説明

異方導電性部材

【課題】導通路の設置密度を飛躍的に向上させると共に、導通路の欠損領域の発生が抑制された、高集積化が一層進んだ現在においても半導体素子等の電子部品の電気的接続部材や検査用コネクタ等として使用することができる異方導電性部材を提供する。
【解決手段】貫通孔を有する絶縁性基材2中に、貫通孔に充填された導電性材料からなる複数の導通路3が、互いに絶縁された状態で絶縁性基材を厚み方向に貫通し、かつ、各導通路の一端が絶縁性基材の一方の面において露出し、各導通路の他端が絶縁性基材の他方の面において露出した状態で設けられる異方導電性部材1であって、絶縁性基材がアルミニウム基板の陽極酸化皮膜であり、アルミニウム基板に含有される金属間化合物の平均円相当直径が2μm以下であり、その密度が100個/mm2以下である、異方導電性部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方導電性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
異方導電性部材は、半導体素子等の電子部品と回路基板との間に挿入し、加圧するだけで電子部品と回路基板間の電気的接続が得られるため、半導体素子等の電子部品等の電気的接続部材や機能検査を行う際の検査用コネクタ等として広く使用されている。
【0003】
特に、半導体素子等の電子接続部材は、そのダウンサイジング化が顕著であり、従来のワイヤーボンディングのような直接配線基板を接続するような方式では、ワイヤーの径をこれ以上小さくすることが困難となってきている。
そこで、近年になり、絶縁素材の皮膜中に導電部材が貫通林立したタイプや金属球を配置したタイプの異方導電性部材が注目されてきている。
【0004】
また、半導体素子等の検査用コネクタは、半導体素子等の電子部品を回路基板に実装した後に機能検査を行うと、電子部品が不良であった場合に、回路基板も共に処分されることとなり、金額的な損失が大きくなってしまうという問題を回避するために使用される。
即ち、半導体素子等の電子部品を、実装時と同様のポジションで回路基板に異方導電性部材を介して接触させて機能検査を行うことで、電子部品を回路基板上に実装せずに、機能検査を実施でき、上記の問題を回避することができる。
【0005】
上記のような課題に対応するため、特許文献1に記載される異方導電性部材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−270158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、近年の電子機器の小型化、高機能化の要求に伴い、電子部品や回路基板などの高密度化、薄型化が進んでおり、具体的には、ライン/スペースの間隔が5μm/5μm以下であるような微細回路が使用されるに至っている。
そのため、このような電子部品や回路基板などに対応できるよう、異方導電性部材における導通路もその外径(太さ)をより小さくし、かつ、狭ピッチで均一に、欠陥なく配列させる必要が生じている。
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献1に記載されている異方導電性部材について検討を行ったところ、絶縁性基材中の一部に導通路がない領域(欠損領域)が生じてしまう場合があることを見出した。このような欠損領域が一部でもあると、例えば、昨今のような微細化された配線を有する回路基板と異方導電性部材を接触させた場合に、回路基板上の配線と異方導電性部材の導通路との接触が形成されない領域が生じて、抵抗率の上昇を招くことになり、いわゆる配線不良が発生する。その結果、電気的接続部材や検査用コネクタなど所望の用途への異方導電性部材の応用が制限されてしまう、といった問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、導通路の設置密度を飛躍的に向上させると共に、導通路の欠損領域の発生が抑制された、高集積化が一層進んだ現在においても半導体素子等の電子部品の電気的接続部材や検査用コネクタ等として使用することができる異方導電性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、所定の大きさおよび密度の金属間化合物を含むアルミニウム基板を使用して製造された異方導電性部材を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(8)を提供する。
【0010】
(1) 貫通孔を有する絶縁性基材中に、前記貫通孔に充填された導電性材料からなる複数の導通路が、互いに絶縁された状態で前記絶縁性基材を厚み方向に貫通し、かつ、前記各導通路の一端が前記絶縁性基材の一方の面において露出し、前記各導通路の他端が前記絶縁性基材の他方の面において露出した状態で設けられる異方導電性部材であって、
前記絶縁性基材がアルミニウム基板の陽極酸化皮膜であり、
前記アルミニウム基板に含有される金属間化合物の平均円相当直径が2μm以下であり、その密度が100個/mm2以下である、異方導電性部材。
【0011】
(2) 前記導通路の密度が1000万個/mm2以上である、(1)に記載の異方導電性部材。
(3) 前記導通路の直径が5〜500nmである、(1)または(2)に記載の異方導電性部材。
(4) 前記絶縁性基材の厚みが1〜1000μmである、(1)〜(3)のいずれかに記載の異方導電性部材。
(5) 前記アルミニウム基板の算術平均粗さRaが0.1μm以下である、(1)〜(4)のいずれかに記載の異方導電性部材。
【0012】
(6) (1)〜(5)のいずれかに記載の異方導電性部材を製造する異方導電性部材の製造方法であって、少なくとも、
前記アルミニウム基板を陽極酸化する陽極酸化処理工程、
前記陽極酸化処理工程の後に、前記陽極酸化により生じたマイクロポアによる孔を貫通化して前記絶縁性基材を得る貫通化処理工程、および、
前記貫通化処理工程の後に、得られた前記絶縁性基材における貫通化した孔の内部に導電性部材を充填して前記異方導電性部材を得る充填工程、を具備する異方導電性部材の製造方法。
【0013】
(7) 更に、前記充填工程の後に、化学機械研磨処理によって表面および裏面を平滑化する表面平滑処理工程を具備する、(6)に記載の異方導電性部材の製造方法。
(8) 更に、前記充填工程の後に、トリミング処理工程を具備する、(6)または(7)に記載の異方導電性部材の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、導通路の設置密度を飛躍的に向上させると共に、導通路の欠損領域の発生が抑制された、高集積化が一層進んだ現在においても半導体素子等の電子部品の電気的接続部材や検査用コネクタ等として使用することができる異方導電性部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の異方導電性部材の好適な実施態様の一例を示す簡略図である。
【図2】図2は、ポアの規則化度を算出する方法の説明図である。
【図3】図3は、本発明の製造方法における陽極酸化処理工程の一例を説明する模式的な端面図である。
【図4】図4は、本発明の製造方法における充填工程等の一例を説明する模式的な端面図である。
【図5】図5は、貫通孔の密度を計算するための説明図である。
【図6】図6は、実施例において異方導電性部材の抵抗率を測定する装置の説明図である。(A)は断面図であり、(B)は上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の異方導電性部材について説明する。
本発明の異方導電性部材は、所定の大きさの金属間化合物を所定量含有するアルミニウム基板を使用して得られる絶縁性基材中の貫通孔に、導電路が充填されている。上記のような性質のアルミニウム基板を使用することにより、絶縁性基材中の貫通孔の形状がより直管状となる共に貫通孔の欠損領域の発生が抑えられる。結果として、導通路の欠損領域の少ない、低い抵抗率を示す異方導電性部材を得ることができる。
それに対して、アルミニウム基板中の金属間化合物の大きさまたは密度が所定の範囲外の場合、該金属間化合物が含まれる部分において貫通孔の形成が阻害される、または、孔が形成されても導通路の充填が進行しない、といった問題が生じる。
【0017】
次に、本発明の異方導電性部材について、図1を用いて説明する。
図1は、本発明の異方導電性部材の好適な実施態様の一例を示す簡略図であり、図1(A)は正面図、図1(B)は図1(A)の切断面線IB−IBからみた断面図である。
本発明の異方導電性部材1は、絶縁性基材2および導電性材料からなる複数の導通路3を具備するものである。
この導通路3は、軸線方向の長さが絶縁性基材2の厚み方向Zの長さ(厚み)以上で、かつ、互いに絶縁された状態で絶縁性基材2を貫通して設けられる。
また、この導通路3は、各導通路3の一端が絶縁性基材2の一方の面において露出し、各導通路3の他端が絶縁性基材2の他方の面において露出した状態で設けられるが、図1(B)に示すように、各導通路3の一端が絶縁性基材2の一方の面2aから突出し、各導通路3の他端が絶縁性基材2の他方の面2bから突出した状態で設けられるのが好ましい。即ち、各導通路3の両端は、絶縁性基材の主面である2aおよび2bから突出する各突出部4aおよび4bを有するのが好ましい。
更に、この導通路3は、少なくとも絶縁性基材2内の部分(以下、「基材内導通部5」ともいう。)が、該絶縁性基材2の厚み方向Zと略平行(図1においては平行)となるように設けられるのが好ましい。具体的には、上記絶縁性基材の厚みに対する上記導通路の中心線の長さ(長さ/厚み)が、1.0〜1.2であるのが好ましく、1.0〜1.05であるのがより好ましい。
次に、絶縁性基材および導通路の材料、寸法、形成方法等について説明する。
【0018】
<絶縁性基材>
本発明の異方導電性部材を構成する上記絶縁性基材は貫通孔を有し、アルミニウム基板の陽極酸化皮膜から構成される。つまり、絶縁性基材は、アルミニウム基板を陽極酸化して得られるアルミナ皮膜から構成される。
本発明においては、平面方向の導電部の絶縁性をより確実に担保する観点から、上記貫通孔について下記式(i)により定義される規則化度が50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのが更に好ましい。
【0019】
規則化度(%)=B/A×100 (i)
【0020】
上記式(i)中、Aは、測定範囲における貫通孔の全数を表す。Bは、一の貫通孔の重心を中心とし、他の貫通孔の縁に内接する最も半径が短い円を描いた場合に、その円の内部に上記一の貫通孔以外の貫通孔の重心を6個含むことになる上記一の貫通孔の測定範囲における数を表す。
【0021】
図2は、貫通孔の規則化度を算出する方法の説明図である。図2を用いて、上記式(i)をより具体的に説明する。
図2(A)に示される貫通孔101は、貫通孔101の重心を中心とし、他の貫通孔の縁に内接する最も半径が短い円103(貫通孔102に内接している。)を描いた場合に、円103の内部に貫通孔101以外の貫通孔の重心を6個含んでいる。したがって、貫通孔101は、Bに算入される。
