説明

疎水化吸着材およびその製造方法

【課題】多孔質体の細孔は閉塞せずに吸着能は維持できるという実用性を有し、繰り返し脱着性能に優れ、高湿度条件下において優れた吸着能を発揮する疎水化吸着材を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるケイ素化合物で表面修飾された疎水性金属酸化物粒子を多孔質体に添着させたことを特徴とする疎水化吸着材。
R-Si(CH(−X)3−n (1)
ただし、Rは炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数2〜3のアルキニル基又は炭素数6〜8のアリール基、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、Cは炭素原子、Hは水素原子、Siはケイ素原子、nは0〜2を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体の表面は疎水化でありながら、多孔質体の細孔は閉塞せずに吸着能は維持できるという実用性を有し、繰り返し脱着性能に優れ、高湿度条件下において優れた吸着能を発揮する疎水化吸着材、その製造方法およびそれを用いた溶剤回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸着材の代表物として活性炭は価格的にも安価で大量に使用されており、その形状は、繊維状、粒状、ペレット状、ハニカム状、ペーパー状など様々な形に加工されている。活性炭の表面は、一般に疎水性であるといわれており、極性の低い有機溶剤に対しては極めて高い吸着性能を示す。しかしながら、水が共存する高湿度の条件下においては、水が共存するために本来の性能を発揮できていない。その要因の1つとしては活性炭表面には、製造の過程で賦活により生じたOH基、カルボキシル基などの親水性基が存在するためといわれている。この様な活性炭では、空気中の水分が存在した場合、使用中に水分子を吸着することにより活性炭表面がより親水化され、目的とする疎水性の有機溶剤の吸着が妨げられるため、性能が短期間で低下するという問題があった。
上記背景から表面改質による有機溶剤の汚染物質を効率よく除去できる新しい技術の開発が望まれている。
上記問題に対して、活性炭或いは活性炭素繊維の表面を疎水性にする方法としては、活性炭材料を不活性雰囲気中で加熱したり、或いは水素気流中で加熱したりする方法などが知られている(例えば、非特許文献1)。しかしながら、この様な方法は、600℃以上の高温で活性炭材料の加熱を行うので、多量のエネルギーを必要とし、その装置にも耐熱性が要求され、その結果、経済性に劣る。また、使用中に再度OH基などが生成し、疎水性が低下するという問題があった。
一方、上記背景を鑑みて、発明者らは、アルキル鎖を有するケイ素系疎水化剤を合成し、これを活性炭へと添着することを試みたが、細孔を閉塞してしまい、活性炭本来の性能を損なわせてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】荻野圭三、「炭素系吸着剤の表面改質と吸着特性」、表面、Vol.29, No.6, 448(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸着材の細孔を閉塞させずに、高湿度条件下において優れた吸着能を発揮する疎水化吸着材を得るには、まず添着する多孔質体に適した金属酸化物粒子の大きさを選定することである。吸着材は材料によって細孔構造が異なっているため、適さない金属酸化物粒子を選定した場合、細孔閉塞の要因となる。次に疎水化を実現するためのRに炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数2〜3のアルキニル基又は炭素数6〜8のアリール基を選定する。これらのアルキル長鎖は吸着サイトの表面に網目構造のような水に対するバリアを形成し、吸着対象となるガス種の分子径に応じて最適な官能基を選定する。最後に最適な疎水性金属酸化物粒子を多孔質体に添着させることによって課題を解決することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、本発明に至った。
即ち、本発明は、式(1)で表されるケイ素化合物で表面修飾された疎水性金属酸化物粒子を多孔質体に添着させたことを特徴とする疎水化吸着材である。
R-Si(CH(−X)3−n (1)
ただし、Rは炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数2〜3のアルキニル基又は炭素数6〜8のアリール基、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、Cは炭素原子、Hは水素原子、Siはケイ素原子、nは0〜2を表す。
【0006】
また本発明は、疎水性金属酸化物粒子に水溶性有機溶媒を加えて溶解(分散)させ、多孔質体を浸漬処理して乾燥することによる前記疎水化吸着材の製造方法である。
【0007】
