説明

異方導電性シートの製造方法

【課題】導電性磁性粒子が局所的に集合する異方導電性シートを製造するに際し、絶縁性樹脂中に取り残される導電性磁性粒子をより少なくすること。
【解決手段】シート状の成形型空間内に流動状態とした絶縁性樹脂1を配置しかつ該絶縁性樹脂1中には導電性磁性粒子2を分散させておく。この型空間に対して、導通路を形成すべき位置に、第一磁界G1をシート厚さ方向に作用させ、導電性磁性粒子2aを局所的に集合させて導通路を形成する。同時に、中間領域に第二磁界G2をシート厚さ方向に作用させかつ該磁界G2を横方向に移動させることによって、中間領域に取り残されていた導電性磁性粒子2bを導通路の集合に加わるように移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICなどの電子部品の実装、プリント回路基板同士の電気的な接続などに介在させて用いられる異方導電性シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
異方導電性シート(異方導電性フィルムとも呼ばれる)は、特許文献1〜9に示すように、種々の構造のものが知られている。
図6(a)に示すように、絶縁性樹脂シート101中に導電性粒子102を均一に分散させた異方導電性シート100では、未使用(未加圧)の状態では個々の導電性粒子102同士は互いに離れている。しかし、図6(b)に示すように、該異方導電性シート100を、接続すべき電子部品110の電極111と、実装用基板120の配線回路121との間に介在させて両側から圧縮すると、圧縮された部位では導電性粒子同士が互いに接触し、電極111と回路121とが電気的に導通する。
また、図6(c)、(d)に示す異方導電性シートでは、絶縁性樹脂シート100中に、該シートを厚さ方向に貫通する導通路103、104が、導通路同士の間を互いに絶縁された状態にて多数設けられている。導通路は、図6(c)に示すように、貫通孔内に良導体金属を充填したものや金属導線を貫通させたもの、図6(d)に示すように、導電性磁性粒子を局所的に集合させて導通路としたものなどが挙げられる。
【0003】
従来、図6(d)に示した異方導電性シートを製造するには、次のような製造方法が用いられている。
先ず、図7(a)に示すように、シート状の成形型内(図では、仕切り板201、202によって定められたシート状のキャビティ空間を指す)に流動状態の絶縁性樹脂101aを配置する。該絶縁性樹脂101aは、導電性磁性粒子102を均一に分散した状態で含んでいる。
次に、型内の絶縁性樹脂に対して、導通路を形成すべき位置に磁石M1、M2を対向させ、局所的な磁界をシート厚さ方向に作用させる(図では、磁界を破線の矢印で模式的に示している)。図7(a)に示すように、均一に分散していた導電性磁性粒子102は、局所的な磁界に向かって引き寄せられ、図7(b)に示すように集合し、導通路となる。
最後に、絶縁性樹脂を硬化させて、異方導電性シートが得られる。
【0004】
しかしながら、本発明者等が、上記のような従来の製造方法をより詳細に検討したところ、次のような問題が存在していることがわかった。
図7(a)に示すように、型内の絶縁性樹脂に対して局所的な磁界を作用させた場合、初期段階では、対向する磁石同士の間の磁界は広がっているので、導電性磁性粒子102を中心方向へと引き寄せることができる。
しかし、図7(b)に示すように、導電性磁性粒子102aが導通路として集合するにつれて、その導通路が磁路となり、磁界が該導通路内に閉じ込められるために、周囲に磁界が作用し難くなる。その結果、絶縁性樹脂中には、図7(b)に示すように、導電性磁性粒子102bが多数取り残されることになる。いったん取り残された導電性磁性粒子102bは、導通路へと引き寄せられることはなく、そのまま導通路として寄与することなく、フィルム中に分散しているだけである。
【0005】
即ち、従来の製造方法において本発明者等が見出した問題点は、導電性磁性粒子の一部が取り残されることにある。
絶縁性樹脂中に導電性磁性粒子が取り残されるために、(i)十分な断面積を有する好ましい導通路が得られないという問題や、(ii)取り残された導電性磁性粒子によって導通路同士の絶縁についての信頼性が損なわれるなどの問題が生じる。
上記(i)の問題を解決すべく、絶縁性樹脂中に導電性粒子をより多量に分散させたとしても、取り残される導電性磁性粒子の数も増大し、上記(ii)の絶縁に関する信頼性の問題も大きくなる。