図2(B)に示される貫通孔104は、貫通孔104の重心を中心とし、他の貫通孔の縁に内接する最も半径が短い円106(貫通孔105に内接している。)を描いた場合に、円106の内部に貫通孔104以外の貫通孔の重心を5個含んでいる。したがって、貫通孔104は、Bに算入されない。
また、図2(B)に示される貫通孔107は、貫通孔107の重心を中心とし、他の貫通孔の縁に内接する最も半径が短い円109(貫通孔108に内接している。)を描いた場合に、円109の内部に貫通孔107以外の貫通孔の重心を7個含んでいる。したがって、貫通孔107は、Bに算入されない。
【0022】
また、後述する導通路を直管構造とする観点から、上記貫通孔が分岐構造を有しないこと、即ち、陽極酸化皮膜の一方の表面の単位面積あたりの貫通孔数Aと、別表面の単位面積あたりの貫通孔数Bの比率が、A/B=0.90〜1.10であるのが好ましく、A/B=0.95〜1.05であるのがより好ましく、A/B=0.98〜1.02であるのが特に好ましい。
【0023】
本発明においては、上記絶縁性基材の厚み(図1(B)においては符号6で表される部分)は、1〜1000μmであるのが好ましく、5〜500μmであるのがより好ましく、10〜300μmであるのが更に好ましい。絶縁性基材の厚みがこの範囲であると、絶縁性基材の取り扱い性が良好となる。
【0024】
また、本発明においては、上記絶縁性基材における上記導通路間の幅(図1(B)においては符号7で表される部分)は、10nm以上であるのが好ましく、20〜200nmであるのがより好ましい。絶縁性基材における導通路間の幅がこの範囲であると、絶縁性基材が絶縁性の隔壁として十分に機能する。
【0025】
本発明において、絶縁性基材中の貫通孔の導通路による封孔率は95%以上であることが、導通抵抗や不純物の混入抑制の点から好ましい。なかでも、98%以上がより好ましい。なお、上限は特に制限されないが、100%であることが好ましい。
封孔率は、絶縁性基材中の貫通孔が導通路で充填されている割合を示し、具体的には、(絶縁性基材中の導通路で充填された貫通孔の数/導通路が充填される前の貫通孔の全数)により表される。
ここで、封孔率(%)は、異方導電性部材の表面および裏面のそれぞれをFE−SEMで観察し、視野内における貫通孔の全数に対する、導通路で封孔されている貫通孔の数の比率(封孔貫通孔/全貫通孔)から算出した平均値である。
【0026】
<アルミニウム基板の陽極酸化皮膜>
本発明においては、上記絶縁性基材は、アルミニウム基板の陽極酸化皮膜であり、アルミニウム基板を陽極酸化し、陽極酸化により生じたマイクロポアを貫通化することにより製造することができる。ここで、陽極酸化および貫通化の処理工程については、後述する本発明の異方導電性部材の製造方法において詳述する。
なお、マイクロポアはアルミニウム板の陽極酸化処理時の形成される皮膜中の貫通していない孔を意味し、該マイクロポアを後述する貫通化処理により貫通させた孔を貫通孔と呼ぶ。
【0027】
(アルミニウム基板)
本発明で使用されるアルミニウム基板に含有される金属間化合物の密度は、100個/mm2以下である。上述したように、該性質のアルミニウム基板を使用することにより、絶縁性基材中の貫通孔中への導電路の充填率が高い異方導電性材料を得ることができる。
なお、金属間化合物とは、アルミニウム中の合金成分の中で、アルミニウム中に固溶しないものが化合物(例えば、FeAl3、FeAl6、α−AlFeSi、TiAl3、CuAl2等)として、アルミニウム合金中に共晶の形で晶出したものをいう(「アルミニウム材料の基礎と工業技術」,社団法人軽金属協会発行、32頁等より)。また、通常、2種以上の金属元素から形成される化合物であって、成分原子比は必ずしも化学量論比にはならないことが知られている。
【0028】
金属元素の2種以上からなる金属間化合物としては、例えば、Al3Fe、Al6Fe、Mg2Si、MnAl6、TiAl3、CuAl2等の2種の元素からなる金属間化合物;α−AlFeSi、β−AlFeSi等の3種の元素からなる金属間化合物;α−AlFeMnSi、β−AlFeMnSi等の4種の元素からなる金属間化合物が挙げられる。なかでも、導通路の貫通孔への充填率がより向上する点から、CuAl2、Al3Feが好ましい。
【0029】
本発明においては、アルミニウム基板中に含有される金属間化合物の平均円相当直径は2μm以下である。導電路の貫通孔への充填率がより向上する点から、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることが好ましい。なお、下限については特に制限されず、小さければ小さいほど好ましいが、工業的な製造条件の下では0.1μm以上であることが好ましい。
平均円相当直径が上記範囲外(2μm超)であると、絶縁性基材上に貫通孔が形成されない領域や、孔が形成されても導通路で充填されない領域が生じ、所定の用途(狭ピッチ配線)への応用が制限されてしまう。
円相当直径とは、SEM写真における金属間化合物の面積と同じ面積を有する円の直径として換算した値である。
上記平均円相当直径は次のようにして測定する。まず、アルミニウム基板の表面と断面とを、加速電圧12kV、反射電子像モード、観察倍率10000倍で、測定面積が0.01mm2となるように、SEM(JEOL、7400F)で複数視野を観察する。この観察結果から、100個以上の金属間化合物の円相当直径を算出し、その平均をとり、平均円相当直径を得る。
【0030】
金属間化合物の密度は100個/mm2以下であり、80個/mm2以下が好ましく、50個/mm2以下がさらに好ましい。なお、下限は特に限定されず、小さければ小さいほど好ましく、0個/mm3が好ましい。
金属間化合物の密度が上記範囲外(100個/mm2超)であると、絶縁性基材上に貫通孔が形成されない領域や、孔が形成されても導通路で充填されない領域が生じてしまい、結果として得られる異方導電性部材の抵抗率が上昇し、所定の用途への応用が制限されてしまう。
なお、金属間化合物の密度は、次のように測定する。まず、アルミニウム基板の表面と断面を、反射電子像モード、観察倍率1000倍で、測定面積が0.1mm2となるように、複数視野をSEM(JEOL、7400F)で観察する。この観察結果から、金属間化合物の数をカウントし、その密度を得る。
【0031】
アルミニウム基板の算術平均粗さRaは特に制限されないが、枝分かれしないマイクロポアが形成できることにより、導電路の貫通孔への充填率がより向上し、得られる異方導電性部材の抵抗率がより低下する点から、0.1μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。算術平均粗さRaの下限は特に限定されないが、小さければ小さいほど好ましく、0が好ましい。
なお、アルミニウム基板の算術平均粗さRaの測定は、例えば、東京精密製サーフコムにより行うことができる。
【0032】
本発明で使用されるアルミニウム基板は、市販品を使用してもよいし、所定の方法で製造してもよい。
【0033】
<アルミニウム基板の製造方法>
アルミニウム基板を製造する場合、その製造方法は特に制限されないが、以下の工程を経て製造されることが好ましい。
(鋳造工程)アルミニウム合金溶湯からアルミニウム基板を形成する工程
(冷間圧延工程)上記鋳造工程で得られたアルミニウム基板の厚さを減じさせる工程
(中間焼鈍工程)上記冷間圧延工程で得られたアルミニウム基板に熱処理を行う工程
(仕上げ冷間圧延工程)上記中間焼鈍後のアルミニウム基板の厚さを減じさせる工程
以下、それぞれの工程で使用される材料、および、手順について詳述する。
【0034】
<アルミニウム合金溶湯>
上記製造方法で製造されるアルミニウム基板は、少なくともFeおよびSiを含有し、不純物としてCuを含有してもよいアルミニウム合金溶湯(以下「Al溶湯」ともいう。)から調製されることが好ましい。
【0035】
Siは、原材料であるAl地金に不可避不純物として含有される元素であり、原材料差によるばらつきを防ぐため、意図的に微量添加されることが多い。また、Siは、アルミニウム中に固溶した状態で、または、金属間化合物もしくは単独の析出物として存在する。
本発明においては、Al溶湯中のSi量は、0.01質量%以下であるのが好ましく、0.008質量%以下であることがより好ましく、0.002質量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
Feは、アルミニウム合金の機械的強度を高める作用があり、強度に大きな影響を与えるが、アルミニウム中に固溶する量は少なく、ほとんどが金属間化合物として存在する。
本発明においては、Al溶湯中のFe量は、0.01〜0.03質量%であるのが好ましい。
【0037】
Cuは、非常に固溶しやすい元素であり、極一部は金属間化合物として存在する。
本発明においては、Al溶湯中のCu量は、0.001〜0.004質量%が好ましい。
【0038】
Al溶湯は、鋳造時の割れ発生防止のために、結晶粒を微細化する元素(例えば、Ti、B)を含有することができるが、一方で微細化剤粒子の残存は陽極酸化皮膜の均一成長を妨げる場合がある。
本発明においては、例えば、Tiを0.001〜0.003質量%の範囲で含有することができる。また、Bを0.001〜0.002質量%の範囲で含有することができる。
【0039】
また、Al溶湯の残部は、Alおよび不可避不純物からなる。不可避不純物としては、例えば、Mg、Mn、Zn、Cr、Zr,V,Be等が挙げられる。これらはそれぞれ0.001質量%以下の範囲で含有することができる。
不可避不純物の大部分は、Al地金中に含有される。不可避不純物は、例えば、Al純度99.999質量%の地金に含有されるものであれば、本発明の効果を損なわない。不可避不純物については、例えば、L.F.Mondolfo著「Aluminum Alloys:Structurand properties」(1976年)等に記載されている量の不純物が含有されていてもよい。
【0040】
<鋳造工程>
鋳造工程は、アルミニウム合金溶湯からアルミニウム基板を形成する工程である。
該工程の方法は特に制限されず、半連続鋳造(DC法:ダイレクトキャスティング法)や連続鋳造圧延法(CC法:コンティニュアスキャスティング法)を用いることができる。
【0041】
DC鋳造の場合は、溶湯を受ける下型で冷却固化され、下型が下部に降下し、側面から水冷されることで、更に冷却され、中心部まで凝固が進む。この場合の冷却速度は0.5〜10℃/秒と言われている。
本発明における金属間化合物状態をDC鋳造で達成する方法としては、鋳造のサイズを厚さ10cm以下と小さくして、冷却速度を10℃/秒以上にすることが望ましい。
なお、DC鋳造を行う場合は、以下の3つの工程を行い、アルミニウム基板を形成することが好ましい。
(1)アルミニウム合金溶湯から鋳塊を形成する半連続鋳造工程
(2)上記半連続鋳造工程で形成される上記鋳塊に面削を施す面削工程
(3)上記面削工程後の上記鋳塊に圧延を施して圧延板を得る熱間圧延工程
上記の工程(1)〜(3)の手順は、特開2010−058315号の段落[0040]〜[0046]に記載される。
【0042】
