説明

疎水及び疎油変性された表面を形成するためにポリシラザンを使用する方法

本発明の対象は、次式1


[式中、nは、ポリシラザンが150〜150000g/molの数平均分子量を有するように定められる数である]
で表されるポリシラザンと、溶剤及び触媒とを含むポリシラザン溶液を、フルオロシランもしくはフッ素含有縮合物で表面をコーティングするためのプライマーとして使用する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次いでフッ素含有成分を塗布するためのプライマーとしてポリシラザンを使用して疎水及び疎油変性された表面を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疎水及び疎油変性された表面上では、油溶性汚染物及び水溶性汚染物は粘着性が低く、そのため水及びマイルドな洗浄剤組成物によって簡単に除去することができる。更に、疎水及び疎油変性された表面上では、水は大きな接触角を有する水滴を形成し、石灰斑点(Limespot)を残すことなく玉となって流れ落ちる。ごく最近では、これらの易洗浄性(easy−to−clean)効果を持つコーティング系も商業的に利用されている。
【0003】
易洗浄性コーティングは、通常は自己洗浄性ではないが、汚れの粘着性を低めて表面の洗浄をより簡単にする。そのため、強力な洗浄剤組成物を使用する必要がなく、その代わりに、マイルドな中性洗浄剤を使用することが可能であるため、これらは環境保護に寄与するものである。接触角の測定は、易洗浄性効果の目安として一般的に受け入れられている。表面に対する水滴の接触角が大きければ大きいほど、水滴に対する撥水効果が大きくなり、かつ石灰斑点の形成も一層小さくなる。
【0004】
米国特許第5997943号は、ガラス表面上に、有機溶剤、酸及び水との混合物としてフルオロシラン(フッ素含有アルコキシシラン)を使用する方法を開示している。記載されているフルオロシランは、他の有機シランと混合され、そして適当な溶剤中に溶解される。酸、例えば酢酸もしくは硫酸を添加することによって、シランの加水分解が活性化される。この溶液を、ケイ酸塩性の表面に塗布すると、シランがその表面と反応してそれと共有結合を結ぶ。このコーティングによって、ガラス表面上の水滴の接触角が、通常、50乃至60°から100乃至110°に高められる。典型的なフルオロシランは、例えば、C6 13−アルキルエチルトリエトキシシラン、C8 17−アルキルエチルトリエトキシシラン、C1021−アルキルエチルトリエトキシシラン及びC1225−アルキルエチルトリエトキシシラン、及び対応するメトキシ、プロポキシ、ブトキシ及びメトキシエトキシ、メトキシジエトキシ及びメトキシトリエトキシ化合物である。
【0005】
パーフルオロアルキル基は、コーティングされた表面上で水及び炭化水素の接触角を高め、そして有機系及び無機系汚れ、例えば脂肪、石灰及び石灰石鹸の粘着性を低減させる。フルオロシランは、ケイ酸塩性表面に対する易洗浄性コーティング材として好適である。
【0006】
ヨーロッパ特許出願公開第0846715号は、加水分解触媒として有機酸を使用してパーフルオロアルキルエチルトリアルコキシシランからフッ素含有縮合物を製造する方法を開示している。その公開明細書では、フッ素含有縮合物は、パーフルオロアルキルエチルトリアルコキシシランを部分的に縮合することによって製造されている。これのためには、上記のフルオロシラン及び他のオルガノシランを、酢酸、硫酸または塩酸を用いた酸性化を介して不足化学量論量の水により加水分解して、溶剤、例えばエタノールまたはイソプロパノール中にコロイド状に分散したフッ素含有縮合物を得る。また、フッ素含有縮合物は、ケイ酸塩性表面のコーティングに同様に使用することができる。溶剤(エタノール、イソプロパノール)が気化すると、このフッ素含有縮合物は表面と反応して共有結合を形成する。このフッ素含有縮合物は易洗浄性コーティングに適しており、そしてフルオロシランの溶液よりも長い貯蔵安定性を示し、そしてまたそのコーティングは、擦り洗い(スクラビング)及び洗浄に対しより高い耐性も有する。
【0007】
ヨーロッパ特許出願公開第0846716号は、水及びアルコールからなる溶剤混合物中でオルガノポリシロキサンを製造するために、フルオロシランと他のオルガノシランとを組み合わせることを開示している。
