説明

異音検出装置、方法及びプログラム

【課題】設備からの異音を検出する。
【解決手段】2つのマイクから得られた音のディジタル信号から設備が平常時に発する平常音を除去した後、所定期間閾値を超えて継続する有意音を検出すると、有意音の特徴周波数を抽出して、当該特徴周波数について設備側の第1のビームフォーミング出力値と、設備側とは異なる方向の第2のビームフォーミング出力値とを算出する。そして、第2のビームフォーミング出力値の絶対値に対する第1のビームフォーミング出力値の比が閾値以上である場合には定常的な異音が設備から発せられているものと判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視対象物から発せられる可能性のある異音を検出するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉等の設備について異常音を検出する技術は例えば特開昭57−114846号公報に開示されている。具体的には、場所の異なる複数箇所に音響検出器を設置して衝撃音などの異常音を検出する異常音検出装置において、それぞれの音響検出器の出力信号が検出された時刻の差が、予め設定された時間差の範囲にあった場合のみ警報を発生する手段を備えている。しかしながら、音響検出器は監視対象物に付着させるようになっており、全ての監視対象物に用いることは不可能である。
【0003】
また、特開2004−85455号公報には、異常音の音源特定を容易かつ高精度に行うことのできる異常音の音源探査技術が開示されている。具体的には、処理部の音波形収集部は音源探査領域Aの異なる位置に配置された3本以上のマイクロフォンから機器が稼働している時の現在音波形を収集する。比較部は予め基準音波形記憶部に記憶しておいた基準音波形と現在音波形との比較を行い、異常音波形のみ抽出し、残余情報抽出部は、異常音波形から振幅情報のみを排除して、異常音の伝搬時に発生する音圧の減衰によるノイズを排除した残余情報を抽出する。時間差算出部は、2本のマイクロフォンで収集した残余情報の相互相関をとり同一音源からの異常音が各マイクロフォンに到達するまでの時間差を求め、音源特定部が求めた時間差に基づいて、異常音の音源位置を特定する。異常音波形の検出には、予め用意しておいた基準音波形との比較を行うため、定常音が周波数的に揺らぐなどした場合に問題が生ずる。
【0004】
さらに、特開2003−111183号公報には、簡単な構成で、屋外においても精度よく工場等の騒音などの騒音源を特定して表示することのできるようにするための技術が開示されている。具体的には、マイクロフォンM1〜M4を検出部がXY平面内において原点Oを中心とする正方形を構成するように配置するとともに、第5のマイクロフォンM5をその検出部が上記マイクロフォンM1〜M4から構成する正方形の中心の上方に位置し、かつ、上記マイクロフォンM5とマイクロフォンM1〜M4との距離が等しくなるように配置し、各マイクロフォンM1〜M5の出力信号の到達時間差から音源の方向を推定するとともに、上記推定された音源位置近傍の映像をカメラにより採取し、パーソナルコンピュータのディスプレイ上に表示された上記映像上に、上記推定された音源位置を表示するようにするものである。しかしながら、異常音を検出するような構成ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−114846号公報
【特許文献2】特開2004−85455号公報
【特許文献3】特開2003−111183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように従来技術では、変圧器などの設備からの異音を検出するのに適した構成は開示されていない。
【0007】
従って、本発明の目的は、変圧器などの設備からの異音を検出するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本異音検出装置は、監視対象物から所定距離離れた位置に設置された第1のマイクにより検出された第1の信号を第1のディジタル信号に変換し、監視対象物からさらに離れ且つ第1のマイクから所定長離れた位置に設置された第2のマイクにより検出された第2の信号を第2のディジタル信号に変換する変換手段と、監視対象物が平常時に発する音の周波数を除去するように設定されたフィルタによって第1及び第2のディジタル信号を処理して、第1及び第2の平常音除去ディジタル信号を生成する平常音除去手段と、第1及び第2の平常音除去ディジタル信号を解析して、信号値の絶対値が第1の所定期間継続して所定の閾値を超え、さらに第2の所定期間継続して所定の閾値を超える平常音除去ディジタル信号が存在するか判断し、判断が肯定的な場合に先に判断が肯定的になった平常音除去ディジタル信号を有意音信号として特定する有意音検出手段と、有意音検出手段により有意音信号が特定された場合、第2の所定期間における有意音信号の特徴周波数を抽出する特徴周波数抽出手段と、抽出された特徴周波数における第1の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数及び第2の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数とを用いて、監視対象物側についての第1のビームフォーミング出力値と、監視対象物とは異なる第2方向についての第2のビームフォーミング出力値とを算出するビームフォーミング算出手段と、第1のビームフォーミング出力値と第2のビームフォーミング出力値とが所定の条件を満たすか判断し、当該所定の条件を満たす場合には監視対象物からの定常異音であると判断して、定常異音検出信号を出力する異音判定手段とを含む。
【0009】
このように、ビームフォーミング技術を用いて、監視対象物側からの音データとして第1のビームフォーミング出力値と、監視対象物側とは異なる第2方向(例えば監視対象物とは反対側)からの音データとして第2のビームフォーミング出力値とを算出することによって、平常時に監視対象物から発せられる周波数成分を除いた定常的な有意音が監視対象物側から発せられる異音であるかどうかを適切に判断することができるようになる。
【0010】
また、上で述べた特徴周波数が、有意音信号の離散的フーリエ変換の複素係数の絶対値が最大となる周波数、又は有意音信号の離散的フーリエ変換の複素係数の絶対値が上位所定数以内となる周波数のうち第2方向における指向性指標が最も良い周波数である場合もある。例えば、2つのマイクを用いる場合には、特定の周波数については指向性が最適化できない場合もあるので、そのような場合には有意音信号の離散的フーリエ変換の複素係数の絶対値が最大となる周波数ではなく、所定の指向性指標の値が最も良い他のピーク周波数を特徴周波数とすれば、好ましいビームフォーミング出力値を得ることができるようになる。
【0011】