【特許文献1】特開昭51−93393号公報
【特許文献2】特開昭53−147772号公報
【特許文献3】特開昭54−146873号公報
【特許文献4】特公昭56−48951号公報
【特許文献5】特開平4−151889号公報
【特許文献6】特開平7−105741号公報
【特許文献7】特開2000−133063号公報
【特許文献8】特開2001−185261号公報
【特許文献9】米国特許第4,292,261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記問題点を解消し、導電性磁性粒子が局所的に集合する異方導電性シートを製造するに際し、絶縁性樹脂中に取り残される導電性磁性粒子をより少なくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次の特徴を有するものである。
(1)下記(A)の異方導電性シートを製造するための方法であって、
シート状の成形型空間内に流動状態とした絶縁性樹脂を配置しかつ該絶縁性樹脂中には導電性磁性粒子を分散させ、該シート状の成形型空間に対して、
(イ)導通路を形成すべき位置に、第一の磁界をシート厚さ方向に作用させ、導電性磁性粒子を局所的に集合させて導通路を形成する加工と、
(ロ)導通路を形成すべき位置同士の間にある中間領域に、第二の磁界をシート厚さ方向に作用させ、その第二の磁界をシート面拡張方向に移動させることによって、中間領域に存在する導電性磁性粒子を導通路の集合に加わるように移動させる加工とを、
同時に施した後、流動状態の絶縁性樹脂を固体化することを特徴とする、
異方導電性シートの製造方法。
(A)絶縁性樹脂シートと該シート中に含まれた導電性磁性粒子とを有し、導電性磁性粒子が局所的に集合して該絶縁性樹脂シートを厚さ方向に貫通する複数の導通路となっている異方導電性シート。
(2)シート状の成形型空間を形成する壁面のうちの2つの主壁面の一方の面内に、または成形型空間から見て該主壁面の背後に、第一の磁石を導通路の配置パターンに従って配置し、上記(イ)の加工を行い、
成形型空間から見て、上記第一の磁石のさらに背後に、または上記主壁面の対向主壁面の背後に、第二の磁石を配置し、該第二の磁石をシート面拡張方向に移動させることによって、上記(ロ)の加工を行うものである、上記(1)記載の製造方法。
(3)シート状の成形型空間を形成する壁面のうちの2つの主壁面の一方の面内に、または成形型空間から見て該主壁面の背後に、第一の磁石を導通路の配置パターンに従って配置し、上記(イ)の加工を行い、
成形型空間から見て、上記第一の磁石のさらに背後に、または上記主壁面の対向主壁面の背後に、第二の磁石としての電磁石をシート面拡張方向に沿って複数配列し、個々の電磁石の作動順序を制御することによって第二の磁界をシート面拡張方向に移動させて上記(ロ)の加工を行うものである、上記(1)記載の製造方法。
(4)シート状の成形型空間を形成する壁面のうちの2つの主壁面の一方の面内に、または成形型空間から見て該主壁面の背後に、
第一の磁界発生用の第一の材料を、導通路の配置パターンに従って配置し、前記第一の材料同士の間を充填するように、第二の磁界発生用の第二の材料を配置し、
第一の材料、第二の材料は、共に磁界を通過させ得る材料であって、第一の材料が第二の材料よりも透磁率が高いものであり、
配置された第一、第二の材料の背後において、磁石をシート面拡張方向に移動させることによって、該磁石によって生じる磁界を、第一の材料を通過させて第一の磁界とし、かつ、第二の材料を通過させて第二の磁界として、成形型空間内へ同時に作用させ、上記(イ)、(ロ)の加工を同時に行うものである、上記(1)記載の製造方法。
(5)第一の磁界、第二の磁界が、シート状の成形型空間内により強く作用するように、少なくとも成形型、第一の磁界の発生源および第二の磁界の発生源を、部分的にまたは全体的に磁性体で取り囲むものである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)さらに、シート状の成形型空間内に機械的振動を加え、上記(ロ)の加工を促進させるものである、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明による製造方法では、上記(1)に示すように、導電性磁性粒子を分散状態で含み、型内において流動状態となっている絶縁性樹脂に対して、導通路を形成するための第一の磁界(第一磁界)を固定位置に作用させる。これと同時に、第二の磁界(第二磁界)を動的に作用させ、第一磁界の作用による導電性磁性粒子の集合(=導通路)から取り残される導電性磁性粒子を牽引して、導通路へ参加するように導く。