また本発明は、前記疎水化吸着材を用いた溶剤回収装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明で製造された疎水化吸着材は、多孔質体の細孔を閉塞せずに疎水性を発揮し、水分を同時吸着せずに本来の吸着性能を発揮させることが可能であるため、吸着、回収、分離といった用途に効果を発揮する。また、本発明の疎水化吸着材を得るための製造法を取れば、細孔特性、対象ガスに合わせて調整を図ることができ、繰り返し耐久性を高めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、疎水性金属酸化物粒子は、式(1)で表されるケイ素化合物で表面修飾される。
R-Si(CH(−X)3−n (1)
ただし、Rは炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数2〜3のアルキニル基又は炭素数6〜8のアリール基、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、Cは炭素原子、Hは水素原子、Siはケイ素原子、nは0〜2を表す。
【0010】
式(1)において、Rの炭素数1〜18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n-オクチル基、ドデシル基、n−オクタデシル基などが挙げられる。
炭素数2〜4のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基が挙げられる。
炭素数2〜3のアルキニル基としては、エチニル基、プロパギル基が挙げられる。
炭素数6〜8のアリール基としては、フェニル基、ベンジル基、エチルフェニル基などが挙げられる。
これらRのうちコストの点を考慮すると、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基である。
【0011】
式(1)において、Xの炭素数1〜3のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基が挙げられる。
これらのうちコストの点を考慮すると、好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。
【0012】
上記式(1)で表されるケイ素化合物の具体例として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、tert−ブチルトリメトキシシラン、tert−ブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソオクチルトリエトキシシラン、n−ドデシルトリメトキシシラン、n−ドデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、ベンジルトリメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、4−ブチルフェニルトリメトキシシラン、4−ブチルフェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ブテニルトリメトキシシラン、ブテニルトリエトキシシラン、エチニルトリメトキシシラン、エチニルトリエトキシシラン、プロパギルトリメトキシシラン、プロバギルトリエトキシシラン等の3官能シラン類;
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジヘキシルジメトキシシラン、ジヘキシルジエトキシシラン、ジドデシルジメトキシシラン、ジドデシルジエトキシシラン、メチルオクチルジメトキシシラン、メチルオクチルジエトキシシラン、ドデシルメチルジメトキシシラン、メチルオクチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、等の2官能シラン類;
トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリプロピルエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、ジフェニルメチルメトキシシラン、ジフェニルメチルエトキシシラン等の1官能シラン類が挙げられる。
【0013】
金属酸化物粒子の金属酸化物としては、シリカ、チタニア、アルミナ及びジルコニアが挙げられる。
金属酸化物粒子の大きさは、5〜200nmが好ましく、より好ましくは5〜150nm、さらに好ましくは10〜100nmである。
金属酸化物粒子は、形態として金属酸化物ゾルが好ましく、シリカゾルがさらに好ましく、オルガノシリカゾルが特に好ましい。
なお、オルガノゾルとは、ナノレベルで表面改質をしたコロイダルシリカを有機溶媒に安定的に分散させたコロイド溶液であり、アルコール、ケトン、エーテル、トルエン等の各種有機溶媒に分散可能である。
