説明

異方性材の曲げ剛性推定方法

【課題】 曲げ剛性を容易に算出できるようにする。
【解決手段】 炉壁管パネルのたわみ解析モデルとして、矩形管2aとフィン3からなる単位構造が繰り返し配列されたたわみ解析モデルを作成する。単位構造を、局所座標x系にて、中実の矩形又は厚み方向中間部に空間を有する中空の矩形の部分はりモデルが形成されるように6つの区間に分割する。各区間に形成される部分はりモデルの形状寸法を基に、はり理論により各区間ごとのたわみ量を表す式を未知の係数を含んだ状態で算出すると共に、未知の係数を、隣接区間におけるたわみ量及びたわみ角の連続条件を基に決定してから、たわみ量を表す式をたわみ解析モデルの曲げ剛性の算出式に代入して曲げ剛性の導出式を得る。この導出式に、たわみ解析モデルの形状寸法を代入して炉壁管パネルの曲げ剛性を推定させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉壁管パネルのように面内で直交する2軸方向のうちの1方向に沿って所定の単位構造が繰り返し配列された構成を有する異方性材における上記単位構造の配列方向に沿う方向の曲げ剛性を、簡易に推定できるようにするために用いる異方性材の曲げ剛性推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ボイラ火炉の炉壁は、熱効率を向上させるために、図9に示す如く、所要間隔で配置した多数の炉壁管2同士を、フィン3を介して平面的に連結してなる構造の炉壁管パネル1を基本構造として、上記炉壁管パネル1における各炉壁管2に、図示しない加熱した蒸気を循環させ、火炉壁内部の燃焼による熱で炉壁管2内の蒸気圧を高め、熱効率を向上させるようにしている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記炉壁管パネル1は、面内にて炉壁管2の管軸に垂直な方向には、上記炉壁管2とフィン3からなる単位構造が繰り返し配列されていて幾何形状が周期的に変化する一方、炉壁管2の管軸に平行な方向には炉壁管2及びフィン3が連続して延びていて幾何形状が変化しないため、上記炉壁管2の管軸に垂直な方向と平行な方向となる面内で直交する2軸方向について強度特性及び剛性が大きく異なるいわゆる異方性材となっている。
【0004】
ところで、ボイラ火炉の設計時に健全性評価を行う場合等には、上記炉壁管パネル1における炉壁管2の管軸と垂直な方向についての曲げ剛性が必要とされることがある。
【0005】
そのために、上記炉壁管パネル1について、面内で炉壁管2の管軸に垂直な方向に沿う方向の曲げ剛性を推定する必要が生じることがあり、この場合、従来は、炉壁管パネル1の有限要素モデルを作成し、有限要素解析(FEM解析)によって上記曲げ剛性を推定することが広く一般的に行われている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−188782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記した如き有限要素解析によって炉壁管パネル1における炉壁管2の管軸に垂直な方向に沿う方向についての曲げ剛性を推定する手法では、炉壁管パネル1を構成している炉壁管2の直径や管肉厚、炉壁管2の配列ピッチ(管間ピッチ)、フィン3の厚み(フィン厚)等の形状寸法が変更されると、有限要素モデルの作成、及び、有限要素解析を、その都度行う必要が生じることから、煩雑な作業を要し、よって、手間及び時間が嵩むというのが実状である。
【0008】
そのために、上記炉壁管パネル1における炉壁管2の管軸に垂直な方向に沿う方向の曲げ剛性をより簡易に推定する方法に対する需要があったが、この種の簡易な推定手法は従来特に提案されていない。
【0009】
