説明

疾患を処置するための方法および組成物

【課題】標的化された送達系が臨床状況において使用可能となるように、改良されたベクター、改良されたベクターの製造のための系を提供する。
【解決手段】標的化された送達ベクターを生成するための方法および組成物を提供する。このようなベクターは、新生物障害を処置するために有用である。さらにまた、治療効果が達成されるように臨床状況において標的化された送達ベクターを投与するためのプロトコルを提供する。本開示は「標的化された」ウィルスおよび非ウィルスの粒子、例えばレトロウィルスベクター粒子、アデノウィルスベクター粒子、アデノ関連ウィルスベクター粒子、ヘルペスウィルスベクター粒子および擬似型ウィルス、例えば水疱性口内炎ウィルスGタンパク(VSV−G)に関るものに関し、そして、ビロソームの部分としてウィルスタンパクを含有する非ウィルスベクターまたは他のプロテオリポソーム遺伝子転移ベクターに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は参考として本明細書に組み込まれる2003年4月21日に出願された米国仮出願第60/464,571号の優先権を主張する。
【0002】
(技術分野)
本発明は一般的に新生物障害の治療のための方法および組成物に関する。更に本発明は治療上有効なベクターを製造するための方法および系に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
遺伝子療法プロトコル全体の約70%が転移癌の治療を目的としている。活用されているプロトコルの大部分がサイトカインまたは腫瘍抗原の細胞ベースの遺伝子転移を介した癌免疫療法の何れかの形態を使用しているが、他のものはプロドラッグ、化学保護剤、アンチセンスコンストラクトまたは腫瘍抑制遺伝子を担持した癌溶解ウィルスまたはベクターの腫瘍内送達を使用している。しかしながら、効果的な癌の遺伝子療法の開発および展開を妨害していた主要な未解決の問題は、インビボにおける標的細胞への不十分な送達に関るもの、即ち、多くの直接的な治療の試みを無駄にし、そして排除するという問題である(非特許文献1)。この点に関し、向病巣性の標的化の出現は癌遺伝子療法における新しい論理的枠組みを送り出している。癌細胞自体ではなく、患部の組織病理学的特徴を標的化して転移部位における有効なベクター濃度を旨適化することにより、循環している遺伝子療法ベクターの安全性および効果は前臨床試験において劇的に増大した(非特許文献2;非特許文献3)。マウス白血病ウィルスベースベクター(分裂細胞に選択的に形質導入する)の固有の特性および腫瘍殺傷性および抗血管形成性の活性を示す細胞周期制御遺伝子の戦略的特異性(非特許文献3)により更に増強され、向病巣性ベクターの前臨床および臨床上の性能は生理学的サーベイランスのための遺伝子薬剤の全身送達ならびに、原発、遠隔、転移および潜伏の癌の治療のための可能性を確立している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tseng and Mulligan,Surg.Oncol.Clin.N.Am.11:537−569,2002
【非特許文献2】Gordon et al.,Cancer Res.60:3343−3347,2000
【非特許文献3】Gordon et al.,Hum.Gene Ther.12:193−204,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
標的化された送達系が臨床状況において使用可能となるように、改良されたベクター、改良されたベクターの製造のための系およびそのようなベクターを投与するための治療レジメンが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
標的化された送達ベクターを生成するための方法であって、該方法は、以下の工程:
a)産生細胞を一過性に以下:
i)コラーゲン結合ドメインを含むように修飾された4070A両栄養性エンベロープタンパク質をコードする核酸配列を含む第1のプラスミドであって、該核酸配列はプロモーターに作動可能に連結されている、プラスミド;
ii)第2のプラスミドであって、以下:
プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列であって、ウィルスgag−polポリペプチドをコードする、核酸配列;
プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列であって、産生細胞に薬物耐性を与えるポリペプチドをコードする、核酸配列;
SV40複製起点;
を含む、プラスミド;
iii)第3のプラスミドであって、以下:
プロモーターに作動可能に連結されている非相同核酸配列であって、診断用または治療用のポリペプチドをコードする、核酸配列;
5’および3’長末端反復配列(LTR);
Ψレトロウィルスパッケージング配列;
該5’LTRの上流のCMVプロモーター;
プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列であって、該産生細胞に薬物耐性を与えるポリペプチドをコードする、核酸配列;
SV40複製起点;
を含む、プラスミド;
でトランスフェクトする工程であって、ここで該産生細胞はSV40ラージT抗原を発現するヒト細胞である、工程;
b)標的化された送達ベクターの産生および培地の上澄みへの放出を可能にする条件下で、a)の産生細胞を培養する工程;
c)ウィルス粒子を収集するための閉鎖ループマニホールド系内に該上澄みを単離して導入する工程;ならびに、
d)該標的化された送達ベクターを収集する工程;
を包含する、方法。
(項目2)
上記標的化された送達ベクターが、ウィルス粒子である、項目1に記載の方法。
(項目3)
上記収集されたウィルス粒子が、ミリリットル当たり約1×10〜1×1010個のコロニー形成単位のウィルス力価を示す、項目2に記載の方法。
(項目4)
上記ウィルス粒子が、直径50nm〜150nmである、項目2に記載の方法。
(項目5)
上記コラーゲン結合ドメインが、フォン・ビルブラント因子のD2ドメインに由来するペプチドを含む、項目1に記載の方法。
(項目6)
上記フォン・ビルブラント因子が、ウシフォン・ビルブラント因子である、項目5に記載の方法。
(項目7)
上記ペプチドが、アミノ酸配列Gly−His−Val−Trp−Arg−Glu−Pro−Ser−Phe−Met−Ala−Lys−Ser−Ala−Ala(配列番号1)を含む、項目5に記載の方法。
(項目8)
上記ペプチドが、上記4070A両栄養性エンベロープタンパク質のgp70部分に含まれる、項目1に記載の方法。
(項目9)
上記治療用ポリペプチドが、サイクリンG1のN末端欠失突然変異体である、項目1記載の方法。
(項目10)
上記サイクリンG1のN末端欠失突然変異体が、ヒトサイクリンG1のアミノ酸約41〜249を含む、項目9に記載の方法。
(項目11)
上記治療用ポリペプチドが、インターロイキン−2(IL−2)である、項目1に記載の方法。
(項目12)
上記治療用ポリペプチドが、顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子(GM−CSF)である、項目1に記載の方法。
(項目13)
上記治療用ポリペプチドが、チミジンキナーゼである、項目1に記載の方法。
(項目14)
上記診断用ポリペプチドが、緑色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、放射性同位体またはこれらの組み合わせからなる群より選択される、項目1に記載の方法。
(項目15)
上記第1のプラスミドが、Bvl/pCAEPプラスミドである、項目1に記載の方法。
(項目16)
上記第2のプラスミドが、pCgpnプラスミドである、項目1に記載の方法。
(項目17)
上記第3のプラスミドが、G1XSvNaプラスミドに由来する、項目1に記載の方法。
(項目18)
上記第3のプラスミドが、pdnG1/C−REXプラスミドである、項目1に記載の方法。
(項目19)
上記第3のプラスミドが、pdnG1/C−REXIIプラスミドである、項目1に記載の方法。
(項目20)