また、連続鋳造圧延法は、上述したAl溶湯を凝固させつつ圧延を行ってアルミニウム基板を形成させる工程であり、双ロール法、ベルトキャスター法などが知られている。
具体的には、上述したAl溶湯を、溶湯供給ノズルを介して一対の冷却ローラの間に供給し、該一対の冷却ローラによって該Al溶湯を凝固させつつ圧延を行ってアルミニウム基板を形成させる双ロール法が好適に例示される。
連続鋳造圧延法は、Al溶湯を凝固させる際の、Al溶湯の冷却速度(凝固速度)が高いことが特徴であり、アルミニウム基板中の金属間化合物の大きさがより小さくなる点で、100〜800℃/秒であることが好ましく、400〜600℃/秒であることがより好ましい。
上記を満たすために、鋳造による仕上げ板厚は0.4〜1.2mmであることが望ましい。後段において、連続鋳造法の場合の処理方法について詳細に記載する。
【0043】
(溶解工程)
Al溶湯の調製の際には、まず、好ましくは95質量%以上のAl地金を溶解炉で溶解し、好ましくは0.03〜0.50質量%のFeと、好ましくは0.03〜0.20質量%のSiと、好ましくは1〜400ppmのCuと、その他所望の元素を含むように溶解炉に添加し、調整する。
【0044】
(フィルタリング処理)
溶湯のフィルタリングは、通常、セラミックチューブフィルタ、セラミックフォームフィルタ等のフィルタに溶湯を通過させることで行われる。フィルタリングに関しては、特開平6−57432号、特開平3−162530号、特開平5−140659号、特開平4−231425号、特開平4−276031号、特開平5−311261号、特開平6−136466号の各公報等に記載されている。
【0045】
(清浄化処理工程)
Al溶湯は、所望の組成に調製された後、必要に応じて、清浄化処理を施すことができる。清浄化処理としては、例えば、Al溶湯中の水素等の不要ガスを除去するために、フラックス処理、アルゴンガス、塩素ガス等を用いる脱ガス処理が挙げられる。清浄化処理は、常法に従って行うことができる。
清浄化処理は、必須ではないが、Al溶湯中の非金属介在物、酸化物等の異物による欠陥や、Al溶湯に溶け込んだガスによる欠陥を防ぐために実施されることが好ましい。
通常、回転式のローター等で、溶湯中にAr等の不活性ガスを吹き込み、溶湯中にとけ込んでいる水素ガスをAr気泡内に取り込んで浮上させる浮遊選鉱に類似した方法で行われるか、あるいはフラックス処理によって行われる。脱ガスに関しては、特開平5−51659号公報、実開平5−49148号公報等に記載されている。
【0046】
(結晶微細化工程)
Al溶湯は、結晶粒を微細化する元素を含有していてもよく、具体的には、結晶微細化材としてTiB2を含む母合金をAl溶湯中に添加するのが好ましい。これは、結晶微細化材の添加により、連続鋳造時の結晶粒が微細になりやすいためである。
TiB2を含む母合金としては、具体的には、例えば、Ti(5%)、B(1%)、残部がAlと不可避不純物からなるワイヤー状の母合金を使用することができる。ただし、TiB2は、単独では、通常、1〜2μmの極めて小さい粒子であるが、凝集して100μm以上の粗大粒子になる場合があり、その場合には、その粗大粒子が表面処理ムラの原因になるので、流路において、かくはん手段を設けるのが好ましい。
【0047】
(ろ過工程)
Al溶湯は、溶湯中に混入した不純物、溶解炉、溶湯流路中に残っていたコンタミ等を除去するためにフィルタでろ過するのが好ましい。また、所望により添加することができるTiB2凝集粒子の流出を抑制する上でも必要であり、結晶微細化材であるTiB2の添加位置より下流にフィルタ槽を配置することが望ましい。
ろ過工程およびそれに用いられるフィルタ槽については、特許第3549080号公報に記載されているものが好ましい。
【0048】
(供給工程)
本製造方法においては、上記ろ過工程後のAl溶湯を、上記フィルタ槽から流路を経由して溶湯供給ノズルに供給するのが好ましい。
ここで、上記流路の底面に形成された凹部に設けられたかくはん手段が、Al溶湯をかくはんするのが好ましい。これは、TiB2の粗大粒子が、ろ過工程を通過した後、溶湯のよどみ部で再度凝集するのが防止されためである。
【0049】
(溶湯供給ノズル)
溶湯供給ノズルから吐出されたAl溶湯は、冷却ロール表面に接し、凝固を開始する。ここで、溶湯供給ノズルの先端から冷却ロール表面にAl溶湯が移動する際に溶湯メニスカスが形成される。この溶湯メニスカスが振動すると、冷却ロールへの着地点が振動することになり、その結果、凝固履歴が異なる部分が表面に生じ、結晶組織の不均一、微量元素の偏析が起こりやすくなる。このような故障はリップルマークとも呼ばれ、冷間圧延、中間焼鈍、仕上げ冷間圧延を受けた後、表面処理ムラの原因になりやすい。
そのため、リップルマークを軽減する観点から、Al溶湯の離脱ポイントを一箇所に安定させるため、溶湯供給ノズルの先端部を、少なくとも先端部下側の外側面の角度がAl溶湯の吐出方向に対して鋭角になるように傾斜させるのが好ましい。例えば、特開平10−58094号公報に記載されている方法を好適に使用することができる。
【0050】
また、メニスカスが振動した際の振幅を小さくするため、ノズルの先端部と冷却ローラ表面との距離を小さくするのが好ましい。
具体的には、例えば、溶湯供給ノズルを構成する部材のうち、Al溶湯に上面から接触する上板部材と、Al溶湯に下面から接触する下板部材とが、それぞれ上下方向に可動であり、該上板部材および該下板部材が、それぞれ、Al溶湯の圧力によって加圧され、隣接する冷却ローラの表面に押しつけられる態様が好適に挙げられる。例えば、特開2000−117402号公報に記載されている態様を好適に使用することができる。
【0051】
(冷却ローラ)
冷却ローラは、特に限定されず、例えば、鉄製のコア・シェル構造の冷却ローラ等の従来公知のものを使用することができる。コア・シェル構造の冷却ローラを用いる場合、コア・シェル間に設けた流路中に冷却水を通水することで、冷却ローラ表面の冷却能を高めることができる。また、凝固させたアルミニウムに更に圧力を加えることでアルミニウム基板の厚さを所望の厚さに精度よく揃えることができる。
冷却ローラ表面で凝固したアルミニウムはそのままでは、冷却ローラに固着しやすく、連続的に安定して鋳造することが容易でない場合があり、更に付着したAlにより圧延されたAl表面の冷却が遅れることがある。そこで、本発明においては、冷却ローラが、その表面に、離型剤を塗布されるのが好ましい。離型剤としては、耐熱性に優れるものが好ましく、例えば、カーボングラファイトを含有するものが好適に挙げられる。塗布の方法は、特に限定されないが、例えば、カーボングラファイト粒子の懸濁液(好ましくは水懸濁液)をスプレー塗布する方法が好適に挙げられる。スプレー塗布は、冷却ローラに非接触で離型剤を供給することが可能な点で好ましい。
【0052】
また、離型剤は、ワイパ等の均一化手段に捕捉されたり、連続鋳造されたアルミニウム基板の表面に移動したりするため、定期的に冷却ローラ表面に供給するのが好ましい。
DC鋳造の場合は、鋳塊サイズが厚み数十cmになるため、次の冷間圧延工程の前に均熱処理工程、熱間圧延工程を行い、薄板化することが好ましい。均熱処理工程、熱間圧延工程の手順としては、特開2010−058315号の段落[0044]〜[0046]に記載される。
【0053】
<冷間圧延工程>
鋳造工程後、冷間圧延工程を行う。冷間圧延工程は、鋳造工程で得られたアルミニウム基板の厚さを減じさせる工程である。これにより、アルミニウム基板を所望の厚さにする。
冷間圧延工程は、従来公知の方法により行うことができ、具体的には、特開平6−220593号、特開平6−210308号、特開平7−54111号、特開平8−92709号の各公報等に記載されている方法を使用することができる。
【0054】
<中間焼鈍工程>
冷間圧延工程後、中間焼鈍工程を行う。
上述した冷間圧延工程で蓄えられた加工歪みが、中間焼鈍工程を行うことで、転位が解放されて、再結晶が起こり、結晶粒を更に微細化することができるようになる。具体的には、冷間圧延工程の加工率および中間焼鈍工程の熱処理条件(中でも、温度、時間および昇温速度)の条件によって、結晶粒を制御することができる。例えば、連続式の焼鈍を行う場合、通常は、300〜600℃で10分間以下加熱するが、400〜600℃で6分間以下加熱するのが好ましく、450〜550℃で2分間以下加熱するのがより好ましい。また、通常は、昇温速度を0.5〜500℃/分程度とするが、昇温速度を10〜200℃/秒とし、かつ、昇温後の保持時間を短時間(10分以内、好ましくは2分以内)とすることにより、結晶粒の微細化を促進することができる。
バッチ式の焼鈍を用いることも出来るが、昇温→冷却の間に不純物(Fe,Siなど)が結晶粒界に吐き出され、析出物粒子を形成する可能性が高いため連続焼鈍が望ましい。
中間焼鈍工程は、従来公知の方法により行うことができ、具体的には、特開平6−220593号、特開平6−210308号、特開平7−54111号、特開平8−92709号の各公報等に記載されている方法を使用することができる。
【0055】
<仕上げ冷間圧延工程>
中間焼鈍工程後、仕上げ冷間圧延工程を行う。仕上げ冷間圧延工程は、中間焼鈍後のアルミニウム基板の厚さを減じさせる工程である。仕上げ冷間圧延工程後の厚さは、0.1〜0.5mmであるのが好ましい。
冷間圧延工程は、従来公知の方法により行うことができる。例えば、上述した中間焼鈍工程前に行われる冷間圧延工程と同様の方法により行うことができる。
【0056】
(平面性矯正工程)
仕上げ冷間圧延工程後に、平面性矯正工程を行うのが好ましい。平面性矯正工程は、アルミニウム基板の平面性を矯正する工程である。
平面性矯正工程は、従来公知の方法により行うことができる。例えば、ローラレベラ、テンションレベラ等の矯正装置を用いて行うことができる。
また、この平面性矯正工程は、アルミニウム基板をシート状にカットした後に行ってもよいが、生産性を向上させる観点から、連続したコイルの状態で行うことが好ましい。
最終圧延板表面は平滑であることが望ましく、算術表面粗さ:Ra≦0.3μmであることが好ましく、Ra≦0.2μmであることが更に好ましい。強度はハンドリングの観点から60MPa以上であることが好ましい。
【0057】
<導通路>
本発明の異方導電性部材を構成する上記導通路は、上記絶縁性基材の中の貫通孔に充填され、導電性材料からなるものである。
上記導電性材料は導電性を示す材料であれば特に制限されず、例えば、電気抵抗率が103Ω・cm以下の材料であることが好ましく、その具体例としては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、インジウムがドープされたスズ酸化物(ITO)等の金属が好適に例示される。
中でも、電気伝導性の観点から、銅、金、アルミニウム、ニッケルが好ましく、ニッケル、銅、金がより好ましい。
また、コストの観点から、導通路の上記絶縁性基材の両面から露出した面や突出した面(以下、「端面」ともいう。)の表面だけが金で形成されるのがより好ましい。
【0058】
