説明

異形湾曲押出成形品の製造方法およびその製造装置

【課題】 バリエーションに富んだ複雑に湾曲する異形の押出成形品を得ることができ、可塑性材料を押し出すときに、押し出された成形素材を型崩れさせることなく引き取ることができて、異形の湾曲成形品を合理的に製造する方法および装置を提供すること。
【解決手段】 押出機1における回転ダイ2の可動口金部21の向きを、当該押出機の押出方向の中心軸に対し任意の角度で横振り回転させることにより、この可動口金部21から成形素材mを前記横振り角度に応じた曲率に傾斜押し出しゝて湾曲部を成形する一方、
こうして湾曲部を成形しつゝ押し出される成形素材mを、前記可動口金部21が指向して押し出される方向および速度と同じ方向および速度で同調して駆動するXYθ3軸移動自在な引取りテーブル3上に乗載して、当該押出方向および速度に合わせて受継して搬送案内する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形品の製造方法とその製造装置の改良、更に詳しくは、可塑性材料を押し出すときに、押し出された成形素材を型崩れさせることなく引き取ることができ、複雑な湾曲部を有する異形の押出成形品を製造することができる画期的方法と、そのための製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セメントなどの水硬性材料を用いて円弧状の役物を連続的に押出成形する方法として、本件発明者は、嘗て、「ダイスシフトを使用した押出加工方法およびその装置」を提案した(特許文献1参照)。
【0003】
この押出成形技術は、コンテナに形成した押出口に押出口正面からみて平行に2つのダイス(dies)を配置し、この2つのダイスを平面視において押出方向に対して前後にずらして取り付け、押出材料を出口から押し出すことにより押し出される材料に曲がりを発生させるものであって、前記“ずれ量”を必要に応じて適宜調整することにより種々の曲がり製品を押出成形しようとしたものである。
【0004】
しかしながら、この発明においては、2つのダイスを平行に保持しながら目的とする湾曲成形品を得るに必要な“ずれ量”に正確に設定しなければならず、この“ずれ量”の設定が頗る困難であるうえ、折角“ずれ量”を正確に設定しても、当該ダイスから押し出された湾曲成形物が引取りの際に摩擦抵抗によって変形してしまい、所期する形状に仕上がらないという問題があった。
【0005】
そこで、本件発明者は湾曲押出成形品の製造方法および製造装置を発明した(特許文献2および3参照)。しかしながら、かかる製造方法および製造装置によって得られる成形品にあっては、一定曲率を有する曲がり製品に限られているため、成形品の形態バリエーションに乏しく、例えば、自動車部品に用いるシーリング部材や、電化製品における水漏れ防止パッキン部材などのように多様化する複雑な湾曲パターンを有する形状の押出成形品への要望に十分に応えられないという不満があった。
【特許文献1】特開2001−1039号公報
【特許文献2】特開2006−326920号公報
【特許文献3】特開2006−103262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の湾曲成形品の製造方法と装置に、上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、バリエーションに富んだ複雑に湾曲する異形の押出成形品を得ることができ、可塑性材料を押し出すときに、押し出された成形素材を型崩れさせることなく引き取ることができて、異形の湾曲成形品を合理的に製造することができる画期的方法と、そのための製造装置を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件発明者が上記技術的課題を解決するために採用した手段を添付図面に基づいて説明すれば、次のとおりである。
【0008】
即ち、本発明は、押出機1における回転ダイ2の可動口金部21の向きを当該押出機の押出方向の中心軸に対し任意の角度αで横振り回転させることにより、この可動口金部21から成形素材mを前記横振り角度に応じた曲率に傾斜押し出しゝて湾曲部を成形する一方、
