説明

異種タンパク質を発現する真核生物細胞の選択方法

本発明は、対象生成物を発現する少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するための方法であって、(a)複数の真核宿主細胞を提供するステップであって、前記宿主細胞の細胞生存度は葉酸塩の取込みに依存し、前記宿主細胞が少なくとも(i)対象生成物をコードする外来ポリヌクレオチド、および(ii)DHFR酵素をコードする外来ポリヌクレオチドを含むステップと、(b)前記複数の真核宿主細胞を、少なくともDHFRの阻害剤および制限濃度の葉酸塩を含む選択培地で培養するステップと、(c)前記対象生成物を発現する少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するステップと、を含む方法に関する。前記方法によって選択される宿主細胞および細胞培養培地に基づく、対象生成物を発現させるための方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象生成物を発現する真核宿主細胞、特に哺乳動物宿主細胞を選択する新規方法に関する。さらに、本発明は、対象生成物を高収率で効率的に生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多量の対象生成物、例えば組換えペプチドおよびタンパク質をクローニングして発現させる能力は、ますます重要になっている。高レベルのタンパク質を精製する能力は、ヒトの医薬および生物工学分野で、例えばタンパク質医薬を生成するために、ならびに例えばタンパク質の三次元構造の決定を可能にするためにタンパク質を結晶化させるための基礎研究において重要である。さもなければ多量に得るのが困難であるタンパク質は、宿主細胞で過剰発現させ、その後に単離および精製することができる。
【0003】
組換えタンパク質の生成のための発現系の選択は、細胞増殖特性、対象タンパク質の発現レベル、細胞内および細胞外での発現、翻訳後改変ならびに生物活性だけでなく、治療タンパク質の生産における規制問題および経済事項を含む、多くの因子によって決まる。細菌または酵母などの他の発現系に勝る哺乳動物細胞の重要な利点は、適切なタンパク質折畳み、複合N結合グリコシル化および真正O結合グリコシル化、ならびに他の広範な翻訳後改変を実行する能力である。記載した利点のために、真核細胞、特に哺乳動物細胞は、現在、モノクローナル抗体などの複合治療タンパク質を生成するための最適な発現系である。
【0004】
高発現宿主細胞(高生産者とも呼ばれる)を得る最も一般的な手法は、第一段階として対象生成物を発現するのに適当な発現ベクターを生成する。発現ベクターは、対象生成物をコードするポリヌクレオチドの宿主細胞での発現を誘起し、組換え細胞系を生成するための少なくとも1つの選択マーカーを提供する。哺乳動物発現ベクターの重要なエレメントには、頑健な転写活性が可能である構成的または誘導可能なプロモーター;安定細胞系の調製および遺伝子増幅のための、Kozak配列、翻訳終結コドン、mRNA切断およびポリアデニル化シグナル、転写終結区ならびに選択マーカーを通常含む、最適化されたmRNAプロセシングおよび翻訳シグナルが通常含まれ、さらに、細菌でのベクター増殖のための原核生物の複製起点および選択マーカーが発現ベクターによって提供されてもよい。
【0005】
近年では、開発は、宿主細胞での遺伝子発現のための改良されたベクターの設計を重視していた。しかし、利用可能なベクターがあり余る程あるにもかかわらず、哺乳動物細胞で高収率を有する頑健なポリペプチド/タンパク質の生成は、まだ難題である。
【0006】
高収率で対象生成物を発現する高生産性細胞系を得るための1つの確立された方法は、宿主細胞の安定したトランスフェクションである。しかし、ゲノムへの安定した組込みは稀な事象であり、安定してトランスフェクトされた細胞の小さいサブセットだけが高生産者である。したがって、それらの選択が難題である。
【0007】
選択マーカーおよび選択系は、対象生成物を高収率で発現する宿主細胞を得るために、遺伝子操作、組換えDNA技術および組換え生成物の生成において広く使われている。それぞれの系は、安定してトランスフェクトされたクローンを生成および同定するためにも有用である。それぞれの選択マーカーおよび選択系を用いる主要な目標は、選択的増殖条件へ曝露させると、導入された選択マーカー、したがって対象組換え生成物の高レベルの生成が可能な細胞の同定を可能にする、選択可能な遺伝子を導入することである。生成物発現の収率を増加させることは、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはグルタミン合成酵素(GS)などの酵素が例えば欠損している細胞系を、これらの選択マーカー酵素をコードする遺伝子を含む発現ベクター、ならびにDHFRを阻害するメトトレキセート(MTX)、およびGSを阻害するメチオニンスルホキサミン(MSX)などの剤と一緒に用いて、遺伝子増幅によって達成することができる。
【0008】
先行技術で通常用いられる1つの卓越した選択系は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ/MTX選択系である。ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)は、テトラヒドロ葉酸(THF)へのジヒドロ葉酸のNADP依存的還元を触媒する。THFは、10−ホルミル−DHFおよび5,10−メチレン−DHFに次に内変換され、それぞれプリンおよびチミジレートの新規生合成で用いられる。DHFは、5,10−メチレン−THF依存的反応におけるdTMPへのdUMPの変換を触媒するチミジレート合成酵素(TS)の触媒活性の副産物である。したがって、DHFRは、DNA複製のために必要であるプリンおよびピリミジンヌクレオチドの生合成のために必須である、THFコファクターの再利用のために重要である。したがって、DHFR遺伝子欠損(すなわち標的ゲノム欠失によって)細胞(例えばCHO細胞)を、ヌクレオチドが含まれない培地でのDHFR遺伝子のトランスフェクションのためのレシピエントとして用いることができる。トランスフェクションの後、最も強力なDHFR阻害剤(Kd=1pM)である抗葉酸剤MTXの漸増濃度に細胞を曝露させ、それによって、細胞により高いレベルのDHFRを生成させることができる。複数回の選択の後、選択マーカーDHFRは、しばしばかなりの増幅を経る。また、それぞれの選択マーカーのより感受性である変異形を、野生型の宿主細胞と併用してもよい。あるいは、MTXへの大きな抵抗性、すなわちより低い感受性を有する突然変異体マウスDHFR、またはDHFRの他の変異形は、トランスフェクトされた細胞での高レベルのMTX抵抗性の獲得を著しく増強した優性の選択マーカーとしても、広範に用いられている。しかし、先行技術で用いられるDHFR/MTX選択系の主要な欠点は、この技術が、変異原性細胞傷害剤MTXを利用するということである。MTXは、レシピエント細胞の遺伝子型を、特により高い濃度において、変化させることができる。この結果、例えば還元型葉酸担体(RFC)における機能欠失型突然変異/またはRFC遺伝子発現の喪失(これらは共に、MTX取込みを消滅させる)による、対象標的遺伝子の発現が存在しないMTX抵抗性細胞集団がしばしば生じる。しかし、対象生成物を十分な収率で生成する宿主細胞を単離するために、十分にストリンジェントな選択条件を達成するために、増加する/高い濃度のMTXが必要である。
【0009】
明らかになるように、トランスフェクトされた集団から高生産性細胞を濃縮するために、高ストリンジェンシー選択系が重要である。選択系のストリンジェンシーが高いほど、選択工程後の低生産者の数は少なく、トランスフェクトされた細胞集団で非常に稀な超高生産性クローンを見出す可能性が高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、対象生成物を高収率で生成する宿主細胞を選択するためのストリンジェントな選択系、ならびに対象生成物を十分な収率で生成するための方法を提供することである。詳細には、本発明の目的は、必要とする有毒な剤、特にMTXの量がより少ないストリンジェントな選択系を提供することである。さらに、本発明の目的は、対象生成物を高収率で生成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、対象生成物を高収率で発現する宿主細胞を選択するための選択系、およびそれぞれの生成物、特に抗体などのポリペプチドの生成に関する。