本発明においては、上記導通路は柱状であり、その直径(図1(B)においては符号8で表される部分)は5〜500nmであるのが好ましく、20〜400nmであるのがより好ましく、30〜200nmであるのが特に好ましい。導通路の直径がこの範囲であると、電気信号を流した際に十分な応答を得ることができるため、本発明の異方導電性部材を電子部品の電気的接続部材や検査用コネクタとして、より好適に用いることができる。
また、上述したように、上記絶縁性基材の厚みに対する上記導通路の中心線の長さ(長さ/厚み)は1.0〜1.2であるのが好ましく、1.0〜1.05であるのがより好ましい。上記絶縁性基材の厚みに対する上記導通路の中心線の長さがこの範囲であると、上記導通路が直管構造であると評価でき、電気信号を流した際に1対1の応答を確実に得ることができるため、本発明の異方導電性部材を電子部品の検査用コネクタや電気的接続部材として、より好適に用いることができる。
【0059】
また、本発明においては、上記導通路の両端が上記絶縁性基材の両面から突出している場合、その突出した部分(図1(B)においては符号4aおよび4bで表される部分。以下、「バンプ」ともいう。)の高さは、10〜100nmであるのが好ましく、10〜50nmであるのがより好ましい。バンブの高さがこの範囲であると、電子部品の電極(パッド)部分との接合性が向上する。
【0060】
本発明においては、上記導通路は上記絶縁性基材によって互いに絶縁された状態で存在するものであるが、その密度は1000万個/mm2以上であることが好ましく、5000万個/mm2以上であるのがより好ましく、1億個/mm2以上であるのが更に好ましい。なお、上限は特に制限されないが、導通路間の絶縁性の観点から、100億個/mm2以下となることが好ましい。
上記導通路の密度がこの範囲にあることにより、本発明の異方導電性部材は高集積化が一層進んだ現在においても半導体素子等の電子部品の検査用コネクタや電気的接続部材等として使用することができる。
なお、上記導通路の密度は、次のようにして測定される。まず、異方導電性部材の表面を観察倍率10000倍で、測定面積が0.01mm2となるように、複数視野をFE−SEM(日立ハイテクノロジー製、S−4800)で観察する。この観察結果から、導通路の数をカウントし、その密度を得る。
【0061】
本発明においては、隣接する各導通路の中心間距離(図1Bにおいては符号9で表される部分。以下、「ピッチ」ともいう。)は、20〜500nmであるのが好ましく、40〜200nmであるのがより好ましく、50〜140nmであるのが更に好ましい。ピッチがこの範囲であると、導通路直径と導通路間の幅(絶縁性の隔壁厚)とのバランスがとりやすい。
【0062】
本発明においては、上記導通路は、上記絶縁性基材における貫通孔の内部に導電性材料(特に、金属)を充填することにより製造することができる。
ここで、導電性材料を充填する処理工程については、後述する本発明の異方導電性部材の製造方法において詳述する。
【0063】
本発明の異方導電性部材は、高い絶縁性を維持しつつ、かつ、高密度で導通が確認できる理由から、上記絶縁性基材の厚みが1〜1000μmであることが好ましく、より好ましくは30〜300μmであり、かつ、上記導通路の直径が5〜500nmであるのが好ましく、20〜400nmであるのがより好ましく、30〜200nmであるのが特に好ましい。
【0064】
<異方導電性部材の製造方法>
本発明の異方導電性部材の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう。)は特に制限されないが、以下の工程を備えることが好ましい。
(陽極酸化処理工程)アルミニウム基板を陽極酸化する工程、
(貫通化処理工程)上記陽極酸化処理工程の後に、上記陽極酸化により生じたマイクロポアによる孔を貫通化して上記絶縁性基材を得る工程、および、
(充填工程)上記貫通化処理工程の後に、得られた上記絶縁性基材における貫通化した孔の内部に導電性材料を充填して上記異方導電性部材を得る充填工程
以下に、各工程での手順について詳述する。
【0065】
<陽極酸化処理工程>
該工程は、上記アルミニウム基板に陽極酸化処理を施すことにより、該アルミニウム基板表面にマイクロポアを有する酸化皮膜を形成する工程である。
該工程で使用されるアルミニウム基板には、上述の通り、所定の大きさ及び密度の金属間化合物が含有される。また、陽極酸化処理工程を施すアルミニウム基板表面は、あらかじめ脱脂処理および鏡面仕上げ処理が施されるのが好ましい。
【0066】
(熱処理)
熱処理を施す場合は、200〜350℃で30秒〜2分程度施すのが好ましい。これにより、陽極酸化処理により生成する皮膜中のマイクロポアの配列の規則性が向上する。
熱処理後のアルミニウム基板は、急速に冷却するのが好ましい。冷却する方法としては、例えば、水等に直接投入する方法が挙げられる。
【0067】
(脱脂処理)
脱脂処理は、酸、アルカリ、有機溶剤等を用いて、アルミニウム基板表面に付着した、ほこり、脂、樹脂等の有機成分等を溶解させて除去し、有機成分を原因とする後述の各処理における欠陥の発生を防止することを目的として行われる。
【0068】
また、脱脂処理には、従来公知の脱脂剤を用いることができる。具体的には、例えば、市販されている各種脱脂剤を所定の方法で用いることにより行うことができる。
【0069】
(鏡面仕上げ処理)
鏡面仕上げ処理は、アルミニウム基板の表面の凹凸をなくして、陽極酸化皮膜のマイクロポアをより直管にするために行われる。アルミニウム基板の表面の凹凸としては、例えば、アルミニウム基板が圧延を経て製造されたものである場合における、圧延時に発生した圧延筋が挙げられる。
本発明において、鏡面仕上げ処理は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、機械研磨、化学研磨、電解研磨が挙げられる。
これらの具体的な方法に関しては、特開2010−177171号の段落[0042]〜[0045]に詳述される。
【0070】
鏡面仕上げ処理により、例えば、算術平均粗さRa0.1μm以下、光沢度50%以上の表面を得ることができる。算術平均粗さRaは、0.05μm以下であるのが好ましく、0.02μm以下であるのがより好ましい。また、光沢度は70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましい。
なお、光沢度は、圧延方向に垂直な方向において、JIS Z8741−1997の「方法3 60度鏡面光沢」の規定に準じて求められる正反射率である。具体的には、変角光沢度計(例えば、VG−1D、日本電色工業社製)を用いて、正反射率70%以下の場合には入反射角度60度で、正反射率70%を超える場合には入反射角度20度で、測定する。
【0071】
陽極酸化処理は、従来公知の方法を用いることができるが、上記絶縁性基材が上記式(i)により定義される規則化度が50%以上となるように配列する貫通孔を有するアルミニウム基板の陽極酸化皮膜であるのが好ましいため、後述する自己規則化法や定電圧処理を用いるのが好ましい。
【0072】
自己規則化法は、陽極酸化処理により得られる陽極酸化皮膜のマイクロポアが規則的に配列する性質を利用し、規則的な配列をかく乱する要因を取り除くことで、規則性を向上させる方法である。具体的には、高純度のアルミニウムを使用し、電解液の種類に応じた電圧で、長時間(例えば、数時間から十数時間)かけて、低速で陽極酸化皮膜を形成させる。
この方法においては、マイクロポアの径(ポア径)は電圧に依存するので、電圧を制御することにより、ある程度所望のポア径を得ることができる。
【0073】
自己規則化法によりマイクロポアを形成するには、少なくとも後述する陽極酸化処理(A)を施せばよいが、後述する陽極酸化処理(A)、脱膜処理(B)および再陽極酸化処理(C)をこの順に施す方法(自己規則化方法I)や、後述する陽極酸化処理(D)と酸化皮膜溶解処理(E)とをこの順に少なくとも1回施す方法(自己規則化方法II)等により形成するのが好ましい。
次に、好適態様である自己規則化方法Iおよび自己規則化方法IIの各処理について詳述する。
【0074】
〔自己規則化方法I〕
<陽極酸化処理(A)>
陽極酸化処理(A)における電解液の平均流速は、0.5〜20.0m/minであるのが好ましく、1.0〜15.0m/minであるのがより好ましく、2.0〜10.0m/minであるのが更に好ましい。上記範囲の流速で陽極酸化処理(A)を行うことにより、陽極酸化被膜のマイクロポアが均一かつ高い規則性を有することができる。
また、電解液を上記条件で流動させる方法は、特に限定されないが、例えば、スターラーのような一般的なかくはん装置を使用する方法が挙げられる。特に、かくはん速度をデジタル表示でコントロールできるようなスターラーを用いると、平均流速が制御できるため好ましい。このようなかくはん装置としては、例えば、「マグネティックスターラーHS−50D(AS ONE製)」等が挙げられる。
【0075】
陽極酸化処理(A)は、例えば、酸濃度1〜10質量%の溶液中で、アルミニウム基板を陽極として通電する方法を用いることができる。
陽極酸化処理(A)に用いられる溶液としては、酸溶液であることが好ましく、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸、グリコール酸、酒石酸、りんご酸、クエン酸等がより好ましく、中でも硫酸、リン酸、シュウ酸が特に好ましい。これらの酸は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0076】
陽極酸化処理(A)の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度0.1〜20質量%、液温−10〜30℃、電流密度0.01〜20A/dm2、電圧3〜300V、電解時間0.5〜30時間であるのが好ましく、電解液濃度0.5〜15質量%、液温−5〜25℃、電流密度0.05〜15A/dm2、電圧5〜250V、電解時間1〜25時間であるのがより好ましく、電解液濃度1〜10質量%、液温0〜20℃、電流密度0.1〜10A/dm2、電圧10〜200V、電解時間2〜20時間であるのが更に好ましい。
【0077】
陽極酸化処理(A)の処理時間は、0.5分〜16時間であるのが好ましく、1分〜12時間であるのがより好ましく、2分〜8時間であるのが更に好ましい。
【0078】
陽極酸化処理(A)は、一定電圧下で行う以外に、電圧を断続的または連続的に変化させる方法も用いることができる。この場合は電圧を順次低くしていくのが好ましい。これにより、陽極酸化皮膜の抵抗を下げることが可能になり、陽極酸化皮膜に微細なマイクロポアが生成するため、特に電着処理により封孔処理する際に、均一性が向上する点で、好ましい。
【0079】
本発明においては、このような陽極酸化処理(A)により形成される陽極酸化皮膜の膜厚は、1〜1000μmであるのが好ましく、5〜500μmであるのがより好ましく、10〜300μmであるのが更に好ましい。
【0080】
また、本発明においては、このような陽極酸化処理(A)により形成される陽極酸化皮膜のマイクロポアの平均ポア密度は50〜1500個/μm2であるのが好ましい。
また、マイクロポアの占める面積率は、20〜50%であるのが好ましい。
ここで、マイクロポアの占める面積率は、アルミニウム表面の面積に対するマイクロポアの開口部の面積の合計の割合で定義される。