【0008】
ケイ酸塩性表面、例えばガラス及びセラミック、または金属酸化物からなる表面を、フルオロシランまたはフッ素含有縮合物でコーティングすると、これらは、その表面の酸化物と反応して共有結合を結ぶ。基体とフルオロシランもしくはフッ素含有縮合物との間の化学結合によって、長期間、疎水及び疎油性のフッ素含有置換基が表面上に固定されて、それらの効果が保持される。
【0009】
しかし、フルオロシランまたはフッ素含有縮合物は、酸化物基もしくは水酸化物基を持たない表面とは反応しないという欠点がある。例えば、フルオロシランまたはフッ素含有縮合物では、金属、プラスチック、塗料及び樹脂には永続的な疎水及び疎油効果を付与することができない。
【0010】
更に別の欠点は、フルオロシランまたはフッ素含有縮合物の粒度が比較的小さいことにある。高吸収性の表面または孔径が大きい表面では、フルオロシランまたはフッ素含有縮合物が基体中に拡散するため、十分な“易洗浄効果”が表面上に得られない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題の一つは、金属、プラスチック、塗料、樹脂及び多孔性表面上に永続的な疎水及び疎油効果を供することを可能にする方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、ポリシラザン溶液で前処理することによって、多孔性表面に永続的な疎水及び疎油効果を供し得ることがここに見出された。
【0013】
本発明は、次式1
【0014】
【化1】

【0015】
[nは、ポリシラザンが150〜150000g/molの数平均分子量を有するように定められる値である]
で表されるポリシラザンと、溶剤及び触媒を含むポリシラザン溶液を、フルオロシランもしくはフッ素含有縮合物で表面をコーティングするためのプライマーとして使用する方法を提供する。
【0016】
更に、本発明は、フルオロシランもしくはフッ素含有縮合物でコーティングされた表面を形成する方法であって、第一段階において、コーティングされていない表面を、上記式1のポリシラザンと溶剤及び触媒とを含む組成物と接触させ、そして第二段階において、第一段階で得られた表面を、フルオロシランまたはフッ素含有縮合物と接触させることを含む上記方法を提供する。好ましくは、溶剤は第一段階の後に気化させる。
【0017】
更に本発明は、上記の方法によって得ることができる、コーティングされた表面も提供する。
【0018】
上記ポリシラザンの分子量は、好ましくは、300〜10000g/mol、特に600〜3000g/molである。
【0019】
上記ポリシラザン溶液は、それの重量を基準にして、ポリシラザンを好ましくは0.001〜35重量%、特に0.5〜5重量%、就中1〜3重量%の割合で、触媒を好ましくは0.00004〜3.5重量%、特に0.02〜0.5重量%、就中0.04〜0.3重量%の割合で、及び全体を100重量%にする量で溶剤を含む。
【0020】
触媒は、ポリシラザンが低温、特に室温で二酸化ケイ素に転化することを可能にする。触媒の使用量は、ポリシラザンの重量を基準にして好ましくは0.1〜10重量%である。
【0021】
適当な触媒は、N−ヘテロ環式化合物、例えば1−メチルピペラジン、1−メチルピペリジン、4,4’−トリメチレンジピペリジン、4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)、ジアゾビシクロ[2.2.2]オクタン、シス−2,6−ジメチルピペラジンである。
【0022】
他の適当な触媒は、モノ−、ジ−もしくはトリアルキルアミン、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、フェニルアミン、ジフェニルアミン及びトリフェニルアミン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[4.5.0]−7−ウンデセン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン)、1,5,9−トリアザシクロドデカン及び1,4,7−トリアザシクロノナンである。