これら目的作用の異なる2種類の磁界を二重に作用させることによって、中間領域に取り残される導電性磁性粒子の数を減少させることができ、導通路はより太くなる。よって異方導電性シートは、厚さ方向についての良好な導電性と、シート面拡張方向についての良好な絶縁性とを持つようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明による製造方法を模式的に示す図である。同図に示すように、当該製造方法は、2枚の板状の型部材20、30によってその間に形成されたシート状の成形型(成型キャビティ)内に、流動状態となっている絶縁性樹脂1を配置する。該絶縁性樹脂1中には、導電性磁性粒子2が分散して含まれている(同図では、既に局所的に集合した状態を示している)。型内において流動状態とした絶縁性樹脂1に対して、下記(イ)、(ロ)の加工を同時に施す。
(イ)導通路を形成すべき位置に、第一の磁界(以下、第一磁界)G1をシート厚さ方向に作用させ、導電性磁性粒子2aを局所的に集合させて導通路を形成する。
(ロ)導通路を形成すべき位置同士の間にある中間領域には、第二の磁界(以下、第二磁界)G2をシート厚さ方向に作用させ、その状態で第二磁界をシート面拡張方向(以下「横方向」と呼ぶ)に移動させる。これによって、中間領域に取り残された(または、取り残されつつある)導電性磁性粒子2bを牽引し移動させて、導通路の集合へと加わらせる。導通路が形成された後、絶縁性樹脂1を固体化し、異方導電性シートを得る。
【0010】
本発明の製造方法によって製造すべき異方導電性シートは、上記(A)に記載された構成を有するものであればよい。その好ましい寸法、構造や材料等を次に例示する。
シートの母材となる絶縁性樹脂は、少なくとも上記(イ)、(ロ)の加工を施す際には流動状態となり得、加工後にはシートとして固体化し得る材料であればよい。このような材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などが挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ナイロン、ポリオレフィンなどが挙げられ、紫外線硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などが挙げられ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0011】
異方導電性シートの厚さは特に限定されないが、一般的な異方導電性シートと同様、10μm〜50μmが好ましく、なかでも10μm〜25μmは、電極が高密度に配置された近年のICチップの実装には多用されている好ましい厚さである。
【0012】
製造工程で得られる裁断前の状態や最終製品としての異方導電性シートの外周形状、外形寸法は、製造設備、工程能力、接続すべき電子部品、回路基板の大きさに応じて、それぞれ決定すればよい。
例えば、裁断前の異方導電性シートの外形寸法としては、幅50mmの帯状のシート(ロール状に巻き付けたものから、解いて供給される)や、100mm×100mmのシート状などが例示され、最終的な製品としての異方導電性シートの外形寸法としては、形状を方形として、(30mm×50mm)〜(0.5mm×5mm)程度のものが例示される。
【0013】
異方導電性シート面を見たときの、導通路の配置パターン、導通路の断面形状、平均外径、シート面に占める導通路断面の比率などは、従来公知の異方導電性シートの設計値を参照してよい。
また、異方導電性シート全体としての弾性係数、耐熱性、その他の機械的性質、電気的性質、化学的性質についても、従来公知の異方導電性シートの特性を参照すればよく、また、産業上求められる性質に応じればよい。
【0014】
異方導電性シート中に含まれる導電性磁性粒子の材料、粒子径、粒子の製法、配合量、混練方法などは、公知技術を参照してよい。
導電性磁性粒子の材料としては、例えば、鉄、ニッケルなどの導電性磁性金属が挙げられる他、フェライトなどの非導電性磁性体を含んだ磁性体紛に金、銀などの導電性物質をコートしたものなどが挙げられる。
導電性磁性粒子の粒子径は、該粒子径の測定方法を光散乱法として、0.1μm〜5μm程度が好ましい。
【0015】
絶縁性樹脂を配置したシート状の成形型空間内に対し、第一磁界、第二磁界を作用させるための具体的な装置構成を、以下に説明する。
