異種間及び複数種提示系
本発明は、原核遺伝子パッケージ及び/又は真核宿主細胞の外面上でのポリペプチドの複数種及び異種間提示のためのベクターセットとして様々な組み合わせで使用することができる、発現ベクター及びヘルパー提示ベクターを提供する。提示ベクターを変更又は再操作する必要なく、本発明のベクターセットを用いて、複数種及び異種間提示系を実施することができる。本発明の提示系は、ファージ、細菌宿主細胞、酵母細胞及び哺乳動物細胞の表面上でポリペプチドの遺伝学的に多様なレパートリー又はライブラリを提示するのに特に有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本願は、米国仮出願第60/746,489号(2006年5月4日出願、題名「複数種提示系」)の35USC 119(e)の定めるところに従い、優先権を主張する。この仮出願の開示は、その全体を参照により本明細書中に組み込む。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、タンパク質提示の分野に関し、発現ベクターの分子操作を何ら行うことなく、原核及び/又は真核生物宿主細胞の表面での、タンパク質ライブラリの、連続的な複数種提示又は異種間提示を可能にする提示系を提供する。
【0003】
発明の背景
ファージ提示系は、ポリペプチドライブラリ(例えば抗体ライブラリ)の構築及びスクリーニングのためのコアテクノロジープラットフォームと考えられる。これは、様々な遺伝学的ツールの利用可能性、操作の利便性及びE.コリ細胞の高い形質転換効率(通常、109から1010cfu/μg pUC18 DNA)を含む、数多くの実施上の配慮点による。現在、ファージ上で提示されるナイーブ抗体ライブラリが日常的に抗体探索のために使用されており、これにより、動物免疫付与及び従来のハイブリドーマ技術の使用が不要となる。ファージ提示ライブラリの複雑性は、1011の規模に達した。しかし、抗体探索及び操作技術においてファージ提示がうまく使用されているにもかかわらず、原核生物系での真核タンパク質の発現及び提示に関連して多くの欠点がある。例えば、一部の真核生物タンパク質は、原核細胞において機能的に発現され得ず、原核生物宿主細胞は、真核生物宿主細胞の特徴である翻訳後修飾を完全に行うことができない。
【0004】
原核生物提示系の使用に関連する制限の一部は、真核生物提示系を使用することによって解決できる。例えば、真核生物宿主細胞は一般に、比較的大型のタンパク質の提示に適応し得、複雑なグリコシル化を含む翻訳後修飾が可能である。酵母提示系の使用に付随するユニークな長所には、酵母細胞が比較的単純で安価な培養液中で高密度になるまで培養できるという有利な特性が含まれる。加えて、真核細胞は大きいので、フローサイトメトリーによる所望の特性を有するタンパク質を発現する1個の細胞についてライブラリをスクリーニングすることができる。
【0005】
しかし、実際、タンパク質提示のために真核宿主細胞を大規模に使用することは、宿主細胞の形質転換効率などのいくつかの根本的な問題により制限される。例えば、酵母細胞形質転換の効率は、通常、104−105cfu/μgDNAであり、これにより、酵母提示に基づく系において大型のライブラリを提示する能力が大きく制限される。今日、報告されている酵母提示ライブラリの最大のものは109前後のサイズである。
【0006】
研究者が抗体探索及び分子進化適用のために原核及び真核提示系の威力を活用することを可能にする複数種提示系は、タンパク質提示の領域での重要な進歩と言える。複数種又は異種間提示系を開発するための以前の取り組みは、特異的外面タンパク質との関心のあるタンパク質配列のライブラリの融合に基づく提示ストラテジーが、表面タンパク質が由来する1種類の宿主細胞に限定されるということによって妨げられている。例えば、関心のあるタンパク質が酵母細胞壁タンパク質を含む融合タンパク質として提示される提示ストラテジーにおいて前提とされる酵母提示系は、本質的に酵母に限定され、ファージ及び哺乳動物宿主細胞で実施することはできない。
【0007】
Huftonら(米国特許出願20030186374 A1)で示されるように、先行技術の提示系は、通常、原核(ファージ)提示ベクターから真核(酵母)提示ベクターへとコード配列を移入するためにさらなる段階が必要であるベクターを使用する。一般的に、異なる遺伝子パッケージを用いて第一の提示系から第二の提示系へと移動させるために、第一のベクターから第二のベクターへの発現カセットの移動に制限部位の同じセットを使用するように設計されたクローニングストラテジーを用いた消化及び核酸連結によって、第二の宿主細胞(例えば種)での使用のためにベクターを修飾しなければならない。実際に、第二の種での提示に対してコード配列のライブラリを適合させるためにDNA消化及び核酸連結を行わなければならないプロセスは非効率的であり、プロセス中にユニークな特性を有する所望のものである可能性があるメンバーが失われ得る恐れがあり、それによりライブラリの多様性に悪影響がある。
【0008】
従って、提示ベクター又は提示ベクターのライブラリの分子操作を何ら行わずに、原核(ファージ又は細菌)遺伝子パッケージの別の異なる種間又は原核遺伝子パッケージと真核(酵母、哺乳動物細胞)系との間又は2種類の別の真核生物宿主細胞(酵母及び哺乳動物細胞)間で、提示ベクターを移動させることができる理想的なタンパク質提示系に対するニーズは満たされていない。
【0009】
本発明の要約
本発明は、ポリペプチドの様々なライブラリの異種間複数種の両方の提示を可能にするタンパク質提示系を提供する。何らかの分子操作(即ち、DNA消化及び核酸連結)の必要なく、同じ発現ベクターを用いて、異種間及び複数種提示法を実施することができる。ファージ及び細菌細胞又はファージ及び酵母細胞又はファージ及び哺乳動物細胞などの遺伝子パッケージの複数種の表面上で、コード配列の多様性のあるレパートリーによりコードされるタンパク質産物を提示するために、本発明の組成物及び方法を使用することができる。本発明の組成物及び方法は、探索(即ちスクリーニング)又は分子進化プロトコールとの関連においてタンパク質のコレクションの提示に特に有用である。
【0010】
とりわけ、本発明は、提示ベクター又は提示ベクターのライブラリの分子操作を何ら行わずに、原核(例えばファージ又は細菌)と真核(酵母、哺乳動物細胞)生物宿主細胞との間又は真核生物宿主細胞(例えば、酵母及び哺乳動物細胞)の異なる種の間の両方で研究者が発現/提示ベクターを移動させることができるようになる、タンパク質提示系を提供する。
【0011】
図1で示されるように、開示される提示系によって、遺伝子パッケージ又は宿主細胞の様々な種の外面上で外来配列を提示できるようになる。各提示系は、一般に、2つの成分:1)複数種又は異種間発現ベクターと、2)各種に対する対応するヘルパーベクターと、を有する。ある実施形態において、本発明は、異種間又は複数種発現ベクター、pMAG1、pMAG9、pMAT4、pMAT2、pMAT6及びPMAT5を提供する。pMAG1及びpMAG9ベクターにおいて、アダプター1融合タンパク質の発現は、哺乳動物プロモーター及び細菌プロモーターの調節下にある。ベクターpMAT2、pMAT4、pMAT5及びpMAT6ベクターにおいて、アダプター1融合タンパク質の発現は、酵母プロモーター及び細菌プロモーターの調節下にある。
【0012】
別の実施形態において、本発明は、ヘルパー提示ベクター、GMCT、pMAG2、pMAL1、pMAL2、pMAT3、pMAT7及びpMAT8を提供する。細菌ヘルパー提示ベクターpMAL1(図15A参照)及びpMAL2(図15B参照)は、Lpp−OmpAの細菌外膜ドメインに融合したアダプター2を含む融合タンパク質を発現する発現カセットを含む。各酵母ヘルパー提示ベクターは、様々な酵母細胞外壁タンパク質に融合したアダプター2を含む融合タンパク質の発現を支配する(図11参照)。とりわけ、pMAT3は、Flo1のC末端ドメインに融合したアダプター2の発現を支配し、pMAT7はアダプター2 Aga2融合タンパク質を発現し;pMAT8はアダプター2 Cwp2融合タンパク質を発現する。
【0013】
異種間又は複数種発現ベクターのみを対応する宿主細胞(E.コリ又は酵母細胞又は哺乳動物細胞など)へ導入することによって、第一のアダプターエレメント(本明細書中で「アダプター1」と呼ぶ。)とインフレームで融合した外来ポリペプチドが発現され分泌される。特定の提示ベクターセットの対応するヘルパーベクターと組み合わせた本発明の発現ベクターの同時発現は、遺伝子パッケージ又は宿主細胞の表面上でのタンパク質ライブラリの外来ポリペプチドメンバーの提示を支配する。特定のベクターセットのヘルパーベクター成分が第二のアダプターエレメント(本明細書中で「アダプター2」と呼ぶ。)を含み、それが、タンパク質配列のライブラリを提示するために使用されている特異的遺伝子パッケージ又は宿主細胞で機能的である外面アンカータンパク質に融合した第一と第二のアダプターとの間の対をなす相互作用を介して支配する結果、表面提示が起こる。
【0014】
例えば、E.コリ細胞での外来ポリペプチド−アダプター1融合タンパク質の発現を支配する複数種又は異種間提示ベクターと組み合わせた、ファージコートタンパク質に融合したアダプター2を含むヘルパーベクターの同時発現によって、外来ポリペプチドのライブラリがファージ粒子上で提示される。同様に、外来ポリペプチド−アダプター1融合タンパク質の発現を支配する複数種提示ベクターと組み合わせた、細菌外膜アンカータンパク質に融合したアダプター2を含む細菌ヘルパーベクターの同時発現によって、細菌提示ライブラリが得られる。あるいは、ポリペプチド−アダプター1融合タンパク質のライブラリの発現を支配する複数種提示ベクターと組み合わせて、酵母外面アンカータンパク質に融合したアダプター2を含む酵母ヘルパーベクターを使用することによって、酵母提示ライブラリが得られる。本発明の複数種提示ベクターと組み合わせて、哺乳動物外面タンパク質に融合したアダプター2を含む哺乳動物ヘルパーベクターを同時発現させることにより、哺乳動物提示ライブラリを調製することができる。
【0015】
ある実施形態において、本発明は、原核及び真核細胞提示系間で、関心のあるタンパク質のライブラリを移動させるのに適切な異種間提示系を提供する。とりわけ、本発明は、関心のあるポリペプチド配列をコードする発現ベクターを操作する必要のない、原核生物宿主及び真核生物宿主細胞での、関心のあるポリペプチド配列のレパートリーの連続提示のための異種間提示系を提示する。
【0016】
大まかに言えば、本発明の各異種間提示ベクターセットは、1)1以上のプロモーターと、第一のアダプター配列にインフレームで融合した関心のあるタンパク質をコードする異種間発現カセットと、を含む提示ベクターと、2)原核生物宿主により発現される外面タンパク質に融合した、提示ベクターの第一のアダプター配列と対をなし相互作用する第二のアダプター配列からなる融合タンパク質をコードする第一のヘルパーベクターと、3)真核生物宿主細胞により発現される外面タンパク質に融合した、第二のアダプター配列からなる融合タンパク質をコードする第二のヘルパーベクターと、を含む。開示される細菌/酵母異種間提示ベクターは、次の機能的エレメント:酵母プロモーター及び細菌プロモーター、その前方に、細菌/酵母二重機能シグナル配列;関心のある遺伝子;アダプターコード配列;及び酵母転写終結配列を含む。細菌ヘルパーベクターは、アダプター2及び細菌外面タンパク質をコードする遺伝子融合物の少なくとも1コピーを含み、E.コリ細胞でのアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現により、関心のあるタンパク質がE.コリ細胞で細胞表面提示される。従って、酵母細胞でのアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現により、関心のあるタンパク質が酵母細胞上で表面提示される。
【0017】
本発明のこの態様の特定の実施形態は、関心のあるタンパク質又はタンパク質のライブラリを連続的にファージウイルス粒子(原核生物宿主細胞)及び酵母又は哺乳動物細胞の何れか(真核生物宿主細胞)の上で提示するための方法を提供する。一般に、ファージ/哺乳動物異種間提示ベクターは、次の機能的エレメント:(1)哺乳動物プロモーター及び細菌プロモーター、その前方に、(2)細菌/哺乳動物二重機能シグナル配列;(3)関心のある遺伝子;(4)アダプター1コード配列;及び(5)哺乳動物ポリA配列を含む。米国特許第7,175,983号に記載のように、ファージに対するヘルパーベクターは、ウイルス粒子のアセンブリーに必要とされるファージ遺伝子全て及びアダプター2及び外面タンパク質をコードする遺伝子融合物の少なくとも1コピーを含む。哺乳動物細胞に対するヘルパーベクターは、哺乳動物表面アンカーシグナルとのアダプター2融合物を発現するための発現カセットを含む。E.コリ細胞でのアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現により、ファージ粒子上で関心のあるタンパク質が表面提示される。従って、哺乳動物細胞におけるアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現によって、哺乳動物細胞において関心のあるタンパク質が表面提示される。
【0018】
本発明の異種間提示系のある実施形態は、E.コリ及び哺乳動物細胞の表面上でのタンパク質配列のライブラリの連続提示のための系を提供する。開示されるファージ/哺乳動物異種間提示ベクター+(プラス)上記の細菌ヘルパーベクターを用いて、E.コリ細胞でのアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現により、細菌細胞上で関心のあるタンパク質が表面提示される。従って、ファージ/哺乳動物異種間提示ベクター+哺乳動物ヘルパーベクターを用いることにより、哺乳動物細胞におけるアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現によって、哺乳動物細胞上で関心のあるタンパク質が表面提示される。
【0019】
別の実施形態において、本発明は、2種を超える受容宿主細胞上での異種間提示のための方法を提供する。例えば、何らかの組み合わせ又は順序で、ファージ、酵母又は哺乳動物宿主細胞上でタンパク質配列のライブラリを連続的に提示するために、本発明を使用することができる。ファージ/酵母/哺乳動物異種間提示ベクターは:(1)イントロン配列内部の哺乳動物プロモーター、酵母プロモーター及びイントロン後のより短い細菌プロモーター;(2)E.コリ、酵母及び哺乳動物細胞において機能的であるシグナル配列;(3)関心のある遺伝子;(4)アダプター1コード配列;及び(5)転写終結配列を含む。個々の種に対するヘルパーベクターは上記で述べられている。従って、ファージ/酵母/哺乳動物異種間提示ベクター+各種に対する対応するヘルパーベクターを使用することにより、対応する種においてアダプター1及びアダプター2融合物を同時発現させると、ファージ又は酵母細胞又は哺乳動物細胞上で関心のあるタンパク質が表面提示されるようになる。
【0020】
本発明はまた、様々な原核及び真核生物宿主細胞でタンパク質の表面提示を支配するのに適切なヘルパー提示ベクターと組み合わせた異種間及び複数種発現ベクターの特定のセットを含む、本発明の提示ベクターセットを含むキットも提供する。例えば、ファージ及び哺乳動物宿主細胞の表面上でのタンパク質発現ライブラリの連続提示を支配するための用途に適切な異種間提示キットは、適切な包装中に、哺乳動物細胞での細胞表面提示を支配する哺乳動物ヘルパー提示ベクターpMAG2(図5)と組み合わせて、ファージ提示を促進するベクターセットpMAG9(図2)及びGMCT(図4)を含み得る。あるいは、酵母及び哺乳動物細胞上でのタンパク質発現ライブラリの連続提示を支配するための用途に適切な複数種提示キットは、適切な包装中に、哺乳動物提示に対するベクターpMAG9(図2)及びpMAG2(図5)及び酵母提示に対するベクターpMAT5(図10)及びpMAT3(図11)を含むベクターセットを含み得る。
【0021】
本発明の別の実施形態は、本発明のヘルパー提示ベクターを含む宿主細胞を含む。適切な原核生物宿主には、E.コリ細胞又はファージが含まれる。適切な真核生物宿主は酵母細胞又は哺乳動物細胞である。好ましい原核及び真核生物宿主は、線状ファージウイルス及び酵母S.セレビシエ細胞である。
【0022】
本発明のファージ/酵母異種間提示ベクターセットは、一般に、次の機能的エレメント:(1)酵母プロモーター及び細菌プロモーター、その前方に、(2)細菌/酵母二重機能シグナル配列;(3)関心のある遺伝子;(4)アダプター1コード配列;及び(5)酵母転写終結配列を含む。米国特許第7,175,983号に記載のように、ファージに対するヘルパーベクターは、ウイルス粒子のアセンブリーに必要なファージ遺伝子全て及びアダプター2及び外面タンパク質をコードする遺伝子融合物の少なくとも1コピーを含む。酵母S.セレビシエに対するヘルパーベクターは、酵母外壁タンパク質に融合したアダプター2を含む融合タンパク質の発現を支配する発現カセットを含む。E.コリ細胞におけるアダプター1及びアダプター融合物の同時発現によって、ファージ粒子上で関心のあるタンパク質が表面提示される。従って、酵母細胞におけるアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現によって、酵母細胞上で関心のあるタンパク質が表面提示される。
【0023】
本発明はまた、別の種の宿主細胞で可溶性タンパク質を発現するための用途の広い方法も提供する。異種間発現カセットのタンパク質産物に融合した適合性のあるアダプター配列と対をなし相互作用することができるアダプター配列と組み合わせた、外面アンカータンパク質を含む融合タンパク質を含むヘルパーベクターなしで本発明の発現ベクターを使用すると、E.コリ、酵母及び哺乳動物細胞を含む複数の宿主細胞においてタンパク質の可溶性発現が起こる。本発明の複数種及び異種間発現/提示ベクターを使用することにより、ベクターの分子操作を何ら行う必要なく、異なる宿主細胞で連続的に関心のあるタンパク質を産生させることができる。
【0024】
別の実施形態において、本発明は、原核又は真核宿主細胞の2種類の異なる種上で関心のあるタンパク質又は多様性のあるタンパク質のライブラリを提示するために使用することができる、複数種提示方法を提供する。適切な原核細胞には、グラム陰性細菌細胞が含まれる。適切な真核生物宿主には、以下に限定されないがS.セレビシエ細胞などの酵母細胞又は哺乳動物細胞が含まれる。
【0025】
特定の複数種実施形態において、本発明は、酵母及び哺乳動物細胞上での関心のあるタンパク質配列のライブラリの連続的細胞表面提示のための方法を提供する。本発明の酵母/哺乳動物複数種提示ベクターは、次の機能的エレメント:(1)イントロン配列内部の哺乳動物プロモーター及び酵母プロモーター;(2)酵母/哺乳動物二重機能シグナル配列;(3)関心のある遺伝子;(4)アダプター1コード配列;及び(5)酵母及び哺乳動物のための転写終結配列を含む。酵母又は哺乳動物に対するヘルパーベクターは、上記の酵母又は哺乳動物細胞の細胞表面アンカーシグナルとのアダプター2融合物を発現するための発現カセットを含む。従って、対応する種でのアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現によって、酵母細胞又は哺乳動物細胞上での関心のあるタンパク質の表面提示が起こる。
【0026】
従って、本発明は、関心のあるタンパク質のライブラリから所望のタンパク質特性を特徴とする関心のあるタンパク質を単離するために使用することができる方法を提供する。好ましい方法は、ファージ上で提示されるタンパク質配列のライブラリから所望の特性を有するタンパク質を最初に同定すること、及び、続いて酵母又は哺乳動物提示系を用いてリードタンパク質を再評価することである。例えば、ヒトタンパク質を改変するために、大規模なライブラリ(多様性>10e9)をファージ/酵母/哺乳動物異種間提示ベクターで構築する。ファージ提示技術のユニークな長所を利用して、この大規模なライブラリを最初にファージヘルパーベクターでのファージ提示方式で構築することができ、数回のライブラリパニングを行う。このように、小規模の酵母提示ライブラリを構築するために、ファージパニングからのリードライブラリのDNA(多様性<10e6)を直接、酵母ヘルパーベクターで酵母細胞に形質転換する。酵母提示ライブラリのFACSソーティングから単離されるリードは折りたたみ及びグリコシル化などの所望の真核生物特性を有し、これは、機能及び産生などの下流のプロセスにおいて非常に有益となる。さらに、必要に応じて、機能アッセイのために、哺乳動物細胞表面上で酵母提示から単離されたリードを直接提示することができる。
【0027】
本発明はまた、ライブラリの大きさが酵母提示ライブラリの構築に適切である場合、酵母/哺乳動物異種間提示ライブラリからの、所望の結合特異性を特徴とするタンパク質の単離のための方法も提供する。本発明の酵母ヘルパー提示ベクターを用いて、関心のあるタンパク質を含むライブラリを最初に酵母上で提示することができる。続いて、細胞表面提示及び選択の第二回目に対して、酵母ライブラリ選択アッセイから単離されたリードDNAを直接哺乳動物細胞へと形質移入することができる。発現/提示ベクターの分子操作を何ら行う必要なく、上記の異種間(酵母から哺乳動物細胞)を行うことができる。本発明の異種間提示能により、第一の提示系で同定されたリードの機能確認を同時に提供するスクリーニングアッセイを研究者が行えるようになる。
【0028】
別の実施形態において、本発明は、異種間複数種の機能などの所望の特性を有するシグナル配列の単離のための方法を提供する。対応する異種間提示ベクターを用いてシグナル配列のライブラリを構築することができる。対応する種における提示ライブラリのシャトリング選択から、対応する種での機能を有するシグナル配列を単離することができる。
【0029】
発明の詳細な説明
本明細書及び特許請求の範囲において使用する場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈において明確に指示されない限り、複数の意味も含む。本明細書中で使用する場合、「種」という用語は、比較的最近の共通の祖先を有するために、形態学的、解剖学的、生理学的及び遺伝学的に非常に類似している生物の群を指す。様々な種は、通常、その他の違いにかかわらず、共通の生命機能を果たすことにおいて共通の特性を示す。例えば、ヒト細胞とマウス細胞とは、共通のある種の分子標認点を有し、同じ種のメンバーであるとみなされ(即ち哺乳動物細胞)、一方、ヒト細胞と酵母細胞とは、真核宿主細胞の異なる種である。
【0030】
本明細書中で使用する場合、「遺伝子パッケージ」という用語は、関心のあるタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列が発現及び/又は表面提示のためにパッケージ化されている、ウイルス又は細胞を指す。
【0031】
本明細書中で使用する場合、「複数種提示」という用語は、様々なタイプの原核遺伝子パッケージ(即ち、ファージ又は細菌)又は様々なタイプの真核生物宿主細胞(即ち、酵母又は哺乳動物細胞)の表面上でポリペプチド配列のライブラリをコードするポリヌクレオチド配列の様々なレパートリーを研究者が発現させることを可能にする提示ストラテジーを指す。例えば、複数種提示ストラテジーによって、酵母及び哺乳動物細胞の表面上で抗体を提示することが可能となる。
【0032】
本明細書中で使用する場合、「異種間提示」という用語は、原核遺伝子パッケージ及び真核生物宿主細胞の表面上で連続的にポリペプチド配列のライブラリをコードするポリヌクレオチド配列の様々なレパートリーを研究者が提示することを可能にする提示ストラテジーを指す。例えば、異種間提示ストラテジーによって、ファージ上及び連続的に酵母上で抗体ライブラリを提示することが可能となる。
【0033】
「原核細胞系」及び「原核遺伝子パッケージ」という用語は、細菌細胞又は原核ウイルス(ファージ又は細菌胞子など)などの原核細胞を指すために、本明細書中で交換可能に使用される。
【0034】
「真核細胞系」及び「真核宿主細胞」という用語は、動物、植物、真菌及び原生生物及び真核ウイルス(レトロウイルス、アデノウイルス、バキュロウイルスなど)の細胞を含む真核細胞を指すために、本明細書中で交換可能に使用される。
【0035】
本明細書中で使用する場合、「遺伝子」という用語は、タンパク質をコードするDNA配列を指すために使用される。この用語は、RNA転写開始シグナル、ポリアデニル化付加部位、プロモーター又はエンハンサーなどの非翻訳隣接領域を含まない。
【0036】
「発現カセット」という用語は、本明細書中で、組み換えタンパク質/ペプチドを発現させるためにベクターにおいて構築された機能的単位を指すために使用される。これは通常、プロモーター、リボソーム結合部位及び発現標的のcDNAからなる。発現カセットを構築するために、その他の副成分を付加することができる。
【0037】
本明細書中で使用する場合、「ベクター」という用語は、挿入された核酸分子を宿主細胞へ及び/又は宿主細胞間で移動させる核酸分子、好ましくは自己複製するものを指す。通常、ベクターは、複製起点、選択マーカー及び又はウイルスパッケージシグナル及びその他の制御エレメントを含む環状DNAである。ベクター、ベクターDNA、プラスミドDNAは、本明細書の記述において交換可能な用語である。この用語は、細胞へのDNA又はRNAの挿入のために主に機能するベクター、DNA又はRNAの複製のために主に機能するベクターの複製及びDNA又はRNAの転写及び/又は翻訳のために機能する発現ベクターを含む。また、上記機能の複数を与えるベクターも含まれる。
【0038】
本明細書中で使用する場合、「発現ベクター」という用語は、適切な宿主細胞に導入された場合にポリペプチドへと転写及び翻訳され得るポリヌクレオチドである。
【0039】
「発現ベクター」、「複数種発現ベクター」及び「異種間発現ベクター」という用語は、本発明のヘルパーベクターにより産生されるアダプター配列と対をなして会合する能力を特徴とするアダプター配列とインフレームで融合した関心のあるタンパク質の可溶性の発現を支配するベクターを指す。
【0040】
「ヘルパーベクター」という用語は、本発明の発現ベクターにより産生されたアダプター配列と対をなして会合する能力を特徴とするアダプター配列とインフレームで融合したアンカータンパク質を含む融合タンパク質を産生するように設計された遺伝子パッケージ又は宿主細胞特異的ベクターを指す。一時的に同時形質転換することにより、又は恒久的に宿主ゲノムに組み込むことにより、発現ベクターと組み合わせて、ヘルパーベクターを受容宿主細胞に導入することができる。
【0041】
本明細書中で使用する場合、「複数種提示ベクターセット」という用語は、特定の種の遺伝子パッケージ又は宿主細胞の表面上でポリペプチドを提示するように機能する相補的アダプター配列を含むように設計されている発現ベクター及びヘルパーベクターの特定の組み合わせを指す。例えば、哺乳動物提示のための一連のベクター、pMAG9(図2)及びpMAG2(図5)、酵母提示のための一連のベクター、pMAT5(図10)及びpMAT3(図11)である。
【0042】
本明細書中で使用する場合、「異種間提示ベクターセット」という用語は、原核真核細胞系の両方においてポリペプチドを連続提示するように機能する相補的アダプター配列を含むように設計されている発現ベクター及びヘルパーベクターの特定の組み合わせを指す。例えば、ベクターセットpMAG9(図2)及びGMCT(図4)はファージ提示を促進し、一方、pMAG2(図5)と組み合わせたpMAG9の使用は、哺乳動物細胞での細胞表面提示を支配する。
【0043】
本明細書中で使用する場合、「発現系」という用語は、通常、所望の発現産物を産生するように機能できる発現ベクターを含む適切な宿主細胞を指す。
【0044】
本明細書中で使用する場合、「表面抗原」という用語は、細胞の原形質膜成分を指す。これは、原形質膜を構成する、内在性膜タンパク質及び表在性膜タンパク質、糖タンパク質、多糖類及び脂質を包含する。「内在性膜タンパク質」は、細胞の原形質膜の脂質二重層にまたがる膜貫通型タンパク質である。典型的な内在性膜タンパク質は、一般に疎水性アミノ酸残基を含む少なくとも1つの「膜貫通セグメント」からなる。表在性膜タンパク質は、脂質二重層の疎水性の内部には広がらず、これらはその他の膜タンパク質との非共有相互作用により膜表面に結合している。
【0045】
「外面アンカー」という用語は、本明細書中で使用する場合、遺伝子パッケージの外面に組み込まれるか又は連結される、ポリペプチド又はタンパク質又はタンパク質ドメインを指す。これは、天然由来であるか又は何らかの手段により人工的に作製されたものであり得る。この用語は、「表面アンカー配列」又は「シグナルコートタンパク質」、「外面配列」、「外膜タンパク質」、「膜アンカータンパク質」、「アンカータンパク質」、「細胞壁タンパク質」、「GPIアンカーシグナル」、「GPI結合シグナル」及び「シグナルアンカー配列」と交換可能に使用される。
【0046】
「シグナル配列」及び「リーダー配列」という用語は、DNAレベルでより大きいペプチドの成分である分泌ペプチドをコードするDNA配列を指すために本明細書中で交換可能に使用される。これはまた、分泌ペプチドのアミノ酸配列も指し得る。分泌ペプチドの機能は、細胞の分泌経路を通じてより大きいポリペプチドを支配することである。
【0047】
本明細書中で使用する場合、「ポリヌクレオチド」、「核酸」、「ヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」という用語は交換可能に使用される。これらは、何らかの長さの、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドの何れかのヌクレオチド又はその類似体のポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、何らかの3次元構造を有し得、既知又は未知の何らかの機能を果たし得る。次のものは、ポリヌクレオチドの非限定例である:遺伝子又は遺伝子断片のコード又は非コード領域、リンケージ分析から定義される遺伝子座、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組み換えポリヌクレオチド、分枝型ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、何れかの配列の単離DNA、何れかの配列の単離RNA、核酸プローブ及びプライマー。ポリヌクレオチドは、修飾ヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体などを含み得る。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリマーのアセンブリーの前又は後で行われ得る。非ヌクレオチド成分がヌクレオチド配列の途中に入り得る。ポリヌクレオチドは、重合後、標識成分との連結などにより、さらに修飾され得る。
【0048】
本明細書中で使用する場合、「アミノ酸」という用語は、グリシン及びD又はL光学異性体の両方及びアミノ酸類似体及びペプチド模倣体を含む、天然及び/又は非天然又は合成アミノ酸の何れかを指す。
【0049】
本明細書中で使用する場合、「ポリペプチド」、「ペプチド」、「タンパク質」及び「関心のあるタンパク質」という用語は、何れかの長さのアミノ酸のポリマーを指すために、本明細書中で交換可能に使用される。このポリマーは、直線状、環状又は分枝状であり得、これは、修飾アミノ酸を含み得、途中に非アミノ酸が入り得る。この用語はまた、例えば、硫酸化、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、ヨウ素化、メチル化、酸化、タンパク質分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、タンパク質へのトランスファーRNAを介したアミノ酸付加(アルギンニン化など)、ユビキチン化又は標識成分との連結などの何らかのその他の操作などにより修飾された、アミノ酸ポリマーも包含する。
【0050】
本明細書中で使用する場合、「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫的に活性のある部分、即ち、抗原に特異的に結合する(免疫反応する)抗原結合部位を含有する分子を指す。構造的に、最も単純な天然の抗体(例えばIgG)は、ジスルフィド結合により相互連結した、4個のポリペプチド鎖、2個の重(H)鎖及び2個の軽(L)鎖を含む。免疫グロブリンは、IgD、IgG、IgA、IgM及びIgEなどのいくつかのタイプの分子を含む分子の大きなファミリーに相当する。「免疫グロブリン分子」という用語は、例えば、ハイブリッド抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体及びそれらの断片を含む。抗体断片の非限定例には、VL、VH、CL及びCH1ドメインからなるFab断片;(4)VH及びCH1ドメインからなるFd断片;(5)抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなるFv断片;(6)F(Ab’)2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2個のFab断片を含む2価断片;(7)より短いリンカーを有する2個の同一の1本鎖Fvからなるダイアボディ;(8)コイルドコイルドメインのペアの相互作用により安定化されたFvからなるccFv抗体が含まれる。
【0051】
本明細書中で使用する場合、「対をなす相互作用」という用語は、安定な複合体を形成するために、2個のアダプターが、互いに相互作用でき、結合できることを意味する。安定な複合体は、遺伝子パッケージの外面上にポリペプチドをパッケージングできるよう十分に長持ちしなければならない。複合体又は二量体は、どんな条件が存在しても、又は提示されるポリペプチドの形成と検出との時間の間にどんな条件が導入されても(これらの条件は、行われているアッセイ又は反応の機能である。)持ちこたえることができなければならない。
【0052】
本明細書中で使用する場合、「宿主細胞」という用語は、目標ベクターに対する受容者であり得る又は受容者である、個々の細胞又は細胞培養物を含む。宿主細胞には、単一宿主細胞の子孫が含まれる。この子孫は、天然、偶発的又は故意の突然変異のために、起源となる親細胞と必ずしも完全に(形態において又はトータルDNA相補体のゲノムにおいて)同一でなくてもよい。宿主細胞には、本発明のベクターによりインビボで形質移入された細胞が含まれる。
【0053】
本明細書中で使用する場合、「レパートリー」という用語は、機能的又は物理的起源の種々のメンバーの総合的集団を指す。ライブラリは、同種の種々のメンバーの総合的集団である。一般に、レパートリーは、非常に広範で大型の機能的及び物理的背景を示し、従って、これは、機能的に定義されるライブラリを含み得る。例えば、種における免疫グロブリンの全体的な遺伝学的能力は、その免疫グロブリンレパートリーであり;タンパク質改変の目的のために、ライブラリは通常、1又は定義される多くの祖先由来の種々の分子の集団を指す。治療用抗体の作製などの、ある種の実際的な目的のレパートリーには、このような目的のために作製された全てのライブラリが含まれる。
【0054】
本明細書中で使用する場合、「アダプター」という用語は、2個の異なる相互作用するアダプター間で物理的及び/又は機能的な合致に基づき物理的単位を形成するために互いに対をなし相互作用できる、相補的エレメント又は成分を指す。アダプターは、天然又は人工的起源由来の、タンパク質、タンパク質ドメイン、ペプチド、非ポリペプチドの化合物などであり得る。アダプターに対する典型例には、コイルドコイルへテロ二量体を形成する2つの相互作用するポリペプチド、GR1及びGR2など(配列番号19及び20で示される。);c−fos及びc−jun;天然及び人工的ロイシンジッパーなど;リガンドとその同族の受容体との間の特異的結合由来の特異的タンパク質−タンパク質相互作用;機能的単位を形成するための2つの異なるタンパク質のヘテロ二量体複合体など;ビオチン及びストレプトアビジンなどの2つの異なる非ポリペプチド成分からの特異的結合など、が含まれる。本発明に記載の表面提示において使用されるアダプターは宿主種にとって内因性及び/又は外来性であり得、及び/又は人工的なものであり得る。
【0055】
本明細書中で使用する場合、ペプチドの直線状配列は、両配列が実質的なアミノ酸又はヌクレオチド配列相同性を示すならば、別の直線状配列と「基本的に同一」である。一般的に、基本的に同一である配列は、相同領域のアラインメント後、互いに少なくとも約60%同一である。好ましくは、これらの配列は、少なくとも約70%同一;より好ましくは、これらは少なくとも約80%同一;より好ましくは、これらは少なくとも約90%同一;より好ましくは、これらの配列は少なくとも約95%同一;さらにより好ましくは、これらの配列は100%同一である。
【0056】
先行技術の原核生物提示系
ファージ提示
遺伝子パッケージの表面上でのポリペプチドの提示は、ポリペプチド配列のライブラリをスクリーニングするための強力な方法となる。非常に多様な分子のライブラリを構築し、所望の特性を有する分子を選択することができることから、スクリーニング/探索プロトコールならびに分子進化プロトコールを含む多くの応用に対して、この技術が広く利用可能となった。ファージ提示の起源は、ファージコートタンパク質に外来配列を融合させることによりバクテリオファージM13ウイルス粒子の表面上でGeorge Smithが初めてタンパク質の外来セグメントを発現させた、1980年代中頃に遡る(Science(1985)228:1315−1317)。このときから、George Smithの知見に基づき、一連の提示系が開発されてきた。これらの系は、2つのカテゴリーに大きく分類することができる(米国特許第5,969,108号及び同第5,837,500号)。第一世代の系は1−ベクター系である。この系でのベクターは、ファージゲノム全体、その中の挿入物、コートタンパク質遺伝子とインフレームで外来配列を含有する。得られたファージ粒子はファージゲノム全体を担うので、これらは比較的不安定で感染性が低い。第二世代の系は、一般にファージミド系と呼ばれ、2つの成分:(1)ファージ粒子へのファージミドのパッケージングを可能にするためのファージコートタンパク質及びファージ由来複製起点に融合した外来配列を担うファージミドベクター;及び(2)ファージパッケージングに必要とされる全てのその他の配列を担うヘルパーファージを有する。ヘルパーファージは通常、Amersham Pharmacia Biotech製造のM13KO7ヘルパーファージ及びStratagen製造のその誘導体VCSM13などの複製欠損体である。ヘルパーファージによる細菌細胞の重複感染において、ファージミドベクターを担い、外来配列を提示する、新しくパッケージングされたファージが産生される。このように、先行技術のファージミド系は、ファージ外面配列(即ちコート配列)の少なくとも一部への外来配列の融合を必要とする。最もよく使用される融合又は提示部位は、M13バクテリオファージの遺伝子III及びVIII内であるが、遺伝子VI、VII及びIX融合物が報告されている。
【0057】
コートタンパク質融合系の代わりに、融合ファージミド系への様々な修飾が記載されている。Crameriらは、cDNA産物を提示するための系を考案したが、ここでは、ファージミドベクター上で提示されるべき外来配列の隣にFos癌遺伝子が挿入され、同じベクター上で遺伝子IIIの隣にJun癌遺伝子が挿入された(Crameriら(1993)Gene 137:69−75を参照)。Crameriアプローチは、fosとjunタンパク質との間の選択的相互作用を活用し:Fos−外来ポリペプチドが発現され、細胞膜周辺腔に分泌される場合、これがpIII−Junと複合体を形成し、次にこの複合体がM13KO7ヘルパーファージでの重複感染においてファージ粒子にパッケージングされる。
【0058】
Crameri系と同様の別の変法は、WO01/05950、米国特許第6753136号に記載の「システインカップリング」提示系である。外来ポリペプチドの連結及び提示には、細菌細胞膜周辺腔における2個のシステイン残基間のジスルフィド結合の形成が介在し、その一方は外来配列に含有され、他方は外面配列に挿入される。これらの2つの系が外面タンパク質に連結された外来タンパク質を含む融合物の発現を回避するにもかかわらず、これらの系は、提示ベクターにおいてコートタンパク質pIIIが構成的に発現されるため、宿主細胞に対するコートタンパク質の毒性を最小限に抑えることはできない。さらに、2個のシステイン残基間のジスルフィド結合の形成には、外来配列及びコートタンパク質pIIIの両方が高レベルで発現される必要がある。従って、低発現のものは何れも提示することができない。
【0059】
最近、Wangらは、アダプターに支配される提示系に基づく代替的ファージ提示系を記載した(米国特許第7,175,983号)が、これには:(a)第一のアダプター配列にインフレームで融合した外来ポリペプチドをコードするコード配列を含む発現ベクター;(b)ファージ粒子をパッケージングするのに必要な外面タンパク質をコードする外面配列を含むヘルパーベクターが含まれ、外面タンパク質の1つが第二のアダプターにインフレームで融合している。従って、外来ポリペプチドの提示は、第一と第二のアダプターとの間の対をなす相互作用によって達成される。
【0060】
E.コリ提示
E.コリの表面上でのポリペプチドの提示は、ファージ提示技術に対する代替物として開発された。ファージ提示と同様に、細菌提示は、様々な遺伝学的ツール及び突然変異株が利用可能であり、形質転換効率が高く、そのため大規模なライブラリ構築及びスクリーニングに理想的であるので、魅力的な方法である。グラム陰性細菌において、提示されるべきタンパク質の様々なアンカータンパク質への融合に基づく表面提示系が報告されており、そこでは、外膜タンパク質(Chang及びLo 2000、J Biotechnol 78:115−122;Leeら、2004、Appl Environ Microbiol 70:5074−5080)、線毛及び鞭毛(Westerlund−Wikstromら、1997、Protein Eng 10:1319−1326)、修飾リポタンパク質(Georgiouら、1996、Protein Eng 9:239−247)、氷核タンパク質(Jungら、1998、Nat Biotechnol 16:576−580)及びオートトランスポーター(Veigaら、2003、J Bacteriol 185:5585−5590)が提示のためのアンカーとして使用された。