そこで、本発明は、上記炉壁管パネルのような面内で直交する2軸方向のうちの一方向に沿って所定の単位構造が繰り返し配列された構成を有する異方性材について、上記単位構造の繰り返し配列方向に沿う方向の曲げ剛性を簡易に推定することができるようにするための異方性材の曲げ剛性推定方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、面内で直交する2軸方向のうちの一方向に沿って所要の単位構造が繰り返し配列された構成を有する異方性材について、上記各単位構造を単位構造繰り返し配列方向に直交する平面により複数分割して形成される各区間ごとに、断面形状が中実の四角形、又は、断面形状が厚み方向中間部に空間を有する中空の四角形となる部分はりモデルが形成されるようにしたたわみ解析モデルを作成し、該たわみ解析モデルにおける上記各区間の部分はりモデルの形状寸法を基に、該各区間の部分はりモデルごとに、はり理論により上記単位構造繰り返し配列方向に沿う方向のたわみ量を表す式を未知の係数を含んだ状態で算出すると共に、該未知の係数を、隣接区間におけるたわみ量及びたわみ角の連続条件を基に決定し、上記たわみ量を求める式を上記異方性材の単位構造繰り返し配列方向の曲げ剛性の算出式に代入することで導出された式に、上記各部分はりモデルの形状寸法を代入して上記異方性材の単位構造繰り返し配列方向の曲げ剛性を推定するようにする。
【0011】
又、上記構成における異方性材を、炉壁管とフィンとからなる単位構造が面内で炉壁管の管軸に直交する方向に繰り返し配列された構成を有する炉壁管パネルとし、該炉壁管パネルのたわみ解析モデルを、少なくともフィンに対応する区間と、炉壁管の管軸に直交する方向に沿って該炉壁管の孔の両側に位置する管壁の部分に対応する区間と、炉壁管パネルの厚み方向に沿って炉壁管の孔の両側に位置する管壁の部分に対応する区間とを具備してなる構成とするようにする。
【0012】
更に、上記構成における炉壁管パネルのたわみ解析モデルを、断面形状が炉壁管パネルの面内に平行な一対の辺部と垂直な一対の辺部を有する矩形管とフィンからなる単位構造が面内で炉壁管の管軸に直交する方向に繰り返し配列された構成とし、且つ上記矩形管の各辺に沿う外形寸法を炉壁管の直径と、又、上記矩形管の管肉厚を上記炉壁管の管肉厚と、又、上記矩形管の管間ピッチを上記炉壁管パネルにおける炉壁管の管間ピッチと、又、フィン厚を上記炉壁管パネルにおけるフィン厚とそれぞれ同様の寸法に設定するようにする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の異方性材の曲げ剛性推定方法によれば、以下のような優れた効果を発揮する。(1)面内で直交する2軸方向のうちの一方向に沿って所要の単位構造が繰り返し配列された構成を有する異方性材について、上記各単位構造を単位構造繰り返し配列方向に直交する平面により複数分割して形成される各区間ごとに、断面形状が中実の四角形、又は、断面形状が厚み方向中間部に空間を有する中空の四角形となる部分はりモデルが形成されるようにしたたわみ解析モデルを作成し、該たわみ解析モデルにおける上記各区間の部分はりモデルの形状寸法を基に、該各区間の部分はりモデルごとに、はり理論により上記単位構造繰り返し配列方向に沿う方向のたわみ量を表す式を未知の係数を含んだ状態で算出すると共に、該未知の係数を、隣接区間におけるたわみ量及びたわみ角の連続条件を基に決定し、上記たわみ量を求める式を上記異方性材の単位構造繰り返し配列方向の曲げ剛性の算出式に代入することで導出された式に、上記各部分はりモデルの形状寸法を代入して上記異方性材の単位構造繰り返し配列方向の曲げ剛性を推定するようにしてあるので、異方性材について、平面内の2軸方向のうち、単位構造が繰り返し配列された方向に沿う方向の曲げ剛性を導くための導出式を、たわみ解析モデルにおける上記各区間の部分はりモデルの形状寸法を基に導かれる陽な形で表すことができる。よって、各部分はりモデルの形状寸法を代入して上記異方性材の単位構造繰り返し配列方向の曲げ剛性を推定するようにすることが可能となるため、手計算で簡便に上記異方性材の単位幅当たりの単位構造繰り返し配列方向の曲げ剛性を算出することが可能となる。