【0023】
他の適当な触媒は、有機系もしくは無機系の酸、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、マレイン酸、ステアリン酸、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、塩素酸、及び次亜塩素酸である。
【0024】
他の適当な触媒は、飽和もしくは不飽和の脂肪族または脂環式C1 〜C22カルボン酸と、金属イオン、例えばNi、Ti、Pt、Rh、Co、Fe、Ru、Os、Pd、Ir及びAlとの一般式(RCOO)n M(式中、nは金属イオンの電荷である)で表される金属カルボン酸塩である。
【0025】
他の適当な触媒は、金属イオン、例えばNi、Pt、Pd、AlもしくはRhのアセチルアセトネート錯体である。
【0026】
他の好適な触媒は、金属粉末、例えば20〜500nmの粒度を有するAu、Ag、PdまたはNiである。
【0027】
他の好適な触媒は、過酸化物、例えば過酸化水素、金属塩化物及び有機金属化合物、例えばフェロセン類及びジルコノセン類である。
【0028】
溶剤は、シラン、水素またはアンモニアを形成することのない十分に長い貯蔵時間を有するポリシラザン及び触媒の各溶液の調製を可能する。適当な溶剤は、芳香族、環状及び脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素及びエーテル類である。
【0029】
適当な溶剤は、例えば、脂肪族、芳香族または環状炭化水素、及びジブチルエーテルである。
【0030】
上記のポリシラザン溶液は、幅広い様々な表面基体のコーティングに使用することができる。適当な基体は次のものである:
・金属、例えば鉄、特殊鋼、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、銅、マグネシウム及びこれらの合金、銀、及び金;
・プラスチック、例えばポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂、ABSプラスチック、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオキシメチレン;
・多孔性鉱物材料、例えばコンクリート、粘土レンガ、大理石、玄武岩、アスファルト、ローム、テラコッタ:
・塗料表面、例えばポリマーに基づくエマルション塗料、アクリル系塗料、エポキシ系塗料、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、及びアルキド系塗料;及び
・有機材料、例えば木材、革、羊皮紙、紙及び繊維材料。
【0031】
工程を加速するために、好ましい態様の一つでは、ポリシラザン溶液を、界面活性剤水溶液と一緒に塗布してもよい。好ましい界面活性剤は、アルカンスルホネート、ベタイン、アルキルエトキシレート及びエーテルスルフェートである。この界面活性剤溶液は、好ましくは界面活性剤を0.1〜5%の割合で含み、そして浸漬するかまたは塗りつけ(ワイピング)もしくは吹き付けることによって、ポリシラザンをコーティングした表面上に塗布される。
【0032】
上記方法の第一段階で得られた表面とパーフルオロアルキル基含有化合物との反応により、疎水かつ疎油の性質及び易洗浄性が供される。この際、蒸留水の接触角は、>90°、特に>110°の値を達成する。パーフルオロアルキル基含有化合物は、例えば、C6 13−アルキルエチルトリエトキシシラン、C8 17−アルキルエチルトリエトキシシラン、C1021−アルキルエチルトリエトキシシラン及びC1225−アルキルエチルトリエトキシシラン、並びに対応するメトキシ、プロポキシ、ブトキシ及びメトキシエトキシ、メトキシジエトキシ及びメトキシトリエトキシ化合物、及びフッ素含有縮合物である。
【0033】
結果として、従来技術では易洗浄効果を供することができなかった基材上にでさえ、永続的な易洗浄効果が容易に得られる。また、高吸収性及び多孔性基材を、本発明によるポリシラザンコーティングを用いることによってシーリングすることも有利に可能である。
【0034】