上記産生細胞が、293T細胞である、項目1に記載の方法。
(項目21)
上記閉鎖ループマニホールド系が、図19Aおよび図19Bに示す系を含む、項目1に記載の方法。
(項目22)
上記ウィルス粒子が、REXIN−Gと示される、項目2に記載の方法。
(項目23)
新生物障害を有する被験体を処置する方法であって、該方法は、以下の工程:
a)項目2に記載の方法により生成されるウィルス粒子に被験体を接触させる工程を包含する第1相プロトコルであって、ここで該被験体は、以下:
i)連続1〜約6日間、該被験体に投与される約1×10〜6×10単位/日の第1のウィルス粒子用量レベル;
ii)連続1〜約3日間および第1のベクター用量の投与の後に該被験体に投与される約7×10〜約1×1010単位/日の第2のウィルス粒子用量レベル;および、
iii)連続1〜約3日間および第2のベクター用量の投与の後に該被験体に投与される約1×1010〜約5×1010単位/日のウィルス粒子用量レベル;
と接触される、プロトコル;
b)項目1に記載の方法により生成されるウィルス粒子と被験体を接触させる工程を包含する第2相プロトコルであって、ここで該被験体は、連続1〜約15日間および該第1相のプロトコルの後に該被験体に投与される約1×10〜約5×1010単位/日のウィルス粒子用量レベルと接触される、プロトコル;ならびに、
c)必要に応じて相1および相2のプロトコルの前、同時、または後に該被験体に化学療法剤を投与する工程;
を包含する、方法。
(項目24)
上記第1のウィルス粒子用量レベルが、約4×10〜5×10単位/日である、項目23に記載の方法。
(項目25)
上記第2のウィルス粒子用量レベルが、約9×10〜約1×1010単位/日である、項目23に記載の方法。
(項目26)
上記第3のウィルス粒子用量レベルが、約1×1010〜約2×1010単位/日である、項目23に記載の方法。
(項目27)
上記ウィルス粒子が、曝露されたコラーゲンの領域内で上記被験体に蓄積する、項目23に記載の方法。
(項目28)
上記曝露されたコラーゲンの領域が、新生物病変、活動性血管形成の領域、新生物病変、血管損傷の領域、外科処置部位、炎症部位および組織破壊領域を包含する、項目27に記載の方法。
(項目29)
上記ウィルス粒子が、局所、静脈内、動脈内、結腸内、気管内、腹腔内、鼻腔内、血管内、鞘内、頭蓋内、骨髄内、胸膜腔内、皮内、皮下、筋肉内、眼内、骨内および/または滑液包内に投与される、項目23に記載の方法。
(項目30)
上記被験体が、哺乳動物である、項目23に記載の方法。
(項目31)
上記哺乳動物が、ヒトである、項目30に記載の方法。
(項目32)
以下:
a)プロモーターに機能的に連結した任意のマルチクローニングサイトであって、該プロモーターが非相同核酸配列の発現を補助する、マルチクローニングサイト;
b)5’および3’長末端反復配列(LTR);
c)Ψレトロウィルスパッケージング配列;
d)該5’LTR配列の上流に位置する、CMVプロモーター;
e)プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列であって、ここで該配列は、プラスミドを含む産生細胞に薬物耐性を与えるポリペプチドをコードする、核酸配列;および、
f)SV40複製起点;
を含むプラスミド。
(項目33)
上記プラスミドが、pC−REXである、項目32に記載のプラスミド。
(項目34)
上記プラスミドがpC−REXIIである、項目32に記載のプラスミド。
(項目35)
治療用または診断用のポリペプチドをコードする非相同核酸配列をさらに含む、項目33に記載のプラスミド。
(項目36)
上記治療用ポリペプチドが、突然変異体サイクリンG1である、項目35に記載のプラスミド。
(項目37)
標的化されたウィルス粒子を生成するためのキットであって、該キットは、以下:
a)コラーゲン結合ドメインを含むように修飾された4070A両栄養性エンベロープタンパク質をコードする核酸配列を含む第1のプラスミドを含む容器であって、該核酸配列はプロモーターに作動可能に連結されている、容器;
b)以下:
プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列であって、ウィルスgag−polポリペプチドをコードする、核酸配列;
プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列であって、産生細胞に薬物耐性を与えるポリペプチドをコードする、核酸配列;
SV40複製起点;
を含む第2のプラスミドを含む、容器;
c)以下:
プロモーターに作動可能に連結されている非相同核酸配列であって、診断用または治療用のポリペプチドをコードする、核酸配列;
5’および3’長末端反復配列(LTR)、
Ψレトロウィルスパッケージング配列、
該5’LTRの上流のCMVプロモーター、
プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列であって、産生細胞に薬物耐性を与えるポリペプチドをコードする、核酸配列、
SV40複製起点、
を含む第3のプラスミドを含む、容器;
d)SV40ラージT抗原を発現する産生細胞を含む、容器;および、
e)a)、b)およびc)のプラスミドでd)の産生細胞を一過性にトランスフェクトする工程、および、標的化されたウィルス粒子を生成し得る条件下で、該トランスフェクトされた産生細胞を培養する工程、に関する説明書;
を備える、キット。
(項目38)
上記第1のプラスミドが、Bvl/pCAEPプラスミドである、項目33に記載のキット。
(項目39)
上記第2のプラスミドが、pCgpnプラスミドである、項目37に記載のキット。
(項目40)
上記第3のプラスミドが、pdnG1/C−REXプラスミドである、項目37に記載のキット。
(項目41)
上記第3のプラスミドが、pdnG1/C−REXIIプラスミドである、項目37に記載のキット。
(項目42)
上記産生細胞が、293T細胞である、項目36に記載の方法。
(項目43)
標的化されたウィルス粒子の生成のためのキットであって、該キットは、以下:
a)Bvl/pCAEPプラスミド:
b)pCgpnプラスミド;
c)pdnG1/C−REXプラスミドまたはpdnG1/C−REXIIプラスミド;
d)293T細胞;および
e)a)、b)およびc)のプラスミドでd)の産生細胞を一過性にトランスフェクトする工程、および、標的化されたウィルス粒子を産生し得る条件下で、トランスフェクトされた産生細胞を培養する工程、に関する説明書;
を含む容器を備える、キット。
(項目44)
新生物障害を処置するためのキットであって、該キットは以下:
a)薬学的に受容可能なキャリア中に項目1に記載の方法により生成される標的化された送達ベクターを含む、容器;および、
b)項目23に記載の方法に従って、被験体に、a)のベクターを投与する工程に関する説明書;
を備える、キット。
(項目45)
上記標的化された送達ベクターが、ウィルス粒子である、項目44に記載のキット。
(項目46)
遺伝子治療業務を実施するための方法であって、該方法は、以下:
a)項目1に記載の方法により、標的化された送達ベクターを作製する工程;
b)適切な培地の溶液中に粒子を回収して懸濁する工程、および、−70℃〜−86℃で該懸濁液を保存する工程により、標的化された送達ベクターのバンクを確立する工程;
c)該ベクターおよび該ベクターの使用に関する説明書を、該ベクターを必要とする患者への投与に関する医師または健康管理提供者に提供する工程;
を包含する、方法。
(項目47)
上記標的化された送達ベクターが、ウィルス粒子である、項目46に記載の方法。
(項目48)
使用に関する上記説明書が、さらに項目23に記載の方法を包含する、項目46記載の方法。
(項目49)
上記適切な培地が、95%DMEM培地および約1.2%のヒト血清アルブミンを含む、項目48に記載の方法。
(項目50)
上記患者または上記患者の保険提供者に支払請求する工程をさらに包含する、項目46に記載の方法。
(項目51)
遺伝子治療業務を実施するための方法であって、該方法が、医師または健康管理提供者に項目37、43または44に記載のキットを提供する工程を包含する、方法。
【0007】
(要旨)