(2)しかも、形状寸法の変更がある場合であっても、該変更された形状寸法の値を新たに代入することで対応できるため、従来、形状寸法の変更があるごとに必要とされていた有限要素モデルの作成や、有限要素解析を不要にでき、よって、手間及び時間の大幅な削減化を図ることが可能になる。
(3)異方性材を、炉壁管とフィンとからなる単位構造が面内で炉壁管の管軸に直交する方向に繰り返し配列された構成を有する炉壁管パネルとし、該炉壁管パネルのたわみ解析モデルを、少なくともフィンに対応する区間と、炉壁管の管軸に直交する方向に沿って該炉壁管の孔の両側に位置する管壁の部分に対応する区間と、炉壁管パネルの厚み方向に沿って炉壁管の孔の両側に位置する管壁の部分に対応する区間とを具備してなる構成とすることにより、炉壁管パネルの炉壁管の管軸に直交する方向の曲げ剛性を推定するのに有効なものとすることができる。
(4)炉壁管パネルのたわみ解析モデルを、断面形状が炉壁管パネルの面内に平行な一対の辺部と垂直な一対の辺部を有する矩形管とフィンからなる単位構造が面内で炉壁管の管軸に直交する方向に繰り返し配列された構成とし、且つ上記矩形管の各辺に沿う外形寸法を炉壁管の直径と、又、上記矩形管の管肉厚を上記炉壁管の管肉厚と、又、上記矩形管の管間ピッチを上記炉壁管パネルにおける炉壁管の管間ピッチと、又、フィン厚を上記炉壁管パネルにおけるフィン厚とそれぞれ同様の寸法に設定するようにすることにより、炉壁管パネルの炉壁管の管軸に直交する方向の曲げ剛性を、上記たわみ解析モデルの形状寸法の値を基に容易に推定することができる。又、推定される曲げ剛性の値を、有限要素解析によって得られる曲げ剛性の値と比較して、20%以内の誤差とすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0015】
図1乃至図5は本発明の異方性材の曲げ剛性推定方法の実施の一形態として、図9に示したと同様のボイラ火炉の炉壁として用いる異方性材としての炉壁管パネル1について、炉壁管2の管軸と垂直な方向に沿う方向の曲げ剛性の推定に適用する場合を示すもので、推定方法の導出は以下のようにしてある。
【0016】
すなわち、先ず、図1に示す如き炉壁管パネル1について、面内で直交する2軸方向のうち、炉壁管2の管軸に垂直な方向をP方向、炉壁管2の管軸に平行な方向をQ方向と定義して、炉壁管パネル1のP方向の長さ寸法をLとし、Q方向の幅寸法をBとする。なお、該炉壁管パネル1の幾何形状及び力学条件は、上記炉壁管2の管軸に平行なQ方向には変化しないものとする。
【0017】
次に、上記炉壁管パネル1を、平板に置き換えることによって、炉壁管パネル1のP方向の曲げ剛性を評価する。
【0018】
具体的には、図2(ロ)に示す如き上記炉壁管パネル1のP方向の長さ寸法L及びQ方向の幅寸法Bと等しい長さ寸法L及び幅寸法Bを有する矩形の平板4を考え、図2(イ)及び(ロ)にそれぞれ示すように上記炉壁管パネル1及び上記平板4が面外荷重Wを受けるときの該炉壁管パネル1のP方向のたわみ及び平板4の長さ方向のたわみをそれぞれY(X)及びY(X)とした場合、炉壁管パネル1のP方向の曲げ剛性を、Y(X)=Y(X)となるときの平板4の長さ方向の曲げ剛性によって評価する。上記Xは炉壁管パネル1に上記面外荷重Wを作用させる際にP方向の両端部にてそれぞれ支点とされる各炉壁管2のうち、P方向一端部(図では左端部)の炉壁管2の中心位置を原点OとするP方向の座標、又、上記平板4では、上記炉壁管パネル1の原点Oと対応する位置を原点Oとする該平板4の長手方向の座標を示す。
【0019】
上記において、上記平板4にはり理論を適用すると、上記炉壁管パネル1の単位幅寸法当たりのP方向の曲げ剛性(E/B)の算出式は、次式のように得られる。
【数1】