具体的には日産化学工業社製のオルガノシリカゾル(メタノールシリカゾル、IPA−ST、IPA−ST、IPA−ST−UP、IPA−ST−ZL、EG−ST、NPC−ST−30、DMAC−ST、MEK−ST、MIBK−ST、PMA−ST及びPGM−ST)や扶桑化学工業社製の高純度オルガノシリカゾル(PL−1−IPA、PL−2L−PGME及びPL−2L−MEK)等が挙げられる。
これらは単独のみならず、複数で用いても良い。
【0014】
金属酸化物粒子を上記式(1)で表されるケイ素化合物で表面修飾することにより疎水性金属酸化物粒子が得られる。
すなわち、金属酸化物粒子とケイ素化合物を、水を少量含有した有機溶媒又は水中で加熱反応させることにより、金属酸化物粒子の表面にケイ素化合物を化学結合させる方法によって得られる。
【0015】
金属酸化物粒子に上記式(1)で表されるケイ素化合物を反応させる場合の溶媒としては、アルコール系溶媒:メタノール、エタノール、イソプロパンール、n−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及び1,4−ブタンジオール等、エーテル系溶媒:ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン及びジオキサン等、ケトン系溶媒:アセトン及びメチルエチルケトン等、非プロトン溶媒:ジメチルスルホキサイド、N,N−ジメチルホルムアミド等及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
これらのうち好ましいのは、アルコール系溶媒であり、これらの溶媒は1種又は2種以上で使用できる。
【0016】
溶媒に対する原料の金属酸化物粒子の濃度は1〜50質量分率%であり、好ましくは1〜30質量分率%である。
【0017】
金属酸化物粒子に対するケイ素化合物の量は金属酸化物粒子1gに対して0.01〜10.0mmolが好ましく、2.0〜5.0mmolが特に好ましい。
【0018】
ケイ素化合物を添加する際の温度は限定されないが、常温(約20℃)から沸点が好ましい。
反応温度も限定されないが、常温(約20℃)から沸点が好ましい。
反応時間も限定されないが、10分から48時間が好ましく、6時間から24時間が特に好ましい。
【0019】
疎水性金属酸化物粒子は、作業性を向上させる為に希釈溶剤を含有させても良い。希釈溶媒としては、本発明の修飾金属酸化物ゾルと反応せず、これらを溶解及び/又は分散させるものであれば制限がなく、例えば、エーテル系溶剤(テトラハイドロフラン、ジオキサン等)、アルコール系溶剤(メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)及び非プロトン性溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等)及び水等が挙げられる。
【0020】
希釈溶媒を含有する場合、希釈溶媒の含有量は、例えば、全溶媒に対する、本発明の修飾金属酸化物ゾルの質量%が、0,01〜15質量分率%(好ましくは0.05〜10質量分率%、特に好ましくは0.1〜7.5質量分率%)となる量である。
【0021】
本発明の疎水化吸着材は、疎水性金属酸化物粒子を多孔質体に添着させることにより得られる。
原料として用いられる多孔質体は、多数の微細な空孔を備えるものであれば特に限定されるものではないが、好適な例としては、活性炭、ゼオライト、アルミナ及びシリカが挙げられる。
【0022】
活性炭としては、種々の活性炭、例えば、黒鉛、鉱物系材料(褐炭、れき青炭などの石炭、石油又は石炭ピッチなど)、植物系材料(木材、果実殻(やし殻など)など)、動物系材料(動物の骨、皮など)、高分子材料(ポリアクリロニトリル(PAN)、フェノール系樹脂、セルロース、再生セルロースなど)などを原料とする活性炭などが挙げられる。活性炭は、これらの原料を必要に応じて炭化又は不融化した後、賦活処理することにより得ることができる。なお、炭化方法、不融化方法、賦活方法は、特には限定されず、慣用の方法が利用できる。例えば、賦活は、炭素原料(又はその炭化物若しくは不融化物)を賦活ガス(水蒸気、二酸化炭素など)中、500〜1000℃程度で熱処理するガス賦活法、炭素原料(又はその炭化物若しくは不融化物)を賦活剤(リン酸、塩化亜鉛、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなど)と混合し、300〜800℃程度で熱処理する化学的賦活法などにより行うことができる。
【0023】
活性炭のうち、やし殻活性炭などの植物系活性炭、石炭などを原料とする鉱物系活性炭、ピッチ系活性炭・PAN系活性炭・セルロース系活性炭・フェノール系活性炭などの高分子系活性炭などが好ましい。活性炭は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
多孔質体の形状は、特に制限されず、繊維状、ペレット状、粒状、ハニカム状、ペーパー状であってもよい。
【0025】
多孔質体の比表面積は、例えば、350〜2500m/g、好ましくは500〜2000m/g、さらに好ましくは700〜1900m/g程度である。
【0026】
多孔質体は、単独で用いてもよく、多孔質体とバインダー成分(又は賦形成分)とで構成された成形体として用いてもよい。
