
VP:制御バルブへの信号(実際の制御バルブ位置でない)
である。
このモデルの目的は以下の通りである。
・詰まりつつある/詰まった制御バルブの検出
・凍結/故障した流量測定部の検出
・制御システムが流量の制御を喪失した箇所の制御バルブ動作の検出
【0201】
この流量対バルブ式の特定の構成は、人的要因の理由で選択されている。この形式で方程式をx−yプロットするのがオペレータにとって最も容易に理解される。これらのモデルのいずれも、オペレータが最も理解しやすそうな方法で構成することが重要である。
【0202】
B.流量対バルブ位置モデルの開発
連続的な精製および化学プロセスが受ける長い期間にわたる定常状態動作のため、制御バルブの動作全体にわたる十分なデータを得るには長い履歴的な記録(1〜2年)が必要になることがある。図15に、一定運転が長期間にわたる流量、バルブ位置およびデルタ圧力データの典型的な範囲を示す。最初の段階は、図に示すように、動作に何らかの重要な変動がある所で短い時間枠を切り離すことである。次に、これを履歴のさまざまな期間から取り出した正常動作の期間と混ぜる必要がある。
【0203】
往々にして、Upstream_Pressure(多くの場合ポンプ吐出)またはDownstream_Pressureを利用できない。そのような場合、欠落している測定値が当該モデルにおける固定されたモデルパラメータになる。両方の圧力が欠落している場合、当該モデルに圧力効果を含めることは不可能である。
【0204】
バルブ特性曲線は、線形バルブ曲線、二次バルブ曲線または区分的線形関数のいずれかにフィットする。区分的線形関数は、最も柔軟であって、任意の形状のバルブ特性曲線にもフィットする。
【0205】
バルブを直接横断して測定値が得られた場合、「a」の理論値は1/2である。測定値がそこに配置されることはめったにない。「a」は、圧力測定値の実際の位置決めに対応すべく経験的に決定されたパラメータとなる。
【0206】
往々にして、Delta_Pressureが変化する期間がほとんどない場合もある。正常動作期間中のDelta_Pressureのノイズがモデルフィッティングプログラムを混乱させるおそれがある。これに対処するために、モデルを二相で開発する。即ち、最初は、Delta_Pressureが変化する期間だけを含む小さいデータセットを用いてモデルのフィッティングを行う。次いで、決定された値で圧力依存性パラメータ(「a」と、おそらくは欠落している上流または下流圧力)を固定して、大きい方のデータセットを用いてモデルを再開発する。
【0207】
C.流量対バルブ異常性表示のファジィネット処理
任意の二次元工学的冗長性モデルと同様に、異常性の尺度にも2タイプ即ち、「正常動作域」と「正常モデル偏差」がある。「正常モデル偏差」は、正規化された指標即ち誤差/max_errorに基づいている。これは、タイプ4のファジィ識別器(図16)に送られる。開発者は、正規化された指標を用いて、標準的な方法で正常(値0)から異常(値1)への遷移を検出することができる。
【0208】
「正常動作域」インデックスは、正常領域からのバルブ位置の距離である。これは通常、バルブ位置が変化してもバルブ内の流量がほとんどまたは全く変化しないバルブの動作の領域を表す。開発者は再度、タイプ4のファジィ識別器を用いて、正常動作域の上下端および正常動作から異常動作への遷移の両方をカバーすることができる。
【0209】
D.複数の流量/バルブモデルのグループ化
オペレータが好む流量/バルブモデルのグループ化の一般的な方法は、これらのモデルのすべてを単一のファジィネットワークに入れて、傾向指示器によって、それらの重要な流量コントローラのすべてが機能していることをオペレータに教える。その場合、ファジィネットワーク(図4)へのモデル表示は、各々の流量/バルブモデルに対して「正常動作域」および「正常モデル偏差」の表示を含んでいる。この傾向は、最悪モデル表示からの識別器の結果を含むことになる。
【0210】
共通の設備タイプがグループ化された場合、このグループに注目するオペレータが好む別の方法として、流量/バルブのパレート図を用いるものがある(図17)。このチャートでは、上位10個の異常なバルブが左端の最も異常なものから右端の最も異常でないものまで動的に配置される。各々のパレートバーもまた、正常範囲内にあるモデル異常性表示の変動度を示す参照ボックスを備えている。図17の図は、「バルブ10」が実質的に正常ボックスの外側にあるが、他のものはすべて正常に振舞っていることを示す。オペレータは次に、図2と同様に「バルブ10」のプロットを調べて、流量制御ループに関する問題を診断する。
【0211】
II.多次元工学的冗長性モデル
次元が2より大きくなったら、高次元工学的冗長性チェックを扱うべく単一の「PCA状」モデルを開発する。多次元冗長性の例としては以下のものがある。
・圧力1=圧力2=....=圧力n
・プロセスユニット1への物質流量=プロセスユニット1からの物質流量=...プロセスユニット2への物質流量
【0212】
測定値の較正誤差のため、これらの式は各々で係数を補償する必要がある。よって、最初に開発すべきモデルセットは以下の通りである。
F1(yi)=a1G1(xi)+フィルタリング済みバイアス1,i+オペレータバイアス1+誤差1,i
F2(yi)=anG2(xi)+フィルタリング済みバイアス2,i+オペレータバイアス2+誤差2,i
Fn(yi)=anGn(xi)+フィルタリング済みバイアスn,i+オペレータバイアスn+誤差n,i
式18
【0213】
これらのモデルは、二次元の工学的冗長性モデルが開発されたのと同一の方法で開発される。
【0214】
このセットの多次元チェックは、ここで「PCA的」モデルに変換される。この変換は、PCAモデルにおける主成分を、主成分係数(負荷)が、この単独作用に起因する測定値の比例的変化を表す、プロセスに対する独立した効果のモデルとしての解釈に依存する。図3では、3種類の独立かつ冗長な尺度X1、X2、X3がある。X3が1ずつ変化すると、その都度X1はa1ずつ変化し、X2はa2ずつ変化する。この関係の組は、係数がスケーリングされてない工学単位である、単一の主成分モデルPとして表される。