さらに、上で述べたビームフォーミング算出手段が、特徴周波数について、第1の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数のための監視対象物側重み係数と、第2の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数のための監視対象物側重み係数と、第1の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数のための第2方向側重み係数と、第2の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数のための第2方向側重み係数とを取得するようにしてもよい。その際には、第1の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数と当該複素係数のための監視対象物側重み係数との積と、第2の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数と当該複素係数のための監視対象物側重み係数との積とを加算することにより第1のビームフォーミング出力値を算出し、第1の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数と当該複素係数のための第2方向側重み係数との積と、第2の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数と当該複素係数のための第2方向側重み係数との積とを加算することにより第2のビームフォーミング出力値を算出する。
【0012】
例えばマイクが2個の場合には、監視対象物方向に指向性を持たせるための重み係数及び第2方向に指向性を持たせるための重み係数を予め格納している重みテーブルなどから上記のような重み係数を取得し、上で述べたような計算を実施する。但し、第3のマイクが導入される場合には、さらに第3の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数のための監視対象物側重み係数と、第3の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数のための第2方向側重み係数とを取得する。そして、第1のビームフォーミング出力値には、第3の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数と当該複素係数のための監視対象物側重み係数との積をさらに加算し、第2のビームフォーミング出力値には、第3の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数と当該複素係数のための第2方向側重み係数との積をさらに加算する。マイクの数が増えれば、平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数と当該複素係数のための重み係数との積をさらに加算すればよい。
【0013】
さらに、上で述べた所定の条件が、第2のビームフォーミング出力値の絶対値に対する第1のビームフォーミング出力値の絶対値の比が閾値以上であるという条件である場合もある。定常異音であれば第1のビームフォーミング出力値の絶対値の方が大きくなるが、本発明の場合には比率で判断する方が好ましい。閾値は、特徴周波数に応じたものを用いる場合もある。
【0014】
また、上で述べた変換手段が、第1のマイクと第2のマイクの中間に設置されている第3のマイクにより検出された第3の信号を第3のディジタル信号に変換し、上で述べた平常音除去手段が、上記フィルタにより第3のディジタル信号を処理して、第3の平常音除去ディジタル信号を生成し、上で述べたビームフォーミング算出手段が、抽出された特徴周波数における第3の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数をさらに用いて、第1及び第2のビームフォーミング出力値を算出するようにしてもよい。ビームフォーミング技術においてマイクが多い方が好ましい指向性を形成することが容易になる。
【0015】
さらに、本異音検出方法が、上で述べた有意音検出手段が、信号値の絶対値が第1の所定期間継続して所定の閾値を超える平常音除去ディジタル信号が存在すると判断した場合、先に本判断が肯定的になった平常音除去ディジタル信号である第2有意音信号の所定レベル以上の周期的信号成分を除去する周期的信号成分除去処理を第1及び第2の平常音除去ディジタル信号に対して実施して第1及び第2の比較用ディジタル信号を生成し、当該第1及び第2の比較用ディジタル信号の相関係数を第1及び第2の比較用ディジタル信号のいずれかを単位時間ずつずらして算出し、相関係数の値が最も大きくなる単位時間ずれ値を特定する時間差特定手段と、時間差特定手段によって特定された単位時間ずれ値に基づき、監視対象物からの非定常異音であるか否かを判断する手段とをさらに有するようにしてもよい。これにより、第1の期間+第2の期間継続しないような異音についても特定できる。
【0016】
なお、上で述べたような処理をハードウエアに実施させるためのプログラムを作成することができ、当該プログラムは、例えばフレキシブル・ディスク、CD−ROM、光磁気ディスク、半導体メモリ、ハードディスク等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体又は記憶装置に格納される。なお、処理途中のデータについては、コンピュータのメモリ等の記憶装置に一時保管される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】本発明の実施の形態に係る装置の配置例を示す図である。
【図1B】本発明の実施の形態に係る他の装置の配置例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る異音検出装置の機能ブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるメインの処理フローを示す図である。
【図4】(a)及び(b)は、監視対象物の定常音の一例を示す図である。
【図5】定常音を除去するためのハイパスフィルタの一例を示す図である。
【図6】(a)及び(b)は、外来音を含む検出音の一例を示す図である。
【図7】(a)及び(b)は、定常音を除去した後の音波の一例を示す図である。
【図8】タイムスロットを説明するための図である。
【図9】非定常異音検出処理の処理フローを示す図である。
【図10】(a)及び(b)は、帯域阻止型フィルタによるフィルタリング処理後の信号波形を表す図である。
【図11】相関係数とサンプルずれとの関係を表す図である。
【図12】定常異音検出処理の処理フローを示す図である。
【図13】マイクが2つの場合の重みテーブルの一例を示す図である。
【図14】マイクが3つの場合の重みテーブルの一例を示す図である。