ここで、fは平板4における面外荷重W及び支持条件によって決定される関数である。
【0020】
次いで、上記したように炉壁管パネル1の幾何形状及び力学条件がQ方向に変化しない条件の下で、該炉壁管パネル1が面外荷重Wを受けるときの変形解析を、はり理論に基いて簡易的に行う。
【0021】
炉壁管パネル1の解析モデルの一例を図3(イ)(ロ)に示す。該解析モデルでは、炉壁管パネル1の形状が、炉壁管2の直径d及び管肉厚t、管間ピッチl、フィン厚tによって規定されるものとし、実構造に存在する炉壁管2とフィン3との溶接部は省略してある。図3(ロ)は、炉壁管パネル1の解析モデルにてP方向に繰り返し配列される単位構造を示すもので、1本の炉壁管2と、該炉壁管2の両側に取り付けられている各フィン3の中央部までを含んでなる構成として、P方向寸法が上記管間ピッチlと等しくなるように設定してある。又、図3(イ)は上記図3(ロ)に示した単位構造をP方向にN個配列し炉壁管2の本数をN本とした場合の全体モデルである。
【0022】
ところで、炉壁管パネル1においては、各炉壁管2に比べて各フィン3の曲げ剛性が弱く、各フィン3の部分で大きなたわみが生じることが予想される。そこで、本発明では、導出式の簡略化を図ることができるようにするために、炉壁管パネル1のたわみ解析モデルを、図3(イ)(ロ)に示す如き円形の炉壁管2とフィン3からなる構造に代えて、たとえば、図4(イ)(ロ)に示す如き矩形管2aとフィン3からなる構造のたわみ解析モデルを構築して、図5で後述するように、該たわみ解析モデルの断面形状が、P方向に直交する平面によって中実の四角形の区間と、P方向に垂直な厚さ方向の中間部に空間を有する中空の四角形の区間に分割可能な形状となるようにする。
【0023】
上記たわみ解析モデルにおける矩形管2aは、その断面形状が、P方向に垂直な方向の一対の辺部とP方向に平行な方向の一対の辺部からなる方形となるようにしてあり、隣接する各矩形管2aにおけるP方向に垂直な方向の辺部の中央部同士を、フィン3を介して連結してなる構成として上記たわみ解析モデルが作成してある。図4(ロ)は、上記たわみ解析モデルにおけるP方向に繰り返し配列される単位構造を示すもので、1本の矩形管2aと、該矩形管2aの両側に取り付けられた各フィン3の中央部までを含んでなる構成としてある。又、形状寸法は、矩形管2aの各辺部に沿う外形寸法を上記炉壁管2の直径寸法と同様のd、矩形管2aの管肉厚を上記炉壁管2の管肉厚と同様のtとし、管間ピッチをl、フィン厚をtとしてある。図4(イ)は、上記図4(ロ)に示した単位構造をP方向にN個配列し矩形管2aの本数をN本とした場合の上記たわみ解析モデルの全体モデルであり、各矩形管2aに1,2,・・・,Nの番号を与えるようにしてある。上記たわみ解析モデル全体での矩形管2aの本数Nは奇数とし、たわみ解析モデルのP方向の中央となる{(N+1)/2}番目の矩形管2aの中央に集中荷重Wが作用しているものとする。又、1番目及びN番目の矩形管2aの中央が単純支持されているものとする。
【0024】
更に、1番目の矩形管2aの中央を原点Oとして,P方向にX座標をとる。又、慣例に従って、たわみは鉛直下方向を正とするものとする。
【0025】
上記において、各矩形管2aの中央を原点Oとした局所座標x系をとると、全体座標Xと局所座標xの関係は次式のように表される。
【数2】