【0061】
先行技術の真核提示系、酵母提示
真核生物宿主細胞、サッカロミセス・セレビシエの細胞壁での異種タンパク質の提示は、細胞壁タンパク質α−アグルチニンAGA1のC末端半分へのα−ガラクトシダーゼの融合によって、1993年に最初に記載された(Schreuder MPら、Yeast 9:399−409)。これ以来、様々な細胞ウェルタンパク質(cell well proteins)への関心のあるタンパク質の融合に基づく様々な酵母提示系が報告された(Kondo Mら、概説)。酵母に対して開発された細胞−表面提示系は殆ど全て、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー依存性である。10を超える、C末端に推定GPI連結シグナルのある酵母細胞ウェルタンパク質が、ペプチド及びタンパク質を提示できることが証明されているが、これには、S.セレビシエにおける、a−アグルチニン(Aga1及びAga2)、Cwp1、Cwp2、Gas1p、Yap3p、Flo1p、Crh2p、Pir1、Pir2、Pir4及びIcwp;メタノール資化酵母(ハンセヌラ・ポリモルファ)における、HpSED1、HpGAS1、HpTIP1、HPWP1及びカンジダ・アルビカンスにおける、Hwp1p、Als3p、Rbt5pが含まれる。今日まで、酵母細胞表面上で20を超える外来タンパク質の提示に成功している。
【0062】
上記の細胞−表面提示系全ての中で、a−アグルチニン受容体に基づくDane Wittrupにより作製された系が、scFv抗体及び抗体ライブラリなど、様々なペプチド及びタンパク質を提示するために広く使用されてきた(米国特許第6300065号、同第6423538号、同第6696251号及び同第6699658号)。S.セレビシエにおいて、a−アグルチニン受容体は、細胞−細胞相互作用を安定化し、接合「a」及びα半数体酵母細胞の間の融合を促進するための接着分子として作用する。この受容体は、コアサブユニットAga1及び小サブユニットAga2からなる。この細胞からAga1が分泌され、そのGPIアンカー−連結シグナルを通じて、酵母細胞壁の細胞外マトリクスにおいてO−結合型グルカンに共有結合するようになる。Aga2は、2個のジスルフィド結合を通じて、おそらく、ゴルジ体において、Aga1に結合し、分泌後、Aga1を介して細胞に連結し続ける。この酵母提示系は、Aga2サブユニットとのタンパク質の融合を通じて酵母細胞表面上で組み換えタンパク質を提示するために、Aga1及びAga2タンパク質の会合を利用する。
【0063】
Wittrupの系は、免疫グロブリンFab断片などの複数鎖ポリペプチドに適している(Huftonら、米国特許出願20030186374 A1)。Huftonらは、真核細胞での使用に適切な提示系の基礎としてFos/Jun相互作用をおそらく使用できるであろうことに言及している。しかし、Huftonらは、真核宿主細胞でのタンパク質提示を支配するためにFos/Jun相互作用がどのように利用され得るかを実現する説明を提供しなかった。しかし、参考文献は、Dane Wittrupにより開発された、Fab抗体の酵母提示に対するAg2融合の使用法(米国特許第6300065号、同第6423538号、同第6696251号及び同第6699658号)及び分子クローニングによるファージ提示ベクターから酵母ベクターへの遺伝子移入法のみを教示する。
【0064】
哺乳動物提示
細胞表面受容体の膜ドメイン(Chesnutら、1996、J Immunological Methods;Hoら、2006、PNAS 03:9637−9642)、GPIアンカー配列(米国特許6838446号)、非開裂型タイプIIシグナルアンカー配列(米国特許7125973号)を含む様々な膜アンカータンパク質への融合により哺乳動物細胞の表面上でのタンパク質の提示を遂行するために、多くのアプローチが使用されてきた。典型例は、pDisplayベクターであり、これは、哺乳動物細胞表面上でタンパク質を提示するための、Invitrogen Corp.からの市販ベクターである。このベクターにおいて、関心のあるタンパク質を細胞表面受容体PDGFRの膜ドメインと融合させる。米国特許第6919183号において別のアプローチもまた報告された。この系において、細胞表面はタンパク質Gなどの分子を捕捉し、タンパク質Aは、哺乳動物細胞表面上で抗体分子を捕捉するために使用される。
【0065】
本発明の複数種及び異種間提示系
ファージ提示は、受容体リガンド選択、抗体操作及びタンパク質エピトープ同定などの様々な適用に対して最もよく使用される系である。利便性及びファージ遺伝子操作の効率ゆえに、サイズ109の大型の多様なライブラリを1つのファージライブラリにおいて作製することができる。しかし、ファージ系を使用することができるのは、翻訳後修飾及びその他の細胞内プロセシングが必要ないか所望されない状況においてのみである。抗体断片などの殆どの真核タンパク質の場合、これらの生物学的機能は、グリコシル化などの細胞内プロセシングと関与する。さらに、真核タンパク質の一部は原核細胞において機能的に折りたたまれ得ない。
【0066】
真核細胞の表面上での外来タンパク質の提示により、原核細胞系の制限を克服することができる。これにより、発現される真核タンパク質の折りたたみ及びグリコシル化が可能となり、比較的大きなタンパク質の提示が可能となる。しかし、真核細胞形質転換の効率が低いことから、実現できるライブラリは非常に小さいサイズに限定されており、これによって、ファージ提示が提供できる規模に匹敵し得ない。
【0067】
従って、様々な適用に対する原核及び真核両方の提示技術の力を合わせた提示系の開発は根本的な難題である。関心のあるタンパク質が特異的外面配列と融合される場合、このタンパク質を提示できるのは、対応する種の表面上のみである。ファージ提示から酵母提示に移すために、Huftonら(米国特許出願第20030186374 A1号)は、消化及び核酸連結を通じて原核提示ベクター(ファージpIIIコートタンパク質融合ベクター)から真核提示ベクター(酵母Aga2融合ベクター)に関心のある遺伝子を移すための方法を記載した。
【0068】
本発明は、複数種提示を行うことができる新しい提示系を提供する。より具体的に、DNA消化及びクローニングなどの分子操作を何ら行わずに、同じ提示ベクターを用いて、ファージ及び細菌細胞又は/及び酵母細胞又は/及び哺乳動物細胞などの、複数種の表面上で関心のあるタンパク質を提示することができる。さらに、この提示系は、異種間提示法の機能を提供する。例えば、開示されるベクターセットを用いて、ファージ又は細菌細胞などの原核細胞系において関心のあるタンパク質を提示することができ、続いて、ベクターの分子操作を何ら行うことなく、このタンパク質又は、タンパク質の組み換えライブラリの場合、関心のあるタンパク質(複数形)を、酵母又は哺乳動物細胞などの真核細胞の表面上で提示することもできる。本発明の各提示系は、提示ベクターの特定のセットを利用する。本発明の様々なベクターセットは、特定の遺伝子パッケージ又は宿主細胞に特異的なヘルパーベクターと組み合わせて、第一のアダプター(即ちアダプター1)に融合したポリペプチド配列のライブラリをコードする複数種発現ベクターを含む。各ヘルパーベクターは、第二のアダプター(即ちアダプター2)に融合した細胞表面アンカータンパク質を含む。本明細書中で示されるように、対応するアダプターを含むヘルパーベクターと組み合わせた複数種提示ベクターの同時発現によって、アダプター(即ちアダプター1及びアダプター2)の対をなす相互作用を介してその表面上で提示されるポリペプチド配列のレパートリーを有する遺伝子パッケージ(又は宿主細胞)集団が作製される。
【0069】
ベクターの成分
アダプター
本提示系の提示及びヘルパーベクターを構築するために適用可能なアダプター配列は、様々な起源由来であり得る。一般に、安定した多量体の形成に関与する何らかのタンパク質配列はアダプター配列候補である。このように、これらの配列は、何らかのホモ多量体又はヘテロ多量体タンパク質複合体由来であり得る。代表的ホモ多量体タンパク質は、ホモ二量体受容体(例えば血小板由来増殖因子ホモ二量体BB(PDGF)、ホモ二量体転写因子(例えばMaxホモ二量体、NF−κBp65(RelA)ホモ二量体)及び増殖因子(例えば神経栄養因子ホモ二量体)である。ヘテロ多量体タンパク質の非限定例は、タンパク質キナーゼ及びSH2−ドメイン含有タンパク質の複合体(Cantleyら(1993)Cell 72:767 778;Cantleyら、(1995)J.Biol.Chem.270(44):26029 26032)、ヘテロ二量体転写因子及びヘテロ二量体受容体である。
【0070】
以下に限定されないが、増殖因子に結合する受容体(例えばヘレグリン)、神経伝達因子(例えばγ−アミノ酪酸)及びその他の有機又は無機小分子(例えば鉱質コルチコイド、糖質コルチコイド)を含む、非常に多数のヘテロ二量体受容体が知られている。好ましいヘテロ二量体受容体は、核ホルモン受容体(Belshawら(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 93(10):4604−4607)、erbB3及びerbB2受容体複合体及びG−タンパク質共役受容体(以下に限定されないが、オピオイド(Gomesら、(2000)J.Neuroscience 20(22):RC110);Jordanら、(1999)Nature 399:697 700)、ムスカリン、ドーパミン、セロトニン、アデノシン/ドーパミン及びGABA.sub.Bの受容体ファミリーを含む。)である。既知のヘテロ二量体受容体の大多数の場合、それらのC末端配列がヘテロ二量体形成に介在することが分かっている。
【0071】
GABAB−R1/GABA−R2受容体は、上記の物理的特性を示す。これらの2つの受容体は、基本的に、生理的条件下(例えばインビボ)及び生理的体温でホモ二量体を形成することができない。Kunerら及びWhiteらによる研究(Science(1999)283:74 77);Nature(1998)396:679 682))は、インビボでのGABABR1及びGABABR2Cのヘテロ二量体形成特異性を示した。実際、Whiteらは、このヘテロ二量体受容体ペアの独占的な特異性に基づき、酵母細胞からGABA.sub.B−R2をクローニングすることができた。Kammererら(Biochemistry、1999、38:13263-13269)によるインビトロ実験は、生理的体温でアッセイした場合、生理的緩衝液条件下でGABAB−R1及びGABAB−R2C末端配列の両方とも、ホモ二量体を形成することができないことを示した。具体的に、Kammererらは、沈降実験によって、GABAB受容体1及び2のヘテロ二量体形成配列は、単独で試験した場合、生理的条件下及び生理的体温で単量体の分子量で沈降することを明らかにした。等モル量で混合した場合、GABAB受容体1及び2ヘテロ二量体形成配列は、この2つの配列のヘテロ二量体に対応する分子量で沈降する(Kammererらの表1参照)。しかし、GABABR1及びGABABR2C末端配列がシステイン残基に連結される場合、ジスルフィド結合の形成を介してホモ二量体が生じ得る。
【0072】
本提示系において、アダプターとして多量体形成に関与する多様なコイルドコイルを使用することができる。好ましいコイルドコイルはヘテロ二量体受容体由来である。従って、本発明は、GABAB受容体1及び2由来のコイルドコイルアダプターを包含する。ある態様において、本コイルドコイルアダプターは、本明細書中でGR1と呼ばれるGABAB受容体1のC末端配列(配列番号19)EEKSRLLEKENRELEKIIAEKEERVSELRHQLQSVGGC及び本明細書中でGR2と呼ばれるGABAB受容体2の配列(配列番号20)TSRLEGLQSENHRLRMKITELDKDLEEVTMQLQDVGGCを含む。
【0073】
この例は、アダプター配列の同じ対を含むベクターセットの使用を述べるが(発現ベクター1に関連してアダプター1と呼ばれ、ヘルパー提示ベクターに関連してアダプター2と呼ばれる。)、代替的アダプターを用いて、本明細書中に記載のベクターを調製することができ、本発明の方法を実施することができることを理解されたい。例えば、本明細書中で提供される開示に基づき、適切なアダプター配列は、例えばWinzip−A2B1(Katja M Arndtら、Structure、2002、10:1235−1248);Winzip−A1B1(Katja M Arndtら、JMB、2000、295:627−639);FNfn10(Sanjib Duttaら、Protein Science、2005、14:2838−2848)、IAAL−E3/K3(Jenifer R.Litowski及びRobert S Hodges、JBC、2002、277(40):37272−37279)、PcrV/PcrG(Max Nanaoら、BMC Microbiology、2003:1−9)、bZip及び誘導体(Jumi A.Shin、Pure Appl.Chem.、2004、76(7−8):1579−1590)、ESCRT−I/II(David J.Gillら、The EMBO Journal、2007、26:600−612)、EE1234/RR1234及び誘導体(Johnthan R.Mollら、Protein Science、2001、10:649−655)、Laminin a、b、g(Atsushi Utaniら、JBC 1995、270(7):3292−3298)、ペプチドA/B及び誘導体(Ilian Jelesarov及びHans Rudolf Bosshard、JMB、1996、263:344−358)、人工的に設計されたペプチド(Derek N.Woolfson及びTom Alber、Protein Science、1995、4:1596−1607)、DcoH−HNF−pl(Robert.B.Roseら、Nat.Struct.Biol.、2000、7(9):744−748)及びAPCペプチド(Catherine L.Day及びTom Alber、JMB、2000、301:147−156)を含む多くのコイルドコイルドメインの何れか由来であり得る。
【0074】
アダプターサブユニットの特定のペアと会合するアダプターサブユニット相互作用の親和性に依存して、生じたコイルドコイル相互作用を安定させるためにジスルフィド結合を使用する必要がなくなり得る。例えば、上記で列挙するコイルドコイルドメインの一部に対する文献で報告される親和性は、.00001nMから70nM(Winzip−A2B1に対して4,5nM、Winzip−A1B1に対して24nM、FNfn10に対して3nM、IAAL−E3/K3に対して70nM、PcrV/PcrGに対して15,6nM及びEE1234/RR1234及び誘導体に対して0.0001nM)の範囲である。アダプターとしての使用に適切な代替的ヘテロ二量体転写因子には、α−Pal/Max複合体及びHox/Pbx複合体が含まれる。Hoxは、胚形成中、前後軸のパターン形成に関与する転写因子の大きなファミリーに相当する。Hoxタンパク質は、保存された3個のアルファへリックスホメオドメインを有するDNAと結合する。特異的DNA配列と結合するために、Hoxタンパク質は、Pbxホメオドメインなどのヘテロ−パートナーの存在を必要とする。Wolbergerらは、Hox−Pbx複合体形成がどのように起こり、この複合体がどのようにDNAに結合するかを理解するために、HoxB1−Pbx1−DNA三次元複合体の2.35.ANG.結晶構造を解析した。この構造から、各タンパク質のホメオドメインが、DNAの反対側において、隣接認識配列に結合することが示される。ヘテロ二量体形成は、HoxB1のホメオドメインに対する6個のアミノ酸ヘキサペプチドN−末端の間に形成される接触及びヘリックス3とへリックス1及び2との間に形成されるPbx1のポケットを通じて起こる。Pbx1ホメオドメインのC末端伸長によって、へリックス1に対して密集するアルファへリックスが形成され、より大きな4個のへリックスホメオドメインが形成される(Wolbergerら、(1999)Cell 96:587 597;Wolbergerら、J Mol Biol.291:521 530)。
【0075】
例えば、新規へテロ多量体タンパク質からの配列をアダプターとして使用することができる。このような状況において、ヘテロ多量体の形成に関与する候補配列の同定は、過度の実験を行わずに、何らかの遺伝学的又は生化学的アッセイにより行うことができる。さらに、コンピュータモデリング及び検索技術によって、さらに、関連及び非関連遺伝子で見られる共通ドメインの配列相同性に基づくヘテロ多量体配列の検出が容易になる。相同性検索を可能にするプログラムの非限定例は、Blast(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)、Fasta(Genetics Computing Group package、Madison、Wis.)、DNA Star、Clustlaw、TOFFEE、COBLATH、Genthreader及びMegAlignが含まれる。標的受容体又はそのセグメントに対応するDNA配列を含有する何らかの配列データベースを配列分析のために使用することができる。一般によく使用されるデータベースには、以下に限定されないが、GenBank、EMBL、DDBJ、PDB、SWISS−PROT、EST、STS、GSS及びHTGSが含まれる。
【0076】
ヘテロ二量体形成配列由来の適切なアダプターは、その物理的特性に基づくさらなる特徴を有する。好ましいヘテロ二量体形成配列は、対をなす親和性を示し、結果として、ホモ二量体は実質的に除外され、ヘテロ二量体の形成が主となる。好ましくは、主な形成は、生理的緩衝液条件下及び/又は生理的体温で形成することを可能とする、少なくとも60%のヘテロ二量体、より好ましくは少なくとも80%のヘテロ二量体、より好ましくは85−90%の間のヘテロ二量体及びより好ましくは90−95%の間のヘテロ二量体及びさらにより好ましくは96−99%の間のヘテロ二量体を含有するヘテロ多量体プールをもたらす。本発明のある実施形態において、アダプターペアのヘテロ二量体形成配列の少なくとも1つは、生理的緩衝液条件下及び/又は生理的体温でホモ二量体を形成することが基本的に不可能である。「基本的に不可能」とは、選択されたへテロ二量体形成配列が、単独で試験した場合、Kammererら、(1999)Biochemistry 38:13263 13269)で詳述されるようなインビトロ沈降実験又はインビボ2−ハイブリッド酵母分析(例えばWhiteら、Nature(1998)396:679−682参照)において検出可能量のホモ二量体が生成されないことを意味する。さらに、個々のヘテロ二量体形成配列を宿主細胞で発現させることができ、宿主細胞におけるホモ二量体の欠如は、以下に限定されないが、SDS−PAGE、ウエスタンブロット及び免疫沈降を含む様々なタンパク質分析によって示すことができる。インビトロアッセイは、生理的緩衝条件下及び/又は好ましくは生理的体温において実行しなければならない。一般に、生理的緩衝液は、塩の生理的濃度を含有し、約6.5から約7.8、好ましくは約7.0から約7.5の範囲の中性pHに調整される。様々な生理的緩衝液はSambrookら(1989)前出で挙げられており、従って、本明細書中では詳述しない。好ましい生理的条件は、Kammererら(Biochemistry、1999、38:13263−13269)で述べられている。
【0077】
アダプターはさらにその二次構造に基づく特徴を有する。好ましいアダプターは、コイルドコイルへリックス構造に適した両親媒性ペプチドからなる。へリックスコイルドコイルは、タンパク質における主要なサブユニットオリゴマー形成配列の1つである。一次配列分析から、全タンパク質残基のおよそ2 3%がコイルドコイルを形成することが分かる(Wolfら、(1997)Protein Sci.6:1179 1189)。よく特徴が分かっているコイルドコイル含有タンパク質には、細胞骨格ファミリーのメンバー(例えばアルファ−ケラチン、ビメンチン)、細胞骨格モーターファミリー(例えばミオシン、キネシン及びダイニン)、ウイルス膜タンパク質(例えばエボラ又はHIVの膜タンパク質)、DNA結合タンパク質及び細胞表面受容体(例えばGABAB受容体1及び2)が含まれる。
【0078】
本発明のコイルドコイルアダプターは、左巻き及び右巻きコイルドコイルという2つの群に大きく分類することができる。左巻きコイルドコイルは、好ましくは第一(a)及び第四(d)の位置に位置する無極性残基が生じる、「abcdefg」で表される7残基反復を特徴とする。これらの2箇所の残基は通常、ぴったりとした疎水性コアを形成するために他方のスタンドのものとかみ合う「取っ手と穴」のジグザグパターンを構成する。一方、コイルドコイルの周囲をカバーする第二(b)、第三(c)及び第六(f)の位置は、好ましくは荷電残基である。荷電アミノ酸の例には、リジン、アルギニン、ヒスチジンなどの塩基性残基及び、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミンなどの酸性残基が含まれる。ヘテロ二量体コイルドコイルを設計するのに適切な非電荷又は無極性アミノ酸には、以下に限定されないが、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン及びスレオニンが含まれる。非電荷残基は一般に疎水性コアを形成するが、一方、全体的へリックコイルドコイル構造を安定化させるために、コア位置でさえも荷電残基を含む、へリックス間及びヘリックス内塩−架橋を使用し得る(Burkhardら(2000)J.Biol.Chem.275:11672 11677)。様々な長さのコイルドコイルを使用し得るが、本コイルドコイルアダプターは、好ましくは、2から10の7残基反復を含有する。より好ましくは、このアダプターは、3から8の7残基反復を含有し、さらにより好ましくは、4から5の7残基反復を含有する。
【0079】
最適なコイルドコイルアダプターの設計において、ペプチドの二次構造を予想する様々な既存のコンピュータソフトウェアプログラムを使用することができる。実例となるコンピュータ分析は、アミノ酸配列を既知の2本鎖コイルドコイルのデータベース中の配列と比較し、高確率のコイルドコイルストレッチを予想する、COILSアルゴリズムを使用する(Kammererら、(1999)Biochemistry 38:13263 13269)。設計及び選択に基づき、ナノモルからフェントモル(fentomole)領域の親和性を有する様々な改変コイルドコイル配列が報告された(Structure.2002、10(9):1235−48;J Mol Biol.2000、21;295(3):627−39;Protein Sci.2005、14(11):2838−48;J Biol Chem.2002、277(40):37272−9;BMC Microbiol.2003、18;3:21;Protein Science、2001、10:649−655)。例えば、ヒトB−ZIP由来の再設計ヘテロ二量体コイルドコイル配列の解離定数はフェントモルであり、これは、ビオチン/ストレプトアビジン相互作用に対するものと同様である。
【0080】
好ましいコイルドコイルアダプターの別のクラスは、ロイシンジッパーである。ロイシンジッパーは、当技術分野で、6個のアミノ酸で互いに隔てられている4−5個のロイシン残基を含有する約35アミノ酸の一続きとして定義されている(Maniatis及びAbel、(1989)Nature 341:24)。ロイシンジッパーは、GCN4、C/EBP、c−fos遺伝子産物(Fos)、c−jun遺伝子産物(Jun)及びc−Myc遺伝子産物などの様々な真核細胞DNA−結合タンパク質で生じることが分かった。これらのタンパク質において、ロイシンジッパーは、ロイシンジッパーを含有するタンパク質が安定したホモ二量体及び/又はヘテロ二量体を形成し得る、二量体形成面を生成させる。2個の癌原遺伝子、c−fos及びc−junによりコードされるタンパク質産物の分子分析から、このような選択的ヘテロ二量体形成のケースが明らかになった(Gentzら、(1989)Science 243:1695;Nakabeppuら(1988)Cell 55:907;Cohenら(1989)Genes Dev.3:173)。Fos及びJunのロイシンジッパー領域を含む合成ペプチドはヘテロ二量体形成に介在することも分かっており、分子間ジスルフィド結合を可能にするために合成ペプチドそれぞれのアミノ末端がシステイン残基を含む場合、ヘテロ二量体形成が起こり、ホモ二量体形成が実質的に排除される。
【0081】
本発明のロイシン−ジッパーアダプターは、7残基の繰り返しとして知られる一般構造式(ロイシン−X.sub−X.sub1−X.sub.3−X.sub.4−X.sub.5−X.sub.6).sub.nを有するが、式中、Xは、従来の20種類のアミノ酸の何れかであり得るが、例えばアラニン、バリン、アスパラギン酸、グルタミン酸及びリジン及びなど、アルファ−へリックス形成能のあるアミノ酸である可能性が最も高く、nは2以上であるが、通常nは3から10、好ましくは4から8、より好ましくは4から5である。好ましい配列は、Fos又はJunロイシンジッパー配列である。
【0082】
L及びH鎖の二量体化に関与する抗体鎖の配列も、本提示系を構築するためにアダプターとして使用することができる。これらの配列には、以下に限定されないが、L又はH鎖の定常領域配列が含まれる。さらに、アダプター配列は、抗原−結合部位配列及びその結合抗原由来であり得る。このような場合、その対の一方のアダプターは、対応する抗原残基を含有する他方のアダプターにより認識される(即ち、安定して会合できる)抗原結合部位アミノ酸残基を含有する。
【0083】
第一と第二のアダプターとの間の対をなす相互作用は共有又は非共有相互作用であり得る。非共有相互作用は、結果として共有結合が形成されない全ての既存の安定的連結を包含する。非共有相互作用の非限定例には、静電結合、水素結合、ファンデルワールス力、両親媒性ペプチドの立体相互嵌合が含まれる。一方、共有相互作用の結果、以下に限定されないが、2個のシステイン残基間のジスルフィド結合、2個の炭素含有分子間のC−−C結合、炭素とそれぞれ酸素又は水素含有分子との間のC−−O又はC−−H及び酸素とリン酸含有分子との間のO−−P結合を含む共有結合が形成される。
【0084】
遺伝子の巨大なファミリーにおける豊富な遺伝学及び生化学データに基づき、当業者は、過度な実験を行わずに、本提示系を構築するために、適切なアダプター配列を選択し、得ることができる。
【0085】
外面アンカータンパク質
ファージ提示のための適切なアンカータンパク質には、何れかのコートタンパク質、例えばpIII、pVI、pVII、pVIII及びpIXなど、又はこのようなコートタンパク質のドメイン又は発明者らのファージ粒子の表面に集合させられるかもしくはこれに連結される何らかの人工配列が含まれる。本明細書中の実施例7で示されるように、ヘルパーベクター YGMCTを用いることにより、ファージ上でscFv抗体が提示されたが、この場合、外膜アンカータンパク質は図4で示されるpIIIのC末端ドメインである。
【0086】
細菌提示のための適切なアンカータンパク質には、細菌外膜タンパク質、例えば、線毛及び鞭毛、リポタンパク質、氷核タンパク質及びオートトランスポーターが含まれる。あるいは、このアンカータンパク質は、E.コリの外面に集合させられるか又はこれに連結される人工配列であり得る。本明細書中で示されるように、実施例29−32は、ヘルパーベクターpMAL1及びpMAL2を用いることによるscFv抗体提示を示し(図15)、この場合、細菌外面ドメインLpp−OmpAは外面アンカータンパク質である。
【0087】
酵母提示の場合、適切な外面アンカータンパク質は、GPIシグナルを有するか又は持たない外壁タンパク質の何れかであり得、これには、S.セレビシエにおける、a−アグルチニン(Aga1及びAga2;注記:GPIありでAga1及びGPIなしでAga2)、Cwp1、Cwp2、Gas1p、Yap3p、Flo1p、Crh2p、Pir1、Pir2、Pir4及びIcwp;メタノール資化酵母(ハンセヌラ・ポリモルファ)における、HpSED1、HpGAS1、HpTIP1、HPWP1及びカンジダ・アルビカンスにおける、Hwp1p、Als3p、Rbt5pが含まれる。あるいは、本発明の方法は、酵母の外壁に集合させられるか又はこれに連結させることができる人工配列である細胞表面アンカーを用いて、酵母に関連して実施することができる。本明細書中で示されるように、実施例18は、ヘルパーベクターpMAT3又はpMAT7又はpMAT8を使用することによるscFv抗体の酵母提示を示すが、この場合、酵母外面アンカータンパク質は、図11で示される、Flo1又はCwp2又はAga2のC末端ドメイン由来である。
【0088】
表面アンカーとして、何らかの既知の細胞膜タンパク質の膜貫通ドメイン又はGPIアンカー配列を有するポリペプチド又は非切断タイプIIシグナルアンカー配列を用いて、哺乳動物細胞表面提示を実施することができる。あるいは、本発明の方法は、哺乳動物細胞の細胞膜に集合させるか又はこれに連結させることができる人工配列である細胞表面アンカーを用いて、哺乳動物細胞に関連して実施することができる。本明細書中で示されるように、実施例8は、ヘルパーベクターpMAG2(図5)を使用することによる、哺乳動物細胞上でのscFvタンパク質の提示を示し、この場合、アダプター2に融合するヒトEGF受容体の膜貫通ドメインが提示のための表面アンカーとして使用される。
【0089】
シグナル配列
同じ一般的な系列に従って、原核及び真核両方からのシグナル配列が構築される。これらは、約15−30アミノ酸長であり、3つの領域:正荷電N末端領域、中央の疎水性領域及びより極性が大きいC末端領域からなる。原核及び真核細胞系のシグナルペプチド間で、大きな機能的及び構造相同性がある。従って、一部のネイティブシグナルペプチドが原核及び真核細胞の両方で機能すると予想される。
【0090】
予想と一致して、一部の真核シグナルペプチドは、原核細胞において機能的であることが報告されている。例えば、ヒト成長ホルモン(hGH)及びラットプロインスリンタンパク質からのシグナルペプチドはE.コリで機能し(Gene、1985、39:247−254);エンド−β−1,3−グルカナーゼの酵母シグナルペプチドもまたE.コリで機能的である(Protein Exp.Puri.、2000、20:252−264)。さらに、ブドウ球菌タンパク質A、細菌b−ラクタマーゼタンパク質及び細菌OmpAの原核シグナルペプチドは哺乳動物細胞で機能的である(Humphreysら、Protein Exp.Purif.2000、20:252−264)。本明細書中で示されるように、実施例6及び7は、ヒト成長ホルモン1からのシグナルペプチドがscFv分泌及びファージ提示に対してE.コリ細胞において機能したことを示した。同様に、エンド−β−1,3−グルカナーゼの酵母シグナルペプチドは、本発明において実施例16及び17で示されたscFv分泌及びファージ提示について、E.コリにおいて機能的であった。
【0091】
酵母及び哺乳動物細胞の間にわたり作用するシグナルペプチドの例は、ヒト膵臓リパーゼタンパク質1(HPLRP1)、ヒトインターフェロン、ヒト胆汁塩刺激性リパーゼ及び酵母サッカロミセス・セレビシエ インベルターゼ(SUC2)に対するシグナルペプチドである(Tohoku J Exp Med、1996、180:297−308;Protein Exp.Puri.、2006、47:415−421;Protein Exp.Purif、1998、14:425−433)。本明細書中で示されるように、実施例22は、酵母/哺乳動物異種間提示のためのヒト膵臓リパーゼタンパク質1のシグナルペプチドの使用を示す。
【0092】
本発明の複数種発現ベクターのためのシグナルペプチドとして、複数種で機能する能力について上記で同定されたネイティブシグナルペプチドの何れかを使用し得る。さらに、本明細書中で開示される方法を実施するために、様々な種の宿主細胞間で機能する能力を特徴とする人工シグナルペプチド配列を使用することもできる。この開示の実施例28に記載の方法又は何らかのその他の方法によって、設計シグナルペプチドライブラリから人工シグナルペプチドを単離し得る。
【0093】
本発明のベクターは、一般に、外来ポリペプチドを発現させるのに必要とされる転写又は翻訳調節配列を含む。適切な転写又は翻訳調節配列には、以下に限定されないが、複製起点、プロモーター、エンハンサー、リプレッサー結合領域、転写開始部位、リボソーム結合部位、翻訳開始部位及び転写及び翻訳に対する終結部位が含まれる。
【0094】
複製起点(一般にori配列と呼ばれる。)により、適切な宿主細胞において、ベクターの複製が可能になる。oriの選択は、使用される宿主細胞及び/又は遺伝子パッケージのタイプに依存する。宿主細胞が原核細胞であり、遺伝子パッケージがファージ粒子である場合、発現ベクターは通常、2個のori配列を含み、1つは原核細胞内でのベクターの自己複製を支配し、他方のoriはファージ粒子のパッケージングを支持する。好ましい原核細胞oriは、細菌細胞においてベクター複製を支配することができる。oriのこのクラスの非限定例には、pMB1、pUCならびにその他のE.コリ起点が含まれる。ファージ粒子のパッケージングを支持する好ましいoriには、以下に限定されないが、f1、ori、Pf3ファージ複製oriが含まれる。ファージ提示のために、本発明において、例えば、pUC ori及びf1 oriが、異種間発現ベクターにおいて構築される。
【0095】
真核細胞系において、高等真核細胞は、複数のDNA複製起点を含有する(104−106ori/哺乳動物ゲノムと推定される。)が、ori配列はあまり明確に定められていない。哺乳動物ベクターに対する適切な起点は通常、真核ウイルス由来である。好ましい真核oriには、以下に限定されないが、SV40 ori、EBV ori、HSV oriが含まれる。酵母細胞に対する適切なoriには、以下に限定されないが、2u ori CEN6/ARS4 oriが含まれる。
【0096】
本明細書中で使用する場合、「プロモーター」という用語は、ある種の条件下でRNAポリメラーゼに結合し、プロモーターから下流(3’方向)に位置するコード領域の転写を開始することができるDNA領域である。これは構成的又は誘導可能であり得る。一般に、プロモーター配列は、転写開始部位がその3’末端で結合し、バックグラウンドを上回る検出可能なレベルで転写を開始するのに必要な最小限の塩基又はエレメントを含むように上流に伸びる(5’方向)。プロモーター配列内部は、転写開始部位ならびに、RNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク質結合ドメインである。
【0097】
真核プロモーターは、必ずしもそうではないが、「TATA」ボックス及び「CAT」ボックスを含有することが多い。
【0098】
プロモーターの選択は、ベクターが導入される宿主細胞に大きく依存する。原核細胞の場合、様々な強力なプロモーターが当技術分野で公知である。好ましいプロモーターは、lacプロモーター、Trcプロモーター、T7プロモーター及びpBADプロモーターである。通常、複数種において外来配列の発現を得るために、原核性プロモーターを真核性プロモーターの直後又は真核性プロモーターの後のイントロン配列内に置くことができる。
【0099】
その他の真核細胞に対する適切なプロモーター配列には、3−ホスホグリセリン酸キナーゼ又はその多の糖分解酵素、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、へキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ及びグルコキナーゼなどのプロモーターが含まれる。増殖条件により調節される転写のさらなる長所を有するその他のプロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロームC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関連する分解酵素及び上記のグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ及びマルトース及びガラクトース利用に関与する酵素に対するプロモーター領域である。哺乳動物細胞に対する好ましいプロモーターは、SV40プロモーター、CMVプロモーター、b−アクチンプロモーター及びそれらのハイブリッドである。酵母細胞に対する好ましいプロモーターには、以下に限定されないが、S.セレビシエのGAL10、GAL1、TEF1及びP.パストリスのGAP、AOX1が含まれる。
【0100】
本ベクターを構築することにおいて、外来配列に関与する終止配列もまた、mRNAのポリアデニル化及び/又は転写終結シグナルを与えるために、転写したい配列の3’末端に挿入する。終止配列は、好ましくは、1以上の転写終結配列(ポリアデニル化配列など)を含有し、転写読み合わせをさらに阻止するためにさらなるDNA配列を包含することによって延長することもできる。本発明の好ましい終止配列(又は終結部位)は、転写終結配列、それ自身の終止配列又は異種終止配列の何れかが続く遺伝子を有する。このような終止配列の例には、当技術分野で公知の、広く利用可能で、下記で例を挙げる、様々な酵母転写終結配列又は哺乳動物ポリアデニル化配列に連結された終止コドンが含まれる。ターミネーターが遺伝子を含む場合、検出可能な又は選択可能なマーカーをコードする遺伝子を使用することは有利であり得;それにより、終止配列の存在及び/又は不在(及び、従って、転写単位の対応する不活性化及び/又は活性化)を検出及び/又は選択することができる手段が得られる。
【0101】
上記のエレメントに加えて、ベクターは、選択可能マーカー(例えば、そのベクターで形質転換された宿主細胞の生存又は増殖に必要なタンパク質をコードする遺伝子)を含有し得るが、宿主細胞に同時に導入される別のポリヌクレオチド配列でこのようなマーカー遺伝子を持ち込むことができる。選択条件下で、選択可能遺伝子を導入された宿主細胞のみが生存及び/又は増殖する。一般的な選択遺伝子は、(a)抗生物質又はその他の毒素、例えばアンピシリン、カナマイシン、ネオマイシン、G418、メトトレキセートなどに対する耐性を与える;(b)栄養要求性欠損を補完する;又は(c)複合培地から得ることができない不可欠な栄養素を補給するタンパク質をコードする。適正なマーカー遺伝子の選択は宿主細胞に依存し、様々な宿主に対する適切な遺伝子が当技術分野で公知である。
【0102】
本発明のある実施形態において、発現ベクターは、少なくとも2種類の無関係の発現系で複製可能なシャトルベクターである。このような複製を促進するために、本ベクターは通常、少なくとも2つの複製起点を含有し、各発現系で1つが有効である。通常、シャトルベクターは、真核細胞発現系及び原核細胞発現系で複製可能である。これにより、真核生物宿主(発現細胞型)でのタンパク質発現の検出及び原核生物宿主(増幅細胞型)でのこのベクターの増幅が可能になる。好ましくは、1つの複製起点はSV40由来であり、1つはpUC由来であるが、それがベクターの複製を支配するならば、当技術分野で公知の何れかの適切な起点を使用し得る。ベクターがシャトルベクターである場合、ベクターは、好ましくは、少なくとも2つの選択可能マーカーを含有し、1つは発現細胞型に対するものであり、1つは増幅細胞型に対するものである。それが利用される発現系で機能するならば、当技術分野で公知の何れかの選択可能マーカー又は本明細書中に記載のものを使用し得る。
【0103】
組み換えクローニング法を用いて及び/又は化学合成により、本発明に包含されるベクターを得ることができる。PCR、制限エンドヌクレアーゼ消化及び核酸連結などの膨大な数の組み換えクローニング技術が当技術分野で周知であり、本明細書中で詳述する必要はない。当業者はまた、当技術分野で利用可能な何らかの合成手段によって所望のベクターを得るために、本明細書中で与えられる配列データ、又は公開もしくは私有のデータベースの配列データを使用することもできる。さらに、周知の制限及び核酸連結技術を用いて、様々なDNAソースから適切な配列を切り出し、本発明に従い発現させるべき外来配列と操作可能な関係で組み込むことができる。
【0104】
本開示とともに提供される実施例及び図面は、原核及び真核細胞系での関心のあるタンパク質の複数種及び異種間提示における本発明の実施を例示する。次の実施例は、本発明の実施形態を例示するためのものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。本開示を読むことから、多くの変更及び変形が当業者にとって明らかとなろう。かかる変更及び変形は本発明の一部をなす。
【0105】
本発明の実施は、別段の指示がない限り、当業者の技術内である、細胞生物学、分子生物学、細胞培養などの従来の技術を使用する。本明細書中で引用される刊行物及び特許出願は全て、本発明が属する当業者の技術のレベルを示し、その全体を参照により本明細書中に組み込む。
【0106】
抗−VEGF抗体に対するコード配列を用いて本発明の様々な組成物及び方法(複数種及び異種間提示ストラテジー)を本明細書中で例示するが、当業者にとって当然のことながら、抗体探索及び操作プロトコールを遂行するために、本発明の発現及び提示ベクターセットにおいて、抗体配列の様々なライブラリをコードする発現カセットのライブラリを使用することができる。
【0107】
本発明の実施は、別段の指示がない限り、免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクス及び組み換えDNAの従来の技術を使用するが、これらは当技術分野の技術の範囲内である。例えば、PHAGE DISPLAY OF PEPTIDES AND PROTEINS(B.K.Kayら、1996);PHAGE DISPLAY、A LABORATORY MANUAL(C.F.Barbas IIIら、2001)Sambrook、Fritsch and Maniatis、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL、第二版(1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(F.M.Ausbelら編、(1987));一連のMETHODS IN ENZYMOLOGY(Academic Press、Inc.):PCR2:A PRACTICAL APPROACH(M.J.MacPherson、B.D.Hames and G.R.Taylor編(1995))、Harlow及びLane編(1988)ANTIBODIES、A LABORATORY MANUAL and ANIMAL CELL CULTURE(R.I.Freshney編(1987))。