こうして湾曲部を成形しつゝ押し出される成形素材mを、前記可動口金部21が指向して押し出される方向および速度vと同じ方向および速度で同調して駆動するXYθ3軸移動自在な引取りテーブル3上に乗載して、当該押出方向および速度に合わせて受継して搬送案内することにより、当該引取りテーブル3との摩擦による湾曲成形物Mの接地面の歪みを軽減しつゝ、回転ダイ2の回転角度に応じた湾曲度の湾曲部を有する異形の湾曲成形物Mを製造するという技術的手段を採用したことによって、異形湾曲押出成形品の製造方法を完成させた。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、得るべき湾曲成形物Mの形状に基づいて、押出工程の各時刻Tにおいて、回転ダイ2から押し出される成形素材mが引取りテーブル3上に受継する着地点pの各座標データP(X,Y,θ)を制御手段に入力する一方、
これら入力された各時刻T(T0 ・T1 ・T2 …Tk …Tn )における着地点pの座標データP(P0 (X0 ,Y0 ,θ0 )・P1 (X1 ,Y1 ,θ1 )・P2 (X2 ,Y2 ,θ2 )…Pk (Xk ,Yk ,θk )…Pn (Xn ,Yn ,θn ))に基づいた位置および角度に引取りテーブル3が移動して、押し出される成形素材mを次々と搬送案内するという技術的手段を採用した。
【0010】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、押出機1における成形素材mの押出速度vおよび押出圧力、並びに回転ダイ2の可動口金部21の向きαとの相関関係によって、各時刻T(T0 ・T1 ・T2 …Tk …Tn )における着地点pの座標データP(P0 (X0 ,Y0 ,θ0 )・P1 (X1 ,Y1 ,θ1 )・P2 (X2 ,Y2 ,θ2 )…Pk (Xk ,Yk ,θk )…Pn (Xn ,Yn ,θn ))が演算されるようにするという技術的手段を採用した。
【0011】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、座標データP(X,Y,θ)において、不動点を絶対座標系上の原点として設定する一方、引取りテーブル3上に設けた定点を制御基準点として定義し、絶対座標系において刻々と移動する制御基準点の各座標(x′,y′,θ′)を求める一方、
この制御基準点(x′,y′,θ′)を原点とする座標系において、引取りテーブル3上の各着地点pに対応する各座標(x″,y″,θ″)をそれぞれ算出して、
これら各座標(x″,y″,θ″)を制御手段にデータ入力して、引取りテーブル3の移動を制御するという技術的手段を採用した。
【0012】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、得るべき湾曲成形物Mの形状に一致する複数のポイントを引取りテーブル3上にプロットする一方、これらのポイントの各座標データP(P0 (X0 ,Y0 ,θ0 )・P1 (X1 ,Y1 ,θ1 )・P2 (X2 ,Y2 ,θ2 )…Pk (Xk ,Yk ,θk )…Pn (Xn ,Yn ,θn ))に基づいて、各時刻T(T0 ・T1 ・T2 …Tk …Tn )における、押出機1における成形素材mの押出速度vおよび押出圧力、並びに回転ダイ2の可動口金部21の向きαを決定するという技術的手段を採用した。
【0013】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、押出機1が所要断面形状の湾曲成形物Mとして押し出す可塑性成形材料をセメントなどの水硬性物質にするという技術的手段を採用した。
【0014】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、押出機1が所要断面形状の湾曲成形物Mとして押し出す可塑性成形材料をセラミックス捏和材などの焼結性物質にするという技術的手段を採用した。
【0015】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、押出機1が所要断面形状の湾曲成形物Mとして押し出す可塑性成形材料が帯熱軟化状態の熱可塑性樹脂にするという技術的手段を採用した。