【0026】
上記において、対称性を考慮して、{−l/2}≦X≦{l(N−1)/2}の領域について考える。
【0027】
境界条件は次式のように表される。
【数3】

【数4】

【0028】
作用する曲げモーメントMは次式のように得られる。
【数5】

【0029】
いま、n番目の矩形管2aに作用する曲げモーメントMを次式のように表す。
【数6】

【0030】
式(2)及び式(5)より、上記曲げモーメントMは全体座標系を用いると次式のように表される。
【数7】

【0031】
上記において、曲げモーメントMの係数a,bは、上記式(4)及び式(6)より、次式のように表される。
【数8】

【数9】

【0032】
更に、図5に示すように、図4(ロ)に示した矩形管2aとその両側のフィン3からなる単位構造を、P方向に直交する平面、すなわち、局所座標x系にて以下の6つの区間に分割して考える。
[区間1] {−l/2}≦x≦−R
[区間2] −R≦x≦−R
[区間3] −Ri≦x≦0
[区間4] 0≦x≦R
[区間5] R≦x≦R
[区間6] R≦x≦{l/2}
ここで、
【数10】

【数11】

【0033】
これにより、上記区間1及び区間6では、フィン厚tに応じた厚み寸法を有する中実な矩形の断面形状を有する部分はりモデルが、又、上記区間2及び区間5では、矩形管2aの外形寸法dに応じた厚み寸法を有する中実な矩形の断面形状を有する部分はりモデルが、又、上記区間3及び区間4では、矩形管2aの外形寸法dに応じた厚み寸法を有し且つ上記矩形管2aの管肉厚tと対応する肉厚の上端部と下端部を除く厚さ方向の中間部に空間を有する中空の矩形の断面形状を有する部分はりモデルが、それぞれ形成されるようにする。
【0034】
上記のように各矩形管2aを、P方向に直交する平面により、それぞれ上記した如き所要の四角形としての矩形の断面形状を有する部分はりモデルが形成された区間に分割することにより、n番目の矩形管2aのj番目の区間におけるたわみ曲線の方程式は次式のように表される。
【数12】

ここで、Iはj番目の区間における断面二次モーメントである。単位幅当たりの断面二次モーメントI=I/Bを考えると、Iは次式のように表される(なお、本明細書では、便宜上、式中のバー(−)を上に付した文字を文中に記載する場合、バー()を文字の後に記すこととする。以下同様。)。
【数13】

【0035】
式(7)及び式(9)より、n番目の矩形管のj番目の区間におけるたわみは次式のように表される。
n=1 且つ j=1,2,3のとき、
【数14】

n=1 且つ j=4,5,6、
n=2,3,・・・(N−1)/2 且つ j=1,2,・・・,6、
n=(N+1)/2 且つ j=1,2,3のとき、
【数15】

ここで、cn,j及びdn,jは未定係数である。
【0036】
更に、隣接区間におけるたわみ角及びたわみの連続条件より、次式の関係が得られる。
【数16】

【数17】

【数18】

【数19】

【数20】

【数21】

【数22】

【数23】

【数24】

【数25】

【数26】

【数27】

【数28】

【数29】

【0037】
式(7)を用いると、式(12b)は次式のように整理される。
【数30】

ここで、
【数31】

【数32】

【0038】
式(14)を展開すると次式が得られる。
【数33】

【0039】
式(16)に式(15a)を代入し、級数和を求めると次式が得られる。
【数34】

【0040】
ここで、n=(N+1)/2−iと置くと、式(17)は次式のように変換される。
【数35】

【0041】
式(7)を用いると、式(13f)は次式のように整理される。
【数36】

ここで、
【数37】

【数38】

【数39】

【0042】
式(12d)及び式(12e)より、式(20c)は次式のように変換される。
【数40】

ここで、
【数41】

【0043】
式(19)及び式(21)より、係数d(n+1),3は次式のように表される。
【数42】

ここで、
【数43】

【0044】
式(24)を式(23)に代入すると、次式が得られる。
【数44】

【0045】
境界条件式(3)に式(11)を代入すると、次式が得られる。
【数45】

【数46】

【0046】
上記未定係数であるcn,j及びdn,jは以下の手順1〜4によって決定される。
手順1:式(18)に式(26)を代入し、cn,4(n=1,2,・・・,(N−1)/2)を決定する。
手順2:式(12)及び上記手順1で求めた係数cn,4=cn,3を用いて、cn,jの残りの係数を決定する。
手順3:式(25)に式(27)及び上記手順1で求めた係数cn,4=cn,3を代入し、d(n+1),3(n=1,2,・・・,(N−1)/2)を決定する。
手順4:式(13)及び上記手順2で求めた係数cn,j及び上記手順3で求めた係数d(n+1),3=d(n+1),4を用いて、dn,jの残りの係数を決定する。
【0047】
式(11)より、各矩形管2aの中央、すなわち、X=(n−1)・lにおけるたわみY(n=1,2,・・・,(N+1)/2)は、次式のように表される。
【数47】

【0048】
更に、Yを次式のように定義する。
【数48】

【0049】
式(18)、式(25)及び式(28)より、上記Yは、負荷された面外荷重W及び板幅Bに依存しない量である。
【0050】
式(29)を式(1)に代入すると、次式が得られる。
【数49】