【0108】
ファージ及び哺乳動物細胞異種間提示系
【実施例1】
【0109】
提示ベクターpMAG1
ベクターpMAG1は、異種間提示での使用に適切な発現ベクター及び、ポリペプチドライブラリが原核細胞提示系(ファージ及び細菌細胞)で提示及び/又は産生され、続いて真核細胞提示系(哺乳動物細胞)で提示及び/又は産生される作製プロトコール(図2Aで示す。)の範例となる。
【0110】
図2Aで示されるpMAG1ベクターは、EcoRI及びPciI部位を3799bpの完全合成DNA断片とともに挿入することにより、市販のベクター、pUC19の骨格において構築される。この完全合成DNAは次のエレメント:(1)ファージパッケージのためのf1 ori;(2)異種間発現カセット(ここでアダプターGR1融合物の発現は2つのプロモーター、哺乳動物細胞に対するCMVエンハンサー/ニワトリβ−アクチンプロモーター及び細菌細胞に対するpLacプロモーターにより支配される。)を含む。関心のある遺伝子クローニングに対する多重クローニング部位(MCS)の配列は、E.コリ及び哺乳動物細胞で機能を有するヒト成長ホルモン1からのシグナル配列の下流に構築される。HA−His6タグ(DH−タグ)配列は、タンパク質検出及びNi−NTA精製のため、GR1配列(アダプター1)(配列番号19)に対するコード配列の上流である。(3)哺乳動物細胞選択マーカーネオマイシンに対する発現カセット。
【0111】
簡潔に述べると、遺伝子合成には、Codon Devices Biofabプラットフォーム技術(Boston)を使用することによる遺伝子合成のために、1379、1227及び1287bpの3片のセグメントに合成DNAを分割することが含まれた。合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、オリゴ合成から生じたエラーを修正した。タイプII制限部位を含有するタグ配列のあるこれらの合成DNAセグメントを消化し、完全DNA断片に核酸連結し、次にこれをpUC19ベクターにクローニングした。標準的DNA配列決定法によって、得られたベクター配列(配列番号1)を確認した。
【実施例2】
【0112】
提示ベクターpMAG9
ベクターpMAG9(配列番号2)は、SacI及びNotI部位によりシグナル配列の下流に抗−VEGF抗体 scFvをコードする遺伝子を挿入することによって、pMAG1ベクターから得られた。当業者にとって当然のことながら、様々な様式の抗体をコードするコード配列のライブラリを提示するためにpMAG9を使用することができる。PCRによりscFv遺伝子を増幅した。簡潔に述べると、pABMX268(米国特許出願第20040133357A1号)DNAを鋳型として使用し、PCRプライマーは下記で列挙した:AM−90:5’−AGTCAGGTAAGCGCTCGCGCTCCGAGGTGCAGCTGGTGCAGAGCG−3’(配列番号3)及びAM−91:5’−ATGACCTCCTGCGTAGTCTGGTACGTC−3(配列番号4)。Stratageneからの説明書に従い、pfuUtra Hotstart PCRマスターミックスと鋳型/プライマー溶液を混合することによって、PCR反応液を調製した。温度サイクル条件を次のように設定した:94℃で3分間変性させ;94℃で45秒間変性、55℃で45秒間アニーリング及び72℃で1分30秒間伸長反応を30サイクル行い;次に、72℃で10分間のポリッシング段階を行った。PCR産物を消化し、1%アガロースゲルから精製し、SacI及びNotI部位でpMAG1ベクターにクローニングした。標準的DNA配列決定法によりscFvの配列を確認した。得られたpMAG9ベクターを図2Bで示す。
【0113】
DNA複製のためのpUC ori、アンピシリン選択のためのβ−ラクタマーゼ遺伝子及びファージミドDNAパッケージのためのf1 oriを有するので、このベクターはE.コリ細胞で機能する。さらに、scFv−アダプターGR1の融合物の転写及び発現は、E.コリ細胞においてpLacプロモーターにより、及び哺乳動物細胞においてニワトリb−アクチンプロモーターにより駆動される。哺乳動物及び細菌細胞の両方で機能を有するヒト成長ホルモンIのシグナルペプチド(Gene、1985、39:247−254)は哺乳動物及び細菌細胞両方で分泌経路を通じてアダプター融合タンパク質を支配する。
【実施例3】
【0114】
ファージヘルパーベクターGMCT
特徴がよく分かっているベクター、即ちM13KO7(Amersham Pharmaciaより)から、下記で詳述する手段に従い2段階でベクターGMCTを構築した。第一段階において、PCRによる部位特異的突然変異誘発により、KO7ヘルパーファージベクターの遺伝子IIIシグナル配列にKpnI部位を導入した。このサイレント突然変異によって、pIIIシグナルペプチドのコード配列は変化しなかった。KpnI部位を含有する次のプライマーを用いてPCRによりKO7ゲノムを増幅した:p3KNI:5’−TTTAGTGGTACCTTTCTATTCTCACTCCGCTG−3’(配列番号5)及びp3KN2:5’−TAGAAAGGTACCACTAAAGGAATTGCGAATAA−3’(配列番号6)。これらのプライマーは、遺伝子IIIシグナル配列と相同性のある共通の部分配列を有する。100ng KO7ベクターDNA、各プライマー20pmol、250μM dNTP及び1Xpfu緩衝液及びpfu DNAポリメラーゼ(Stratagene)を含有する100μL反応混合液中でPCRを行った。反応混合液を最初に約96℃で温置し、次にサーモサイクラー中で次のようにPCR15サイクル:96℃で30秒間変性、55℃で30秒間アニーリング、72℃で10分間伸長を行った。増幅後、産物をゲル精製し、KpnIで切断して核酸連結し、エレクトロポレーションによりTG1細菌細胞に形質転換した。
【0115】
細菌細胞をカナマイシン耐性に関して選択した。具体的には、カナマイシン耐性コロニーを96ウェルマイクロタイタープレートにおいて70μg/mLカナマイシン入りの2YT培地中で増殖させ、PCRエラーにより生じた機能欠損突然変異を除外するために、ファージELISAアッセイによって、培養上清をファージスクリーニングに使用した。簡潔に述べると、次のようにファージELISAを行った:ファージ粒子を含有する上清100μLを4℃で一晩、ELISAプレートのコートウェルに対して使用した。PBS緩衝液中の5%ミルクで室温にて30分間ブロッキング処理を行った後、ELISAプレートに結合したファージ粒子をHRP−標識抗M13抗体(Amersham Pharmacia)100μLとともに室温で1時間さらに温置した。
【0116】
0.05%Tween20を含有するPBSにより遊離抗M13抗体を洗い流した。次に、基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を添加した。405nmでの吸収により、HRP活性を調べた。全部で48個のクローンをファージ生成についてスクリーニングした。クローンC2、B3、B7、B9及びA12が図3で示されるようにファージ陽性であった。クローンB7、B9及びA12から抽出されたDNAをTG1培養物から調製した。Acc65I(KpnIのイソシゾマー)及びBamHIでベクターDNAを二重消化することによって、600bp DNA断片が示され、これにより、この3種類のKO7kpnベクタークローン全てにKpnI部位が存在することが確認される。得られたベクターは、遺伝子IIIコード領域を妨害することなくユニークなKpnI制限部位が遺伝子IIIシグナル配列(改変遺伝子IIIシグナル、配列番号7)にサイレントに導入されていることを除き、KO7と同一である。
【0117】
KO7kpnB7ヘルパーベクター中の遺伝子IIIのKpnI/BamHI断片を合成DNA断片(配列番号8)で置換することによって、GMCTファージヘルパーベクターを構築した。得られたGMCTファージベクター(図4)は、改変pIIIキャプシドのさらなるコピーをコードし、これには、GR2ドメイン(配列番号20)(アダプター2)、改変pIIIタンパク質の検出のためのmyc−tag配列及びpIIIのC末端ドメイン(CTドメイン)が含まれる。この改変遺伝子IIIの下流、リボソーム結合配列(S/D)及び細菌タンパク質OmpAからのシグナル配列を遺伝子III配列に融合させた。遺伝子III含有配列のこれらの2コピーはオリジナルの遺伝子IIIプロモーター調節下に置かれる。
【0118】
核酸連結したベクターDNAをTG1細胞へと形質転換した。カナマイシン耐性コロニーを96ウェルマイクロタイタープレートにおいて70μg/mLカナマイシン入りの2YT培地中で増殖させ、上記のようにファージ陽性クローンを選択するために、ファージELISAアッセイによるファージスクリーニングに対して上清を使用した。10個以上のクローンがファージ粒子を生成することが分かった。大規模ファージ調製のためにクローン#3を使用した。
【実施例4】
【0119】
GMCTヘルパーファージの生成
クローン#3から生成されたGMCTヘルパーファージを含有する上清を2YT寒天プレート上にストリーク播種した。TG1培養物(OD6000−5)0.5mLと混合した軟寒天4mLをプレート上に注いだ。37℃で一晩温置した後、ファージプラークを形成させた。1個のファージプラークを採取し、70μg/mLカナマイシン入りの10mL 2YT培養液に接種するために使用した。250rpmで一定に振盪しながら37℃で2時間温置した後、70μg/mLカナマイシン入りの500mLの2YTを含有する2Lフラスコに培養物を移した。37℃で一定に振盪しながら培養物を一晩温置した。次に、ポリエチレングリコール(PEG)/NaClを用いて上清中のファージを沈降させ、リン酸緩衝食塩水(PBS)中で再懸濁した。OD268の測定によりファージ濃度を調べた。通常、OD268での1単位の読み取りは、上清1mLがおよそ5x1012個のウイルウ粒子を含有することを指す。GMCTヘルパーファージに対するファージ回収率は、およそ8x1011/mL培養液であり、これは、M13KO7ヘルパーファージと同様であり、このことから、アダプターGR2−pIII融合物がファージ粒子集合に影響を与えないことが分かった。
【0120】
抗−MycタグファージELISAによって、ヘルパーファージ粒子上のGR2−Mycアセンブリーが確認された。簡潔に述べると、抗−Mycタグ抗体9E10(BD Pharmingenより)でELISAプレートを被覆し、HRP標識抗−M13抗体(Amersham Pharmacia)により、基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を用いて、9E10抗体に結合したファージを検出した。
【実施例5】
【0121】
哺乳動物ヘルパーベクターpMAG2
市販のベクターpUC19の骨格において、3134bpの完全合成DNA断片を用いてEcoRI及びPciI部位を挿入することにより哺乳動物ヘルパーベクターpMAG2(図5)を作製した。この完全合成DNAは、2つの成分:(1)SV40 ori/プロモーター及びSV40ポリAを伴うZeocin発現カセット;(2)CMVプロモーターにより駆動され、BGHポリAにより停止される、ヒト上皮増殖因子受容体(hEGFR)の膜貫通ドメインとのアダプター2(GR2、配列番号20)融合物、に対する配列を含む。アダプターGR2融合物に対する分泌シグナル配列はhEGFR由来である。
【0122】
簡潔に述べると、BioFabプラットフォーム技術(Codon Devices)を使用した合成のために、808、790、829及び817bpのセグメント4片に合成DNAを分割することにより、ベクターを合成した。オリゴ合成から生じたエラーは、合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製により修正した。タイプII制限部位を含有するタグ配列付きのこれらのDNAセグメントを消化し、完全DNA断片に核酸連結し、次いでこれをpUC19ベクターにクローニングした。標準的DNA配列決定法により、得られたベクター配列(配列番号9)を確認した。
【実施例6】
【0123】
pMAG9ベクターを用いた、E.コリ細胞での可溶性Fvタンパク質(scFv)の発現
ヘルパーベクターなしでpMAG9発現ベクターを使用すると、アダプター1(GR1)と組み合わせたコード配列の産物を含む融合タンパク質として、関心のあるタンパク質が発現及び分泌される。
【0124】
発現される融合タンパク質を遺伝子パッケージの表面上で提示するためには、対をなすアダプター1(GR1)と会合することができる第二のアダプター(例えばGR2)とインフレームで融合したアンカータンパク質を含む第二の融合タンパク質を提供するヘルパーベクター存在下での同時発現が必要である。2個のアダプター間の対をなす相互作用によって、遺伝子パッケージ又は宿主細胞の表面上で関心のあるタンパク質の提示が促進される。
【0125】
ヘルパーベクターなしで、pMAG9が発現ベクターとして機能することを示すために、可溶性タンパク質発現のためにpMAG9を直接TG1細胞に形質転換した。pMAG9ベクターで形質転換された細胞をアンピシリン100μg/mL入りの2YT培地中で37℃振盪器でOD6000.9まで増殖させた。次に、IPTGを0.5mMの最終濃度まで添加し、30℃振盪器で一晩誘導した。
【0126】
ELISAアッセイによって、上清中の可溶性scFvタンパク質を検出した。簡潔に述べると、VEGFで被覆したELISAプレートに100μL上清を添加し、プレート上を被覆する抗原に結合したscFv抗体をHRP−標識抗−HAタグ抗体(12CA5)でプローブした。次に、基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を添加して、HRP活性を調べた。図6AのELISAから、pMAG9培養上清中の可溶性scFv抗体が用量依存的にVEGF抗原に結合したことが示された。一方、pUC18ベクターを有する陰性対照細胞から生じた上清はVEGFに対する結合活性がなかった。図6Aで与えられるこれらの結果から、提示ベクターから発現ベクターへと関心のある遺伝子を移動させる段階を実施する必要なく、E.コリ細胞において可溶性タンパク質発現を支配することができる発現ベクターとしてpMAG9が機能することが分かった。
【0127】
さらに、上清及び細胞周辺質抽出物両方から可溶性タンパク質を精製することができる。簡潔に述べると、増殖培地の1/40体積で、予め冷却したPPB緩衝液(200mg/mL スクロース、1mM EDTA、30mM Tris−HCl、pH8.0)中で細胞ペレットを再懸濁し、氷上で30分間温置する。次いで、予め冷却した5mM MgSO4を用いて上記プロセスを繰り返す。細胞ペレットからの周辺質抽出物及び培養上清を合わせ、Ni−NTAカラムに添加する。結合したHis−タグタンパク質をPBS中の500mMイミダゾールで溶出する。分画を回収し、SDS−PAGE及び抗−HA抗体を用いたウエスタンブロットにより分析する。
【実施例7】
【0128】
pMAG9を用いたファージ上でのscFvタンパク質の提示
ヘルパーベクターと組み合わせてpMAG9ベクターを使用することによって、研究者は、遺伝子パッケージ又は関心のある宿主細胞の表面上に、関心のあるタンパク質又はタンパク質のライブラリを提示することができるようになる。例えば、ファージ表面上でscFvを提示するために、実施例4の上記のGMCTヘルパーファージと組み合わせてpMAG9を使用する。
【0129】
pMAG9により産生されるscFv−アダプター/GR1融合タンパク質に存在するアダプター(GR1)と対をなす組み合わせが可能な第二のアダプター(アダプター2)とインフレームで融合したウイルスコートタンパク質を含む融合タンパク質を発現するヘルパーファージと組み合わせて同時発現される場合、ファージ提示を支配することができる提示ベクターとしてpMAG9が機能することを示すために、pMAG9ベクターを有するTG1細胞を10の感染多重度(MOI)でGMCTヘルパーファージにより重複感染させた。感染させたTG1細胞を一晩、2YT/Amp/Kan培地中で30℃の振盪器中で増殖させた。培養上清中のファージミドウイルス粒子を2回、PEG/NaClで沈降させ、PBS中で再懸濁した。
【0130】
抗原VEGFで被覆したプレートを用いて、ファージELISAによって、ファージ表面上で提示された1本鎖抗体を検出した。簡潔に述べると、4℃で2μg/mL VEGF100μLで一晩被覆した96ウェルELISAプレートをPBS緩衝液中5%ミルクで室温にて1時間ブロッキング処理した。従って、5%ミルク−PBS中の希釈ファージ100μLを使用し、ELISAプレートのウェルを室温で1時間被覆した。ELISAプレートに結合したファージ粒子をHRP−標識抗−M13抗体(Amersham Pharmacia)100μLとともにさらに室温にて1時間温置した。0.05%Tween20を含有するPBSにより遊離抗M13抗体を洗い流した。次に基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を添加した。405nmでの吸収により、HRP活性を調べた。図8で示されるELISAの結果から、pMAG9ベクターを有する重複感染細胞から生成されたファージが用量依存的にVEGFに結合したことが分かる。陰性対照として、pUC18ベクターを有する細胞から及びpMAT6ベクターを有する細胞(図14Bで示される、酵母/哺乳動物異種間提示ベクター)から生成したファージは、VEGFに対する結合活性を全く示さなかった。これらの結果から、ファージ提示のためのPMAG9/GMCTベクターセットの使用が示された。
【実施例8】
【0131】
pMAG9を用いた、哺乳動物細胞での可溶性Fv(scFv)の発現
実施例6で行われた実験から、細菌細胞(即ちE.コリ)においてpMAG9が発現ベクターとして機能することが分かる。pMAG9はまた、異種間発現及び提示ベクターとして機能するように設計された。このベクターの異種間機能性を示すため、哺乳動物細胞での抗−VEGF scFv発現及び産生を支配するためにpMAG9を使用した。
【0132】
簡潔に述べると、フリースタイル293F細胞(ヒト胎児腎臓細胞株、Invitrogen)及びCOS6(形質転換されたサル腎臓細胞)を用いて哺乳動物細胞において可溶性抗−VEGF scFvを発現させた。FuGENE6形質移入試薬(Roche Applied Science)を使用して、製造者の操作マニュアルに従い形質移入を行った。簡潔に述べると、pMAG9ベクターDNA 1又は2μgを血清不含培地中で希釈FuGENE6試薬に6:1又は3:1又は3:2の割合で添加した。温置15分後、FuGENE6試薬DNA複合体を6ウェルプレート中の細胞に移した(2mL発現培地(Invitrogen)中1.0x106細胞)。95%CO2雰囲気中で72時間、37℃で細胞を温置した。scFv−HA−GR1タンパク質を抗−HAウェスタンブロット分析及び抗−VEGF ELISAで評価するために、上清を回収した。
【0133】
ProFound HA Tag IP/Co−IPキット(Pierce)の説明書に従い、抗−HA抗体ビーズを用いて、培養上清800μLから、抗−VEGF scFvタンパク質を精製した。ECL pusウエスタンブロッティング検出システム(Amersham)の説明書に従い、精製したscFvタンパク質をタンパク質分離用の4−12%SDS−PAGEゲル(Invitrogen)に添加し、ウエスタンブロッティング分析のために0.45ニトロセルロースに転写した。簡潔に述べると、TBST中の5%脱脂乳で膜をブロッキング処理し、マウス抗体HA−プローブF7(Santa Cruz Biotech)とともに室温で1時間温置した。TBSTで3回洗浄した後、1時間温置してペルオキシダーゼ標識抗−マウス抗体で膜をプローブし、洗浄した膜に検出溶液を添加し、5分間温置した。次に、化学発光シグナルをx線フィルムにより検出した。抗−HAブロッティングの結果を図7Aで示す。ウエスタンブロットの結果から、293及びCOS6培養上清の両方でscFvタンパク質(〜35KD)が存在することが分かり、このことから、哺乳動物細胞での異種間提示ベクターpMAG9による可溶性タンパク質発現が分かる。
【0134】
抗−VEGF ELISAにより、哺乳動物細胞培養上清から得られたscFvタンパク質の機能をさらに分析した。簡潔に述べると、濃度2μg/mLの重炭酸塩緩衝液pH9.6中の希釈rhVEGF(R&D System)100μLでMaxiSorpプレートを一晩被覆した。PBSで2回洗浄した後、室温にて1時間、5%ミルクPBSでプレートをブロッキング処理した。さらなる洗浄後、様々な希釈度の精製scFvタンパク質入りの溶液50μLをウェルに添加し、室温にて1時間、温置した。洗浄後、マウス抗体HA−プローブF7(Santa Cruz Biotech)50μLを添加し、室温で1時間温置し、次いで、5%ミルクPBS中の1:2,000の希釈度の抗−マウス−HRP標識抗体(Santa Cruz Biotech)とともに1時間温置した。最後に、次いでABTS基質(Pierce)を発色のために添加した。96ウェルプレートリーダー(Molecular Devices)により、OD405でプレートの読み取りを行った。
【0135】
図6Bで示されるELISAの結果から、3つの個々の293細胞形質移入物及び4つの個々のCOS6細胞形質移入物からのpMAG9培養上清中で用量依存的なVEGF結合活性が示される。図6A及び図7Aでの結果と合わせて、ELISAの結果から、E.コリ及び哺乳動物細胞の両方で、異種間発現ベクターとしてpMAG9が機能することが証明される。
【実施例9】
【0136】
pMAG9ベクターを用いた、哺乳動物細胞におけるscFvタンパク質の提示
ヘルパーベクターGMCTと組み合わせてpMAG9がファージ上でのscFvの提示を支配すること(前出実施例7参照)及びヘルパーベクターなしで哺乳動物細胞において発現されるpMAG9が哺乳動物細胞での可溶性scFvの発現を支配するように機能すること(実施例8参照)を証明した後、このベクターの異種間提示機能を証明するために次の実験を行った。
【0137】
10%ウシ胎仔血清、100ユニット/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシン含有ダルベッコ改変イーグル培地が入った6ウェルプレート中のカバースリップ上でCOS6細胞を増殖させた。製造者の説明書に従い、FuGene6形質移入試薬(Roche Applied Science)を用いて、pAMG9発現ベクター及びヘルパーベクターpMAG2をCOS6細胞に同時形質移入した。簡潔に述べると、血清不含培地中、3:2のFuGene6試薬(μL):DNA複合体(μg)の割合で、希釈したFuGENE6試薬にプラスミドDNA0800ng(pMAG9 400ng+pMAG2 400ng)を添加した。FuGENE試薬DNA複合体を室温で15分間温置し、次いで細胞に添加した。48時間後、細胞表面上で提示されるHAタグ付加scFv−GR1融合タンパク質(pMAG9ベクターより)をAlexa488標識抗−HA抗体で検出した。簡潔に述べると、COS6細胞を4%ホルムアルデヒドで20分間固定し、PBS中の5%BSAで25℃にて30分間ブロッキング処理し、次いでPBS中のAlexa488標識抗−HA抗体(1:100希釈、Invitrogen)(1:500)とともに60分間温置した。核を可視化するために、DAPI(Invitrogen)でも細胞を染色した。Plan−Neofluar 100/1.30油浸対物レンズ付きのZeiss Axiovert135顕微鏡で細胞を観察した。図9で示される結果から、HAタグ付加scFv−GR1が明確に表面に局在することが分かり、このことから、pMAG9ベクターを用いたscFvの細胞表面提示が示される。
【0138】
あるいは、表面提示される抗−VEGF scFvの存在を検出するために、形質移入から48時間後にフローサイトメトリー分析を行うことができる。簡潔に述べると、ビオチン化rhVEGF又はVEGF−Fcを細胞懸濁液(4x106細胞/mL)25μLに添加し、4℃にて60分間温置する。陰性染色対照として、細胞の同一試料をビオチン化ダイズトリプシン阻害剤で染色する。次に、アビジン−FITC又は抗−Fc抗体−FITCとともにさらに30分間、4℃にて暗所で細胞を温置する。RDF1緩衝液で細胞を2回洗浄し、FACSvantageフローサイトメーター(BD Biosciences)又はAgilent2100 bioanalyzer(Agilent technology)でのフローサイトメトリー分析用にこの細胞を0.2mL RDF1緩衝液中で再懸濁する。(注記:これは机上FACS実験である。)
【実施例10】
【0139】
ファージ及び哺乳動物細胞上の所望のポリペプチドの選択及び異種間提示(注記:机上実験)
可溶性ポリペプチドの発現又はE.コリ及び/又は哺乳動物細胞での提示のために、多岐にわたるポリペプチドをコードするDNA配列のライブラリをpMAG1又はpMAG9ベクターにクローニングすることができる。
【0140】
ファージ提示の場合GMCTヘルパーベクター又は哺乳動物細胞提示の場合pMAG2など、ヘルパーベクターの同時発現によって、原核遺伝子パッケージ又は真核生物宿主細胞の表面上で発現ライブラリを提示することができる。連続的にパニングすることにより、所望の特異性(結合活性)を特徴とするポリペプチドを濃縮することができる。簡潔に述べると、ファージパニングプロセスを次のように進める:1−10μg/mLの濃度の特異的抗原で4℃にて一晩、96ウェルプレートを被覆する。PBSで洗浄し、5%ミルク/PBSでブロッキング処理した後、5%ミルク/PBS中の1011−12ファージを添加し、室温で2時間温置する。PBST及びPBSで数回洗浄した後、10μg/mLトリプシンとともに30分間温置して結合したファージを溶出するが、これは、本ヘルパーファージがpIIIタンパク質に融合されたMyc−タグにおいて切断可能部位を有するからである。発明者らの実験において、トリプシン溶出は100mMトリエチルアミン(通常、従来のファージパニングで使用される。)よりも効率的である。このプロセスを2−3回繰り返すと、所望のポリペプチドを提示するファージのプールを濃縮することができる。濃縮したファージはE.コリ細胞に感染し得るが、これは、所望のポリペプチドをコードする遺伝子を有するベクターの調製のために使用することができる。
【0141】
このように、哺乳動物ヘルパーベクターpMAG2を用いて同時形質移入することにより、細胞表面提示のために、ファージライブラリから選択されたベクターDNAの小さなプールを直接哺乳動物細胞に形質移入することができる。FACSソーティングを数回行うことにより、所望の特性を有するリードを単離することができる。簡潔に述べると、キュベット中で氷冷PBSで洗浄したHEK293細胞又はCOS細胞3x106と10−20μgDNAを混合する。氷上で10分間温置した後、250μF、660Vに設定したGenePulser Xcell(Bio−Rad)を用いて、細胞/DNA混合物に対してエレクトロポレーションを行う。室温で10分間温置した後、75cm培養フラスコ中の20mL培地に細胞を移し、37℃、5%CO2で2−3日間温置する。あるいは、Roche Applied Scienceにより記載されたプロトコールに従い、形質移入のために、FuGene6形質移入試薬を使用することができる。
【0142】
標的抗原に対する結合特異性を有する抗体を同定するための適切な選択プロセスは、PBS緩衝液中の0.2nMビオチン化標的抗原及び抗−HAタグmAb 12CA5 20μg/mL(Santa Cluze Biotech)とともにおよそ107個の形質移入細胞を25℃で1時間温置することを含む。次に、氷冷PBS緩衝液でこの細胞をすすぎ、FITC標識ヤギ抗−マウスFITC(抗体発現を監視するために、AMI0408;BioSource International、Camarillo、CA)及びストレプトアビジン−R−PEコンジュゲート(S866;Molecular Probe、抗原結合細胞の標識のため)とともに4℃で1時間温置して標識しなければならない。このように、適切なソートウィンドウ(sort window)でFACSVantageSE(BD Biosciences)上でこの細胞をソーティングする。上位0.1%のPE−陽性細胞を回収する。選択された細胞から回収された提示及びヘルパーベクター両方のDNAをE.コリ細胞に形質転換する。f1 oriを有する提示ベクターのみ、KO7などの通常のヘルパーファージによりパッケージングすることができ、従って、哺乳動物ヘルパーベクターから分離することができる。次に、別の回のFACSソーティング又はDNA配列決定のために、回収した提示ベクターDNAを使用することができる。
【0143】
ファージ及び酵母異種間提示系
【実施例11】
【0144】
提示ベクターpMAT2
pMAT2は、発現及び原核細胞系(ファージ及び細菌細胞)と真核細胞系(酵母細胞)との間の異種間提示に適切な発現ベクターを提供する。図10Aで示されるように、pMAT2は、3184bpの完全合成DNA断片によりAatII及びPciI部位を挿入することによって、市販のベクターpUC19の骨格上で作製される。この完全合成DNAは、(1)ファージパッケージのためのf1 ori;(2)アダプターGR1(配列番号19)融合のための異種間発現カセット(これは2つのプロモーター:酵母細胞での発現のための酵母pGAL1プロモーター及び細菌細胞のためのplacプロモーターにより駆動される。)を含む。関心のある遺伝子クローニングのための多重クローニング部位(MCS)の配列は、二重機能シグナル配列(酵母エンド−β−1,3−グルカナーゼタンパク質Bgl2p)の下流に構築される。HA−His6タグ(DH−タグ)配列は、タンパク質検出及びNi−NTA精製のために、GR1配列の上流である。(3)複製のための酵母CEN/ARS ori;及び(4)酵母TRP1栄養要求性マーカーのための発現カセット。
【0145】
簡潔に述べると、BioFabプラットフォーム技術(Codon Devices)を用いることによる遺伝子合成のためにDNAを1196、804及び1294bpの3片のセグメントに分割することによって、このベクターを合成した。合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、オリゴ合成から生じたエラーを修正した。タイプII制限部位を含有するタグ配列付きのこれらの合成DNAセグメントを消化し、完全DNA断片へと核酸連結し、次いでこれをpUC19ベクターにクローニングした。標準的DNA配列決定法を用いて、得られたベクター配列(配列番号10)を確認した(注記:これはscFv遺伝子なしのファージ/酵母発現ベクターである。)。
【実施例12】
【0146】
クロス提示ベクターpMAT5
ベクターpMAT5(配列番号11)は、SacI及びNotI部位によりシグナル配列の下流に抗−VEGF抗体をコードするscFv遺伝子(発現カセット)を挿入することによって、pMAT2ベクターから得られた。当業者にとって当然のことながら、多様な様式の抗体をコードするコード配列のライブラリを提示するために、pMAT2を使用することができる。PCRによってscFv遺伝子を増幅した。簡潔に述べると、pABMX268 DNAを鋳型として使用し、PCRに対するプライマーは以下のとおりであった:AM−90:5’−AGTCAGGTAAGCGCT CGCGCTCCGAGGTGCAGCTGGTGCAGAGCG−3’(配列番号3)及びAM−91:5’−ATGACCTCCTGCGTAGTCTGGTACGTC−3(配列番号4)。
【0147】
Stratageneからの説明書に記載のようにpfuUtra Hotstart PCRマスターミックスと鋳型/プライマー溶液を混合することによって、PCR反応液を調製した。温度サイクル条件は以下のとおりであった:94℃で3分間変性;94℃で45秒間変性、55℃で45秒間アニーリング、72℃で1分30秒間伸長を30サイクル;次いで72℃で10分間ポリッシング段階を行った。PCR産物を消化し、1%アガロースゲルから精製し、このように、SacI及びNotI部位でpMAT2ベクターにクローニングした。
【0148】
DNA配列決定によってscFvの配列を確認した。pMAT5ベクターの成分を図10Bで示す。pMAT5において、関心のあるポリペプチド/アダプターGR1−タンパク質の融合物の転写及び発現はE.コリ細胞においてpLacプロモーターにより駆動され、酵母細胞において酵母GAL1プロモーターにより駆動される。酵母エンド−β−1,3−グルカナーゼタンパク質Bgl2pのシグナルペプチドは、酵母及び細菌細胞の両方で機能し(Protein Exp.Puri、2000、20:252−264)、酵母及び細菌細胞の両方の分泌経路を通じてアダプター融合タンパク質を支配する。
【実施例13】
【0149】
酵母ヘルパーベクターpMAT3
図11Aで図示するpMAT3は、アダプター2との、インフレームでC末端酵母外面GPIアンカータンパク質Flo1を含む融合タンパク質を発現する酵母提示ヘルパーベクターである。7030bpの完全合成DNA断片によりAatII及びPciI部位を挿入することによって、市販のベクターpUC19の骨格上でこのベクターを構築した。この完全合成DNAは、3つの発現カセットに対する配列:(1)酵母URA3選択マーカー;(2)酵母選択のためのZeocinマーカー;(3)酵母pGAL1プロモーター及びFlo1の分泌シグナル配列の調節下での、酵母アウトウェルタンパク質(well protein)Flo1 C末端1100アミノ酸とのアダプター2(GR2)(配列番号20)融合物を含む。簡潔に述べると、Codon DevicesのBioFabプラットフォーム技術を用いることによる遺伝子合成のために、1112、740、748、1042、897、1152、802及び821bp(#1から番#8)の8片のセグメントに合成DNAを分割した。合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、オリゴ合成から生じたエラーを修正した。
【0150】
合成DNAセグメント#1−4をタイプII制限酵素で消化し、1つのDNA断片へと核酸連結し、次いでこれをpUC19ベクターにクローニングした。合成DNAセグメント#5から8をタイプII制限酵素で消化し、別の1つのDNA断片へと核酸連結し、次いでこれを第一の断片を有するpUC19ベクターにクローニングした。標準的DNA配列決定法によって、得られたベクター配列(配列番号12)を確認した。
【実施例14】
【0151】
酵母ヘルパーベクターpMAT7ベクター
図11Bで図示するpMAT7は、アダプター2(GR2)(配列番号20)との、インフレームで酵母外面タンパク質Aga2を含む融合タンパク質を発現する別の酵母提示ヘルパーベクターである。BamHI−HindIII断片を208bpの合成DNA断片で置換することによって、酵母ヘルパーベクターpMAT3からこのベクターを作製した。この合成DNAは、酵母アウトウェルタンパク質Aga2をコードする配列を含む。Codon DevicesのBioFabプラットフォーム技術を用いて、合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、オリゴ合成から生じたエラーを修正した。標準的DNA配列決定法によって、最終ベクター配列(配列番号13)を確認した。
【実施例15】
【0152】
酵母ヘルパーベクターpMAT8
図11Cで図示するpMAT8は、アダプター2(GR2)(配列番号20)との、インフレームでC末端酵母外面GPIアンカータンパク質Cwp2を含む融合タンパク質を発現する、別の酵母提示ヘルパーベクターを表す。BamHI−HindIII断片を1252bpの合成DNA断片で置換することによって、酵母ヘルパーベクターpMAT3からこのベクターを作製した。この合成DNAは、Flo1のS/Tリッチ領域と融合した酵母アウトウェルタンパク質Cwp2をコードする配列を含む。BostonのCodon DevicesのBioFabプラットフォーム技術を用いて、合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、合成DNA中のエラーを修正した。標準的DNA配列決定法によって、最終ベクター配列(配列番号14)を確認した。
【実施例16】
【0153】
pMAT5を用いた、E.コリ細胞における可溶性scFvタンパク質の発現
可溶性タンパク質発現のために、ファージ/酵母発現ベクターpMAT5を直接E.コリTG1細胞へと形質転換した。3つの個々のクローンからの形質転換細胞を37℃振盪器においてアンピシリン100μg/mL入りの2YT培地中でOD600が0.9になるまで増殖させた。0.5mMの最終濃度までIPTGを添加し、30℃振盪器で一晩誘導した。ELISAアッセイにより上清中の可溶性scFvタンパク質を検出した。簡潔に述べると、VEGFで被覆したELISAプレートに100μL上清を添加し、プレート上の抗原に結合したscFv抗体をHRP−標識抗−HAタグ抗体(12CA5)でプローブした。次に、HRP活性を調べるために、基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を添加した。
【0154】
図12で示されるデータから、3つの個々のクローンからのpMAT5 上清中のVEGFへの用量依存的結合活性が証明され、これにより、E.コリ細胞での可溶性タンパク質の発現に対するpMAT5ベクターの機能が明らかになった。
【実施例17】
【0155】
pMAT5を用いた、ファージ表面上でのscFvタンパク質の提示
実施例16で示されるデータから、pMAT5がE.コリ細胞において可溶性scFv発現のための発現ベクターとして機能することが証明された。GMCTヘルパーファージと組み合わせたMAT5の同時発現がファージ表面上でscFv(又はscFvのライブラリ)を提示するように機能することを明らかにするために、pMAT5ベクターをTG1細胞に形質転換し、形質転換したE.コリ細胞を10の感染多重度(MOI)でGMCTヘルパーファージにより重複感染させた。
【0156】
感染したTG1細胞を2YT/Amp/Kan中で30℃にて一晩増殖させた。培養上清中のファージミド粒子をPEG/NaClにより2回沈降させ、PBS中で再懸濁した。VEGFで被覆されたプレートを用いて、ファージELISAにより、ファージ表面上で提示される1本鎖抗体を検出した。簡潔に述べると、2μg/mL VEGF 100μLで4℃にて一晩被覆した96ウェルELISAプレートをPBS緩衝液中の5%ミルクで室温にて1時間ブロッキング処理した。このように、PBS−ミルク中の希釈ファージ100μLを用いて、室温で1時間、ELISAプレートのウェルを被覆した。HRP−標識抗−M13抗体(Amersham Pharmacia)100μLとともに室温で1時間、ELISAプレート上に結合したファージ粒子をさらに温置した。0.05%Tween20を含有するPBSで遊離抗−M13抗体を洗い流した。次に、基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を添加した。405nmでの吸収によりHRP活性を調べた。
【0157】
図13で示されるELISAの結果から、pMAT5ベクターを有する細胞から生成したファージが用量依存的にVEGFに結合したことが証明される。陰性対照として、pUC18ベクターを有する細胞及びpMAT6ベクターを有する細胞(図14Bで示される酵母/哺乳動物異種間提示ベクター)から生成したファージは、VEGFに対して結合活性を示さなかった。これらの結果から、ベクターセットpMAT5及びヘルパーベクターGMCTがファージ表面上でのポリペプチド配列の提示を支配するように機能することが分かった。
【実施例18】
【0158】
pMAT5を用いた、酵母における可溶性scFvタンパク質の発現
pMAT5は異種間発現ベクターである。実施例16で示されるデータから、pMAT5が、細菌細胞においてアダプター1(GR1タンパク質)とインフレームで融合したscFvポリペプチドを含む可溶性融合タンパク質の発現を支配するように機能することが証明される。pMAT5が酵母細胞で発現を支配することができることを証明するために、Zymo Researchの説明書に従い、Frozen−EZ Yeast Transformation IIキットを用いて酵母YHP499細胞にベクターを形質転換し得る。
【0159】
3℃でSD−CAA/Trp−選択培地50mL中で、飽和するまで(OD600=2〜3)1個のコロニーからの酵母細胞を増殖させ、100μg/mLアンピシリン、0.1%dex入りの50mL SG/R−CAA/Trip培地中で再懸濁することができる。誘導2−3日後、上清を回収し、PBS緩衝液で透析しなければならない。
【0160】
ELISAによって上清中の可溶性scFvタンパク質を測定することができる。簡潔に述べると、100μL上清又は抗−HAビーズで上清から精製したscFvを、VEGFで被覆したELISAプレートに添加し、プレーティングした抗原に結合したscFv抗体をHRP−標識抗−HAタグ抗体(12CA5)で検出することができる。次に、HRP活性を調べるために、基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を添加しなければならない。酵母細胞での可溶性タンパク質の発現に対するpMAT5ベクターの機能を示すために、ELISAの結果を使用し得る。あるいは、精製のために培養上清をNi−NTAカラムに添加することができる。PBS中の500mMイミダゾールで、結合したHis−タグタンパク質を溶出することができる。SDS−PAGE及び抗−HA抗体でのウエスタンブロットによる分析のために、分画を回収し得る。
【実施例19】
【0161】
pMAT5を用いた、酵母細胞表面上でのscFvタンパク質の提示
酵母宿主細胞表面上でのscFv抗体の提示を支配するために、pMAT5発現ベクターを使用することもできる。簡潔に述べると、Frozen−EZ Yeast Transformation IIキットなどの適切なプロトコールを用いて、酵母提示ヘルパーベクター(即ち、pMAT3又はpMAT7又はpMAT8)の存在下で、酵母細胞にpMAT5を同時形質転換することができる。あるいは、そのゲノム中に酵母ヘルパーベクターpMAT3又はpMAT7又はpMAT8のコピーを有する酵母細胞を発現ベクターpMAT5で形質転換することができる。