【0016】
また、本発明は、可塑性成形材料を加圧して圧送する押出機1と、この押出機1の押出ヘッド部11に装着されて前記可塑性材料を所要断面形状の湾曲成形物Mに成形して連続的に押し出す回転ダイ2と、この回転ダイ2から押し出されてく湾曲成形物Mを載置して搬送する引取りテーブル3とを含み、かつ、
前記回転ダイ2は、成形素材mの出口側に左右へ揺動自在な可動口金部21と、この可動口金部21の揺動動作に応じて進退する一対のダイブロック22と、前記可動口金部21を任意の横振り角度に回転駆動せしめるダイ角度調節機構部23とを具備しており、
前記引取りテーブル3はXYθ3軸移動自在であって、回転ダイ2の可動口金部21から押し出される湾曲成形物Mを乗載し当該可動口金部21が指向して押し出される方向および速度と同じ方向および速度に同調して受継して搬送案内することにより、成形素材mを可動口金部21の回転角度に応じた湾曲度の湾曲部を有する異形の湾曲成形物Mを成形できるようにするという技術的手段を採用したことによって、異形湾曲押出成形品の製造装置を完成させた。
【発明の効果】
【0017】
本発明にあっては、押出機における回転ダイの可動口金部の向きを、当該押出機の押出方向の中心軸に対し任意の角度で横振り回転させることにより、この可動口金部から成形素材を前記横振り角度に応じた曲率に傾斜押し出しゝて湾曲部を成形する一方、こうして湾曲部を成形しつゝ押し出される成形素材を、前記可動口金部が指向して押し出される方向および速度と同じ方向および速度で同調して駆動するXYθ3軸移動自在な引取りテーブル上に乗載して、当該押出方向および速度に合わせて受継して搬送案内するという加工手段を採用したことにより、当該引取りテーブルとの摩擦による湾曲成形物の接地面の歪みを軽減しつゝ、回転ダイの回転角度に応じた湾曲度の湾曲部を有する異形の湾曲成形物を合理的に製造することができる。
【0018】
したがって、本発明の製造方法を用いることにより、回転ダイの横振り回転角度に応じた湾曲度の湾曲成形物を高精度に連続的に製造することが可能となり、押出ダイの孔径サイズに制約されることはなく、回転ダイの横振り回転角度を任意に調節変更することによって、複雑な異形の湾曲成形物を高能率に量産することができる。
【0019】
ちなみに、本発明方法が最も効果を発揮する押出成形材料はセメントなどの水硬性物質やセラミックス捏和材などの焼結性物質あるいは帯熱軟化状態の熱可塑性樹脂であり、これらの材料によって湾曲成形物を製造する場合に特に優れた効用が得られるのであり、得られる成形品は内部歪が極めて少なくて、経年で変形したりクラックが発生する憂いがない。
【0020】
また、本発明を具体的に実施する装置は、簡素な構造であり、設備費的に頗る安価に製作することができるので、固定費も低くなり損益分岐点の観点に照らしても非常に有利であり、更にまた、口金の交換により種々の断面形状の湾曲成形品を得ることができることから、産業上における利用価値は頗る高いと云える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施形態を具体的に図示した図面に基づいて更に詳細に説明すると次のとおりである。
【0022】
本発明の実施形態を図1から図8に基づいて説明する。図1中、符号1で指示するものは可塑性成形材料を加圧して圧送押し出しする押出機であり、押出側に押出ヘッド11を備える。この押出ヘッド11には後述の回転ダイ2が装着されており、本実施形態では、可塑性成形材料の押出成形に使用される周知のエクストルダー(extruder)と同じ構造を有している。
【0023】
次に、符号2で指示するものは回転ダイであり、この回転ダイ2は、上記の押出機1の押出ヘッド11に接続されており、成形素材の出口側に左右へ揺動自在な可動口金部21と、この可動口金部21の揺動動作に応じて進退する一対の一側ブロック筒片22aと他側ブロック筒片22bとから成る割り型のダイブロック22と、前記可動口金部21を任意の横振り角度αに駆動せしめるダイ角度調節機構部23とによって構成されている。
【0024】