【図15】コンピュータの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施の形態に係る異音検出装置と監視対象物との位置関係を図1Aを用いて説明する。例えば変圧器などである監視対象物200と本実施の形態に係る異音検出装置100のマイク1及び2とは、一直線上に並ぶように近接配置する。すなわち、マイク1及び2を通る直線Aと、監視対象物200の異音検出装置100側の側面又は側面の接線とは垂直になるように配置される。
【0019】
なお、監視対象物200に近い方のマイク1と監視対象物200との距離L1は、例えば約20cmであり、マイク1とマイク2との距離L2は、例えば約5cmであるが、これに限定されるものではない。距離L1は、監視対象物200からの異音を検出できる距離であればよいし、距離L2は、外来音と異音とを区別できるだけの時間差を生じさせる距離であればよい。
【0020】
また、図1Bに示すように3つのマイクを用いるようにしても良い。すなわち、監視対象物200と本実施の形態に係る異音検出装置100aのマイク1乃至3とは、一直線上に並ぶように近接配置する。具体的には、マイク1乃至3を通る直線Aと、監視対象物200の異音検出装置100a側の側面又は側面の接線とは垂直になるように配置される。
【0021】
なお、監視対象物200に近い方のマイク1と監視対象物200との距離L1は、例えば約20cmであり、マイク1とマイク3との距離L3及びマイク3とマイク2との距離L3は、例えば約2.0cmであるが、これに限定されるものではない。このようにマイク3をマイク1とマイク2との中間に設ける。
【0022】
次に、図2を用いて異音検出装置100の機能ブロック図を示す。異音検出装置100は、マイク1及び2と、マイク1及び2に接続されており且つ増幅器その他の回路を含むA/D変換部111と、A/D変換部111に接続されている音データ格納部113と、音データ格納部113に格納されているマイクからの音データに対して平常音除去処理を実施する平常音除去処理部115と、平常音除去処理部115の処理結果を格納するフィルタリングデータ格納部117と、フィルタリングデータ格納部117に格納されているデータに対して有意音検出処理を実施する有意音検出部119と、有意音検出部119によって非定常的な有意音が検出された場合にはフィルタリングデータ格納部117に格納されているデータを用いてマイク1からのデータとマイク2からのデータとの有意音の時間差を算出する時間差検出部121と、時間差検出部121からの要求に応じて帯域阻止型フィルタの係数値の算出を行い、時間差検出部121に出力するフィルタ設定部123と、時間差検出部121の処理結果を格納する時間差データ格納部125と、有意音検出部119によって定常的な有意音が検出された場合にはフィルタリングデータ格納部117に格納されているデータを用いてビームフォーミングを用いた定常異音検出ための処理を実施する定常音評価部129と、定常音評価部129において用いられる重みテーブルなどを格納する重みテーブル格納部132と、定常音評価部129による評価結果を格納する評価結果格納部131と、時間差データ格納部125と評価結果格納部131とに格納されたデータを用いて異常音検出の有無を判断して異音検出の際には警告を出力する異音検出部127とを有する。
【0023】
異音検出部127は、非定常的な異常音の有無を判断する第1異音検出部1271と、定常的な異常音の有無を判断する第2異音検出部1272とを有する。なお、異音検出装置100aの場合にはマイク3も含まれる。
【0024】
マイク1及び2で、監視対象物200から生成される音及びその他の外来音は電気信号に変換され、さらにA/D変換部111によってディジタル信号に変換される。マイク3が存在する場合にも同様である。A/D変換部111が生成するディジタル信号は、ディジタルデータとして音データ格納部113に格納される。本願では、ディジタルデータをディジタル信号とも呼ぶものとする。音データ格納部113に格納されているマイク1からのデータ及びマイク2からのデータに対しては、平常音除去処理部115が、監視対象物200から平常時に発せられている平常音を除去するためのフィルタリング処理を実施して、その処理結果をフィルタリングデータ格納部117に格納する。マイク3が存在する場合には、マイク3からのデータについても同様の処理が実施される。有意音検出部119は、フィルタリングデータ格納部117に格納されているマイク1からのデータ及びマイク2からのデータを入力順に判断して、データ値の絶対値が所定の閾値を超えており、当該データ値が所定の閾値を超えた時点から設定されるタイムスロット(長さL)において2スロット連続で所定の閾値を超えるデータ値が存在する場合に、非定常の有意音検出と判断し、先にこのような条件を満たした方のデータ(マイク1からのデータ又はマイク2からのデータ)を有意音信号として特定する。
【0025】
有意音検出部119によって非定常の有意音検出と判断され、有意音信号が指定されると、時間差検出部121は、有意音検出部119で設定された1番目のタイムスロットに含まれる、有意音信号の方のデータについて周波数解析を実施し、パワースペクトルのピーク及びピーク周波数を特定する。このパワースペクトルのピークが所定レベルを超える場合には、フィルタ設定部123に対して当該ピーク周波数を除去する帯域阻止型フィルタの係数値の算出を要求する。フィルタ設定部123は、周知の方法でピーク周波数を除去する帯域阻止型フィルタの係数値を算出し、時間差検出部121に出力する。時間差検出部121は、ピーク周波数を除去する帯域阻止型フィルタを構成して、フィルタリングデータ格納部117に格納されているマイク1からのデータ及びマイク2からのデータを処理する。なお、パワースペクトルのピークが所定レベル以下である場合には、上記のような帯域阻止型フィルタを構成せずに以下の処理に移行する。さらに、時間差検出部121は、1番目のタイムスロットのうち先頭長さJについて有意音信号でない方のデータを単位時間(サンプリング時間)ずつずらして、有意音信号のデータに対する相関係数を算出する。そして、相関係数が最大となる単位時間ずれ値を時間差データとして特定し、有意音信号の指定と共に時間差データ格納部125に格納する。
【0026】
異音検出部127の第1異音検出部1271は、時間差データ格納部125に格納されている時間差データを、閾値と比較することによって非定常異音か外来音かを判断して、非定常異音である場合には、通信装置(無線又は有線)によって外部の管理者に通知するか又は他の出力手段によって異常の発生を出力する。
【0027】
