説明

異常検知装置

【課題】昇降機構の駆動源であるアクチュエータにおけるセルフロック機能が完全に働かなくなる前に、該セルフロック機能を補うブレーキ手段の異常を早期検知することで、安全性を高めることができる異常検知装置を提供する。
【解決手段】制御手段60は、入力スイッチ61の非操作時に変位検知手段50によって便器11の下方への変位が検知された場合に、セルフロックのみならずブレーキ手段40が作動せず、該ブレーキ手段40に異常が発生したと判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータによって物体を上下方向に駆動する昇降機構に設けられ、前記アクチュエータの動力喪失時に前記物体が自動的に当該位置で固定されるセルフロック機能を補うブレーキ手段の作用を監視し、該ブレーキ手段における異常を早期に検知するための異常検知装置に関する。ここでアクチュエータ(Actuator)とは、入力された電力を物理的運動に変換するものであって、機械ないし電気回路を構成する機械要素であり、一般には伸縮や屈伸といった単純な運動を行うものが該当する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アクチュエータを利用して電動で各種動作を行う装置は多数知られており、その中でも例えば、電動モータの回転力をシャフトの直線運動に変換するタイプのものでは、様々な昇降機構に利用されている。このようなアクチュエータは、一般的には電動モータの出力軸に固定されたウォームと、該ウォームに噛み合い回転するウォームホィールと、該ウォームホィールにその中心軸を通るように固定されたスクリューと、該スクリューに対して相対的に回転可能に螺合するナットと、該ナットに基端が固定され前記スクリューに対して軸方向に移動可能に外嵌するシャフトとを備えて成る。
【0003】
前記アクチュエータには、電動モータの回転を止めると、従動側が自動的に固定されるセルフロック機能が一般的には備わっている。すなわち、ウォーム側からのみ駆動が可能であり、従動側であるウォームホィール側から駆動側であるウォームを回転することができないのが普通である。このようなセルフロック機能の有無は、ウォームのねじれ角度やウォームホィールとの摩擦力の大きさによって決まるものであった。
【0004】
ただし、前記アクチュエータによって昇降させる物体の重量の大きさ次第では、セルフロック機能だけでは保持しきれない場合もある。そこで、セルフロック機能における保持力を高めるためのブレーキ手段が付加されたアクチュエータも知られている。ここでブレーキ手段は、具体的には例えば、前記スクリューの途中に固定された合成樹脂製のドラムの外周に巻き付けられたコイルスプリングであった。
【0005】
前記コイルスプリングの一端側は定位置に固定され、他端側は遊び端として前記ドラムの外周に摺接しており、該コイルスプリングは、前記シャフトが上方へ移動する方向に前記スクリューが回転する時は拡径する一方、前記シャフトが下方へ移動する方向に前記スクリューが回転する時は縮径するように巻き付けられていた。このコイルスプリングの摩擦力によって、前記セルフロック機能だけでは保持しきれない物体でも、所定の位置に安全に保持することができる。
【0006】
このようなセルフロック機能を補うためのブレーキ手段が備わっているアクチュエータを利用して、本件発明者らは便器全体を昇降させることにより、お年寄りの立ち座りの補助や床清掃時の便宜を図ることが可能な昇降便器を新たに検討している。かかる昇降便器は、従来より知られている便座を昇降させるだけではなく、便器全体を昇降させるものであるため、当然より大きな重量を支えることが必要になると共に、なおさら安全性が求められるものであった。
【0007】
ところで、従来この種の昇降機構において安全性を高めるための機構としては、例えば特許文献1に記載されている落下防止装置が知られている。この落下防止装置は、制動手段の効きが甘くなったために、制動手段による制動開始から所定時間後にロック手段が作動した時に駆動軸が未だ回転している場合には、ロック手段が駆動軸の回転を強制停止させるだけでなく、自己ロックを行って強制停止状態を解除することができないようにする構成であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−312900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したブレーキ手段付きのアクチュエータでは、ブレーキ手段は摩擦によりブレーキ力を発生させているため、使用回数が増えるに従ってブレーキ手段を構成する前記合成樹脂製ドラムの外周部の磨耗が進み、セルフロック力は次第に低下するものであった。特にアクチュエータが定格以上の負荷・頻度で使用されると、発生した熱によって前記合成樹脂製ドラムの外周部のグリスが蒸発してしまう虞がある。この場合、定格通りに使用する時よりも磨耗が早く進み、ブレーキ力の低下が著しくなる。
【0010】