【0081】
<脱膜処理(B)>
脱膜処理(B)は、上記陽極酸化処理(A)によりアルミニウム基板表面に形成した陽極酸化皮膜を溶解させて除去する処理である。
上記陽極酸化処理(A)によりアルミニウム基板表面に陽極酸化皮膜を形成した後、後述する貫通化処理工程を直ちに施してもよいが、上記陽極酸化処理(A)の後、更に脱膜処理(B)および後述する再陽極酸化処理(C)をこの順で施した後に、後述する貫通化処理工程を施すのが好ましい。
【0082】
陽極酸化皮膜は、アルミニウム基板に近くなるほど規則性が高くなっているので、この脱膜処理(B)により、一度陽極酸化皮膜を除去して、アルミニウム基板の表面に残存した陽極酸化皮膜の底部分を表面に露出させて、規則的な窪みを得ることができる。したがって、脱膜処理(B)では、アルミニウムは溶解させず、アルミナ(酸化アルミニウム)からなる陽極酸化皮膜のみを溶解させる。
【0083】
アルミナ溶解液は、クロム化合物、硝酸、リン酸、ジルコニウム系化合物、チタン系化合物、リチウム塩、セリウム塩、マグネシウム塩、ケイフッ化ナトリウム、フッ化亜鉛、マンガン化合物、モリブデン化合物、マグネシウム化合物、バリウム化合物およびハロゲン単体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有した水溶液が好ましい。
【0084】
具体的なクロム化合物としては、例えば、酸化クロム(III)、無水クロム(VI)酸等が挙げられる。
ジルコニウム系化合物としては、例えば、フッ化ジルコンアンモニウム、フッ化ジルコニウム、塩化ジルコニウムが挙げられる。
チタン化合物としては、例えば、酸化チタン、硫化チタンが挙げられる。
リチウム塩としては、例えば、フッ化リチウム、塩化リチウムが挙げられる。
セリウム塩としては、例えば、フッ化セリウム、塩化セリウムが挙げられる。
マグネシウム塩としては、例えば、硫化マグネシウムが挙げられる。
マンガン化合物としては、例えば、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カルシウムが挙げられる。
モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン酸ナトリウムが挙げられる。
マグネシウム化合物としては、例えば、フッ化マグネシウム・五水和物が挙げられる。
バリウム化合物としては、例えば、酸化バリウム、酢酸バリウム、炭酸バリウム、塩素酸バリウム、塩化バリウム、フッ化バリウム、ヨウ化バリウム、乳酸バリウム、シュウ酸バリウム、過塩素酸バリウム、セレン酸バリウム、亜セレン酸バリウム、ステアリン酸バリウム、亜硫酸バリウム、チタン酸バリウム、水酸化バリウム、硝酸バリウム、あるいはこれらの水和物等が挙げられる。
上記バリウム化合物の中でも、酸化バリウム、酢酸バリウム、炭酸バリウムが好ましく、酸化バリウムが特に好ましい。
ハロゲン単体としては、例えば、塩素、フッ素、臭素が挙げられる。
【0085】
中でも、上記アルミナ溶解液が、酸を含有する水溶液であるのが好ましく、酸として、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等が挙げられ、2種以上の酸の混合物であってもよい。
酸濃度としては、0.01mol/L以上であるのが好ましく、0.05mol/L以上であるのがより好ましく、0.1mol/L以上であるのが更に好ましい。上限は特にないが、一般的には10mol/L以下であるのが好ましく、5mol/L以下であるのがより好ましい。不要に高い濃度は、経済的でないし、アルミニウム基板が溶解するおそれがある。
【0086】
アルミナ溶解液は、−10℃以上であるのが好ましく、−5℃以上であるのがより好ましく、0℃以上であるのが更に好ましい。なお、沸騰したアルミナ溶解液を用いて処理すると、規則化の起点が破壊され、乱れるので、沸騰させないで用いるのが好ましい。
【0087】
アルミナ溶解液は、アルミナを溶解し、アルミニウムを溶解しない。ここで、アルミナ溶解液は、アルミニウムを実質的に溶解させなければよく、わずかに溶解させるものであってもよい。
【0088】
脱膜処理(B)は、陽極酸化皮膜が形成されたアルミニウム基板を上述したアルミナ溶解液に接触させることにより行う。接触させる方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法が挙げられる。中でも、浸せき法が好ましい。
【0089】
浸せき法は、陽極酸化皮膜が形成されたアルミニウム基板を上述したアルミナ溶解液に浸せきさせる処理である。浸せき処理の際にかくはんを行うと、ムラのない処理が行われるため、好ましい。
浸せき処理の時間は、10分以上であるのが好ましく、1時間以上であるのがより好ましく、3時間以上、5時間以上であるのが更に好ましい。
【0090】
<再陽極酸化処理(C)>
上記脱膜処理(B)により陽極酸化皮膜を除去して、アルミニウム基板の表面に規則的な窪みを形成した後、再び陽極酸化処理を施すことで、マイクロポアの規則化度がより高い陽極酸化皮膜を形成することができる。
再陽極酸化処理(C)における陽極酸化処理は、従来公知の方法を用いることができるが、上述した陽極酸化処理(A)と同一の条件で行われるのが好ましい。
また、直流電圧を一定としつつ、断続的に電流のオンおよびオフを繰り返す方法、直流電圧を断続的に変化させつつ、電流のオンおよびオフを繰り返す方法も好適に用いることができる。これらの方法によれば、陽極酸化皮膜に微細なマイクロポアが生成するため、特に電着処理により封孔処理する際に、均一性が向上する点で、好ましい。
【0091】
また、再陽極酸化処理(C)を低温で行うと、マイクロポアの配列が規則的になり、また、ポア径が均一になる。
一方、再陽極酸化処理(C)を比較的高温で行うことにより、マイクロポアの配列を乱し、また、ポア径のばらつきを所定の範囲にすることができる。また、処理時間によっても、ポア径のばらつきを制御することができる。
【0092】
本発明においては、このような再陽極酸化処理(C)により形成される陽極酸化皮膜の膜厚は、30〜1000μmであるのが好ましく、50〜500μmであるのが更に好ましい。
【0093】
また、本発明においては、このような陽極酸化処理(C)により形成される陽極酸化皮膜のマイクロポアのポア径は0.01〜0.5μmであるのが好ましく、0.02〜0.1μmであるのがより好ましい。
平均ポア密度は、1000万個/mm2以上であるのが好ましい。
【0094】
自己規則化方法Iにおいては、上述した陽極酸化処理(A)および脱膜処理(B)に代えて、例えば、物理的方法、粒子線法、ブロックコポリマー法、レジストパターン・露光・エッチング法等により、上述した再陽極酸化処理(C)によるマイクロポア生成の起点となる窪みを形成させてもよい。
なお、これらの方法は特開2008−270158号の段落[0079]〜[0082]に詳細に記載されている。
【0095】
〔自己規則化方法II〕
<第1の工程:陽極酸化処理(D)>
陽極酸化処理(D)は、従来公知の電解液を用いることができるが、直流定電圧条件下にて、通電時の皮膜形成速度Aと、非通電時の皮膜溶解速度Bとした時、以下一般式(ii)で表されるパラメータRが、160≦R≦200、好ましくは170≦R≦190、特に好ましくは175≦R≦185を満たす電解液を用いて処理を施すことで、孔の規則配列性を大幅に向上することができる。
【0096】
R=A[nm/s]÷(B[nm/s]×加電圧[V]) ・・・ (ii)
【0097】
陽極酸化処理(D)における電解液の平均流速は、上述した陽極酸化処理(A)と同様、0.5〜20.0m/minであるのが好ましく、1.0〜15.0m/minであるのがより好ましく、2.0〜10.0m/minであるのが更に好ましい。上記範囲の流速で陽極酸化処理(D)を行うことにより、陽極酸化被膜のマイクロポアが均一かつ高い規則性を有することができる。
また、電解液を上記条件で流動させる方法は、上述した陽極酸化処理(A)と同様、特に限定されないが、例えば、スターラーのような一般的なかくはん装置を使用する方法が用いられる。
また、陽極酸化処理液の粘度としては、25℃1気圧下における粘度が0.0001〜100.0Pa・sが好ましく、0.0005〜80.0Pa・sが更に好ましい。上記範囲の粘度を有する電解液で陽極酸化処理(D)を行うことにより、均一かつ高い規則性を有することができる。
【0098】
陽極酸化処理(D)で用いる電解液には、酸性、アルカリ性いずれも使用することができるが、貫通孔の真円性を高める観点から酸性の電解液が好適に用いられる。
具体的には、上述した陽極酸化処理(A)と同様、塩酸、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、グリコール酸、酒石酸、りんご酸、クエン酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等がより好ましく、中でも硫酸、リン酸、シュウ酸が特に好ましい。これらの酸は単独でまたは2種以上を組み合わせて、上記一般式(ii)の計算式より所望のパラメータに調整して用いることができる。
【0099】
陽極酸化処理(D)の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、上述した陽極酸化処理(A)と同様、一般的には電解液濃度0.1〜20質量%、液温−10〜30℃、電流密度0.01〜20A/dm2、電圧3〜500V、電解時間0.5〜30時間であるのが好ましく、電解液濃度0.5〜15質量%、液温−5〜25℃、電流密度0.05〜15A/dm2、電圧5〜250V、電解時間1〜25時間であるのがより好ましく、電解液濃度1〜10質量%、液温0〜20℃、電流密度0.1〜10A/dm2、電圧10〜200V、電解時間2〜20時間であるのが更に好ましい。
【0100】
本発明においては、このような陽極酸化処理(D)により形成される陽極酸化皮膜の膜厚は、0.1〜300μmであるのが好ましく、0.5〜150μmであるのがより好ましく、1〜100μmであるのが更に好ましい。
【0101】
また、本発明においては、このような陽極酸化処理(D)により形成される陽極酸化皮膜のマイクロポアの平均ポア密度は50〜1500個/μm2であるのが好ましい。
また、マイクロポアの占める面積率は、20〜50%であるのが好ましい。
ここで、マイクロポアの占める面積率は、アルミニウム表面の面積に対するマイクロポアの開口部の面積の合計の割合で定義される。
【0102】
この陽極酸化処理(D)により、図3(A)に示されるように、アルミニウム基板12の表面に、マイクロポア16aを有する陽極酸化皮膜14aが形成される。なお、陽極酸化皮膜14aのアルミニウム基板12側には、バリア層18aが存在している。
【0103】
(第2の工程:酸化皮膜溶解処理(E))
酸化皮膜溶解処理(E)は、上記陽極酸化処理(D)により形成された陽極酸化皮膜に存在するポア径を拡大させる処理(孔径拡大処理)である。
【0104】