有意音検出部119によって非定常の有意音検出と判断された後に、Mタイムスロット継続して有意音を検出した場合には、定常音評価部129は、有意音信号の方のデータにおける、Mタイムスロットの最後尾のHサンプルについて周波数解析を実施し、パワースペクトルのピーク及びピーク周波数(以下で述べるように複数のピークを検出して処理する場合もある)を特定する。また、定常音評価部129は、重みテーブル格納部132に格納されている、ビームフォーミングのための重み係数のうち、ピーク周波数に対応する機器側ビームフォーミングのマイク1用重み係数及びマイク2用重み係数並びに外側ビームフォーミングのマイク1用重み係数及びマイク2用重み係数を読み出す。そして、定常音評価部129は、機器側ビームフォーミング出力値を、ピーク周波数における各マイクについてのパワースペクトル値と対応する機器側重み係数との積和で算出すると共に、外側ビームフォーミング出力値を、ピーク周波数における各マイクについてのパワースペクトル値と外側重み係数との積和で算出し、評価結果格納部131に格納する。なお、マイク3が存在する場合には、機器側ビームフォーミングのためのマイク3用重み係数と、外側ビームフォーミングのためのマイク3用重み係数を読み出し、それらとピーク周波数におけるマイク3についてのパワースペクトル値とをさらに用いて、機器側ビームフォーミング出力値と、外側ビームフォーミング出力値とを算出する。
【0028】
異音検出部127の第2異音検出部1272は、評価結果格納部131に格納されている、外側ビームフォーミング出力値の絶対値に対する機器側ビームフォーミング出力値の絶対値の比が閾値以上であるか判断して、この条件を満たす場合には監視対象物200からの定常異音であると判断して通信装置(無線又は有線)によって外部の管理者に通知するか又は他の出力手段によって異常の発生を出力する。
【0029】
次に、図3乃至図14を用いて、異音検出装置100の具体的な処理内容を説明する。まず、A/D変換部111は、マイク1及びマイク2から、監視対象物200で生成される音及びその他の外来音に相当する電気信号をディジタル信号に変換し、当該ディジタル信号を音データ格納部113に格納する(ステップS1)。なお、A/D変換の周波数は、以下で行われる時間差検出の分解能に影響するので、マイク1とマイク2の間隔が5cm程度の場合には少なくとも44.1kHz以上が必要となる。なお、マイク3が存在する場合にもマイク3からの音についても同様の処理を実施する。
【0030】
次に、平常音除去処理部115は、音データ格納部113に格納されているマイク1からのデータ及びマイク2からのデータそれぞれについて、監視対象物200から平常時に出力される平常音を除去するためにハイパスフィルタによるフィルタリングを実施し、フィルタリング後のデータをフィルタリングデータ格納部117に格納する(ステップS3)。例えば、監視対象物200が変圧器である場合における平常音の時間軸方向の波形の例を図4(a)に示し、各周波数のパワースペクトラムを図4(b)に示す。図4(a)から(縦軸は振幅を表し、横軸は時間を表す)、周期的な波形の音が出力されており、図4(b)から数百Hz以下の低周波帯域にパワーが集中していることが分かる(縦軸はdBを表し、横軸は周波数を表す)。従って、本実施の形態では、ハイパスフィルタをFIRフィルタで構成する。FIRフィルタでは、位相ずれが生じないので、以下で行われる時間差検出に影響を及ぼさないようにすることができる。例えば、図5に示すようなハイパスフィルタを採用する。図5では、横軸は周波数を表し、縦軸はゲインを表す。このように、図5の例では約800Hz以上の周波数の信号については通過させるが、それより低い周波数については除去される。マイク3が存在する場合には、マイク3についての音データについても同様の処理を実施する。
【0031】
具体的には、以下のような畳み込み演算を実施する。なお、Sa1[n]は、マイク1からの信号の値を表し、Sa2[n]は、マイク2からの信号の値を表す。また、hkは、FIRフィルタでハイパスフィルタを構成した場合におけるk番目(k=0乃至n)の係数値を表す。FIRフィルタでハイパスフィルタを構成することは周知であり、ここではこれ以上述べない。さらに、Sb1[n]は、ハイパスフィルタ後の、マイク1からの信号の値を表し、Sb2[n]は、ハイパスフィルタ後の、マイク2からの信号の値を表す。nは、サンプリング番号を表す。
【数1】

【0032】
なお、マイク3からの信号の値Sa3[n]についても同様の計算にて処理される。そして、ハイパスフィルタ後のマイク3からの信号の値Sb3[n]は、以下のように表される。
【数2】

【0033】
なお、例えば拍手を外部から与えた場合に検出されるディジタル信号の波形を、図6(a)及び(b)に示す。図6(a)は、例えばマイク1からのディジタル信号の波形を表し、図6(b)は、例えばマイク2からのディジタル信号の波形を表す。一方、ハイパスフィルタ後のディジタル信号の波形を、図7(a)及び(b)に示す。図7(a)は、例えばマイク1についてのフィルタ後のディジタル信号の波形を表し、図7(b)は、例えばマイク2についてのフィルタ後のディジタル信号の波形を表す。図6(a)及び(b)と図7(a)及び(b)を比較すると、変圧器からの定常音部分が除去されているのが分かる。
【0034】
また、ステップS1及びS3については、マイク1及び2(マイク3が存在する場合にはマイク3も)からの信号が入力される間、継続して実施される。
【0035】
次に、有意音検出部119は、フィルタリングデータ格納部117に格納されているデータを用いて有意音検出処理を実施する(ステップS5)。本ステップでは、信号の値に変化があった場合に、ノイズか有意音であるかの判定を行う。具体的には、図8に示すように、Sb1[n]の絶対値又はSb2[n]の絶対値が、閾値Thを超えた時点から、長さLのタイムスロットTSを時間軸方向に設定する。有意音検出部119は、第1のタイムスロットTS1で閾値Thを超える信号値が検出されているので、さらに2番目のタイムスロットTS2でも閾値Thを超える信号値が検出されるか判断する。2番目のタイムスロットTS2でも閾値Thを超える信号値が検出されれば、有意音検出と判断し、2番目のタイムスロットTS2でも閾値Thを超える信号値が検出されなければ、ノイズを検出しただけであると判断する。これは、有意音はある程度継続して閾値を超えるような信号値を維持するためである。
【0036】
有意音検出部119は、上で述べたような処理においてノイズ検出と判断した場合には(ステップS7:Noルート)、処理終了でなければ(ステップS8:Noルート)、ステップS5に戻って、後続のデータについて有意音検出処理を実施する。処理終了と指示された場合には(ステップS8:Yesルート)、処理を終了する。
【0037】
一方、上で述べたような処理において有意音検出と判断した場合には、有意音検出部119は、非定常の有意音を検出したものとして、時間差検出部121に、非定常時の有意音検出を通知して呼び出すと共に(ステップS9)、マイク1とマイク2の何れから非定常時の有意音を先に検出したかを表すデータ(マイクの識別子)を出力する。なお、タイムスロットTSの設定については、以下の処理でも利用するので、タイムスロットTSの設定データ(各タイムスロットの開始時刻など)については、フィルタリングデータ格納部117に格納する。時間差検出部121及び時間差検出部121の処理結果を用いて処理を行う異音検出部127により実施される非定常異音検出処理については後に述べる。