【0162】
SD−CAA/Trp−/Ura−寒天プレート又はSD−CAA/Trp−/Zeocin上で発現ベクター及びヘルパー提示ベクター(即ち酵母提示ベクターセット)の両方を含む酵母細胞を選択し、飽和するまで同じ選択培地中で増殖させることができる。次に、100μg/mLアンピシリン、0.1%dexを含有する誘導培地にこの細胞を移し、一晩、振盪しながら20℃又は25℃で温置しなければならない。氷冷PBS緩衝液で洗浄した後、FACS緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA)中で、室温で30分間、100nMビオチン化VEGF及び5mg/mL抗−HA(12CA5)抗体とともに酵母細胞を温置し、氷冷洗浄緩衝液中で3回洗浄する。5mg/mLストレプトアビジン−R−PEコンジュゲート(SA−PE)及びヤギ抗−マウス−488とともに暗所で氷上で30分間温置し、3回洗浄し、1mL FACS緩衝液中で再懸濁することによって、この細胞をプローブし得る。酵母細胞上で提示されるscFvと会合した蛍光は、FACS Cailiburフローサイトメトリー又はAgilent2100bioanalyzerを用いて、フローサイトメトリーにより測定することができる。
【実施例20】
【0163】
ファージ及び酵母細胞上で提示された所望のポリペプチドの選択
原核細胞(即ちE.コリ)及び原核細胞(即ち酵母細胞)での連続的な可溶性ポリペプチドの発現のために、DNA配列の多岐にわたる集団(即ちレパートリー)をpMAT2ベクターにクローニングすることができる。本発明の様々なヘルパー提示ベクターを用いて、ファージ又は酵母細胞の表面上で、得られた発現ライブラリを提示することができる。とりわけ、ファージ提示ヘルパーベクターとしてGMCTを使用し得、酵母細胞上での提示のために酵母提示ヘルパーベクター、pMAT3又はpMAT7又はpMAT8を使用し得る。
【0164】
ファージ上で提示される具体的なタンパク質又はペプチドを最初に数回の操作により濃縮することができる。簡潔に述べると、適切なパニングプロセスは、1−10μg/mLの濃度の標的抗原で96ウェルプレートを4℃で一晩被覆することを含む。PBSで洗浄し、5%ミルク/PBSでブロッキング処理した後、1011−12個のファージを添加し、室温で2時間温置する。PBST及びPBSで数回洗浄した後、10μg/mLトリプシンを用いて、30分温置して、結合したファージを溶出し得るが、これは、本ヘルパーファージがpIIIタンパク質に融合した切断可能なMyc−タグを有するからである。溶出されたファージをTG1細胞に感染させ、次回のファージ調製及びパニングに備える。このプロセスを2−3回繰り返したら、所望のポリペプチドを提示するファージのプールを濃縮することができる。濃縮したファージをE.コリ細胞に感染させることができ、所望のポリペプチドをコードする遺伝子を用いてベクターDNAを調製するためにこれを使用することができる。
【0165】
酵母ヘルパーベクター、pMAT3又はpMAT7又はpMAT8のコピーを含む受容酵母宿主細胞に、ファージライブラリから選択されたベクターDNAのこの小さいプールを続いて直接、形質転換することができる。所望の特性を有するリードを提示する形質転換酵母細胞を数回のフローサイトメトリーソーティングで単離することができる。簡潔に述べると、30℃で18−22時間、SD−CAA選択培地中で酵母細胞を増殖させ、次いでSG/R−CAA発現培地に20もしくは25℃で16−18時間移し得る。FACS洗浄緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA)中で室温にて30分間ビオチン化抗原及び5mg/mL抗−HA(12CA5)抗体とともに酵母細胞を温置し、氷冷緩衝液で洗浄する。このように、5mg/mLストレプトアビジン−R−PEコンジュゲート及びヤギ抗−マウス−488とともに暗所で氷上で30分間温置することによって細胞をプローブし、フローサイトメトリーによるソーティングのためにFACS洗浄緩衝液中で再懸濁することができる。選択物を精製するためにBD Bioscience FACS Vantage DiVaセットを用いて選択を行うことができ、所望の二重陽性細胞を選択するためにソートゲートを決定する。回収した細胞をPenn/Strep入りのSD−CAAプレートに播種し、30℃で2日間増殖させる。次に、細胞を再懸濁し、次回のために増幅する。選択後、個々のコロニーを拾うことができる。説明書に従いZymoprep酵母プラスミドミニプレップキット(Zymo Research)を使用することにより、配列決定を行うために、酵母細胞からのベクターDNAを回収することができる。
【0166】
酵母と哺乳動物宿主細胞との間の複数種提示
【実施例21】
【0167】
提示ベクターpMAT4
図14Aで示されるpMAT4は、酵母及び哺乳動物細胞でのポリペプチドライブラリの連続的発現又は提示のための、複数種又は異種間発現ベクターである。PacI−SacII断片を1420bpの完全合成DNA断片で置換することによって、ベクターpMAT2からこれを作製した。BioFabプラットフォーム技術(Codon Devices)を用いることによりこの完全合成DNAを作製したが、これは、イントロン配列内部に酵母pGAL10プロモーターを含有する。従って、アダプター1(GR1)(配列番号19)にインフレームで融合するライブラリタンパク質の発現は、3つのプロモーター:哺乳動物細胞に対するSV40プロモーター;酵母細胞に対するpGAL10;及びE.コリに対するpLacプロモーターにより駆動される。ヒト膵臓リパーゼタンパク質1(HPLRP1)のシグナルペプチドは、酵母及び哺乳動物細胞の両方で機能的である(Protein Exp.Puri、2006、47:415−421)。合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、オリゴ合成から生じたエラーを修正した。標準的DNA配列決定によってpMATの最終ポリヌクレオチド配列(配列番号15)を確認した。
【実施例22】
【0168】
提示ベクターpMAT6
XhoI及びNotI部位によりシグナル配列の下流に抗−VEGF抗体のscFv遺伝子を挿入することによって、pMAT4ベクターからpMAT6を得た。pABMX268DNAからPCRによりscFv遺伝子を増幅した。PCRプライマーは次のとおりであった:AM−90:5’−AGTCAGGTAAGCGCTCGCGCTCCGAGGTGCAGCTGGTGCAGAGCG−3’(配列番号3)及びAM−91:5’−ATGACCTCCTGCGTAGTCTGGTACGTC−3’(配列番号4)。Stratageneからの説明書に記載のように、pfuUtra Hotstart PCRマスターミックスと鋳型/プライマー溶液を混合することによってPCR反応液を調製した。温度サイクル条件は次のとおりであった:94℃で3分間変性;94℃で45秒間変性、55℃で45秒間アニーリング及び7℃で1分30秒間伸長のサイクルを30回;次に、72℃で10分間ポリッシング段階を行った。PCR産物を消化し、1%アガロースゲルから精製し、XhoI及びNotI部位でpMAT4ベクターにクローニングした。DNA配列決定によりscFvの配列を確認した。
【0169】
pMAT6(配列番号16)を図14Bで図示する。酵母及び哺乳動物細胞の両方において、ヒト膵臓リパーゼタンパク質1(HPLRP1)シグナルペプチドは機能的であり(Protein Exp.Puri、2006、47:415−421)、真核生物(酵母及び哺乳動物)宿主細胞の分泌経路を通じて、発現融合タンパク質(アダプター1とインフレームでscFvポリペプチド)を支配する。
【実施例23】
【0170】
pMAT6を用いた、酵母細胞での可溶性scFvの発現
Zymo Researchの説明書に従い、Frozen−EZ Yeast Transformation II Kを用いて、発現ベクターpMAT6を酵母細胞YH499に形質転換することができる。SD−CAA/Trp−選択培地50mL中で30℃で、飽和するまで1個のコロニーからの細胞を増殖させ、100μg/mLアンピシリン、0.1%dex入りの50mL TEP G/R培地中で再懸濁する。誘導2−3日後、上清を回収し、PBS緩衝液で透析することができる。
【0171】
ELISAアッセイにおいて上清中の可溶性scFvタンパク質を測定することができる。簡潔に述べると、VEGFで被覆したELISAプレートに100μLの上清を添加し、プレート上の抗原に結合したscFv抗体をHRP−標識抗−HAタグ抗体(12CA5)でプローブする。次に、HRP活性を決定するために、基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を添加する。さらに、精製するためにNi−NTAカラムに上清を添加することができる。PBS中の500mMイミダゾールで、結合したHis−タグタンパク質を溶出する。分画を回収し、SDS−PAGE及び抗−HA抗体でのウェスタンブロットによって分析する。
【実施例24】
【0172】
pMAT6を用いた、酵母上でのscFvの提示
発現ベクターpMAT6ベクター及び酵母ヘルパー提示ベクター(pMAT3又はpMAT7又はpMAT8など)を上記のように酵母細胞へと同時形質転換することができる。あるいは、クロス提示ベクターのみの形質転換のために、酵母ヘルパーベクターpMAT3又はpMAT7又はpMAT8のコピーを有する酵母細胞を使用することができる。
【0173】
SD−CAA/Trp−/Ura−又はSD−CAA/Trp−/Zeocine寒天プレート上で提示ベクター及びヘルパーベクターの両方を有する受容宿主細胞を選択することができ、同じ選択培地中で飽和するまで増殖させることができる。次に、この細胞を100μg/mLアンピシリン、0.1%dex入りの誘導培地に移し、一晩振盪しながら20℃で温置することができる。氷冷PBS緩衝液で洗浄後、FACS緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA)中で室温にて30分間、100nMビオチン化VEGF及び5mg/mL抗−HA(12CA5)抗体とともに酵母細胞を温置し、次いで氷冷洗浄緩衝液中で3回洗浄する。暗所で氷上で30分間、各5mg/mLのSA−PE及びGaM−488とともに温置することによってこの細胞をプローブし、次いで再び3回洗浄し、1mL FACS緩衝液中で再懸濁し得る。細胞で提示されるscFvと会合した蛍光をFACs Cailibur フローサイトメトリー又はAgilent2100bioanalyzer(Agilent Techologies)で測定する。
【実施例25】
【0174】
pMAT6を用いた、哺乳動物細胞での可溶性scFvの発現
実施例8での説明に従い、COS細胞を用いて、哺乳動物細胞において可溶性抗−VEGF scFv融合タンパク質の発現をpMAT6が支配する能力を評価した。簡潔に述べると、血清不含培地中3:1又は3:2の割合で、希釈したFuGENE6試薬にpMAT6ベクターDNA 1又は2μgを使用した。15分間温置した後、FuGENE6試薬DNA複合体を6ウェルプレート中の細胞(2mL発現培地(Invitrogen)中1.0x106細胞)に移す。95%CO2雰囲気中、37℃で72時間、この細胞を温置しなければならない。機能的scFvタンパク質を測定するために、scFv−HA−GR1タンパク質の抗−HAウエスタンブロット分析及び抗−VEGF ELISAアッセイ用に上清を回収することができる。
【0175】
最初に、ProFound HA Tag IP/Co−IPキット(Pierce)の説明書に従い、抗−HA抗体ビーズを用いて培養上清800μLからscFvタンパク質を精製した。このように、タンパク質分離のために4−12%SDS−PAGEゲル(Invitrogen)に精製scFvタンパク質を添加し、ECL pusウエスタンブロッティング検出システム(Amersham)の説明書に従い、ウエスタンブロッティング分析のために0.45ニトロセルロース膜に転写した。簡潔に述べると、TBST中5%脱脂乳で膜をブロッキング処理し、室温で1時間、マウス抗体HA−プローブF7(Santa Cruz Biotech)とともに温置した。TBSTで3回洗浄した後、ペルオキシダーゼ標識抗−マウス抗体で1時間温置して膜をプローブした。洗浄した膜に検出溶液を添加し、5分間温置した。次に、x線フィルムを用いて化学発光シグナルを検出した。図7Aで与えられる抗−HAブロッティングの結果から、pMAT6がCOS6細胞培養上清へのscFvタンパク質(〜35KD)の発現を支配するように機能することが示される。
【0176】
抗−VEGF ELISAアッセイにより、COS6培養上清からのscFvタンパク質の機能をさらに分析した。簡潔に述べると、2μg/mLの濃度の、重炭酸塩緩衝液pH9.6中の希釈rhVEGF(R&D System)100μLで、MaxiSorpプレートを一晩被覆した。PBSで2回洗浄した後、5%ミルクPBSを用いて室温で1時間、プレートをブロッキング処理した。さらなる洗浄後、様々な希釈度の精製scFvタンパク質が入った溶液50μLをウェルに添加し、室温にて1時間、温置した。洗浄後、マウス抗体HA−プローブF7(Santa Cruz Biotech)50μLを添加して室温で1時間温置し、続いて5%ミルクPBS中1:2,000希釈の抗−マウス抗体−HRPコンジュゲート(Santa Cruz Biotech)とともに1時間温置した。次いで、最後に、ABTS基質.(Pierce)を発色のために添加した。96ウェルプレートリーダー(Molecular Devices)によって、OD405でプレートの読み取りを行った。図7Bで示されるELISAの結果から、2つの個々のCOS6細胞形質移入物からのpMAT6培養上清中で用量依存的VEGF結合活性が示され、このことから、哺乳動物細胞における酵母/哺乳動物pMAT6ベクターからのscFvの機能的発現が示唆される。
【実施例26】
【0177】
pMAT6を用いた、哺乳動物細胞上でのscFv提示
次のプロトコールによって哺乳動物細胞におけるpMAT6の異種間提示機能を調べることができる。10%ウシ胎仔血清、100ユニット/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシン含有ダルベッコ改変イーグル培地が入った6ウェルプレート中のカバースリップ上でCOS6細胞を増殖させる。製造者の説明書に従い、FuGene6形質移入試薬(Roche Applied Science)を用いて、pAMT6クロス提示ベクター及び哺乳動物ヘルパーベクターpMAG2をCOS6細胞に同時形質移入する。簡潔に述べると、血清不含培地中、3:2のFuGENE6試薬(μL):DNA複合体(μg)の割合で、希釈したFuGENE6試薬にプラスミドDNA0800ng(pMAT6 400ng+pMAG2 400ng)を添加する。FuGENE試薬DNA複合体を室温で15分間温置し、次いで細胞に添加する。
【0178】
48時間後、細胞表面上で提示されるHAタグ付加scFv−GR1融合タンパク質(pMAT6ベクターより)をAlexa488標識抗−HA抗体で検出することができる。簡潔に述べると、COS6細胞を4%ホルムアルデヒドで20分間固定し、PBS中の5%BSAで25℃にて30分間ブロッキング処理し、次いでPBS中のAlexa488標識抗−HA抗体(1:100希釈、Invitrogen)(1:500)とともに60分間温置する。核を可視化するために、細胞をまた、DAPI(Invitrogen)でも染色する。Plan−Neofluar 100/1.30油浸対物レンズ付きのZeiss Axiovert135顕微鏡で細胞を観察する。細胞表面上のHAタグ付加scFv−GR1は緑色蛍光で観察される。
【0179】
あるいは、関心のあるポリペプチドを発現している宿主細胞を同定するために、FACSアッセイを行うことができる。形質移入から48時間後に、染色のために4x106細胞/mLの最終濃度を用いる。ビオチン化rhVEGF又はVEGF−Fcを細胞懸濁液25μLに添加し、4℃にて60分間温置する。陰性染色対照として、細胞の同一試料をビオチン化ダイズトリプシン阻害剤で染色する。次に、アビジン−FITC又は抗−Fc抗体−FITCとともにさらに30分間、4℃で暗所で細胞を温置する。RDF1緩衝液で細胞を2回洗浄し、FACSvantageフローサイトメーター(BD Biosciences)又はAgilent2100 bioanalyzer(Agilent technologies)でのフローサイトメトリー分析のために0.2mL RDFI緩衝液中でこの細胞を再懸濁する。
【実施例27】
【0180】
酵母及び哺乳動物細胞上で提示される所望のポリペプチドの選択
DNAのライブラリをpMAT4ベクターに挿入し、酵母ヘルパーベクターpMAT3又はpMAT7又はpMAT8のコピーがそのゲノムに組み込まれた酵母細胞に直接形質転換することができる。
【0181】
フローサイトメトリーソーティングを数回行うことにより、所望の特性を有するリードを提示する形質転換酵母細胞を単離することができる。簡潔に述べると、30℃で18−22時間、SD−CAA選択培地中で酵母細胞を増殖させ、次いでSG/R−CAA発現培地に20℃で16−18時間移すことができる。FACS洗浄緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA)中で室温にて30分間ビオチン化抗原及び5mg/mL抗−HA(12CA5)抗体とともに酵母細胞を温置し、氷冷洗浄緩衝液で洗浄する。5mg/mL SA−PE及びGaM−488とともに暗所で氷上で30分間温置することによって細胞試料をプローブし、フローサイトメトリーによるソーティングのためにFACS洗浄緩衝液中で再懸濁する。
【0182】
選択物を精製するためにBD Bioscience FACS Vantage DiVaセットを用いて選択を行うことができ、所望の二重陽性細胞を選択するためにソートゲートを決定する。Penn/Strep入りのSD−CAAプレートに回収した細胞を播種し30℃で2日間増殖させる。次に、細胞を再懸濁し、次回のために増幅する。2−3回の選択後、Zymoprep酵母プラスミドミニプレップキット(Zymo Research)を使用することにより、酵母細胞からのベクターDNAのリードのプールを回収することができる。
【0183】
次に、酵母提示ライブラリから単離された、この得られたベクターDNAのプールを、哺乳動物ヘルパーベクターpMAG2とともに同時形質移入することにより、細胞表面提示のために哺乳動物細胞に直接形質移入することができる。フローサイトメトリーソーティングを数回行うことにより、所望の特性を有するリードを同定し、回収することができる。簡潔に述べると、キュベット中で氷冷PBSで洗浄したHEK293細胞又はCOS細胞3x106と10−20μgDNAを混合する。氷上で10分間温置した後、250uF、660Vに設定したGenePulser Xcell(Bio−Rad)を用いて、細胞/DNA混合物に対してエレクトロポレーションを行う。室温で10分間温置した後、75cm培養フラスコ中の20mL培地に細胞を移し、3℃、5%CO2で2−3日間温置する。あるいは、形質移入のために、FuGene6形質移入試薬を使用することができる。
【0184】
適切な選択プロセスを下記に記載する。PBS緩衝液中の0.2nMビオチン化抗原タンパク質及び抗−HA mAb 12CA5 20μg/mLとともにおよそ107個の形質移入細胞を25℃で1時間温置する。最後に、氷冷PBS緩衝液でこの細胞をすすぎ、FITC標識ヤギ抗−マウスFITC(AMI0408;BioSource International、Camarillo、CA)及びストレプトアビジン−R−PEコンジュゲート(S866;Molecular Probe)とともに4℃で1時間温置して標識した。このように、適切なソートウィンドウ(sort window)でこの細胞をFACSVantageSE(BD Biosciences)上でソーティングする。上位0.1%のPE−陽性細胞を回収する。選択された細胞から回収された提示及びヘルパーベクター両方のDNAをE.コリ細胞に形質転換する。KO7などの通常のヘルパーファージにより、f1 oriを有する提示ベクターのみをパッケージングすることができるが、これは、哺乳動物ヘルパーベクターからベクターを分離するという効果がある。次に、別の回のFACSソーティング又はDNA配列決定のために、回収した提示ベクターDNAを使用することができる。
【実施例28】
【0185】
E.コリ、酵母及び哺乳動物細胞において機能を有するシグナルペプチドの選択
pMAT6ベクターにおいて、アダプターGR1/ポリペプチド融合タンパク質の発現は、3つのプロモーター:哺乳動物細胞に対するSV40プロモーター;酵母細胞に対するpGAL10プロモーター;及び細菌細胞に対するpLacプロモーターにより支配される。従って、E.コリ、酵母及び哺乳動物細胞の全てにおいて機能する(即ち、分泌経路に対して融合タンパク質を支配する)シグナルペプチドをベクターが含むならば、このベクターは潜在的にファージ、酵母及び哺乳動物細胞上でのポリペプチドの異種間提示を支配するために使用し得る。
【0186】
E.コリ、酵母及び哺乳動物細胞において分泌機能を有するシグナルペプチドを単離するために、抗−VEGF cFvなどの試験タンパク質に対する発現カセットを含むpMAT6ベクターへとシグナル配列のライブラリをクローニングすることができる。得られたライブラリをファージ上で提示し、VEGF抗原を用いたパニングプロトコールを使用して選択することができる。そのVEGF結合活性に基づき同定された単離ファージは、E.コリ細胞で機能するシグナルペプチドが存在することを特徴とするであろう。適切なパニングプロセスには、4℃で一晩5μg/mLの濃度のVEGFで96ウェルプレートを被覆し、そのプレートをPBSで洗浄し、5%ミルク/PBSでブロッキングすることが含まれる。100μL 1011−12個のファージを添加し、室温で2時間温置する。PBST及びPBSでの数回の洗浄後、10μg/mLトリプシンで30分間、結合ファージを溶出する。TG1細胞に溶出ファージを感染させ、次回のファージ調製及びパニングに対して使用する。このプロセスを2−3回繰り返した後、提示するファージのプールを濃縮することができる。E.コリ細胞に感染させるために濃縮したファージを使用し、次の酵母提示用のベクターDNAの調製のためにこれを使用する。
【0187】
酵母ヘルパーベクター、pMAT3又はpMAT7又はpMAT8のコピーを有する酵母細胞へと、ファージライブラリから選択されたベクターDNAのこの小さなプールを続いて直接形質転換することができる。酵母細胞表面上で機能的scFvを提示するために、酵母細胞で分泌を支配できるシグナルペプチドが必要である。フローサイトメトリーソーティングを数回行うことにより、機能的シグナルペプチドを有する酵母細胞を単離することができる。適切なソーティングプロトコールは、30℃で18−22時間、SD−CAA選択培地中で酵母細胞を増殖させ、次いでSG/R−CAA発現培地に20℃で16−18時間移すことを含み得る。FACS洗浄緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA)中で室温にて30分間ビオチン化VEGF及び5mg/mL抗−HA(12CA5)抗体とともにこの細胞を温置し、氷冷洗浄緩衝液で洗浄することができる。5mg/mL SA−PE及びヤギ抗−マウスAb−488とともに暗所で氷上で30分間温置することによって続いて細胞をプローブし、フローサイトメトリーによるソーティングのためにFACS洗浄緩衝液中で再懸濁することができる。選択物を精製するためにBD Bioscience FACS Vantage DiVaセットを用いて選択を行うことができ、所望の二重陽性細胞を選択するためにソートゲートを決定する。Penn/Strep入りのSD−CAAプレート上に回収した細胞を播種し、30℃で2日間増殖させる。次に、細胞を再懸濁し、次回のために増幅する。2−3回の選択後、説明書に従いZymoprep酵母プラスミドミニプレップキット(Zymo Research)を使用することにより、酵母細胞からベクターDNAを回収する。
【0188】
E.コリ及び酵母で機能するシグナルペプチドを同定するために、上記のファージ及び酵母選択プロトコールを使用した後、ライブラリを哺乳動物提示系に導入することによって第三の選択を行うことにより、哺乳動物細胞で機能することができるさらなる特性を特徴とするシグナルペプチドを同定することができる。表面提示のために、ファージ及び酵母提示から選択されたリードDNAを哺乳動物細胞に直接形質移入することができる。簡潔に述べると、リードDNA20μgを上記のHEK293細胞又はCOS6細胞に形質移入する。培養2日後、形質移入した細胞をPBS緩衝液中の0.2nMビオチン化抗原VEGF及び抗−HA mAb 12CA5 20μg/mLlとともに25℃で1時間温置する。最後に、氷冷PBS緩衝液でこの細胞をすすぎ、FITC標識ヤギ抗−マウスFITC(AMI0408;BioSource International、Camarillo、CA)及びストレプトアビジン−R−PEコンジュゲート(S866;Molecular Probe)とともに4℃で1時間温置することにより標識した。このように、適切なソートウィンドウ(sort window)でこの細胞をFACSVantageSE(BD Biosciences)上でソーティングする。上位0.1%のPE−陽性細胞を回収する。選択された細胞から回収された提示及びヘルパーベクター両方のDNAをE.コリ細胞に形質転換する。ファージパッケージングによって、f1 oriを有する提示ベクターDNAを単離することができる。これらの選択後、ファージ、酵母及び哺乳動物提示を通じて単離されたシグナルペプチドは、E.コリ、酵母及び哺乳動物細胞で機能的である。これを確認するために、個々のクローンからのDNAを直接使用して、それぞれE.コリ、酵母及び哺乳動物細胞に形質転換する。上記のように抗−VEGF ELISAによって、これらの細胞から分泌される可溶性scFvを検出することができる。
【0189】
原核及び真核宿主細胞上での異種間提示
【実施例29】
【0190】
細菌ヘルパーベクターpMAL1
PciI部位を用いた自己連結によって、図13Aで示されるpMAL1を3822bpの完全合成DNA断片から作製した。この完全合成DNAは、(1)複製のためのpUC ori、ファージパッケージングのためのf1 ori及びクロラムフェニコール選択マーカーの発現カセットを含む細菌の制御エレメントに対する配列と;(2)細菌外面ドメイン(PelBシグナル−Lpp−OmpA)とのアダプター2(GR2)(配列番号20)融合物の発現カセットと、を含む。簡潔に述べると、Codon DeviceのBioFabプラットフォーム技術を用いることによる遺伝子合成のために、この合成DNAを1851及び2019bpの2片のセグメントに分割した。合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、オリゴ合成から生じたエラーを修正した。2つの末端にPciI制限部位があるこれらの合成DNAセグメントを消化し、核酸連結した。標準的DNA配列決定によって、得られたベクター(配列番号17)を確認した。
【実施例30】
【0191】
細菌ヘルパーベクターpMAL2
PciI−BssHII断片を1006bpの完全合成DNA断片(これは、アダプター2(GK1)(配列番号20)に融合したLpp−OmpAの細菌外面ドメインに対する発現カセットを含む。)で置換することにより、図13Bで図示されるpMAL2をpMAL1ベクターから得た。融合タンパク質の発現はファージp8シグナルペプチドにより支配される。
【0192】
簡潔に述べると、Codon DeviceのBioFabプラットフォーム技術を用いて合成DNAを作製した。合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、オリゴ合成から生じたエラーを修正した。得られたベクター(配列番号18)を標準的DNA配列決定によって確認した。
【実施例31】
【0193】
E.コリ及び哺乳動物宿主細胞上でのscFvの異種間提示
上記で示されるように、宿主細胞の複数種におけるポリペプチドの発現のために、及び、本発明のヘルパー提示ベクターと組み合わせて使用される場合、実施例2、6から9に記載のファージ及び哺乳動物細胞上でのタンパク質ライブラリの表面提示を支配するために、ベクターpMAG9を使用した。同様に、細菌及び哺乳動物細胞上でのクロス提示のためにこのベクターを使用することもできる。細菌細胞提示を次のように行うことができる。
【0194】
細菌ヘルパー提示ベクターpMAL1又はpMAL2と組み合わせた発現ベクターpMAG9ベクターの同時形質転換は、2つの融合タンパク質:可溶性scFv−GR1(タンパク質/アダプター1)及びLpp−OmpA−GR2(表面タンパク質/アダプター2)を発現するようにE.コリを支配する。GR1及びGR2融合タンパク質は細胞膜周辺腔に分泌され、集合してGR1及びGR2相互作用によりタンパク質複合体を形成する。得られたタンパク質複合体は、Lpp−OmpA外膜アンカードメインによって細胞表面上で提示される。
【0195】
簡潔に述べると、アンピシリン選択マーカーを有するpMAG9発現ベクターで細胞を形質転換し、次いでクロラムフェニコール選択マーカーを有するファージミドパッケージングヘルパーベクターpMAL1又はpMAL2を感染させることができる。OD600=0.5まで、1%グルコース及び100μg/mL アンピシリン及び30μg/mLクロラムフェニコールの抗生物質を含有する2YT培地中で提示及びヘルパーベクター両方を有する細胞を増殖させ、次いで、アダプター融合タンパク質の発現のために、グルコース不含の増殖培地に移す。4−6時間温置した後、FACS洗浄緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA)中で、室温で30分間、ビオチン化抗原VEGF及び5mg/mL抗−HA(12CA5)抗体とともに細胞を温置し、氷冷洗浄緩衝液で洗浄する。このように、5mg/mL SA−PE及びGaM−488とともに30分間、暗所で氷上で温置することによって細胞をプローブし、FACS分析のためにFACS洗浄緩衝液中で再懸濁する。抗−VEGF scFvのライブラリをこの方法で提示させる場合、scFvタンパク質を提示する細胞を上記のようにプローブし、フローサイトメトリーによりソーティングし得る。抗生物質アンピシリンのみを含有する2YT/グルコース培地中での増殖を通じて、ヘルパーベクターから提示ベクターのリードを分離することができる。
【実施例32】
【0196】
E.コリと酵母との間のscFvの異種間提示
本明細書中で示されるように、ファージと酵母細胞との間のクロス提示(実施例12から19に記載)に対して及び細菌と酵母細胞との間の細胞表面提示に対して、pMAT5を使用することができる。pMAT6ベクター及び細菌ヘルパーベクターpMAL1又はpAML2で受容宿主細胞を同時形質転換し、次に、細胞が2種類の融合タンパク質:可溶性scFv−GR1及びLpp−OmpA−GR2融合物を発現する。GR1及びGR2融合タンパク質は細胞膜周辺腔に分泌され、GR1及びGR2相互作用によりタンパク質複合体を形成する。Lpp−OmpA外膜ドメインを通じて細胞表面上にscFv−GR1タンパク質が提示される。
【0197】
簡潔に述べると、アンピシリン選択マーカーを含む提示ベクターで細胞を最初に形質転換し、続いて、クロラムフェニコール選択マーカーを有するファージミドパッケージングヘルパーベクターpMAL1又はpMAL2を感染させることができる。OD600=0.5まで、1%グルコース及び100μg/mL アンピシリン及び30μg/mLクロラムフェニコールの抗生物質を含有する2YT培地中で提示及びヘルパーベクター両方を有する細胞を増殖させ、次いで、アダプター融合タンパク質の発現のために、グルコース不含の増殖培地に移す。4−6時間温置した後、FACS洗浄緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA)中で、室温で30分間、ビオチン化抗原VEGF及び5mg/mL抗−HA(12CA5)抗体とともに細胞を温置し、氷冷洗浄緩衝液で洗浄する。このように、5mg/mL SA−PE及びGaM−488とともに30分間、暗所で氷上で温置することによって細胞をプローブし、FACS分析のためにFACS洗浄緩衝液中で再懸濁する。抗−VEGF scFvのライブラリをこの方法で提示させる場合、scFvタンパク質を提示する細胞を上記のようにプローブし、フローサイトメトリーによりソーティングし得る。抗生物質アンピシリンのみを含有する2YT/グルコース培地中での増殖を通じて、ヘルパーベクターから提示ベクターのリードを分離することができる。酵母細胞提示のためのpMAT5提示ベクターは実施例19に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0198】
【図1】図1は、本発明の異種間及び複数種提示系の実験計画の概略である。
【図2】図2A及び2Bは、ファージ及び哺乳動物の異種間又は複数種提示ベクターpMAG1(図2A)及びpMAG9(図2B)の概略を示す。pMAG1及びpMAG9ベクターにおいて、アダプター1融合タンパク質の発現は哺乳動物プロモーター及び細菌プロモーターの調節下にある。
【図3】図3は、KO7Kpnベクターのカナマイシン耐性ファージ−陽性クローンに対する抗−ファージELISAスクリーニングの結果の概略を示す。クローン#C2、B3、B7、B9、A12は、KO7kpnヘルパーファージ−陽性クローンに相当する。F1及びF2は、親M13KO7ファージの2つの陽性対照に相当する。
【図4】図4は、ファージヘルパーベクターGMCTの概略を示す。このベクターは、KO7kpnファージベクターにおいてアダプターGR2及びMyc−タグに融合した改変遺伝子IIIのさらなるコピーをコードするヌクレオチド配列を含有する。
【図5】図5は、哺乳動物ヘルパーベクターpMAG2の概略を示すが、これは、ヒトEGF受容体の膜貫通ドメインに融合したアダプター2を含む融合タンパク質を産生する。
【図6】図6A及び6Bは、異種間提示ベクターpMAG9を用いてE.コリ細胞(図6A)及び哺乳動物細胞(図6B)で発現される可溶性抗−VEGF scFvに対する機能的発現アッセイの結果の概略を示す。これらのデータから、培養上清からのscFv抗体のVEGF結合活性が示され、このことから、ベクターpMAG9の異種間発現機能が明らかとなった。
【図7】図7A及び7Bは、異種間提示ベクターpMAG9及びpMAT6を用いた哺乳動物細胞での可溶性scFvの発現を示す結果である。図7Aは、pMAG9及びpMAT6ベクターによって293及びCOS細胞からの培養上清中で分泌された35KD scFvタンパク質を示す、抗−HA抗体で発色させたウエスタンブロットの結果である。図7Bは、pMAT6ベクターによってCOS細胞上清中で発現されるscFvのVEGF結合活性を示すELISAアッセイの結果をまとめたものであるが、これにより、ベクターpMAT6の複数種発現機能が明らかとなった。
【図8】図8は、ベクターpMAG9を用いたファージ表面上でのscFvの機能的提示を示す。このデータから、ファージ表面上で提示された抗−VEGF scFv抗体の用量依存的VEGF結合活性が示された。
【図9】図9A、B及びCは、表面上で抗−VEGF scFvを提示するCOS6細胞の蛍光顕微鏡画像を示す。pMAG9及びpMAG2ベクターで形質移入されたCOS6細胞をチャンバースライド上で増殖させた。抗−HA抗体−AlexaFluor−488(緑色)及びDAPI(青色)核染色で、形質移入された細胞を染色した。図9Aは、重ね合わせた染色パターンである。図9Bは、Alex Fluor−488染色を与え、図9Cは、DAPI核染色を与える。このデータから、pMAG9ベクターの哺乳動物提示機能が明らかとなった。
【図10】図10A及び10Bは、ファージ及び酵母異種間又は複数種発現ベクターpMAT2及びpMAT5の概略を示す。図10はベクターpMAT2の成分を示す。図10Bは、ベクターpMAT5の成分を示す。pMAT2及びpMAT5ベクターにおいて、アダプター1融合タンパク質の発現は、酵母プロモーター及び細菌プロモーターの調節下にある。
【図11】図11A、B及びCは、酵母ヘルパー提示ベクター、pMAT3、pMAT7及びpMAT8の概略を示す。これらのベクターにおいて、アダプター2は次のような様々な酵母細胞外壁タンパク質:pMAT3の場合Flo1のC末端ドメイン;pMAT7の場合Aga2;及びpMAT8の場合Cwp2、に融合する。
【図12】図12は、発現ベクターpMAT5を用いたE.コリ細胞での可溶性scFvに対する機能的発現アッセイの結果を示す。ELISAデータから、TG1培養上清中の抗−VEGF scFv抗体の用量依存的VEGF結合活性が示された。
【図13】図13は、異種間提示ベクターpMAT5を用いたファージ表面上でのscFvの機能的提示を示す。このデータから、pMAT5ファージ表面上で提示される抗−VEGF scFv抗体の用量依存的VEGF結合活性が示された。
【図14】図14A及び14Bは、酵母及び哺乳動物異種間又は複数種発現ベクターpMAT4(14A)及びpMAT6(14B)の概略を示す。pMAT4及びpMAT6ベクターにおいて、アダプター1融合タンパク質の発現は、3つのプロモーター:哺乳動物、酵母及び細菌プロモーターの調節下にある。このシグナルペプチドは酵母及び哺乳動物細胞において機能的である。
【図15】図15A及びBは、細菌ヘルパーベクターpMAL1(15A)及びpMAL2(15B)の概略を示す。このベクターは、抗生物質選択(Cam)のためのクロラムフェニコール耐性遺伝子及びLpp−OmpAの細菌外膜ドメインへのアダプター融合のための発現カセットを含有する。
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本願は、米国仮出願第60/746,489号(2006年5月4日出願、題名「複数種提示系」)の35USC 119(e)の定めるところに従い、優先権を主張する。この仮出願の開示は、その全体を参照により本明細書中に組み込む。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、タンパク質提示の分野に関し、発現ベクターの分子操作を何ら行うことなく、原核及び/又は真核生物宿主細胞の表面での、タンパク質ライブラリの、連続的な複数種提示又は異種間提示を可能にする提示系を提供する。
【0003】
発明の背景
ファージ提示系は、ポリペプチドライブラリ(例えば抗体ライブラリ)の構築及びスクリーニングのためのコアテクノロジープラットフォームと考えられる。これは、様々な遺伝学的ツールの利用可能性、操作の利便性及びE.コリ細胞の高い形質転換効率(通常、109から1010cfu/μg pUC18 DNA)を含む、数多くの実施上の配慮点による。現在、ファージ上で提示されるナイーブ抗体ライブラリが日常的に抗体探索のために使用されており、これにより、動物免疫付与及び従来のハイブリドーマ技術の使用が不要となる。ファージ提示ライブラリの複雑性は、1011の規模に達した。しかし、抗体探索及び操作技術においてファージ提示がうまく使用されているにもかかわらず、原核生物系での真核タンパク質の発現及び提示に関連して多くの欠点がある。例えば、一部の真核生物タンパク質は、原核細胞において機能的に発現され得ず、原核生物宿主細胞は、真核生物宿主細胞の特徴である翻訳後修飾を完全に行うことができない。
【0004】
原核生物提示系の使用に関連する制限の一部は、真核生物提示系を使用することによって解決できる。例えば、真核生物宿主細胞は一般に、比較的大型のタンパク質の提示に適応し得、複雑なグリコシル化を含む翻訳後修飾が可能である。酵母提示系の使用に付随するユニークな長所には、酵母細胞が比較的単純で安価な培養液中で高密度になるまで培養できるという有利な特性が含まれる。加えて、真核細胞は大きいので、フローサイトメトリーによる所望の特性を有するタンパク質を発現する1個の細胞についてライブラリをスクリーニングすることができる。
【0005】
しかし、実際、タンパク質提示のために真核宿主細胞を大規模に使用することは、宿主細胞の形質転換効率などのいくつかの根本的な問題により制限される。例えば、酵母細胞形質転換の効率は、通常、104−105cfu/μgDNAであり、これにより、酵母提示に基づく系において大型のライブラリを提示する能力が大きく制限される。今日、報告されている酵母提示ライブラリの最大のものは109前後のサイズである。
【0006】
研究者が抗体探索及び分子進化適用のために原核及び真核提示系の威力を活用することを可能にする複数種提示系は、タンパク質提示の領域での重要な進歩と言える。複数種又は異種間提示系を開発するための以前の取り組みは、特異的外面タンパク質との関心のあるタンパク質配列のライブラリの融合に基づく提示ストラテジーが、表面タンパク質が由来する1種類の宿主細胞に限定されるということによって妨げられている。例えば、関心のあるタンパク質が酵母細胞壁タンパク質を含む融合タンパク質として提示される提示ストラテジーにおいて前提とされる酵母提示系は、本質的に酵母に限定され、ファージ及び哺乳動物宿主細胞で実施することはできない。
【0007】
Huftonら(米国特許出願20030186374 A1)で示されるように、先行技術の提示系は、通常、原核(ファージ)提示ベクターから真核(酵母)提示ベクターへとコード配列を移入するためにさらなる段階が必要であるベクターを使用する。一般的に、異なる遺伝子パッケージを用いて第一の提示系から第二の提示系へと移動させるために、第一のベクターから第二のベクターへの発現カセットの移動に制限部位の同じセットを使用するように設計されたクローニングストラテジーを用いた消化及び核酸連結によって、第二の宿主細胞(例えば種)での使用のためにベクターを修飾しなければならない。実際に、第二の種での提示に対してコード配列のライブラリを適合させるためにDNA消化及び核酸連結を行わなければならないプロセスは非効率的であり、プロセス中にユニークな特性を有する所望のものである可能性があるメンバーが失われ得る恐れがあり、それによりライブラリの多様性に悪影響がある。
【0008】