本開示は「標的化された」ウィルスおよび非ウィルスの粒子、例えばレトロウィルスベクター粒子、アデノウィルスベクター粒子、アデノ関連ウィルスベクター粒子、ヘルペスウィルスベクター粒子および擬似型ウィルス、例えば水疱性口内炎ウィルスGタンパク(VSV−G)に関るものに関し、そして、ビロソームの部分としてウィルスタンパクを含有する非ウィルスベクターまたは他のプロテオリポソーム遺伝子転移ベクターに関する。
【0008】
更にまた標的化されたウィルス粒子の生成のための新しいレトロウィルス発現系、粒子を生産するための一過性にトランスフェクトされたヒト産生細胞の使用、ウィルス粒子の大規模産生のための製造方法、および、標的化されたウィルスベクターの収集および保存のための方法も提供する。
【0009】
1つの実施形態において、標的化された送達ベクターを製造するための方法が提供される。この方法は、産生細胞を一過性に、1)コラーゲン結合ドメインを含有するように修飾された4070A両栄養性エンベロープタンパクをコードする核酸配列を含む第1のプラスミド;2)第2のプラスミドであって、i)プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列、ここでこの配列はウィルスgag−polポリペプチドをコードしているもの;ii)プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列、ここでこの配列は産生細胞に薬剤耐性を与えるポリペプチドをコードしているもの;iii)SV40複製起点,を含むもの;3)第3のプラスミドであって、i)プロモーターに作動可能に連結されている非相同核酸配列、ここでこの配列は診断用または治療用のポリペプチドをコードしているもの;ii)5’および3’長末端反復配列;iii)Ψレトロウィルスパッケージング配列;iv)5’LTRの上流のCMVプロモーター;v)プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列、ここでこの配列は産生細胞に薬剤耐性を与えるポリペプチドをコードしているもの;vi)SV40複製起点、を含むもの;でトランスフェクトすることを含む。産生細胞はSV40ラージT抗原を発現するヒト細胞である。1つの特徴において、産生細胞は293T細胞である。
【0010】
この方法は更に、標的化された送達ベクターを培養上澄み中で生産できる条件下にトランスフェクトされた産生細胞を培養すること、および、ベクターを収集するための閉鎖ループマニホールド系内に上澄みを単離して導入することを包含する。例示される閉鎖ループマニホールド系を図19Aおよび図19Bに示す。1つの実施形態において、標的化された送達ベクターはウィルス粒子である。別の実施形態において標的化された送達ベクターは非ウィルス粒子である。
【0011】
1つの特徴において、第1のプラスミドはBvl/pCAEPプラスミドであり、第2のプラスミドはpCgpnプラスミドであり、第3のプラスミドはpdnG1/C−REXプラスミドまたはpdnG1/C−REXIIプラスミドである。
【0012】
収集された粒子は一般的にミリリットル当たり約1x10〜1x1010のコロニー形成単位のウィルス力価を示す。更に、ウィルス粒子は一般的に直径50nm〜150nmである。
【0013】
1つの実施形態において、コラーゲン結合ドメインはフォン・ビルブラント因子のD2ドメインから誘導したペプチドを含む。一般的に、フォン・ビルブラント因子は哺乳類より誘導される。ペプチドはアミノ酸配列Gly−His−Val−Trp−Arg−Glu−Pro−Ser−Phe Met−Ala−Lys−Ser−Ala−Ala(配列番号1)を含む。別の実施形態において、ペプチドは4070A両栄養性エンベロープタンパクのgp70部分に含有される。
【0014】
別の実施形態において、治療用ポリペプチドはサイクリンG1のN末端欠失突然変異体、インターロイキン−2(IL−2)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)またはチミジンキナーゼである。
【0015】
本明細書に開示した標的化された送達ベクターは一般的に、診断用または治療用のポリペプチドをコードずる核酸配列を含有する。本明細書の別の部分でより詳細に説明するとおり、例示される本発明の治療用タンパクおよびポリペプチドは例えば自殺タンパク、アポトーシス誘導タンパク、サイトカイン、インターロイキンおよびTNFファミリータン
パクを包含する。例示される診断用のタンパクまたはペプチドは例えば緑色蛍光タンパクおよびルシフェラーゼである。
【0016】
別の実施形態において、新生物障害を有する被験体の治療方法が提供される。方法は、本明細書に記載するウィルス粒子に被験体を接触させることを含む第1相のプロトコルを含み、ここで被験体はi)連続して、1〜約6日間被験体に投与される約1x10〜6x10単位/日の第1のウィルス粒子用量水準;ii)連続して、第1のベクター用量の投与の後に、1〜約3日間被験体に投与される約7x10〜約1x1010単位/日の第2のウィルス粒子用量水準;および、iii)連続して、第2のベクター用量の投与の後に、1〜約3日間被験体に投与される約1x1010〜約5x1010単位/日の第2のウィルス粒子用量水準;と接触させる。この方法は更に、本明細書に記載するウィルス粒子に被験体を接触させることを含む第2相のプロトコルを含み、ここで被験体は、連続して、第1相のプロトコルの後に、1〜約15日間被験体に投与される約1x10〜約5x1010単位/日のウィルス粒子用量水準に接触させる。この方法は場合により、第1相および第2相のプロトコルの前、同時、または後に被験体に化学療法剤を投与することを含む。第1のウィルス粒子用量水準は約4x10〜5x10単位/日であり得る。第2のウィルス粒子用量水準は約9x10〜約1x1010単位/日であり得る。第3のウィルス粒子用量水準は約1x1010〜約2x1010単位/日であり得る。一般的に、ウィルス粒子は曝露されたコラーゲンの領域内で被験体に蓄積する。このような曝露されたコラーゲンの領域は新生物患部、活性血管形成領域、新生物患部、血管傷害の領域、外科処置部位、炎症部位および組織破壊領域を包含する。
【0017】
本明細書中で開示される標的化された送達ベクターは、局所、静脈内、動脈内、結腸内、気管内、腹腔内、鼻内、血管内、硬膜下、頭蓋内、骨髄内、胸膜腔内、皮内、皮下、筋肉内、眼内、骨内および/または滑液包内に投与することができる。
【0018】
別の実施形態においては、プロモーターに機能的に連結した任意のマルチクローニングサイト、ここでプロモーターは非相同核酸配列の発現を支援するもの;5’および3’の長末端反復配列;Ψレトロウィルスパッケージング配列;5’LTRの上流に位置するCMVプロモーター;プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列、ここで配列はプラスミドを含有する産生細胞に薬剤耐性を与えるポリペプチドをコードしているもの;および、SV40複製起点を含むプラスミドである。例示されるプラスミドはpC−REXIIおよびpC−REXである。別の例示される誘導物は治療用または診断用のポリペプチドをコードする非相同核酸配列を含むものである。
【0019】
他の実施形態においては、標的化された送達ベクターの製造のためのキットが提供される。キットは一般的に、例えばウィルス粒子の製造のための本明細書に開示したプラスミドを含有する容器を含む。このようなキットは更にプラスミドでトランスフェクトするのに適する産生細胞、およびプラスミドで産生細胞を一過性にトランスフェクトすることに関する説明書を含む。説明書は更に標的化された送達ベクターの生産を可能にする条件下でトランスフェクトされた産生細胞を培養するための方法を含む。例えば標的化されたウィルス粒子の生産のためのキットはBv1/pCAEPプラスミド、pCgpnプラスミド、および、pdnG1/C−REXプラスミドまたはpdnG1/C−REXIIプラスミドを含有する容器を含むことができる。このようなキットは更に、293T細胞およびプラスミドで細胞を一過性にトランスフェクトすること、および標的化されたウイルス粒子の生産を可能にする条件下でトランスフェクトされた細胞を培養することに関する説明書を含むことができる。
【0020】