【0038】
また、有意音検出部119は、図8に示すように、非定常の有意音を検出したことが確定したタイムスロットTS2の次のタイムスロットTS3からMタイムスロットだけ、Sb1[n]の絶対値又はSb2[n]の絶対値が閾値Thを超えているか判断することによって、定常有意音(有意音の定常部)を検出したか判断する(ステップS11)。定常有意音を検出した場合には、有意音検出部119は、定常音評価部129に、定常有意音検出を通知して呼び出すと共に(ステップS15)、マイク1とマイク2の何れから非定常の有意音を検出したかを表すデータ(マイクの識別子)を出力する。定常音評価部129及び定常音評価部129の処理結果を用いて処理を行う異音検出部127により実施される定常異音検出処理については後に述べる。
【0039】
一方、有意音がMタイムスロット継続しなかった場合には(ステップS11:Noルート)、フィルタリングデータ格納部117におけるデータについて、有意音検出部119により検出された有意音区間の最後尾より後ろのデータに処理対象をスキップし(ステップS13)、次の有意音検出に移行する。すなわちステップS5に戻る。
【0040】
また、ステップS15の後に、有意音検出部119は、さらに後続のMタイムスロットだけ、Sb1[n]の絶対値又はSb2[n]の絶対値が閾値Thを超えているか判断することによって、定常有意音が継続しているか判断する(ステップS17)。継続していると判断された場合にはステップS15に戻る。一方、継続しなかったと判断された場合には、処理終了でなければ(ステップS19:Noルート)、ステップS13に移行して、さらにステップS5に戻る。処理終了であれば(ステップS19:Yesルート)、処理を終了する。
【0041】
次に、非定常異音検出処理の処理内容について図9乃至図11を用いて説明する。
【0042】
まず、時間差検出部121は、有意音に周期性のある信号成分が強く含まれている場合には以下で述べる相関係数の算出に悪影響を及ぼすので、所定レベル以上に周期性のある信号成分が含まれているか判断し、含まれている場合には当該周期性信号成分の除去のための帯域阻止型フィルタを構成するための係数値の算出をフィルタ設定部123に要求し、算出された係数値を用いたフィルタリング処理を実施し、例えばメインメモリなどの記憶装置に格納する(ステップS21)。なお、所定レベル以上に周期性のある信号成分が含まれていない場合には、帯域阻止型フィルタの構成及びフィルタリング処理の必要はない。
【0043】
具体的には、Sb1[n](ここではマイク1から有意音を先に検出したものとする。但し、マイク2の場合も処理内容自体は同様である。)の離散的フーリエ変換DFTの複素係数Sf1[f]を算出する。この演算には、一般にFFT(Finite Fourier transform)の利用が可能である。なお、nは0からL−1となっているが、タイムスロットTS1の範囲で実施するということである。
【数3】

【0044】
そして、パワースペクトル|Sf1[f]|2のピークが閾値Tpを超えた場合、その信号成分pを除去する帯域阻止型フィルタを構成する。
【0045】
すなわち、f=0乃至L/2−1において|Sf1[f]|2の最大値を与えるfの値をpとすると、以下のように表される。
【数4】

【0046】
従って、|Sf1[p]|2>Tpとなる場合には、周波数pをカットする帯域阻止型フィルタの係数値を算出するように、フィルタ設定部123に要求する。フィルタ設定部123は、周知の算出処理を実施して周波数pをカットする帯域阻止型フィルタの係数値bkを算出し、時間差検出部121に出力する。
【0047】
そして、以下の畳み込み演算にて、フィルタリング処理を実施する。
【数5】

【0048】
但し、|Sf1[p]|2≦Tpである場合には、以下のように設定する。
Sc1[n]=Sb1[n]
Sc2[n]=Sb2[n]
【0049】
例えば、以上の処理が完了した時点でのデータ例を図10(a)及び(b)に示す。図10(a)及び(b)では、横軸は時間を表し、縦軸は振幅を表す。図10(a)は、マイク1についての処理後信号波形を表し、図10(b)は、マイク2についての処理後信号波形を表す。中央部の縦線は有意音が閾値Thを超えたタイミングを表している。このように、図10では、マイク1についての処理後信号の方がマイク2についての処理後信号に7サンプルほど早く検出されている。
【0050】
そして、時間差検出部121は、所定範囲のサンプルずれxに対して、マイク1についての処理後信号とマイク2についての処理後信号との相関係数を算出し、相関係数が最大となるサンプルずれDを特定し、時間差データ格納部125に格納する(ステップS23)。
【0051】
具体的には、ステップS21の処理後の、マイク2についての信号値をxサンプリング時間だけずらして、マイク2についてのxサンプリング時間ずらした信号値とマイク1についての信号値との相関係数R[x]を算出する。
【数6】

なお、比較の対象は、タイムスロットTS1の先頭部分の長さJ(例えば50サンプル程度)の部分である。そして、xをプラスマイナスの所定の範囲内で変更してそれぞれについてR[x]を算出する。
【0052】
そして、R[x]の最大値を与えるxをサンプルずれDとすると、以下のように表される。
【数7】

【0053】
Dは、有意音がマイク1とマイク2とに到達した際の時間差、即ちマイク1に対するマイク2の遅れを表す値である。時間差検出部121は、サンプルずれDを時間差データ格納部125に格納する。
【0054】
図10(a)及び(b)で示した信号について、サンプルずれx毎に相関係数を算出した場合には図11に示すようになる。図11において縦軸は相関係数の値を表し、横軸はサンプルずれ値を表す。図11の7サンプル目にピークが存在することが分かる。
【0055】
そして、異音検出部127の第1異音検出部1271は、D≧TD(所定の閾値。)であるか判断する(ステップS25)。この条件を満たす場合には、非定常異音検出ということで、第1異音検出部1271は、有線又は無線通信により管理者に警告を出力する(ステップS27)。なお、警告には監視対象物200のIDを含むようにして、場所の特定を容易にする場合もある。
【0056】
ステップS25で条件を満たさないと判断された場合には、外来音であるので、警告を出力する必要はない。
【0057】
以上のような処理を実施することによって、監視対象物200からの定常音が多少揺らいでも、ハイパスフィルタでカットされる帯域内であれば問題なく処理できる。また、どのような監視対象物200であっても定常音をカットするようなフィルタを設定すれば、対処可能である。さらに、時間軸方向での相関係数を算出するが、この相関係数の算出に悪影響を及ぼすため、パワースペクトルにおいてピークが閾値を超える周波数成分を除去するように帯域阻止型フィルタを用いており、正確に相関係数を算出することができ、これによって2つの検出信号の時間差を精度良く特定できる。すなわち、正しく非定常異音か外来音かの判断を行うことができる。