このようなアクチュエータを利用して便器全体を昇降させる場合には、前述した問題により、最終的には便器を支えることができなくなり落下の虞がある。そのため、便器の落下を未然に防ぐことにより、安全性を高めるための対策が希求されていた。ここで前述した特許文献1に記載の落下防止装置の利用について考慮すると、制動手段のみならずロック手段の構成が複雑で部品点数も多く、コストアップを招くという問題があるばかりでなく、セルフロック機能を補うためのブレーキ手段の安全性の確認に利用することには適さないという問題もあった。
【0011】
本発明は、以上のような従来の技術の有する問題点に着目してなされたものであり、昇降機構の駆動源であるアクチュエータにおけるセルフロック機能が完全に働かなくなる前に、該セルフロック機能を補うブレーキ手段の異常を早期検知することで、昇降対象となる物体の落下を未然に防ぐことができ、もって安全性を高めることができる異常検知装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存する。
[1]アクチュエータ(30)によって物体(11)を上下方向に駆動する昇降機構(20)に設けられ、前記アクチュエータ(30)の動力喪失時に前記物体(11)が自動的に当該位置で固定されるセルフロック機能を補うブレーキ手段(40)の作用を監視し、該ブレーキ手段(40)における異常を早期に検知するための異常検知装置(100)において、
前記アクチュエータ(30)を作動させる操作を行う入力スイッチ(61)と、前記物体(11)の上下方向への変位を検知する変位検知手段(50)と、前記昇降機構(20)を管理するための制御手段(60)とを備え、
前記制御手段(60)は、前記入力スイッチ(61)の非操作時に前記変位検知手段(50)によって前記物体(11)の下方への変位が検知された場合に、前記ブレーキ手段(40)に異常が発生したと判断することを特徴とする異常検知装置(100)。
【0013】
[2]前記制御手段(60)によって前記ブレーキ手段(40)に異常が発生したと判断された場合に、その旨を報知するための報知手段(70)を備えることを特徴とする[1]に記載の異常検知装置(100)。
【0014】
[3]前記変位検知手段(50)は、前記アクチュエータ(30)自体に設けられ、該アクチュエータ(30)における駆動側ないし従動側の部品の変位を通じて、前記物体(11)の下方への変位を間接的に検知するエンコーダであることを特徴とする[1]または[2]に記載の異常検知装置(100)。
【0015】
[4]前記物体(11)は便器本体であり、
前記昇降機構(20)は、前記便器本体を上下方向に駆動して任意の高さ位置に保持するものであることを特徴とする[1],[2]または[3]に記載の異常検知装置(100)。
【0016】
次に、前述した解決手段に基づく作用を説明する。
前記[1]に記載の異常検知装置(100)によれば、昇降機構(20)を成すアクチュエータ(30)によって物体(11)を上下方向に駆動するが、アクチュエータ(30)には、その動力喪失時に物体(11)を自動的に当該位置で固定するセルフロック機能が備わっており、さらにブレーキ手段(40)によってセルフロック力が高められる。
これにより、物体(11)がある程度重量があるものでも、確実に所定の高さ位置に保持することが可能となる。例えば、前記[4]に記載したように、前記物体(11)を便器本体として、便器の昇降機構(20)を構成することができる。
【0017】
前記アクチュエータ(30)の作動は、入力スイッチ(61)の操作により行われる。また、前記物体(11)の上下方向への変位は、前記アクチュエータ(30)の作動の有無に関わらず、変位検知手段(50)によって検知される。そして、入力スイッチ(61)の操作に関する信号や、変位検知手段(50)の検知に関する信号は、それぞれ制御手段(60)に入力されることにより、制御手段(60)によって昇降機構(20)は集中的に管理される。
【0018】
ところで、アクチュエータ(30)を使用する度に、通常はブレーキ手段(40)では磨耗が生じるため、セルフロック力はアクチュエータ(30)を使用する度に少しずつ弱くなる。かかるセルフロック力の低下によって最初に現れる症状は、前記入力スイッチ(61)によって下降操作を止めた時に、物体(11)が瞬時に停止することができなくなることである。すなわち、セルフロック力が弱まっている上に、下降していた物体(11)の慣性力が加わり、停止までに時間がかかることになる。
【0019】
そこで、前記制御手段(60)は、前記入力スイッチ(61)の非操作時に前記変位検知手段(50)によって物体(11)の下方への変位が検知された場合に、セルフロックのみならずブレーキ手段(40)が作動せず、該ブレーキ手段(40)に異常が発生したと判断する。すなわち、入力スイッチ(61)を操作してないにも関わらず、物体(11)が下方へ変位するという初期症状が現れた段階で、ブレーキ手段(40)に異常が発生したと判断する。
【0020】