別の実施形態においては、新生物障害を治療するためのキットが提供される。キットは製薬上許容しうる担体中に本明細書に記載した方法で生産されるウィルス粒子を含有する
容器、および被験体にウィルス粒子を投与することに関する説明書を含む。投与は表1に示す例示される治療プロトコルに従って行うことができる。
【0021】
別の実施形態において、遺伝子療法ビジネスを実施するための方法が提供される。この方法は、標的化された送達ベクターを生成させること、および、適切な培地中の溶液中に粒子を回収して懸濁することおよび懸濁液を保存することによりベクターのバンクを樹立することを含む。この方法は更に、粒子および粒子の使用に関する説明書を医師または健康管理提供者に提供してこれを必要とする患者への投与に供することを含む。ベクターの使用に関するこのような説明書は表1に示す例示される治療方法を含むことができる。この方法は場合により患者または患者の保険提供者に支払請求することを更に含む。
【0022】
更に別の実施形態においては、本明細書に開示したキットを医師または健康管理提供者に提供することを含む遺伝子療法ビジネスを実施するための方法が提供される。
【0023】
本発明のこれらおよび他の特徴、実施形態、目的および側面並びにこれを実施するための最良の形態は、以下の発明の詳細な説明を添付図面と組み合わせて読むことにより更に完全に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】図1Aは、外科処置床の区域の膵臓の領域内における大型の再発腫瘍(T;括弧内区域)および転移を示す肥大した大動脈傍リンパ節(N)を示す処置サイクル番号1の終了後1日の患者番号1の代表的MRIを示す。
【図1B】図1Bは、腫瘍塊の40〜50%を含む中央壊死(nec)の大区域を伴った再発腫瘍(T;括弧内区域)の形状の不規則さ、および大動脈傍リンパ節転移(N)のサイズの有意な減少を示す処置サイクル番号2の終了後1日の患者番号1の代表的MRIを示す。
【図1C】図1Cは患者番号1におけるCA19−9血清レベルの低下をRexin−Gが誘導することを示すグラフである。縦軸にプロットした血清CA19−9レベル(U/ml)は、横軸にプロットした時間(日)の関数として表される。各処置サイクルの開始を矢印で示す。
【図2A】図2Aは、処置サイクル番号1の開始時に得られた患者番号2の代表的腹部CTスキャンを提供し、上腸間膜静脈(SMV)および上腸間膜動脈(SMA)を侵食している膵臓頭部(T)の領域における6.0cmの塊を示す。
【図2B】図2Bは、療サイクル番号2の終了後2日に得られた患者番号2のフォローアップ腹部CTスキャンであり、これは、膵臓腫瘍の塊(T)のサイズが減少し、上腸間膜血管(SMVおよびSMA)から退行していることを示す。各処置サイクルの開始時を矢印で示す。
【図2C】図2Cは、患者番号2の原発腫瘍の生育をRexin−Gが停止させることを示すグラフである。腫瘍サイズの持続的低減は、Rexin−Gによる連続処置に伴って観察された。式:幅×長さ×0.52(O’Reillyら,Cell 88,277,1997)を用いて得られ、そして縦軸にプロットした腫瘍体積(cm)は、横軸にプロットした時間の関数として表される。各処置サイクルの開始を矢印で示す。
【図3A】図3Aは、Rexin−G+ゲムシタビンが転移膵臓癌を有する患者番号3における腫瘍の退縮を誘導することを示すデータを示す。原発腫瘍の腫瘍体積(cm)を、Y軸にプロットし、そして時間、日の関数として表す。Rexin−Gの注入の開始を矢印で示す。
【図3B】図3Bは、Rexin−G+ゲムシタビンが転移膵臓癌を有する患者番号3における腫瘍の退縮を誘導することを示すデータを示す。門脈結節の腫瘍体積をY軸にプロットし、時間、日の関数として表す。Rexin−Gの注入の開始を矢印で示す。
【図3C】図3Cは、Rexin−G+ゲムシタビンが転移膵臓癌を有する患者番号3における腫瘍の退縮を誘導することを示すデータを示す。肝小結節の数をY軸にプロットし、時間、日の関数として表す。Rexin−Gの注入の開始を矢印で示す。
【図4A】図4Aは患者番号1について、縦軸にmmHgで表した収縮期血圧をプロットし、一方、横軸にREXIN−G注入時間をプロットしたものである。
【図4B】図4Bは、患者番号1について、縦軸に1分あたりの脈拍数をプロットし、一方、横軸にREXIN−G注入時間をプロットしたものである。
【図4C】図4Cは、患者番号1について、縦軸に1分あたりの呼吸数をプロットし、一方、横軸にREXIN−G注入時間をプロットしたものである。
【図5A】図5Aは、患者番号1について、Y軸にプロットし、X軸にプロットした処置日数の関数として表した、ヘモグロビン(gms%)、白血球数および血小板数を示すデータを示す。
【図5B】図5Bは、患者番号1の肝機能に対してRexin−Gが悪影響を及ぼさないことを示すデータを示す。Y軸にプロットしたAST(U/L)ALT(U/L)およびビリルビン(mg%)をX軸にプロットした処置日数の関数として表す。
【図5C】図5Cは、Y軸にプロットし、X軸にプロットした処置日数の関数として表した患者番号1の血中尿素窒素(mg%)、クレアチニン(mg%)およびカリウム(mmol/L)レベルを示し、用量レベルI(4.5x10cfu/用量)を連続6日間与え、2日間休止し、その後用量レベルII(9x10cfu/用量)を2日間与え、次いで、用量レベルIII(1.4x1010cfu/)を2日間与えた。
【図6A】図6Aは、患者番号2の血流力学的機能に対してRexin−Gの用量上昇が悪影響を及ぼさないことを示すデータを提供する。各用量レベルにおいて、横軸にプロットした注入時間の関数として、収縮期血圧(mmHg)、脈拍数/分、および呼吸数/分を縦軸にプロットする。
【図6B】図6Bは、患者番号2の血流力学的機能に対してRexin−Gの用量上昇が悪影響を及ぼさないことを示すデータを提供する。各用量レベルにおいて、横軸にプロットした注入時間の関数として、収縮期血圧(mmHg)、脈拍数/分、および呼吸数/分を縦軸にプロットする。
【図6C】図6Cは、患者番号2の血流力学的機能に対してRexin−Gの用量上昇が悪影響を及ぼさないことを示すデータを提供する。各用量レベルにおいて、横軸にプロットした注入時間の関数として、収縮期血圧(mmHg)、脈拍数/分、および呼吸数/分を縦軸にプロットする。
【図7A】図7Aは、Y軸にプロットし、X軸にプロットした処置日数の関数として表した患者番号2におけるヘモグロビン(gms%)、白血球数および血小板数を示す。
【図7B】図7Bは、患者番号2の肝機能に対してRexin−Gが悪影響を及ぼさないことを示すデータを示す。Y軸にプロットしたAST(U/L)ALT(U/L)およびビリルビン(mg%)をX軸にプロットした処置日数の関数として表す。
【図7C】図7Cは、Y軸にプロットし、X軸にプロットした処置日数の関数として表した患者番号2の血中尿素態窒素(mg%)、クレアチニン(mg%)およびカリウム(mmol/L)濃度を示す。用量レベルI(4.5x10cfu/用量)を連続5日間与え、その後用量レベルII(9x10cfu/用量)を3日間与え、次いで、用量レベルIII(1.4x10cfu/用量)を2日間与えた。
【図8A】図8Aは、患者番号3について、Y軸にプロットし、X軸にプロットした処置日数の関数として表したヘモグロビン(gms%)、白血球数および血小板数を示す。
【図8B】図8Bは、患者番号3の肝機能に対してRexin−Gが悪影響を及ぼさないことを示すデータを示す。Y軸にプロットしたAST(U/L)ALT(U/L)およびビリルビン(mg%)をX軸にプロットした処置日数の関数として表す。
【図8C】図8Cは、患者番号3の腎機能に対してRexin−Gが悪影響を及ぼさないことを示すデータを示す。Y軸にプロットした血中尿素窒素(mg%)、クレアチニン(mg%)およびカリウム(mmol/L)レベルを、X軸にプロットした処置日数の関数として表す。用量レベルI(4.5x10cfu/用量)を連続6日間与えた。