適当な溶剤は、モノ−もしくはポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(グリム類)、またはモノ−もしくはポリアルキレングリコールジアルキルエーテルと脂肪族、環状もしくは芳香族炭化水素との混合物である。
【0035】
本発明の目的には、ポリシラザンの分子量の測定は蒸気圧浸透法により行われる。
【実施例】
【0036】
適当なポリシラザン溶液の組成の例を以下に記載する(数値は重量%単位)。
溶液1
平均分子量が2000g/molのポリシラザン20%
4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)0.8%
キシレン79.2%
溶液2
平均分子量が2000g/molのポリシラザン5%
4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)0.2%
キシレン19.8%
芳香族化合物を含む炭化水素混合物((R) Pagasol(パガゾル)AN45、エクソンモービル製)75%
溶液3
平均分子量が2000g/molのポリシラザン1%
4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)0.04%
キシレン3.96%
芳香族化合物を含む炭化水素混合物((R) PagasolAN45、エクソンモービル製)95%
溶液4
平均分子量が2000g/molのポリシラザン5%
4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)0.2%
キシレン19.2%
芳香族化合物を含む炭化水素混合物((R) Varsol(バーゾル)40、エクソンモービル製)75%
溶液5
平均分子量が2000g/molのポリシラザン1%
4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)0.04%
キシレン3.96%
芳香族化合物を含む炭化水素混合物((R) Varsol40、エクソンモービル製)95%
溶液6
平均分子量が2000g/molのポリシラザン5%
4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)0.2%
キシレン19.8%
ジプロピレングリコールジメチルエーテル75%
溶液7
平均分子量が2000g/molのポリシラザン1%
4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)0.04%
キシレン3.96%
ジプロピレングリコールジメチルエーテル95%
溶液8
平均分子量が2000g/molのポリシラザン5%
4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)0.2%
キシレン19.8%
ジプロピレングリコールジメチルエーテル20%
芳香族化合物が少ない炭化水素混合物(Exxsol(エクゾル)D40、エクソンモービル製)55%
溶液9
平均分子量が2000g/molのポリシラザン1%
4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)0.04%
キシレン3.96%
ジプロピレングリコールジメチルエーテル20%
芳香族化合物が少ない炭化水素混合物(ExxsolD40、エクソンモービル製)75%
溶液10
平均分子量が2000g/molのポリシラザン0.2%
4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)0.008%
キシレン0.792%
ジプロピレングリコールジメチルエーテル20%
芳香族化合物が少ない炭化水素混合物(ExxsolD40、エクソンモービル製)79%
以下の例は、プライマーコーティングとしてのポリシラザン溶液の使用及びそれに次ぐフッ素含有成分の塗布をより詳しく説明することを意図したものである。
例1:スチール板の“易洗浄性コーティング”
ステンレススチール板を1%濃度ポリシラザン溶液(溶液3)でコーティングした。この際、溶剤が気化するまで、ビスコース不織布を用いて上記溶液を約8ml/m2 の量でその表面上に均一に塗りつけた。このポリシラザン溶液のコーティングをもう一度繰り返した。次いで、ポリシラザンがコーティングされた上記スチール板を、フッ素含有縮合物の水溶液((R) Nano−E2C200,ザールブリュッケン在のナノゲート社製)でコーティングした。塗布量は8ml/m2 であり、ビスコース不織布を用いて人手で均一に塗りつけた。フッ素含有縮合物の縮合のために、このスチール板を260℃で1時間硬化する。蒸留水の接触角は、コーティング前は74°及びコーティング後は110°であった。