従って、提示ベクター又は提示ベクターのライブラリの分子操作を何ら行わずに、原核(ファージ又は細菌)遺伝子パッケージの別の異なる種間又は原核遺伝子パッケージと真核(酵母、哺乳動物細胞)系との間又は2種類の別の真核生物宿主細胞(酵母及び哺乳動物細胞)間で、提示ベクターを移動させることができる理想的なタンパク質提示系に対するニーズは満たされていない。
【0009】
本発明の要約
本発明は、ポリペプチドの様々なライブラリの異種間複数種の両方の提示を可能にするタンパク質提示系を提供する。何らかの分子操作(即ち、DNA消化及び核酸連結)の必要なく、同じ発現ベクターを用いて、異種間及び複数種提示法を実施することができる。ファージ及び細菌細胞又はファージ及び酵母細胞又はファージ及び哺乳動物細胞などの遺伝子パッケージの複数種の表面上で、コード配列の多様性のあるレパートリーによりコードされるタンパク質産物を提示するために、本発明の組成物及び方法を使用することができる。本発明の組成物及び方法は、探索(即ちスクリーニング)又は分子進化プロトコールとの関連においてタンパク質のコレクションの提示に特に有用である。
【0010】
とりわけ、本発明は、提示ベクター又は提示ベクターのライブラリの分子操作を何ら行わずに、原核(例えばファージ又は細菌)と真核(酵母、哺乳動物細胞)生物宿主細胞との間又は真核生物宿主細胞(例えば、酵母及び哺乳動物細胞)の異なる種の間の両方で研究者が発現/提示ベクターを移動させることができるようになる、タンパク質提示系を提供する。
【0011】
図1で示されるように、開示される提示系によって、遺伝子パッケージ又は宿主細胞の様々な種の外面上で外来配列を提示できるようになる。各提示系は、一般に、2つの成分:1)複数種又は異種間発現ベクターと、2)各種に対する対応するヘルパーベクターと、を有する。ある実施形態において、本発明は、異種間又は複数種発現ベクター、pMAG1、pMAG9、pMAT4、pMAT2、pMAT6及びPMAT5を提供する。pMAG1及びpMAG9ベクターにおいて、アダプター1融合タンパク質の発現は、哺乳動物プロモーター及び細菌プロモーターの調節下にある。ベクターpMAT2、pMAT4、pMAT5及びpMAT6ベクターにおいて、アダプター1融合タンパク質の発現は、酵母プロモーター及び細菌プロモーターの調節下にある。
【0012】
別の実施形態において、本発明は、ヘルパー提示ベクター、GMCT、pMAG2、pMAL1、pMAL2、pMAT3、pMAT7及びpMAT8を提供する。細菌ヘルパー提示ベクターpMAL1(図15A参照)及びpMAL2(図15B参照)は、Lpp−OmpAの細菌外膜ドメインに融合したアダプター2を含む融合タンパク質を発現する発現カセットを含む。各酵母ヘルパー提示ベクターは、様々な酵母細胞外壁タンパク質に融合したアダプター2を含む融合タンパク質の発現を支配する(図11参照)。とりわけ、pMAT3は、Flo1のC末端ドメインに融合したアダプター2の発現を支配し、pMAT7はアダプター2 Aga2融合タンパク質を発現し;pMAT8はアダプター2 Cwp2融合タンパク質を発現する。
【0013】
異種間又は複数種発現ベクターのみを対応する宿主細胞(E.コリ又は酵母細胞又は哺乳動物細胞など)へ導入することによって、第一のアダプターエレメント(本明細書中で「アダプター1」と呼ぶ。)とインフレームで融合した外来ポリペプチドが発現され分泌される。特定の提示ベクターセットの対応するヘルパーベクターと組み合わせた本発明の発現ベクターの同時発現は、遺伝子パッケージ又は宿主細胞の表面上でのタンパク質ライブラリの外来ポリペプチドメンバーの提示を支配する。特定のベクターセットのヘルパーベクター成分が第二のアダプターエレメント(本明細書中で「アダプター2」と呼ぶ。)を含み、それが、タンパク質配列のライブラリを提示するために使用されている特異的遺伝子パッケージ又は宿主細胞で機能的である外面アンカータンパク質に融合した第一と第二のアダプターとの間の対をなす相互作用を介して支配する結果、表面提示が起こる。
【0014】
例えば、E.コリ細胞での外来ポリペプチド−アダプター1融合タンパク質の発現を支配する複数種又は異種間提示ベクターと組み合わせた、ファージコートタンパク質に融合したアダプター2を含むヘルパーベクターの同時発現によって、外来ポリペプチドのライブラリがファージ粒子上で提示される。同様に、外来ポリペプチド−アダプター1融合タンパク質の発現を支配する複数種提示ベクターと組み合わせた、細菌外膜アンカータンパク質に融合したアダプター2を含む細菌ヘルパーベクターの同時発現によって、細菌提示ライブラリが得られる。あるいは、ポリペプチド−アダプター1融合タンパク質のライブラリの発現を支配する複数種提示ベクターと組み合わせて、酵母外面アンカータンパク質に融合したアダプター2を含む酵母ヘルパーベクターを使用することによって、酵母提示ライブラリが得られる。本発明の複数種提示ベクターと組み合わせて、哺乳動物外面タンパク質に融合したアダプター2を含む哺乳動物ヘルパーベクターを同時発現させることにより、哺乳動物提示ライブラリを調製することができる。
【0015】
ある実施形態において、本発明は、原核及び真核細胞提示系間で、関心のあるタンパク質のライブラリを移動させるのに適切な異種間提示系を提供する。とりわけ、本発明は、関心のあるポリペプチド配列をコードする発現ベクターを操作する必要のない、原核生物宿主及び真核生物宿主細胞での、関心のあるポリペプチド配列のレパートリーの連続提示のための異種間提示系を提示する。
【0016】
大まかに言えば、本発明の各異種間提示ベクターセットは、1)1以上のプロモーターと、第一のアダプター配列にインフレームで融合した関心のあるタンパク質をコードする異種間発現カセットと、を含む提示ベクターと、2)原核生物宿主により発現される外面タンパク質に融合した、提示ベクターの第一のアダプター配列と対をなし相互作用する第二のアダプター配列からなる融合タンパク質をコードする第一のヘルパーベクターと、3)真核生物宿主細胞により発現される外面タンパク質に融合した、第二のアダプター配列からなる融合タンパク質をコードする第二のヘルパーベクターと、を含む。開示される細菌/酵母異種間提示ベクターは、次の機能的エレメント:酵母プロモーター及び細菌プロモーター、その前方に、細菌/酵母二重機能シグナル配列;関心のある遺伝子;アダプターコード配列;及び酵母転写終結配列を含む。細菌ヘルパーベクターは、アダプター2及び細菌外面タンパク質をコードする遺伝子融合物の少なくとも1コピーを含み、E.コリ細胞でのアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現により、関心のあるタンパク質がE.コリ細胞で細胞表面提示される。従って、酵母細胞でのアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現により、関心のあるタンパク質が酵母細胞上で表面提示される。
【0017】
本発明のこの態様の特定の実施形態は、関心のあるタンパク質又はタンパク質のライブラリを連続的にファージウイルス粒子(原核生物宿主細胞)及び酵母又は哺乳動物細胞の何れか(真核生物宿主細胞)の上で提示するための方法を提供する。一般に、ファージ/哺乳動物異種間提示ベクターは、次の機能的エレメント:(1)哺乳動物プロモーター及び細菌プロモーター、その前方に、(2)細菌/哺乳動物二重機能シグナル配列;(3)関心のある遺伝子;(4)アダプター1コード配列;及び(5)哺乳動物ポリA配列を含む。米国特許第7,175,983号に記載のように、ファージに対するヘルパーベクターは、ウイルス粒子のアセンブリーに必要とされるファージ遺伝子全て及びアダプター2及び外面タンパク質をコードする遺伝子融合物の少なくとも1コピーを含む。哺乳動物細胞に対するヘルパーベクターは、哺乳動物表面アンカーシグナルとのアダプター2融合物を発現するための発現カセットを含む。E.コリ細胞でのアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現により、ファージ粒子上で関心のあるタンパク質が表面提示される。従って、哺乳動物細胞におけるアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現によって、哺乳動物細胞において関心のあるタンパク質が表面提示される。
【0018】
本発明の異種間提示系のある実施形態は、E.コリ及び哺乳動物細胞の表面上でのタンパク質配列のライブラリの連続提示のための系を提供する。開示されるファージ/哺乳動物異種間提示ベクター+(プラス)上記の細菌ヘルパーベクターを用いて、E.コリ細胞でのアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現により、細菌細胞上で関心のあるタンパク質が表面提示される。従って、ファージ/哺乳動物異種間提示ベクター+哺乳動物ヘルパーベクターを用いることにより、哺乳動物細胞におけるアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現によって、哺乳動物細胞上で関心のあるタンパク質が表面提示される。
【0019】
別の実施形態において、本発明は、2種を超える受容宿主細胞上での異種間提示のための方法を提供する。例えば、何らかの組み合わせ又は順序で、ファージ、酵母又は哺乳動物宿主細胞上でタンパク質配列のライブラリを連続的に提示するために、本発明を使用することができる。ファージ/酵母/哺乳動物異種間提示ベクターは:(1)イントロン配列内部の哺乳動物プロモーター、酵母プロモーター及びイントロン後のより短い細菌プロモーター;(2)E.コリ、酵母及び哺乳動物細胞において機能的であるシグナル配列;(3)関心のある遺伝子;(4)アダプター1コード配列;及び(5)転写終結配列を含む。個々の種に対するヘルパーベクターは上記で述べられている。従って、ファージ/酵母/哺乳動物異種間提示ベクター+各種に対する対応するヘルパーベクターを使用することにより、対応する種においてアダプター1及びアダプター2融合物を同時発現させると、ファージ又は酵母細胞又は哺乳動物細胞上で関心のあるタンパク質が表面提示されるようになる。
【0020】
本発明はまた、様々な原核及び真核生物宿主細胞でタンパク質の表面提示を支配するのに適切なヘルパー提示ベクターと組み合わせた異種間及び複数種発現ベクターの特定のセットを含む、本発明の提示ベクターセットを含むキットも提供する。例えば、ファージ及び哺乳動物宿主細胞の表面上でのタンパク質発現ライブラリの連続提示を支配するための用途に適切な異種間提示キットは、適切な包装中に、哺乳動物細胞での細胞表面提示を支配する哺乳動物ヘルパー提示ベクターpMAG2(図5)と組み合わせて、ファージ提示を促進するベクターセットpMAG9(図2)及びGMCT(図4)を含み得る。あるいは、酵母及び哺乳動物細胞上でのタンパク質発現ライブラリの連続提示を支配するための用途に適切な複数種提示キットは、適切な包装中に、哺乳動物提示に対するベクターpMAG9(図2)及びpMAG2(図5)及び酵母提示に対するベクターpMAT5(図10)及びpMAT3(図11)を含むベクターセットを含み得る。
【0021】
本発明の別の実施形態は、本発明のヘルパー提示ベクターを含む宿主細胞を含む。適切な原核生物宿主には、E.コリ細胞又はファージが含まれる。適切な真核生物宿主は酵母細胞又は哺乳動物細胞である。好ましい原核及び真核生物宿主は、線状ファージウイルス及び酵母S.セレビシエ細胞である。
【0022】
本発明のファージ/酵母異種間提示ベクターセットは、一般に、次の機能的エレメント:(1)酵母プロモーター及び細菌プロモーター、その前方に、(2)細菌/酵母二重機能シグナル配列;(3)関心のある遺伝子;(4)アダプター1コード配列;及び(5)酵母転写終結配列を含む。米国特許第7,175,983号に記載のように、ファージに対するヘルパーベクターは、ウイルス粒子のアセンブリーに必要なファージ遺伝子全て及びアダプター2及び外面タンパク質をコードする遺伝子融合物の少なくとも1コピーを含む。酵母S.セレビシエに対するヘルパーベクターは、酵母外壁タンパク質に融合したアダプター2を含む融合タンパク質の発現を支配する発現カセットを含む。E.コリ細胞におけるアダプター1及びアダプター融合物の同時発現によって、ファージ粒子上で関心のあるタンパク質が表面提示される。従って、酵母細胞におけるアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現によって、酵母細胞上で関心のあるタンパク質が表面提示される。
【0023】
本発明はまた、別の種の宿主細胞で可溶性タンパク質を発現するための用途の広い方法も提供する。異種間発現カセットのタンパク質産物に融合した適合性のあるアダプター配列と対をなし相互作用することができるアダプター配列と組み合わせた、外面アンカータンパク質を含む融合タンパク質を含むヘルパーベクターなしで本発明の発現ベクターを使用すると、E.コリ、酵母及び哺乳動物細胞を含む複数の宿主細胞においてタンパク質の可溶性発現が起こる。本発明の複数種及び異種間発現/提示ベクターを使用することにより、ベクターの分子操作を何ら行う必要なく、異なる宿主細胞で連続的に関心のあるタンパク質を産生させることができる。
【0024】
別の実施形態において、本発明は、原核又は真核宿主細胞の2種類の異なる種上で関心のあるタンパク質又は多様性のあるタンパク質のライブラリを提示するために使用することができる、複数種提示方法を提供する。適切な原核細胞には、グラム陰性細菌細胞が含まれる。適切な真核生物宿主には、以下に限定されないがS.セレビシエ細胞などの酵母細胞又は哺乳動物細胞が含まれる。
【0025】
特定の複数種実施形態において、本発明は、酵母及び哺乳動物細胞上での関心のあるタンパク質配列のライブラリの連続的細胞表面提示のための方法を提供する。本発明の酵母/哺乳動物複数種提示ベクターは、次の機能的エレメント:(1)イントロン配列内部の哺乳動物プロモーター及び酵母プロモーター;(2)酵母/哺乳動物二重機能シグナル配列;(3)関心のある遺伝子;(4)アダプター1コード配列;及び(5)酵母及び哺乳動物のための転写終結配列を含む。酵母又は哺乳動物に対するヘルパーベクターは、上記の酵母又は哺乳動物細胞の細胞表面アンカーシグナルとのアダプター2融合物を発現するための発現カセットを含む。従って、対応する種でのアダプター1及びアダプター2融合物の同時発現によって、酵母細胞又は哺乳動物細胞上での関心のあるタンパク質の表面提示が起こる。
【0026】
従って、本発明は、関心のあるタンパク質のライブラリから所望のタンパク質特性を特徴とする関心のあるタンパク質を単離するために使用することができる方法を提供する。好ましい方法は、ファージ上で提示されるタンパク質配列のライブラリから所望の特性を有するタンパク質を最初に同定すること、及び、続いて酵母又は哺乳動物提示系を用いてリードタンパク質を再評価することである。例えば、ヒトタンパク質を改変するために、大規模なライブラリ(多様性>10e9)をファージ/酵母/哺乳動物異種間提示ベクターで構築する。ファージ提示技術のユニークな長所を利用して、この大規模なライブラリを最初にファージヘルパーベクターでのファージ提示方式で構築することができ、数回のライブラリパニングを行う。このように、小規模の酵母提示ライブラリを構築するために、ファージパニングからのリードライブラリのDNA(多様性<10e6)を直接、酵母ヘルパーベクターで酵母細胞に形質転換する。酵母提示ライブラリのFACSソーティングから単離されるリードは折りたたみ及びグリコシル化などの所望の真核生物特性を有し、これは、機能及び産生などの下流のプロセスにおいて非常に有益となる。さらに、必要に応じて、機能アッセイのために、哺乳動物細胞表面上で酵母提示から単離されたリードを直接提示することができる。
【0027】
本発明はまた、ライブラリの大きさが酵母提示ライブラリの構築に適切である場合、酵母/哺乳動物異種間提示ライブラリからの、所望の結合特異性を特徴とするタンパク質の単離のための方法も提供する。本発明の酵母ヘルパー提示ベクターを用いて、関心のあるタンパク質を含むライブラリを最初に酵母上で提示することができる。続いて、細胞表面提示及び選択の第二回目に対して、酵母ライブラリ選択アッセイから単離されたリードDNAを直接哺乳動物細胞へと形質移入することができる。発現/提示ベクターの分子操作を何ら行う必要なく、上記の異種間(酵母から哺乳動物細胞)を行うことができる。本発明の異種間提示能により、第一の提示系で同定されたリードの機能確認を同時に提供するスクリーニングアッセイを研究者が行えるようになる。
【0028】
別の実施形態において、本発明は、異種間複数種の機能などの所望の特性を有するシグナル配列の単離のための方法を提供する。対応する異種間提示ベクターを用いてシグナル配列のライブラリを構築することができる。対応する種における提示ライブラリのシャトリング選択から、対応する種での機能を有するシグナル配列を単離することができる。
【0029】
発明の詳細な説明
本明細書及び特許請求の範囲において使用する場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈において明確に指示されない限り、複数の意味も含む。本明細書中で使用する場合、「種」という用語は、比較的最近の共通の祖先を有するために、形態学的、解剖学的、生理学的及び遺伝学的に非常に類似している生物の群を指す。様々な種は、通常、その他の違いにかかわらず、共通の生命機能を果たすことにおいて共通の特性を示す。例えば、ヒト細胞とマウス細胞とは、共通のある種の分子標認点を有し、同じ種のメンバーであるとみなされ(即ち哺乳動物細胞)、一方、ヒト細胞と酵母細胞とは、真核宿主細胞の異なる種である。
【0030】
本明細書中で使用する場合、「遺伝子パッケージ」という用語は、関心のあるタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列が発現及び/又は表面提示のためにパッケージ化されている、ウイルス又は細胞を指す。
【0031】
本明細書中で使用する場合、「複数種提示」という用語は、様々なタイプの原核遺伝子パッケージ(即ち、ファージ又は細菌)又は様々なタイプの真核生物宿主細胞(即ち、酵母又は哺乳動物細胞)の表面上でポリペプチド配列のライブラリをコードするポリヌクレオチド配列の様々なレパートリーを研究者が発現させることを可能にする提示ストラテジーを指す。例えば、複数種提示ストラテジーによって、酵母及び哺乳動物細胞の表面上で抗体を提示することが可能となる。
【0032】
本明細書中で使用する場合、「異種間提示」という用語は、原核遺伝子パッケージ及び真核生物宿主細胞の表面上で連続的にポリペプチド配列のライブラリをコードするポリヌクレオチド配列の様々なレパートリーを研究者が提示することを可能にする提示ストラテジーを指す。例えば、異種間提示ストラテジーによって、ファージ上及び連続的に酵母上で抗体ライブラリを提示することが可能となる。
【0033】
「原核細胞系」及び「原核遺伝子パッケージ」という用語は、細菌細胞又は原核ウイルス(ファージ又は細菌胞子など)などの原核細胞を指すために、本明細書中で交換可能に使用される。
【0034】
「真核細胞系」及び「真核宿主細胞」という用語は、動物、植物、真菌及び原生生物及び真核ウイルス(レトロウイルス、アデノウイルス、バキュロウイルスなど)の細胞を含む真核細胞を指すために、本明細書中で交換可能に使用される。
【0035】
本明細書中で使用する場合、「遺伝子」という用語は、タンパク質をコードするDNA配列を指すために使用される。この用語は、RNA転写開始シグナル、ポリアデニル化付加部位、プロモーター又はエンハンサーなどの非翻訳隣接領域を含まない。
【0036】
「発現カセット」という用語は、本明細書中で、組み換えタンパク質/ペプチドを発現させるためにベクターにおいて構築された機能的単位を指すために使用される。これは通常、プロモーター、リボソーム結合部位及び発現標的のcDNAからなる。発現カセットを構築するために、その他の副成分を付加することができる。
【0037】
本明細書中で使用する場合、「ベクター」という用語は、挿入された核酸分子を宿主細胞へ及び/又は宿主細胞間で移動させる核酸分子、好ましくは自己複製するものを指す。通常、ベクターは、複製起点、選択マーカー及び又はウイルスパッケージシグナル及びその他の制御エレメントを含む環状DNAである。ベクター、ベクターDNA、プラスミドDNAは、本明細書の記述において交換可能な用語である。この用語は、細胞へのDNA又はRNAの挿入のために主に機能するベクター、DNA又はRNAの複製のために主に機能するベクターの複製及びDNA又はRNAの転写及び/又は翻訳のために機能する発現ベクターを含む。また、上記機能の複数を与えるベクターも含まれる。
【0038】
本明細書中で使用する場合、「発現ベクター」という用語は、適切な宿主細胞に導入された場合にポリペプチドへと転写及び翻訳され得るポリヌクレオチドである。
【0039】
「発現ベクター」、「複数種発現ベクター」及び「異種間発現ベクター」という用語は、本発明のヘルパーベクターにより産生されるアダプター配列と対をなして会合する能力を特徴とするアダプター配列とインフレームで融合した関心のあるタンパク質の可溶性の発現を支配するベクターを指す。
【0040】
「ヘルパーベクター」という用語は、本発明の発現ベクターにより産生されたアダプター配列と対をなして会合する能力を特徴とするアダプター配列とインフレームで融合したアンカータンパク質を含む融合タンパク質を産生するように設計された遺伝子パッケージ又は宿主細胞特異的ベクターを指す。一時的に同時形質転換することにより、又は恒久的に宿主ゲノムに組み込むことにより、発現ベクターと組み合わせて、ヘルパーベクターを受容宿主細胞に導入することができる。
【0041】
本明細書中で使用する場合、「複数種提示ベクターセット」という用語は、特定の種の遺伝子パッケージ又は宿主細胞の表面上でポリペプチドを提示するように機能する相補的アダプター配列を含むように設計されている発現ベクター及びヘルパーベクターの特定の組み合わせを指す。例えば、哺乳動物提示のための一連のベクター、pMAG9(図2)及びpMAG2(図5)、酵母提示のための一連のベクター、pMAT5(図10)及びpMAT3(図11)である。
【0042】
本明細書中で使用する場合、「異種間提示ベクターセット」という用語は、原核真核細胞系の両方においてポリペプチドを連続提示するように機能する相補的アダプター配列を含むように設計されている発現ベクター及びヘルパーベクターの特定の組み合わせを指す。例えば、ベクターセットpMAG9(図2)及びGMCT(図4)はファージ提示を促進し、一方、pMAG2(図5)と組み合わせたpMAG9の使用は、哺乳動物細胞での細胞表面提示を支配する。
【0043】
本明細書中で使用する場合、「発現系」という用語は、通常、所望の発現産物を産生するように機能できる発現ベクターを含む適切な宿主細胞を指す。
【0044】
本明細書中で使用する場合、「表面抗原」という用語は、細胞の原形質膜成分を指す。これは、原形質膜を構成する、内在性膜タンパク質及び表在性膜タンパク質、糖タンパク質、多糖類及び脂質を包含する。「内在性膜タンパク質」は、細胞の原形質膜の脂質二重層にまたがる膜貫通型タンパク質である。典型的な内在性膜タンパク質は、一般に疎水性アミノ酸残基を含む少なくとも1つの「膜貫通セグメント」からなる。表在性膜タンパク質は、脂質二重層の疎水性の内部には広がらず、これらはその他の膜タンパク質との非共有相互作用により膜表面に結合している。
【0045】
「外面アンカー」という用語は、本明細書中で使用する場合、遺伝子パッケージの外面に組み込まれるか又は連結される、ポリペプチド又はタンパク質又はタンパク質ドメインを指す。これは、天然由来であるか又は何らかの手段により人工的に作製されたものであり得る。この用語は、「表面アンカー配列」又は「シグナルコートタンパク質」、「外面配列」、「外膜タンパク質」、「膜アンカータンパク質」、「アンカータンパク質」、「細胞壁タンパク質」、「GPIアンカーシグナル」、「GPI結合シグナル」及び「シグナルアンカー配列」と交換可能に使用される。
【0046】
「シグナル配列」及び「リーダー配列」という用語は、DNAレベルでより大きいペプチドの成分である分泌ペプチドをコードするDNA配列を指すために本明細書中で交換可能に使用される。これはまた、分泌ペプチドのアミノ酸配列も指し得る。分泌ペプチドの機能は、細胞の分泌経路を通じてより大きいポリペプチドを支配することである。
【0047】
本明細書中で使用する場合、「ポリヌクレオチド」、「核酸」、「ヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」という用語は交換可能に使用される。これらは、何らかの長さの、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドの何れかのヌクレオチド又はその類似体のポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、何らかの3次元構造を有し得、既知又は未知の何らかの機能を果たし得る。次のものは、ポリヌクレオチドの非限定例である:遺伝子又は遺伝子断片のコード又は非コード領域、リンケージ分析から定義される遺伝子座、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組み換えポリヌクレオチド、分枝型ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、何れかの配列の単離DNA、何れかの配列の単離RNA、核酸プローブ及びプライマー。ポリヌクレオチドは、修飾ヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体などを含み得る。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリマーのアセンブリーの前又は後で行われ得る。非ヌクレオチド成分がヌクレオチド配列の途中に入り得る。ポリヌクレオチドは、重合後、標識成分との連結などにより、さらに修飾され得る。
【0048】
本明細書中で使用する場合、「アミノ酸」という用語は、グリシン及びD又はL光学異性体の両方及びアミノ酸類似体及びペプチド模倣体を含む、天然及び/又は非天然又は合成アミノ酸の何れかを指す。
【0049】
本明細書中で使用する場合、「ポリペプチド」、「ペプチド」、「タンパク質」及び「関心のあるタンパク質」という用語は、何れかの長さのアミノ酸のポリマーを指すために、本明細書中で交換可能に使用される。このポリマーは、直線状、環状又は分枝状であり得、これは、修飾アミノ酸を含み得、途中に非アミノ酸が入り得る。この用語はまた、例えば、硫酸化、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、ヨウ素化、メチル化、酸化、タンパク質分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、タンパク質へのトランスファーRNAを介したアミノ酸付加(アルギンニン化など)、ユビキチン化又は標識成分との連結などの何らかのその他の操作などにより修飾された、アミノ酸ポリマーも包含する。
【0050】
本明細書中で使用する場合、「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫的に活性のある部分、即ち、抗原に特異的に結合する(免疫反応する)抗原結合部位を含有する分子を指す。構造的に、最も単純な天然の抗体(例えばIgG)は、ジスルフィド結合により相互連結した、4個のポリペプチド鎖、2個の重(H)鎖及び2個の軽(L)鎖を含む。免疫グロブリンは、IgD、IgG、IgA、IgM及びIgEなどのいくつかのタイプの分子を含む分子の大きなファミリーに相当する。「免疫グロブリン分子」という用語は、例えば、ハイブリッド抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体及びそれらの断片を含む。抗体断片の非限定例には、VL、VH、CL及びCH1ドメインからなるFab断片;(4)VH及びCH1ドメインからなるFd断片;(5)抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなるFv断片;(6)F(Ab’)2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2個のFab断片を含む2価断片;(7)より短いリンカーを有する2個の同一の1本鎖Fvからなるダイアボディ;(8)コイルドコイルドメインのペアの相互作用により安定化されたFvからなるccFv抗体が含まれる。
【0051】
本明細書中で使用する場合、「対をなす相互作用」という用語は、安定な複合体を形成するために、2個のアダプターが、互いに相互作用でき、結合できることを意味する。安定な複合体は、遺伝子パッケージの外面上にポリペプチドをパッケージングできるよう十分に長持ちしなければならない。複合体又は二量体は、どんな条件が存在しても、又は提示されるポリペプチドの形成と検出との時間の間にどんな条件が導入されても(これらの条件は、行われているアッセイ又は反応の機能である。)持ちこたえることができなければならない。
【0052】
本明細書中で使用する場合、「宿主細胞」という用語は、目標ベクターに対する受容者であり得る又は受容者である、個々の細胞又は細胞培養物を含む。宿主細胞には、単一宿主細胞の子孫が含まれる。この子孫は、天然、偶発的又は故意の突然変異のために、起源となる親細胞と必ずしも完全に(形態において又はトータルDNA相補体のゲノムにおいて)同一でなくてもよい。宿主細胞には、本発明のベクターによりインビボで形質移入された細胞が含まれる。
【0053】
本明細書中で使用する場合、「レパートリー」という用語は、機能的又は物理的起源の種々のメンバーの総合的集団を指す。ライブラリは、同種の種々のメンバーの総合的集団である。一般に、レパートリーは、非常に広範で大型の機能的及び物理的背景を示し、従って、これは、機能的に定義されるライブラリを含み得る。例えば、種における免疫グロブリンの全体的な遺伝学的能力は、その免疫グロブリンレパートリーであり;タンパク質改変の目的のために、ライブラリは通常、1又は定義される多くの祖先由来の種々の分子の集団を指す。治療用抗体の作製などの、ある種の実際的な目的のレパートリーには、このような目的のために作製された全てのライブラリが含まれる。
【0054】
本明細書中で使用する場合、「アダプター」という用語は、2個の異なる相互作用するアダプター間で物理的及び/又は機能的な合致に基づき物理的単位を形成するために互いに対をなし相互作用できる、相補的エレメント又は成分を指す。アダプターは、天然又は人工的起源由来の、タンパク質、タンパク質ドメイン、ペプチド、非ポリペプチドの化合物などであり得る。アダプターに対する典型例には、コイルドコイルへテロ二量体を形成する2つの相互作用するポリペプチド、GR1及びGR2など(配列番号19及び20で示される。);c−fos及びc−jun;天然及び人工的ロイシンジッパーなど;リガンドとその同族の受容体との間の特異的結合由来の特異的タンパク質−タンパク質相互作用;機能的単位を形成するための2つの異なるタンパク質のヘテロ二量体複合体など;ビオチン及びストレプトアビジンなどの2つの異なる非ポリペプチド成分からの特異的結合など、が含まれる。本発明に記載の表面提示において使用されるアダプターは宿主種にとって内因性及び/又は外来性であり得、及び/又は人工的なものであり得る。
【0055】
本明細書中で使用する場合、ペプチドの直線状配列は、両配列が実質的なアミノ酸又はヌクレオチド配列相同性を示すならば、別の直線状配列と「基本的に同一」である。一般的に、基本的に同一である配列は、相同領域のアラインメント後、互いに少なくとも約60%同一である。好ましくは、これらの配列は、少なくとも約70%同一;より好ましくは、これらは少なくとも約80%同一;より好ましくは、これらは少なくとも約90%同一;より好ましくは、これらの配列は少なくとも約95%同一;さらにより好ましくは、これらの配列は100%同一である。
【0056】
先行技術の原核生物提示系
ファージ提示
遺伝子パッケージの表面上でのポリペプチドの提示は、ポリペプチド配列のライブラリをスクリーニングするための強力な方法となる。非常に多様な分子のライブラリを構築し、所望の特性を有する分子を選択することができることから、スクリーニング/探索プロトコールならびに分子進化プロトコールを含む多くの応用に対して、この技術が広く利用可能となった。ファージ提示の起源は、ファージコートタンパク質に外来配列を融合させることによりバクテリオファージM13ウイルス粒子の表面上でGeorge Smithが初めてタンパク質の外来セグメントを発現させた、1980年代中頃に遡る(Science(1985)228:1315−1317)。このときから、George Smithの知見に基づき、一連の提示系が開発されてきた。これらの系は、2つのカテゴリーに大きく分類することができる(米国特許第5,969,108号及び同第5,837,500号)。第一世代の系は1−ベクター系である。この系でのベクターは、ファージゲノム全体、その中の挿入物、コートタンパク質遺伝子とインフレームで外来配列を含有する。得られたファージ粒子はファージゲノム全体を担うので、これらは比較的不安定で感染性が低い。第二世代の系は、一般にファージミド系と呼ばれ、2つの成分:(1)ファージ粒子へのファージミドのパッケージングを可能にするためのファージコートタンパク質及びファージ由来複製起点に融合した外来配列を担うファージミドベクター;及び(2)ファージパッケージングに必要とされる全てのその他の配列を担うヘルパーファージを有する。ヘルパーファージは通常、Amersham Pharmacia Biotech製造のM13KO7ヘルパーファージ及びStratagen製造のその誘導体VCSM13などの複製欠損体である。ヘルパーファージによる細菌細胞の重複感染において、ファージミドベクターを担い、外来配列を提示する、新しくパッケージングされたファージが産生される。このように、先行技術のファージミド系は、ファージ外面配列(即ちコート配列)の少なくとも一部への外来配列の融合を必要とする。最もよく使用される融合又は提示部位は、M13バクテリオファージの遺伝子III及びVIII内であるが、遺伝子VI、VII及びIX融合物が報告されている。
【0057】
コートタンパク質融合系の代わりに、融合ファージミド系への様々な修飾が記載されている。Crameriらは、cDNA産物を提示するための系を考案したが、ここでは、ファージミドベクター上で提示されるべき外来配列の隣にFos癌遺伝子が挿入され、同じベクター上で遺伝子IIIの隣にJun癌遺伝子が挿入された(Crameriら(1993)Gene 137:69−75を参照)。Crameriアプローチは、fosとjunタンパク質との間の選択的相互作用を活用し:Fos−外来ポリペプチドが発現され、細胞膜周辺腔に分泌される場合、これがpIII−Junと複合体を形成し、次にこの複合体がM13KO7ヘルパーファージでの重複感染においてファージ粒子にパッケージングされる。
【0058】
Crameri系と同様の別の変法は、WO01/05950、米国特許第6753136号に記載の「システインカップリング」提示系である。外来ポリペプチドの連結及び提示には、細菌細胞膜周辺腔における2個のシステイン残基間のジスルフィド結合の形成が介在し、その一方は外来配列に含有され、他方は外面配列に挿入される。これらの2つの系が外面タンパク質に連結された外来タンパク質を含む融合物の発現を回避するにもかかわらず、これらの系は、提示ベクターにおいてコートタンパク質pIIIが構成的に発現されるため、宿主細胞に対するコートタンパク質の毒性を最小限に抑えることはできない。さらに、2個のシステイン残基間のジスルフィド結合の形成には、外来配列及びコートタンパク質pIIIの両方が高レベルで発現される必要がある。従って、低発現のものは何れも提示することができない。
【0059】
最近、Wangらは、アダプターに支配される提示系に基づく代替的ファージ提示系を記載した(米国特許第7,175,983号)が、これには:(a)第一のアダプター配列にインフレームで融合した外来ポリペプチドをコードするコード配列を含む発現ベクター;(b)ファージ粒子をパッケージングするのに必要な外面タンパク質をコードする外面配列を含むヘルパーベクターが含まれ、外面タンパク質の1つが第二のアダプターにインフレームで融合している。従って、外来ポリペプチドの提示は、第一と第二のアダプターとの間の対をなす相互作用によって達成される。
【0060】
E.コリ提示
E.コリの表面上でのポリペプチドの提示は、ファージ提示技術に対する代替物として開発された。ファージ提示と同様に、細菌提示は、様々な遺伝学的ツール及び突然変異株が利用可能であり、形質転換効率が高く、そのため大規模なライブラリ構築及びスクリーニングに理想的であるので、魅力的な方法である。グラム陰性細菌において、提示されるべきタンパク質の様々なアンカータンパク質への融合に基づく表面提示系が報告されており、そこでは、外膜タンパク質(Chang及びLo 2000、J Biotechnol 78:115−122;Leeら、2004、Appl Environ Microbiol 70:5074−5080)、線毛及び鞭毛(Westerlund−Wikstromら、1997、Protein Eng 10:1319−1326)、修飾リポタンパク質(Georgiouら、1996、Protein Eng 9:239−247)、氷核タンパク質(Jungら、1998、Nat Biotechnol 16:576−580)及びオートトランスポーター(Veigaら、2003、J Bacteriol 185:5585−5590)が提示のためのアンカーとして使用された。
【0061】
先行技術の真核提示系、酵母提示
真核生物宿主細胞、サッカロミセス・セレビシエの細胞壁での異種タンパク質の提示は、細胞壁タンパク質α−アグルチニンAGA1のC末端半分へのα−ガラクトシダーゼの融合によって、1993年に最初に記載された(Schreuder MPら、Yeast 9:399−409)。これ以来、様々な細胞ウェルタンパク質(cell well proteins)への関心のあるタンパク質の融合に基づく様々な酵母提示系が報告された(Kondo Mら、概説)。酵母に対して開発された細胞−表面提示系は殆ど全て、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー依存性である。10を超える、C末端に推定GPI連結シグナルのある酵母細胞ウェルタンパク質が、ペプチド及びタンパク質を提示できることが証明されているが、これには、S.セレビシエにおける、a−アグルチニン(Aga1及びAga2)、Cwp1、Cwp2、Gas1p、Yap3p、Flo1p、Crh2p、Pir1、Pir2、Pir4及びIcwp;メタノール資化酵母(ハンセヌラ・ポリモルファ)における、HpSED1、HpGAS1、HpTIP1、HPWP1及びカンジダ・アルビカンスにおける、Hwp1p、Als3p、Rbt5pが含まれる。今日まで、酵母細胞表面上で20を超える外来タンパク質の提示に成功している。
【0062】
上記の細胞−表面提示系全ての中で、a−アグルチニン受容体に基づくDane Wittrupにより作製された系が、scFv抗体及び抗体ライブラリなど、様々なペプチド及びタンパク質を提示するために広く使用されてきた(米国特許第6300065号、同第6423538号、同第6696251号及び同第6699658号)。S.セレビシエにおいて、a−アグルチニン受容体は、細胞−細胞相互作用を安定化し、接合「a」及びα半数体酵母細胞の間の融合を促進するための接着分子として作用する。この受容体は、コアサブユニットAga1及び小サブユニットAga2からなる。この細胞からAga1が分泌され、そのGPIアンカー−連結シグナルを通じて、酵母細胞壁の細胞外マトリクスにおいてO−結合型グルカンに共有結合するようになる。Aga2は、2個のジスルフィド結合を通じて、おそらく、ゴルジ体において、Aga1に結合し、分泌後、Aga1を介して細胞に連結し続ける。この酵母提示系は、Aga2サブユニットとのタンパク質の融合を通じて酵母細胞表面上で組み換えタンパク質を提示するために、Aga1及びAga2タンパク質の会合を利用する。
【0063】
Wittrupの系は、免疫グロブリンFab断片などの複数鎖ポリペプチドに適している(Huftonら、米国特許出願20030186374 A1)。Huftonらは、真核細胞での使用に適切な提示系の基礎としてFos/Jun相互作用をおそらく使用できるであろうことに言及している。しかし、Huftonらは、真核宿主細胞でのタンパク質提示を支配するためにFos/Jun相互作用がどのように利用され得るかを実現する説明を提供しなかった。しかし、参考文献は、Dane Wittrupにより開発された、Fab抗体の酵母提示に対するAg2融合の使用法(米国特許第6300065号、同第6423538号、同第6696251号及び同第6699658号)及び分子クローニングによるファージ提示ベクターから酵母ベクターへの遺伝子移入法のみを教示する。
【0064】
哺乳動物提示
細胞表面受容体の膜ドメイン(Chesnutら、1996、J Immunological Methods;Hoら、2006、PNAS 03:9637−9642)、GPIアンカー配列(米国特許6838446号)、非開裂型タイプIIシグナルアンカー配列(米国特許7125973号)を含む様々な膜アンカータンパク質への融合により哺乳動物細胞の表面上でのタンパク質の提示を遂行するために、多くのアプローチが使用されてきた。典型例は、pDisplayベクターであり、これは、哺乳動物細胞表面上でタンパク質を提示するための、Invitrogen Corp.からの市販ベクターである。このベクターにおいて、関心のあるタンパク質を細胞表面受容体PDGFRの膜ドメインと融合させる。米国特許第6919183号において別のアプローチもまた報告された。この系において、細胞表面はタンパク質Gなどの分子を捕捉し、タンパク質Aは、哺乳動物細胞表面上で抗体分子を捕捉するために使用される。
【0065】
本発明の複数種及び異種間提示系
ファージ提示は、受容体リガンド選択、抗体操作及びタンパク質エピトープ同定などの様々な適用に対して最もよく使用される系である。利便性及びファージ遺伝子操作の効率ゆえに、サイズ109の大型の多様なライブラリを1つのファージライブラリにおいて作製することができる。しかし、ファージ系を使用することができるのは、翻訳後修飾及びその他の細胞内プロセシングが必要ないか所望されない状況においてのみである。抗体断片などの殆どの真核タンパク質の場合、これらの生物学的機能は、グリコシル化などの細胞内プロセシングと関与する。さらに、真核タンパク質の一部は原核細胞において機能的に折りたたまれ得ない。