【図9】図9は、Rexin−Gナノ粒子のサイズ測定を示す。Precision Detector Instrument(Franklin,MA 02038 U.S.A.)を用いて、流体力学的半径(rh)として分子サイズを決定するためにバッチモードにおいて動的光散乱(DLS)によりベクター試料を分析した。Precision Deconvolveソフトウエアを使用してDLSデータから種々のサイズの集団を数学的に決定した。3つのRexin−G臨床用ロットの平均粒径はそれぞれ、95nm、105nmおよび95nmであり、検出可能なウイルス凝集は無かった。
【図10】図10は、GTI発現ベクターG1nXSvNaの高感染力価(HIT)バージョンを示す。pRV109プラスミドは、強力なCMVプロモーターを提供する。得られるpREX発現ベクターは、SV40ラージT抗原を発現する産生細胞株(293T)中のエピソーム複製およびプラスミドレスキューのためのSV40 ori、E.coliにおける選択および維持のためのアンピシリン耐性遺伝子、および、ベクター力価を決定するためのSV40 e.p.により駆動されるネオマイシン耐性遺伝子を有する。目的の遺伝子をまずNot I突出およびSal I突出を有するPCR産物としてクローニングする。増幅したフラグメントをDNA配列分析により確認し、そして各フラグメントをpG1XsvNa(Gene Therapy Inc.)中にクローニングしることにより、レトロウイルス発現ベクターpREX内に挿入する。次にこのプラスミドのKpn Iフラグメントを切り出し、その後、線状化(Kpn I消化)したpRV109プラスミドとライゲーションして各HIT/pREXベクターを生じる。
【図11A】図11Aは、pC−REXプラスミドの制限地図を示す。このプラスミドは、G1XSvNa(Genetic Therapy,Inc.)に由来し、これにCMV(すなわち、プロモーターエンハンサー)が5’LTRの上流の唯一のSac II部位においてクローニングされている。診断用または治療用のポリペプチドをコードする非相同核酸配列(HS)をNot 1とSal 1の制限部位の間に含まれ得る。ネオ遺伝子は、そのネステッドoriを有するSV40 e.p.により駆動される。293T細胞における高力価ベクター生産のために、得られるpC−REXプラスミドを設計した。
【図11B】図11Bは、pdnG1/C−REXプラスミドの制限地図を示す。このプラスミドは、Not 1およびSal 1突出を含むようにPCRにより調製された209アミノ酸(630bp)のドミナントネガティブな突然変異体dnG1(472−1098ヌクレオチド;41−249アミノ酸;受託番号U47413)をコードする核酸配列を含むこと以外は図11Aに示すpC−REXプラスミドと同一である。
【図11C】図11Cは、pdnG1/C−REXの制限消化を示す。
【図12A】図12Aは、Bv1/pCAEPプラスミドの制限地図を示す。CAEP(P=Pst 1)は、成熟gp70ポリペプチドのアミノ酸6と7との間のCAE両栄養性エンベロープタンパク質(4070A)のN末端近傍の唯一のPst 1部位の付加により作製した。Bv1は、戦略上のリンカーによりフランキングされ、そしてPCAEPのPst 1部位にインフレームのコード配列として挿入された、vWFに由来するコラーゲン結合デカペプチドである。
【図12B】図12Bは、Bv1/pCAEPの制限消化を示す。
【図13A】図13Aは、pCgpnプラスミドの制限地図を示す。このプラスミドは、CMVの即時早期プロモーターのエンハンサーにより駆動されるMoMuLv gag−polをコードしている。EcoR 1クローニング部位にフランキングされるgag−polコード配列は、pGag−pol−gptとしてクローン3PO由来していた(Moarkowitzら,1988)。ベクター骨格は、pcDNA3.1+(Invitrogen)である。ウシ成長ホルモン由来のポリアデニル化シグナルおよび転写終止配列は、RNAの安定性を増強する。SV40 oriは、SV40ラージT抗原を発現する細胞株におけるエピソーム複製のためのe.p.と共に特徴付けられる。
【図13B】図13Bは、pCgpnの制限消化を示す。
【図14】図14は、新規pC−REX II(すなわち、EPEIUS−REX)プラスミドの地図を示す。
【図15】図15は、挿入された治療用サイトカイン遺伝子IL−2を有する新規pC−REX II(すなわち、EPEIUS−REX)プラスミドの地図を示す。
【図16】図16は、挿入された治療用サイトカイン遺伝子GM−CSFを有する新規pC−REX II(すなわち、EPEIUS−REX)プラスミドの地図を示す。
【図17−1】図17Aは、pC−REX IIのMCS部位を利用したHStk(レポーター)遺伝子に近位にある複雑な一連の補助プロモーターを示す。図17Bは、pC−REX IIのMCS部位を利用したHStk(レポーター)遺伝子に近位にある複雑な一連の補助プロモーターを示す。図17Cは、pC−REX IIのMCS部位を利用したHStk(レポーター)遺伝子に近位にある複雑な一連の補助プロモーターを示す。図17Dは、pC−REX IIのMCS部位を利用したHStk(レポーター)遺伝子に近位にある複雑な一連の補助プロモーターを示す。
【図17−2】図17Eは、pC−REX IIのMCS部位を利用したHStk(レポーター)遺伝子に近位にある複雑な一連の補助プロモーターを示す。図17Fは、pC−REX IIのMCS部位を利用したHStk(レポーター)遺伝子に近位にある複雑な一連の補助プロモーターを示す。図17Gは、pC−REX IIのMCS部位を利用したHStk(レポーター)遺伝子に近位にある複雑な一連の補助プロモーターを示す。
【図17−3】図17Hは、図17A〜Gに示す補助プロモーター由来の腫瘍細胞内の差次的遺伝子発現のウエスタンブロットを示す。
【図18−1】図18は、pIRES由来のCMVプロモーター配列の核酸配列を示す。
【図18−2】図18は、pIRES由来のCMVプロモーター配列の核酸配列を示す。
【図19A−1】図19Aは、標的ベクターを生産するための閉鎖ループ多様体系を示す。
【図19A−2】図19Aは、標的ベクターを生産するための閉鎖ループ多様体系を示す。
【図19B】図19Bは、閉鎖ループ多様体系の構成要素に関する情報を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(詳細な説明)
標的の送達系は、病理区域に選択的にレトロウイルスベクターまたは他の任意のウイルスもしくは非ウイルスのベクター、タンパク質または薬剤を標的とし(すなわち、向病巣性標的)、脈菅(Hallら,Hum Gene Ther,8:2183−92,1997;Hallら,Hum Gene Ther,11:983−93,2000)または癌病変(Gordonら,Hum Gene Ther 12:193−204,2001;Gordonら,Curiel DT,Douglas JT.(編)Vector Targeting Strategies for Therapeutic Gene Delivery,New York,NY:Wiley−Liss,Inc.293−320,2002)、活動新脈管形成の区域、および組織損傷または炎症の区域への優先的遺伝子送達をインビボで高い効率にて可能にする。
【0026】
本明細書に開示する方法は、細胞自体ではなくむしろ病変の組織病理にベクターを標的として病理区域における効果的ベクター濃度を最適化するために修飾された表面タンパク質を含むウイルス粒子および非ウイルス粒子の使用を包含する。静脈内注射される場合、向病巣性ベクターは、癌病変、活動新脈管形成の区域、腫瘍性病変、転移部位、外科的部位、脈菅損傷の区域、炎症部位または組織破壊の任意の区域に蓄積する。この所望の機能利益(gain−of−function)は、循環遺伝子療法ベクターの安全性および効率の両方を劇的に上昇させる。
【0027】
(定義)
他に規定されない限り、本明細書において使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解される意味と同一の意味を有する。本明細書中の開示全体を通して参照される全ての特許、特許出願、公開出願および出版物、Genbank配列、ウエブサイトならびに他の公開された材料は、その全体が本明細書に参考として援用される。本明細書における用語について、複数の定義が存在する場合は、その章におけるものを優先する。URLまたは他のこのような識別子もしくはアドレスに参照される場合は、そのような識別子は、変更され得、インターネット上の特定の情報は、入れ替えられ得るが、同等の情報が、インターネットを検索することにより見出され得る。それを参照することにより、そのような情報の入手性および公的な流布度が証明される。