【0016】
本発明で用いるシート状の成形型空間(以下、「型空間」とも言う)は、目的の異方導電性シートを成型し得るシート形状の空間であればよい。該型空間は、異方導電性シートの表裏の主面、外周面を完全に取り囲んだ密閉型の成型キャビティであってもよく、また、導電性磁性粒子を分散して含むシート状の絶縁性樹脂を、2枚のシート状の型部材によって表裏から挟み込む型構造とし、その2枚のシート状の型部材同士の間に規定される空間であってもよい。
図1の例では、2枚の平行なシート状の型部材20と30によって挟まれた内部空間が型空間である。
【0017】
型空間内に、絶縁性樹脂(導電性磁性粒子を含む)を流動状態として配置する方法は、従来公知の成型技術を参照してよいが、例えば、次の方法が例示される。
(i)流動状態の絶縁性樹脂と導電性磁性粒子とを混合してなる流動状材料を、型空間内に注入する方法。
(ii)既に導電性磁性粒子を分散状態で含むシート状の熱可塑性樹脂材料部材(固形)を用意し、型空間内で溶融させる方法。
(iii)粉状(または粒状)の樹脂と導電性磁性粒子とを混合してなる材料を、型空間内に配置し、型空間内で溶融する方法。
【0018】
型空間に少なくとも第一の磁界を作用させるための型構造としては、次のものが例示される。
図2に示すように、型空間を形成する壁面のうちの異方導電性シート面に対応する2つの主壁面21、31のうちの一方の主壁面(以下、第一主面。図では下側の内壁面21)の面内に、第一磁石g1を配置する構造。即ち、型空間の第一主面21を、板状の型部材20の主面とし、該型部材20に第一磁石g1を埋め込む構造。これによって、第一磁石g1は、型空間内に露出し、絶縁性樹脂と接触する。
図1に示すように、型空間の第一主面21を、板状の型部材20によって構成し、成形型空間から見て該型部材20の背後に第一磁石g1を配置する構造。
取り扱いが容易である点からは、図1の態様が好ましい。
【0019】
図1の態様の場合、第一主面21側の型部材20の材料は、背後からの磁界G1、G2を好ましく透過させる材料とすべきである。さらに、型部材20の材料は、絶縁性樹脂が加熱溶融するタイプの場合には、適当な耐熱性を有する材料とすべきである。
このような型部材の材料としては、ポリイミド、ポリエステルなどが挙げれる。
また、このような場合の板状の型部材の厚さは、磁力線の拡散などを考慮すれば、0.01mm〜0.02mm程度が好ましい。
【0020】
図1、2に示す、型空間を形成する壁面のうち、第一主面21に対向する他方の主壁面(以下、第二主面)31を形成する型部材30の構造、材料などは特に限定されないが、磁性体を用いることによって、第一磁界が広がることなく型空間を渡るので、導電性磁性粒子をよりシャープに集合させることが可能となる。
そのような型部材用の磁性体としては、鉄、ニッケル、フェライトなどが挙げられる。
【0021】
第一磁石は、形成すべき導通路の配置パターンに従って配置すればよい。
第一磁石の断面形状(第一主面に平行な面で切断したときの断面の形状)は、導通路の断面形状と一致させることが好ましいが、導通路の断面形状よりも小さくてもよい。
第一磁石は、型空間の第一主面の側だけでなく、従来技術のように、第二主面の側に他方の磁極を対向させて配置してもよい。しかし、そのような対向配置は、向い合った磁極同士の位置合わせが困難であり、また、部材の点数が増えるという問題がある。
よって、本発明では、第一磁石を、型空間の片方の主面の側だけに配置する態様を推奨する。
第一磁石、第二磁石は、永久磁石、電磁石のいずれであってもよい。
【0022】
型空間内に作用させる第一磁界の強さとしては、導電性磁性粒子の配列を保持するために強い方が好ましく、型空間の厚さや形成すべき目的の導通路のピッチに応じて適当な強さとすればよい。
【0023】
図1に示す態様において、第一磁石g1同士の間は、空気であってもよいが、一定の配置パターンにて第一磁石g1を保持する点からは、非磁性ステンレス、アルミニウム、セラミックなどの、非磁性体を充填することが好ましい。
換言すると、非磁性体からなる板状部材10の板面に、導通路の形成パターンに沿って、第一磁石g1を埋め込んだ構成が好ましい。
【0024】
第二磁石は、図1、2に示すように、型空間から見て、上記第一の磁石のさらに背後に配置し、第一磁界、第二磁界ともに同一方向の磁界とする態様が、成形型に磁石を可動に配置する当該機器の構成や作業性の点からは好ましいが、第二磁石を第二主面の背後(即ち、第二主面を形成する型部材30の背後)に配置する態様としてもよい。