【0058】
なお、時間差検出については、一般化相互相関法(Generalized Cross Correlation)などによる方法でも実施可能である。
【0059】
次に、定常異音検出処理について図12乃至図14を用いて説明する。本実施の形態では、ビームフォーミングを用いて監視対象物200からの音データと外側からの音データとを分離・抽出してそれらに基づき定常異常音であるか否かを判断する。
【0060】
まず、定常音評価部129は、M*L個の最後尾Hサンプルにおける周波数ピークを検出する(ステップS31)。以下では、マイク1側で有意音が検出されたものとする。但し、マイク2側であっても周波数ピークを検出する元データが変わるだけであって、演算内容については同じである。周波数ピークについては、具体的には、フィルタリングデータ格納部117に格納されているSb1[n]の離散的フーリエ変換DFTの複素係数Sf1[f]を算出する。
【数8】

【0061】
そしてf=0乃至H/2−1において、振幅の二乗|Sf1[f]|2の最大値を与えるfをピーク周波数pとする。そうすると、pは以下のように表される。
【数9】

【0062】
なお、マイクが2つの場合には、ビームフォーミングにより十分な指向性を得られない周波数帯域が存在するので、例えば最も振幅が大きくなる周波数の他、2番目及び3番目の周波数など上位所定数の周波数を抽出するようにしても良い。
【0063】
その後、定常音評価部129は、ピーク周波数pに対応する重み係数を重みテーブル格納部132から読み出すと共に、ピーク周波数pにおけるDFTの複素係数と重み係数とから、機器側のビームフォーミング出力値Sfdと外側のビームフォーミング出力値Sfoとを算出し、ピーク周波数pと共に評価結果格納部131に格納する(ステップS33)。
【0064】
予め例えばBarry D. Van Veen and Kevin M. Buckley, "Beamforming: A Versatile Approach to Spatial Filtering," IEEE ASSP Magazine, pages 4-24, Apri. 1988に基づき、各周波数についてビームフォーミングの重み係数を算出しておき、重みテーブル格納部132に格納しておく。重みテーブル格納部132に格納されるデータの一例を図13に示す。図13は、2つのマイクの場合の重みテーブルの一例を示す。図13の重みテーブルの例では、各ピーク周波数pについて、監視対象物200側に指向性を持たせる機器側ビームフォーミング及びマイク1についてのDFTの複素係数Sf1[p]のための重み係数w11p、機器側ビームフォーミング及びマイク2についてのDFTの複素係数Sf2[p]のための重み係数w21p、監視対象物200とは異なる方向(典型的には監視対象物200とは反対側。但し、必ずしも完全に反対側でなくとも良い。)に指向性を持たせる外側ビームフォーミング及びマイク1についてのDFTの複素係数Sf1[p]のための重み係数w12p、外側ビームフォーミング及びマイク2についてのDFTの複素係数Sf2[p]のための重み係数w22pが登録されるようになっている。上でも述べたが、マイクが2つの場合には、ビームフォーミングにより十分な指向性が得られない周波数帯域が存在するので、例えばピーク周波数p毎に指向性の善し悪しを表す所定の指向性指標の値を予め算出しておき、重みテーブルに登録しておくようにしても良い。このような場合には、ステップS31で特定された複数のピーク周波数のうち指向性指標の最も良いピーク周波数を特定すると共に、そのピーク周波数に係る重み係数セットを読み出す。
【0065】
また、マイクが3つの場合には、例えば図14に示すような重みテーブルが重みテーブル格納部132に格納されている。図14の重みテーブルの例では、各ピーク周波数pについて、機器側ビームフォーミング及びマイク1についてのDFTの複素係数Sf1[p]のための重み係数w11p、機器側ビームフォーミング及びマイク2についてのDFTの複素係数Sf2[p]のための重み係数w21p、機器側ビームフォーミング及びマイク3についてのDFTの複素係数Sf3[p]のための重み係数w31p、外側ビームフォーミング及びマイク1についてのDFTの複素係数Sf1[p]のための重み係数w12p、外側ビームフォーミング及びマイク2についてのDFTの複素係数Sf2[p]のための重み係数w22p、外側ビームフォーミング及びマイク3についてのDFTの複素係数Sf3[p]のための重み係数w32pが登録されるようになっている。マイクが3つの場合には、指向性特性において特に問題となる周波数帯域は存在しないので、指向性指標については必要ない。すなわち、ピーク周波数pを1つだけ抽出して、対応する重み係数セットを重みテーブル格納部132から読み出せばよい。
【0066】
そして、マイク2つの場合には、以下の式で、機器側のビームフォーミング出力値Sfd及び外側のビームフォーミング出力値Sfoを算出する。これらは、複素数である。
Sfd=w11p*Sf1[p]+w21p*Sf2[p]
Sfo=w12p*Sf1[p]+w22p*Sf2[p]
【0067】
一方、マイク3つの場合には、以下の式で、機器側のビームフォーミング出力値Sfd及び外側のビームフォーミング出力値Sfoを算出する。これらは、複素数である。
Sfd=w11p*Sf1[p]+w21p*Sf2[p]+w31p*Sf3[p]
Sfo=w12p*Sf1[p]+w22p*Sf2[p]+w32p*Sf3[p]
【0068】
このようにして、監視対象物200からの平常音を除去した上で、監視対象物200側からの定常音のピーク周波数pにおける成分値と、外側からの定常音のピーク周波数pにおける成分値とが抽出される。
【0069】
また、異音検出部127の第2異音検出部1272は、ピーク周波数pに対応する閾値TBPを特定する(ステップS35)。例えば、指向性指標に応じてピーク周波数p毎に閾値を予め設定しておき、該当する閾値TBPを読み出すようにしても良い。また、ピーク周波数pに依らずに一定の閾値を採用するようにしても良い。
【0070】
そして、第2異音検出部1272は、振幅|Sfd|/振幅|Sfo|が閾値TBP以上であるか判断する(ステップS37)。このように、外側ビームフォーミング出力値の振幅|Sfo|に対する機器側ビームフォーミング出力値の振幅|Sfd|の比が、閾値TBP以下であるか判断する。監視対象物200から異音が定常的に出力されていれば、機器側ビームフォーミング出力値Sfdの振幅値は明らかに外部ビームフォーミング出力値Sfoの振幅値より大きくなるので、このような条件を確認している。