【0037】
第二の実験では、ポリシラザンがコーティングされた上記スチール板を、界面活性剤水溶液で処理した。この界面活性剤水溶液を調整するために使用した湿潤促進剤は以下の組成を有するものであった。
(R) Hostapur(ホスタプル)SAS30 28%
(R) Genagen(ゲナーゲン)CA050 3.6%
(R) Genapol(ゲナポール)UD080 5%
プロピレングリコール 3%
安息香酸ナトリウム 0.3%
クエン酸 pHを6に調節する量
脱イオン水 残部
上記の湿潤促進剤2ml/Lを水中に溶解して界面活性剤溶液を調製した。この界面活性剤溶液を、ポリシラザンがコーティングされた上記スチール板上に塗布し、次いで脱イオン水ですすぎ、そして乾燥した。イソプロパノール中のフッ素含有縮合物の溶液((R) Nano−E2C110,ザールブリュッケン在のナノゲート社製)を上記の乾燥スチール板に塗布した。この際、イソプロパノールが気化するまで、ビスコース不織布を用いて上記表面上に8ml/m2 の量で均一に二度塗りつけた。このフッ素含有縮合物は室温で硬化し、スチール板に永続的に結合された。コーティング後の蒸留水の接触角は109°であった。
例2:亜鉛板の“易洗浄性コーティング”
亜鉛板を、ポリシラザンの1%濃度溶液(溶液3)を用いて例1に記載のように手作業で二度コーティングした。次いで、イソプロパノール中のフッ素含有縮合物((R) Nano−E2C110,ザールブリュッケン在のナノゲート社製)8ml/m2 を二度塗布しそして室温で硬化した。疎水・疎油性コーティングを、上記亜鉛板上に永続的に結合させることができた。蒸留水の接触角は、ポリシラザンをコーティングする前は63°、フッ素含有縮合物をコーティングした後は108°であった。
例3:ポリカーボネート製プラスチックシートの“易洗浄性コーティング”
厚さ2mmのポリカーボネート製シートを、1%濃度ポリシラザン溶液(溶液3)で二度コーティングした。この際、溶剤が気化するまで、ビスコース不織布を用いて8ml/m2 の量を塗りつけた。その後、イソプロパノール中のフッ素含有縮合物((R) Nano−E2C110,ザールブリュッケン在のナノゲート社製)8ml/m2 を二度コーティングした。これも同様に、イソプロパノールが気化するまでビスコース不織布を用いて塗布した。室温で硬化した。蒸留水の接触角は、ポリシラザンをコーティングする前は76°、そしてフッ素含有縮合物をコーティングした後は115°であった。
例4:ポリエチレンテレフタレートの“易洗浄性コーティング”
PETフィルムを、1%濃度ポリシラザン溶液(溶液3)で二度コーティングした。この際、溶剤が気化するまで、8ml/m2 の量をビスコース不織布を用いて塗りつけた。その後、イソプロパノール中のフッ素含有縮合物((R) Nano−E2C110,ザールブリュッケン在のナノゲート社製)8ml/m2 を二度コーティングした。これも同様に、イソプロパノールが気化するまでビスコース不織布を用いて塗布した。室温で硬化した。蒸留水の接触角は、ポリシラザンをコーティングする前は17°、そしてフッ素含有縮合物をコーティングした後は115°であった。
例5:自動車塗装の“易洗浄性コーティング”
自動車塗装を、1%濃度ポリシラザン溶液(溶液3)で二度コーティングした。この際、各々、溶剤が気化するまでビスコース不織布を用いて8ml/m2 の量を塗りつけた。その後、イソプロパノール中のフッ素含有縮合物((R) Nano−E2C110,ザールブリュッケン在のナノゲート社製)8ml/m2 を二度塗布した。イソプロパノールが気化するまで、ビスコース不織布を用いて塗りつけた。コーティング後、その表面は顕著に疎水性の性質を有した。水滴は直ぐに玉となって流れ落ちた。
例6:黄銅の“易洗浄性コーティング”