このような制御手段(60)の判断に基づき、セルフロックのみならずブレーキ手段(40)が完全に利かなくなる前に、ブレーキ手段(40)の異常も含むセルフロックの不具合を検知することで、物体(11)の落下を未然に防ぐことができる。つまり、ブレーキ手段(40)の異常が発生した段階で、ブレーキ手段(40)を備えたアクチュエータ(30)の交換を促すことになり、もって安全性を高めることができる。
【0021】
また、前記[2]に記載したように、前記制御手段(60)によって前記ブレーキ手段(40)に異常が発生したと判断された場合に、その旨を報知するための報知手段(70)を備える場合には、確実かつ容易に前記ブレーキ手段(40)に異常が発生した事態を知らせることができる。ここで報知手段(70)とは、具体的には例えば、視覚的な報知を行う表示ランプのほか、聴覚的な報知を行う警報ブザー等が該当する。
【0022】
さらに、前記変位検知手段(50)に関しては、物体(11)の上下方向への変位を機械的または電気的に検知するものであれば何でも良いが、例えば前記[3]に記載したように、前記変位検知手段(50)は前記アクチュエータ(30)自体に設けられ、該アクチュエータ(30)における駆動側ないし従動側の部品の変位を通じて、前記物体(11)の下方への変位を間接的に検知するエンコーダとすると良い。
【0023】
これにより、例えば、物体(11)と接触するリミットスイッチや物体(11)を外部から光学的あるいは磁気的に監視するセンサのように、アクチュエータ(30)以外の部品を別途付加する必要がなく、全体として簡易に構成することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る異常検知装置によれば、制御手段によって、入力スイッチの非操作時に変位検知手段によって物体の下方への変位が検知された場合に、ブレーキ手段に異常が発生したと判断することにより、昇降機構の駆動源であるアクチュエータにおけるセルフロック機能が完全に働かなくなる前に、該セルフロック機能を補うブレーキ手段の異常を早期検知することで、昇降対象となる物体の落下を未然に防ぐことができ、もって安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る異常検知装置を概略的に示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る異常検知装置を搭載した昇降便器の構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る昇降便器の便器本体を通常位置よりも低い位置に保持している際の外観を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る昇降便器の便器本体を通常位置よりも高い位置に保持している際の外観を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る昇降機構を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る昇降機構の作動状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るアクチュエータを示す正面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るアクチュエータを示す底面図である。
【図9】図7のIX−IX線断面図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る異常検知装置の作用を説明するフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態に係るリモコンの作用を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づき本発明を代表する実施の形態を説明する。
図1は、本実施の形態に係る異常検知装置100を概略的に示すブロック図であり、図2は、異常検知装置100を搭載した昇降便器10の構成を示す斜視図である。図3は、昇降便器10を通常位置よりも低い最下位置に保持している際の外観を示す斜視図であり、図4は、昇降便器10を通常位置よりも高い最上位置に保持している際の外観を示す斜視図である。以下、本発明の係る異常検知装置100を昇降便器10に搭載する例について説明する。
【0027】
図2ないし図4に示すように、本実施の形態における昇降便器10は、従来より知られている便座の昇降だけでなく、便器11全体を昇降させるものである。かかる昇降便器10は、一般的な洋式タイプの便器11の上面に、便座(図示せず)および便蓋12(図4か図3参照)が開閉可能に取り付けられており、これら便器11全体が昇降機構20のアクチュエータ30によって上下方向に駆動される(図5,6参照)。
【0028】