P=a1X1+a2X2+a3X3 式19
式中、a3=1である。
【0215】
当該モデルのこの工学単位のバージョンは、以下のように標準的なPCAモデル形式に変換することができる。
【0216】
標準的な統計概念との類似性を示すならば、各次元Xの変換係数は、正常動作域に基づくものとすることができる。たとえば、平均前後の3σを用いて正常動作域を定義すれば、スケーリングされた変数は以下のように定義される。
Xscale=Xnormal operating range/6σ 式20
(正常動作データの99.7%は平均から3σ以内に入るはずである。)
Xmid=Xmid point of operating range 式21
(「平均」を正常動作域の中点として明示的に定義)
X’=(X−Xmid)/Xscale 式22
(平均とσが決定された後の標準的なPCAスケーリング)
【0217】
Xi用のP’負荷は以下の通りである。
【数4】
(負荷ベクトルを正規化する旨の要件)
【0218】
これはPを以下のように変換する。
P’=b1*X1+b2*X2+・・・+bn*XN 式24
P’“標準偏差”=b1+b2+・・・+bn 式25
【0219】
この変換により、計算、例外処理、オペレータへの提示および対話に標準的なPCA構造を用いて多次元工学的冗長性モデルを取り扱うことができる。
【0220】
異常事象検出のためのPCAモデルおよび単純な工学モデルの配備
I.オペレータおよび既知の事象抑制
抑制論理は、以下の目的に必要とされる。
・測定可能ないつもと違う事象から虚偽の表示を除外する方法を提供する
・オペレータが調べた異常な表示を消去する方法を提供する
・保守のため一時的にモデルまたは測定値を無効にする方法を提供する
・不良動作するモデルを、それらが再調整されるまで無効にする方法を提供する
・不良動作する機器を永久に無効にする方法を提供する
【0221】
抑制には2種類ある。即ち外部の測定可能な事象により自動的に起動される抑制と、オペレータにより開始される抑制である。これらの2種類の抑制の背後にある論理を図18、19に示す。これらの図はファジィ化モデル指標に生じている抑制を示しているが、抑制は、特定の測定値に対して、特定のモデル指標に対して、モデル全体に対して、或いはプロセス領域内のモデルの組み合わせに対しても生じ得る。
【0222】
オペレータが開始した抑制には、抑制が終了した時点を判定する2個のタイマーがある。1個のタイマーは、抑制された情報が正常状態に戻ってそのままであることを確かめる。このタイマーの典型的な値は15〜30分である。第2のタイマーは、正常状態に戻ったか否かに拘らず、異常事象のチェックを再起動させる。このタイマーの典型的な値は、オペレータの勤務シフト(8〜12時間)に等しいか、または半永久的な抑制の場合には極めて長時間となる。
【0223】
事象に基づく抑制の場合、測定可能なトリガが必要である。これは、オペレータによるセットポイントの変更、突然の測定値変化またはデジタル信号であり得る。この信号は、図20に示すタイミング信号に変換される。このタイミング信号は、以下の式を用いてトリガ信号から生成される。
Yn=P*Yn−1+(1−P)*Xn 指数フィルタの式 式26
P=Exp(−Ts/Tf) フィルタ定数の計算 式27
Zn=Xn−Yn タイミング信号の計算 式28
式中、
Yn トリガ信号の現在のフィルタリング済み値
Yn−1 トリガ信号の以前のフィルタリング済み値
Xn トリガ信号の現在の値
Zn 図20に示すタイミング信号
P 指数フィルタ定数
Ts 測定値のサンプル時間
Tf フィルタ時定数
である。
【0224】
タイミング信号が閾値(図20に0.05として示す)を超えている間は、事象は抑制されたままである。開発者は、フィルタ時定数Tfを変えることで抑制の長さを設定する。この機能のために簡単なタイマーを用いてもよいが、このタイミング信号は異なるサイズのトリガ信号に対応しており、変化が大きい場合には抑制をより長く、変化が小さい場合には抑制をより短く生成する。
【0225】
図21に、事象抑制とオペレータ抑制がPCAモデルのあらかじめ規定された入力の組を無効にする様子を示す。自動的に抑制される入力の組がオンラインモデル性能から決定される。オペレータが見たくない表示をPCAモデルが出す場合は常に、この表示を誤差の二乗和指標に対する少数の個々の寄与分まで辿ることができる。これらの個々の寄与分を抑制すべく、この指標の計算は以下のように修正される。
【数5】
wi−入力i(通常は1に等しい)に対する寄与分の重み
ei−入力iからの二乗和誤差の寄与分
【0226】
トリガ事象が生じた場合、抑制対象である入力の各々について寄与分の重みがゼロに設定される。これらの入力が再有効化される場合、寄与分の重みは段階的に値1に戻される。
【0227】
II.PCAモデル分解
PCAモデルは広範なプロセス設備範囲を用いて構築されているが、モデル指標を分離して、オペレータのプロセスに対する認識によりよく合致して、異常事象の兆候に対する感度を向上させるグループに分けることができる。
【0228】
再び式29を参照すると、誤差の二乗和のいくつかのグループ分けが可能である。
【数6】
【0229】
通常、これらのグループ分けは設備のより小さいサブユニット周辺(装置の再沸器セクションなど)または設備の機能に関連するサブグループ分け(製品の品質など)に基づいている。
【0230】
各々の寄与分eiがプロセスノイズに基づいて常に誤差の二乗和に追加されるため、ノイズに起因する指標のサイズは当該指標に寄与する入力の個数に線形に増加する。誤差の二乗和計算への寄与がより小さいため、当該指標の信号対雑音比が向上して、異常事象に対する指標の応答性が向上する。
【0231】