バインダー成分としては、多孔質体を適当な形状(例えば、粒状、シート状、ハニカム状など)に賦形又は成形できればよく、例えば、セピオライト、ゼオライト、アタパルジャイト、タルク、モンモリロナイトなどの無機粘土鉱物、フェノール系樹脂、ピッチ系樹脂などの結合剤に限らず、繊維成分なども含まれる。これらのバインダー成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、必要により、結合剤と繊維成分とを組み合わせて用いてもよい。
【0027】
前記バインダー成分のうち、繊維成分としては、合成繊維(ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)、ポリアミド繊維、ポリカーボネート繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルスルホン繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリアセタール繊維、フェノール樹脂繊維、ポリアリレート繊維、液晶ポリマー繊維など)、半合成繊維(セルロースアセテートなどのセルロースエステル繊維など)、天然繊維(例えば、セルロース繊維、綿、麻、岩綿、羊毛繊維など)、無機繊維(炭素繊維、炭化ケイ素繊維、ガラス繊維、シリカ−アルミナ繊維など)などが挙げられる。これらの繊維成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。上記繊維成分のうち、セルロース繊維、セルロースエステル繊維、又はこれらのセルロース系繊維を含有する混合繊維、パルプなどが好ましい。繊維成分は、必要により、叩解してもよい。
【0028】
多孔質体とともにバインダー成分を用いた成形体には、通常、(i)多孔質体と結合剤と、必要により繊維成分とを用いて、繊維状、シート状、ハニカム状などに成形したり、ペレット化した成形体、及び(ii)多孔質体と、繊維成分と、必要により結合剤とを用いて、抄紙などの手段でシート状に成形した成形体などが含まれる。
【0029】
バインダー成分を含む前記成形体において、バインダー成分の割合は、多孔質体100質量部に対して、例えば、0.1〜500質量部、好ましくは1〜400質量部、さらに好ましくは5〜300質量部程度であってもよい。例えば、多孔質体を繊維成分とともに抄紙した抄紙構造を有する多孔質体などでは、バインダー成分(繊維成分)の割合は、多孔質体100質量部に対して、例えば、10〜500質量部、好ましくは50〜450質量部、さらに好ましくは100〜350質量部程度であってもよい。
【0030】
このような多孔質体含有成形体の形状は、特に制限されず、粒状(粉粒状又はペレット状)、繊維状、シート状、ハニカム状であってもよい。
【0031】
疎水性金属酸化物粒子の添着量は、多孔質体に対して、好ましくは0.01〜20質量分率%、特に好ましくは1〜3質量分率%である。
【0032】
疎水性金属酸化物粒子の多孔質体への添着は、例えば、疎水性金属酸化物粒子に水溶性有機溶媒を加えて溶解(分散)させ、多孔質体を浸漬処理して乾燥する方法が挙げられる。
水溶性有機溶媒としては、アルコール類が好適であり、メタノール及びエタノールが特に好ましい。
温度は通常25〜150℃程度、時間は1〜6時間である。
【0033】
本発明において、疎水性金属酸化物粒子の一次粒子の平均粒子径は、ナノメーターサイズ、例えば、1〜500nm、好ましくは5〜250nm、さらに好ましくは7〜100nm(例えば、10〜70nm)程度であり、通常、5〜75nm(例えば、10〜60nm)程度であってもよい。一次粒子の平均粒子径が小さすぎると取り扱いが困難となる場合があり、大きすぎると吸着能が低下する。
また、疎水性金属酸化物粒子の二次粒子の平均粒子径は、例えば、0.001〜100μm、好ましくは0.005〜30μm、さらに好ましくは0.007〜20μm程度である。疎水化材の平均径が小さすぎても大きすぎても吸着能が低下する。
なお、疎水性金属酸化物粒子の一次粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM、HITACHI H-7100)で撮影した画像に基づいて、100個の一次粒子についてサイズを測定し、測定値を加算平均することにより算出できる。疎水性金属酸化物粒子の平均粒子径は、光学顕微鏡に基づいて、10個の疎水性金属酸化物粒子についてサイズを測定し、測定値を加算平均することにより算出できる。
本発明の疎水化吸着材は、多孔質構造を有し、塩化メチレン、トルエン等の有機溶剤が吸着可能な細孔及び細孔容積を有している。疎水化吸着材の比表面積は、例えば、比表面積は、例えば、300〜2400m/g、好ましくは400〜1900m/g、さらに好ましくは600〜1800m/g程度であってもよい。
比表面積又は細孔容積が小さすぎると有機溶剤の吸着量を大きくできず、比表面積又は細孔容積が大きすぎると疎水化吸着材の調製が困難となる場合がある。また、細孔径が小さすぎると有機溶剤の吸着サイトを形成するのが困難となり、大きすぎると種々の成分が吸着され、有機溶剤の選択的な吸着を損なう場合が多い。