【0012】
一態様によると、本発明は、対象生成物を発現する少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するための方法であって、少なくとも以下の
(a)複数の真核宿主細胞を提供するステップであって、前記宿主細胞の細胞生存度は葉酸塩の取込みに依存し、前記真核宿主細胞が少なくとも
(i)対象生成物をコードする導入ポリヌクレオチド、および
(ii)DHFR酵素をコードする導入ポリヌクレオチドを含むステップと、
(b)前記複数の真核宿主細胞を、少なくともDHFRの阻害剤および制限濃度の葉酸塩を含む選択培地で培養するステップと、
(c)対象生成物を発現する少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するステップと、を含む方法に関する。
【0013】
本発明は、対象生成物の発現を可能にする条件下で本発明によって選択される宿主細胞を培養することを含む、対象生成物を生成する方法にも関する。
【0014】
本発明による選択方法で用いることができる、少なくともDHFRの阻害剤および葉酸塩を制限濃度で含む選択培地も提供される。「選択培地」とは、宿主細胞の選択に有用である細胞培養培地である。
【0015】
本出願の他の目的、特徴、利点および態様は、以下の説明および添付の請求項から当分野の技術者に明らかになる。しかし、以下の説明、添付の請求項および具体的実施例は、本出願の好ましい実施形態を示しているものの、例示だけのためであることを理解されたい。開示される発明の精神および範囲内の様々な変更および改変は、以下のものを読むことによって当分野の技術者に容易に明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、抗葉酸剤MTXなどの有毒な剤をより低い濃度でのみ必要とするが、高生産性宿主細胞を同定するのに十分なストリンジェントな選択条件をなお提供する、選択マーカーとしてDHFRを用いる選択系に関する。
【0017】
本発明の一態様によると、対象生成物を発現する少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するための方法であって、少なくとも以下の
(a)複数の真核宿主細胞を提供するステップであって、前記宿主細胞の細胞生存度は葉酸塩の取込みに依存し、前記真核宿主細胞が少なくとも
(i)対象生成物をコードする導入ポリヌクレオチド、および
(ii)DHFR酵素をコードする導入ポリヌクレオチドを含むステップと、
(b)前記複数の真核宿主細胞を、少なくともDHFRの阻害剤および葉酸塩を制限濃度で含む選択培地で培養するステップと、
(c)対象生成物を発現する少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するステップと、を含む方法が提供される。
【0018】
「ポリヌクレオチド」とは、通常1つのデオキシリボースまたはリボースから別の1つに連結するヌクレオチドのポリマーであり、文脈次第でDNAならびにRNAを指す。用語「ポリヌクレオチド」は、いかなるサイズ制限も含まず、特定の改変ヌクレオチドでは、改変を含むポリヌクレオチドも包含する。
【0019】
「対象生成物」は、前記宿主細胞から発現される生成物を指す。対象生成物は、例えばポリペプチドまたはポリヌクレオチド、例えばRNAであってよい。好ましくは、対象生成物は、ポリペプチド、特に免疫グロブリン分子である。対象生成物のさらなる例を、以下に詳述する。
【0020】
「導入ポリヌクレオチド」とは、例えばトランスフェクションなどの組換え技術を用いて、宿主細胞に導入されたポリヌクレオチド配列を指す。宿主細胞は、導入ポリヌクレオチドに同一であるそれぞれ対応する内因性ポリヌクレオチドを含んでもよく、含まなくてもよい。導入は、例えば、宿主細胞のゲノムに組み込むことができる、適するベクターをトランスフェクトすること(安定トランスフェクション)によって達成することができる。宿主細胞へのポリヌクレオチドの導入を可能にする、適する発現ベクターを以下に詳述する。異種核酸がゲノムに挿入されない場合は、異種核酸は、後期段階で、例えば細胞が有糸分裂を経るときに失われる可能性がある(一時的トランスフェクション)。適するベクターは、例えばエピソーム複製によって、ゲノムに組み込まれることなく宿主細胞で維持されることもあるかもしれない。しかし、ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための他の技術も先行技術で公知であり、それらは下でさらに詳細に記載される。
【0021】
「DHFRの阻害剤」とは、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)の活性を阻害する化合物である。それぞれの阻害剤は、例えば、DHFRとの結合をめぐってDHFR基質と競合することができる。適するDHFR阻害剤は、例えばメトトレキセート(MTX)などの抗葉酸剤である。さらなる例には、それらに限定されないが、グルクロン酸トリメトレキセート(ニュートレキシン)、トリメトプリム、ピリメタミンおよびペメトレキセドが含まれる。
【0022】
本明細書で用いる用語「選択すること」または「選択」は、本発明によるベクターまたはベクター組合せを組み込んだ宿主細胞を選択し、それに応じて得るために、選択マーカーおよび選択的培養条件を用いる過程を特に指す。それによって、トランスフェクトされた宿主細胞の集団から、首尾よくトランスフェクトされた宿主細胞を単離および/または濃縮することができる。
【0023】
本発明によるベクターまたはベクター組合せを首尾よく組み込んだ宿主細胞と比較して、本発明によるベクターまたはベクター組合せを首尾よく組み込まなかった宿主細胞は、選択的培養条件下で好ましくは死に至るかまたは増殖が損なわれる。選択の間、本発明によるベクターまたはベクター組合せを首尾よく組み込んだ宿主細胞は、トランスフェクトされた宿主細胞の集団からプールとして濃縮することができる。また、選択の間(例えばクローン選択によって)、トランスフェクトされた宿主細胞の集団から個々の宿主細胞を単離することができる。首尾よくトランスフェクトされた宿主細胞を(例えばFACS選別または限界希釈によって)得るための選択方法の適する実施形態は、先行技術で周知であり、したがって詳細な説明を必要としない。
【0024】
「葉酸塩の制限濃度」とは、宿主細胞に選択圧を提供する、選択培地中の葉酸塩の濃度を指す。したがって、葉酸塩は選択培地に豊富には含まれず、それによって宿主細胞に選択圧を提供する。制限濃度で選択培地に含まれる葉酸塩は、宿主細胞によって取り込まれ、処理されることが可能である。宿主細胞によって処理されないであろう葉酸塩、特に葉酸塩誘導体は、選択圧に寄与しないであろうし、したがって制限濃度に寄与しないであろう。適する濃度域を、下に記載する。
【0025】
「ポリペプチド」とは、(1つまたは複数の)ペプチド結合によって連結されるアミノ酸のポリマーを含む分子を指す。ポリペプチドには、タンパク質(例えば、50個を超えるアミノ酸を有する)およびペプチド(例えば、2〜49個のアミノ酸を有する)を含む、任意の長さのポリペプチドが含まれる。ポリペプチドには、任意の活性または生物活性のタンパク質および/またはペプチドが含まれる。適する例を、下に概説する。
【0026】
対象生成物を生成することができる組換え真核生物細胞を提供するための選択系は、選択マーカーとしてのDHFRの使用と組み合わせた選択培地中の葉酸塩の限定的利用度に基づくことができることが、予想外にも見出された。この系は広く適用でき、すなわち、細胞生存度が葉酸塩の取込みに依存する真核宿主細胞に適用可能である。上記のように、遺伝子増幅のために十分な選択圧を達成するために、したがって対象生成物の生成の増加を達成するために、先行技術はかなり高い抗葉酸剤/MTX濃度を用いなければならない。MTXなどの抗葉酸剤は有毒であり、宿主細胞を遺伝的に変化させることがあるので、これは欠点である。選択培地でのDHFR選択マーカーと制限濃度の葉酸塩との併用に基づく本発明の手法は、低いDHFR阻害剤濃度でも選択ストリンジェンシーがかなり増加する利点を有する。したがって、本発明の選択系を用いる場合、低い濃度のDHFR阻害剤(例えばMTX)を選択培地で用いる場合でも、高生産者が得られる。したがって、高生産性の細胞クローンの同定を可能にするストリンジェントな選択条件を提供するための先行技術手法と比較して、本発明の教示を用いる場合、より少ないDHFR阻害剤、したがってより低い濃度の有毒な剤しか必要としない。その特異な設計のために、トランスフェクトされた宿主細胞集団からの高生産性細胞の濃縮を可能にする、非常にストリンジェントな選択系が提供される。本発明による選択系のこの高いストリンジェンシーは、集団での選択の後の集団内の低生産者数を低下させ、非常に稀な超高生産性クローンを見出す可能性を高くする。