酸化皮膜溶解処理(E)は、上記陽極酸化処理(D)後のアルミニウム基板を酸水溶液またはアルカリ水溶液に接触させることにより行う。接触させる方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法が挙げられる。中でも、浸せき法が好ましい。
【0105】
酸化皮膜溶解処理(E)において、酸水溶液を用いる場合は、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸またはこれらの混合物の水溶液を用いることが好ましい。中でも、クロム酸を含有しない水溶液が安全性に優れる点で好ましい。酸水溶液の濃度は1〜10質量%であるのが好ましい。酸水溶液の温度は、25〜60℃であるのが好ましい。
一方、酸化皮膜溶解処理(E)において、アルカリ水溶液を用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも一つのアルカリの水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液の濃度は0.1〜5質量%であるのが好ましい。アルカリ水溶液の温度は、20〜35℃であるのが好ましい。
具体的には、例えば、50g/L、40℃のリン酸水溶液、0.5g/L、30℃の水酸化ナトリウム水溶液または0.5g/L、30℃の水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。
酸水溶液またはアルカリ水溶液への浸せき時間は、8〜120分であるのが好ましく、10〜90分であるのがより好ましく、15〜60分であるのが更に好ましい。
【0106】
また、酸化皮膜溶解処理(E)において、ポア径の拡大量は陽極酸化処理(D)の条件により異なるが、処理前後の拡大比が1.05倍〜100倍が好ましく、1.1倍〜75倍がより好ましく、1.2倍〜50倍が特に好ましい。
【0107】
この酸化皮膜溶解処理(E)により、図3(B)に示されるように、図3(A)に示される陽極酸化皮膜14aの表面およびマイクロポア16aの内部(バリア層18aおよび多孔質層)が溶解し、アルミニウム基板12上に、マイクロポア16bを有する陽極酸化皮膜14bを有するアルミニウム部材が得られる。なお、図3(A)と同様、陽極酸化皮膜14bのアルミニウム基板12側には、バリア層18bが存在している。
【0108】
(第3の工程:陽極酸化処理(D))
自己規則化方法IIにおいては、上記酸化皮膜溶解処理(E)の後に、再度上記陽極酸化処理(D)を施すのが好ましい。
【0109】
再度の陽極酸化処理(D)により、図3(C)に示されるように、図3(B)に示されるアルミニウム基板12の酸化反応が進行し、アルミニウム基板12上に、マイクロポア16bよりも深くなったマイクロポア16cを有する陽極酸化皮膜14cを有するアルミニウム部材が得られる。なお、図3(A)と同様、陽極酸化皮膜14cのアルミニウム基板12側には、バリア層18cが存在している。
【0110】
(第4の工程:酸化皮膜溶解処理(E))
また、自己規則化方法IIにおいては、上記陽極酸化処理(D)、上記酸化皮膜溶解処理(E)および上記陽極酸化処理(D)をこの順に施した後に、更に上記酸化皮膜溶解処理(E)を施すのが好ましい。
【0111】
この処理により、マイクロポアの中に処理液が入るため、第3の工程で施した陽極酸化処理(D)で形成された陽極酸化皮膜を溶解し、第3の工程で施した陽極酸化処理(D)で形成されたマイクロポアのポア径を広げることができる。
即ち、再度の酸化皮膜溶解処理(E)により、図3(D)に示されるように、図3(C)に示される陽極酸化皮膜14cの変曲点より表面側のマイクロポア16cの内部が溶解し、アルミニウム基板12上に、直管状のマイクロポア16dを有する陽極酸化皮膜14dを有するアルミニウム部材が得られる。なお、図3(A)と同様、陽極酸化皮膜14dのアルミニウム基板12側には、バリア層18dが存在している。
【0112】
ここで、マイクロポアのポア径の拡大量は、第3の工程で施した陽極酸化処理(D)の処理条件により異なるが、処理前後の拡大比が1.05倍〜100倍が好ましく、1.1倍〜75倍がより好ましく、1.2倍〜50倍が特に好ましい。
【0113】
自己規則化方法IIは、上述した陽極酸化処理(D)と酸化皮膜溶解処理(E)のサイクルを1回以上行うものである。繰り返しの回数が多いほど、上述したポアの配列の規則性が高くなる。
また、直前の陽極酸化処理(D)で形成された陽極酸化皮膜を酸化皮膜溶解処理(E)で溶解することにより、皮膜表面から見たマイクロポアの真円性が飛躍的に向上するため、上記サイクルを2回以上繰り返して行うのが好ましく、3回以上繰り返して行うのがより好ましく、4回以上繰り返して行うのが更に好ましい。
また、上記サイクルを2回以上繰り返して行う場合、各回の酸化皮膜溶解処理および陽極酸化処理の条件は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよく、また、最後の処理を陽極酸化処理で終えてもよい。
【0114】
<貫通化処理工程>
本工程は、陽極酸化処理工程の後に、上記陽極酸化により生じたマイクロポアによる孔を貫通化して、貫通孔を有する絶縁性基材を得る工程である。
貫通化処理工程としては、具体的には、例えば、上記陽極酸化処理工程の後に、アルミニウム基板(図3(D)においては符号12で表される部分)を溶解し、陽極酸化皮膜の底部(図3(D)においては符号18dで表される部分)を除去する方法;上記陽極酸化処理工程の後に、アルミニウム基板およびアルミニウム基板近傍の陽極酸化皮膜を切断する方法;等が挙げられる。
次に、好適態様である前者の方法について詳述する。
【0115】
(アルミニウム基板の溶解)
上記陽極酸化処理工程の後のアルミニウム基板の溶解は、陽極酸化皮膜(アルミナ)は溶解しにくく、アルミニウムを溶解しやすい処理液を用いる。
即ち、アルミニウム溶解速度1μm/分以上、好ましくは3μm/分以上、より好ましくは5μm/分以上、および、陽極酸化皮膜溶解速度0.1nm/分以下、好ましくは0.05nm/分以下、より好ましくは0.01nm/分以下の条件を有する処理液を用いる。
具体的には、アルミよりもイオン化傾向の低い金属化合物を少なくとも1種含み、かつ、pHが4以下8以上、好ましくは3以下9以上、より好ましくは2以下10以上の処理液を使用して浸漬処理を行う。
【0116】
このような処理液としては、酸またはアルカリ水溶液をベースとし、例えば、マンガン、亜鉛、クロム、鉄、カドミウム、コバルト、ニッケル、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、銅、水銀、銀、パラジウム、白金、金の化合物(例えば、塩化白金酸)、これらのフッ化物、これらの塩化物等を配合したものであるのが好ましい。
中でも、酸水溶液ベースが好ましく、塩化物をブレンドするのが好ましい。
特に、塩酸水溶液に塩化水銀をブレンドした処理液(塩酸/塩化水銀)、塩酸水溶液に塩化銅をブレンドした処理液(塩酸/塩化銅)が、処理ラチチュードの観点から好ましい。
なお、このような処理液の組成は特に限定されず、例えば、臭素/メタノール混合物、臭素/エタノール混合物、王水等を用いることができる。
【0117】
また、このような処理液の酸またはアルカリ濃度は、0.01〜10mol/Lが好ましく、0.05〜5mol/Lがより好ましい。
【0118】
更に、このような処理液を用いた処理温度は、−10℃〜80℃が好ましく、0℃〜60℃が好ましい。
【0119】
本発明においては、アルミニウム基板の溶解は、上記陽極酸化処理工程の後のアルミニウム基板を上述した処理液に接触させることにより行う。接触させる方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法が挙げられる。中でも、浸せき法が好ましい。このときの接触時間としては、10秒〜5時間が好ましく、1分〜3時間がより好ましい。
【0120】
(陽極酸化皮膜の底部の除去)
アルミニウム基板を溶解した後の陽極酸化皮膜の底部の除去は、酸水溶液またはアルカリ水溶液に浸せきさせることにより行う。底部の陽極酸化皮膜が除去されることにより、マイクロポアが貫通する。
【0121】
陽極酸化皮膜の底部の除去は、予めpH緩衝液に浸漬させてマイクロポアによる孔の開口側から孔内にpH緩衝液を充填した後に、開口部の逆面、即ち、陽極酸化皮膜の底部に酸水溶液またはアルカリ水溶液に接触させる方法により行うのが好ましい。
【0122】
酸水溶液を用いる場合は、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸またはこれらの混合物の水溶液を用いることが好ましい。酸水溶液の濃度は1〜10質量%であるのが好ましい。酸水溶液の温度は、25〜40℃であるのが好ましい。
一方、アルカリ水溶液を用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも一つのアルカリの水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液の濃度は0.1〜5質量%であるのが好ましい。アルカリ水溶液の温度は、20〜35℃であるのが好ましい。
【0123】
具体的には、例えば、50g/L、40℃のリン酸水溶液や、0.5g/L、30℃の水酸化ナトリウム水溶液または0.5g/L、30℃の水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。
【0124】
酸水溶液またはアルカリ水溶液への浸せき時間は、8〜120分であるのが好ましく、10〜90分であるのがより好ましく、15〜60分であるのが更に好ましい。
また、予めpH緩衝液に浸漬させる場合は、上述した酸/アルカリに適宜対応した緩衝液を使用する。
【0125】
この貫通化処理工程により、図3(D)に示されるアルミニウム基板12およびバリア層18dがなくなった状態の構造物、即ち、図4(A)に示される絶縁性基材20が得られる。
【0126】
一方、後者のアルミニウム基板およびアルミニウム基板近傍の陽極酸化皮膜を切断する方法としては、アルミニウム基板(図3(D)においては符号12で表される部分)および陽極酸化皮膜の底部(図3(D)においては符号18dで表される部分)を、レーザー等による切削処理や種々の研磨処理等を用いて物理的に除去する方法が好適に例示される。
【0127】
<充填工程>
本工程は、上記貫通化処理工程の後に、得られた上記絶縁性基材における貫通化した孔の内部に導電性材料を充填して上記異方導電性部材を得る工程である。
ここで、充填する導電性材料は、異方導電性部材の導通路を構成するものであり、その種類は上述の通りである。
【0128】
本発明の製造方法においては、導電性材料として金属を充填する方法として、電解メッキ法または無電解メッキ法を用いることができる。
なお、電解メッキ処理を施す前に上記絶縁性基材の一方の表面に空隙のない電極膜を形成する処理(電極膜形成処理)を施すのが好ましい。