そして、この回転ダイ2における可動口金部21の左右への揺動を可能にする前記ダイ角度調節機構部23は、回転駆動体23a(本実施形態では、制御モータ)の回転動により正逆回転するウォーム23bと、このウォーム23bに噛合するギア23cと、このギア23cの正逆回転に応じ回転ダイ2の可動口金部21の横振り回転角度αを調節する角度調節ロッド23dとから構成されている。ちなみに、本実施形態における前記可動口金部21の押出口形状は、長さ80mm、高さ30mmの横コの字形断面をなしている。
【0025】
また、符号3で指示するものは引取りテーブルであり、この引取りテーブル3は、前記回転ダイ2の可動口金部21から押し出される湾曲成形物Mを乗載し、当該可動口金部21が指向して押し出される方向および速度vと同じ方向および速度に同調して受継して搬送案内することができる機構である(図2参照)。
【0026】
本実施形態における引取りテーブル3は、XYθの3軸に移動自在であり、即ち、互いに直交する平面上のX軸方向とY軸方向に水平運動でき、かつ、角度θで回転運動できるものであって、これら3軸方向の運動を複合して同時に行うことができる。
【0027】
具体例としては、図3の(a)(b)(c)に示すように、それぞれの軸方向に駆動する機構を備えたテーブルを順次重ね合わせることによって構成することができ、それぞれに設けられた制御モータ31a、31b、31cを回転して駆動可能である。なお、この重ね合わせる順序が入れ替わっても駆動および制御に問題はない。
【0028】
そして、この引取りテーブル3は、上記押出機1における回転ダイ2の下側に配設されており、本実施形態では、更に、当該回転ダイ2の可動口金部21における押出口縁21aと引取りテーブル3との間に送り滑り板24を介設させて、受継を円滑にすることもできる。
【0029】
ところで、回転ダイ2から押し出される湾曲成形物Mを引取りテーブル3が受継する位置は、当該回転ダイ2における可動口金部21の押出口縁21aから垂れ下がって引取りテーブル3に接地する着地点pである(図4参照)。
【0030】
そして、この着地点pにおける引取りテーブル3の方向および速度は、回転ダイ2から押し出されてくる湾曲成形物Mの押出方向および速度vに同調させておく必要がある。引取りテーブル3の受継位置(着地点p)における回転速度と湾曲成形物Mの押出速度とが不一致の場合には当該成形物に引っ張り変形が生じたり、圧縮変形が生じたりするからである。
【0031】
なお、前記「押出速度」としては、回転ダイ2から押し出されてくる湾曲成形物M(成形素材m)の単位時間当たりの押出距離(線速ともいう。例えば、cm/sやm/min)を採用することができる。この線速は、可動口金部21の押出口縁21aの左右の位置によって一様でない(曲線内側が遅く外側が速い)場合があるので、平均値や最大値、最小値などを採用することができる。
【0032】
また、その他に「押出速度」として、回転ダイ2から押し出されてくる湾曲成形物M(成形素材m)の単位時間当たりの押出体積(例えば、cm3 /s)を採用することもできる。押出機1のスクリューの回転速度を制御する際に、この回転速度に比例する量だからである。なお、この場合には、引取りテーブル3が移動する速度(例えば、cm/sやm/min)の次元に換算して同調させる必要がある。
【0033】
本実施形態の製造方法において引取りテーブル3を制御する方法について説明する。まず、得るべき湾曲成形物Mの形状を決定する。本実施形態では、図5に示すようなS字型の形状の湾曲成形物Mを製造する。
【0034】
そして、この湾曲形状に基づいて、各時刻Tにおいて、回転ダイ2から押し出される成形素材mが引取りテーブル3上に受継する着地点pの各座標データP(P0 ・P1 ・P2 …Pk …Pn)を求め(図5参照)、制御手段(本実施形態では、公知の汎用パーソナルコンピュータ)に入力することにより、引取りテーブル3を移動させる。
【0035】
ここで、本実施形態では、前記着地点pの座標データPk (Xk ,Yk ,θk )を求める際に、引取りテーブル3の移動制御をよりし易くするために、以下のように、一旦、引取りテーブル3上に「制御基準点Q」を仮に設けたプロセスで演算して決定することが好適である(図6参照)。
【0036】