【0027】
選択培地は、1つまたは複数種の葉酸塩を含むことができる。本発明による葉酸塩は、例えば酸化型葉酸塩(すなわち葉酸)または還元型葉酸塩またはその誘導体であってよい。一般に、そのような葉酸塩が好ましくは機能的膜結合葉酸受容体によって真核生物の細胞に取り込まれることが可能である限り、葉酸塩は本発明の範囲内で有用であることができる。酸化型葉酸塩、すなわち葉酸、ならびに還元型葉酸塩またはテトラヒドロ葉酸(THF)として知られる葉酸の還元型誘導体は、真核生物、特に哺乳動物の細胞におけるプリン、チミジレートおよび特定のアミノ酸の生合成のための必要不可欠なコファクターおよび/またはコエンザイムであるビタミンB9群である。THFコファクターは、DNA複製、したがって細胞増殖のために特に重要である。具体的には、THFコファクターは、プリンおよびチミジレート、アミノ酸の新規の生合成、ならびにDNAのCpG島メチル化を含むメチル基代謝を含む、一連の相互接続代謝経路の1炭素単位の供与体として機能する。具体的には、10−ホルミル−THF(10−CHO−THF)を含むTHFコファクターは、プリンの新規生合成に関与する2つの重要な新規ホルミルトランスフェラーゼ反応で、1炭素単位を供与する。酸化型葉酸塩の好ましい例は、葉酸である。還元型葉酸塩の好ましい例は、5−メチル−テトラヒドロ葉酸、5−ホルミル−テトラヒドロ葉酸、10−ホルミル−テトラヒドロ葉酸および5,10−メチレン−テトラヒドロ葉酸である。
【0028】
選択培地中の葉酸塩の濃度は、用いる真核生物宿主細胞に特に依存する。500nM以下、250nM以下、150nM以下、100nM以下、75nM以下、50nM以下、25nM以下、15nM以下、さらに10nM以下、例えば7.5nM以下の葉酸塩濃度が適する。適する範囲には、0.1nM〜500nM、0.1nM〜250nM、5または10nM〜250nM、好ましくは1nM〜150nM、5または10nM〜150nM、1nM〜100nM、5または10nM〜100nM、より好ましくは1nM〜50nM、2.5nM〜50nM、10nM〜50nMまたは12.5nM〜50nMが含まれる。これらの濃度は、葉酸を葉酸塩として用いるときに特に適する。
【0029】
それぞれの濃度は、本発明の意味において制限的であり、したがって宿主細胞に選択圧を提供するのに適する。細胞が生存可能である限り、濃度が低いほど、発揮される選択圧はより強い。記載の濃度域は、宿主細胞としてCHO細胞を用いるのに特に適する。
【0030】
選択培地で用いられるDHFR阻害剤の濃度も、用いる真核生物宿主細胞に依存する。選択培地中のDHFR阻害剤の濃度が低下されると想定される場合には、500nM以下、400nM以下、300nM以下、250nM以下、200nM以下、150nM以下のDHFR阻害剤濃度が有利である。しかし、好ましくは、選択培地は少なくとも10nMのDHFR阻害剤を含む。好ましくはMTXである抗葉酸剤の好ましい濃度は、1nM〜500nM、好ましくは10nM〜200nM、10nM〜150nM、より好ましくは10nM〜100nMである。選択培地中のそれぞれの濃度は、CHO細胞のために特に適する。
【0031】
上記の葉酸塩および抗葉酸剤の好ましい濃度および濃度域は、互いに組み合わせることができる。一実施形態によると、DHFR阻害剤、好ましくはMTXの200nM以下、好ましくは150nM以下、好ましくは100nM以下の濃度、および100nM未満の葉酸塩、好ましくは75nM未満の葉酸塩、好ましくは葉酸の濃度を含む選択培地が用いられる。一実施形態では、12.5nM〜50nMの葉酸塩濃度が、10nM〜100nMの抗葉酸剤濃度と組み合わせて用いられる。好ましくは、葉酸塩および抗葉酸剤として葉酸およびMTXが用いられる。
【0032】
葉酸およびMTXの可能な濃度は、お互いに依存してもよい。好ましい組合せは、2.5nM〜75nM、2.5nM〜50nMまたは12.5nM〜50nMの葉酸濃度と、10nM〜500nM、好ましくは10nM〜100nMのMTX濃度との組合せである。これらの濃度は、DHFR+(プラス)細胞を用いるときに特に好ましい。
【0033】
上記の濃度は、成長の早い懸濁細胞に特に適し、それは商業生産細胞系の好ましい表現型である。しかし、異なる細胞系が異なる葉酸消費特性を有することがある。さらに、制限的/選択的な濃度は、用いる葉酸塩、抗葉酸剤それぞれによって異なってよい。したがって、葉酸塩、特に葉酸および抗葉酸剤、特にMTXの制限濃度、ならびに適する葉酸対MTXの比は、異なる細胞系で異なってよい。しかし、適する濃度は、当業技術者が実験的に容易に決定することができる。
【0034】
一実施形態によると、トランスフェクションおよび/または選択の前に、宿主細胞は無葉酸塩培地、または制限濃度の葉酸塩を含む培地で前培養される。葉酸塩の適する制限濃度は、上に記載されている。好ましくは、宿主細胞を前培養するための前記培地は、葉酸塩、特に葉酸を50nM以下の濃度で含む。
【0035】
組み込まれた選択マーカーDHFRの発現は、選択的培養条件下で宿主細胞に選択有利性を提供する。例えば、DHFR遺伝子欠損宿主細胞(例えば標的ゲノム欠失によって、DHFR宿主細胞とも呼ばれる)(例えばCHO細胞)を、ヌクレオチドが含まれない培地での選択マーカー遺伝子としてのDHFR遺伝子のトランスフェクションのためのレシピエントとして用いることができる。しかし、適当な選択的培養条件を用いる場合には、DHFR選択を実施するときに、DHFRを内因的に発現する宿主細胞(DHFR(プラス)宿主細胞)を用いることも可能である。本発明によるポリヌクレオチドによるトランスフェクションの後、細胞をDHFR阻害剤の漸増濃度に曝露させることができる。DHFR阻害剤の1つの例は、強力なDHFR阻害剤(Kd=1pM)であるMTXなどの抗葉酸剤である。培地中のMTXなどの抗葉酸剤の存在は、生存するためにDHFRの増加するレベルを細胞に生成させる。複数回の選択の後に、選択マーカーDHFRは、それを達成するためにかなりの遺伝子増幅をしばしば経る。
【0036】
本発明と併用することができるいくつかの適するDHFR遺伝子が、先行技術で公知である。DHFRは、野生型DHFRまたはその機能的変形体もしくは誘導体であってよい。用語「変形体」または「誘導体」には、それぞれのDHFR酵素のアミノ酸配列に関して1つまたは複数のアミノ酸配列変換(例えば欠失、置換または付加)を有するDHFR酵素、DHFR酵素またはその機能的断片およびさらなる構造および/または機能を提供するように改変されているDHFR酵素、ならびにDHFR酵素の少なくとも1つの機能を保持する上記の機能的断片を含む融合タンパク質が含まれる。DHFR酵素/変形体は、MTXに対して野生型DHFR酵素よりも多少感受性である、選択マーカーとして用いることができる。一実施形態によると、用いるDHFR酵素は、MTXなどの抗葉酸剤に対して、対応する野生型DHFR酵素および/または発現されるならば宿主細胞によって内因的に発現されるDHFR酵素よりも感受性である。DHFR酵素は、それが本発明の中で機能的である限り、すなわち用いる宿主細胞に適合する限り、任意の種に由来してもよい。例えば、MTXへの大きな抵抗性を有する突然変異体マウスDHFRは、トランスフェクトされた細胞での高レベルのMTX抵抗性の獲得を著しく増強する優性の選択マーカーとして広範に用いられている。好ましくは、MTXなどのDHFR阻害剤に対して、DHFR(プラス)宿主細胞で内因的に発現されるDHFR酵素よりも影響を受けにくく、したがって感受性がより低いDHFR酵素が用いられる。
【0037】