黄銅板を、1%濃度ポリシラザン溶液(溶液3)で二度コーティングした。各々のコーティング工程当たりの塗布量は8ml/m2 であった。10分後、得られたポリシラザン層を、例1の界面活性剤水溶液で処理し、そして二酸化ケイ素に転化した。その後、イソプロパノール中のフッ素含有縮合物((R) Nano−E2C110,ザールブリュッケン在のナノゲート社製)8ml/m2 を二度塗布した。ポリシラザンコーティングの前は、蒸留水の接触角は78°であった。フッ素含有縮合物をコーティングした後は、接触角は115°であった。
【0038】
他の態様では、疎水・疎油化は、イソプロパノール/水中のフルオロシラン溶液を用いて行った。この際、以下の溶液を用意した。
6 −パーフルオロアルキルエチルトリエトキシシラン2%
イソプロパノール88%
氷酢酸0.6%
脱イオン水9.4%。
【0039】
ポリシラザンをコーティングした上記黄銅板を、このフルオロシラン溶液8ml/m2 で二度処理した。この溶液は、揮発性成分が気化するまで、ビスコース不織布を用いて手作業で均一に塗りつけた。蒸留水の接触角は、フルオロシランのコーティング後、124°であった。
例7:銅板の“易洗浄性コーティング”
銅板を、例6に記載の通りにポリシラザンでコーティングし、そして例1の界面活性剤水溶液で処理して二酸化ケイ素に転化した。その後、イソプロパノール中のフッ素含有縮合物((R) Nano−E2C110,ザールブリュッケン在のナノゲート社製)8ml/m2 を二度塗布した。ポリシラザンをコーティングする前の、蒸留水の接触角は82°であった。フッ素含有縮合物をコーティングした後は、接触角は114°であった。上記フッ素含有縮合物の代わりに、例6に記載のイソプロパノール/水中のC6 −パーフルオロアルキルエチルトリエトキシシランの溶液をコーティングに使用した。上記フルオロシラン溶液8ml/m2 を二度塗布した後、測定された蒸留水の接触角は125°であった。
例8:特殊鋼板の“易洗浄性コーティング”
特殊鋼板を、例6に記載のようにポリシラザンでコーティングし、そして例1の界面活性剤水溶液で処理して二酸化ケイ素に転化した。その後、イソプロパノール中のフッ素含有縮合物((R) Nano−E2C110,ザールブリュッケン在のナノゲート社製)8ml/m2 を二度塗布した。ポリシラザンをコーティングする前は、蒸留水の接触角は73°であった。フッ素含有縮合物でコーティングした後は、接触角は108°であった。上記フッ素含有縮合物の代わりに、例6に記載のイソプロパノール/水中のC6 −パーフルオロアルキルエチルトリエトキシシランの溶液を、疎水・疎油化コーティングに使用した。上記フルオロシラン溶液8ml/m2 を二度塗布した後、測定された蒸留水の接触角は115°であった。
例9:アルミニウム板の易洗浄性コーティング
アルミニウム板を、例6に記載のようにポリシラザンでコーティングし、そして例1の界面活性剤水溶液で処理して二酸化ケイ素に転化した。その後、イソプロパノール中のフッ素含有縮合物((R) Nano−E2C110,ザールブリュッケン在のナノゲート社製)8ml/m2 を二度塗布した。ポリシラザンをコーティングする前は、蒸留水の接触角は78°であった。フッ素含有縮合物でコーティングした後は、接触角は112°であった。上記フッ素含有縮合物の代わりに、例6に記載のイソプロパノール/水中のC6 −パーフルオロアルキルエチルトリエトキシシランの溶液を、疎水・疎油化コーティングに使用した。上記フルオロシラン溶液8ml/m2 を二度塗布した後、測定された蒸留水の接触角は120°であった。
例10:ポリプロピレン、メラミン樹脂被覆パーティクルボード、及び積層床材の“易洗浄性コーティング”
ポリプロピレン製シート、メラミン樹脂被覆パーティクルボード及び積層床材シートを、例6に記載のようにポリシラザンでコーティングした。その後、イソプロパノール中のフッ素含有縮合物((R) Nano−E2C110,ザールブリュッケン在のナノゲート社製)8ml/m2 を二度塗布した。上記フッ素含有縮合物の代わりに、例6に記載のフルオロシラン溶液を、疎水・疎油化コーティングに使用し、8ml/m2 の量を二度塗布した。測定された蒸留水の接触角は次の通りであった。

ポリプロピレン
ポリシラザンのコーティング前: 100°
フッ素含有縮合物のコーティング後: 112°
フルオロシラン溶液のコーティング後: 128°

