説明

異形断面繊維及びその製造方法

【課題】審美性として充分な金属光沢を示し、軽量感及び保温性に優れ、曲げに強い異形断面繊維及び該異形断面繊維の効率的な製造方法の提供。
【解決手段】結晶性を有するポリマーからなり、内部に空洞を有する異形断面繊維であって、前記空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均長さ(r)が0.05μm〜10μmであり、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さ(L)との比(L/r)が、10〜90である異形断面繊維及び該異形断面繊維の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量感及び保温性に優れ、曲げに強い異形断面繊維及び該異形断面繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維の機能性や審美性を向上させるべく、様々な努力がなされている。例えば、繊維の断面形状を変化させ、吸水性を向上させたり、ポリマーを改質させることで、軽量性を高めたり、フィブリル性を向上させたり、深色性を向上させたりしている(特許文献1参照)。
しかし、前記特許文献1に記載された中空構造の繊維の製糸方法は、繊維の軽量化のために、高い中空率を達成しようとすると、口金の吐出孔から溶融吐出されるポリマーを貼り合せる技術が必要であり、工程が煩雑であった。また、繊維の強度を保ちながら、軽量化を目的として中空構造を採用しているため、断熱性が低かった。そのため、混紡して衣料などに用いる場合、断熱性を必要とされる衣料には採用されにくいという欠点があった。
【0003】
また、繊維の審美性を向上させるために、屈折率の異なる2種類のポリマーを交互に積層し、それらを保護層で被覆して、構造性発色を発現する機能を有する複合繊維が提案されている(特許文献2参照)。この提案の複合繊維は、審美性が要求される衣料に適用することができるが、軽量化を目的としていないので、大量の繊維が使用される衣料には採用されにくいという欠点がある。
【0004】
また、特許文献3には、ポリエチレンテレフタレートからなる繊維であって、繊維外周部が緻密な非多孔質層よりなり、繊維内部には繊維軸方向につながった微細孔を有し、微細孔の平均直径(D)が0.1〜10μmであり、繊維軸方向の長さ(L)とのアスペクト比(L/D)が100を超える多孔質部分を含む多孔質軽量繊維が提案されている。この特許文献3の段落〔0017〕の作製方法の記載から、ほとんど無配向で結晶化していない原糸を延伸していることが分かる。
また、特許文献4には、ポリマーA及びポリマーBの互いに非相溶である2成分がブレンドされてなる繊維であって、繊維横断面が異形度1.20以上の異形断面であり、繊維内部に繊維軸方向に不連続である微細空隙を多数有し、かつ繊維横断面において、外接円と内接円との間に包含される微細空隙の平均直径d1と、内接円の内側に包含される微細空隙の平均直径d2がd2/d1≧1.30満たす異形断面繊維が提案されている。この提案の異形断面繊維も、空隙のアスペクト比(L/D)が100を超えるものである。
【0005】
しかし、前記特許文献3及び4の繊維のようにアスペクト比が大きいと、曲げに弱くなり、これらの繊維から作製した織編物を曲げると繊維の空洞がつぶれて、保温性が低下してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−256243号公報
【特許文献2】特許第3356438号公報
【特許文献3】特開平7−310231号公報
【特許文献4】特開2006−161218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、審美性として充分な金属光沢を示し、軽量感及び保温性に優れ、曲げに強い異形断面繊維及び該異形断面繊維の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 結晶性を有するポリマーからなり、内部に空洞を有する異形断面繊維であって、
前記空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均長さ(r)が0.05μm〜10μmであり、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さ(L)との比(L/r)が、10〜90であることを特徴とする異形断面繊維である。
<2> 断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側の結晶化度が、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側の結晶化度よりも高い未延伸原糸をネッキングが発現するように延伸してなる前記<1>に記載の異形断面繊維である。
<3> 断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側の結晶化度が、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側の結晶化度が同じである未延伸原糸をネッキングが発現するように延伸してなる前記<1>に記載の異形断面繊維である。
<4> 結晶性を有するポリマーが、ポリオレフィン類、ポリエステル類及びポリアミド類から選択される少なくとも1種である前記<1>から<3>のいずれかに記載の異形断面繊維である。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の異形断面繊維を製造する方法であって、
結晶性を有するポリマーのみからなる樹脂組成物を溶融紡糸する溶融紡糸工程と、
溶融紡糸された未延伸原糸をネッキングが発現するように延伸する延伸工程と、を含むことを特徴とする異形断面繊維の製造方法である。
<6> 溶融紡糸された未延伸原糸が、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側の結晶化度が、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側の結晶化度よりも高い前記<5>に記載の異形断面繊維の製造方法である。
<7> 溶融紡糸された未延伸原糸が、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側の結晶化度と、断面の重心から任意の外周までの距離が半分より外周側の結晶化度が同じである前記<5>に記載の異形断面繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、審美性として充分な金属光沢を示し、軽量感及び保温性に優れ、曲げに強い異形断面繊維及び該異形断面繊維の効率的な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の異形断面繊維の一例を示す概略断面図である。
【図2A】図2Aは、アスペクト比(L/r)を説明するための図であって、繊維の斜視図である。