一実施形態によると、イントロンまたはその断片は、DHFR遺伝子の読み取り枠の3’末端に置かれる。これは、構築物の発現/増幅率に有益な影響を及ぼす。DHFR発現カセットで用いられるイントロンは、DHFR遺伝子のより小さい、非機能的変形体をもたらしている(Grillariら、2001、J.Biotechnol.87巻、59〜65ページ)。それによって、DHFR遺伝子の発現レベルは低下し、したがって選択系のストリンジェンシーをさらに高くすることができる。したがって、宿主細胞は、DHFR酵素をコードする導入ポリヌクレオチドを含むことができ、前記ポリヌクレオチドは、DHFRコード配列の3’に位置するイントロンを含む。DHFR遺伝子の発現レベルを低下させるためにイントロンを利用する代替法がEP0724639に記載され、それらを用いることもできた。
【0038】
ほとんどの原核生物と対照的に、それら自身の葉酸塩を合成する植物および真菌類、哺乳動物ならびに他の真核生物種はTHFコファクター生合成を欠き、したがってそれらを外来源、通常培地から得なければならない。3つの独立輸送系、すなわち還元葉酸塩担体(RFC)、プロトン結合葉酸塩輸送体(PCFT、別名SLC46A)および葉酸塩受容体(FR)が、哺乳動物の細胞で葉酸塩および抗葉酸剤の取込みを媒介することが現在知られている。
【0039】
真核宿主細胞は、好ましくは、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞および真菌細胞からなる群から選択される。真菌細胞および植物細胞は、葉酸塩について原栄養体性であってよい(すなわち、そのような細胞は、それらの細胞生存、すなわち細胞の成長および増殖のために必要なそれら自身の葉酸塩を自律的に合成することができる)。本発明は、葉酸塩について栄養要求性であるかまたはなることができる、そのような真菌および植物の細胞を特に包含する。これは、例えば遺伝子操作によることができ、すなわち細胞は、それらの細胞生存に必要な十分量の葉酸塩を今や合成することができない。例えば、そのような真菌または植物の細胞の、例えば適当な代謝経路を通して葉酸塩を内因的に生合成する能力は、例えば適当な標的遺伝子の遺伝子破壊もしくは遺伝子サイレンシング、または鍵酵素の阻害などによって不活性化することができる。好ましくは、宿主細胞は、哺乳動物細胞である。前記哺乳動物細胞は、齧歯動物細胞、ヒト細胞およびサル細胞からなる群から選択することができる。齧歯動物細胞が特に好ましく、それは、好ましくは、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、マウス3T3線維芽細胞およびSP2/0細胞からなる群から選択される。最も特に好ましい齧歯動物細胞は、CHO細胞である。ヒト細胞も好ましく、それは、好ましくは、HEK293細胞、MCF−7細胞、PerC6細胞およびHeLa細胞からなる群から選択される。サル細胞もさらに好ましく、それは、好ましくは、COS−1、COS−7細胞およびVero細胞からなる群から選択される。宿主細胞は、好ましくはDHFR(プラス)細胞、特にDHFR(プラス)CHO細胞である。
【0040】
一実施形態によると、対象生成物をコードするポリヌクレオチドおよびDHFR酵素をコードするポリヌクレオチドは、少なくとも1つの発現ベクターによって導入された。それぞれのベクターを導入するのに適する技術は下に記載され、例えばトランスフェクションが含まれる。
【0041】
本発明による「発現ベクター」は、少なくとも1つの外来核酸断片を運ぶことができるポリヌクレオチドである。ベクターは分子担体のように機能し、核酸の断片それぞれポリヌクレオチドを宿主細胞へ送達する。それは、その中に組み込まれるポリヌクレオチドを正しく発現させるための調節配列を含む、少なくとも1つの発現カセットを含む。ポリヌクレオチド(例えば、対象生成物または選択マーカーをコードする)は、そこから発現させるために、発現ベクターの(1つまたは複数の)発現カセットに挿入されてもよい。本発明による発現ベクターは、環状または線状の形で存在することができる。用語「発現ベクター」は、外来核酸断片の導入を可能にする人工染色体または類似したそれぞれのポリヌクレオチドも含む。
【0042】
対象生成物をコードするポリヌクレオチドおよびDHFR酵素をコードするポリヌクレオチドは、同じであるか異なる発現ベクターの上に位置してもよい。両方のポリヌクレオチドを運ぶ発現ベクターを用いることは、1つの発現ベクターを宿主細胞に導入するだけでよいという利点を有する。さらに、特に安定した発現系を確立する場合、ポリヌクレオチドがゲノムに一緒に組み込まれ、したがって類似した収率で発現される可能性がより高い。しかし、トランスフェクションのために少なくとも2つの発現ベクターの組合せを用いることが可能でもあり、本発明の範囲内でもあり、そこにおいて、それぞれのポリヌクレオチドは異なる発現ベクターの上に位置する。発現ベクターの前記組合せは、宿主細胞に次にトランスフェクトされる。
【0043】
真核宿主細胞は、さらなる対象生成物をコードする少なくとも1つのさらなる導入ポリヌクレオチドを含むことができる。この実施形態は、免疫グロブリン分子を発現させるために特に適する。好ましい実施形態によると、宿主細胞は、各々対象生成物をコードする少なくとも2つの導入ポリヌクレオチドを含み、そこで、少なくとも1つのポリヌクレオチドは免疫グロブリン分子の重鎖またはその機能的断片をコードし、他のポリヌクレオチドは免疫グロブリン分子の軽鎖またはその機能的断片をコードする。それぞれのポリヌクレオチドは、適当な発現ベクターを用いることにより導入することができる。少なくとも2つの発現ベクターの組合せが用いられる場合、免疫グロブリン分子の重鎖および軽鎖(またはその機能的断片)をコードする前記ポリヌクレオチドは、同じであるかまたは異なる発現ベクターの上に位置することができる。
【0044】
宿主細胞、したがってポリヌクレオチドを前記宿主細胞に導入するための発現ベクターは、1つまたは複数のさらなる選択マーカーをコードする1つまたは複数のさらなるポリヌクレオチドをさらに含むことができる。したがって、本発明の一実施形態では、性能をさらに向上させるために、本発明の系を1つまたは複数の異なる選択系(例えばneo/G418などの抗生物質抵抗性選択系)と一緒に利用する共選択を適用することができる。真核宿主細胞の選択を可能にするさらなる真核生物の選択マーカーの他に、真核宿主細胞で選択を可能にする原核生物の選択マーカーを用いることもできる。それぞれの原核生物の選択マーカーの例は、抗生物質、例えばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリンおよび/またはクロラムフェニコールに対する抵抗性を提供するマーカーである。
【0045】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するために用いられるベクターは、転写を促進するために適する転写調節エレメント、例えば発現カセットのエレメントとしてのプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写休止または終止シグナルを通常含む。所望の生成物がタンパク質である場合、例えばリボソームを動員するのに適する5’キャップ構造をもたらす5’非翻訳領域、および翻訳工程を終了するための終止コドンなど、適する翻訳調節エレメントは、好ましくはベクターに含まれ、発現されるポリヌクレオチドに作動可能に連結される。詳細には、選択マーカー遺伝子の役目を果たすポリヌクレオチドならびに対象生成物をコードするポリヌクレオチドは、適当なプロモーターに存在する転写エレメントの支配下で転写することができる。選択マーカー遺伝子から生じる転写物および対象生成物のそれは、かなりのレベルのタンパク質発現(すなわち翻訳)および適切な翻訳終結を促進する機能的翻訳エレメントを有する。組み込まれたポリヌクレオチドの発現を正しく促進することができる機能的発現単位は、本明細書で「発現カセット」とも呼ばれる。
【0046】
ポリヌクレオチドを真核宿主細胞に導入するために用いられる本発明による発現ベクターまたは発現ベクターの組合せは、発現カセットのエレメントとして、少なくとも1つのプロモーターおよび/またはプロモーター/エンハンサーエレメントを含むことができる。これらの2つの調節エレメントの間の物理的境界は必ずしも明白でないが、用語「プロモーター」は、RNAポリメラーゼおよび/またはいかなる関連因子が結合し、そこで転写が開始される核酸分子上の部位を通常指す。エンハンサーは、プロモーター活性を時間的に、ならびに空間的に強化する。多くのプロモーターは、広範囲の細胞型で転写活性がある。プロモーターは、2つのクラス、すなわち構成的に機能するものおよび誘導または脱抑制によって調節されるものに分けることができる。両方のクラスは、本発明の教示に適する。哺乳動物細胞でのポリペプチドの高レベル生成のために用いられるプロモーターは強くあるべきで、好ましくは広範囲の細胞型で活性であるべきである。