即ち、まず、不動点を絶対座標系の原点として設定する一方、引取りテーブル3上に設けた定点(中心点など)を制御基準点Qとして定義し、絶対座標系において刻々と移動する当該制御基準点Qの各座標Qk (x′k ,y′k ,θ′k )を求める。
【0037】
次に、この引取りテーブル3上の制御基準点Qk (x′k ,y′k ,θ′k )を原点とする座標系(相対座標系)において、当該引取りテーブル3上の各着地点pに対応する各座標(テーブル上座標)pk (x″k ,y″k ,θ″k )をそれぞれ算出する。そして、このテーブル上座標pk (x″k ,y″k ,θ″k )を制御手段に入力することによって、引取りテーブル3の移動を制御する。このプロセスを用いることにより、前記着地点pの座標が引取りテーブル3の基準になり制御を単純化することができる。
【0038】
なお、本実施形態では、図5に示した座標P(P0 ・P1 ・P2 …)の間隔を、より短い単位時間に区切って設定間隔を狭めることができ、より高精度な制御を行うことができる。また、直線部分や一定曲率部分においては、座標を設けるポイントをその両端(始点と終点)のみに設定することもできる。
【0039】
また、本実施形態では、湾曲成形物Mの形状において、曲率が変化する箇所におけるスムージング処理のために、円弧補間等を行うことも製品を高精度化するための手法の一つとして有効である。
【0040】
そして、制御手段に入力されたデータに基づいて前記引取りテーブル3を移動する。この際、本実施形態では、制御モータ31a、31b、31cをそれぞれ駆動することにより、X軸用可動板、Y軸用可動板、回転用可動板をそれぞれ移動させることができる。
【0041】
このようにして、入力された各時刻T(T0 ・T1 ・T2 …Tk …Tn )における着地点pの座標データP(P0 (X0 ,Y0 ,θ0 )・P1 (X1 ,Y1 ,θ1 )・P2 (X2 ,Y2 ,θ2 )…Pk (Xk ,Yk ,θk )…Pn (Xn ,Yn ,θn ))に基づいて、引取りテーブル3を移動させて、押し出される成形素材mを次々と搬送案内することができる。
【0042】
この際、押出機1における回転ダイ2の可動口金部21の向きを、当該押出機の押出方向の中心軸に対し任意の角度αで横振り回転させることによって、この可動口金部21から成形素材mを前記横振り角度に応じた曲率に傾斜押し出しゝて湾曲部を成形することができる。
【0043】
そして、こうして湾曲部を成形しつゝ押し出される成形素材mを、前記可動口金部21が指向して押し出される方向および速度vと同じ方向および速度で同調して駆動するXYθ3軸移動自在な引取りテーブル3上に乗載して、押出方向および速度に合わせて受継して搬送案内することができる。
【0044】
このように構成したことにより、当該引取りテーブル3との摩擦による湾曲成形物Mの接地面の歪みを軽減しつゝ、回転ダイ2の回転角度に応じた湾曲度の湾曲部を有する異形の湾曲成形物Mを製造することができる(図7参照)。
【0045】
なお、本実施形態では、押出機1における成形素材mの押出速度vおよび押出圧力、並びに回転ダイ2の可動口金部21の向きαとの各パラメータの相関関係によって、各時刻T(T0 ・T1 ・T2 …Tk …Tn )における着地点pの座標データP(P0 (X0 ,Y0 ,θ0 )・P1 (X1 ,Y1 ,θ1 )・P2 (X2 ,Y2 ,θ2 )…Pk (Xk ,Yk ,θk )…Pn (Xn ,Yn ,θn ))を演算することもできる。こうすることにより、押出機1を制御するために入力する装置制御データをそのまま用いてこれに連動させることができ、予め湾曲成形品Mの製品形状を決定してデータ入力をしておく必要がなくなるので、製造工程を簡素化することができる。
【0046】
また、本実施形態では、押出機1が所要断面形状の湾曲成形物Mとして押し出す可塑性成形材料がセメントなどの水硬性物質にしたり、可塑性成形材料がセラミックス捏和材などの焼結性物質にしたり、帯熱軟化状態の熱可塑性樹脂にすることができる。
【0047】
これらのうち、帯熱軟化状態の熱可塑性樹脂を押し出す場合には、高温で流動性が比較的高く形態安定性が低いため、押し出されてきた直後に成形物を冷却するための冷却機構を設けることが好ましい。
【0048】