同様の方法で、各々の主成分を設備のグループ分けに一致するように再分割することができ、各々のサブグループ用にホテリングT2指標に類似した指標を生成することができる。
【数7】
【0232】
これらの指標の閾値は、試験データをモデルに通して、試験データに対するそれらの性能に基づいて閾値の感度を設定することにより計算される。
【0233】
これらの新たな指標は、通常のPCAモデルが扱われるのと同一の方法でオペレータ向けに解釈される。元の入力に基づくパレート図を、誤差の二乗和の指標への最大寄与分およびT2計算における最大Pへの最大寄与分について示す。
【0234】
III.重なり合うPCAモデル
入力がいくつかのPCAモデルに現れることにより、モデルに影響を及ぼすすべての相互作用がモデルの範囲内で含まれるようになる。これにより、これらの入力が誤差の二乗和指標の主要な寄与分である場合、オペレータ向けに複数の表示を与えることがあり得る。
【0235】
この問題を回避するために、複数のPCAモデルに現れるあらゆる入力に対し、それらのPCAモデルの1個をその一次側モデルとして割り当てる。一次側PCAモデル向けの式29における寄与分の重みは1に保持される一方、非一次側PCAモデルの重みは0に設定される。
【0236】
IV.オペレータ対話およびインタフェース設計
オペレータインタフェースの主な目的は以下の通りである。
・オペレータの権限下にある主要プロセス領域が正常である旨の表示を連続的に提供する
・背景にあるモデル情報への迅速な(マウスクリック1、2回)ナビゲーションを提供する
・オペレータに対し、モデルを使用可能にする制御を提供する。図22は、オペレータが用いる一次側インタフェースにおいてこれらの設計目標がどのように表されるかを示す。
【0237】
ファジィペトリネットからの最終出力は、図4に示すように正常性傾向である。この傾向は、ファジィ識別関数に定義された異常性の最大尤度を示すモデル指標を表す。要約に示される傾向の個数には自由度があり、オペレータと話し合って決定される。この傾向の上に、オペレータが処置を講じるべき時に信号を出しやすくする2本の基準線があり、黄色の線は通常は0.6の値で設定され、赤色の線は通常は0.9の値で設定される。これらの線は、オペレータに対し、いつ処置を講じるべきであるかの指針を与える。傾向が黄色の線を越えた場合、図4における緑色の三角形が黄色に変わり、傾向が赤色の線を越えた場合、緑色の三角形は赤色になる。当該三角形にはまた、最も異常な表示を与えているモデルに関連付けられたディスプレイにオペレータを誘導する機能を備えている。
【0238】
当該モデルがPCAモデルであるか、または設備グループ(すべての制御バルブなど)の一部である場合、緑色の三角形を選択するとパレート図が作成される。PCAモデルの場合、モデル指標への多数の最大寄与分のうち、これは最も異常(左側)から最も異常でない(右側)までを示す。大抵は、主要な異常事象インジケータは最初の2、3個の測定値の中にある。パレート図は、異常の兆候であると見なされる前にどの程度測定が通常とは異なるかをオペレータに示すために、各バーの周辺に赤い囲み枠を含む。
【0239】
PCAモデルの場合、オペレータには、棒グラフパレートでの順序に合致する傾向パレートが与えられる。傾向パレートにより、各プロットは2個の傾向、即ち実際の測定値(シアン)と、すべてが正常(褐色)な場合に測定値が取るべきであった値のPCAモデルからの推定値とを有する。
【0240】
バルブ/流量モデルの場合、パレートの下での詳細は、二次元の流量対バルブ位置モデルプロットである。このプロットから、オペレータはモデルに対しオペレータバイアスを適用することができる。
【0241】
設備がグループ分けされていない場合、緑色の三角形を選択することにより、オペレータは概略傾向の下での最悪二次元モデルへ直接誘導される。
【0242】
各々のバーの下でオン/オフボタンを選択することにより、オペレータによる抑制をパレート図レベルで行うことができる。
【0243】
【表1】
【0244】
【表2】
【0245】
【表3】
【0246】
【表4】
【0247】
【表5】
【0248】
【表6】
【0249】
【表7】
【0250】
【表8】
【0251】
付録3
工学モデル/ヒューリスティックモデル
A.バルブ−流量−モデル
AED PPアプリケーション用に開発されたバルブモデルは全部で20ある。いずれのバルブモデルにもバイアス更新が実施されている。流量は以下のようにしてデルタ圧力に対して補償される。
補償流量=FL/(DP/StdDP)^a、
式中、FL=実際の流量、DP=上流圧力−下流圧力、StdDP=標準デルタ圧力、aはパラメータである。次に、推定の補償流量と実際の補償流量との間のプロットを作成し、モデルの整合性をチェックする(X−Yプロット)。以下、12のバルブ流量モデルの一覧をあげておく。以下のモデルでの変数の順序は、(OP、FL、UpP−DnP、StdDP、a、Bound)である。
【0252】
【表9】
【0253】
B.コントローラモニタ(CM)およびセンサチェック(SC)モニタ:
CMおよびSCは、ポリ8センサチェック領域およびポリ4センサチェック領域での重要なコントローラおよびセンサをカバーする。CMは、以下のいずれかがルールの限界から外れた場合に、機能停止した機器、ばらつきのある機器またはコントローラの故障を検出する。
1.標準偏差
2.測定値がセットポイントに達することなく、セットポイントと交差もしない時間の長さの累計
3.測定値とセットポイントとの偏差の累計
【0254】
SCは、相関ルールの限界から外れていないかどうか、センサ同士の関係をチェックする。
【0255】
CMモニタおよびSCモニタは、以下の重要な機器のために実装される。
【0256】
【表10】
【0257】
C.ヒューリスティックモデルモニタ:
触媒領域(ポリ8触媒)における触媒詰まりの問題並びに、顆粒領域(801顆粒、831顆粒および仕上げ4領域)でのラインの詰まりの問題を検出することに焦点を合わせた4つのヒューリスティックモデルモニタがある。