【0047】
多くの細胞型で発現を促進する強い構成的プロモーターには、それらに限定されないが、アデノウイルス主後期プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス極初期プロモーター、SV40およびラウス肉腫ウイルスプロモーターならびにマウスの3−ホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター、EF1aが含まれる。プロモーターおよび/またはエンハンサーをCMVおよび/またはSV40から得る場合、本発明の発現ベクターで良好な結果が達成される。転写プロモーターは、SV40プロモーター、CMVプロモーター、EF1αプロモーター、RSVプロモーター、BROAD3プロモーター、マウスrosa 26プロモーター、pCEFLプロモーターおよびβアクチンプロモーターからなる群から選択することができる。
【0048】
好ましくは、対象生成物をコードするポリヌクレオチドおよびDHFR酵素をコードするポリヌクレオチドは、別々の転写プロモーターの支配下にある。一般に、真核宿主細胞で、必要不可欠なポリヌクレオチドの発現、特に転写を促進することができるプロモーターが適する。ポリヌクレオチドからの発現を促進する別々の転写プロモーターは、同じであっても異なってもよい。
【0049】
一実施形態によると、対象生成物をコードするポリヌクレオチドの発現を促進するためには、DHFR酵素および/または存在するならばさらなる選択マーカーをコードするポリヌクレオチドの発現を促進するためによりも強いプロモーターおよび/またはエンハンサーが用いられる。この配置は、対象生成物のために、選択マーカーのためによりも多くの転写物が生成される効果を有する。異種生成物を生成する個々の細胞の能力が無制限でなく、したがって対象生成物に集中されるべきであるので、対象生成物の生成が選択マーカーの生成よりも優位であることが有利である。さらに、選択工程は発現細胞系を確立する初期段階だけで起こり、発現細胞系はその後対象生成物を継続的に生成する。したがって、対象生成物の発現/生成に細胞の資源を集中させることが有利である。さらに、1つまたは複数の選択マーカー、特にDHFRを発現させるためにより強くないプロモーターを用いることは、選択圧をさらに増加させ、したがって選択培地でより低い濃度のDHFR阻害剤の使用を可能にする。
【0050】
一実施形態によると、対象生成物をコードするポリヌクレオチドの発現を促進するプロモーターはCMVプロモーターであり、DHFR酵素をコードするポリヌクレオチドの発現を促進するプロモーターはSV40プロモーターである。CMVプロモーターは、哺乳動物の発現で利用可能な最も強いプロモーターの1つであることが公知であり、非常に良好な発現率をもたらす。それは、SV40プロモーターよりもかなり多くの転写物を与えると考えられている。
【0051】
さらなる実施形態によると、対象生成物をコードするポリヌクレオチドおよびDHFR酵素をコードするポリヌクレオチドは同じ転写プロモーターの支配下にあり、したがって1つの発現カセットから発現される。適するプロモーターは上に記載されている。この実施形態では、前記転写プロモーターの支配下にあるそれぞれの発現カセットから、1つの長い転写物が得られる。一実施形態によると、対象生成物をコードするポリヌクレオチドおよび/またはDHFR酵素をコードするポリヌクレオチドの間に、少なくとも1つのIRESエレメントが機能的に位置する。それによって、別々の翻訳産物が前記転写物から得られることが保証される。
【0052】
発現カセットは、適当な転写終結点を含むことができる。これは、上流プロモーターから第二の転写単位にかけての連続した転写として、下流プロモーターの機能を阻害することができ、これはプロモーター閉塞または転写干渉として知られる現象である。この事象は、原核生物および真核細胞の両方で記載されている。2つの転写単位間の転写終結シグナルの適切な配置は、プロモーター閉塞を防止することができる。転写終結点はよく特徴付けられており、発現ベクターへのそれらの組込みは遺伝子発現に対して複数の有益な影響を及ぼすことがわかっている。
【0053】
用いた宿主細胞は、真核生物、特に哺乳動物の宿主細胞である。ほとんどの真核生物の初期mRNAは、一次転写物の切断および共役ポリアデニル化反応を含む複雑な過程で加えられるポリAテールを、それらの3’末端に有する。ポリAテールは、mRNAの安定性および輸送性のために有利である。したがって、対象生成物およびDHFR酵素をコードするポリヌクレオチドを発現するための発現カセットは、転写終結およびポリアデニル化に適するポリアデニル化部位を通常含む。ウシ成長ホルモン(bgh)、マウスβグロビン、SV40早期転写単位および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子に由来するものを含む、哺乳動物の発現ベクターで用いることができるいくつかの効率的なポリAシグナルがある。しかし、合成ポリアデニル化部位も公知である(例えば、Levittら、1989、Genes Dev.3巻(7号):1019〜1025ページに基づくPromegaのpCI−neo発現ベクターを参照)。ポリアデニル化部位は、SV40ポリA部位、例えばSV40後期および初期ポリA部位(例えば、Subramaniら、1981、Mol.Cell.Biol.854〜864ページに記載のプラスミドpSV2−DHFRを参照)、合成ポリA部位(例えば、Levittら、1989、Genes Dev.3巻(7号):1019〜1025ページに基づくPromegaのpCI−neo発現ベクターを参照)およびbghポリA部位(ウシ成長ホルモン)からなる群から選択することができる。
【0054】
さらに、対象生成物をコードするポリヌクレオチドおよびDHFR酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットは、少なくとも1つのイントロンを含むことができる。この実施形態は、発現のために哺乳動物の宿主細胞が用いられる場合に特に適する。より高等な真核細胞からのほとんどの遺伝子は、RNAプロセシングの間に除去されるイントロンを含む。それぞれの構築物は、イントロンを欠く同一の構築物よりも遺伝子導入系でより効率的に発現される。通常、イントロンは読み取り枠の5’末端に置かれるが、3’末端に置かれることもある。したがって、発現率を増加させるために、イントロンが発現カセットに含まれてもよい。前記イントロンは、1つまたは複数のプロモーターおよびまたはプロモーター/エンハンサーエレメントと、発現されるポリヌクレオチドの読み取り枠の5’末端との間に位置することができる。本発明と併用することができるいくつかの適するイントロンが、最新技術において公知である。
【0055】
一実施形態によると、対象生成物を発現させるための発現カセットで用いられるイントロンは、SISまたはRKイントロンなどの合成イントロンである。RKイントロンは、好ましくは対象遺伝子のATG開始コドンの前に置かれる、強い合成イントロンである。RKイントロンは、CMVプロモーターのイントロン供与スプライス部位およびマウスIgG重鎖可変領域の受容スプライス部位からなる(例えば、Eatonら、1986、Biochemistry 25巻、8343〜8347ページ、Neubergerら、1983、EMBO J.2巻(8号)、1373〜1378ページを参照、それは、pRK−5ベクター(BD PharMingen)から得ることができる)。
【0056】