【0028】
本明細書においては、「核酸」とは、少なくとも2つの共有結合したヌクレオチドまたはヌクレオチド類縁体サブユニットを含むポリヌクレオチドを指す。核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)またはDNAもしくはRNAの類縁体であり得る。ヌクレオチド類縁体は市販されており、このようなヌクレオチド類縁体を含有するポリヌクレオチドの製造方法は公知である(Lin et al.,(1994)Nucl.Acids Res.22:5220−5234;Jellinek et al.(1995)Biochemistry 34:11363−11372;Pagratis
et al.(1997)Nature Biotechnol.15:68−73)。核酸は、1本鎖、2本鎖またはその混合物であり得る。本明細書の目的では、特段の記載が無い限り、核酸は2本鎖であるか、または内容から明らかである。
【0029】
本明細書においては、DNAは全ての種類および大きさのDNA分子(cDNA、プラスミドおよびDNA(修飾されたヌクレオチドおよびヌクレオチド類縁体が挙げられる)が挙げられる)を包含するものとする。
【0030】
本明細書においては、ヌクレオチドは、ヌクレオシドモノホスフェート、ヌクレオシドジホスフェートおよびヌクレオシドトリホスフェートを包含する。ヌクレオチドはまた、改変ヌクレオチド(例えば、ホスホロチオエートヌクレオチドおよびデアザプリンヌクレオチドおよび他のヌクレオチド類縁体が挙げられるが、これらに限定されない)を包含する。
【0031】
本明細書においては、「被験体」という用語は、大型DNA分子を導入することができる動物、植物、昆虫および鳥類を指す。これらには、より高次の生物、例えば哺乳類および鳥類が包含され、ヒト、霊長類、げっ歯類、ウシ、ブタ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、マウス、ラット、モルモット、ネコ、イヌ、ウマ、ニワトリなどが挙げられる。
【0032】
本明細書においては、「被験体に投与する」とは、送達剤および/または大型核酸分子の1つ以上が、被験体内に存在する標的細胞が最終的にその薬剤および/または大型核酸分子と接触するように、一緒または個別に被験体に導入されるか適用されるための手順である。
【0033】
本明細書においては、「標的化された送達ベクター」または「標的化された送達ベヒクル」とは、外因性核酸分子を保有して標的細胞または組織に輸送するウィルスおよび非ウィルスの両方の粒子を指す。ウィルスベヒクルとしては、レトロウィルス、アデノウィルスおよびアデノ随伴ウィルスが挙げられるが、これらに限定されない。非ウィルスベヒクルとしては、微粒子、ナノ粒子、ビロソームおよびリポソームが挙げられるがこれらに限定されない。「標的化される」とは、本明細書においては、送達ベヒクルと関連づけられ、そのベヒクルを細胞または組織に標的化するリガンドの使用を指す。リガンドとしては、抗体、受容体およびコラーゲン結合ドメインが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書においては、「導入」と互換的に使用される「送達」とは、外因性核酸分子が、それらが細胞内に位置するように細胞内に転移するプロセスを指す。核酸の送達は核酸の発現とは別のプロセスである。
【0035】
本明細書においては、「マルチクローニングサイト(MCS)」とは、複数の制限酵素部位を含有するプラスミドにおける核酸領域であり、その何れかを標準的な組み換え手法と共に使用することによりベクターを消化することができる。「制限酵素消化」とは、核酸分子の特定の位置のみにおいて機能する酵素による核酸分子の触媒的切断を指す。これらの制限酵素の多くは市販されている。このような酵素の使用は当業者が広範に理解するとおりである。MCS内で切断する制限酵素を用いてベクターを線状化またはフラグメン
ト化してベクターに外因性配列をライゲーションする場合が多い。
【0036】
本明細書においては、「複製起点」(「ori」と称される場合が多い)とは複製が開始される特定の核酸配列である。或は、宿主細胞が酵母である場合は自律的に複製する配列(ARS)を使用することができる。
【0037】
本明細書においては、「選択可能またはスクリーニング可能なマーカー」は細胞に識別可能な変化を付与することにより発現ベクターを含有する細胞の容易な識別を可能にする。一般的に、選択可能なマーカーは選択を可能にする特性を付与するものである。正の選択マーカーはマーカーの存在がその選択を可能にするものである一方、負の選択マーカーはその存在がその選択を妨げるものである。正の選択マーカーの例は薬剤耐性マーカーである。
【0038】
通常は、薬剤選択マーカーが含まれれば形質転換体のクローニングおよび識別が容易になり、例えばネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシンおよびヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子が有用な選択可能なマーカーである。条件の実施に基づいて形質転換態の判別を可能にする表現型を付与するマーカーのほかに、他の種のマーカー、例えばスクリーニング可能なマーカー、例えば熱量分析に基づくGFPもまた意図される。或は、スクリーニング可能な酵素、例えば単純疱疹ウィルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)を利用してよい。FACS分析と組み合わせる場合のある免疫学的マーカーの使用法は当業者に公知である。使用するマーカーはそれが遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現されることが可能である限り重要ではないと考えられる。選択可能およびスクリーニング可能なマーカーの別の例は当業者に周知である。
【0039】
「トランスフェクション」という用語は細胞による外来性DNAの取り込みを指すために使用される。外因性DNAが細胞膜の内部に導入されている場合に、細胞は「トランスフェクト」されている。多くのトランスフェクション技術が当該分野で一般的に知られている。例えばGraham et al.,Virology 52:456(1973);Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual (1989);Davis et al.,Basic Methods in Molecular Biology(1986);Chu
et al.,Gene 13:197(1981)を参照できる。このような技術は1つ以上の外因性DNA部分、例えばヌクレオチド組み込みベクターおよび他の核酸分子を適当な宿主細胞に導入するために使用できる。この用語は化学的、電気的およびウィルス媒介のトランスフェクション手順を包含する。
【0040】
本明細書においては、「発現」とは、核酸がペプチドに翻訳されるか、RNAに転写され、そしてそれが例えばペプチド、ポリペプチドまたはタンパクに翻訳されるプロセスを指す。核酸がゲノムDNAから誘導される場合は、発現は適切な真核生物の宿主細胞または生物を選択すれば、mRNAのスプライシングを含んでよい。異種核酸を宿主細胞内で発現させたい場合は、これをまず細胞内に送達しなければならず、そして次に、一旦細胞内に入れば、最終的には核内に留まらなければならない。
【0041】
本明細書においては、「被験体に適用する」とは、被験体中に存在する標的細胞を最終的に超音波または電気エネルギーのようなエネルギーに接触させる手順である。適用はエネルギーが適用できる何れのプロセスによるものであってもよい。
【0042】
「宿主細胞」という用語は、例えば、標的化された送達ベクターを製造するための複数の構築物についてレシピエントとして使用できるか、使用されている、微生物、酵母細胞