【0258】
ポリ8触媒ヒューリスティックモデルは、以下の変数がルールの限界から外れるか否かをチェックして、触媒領域での触媒詰まりの問題を検出することに焦点を合わせている。
1.触媒ラインの上流圧力
2.触媒シリンダの切り換え
3.触媒ラインの下流圧力
4.共触媒および触媒流量
5.触媒システムのフラッシュ流量
6.Pre−RX1温度
【0259】
801顆粒、831顆粒および仕上げ4領域ヒューリスティックモデルは、各領域における以下の変数がルールの限界から外れるか否かをチェックして、対象となる3つの顆粒領域での詰まりの問題を検出することに焦点を合わせている。
1.ウェイトフィーダー速度
2.原料流量
3.ブレンダー速度
4.ウェイトフィーダーモータ
5.圧力変動
【図面の簡単な説明】
【0260】
【図1】オンラインシステムにおける情報が、プロセス領域の正常性/異常性を示す概略指標に至るまでに、さまざまな変換、モデル計算、ファジィペトリネットおよび統合を経てどのように流れるかを示す。
【図2】単純なx−yプロットとしてのオペレータに対するバルブ流量のプロットを示す。
【図3】PCAモデルとして表現された三次元冗長度を示す。
【図4】ファジィネットワークの設定の概略図を示す。
【図5】異常事象アプリケーションを開発するためのプロセス全体の概略図を示す。
【図6】プロセス制御カスケードの構造の概略図を示す。
【図7】多変数拘束コントローラMVCCの構造の概略図を示す。
【図8】現在品質のオンライン推測的推定の概略図を示す。
【図9】履歴データのKPI分析を示す。
【図10】信号対雑音比の図を示す。
【図11】プロセスの動力学が2つの測定値の現在値の相関をいかにして分断し得るかを示す。
【図12】プロセスデータの確率分布を示す。
【図13】PRESS統計量の図を示す。
【図14】二次元のエネルギ収支モデルを示す。
【図15】長時間にわたって一定運転した場合の流量、バルブ位置およびデルタ圧力データの典型的な伸び(stretch)を示す。
【図16】タイプ4のファジィ識別器を示す。
【図17】流量対バルブのパレート図を示す。
【図18】オペレータ抑制論理の概略図を示す。
【図19】事象抑制論理の概略図を示す。
【図20】事象抑制の持続時間の設定を示す。
【図21】PCAモデルにおける入力のあらかじめ規定された集合を無効化する事象抑制およびオペレータ抑制を示す。
【図22】オペレータが使用する一次側インタフェースで設計目標がどのように表現されるかを示す。
【図23】簡略化したPPの概略レイアウトを示す。
【図24】PP動作用の全問題モニタのオペレータディスプレイを示す。
【図25】ポリ8動作領域での触媒詰まりの問題に対するファジィ理論に基づく連続異常性インジケータを示す。
【図26】ポリ8動作領域とポリ8触媒領域の両方の異常性モニタにおける触媒詰まりの問題のAED警告を示す。
【図27】裏付けとなる証拠と一緒に、ポリ8動作領域での触媒詰まりの問題に対する完全な掘り下げを示す。
【図28】ポリ8触媒領域での触媒詰まりの問題に対する掘り下げを問題領域の場所と一緒に示す。
【図29】ポリ8触媒領域での触媒詰まりの問題を検出するためのファジィ理論ネットワークを示す。
【図30】ポリ8動作の背景にあるPCAモデルの自動切り換えのために開発されたルールのあるファジィ理論ネットワークカップルを示す。
【図31】グレード切り換えの自動検出およびプロセス遷移時間の設定のために開発されたファジィ理論ネットワークを示す。
【図32】図27でハイライト表示した触媒詰まりの問題に対応する逸脱したセンサの残差を表すパレート図を示す。
【図33】図32におけるタグのマルチ傾向を示す。同図には、タグ値とモデル予測が示される。
【図34】逸脱しているバルブ流量モデルをランキング順位付けしたパレート図を示す。
【図35】バルブ流量モデルのX−Yプロット即ち、バルブ開口対流量を示す。
【図36】コントローラモニタおよびセンサ妥当性チェックのための掘り下げを示す。
【図37】コントローラモニタおよびセンサ妥当性チェックのためのファジィ理論ネットワークを示す。
【図38】ヒューリスティックモデルのための掘り下げを示す。
【図39】ヒューリスティックモデルのためのファジィ理論を示す。
【図40】バルブ流量モニタファジィネットを示す。
【図41】制御可能な範囲外のバルブの一例を示す。
【図42】各PCによって順次モデル化された変動量をプロットする、標準的な統計プログラムを示す。
【図43】事象抑制ディスプレイを示す。
【図44】AED事象フィードバックフォームを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマープロセスでの異常事象検出(AED)のための方法であって、
(a)プロセスユニットからのオンライン測定値を、対応するプロセスユニットでの正常動作のモデルのセットと比較する工程;
(b)前記プロセスユニットにおける異常状態の存在を示すために、現在の動作が想定される正常動作とは異なるか否かを判断する工程;
(c)プロセスオペレータがポリマープロセスでの異常状態の背景にある原因を判断するのを助ける工程;および
(d)是正措置を実施してユニットを正常動作に戻す工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記モデルのセットが、1つまたは複数の動作モードを含み得る、各グループにつき1つのモデルの割合で、設備グループおよび動作モードに対応することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モデルのセットが、各グループおよび各モードにつき1つのモデルの割合で、設備グループおよびプロセス動作モードに対応することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記設備グループが、主要な物質およびエネルギーのすべての相互作用を同一グループに含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記設備グループが、同一グループに迅速な再利用を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記正常動作のモデルのセットが、主成分モデルを含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記正常動作のモデルのセットが、工学モデルを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