上に述べたポリヌクレオチドおよび/または発現カセットを含む発現ベクターは、その円形形態で宿主細胞にトランスフェクトすることができる。スーパーコイルベクター分子は、エンドおよびエキソヌクレアーゼの活性のために、核内で線状分子に通常変換される。しかし、トランスフェクションの前の発現ベクターの線状化は、安定したトランスフェクションの効率をしばしば向上させる。発現ベクターがトランスフェクションの前に線状化される場合、これは、線状化の場所として調節することもできる。したがって、本発明の一実施形態によれば、発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せは、少なくとも1つの定義済みの制限部位を含み、それはトランスフェクションの前に(1つまたは複数の)ベクターの線状化のために用いることができる。一実施形態によると、線状化部位は、線状化後に、DHFR酵素をコードするポリヌクレオチドが、対象生成物をコードするポリヌクレオチドの5’に位置するように配置される。この配置は、遺伝子増幅のために有利である。原核生物の選択マーカーをさらに用いる場合、前記原核生物のマーカーをコードするポリヌクレオチドは、対象生成物をコードするポリヌクレオチドの3’に位置する。これは、原核生物の選択マーカー遺伝子が線状化ベクター核酸の「哺乳動物」部分の3’に、したがって「外側」にあるという効果を有する。原核生物の配列は哺乳動物の細胞で増加するメチル化または他のサイレンシング効果をもたらすことができるので、原核生物の遺伝子は哺乳動物の発現におそらく有利でないので、この配置は好ましい。
【0057】
対象生成物をコードするポリヌクレオチドおよびDHFR酵素をコードするポリヌクレオチドは、好ましくは前記宿主細胞に安定して導入される。安定した導入、トランスフェクションそれぞれは、発現細胞系の確立、特に対象生成物の大規模、したがって工業的生産のために有利である。
【0058】
ポリヌクレオチドおよび発現ベクターを、哺乳動物の宿主細胞を含む真核宿主細胞に導入するために、先行技術で公知であるいくつかの適当な方法がある。それぞれの方法には、それらに限定されないが、リン酸カルシウムトランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクション、微粒子銃によっておよびポリマーによって媒介される遺伝子導入が含まれる。対象生成物をコードするポリヌクレオチドおよびDHFR酵素をコードするポリヌクレオチドを宿主細胞ゲノムに導入するために、従来のランダムな組込みに基づく方法の他に、組換えによって媒介される手法も用いることができる。そのような組換え方法は、導入遺伝子の指定挿入を媒介することができる、Cre、FlpまたはΦC31のような部位特異的リコンビナーゼ(例えば、Oumardら、Cytotechnology(2006)50巻:93〜108ページを参照)の使用を含むことができる。あるいは、前記ポリヌクレオチドを挿入するために、相同組換えの機構を用いてもよいかもしれない(Sorrellら、Biotechnology Advances 23巻(2005)431〜469ページにレビューされている)。組換えに基づく遺伝子挿入は、宿主細胞に移動/導入される異種核酸に含まれるエレメント数の最小化を可能にする。例えば、残りのエレメント(例えば、対象生成物をコードするポリヌクレオチドおよびDHFR酵素をコードするポリヌクレオチド)だけを宿主細胞に導入/トランスフェクトする必要があるように、プロモーターおよびポリA部位(外因性または内因性の)をすでに提供している挿入遺伝子座を用いてもよいかもしれない。本発明による適する発現ベクターまたは発現ベクターの組合せ、ならびに適する宿主細胞の実施形態は、上で詳細に記載されている。我々は、上の開示を参照する。
【0059】
DHFR酵素に加えてさらなる選択マーカーを用いる場合、前記選択マーカーの選択条件は、DHFR酵素の選択条件を適用する前に適用されてもよい。例えばネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo)をさらなる選択マーカーとして用いる場合、本発明による(1つまたは複数の)発現ベクターを組み込んだ細胞を選択するために、細胞を、例えばG418を含む培地で先ず増殖させてもよい。
【0060】
DHFR選択マーカーに加えて制限濃度の葉酸塩を選択培地に用いる本発明の戦略は、より低いDHFR阻害剤濃度を用いる場合でも非常に高いストリンジェンシーが得られる利点を有する。これらの新規選択条件を生き残る細胞集団の生産性は、著しく増加する。実施例は、選択方法の後に得られた宿主細胞が対象生成物を高収率で生産することを示している。また、個々の宿主細胞の平均生産性が増加する。したがって、より低いスクリーニング努力で高生産クローンを見出す可能性が向上する。したがって、本発明による選択系は、先行技術で用いられる選択系よりも優れている。詳細には、それぞれの選択マーカー単独の使用と比較してより高い生産性を有する宿主細胞が得られる。したがって、選択条件のより高いストリンジェンシーのために、選択方法が最適化される。
【0061】
本発明のストリンジェントなスクリーニング/選択方法の結果として得られる細胞は、一般に単離され、元の細胞集団の非選択細胞から濃縮することができる。それらを単離し、個々の細胞として培養することができる。それらは、任意選択でさらなる定性的もしくは定量的な分析のために、1回または複数回のさらなる選択で用いることもでき、または、例えばタンパク質生産のための細胞系の開発において用いることができる。一実施形態によると、上に述べたように選択される生産宿主細胞の濃縮集団は、対象のポリペプチドの良好な収率での生産のための集団として直接に用いられる。好ましくは、対象生成物を安定して発現する宿主細胞が選択される。安定したトランスフェクション/発現の利点は、上で詳述されている。我々は、上の開示を参照する。
【0062】
対象生成物を生成するための方法であって、以下の、
(a)前記対象生成物を発現する少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するための、本発明による選択方法を実施するステップと、
(b)少なくとも1つの選択される真核宿主細胞を、前記対象生成物の発現を可能にする条件下で培養するステップと、を少なくとも含む方法も提供される。
【0063】
本発明による選択方法は高生産性の細胞クローンの同定を可能にするので、前記選択系は生産工程の重要で不可欠な一部である。発現された対象生成物は、宿主細胞を破壊することによって得ることができる。ポリペプチドは発現され、例えば培地に分泌され、そこから得ることもできる。また、それぞれの方法の組合せも可能である。一実施形態によると、前記宿主細胞は、無血清条件下で培養される。
【0064】
それによって、生成物、特にポリペプチドは、高収率で生成すること、および得ること/単離することができる。得られた生成物は、さらなる処理工程、例えば精製および/または改変工程にかけることもできる。したがって、対象生成物を生成するための方法は、以下の工程の少なくとも1つを含むことができる。
・前記細胞培養培地および/または前記宿主細胞から対象生成物を単離すること、および/または
・単離された対象生成物を処理すること。
【0065】
本発明に従って生成される対象生成物、例えばポリペプチドは、当技術分野で公知である方法によって回収し、任意選択でさらに処理すること、例えば精製、単離および/または改変することができる。例えば、生成物は、それらに限定されないが遠心分離、ろ過、限外ろ過、抽出または沈殿を含む従来の方法によって、栄養培地から回収することができる。精製は、それらに限定されないがクロマトグラフィー(例えばイオン交換、親和性、疎水性、クロマトフォーカシングおよびサイズ排除)、電気泳動法(例えば、分取等電集束法)、差別的溶解性(例えば硫安塩析)または抽出を含む当技術分野で公知である様々な方法によって実施することができる。
【0066】
対象生成物は、前記ポリヌクレオチドによってコードされる遺伝情報の転写、翻訳または任意の他の発現事象によって生成することができる任意の生物学的生成物であってよい。この点に関し、生成物は発現生成物である。対象生成物は、ポリペプチド、核酸、特にRNAまたはDNAからなる群から選択することができる。生成物は、薬学的もしくは治療的に活性な化合物、またはアッセイなどで利用される研究ツールであってよい。特に好ましい実施形態では、生成物は、ポリペプチド、好ましくは薬学的もしくは治療的に活性なポリペプチド、または診断アッセイもしくは他のアッセイなどで利用される研究ツールである。したがってポリペプチドは、任意の特定のタンパク質またはタンパク質の群に限定されず、逆に、本明細書に記載の方法によって選択および/または発現させることが望まれる任意のサイズ、機能または起源の任意のタンパク質であってよい。したがって、いくつかの異なる対象ポリペプチドを発現させ/生成することができる。上で概説されるように、用語ポリペプチドには、任意の活性または生物活性のタンパク質および/またはペプチド、例えば生体活性ポリペプチド、例えば酵素タンパク質またはペプチド(例えばプロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ)、受容体タンパク質またはペプチド、輸送体タンパク質またはペプチド、殺菌性および/またはエンドトキシン結合性タンパク質、構造タンパク質またはペプチド、免疫性ポリペプチド、毒素、抗生物質、ホルモン、成長因子、ワクチンなどが含まれる。前記ポリペプチドは、ペプチドホルモン、インターロイキン、組織プラスミノーゲン活性化因子、サイトカイン、免疫グロブリン、特に抗体または機能的抗体断片またはその変形体からなる群から選択することができる。最も好ましい実施形態では、ポリペプチドは、免疫グロブリン分子もしくは抗体、またはその機能的変形体、例えばキメラ、または部分的もしくは完全ヒト化抗体である。そのような抗体は、診断用抗体、または薬学的もしくは治療的に活性な抗体であってよい。