ここで、関数fは一般に次式のように表される。
【数50】

【0051】
式(30)及び式(31)より、上記単位幅当たりのP方向曲げ剛性(E/B)は次式のように求められる。
【数51】

【0052】
ここで、以上述べた手順で図4(イ)(ロ)に示した撓み解析モデルを用いて上記式(32)として導出された炉壁管パネル1のP方向曲げ剛性を推定する手法(以下、単に「前述の推定手法」と云う)の精度の検討について示す。
【0053】
以下の表1に示した各パラメータにより形状が規定される4通り(パネルa〜パネルd)の炉壁管パネル1について、前述の推定手法及び有限要素解析をそれぞれ行い、得られた単位幅当たりのP方向曲げ剛性を比較し、前述の推定手法の精度について検討した。
【0054】
なお、炉壁管パネル1は2・1/4Cr−Mo鋼からなるものとし、2・1/4Cr−Mo鋼の室温における縦弾性係数E及びポアソン比νとして以下の値を用いた。
E=210846MPa
ν=0.262
【0055】
有限要素解析は、溶接部を考慮した詳細なモデルを用いて行った。
【表1】

【0056】
単位幅当たりのP方向曲げ剛性は、任意のX座標におけるY(X)=Y(X)の条件より決定される。そこで、前述の推定手法については、たわみの等価性を考慮するX座標が単位幅当たりのP方向曲げ剛性に及ぼす影響について検討した。表2に、パネルaの場合について、たわみの等価性を考慮したX座標と算出された単位幅当たりのP方向曲げ剛性の関係を示す。なお、同表中の第1列nは式(32)中のnに対応している。
【表2】

【0057】
表2より、たわみの等価性を考慮したX座標に依らず、前述の推定手法によって得られた単位幅当たりのP方向曲げ剛性は、ほぼ一定の値となることが分かる。また、記載してないが、パネルb、パネルc、パネルdについても同様の結果が得られた。
【0058】
表3に、前述の推定手法及び有限要素解析によって得られた単位幅当たりのP方向曲げ剛性を示す。
【表3】

【0059】
表3より、前述の推定手法は、有限要素解析に比べて曲げ剛性を弱く見積もり、その差はおよそ2〜19%となることが分かる。これは溶接部を考慮していない前述の推定手法ではフィン3部分の曲げ剛性を有限要素解析に比べて弱く見積もっているためであると考えられる。よって、図4(イ)(ロ)に示した矩形管2aとフィン3からなるたわみ解析モデルよりも、より詳細に炉壁管パネル1の形状を模したたわみ解析モデルを用いて、前述したと同様のはり理論に基く推定手法を構築することによって、有限要素解析と同等の曲げ剛性が得られる可能性が考えられる。
【0060】
更に、管本数(P方向長さ)が単位幅当たりのP方向曲げ剛性に及ぼす影響について検討した。
【0061】
表4にパネルaの管本数を増加させた場合について、前述の推定手法及び有限要素解析によって得られた単位幅当たりのP方向曲げ剛性を示す。
【表4】

【0062】
表4より、前述の推定手法及び有限要素解析のいずれの結果からも、単位幅当たりのP方向曲げ剛性は、管本数に依らずほぼ一定の値となることが判明した。
【0063】
そこで、本発明の異方性材の曲げ剛性推定方法としての炉壁管パネルの曲げ剛性推定方法では、上記表2の検討結果から、単位幅当たりのP方向曲げ剛性はたわみの等価性を考慮するX座標に依らず一意に決定されることが判明したことに鑑みて、極限操作による推定法の更なる簡略化を図ることとした。
【0064】
具体的には、式(32)においてn=2とした。これにより、単位幅当たりのP方向曲げ剛性の導出式は次式のようになる。
【数52】

ここで、式(12g)、式(18)及び式(25)〜(29)より、次式が得られる。
【数53】

【0065】
表4による検討結果より、単位幅当たりのP方向曲げ剛性は管本数に依らずほぼ一定の値となるから、単位幅当たりのP方向曲げ剛性(E/B)を次式のように求める。
【数54】

【0066】
式(35)を式(34)に代入して、単位幅当たりのP方向曲げ剛性(E/B)を、次式のように求めた。
【数55】

【0067】
表5は、表1に示した各パラメータにより形状が規定される4通り(パネルa〜パネルd)の炉壁管パネル1について、上記式(36)に基いて得られた単位幅当たりのP方向曲げ剛性の推定結果である。
【表5】