図5および図6に示すように、昇降機構20は、フロア上に設置される固定フレーム21と、該固定フレーム21に対して上下方向に移動可能に支持された可動フレーム22とから成り、固定フレーム21に配設されたアクチュエータ30の駆動により、可動フレーム22と共に該可動フレーム22に支持された便器11が上下方向に駆動する。また、可動フレーム22の上部には水洗タンク24(図2参照)が配設される。なお、昇降機構20やアクチュエータ30等は、図3に示すように棚仕様のハウジング25内に収納される。
【0029】
図7ないし図9に示すように、アクチュエータ30はユニットとして構成されており、そのケース31内に収納された駆動系と、ケース31に対して出没し上下方向に駆動させるシャフト37を備えている。シャフト37の先端部37aが前記可動フレーム22側に押し引き可能に連結される。詳しく言えばアクチュエータ30の駆動系は、電動モータ32と、該電動モータ32の出力軸に固定されたウォーム33と、該ウォーム33に噛み合い回転するウォームホィール34とを備えて成る。
【0030】
ウォームホィール34には、その中心軸を通るようにスクリュー35が固定されており、該スクリュー35に対してスピンドルナット36が相対的に回転可能に螺合している。また、スクリュー35には、その軸方向に移動可能にシャフト37が外嵌しており、シャフト37の基端は、スピンドルナット36に固定されている。
【0031】
スピンドルナット36の外周部には突条としてのリブ36aが設けられており、スピンドルナット36の外周部が摺接するケース31の内壁には、リブ36aを軸方向へ直線状に案内する凹溝(図示せず)が設けられている。これにより、スクリュー35の回転によって、その軸方向へスピンドルナット36が送られ、結果としてシャフト37が上下動する。
【0032】
このようなアクチュエータ30には、電動モータ32の回転を止めると、従動側が自動的に固定されるセルフロック機能が備わっている。すなわち、ウォーム33側からのみ駆動が可能であり、従動側であるウォームホィール34側から駆動側であるウォーム33を回転することができない。このようなセルフロック機能は、ウォーム33のねじれ角度や、ウォームホィール34との摩擦力の大きさによってロック性が定まる。
【0033】
また、アクチュエータ30には、前記セルフロック機能における保持力を高めるためのブレーキ手段40が付加されている。ブレーキ手段40は、スクリュー35の基端側に合成樹脂製のドラム41を回転不能に軸支し、該ドラム41の外周にコイルスプリング42を巻き付けて成るブレーキスプリングである。かかるブレーキ手段40は、アクチュエータ30のセルフロック力を高めるために、前記シャフト37が下降する(縮む)方向に反力を発生させる。
【0034】
詳しく言えば、コイルスプリング42の一端側は定位置に固定され、他端側は遊び端としてドラム41の外周に摺接している。ここでコイルスプリング42は、シャフト37が上昇する(伸びる)方向にスクリュー35が回転する時は拡径する一方、シャフト37が下降する(縮む)方向にスクリュー35が回転する時は縮径するように巻き付けられている。このコイルスプリング42の摩擦力によって、前記セルフロック機能だけでは保持しきれない重量でも、所定の位置に安全に保持することができる。
【0035】
さらに、アクチュエータ30には、前記便器11の上下方向への変位を検知する変位検知手段50が組み込まれている。かかる変位検知手段50は、アクチュエータ30を構成する駆動側ないし従動側の部品の変位を通じて、前記便器11の下方への変位を間接的に検知するエンコーダである。かかるエンコーダは、ロータ51とホール素子実装基板52とを有して成る。
【0036】
詳しく言えば、ロータ51には、その円周方向にN極とS極が交互に着磁されたマグネットが並ぶように装着されており、ロータ51は、前記ウォームホィール34の片面に該ウォームホィール34と一体に回転するように取り付けられている。また、ホール素子実装基板52は、ロータ51のマグネットに対向させて、定位置に配置されている。
【0037】
変位検知手段50では、ホール素子実装基板52上のホール素子が回転するロータ51のマグネットの磁束密度に応じた検出電圧を出力し、例えば前記シャフト37が1mm昇降する度にパルス信号を出力するように設定されている。なお、ロータ51の回転の向きに合わせて、タイミング(位相)がずれたA相およびB相のパルスが出力されるため、シャフト37が下降するか上昇するかも判断することができる。
【0038】
図1に示すように、アクチュエータ30の電動モータ32には、外部から給電される電源部が給電線を介して接続されている。また、変位検知手段50は、信号線を介して次述する制御手段60に接続されている。アクチュエータ30は、図1に示す制御手段60によって制御される。制御手段60には、リモコンとして構成された入力スイッチ61も信号線を介して接続されている。
【0039】