また、本実施形態では、逆に、得るべき湾曲成形物Mの形状に一致する点を引取りテーブル3上にプロットする一方、これらの点の各座標データP(P0 (X0 ,Y0 ,θ0 )・P1 (X1 ,Y1 ,θ1 )・P2 (X2 ,Y2 ,θ2 )…Pk (Xk ,Yk ,θk )…Pn (Xn ,Yn ,θn ))に基づいて、各時刻T(T0 ・T1 ・T2 …Tk …Tn )における、押出機1における成形素材mの押出速度vおよび押出圧力、並びに回転ダイ2の可動口金部21の向きαを決定することができる。
【0049】
具体例としては、プロットしたある座標間の距離や角度の相対関係からみて、湾曲成形品Mの半径が小さくなっている箇所は、傾き角度αの値が大きくなるようにして押出機1を制御しても良いし、また、直線部分であれば、押出速度vを大きくしても成形に支障がない場合には、スピードを上げるようにして押出機1を制御することもできる。
【0050】
なお、このように逆算的に押出機制御のためのデータ値を算出する際には、成形材料mの物性についての種々のパラメータが必要になってくるため、例えば、粘性、密度、流動性、滑り摩擦係数などの各数値をデータベース化しておき、適宜、補正などに用いる。
【実施例】
【0051】
〔実施例1〕
本発明の製造装置を使用して、異なる曲率の湾曲部を有する異形の湾曲押出成形品を製造するプロセスを説明する。実施例1では、次の配合比で調製したセメント捏和材料を可塑性成形材料として用いた。
(1) ポルトランドセメント 30〜50 wt%
(2) 珪 石 20〜40 wt%
(3) 軽量骨材 10〜25 wt%
(4) パルプ 3〜5 wt%
(5) PP繊維 0.5〜1.5 wt%
(6) MC(メチルセルロース) 2〜3 wt%(保水・増粘剤として)
【0052】
押出機1のホッパーに上記配合のセメント捏和材料を投入し、回転ダイ2の可動口金部21を直進方向に対し、最初に30°左側へ斜向させて、かつ、任意の角度に横振りさせながら引取りテーブル3に載置してあるトレーの上に2m/minの速度にて湾曲成形物Mとして押し出す。こうして押し出された湾曲成形物Mは未硬化の状態で所定サイズになったところで図示しないカッター装置で切断される。
【0053】
こうして得られた未硬化セメントの湾曲成形物Mは、トレー毎に移動して図示しないオートグレーブ室に搬送して高温高圧下で養生し湾曲押出成形品として完成される。
【0054】
〔実施例2〕
次いで、実施例2では、以下の配合比で調製したセメント捏和材料を可塑性成形材料として用いた。
(1) ポルトランドセメント 60〜80 wt%
(2) 軽量骨材 10〜25 wt%
(3) パルプ 3〜5 wt%
(4) PP繊維 0.5〜1.5 wt%
(5) MC(メチルセルロース) 2〜3 wt%(保水・増粘剤として)
【0055】
押出機1のホッパーに上記配合のセメント捏和材料を投入し、回転ダイ2の可動口金部21を初めに直進方向に対し30°左側へ斜向させ、かつ、任意の角度に横振りさせながら引取りテーブル3上に湾曲成形物Mとして2m/minで押し出した。
【0056】
こうして傾斜押出された未硬化の湾曲成形物Mは受継位置で移動する引取りテーブル3に乗載して搬送され、その搬送軌跡に沿って湾曲成形される。ちなみに、本実施例の製造装置にあっては、引取りテーブル3の上にはトレーが載置してあるので、回転ダイ2から押し出される湾曲成形物Mは、トレーの上に乗載された状態で前記成形が営まれることになる。こうして未硬化セメントの湾曲成形物Mは予め設計した複数の湾曲部を有する異形の所望形状になったところでカッター装置にて切断される。
【0057】
こうして得られた湾曲成形物Mは、トレー毎に移動して図示しないオートグレーブ室に搬送し、常圧下で蒸気養生されることにより湾曲押出成形品として完成する。
【0058】
〔実施例3〕
次に、実施例3では、熱可塑性樹脂材料を用いて、異形湾曲押出し成形を行った。
〔設備〕
押出機:笠松化工研究所製 単軸押出機
〔成形条件〕
材料:ミラストマーEK−700(三井化学社製 オレフィン系熱可塑性エラストマー)
金型形状:中空パッキン形状(図8に示す断面形状)
金型温度:180℃
樹脂温度:162℃
〔結果〕