【0068】
このように、本発明の異方性材の曲げ剛性推定方法の一例としての炉壁管パネルの曲げ剛性推定方法によれば、炉壁管パネル1の単位幅当たりのP方向曲げ剛性を上記式(36)を用いて算出することができる。
【0069】
上記式(36)の右辺におけるHは、その導出式(15b)から明らかなように、縦弾性係数E、単位幅当たりの断面二次モーメントI、R、R及び管間ピッチlから求めることができ、更に、上記断面二次モーメントIは、式(10)から明らかなように、図4(イ)(ロ)のたわみ解析モデルにおけるフィン厚tと、R及びRより、又、上記R及びRは、それぞれ式(8a)と式(8b)から明らかなように、図4(イ)(ロ)のたわみ解析モデルの矩形管2aの(外形の寸法)dと、管肉厚tから求めることができる。
【0070】
したがって、上記式(36)に基づく炉壁管パネル1の単位幅当たりのP方向曲げ剛性の算出を、図3(イ)(ロ)に示した炉壁管パネル1の解析モデルにおける形状寸法である炉壁管2の直径dと管肉厚t、管間ピッチl、フィン厚t、及び、縦弾性係数Eを代入する計算で実施できるようになるため、手計算で簡便に上記炉壁管パネル1の単位幅当たりのP方向曲げ剛性を算出することが可能となる。又、上記算出されるP方向曲げ剛性の値を、有限要素解析により算出されるP方向曲げ剛性の値と比較して、20%以内の誤差とすることができる。
【0071】
又、形状寸法の変更がある場合であっても、該変更された形状寸法の値を代入して上記式36を解くことで対応できるため、従来、形状寸法の変更があるごとに必要とされていた有限要素モデルの作成や、有限要素解析を不要にでき、よって、手間及び時間の大幅な削減化を図ることが可能になる。
【0072】
上記実施の形態においては、断面形状が、P方向に直交する平面によって中実の四角形の区間と、P方向に垂直な厚さ方向の中間部に空間を有する中空の四角形の区間に分割可能な形状となるようにするためのたわみ解析モデルとして、図4(イ)(ロ)のように断面形状の各辺部に沿う外形寸法を炉壁管パネル1の炉壁管2の直径dと同様の寸法とし且つ管肉厚を上記炉壁管2の管肉厚tと同様の寸法とした矩形管2aと、フィン3とからなる構成のたわみ解析モデルを示したが、たとえば、図6(イ)(ロ)に示す如く、対角線に沿う方向の外形寸法を上記炉壁管パネル1の炉壁管2の直径dと同様の寸法とし且つ管肉厚を上記炉壁管2の管肉厚tと同様の寸法とした断面形状ひし形(方形)のひし形管2bと、P方向に隣接するひし形管2bの頂角部同士を連結するフィン3とからなる構成のたわみ解析モデルとしてもよい。この場合、管間ピッチはl、フィン厚はtとすればよい。更に、図6(ロ)に示した如きP方向に繰り返し配列される単位構造である上記ひし形管2bとその両側に取り付けられた各フィン3の中央部までを含んだ構成を、図5に示した上記矩形管2aと同様にして、P方向に直交する平面で分割して、中実又は中空の四角形の断面形状を有するはりのモデルを形成させる場合は、図7に示すような6区間に分割して、各区間に中実又は中空の四角形の断面形状を有するはりのモデルを形成させるようにすればよい。
【0073】
更には、炉壁管パネル1にてP方向に繰り返し配列される単位構造の断面形状を、図8に二点鎖線で示す如く、実構造に存在する炉壁管2とフィン3との溶接部を含んだ断面形状とし、該断面形状をP方向に直交する平面で多数区間に分割すると共に、該各区間における分割部分の断面を、それぞれ矩形断面で近似させることで、図8に示す如き上記各区間に中実又は中空の矩形の断面形状を有する部分的なはりのモデルを形成されてなるたわみ解析モデルを用いるようにしてもよい。この場合、図8(イ)(ロ)のたわみ解析モデルを用いて、図1乃至図5の実施の形態と同様にして、単位幅当たりのP方向曲げ剛性(E/B)を算出するための式を導くことで、該式を用いて算出される単位幅当たりのP方向曲げ剛性の値を、有限要素解析で求められる値と差を少なくする効果が期待できる。
【0074】
なお、本発明は上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、面内で直交する2軸方向のうちの一方向に沿って単位構造が繰り返し配列された構成を有する異方性材であれば、該異方性材の上記単位構造繰り返し配列方向に関する曲げ剛性の推定にも適用できること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の異方性材の曲げ剛性推定方法の実施の一形態として、炉壁管パネルの曲げ剛性の推定に適用する場合の曲げ剛性推定対象となる炉壁管パネルを示す概略斜視図である。