電極膜を形成する方法は特に限定されないが、例えば、金属の無電解めっき処理、導電性材料(例えば、金属)の直接塗布、等が好ましく、これらの中でも電極膜の均一性、及び操作の簡便性の観点から、無電解めっき処理が好ましい。電極膜形成処理に関して、無電解めっき処理を用いる際には、そのめっき核を酸化皮膜の一方の表面に付与することが好ましい。具体的には、無電解めっきにより付与するべき金属と同種の金属又は金属化合物、あるいは無電解めっきにより付与するべき金属よりもイオン化傾向の高い金属又は金属化合物を、絶縁性基材の一方の表面に付与する方法が好ましい。付与方法としては、金属又は金属化合物を蒸着、スパッタリング、あるいは直接塗布する方法が挙げられるが、特に限定されない。
【0129】
上記のようにめっき核を付与したのち、無電解めっき処理により電極膜を形成する。処理方法は温度、時間により電極層の厚さを制御できる観点から、浸漬法が好ましい。
無電解めっき液の種類としては、従来公知のものを使用することができる。
また、形成される電極膜の通電性を高める観点から、金めっき液、銅めっき液、銀めっき液等、貴金属を有するめっき液が好ましく、経時による電極の安定性すなわち、酸化による劣化を防ぐ観点から、金めっき液がより好ましい。
【0130】
本発明の製造方法においては、電解メッキ法により金属を充填する場合は、パルス電解または定電位電解の際に休止時間をもうけることが好ましい。休止時間は、10秒以上必要で、30〜60秒であることが好ましい。
また、電解液のかくはんを促進するため、超音波を加えることも望ましい。
更に、電解電圧は、通常20V以下であって望ましくは10V以下であるが、使用する電解液における目的金属の析出電位を予め測定し、その電位+1V以内で定電位電解を行なうことが好ましい。なお、定電位電解を行なう際には、サイクリックボルタンメトリを併用できるものが望ましく、Solartron社、BAS社、北斗電工社、IVIUM社等のポテンショスタット装置を用いることができる。
【0131】
金属の充填に使用するメッキ液は、従来公知のメッキ液を用いることができる。
具体的には、銅を析出させる場合には硫酸銅水溶液が一般的に用いられるが、硫酸銅の濃度は、1〜300g/Lであるのが好ましく、100〜200g/Lであるのがより好ましい。また、電解液中に塩酸を添加すると析出を促進することができる。この場合、塩酸濃度は10〜20g/Lであるのが好ましい。
また、金を析出させる場合、テトラクロロ金の硫酸溶液を用い、交流電解でメッキを行なうのが望ましい。
【0132】
なお、無電解メッキ法では、アスペクトの高い孔中に金属を完全に充填するには長時間を要するので、本発明の製造方法においては、電解メッキ法により金属を充填するのが望ましい。
【0133】
この充填工程により、図4(B)に示される異方導電性部材21が得られる。
【0134】
<絶縁性物質充填処理>
上記充填工程の後、必要に応じて、上記金属が充填された上記絶縁性基材に封孔処理を施し、封孔率が99%以上となるように更に上記絶縁性物質を充填する処理(絶縁性物質充填処理)を実施してもよい。
【0135】
絶縁性物質充填処理で実施される封孔処理としては特に制限されず、沸騰水処理、熱水処理、蒸気処理、ケイ酸ソーダ処理、亜硝酸塩処理、酢酸アンモニウム処理等の公知の方法に従って行うことができる。例えば、特公昭56−12518号公報、特開平4−4194号公報、特開平5−202496号公報、特開平5−179482号公報等に記載されている装置および方法で封孔処理を行ってもよい。
【0136】
金属および絶縁性物質による封孔率が上記範囲であると、配線不良をより抑制することができる異方導電性部材を提供することができる。
これは、異方導電性部材に配線層を形成する際に、封孔されていない貫通孔に配線層の形成材料(主に液体)等に由来する微小な埃や油分等(以下、「コンタミ」という。)が溜まり、このコンタミが配線層との密着性を悪くおそれがある。一方、所定の絶縁性物質を用いて貫通孔の封孔率を99%以上とすることにより、コンタミの混在が抑えられる。
【0137】
<表面平滑化処理>
本発明の製造方法においては、上記充填工程の後に、研摩処理(例えば、化学機械研磨処理)によって表面および裏面を平滑化する表面平滑処理工程を具備するのが好ましい。
なかでも、化学機械研磨としてCMP(Chemical Mechanical Polishing)処理を行うことにより、金属を充填させた後の表面および裏面の平滑化と表面に付着した余分な金属を除去することが好ましい。
CMP処理には、フジミインコーポレイテッド社製のPNANERLITE−7000、日立化成社製のGPX HSC800、旭硝子(セイミケミカル)社製のCL−1000等のCMPスラリーを用いることができる。
なお、陽極酸化皮膜を研磨したくないので、層間絶縁膜やバリアメタル用のスラリーを用いるのは好ましくない。
【0138】
<トリミング処理>
本発明の製造方法においては、上記充填工程または上記表面平滑処理工程の後に、トリミング処理工程を具備するのが好ましい。
上記トリミング処理工程は、上記充填工程または上記表面平滑処理工程の後に、異方導電性部材表面の絶縁性基材のみを一部除去し、導通路を突出させる工程である。
ここで、トリミング処理は、導通路を構成する材料(例えば、金属)を溶解しない条件であれば、上述した酸化皮膜溶解処理(E)と同様の処理条件で施すことができる。特に、溶解速度を管理しやすいリン酸を用いるのが好ましい。
このトリミング工程により、図4(C)に示される異方導電性部材21が得られる。
【0139】
<電着処理>
本発明の製造方法においては、上記トリミング処理工程に代えてまたは上記トリミング処理工程の後に、図4(B)に示される導通路3の表面にのみ、更に同一のまたは異なる導電性金属を析出させる電着処理工程を具備するものであってもよい(図4(D))。
本発明においては、電着処理は、異種金属の電気陰性度の差異を利用した無電解メッキ処理も含む処理である。
ここで、無電解メッキ処理は、無電解メッキ処理液(例えば、pHが1〜9の貴金属含有処理液に、pHが6〜13の還元剤処理液を適宜混合した液)に浸漬させる工程である。
【0140】
本発明の製造方法においては、上記トリミング処理および上記電着処理は、異方導電性部材の使用直前に施すのが好ましい。これらの処理を使用直前に施すことにより、バンプ部分を構成する導通路の金属が使用直前まで酸化しないため好ましい。
【0141】
<保護膜形成処理>
本発明の製造方法においては、アルミナで形成された絶縁性基材が、空気中の水分との水和により、経時により孔径が変化してしまう場合があることから、上記充填工程前に、保護膜形成処理を施すことが好ましい。
【0142】
保護膜としては、Zr元素および/またはSi元素を含有する無機保護膜、あるいは、水不溶性ポリマーを含有する有機保護膜が挙げられる。
これらの詳細については、特開2008−270157号公報の段落[0138]〜[0144]に記載されている。
【0143】
<異方導電性部材>
本発明の異方導電性部材は、様々な用途に使用することができ、例えば、CPUなどのマザーボードとインターポーザーとの間の電気的接点(電子接続部材)として用いることもでき、インターポーザーとCPUなどのICチップとの間の電気的接点として用いることが挙げられる。
また、本発明の異方導電性部材は、上記用途などへ応用する観点からは、導通路が設けられている厚み方向における抵抗率が1×10-4Ωm以下であることが好ましく、1×10-5Ωm以下であることが好ましく、1×10-7Ωm以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0144】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0145】
(実施例1および2)
(1)鏡面仕上げ処理(電解研磨処理)
高純度アルミニウム基板(日本軽金属社製、純度99.9999質量%、厚さ0.4mm)を10cm四方の面積で陽極酸化処理できるようカットし、以下組成の電解研磨液を用い、電圧25V、液温度65℃、液流速3.0m/minの条件で電解研磨処理を施した。
陰極はカーボン電極とし、電源はGP0110−30R(高砂製作所社製)を用いた。また、電解液の流速は渦式フローモニターFLM22−10PCW(AS ONE製)を用いて計測した。
【0146】
(電解研磨液組成)
・85質量%リン酸(和光純薬社製試薬) 660mL
・純水 160mL
・硫酸 150mL
・エチレングリコール 30mL
【0147】
(2)陽極酸化処理
次いで、電解研磨処理後のアルミニウム基板に、特開2007−204802号公報に記載の手順にしたがって自己規則化法による陽極酸化処理を施した。
電解研磨処理後のアルミニウム基板に、0.50mol/Lシュウ酸の電解液で、電圧40V、液温度16℃、液流速3.0m/minの条件で、5時間のプレ陽極酸化処理を施した。
その後、プレ陽極酸化処理後のアルミニウム基板を、0.2mol/L無水クロム酸、0.6mol/Lリン酸の混合水溶液(液温:50℃)に12時間浸漬させる脱膜処理を施した。
その後、0.50mol/Lシュウ酸の電解液で、電圧40V、液温度16℃、液流速3.0m/minの条件の条件で、16時間の再陽極酸化処理を施し、膜厚130μmの酸化皮膜を得た。
なお、プレ陽極酸化処理および再陽極酸化処理は、いずれも陰極はステンレス電極とし、電源はGP0110−30R(高砂製作所社製)を用いた。また、冷却装置にはNeoCool BD36(ヤマト科学社製)、かくはん加温装置にはペアスターラー PS−100(EYELA社製)を用いた。更に、電解液の流速は渦式フローモニターFLM22−10PCW(AS ONE製)を用いて計測した。
【0148】
(3)貫通化処理
次いで、20質量%塩化水銀水溶液(昇汞)に20℃、3時間浸漬させることによりアルミニウム基板を溶解し、更に、5質量%リン酸に30℃、30分間浸漬させることにより陽極酸化皮膜の底部を除去し、貫通孔を有する陽極酸化皮膜を作製した。
【0149】
ここで、貫通孔の平均孔径は、30nmであった。平均孔径は、FE−SEMにより表面写真(倍率50000倍)を撮影し、50点測定した平均値として算出した。
【0150】
同様に、貫通孔の平均深さは、130μmであった。ここで、平均深さは、上記で得られた微細構造体を貫通孔の部分で厚さ方向に対してFIBで切削加工し、その断面をFE−SEMにより表面写真(倍率50000倍)を撮影し、10点測定した平均値として算出した。
【0151】
同様に、貫通孔の密度は、約1億個/mm2であった。ここで、密度は、図5に示すように、先に説明した式(i)により定義される規則化度が50%以上となるように配列する貫通孔の単位格子51中に1/2個の貫通孔52があるとして、下記式により計算した。下記式中、Ppは貫通孔の周期を表す。
密度(個/μm2)=(1/2個)/{Pp(μm)×Pp(μm)×√3×(1/2)}
【0152】
同様に、貫通孔の規則化度は、92%であった。ここで、規則化度は、FE−SEMにより表面写真(倍率20000倍)を撮影し、2μm×2μmの視野で、貫通孔について上記式(i)により定義される規則化度を測定した。
【0153】
(4)加熱処理
次いで、上記で得られた貫通構造体に、温度400℃で1時間の加熱処理を施した。
【0154】
(5)電極膜形成処理
次いで、上記加熱処理後の貫通構造体の一方の表面に電極膜を形成する処理を施した。