上記条件で熱可塑性樹脂成形品を金型から出た直後にエアー冷却を行い、形状を固化させながら成形テーブルに乗載し、任意の半径(R=10mm以上にて可変成形が可能)を持つ異形断面形状品を得た。また、平板形状(高さ8.5mm×巾34mm、高さ12.5mm×幅34mm)においても同じ曲率範囲を持つ成形品が得られた。
【0059】
本発明の実施例は概ね上記のとおりであるが、本発明は上記実施例に限定されるものでは決してなく「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、上記実施例においては可塑性成形材料として水硬性のセメント捏和材料を使用する例を挙げて説明している。しかし、本発明は、焼結性を有する各種の陶土、磁器土、アルミナ・ジルコニア・ムライト・コージライトなどのファインセラミックス原料を粘土状に捏和した捏和材の湾曲成形にも適用可能であり、本発明の技術的範囲に属することは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上、実施例を挙げて説明したとおり、本発明によれば従来の押出成形装置に比較して然程に複雑な機構に依ることなく、押出機から押し出される成形素材をして簡易かつ正確に複雑な任意曲率の湾曲形状を付与して異形の押出成形品を得ることができうえに、押し出された湾曲成形物を引き取る際にも不用意に変形させることもなく、その産業上の利用価値は頗る大きい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態の製造装置の概略を示した斜視説明図である。
【図2】本発明の実施形態の製造装置を示した説明上面図である。
【図3】本発明の実施形態の製造装置を示した分解斜視図である。
【図4】本発明の実施形態の製造装置を示した説明側面図である。
【図5】本発明の実施形態の製造方法の制御手段を示した説明上面図である。
【図6】本発明の実施形態の製造方法の制御手段を示した説明上面図である。
【図7】本発明の実施形態の製造装置の運動機構の概略を示した部分平面図である。
【図8】本発明の実施例3における可動口金部の押出口形状を示した正面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 押出機
11 押出ヘッド
2 回転ダイ
21 可動口金部
21a 押出口縁
22 ダイブロック
22a 一側ブロック筒片
22b 他側ブロック筒片
23 ダイ角度調節機構
23a 回転駆動体
23b ウォーム
23c ギア
23d 角度調節ロッド
24 送り滑り板
3 引取りテーブル
31a X軸制御モータ
31b Y軸制御モータ
31c θ軸制御モータ
M 湾曲成形物
m 成形素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機1における回転ダイ2の可動口金部21の向きを、当該押出機の押出方向の中心軸に対し任意の角度αで横振り回転させることにより、この可動口金部21から成形素材mを前記横振り角度に応じた曲率に傾斜押し出しゝて湾曲部を成形する一方、
こうして湾曲部を成形しつゝ押し出される成形素材mを、前記可動口金部21が指向して押し出される方向および速度vと同じ方向および速度で同調して駆動するXYθ3軸移動自在な引取りテーブル3上に乗載して、当該押出方向および速度に合わせて受継して搬送案内することにより、当該引取りテーブル3との摩擦による湾曲成形物Mの接地面の歪みを軽減しつゝ、回転ダイ2の回転角度に応じた湾曲度の湾曲部を有する異形の湾曲成形物Mを製造することを特徴とする異形湾曲押出成形品の製造方法。
【請求項2】
得るべき湾曲成形物Mの形状に基づいて、押出工程の各時刻Tにおいて、回転ダイ2から押し出される成形素材mが引取りテーブル3上に受継する着地点pの各座標データP(X,Y,θ)を制御手段に入力する一方、
これら入力された各時刻T(T0 ・T1 ・T2 …Tk …Tn )における着地点pの座標データP(P0 (X0 ,Y0 ,θ0 )・P1 (X1 ,Y1 ,θ1 )・P2 (X2 ,Y2 ,θ2 )…Pk (Xk ,Yk ,θk )…Pn (Xn ,Yn ,θn ))に基づいた位置および角度に引取りテーブル3が移動して、押し出される成形素材mを次々と搬送案内することを特徴とする請求項1記載の異形湾曲押出成形品の製造方法。