入力スイッチ61は、図11に示すように、便器11を上昇させるための上昇信号を出力する上昇ボタン61aと、便器11を下降させるための下降信号を出力する下降ボタン61bを有している。それぞれのボタン61a,61bは、押し(ON)操作時に信号を出力するように設定されており、押し操作を止めた(OFF)時点で、便器11の昇降、すなわち電動モータ32の駆動が停止するように設定されている。
【0040】
制御手段60は、入力スイッチ61からの信号を受けてアクチュエータ30の電動モータ32を駆動し、便器11の昇降を制御するものである。かかる制御手段60は、具体的には例えば、各種制御の中枢的機能を果たすCPU(中央処理装置)と、CPUの実行するプログラムや各種の固定的データを記憶するROMと、プログラムを実行する上で一時的に必要になるデータを記憶するためのRAM等を主要部とする回路により構成されている。
【0041】
本発明の根幹を成す異常検知装置100は、前記制御手段60から構成されており、その機能として、入力スイッチ61の操作に応じて便器11を昇降させる他、入力スイッチ61の非操作時に変位検知手段50によって便器11の下方への変位が検知された場合に、ブレーキ手段40に異常が発生したと判断する機能を有している。これらの機能は、何れもCPUによって実現されるものである。
【0042】
また、制御手段60には、報知手段70が信号線を介して接続されている。報知手段70は、制御手段60によってブレーキ手段40に異常が発生したと判断された場合に、その旨を報知するものである。報知手段70は、本実施の形態では前記入力スイッチ61を成すリモコンに一体に組み込まれており、視覚的な報知を行う表示ランプのほか、聴覚的な報知を行う警報ブザー等が該当する。なお、制御手段60には、便器11の最上端位置および最下端位置をそれぞれ検知するためのリミットスイッチ62も信号線を介して接続されている。
【0043】
次に、本実施の形態に係る異常検知装置100の作用について説明する。
昇降便器10の動作に関しては、昇降機構20のアクチュエータ30によって便器11全体が上下方向に駆動される。すなわち、入力スイッチ61の上昇ボタン61aが押されると、その間に上昇を指示する制御信号が出力され、制御手段60は、シャフト37が上昇する(伸びる)ようにスクリュー35が回転する方向に電動モータ32を駆動する。
【0044】
一方、入力スイッチ61の下降ボタン61bが押されると、その間に下降を指示する制御信号が出力され、制御手段60は、シャフト37が下降する(縮む)ようにスクリュー35が回転する方向に電動モータ32を駆動する。なお、便器11の昇降に伴って、入力スイッチ61にある報知手段70の高さ表示LEDが点灯し、現在の便器11の高さ位置を視覚的に認識することができる。また、便器11が最上端位置ないし最下端位置まで移動した際には、リミットスイッチ62によって検知され、当該位置にて駆動は停止される。
【0045】
このように昇降させた便器11は、所望の高さ位置に保持することができる。すなわち、入力スイッチ61の操作が停止され、電動モータ32の回転が止まった時点で、セルフロック機能によって便器11は当該位置に固定される。さらに、ブレーキ手段40によってセルフロック機能による保持力は高められ、便器11の重量がセルフロック機能に勝って、便器11が下降しようとしても、コイルスプリング42がドラム41に締め付けられるため、その摩擦力よって便器11は確実に保持される。
【0046】
ただし、便器11の昇降回数が増えるに従い、ブレーキ手段40のドラム41の外周部の磨耗が進み、セルフロック力は次第に低下する。セルフロック力の低下によって最初に現れる症状は、入力スイッチ61によって下降操作を止めた時に、便器11が瞬時に停止することができなくなることである。すなわち、セルフロック力が弱まっている上に、下降していた便器11の慣性力が加わり、停止までに時間がかかることになる。
【0047】
そこで、異常検知装置100により、ブレーキ手段40のブレーキ力も含めたセルフロック機能が完全に働かなくなる前に、該ブレーキ手段40の異常を早期検知することで、便器11の落下を未然に防止し、もって安全性を高めることが必要となる。図10は、制御手段60がブレーキ手段40の異常の発生を判断する過程を示すフローチャートである。以下、図10に沿って、制御手段60の主な機能を説明する。
【0048】
図10において、先ず最初に制御手段60は、入力スイッチ61から出力される制御信号の入力を確認する(ステップS100)。ここで入力スイッチ61からの制御信号が確認できない場合には(ステップS100;N)、変位検知手段50から出力される下降パルスを計数する(ステップS110)。なお、入力スイッチ61からの制御信号が確認できた場合は(ステップS100;Y)、そのまま処理を終了する。
【0049】
制御手段60は、前記下降パルスの計数値が所定の設定値(例えば5個)以上の場合に(ステップS120;Y)、すなわち、入力スイッチ61の非操作時に変位検知手段50によって便器11の下方への変位が検知された場合に、セルフロックのみならずブレーキ手段40が作動せず、該ブレーキ手段40に異常が発生したと判断する(ステップS130)。その結果として、報知手段70により警告表示を実行し、アクチュエータ交換等の処置が行われるまで、アクチュエータ30の動作を停止させる。ここで警告表示は、図11に示すように、例えば点滅させるLEDの組み合わせによって、故障箇所が判別できるようにすると良い。