各プロセスユニットの前記正常動作のモデルのセットが、主成分モデル、工学モデルまたはヒューリスティックモデルのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
各プロセスユニットの前記正常動作のモデルが、主成分分析(PCA)、相関に基づく工学モデルまたはヒューリスティックモデルを用いて判定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマープロセス領域が、11の異常性モニタに分解されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記プロセスユニットが、ポリマープロセスシステムの動作セクションに分割されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
9つの動作セクションがあることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記9つの動作セクションが、触媒調製領域(Cat Prep)、リアクタ(RX)、再利用ガスコンプレッサ、再利用ガス回収システム、ドライヤ、2つの顆粒領域および2つの押出機システムの9つの動作セクションを含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記各異常性モニタが、領域での異常状態の確率を示す連続信号を生成することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記モデルが、センサによって測定されるプロセス変数値を含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項16】
異なるプロセスユニットのモデルの前記主成分が、同一のセンサによって測定されるいくつかのプロセス変数値を含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記モデルが更に、特定のユニット、触媒、リアクタ、ドライヤ、再利用材料領域およびバルブ/流量周囲のタグ同士の整合性または関係を識別して、関係パターンの早期の崩壊があればこれを示すことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記モデルが、モデル計算を抑制して特別な原因動作による誤判定を排除する工程を更に含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
(a)前記モデルが疑わしいデータに基づく粗いモデルから開始されることを判断する工程;
(b)前記粗いモデルを用いて高品質の訓練データを収集し、かつ、モデルを改善する工程;および
(c)工程(b)を繰り返してモデルを更に改善する工程
を更に含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項20】
前記訓練データが、プロセシングユニットのモデルの履歴データを含むことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記モデルが変換された変数を含むことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記変換された変数が、蒸留塔における還流対供給比、高純度蒸留の組成のログ、圧力補償された温度測定、副流の生成、バルブ位置への流れおよび指標(温度)への反応率を含むことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
2つの変数のいくつかの測定値のペアが、動的伝達関数を用いて変数のうちの1つで時間同期されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記プロセス動作における動作点の変化に影響されるプロセス測定値の変数を、移動平均を減算することで偏差変数に変換することを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記モデルのノイズが補正されることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記モデルが、変数の雑音のある測定値をフィルタリングまたは除去することで補正されることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
変数の測定値がスケーリングされることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記測定値が、その変数に想定される正常な範囲にスケーリングされることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
異常性モニタの一覧が自動的に識別され、切り離され、ランク付けされ、オペレータに向けて表示されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項30】
オペレータが、事象の調査に役立つ、異なる詳細レベルで診断情報を提示されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項31】