第二磁石を第二主面の背後に配置する場合、第二磁石によって生じる磁界が型空間内に作用するように、図1にて説明した第一主面側の型部材20と同様の板状部材を、第二主面を形成する型部材30として用いてよい。
また、第二磁石を第二主面の背後に配置する場合、第二磁界の方向は、第一磁界と同じ方向とすることが好ましい。即ち、第二磁石と第一磁石とが、同じ磁極同士で対向しないように、S極、N極の方向を選択することが好ましい。
【0025】
第二磁石を横方向に移動させる早さに限定はないが、取り残されて浮遊している導電性磁性粒子をより効果的に牽引するには、樹脂の粘度に応じて適切な速度とすることが好ましい。粘度5mPa・Sの樹脂の場合で、移動速度は50mm/s程度が好ましい。
【0026】
第二磁石の横方向動作は、第二磁石を中間領域から導通路位置へと到達させた後、該導通路位置を通過させ、次の導通路位置に向わせる動作としてもよい。この動作には、第二磁石が導通路位置から離れて行く期間が含まれている。
第二磁石が導通路位置から離れて行く期間においても、導通路として集合した導電性磁性粒子が、離れていく第二磁界によって離脱しないように、第一磁界と第二磁界との強さの比を調整すればよい。このような調整によって、第二磁石を適当なストロークにて無造作に往復させるだけで、中間領域に存在する導電性磁性粒子を導通路の集合へと不可逆的に移動させることができる。
【0027】
第二磁石を横方向に移動させるための機構としては、例えば、エアーシリンダー、ラックとピニオンを組合わせた直動機構、ロボットアーム、リニアモータなどが挙げられる。
【0028】
上記の説明では、第二磁界を横方向に移動させるための構成として、第二磁石を機械的に移動させる態様を示したが、次に示す電磁石を制御する態様としてもよい。
即ち、図3に示すように、第一磁石g1の背後に第二磁石としての電磁石(...g30,g31,g32,g33,g34....)をシート面拡張方向に沿って配列し、1つの電磁石ユニットg3とし、作動する電磁石を、例えば、g30、g31、g32の順にシフトさせる等、各電磁石の作動を制御することによって、第二磁界を横方向に移動させる態様である。
このような態様によって、第二磁石を機械的に移動させる態様よりも、第二磁界を常に一定方向に移動させることが容易に達成できる。
【0029】
個々の電磁石への電流印加については、第二磁界が横方向に好ましく移動しているような効果が得られるように動作制御を行えばよい。
例えば、図3の例において、ある電磁石g31から隣りの電磁石g32へと作動を移すとき、単純に電磁石g31を停止してから次の電磁石g32を作動させる態様の他、先に次の電磁石g32を作動させてから前の電磁石g31を停止する態様など、種々のパターンにて制御を行ってよい。
また、図3の例では、隣り合った電磁石6個のうちの1つを作動させる周期としているが、隣り合った複数の電磁石を同時に作動させてもよく、同時に作動させる電磁石のなかでも中心だけを強くするなどの強弱を設けてもよい。
図3の例において、第一磁石g1は、図1、2に示す態様と同様であってよい。また、上記電磁石g3は、第二主面の背後に配置してもよい。
【0030】
上記の説明では、第一磁界と第二磁界とを、それぞれ別個に専用の磁石(第一磁石、第二磁石)を用いて形成する態様を示したが、次に、共通の磁石によって第一磁界と第二磁界とを発生させる態様を説明する。
図4に示すように、先ず、シート状の成形型空間を形成する壁面のうちの2つの主壁面21、31の一方の主壁面21に関して、成形型空間から見てその主壁面21の背後に、第一磁界発生用の第一の材料を、導通路の配置パターンに従って配置し(図中の41)、前記第一の材料同士の間を充填するように、第二磁界発生用の第二の材料を配置する(図中の42)。これら第一、第二の材料41、42は、図2の態様と同様に、型部材20を貫通して、主壁面21に露出してもよい。
第一の材料、第二の材料は、共に磁界を通過させ得る材料であって、第一の材料を第二の材料よりも透磁率が高いものとする。
即ち、第一の材料として、透磁率がより高く、磁石g4の磁界をより効率よく収束できる材料を用い、第二の材料として、第一の材料よりも透磁率が低く、磁石g4の磁界が第一の材料ほど通過しない材料を用いる。