【図2B】図2Bは、アスペクト比(L/r)を説明するための図であって、図2Aにおける繊維のA−A’断面図である。
【図2C】図2Cは、アスペクト比(L/r)を説明するための図であって、図2Aにおける繊維のB−B’断面図である。
【図3】図3は、本発明の異形断面繊維の製造方法における延伸工程の一例を示す図である。
【図4】図4は、未延伸糸の中心部と周辺部の結晶化度をX線回折法で測定する様子を示す図である。
【図5】図5は、実施例2の未延伸原糸の断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側の回折プロファイルを示す図である。
【図6】図6は、実施例2の未延伸原糸の断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側の回折プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(異形断面繊維)
本発明の異形断面繊維は、結晶性を有するポリマーからなり、内部に空洞を有する。
前記異形断面繊維とは、繊維の断面形状が円形(真円)でない各種異形であることを意味する。該異形断面形状としては、例えば多角形型、歯車型、楕円状、花びら型、多葉型、星型、C型、Y型、十字型、井型などが挙げられる。
このような異形断面を形成する方法としては、例えば溶融紡糸工程において溶融紡糸口金(ノズル)の断面形状を所望の異形断面に加工し、該ノズルを用いて溶融紡糸する方法、により形成することができる。
【0012】
ここで、図1は、本発明の異形断面繊維の長さ方向に直交する方向における断面図である。図1に示すように、本発明の異形断面繊維10は、内部に空洞100を有する。
【0013】
前記異形断面繊維は、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側の結晶化度が、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側の結晶化度よりも高い未延伸原糸をネッキングが発現するように延伸して作製されることが好ましい。
このような形態の未延伸原糸は、後述する溶融紡糸工程において、吐出された溶融ポリマーに温風を当ててゆっくり冷却固化させることにより得られる。
また、前記異形断面繊維は、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側の結晶化度が、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側の結晶化度が同じである未延伸原糸をネッキングが発現するように延伸して作製されることが好ましい。
このような形態の未延伸原糸は、後述する溶融紡糸工程において、吐出された溶融ポリマーに冷風を当てて急速に冷却固化させることにより得られる。
【0014】
ここで、図4に示すように未延伸糸の中心部と周辺部について、X線回折マイクロディフラクトメ−タ、マルチチャンネルアナライザ2、コリメ−タ直径10μm(リガク社製)を用いて、40kV−400mAで照射し、600秒積算して回折プロファイルを求める。
結晶化度の差は、回折プロファイルにおいて任意の結晶面の回折強度Icと、任意の2つの結晶面の回折強度の間の強度を非結晶部の回折強度Iaとし、Ic/Ia値を求めて、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側のIc/Ia値(Ic/Ia)1と、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側のIc/Ia値(Ic/Ia)2とを比較することで判別することができる。
なお、繊維の断面の写真上で、外周上の任意の点10点以上を選択し各点を起点として最も遠い外周に直線を引き、各直線が最も重なる交点を重心、あるいは重ならない場合は、各直線で形成された多角形の各頂点を結ぶ直線の最も重なる交点を重心とする。
【0015】
−空洞−
本発明の異形断面繊維は、内部に空洞を有している。
前記空洞とは、繊維内部に存在する、真空状態のドメイン又は気相のドメインを意味する。
本発明においては、前記空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均長さrが0.05μm〜10μmであり、0.1μm〜5μmが好ましい。前記平均長さrが、0.05μm未満であると、保温性が低下したり、光沢性が低下したりすることがあり、10μmを超えると、繊維の引張り強度が低下することがある。
前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さL(μm)と前記空洞の平均長さr(μm)との比(L/r)は、10〜90であり、15〜80が好ましい。前記比(L/r)が、10未満であると、空洞の体積が減少し保温性が劣ることがあり、90を超えると、折り曲げ強度が低下することがある。
前記アスペクト比(L/r)を10〜90に調整する手段としては、例えば溶融紡糸工程での冷却速度を制御する、あるいは原糸をアニールすることで配向方向に垂直な断面において結晶化度の分布を原糸の半径方向に制御すること、原糸を結晶化(5〜50%)すること、などが挙げられる。
前記空洞の配向方向とは、繊維の延伸方向を示す。
【0016】
ここで、図2A〜図2Cは、前記比(L/r)(アスペクト比)を説明するための図であって、図2Aは、本発明の異形断面繊維の斜視図であり、図2Bは、図2Aにおける本発明の異形断面繊維のA−A’断面図であり、図2Cは、図2Aにおける本発明の異形断面繊維のB−B’断面図である。
【0017】
前記アスペクト比(L/r)は、本発明の異形断面繊維10の表面10aに直交し、かつ、前記空洞の配向方向に直交する方向における空洞100の平均の長さをr(μm)(図2B参照)とし、本発明の異形断面繊維の表面に直交し、かつ、前記空洞の配向方向における空洞100の平均の長さをL(μm)(図2C参照)とした際のL/r比を意味する。
【0018】
本発明の異形断面繊維は、結晶性を有するポリマーからなる樹脂組成物を溶融紡糸し、高速延伸することによって作製される。具体的には、前記樹脂組成物を乾燥し、押出成型機で溶融し、溶融紡糸口金から溶融吐出し、その後、巻き取って、高速延伸を行うことにより作製される。
繊維1本の太さは、デニ−ルによって示される。前記繊維1本の太さは、14〜500デニールが好ましく、50〜450デニールがより好ましく、75〜400デニールが更に好ましい。
【0019】
−樹脂組成物−
前記樹脂組成物は、結晶性を有するポリマーで形成され、ポリマー成分としては、該結晶性を有するポリマーのみであるが、ポリマー以外の成分としては、必要に応じて適宜選択した添加成分を含んでいてもよい。
【0020】
−結晶性を有するポリマー−
一般に、ポリマーは、結晶性ポリマーと非晶性(アモルファス)ポリマーとに分けられる。前記結晶性ポリマーは、通常、100%結晶ということはなく、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶(アモルファス)領域とを含んでいる。