主成分の係数がほぼ等しいサイズになるように主成分数を選択することを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項32】
前記主成分が、オンライン測定値によって提供されるプロセス変数を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項33】
いくつかの測定値のペアが、動的フィルタを用いて変数のうちの1つと時間同期されることを特徴とする請求項32に記載のモデル。
【請求項34】
前記プロセス動作での動作点の変化に影響されるプロセス測定変数を偏差変数に変換することを特徴とする請求項32に記載のモデル。
【請求項35】
主成分数が、連続した成分で表される全プロセス変動の大きさで選択されることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項36】
ポリマープロセスユニットのいくつかでの異常事象検出(AED)のためのシステムであって、
(a)プロセスユニットの動作を示すプロセスユニットのためのモデルのセット;
(b)前記プロセスユニットにおける異常状態の存在を示すために、現在の動作が想定される正常動作とは異なることを示すディスプレイ;および
(c)ポリマープロセスユニットにおける異常状態の背景にある原因を示すディスプレイ
から構成されることを特徴とするシステム。
【請求項37】
前記各プロセスユニットのモデルが、主成分モデル、工学モデルまたはヒューリスティックモデルのいずれかであることを特徴とする請求項36に記載のシステム。
【請求項38】
PPが、各セクションに主成分モデルを有する3つの動作セクションに区切られることを特徴とする請求項37に記載のシステム。
【請求項39】
前記主成分が、オンライン測定値によって提供されるプロセス変数を含むことを特徴とする請求項38に記載のシステム。
【請求項40】
前記モデルが、モデル計算を抑制して、オペレータによる通知および誤判定を排除することを特徴とする請求項38に記載のシステム。
【請求項41】
(a)前記モデルが、疑わしいデータに基づく初期モデルを得ることから開始することを導き、
(b)前記初期モデルを用いてデータを洗練させるとともにモデルを改善し、
(c)工程(b)を繰り返してモデルを改善する
ことを特徴とする請求項37に記載のシステム。
【請求項42】
前記訓練データセットが、モデル開発のためのプロセシングユニットの履歴データを含むことを特徴とする請求項41に記載のシステム。
【請求項43】
前記モデルが、変換された変数を含むことを特徴とする請求項42に記載のシステム。
【請求項44】
前記変換された変数が、蒸留塔における還流対全生成物流量比、蒸留塔における組成のログおよびオーバーヘッド圧力、圧力補償された温度測定、バルブ位置への流れ、床差温度および圧力を含むことを特徴とする請求項43に記載のシステム。
【請求項45】
いくつかの測定値のペアが、動的フィルタを用いて変数のうちの1つと時間同期されることを特徴とする請求項42に記載のシステム。
【請求項46】
前記プロセス動作における動作点の変化に影響されるプロセス測定変数を、偏差変数に変換することを特徴とする請求項42に記載のシステム。
【請求項47】
変数の測定値が、モデル識別の前にスケーリングされることを特徴とする請求項42に記載のシステム。
【請求項48】
前記測定値が、その変数に想定される正常な範囲にスケーリングされることを特徴とする請求項47に記載のシステム。
【請求項49】
主成分数が、連続した成分で表される全プロセス変動の大きさで選択されることを特徴とする請求項42に記載のシステム。
【請求項50】
前記ポリマープロセスが、ポリオレフィンプロセスであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項51】
前記ポリオレフィンプロセスが、ポリエチレン、ポリプロピレンプロセスまたはこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記ポリマープロセスが、ポリオレフィンプロセスであることを特徴とする請求項36に記載のシステム。
【請求項53】
前記ポリオレフィンプロセスが、ポリエチレン、ポリプロピレンプロセスまたはこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項52に記載のシステム。
【請求項54】
前記モデルのセットが、グレード切り換えの自動検出、グレード遷移時間および遷移時間におけるモデルの自動抑制を含むことを特徴とする請求項36に記載のシステム。
【請求項55】
前記システムが、オンラインモデルの自動切り換えを含むことを特徴とする請求項36に記載のシステム。
【請求項56】
前記モデルのセットが、異なるグレードファミリについて異なるモデルを含むことを特徴とする請求項36に記載のシステム。
【請求項1】
ポリマープロセスでの異常事象検出(AED)のための方法であって、
(a)プロセスユニットからのオンライン測定値を、対応するプロセスユニットでの正常動作のモデルのセットと比較する工程;
(b)前記プロセスユニットにおける異常状態の存在を示すために、現在の動作が想定される正常動作とは異なるか否かを判断する工程;
(c)プロセスオペレータがポリマープロセスでの異常状態の背景にある原因を判断するのを助ける工程;および