このような構成において、配置された第一の材料41と第二の材料42の背後に磁石g4を配置し、該磁石をシート面拡張方向(矢印で示された図中の右方向)に移動させると、該磁石g4が横方向に動いても、第一の材料41を通過して型空間に作用する第一磁界G1は、定位置で不動の磁界となり、その位置に導電性磁性粒子が集まって導通路となる。一方、間隙領域の第二の材料42を通過して型空間内に作用する第二磁界G2は、磁石g4の移動と共に横方向に移動する。
即ち、共通の磁石g4だけを用いて第一磁界G1と第二磁界G2とを型空間内へ作用させることができ、上記(イ)、(ロ)の加工を同時に行うことが可能になる。
【0031】
上記第一の材料としては、具体的には、鉄、ニッケル、コバルト、フェライトなどが例示される。
第一の材料同士の間隙の領域には、第二の材料が充填されるが、この領域は、真空空間であっても空気が充填されているだけであってもよい。第一の材料を所定の配置パターンで支持する点からは、第二の材料は、固体の材料であることが好ましい。そのような固体の第二の材料としては、具体的には、アルミニウム、銅、シリカなどが例示される。
【0032】
図5に示すように、第一磁界G1、第二磁界G2が、型空間内により強く作用するように、少なくとも成形型(20、30)、第一磁石g1、第二の磁石g2を、部分的にまたは全体的に磁性体50で取り囲んでもよい。
【0033】
型空間内の材料に対して、導電性磁性粒子を横方向に移動させ得るような機械的振動を加えることによって、上記(ロ)の加工を促進させてもよい。
そのような機械的振動としては、例えば、公知のパーツフィーダで用いられているような送り振動や、超音波モーターに用いられるような圧電素子の振動などが挙げられる。
【実施例】
【0034】
実施例1
導電性磁性粒子として、平均粒子径0.3μmのニッケル粒子を用い、該粒子をパラフィン中に均一に分散させ、厚さ50μmのシート状の素材を形成した。
混合物全体に占めるニッケル粒子の体積含有率は10%である。
このシート状材料部材を、図1に示すように、表裏から、ポリエステルからなる厚さ10μmのシート状型部材20、30によって挟んだ。
【0035】
厚さ1mmのアルミニウム製板状部材10の板面に、導通路配置パターンにて、第一磁石g1を埋め込み、局所的に磁界を作用させるための部材を形成した。
導通路配置パターンは、直径30μmの円形領域が、中心間ピッチ50μmにて、板面に細密状に(正三角形が密に配置されるように)配置されたパターンである。
この部材を、図1におけるシート状型部材20の背後(下側)に配置し、さらにその背後に第二磁石g2を配置した。
【0036】
上記の状態として型空間内を温水よって加熱し、60℃まで昇温し、パラフィンを溶融させた。
【0037】
第一磁石から第一磁界を型空間内に作用させ、同時に、第二磁石を横方向に往復させて第二磁界を型空間内に作用させた。
第二磁界を作用させることを中止し、第一磁界のみによって導電性磁性粒子の集合状態を維持させたまま、冷却してパラフィンを固体化させ、目的の異方導電性シートを得た。
【0038】
比較例1
第二磁石g2を用いなかったこと以外は、上記実施例1と全く同様の条件にて、異方導電性シートを作製し、比較例品とした。
【0039】
〔評価〕
本実施例で得られた異方導電性シートは、1つの導通路当たりの抵抗値が1Ω以下であり、導通路同士の間の絶縁抵抗値は、DC24V印加で1MΩ以上であった。
これに対して、比較例品は、1つの導通路当たりの抵抗値は本実施例品と同様であったが、導通路同士の間の絶縁抵抗値は、DC24V印加で50kΩ程度であり、十分な絶縁状態ではなかった。
これらの実験から、(導電性磁性粒子/樹脂)の混合比率が同じ素材を用いても、本発明の製造方法によれば、従来品よりも高い導電性の導通路を有しかつ、従来品よりも高い横方向の絶縁性を有する異方導電性シートが得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上のように、本発明では、第一磁界と第二磁界とを二重に作用させることによって、中間領域に取り残される導電性磁性粒子の数を減少させている。これによって、絶縁性樹脂中に取り残される導電性磁性粒子はより少なくなり、その分だけ導通路が太くなる。よって、得られる異方導電性シートは、厚さ方向についての良好な導電性と、シート面拡張方向についての良好な絶縁性とを合わせ持つようになる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の製造方法によって磁界を作用させている状態を模式的に示した図である。第一磁石、第二磁石には、他の部材と区別するために、ハッチングを施している。