本発明において、前記結晶性を有するポリマーは、分子構造の中に少なくとも前記結晶性領域を含んでいればよく、結晶性領域と非結晶領域とが混在していてもよい。
【0021】
前記結晶性を有するポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール(POM)、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、フッ素樹脂、などが挙げられる。これらのうちの2種以上のポリマーをブレンドしたり、共重合させたりして使用してもよい。
これらの中でも、力学強度や製造の観点から、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂が特に好ましい。
【0022】
前記結晶性を有するポリマーの溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50Pa・s〜1,000Pa・sが好ましく、70Pa・s〜750Pa・sがより好ましく、80Pa・s〜450Pa・sが更に好ましい。前記溶融粘度が、50Pa・s〜1,000Pa・sであると、溶融紡糸時に溶融紡糸口金(ノズル)から吐出される溶融紡糸の形状が安定し、均一に製糸しやすくなる点で好ましい。また、前記溶融粘度が、50Pa・s〜1,000Pa・sであると、溶融紡糸時の粘度が適切になって押出ししやすくなったり、製糸時の径が安定する点で好ましい。
ここで、前記溶融粘度は、例えばプレートタイプのレオメーター、キャピラリーレオメーターにより測定することができる。
【0023】
前記結晶性を有するポリマーの極限粘度(IV:Intrinsic Viscosity)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.5が好ましく、0.6〜1.2がより好ましく、0.7〜1.0が更に好ましい。前記IVが、0.4〜1.5であると、製糸された糸の引っ張り強度が高くなり、効率よく延伸することができる。
ここで、前記極限粘度(IV)は、例えばウベローデ型粘度計により測定することができる。
【0024】
前記結晶性を有するポリマーの融点(Tm)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40℃〜350℃が好ましく、100℃〜300℃がより好ましく、150℃〜260℃が更に好ましい。前記融点が、40℃〜350℃であると、通常の使用で予想される温度範囲で径を保ちやすくなる点で好ましく、高温での加工に必要とされる特殊な技術を特に用いなくても、均一な製糸ができる点で好ましい。
ここで、前記融点は、例えば示差熱分析装置(DSC)により測定することができる。
【0025】
前記結晶性を有するポリマーの重量平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5,000〜1,000,000が好ましく、10,000〜800,000がより好ましく、15,000〜700,000が更に好ましい。前記重量平均分子量が、5,000未満であると、延伸時に破断する懸念があり、前記重量平均分子量が1,000,000を超えると、延伸しにくい可能性があること、延伸しても空洞が発現しにくい懸念があり、15,000〜700,000であると、延伸プロセスの容易性と空洞の発現容易性の両立という点で好ましい。
ここで、前記重量平均分子量は、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC Gel Permeation Chromatography)法により測定することができる。
【0026】
−−ポリオレフィン樹脂−−
前記ポリオレフィン樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンのランダム共重合体、エチレンとプロピレンのブロック共重合体、エチレンとα−オレフィン(例:1−オクテン、1−ヘキセンなど)のランダム共重合体、プロピレンとα−オレフィン(例:1−オクテン、1−ヘキセンなど)のランダム共重合体、などが挙げられる。これらの中でも、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンのランダム共重合体、エチレンとプロピレンのブロック共重合体が好ましく、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンのランダム共重合体が特に好ましい。
【0027】
−−ポリアミド樹脂−−
前記ポリアミド樹脂としては、例えばポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6/10)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン6/12)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン11/6)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタル/イソフタルアミド(ナイロン6T/6I)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H)、などが挙げられる。これらの中でも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/10、ナイロン6/12、ナイロン11/6が好ましく、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11が特に好ましい。
【0028】
−−ポリエステル樹脂−−
前記ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合反応によって得られるエステル結合を主鎖の主要な結合鎖とするポリマーである。したがって、前記結晶性を有するポリマーとして好適な前記ポリエステルとしては、前記例示したPET(ポリエチレンテレフタエレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)PLA(ポリ乳酸)、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PHN(ポリヘキサメチレンナフタレート)、PHT(ポリヘキサメチレンテレフタレート)などが挙げられる。
これらの中でも、PET、PBT、PEN、PBSが好ましく、PET、PBTが特に好ましい。
【0029】
前記ジカルボン酸成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、オキシカルボン酸、多官能酸などが挙げられる。これらの中でも、芳香族ジカルボン酸が特に好ましい。
【0030】
前記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられる。これらの中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸がより好ましい。
【0031】
前記脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、エイコ酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、マレイン酸、フマル酸が挙げられる。前記脂環族ジカルボン酸としては、例えば、シクロヘキシンジカルボン酸などが挙げられる。前記オキシカルボン酸としては、例えば、p−オキシ安息香酸などが挙げられる。前記多官能酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられる。
【0032】
前記ジオ−ル成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪族ジオール、脂環族ジオール、芳香族ジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも、脂肪族ジオールが特に好ましい。
【0033】
前記脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールが特に好ましい。前記脂環族ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。前記芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどが挙げられる。
【0034】
前記ポリエステル樹脂の数平均分子量としては、12,000〜40,000が好ましく、18,000〜40,000がより好ましく、18,500〜30,000が更に好ましい。前記数平均分子量が、12,000未満であると、紡糸過程において力学強度が不足することがあり、40,000を超えると、重合が困難になることがある。
【0035】
前記ポリエステル樹脂の溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50Pa・s〜700Pa・sが好ましく、70Pa・s〜500Pa・sがより好ましく、80Pa・s〜300Pa・sが更に好ましい。前記溶融粘度が大きいほうが延伸時に空洞を発現しやすいが、前記溶融粘度が50Pa・s〜700Pa・sであると、溶融紡糸時に押出しがしやすくなったり、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなり、品質が安定する点で好ましい。また、前記溶融粘度が50Pa・s〜700Pa・sであると、延伸時に延伸張力が適切に保たれるために、均一に延伸しやすくなり、破断しづらくなる点で好ましい。更に、前記溶融粘度が50Pa・s〜700Pa・sであると、溶融紡糸時に口金から吐出される溶融紡糸の形態が維持しやすくなって、安定的に成形できたり、製品が破損しにくくなったりするなど、物性が高まる点で好ましい。
【0036】
前記ポリエステル樹脂の極限粘度(IV)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.2が好ましく、0.6〜1.0がより好ましく、0.7〜0.9が更に好ましい。前記IVが大きいほうが延伸時に空洞を発現しやすいが、前記IVが、0.4〜1.2であると、溶融紡糸時に押出しがしやすくなったり、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなり、品質が安定する点で好ましい。また、前記IVが、0.4〜1.2であると、溶融紡糸時に溶融樹脂のフィルターを設置した場合であっても、フィルターに負荷がかかりにくく、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなる点で好ましい。更に、前記IVが、0.4〜1.2であると、延伸時に延伸張力が適切に保たれるために、均一に延伸しやすくなり、装置に負荷がかかりにくい点で好ましい。加えて、前記IVが、0.4〜1.2であると、製品が破損しにくくなって、物性が高まる点で好ましい。
【0037】
前記ポリエステル樹脂の融点としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、耐熱性や製糸性などの観点から、150℃〜300℃が好ましく、180℃〜270℃がより好ましい。
【0038】
なお、前記ポリエステル樹脂として、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分とが、それぞれ一種で重合してポリマーを形成していてもよく、前記ジカルボン酸成分及び/又は前記ジオール成分が、2種以上で共重合してポリマーを形成していてもよい。また、前記ポリエステル樹脂として、2種以上のポリマーをブレンドして使用してもよい。
【0039】
前記2種以上でのポリマーのブレンドにおいて、主たるポリマーに対して添加されるポリマーは、前記主たるポリマーに対して、溶融粘度及び極限粘度が近く、添加量が少量であるほうが、溶融押出し時に物性が高まり、押出ししやすくなる点で好ましい。
【0040】
また、前記ポリエステル樹脂の流動特性の改良、光線透過性の制御、塗布液との密着性の向上などを目的として、前記ポリエステル樹脂に対してポリエステル樹脂以外の樹脂を添加してもよい。
【0041】
このように、本発明の異形断面繊維は、従来技術において添加されていた無機系微粒子、相溶しない樹脂などの空洞形成剤を特に添加しなくても、簡便な工程で空洞を形成させることができる。更に、不活性ガスを予め樹脂の中に溶け込ませるための特殊な設備も必要としない。なお、本発明の異形断面繊維の製造方法については、後述する。
【0042】
ここで、本発明の異形断面繊維は、空洞の発現に寄与しない成分であれば、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、フィラー、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、核剤、染料、顔料、難燃剤、離型剤、分散剤、カップリング剤などが挙げられる。前記その他の成分が空洞の発現に寄与したかどうかは、空洞内又は空洞の界面部分に、結晶性を有するポリマー以外の成分(例えば、後記する各成分など)が検出されるかどうかで判別できる。例えば、エネルギ−分散型X線分析装置付き走査型電子顕微鏡や顕微ラマン法、等で検出可能である。
【0043】
前記酸化防止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フェノール系化合物、イオウ系化合物、リン系化合物などが挙げられる。これらの中でも、公知のヒンダードフェノールが特に好ましい。前記ヒンダードフェノールとしては、例えば、イルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、スミライザーBHT、スミライザーGA−80(いずれも、住友化学株式会社製)などの商品名で市販されている酸化防止剤が挙げられる。