【請求項3】
押出機1における成形素材mの押出速度vおよび押出圧力、並びに回転ダイ2の可動口金部21の向きαとの相関関係によって、各時刻T(T0 ・T1 ・T2 …Tk …Tn )における着地点pの座標データP(P0 (X0 ,Y0 ,θ0 )・P1 (X1 ,Y1 ,θ1 )・P2 (X2 ,Y2 ,θ2 )…Pk (Xk ,Yk ,θk )…Pn (Xn ,Yn ,θn ))が演算されることを特徴とする請求項2記載の異形湾曲押出成形品の製造方法。
【請求項4】
座標データP(X,Y,θ)において、不動点を絶対座標系上の原点として設定する一方、引取りテーブル3上に設けた定点を制御基準点として定義し、絶対座標系において刻々と移動する制御基準点の各座標(x′,y′,θ′)を求める一方、
この制御基準点(x′,y′,θ′)を原点とする座標系において、引取りテーブル3上の各着地点pに対応する各座標(x″,y″,θ″)をそれぞれ算出して、
これら各座標(x″,y″,θ″)を制御手段にデータ入力して、引取りテーブル3の移動を制御することを特徴とする請求項2または3記載の異形湾曲押出成形品の製造方法。
【請求項5】
得るべき湾曲成形物Mの形状に一致する複数のポイントを引取りテーブル3上にプロットする一方、これらのポイントの各座標データP(P0 (X0 ,Y0 ,θ0 )・P1 (X1 ,Y1 ,θ1 )・P2 (X2 ,Y2 ,θ2 )…Pk (Xk ,Yk ,θk )…Pn (Xn ,Yn ,θn ))に基づいて、各時刻T(T0 ・T1 ・T2 …Tk …Tn )における、押出機1における成形素材mの押出速度vおよび押出圧力、並びに回転ダイ2の可動口金部21の向きαが決定されることを特徴とする請求項1記載の異形湾曲押出成形品の製造方法。
【請求項6】
押出機1が所要断面形状の湾曲成形物Mとして押し出す可塑性成形材料がセメントなどの水硬性物質であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の異形湾曲押出成形品の製造方法。
【請求項7】
押出機1が所要断面形状の湾曲成形物Mとして押し出す可塑性成形材料がセラミックス捏和材などの焼結性物質であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の異形湾曲押出成形品の製造方法。
【請求項8】
押出機1が所要断面形状の湾曲成形物Mとして押し出す可塑性成形材料が帯熱軟化状態の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の異形湾曲押出成形品の製造方法。
【請求項9】
可塑性成形材料を加圧して圧送する押出機1と、この押出機1の押出ヘッド部11に装着されて前記可塑性材料を所要断面形状の湾曲成形物Mに成形して連続的に押し出す回転ダイ2と、この回転ダイ2から押し出されてく湾曲成形物Mを載置して搬送する引取りテーブル3とを含み、かつ、
前記回転ダイ2は、成形素材mの出口側に左右へ揺動自在な可動口金部21と、この可動口金部21の揺動動作に応じて進退する一対のダイブロック22と、前記可動口金部21を任意の横振り角度αに回転駆動せしめるダイ角度調節機構部23とを具備しており、
前記引取りテーブル3はXYθ3軸移動自在であって、回転ダイ2の可動口金部21から押し出される湾曲成形物Mを乗載し当該可動口金部21が指向して押し出される方向および速度vと同じ方向および速度に同調して受継して搬送案内することにより、成形素材mを可動口金部21の回転角度に応じた湾曲度の湾曲部を有する異形の湾曲成形物Mを成形できることを特徴とする異形湾曲押出成形品の製造装置。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−274322(P2009−274322A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127520(P2008−127520)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000010065)フクビ化学工業株式会社 (150)
【Fターム(参考)】