【図2】(イ)は図1の炉壁管パネルが面外荷重を受けた状態を、(ロ)は図1の炉壁管パネルと等しい長さ寸法及び幅寸法を有する平板が面外荷重を受けた状態をそれぞれ示す概要図である。
【図3】図1の炉壁管パネルの解析モデルの一例を示すもので、(イ)は全体モデルを、(ロ)は単位構造をそれぞれ示す端面図である。
【図4】図1の炉壁管パネルのたわみ解析モデルとして、矩形管とフィンからなる構造のたわみ解析モデルを示すもので、(イ)は全体モデルを、(ロ)は単位構造をそれぞれ示す端面図である。
【図5】図4のたわみ解析モデルの単位構造を複数区間に分割した状態を示す概要図である。
【図6】図1の炉壁管パネルのたわみ解析モデルの別の例として、ひし形管とフィンからなる構造のたわみ解析モデルを示すもので、(イ)は全体モデルを、(ロ)は単位構造をそれぞれ示す端面図である。
【図7】図6のたわみ解析モデルの単位構造を複数区間に分割した状態を示す概要図である。
【図8】図1の炉壁管パネルのたわみ解析モデルの更に別の例として、多数区間に分割されたたわみ解析モデルを示す端面図である。
【図9】ボイラ火炉の炉壁として用いられている冷却パネルを示す概要図である。
【符号の説明】
【0076】
1 炉壁管パネル(異方性材)
2 炉壁管
2a 矩形管
3 フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面内で直交する2軸方向のうちの一方向に沿って所要の単位構造が繰り返し配列された構成を有する異方性材について、上記各単位構造を単位構造繰り返し配列方向に直交する平面により複数分割して形成される各区間ごとに、断面形状が中実の四角形、又は、断面形状が厚み方向中間部に空間を有する中空の四角形となる部分はりモデルが形成されるようにしたたわみ解析モデルを作成し、該たわみ解析モデルにおける上記各区間の部分はりモデルの形状寸法を基に、該各区間の部分はりモデルごとに、はり理論により上記単位構造繰り返し配列方向に沿う方向のたわみ量を表す式を未知の係数を含んだ状態で算出すると共に、該未知の係数を、隣接区間におけるたわみ量及びたわみ角の連続条件を基に決定し、上記たわみ量を求める式を上記異方性材の単位構造繰り返し配列方向の曲げ剛性の算出式に代入することで導出された式に、上記各部分はりモデルの形状寸法を代入して上記異方性材の単位構造繰り返し配列方向の曲げ剛性を推定するようにすることを特徴とする異方性材の曲げ剛性推定方法。
【請求項2】
異方性材を、炉壁管とフィンとからなる単位構造が面内で炉壁管の管軸に直交する方向に繰り返し配列された構成を有する炉壁管パネルとし、該炉壁管パネルのたわみ解析モデルを、少なくともフィンに対応する区間と、炉壁管の管軸に直交する方向に沿って該炉壁管の孔の両側に位置する管壁の部分に対応する区間と、炉壁管パネルの厚み方向に沿って炉壁管の孔の両側に位置する管壁の部分に対応する区間とを具備してなる構成とする請求項1記載の異方性材の曲げ剛性推定方法。
【請求項3】
炉壁管パネルのたわみ解析モデルを、断面形状が炉壁管パネルの面内に平行な一対の辺部と垂直な一対の辺部を有する矩形管及びフィンからなる単位構造が面内で炉壁管の管軸に直交する方向に繰り返し配列された構成とし、且つ上記矩形管の各辺に沿う外形寸法を炉壁管の直径と、又、上記矩形管の管肉厚を上記炉壁管の管肉厚と、又、上記矩形管の管間ピッチを上記炉壁管パネルにおける炉壁管の管間ピッチと、又、フィン厚を上記炉壁管パネルにおけるフィン厚とそれぞれ同様の寸法に設定するようにする請求項2記載の異方性材の曲げ剛性推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−170399(P2010−170399A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13190(P2009−13190)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】