(d)是正措置を実施してユニットを正常動作に戻す工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記モデルのセットが、1つまたは複数の動作モードを含み得る、各グループにつき1つのモデルの割合で、設備グループおよび動作モードに対応することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モデルのセットが、各グループおよび各モードにつき1つのモデルの割合で、設備グループおよびプロセス動作モードに対応することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記設備グループが、主要な物質およびエネルギーのすべての相互作用を同一グループに含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記設備グループが、同一グループに迅速な再利用を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記正常動作のモデルのセットが、主成分モデルを含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記正常動作のモデルのセットが、工学モデルを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
各プロセスユニットの前記正常動作のモデルのセットが、主成分モデル、工学モデルまたはヒューリスティックモデルのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
各プロセスユニットの前記正常動作のモデルが、主成分分析(PCA)、相関に基づく工学モデルまたはヒューリスティックモデルを用いて判定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマープロセス領域が、11の異常性モニタに分解されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記プロセスユニットが、ポリマープロセスシステムの動作セクションに分割されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
9つの動作セクションがあることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記9つの動作セクションが、触媒調製領域(Cat Prep)、リアクタ(RX)、再利用ガスコンプレッサ、再利用ガス回収システム、ドライヤ、2つの顆粒領域および2つの押出機システムの9つの動作セクションを含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記各異常性モニタが、領域での異常状態の確率を示す連続信号を生成することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記モデルが、センサによって測定されるプロセス変数値を含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項16】
異なるプロセスユニットのモデルの前記主成分が、同一のセンサによって測定されるいくつかのプロセス変数値を含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記モデルが更に、特定のユニット、触媒、リアクタ、ドライヤ、再利用材料領域およびバルブ/流量周囲のタグ同士の整合性または関係を識別して、関係パターンの早期の崩壊があればこれを示すことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記モデルが、モデル計算を抑制して特別な原因動作による誤判定を排除する工程を更に含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
(a)前記モデルが疑わしいデータに基づく粗いモデルから開始されることを判断する工程;
(b)前記粗いモデルを用いて高品質の訓練データを収集し、かつ、モデルを改善する工程;および
(c)工程(b)を繰り返してモデルを更に改善する工程
を更に含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項20】
前記訓練データが、プロセシングユニットのモデルの履歴データを含むことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記モデルが変換された変数を含むことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記変換された変数が、蒸留塔における還流対供給比、高純度蒸留の組成のログ、圧力補償された温度測定、副流の生成、バルブ位置への流れおよび指標(温度)への反応率を含むことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
2つの変数のいくつかの測定値のペアが、動的伝達関数を用いて変数のうちの1つで時間同期されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記プロセス動作における動作点の変化に影響されるプロセス測定値の変数を、移動平均を減算することで偏差変数に変換することを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記モデルのノイズが補正されることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記モデルが、変数の雑音のある測定値をフィルタリングまたは除去することで補正されることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
変数の測定値がスケーリングされることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記測定値が、その変数に想定される正常な範囲にスケーリングされることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
異常性モニタの一覧が自動的に識別され、切り離され、ランク付けされ、オペレータに向けて表示されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項30】
オペレータが、事象の調査に役立つ、異なる詳細レベルで診断情報を提示されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項31】