【図2】本発明の製造方法の他の態様を示す図である。
【図3】本発明の製造方法の他の態様を示す図である。
【図4】本発明の製造方法の他の態様を示す図である。
【図5】本発明の製造方法の他の態様を示す図である。
【図6】従来の異方導電性シートの構造および使用状態の一例を示す模式図である。
【図7】従来の異方導電性シートの製造方法の問題点を説明する図である。
【符号の説明】
【0042】
1 絶縁性樹脂
2 導電性磁性粒子
2a 導通路として集合した導電性磁性粒子
2b 取り残された導電性磁性粒子
G1 第一の磁界
g1 第一の磁石
G2 第二の磁界
g2 第二の磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)の異方導電性シートを製造するための方法であって、
シート状の成形型空間内に流動状態とした絶縁性樹脂を配置しかつ該絶縁性樹脂中には導電性磁性粒子を分散させ、該シート状の成形型空間に対して、
(イ)導通路を形成すべき位置に、第一の磁界をシート厚さ方向に作用させ、導電性磁性粒子を局所的に集合させて導通路を形成する加工と、
(ロ)導通路を形成すべき位置同士の間にある中間領域に、第二の磁界をシート厚さ方向に作用させ、その第二の磁界をシート面拡張方向に移動させることによって、中間領域に存在する導電性磁性粒子を導通路の集合に加わるように移動させる加工とを、
同時に施した後、流動状態の絶縁性樹脂を固体化することを特徴とする、
異方導電性シートの製造方法。
(A)絶縁性樹脂シートと該シート中に含まれた導電性磁性粒子とを有し、導電性磁性粒子が局所的に集合して該絶縁性樹脂シートを厚さ方向に貫通する複数の導通路となっている異方導電性シート。
【請求項2】
シート状の成形型空間を形成する壁面のうちの2つの主壁面の一方の面内に、または成形型空間から見て該主壁面の背後に、第一の磁石を導通路の配置パターンに従って配置し、上記(イ)の加工を行い、
成形型空間から見て、上記第一の磁石のさらに背後に、または上記主壁面の対向主壁面の背後に、第二の磁石を配置し、該第二の磁石をシート面拡張方向に移動させることによって、上記(ロ)の加工を行うものである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
シート状の成形型空間を形成する壁面のうちの2つの主壁面の一方の面内に、または成形型空間から見て該主壁面の背後に、第一の磁石を導通路の配置パターンに従って配置し、上記(イ)の加工を行い、
成形型空間から見て、上記第一の磁石のさらに背後に、または上記主壁面の対向主壁面の背後に、第二の磁石としての電磁石をシート面拡張方向に沿って複数配列し、個々の電磁石の作動順序を制御することによって第二の磁界をシート面拡張方向に移動させて上記(ロ)の加工を行うものである、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
シート状の成形型空間を形成する壁面のうちの2つの主壁面の一方の面内に、または成形型空間から見て該主壁面の背後に、
第一の磁界発生用の第一の材料を、導通路の配置パターンに従って配置し、前記第一の材料同士の間を充填するように、第二の磁界発生用の第二の材料を配置し、
第一の材料、第二の材料は、共に磁界を通過させ得る材料であって、第一の材料が第二の材料よりも透磁率が高いものであり、
配置された第一、第二の材料の背後において、磁石をシート面拡張方向に移動させることによって、該磁石によって生じる磁界を、第一の材料を通過させて第一の磁界とし、かつ、第二の材料を通過させて第二の磁界として、成形型空間内へ同時に作用させ、上記(イ)、(ロ)の加工を同時に行うものである、請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
第一の磁界、第二の磁界が、シート状の成形型空間内により強く作用するように、少なくとも成形型、第一の磁界の発生源および第二の磁界の発生源を、部分的にまたは全体的に磁性体で取り囲むものである、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
さらに、シート状の成形型空間内に機械的振動を加え、上記(ロ)の加工を促進させるものである、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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