【0067】
上でおよび請求項で定義される本発明による方法によって得られる生成物も、提供される。前記生成物は、好ましくはポリペプチド、特に免疫グロブリン分子またはその機能的断片である。
【0068】
一実施形態によると、本発明は、制限濃度の葉酸塩および少なくとも1つのDHFR阻害剤を含む選択培地も提供する。好ましくは、前記選択培地は、以下の特性の1つまたは複数を有する。
(a)それは、葉酸塩、好ましくは葉酸を以下から選択される濃度で含む。
(aa)500nM以下、
(bb)250nM以下、
(cc)150nM以下、
(dd)100nM以下、
(ee)75nM以下、
(ff)50nM以下、
(gg)25nM以下、および/または
(hh)15nM以下、
ならびに/あるいは
(b)それは、葉酸塩、好ましくは葉酸を以下から選択される濃度域で含む。
(aa)0.1nM〜500nM、
(bb)0.1nM〜250nM、好ましくは2.5nM〜250nMまたは5もしくは10nM〜250nM、
(cc)0.1nM〜150nM、好ましくは2.5nM〜150nMまたは5もしくは10nM〜150nM、
(dd)1nM〜100nM、好ましくは2.5nM〜100nMまたは5もしくは10nM〜100nM、
(ee)1nM〜75nM、好ましくは2.5nM〜75nMまたは5もしくは10nM〜75nM、
(ff)1nM〜50nM、
(gg)2.5nM〜50nM、および/または
(hh)12.5nM〜50nM
ならびに/あるいは
(c)それは、好ましくは抗葉酸剤であるDHFR阻害剤を、以下から選択される濃度で含む。
(aa)500nM以下、
(bb)400nM以下、
(cc)300nM以下、
(dd)250nM以下、
(ee)200nM以下、
(ff)150nM以下、および/または
(gg)100nM以下、
ならびに/あるいは
(d)それは、好ましくは抗葉酸剤、より好ましくはMTXであるDHFR阻害剤を、以下から選択される濃度で含む。
(aa)1nM〜500nM、
(bb)10nM〜200nM、
(cc)10nM〜150nM、および/または
(dd)10nM〜100nM。
【0069】
葉酸塩およびDHFR阻害剤の示した濃度および濃度域は、互いに組み合わせることができる。選択培地中の葉酸塩および抗葉酸剤の濃度域および適する実施形態の利点およびさらなる好ましい実施形態は、本発明による選択方法と一緒に上で詳細に概説した。それは、上の開示を参照する。前記選択培地は、本発明の選択系と一緒に用いることができる。
【0070】
本明細書で指摘される本文および文書の全内容は、参照により本明細書に組み込まれ、したがって本開示の一部を形成する。
【0071】
以下の実施例は、その範囲を制限することなく、本発明を例示する役目を果たす。詳細には、実施例は本発明の好ましい実施形態に関する。
【実施例】
【0072】
一般に、試薬などの適する物質は当業技術者によく知られ、市販されており、製造業者の指示に従って用いることができる。実験を、記載のように実施した。
【0073】
CHO細胞でのトランスフェクション実験は、対象生成物としてモノクローナル抗体を発現する発現カセットを含む発現ベクターを用いて実行する。選択マーカーとして、G418抵抗性遺伝子(NEO)およびDHFR遺伝子が、別々の発現カセット中の発現ベクターの上に存在する。この実験は、低葉酸条件下での減少したMTX量による選択が、高生産性細胞集団を生じることを証明する。参照として、DHFRの標準の選択条件が用いられ、それは、より高いMTX濃度および非制限量の葉酸を用いる。
【0074】
実施例1:DHFRおよび葉酸の制限濃度
1.1.発現ベクター
発現ベクターは、以下の決定的なエレメントを含む哺乳動物の発現ベクターであり、それらのエレメントは発現ベクターの上に同じ配向性で配置される。
【0075】
【表1】

【0076】
1.2.CHO細胞のトランスフェクションおよび選択
細胞培養、トランスフェクションおよびスクリーニングは、振とうフラスコにおいて、FCSを含まないCHO細胞に適当な培地で増殖するCHO細胞の懸濁液を用いて実施する。細胞は、エレクトロポレーションによって発現ベクターでトランスフェクトした。宿主細胞での細胞内葉酸貯蔵を減少させ、前培養培地から選択培地への葉酸の共転移を防止するために、トランスフェクションおよび選択の前に無葉酸培地または葉酸含量低下(例えば50nM)培地で細胞を継代培養させる。細胞生存度に従い、トランスフェクションの24〜48時間後に、G418およびMTX含有選択培地を細胞に加えることによって第一の選択工程を開始する。第一の選択工程では、3つの異なるMTX濃度(2.5、5および10nM)および葉酸濃度(12.5、25および50nM)を試験する。参照として、非制限量の葉酸、ここでは培地中の標準濃度に対応する11.3μMを含む培地を用いる。
【0077】
細胞が80%を超える生存度に回復次第、第一の選択工程と同じ量の葉酸を含むが、10倍多い量のMTX(すなわち、25、50および100nM)を含む無G418培地で細胞を継代培養することによって、第二の選択工程を適用する。参照培養条件の場合には、500nM MTXを細胞に加える。
【0078】
1.3.プール生産性の判定
選択される細胞集団の生産性は、非制限量の葉酸(11.3μM)を含み、G418は含まないがそれぞれの選択培地と同じ濃度のMTXを含んでいる培地での、過増殖振とうフラスコバッチ培養を通して、最初および最後の選択工程の後に分析する。
【0079】
50mL有効容積を有する250mL容量の振とうフラスコにバッチ培養物を播種し、振とうキャビネット(無加湿)内で150rpmおよび10%CO2で培養する。アッセイを開始するとき、細胞の生存度は>90%でなければならない。播種細胞密度は、通常1mLにつき約2x10細胞である。力価判定は13日目に行う。細胞培養上清中の抗体力価は、培養開始から13日後のプロテインAのHPLCで測定する。
【0080】
1.4.結果
葉酸制限濃度の下でdhfr/MTX選択のストリンジェンシーを評価するために、モノクローナル抗体を発現するためのDHFRベクター発現のトランスフェクションを、この実施例1で実行する。ベクターは、G418抵抗性遺伝子(上記参照)も含む。先ず、トランスフェクトされた細胞集団を、G418および異なる濃度のMTXを異なる濃度の葉酸で加えることによって選択する。この最初の第一の選択工程は、第二の選択工程でより高いストリンジェンシーが適用される前に、トランスフェクトされない細胞を殺滅し、並行して、細胞に細胞内葉酸貯留を消費させる手助けをするはずである。これらの条件下で、通常すべてのトランスフェクトされた細胞集団は回復し、上に述べたように生産性が評価される。
【0081】
表1は、得られた生産性結果を要約する。
【0082】
【表2】

【0083】
異なる葉酸濃度を有するG418およびMTX含有培地で選択されるトランスフェクトされた細胞を、振とうフラスコバッチ培養で分析する。培養の13日目に、培地の試料をとり、プロテインAのHPLCによって抗体含量について分析する。
【0084】
結果は、すべての細胞集団が抗体を生成することを示す。10nM未満のMTXの添加は、低い葉酸濃度でも細胞に対してあまり影響を示さない。生成された抗体の濃度は、MTX不在下の選択に同等である。しかし、第一の選択工程で10nM MTXを用いる場合、低い葉酸濃度での細胞の生産性は濃度依存的にかなり増加する。最も低い葉酸濃度(12.5nM)および10nM MTXによる選択の後、細胞の生産性は、標準の葉酸濃度の培地と比較して10倍を超えて高いことが見出される。
【0085】