なお、比表面積は、分析装置(マイクロメリティックス製ASAP−2400)を用い、150℃で真空脱気処理した試料について、窒素ガス吸着法にて測定でき、比表面積はBET法で算出できる。
【0034】
本発明の疎水化吸着材は塩化メチレン、トルエン等の有機物質や悪臭除去の吸着材として好適に用いられる。
本発明で疎水化処理された吸着材は、化学工場、医薬工場、フィルム工場、溶剤塗装ブースなどの工業プロセスから排出される有機溶剤を除去、あるいは回収するための排ガス処理装置に最適に用いられる。特に工業プロセスから排出されるガスは有機溶剤だけでなく、ある程度の湿度を持った排ガスであるため、湿度を含んだ排ガスは吸着材本来の性能を劣化させる要因の1つとして挙げられている。
【0035】
本発明の疎水化吸着材を用いた溶剤回収装置は疎水化吸着材を2塔以上に設置したもので吸着と水蒸気による脱着を塔毎に交互に切り替えるか、もしくは吸着と真空脱気による脱着を塔毎に交互に切り替えることにより排出された溶剤を回収することができる。特に水蒸気を使った脱着においては、残存した水分の影響によって吸着材表面にOH基が形成され、次第に親水性を示すため、吸着では本来吸着材が持っている吸着能力を十分に発揮できなかったが、本発明の疎水化吸着材を最適に使用すれば、繰り返しの吸着、脱着を繰り返しても優れた性能を発揮することができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。実施例は、本発明を説明するものであり、制限を加えるものではない。
【0037】
製造例1
n−オクタデシルトリエトキシシラン 3.00g(8mmol)、エタノール 156g、水 5g、オルガノシリカゾル(日産化学工業製、30%メタノール溶液) 12.5g(シリカゾル 3.75g相当)、を混合し、バス温90℃で一晩加熱還流した。
得られた分散液を適量採取し、60℃で2h乾燥して得られた固体のIR測定を行なったところ、オクタデシル基のC−Hの吸収を確認することができた。
【0038】
製造例2
n−オクチルトリエトキシシラン 2.22g(8mmol)、エタノール 156g、水 5g、オルガノシリカゾル(日産化学工業製、30%メタノール溶液) 12.5g(シリカゾル 3.75g相当)、を混合し、バス温90℃で一晩加熱還流した。
得られた分散液を適量採取し、60℃で2h乾燥して得られた固体のIR測定を行なったところ、オクチル基のC−Hの吸収を確認することができた。
【0039】
製造例3
メチルトリエトキシシラン 1.42g(8mmol)、エタノール 156g、水 5g、オルガノシリカゾル(日産化学工業製、30%メタノール溶液) 12.5g(シリカゾル 3.75g相当)、を混合し、バス温90℃で一晩加熱還流した。
得られた分散液を適量採取し、60℃で2h乾燥して得られた固体のIR測定を行なったところ、メチル基のC−Hの吸収を確認することができた。
【0040】
製造例4
フェニルトリエトキシシラン 1.92g(8mmol)、エタノール 156g、水 5g、オルガノシリカゾル(日産化学工業製、30%メタノール溶液) 12.5g(シリカゾル 3.75g相当)、を混合し、バス温90℃で一晩加熱還流した。
得られた分散液を適量採取し、60℃で2h乾燥して得られた固体のIR測定を行なったところ、フェニルC−Hの吸収を確認することができた。
【0041】
製造例5
内径30mm、長さ40cmの管状炉を用いて、繊維径16μmの活性炭素繊維約10gを1L/minの窒素を流入しながら、昇温速度5℃/minで900℃まで昇温し、1時間保持させた後、炉内の温度が常温まで徐々に下がるのを待って熱処理された活性炭素繊維を得た。
【0042】
実施例1〜9、比較例1〜2
活性炭素繊維を約6gに対して、製造例1〜4で作製した疎水性シリカゾル分散液を、固形分が活性炭素繊維の1〜3質量分率%となるように採取し、これをエタノールで希釈し、約50gの疎水化処理液とした。調製した疎水化処理液を活性炭に含ませ、これを150℃で6h通風乾燥を行なった。活性炭素繊維への疎水性金属酸化物粒子の添着の有無はIR測定により確認した。
得られた疎水化処理活性炭素繊維について、水共存下における塩化メチレン吸着性能試験を行った。併せて、疎水化処理していない活性炭素繊維及び製造例5の熱処理された活性炭素繊維についても同様に試験を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
[水共存下おける塩化メチレン吸着性能試験]
2塔ある吸着塔に試料を各々約4gずつ充てんし、温度100℃、約1g/minの水蒸気を導入し、一定時間、一定回数、脱着させ、吸着塔内の温度が安定した後、片方の塔に濃度350ppm(Co)、温度25℃、湿度80%、線速度0.1m/sの塩化メチレンのガスを流入し、一定時間吸着した後は水蒸気を塔内に導入して一定時間脱着するサイクルを10回繰り返し、吸着時の時間の経過とともに出口濃度(C)を測定し、破過率C/Co=0.05時の時間(min)を測定した。