【0071】
ステップS37の条件を満たす場合には、定常異音検出ということで、第2異音検出部1272は、有線又は無線通信により管理者に警告を出力する(ステップS39)。なお、警告には監視対象物200のIDを含むようにして、場所の特定を容易にする場合もある。一方、ステップS37の条件を満たさない場合には、定常異音ではないので、処理を行わずに終了する。
【0072】
以上述べたように、ビームフォーミング技術を用いて、監視対象物200側からの平常時の平常音を除去した上で、監視対象物200側からの定常音のピーク周波数pにおける成分値と、外側からの定常音のピーク周波数pにおける成分値とを比較することによって、定常音の由来を判断でき、監視対象物200から異音が発せられているか否かを特定できる。
【0073】
さらに、非定常異音検出処理と定常異音検出処理との組み合わせにて、異音が継続する限り、警告出力を管理者に対して行うことができるようになる。
【0074】
以上本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図2に示した機能ブロック図は一例であって、必ずしも実際のプログラムモジュール構成とは一致しない場合もある。処理フローについても、処理結果が変わらない限りにおいて変更可能である。
【0075】
また、上の例では相関係数を算出する際にマイク1の方の信号を固定して処理する例を示したが、マイク2の信号の方を固定しても良い。そのような場合、Dの符号は反転するので、ステップS25における符号も反転させる必要がある。
【0076】
さらに、異音検出装置を複数設けて、それらの検出結果を総合して異音の有無を判断するようにしても良い。例えば図1において、異音検出装置100が配置されている方とは反対側にも異音検出装置を配置する場合もある。
【0077】
また、マイクの数は3までに限定されるわけではなく、それ以上設けるようにしても良い。
【0078】
なお、異音検出装置100はコンピュータ装置であって、図15に示すように当該コンピュータ装置においては、メモリ2501(記憶部)とCPU2503(処理部)とハードディスク・ドライブ(HDD)2505と表示装置2509に接続される表示制御部2507とリムーバブル・ディスク2511用のドライブ装置2513と入力装置2515とネットワークに接続するための通信制御部2517とがバス2519で接続されている。オペレーティング・システム(OS)及びWebブラウザを含むアプリケーション・プログラムは、HDD2505に格納されており、CPU2503により実行される際にはHDD2505からメモリ2501に読み出される。必要に応じてCPU2503は、表示制御部2507、通信制御部2517、ドライブ装置2513を制御して、必要な動作を行わせる。また、処理途中のデータについては、メモリ2501に格納され、必要があればHDD2505に格納される。このようなコンピュータは、上で述べたCPU2503、メモリ2501などのハードウエアとOS及び必要なアプリケーション・プログラムとが有機的に協働することにより、上で述べたような各種機能を実現する。なお、コンピュータ装置は複数台のコンピュータによって構成される場合もある。なお、A/D変換部111は、別装置として得られる場合もあれば、バス2519に接続される一部の部品にて実現される場合もある。
【符号の説明】
【0079】
100 異音検出装置 200 監視対象物
111 A/D変換部 113 音データ格納部
115 平常音除去処理部 117 フィルタリングデータ格納部
119 有意音検出部 121 時間差検出部
123 フィルタ設定部 125 時間差データ格納部
127 異音検出部 129 定常音評価部
131 評価結果格納部 132 重みテーブル格納部
1271 第1異音検出部 1272 第2異音検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象物から所定距離離れた位置に設置された第1のマイクにより検出された第1の信号を第1のディジタル信号に変換し、前記監視対象物からさらに離れ且つ前記第1のマイクから所定長離れた位置に設置された第2のマイクにより検出された第2の信号を第2のディジタル信号に変換する変換手段と、
前記監視対象物が平常時に発する音の周波数を除去するように設定されたフィルタによって前記第1及び第2のディジタル信号を処理して、前記第1及び第2の平常音除去ディジタル信号を生成する平常音除去手段と、
前記第1及び第2の平常音除去ディジタル信号を解析して、信号値の絶対値が第1の所定期間継続して所定の閾値を超え、さらに第2の所定期間継続して前記所定の閾値を超える平常音除去ディジタル信号が存在するか判断し、判断が肯定的な場合に先に判断が肯定的になった平常音除去ディジタル信号を有意音信号として特定する有意音検出手段と、
前記有意音検出手段により前記有意音信号が特定された場合、前記第2の所定期間における前記有意音信号の特徴周波数を抽出する特徴周波数抽出手段と、
抽出された前記特徴周波数における前記第1の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数及び前記第2の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数とを用いて、前記監視対象物側についての第1のビームフォーミング出力値と、前記監視対象物とは異なる第2方向についての第2のビームフォーミング出力値とを算出するビームフォーミング算出手段と、
前記第1のビームフォーミング出力値と前記第2のビームフォーミング出力値とが所定の条件を満たすか判断し、当該所定の条件を満たす場合には前記監視対象物からの定常異音であると判断して、定常異音検出信号を出力する異音判定手段と、
を有する異音検出装置。
【請求項2】
前記特徴周波数が、
前記有意音信号の離散的フーリエ変換の複素係数の絶対値が最大となる周波数、又は前記有意音信号の離散的フーリエ変換の複素係数の絶対値が上位所定数以内となる周波数のうち前記第2方向における指向性指標が最も良い周波数である
請求項1記載の異音検出装置。
【請求項3】
前記ビームフォーミング算出手段が、
前記特徴周波数について、前記第1の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数のための監視対象物側重み係数と、前記第2の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数のための監視対象物側重み係数と、前記第1の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数のための第2方向側重み係数と、前記第2の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数のための第2方向側重み係数とを取得し、