メラミン樹脂被覆パーティクルボード
ポリシラザンのコーティング前: 77°
フッ素含有縮合物のコーティング後: 127°
フルオロシラン溶液のコーティング後: 122°

積層床材
ポリシラザンのコーティング前: 40°
フッ素含有縮合物のコーティング後: 115°
フルオロシラン溶液のコーティング後: 122°

例11:ポリカーボネート製のホイールキャップの“易洗浄性コーティング”
例6に記載のように、ポリカーボネート製ホイールキャップを、ポリシラザン溶液(溶液3)8ml/m2 で二度コーティングし、次いで例1の界面活性剤水溶液で処理した。次いで、このポリカーボネート製ホイールキャップを、イソプロパノール中のフッ素含有縮合物((R) Nano−E2C110,ザールブリュッケン在のナノゲート社製)8ml/m2 で二度コーティングした。代替物として、例6のフルオロシラン溶液8ml/m2 を使用して二度コーティングした。ホイールキャップが湾曲しているため、接触角の測定はできなかった。しかし、その表面は著しく疎水性であり、水滴は簡単に玉となって流れ落ちた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式1
【化1】

[式中、nは、ポリシラザンが150〜150000g/molの数平均分子量を有するように定められる数である]
で表されるポリシラザンと、溶剤及び触媒とを含むポリシラザン溶液を、フルオロシランもしくはフッ素含有縮合物で表面をコーティングするためのプライマーとして使用する方法。
【請求項2】
ポリシラザン溶液が、ポリシラザンを0.001〜35重量%の割合で含む、請求項1の方法。
【請求項3】
ポリシラザン溶液が、触媒を0.00004〜3.5重量%の割合で含む、請求項1及び/または2の方法。
【請求項4】
触媒が、N−ヘテロ環式化合物、モノ−、ジ−もしくはトリアルキルアミン、有機もしくは無機酸、飽和もしくは不飽和の脂肪族または脂環式カルボン酸の一般式(RCOO)n M(式中、RはC1 〜C22であり、金属イオンMは、電荷nを有する)で表される金属カルボン酸塩、金属イオンのアセチルアセトネート錯体、20〜500nmの粒度を有する金属粉、過酸化物、金属塩化物及び有機金属化合物から選択される、請求項1〜3の一つまたはそれ以上の方法。
【請求項5】
溶剤が、芳香族、環式もしくは脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素及びエーテル類から選択される、請求項1〜4の一つまたはそれ以上の方法。
【請求項6】
フルオロシランもしくはフッ素含有縮合物でコーティングされた表面を形成する方法であって、第一段階において、コーティングされていない表面を、上記式1のポリシラザン、溶剤及び触媒を含む組成物と接触させ、次いで第二段階において、第一段階で得られた表面を、フルオロシランもしくはフッ素含有縮合物と接触させることを含む、上記方法。
【請求項7】
パーフルオロアルキル基含有化合物が、C6 13−アルキルエチルトリエトキシシラン、C8 17−アルキルエチルトリエトキシシラン、C1021−アルキルエチルトリエトキシシラン及びC1225−アルキルエチルトリエトキシシラン、及び対応するメトキシ、プロポキシ、ブトキシ及びメトキシエトキシ、メトキシジエトキシ及びメトキシトリエトキシ化合物から選択される、請求項6の方法。
【請求項8】
請求項6及び/または7の方法で得ることができる、コーティングされた表面。

【公表番号】特表2006−524277(P2006−524277A)
【公表日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505060(P2006−505060)
【出願日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003754
【国際公開番号】WO2004/094531
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(597109656)クラリアント・プロドゥクテ・(ドイチュラント)・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (115)
【Fターム(参考)】