また、前記酸化防止剤を一次酸化防止剤として利用し、更に二次酸化防止剤を組み合わせて適用することもできる。前記二次酸化防止剤としては、例えば、スミライザーTPL−R、同スミライザーTPM、同スミライザーTP−D(いずれも、住友化学株式会社製)などの商品名で市販されている酸化防止剤が挙げられる。
【0044】
前記離型剤としては、例えばカルナバワックス等の植物系ワックス、蜜蝋、ラノリン等の動物系ワックス;モンタンワックス等の鉱物系ワックス;パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の石油系ワックス;ひまし油又はその誘導体、脂肪酸又はその誘導体等の油脂系ワックスなどが挙げられる。高級脂肪酸誘導体としては、例えばラウリン酸、ステアリン酸、モンタン酸等の高級脂肪酸と一価又は二価以上のアルコールとのエステル等が挙げられる。
【0045】
前記難燃剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、臭素系難燃剤が特に好ましい。臭素系難燃剤としては、高分子量有機ハロゲン化合物、低分子量有機ハロゲン化合物等の有機ハロゲン系難燃剤を単独で使用しても、2種以上併用してもよい。また、リン系難燃剤、無機系難燃剤を用いてもよい。
【0046】
このように、本発明の異形断面繊維は、その内部に前記空洞を有していることにより、例えば、光沢性及び軽量性などにおいて、様々な優れた特性を有している。言い換えると、本発明の異形断面繊維の内部の空洞の態様を変化させることで、光沢性などの特性を調節することができる。
【0047】
−繊維の光沢度−
前記繊維の光沢度とは、文字通り繊維を衣服などの束ねたときの見た目の光沢性のことである。
前記光沢度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50以上が好ましく、70以上がより好ましく、90以上が更に好ましい。
【0048】
−密度−
前記繊維の密度は、1.20g/cm以下が好ましく、0.5g/cm〜1.05g/cmがより好ましい。
前記密度は、例えば密度が1.05g/cm以上の場合は、5mmの繊維を密度勾配管法により測定することができる。密度が1.05g/cm未満の場合は、5mmの繊維が密度勾配管にて浮くことを確認した後、繊維の断面積、質量、多孔質部の長さ割合を用いて計算により求めることができる。
【0049】
(異形断面繊維の製造方法)
本発明の異形断面繊維の製造方法は、本発明の前記異形断面繊維を製造する方法であって、溶融紡糸工程と、延伸工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
【0050】
<溶融紡糸工程>
前記溶融紡糸工程は、結晶性を有するポリマーからなる樹脂組成物を溶融紡糸する工程である。
前記樹脂組成物の材料としては、結晶性を有するポリマーで形成され、ポリマー成分としては、該結晶性を有するポリマーのみであるが、ポリマー以外の成分としては、必要に応じて適宜選択した添加成分を含んでいてもよい。
また、前記樹脂組成物の構造としては、その内部に空洞が形成されていなければ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、前記樹脂組成物の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばフィルム状や、シート状などが挙げられる。
【0051】
前記紡糸工程は、前記樹脂組成物を、小さな孔が多数形成された溶融紡糸口金(ノズル)から押し出して繊維状にする工程であり、紡糸方法として、例えば、溶融紡糸、湿式紡糸、乾式紡糸などが挙げられるが、これらの中でも、溶融紡糸が好ましい。
【0052】
前記溶融紡糸は、結晶性を有するポリマーを加熱溶融させて高温の粘稠な液状にしたものを、紡出して引き伸ばし、固化させて繊維にする工程である。湿式紡糸や乾式紡糸に比べて工程が簡素であり、紡糸速度も格段に速くすることができるが、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、PBT、PTT、ポリ乳酸など、約300℃以下で溶融するポリマーに限られる。
【0053】
本発明における紡糸工程では、後工程である延伸工程にて紡糸された樹脂組成物の延伸を行うため、未延伸糸(UDY:undrawn yarn)を作製する工程とする。ここで、未延伸糸とは、繊維の形をしているが、分子鎖の配向度が低く、3倍〜4倍まで容易に伸ばすことができて元に戻らない糸をいい、通常、2,000m/分程度以下の紡糸速度で製造される。
【0054】
前記溶融紡糸工程において、結晶性を有するポリマーを加熱溶融させて高温の粘稠な液状にしたものを、40℃〜120℃の温風を当ててゆっくり冷却固化させることにより、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側の結晶化度が、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側の結晶化度よりも高い未延伸原糸を作製することができる。
また、前記溶融紡糸工程において、結晶性を有するポリマーを加熱溶融させて高温の粘稠な液状にしたものを、−10℃〜40℃の冷風を当てて急激に冷却固化させることにより、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側の結晶化度と、断面の重心から任意の外周までの距離が半分より外周側の結晶化度が同じである未延伸原糸を作製することができる。
【0055】
<延伸工程>
前記延伸工程は、溶融紡糸された未延伸原糸をネッキングが発現するように延伸する工程である。
ここで、図3に示すように、上記のようにして得られた溶融紡糸した原糸21は、例えば、25℃〜150℃に調整された加熱炉30内に挿入され、ニップロール41と42の回転速度差をつけて引張力を付与することにより延伸し、ネッキングを起こすことにより空洞を有する繊維が作製される。場合によっては、加熱炉を除き、ニップロールを加温(25〜150℃)するだけでも同様の本発明の異形断面繊維10を作製できる。図2中31はアニーリング処理炉、32は巻き取り装置を表す。
具体的には、紡糸された前記樹脂組成物(未延伸糸)が延伸される。そして、前記延伸工程により、未延伸原糸が延伸されるとともに、その内部に延伸方向を長軸とした空洞が形成されることで、本発明の異形断面繊維10が得られる。
【0056】
延伸により空洞が形成される理由としては、前記樹脂組成物を構成する少なくとも1種類の結晶性を有するポリマーが、延伸時に伸張し難い結晶を含む相で、硬い結晶間の樹脂が引きちぎられるような形で剥離延伸されることにより、これが空洞形成源となって空洞が形成されるものと考えられる。
なお、このような延伸による空洞形成は、結晶性を有するポリマーが一種類の場合だけではなく、2種類以上の結晶性を有するポリマーが、ブレンド又は共重合されている場合であっても可能である。
【0057】
一般に、延伸においては、ロールの組合せやロール間の速度差により、延伸の段数や延伸速度を調節することができる。