主成分の係数がほぼ等しいサイズになるように主成分数を選択することを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項32】
前記主成分が、オンライン測定値によって提供されるプロセス変数を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項33】
いくつかの測定値のペアが、動的フィルタを用いて変数のうちの1つと時間同期されることを特徴とする請求項32に記載のモデル。
【請求項34】
前記プロセス動作での動作点の変化に影響されるプロセス測定変数を偏差変数に変換することを特徴とする請求項32に記載のモデル。
【請求項35】
主成分数が、連続した成分で表される全プロセス変動の大きさで選択されることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項36】
ポリマープロセスユニットのいくつかでの異常事象検出(AED)のためのシステムであって、
(a)プロセスユニットの動作を示すプロセスユニットのためのモデルのセット;
(b)前記プロセスユニットにおける異常状態の存在を示すために、現在の動作が想定される正常動作とは異なることを示すディスプレイ;および
(c)ポリマープロセスユニットにおける異常状態の背景にある原因を示すディスプレイ
から構成されることを特徴とするシステム。
【請求項37】
前記各プロセスユニットのモデルが、主成分モデル、工学モデルまたはヒューリスティックモデルのいずれかであることを特徴とする請求項36に記載のシステム。
【請求項38】
PPが、各セクションに主成分モデルを有する3つの動作セクションに区切られることを特徴とする請求項37に記載のシステム。
【請求項39】
前記主成分が、オンライン測定値によって提供されるプロセス変数を含むことを特徴とする請求項38に記載のシステム。
【請求項40】
前記モデルが、モデル計算を抑制して、オペレータによる通知および誤判定を排除することを特徴とする請求項38に記載のシステム。
【請求項41】
(a)前記モデルが、疑わしいデータに基づく初期モデルを得ることから開始することを導き、
(b)前記初期モデルを用いてデータを洗練させるとともにモデルを改善し、
(c)工程(b)を繰り返してモデルを改善する
ことを特徴とする請求項37に記載のシステム。
【請求項42】
前記訓練データセットが、モデル開発のためのプロセシングユニットの履歴データを含むことを特徴とする請求項41に記載のシステム。
【請求項43】
前記モデルが、変換された変数を含むことを特徴とする請求項42に記載のシステム。
【請求項44】
前記変換された変数が、蒸留塔における還流対全生成物流量比、蒸留塔における組成のログおよびオーバーヘッド圧力、圧力補償された温度測定、バルブ位置への流れ、床差温度および圧力を含むことを特徴とする請求項43に記載のシステム。
【請求項45】
いくつかの測定値のペアが、動的フィルタを用いて変数のうちの1つと時間同期されることを特徴とする請求項42に記載のシステム。
【請求項46】
前記プロセス動作における動作点の変化に影響されるプロセス測定変数を、偏差変数に変換することを特徴とする請求項42に記載のシステム。
【請求項47】
変数の測定値が、モデル識別の前にスケーリングされることを特徴とする請求項42に記載のシステム。
【請求項48】
前記測定値が、その変数に想定される正常な範囲にスケーリングされることを特徴とする請求項47に記載のシステム。
【請求項49】
主成分数が、連続した成分で表される全プロセス変動の大きさで選択されることを特徴とする請求項42に記載のシステム。
【請求項50】
前記ポリマープロセスが、ポリオレフィンプロセスであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項51】
前記ポリオレフィンプロセスが、ポリエチレン、ポリプロピレンプロセスまたはこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記ポリマープロセスが、ポリオレフィンプロセスであることを特徴とする請求項36に記載のシステム。
【請求項53】
前記ポリオレフィンプロセスが、ポリエチレン、ポリプロピレンプロセスまたはこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項52に記載のシステム。
【請求項54】
前記モデルのセットが、グレード切り換えの自動検出、グレード遷移時間および遷移時間におけるモデルの自動抑制を含むことを特徴とする請求項36に記載のシステム。
【請求項55】
前記システムが、オンラインモデルの自動切り換えを含むことを特徴とする請求項36に記載のシステム。
【請求項56】
前記モデルのセットが、異なるグレードファミリについて異なるモデルを含むことを特徴とする請求項36に記載のシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【公表番号】特表2009−536971(P2009−536971A)
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501541(P2009−501541)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/007019
【国際公開番号】WO2007/109320
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/007019
【国際公開番号】WO2007/109320
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】
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