前記第1の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数と当該複素係数のための監視対象物側重み係数との積と、前記第2の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数と当該複素係数のための監視対象物側重み係数との積とを加算することにより前記第1のビームフォーミング出力値を算出し、
前記第1の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数と当該複素係数のための第2方向側重み係数との積と、前記第2の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数と当該複素係数のための第2方向側重み係数との積とを加算することにより前記第2のビームフォーミング出力値を算出する
請求項1又は2記載の異音検出装置。
【請求項4】
前記所定の条件が、
前記第2のビームフォーミング出力値の絶対値に対する前記第1のビームフォーミング出力値の絶対値の比が閾値以上であるという条件である
請求項1乃至3のうちいずれか1つ記載の異音検出装置。
【請求項5】
前記変換手段が、前記第1のマイクと前記第2のマイクの中間に設置されている第3のマイクにより検出された第3の信号を第3のディジタル信号に変換し、
前記平常音除去手段が、前記フィルタにより前記第3のディジタル信号を処理して、第3の平常音除去ディジタル信号を生成し、
前記ビームフォーミング算出手段が、抽出された前記特徴周波数における前記第3の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数をさらに用いて、前記第1及び第2のビームフォーミング出力値を算出する
請求項1乃至4のいずれか1つ記載の異音検出装置。
【請求項6】
前記有意音検出手段が、信号値の絶対値が第1の所定期間継続して所定の閾値を超える平常音除去ディジタル信号が存在すると判断した場合、先に本判断が肯定的になった平常音除去ディジタル信号である第2有意音信号の所定レベル以上の周期的信号成分を除去する周期的信号成分除去処理を前記第1及び第2の平常音除去ディジタル信号に対して実施して第1及び第2の比較用ディジタル信号を生成し、当該第1及び第2の比較用ディジタル信号の相関係数を前記第1及び第2の比較用ディジタル信号のいずれかを単位時間ずつずらして算出し、前記相関係数の値が最も大きくなる単位時間ずれ値を特定する時間差特定手段と、
前記時間差特定手段によって特定された前記単位時間ずれ値に基づき、前記監視対象物からの非定常異音であるか否かを判断する手段と、
をさらに有する請求項1乃至5のいずれか1つ記載の異音検出装置。
【請求項7】
監視対象物から所定距離離れた位置に設置された第1のマイクにより検出された第1の信号を第1のディジタル信号に変換し、前記監視対象物からさらに離れ且つ前記第1のマイクから所定長離れた位置に設置された第2のマイクにより検出された第2の信号を第2のディジタル信号に変換する変換ステップと、
前記監視対象物が平常時に発する音の周波数を除去するように設定されたフィルタによって前記第1及び第2のディジタル信号を処理して、前記第1及び第2の平常音除去ディジタル信号を生成する平常音除去ステップと、
前記第1及び第2の平常音除去ディジタル信号を解析して、信号値の絶対値が第1の所定期間継続して所定の閾値を超え、さらに第2の所定期間継続して前記所定の閾値を超える平常音除去ディジタル信号が存在するか判断し、判断が肯定的な場合に先に判断が肯定的になった平常音除去ディジタル信号を有意音信号として特定する有意音検出ステップと、
前記有意音検出ステップにおいて前記有意音信号が特定された場合、前記第2の所定期間における前記有意音信号の特徴周波数を抽出する特徴周波数抽出ステップと、
抽出された前記特徴周波数における前記第1の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数及び前記第2の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数とを用いて、前記監視対象物側についての第1のビームフォーミング出力値と、前記監視対象物とは異なる第2方向についての第2のビームフォーミング出力値とを算出するビームフォーミング算出ステップと、
前記第1のビームフォーミング出力値と前記第2のビームフォーミング出力値とが所定の条件を満たすか判断し、当該所定の条件を満たす場合には前記監視対象物からの定常異音であると判断して、定常異音検出信号を出力する異音判定ステップと、
を含み、コンピュータに実行される異音検出方法。
【請求項8】
監視対象物から所定距離離れた位置に設置された第1のマイクにより検出された第1の信号を第1のディジタル信号に変換し、前記監視対象物からさらに離れ且つ前記第1のマイクから所定長離れた位置に設置された第2のマイクにより検出された第2の信号を第2のディジタル信号に変換する変換ステップと、
前記監視対象物が平常時に発する音の周波数を除去するように設定されたフィルタによって前記第1及び第2のディジタル信号を処理して、前記第1及び第2の平常音除去ディジタル信号を生成する平常音除去ステップと、
前記第1及び第2の平常音除去ディジタル信号を解析して、信号値の絶対値が第1の所定期間継続して所定の閾値を超え、さらに第2の所定期間継続して前記所定の閾値を超える平常音除去ディジタル信号が存在するか判断し、判断が肯定的な場合に先に判断が肯定的になった平常音除去ディジタル信号を有意音信号として特定する有意音検出ステップと、
前記有意音検出ステップにおいて前記有意音信号が特定された場合、前記第2の所定期間における前記有意音信号の特徴周波数を抽出する特徴周波数抽出ステップと、
抽出された前記特徴周波数における前記第1の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数及び前記第2の平常音除去ディジタル信号の離散的フーリエ変換の複素係数とを用いて、前記監視対象物側についての第1のビームフォーミング出力値と、前記監視対象物とは異なる第2方向についての第2のビームフォーミング出力値とを算出するビームフォーミング算出ステップと、
前記第1のビームフォーミング出力値と前記第2のビームフォーミング出力値とが所定の条件を満たすか判断し、当該所定の条件を満たす場合には前記監視対象物からの定常異音であると判断して、定常異音検出信号を出力する異音判定ステップと、
をコンピュータに実行させる異音検出プログラム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−197124(P2010−197124A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40311(P2009−40311)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】