【0066】
真核細胞の表面上での外来タンパク質の提示により、原核細胞系の制限を克服することができる。これにより、発現される真核タンパク質の折りたたみ及びグリコシル化が可能となり、比較的大きなタンパク質の提示が可能となる。しかし、真核細胞形質転換の効率が低いことから、実現できるライブラリは非常に小さいサイズに限定されており、これによって、ファージ提示が提供できる規模に匹敵し得ない。
【0067】
従って、様々な適用に対する原核及び真核両方の提示技術の力を合わせた提示系の開発は根本的な難題である。関心のあるタンパク質が特異的外面配列と融合される場合、このタンパク質を提示できるのは、対応する種の表面上のみである。ファージ提示から酵母提示に移すために、Huftonら(米国特許出願第20030186374 A1号)は、消化及び核酸連結を通じて原核提示ベクター(ファージpIIIコートタンパク質融合ベクター)から真核提示ベクター(酵母Aga2融合ベクター)に関心のある遺伝子を移すための方法を記載した。
【0068】
本発明は、複数種提示を行うことができる新しい提示系を提供する。より具体的に、DNA消化及びクローニングなどの分子操作を何ら行わずに、同じ提示ベクターを用いて、ファージ及び細菌細胞又は/及び酵母細胞又は/及び哺乳動物細胞などの、複数種の表面上で関心のあるタンパク質を提示することができる。さらに、この提示系は、異種間提示法の機能を提供する。例えば、開示されるベクターセットを用いて、ファージ又は細菌細胞などの原核細胞系において関心のあるタンパク質を提示することができ、続いて、ベクターの分子操作を何ら行うことなく、このタンパク質又は、タンパク質の組み換えライブラリの場合、関心のあるタンパク質(複数形)を、酵母又は哺乳動物細胞などの真核細胞の表面上で提示することもできる。本発明の各提示系は、提示ベクターの特定のセットを利用する。本発明の様々なベクターセットは、特定の遺伝子パッケージ又は宿主細胞に特異的なヘルパーベクターと組み合わせて、第一のアダプター(即ちアダプター1)に融合したポリペプチド配列のライブラリをコードする複数種発現ベクターを含む。各ヘルパーベクターは、第二のアダプター(即ちアダプター2)に融合した細胞表面アンカータンパク質を含む。本明細書中で示されるように、対応するアダプターを含むヘルパーベクターと組み合わせた複数種提示ベクターの同時発現によって、アダプター(即ちアダプター1及びアダプター2)の対をなす相互作用を介してその表面上で提示されるポリペプチド配列のレパートリーを有する遺伝子パッケージ(又は宿主細胞)集団が作製される。
【0069】
ベクターの成分
アダプター
本提示系の提示及びヘルパーベクターを構築するために適用可能なアダプター配列は、様々な起源由来であり得る。一般に、安定した多量体の形成に関与する何らかのタンパク質配列はアダプター配列候補である。このように、これらの配列は、何らかのホモ多量体又はヘテロ多量体タンパク質複合体由来であり得る。代表的ホモ多量体タンパク質は、ホモ二量体受容体(例えば血小板由来増殖因子ホモ二量体BB(PDGF)、ホモ二量体転写因子(例えばMaxホモ二量体、NF−κBp65(RelA)ホモ二量体)及び増殖因子(例えば神経栄養因子ホモ二量体)である。ヘテロ多量体タンパク質の非限定例は、タンパク質キナーゼ及びSH2−ドメイン含有タンパク質の複合体(Cantleyら(1993)Cell 72:767 778;Cantleyら、(1995)J.Biol.Chem.270(44):26029 26032)、ヘテロ二量体転写因子及びヘテロ二量体受容体である。
【0070】
以下に限定されないが、増殖因子に結合する受容体(例えばヘレグリン)、神経伝達因子(例えばγ−アミノ酪酸)及びその他の有機又は無機小分子(例えば鉱質コルチコイド、糖質コルチコイド)を含む、非常に多数のヘテロ二量体受容体が知られている。好ましいヘテロ二量体受容体は、核ホルモン受容体(Belshawら(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 93(10):4604−4607)、erbB3及びerbB2受容体複合体及びG−タンパク質共役受容体(以下に限定されないが、オピオイド(Gomesら、(2000)J.Neuroscience 20(22):RC110);Jordanら、(1999)Nature 399:697 700)、ムスカリン、ドーパミン、セロトニン、アデノシン/ドーパミン及びGABA.sub.Bの受容体ファミリーを含む。)である。既知のヘテロ二量体受容体の大多数の場合、それらのC末端配列がヘテロ二量体形成に介在することが分かっている。
【0071】
GABAB−R1/GABA−R2受容体は、上記の物理的特性を示す。これらの2つの受容体は、基本的に、生理的条件下(例えばインビボ)及び生理的体温でホモ二量体を形成することができない。Kunerら及びWhiteらによる研究(Science(1999)283:74 77);Nature(1998)396:679 682))は、インビボでのGABABR1及びGABABR2Cのヘテロ二量体形成特異性を示した。実際、Whiteらは、このヘテロ二量体受容体ペアの独占的な特異性に基づき、酵母細胞からGABA.sub.B−R2をクローニングすることができた。Kammererら(Biochemistry、1999、38:13263-13269)によるインビトロ実験は、生理的体温でアッセイした場合、生理的緩衝液条件下でGABAB−R1及びGABAB−R2C末端配列の両方とも、ホモ二量体を形成することができないことを示した。具体的に、Kammererらは、沈降実験によって、GABAB受容体1及び2のヘテロ二量体形成配列は、単独で試験した場合、生理的条件下及び生理的体温で単量体の分子量で沈降することを明らかにした。等モル量で混合した場合、GABAB受容体1及び2ヘテロ二量体形成配列は、この2つの配列のヘテロ二量体に対応する分子量で沈降する(Kammererらの表1参照)。しかし、GABABR1及びGABABR2C末端配列がシステイン残基に連結される場合、ジスルフィド結合の形成を介してホモ二量体が生じ得る。
【0072】
本提示系において、アダプターとして多量体形成に関与する多様なコイルドコイルを使用することができる。好ましいコイルドコイルはヘテロ二量体受容体由来である。従って、本発明は、GABAB受容体1及び2由来のコイルドコイルアダプターを包含する。ある態様において、本コイルドコイルアダプターは、本明細書中でGR1と呼ばれるGABAB受容体1のC末端配列(配列番号19)EEKSRLLEKENRELEKIIAEKEERVSELRHQLQSVGGC及び本明細書中でGR2と呼ばれるGABAB受容体2の配列(配列番号20)TSRLEGLQSENHRLRMKITELDKDLEEVTMQLQDVGGCを含む。
【0073】
この例は、アダプター配列の同じ対を含むベクターセットの使用を述べるが(発現ベクター1に関連してアダプター1と呼ばれ、ヘルパー提示ベクターに関連してアダプター2と呼ばれる。)、代替的アダプターを用いて、本明細書中に記載のベクターを調製することができ、本発明の方法を実施することができることを理解されたい。例えば、本明細書中で提供される開示に基づき、適切なアダプター配列は、例えばWinzip−A2B1(Katja M Arndtら、Structure、2002、10:1235−1248);Winzip−A1B1(Katja M Arndtら、JMB、2000、295:627−639);FNfn10(Sanjib Duttaら、Protein Science、2005、14:2838−2848)、IAAL−E3/K3(Jenifer R.Litowski及びRobert S Hodges、JBC、2002、277(40):37272−37279)、PcrV/PcrG(Max Nanaoら、BMC Microbiology、2003:1−9)、bZip及び誘導体(Jumi A.Shin、Pure Appl.Chem.、2004、76(7−8):1579−1590)、ESCRT−I/II(David J.Gillら、The EMBO Journal、2007、26:600−612)、EE1234/RR1234及び誘導体(Johnthan R.Mollら、Protein Science、2001、10:649−655)、Laminin a、b、g(Atsushi Utaniら、JBC 1995、270(7):3292−3298)、ペプチドA/B及び誘導体(Ilian Jelesarov及びHans Rudolf Bosshard、JMB、1996、263:344−358)、人工的に設計されたペプチド(Derek N.Woolfson及びTom Alber、Protein Science、1995、4:1596−1607)、DcoH−HNF−pl(Robert.B.Roseら、Nat.Struct.Biol.、2000、7(9):744−748)及びAPCペプチド(Catherine L.Day及びTom Alber、JMB、2000、301:147−156)を含む多くのコイルドコイルドメインの何れか由来であり得る。
【0074】
アダプターサブユニットの特定のペアと会合するアダプターサブユニット相互作用の親和性に依存して、生じたコイルドコイル相互作用を安定させるためにジスルフィド結合を使用する必要がなくなり得る。例えば、上記で列挙するコイルドコイルドメインの一部に対する文献で報告される親和性は、.00001nMから70nM(Winzip−A2B1に対して4,5nM、Winzip−A1B1に対して24nM、FNfn10に対して3nM、IAAL−E3/K3に対して70nM、PcrV/PcrGに対して15,6nM及びEE1234/RR1234及び誘導体に対して0.0001nM)の範囲である。アダプターとしての使用に適切な代替的ヘテロ二量体転写因子には、α−Pal/Max複合体及びHox/Pbx複合体が含まれる。Hoxは、胚形成中、前後軸のパターン形成に関与する転写因子の大きなファミリーに相当する。Hoxタンパク質は、保存された3個のアルファへリックスホメオドメインを有するDNAと結合する。特異的DNA配列と結合するために、Hoxタンパク質は、Pbxホメオドメインなどのヘテロ−パートナーの存在を必要とする。Wolbergerらは、Hox−Pbx複合体形成がどのように起こり、この複合体がどのようにDNAに結合するかを理解するために、HoxB1−Pbx1−DNA三次元複合体の2.35.ANG.結晶構造を解析した。この構造から、各タンパク質のホメオドメインが、DNAの反対側において、隣接認識配列に結合することが示される。ヘテロ二量体形成は、HoxB1のホメオドメインに対する6個のアミノ酸ヘキサペプチドN−末端の間に形成される接触及びヘリックス3とへリックス1及び2との間に形成されるPbx1のポケットを通じて起こる。Pbx1ホメオドメインのC末端伸長によって、へリックス1に対して密集するアルファへリックスが形成され、より大きな4個のへリックスホメオドメインが形成される(Wolbergerら、(1999)Cell 96:587 597;Wolbergerら、J Mol Biol.291:521 530)。
【0075】
例えば、新規へテロ多量体タンパク質からの配列をアダプターとして使用することができる。このような状況において、ヘテロ多量体の形成に関与する候補配列の同定は、過度の実験を行わずに、何らかの遺伝学的又は生化学的アッセイにより行うことができる。さらに、コンピュータモデリング及び検索技術によって、さらに、関連及び非関連遺伝子で見られる共通ドメインの配列相同性に基づくヘテロ多量体配列の検出が容易になる。相同性検索を可能にするプログラムの非限定例は、Blast(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)、Fasta(Genetics Computing Group package、Madison、Wis.)、DNA Star、Clustlaw、TOFFEE、COBLATH、Genthreader及びMegAlignが含まれる。標的受容体又はそのセグメントに対応するDNA配列を含有する何らかの配列データベースを配列分析のために使用することができる。一般によく使用されるデータベースには、以下に限定されないが、GenBank、EMBL、DDBJ、PDB、SWISS−PROT、EST、STS、GSS及びHTGSが含まれる。
【0076】
ヘテロ二量体形成配列由来の適切なアダプターは、その物理的特性に基づくさらなる特徴を有する。好ましいヘテロ二量体形成配列は、対をなす親和性を示し、結果として、ホモ二量体は実質的に除外され、ヘテロ二量体の形成が主となる。好ましくは、主な形成は、生理的緩衝液条件下及び/又は生理的体温で形成することを可能とする、少なくとも60%のヘテロ二量体、より好ましくは少なくとも80%のヘテロ二量体、より好ましくは85−90%の間のヘテロ二量体及びより好ましくは90−95%の間のヘテロ二量体及びさらにより好ましくは96−99%の間のヘテロ二量体を含有するヘテロ多量体プールをもたらす。本発明のある実施形態において、アダプターペアのヘテロ二量体形成配列の少なくとも1つは、生理的緩衝液条件下及び/又は生理的体温でホモ二量体を形成することが基本的に不可能である。「基本的に不可能」とは、選択されたへテロ二量体形成配列が、単独で試験した場合、Kammererら、(1999)Biochemistry 38:13263 13269)で詳述されるようなインビトロ沈降実験又はインビボ2−ハイブリッド酵母分析(例えばWhiteら、Nature(1998)396:679−682参照)において検出可能量のホモ二量体が生成されないことを意味する。さらに、個々のヘテロ二量体形成配列を宿主細胞で発現させることができ、宿主細胞におけるホモ二量体の欠如は、以下に限定されないが、SDS−PAGE、ウエスタンブロット及び免疫沈降を含む様々なタンパク質分析によって示すことができる。インビトロアッセイは、生理的緩衝条件下及び/又は好ましくは生理的体温において実行しなければならない。一般に、生理的緩衝液は、塩の生理的濃度を含有し、約6.5から約7.8、好ましくは約7.0から約7.5の範囲の中性pHに調整される。様々な生理的緩衝液はSambrookら(1989)前出で挙げられており、従って、本明細書中では詳述しない。好ましい生理的条件は、Kammererら(Biochemistry、1999、38:13263−13269)で述べられている。
【0077】
アダプターはさらにその二次構造に基づく特徴を有する。好ましいアダプターは、コイルドコイルへリックス構造に適した両親媒性ペプチドからなる。へリックスコイルドコイルは、タンパク質における主要なサブユニットオリゴマー形成配列の1つである。一次配列分析から、全タンパク質残基のおよそ2 3%がコイルドコイルを形成することが分かる(Wolfら、(1997)Protein Sci.6:1179 1189)。よく特徴が分かっているコイルドコイル含有タンパク質には、細胞骨格ファミリーのメンバー(例えばアルファ−ケラチン、ビメンチン)、細胞骨格モーターファミリー(例えばミオシン、キネシン及びダイニン)、ウイルス膜タンパク質(例えばエボラ又はHIVの膜タンパク質)、DNA結合タンパク質及び細胞表面受容体(例えばGABAB受容体1及び2)が含まれる。
【0078】
本発明のコイルドコイルアダプターは、左巻き及び右巻きコイルドコイルという2つの群に大きく分類することができる。左巻きコイルドコイルは、好ましくは第一(a)及び第四(d)の位置に位置する無極性残基が生じる、「abcdefg」で表される7残基反復を特徴とする。これらの2箇所の残基は通常、ぴったりとした疎水性コアを形成するために他方のスタンドのものとかみ合う「取っ手と穴」のジグザグパターンを構成する。一方、コイルドコイルの周囲をカバーする第二(b)、第三(c)及び第六(f)の位置は、好ましくは荷電残基である。荷電アミノ酸の例には、リジン、アルギニン、ヒスチジンなどの塩基性残基及び、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミンなどの酸性残基が含まれる。ヘテロ二量体コイルドコイルを設計するのに適切な非電荷又は無極性アミノ酸には、以下に限定されないが、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン及びスレオニンが含まれる。非電荷残基は一般に疎水性コアを形成するが、一方、全体的へリックコイルドコイル構造を安定化させるために、コア位置でさえも荷電残基を含む、へリックス間及びヘリックス内塩−架橋を使用し得る(Burkhardら(2000)J.Biol.Chem.275:11672 11677)。様々な長さのコイルドコイルを使用し得るが、本コイルドコイルアダプターは、好ましくは、2から10の7残基反復を含有する。より好ましくは、このアダプターは、3から8の7残基反復を含有し、さらにより好ましくは、4から5の7残基反復を含有する。
【0079】
最適なコイルドコイルアダプターの設計において、ペプチドの二次構造を予想する様々な既存のコンピュータソフトウェアプログラムを使用することができる。実例となるコンピュータ分析は、アミノ酸配列を既知の2本鎖コイルドコイルのデータベース中の配列と比較し、高確率のコイルドコイルストレッチを予想する、COILSアルゴリズムを使用する(Kammererら、(1999)Biochemistry 38:13263 13269)。設計及び選択に基づき、ナノモルからフェントモル(fentomole)領域の親和性を有する様々な改変コイルドコイル配列が報告された(Structure.2002、10(9):1235−48;J Mol Biol.2000、21;295(3):627−39;Protein Sci.2005、14(11):2838−48;J Biol Chem.2002、277(40):37272−9;BMC Microbiol.2003、18;3:21;Protein Science、2001、10:649−655)。例えば、ヒトB−ZIP由来の再設計ヘテロ二量体コイルドコイル配列の解離定数はフェントモルであり、これは、ビオチン/ストレプトアビジン相互作用に対するものと同様である。
【0080】
好ましいコイルドコイルアダプターの別のクラスは、ロイシンジッパーである。ロイシンジッパーは、当技術分野で、6個のアミノ酸で互いに隔てられている4−5個のロイシン残基を含有する約35アミノ酸の一続きとして定義されている(Maniatis及びAbel、(1989)Nature 341:24)。ロイシンジッパーは、GCN4、C/EBP、c−fos遺伝子産物(Fos)、c−jun遺伝子産物(Jun)及びc−Myc遺伝子産物などの様々な真核細胞DNA−結合タンパク質で生じることが分かった。これらのタンパク質において、ロイシンジッパーは、ロイシンジッパーを含有するタンパク質が安定したホモ二量体及び/又はヘテロ二量体を形成し得る、二量体形成面を生成させる。2個の癌原遺伝子、c−fos及びc−junによりコードされるタンパク質産物の分子分析から、このような選択的ヘテロ二量体形成のケースが明らかになった(Gentzら、(1989)Science 243:1695;Nakabeppuら(1988)Cell 55:907;Cohenら(1989)Genes Dev.3:173)。Fos及びJunのロイシンジッパー領域を含む合成ペプチドはヘテロ二量体形成に介在することも分かっており、分子間ジスルフィド結合を可能にするために合成ペプチドそれぞれのアミノ末端がシステイン残基を含む場合、ヘテロ二量体形成が起こり、ホモ二量体形成が実質的に排除される。
【0081】
本発明のロイシン−ジッパーアダプターは、7残基の繰り返しとして知られる一般構造式(ロイシン−X.sub−X.sub1−X.sub.3−X.sub.4−X.sub.5−X.sub.6).sub.nを有するが、式中、Xは、従来の20種類のアミノ酸の何れかであり得るが、例えばアラニン、バリン、アスパラギン酸、グルタミン酸及びリジン及びなど、アルファ−へリックス形成能のあるアミノ酸である可能性が最も高く、nは2以上であるが、通常nは3から10、好ましくは4から8、より好ましくは4から5である。好ましい配列は、Fos又はJunロイシンジッパー配列である。
【0082】
L及びH鎖の二量体化に関与する抗体鎖の配列も、本提示系を構築するためにアダプターとして使用することができる。これらの配列には、以下に限定されないが、L又はH鎖の定常領域配列が含まれる。さらに、アダプター配列は、抗原−結合部位配列及びその結合抗原由来であり得る。このような場合、その対の一方のアダプターは、対応する抗原残基を含有する他方のアダプターにより認識される(即ち、安定して会合できる)抗原結合部位アミノ酸残基を含有する。
【0083】
第一と第二のアダプターとの間の対をなす相互作用は共有又は非共有相互作用であり得る。非共有相互作用は、結果として共有結合が形成されない全ての既存の安定的連結を包含する。非共有相互作用の非限定例には、静電結合、水素結合、ファンデルワールス力、両親媒性ペプチドの立体相互嵌合が含まれる。一方、共有相互作用の結果、以下に限定されないが、2個のシステイン残基間のジスルフィド結合、2個の炭素含有分子間のC−−C結合、炭素とそれぞれ酸素又は水素含有分子との間のC−−O又はC−−H及び酸素とリン酸含有分子との間のO−−P結合を含む共有結合が形成される。
【0084】
遺伝子の巨大なファミリーにおける豊富な遺伝学及び生化学データに基づき、当業者は、過度な実験を行わずに、本提示系を構築するために、適切なアダプター配列を選択し、得ることができる。
【0085】
外面アンカータンパク質
ファージ提示のための適切なアンカータンパク質には、何れかのコートタンパク質、例えばpIII、pVI、pVII、pVIII及びpIXなど、又はこのようなコートタンパク質のドメイン又は発明者らのファージ粒子の表面に集合させられるかもしくはこれに連結される何らかの人工配列が含まれる。本明細書中の実施例7で示されるように、ヘルパーベクター YGMCTを用いることにより、ファージ上でscFv抗体が提示されたが、この場合、外膜アンカータンパク質は図4で示されるpIIIのC末端ドメインである。
【0086】
細菌提示のための適切なアンカータンパク質には、細菌外膜タンパク質、例えば、線毛及び鞭毛、リポタンパク質、氷核タンパク質及びオートトランスポーターが含まれる。あるいは、このアンカータンパク質は、E.コリの外面に集合させられるか又はこれに連結される人工配列であり得る。本明細書中で示されるように、実施例29−32は、ヘルパーベクターpMAL1及びpMAL2を用いることによるscFv抗体提示を示し(図15)、この場合、細菌外面ドメインLpp−OmpAは外面アンカータンパク質である。
【0087】
酵母提示の場合、適切な外面アンカータンパク質は、GPIシグナルを有するか又は持たない外壁タンパク質の何れかであり得、これには、S.セレビシエにおける、a−アグルチニン(Aga1及びAga2;注記:GPIありでAga1及びGPIなしでAga2)、Cwp1、Cwp2、Gas1p、Yap3p、Flo1p、Crh2p、Pir1、Pir2、Pir4及びIcwp;メタノール資化酵母(ハンセヌラ・ポリモルファ)における、HpSED1、HpGAS1、HpTIP1、HPWP1及びカンジダ・アルビカンスにおける、Hwp1p、Als3p、Rbt5pが含まれる。あるいは、本発明の方法は、酵母の外壁に集合させられるか又はこれに連結させることができる人工配列である細胞表面アンカーを用いて、酵母に関連して実施することができる。本明細書中で示されるように、実施例18は、ヘルパーベクターpMAT3又はpMAT7又はpMAT8を使用することによるscFv抗体の酵母提示を示すが、この場合、酵母外面アンカータンパク質は、図11で示される、Flo1又はCwp2又はAga2のC末端ドメイン由来である。
【0088】
表面アンカーとして、何らかの既知の細胞膜タンパク質の膜貫通ドメイン又はGPIアンカー配列を有するポリペプチド又は非切断タイプIIシグナルアンカー配列を用いて、哺乳動物細胞表面提示を実施することができる。あるいは、本発明の方法は、哺乳動物細胞の細胞膜に集合させるか又はこれに連結させることができる人工配列である細胞表面アンカーを用いて、哺乳動物細胞に関連して実施することができる。本明細書中で示されるように、実施例8は、ヘルパーベクターpMAG2(図5)を使用することによる、哺乳動物細胞上でのscFvタンパク質の提示を示し、この場合、アダプター2に融合するヒトEGF受容体の膜貫通ドメインが提示のための表面アンカーとして使用される。
【0089】
シグナル配列
同じ一般的な系列に従って、原核及び真核両方からのシグナル配列が構築される。これらは、約15−30アミノ酸長であり、3つの領域:正荷電N末端領域、中央の疎水性領域及びより極性が大きいC末端領域からなる。原核及び真核細胞系のシグナルペプチド間で、大きな機能的及び構造相同性がある。従って、一部のネイティブシグナルペプチドが原核及び真核細胞の両方で機能すると予想される。
【0090】
予想と一致して、一部の真核シグナルペプチドは、原核細胞において機能的であることが報告されている。例えば、ヒト成長ホルモン(hGH)及びラットプロインスリンタンパク質からのシグナルペプチドはE.コリで機能し(Gene、1985、39:247−254);エンド−β−1,3−グルカナーゼの酵母シグナルペプチドもまたE.コリで機能的である(Protein Exp.Puri.、2000、20:252−264)。さらに、ブドウ球菌タンパク質A、細菌b−ラクタマーゼタンパク質及び細菌OmpAの原核シグナルペプチドは哺乳動物細胞で機能的である(Humphreysら、Protein Exp.Purif.2000、20:252−264)。本明細書中で示されるように、実施例6及び7は、ヒト成長ホルモン1からのシグナルペプチドがscFv分泌及びファージ提示に対してE.コリ細胞において機能したことを示した。同様に、エンド−β−1,3−グルカナーゼの酵母シグナルペプチドは、本発明において実施例16及び17で示されたscFv分泌及びファージ提示について、E.コリにおいて機能的であった。
【0091】
酵母及び哺乳動物細胞の間にわたり作用するシグナルペプチドの例は、ヒト膵臓リパーゼタンパク質1(HPLRP1)、ヒトインターフェロン、ヒト胆汁塩刺激性リパーゼ及び酵母サッカロミセス・セレビシエ インベルターゼ(SUC2)に対するシグナルペプチドである(Tohoku J Exp Med、1996、180:297−308;Protein Exp.Puri.、2006、47:415−421;Protein Exp.Purif、1998、14:425−433)。本明細書中で示されるように、実施例22は、酵母/哺乳動物異種間提示のためのヒト膵臓リパーゼタンパク質1のシグナルペプチドの使用を示す。
【0092】
本発明の複数種発現ベクターのためのシグナルペプチドとして、複数種で機能する能力について上記で同定されたネイティブシグナルペプチドの何れかを使用し得る。さらに、本明細書中で開示される方法を実施するために、様々な種の宿主細胞間で機能する能力を特徴とする人工シグナルペプチド配列を使用することもできる。この開示の実施例28に記載の方法又は何らかのその他の方法によって、設計シグナルペプチドライブラリから人工シグナルペプチドを単離し得る。
【0093】
本発明のベクターは、一般に、外来ポリペプチドを発現させるのに必要とされる転写又は翻訳調節配列を含む。適切な転写又は翻訳調節配列には、以下に限定されないが、複製起点、プロモーター、エンハンサー、リプレッサー結合領域、転写開始部位、リボソーム結合部位、翻訳開始部位及び転写及び翻訳に対する終結部位が含まれる。
【0094】
複製起点(一般にori配列と呼ばれる。)により、適切な宿主細胞において、ベクターの複製が可能になる。oriの選択は、使用される宿主細胞及び/又は遺伝子パッケージのタイプに依存する。宿主細胞が原核細胞であり、遺伝子パッケージがファージ粒子である場合、発現ベクターは通常、2個のori配列を含み、1つは原核細胞内でのベクターの自己複製を支配し、他方のoriはファージ粒子のパッケージングを支持する。好ましい原核細胞oriは、細菌細胞においてベクター複製を支配することができる。oriのこのクラスの非限定例には、pMB1、pUCならびにその他のE.コリ起点が含まれる。ファージ粒子のパッケージングを支持する好ましいoriには、以下に限定されないが、f1、ori、Pf3ファージ複製oriが含まれる。ファージ提示のために、本発明において、例えば、pUC ori及びf1 oriが、異種間発現ベクターにおいて構築される。
【0095】
真核細胞系において、高等真核細胞は、複数のDNA複製起点を含有する(104−106ori/哺乳動物ゲノムと推定される。)が、ori配列はあまり明確に定められていない。哺乳動物ベクターに対する適切な起点は通常、真核ウイルス由来である。好ましい真核oriには、以下に限定されないが、SV40 ori、EBV ori、HSV oriが含まれる。酵母細胞に対する適切なoriには、以下に限定されないが、2u ori CEN6/ARS4 oriが含まれる。
【0096】
本明細書中で使用する場合、「プロモーター」という用語は、ある種の条件下でRNAポリメラーゼに結合し、プロモーターから下流(3’方向)に位置するコード領域の転写を開始することができるDNA領域である。これは構成的又は誘導可能であり得る。一般に、プロモーター配列は、転写開始部位がその3’末端で結合し、バックグラウンドを上回る検出可能なレベルで転写を開始するのに必要な最小限の塩基又はエレメントを含むように上流に伸びる(5’方向)。プロモーター配列内部は、転写開始部位ならびに、RNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク質結合ドメインである。
【0097】
真核プロモーターは、必ずしもそうではないが、「TATA」ボックス及び「CAT」ボックスを含有することが多い。
【0098】
プロモーターの選択は、ベクターが導入される宿主細胞に大きく依存する。原核細胞の場合、様々な強力なプロモーターが当技術分野で公知である。好ましいプロモーターは、lacプロモーター、Trcプロモーター、T7プロモーター及びpBADプロモーターである。通常、複数種において外来配列の発現を得るために、原核性プロモーターを真核性プロモーターの直後又は真核性プロモーターの後のイントロン配列内に置くことができる。
【0099】
その他の真核細胞に対する適切なプロモーター配列には、3−ホスホグリセリン酸キナーゼ又はその多の糖分解酵素、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、へキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ及びグルコキナーゼなどのプロモーターが含まれる。増殖条件により調節される転写のさらなる長所を有するその他のプロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロームC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関連する分解酵素及び上記のグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ及びマルトース及びガラクトース利用に関与する酵素に対するプロモーター領域である。哺乳動物細胞に対する好ましいプロモーターは、SV40プロモーター、CMVプロモーター、b−アクチンプロモーター及びそれらのハイブリッドである。酵母細胞に対する好ましいプロモーターには、以下に限定されないが、S.セレビシエのGAL10、GAL1、TEF1及びP.パストリスのGAP、AOX1が含まれる。
【0100】
本ベクターを構築することにおいて、外来配列に関与する終止配列もまた、mRNAのポリアデニル化及び/又は転写終結シグナルを与えるために、転写したい配列の3’末端に挿入する。終止配列は、好ましくは、1以上の転写終結配列(ポリアデニル化配列など)を含有し、転写読み合わせをさらに阻止するためにさらなるDNA配列を包含することによって延長することもできる。本発明の好ましい終止配列(又は終結部位)は、転写終結配列、それ自身の終止配列又は異種終止配列の何れかが続く遺伝子を有する。このような終止配列の例には、当技術分野で公知の、広く利用可能で、下記で例を挙げる、様々な酵母転写終結配列又は哺乳動物ポリアデニル化配列に連結された終止コドンが含まれる。ターミネーターが遺伝子を含む場合、検出可能な又は選択可能なマーカーをコードする遺伝子を使用することは有利であり得;それにより、終止配列の存在及び/又は不在(及び、従って、転写単位の対応する不活性化及び/又は活性化)を検出及び/又は選択することができる手段が得られる。
【0101】
上記のエレメントに加えて、ベクターは、選択可能マーカー(例えば、そのベクターで形質転換された宿主細胞の生存又は増殖に必要なタンパク質をコードする遺伝子)を含有し得るが、宿主細胞に同時に導入される別のポリヌクレオチド配列でこのようなマーカー遺伝子を持ち込むことができる。選択条件下で、選択可能遺伝子を導入された宿主細胞のみが生存及び/又は増殖する。一般的な選択遺伝子は、(a)抗生物質又はその他の毒素、例えばアンピシリン、カナマイシン、ネオマイシン、G418、メトトレキセートなどに対する耐性を与える;(b)栄養要求性欠損を補完する;又は(c)複合培地から得ることができない不可欠な栄養素を補給するタンパク質をコードする。適正なマーカー遺伝子の選択は宿主細胞に依存し、様々な宿主に対する適切な遺伝子が当技術分野で公知である。
【0102】
本発明のある実施形態において、発現ベクターは、少なくとも2種類の無関係の発現系で複製可能なシャトルベクターである。このような複製を促進するために、本ベクターは通常、少なくとも2つの複製起点を含有し、各発現系で1つが有効である。通常、シャトルベクターは、真核細胞発現系及び原核細胞発現系で複製可能である。これにより、真核生物宿主(発現細胞型)でのタンパク質発現の検出及び原核生物宿主(増幅細胞型)でのこのベクターの増幅が可能になる。好ましくは、1つの複製起点はSV40由来であり、1つはpUC由来であるが、それがベクターの複製を支配するならば、当技術分野で公知の何れかの適切な起点を使用し得る。ベクターがシャトルベクターである場合、ベクターは、好ましくは、少なくとも2つの選択可能マーカーを含有し、1つは発現細胞型に対するものであり、1つは増幅細胞型に対するものである。それが利用される発現系で機能するならば、当技術分野で公知の何れかの選択可能マーカー又は本明細書中に記載のものを使用し得る。
【0103】
組み換えクローニング法を用いて及び/又は化学合成により、本発明に包含されるベクターを得ることができる。PCR、制限エンドヌクレアーゼ消化及び核酸連結などの膨大な数の組み換えクローニング技術が当技術分野で周知であり、本明細書中で詳述する必要はない。当業者はまた、当技術分野で利用可能な何らかの合成手段によって所望のベクターを得るために、本明細書中で与えられる配列データ、又は公開もしくは私有のデータベースの配列データを使用することもできる。さらに、周知の制限及び核酸連結技術を用いて、様々なDNAソースから適切な配列を切り出し、本発明に従い発現させるべき外来配列と操作可能な関係で組み込むことができる。
【0104】
本開示とともに提供される実施例及び図面は、原核及び真核細胞系での関心のあるタンパク質の複数種及び異種間提示における本発明の実施を例示する。次の実施例は、本発明の実施形態を例示するためのものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。本開示を読むことから、多くの変更及び変形が当業者にとって明らかとなろう。かかる変更及び変形は本発明の一部をなす。
【0105】
本発明の実施は、別段の指示がない限り、当業者の技術内である、細胞生物学、分子生物学、細胞培養などの従来の技術を使用する。本明細書中で引用される刊行物及び特許出願は全て、本発明が属する当業者の技術のレベルを示し、その全体を参照により本明細書中に組み込む。
【0106】
抗−VEGF抗体に対するコード配列を用いて本発明の様々な組成物及び方法(複数種及び異種間提示ストラテジー)を本明細書中で例示するが、当業者にとって当然のことながら、抗体探索及び操作プロトコールを遂行するために、本発明の発現及び提示ベクターセットにおいて、抗体配列の様々なライブラリをコードする発現カセットのライブラリを使用することができる。
【0107】
本発明の実施は、別段の指示がない限り、免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクス及び組み換えDNAの従来の技術を使用するが、これらは当技術分野の技術の範囲内である。例えば、PHAGE DISPLAY OF PEPTIDES AND PROTEINS(B.K.Kayら、1996);PHAGE DISPLAY、A LABORATORY MANUAL(C.F.Barbas IIIら、2001)Sambrook、Fritsch and Maniatis、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL、第二版(1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(F.M.Ausbelら編、(1987));一連のMETHODS IN ENZYMOLOGY(Academic Press、Inc.):PCR2:A PRACTICAL APPROACH(M.J.MacPherson、B.D.Hames and G.R.Taylor編(1995))、Harlow及びLane編(1988)ANTIBODIES、A LABORATORY MANUAL and ANIMAL CELL CULTURE(R.I.Freshney編(1987))。
【0108】
ファージ及び哺乳動物細胞異種間提示系
【実施例1】
【0109】
提示ベクターpMAG1
ベクターpMAG1は、異種間提示での使用に適切な発現ベクター及び、ポリペプチドライブラリが原核細胞提示系(ファージ及び細菌細胞)で提示及び/又は産生され、続いて真核細胞提示系(哺乳動物細胞)で提示及び/又は産生される作製プロトコール(図2Aで示す。)の範例となる。
【0110】
図2Aで示されるpMAG1ベクターは、EcoRI及びPciI部位を3799bpの完全合成DNA断片とともに挿入することにより、市販のベクター、pUC19の骨格において構築される。この完全合成DNAは次のエレメント:(1)ファージパッケージのためのf1 ori;(2)異種間発現カセット(ここでアダプターGR1融合物の発現は2つのプロモーター、哺乳動物細胞に対するCMVエンハンサー/ニワトリβ−アクチンプロモーター及び細菌細胞に対するpLacプロモーターにより支配される。)を含む。関心のある遺伝子クローニングに対する多重クローニング部位(MCS)の配列は、E.コリ及び哺乳動物細胞で機能を有するヒト成長ホルモン1からのシグナル配列の下流に構築される。HA−His6タグ(DH−タグ)配列は、タンパク質検出及びNi−NTA精製のため、GR1配列(アダプター1)(配列番号19)に対するコード配列の上流である。(3)哺乳動物細胞選択マーカーネオマイシンに対する発現カセット。
【0111】
簡潔に述べると、遺伝子合成には、Codon Devices Biofabプラットフォーム技術(Boston)を使用することによる遺伝子合成のために、1379、1227及び1287bpの3片のセグメントに合成DNAを分割することが含まれた。合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、オリゴ合成から生じたエラーを修正した。タイプII制限部位を含有するタグ配列のあるこれらの合成DNAセグメントを消化し、完全DNA断片に核酸連結し、次にこれをpUC19ベクターにクローニングした。標準的DNA配列決定法によって、得られたベクター配列(配列番号1)を確認した。
【実施例2】
【0112】
提示ベクターpMAG9
ベクターpMAG9(配列番号2)は、SacI及びNotI部位によりシグナル配列の下流に抗−VEGF抗体 scFvをコードする遺伝子を挿入することによって、pMAG1ベクターから得られた。当業者にとって当然のことながら、様々な様式の抗体をコードするコード配列のライブラリを提示するためにpMAG9を使用することができる。PCRによりscFv遺伝子を増幅した。簡潔に述べると、pABMX268(米国特許出願第20040133357A1号)DNAを鋳型として使用し、PCRプライマーは下記で列挙した:AM−90:5’−AGTCAGGTAAGCGCTCGCGCTCCGAGGTGCAGCTGGTGCAGAGCG−3’(配列番号3)及びAM−91:5’−ATGACCTCCTGCGTAGTCTGGTACGTC−3(配列番号4)。Stratageneからの説明書に従い、pfuUtra Hotstart PCRマスターミックスと鋳型/プライマー溶液を混合することによって、PCR反応液を調製した。温度サイクル条件を次のように設定した:94℃で3分間変性させ;94℃で45秒間変性、55℃で45秒間アニーリング及び72℃で1分30秒間伸長反応を30サイクル行い;次に、72℃で10分間のポリッシング段階を行った。PCR産物を消化し、1%アガロースゲルから精製し、SacI及びNotI部位でpMAG1ベクターにクローニングした。標準的DNA配列決定法によりscFvの配列を確認した。得られたpMAG9ベクターを図2Bで示す。
【0113】
DNA複製のためのpUC ori、アンピシリン選択のためのβ−ラクタマーゼ遺伝子及びファージミドDNAパッケージのためのf1 oriを有するので、このベクターはE.コリ細胞で機能する。さらに、scFv−アダプターGR1の融合物の転写及び発現は、E.コリ細胞においてpLacプロモーターにより、及び哺乳動物細胞においてニワトリb−アクチンプロモーターにより駆動される。哺乳動物及び細菌細胞の両方で機能を有するヒト成長ホルモンIのシグナルペプチド(Gene、1985、39:247−254)は哺乳動物及び細菌細胞両方で分泌経路を通じてアダプター融合タンパク質を支配する。
【実施例3】
【0114】
ファージヘルパーベクターGMCT