選択ストリンジェンシーをさらに高くするために、次の工程ではG418を除去するが、培地中のMTX濃度を10倍に増加させ、第一の選択工程で用いられる葉酸濃度を維持する。参照の場合には、先行技術で一般的のようにMTXを高い濃度で、ここでは500nMで加える。これらの条件下では、多くのトランスフェクトされた集団の細胞の生存度は劇的に低下して低いレベルにとどまり、その結果それらのすべてを回復させることができるわけではない。回復させることができた細胞集団はさらに増殖させ、生産性を分析する(表2)。
【0086】
【表3】

【0087】
G418およびMTX選択細胞集団は、MTX濃度を上昇させることによってさらに選択される。回復した集団は、振とうフラスコバッチ培養で分析する。培養の13日目に、培地の試料をとり、プロテインAのHPLCによって抗体含量について分析する。
【0088】
この選択工程の後の参照細胞集団(500nM MTX、11.3μM FA)の生産性は、約25〜30mg/Lに増加する。100nM以下のMTX濃度では、いかなる利点も見られない。しかし、100nM MTXを低い葉酸含有量(12.5または25nM)と一緒に用いるとき、増幅/選択のために低いMTX濃度が用いられるが、生産性は最高277mg/Lであり、したがって参照より10倍高い。
【0089】
したがって、選択培地において選択マーカーとしてDHFRを制限葉酸濃度と一緒に用いることは、低いDHFR阻害剤濃度でさえ対象タンパク質を高度に過剰発現する細胞を生成する。結果は、この組合せが従来の選択系(例えば、選択培地で標準の葉酸濃度を用いるDHFR/G418)より優れていることを示す。
【0090】
実施例2:トランスフェクトされたCHO細胞によるポリペプチドの大規模生産
ポリペプチドの大規模生産は、例えばウェーブ、ガラスまたはステンレス鋼バイオリアクターで実行することができる。その目的のために、通常単一の凍結バイアルから、例えばMaster Cell Bankからのバイアルから細胞を増殖させる。いくつかの工程を通して細胞を解凍し、増殖させる。異なる規模のバイオリアクターを、適量の細胞で接種する。細胞密度は、フィード溶液および添加剤をバイオリアクターに加えることによって高くすることができる。細胞は、長期間、高い生存度で維持される。リアクター内において、1リットルにつき数百ミリグラムから1リットルにつき数グラムの範囲の生成物濃度が、大規模で達成される。精製は、親和性、イオン交換、疎水性相互作用またはサイズ排除クロマトグラフィー方法を含めることができる、標準のクロマトグラフィー方法によって実行することができる。バイオリアクターのサイズは、最終規模で最高数千リットルの容量が可能である(例えば、F.Wurm、Nature Biotechnology 22巻、11号、2004、1393〜1398ページも参照)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象生成物を発現する少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するための方法であって、少なくとも
(a)複数の真核宿主細胞を提供するステップであって、前記宿主細胞の細胞生存度は葉酸塩の取込みに依存し、前記真核宿主細胞が少なくとも
(i)対象生成物をコードする導入ポリヌクレオチド、および
(ii)DHFR酵素をコードする導入ポリヌクレオチドを含むステップと、
(b)前記複数の真核宿主細胞を、少なくともDHFRの阻害剤および制限濃度の葉酸塩を含む選択培地で培養するステップと、
(c)対象生成物を発現する少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記選択培地が500nM以下の濃度のDHFR阻害剤および500nM以下の濃度の葉酸塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記選択培地が200nM以下の濃度のDHFR阻害剤を含み、および/または2.5nM〜100nMの濃度の葉酸塩を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記選択培地が、10nM〜100nMのMTX濃度と組み合わせた12.5nM〜50nMの濃度の葉酸を含む、請求項1から3の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項5】
前記DHFR酵素が、DHFR阻害剤に対して、宿主細胞によって内因的に発現されるDHFR酵素よりも低い感受性を有するDHFR酵素である、請求項1から4の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項6】
前記真核宿主細胞がCHO宿主細胞、好ましくはDHFR(プラス)細胞である、請求項1から5の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項7】
DHFR(プラス)宿主細胞が、前記宿主細胞によって内因的に発現されるDHFR酵素よりも、MTXに対する感受性がより低い導入DHFR酵素と一緒に用いられる、請求項1から6の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項8】
対象生成物をコードする前記ポリヌクレオチドおよびDHFR酵素をコードする前記ポリヌクレオチドが、少なくとも1つの発現ベクターによって導入されている、請求項1から7の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項9】
前記宿主細胞が対象生成物をコードする少なくとも2つの導入ポリヌクレオチドを含み、好ましくは少なくとも1つのポリヌクレオチドは免疫グロブリン分子の重鎖をコードし、他のポリヌクレオチドは免疫グロブリン分子の軽鎖をコードする、請求項1から8の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象生成物をコードする(1つまたは複数の)導入ポリヌクレオチドおよび前記DHFR酵素をコードする導入ポリヌクレオチドが異なる発現カセットに含まれ、前記対象生成物をコードする(1つまたは複数の)ポリヌクレオチドの発現を促進するための発現カセットは、前記DHFR酵素をコードするポリヌクレオチドの発現を促進するための発現カセットよりも強いプロモーターおよび/またはエンハンサーを含む、請求項1から9の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項11】
対象生成物を生成するための方法であって、以下の、
(a)前記対象生成物を発現する少なくとも1つの真核宿主細胞を選択するための、請求項1から10のいずれかに記載の選択方法を実施するステップと、
(b)少なくとも1つの選択される真核宿主細胞を、前記対象生成物の発現を可能にする条件下で培養するステップと、を少なくとも含む方法。
【請求項12】
以下の、
(c)前記細胞培養培地および/もしくは前記真核宿主細胞から前記対象生成物を単離するステップ、ならびに/または
(d)単離された対象生成物をさらに処理するステップ、の少なくとも1つを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記対象生成物が免疫グロブリン分子またはその機能的断片である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
500nM以下の濃度のDHFR阻害剤、および500nM以下の制限濃度の葉酸塩を含む選択培地。
【請求項15】
2.5nM〜100nMの制限濃度の葉酸塩および/または200nM以下の濃度のDHFR阻害剤を含む、請求項14に記載の選択培地。
【請求項16】
10nM〜100nMのMTXの濃度と組み合わせた12.5nM〜50nMの濃度の葉酸を含む、請求項14または15に記載の選択培地。


【公表番号】特表2012−518991(P2012−518991A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551443(P2011−551443)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001223
【国際公開番号】WO2010/097239
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】