ここで、前記ネッキングとは、前記未延伸原糸の延伸時に生じるくびれ状の変形を意味する(高分子工学講座6 プラスチック成形加工 高分子学会編集、地人書院発行、昭和41年4月25日初版発行参照)。また、前記延伸時において、前記未延伸原糸がくびれながら変形し、くびれ部分では急激に断面が減少する現象を「ネッキングが発現した」と定義する。
【0058】
−延伸速度−
前記延伸の延伸速度としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10m/min〜2,000m/minが好ましく、15m/min〜1,000m/minがより好ましく、20m/min〜1,000m/minが更に好ましい。前記延伸速度が、10m/min以上であると、充分なネッキングを発現させやすい点で好ましい。また、前記延伸速度が、2,000m/min以下であると、均一な延伸がしやすくなり、糸が破断しづらくなり、特に、高速延伸を目的とした大型な延伸装置を必要とせず、コストを低減できる点で好ましい。
【0059】
−延伸温度−
延伸時の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、
延伸温度をT(℃)、ガラス転移温度をTg(℃)としたときに、
(Tg−30)≦T≦(Tg+50)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することが好ましく、
(Tg−25)≦T≦(Tg+45)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することがより好ましく、
(Tg−20)≦T≦(Tg+40)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することが更に好ましい。
【0060】
一般に、延伸温度(℃)が高いほど延伸張力も低めに抑えられて容易に延伸できるが、前記延伸温度(℃)が、{ガラス転移温度(Tg)+50}℃以下であると、空洞が形成される体積割合が高くなり、アスペクト比が10以上になりやすい点で好ましい。また、前記延伸温度(℃)が、{ガラス転移温度(Tg)−30}℃以上であると、充分に空洞が発現する点で好ましい。
【0061】
ここで、前記延伸温度T(℃)は、非接触式温度計により測定することができる。また、前記ガラス転移温度Tg(℃)は、示差熱分析装置(DSC)により測定することができる。
【0062】
なお、前記延伸工程において、延伸後の繊維は、形状安定化などの目的で、更に熱を加えて熱収縮させたり、張力を加える等の処理をしたりしてもよい。
また、前記繊維の製造は、前記延伸工程と独立に行ってもよく、連続的に行ってもよい。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
下記実施例において、アスペクト比(L/r)、密度、繊維の延伸、重心、結晶化度の分布、及び曲げ試験については、以下のようにして測定した。
【0064】
<アスペクト比(L/r)の測定>
繊維の表面に直交し、かつ、延伸方向に直交する断面(図2B参照)と、前記繊維の表面に直交し、かつ、前記延伸方向に平行断面(図2C参照)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて300〜3,000倍の適切な倍率で検鏡し、前記各断面写真において計測枠をそれぞれ設定した。この計測枠は、その枠内に空洞が50〜100個含まれるように設定した。
次に、計測枠に含まれる空洞の数を計測し、前記延伸方向に直交する断面の計測枠(図2B参照)に含まれる空洞の数をm個、前記延伸方向に平行断面の計測枠(図2C参照)に含まれる空洞の数をn個とした。
そして、前記延伸方向に直交する断面の計測枠(図2B参照)に含まれる空洞の1個ずつの長さ(r)を測定し、その平均の長さをrとした。また、前記延伸方向に平行断面の計測枠(図2C参照)に含まれる空洞の1個ずつの長さ(L)を測定し、その平均の長さをLとした。
即ち、空洞の配向方向に直交する厚み方向における空洞の平均長さ(r)及び空洞の配向方向における空洞の平均長さ(L)は、それぞれ下記の(1)式及び(2)式で表すことができる。
r=(Σr)/m ・・・(1)
L=(ΣL)/n ・・・(2)
そして、L/rを算出し、アスペクト比とした。
【0065】
<密度の測定>
密度が1.05g/cm以上の場合は、5mmの繊維を密度勾配管法により測定を行った。密度勾配液は四塩化炭素とヘプタンの混合液を用いた。密度が1.05g/cm未満の場合は、5mmの繊維が密度勾配管にて浮くことを確認した後、繊維の断面積、質量、多孔質部の長さ割合を用いて計算により求めた。
【0066】
<繊維の延伸>
2個の延伸ロールと、その間に設置したプレートヒーターを用いて行った。延伸温度はこのプレートヒーターの表面温度で示す。延伸倍率は延伸前後での繊維の繊度(単位長さ当たりの質量)により求めた。
【0067】
<重心の求め方>
繊維の断面の写真上で、外周上の任意の点10点以上を選択し各点を起点として最も遠い外周に直線を引き、各直線が最も重なる交点を重心、あるいは重ならない場合は、各直線で形成された多角形の各頂点を結ぶ直線の最も重なる交点を重心とした。
【0068】
<結晶化度の分布>
図4に示すように未延伸糸の中心部と周辺部を、X線回折マイクロディフラクトメ−タ、マルチチャンネルアナライザ2、コリメ−タ直径10μm(リガク社製)を用いて、40kV−400mAで照射し、600秒積算して回折プロファイルを求めた。
結晶化度の差は、回折プロファイルにおいて任意の結晶面の回折強度Icと、任意の2つの結晶面の回折強度の間の強度を非結晶部の回折強度Iaとし、Ic/Ia値を求めて、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側のIc/Ia値(Ic/Ia)1と、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側のIc/Ia値(Ic/Ia)2が同じか異なるかで判断した。
【0069】
<曲げ試験>
延伸した糸を並べ、幅1cmの束とし、純曲げ試験機(KES−FB)にて測定を行った。KES測定とは、川端季雄著、繊維機械学会誌(繊維工学)、vol.26,No.10,P721−P728(1973)に記載されているように、風合い計測のために設計された布試験システムKES−FBシリーズ(Kawabata Evaluation System for fabrics)の一部で布の曲げ特性を測定するものである。この曲げ特性測定機(KES−FB2、カトーテック社製)は、試料全体を一定曲率で円弧状に曲げ、その曲率を等速で変化させることができ、それに伴う微少な曲げモーメントを検出し、曲げモーメントと曲率の関係を測定することができる。なお、最大曲率はK=±2.5cm−1、クランプ間隔(試料長)=1cm、曲げ変形速度0.5cm−1/secであった。
上記繊維の束の曲げかたさは、曲率K(cm−1)の増加に対する曲げモーメントM(g・cm/cm、単位長さ当たりの値)の増分でM−K曲線の傾斜を示す。かかる曲げかたさは、K=0.5と1.5の間、及び、K=−0.5と−1.5の間の2ヶ所で測定し、それぞれ表曲げ(表面が外側となるような曲げ)と裏曲げ(裏面が外側となるような曲げ)の勾配の平均値とした。