、昆虫細胞および哺乳類細胞を指す。この用語は、トランスフェクトされているもとの細胞の子孫を包含する。即ち、「宿主細胞」とは本明細書においては、一般的に外因性DNA配列でトランスフェクトされている細胞を指す。単一の親細胞の子孫は、天然、偶発または意図的な突然変異により、元の親と、形態において、またはゲノムもしくは全DNA相補体において、必ずしも完全に同一である必要は無い。
【0043】
本明細書においては、「遺伝子療法」では、治療または診断を模索している障害または状態を有する哺乳類、特にヒトの特定の細胞、標的細胞への異種DNAの転移を包含する。異種DNAが発現されこれによりコードされる治療用産物が生産されるような態様で、DNAを選択された標的細胞に導入する。或は、異種DNAは何らかの態様において治療用産物をコードするDNAの発現を媒介してよく、それは何らかの態様において直接または間接的に治療用産物の発現を媒介するペプチドまたはRNAのような産物をコードしていてよい。遺伝子療法はまた、欠損遺伝子の代替となる遺伝子産物をコードする核酸を送達するために、または、それが導入される哺乳類または細胞により生産される遺伝子産物を補給するために使用してよい。導入された核酸は、通常は哺乳類宿主において生産されないか、または治療上有効な量ではもしくは治療上有用な時間には生産されないような、治療用化合物(例えば、成長因子、そのインヒビター、または腫瘍壊死因子もしくはそのインヒビター(例えばその受容体))をコードしてよい。治療用産物をコードする異種DNAはその生産または発現を増強するか何か別の改変を行うために、罹患宿主の細胞への導入よりも前に改変され得る。
【0044】
本明細書においては、「異種核酸配列」とは典型的にはそれが発現される細胞によりインビボで通常は生産されないRNAおよびタンパクをコードするか、または、転写、翻訳もしくは他の調節可能な生化学的プロセスに影響することにより内因性DNAの発現を改変するメディエーターを媒介またはコードするDNAである。異種核酸配列はまた、外来性DNAとも称する。発現される細胞に対して異種または外来性であると当業者が認識または考える如何なるDNAも、本明細書においては異種DNAに包含される。異種DNAの例としては、追跡可能なマーカータンパク(例えば薬剤耐性を扶養するタンパク)をコードするDNA、治療上有効な物質(例えば抗癌剤、酵素およびホルモン)をコードするDNA、および、他の種類のタンパク(例えば抗体)をコードするDNAが挙げられる。異種DNAによりコードされる抗体は、異種DNAが導入されている細胞の表面上に分泌または発現されてよい。
【0045】
(プラスミド)
本明細書に開示するプラスミドは治療用および診断用の手順において使用するための標的化された送達ベクターをトランスフェクトして生産するために使用される。一般的に、このようなプラスミドは本明細書に開示した標的化されたベクターのウィルスまたは非ウィルスの成分をコードする核酸配列を提供する。このようなプラスミドは例えばコラーゲン結合ドメインを含有するように改変された4070A両栄養性エンベロープタンパクをコードする核酸配列を含む。別のプラスミドはプロモーターに作動可能に連結されている核酸配列を含むことができる。配列は一般的にウィルスgag−polポリペプチドをコードしている。プラスミドは更に、プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列を含み、そして配列は産生細胞に薬剤耐性を与えるポリペプチドをコードしている。複製起点も含まれる。別のプラスミドは、診断用または治療用のポリペプチドをコードする分泌核酸配列;5’および3’長末端反復配列;Ψレトロウィルスパッケージング配列、5’LTRの上流のCMVプロモーター、プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列およびSV40複製起点を含むことができる。
【0046】
異種核酸配列は、一般的に診断用または治療用のポリペプチドをコードする。特定の実施形態においては、治療用のポリペプチドまたはタンパクはそれ自体で、または他の化合
物の存在下で細胞死をもたらす「自殺タンパク」である。このような自殺タンパクの代表例は単純疱疹ウィルスのチミジンキナーゼである。別の例としては、水痘−帯状疱疹ウィルスのチミジンキナーゼ、細菌遺伝子のシトシンデアミナーゼ(5−フルオロシトシンを高毒性化合物5−フルオロウラシルに変換する)、p450オキシドレダクターゼ、カルボキシペプチダーゼG2、ベータ−グルクロニダーゼ、ペニシリン−V−アミダーゼ、ペニシリン−G−アミダーゼ、ベータ−ラクタマーゼ、ニトロレダクターゼ、カルボキシペプチダーゼA、リナマラーゼ(ベータ−グルコシダーゼとも称する)、E.coli gpt遺伝子およびE.coli Deo遺伝子が挙げられるが、他のものも当該分野で公知である。一部の実施形態においては、自殺タンパクはプロドラッグを毒性化合物に変換する。本明細書においては、「プロドラッグ」とは毒性生成物、即ち腫瘍細胞に対して毒性のものに変換されることのできる、本発明の方法で有用な何れかの化合物である。プロドラッグは自殺タンパクにより毒性生成物に変換される。このようなプロドラッグの代表例としては、チミジンキナーゼについてはガンシクロビル、アシクロビルおよびFIAU(1−(2−デオキシ−2−フルオロ−ベータ−D−アラビノフラニシル)−5−ヨードウラシル);オキシドレダクターゼについてはイフォスファミド;VZV−TKについては6−メトキシプリンアラビノシド;シトシンデアミナーゼについては5−フルオロシトシン;ベーターグルクロニダーゼについてはドキソルビシン;ニトロレダクターゼについてはCB1954およびニトロフラゾン;ならびにカルボキシペプチダーゼAについてはN−(シアノアセチル)−L−フェニルアラニンまたはN−(3−クロロプロピオニル)−L−フェニルアラニンが挙げられる。プロドラッグは当業者により容易に投与され得る。プロドラッグの投与の最適な用量および経路は、当業者が容易に決定できる。
【0047】
一部の実施形態においては、治療用のタンパクまたはポリペプチドは癌抑制因子、例えばp53またはRbまたはそのようなタンパクまたはポリペプチドをコードする核酸である。当然ながらこのような種々の癌抑制因子、ならびにそれら癌抑制因子および/またはこれらをコードする核酸を得る方法は当業者に公知である。
【0048】
治療用タンパクまたはポリペプチドの他の例としては、プロアポトーシス治療用タンパクおよびポリペプチド(例えばp15、p16またはp21.sup.WAF−1)が挙げられる。
【0049】
サイトカインおよびそれをコードする核酸もまた治療用のタンパクおよびポリペプチドとして使用してよい。その例としては、GM−CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子);TNF−アルファ(腫瘍壊死因子アルファ);インターフェロン類(IFN−アルファおよびIFN−ガンマが挙げられるが、これらに限定されない);およびインターロイキン類(インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−ベータ(IL−ベータ)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−10(IL−10)、インターロイキン−12(IL−12)、インターロイキン−13(IL−13)、インターロイキン−14(IL−14)、インターロイキン−15(IL−15)、インターロイキン−16(IL−16)、インターロイキン−18(IL−18)、インターロイキン−23(IL−23)、インターロイキン−24(IL−24)が挙げられるが、これらに限定されない)を包含するが、他の実施形態も当該分野で公知である。
【0050】
細胞殺傷遺伝子の別の例としては、変異したサイクリンG1遺伝子が挙げられる。例えば、細胞殺傷遺伝子は、サイクリンG1タンパクのドミナントネガティブ変異であり得る(例えば、WO/01/64870)。
【0051】
以前はレトロウィルスベクター(RV)構築物は一般的に2つの個別のレトロウィルス