特徴がよく分かっているベクター、即ちM13KO7(Amersham Pharmaciaより)から、下記で詳述する手段に従い2段階でベクターGMCTを構築した。第一段階において、PCRによる部位特異的突然変異誘発により、KO7ヘルパーファージベクターの遺伝子IIIシグナル配列にKpnI部位を導入した。このサイレント突然変異によって、pIIIシグナルペプチドのコード配列は変化しなかった。KpnI部位を含有する次のプライマーを用いてPCRによりKO7ゲノムを増幅した:p3KNI:5’−TTTAGTGGTACCTTTCTATTCTCACTCCGCTG−3’(配列番号5)及びp3KN2:5’−TAGAAAGGTACCACTAAAGGAATTGCGAATAA−3’(配列番号6)。これらのプライマーは、遺伝子IIIシグナル配列と相同性のある共通の部分配列を有する。100ng KO7ベクターDNA、各プライマー20pmol、250μM dNTP及び1Xpfu緩衝液及びpfu DNAポリメラーゼ(Stratagene)を含有する100μL反応混合液中でPCRを行った。反応混合液を最初に約96℃で温置し、次にサーモサイクラー中で次のようにPCR15サイクル:96℃で30秒間変性、55℃で30秒間アニーリング、72℃で10分間伸長を行った。増幅後、産物をゲル精製し、KpnIで切断して核酸連結し、エレクトロポレーションによりTG1細菌細胞に形質転換した。
【0115】
細菌細胞をカナマイシン耐性に関して選択した。具体的には、カナマイシン耐性コロニーを96ウェルマイクロタイタープレートにおいて70μg/mLカナマイシン入りの2YT培地中で増殖させ、PCRエラーにより生じた機能欠損突然変異を除外するために、ファージELISAアッセイによって、培養上清をファージスクリーニングに使用した。簡潔に述べると、次のようにファージELISAを行った:ファージ粒子を含有する上清100μLを4℃で一晩、ELISAプレートのコートウェルに対して使用した。PBS緩衝液中の5%ミルクで室温にて30分間ブロッキング処理を行った後、ELISAプレートに結合したファージ粒子をHRP−標識抗M13抗体(Amersham Pharmacia)100μLとともに室温で1時間さらに温置した。
【0116】
0.05%Tween20を含有するPBSにより遊離抗M13抗体を洗い流した。次に、基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を添加した。405nmでの吸収により、HRP活性を調べた。全部で48個のクローンをファージ生成についてスクリーニングした。クローンC2、B3、B7、B9及びA12が図3で示されるようにファージ陽性であった。クローンB7、B9及びA12から抽出されたDNAをTG1培養物から調製した。Acc65I(KpnIのイソシゾマー)及びBamHIでベクターDNAを二重消化することによって、600bp DNA断片が示され、これにより、この3種類のKO7kpnベクタークローン全てにKpnI部位が存在することが確認される。得られたベクターは、遺伝子IIIコード領域を妨害することなくユニークなKpnI制限部位が遺伝子IIIシグナル配列(改変遺伝子IIIシグナル、配列番号7)にサイレントに導入されていることを除き、KO7と同一である。
【0117】
KO7kpnB7ヘルパーベクター中の遺伝子IIIのKpnI/BamHI断片を合成DNA断片(配列番号8)で置換することによって、GMCTファージヘルパーベクターを構築した。得られたGMCTファージベクター(図4)は、改変pIIIキャプシドのさらなるコピーをコードし、これには、GR2ドメイン(配列番号20)(アダプター2)、改変pIIIタンパク質の検出のためのmyc−tag配列及びpIIIのC末端ドメイン(CTドメイン)が含まれる。この改変遺伝子IIIの下流、リボソーム結合配列(S/D)及び細菌タンパク質OmpAからのシグナル配列を遺伝子III配列に融合させた。遺伝子III含有配列のこれらの2コピーはオリジナルの遺伝子IIIプロモーター調節下に置かれる。
【0118】
核酸連結したベクターDNAをTG1細胞へと形質転換した。カナマイシン耐性コロニーを96ウェルマイクロタイタープレートにおいて70μg/mLカナマイシン入りの2YT培地中で増殖させ、上記のようにファージ陽性クローンを選択するために、ファージELISAアッセイによるファージスクリーニングに対して上清を使用した。10個以上のクローンがファージ粒子を生成することが分かった。大規模ファージ調製のためにクローン#3を使用した。
【実施例4】
【0119】
GMCTヘルパーファージの生成
クローン#3から生成されたGMCTヘルパーファージを含有する上清を2YT寒天プレート上にストリーク播種した。TG1培養物(OD6000−5)0.5mLと混合した軟寒天4mLをプレート上に注いだ。37℃で一晩温置した後、ファージプラークを形成させた。1個のファージプラークを採取し、70μg/mLカナマイシン入りの10mL 2YT培養液に接種するために使用した。250rpmで一定に振盪しながら37℃で2時間温置した後、70μg/mLカナマイシン入りの500mLの2YTを含有する2Lフラスコに培養物を移した。37℃で一定に振盪しながら培養物を一晩温置した。次に、ポリエチレングリコール(PEG)/NaClを用いて上清中のファージを沈降させ、リン酸緩衝食塩水(PBS)中で再懸濁した。OD268の測定によりファージ濃度を調べた。通常、OD268での1単位の読み取りは、上清1mLがおよそ5x1012個のウイルウ粒子を含有することを指す。GMCTヘルパーファージに対するファージ回収率は、およそ8x1011/mL培養液であり、これは、M13KO7ヘルパーファージと同様であり、このことから、アダプターGR2−pIII融合物がファージ粒子集合に影響を与えないことが分かった。
【0120】
抗−MycタグファージELISAによって、ヘルパーファージ粒子上のGR2−Mycアセンブリーが確認された。簡潔に述べると、抗−Mycタグ抗体9E10(BD Pharmingenより)でELISAプレートを被覆し、HRP標識抗−M13抗体(Amersham Pharmacia)により、基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を用いて、9E10抗体に結合したファージを検出した。
【実施例5】
【0121】
哺乳動物ヘルパーベクターpMAG2
市販のベクターpUC19の骨格において、3134bpの完全合成DNA断片を用いてEcoRI及びPciI部位を挿入することにより哺乳動物ヘルパーベクターpMAG2(図5)を作製した。この完全合成DNAは、2つの成分:(1)SV40 ori/プロモーター及びSV40ポリAを伴うZeocin発現カセット;(2)CMVプロモーターにより駆動され、BGHポリAにより停止される、ヒト上皮増殖因子受容体(hEGFR)の膜貫通ドメインとのアダプター2(GR2、配列番号20)融合物、に対する配列を含む。アダプターGR2融合物に対する分泌シグナル配列はhEGFR由来である。
【0122】
簡潔に述べると、BioFabプラットフォーム技術(Codon Devices)を使用した合成のために、808、790、829及び817bpのセグメント4片に合成DNAを分割することにより、ベクターを合成した。オリゴ合成から生じたエラーは、合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製により修正した。タイプII制限部位を含有するタグ配列付きのこれらのDNAセグメントを消化し、完全DNA断片に核酸連結し、次いでこれをpUC19ベクターにクローニングした。標準的DNA配列決定法により、得られたベクター配列(配列番号9)を確認した。
【実施例6】
【0123】
pMAG9ベクターを用いた、E.コリ細胞での可溶性Fvタンパク質(scFv)の発現
ヘルパーベクターなしでpMAG9発現ベクターを使用すると、アダプター1(GR1)と組み合わせたコード配列の産物を含む融合タンパク質として、関心のあるタンパク質が発現及び分泌される。
【0124】
発現される融合タンパク質を遺伝子パッケージの表面上で提示するためには、対をなすアダプター1(GR1)と会合することができる第二のアダプター(例えばGR2)とインフレームで融合したアンカータンパク質を含む第二の融合タンパク質を提供するヘルパーベクター存在下での同時発現が必要である。2個のアダプター間の対をなす相互作用によって、遺伝子パッケージ又は宿主細胞の表面上で関心のあるタンパク質の提示が促進される。
【0125】
ヘルパーベクターなしで、pMAG9が発現ベクターとして機能することを示すために、可溶性タンパク質発現のためにpMAG9を直接TG1細胞に形質転換した。pMAG9ベクターで形質転換された細胞をアンピシリン100μg/mL入りの2YT培地中で37℃振盪器でOD6000.9まで増殖させた。次に、IPTGを0.5mMの最終濃度まで添加し、30℃振盪器で一晩誘導した。
【0126】
ELISAアッセイによって、上清中の可溶性scFvタンパク質を検出した。簡潔に述べると、VEGFで被覆したELISAプレートに100μL上清を添加し、プレート上を被覆する抗原に結合したscFv抗体をHRP−標識抗−HAタグ抗体(12CA5)でプローブした。次に、基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を添加して、HRP活性を調べた。図6AのELISAから、pMAG9培養上清中の可溶性scFv抗体が用量依存的にVEGF抗原に結合したことが示された。一方、pUC18ベクターを有する陰性対照細胞から生じた上清はVEGFに対する結合活性がなかった。図6Aで与えられるこれらの結果から、提示ベクターから発現ベクターへと関心のある遺伝子を移動させる段階を実施する必要なく、E.コリ細胞において可溶性タンパク質発現を支配することができる発現ベクターとしてpMAG9が機能することが分かった。
【0127】
さらに、上清及び細胞周辺質抽出物両方から可溶性タンパク質を精製することができる。簡潔に述べると、増殖培地の1/40体積で、予め冷却したPPB緩衝液(200mg/mL スクロース、1mM EDTA、30mM Tris−HCl、pH8.0)中で細胞ペレットを再懸濁し、氷上で30分間温置する。次いで、予め冷却した5mM MgSO4を用いて上記プロセスを繰り返す。細胞ペレットからの周辺質抽出物及び培養上清を合わせ、Ni−NTAカラムに添加する。結合したHis−タグタンパク質をPBS中の500mMイミダゾールで溶出する。分画を回収し、SDS−PAGE及び抗−HA抗体を用いたウエスタンブロットにより分析する。
【実施例7】
【0128】
pMAG9を用いたファージ上でのscFvタンパク質の提示
ヘルパーベクターと組み合わせてpMAG9ベクターを使用することによって、研究者は、遺伝子パッケージ又は関心のある宿主細胞の表面上に、関心のあるタンパク質又はタンパク質のライブラリを提示することができるようになる。例えば、ファージ表面上でscFvを提示するために、実施例4の上記のGMCTヘルパーファージと組み合わせてpMAG9を使用する。
【0129】
pMAG9により産生されるscFv−アダプター/GR1融合タンパク質に存在するアダプター(GR1)と対をなす組み合わせが可能な第二のアダプター(アダプター2)とインフレームで融合したウイルスコートタンパク質を含む融合タンパク質を発現するヘルパーファージと組み合わせて同時発現される場合、ファージ提示を支配することができる提示ベクターとしてpMAG9が機能することを示すために、pMAG9ベクターを有するTG1細胞を10の感染多重度(MOI)でGMCTヘルパーファージにより重複感染させた。感染させたTG1細胞を一晩、2YT/Amp/Kan培地中で30℃の振盪器中で増殖させた。培養上清中のファージミドウイルス粒子を2回、PEG/NaClで沈降させ、PBS中で再懸濁した。
【0130】
抗原VEGFで被覆したプレートを用いて、ファージELISAによって、ファージ表面上で提示された1本鎖抗体を検出した。簡潔に述べると、4℃で2μg/mL VEGF100μLで一晩被覆した96ウェルELISAプレートをPBS緩衝液中5%ミルクで室温にて1時間ブロッキング処理した。従って、5%ミルク−PBS中の希釈ファージ100μLを使用し、ELISAプレートのウェルを室温で1時間被覆した。ELISAプレートに結合したファージ粒子をHRP−標識抗−M13抗体(Amersham Pharmacia)100μLとともにさらに室温にて1時間温置した。0.05%Tween20を含有するPBSにより遊離抗M13抗体を洗い流した。次に基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を添加した。405nmでの吸収により、HRP活性を調べた。図8で示されるELISAの結果から、pMAG9ベクターを有する重複感染細胞から生成されたファージが用量依存的にVEGFに結合したことが分かる。陰性対照として、pUC18ベクターを有する細胞から及びpMAT6ベクターを有する細胞(図14Bで示される、酵母/哺乳動物異種間提示ベクター)から生成したファージは、VEGFに対する結合活性を全く示さなかった。これらの結果から、ファージ提示のためのPMAG9/GMCTベクターセットの使用が示された。
【実施例8】
【0131】
pMAG9を用いた、哺乳動物細胞での可溶性Fv(scFv)の発現
実施例6で行われた実験から、細菌細胞(即ちE.コリ)においてpMAG9が発現ベクターとして機能することが分かる。pMAG9はまた、異種間発現及び提示ベクターとして機能するように設計された。このベクターの異種間機能性を示すため、哺乳動物細胞での抗−VEGF scFv発現及び産生を支配するためにpMAG9を使用した。
【0132】
簡潔に述べると、フリースタイル293F細胞(ヒト胎児腎臓細胞株、Invitrogen)及びCOS6(形質転換されたサル腎臓細胞)を用いて哺乳動物細胞において可溶性抗−VEGF scFvを発現させた。FuGENE6形質移入試薬(Roche Applied Science)を使用して、製造者の操作マニュアルに従い形質移入を行った。簡潔に述べると、pMAG9ベクターDNA 1又は2μgを血清不含培地中で希釈FuGENE6試薬に6:1又は3:1又は3:2の割合で添加した。温置15分後、FuGENE6試薬DNA複合体を6ウェルプレート中の細胞に移した(2mL発現培地(Invitrogen)中1.0x106細胞)。95%CO2雰囲気中で72時間、37℃で細胞を温置した。scFv−HA−GR1タンパク質を抗−HAウェスタンブロット分析及び抗−VEGF ELISAで評価するために、上清を回収した。
【0133】
ProFound HA Tag IP/Co−IPキット(Pierce)の説明書に従い、抗−HA抗体ビーズを用いて、培養上清800μLから、抗−VEGF scFvタンパク質を精製した。ECL pusウエスタンブロッティング検出システム(Amersham)の説明書に従い、精製したscFvタンパク質をタンパク質分離用の4−12%SDS−PAGEゲル(Invitrogen)に添加し、ウエスタンブロッティング分析のために0.45ニトロセルロースに転写した。簡潔に述べると、TBST中の5%脱脂乳で膜をブロッキング処理し、マウス抗体HA−プローブF7(Santa Cruz Biotech)とともに室温で1時間温置した。TBSTで3回洗浄した後、1時間温置してペルオキシダーゼ標識抗−マウス抗体で膜をプローブし、洗浄した膜に検出溶液を添加し、5分間温置した。次に、化学発光シグナルをx線フィルムにより検出した。抗−HAブロッティングの結果を図7Aで示す。ウエスタンブロットの結果から、293及びCOS6培養上清の両方でscFvタンパク質(〜35KD)が存在することが分かり、このことから、哺乳動物細胞での異種間提示ベクターpMAG9による可溶性タンパク質発現が分かる。
【0134】
抗−VEGF ELISAにより、哺乳動物細胞培養上清から得られたscFvタンパク質の機能をさらに分析した。簡潔に述べると、濃度2μg/mLの重炭酸塩緩衝液pH9.6中の希釈rhVEGF(R&D System)100μLでMaxiSorpプレートを一晩被覆した。PBSで2回洗浄した後、室温にて1時間、5%ミルクPBSでプレートをブロッキング処理した。さらなる洗浄後、様々な希釈度の精製scFvタンパク質入りの溶液50μLをウェルに添加し、室温にて1時間、温置した。洗浄後、マウス抗体HA−プローブF7(Santa Cruz Biotech)50μLを添加し、室温で1時間温置し、次いで、5%ミルクPBS中の1:2,000の希釈度の抗−マウス−HRP標識抗体(Santa Cruz Biotech)とともに1時間温置した。最後に、次いでABTS基質(Pierce)を発色のために添加した。96ウェルプレートリーダー(Molecular Devices)により、OD405でプレートの読み取りを行った。
【0135】
図6Bで示されるELISAの結果から、3つの個々の293細胞形質移入物及び4つの個々のCOS6細胞形質移入物からのpMAG9培養上清中で用量依存的なVEGF結合活性が示される。図6A及び図7Aでの結果と合わせて、ELISAの結果から、E.コリ及び哺乳動物細胞の両方で、異種間発現ベクターとしてpMAG9が機能することが証明される。
【実施例9】
【0136】
pMAG9ベクターを用いた、哺乳動物細胞におけるscFvタンパク質の提示
ヘルパーベクターGMCTと組み合わせてpMAG9がファージ上でのscFvの提示を支配すること(前出実施例7参照)及びヘルパーベクターなしで哺乳動物細胞において発現されるpMAG9が哺乳動物細胞での可溶性scFvの発現を支配するように機能すること(実施例8参照)を証明した後、このベクターの異種間提示機能を証明するために次の実験を行った。
【0137】
10%ウシ胎仔血清、100ユニット/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシン含有ダルベッコ改変イーグル培地が入った6ウェルプレート中のカバースリップ上でCOS6細胞を増殖させた。製造者の説明書に従い、FuGene6形質移入試薬(Roche Applied Science)を用いて、pAMG9発現ベクター及びヘルパーベクターpMAG2をCOS6細胞に同時形質移入した。簡潔に述べると、血清不含培地中、3:2のFuGene6試薬(μL):DNA複合体(μg)の割合で、希釈したFuGENE6試薬にプラスミドDNA0800ng(pMAG9 400ng+pMAG2 400ng)を添加した。FuGENE試薬DNA複合体を室温で15分間温置し、次いで細胞に添加した。48時間後、細胞表面上で提示されるHAタグ付加scFv−GR1融合タンパク質(pMAG9ベクターより)をAlexa488標識抗−HA抗体で検出した。簡潔に述べると、COS6細胞を4%ホルムアルデヒドで20分間固定し、PBS中の5%BSAで25℃にて30分間ブロッキング処理し、次いでPBS中のAlexa488標識抗−HA抗体(1:100希釈、Invitrogen)(1:500)とともに60分間温置した。核を可視化するために、DAPI(Invitrogen)でも細胞を染色した。Plan−Neofluar 100/1.30油浸対物レンズ付きのZeiss Axiovert135顕微鏡で細胞を観察した。図9で示される結果から、HAタグ付加scFv−GR1が明確に表面に局在することが分かり、このことから、pMAG9ベクターを用いたscFvの細胞表面提示が示される。
【0138】
あるいは、表面提示される抗−VEGF scFvの存在を検出するために、形質移入から48時間後にフローサイトメトリー分析を行うことができる。簡潔に述べると、ビオチン化rhVEGF又はVEGF−Fcを細胞懸濁液(4x106細胞/mL)25μLに添加し、4℃にて60分間温置する。陰性染色対照として、細胞の同一試料をビオチン化ダイズトリプシン阻害剤で染色する。次に、アビジン−FITC又は抗−Fc抗体−FITCとともにさらに30分間、4℃にて暗所で細胞を温置する。RDF1緩衝液で細胞を2回洗浄し、FACSvantageフローサイトメーター(BD Biosciences)又はAgilent2100 bioanalyzer(Agilent technology)でのフローサイトメトリー分析用にこの細胞を0.2mL RDF1緩衝液中で再懸濁する。(注記:これは机上FACS実験である。)
【実施例10】
【0139】
ファージ及び哺乳動物細胞上の所望のポリペプチドの選択及び異種間提示(注記:机上実験)
可溶性ポリペプチドの発現又はE.コリ及び/又は哺乳動物細胞での提示のために、多岐にわたるポリペプチドをコードするDNA配列のライブラリをpMAG1又はpMAG9ベクターにクローニングすることができる。
【0140】
ファージ提示の場合GMCTヘルパーベクター又は哺乳動物細胞提示の場合pMAG2など、ヘルパーベクターの同時発現によって、原核遺伝子パッケージ又は真核生物宿主細胞の表面上で発現ライブラリを提示することができる。連続的にパニングすることにより、所望の特異性(結合活性)を特徴とするポリペプチドを濃縮することができる。簡潔に述べると、ファージパニングプロセスを次のように進める:1−10μg/mLの濃度の特異的抗原で4℃にて一晩、96ウェルプレートを被覆する。PBSで洗浄し、5%ミルク/PBSでブロッキング処理した後、5%ミルク/PBS中の1011−12ファージを添加し、室温で2時間温置する。PBST及びPBSで数回洗浄した後、10μg/mLトリプシンとともに30分間温置して結合したファージを溶出するが、これは、本ヘルパーファージがpIIIタンパク質に融合されたMyc−タグにおいて切断可能部位を有するからである。発明者らの実験において、トリプシン溶出は100mMトリエチルアミン(通常、従来のファージパニングで使用される。)よりも効率的である。このプロセスを2−3回繰り返すと、所望のポリペプチドを提示するファージのプールを濃縮することができる。濃縮したファージはE.コリ細胞に感染し得るが、これは、所望のポリペプチドをコードする遺伝子を有するベクターの調製のために使用することができる。
【0141】
このように、哺乳動物ヘルパーベクターpMAG2を用いて同時形質移入することにより、細胞表面提示のために、ファージライブラリから選択されたベクターDNAの小さなプールを直接哺乳動物細胞に形質移入することができる。FACSソーティングを数回行うことにより、所望の特性を有するリードを単離することができる。簡潔に述べると、キュベット中で氷冷PBSで洗浄したHEK293細胞又はCOS細胞3x106と10−20μgDNAを混合する。氷上で10分間温置した後、250μF、660Vに設定したGenePulser Xcell(Bio−Rad)を用いて、細胞/DNA混合物に対してエレクトロポレーションを行う。室温で10分間温置した後、75cm培養フラスコ中の20mL培地に細胞を移し、37℃、5%CO2で2−3日間温置する。あるいは、Roche Applied Scienceにより記載されたプロトコールに従い、形質移入のために、FuGene6形質移入試薬を使用することができる。
【0142】
標的抗原に対する結合特異性を有する抗体を同定するための適切な選択プロセスは、PBS緩衝液中の0.2nMビオチン化標的抗原及び抗−HAタグmAb 12CA5 20μg/mL(Santa Cluze Biotech)とともにおよそ107個の形質移入細胞を25℃で1時間温置することを含む。次に、氷冷PBS緩衝液でこの細胞をすすぎ、FITC標識ヤギ抗−マウスFITC(抗体発現を監視するために、AMI0408;BioSource International、Camarillo、CA)及びストレプトアビジン−R−PEコンジュゲート(S866;Molecular Probe、抗原結合細胞の標識のため)とともに4℃で1時間温置して標識しなければならない。このように、適切なソートウィンドウ(sort window)でFACSVantageSE(BD Biosciences)上でこの細胞をソーティングする。上位0.1%のPE−陽性細胞を回収する。選択された細胞から回収された提示及びヘルパーベクター両方のDNAをE.コリ細胞に形質転換する。f1 oriを有する提示ベクターのみ、KO7などの通常のヘルパーファージによりパッケージングすることができ、従って、哺乳動物ヘルパーベクターから分離することができる。次に、別の回のFACSソーティング又はDNA配列決定のために、回収した提示ベクターDNAを使用することができる。
【0143】
ファージ及び酵母異種間提示系
【実施例11】
【0144】
提示ベクターpMAT2
pMAT2は、発現及び原核細胞系(ファージ及び細菌細胞)と真核細胞系(酵母細胞)との間の異種間提示に適切な発現ベクターを提供する。図10Aで示されるように、pMAT2は、3184bpの完全合成DNA断片によりAatII及びPciI部位を挿入することによって、市販のベクターpUC19の骨格上で作製される。この完全合成DNAは、(1)ファージパッケージのためのf1 ori;(2)アダプターGR1(配列番号19)融合のための異種間発現カセット(これは2つのプロモーター:酵母細胞での発現のための酵母pGAL1プロモーター及び細菌細胞のためのplacプロモーターにより駆動される。)を含む。関心のある遺伝子クローニングのための多重クローニング部位(MCS)の配列は、二重機能シグナル配列(酵母エンド−β−1,3−グルカナーゼタンパク質Bgl2p)の下流に構築される。HA−His6タグ(DH−タグ)配列は、タンパク質検出及びNi−NTA精製のために、GR1配列の上流である。(3)複製のための酵母CEN/ARS ori;及び(4)酵母TRP1栄養要求性マーカーのための発現カセット。
【0145】
簡潔に述べると、BioFabプラットフォーム技術(Codon Devices)を用いることによる遺伝子合成のためにDNAを1196、804及び1294bpの3片のセグメントに分割することによって、このベクターを合成した。合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、オリゴ合成から生じたエラーを修正した。タイプII制限部位を含有するタグ配列付きのこれらの合成DNAセグメントを消化し、完全DNA断片へと核酸連結し、次いでこれをpUC19ベクターにクローニングした。標準的DNA配列決定法を用いて、得られたベクター配列(配列番号10)を確認した(注記:これはscFv遺伝子なしのファージ/酵母発現ベクターである。)。
【実施例12】
【0146】
クロス提示ベクターpMAT5
ベクターpMAT5(配列番号11)は、SacI及びNotI部位によりシグナル配列の下流に抗−VEGF抗体をコードするscFv遺伝子(発現カセット)を挿入することによって、pMAT2ベクターから得られた。当業者にとって当然のことながら、多様な様式の抗体をコードするコード配列のライブラリを提示するために、pMAT2を使用することができる。PCRによってscFv遺伝子を増幅した。簡潔に述べると、pABMX268 DNAを鋳型として使用し、PCRに対するプライマーは以下のとおりであった:AM−90:5’−AGTCAGGTAAGCGCT CGCGCTCCGAGGTGCAGCTGGTGCAGAGCG−3’(配列番号3)及びAM−91:5’−ATGACCTCCTGCGTAGTCTGGTACGTC−3(配列番号4)。
【0147】
Stratageneからの説明書に記載のようにpfuUtra Hotstart PCRマスターミックスと鋳型/プライマー溶液を混合することによって、PCR反応液を調製した。温度サイクル条件は以下のとおりであった:94℃で3分間変性;94℃で45秒間変性、55℃で45秒間アニーリング、72℃で1分30秒間伸長を30サイクル;次いで72℃で10分間ポリッシング段階を行った。PCR産物を消化し、1%アガロースゲルから精製し、このように、SacI及びNotI部位でpMAT2ベクターにクローニングした。
【0148】
DNA配列決定によってscFvの配列を確認した。pMAT5ベクターの成分を図10Bで示す。pMAT5において、関心のあるポリペプチド/アダプターGR1−タンパク質の融合物の転写及び発現はE.コリ細胞においてpLacプロモーターにより駆動され、酵母細胞において酵母GAL1プロモーターにより駆動される。酵母エンド−β−1,3−グルカナーゼタンパク質Bgl2pのシグナルペプチドは、酵母及び細菌細胞の両方で機能し(Protein Exp.Puri、2000、20:252−264)、酵母及び細菌細胞の両方の分泌経路を通じてアダプター融合タンパク質を支配する。
【実施例13】
【0149】
酵母ヘルパーベクターpMAT3
図11Aで図示するpMAT3は、アダプター2との、インフレームでC末端酵母外面GPIアンカータンパク質Flo1を含む融合タンパク質を発現する酵母提示ヘルパーベクターである。7030bpの完全合成DNA断片によりAatII及びPciI部位を挿入することによって、市販のベクターpUC19の骨格上でこのベクターを構築した。この完全合成DNAは、3つの発現カセットに対する配列:(1)酵母URA3選択マーカー;(2)酵母選択のためのZeocinマーカー;(3)酵母pGAL1プロモーター及びFlo1の分泌シグナル配列の調節下での、酵母アウトウェルタンパク質(well protein)Flo1 C末端1100アミノ酸とのアダプター2(GR2)(配列番号20)融合物を含む。簡潔に述べると、Codon DevicesのBioFabプラットフォーム技術を用いることによる遺伝子合成のために、1112、740、748、1042、897、1152、802及び821bp(#1から番#8)の8片のセグメントに合成DNAを分割した。合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、オリゴ合成から生じたエラーを修正した。
【0150】
合成DNAセグメント#1−4をタイプII制限酵素で消化し、1つのDNA断片へと核酸連結し、次いでこれをpUC19ベクターにクローニングした。合成DNAセグメント#5から8をタイプII制限酵素で消化し、別の1つのDNA断片へと核酸連結し、次いでこれを第一の断片を有するpUC19ベクターにクローニングした。標準的DNA配列決定法によって、得られたベクター配列(配列番号12)を確認した。
【実施例14】
【0151】
酵母ヘルパーベクターpMAT7ベクター
図11Bで図示するpMAT7は、アダプター2(GR2)(配列番号20)との、インフレームで酵母外面タンパク質Aga2を含む融合タンパク質を発現する別の酵母提示ヘルパーベクターである。BamHI−HindIII断片を208bpの合成DNA断片で置換することによって、酵母ヘルパーベクターpMAT3からこのベクターを作製した。この合成DNAは、酵母アウトウェルタンパク質Aga2をコードする配列を含む。Codon DevicesのBioFabプラットフォーム技術を用いて、合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、オリゴ合成から生じたエラーを修正した。標準的DNA配列決定法によって、最終ベクター配列(配列番号13)を確認した。
【実施例15】
【0152】
酵母ヘルパーベクターpMAT8
図11Cで図示するpMAT8は、アダプター2(GR2)(配列番号20)との、インフレームでC末端酵母外面GPIアンカータンパク質Cwp2を含む融合タンパク質を発現する、別の酵母提示ヘルパーベクターを表す。BamHI−HindIII断片を1252bpの合成DNA断片で置換することによって、酵母ヘルパーベクターpMAT3からこのベクターを作製した。この合成DNAは、Flo1のS/Tリッチ領域と融合した酵母アウトウェルタンパク質Cwp2をコードする配列を含む。BostonのCodon DevicesのBioFabプラットフォーム技術を用いて、合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、合成DNA中のエラーを修正した。標準的DNA配列決定法によって、最終ベクター配列(配列番号14)を確認した。
【実施例16】
【0153】
pMAT5を用いた、E.コリ細胞における可溶性scFvタンパク質の発現
可溶性タンパク質発現のために、ファージ/酵母発現ベクターpMAT5を直接E.コリTG1細胞へと形質転換した。3つの個々のクローンからの形質転換細胞を37℃振盪器においてアンピシリン100μg/mL入りの2YT培地中でOD600が0.9になるまで増殖させた。0.5mMの最終濃度までIPTGを添加し、30℃振盪器で一晩誘導した。ELISAアッセイにより上清中の可溶性scFvタンパク質を検出した。簡潔に述べると、VEGFで被覆したELISAプレートに100μL上清を添加し、プレート上の抗原に結合したscFv抗体をHRP−標識抗−HAタグ抗体(12CA5)でプローブした。次に、HRP活性を調べるために、基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を添加した。
【0154】
図12で示されるデータから、3つの個々のクローンからのpMAT5 上清中のVEGFへの用量依存的結合活性が証明され、これにより、E.コリ細胞での可溶性タンパク質の発現に対するpMAT5ベクターの機能が明らかになった。
【実施例17】
【0155】
pMAT5を用いた、ファージ表面上でのscFvタンパク質の提示
実施例16で示されるデータから、pMAT5がE.コリ細胞において可溶性scFv発現のための発現ベクターとして機能することが証明された。GMCTヘルパーファージと組み合わせたMAT5の同時発現がファージ表面上でscFv(又はscFvのライブラリ)を提示するように機能することを明らかにするために、pMAT5ベクターをTG1細胞に形質転換し、形質転換したE.コリ細胞を10の感染多重度(MOI)でGMCTヘルパーファージにより重複感染させた。
【0156】
感染したTG1細胞を2YT/Amp/Kan中で30℃にて一晩増殖させた。培養上清中のファージミド粒子をPEG/NaClにより2回沈降させ、PBS中で再懸濁した。VEGFで被覆されたプレートを用いて、ファージELISAにより、ファージ表面上で提示される1本鎖抗体を検出した。簡潔に述べると、2μg/mL VEGF 100μLで4℃にて一晩被覆した96ウェルELISAプレートをPBS緩衝液中の5%ミルクで室温にて1時間ブロッキング処理した。このように、PBS−ミルク中の希釈ファージ100μLを用いて、室温で1時間、ELISAプレートのウェルを被覆した。HRP−標識抗−M13抗体(Amersham Pharmacia)100μLとともに室温で1時間、ELISAプレート上に結合したファージ粒子をさらに温置した。0.05%Tween20を含有するPBSで遊離抗−M13抗体を洗い流した。次に、基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を添加した。405nmでの吸収によりHRP活性を調べた。
【0157】
図13で示されるELISAの結果から、pMAT5ベクターを有する細胞から生成したファージが用量依存的にVEGFに結合したことが証明される。陰性対照として、pUC18ベクターを有する細胞及びpMAT6ベクターを有する細胞(図14Bで示される酵母/哺乳動物異種間提示ベクター)から生成したファージは、VEGFに対して結合活性を示さなかった。これらの結果から、ベクターセットpMAT5及びヘルパーベクターGMCTがファージ表面上でのポリペプチド配列の提示を支配するように機能することが分かった。
【実施例18】
【0158】
pMAT5を用いた、酵母における可溶性scFvタンパク質の発現
pMAT5は異種間発現ベクターである。実施例16で示されるデータから、pMAT5が、細菌細胞においてアダプター1(GR1タンパク質)とインフレームで融合したscFvポリペプチドを含む可溶性融合タンパク質の発現を支配するように機能することが証明される。pMAT5が酵母細胞で発現を支配することができることを証明するために、Zymo Researchの説明書に従い、Frozen−EZ Yeast Transformation IIキットを用いて酵母YHP499細胞にベクターを形質転換し得る。
【0159】
3℃でSD−CAA/Trp−選択培地50mL中で、飽和するまで(OD600=2〜3)1個のコロニーからの酵母細胞を増殖させ、100μg/mLアンピシリン、0.1%dex入りの50mL SG/R−CAA/Trip培地中で再懸濁することができる。誘導2−3日後、上清を回収し、PBS緩衝液で透析しなければならない。
【0160】
ELISAによって上清中の可溶性scFvタンパク質を測定することができる。簡潔に述べると、100μL上清又は抗−HAビーズで上清から精製したscFvを、VEGFで被覆したELISAプレートに添加し、プレーティングした抗原に結合したscFv抗体をHRP−標識抗−HAタグ抗体(12CA5)で検出することができる。次に、HRP活性を調べるために、基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を添加しなければならない。酵母細胞での可溶性タンパク質の発現に対するpMAT5ベクターの機能を示すために、ELISAの結果を使用し得る。あるいは、精製のために培養上清をNi−NTAカラムに添加することができる。PBS中の500mMイミダゾールで、結合したHis−タグタンパク質を溶出することができる。SDS−PAGE及び抗−HA抗体でのウエスタンブロットによる分析のために、分画を回収し得る。
【実施例19】
【0161】
pMAT5を用いた、酵母細胞表面上でのscFvタンパク質の提示
酵母宿主細胞表面上でのscFv抗体の提示を支配するために、pMAT5発現ベクターを使用することもできる。簡潔に述べると、Frozen−EZ Yeast Transformation IIキットなどの適切なプロトコールを用いて、酵母提示ヘルパーベクター(即ち、pMAT3又はpMAT7又はpMAT8)の存在下で、酵母細胞にpMAT5を同時形質転換することができる。あるいは、そのゲノム中に酵母ヘルパーベクターpMAT3又はpMAT7又はpMAT8のコピーを有する酵母細胞を発現ベクターpMAT5で形質転換することができる。
【0162】
SD−CAA/Trp−/Ura−寒天プレート又はSD−CAA/Trp−/Zeocin上で発現ベクター及びヘルパー提示ベクター(即ち酵母提示ベクターセット)の両方を含む酵母細胞を選択し、飽和するまで同じ選択培地中で増殖させることができる。次に、100μg/mLアンピシリン、0.1%dexを含有する誘導培地にこの細胞を移し、一晩、振盪しながら20℃又は25℃で温置しなければならない。氷冷PBS緩衝液で洗浄した後、FACS緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA)中で、室温で30分間、100nMビオチン化VEGF及び5mg/mL抗−HA(12CA5)抗体とともに酵母細胞を温置し、氷冷洗浄緩衝液中で3回洗浄する。5mg/mLストレプトアビジン−R−PEコンジュゲート(SA−PE)及びヤギ抗−マウス−488とともに暗所で氷上で30分間温置し、3回洗浄し、1mL FACS緩衝液中で再懸濁することによって、この細胞をプローブし得る。酵母細胞上で提示されるscFvと会合した蛍光は、FACS Cailiburフローサイトメトリー又はAgilent2100bioanalyzerを用いて、フローサイトメトリーにより測定することができる。
【実施例20】
【0163】
ファージ及び酵母細胞上で提示された所望のポリペプチドの選択
原核細胞(即ちE.コリ)及び原核細胞(即ち酵母細胞)での連続的な可溶性ポリペプチドの発現のために、DNA配列の多岐にわたる集団(即ちレパートリー)をpMAT2ベクターにクローニングすることができる。本発明の様々なヘルパー提示ベクターを用いて、ファージ又は酵母細胞の表面上で、得られた発現ライブラリを提示することができる。とりわけ、ファージ提示ヘルパーベクターとしてGMCTを使用し得、酵母細胞上での提示のために酵母提示ヘルパーベクター、pMAT3又はpMAT7又はpMAT8を使用し得る。
【0164】
ファージ上で提示される具体的なタンパク質又はペプチドを最初に数回の操作により濃縮することができる。簡潔に述べると、適切なパニングプロセスは、1−10μg/mLの濃度の標的抗原で96ウェルプレートを4℃で一晩被覆することを含む。PBSで洗浄し、5%ミルク/PBSでブロッキング処理した後、1011−12個のファージを添加し、室温で2時間温置する。PBST及びPBSで数回洗浄した後、10μg/mLトリプシンを用いて、30分温置して、結合したファージを溶出し得るが、これは、本ヘルパーファージがpIIIタンパク質に融合した切断可能なMyc−タグを有するからである。溶出されたファージをTG1細胞に感染させ、次回のファージ調製及びパニングに備える。このプロセスを2−3回繰り返したら、所望のポリペプチドを提示するファージのプールを濃縮することができる。濃縮したファージをE.コリ細胞に感染させることができ、所望のポリペプチドをコードする遺伝子を用いてベクターDNAを調製するためにこれを使用することができる。
【0165】
酵母ヘルパーベクター、pMAT3又はpMAT7又はpMAT8のコピーを含む受容酵母宿主細胞に、ファージライブラリから選択されたベクターDNAのこの小さいプールを続いて直接、形質転換することができる。所望の特性を有するリードを提示する形質転換酵母細胞を数回のフローサイトメトリーソーティングで単離することができる。簡潔に述べると、30℃で18−22時間、SD−CAA選択培地中で酵母細胞を増殖させ、次いでSG/R−CAA発現培地に20もしくは25℃で16−18時間移し得る。FACS洗浄緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA)中で室温にて30分間ビオチン化抗原及び5mg/mL抗−HA(12CA5)抗体とともに酵母細胞を温置し、氷冷緩衝液で洗浄する。このように、5mg/mLストレプトアビジン−R−PEコンジュゲート及びヤギ抗−マウス−488とともに暗所で氷上で30分間温置することによって細胞をプローブし、フローサイトメトリーによるソーティングのためにFACS洗浄緩衝液中で再懸濁することができる。選択物を精製するためにBD Bioscience FACS Vantage DiVaセットを用いて選択を行うことができ、所望の二重陽性細胞を選択するためにソートゲートを決定する。回収した細胞をPenn/Strep入りのSD−CAAプレートに播種し、30℃で2日間増殖させる。次に、細胞を再懸濁し、次回のために増幅する。選択後、個々のコロニーを拾うことができる。説明書に従いZymoprep酵母プラスミドミニプレップキット(Zymo Research)を使用することにより、配列決定を行うために、酵母細胞からのベクターDNAを回収することができる。
【0166】
酵母と哺乳動物宿主細胞との間の複数種提示
【実施例21】
【0167】
提示ベクターpMAT4