【0070】
(実施例1)
極限粘度(IV)が0.7であるPBT(ポリブチレンテレフタレート100%樹脂、ポリエステル類)を、溶融押出機を用いて250℃で溶融紡糸口金の断面形状をY字とした金型から押出し、90℃の温風を強く当てて、異形断面の最も短い距離が0.5mmの未延伸原糸を得た。未延伸原糸の断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側のIc/Ia値(Ic/Ia)1と、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側のIc/Ia値(Ic/Ia)2の関係は(Ic/Ia)1>(Ic/Ia)2であった。
この未延伸原糸を40℃で延伸した。
得られた繊維は、長さ方向に全てが多孔質構造を有しており、密度は0.88g/cmであった。
走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維を観察したところ、繊維の断面形状が三葉型の異形を示し、横断面には0.3〜4μm程度の空洞が多数存在する多孔質層と、繊維外周部から内部に向かって厚みが7μm程度の空洞の存在しない非多孔質層が認められた。また、空洞の配向方向に直交する厚み方向における空洞の平均長さrが0.81μm、アスペクト比(L/r)が18であり、繊維の束の曲げかたさは、0.08gf・cm/cmであった。
【0071】
(実施例2)
極限粘度(IV)が0.66であるPET(ポリエチレンテレフタレート100%樹脂、ポリエステル類)を、溶融紡糸口金の断面形状を楕円とした金型を有する溶融押出機を用いて295℃で押出し、80℃の温風を当てて、異形断面の最も短い距離が0.65mmの未延伸原糸を得た。未延伸原糸の図6に示す断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側のIc/Ia値(Ic/Ia)1と、図5に示す断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側のIc/Ia値(Ic/Ia)2の関係は(Ic/Ia)1>(Ic/Ia)2であった。
この未延伸原糸を70℃で延伸した。
得られた繊維は、長さ方向に全てが多孔質構造を有しており、密度は0.79g/cmであった。
走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維を観察したところ、繊維は断面形状が楕円の異形を示し、横断面には0.8〜10μm程度の空洞が多数存在する多孔質層と、繊維外周部から内部に向かって厚みが15μm程度の空洞の存在しない非多孔質層が認められた。また、空洞の配向方向に直交する厚み方向における空洞の平均長さrが1.8μm、アスペクト比(L/r)が62であり、繊維の束の曲げかたさは、0.11gf・cm/cmであった。
【0072】
(実施例3)
ポリプロピレン(ポリプロピレン100%樹脂、Aldrich社製、重量平均分子量19万、数平均分子量5万、MFI:35g/10min(ASTM D1238、230℃・2.16kg)、Tm:170〜175℃)を、溶融紡糸口金の断面形状を楕円とした金型を有する溶融押出機を用いて210℃で押出し、90℃の温風を当てて、異形断面の最も短い距離が0.8mmの未延伸原糸を得た。未延伸原糸の断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側のIc/Ia値(Ic/Ia)1と、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側のIc/Ia値(Ic/Ia)2の関係は(Ic/Ia)1>(Ic/Ia)2であった。
この未延伸原糸を30℃で延伸した。
得られた繊維は、長さ方向に全てが多孔質構造を有しており、密度は0.72g/cmであった。走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維を観察したところ、繊維は断面形状が、楕円で、横断面には0.08〜1.2μm程度の空孔が多数存在する多孔質層と、繊維外周部から内部に向かって厚みが8μm程度の微細孔の存在しない非多孔質層が認められた。また、空洞の配向方向に直交する厚み方向における空洞の平均長さrが0.52μm、アスペクト比(L/r)が84であり、繊維の束の曲げかたさは、0.06gf・cm/cmであった。
【0073】
(実施例4)
相対粘度2.7、MI=2であるナイロンMXD6 S6007(三菱ガス化学株式会社製)(ポリアミド類)を、溶融紡糸口金の断面形状を十字とした金型を有する溶融押出機を用いて260℃で押出し、100℃の温風を当てて異形断面の最も短い距離が0.5mmの未延伸原糸を得た。未延伸原糸の断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側のIc/Ia値(Ic/Ia)1と、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側のIc/Ia値(Ic/Ia)2の関係は(Ic/Ia)1>(Ic/Ia)2であった。
この未延伸原糸を25℃で延伸した。
得られた繊維は、長さ方向に全てが多孔質構造を有しており、密度は0.91g/cmであった。
走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維を観察したところ、繊維は断面形状が十字の異形を示し、横断面には0.08〜1.2μm程度の空洞が多数存在する多孔質層と、繊維外周部から内部に向かって厚みが10μm程度の空洞の存在しない非多孔質層が認められた。また、空洞の配向方向に直交する厚み方向における空洞の平均長さrが0.61μm、アスペクト比(L/r)が59であり、繊維の束の曲げかたさは、0.07gf・cm/cmであった。
【0074】
(比較例1)
特開平7−310231号公報の実施例1に記載のとおり、ポリエチレンテレフタレートを、溶融紡糸口金の断面形状を円形とした金型を有する溶融押出機を用いて315℃で金型から押出し、冷風を当てて繊維を製造し、未延伸原糸を得た。未延伸原糸の断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側のIc/Ia値(Ic/Ia)1と、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側のIc/Ia値(Ic/Ia)2の関係は(Ic/Ia)1=(Ic/Ia)2であった。
この未延伸原糸を、延伸温度80℃、延伸倍率5.9倍でネック延伸を行った。
得られた繊維は、長さ方向に全てが多孔質構造を有しており、密度は0.70g/cmであった。
走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維を観察したところ、繊維の断面形状は、直径が76μmの円形で、横断面には2〜15μm程度の空洞が多数存在する多孔質層と、繊維外周部から内部に向かって厚みが8〜20μm程度の空洞の存在しない非多孔質層が認められた。また、空洞の配向方向に直交する厚み方向における空洞の平均長さrが数mm、アスペクト比(L/r)が100を超えており、繊維の束の曲げかたさは、0.05gf・cm/cmであった。