1.破過時間
上記塩化メチレン吸着性能試験において、破過率C/Co=0.05における塩化メチレンが破過し始めた時間(min)
2.性能比
疎水化吸着材と未処理の吸着材の破過時間の比
【0044】
【表1】

【0045】
実施例10、比較例3
活性炭を約150gに対して、製造例1で作製した疎水性シリカゾル分散液を、固形分が活性炭の3質量分率%となるように採取し、これをエタノールで希釈し、約50gの疎水化処理液とした。調製した疎水化処理液を活性炭に含ませ、これを150℃で6h通風乾燥を行なった。活性炭への疎水性金属酸化物粒子の添着の有無はIR測定により確認した。
得られた疎水化処理活性炭について、水共存下おけるトルエン吸着性能試験を行った。併せて、疎水化処理していない活性炭についても同様に試験を行った。その結果を表2に示す。
【0046】
[水共存下おけるトルエン吸着性能試験]
2塔ある吸着塔に試料を各々約130gずつ充てんし、温度100℃、約1g/minの水蒸気を導入し、一定時間、一定回数、脱着させ、吸着塔内の温度が安定した後、片方の塔に濃度300ppm(Co)、温度25℃、湿度80%、線速度0.3m/sのトルエンのガスを流入し、一定時間吸着した後は水蒸気を塔内に導入して一定時間脱着するサイクルを10回繰り返し、吸着時の時間の経過とともに出口濃度(C)を測定し、破過率C/Co=0.05時の時間(min)を測定した。
【0047】
【表2】

【0048】
[繊維径]
活性炭素繊維の繊維径は、JIS K 1477に準じて測定した。
[粒度]
活性炭の粒度は、JIS K 1474に準じて測定した。
[疎水性金属酸化物粒子添着量]
疎水性金属酸化物を添着する前の吸着材の質量を計測し、その吸着材に疎水性金属酸化物を添着し、150℃で6h通風乾燥した後の質量から疎水性金属酸化物粒子添着量を算出した。
[BET比表面積]
実施例及び比較例で得られた疎水化吸着材のBET比表面積は、自動比表面積/細孔分布測定装置(島津・マイクロメリティク製、TRISTAR3000型)を用い、150℃で真空脱気処理した試料について、窒素ガス吸着法にて測定し、BET法で算出した。
【0049】
表1及び表2から明らかなように、比較例に比べ、実施例では塩化メチレン等有機物質を水分の影響を受けず、効率よく吸着する。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の疎水化吸着材は、多孔質体の表面は疎水化でありながら、多孔質体の細孔は閉塞せずに吸着能は維持できるという実用性を有し、繰り返し脱着性能に優れ、高湿度条件下において優れた吸着能を発揮するため、塩化メチレン等の有機物質用の溶剤回収装置に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるケイ素化合物で表面修飾された疎水性金属酸化物粒子を多孔質体に添着させたことを特徴とする疎水化吸着材。
R-Si(CH(−X)3−n (1)
ただし、Rは炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数2〜3のアルキニル基又は炭素数6〜8のアリール基、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、Cは炭素原子、Hは水素原子、Siはケイ素原子、nは0〜2を表す。
【請求項2】
金属酸化物粒子の大きさが5〜200nmである請求項1に記載の疎水化吸着材。
【請求項3】
金属酸化物粒子がシリカ、チタニア、アルミナ又はジルコニアである請求項1又は2に記載の疎水化吸着材。
【請求項4】
金属酸化物粒子がゾルである請求項1〜3のいずれかに記載の疎水化吸着材。
【請求項5】
金属酸化物粒子がオルガノシリカゾルである請求項4に記載の疎水化吸着材。
【請求項6】
多孔質体が、活性炭、ゼオライト、アルミナ又はシリカである請求項1〜5のいずれかに記載の疎水化吸着材。
【請求項7】
多孔質体の形状が繊維状、ペレット状、粒状、ハニカム状又はペーパー状である請求項6に記載の疎水化吸着材。
【請求項8】
多孔質体に対して疎水性金属酸化物粒子を1〜4質量分率%添着させた請求項1〜7のいずれかに記載の疎水化吸着材。
【請求項9】
多孔質体に対して疎水性金属酸化物粒子を1〜3質量分率%添着させた請求項1〜7のいずれかに記載の疎水化吸着材。
【請求項10】
疎水性金属酸化物粒子に水溶性有機溶媒を加えて溶解(分散)させ、多孔質体を浸漬処理して乾燥することによる請求項1〜9のいずれかに記載の疎水化吸着材の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の疎水化吸着材を用いた溶剤回収装置。

【公開番号】特開2013−103174(P2013−103174A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248815(P2011−248815)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】