すなわち、0.7g/L塩化金酸水溶液を、一方の表面に塗布し、140℃/1分で乾燥させ、更に500℃/1時間で焼成処理し、金のめっき核を作製した。
その後、無電解めっき液としてプレシャスファブACG2000基本液/還元液(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース(株)製)を用いて、50℃/1時間浸漬処理し、表面との空隙のない電極膜を形成した。
【0155】
(6)金属充填処理工程(電解めっき処理)
次いで、上記電極膜を形成した面に銅電極を密着させ、該銅電極を陰極にし、白金を正極にして電解めっき処理を施した。
実施例1では、以下に示す組成の銅めっき液を使用し、定電流電解を施すことにより、貫通孔に銅が充填された異方導電性部材を作製した。また、実施例2では下記に示すニッケルめっき液を使用し、定電流電解を施すことにより、貫通孔にニッケルが充填された異方導電性部材を作製した。
ここで、定電流電解は、山本鍍金社製のめっき装置を用い、北斗電工社製の電源(HZ−3000)を用い、めっき液中でサイクリックボルタンメトリを行って析出電位を確認した後に、以下に示す条件で処理を施した。
【0156】
<銅めっき液組成>
・硫酸銅 100g/L
・硫酸 50g/L
・塩酸 15g/L
・温度 25℃
・電流密度 10A/dm2
【0157】
<ニッケルめっき液組成>
・硫酸ニッケル 300g/L
・塩化ニッケル 60g/L
・ホウ酸 40g/L
・温度 50℃
・電流密度 5A/dm2
【0158】
(7)精密研磨処理
次いで、作製した異方導電性部材の両面に対して、機械研磨処理を行い、厚さ110μmの異方導電性部材を得た。
ここで、機械的研磨処理に用いる試料台としては、セラミック製冶具(ケメット・ジャパン株式会社製)を用い、試料台に貼り付ける材料としては、アルコワックス(日化精工株式会社製)を用いた。また、研磨剤としては、DP−懸濁液P−6μm・3μm・1μm・1/4μm(ストルアス製)を順に用いた。
【0159】
以上のようにして作製した金属が充填された異方導電性部材の貫通孔の封孔率を測定した。
具体的には、作製した異方導電性部材の両面をFE−SEMで観察し、1000個の貫通孔の封孔の有無を観察して封孔率を算出し、両面の封孔率から平均値を求めた。結果は、実施例1の異方導電性部材の封孔率は92.6%、実施例2の異方導電性部材の封孔率は96.2%であった。
なお、作製した異方導電性部材を厚さ方向に対してFIBで切削加工し、その断面をFE−SEMにより表面写真(倍率50000倍)を撮影し、貫通孔の内部を確認したところ、封孔された貫通孔においては、その内部が金属で完全に充填されていることが分かった。
【0160】
(8)絶縁性物質充填処理
次いで、以上で作製した異方導電性部材に、後述する封孔処理を施した。封孔処理は異方導電性部材を、80℃の純水に1分間浸漬した後、浸漬させた状態で110℃の雰囲気下で10分間加熱することで行った。
【0161】
(9)精密研磨処理
次いで、封孔処理後の異方導電性部材の両面に対して、上記(7)精密研磨処理と同様の機械研磨処理を施し、厚み100μmの異方導電性部材を得た。
【0162】
上記のようにして作製した実施例1および実施例2の異方導電性部材の封孔率を、上記と同様の方法で算出したところ、封孔率が100%の異方導電性部材が得られた。
【0163】
(10)トリミング処理
次いで、精密研磨処理後の構造体をリン酸溶液に浸漬し、陽極酸化皮膜を選択的に溶解することで、導通路である金属の円柱を突出させた。
リン酸溶液は、上記貫通化処理と同じ液を使い、処理時間を1分とした。
【0164】
(実施例3)
実施例1で使用した高純度アルミニウム基板(日本軽金属社製、純度99.9999質量%、厚さ0.4mm)を、日本軽金属社製、純度99.999質量%、厚さ0.5mmの高純度アルミニウム基板に変えたこと以外は、実施例1と同様の方法により、厚み100μmの異方導電性部材を作製した。
【0165】
(実施例4)
実施例1の(2)陽極酸化処理において、マロン酸水溶液中で陽極酸化することにより、導通路の密度を1300万個/mm2、導通路の直径を100nmに変えたこと以外は、実施例1と同様の方法により、厚み100μmの異方導電性部材を作製した。
このときの陽極酸化条件は、0.50mol/L濃度のマロン酸の電解液で、電圧115V、液温度3℃の条件で、13時間の陽極酸化処理を施し、陽極酸化皮膜厚さ130μmの陽極酸化皮膜を得た。
【0166】
(実施例5)
実施例1の(2)陽極酸化処理において、54時間の陽極酸化処理を施し、厚さ430μmの陽極酸化皮膜を作製した以外は、実施例1と同様の方法により、厚み400μmの異方導電性部材を作製した。
【0167】
(実施例6)
実施例1で行った(1)鏡面仕上げ処理(電解研磨処理)を施さないこと以外は、実施例1と同様の方法により、厚み100μmの実施例6の異方導電性部材を作製した。
【0168】
(実施例7)
実施例1で使用した高純度アルミニウム基板(日本軽金属社製、純度99.9999質量%、厚さ0.4mm)を、日本軽金属社製、純度99.996質量%、厚さ0.5mmの高純度アルミニウム基板に変えたこと以外は、実施例1と同様の方法により、厚み100μmの異方導電性部材を作製した。
【0169】
(実施例8)
実施例3で使用した高純度アルミニウム基板(日本軽金属社製、純度99.999質量%、厚さ0.5mm)を作製する際に、連続鋳造圧延法(CC法:コンティニュアスキャスティング法)にして金属間化合物のサイズを小さくしたこと以外は、実施例1と同様の方法により、厚み100μmの異方導電性部材を作製した。
【0170】
(比較例1)
実施例1で使用した高純度アルミニウム基板(日本軽金属社製、純度99.9999質量%、厚さ0.4mm)を、住友軽金属社製、純度99.99質量%、厚さ0.4mmの高純度アルミニウム基板に変えたこと以外は、実施例1と同様の方法により、厚み100μmの異方導電性部材を作製した。
【0171】
<導通路の欠損面積率>
実施例1〜8および比較例1で作製した異方導電性部材の表面を、FE−SEMにて観察すると、導通路が存在しない領域は導通路が存在する領域に比べ電子密度が低いため、導通路が存在しない領域を判別することができる。つまり、得られたSEM画像から導通路が存在しない領域の面積率を算出することができる。倍率:2000倍、観察領域(1mm×1mm)のFE−SEM画像から得られた欠損面積率(%){(導通路が存在しない領域の面積/観察領域の面積)×100}は表1のようになった。
なお、実用上の観点からは、欠損面積率は0.50%以下程度であることが好ましい。
【0172】
<抵抗率測定>
実施例1〜8および比較例1で作製した異方導電性部材と予め用意したマスクとを使用して、これらを金の無電解めっき浴(プレシャスハブACG2000、田中貴金属社製)中に浸漬させることにより、図6(A)および(B)に示すように異方導電性部材1の裏表面に金属電極部60(厚み20μm)を設けた。金属接続部の大きさは、5μm×5μmであった。
次に、異方導電性部材の表裏面に設けられた金属接続部を介して、日置電機株式会社のRM3542を使用して、4端子法にて、異方導電性部材の厚み方向の抵抗率を算出した。
なお、実用上の観点からは、抵抗率が1×10-4Ωm以下であることが必要である。
【0173】
表1中の「金属間化合物の密度」「金属間化合物の平均円相当直径」は、使用されるアルミニウム基板中の金属間化合物のそれぞれの数値を意味している。「アルミニウム基板のRa」は、陽極酸化処理が施されるアルミニウム基板の表面粗さを表す。
なお、アルミニウム基板中の金属間化合物の種類としては、CuAl2、Al3Feなどが挙げられる。
【0174】
【表1】

【0175】
表1に示すように、所定の金属間化合物の密度を有するアルミニウム板を使用した実施例1〜8においては、優れた抵抗率を示し、半導体素子等の電子部品の電気的接続部材や検査用コネクタ等として有用であることが確認された。
一方、金属間化合物の密度が所定量以上のアルミニウム板を使用した比較例1においては、得られた異方導電性部材の表面において導通路の欠損領域が多く生じており、結果として抵抗率が大きくなった。このような抵抗率では、異方導電性部材を電気的接続部材などに使用することが困難である。
【符号の説明】
【0176】
1、21 異方導電性部材
2、20 絶縁性基材
3 導通路
4a,4b 突出部
5 基材内導通部
6 絶縁性基材の厚み
7 導通路間の幅
8 導通路の直径
9 導通路の中心間距離(ピッチ)
12 アルミニウム基板
14a、14b、14c、14d 陽極酸化皮膜
16a、16b、16c、16d マイクロポア
18a、18b、18c、18d バリア層
51 貫通孔の単位格子
52 貫通孔
60 金属電極部
101、102、104、105、107、108 貫通孔
103、106、109 円


【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する絶縁性基材中に、前記貫通孔に充填された導電性材料からなる複数の導通路が、互いに絶縁された状態で前記絶縁性基材を厚み方向に貫通し、かつ、前記各導通路の一端が前記絶縁性基材の一方の面において露出し、前記各導通路の他端が前記絶縁性基材の他方の面において露出した状態で設けられる異方導電性部材であって、
前記絶縁性基材がアルミニウム基板の陽極酸化皮膜であり、
前記アルミニウム基板に含有される金属間化合物の平均円相当直径が2μm以下であり、その密度が100個/mm2以下である、異方導電性部材。
【請求項2】
前記導通路の密度が1000万個/mm2以上である、請求項1に記載の異方導電性部材。
【請求項3】
前記導通路の直径が5〜500nmである、請求項1または2に記載の異方導電性部材。
【請求項4】
前記絶縁性基材の厚みが1〜1000μmである、請求項1〜3のいずれかに記載の異方導電性部材。
【請求項5】
前記アルミニウム基板の算術平均粗さRaが0.1μm以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の異方導電性部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の異方導電性部材を製造する異方導電性部材の製造方法であって、少なくとも、
前記アルミニウム基板を陽極酸化する陽極酸化処理工程、
前記陽極酸化処理工程の後に、前記陽極酸化により生じたマイクロポアによる孔を貫通化して前記絶縁性基材を得る貫通化処理工程、および、
前記貫通化処理工程の後に、得られた前記絶縁性基材における貫通化した孔の内部に導電性部材を充填して前記異方導電性部材を得る充填工程、を具備する異方導電性部材の製造方法。
【請求項7】
更に、前記充填工程の後に、化学機械研磨処理によって表面および裏面を平滑化する表面平滑処理工程を具備する、請求項6に記載の異方導電性部材の製造方法。
【請求項8】
更に、前記充填工程の後に、トリミング処理工程を具備する、請求項6または7に記載の異方導電性部材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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