【0075】
(比較例2)
特開2006−161218号公報の実施例1に記載のとおり、ポリエチレンテレフタレートと、三井化学株式会社製ポリメチルペンテンとを、溶融紡糸口金の断面形状をY字とした金型を有する溶融押出機を用いて296℃で溶融して1,200m/分の引き取り速度で引き取って未延伸原糸を得た。未延伸原糸の断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側のIc/Ia値(Ic/Ia)1と、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側のIc/Ia値(Ic/Ia)2の関係は(Ic/Ia)1=(Ic/Ia)2であった。
この未延伸原糸を、100℃にて延伸倍率5.0倍で延伸した。
得られた繊維は、長さ方向に全てが多孔質構造を有しており、密度は1.25g/cmであった。
走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維を観察したところ、三葉型のブレンドの異形で、横断面には0.3〜0.6μm程度の空洞が多数存在する多孔質層が繊維外周部まで存在し空洞の存在しない非多孔質層はほとんど認められなかった。また、空洞の配向方向に直交する厚み方向における空洞の平均長さrが0.5mm以上、アスペクト比(L/r)は800程度であることが確認できた。繊維の束の曲げかたさは、0.03gf・cm/cmであった。
【0076】
次に、実施例1〜4及び比較例1〜2について、以下のようにして、光沢度、保温性、曲げ負荷時の保温性、及び軽量性を評価した。結果を表1に示す。
【0077】
<光沢度の評価>
50mm四方のアルミニウム板に幅10mmに巻きつけたサンプルを作製した。このサンプルをJIS Z8741準拠の方法により、入射角60度、受光角60度でハンディ光沢度計 グロスチェッカ IG−331(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。
【0078】
<保温性の評価>
保温性は、実施例1〜4及び比較例1〜2の繊維から織編物を製造し、熟練者5名にて以下の評価基準に基づき評価した。
[評価基準]
○:かなり暖かいと感じる
△:暖かくなったと感じる
×:変化無し
【0079】
<曲げ負荷時の保温性の評価>
実施例1〜4及び比較例1〜2の繊維から織編物を作製し、曲率半径25mmに曲げた状態での保温性を上記保温性と同様にして評価した。
【0080】
<軽量性の評価>
実施例1〜4及び比較例1〜2の繊維の密度を概算して軽量性の指標とし、下記評価基準に基づき評価した。空洞部は空気と仮定した。
〔評価基準〕
◎:良好
○:普通
△:やや劣る
×:不良
【0081】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の異形断面繊維及び本発明の異形断面繊維の製造方法により製造された異形断面繊維は、審美性として充分な金属光沢を示し、軽量感及び保温性に優れ、曲げに強いので、衣料等の各種用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0083】
10 異形断面繊維
10a 表面
100 空洞
L 配向方向における空洞の長さ
r 繊維の直径方向における空洞の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性を有するポリマーからなり、内部に空洞を有する異形断面繊維であって、
前記空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均長さ(r)が0.05μm〜10μmであり、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さ(L)との比(L/r)が、10〜90であることを特徴とする異形断面繊維。
【請求項2】
断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側の結晶化度が、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側の結晶化度よりも高い未延伸原糸をネッキングが発現するように延伸してなる請求項1に記載の異形断面繊維。
【請求項3】
断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側の結晶化度が、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側の結晶化度が同じである未延伸原糸をネッキングが発現するように延伸してなる請求項1に記載の異形断面繊維。
【請求項4】
結晶性を有するポリマーが、ポリオレフィン類、ポリエステル類及びポリアミド類から選択される少なくとも1種である請求項1から3のいずれかに記載の異形断面繊維。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の異形断面繊維を製造する方法であって、
結晶性を有するポリマーのみからなる樹脂組成物を溶融紡糸する溶融紡糸工程と、
溶融紡糸された未延伸原糸をネッキングが発現するように延伸する延伸工程と、を含むことを特徴とする異形断面繊維の製造方法。
【請求項6】
溶融紡糸された未延伸原糸が、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側の結晶化度が、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より外周側の結晶化度よりも高い請求項5に記載の異形断面繊維の製造方法。
【請求項7】
溶融紡糸された未延伸原糸が、断面の重心から任意の外周までの距離の半分より重心側の結晶化度と、断面の重心から任意の外周までの距離が半分より外周側の結晶化度が同じである請求項5に記載の異形断面繊維の製造方法。

【図2B】
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【図3】
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【図1】
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【図2A】
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【図2C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−189794(P2010−189794A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34527(P2009−34527)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】