図14Aで示されるpMAT4は、酵母及び哺乳動物細胞でのポリペプチドライブラリの連続的発現又は提示のための、複数種又は異種間発現ベクターである。PacI−SacII断片を1420bpの完全合成DNA断片で置換することによって、ベクターpMAT2からこれを作製した。BioFabプラットフォーム技術(Codon Devices)を用いることによりこの完全合成DNAを作製したが、これは、イントロン配列内部に酵母pGAL10プロモーターを含有する。従って、アダプター1(GR1)(配列番号19)にインフレームで融合するライブラリタンパク質の発現は、3つのプロモーター:哺乳動物細胞に対するSV40プロモーター;酵母細胞に対するpGAL10;及びE.コリに対するpLacプロモーターにより駆動される。ヒト膵臓リパーゼタンパク質1(HPLRP1)のシグナルペプチドは、酵母及び哺乳動物細胞の両方で機能的である(Protein Exp.Puri、2006、47:415−421)。合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、オリゴ合成から生じたエラーを修正した。標準的DNA配列決定によってpMATの最終ポリヌクレオチド配列(配列番号15)を確認した。
【実施例22】
【0168】
提示ベクターpMAT6
XhoI及びNotI部位によりシグナル配列の下流に抗−VEGF抗体のscFv遺伝子を挿入することによって、pMAT4ベクターからpMAT6を得た。pABMX268DNAからPCRによりscFv遺伝子を増幅した。PCRプライマーは次のとおりであった:AM−90:5’−AGTCAGGTAAGCGCTCGCGCTCCGAGGTGCAGCTGGTGCAGAGCG−3’(配列番号3)及びAM−91:5’−ATGACCTCCTGCGTAGTCTGGTACGTC−3’(配列番号4)。Stratageneからの説明書に記載のように、pfuUtra Hotstart PCRマスターミックスと鋳型/プライマー溶液を混合することによってPCR反応液を調製した。温度サイクル条件は次のとおりであった:94℃で3分間変性;94℃で45秒間変性、55℃で45秒間アニーリング及び7℃で1分30秒間伸長のサイクルを30回;次に、72℃で10分間ポリッシング段階を行った。PCR産物を消化し、1%アガロースゲルから精製し、XhoI及びNotI部位でpMAT4ベクターにクローニングした。DNA配列決定によりscFvの配列を確認した。
【0169】
pMAT6(配列番号16)を図14Bで図示する。酵母及び哺乳動物細胞の両方において、ヒト膵臓リパーゼタンパク質1(HPLRP1)シグナルペプチドは機能的であり(Protein Exp.Puri、2006、47:415−421)、真核生物(酵母及び哺乳動物)宿主細胞の分泌経路を通じて、発現融合タンパク質(アダプター1とインフレームでscFvポリペプチド)を支配する。
【実施例23】
【0170】
pMAT6を用いた、酵母細胞での可溶性scFvの発現
Zymo Researchの説明書に従い、Frozen−EZ Yeast Transformation II Kを用いて、発現ベクターpMAT6を酵母細胞YH499に形質転換することができる。SD−CAA/Trp−選択培地50mL中で30℃で、飽和するまで1個のコロニーからの細胞を増殖させ、100μg/mLアンピシリン、0.1%dex入りの50mL TEP G/R培地中で再懸濁する。誘導2−3日後、上清を回収し、PBS緩衝液で透析することができる。
【0171】
ELISAアッセイにおいて上清中の可溶性scFvタンパク質を測定することができる。簡潔に述べると、VEGFで被覆したELISAプレートに100μLの上清を添加し、プレート上の抗原に結合したscFv抗体をHRP−標識抗−HAタグ抗体(12CA5)でプローブする。次に、HRP活性を決定するために、基質ABTS[2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を添加する。さらに、精製するためにNi−NTAカラムに上清を添加することができる。PBS中の500mMイミダゾールで、結合したHis−タグタンパク質を溶出する。分画を回収し、SDS−PAGE及び抗−HA抗体でのウェスタンブロットによって分析する。
【実施例24】
【0172】
pMAT6を用いた、酵母上でのscFvの提示
発現ベクターpMAT6ベクター及び酵母ヘルパー提示ベクター(pMAT3又はpMAT7又はpMAT8など)を上記のように酵母細胞へと同時形質転換することができる。あるいは、クロス提示ベクターのみの形質転換のために、酵母ヘルパーベクターpMAT3又はpMAT7又はpMAT8のコピーを有する酵母細胞を使用することができる。
【0173】
SD−CAA/Trp−/Ura−又はSD−CAA/Trp−/Zeocine寒天プレート上で提示ベクター及びヘルパーベクターの両方を有する受容宿主細胞を選択することができ、同じ選択培地中で飽和するまで増殖させることができる。次に、この細胞を100μg/mLアンピシリン、0.1%dex入りの誘導培地に移し、一晩振盪しながら20℃で温置することができる。氷冷PBS緩衝液で洗浄後、FACS緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA)中で室温にて30分間、100nMビオチン化VEGF及び5mg/mL抗−HA(12CA5)抗体とともに酵母細胞を温置し、次いで氷冷洗浄緩衝液中で3回洗浄する。暗所で氷上で30分間、各5mg/mLのSA−PE及びGaM−488とともに温置することによってこの細胞をプローブし、次いで再び3回洗浄し、1mL FACS緩衝液中で再懸濁し得る。細胞で提示されるscFvと会合した蛍光をFACs Cailibur フローサイトメトリー又はAgilent2100bioanalyzer(Agilent Techologies)で測定する。
【実施例25】
【0174】
pMAT6を用いた、哺乳動物細胞での可溶性scFvの発現
実施例8での説明に従い、COS細胞を用いて、哺乳動物細胞において可溶性抗−VEGF scFv融合タンパク質の発現をpMAT6が支配する能力を評価した。簡潔に述べると、血清不含培地中3:1又は3:2の割合で、希釈したFuGENE6試薬にpMAT6ベクターDNA 1又は2μgを使用した。15分間温置した後、FuGENE6試薬DNA複合体を6ウェルプレート中の細胞(2mL発現培地(Invitrogen)中1.0x106細胞)に移す。95%CO2雰囲気中、37℃で72時間、この細胞を温置しなければならない。機能的scFvタンパク質を測定するために、scFv−HA−GR1タンパク質の抗−HAウエスタンブロット分析及び抗−VEGF ELISAアッセイ用に上清を回収することができる。
【0175】
最初に、ProFound HA Tag IP/Co−IPキット(Pierce)の説明書に従い、抗−HA抗体ビーズを用いて培養上清800μLからscFvタンパク質を精製した。このように、タンパク質分離のために4−12%SDS−PAGEゲル(Invitrogen)に精製scFvタンパク質を添加し、ECL pusウエスタンブロッティング検出システム(Amersham)の説明書に従い、ウエスタンブロッティング分析のために0.45ニトロセルロース膜に転写した。簡潔に述べると、TBST中5%脱脂乳で膜をブロッキング処理し、室温で1時間、マウス抗体HA−プローブF7(Santa Cruz Biotech)とともに温置した。TBSTで3回洗浄した後、ペルオキシダーゼ標識抗−マウス抗体で1時間温置して膜をプローブした。洗浄した膜に検出溶液を添加し、5分間温置した。次に、x線フィルムを用いて化学発光シグナルを検出した。図7Aで与えられる抗−HAブロッティングの結果から、pMAT6がCOS6細胞培養上清へのscFvタンパク質(〜35KD)の発現を支配するように機能することが示される。
【0176】
抗−VEGF ELISAアッセイにより、COS6培養上清からのscFvタンパク質の機能をさらに分析した。簡潔に述べると、2μg/mLの濃度の、重炭酸塩緩衝液pH9.6中の希釈rhVEGF(R&D System)100μLで、MaxiSorpプレートを一晩被覆した。PBSで2回洗浄した後、5%ミルクPBSを用いて室温で1時間、プレートをブロッキング処理した。さらなる洗浄後、様々な希釈度の精製scFvタンパク質が入った溶液50μLをウェルに添加し、室温にて1時間、温置した。洗浄後、マウス抗体HA−プローブF7(Santa Cruz Biotech)50μLを添加して室温で1時間温置し、続いて5%ミルクPBS中1:2,000希釈の抗−マウス抗体−HRPコンジュゲート(Santa Cruz Biotech)とともに1時間温置した。次いで、最後に、ABTS基質.(Pierce)を発色のために添加した。96ウェルプレートリーダー(Molecular Devices)によって、OD405でプレートの読み取りを行った。図7Bで示されるELISAの結果から、2つの個々のCOS6細胞形質移入物からのpMAT6培養上清中で用量依存的VEGF結合活性が示され、このことから、哺乳動物細胞における酵母/哺乳動物pMAT6ベクターからのscFvの機能的発現が示唆される。
【実施例26】
【0177】
pMAT6を用いた、哺乳動物細胞上でのscFv提示
次のプロトコールによって哺乳動物細胞におけるpMAT6の異種間提示機能を調べることができる。10%ウシ胎仔血清、100ユニット/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシン含有ダルベッコ改変イーグル培地が入った6ウェルプレート中のカバースリップ上でCOS6細胞を増殖させる。製造者の説明書に従い、FuGene6形質移入試薬(Roche Applied Science)を用いて、pAMT6クロス提示ベクター及び哺乳動物ヘルパーベクターpMAG2をCOS6細胞に同時形質移入する。簡潔に述べると、血清不含培地中、3:2のFuGENE6試薬(μL):DNA複合体(μg)の割合で、希釈したFuGENE6試薬にプラスミドDNA0800ng(pMAT6 400ng+pMAG2 400ng)を添加する。FuGENE試薬DNA複合体を室温で15分間温置し、次いで細胞に添加する。
【0178】
48時間後、細胞表面上で提示されるHAタグ付加scFv−GR1融合タンパク質(pMAT6ベクターより)をAlexa488標識抗−HA抗体で検出することができる。簡潔に述べると、COS6細胞を4%ホルムアルデヒドで20分間固定し、PBS中の5%BSAで25℃にて30分間ブロッキング処理し、次いでPBS中のAlexa488標識抗−HA抗体(1:100希釈、Invitrogen)(1:500)とともに60分間温置する。核を可視化するために、細胞をまた、DAPI(Invitrogen)でも染色する。Plan−Neofluar 100/1.30油浸対物レンズ付きのZeiss Axiovert135顕微鏡で細胞を観察する。細胞表面上のHAタグ付加scFv−GR1は緑色蛍光で観察される。
【0179】
あるいは、関心のあるポリペプチドを発現している宿主細胞を同定するために、FACSアッセイを行うことができる。形質移入から48時間後に、染色のために4x106細胞/mLの最終濃度を用いる。ビオチン化rhVEGF又はVEGF−Fcを細胞懸濁液25μLに添加し、4℃にて60分間温置する。陰性染色対照として、細胞の同一試料をビオチン化ダイズトリプシン阻害剤で染色する。次に、アビジン−FITC又は抗−Fc抗体−FITCとともにさらに30分間、4℃で暗所で細胞を温置する。RDF1緩衝液で細胞を2回洗浄し、FACSvantageフローサイトメーター(BD Biosciences)又はAgilent2100 bioanalyzer(Agilent technologies)でのフローサイトメトリー分析のために0.2mL RDFI緩衝液中でこの細胞を再懸濁する。
【実施例27】
【0180】
酵母及び哺乳動物細胞上で提示される所望のポリペプチドの選択
DNAのライブラリをpMAT4ベクターに挿入し、酵母ヘルパーベクターpMAT3又はpMAT7又はpMAT8のコピーがそのゲノムに組み込まれた酵母細胞に直接形質転換することができる。
【0181】
フローサイトメトリーソーティングを数回行うことにより、所望の特性を有するリードを提示する形質転換酵母細胞を単離することができる。簡潔に述べると、30℃で18−22時間、SD−CAA選択培地中で酵母細胞を増殖させ、次いでSG/R−CAA発現培地に20℃で16−18時間移すことができる。FACS洗浄緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA)中で室温にて30分間ビオチン化抗原及び5mg/mL抗−HA(12CA5)抗体とともに酵母細胞を温置し、氷冷洗浄緩衝液で洗浄する。5mg/mL SA−PE及びGaM−488とともに暗所で氷上で30分間温置することによって細胞試料をプローブし、フローサイトメトリーによるソーティングのためにFACS洗浄緩衝液中で再懸濁する。
【0182】
選択物を精製するためにBD Bioscience FACS Vantage DiVaセットを用いて選択を行うことができ、所望の二重陽性細胞を選択するためにソートゲートを決定する。Penn/Strep入りのSD−CAAプレートに回収した細胞を播種し30℃で2日間増殖させる。次に、細胞を再懸濁し、次回のために増幅する。2−3回の選択後、Zymoprep酵母プラスミドミニプレップキット(Zymo Research)を使用することにより、酵母細胞からのベクターDNAのリードのプールを回収することができる。
【0183】
次に、酵母提示ライブラリから単離された、この得られたベクターDNAのプールを、哺乳動物ヘルパーベクターpMAG2とともに同時形質移入することにより、細胞表面提示のために哺乳動物細胞に直接形質移入することができる。フローサイトメトリーソーティングを数回行うことにより、所望の特性を有するリードを同定し、回収することができる。簡潔に述べると、キュベット中で氷冷PBSで洗浄したHEK293細胞又はCOS細胞3x106と10−20μgDNAを混合する。氷上で10分間温置した後、250uF、660Vに設定したGenePulser Xcell(Bio−Rad)を用いて、細胞/DNA混合物に対してエレクトロポレーションを行う。室温で10分間温置した後、75cm培養フラスコ中の20mL培地に細胞を移し、3℃、5%CO2で2−3日間温置する。あるいは、形質移入のために、FuGene6形質移入試薬を使用することができる。
【0184】
適切な選択プロセスを下記に記載する。PBS緩衝液中の0.2nMビオチン化抗原タンパク質及び抗−HA mAb 12CA5 20μg/mLとともにおよそ107個の形質移入細胞を25℃で1時間温置する。最後に、氷冷PBS緩衝液でこの細胞をすすぎ、FITC標識ヤギ抗−マウスFITC(AMI0408;BioSource International、Camarillo、CA)及びストレプトアビジン−R−PEコンジュゲート(S866;Molecular Probe)とともに4℃で1時間温置して標識した。このように、適切なソートウィンドウ(sort window)でこの細胞をFACSVantageSE(BD Biosciences)上でソーティングする。上位0.1%のPE−陽性細胞を回収する。選択された細胞から回収された提示及びヘルパーベクター両方のDNAをE.コリ細胞に形質転換する。KO7などの通常のヘルパーファージにより、f1 oriを有する提示ベクターのみをパッケージングすることができるが、これは、哺乳動物ヘルパーベクターからベクターを分離するという効果がある。次に、別の回のFACSソーティング又はDNA配列決定のために、回収した提示ベクターDNAを使用することができる。
【実施例28】
【0185】
E.コリ、酵母及び哺乳動物細胞において機能を有するシグナルペプチドの選択
pMAT6ベクターにおいて、アダプターGR1/ポリペプチド融合タンパク質の発現は、3つのプロモーター:哺乳動物細胞に対するSV40プロモーター;酵母細胞に対するpGAL10プロモーター;及び細菌細胞に対するpLacプロモーターにより支配される。従って、E.コリ、酵母及び哺乳動物細胞の全てにおいて機能する(即ち、分泌経路に対して融合タンパク質を支配する)シグナルペプチドをベクターが含むならば、このベクターは潜在的にファージ、酵母及び哺乳動物細胞上でのポリペプチドの異種間提示を支配するために使用し得る。
【0186】
E.コリ、酵母及び哺乳動物細胞において分泌機能を有するシグナルペプチドを単離するために、抗−VEGF cFvなどの試験タンパク質に対する発現カセットを含むpMAT6ベクターへとシグナル配列のライブラリをクローニングすることができる。得られたライブラリをファージ上で提示し、VEGF抗原を用いたパニングプロトコールを使用して選択することができる。そのVEGF結合活性に基づき同定された単離ファージは、E.コリ細胞で機能するシグナルペプチドが存在することを特徴とするであろう。適切なパニングプロセスには、4℃で一晩5μg/mLの濃度のVEGFで96ウェルプレートを被覆し、そのプレートをPBSで洗浄し、5%ミルク/PBSでブロッキングすることが含まれる。100μL 1011−12個のファージを添加し、室温で2時間温置する。PBST及びPBSでの数回の洗浄後、10μg/mLトリプシンで30分間、結合ファージを溶出する。TG1細胞に溶出ファージを感染させ、次回のファージ調製及びパニングに対して使用する。このプロセスを2−3回繰り返した後、提示するファージのプールを濃縮することができる。E.コリ細胞に感染させるために濃縮したファージを使用し、次の酵母提示用のベクターDNAの調製のためにこれを使用する。
【0187】
酵母ヘルパーベクター、pMAT3又はpMAT7又はpMAT8のコピーを有する酵母細胞へと、ファージライブラリから選択されたベクターDNAのこの小さなプールを続いて直接形質転換することができる。酵母細胞表面上で機能的scFvを提示するために、酵母細胞で分泌を支配できるシグナルペプチドが必要である。フローサイトメトリーソーティングを数回行うことにより、機能的シグナルペプチドを有する酵母細胞を単離することができる。適切なソーティングプロトコールは、30℃で18−22時間、SD−CAA選択培地中で酵母細胞を増殖させ、次いでSG/R−CAA発現培地に20℃で16−18時間移すことを含み得る。FACS洗浄緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA)中で室温にて30分間ビオチン化VEGF及び5mg/mL抗−HA(12CA5)抗体とともにこの細胞を温置し、氷冷洗浄緩衝液で洗浄することができる。5mg/mL SA−PE及びヤギ抗−マウスAb−488とともに暗所で氷上で30分間温置することによって続いて細胞をプローブし、フローサイトメトリーによるソーティングのためにFACS洗浄緩衝液中で再懸濁することができる。選択物を精製するためにBD Bioscience FACS Vantage DiVaセットを用いて選択を行うことができ、所望の二重陽性細胞を選択するためにソートゲートを決定する。Penn/Strep入りのSD−CAAプレート上に回収した細胞を播種し、30℃で2日間増殖させる。次に、細胞を再懸濁し、次回のために増幅する。2−3回の選択後、説明書に従いZymoprep酵母プラスミドミニプレップキット(Zymo Research)を使用することにより、酵母細胞からベクターDNAを回収する。
【0188】
E.コリ及び酵母で機能するシグナルペプチドを同定するために、上記のファージ及び酵母選択プロトコールを使用した後、ライブラリを哺乳動物提示系に導入することによって第三の選択を行うことにより、哺乳動物細胞で機能することができるさらなる特性を特徴とするシグナルペプチドを同定することができる。表面提示のために、ファージ及び酵母提示から選択されたリードDNAを哺乳動物細胞に直接形質移入することができる。簡潔に述べると、リードDNA20μgを上記のHEK293細胞又はCOS6細胞に形質移入する。培養2日後、形質移入した細胞をPBS緩衝液中の0.2nMビオチン化抗原VEGF及び抗−HA mAb 12CA5 20μg/mLlとともに25℃で1時間温置する。最後に、氷冷PBS緩衝液でこの細胞をすすぎ、FITC標識ヤギ抗−マウスFITC(AMI0408;BioSource International、Camarillo、CA)及びストレプトアビジン−R−PEコンジュゲート(S866;Molecular Probe)とともに4℃で1時間温置することにより標識した。このように、適切なソートウィンドウ(sort window)でこの細胞をFACSVantageSE(BD Biosciences)上でソーティングする。上位0.1%のPE−陽性細胞を回収する。選択された細胞から回収された提示及びヘルパーベクター両方のDNAをE.コリ細胞に形質転換する。ファージパッケージングによって、f1 oriを有する提示ベクターDNAを単離することができる。これらの選択後、ファージ、酵母及び哺乳動物提示を通じて単離されたシグナルペプチドは、E.コリ、酵母及び哺乳動物細胞で機能的である。これを確認するために、個々のクローンからのDNAを直接使用して、それぞれE.コリ、酵母及び哺乳動物細胞に形質転換する。上記のように抗−VEGF ELISAによって、これらの細胞から分泌される可溶性scFvを検出することができる。
【0189】
原核及び真核宿主細胞上での異種間提示
【実施例29】
【0190】
細菌ヘルパーベクターpMAL1
PciI部位を用いた自己連結によって、図13Aで示されるpMAL1を3822bpの完全合成DNA断片から作製した。この完全合成DNAは、(1)複製のためのpUC ori、ファージパッケージングのためのf1 ori及びクロラムフェニコール選択マーカーの発現カセットを含む細菌の制御エレメントに対する配列と;(2)細菌外面ドメイン(PelBシグナル−Lpp−OmpA)とのアダプター2(GR2)(配列番号20)融合物の発現カセットと、を含む。簡潔に述べると、Codon DeviceのBioFabプラットフォーム技術を用いることによる遺伝子合成のために、この合成DNAを1851及び2019bpの2片のセグメントに分割した。合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、オリゴ合成から生じたエラーを修正した。2つの末端にPciI制限部位があるこれらの合成DNAセグメントを消化し、核酸連結した。標準的DNA配列決定によって、得られたベクター(配列番号17)を確認した。
【実施例30】
【0191】
細菌ヘルパーベクターpMAL2
PciI−BssHII断片を1006bpの完全合成DNA断片(これは、アダプター2(GK1)(配列番号20)に融合したLpp−OmpAの細菌外面ドメインに対する発現カセットを含む。)で置換することにより、図13Bで図示されるpMAL2をpMAL1ベクターから得た。融合タンパク質の発現はファージp8シグナルペプチドにより支配される。
【0192】
簡潔に述べると、Codon DeviceのBioFabプラットフォーム技術を用いて合成DNAを作製した。合成遺伝子に相補的な配列を用いたオリゴ選択及びMut−Sタンパク質カラムのアフィニティー精製によって、オリゴ合成から生じたエラーを修正した。得られたベクター(配列番号18)を標準的DNA配列決定によって確認した。
【実施例31】
【0193】
E.コリ及び哺乳動物宿主細胞上でのscFvの異種間提示
上記で示されるように、宿主細胞の複数種におけるポリペプチドの発現のために、及び、本発明のヘルパー提示ベクターと組み合わせて使用される場合、実施例2、6から9に記載のファージ及び哺乳動物細胞上でのタンパク質ライブラリの表面提示を支配するために、ベクターpMAG9を使用した。同様に、細菌及び哺乳動物細胞上でのクロス提示のためにこのベクターを使用することもできる。細菌細胞提示を次のように行うことができる。
【0194】
細菌ヘルパー提示ベクターpMAL1又はpMAL2と組み合わせた発現ベクターpMAG9ベクターの同時形質転換は、2つの融合タンパク質:可溶性scFv−GR1(タンパク質/アダプター1)及びLpp−OmpA−GR2(表面タンパク質/アダプター2)を発現するようにE.コリを支配する。GR1及びGR2融合タンパク質は細胞膜周辺腔に分泌され、集合してGR1及びGR2相互作用によりタンパク質複合体を形成する。得られたタンパク質複合体は、Lpp−OmpA外膜アンカードメインによって細胞表面上で提示される。
【0195】
簡潔に述べると、アンピシリン選択マーカーを有するpMAG9発現ベクターで細胞を形質転換し、次いでクロラムフェニコール選択マーカーを有するファージミドパッケージングヘルパーベクターpMAL1又はpMAL2を感染させることができる。OD600=0.5まで、1%グルコース及び100μg/mL アンピシリン及び30μg/mLクロラムフェニコールの抗生物質を含有する2YT培地中で提示及びヘルパーベクター両方を有する細胞を増殖させ、次いで、アダプター融合タンパク質の発現のために、グルコース不含の増殖培地に移す。4−6時間温置した後、FACS洗浄緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA)中で、室温で30分間、ビオチン化抗原VEGF及び5mg/mL抗−HA(12CA5)抗体とともに細胞を温置し、氷冷洗浄緩衝液で洗浄する。このように、5mg/mL SA−PE及びGaM−488とともに30分間、暗所で氷上で温置することによって細胞をプローブし、FACS分析のためにFACS洗浄緩衝液中で再懸濁する。抗−VEGF scFvのライブラリをこの方法で提示させる場合、scFvタンパク質を提示する細胞を上記のようにプローブし、フローサイトメトリーによりソーティングし得る。抗生物質アンピシリンのみを含有する2YT/グルコース培地中での増殖を通じて、ヘルパーベクターから提示ベクターのリードを分離することができる。
【実施例32】
【0196】
E.コリと酵母との間のscFvの異種間提示
本明細書中で示されるように、ファージと酵母細胞との間のクロス提示(実施例12から19に記載)に対して及び細菌と酵母細胞との間の細胞表面提示に対して、pMAT5を使用することができる。pMAT6ベクター及び細菌ヘルパーベクターpMAL1又はpAML2で受容宿主細胞を同時形質転換し、次に、細胞が2種類の融合タンパク質:可溶性scFv−GR1及びLpp−OmpA−GR2融合物を発現する。GR1及びGR2融合タンパク質は細胞膜周辺腔に分泌され、GR1及びGR2相互作用によりタンパク質複合体を形成する。Lpp−OmpA外膜ドメインを通じて細胞表面上にscFv−GR1タンパク質が提示される。
【0197】
簡潔に述べると、アンピシリン選択マーカーを含む提示ベクターで細胞を最初に形質転換し、続いて、クロラムフェニコール選択マーカーを有するファージミドパッケージングヘルパーベクターpMAL1又はpMAL2を感染させることができる。OD600=0.5まで、1%グルコース及び100μg/mL アンピシリン及び30μg/mLクロラムフェニコールの抗生物質を含有する2YT培地中で提示及びヘルパーベクター両方を有する細胞を増殖させ、次いで、アダプター融合タンパク質の発現のために、グルコース不含の増殖培地に移す。4−6時間温置した後、FACS洗浄緩衝液(PBS/0.5%BSA/2mM EDTA)中で、室温で30分間、ビオチン化抗原VEGF及び5mg/mL抗−HA(12CA5)抗体とともに細胞を温置し、氷冷洗浄緩衝液で洗浄する。このように、5mg/mL SA−PE及びGaM−488とともに30分間、暗所で氷上で温置することによって細胞をプローブし、FACS分析のためにFACS洗浄緩衝液中で再懸濁する。抗−VEGF scFvのライブラリをこの方法で提示させる場合、scFvタンパク質を提示する細胞を上記のようにプローブし、フローサイトメトリーによりソーティングし得る。抗生物質アンピシリンのみを含有する2YT/グルコース培地中での増殖を通じて、ヘルパーベクターから提示ベクターのリードを分離することができる。酵母細胞提示のためのpMAT5提示ベクターは実施例19に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0198】
【図1】図1は、本発明の異種間及び複数種提示系の実験計画の概略である。
【図2】図2A及び2Bは、ファージ及び哺乳動物の異種間又は複数種提示ベクターpMAG1(図2A)及びpMAG9(図2B)の概略を示す。pMAG1及びpMAG9ベクターにおいて、アダプター1融合タンパク質の発現は哺乳動物プロモーター及び細菌プロモーターの調節下にある。
【図3】図3は、KO7Kpnベクターのカナマイシン耐性ファージ−陽性クローンに対する抗−ファージELISAスクリーニングの結果の概略を示す。クローン#C2、B3、B7、B9、A12は、KO7kpnヘルパーファージ−陽性クローンに相当する。F1及びF2は、親M13KO7ファージの2つの陽性対照に相当する。
【図4】図4は、ファージヘルパーベクターGMCTの概略を示す。このベクターは、KO7kpnファージベクターにおいてアダプターGR2及びMyc−タグに融合した改変遺伝子IIIのさらなるコピーをコードするヌクレオチド配列を含有する。
【図5】図5は、哺乳動物ヘルパーベクターpMAG2の概略を示すが、これは、ヒトEGF受容体の膜貫通ドメインに融合したアダプター2を含む融合タンパク質を産生する。
【図6】図6A及び6Bは、異種間提示ベクターpMAG9を用いてE.コリ細胞(図6A)及び哺乳動物細胞(図6B)で発現される可溶性抗−VEGF scFvに対する機能的発現アッセイの結果の概略を示す。これらのデータから、培養上清からのscFv抗体のVEGF結合活性が示され、このことから、ベクターpMAG9の異種間発現機能が明らかとなった。
【図7】図7A及び7Bは、異種間提示ベクターpMAG9及びpMAT6を用いた哺乳動物細胞での可溶性scFvの発現を示す結果である。図7Aは、pMAG9及びpMAT6ベクターによって293及びCOS細胞からの培養上清中で分泌された35KD scFvタンパク質を示す、抗−HA抗体で発色させたウエスタンブロットの結果である。図7Bは、pMAT6ベクターによってCOS細胞上清中で発現されるscFvのVEGF結合活性を示すELISAアッセイの結果をまとめたものであるが、これにより、ベクターpMAT6の複数種発現機能が明らかとなった。
【図8】図8は、ベクターpMAG9を用いたファージ表面上でのscFvの機能的提示を示す。このデータから、ファージ表面上で提示された抗−VEGF scFv抗体の用量依存的VEGF結合活性が示された。
【図9】図9A、B及びCは、表面上で抗−VEGF scFvを提示するCOS6細胞の蛍光顕微鏡画像を示す。pMAG9及びpMAG2ベクターで形質移入されたCOS6細胞をチャンバースライド上で増殖させた。抗−HA抗体−AlexaFluor−488(緑色)及びDAPI(青色)核染色で、形質移入された細胞を染色した。図9Aは、重ね合わせた染色パターンである。図9Bは、Alex Fluor−488染色を与え、図9Cは、DAPI核染色を与える。このデータから、pMAG9ベクターの哺乳動物提示機能が明らかとなった。
【図10】図10A及び10Bは、ファージ及び酵母異種間又は複数種発現ベクターpMAT2及びpMAT5の概略を示す。図10はベクターpMAT2の成分を示す。図10Bは、ベクターpMAT5の成分を示す。pMAT2及びpMAT5ベクターにおいて、アダプター1融合タンパク質の発現は、酵母プロモーター及び細菌プロモーターの調節下にある。
【図11】図11A、B及びCは、酵母ヘルパー提示ベクター、pMAT3、pMAT7及びpMAT8の概略を示す。これらのベクターにおいて、アダプター2は次のような様々な酵母細胞外壁タンパク質:pMAT3の場合Flo1のC末端ドメイン;pMAT7の場合Aga2;及びpMAT8の場合Cwp2、に融合する。
【図12】図12は、発現ベクターpMAT5を用いたE.コリ細胞での可溶性scFvに対する機能的発現アッセイの結果を示す。ELISAデータから、TG1培養上清中の抗−VEGF scFv抗体の用量依存的VEGF結合活性が示された。
【図13】図13は、異種間提示ベクターpMAT5を用いたファージ表面上でのscFvの機能的提示を示す。このデータから、pMAT5ファージ表面上で提示される抗−VEGF scFv抗体の用量依存的VEGF結合活性が示された。
【図14】図14A及び14Bは、酵母及び哺乳動物異種間又は複数種発現ベクターpMAT4(14A)及びpMAT6(14B)の概略を示す。pMAT4及びpMAT6ベクターにおいて、アダプター1融合タンパク質の発現は、3つのプロモーター:哺乳動物、酵母及び細菌プロモーターの調節下にある。このシグナルペプチドは酵母及び哺乳動物細胞において機能的である。
【図15】図15A及びBは、細菌ヘルパーベクターpMAL1(15A)及びpMAL2(15B)の概略を示す。このベクターは、抗生物質選択(Cam)のためのクロラムフェニコール耐性遺伝子及びLpp−OmpAの細菌外膜ドメインへのアダプター融合のための発現カセットを含有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)1以上のプロモーターと、第一のアダプター配列にインフレームで融合した関心のあるタンパク質をコードする異種間発現カセットと、を含む異種間発現ベクターと、2)原核生物宿主により発現される外面タンパク質に融合した、提示ベクターの第一のアダプター配列と対をなし相互作用する第二のアダプター配列からなる融合タンパク質をコードする第一のヘルパーベクターと、3)真核生物宿主細胞により発現される外面タンパク質に融合した、第二のアダプター配列からなる融合タンパク質をコードする第二のヘルパーベクターと、からなる異種間提示ベクターセットを含む、関心のあるポリペプチド配列をコードする発現ベクターを操作する必要のない、原核生物宿主及び真核生物宿主細胞における関心のあるポリペプチド配列のレパートリーの連続提示のための異種間提示系。
【請求項2】
関心のあるポリペプチド配列のレパートリーが抗体ライブラリである、請求項1に記載の異種間提示系。
【請求項3】
原核生物宿主がファージであり、真核生物宿主が酵母である、請求項2に記載の異種間提示系。
【請求項4】
異種間発現ベクターが、pMAG1、pMAG9、pMAT2、pMAT4、pMAT6又はpMAT5から選択され、第一及び第二のヘルパーベクターが、GMCT、pMAG2、pMAL1、pMAL2、pMAT3、pMAT7及びpMAT8から選択される、請求項3に記載の提示系。
【請求項5】
異種間発現セットが、a)提示ベクターpMAT5と、b)ヘルパーベクターGMCTと、c)pMAT3、pMAT7又はpMAT8から選択される第二の酵母ヘルパーベクターと、を含む、請求項4に記載の異種間提示系。
【請求項6】
第一及び第二のアダプター配列がコイルドコイルドメイン由来である、請求項2に記載の提示系。
【請求項7】
第一のアダプター配列が配列番号19からなり、第二のアダプター配列が配列番号20からなる、請求項6に記載の提示系。
【請求項8】
原核生物宿主がファージであり、真核生物宿主が哺乳類であり、さらに、異種間ベクターセットが、提示ベクターpAMG9及びヘルパーベクターGMCT及びpMAG2を含む、請求項2に記載の提示系。
【請求項9】
pMAT3、pMAT7又はpMAT8の群から選択されるヘルパーベクターで形質転換される酵母宿主細胞。
【請求項10】
適切な包装中に請求項1に記載の異種間提示ベクターセットを含む、キット。
【請求項11】
1)1以上のプロモーターと、第一のアダプター配列にインフレームで融合した関心のあるタンパク質をコードする発現カセットと、を含む複数種発現ベクターと、2)提示のために選択される宿主細胞の種により発現される外面タンパク質に融合した、第一のアダプター配列と対をなし相互作用する第二のアダプター配列からなる融合タンパク質をコードするヘルパーベクターと、3)少なくとも2種類の宿主細胞の異なる種と、を含む、複数種提示系。
【請求項12】
関心のあるタンパク質が抗体ライブラリである、請求項11に記載の提示系。
【請求項13】
第一及び第二のアダプター配列がコイルドコイルドメイン由来である、請求項11に記載の提示系。
【請求項14】
第一のアダプター配列が配列番号19からなり、第二のアダプター配列が配列番号20からなる、請求項13に記載の提示系。
【請求項15】
宿主細胞の2種類の異なる種が原核性である、請求項12に記載の複数種提示系。
【請求項16】
提示ベクターがpMAG1又はpMAG9から選択される、請求項15に記載の提示系。
【請求項17】
異種間発現ベクターが、pMAG1、pMAG9、pMAT2、pMAT4、pMAT6又はpMAT5から選択され、第一及び第二のヘルパーベクターが、GMCT、pMAG2、pMAL1、pMAL2、pMAT3、pMAT7及びpMAT8から選択される、請求項3に記載の提示系。
【請求項18】
宿主細胞の2種類の異なる種が真核性である、請求項11に記載の提示系。
【請求項19】
提示ベクターが、pMAG1(配列番号1)又はpMAG9(配列番号2)から選択される、請求項18に記載の提示系。
【請求項20】
提示ベクターがpMAG9であり、ヘルパーベクターがpMAG2であり、宿主細胞が酵母及び哺乳動物細胞である、請求項18に記載の提示系。
【請求項1】
1)1以上のプロモーターと、第一のアダプター配列にインフレームで融合した関心のあるタンパク質をコードする異種間発現カセットと、を含む異種間発現ベクターと、2)原核生物宿主により発現される外面タンパク質に融合した、提示ベクターの第一のアダプター配列と対をなし相互作用する第二のアダプター配列からなる融合タンパク質をコードする第一のヘルパーベクターと、3)真核生物宿主細胞により発現される外面タンパク質に融合した、第二のアダプター配列からなる融合タンパク質をコードする第二のヘルパーベクターと、からなる異種間提示ベクターセットを含む、関心のあるポリペプチド配列をコードする発現ベクターを操作する必要のない、原核生物宿主及び真核生物宿主細胞における関心のあるポリペプチド配列のレパートリーの連続提示のための異種間提示系。
【請求項2】
関心のあるポリペプチド配列のレパートリーが抗体ライブラリである、請求項1に記載の異種間提示系。
【請求項3】
原核生物宿主がファージであり、真核生物宿主が酵母である、請求項2に記載の異種間提示系。
【請求項4】
異種間発現ベクターが、pMAG1、pMAG9、pMAT2、pMAT4、pMAT6又はpMAT5から選択され、第一及び第二のヘルパーベクターが、GMCT、pMAG2、pMAL1、pMAL2、pMAT3、pMAT7及びpMAT8から選択される、請求項3に記載の提示系。
【請求項5】
異種間発現セットが、a)提示ベクターpMAT5と、b)ヘルパーベクターGMCTと、c)pMAT3、pMAT7又はpMAT8から選択される第二の酵母ヘルパーベクターと、を含む、請求項4に記載の異種間提示系。
【請求項6】
第一及び第二のアダプター配列がコイルドコイルドメイン由来である、請求項2に記載の提示系。
【請求項7】
第一のアダプター配列が配列番号19からなり、第二のアダプター配列が配列番号20からなる、請求項6に記載の提示系。
【請求項8】
原核生物宿主がファージであり、真核生物宿主が哺乳類であり、さらに、異種間ベクターセットが、提示ベクターpAMG9及びヘルパーベクターGMCT及びpMAG2を含む、請求項2に記載の提示系。
【請求項9】
pMAT3、pMAT7又はpMAT8の群から選択されるヘルパーベクターで形質転換される酵母宿主細胞。
【請求項10】
適切な包装中に請求項1に記載の異種間提示ベクターセットを含む、キット。
【請求項11】
1)1以上のプロモーターと、第一のアダプター配列にインフレームで融合した関心のあるタンパク質をコードする発現カセットと、を含む複数種発現ベクターと、2)提示のために選択される宿主細胞の種により発現される外面タンパク質に融合した、第一のアダプター配列と対をなし相互作用する第二のアダプター配列からなる融合タンパク質をコードするヘルパーベクターと、3)少なくとも2種類の宿主細胞の異なる種と、を含む、複数種提示系。
【請求項12】
関心のあるタンパク質が抗体ライブラリである、請求項11に記載の提示系。
【請求項13】
第一及び第二のアダプター配列がコイルドコイルドメイン由来である、請求項11に記載の提示系。
【請求項14】
第一のアダプター配列が配列番号19からなり、第二のアダプター配列が配列番号20からなる、請求項13に記載の提示系。
【請求項15】
宿主細胞の2種類の異なる種が原核性である、請求項12に記載の複数種提示系。
【請求項16】
提示ベクターがpMAG1又はpMAG9から選択される、請求項15に記載の提示系。
【請求項17】
異種間発現ベクターが、pMAG1、pMAG9、pMAT2、pMAT4、pMAT6又はpMAT5から選択され、第一及び第二のヘルパーベクターが、GMCT、pMAG2、pMAL1、pMAL2、pMAT3、pMAT7及びpMAT8から選択される、請求項3に記載の提示系。
【請求項18】
宿主細胞の2種類の異なる種が真核性である、請求項11に記載の提示系。
【請求項19】
提示ベクターが、pMAG1(配列番号1)又はpMAG9(配列番号2)から選択される、請求項18に記載の提示系。
【請求項20】
提示ベクターがpMAG9であり、ヘルパーベクターがpMAG2であり、宿主細胞が酵母及び哺乳動物細胞である、請求項18に記載の提示系。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2009−535063(P2009−535063A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−509716(P2009−509716)
【出願日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/010743
【国際公開番号】WO2007/130520
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(508326493)アブマクシス・インコーポレイテツド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/010743
【国際公開番号】WO2007/130520
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(508326493)アブマクシス・インコーポレイテツド (2)
【Fターム(参考)】
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