【0050】
このような制御手段60の判断に基づき、セルフロックのみならずブレーキ手段40が完全に利かなくなる前に、ブレーキ手段40の異常も含むセルフロックの不具合を検知することで、便器11の落下を未然に防ぐことができる。つまり、ブレーキ手段40の異常が発生した段階で、ブレーキ手段40を備えたアクチュエータ30の交換を促すことになり、もって安全性を高めることができる。
【0051】
一方、制御手段60は、前記下降パルスの計数値が所定の設定値(例えば5個)未満であった場合には(ステップS120;N)、ブレーキ手段40に異常が発生していないと判断して、そのまま処理を終了する。このように、下降パルスの計数に関して所定の設定値を定めたのは、例えばノイズ等による誤カウントが含まれる虞があるため、余裕を持って所定の設定値以上でセルフロック異常と判断することによるものである。
【0052】
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は前述したような実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、異常検知装置100を適用するアクチュエータ30は、前述した昇降便器10における便器11の駆動源に限られないことは言うまでもない。
【0053】
また、前記実施の形態では、変位検知手段50を、アクチュエータ30自体に組み込まれた磁気式のエンコーダにより構成したが、グリス等の汚れが問題にならないような場合には、光学式のエンコーダを組み込む様に構成しても良い。さらに、光学的あるいは磁気的に監視するセンサ等、アクチュエータ30以外の部品を付加することで、便器11や可動フレーム22の移動量を監視する構成にしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0054】
便器全体を昇降させることにより、お年寄りの立ち座りの補助や床清掃時の便宜を図ることが可能な昇降便器において、その駆動源としてセルフロック機能を補うブレーキ手段を備えたアクチュエータを利用する場合に、製品全体の安全性を高めることに活用することができる。
【符号の説明】
【0055】
10…昇降便器
11…便器
20…昇降機構
21…固定フレーム
22…可動フレーム
24…水洗タンク
25…ハウジング
30…アクチュエータ
31…ケース
32…電動モータ
33…ウォーム
34…ウォームホィール
35…スクリュー
36…スピンドルナット
37…シャフト
40…ブレーキ手段
41…ドラム
42…コイルスプリング
50…変位検知手段
51…ロータ
52…ホール素子実装基板
60…制御手段
61…入力スイッチ
61a…上昇ボタン
61b…下降ボタン
62…リミットスイッチ
70…報知手段
100…異常検知装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータによって物体を上下方向に駆動する昇降機構に設けられ、前記アクチュエータの動力喪失時に前記物体が自動的に当該位置で固定されるセルフロック機能を補うブレーキ手段の作用を監視し、該ブレーキ手段における異常を早期に検知するための異常検知装置において、
前記アクチュエータを作動させる操作を行う入力スイッチと、前記物体の上下方向への変位を検知する変位検知手段と、前記昇降機構を管理するための制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記入力スイッチの非操作時に前記変位検知手段によって前記物体の下方への変位が検知された場合に、前記ブレーキ手段に異常が発生したと判断することを特徴とする異常検知装置。
【請求項2】
前記制御手段によって前記ブレーキ手段に異常が発生したと判断された場合に、その旨を報知するための報知手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記変位検知手段は、前記アクチュエータ自体に設けられ、該アクチュエータにおける駆動側ないし従動側の部品の変位を通じて、前記物体の下方への変位を間接的に検知するエンコーダであることを特徴とする請求項1または2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記物体は便器本体であり、
前記昇降機構は、前記便器本体を上下方向に駆動して任意の高さ位置に保持するものであることを特徴とする請求項1,2または3に記載の異常検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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