(RV)プラスミド、即ち一方は、レトロウィルスLTR、パッケージング配列および対応する目的の遺伝子を含有するもの、および、もう一方は、強力なプロモーター(例えばCMV)並びに外生の機能的配列を含有するレトロウィルスベクターのクローニングおよび融合により製造されていた。本明細書に開示するpC−REXII(e−REX)ベクターは実験遺伝子の指向性クローニングを容易にする一次プラスミドにおけるクローニング部位の独特のセットのインサートを含む改良されたプラスミドを指す。強力なプロモーター(例えばCMV)はレシピエント産生細胞内で発生したRNAメッセージの量を増大させるためにプラスミド骨格において使用されるが、それ自体は遺伝子に隣接するレトロウィルスLTRの外部に存在するためレトロウィルス粒子内にはパッケージされない。
【0052】
従って、G1xSvNaベクター(これは、FDAによりヒトでの使用についてあらかじめ許可された)内の戦略的部位中に強力なCMVプロモーター(PCRにより得る)を含むことにより、以前に報告されていたベクターのプラスミドサイズと配列とに関する懸案事項を排除した、改良プラスミドが設計された。この主流となる構築物は、pC−REXと命名された。pC−REXは、さらに改変されて一連の独特のクローニング部位が取り込まれており(pC−REXIIのMCS参照、図14)、これにより指向的クローニングならびに/または、複数の遺伝子および補助的機能性ドメインの挿入が可能となる。すなわち、この新しいプラスミドは、pC−REXおよびpC−REXII(EPEIUS−REXまたは、eREX)と命名される。このpC−REXプラスミドの設計(図11A参照)は、直接の並列比較においてpHIT−112/pREXの設計よりも性能が優れていた。この新しいプラスミド設計をさらに改変して、種々の治療有効ポリペプチドのコード配列を含むようにした。1つの例においては、ドミナントネガティブサイクリンG1(dnG1)(図11B参照)を、治療用遺伝子として含有させた。三要素ウイルス粒子(env、gag−polおよびdnG1遺伝子ベクター構築物)は、臨床試験の公開された報告書においては、総称してREXIN−GTMと称されている。従って、REXIN−Gは、標的化された注射可能なウイルス粒子中にパッケージングされ、カプシド化されそしてエンベロープ化されている、標的化送達ベクターdnG1/C−REXを表す。
【0053】
標的化リガンドが、本明細書に開示されるプラスミド中に含まれる。一般的に、この標的化リガンドは、改変された両栄養性CAEエンベロープポリペプチド(その標的化ポリペプチドがアミノ酸残基6とアミノ酸残基7との間に標的化ポリペプチドが挿入されている)の場合のように、プラスミドの核酸配列によりコードされるレトロウイルスエンベロープのネイティブ(すなわち未改変)のレセプター結合領域の連続する番号を有する2つのアミノ酸残基の間に挿入される。このポリペプチドは、モロニーマウス白血病ウイルスの両栄養性エンベロープ中に含まれる、gp70として知られるタンパク質の部分である。一般的には、標的化ポリペプチドは、細胞外マトリックス成分(コラーゲン(I型コラーゲンおよびIV型コラーゲンを含む)、ラミニン、フィブロネクチン、エラスチン、グリコサミノグリカン、プロテオグリカンが挙げられるが、これらに限定されない)に結合する結合領域、およびフィブロネクチンに結合する配列(例えば、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸、すなわちRGD配列)含む。標的化このポリペプチドに含まれ得る結合領域としては、フォンビルブラント因子内の機能的ドメインであるポリペプチドドメインまたはその誘導体が挙げられるが、これらに限定されず、そのようなポリペプチドドメインは、コラーゲンに結合する。1つの実施形態において、その結合領域は、構造:Trp−Arg−Glu−Pro−Ser−Phe−Met−Ala−Leu−Serを有するポリペプチドである。
【0054】
(標的化されたベクターを製造するための方法)
本開示は、ウイルスベクター粒子および非ウイルスベクター粒子(レトロウイルスベクター粒子、アデノウイルスベクター粒子、アデノ随伴ウイルスベクター粒子、ヘルペスウ
イルスベクター粒子、擬似型ウイルス、および改変型ウイルス表面タンパク質または標的化されたウイルス表面タンパク質(例えば、標的化されたウイルスエンベロープポリペプチド)を有する非ウイルスベクターの製造に関し、ここで、そのような改変されたウイルス表面タンパク質(例えば、改変されたウイルスエンベロープポリペプチド)は、コラーゲンのような細胞外マトリックス成分に結合する結合領域を含む標的化ポリペプチドを含む。この標的化ポリペプチドは、ウイルス表面タンパク質の2つの連続するアミノ酸残基の間に位置し得るか、あるいは、ウイルス表面タンパク質から除去されているアミノ酸残基を置換し得る。
【0055】
遺伝子治療を達成するために最も頻繁に使用される送達系の1つは、ウイルスベクター(最も一般的には、アデノウイルスベクターおよびレトロウイルスベクター)を含む。例示的なウイルスベースのベヒクルとしては、組換えレトロウイルス(例えば、WO90/07936;WO94/03622;WO93/25698;WO93/25234;米国特許5,219,740号;WO93/11230;WO93/10218;米国特許4,777,127号;英国特許2,200,651号;EP 0 345 242;およびWO91/02805参照)、アルファウイルスベースのベクター(例えば、シンドビスウイルスベクター、セムリキ森林ウイルスベクター(ATCC VR−67;ATCC VR−1247)、ロス川ウイルスベクター(ATCC VR−373;ATCC VR−1246)およびベネズエラウマ脳脊髄炎ウイルスベクター(ATCC VR−923;ATCC VR−1250;ATCC VR1249;ATCC VR−532))およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(例えば、WO94/12649、WO93/03769;WO93/19191;WO94/28938;WO95/11984およびWO95/00655)が挙げられるが、これらに限定されない。Curiel,Hum.Gene Ther.(1992)3:147に記載されている死滅アデノウイルスに連結されたDNAの投与もまた、使用され得る。
【0056】
遺伝子送達目的のためには、ウイルス粒子は、標的細胞に対してネイティブであるウイルスから、または、標的細胞に対して非ネイティブであるウイルスから、発生させられ得る。一般的に、ネイティブのウイルスベクターよりも非ネイティブのウイルスベクターを使用するほうが、望ましい。ネイティブのウイルスベクターは、標的細胞に対して天然の親和性を有し得るが、このようなウイルスは、それらが標的細胞中で増殖する可能性がより高いことので、より大きな有害性を有する。この点に関し、ヒト細胞内で増殖するためには本来設計されていない、動物ウイルスベクターが、ヒト細胞への遺伝子送達のためには、有用であり得る。しかしながら、遺伝子送達における使用のためにそのような動物ウイルスベクターの十分な収率を得るためには、ネイティブ動物パッケージング細胞内で生産を行う必要がある。しかしながら、この方法で生産されたウイルスベクターは、通常は、ヒト細胞への親和性を提供し得る、エンベロープの一部またはカプシドの一部のいずれかとしての、あらゆる成分を欠失している。例えば、MMLVのようなエコトロピックマウス(ネズミ)レトロウイルスのような非ヒトウイルスベクターの生産のための現在の慣行は、マウスパッケージング細胞系統において生成される。ヒト細胞親和性のために必要とされる別の成分が、提供されなければならない。
【0057】
一般的には、ウイルスベクターの増殖(ヘルパーウイルスを使用しない)は、パッケージング成分の核酸配列が細胞ゲノム内に安定に組み込まれており、かつウイルス核酸をコードする核酸がそのような細胞系統に導入されている、パッケージング細胞内で進行する。現在入手可能なパッケージング系統は、遺伝子治療用途のためにヒト細胞を形質導入するために十分な力価の産生クローンを与え、そしてヒトの臨床試験の開始をもたらしている。しかしながら、これらの系統が不完全である、2つの領域が存在する。
【0058】
第1に、特定の用途のために適切なレトロウイルスベクターの設計は、数種のベクター
構成の構築および試験を必要とする。例えば、Belmontら、Molec.and Cell.Biol.8(12):5116−5125(1988)は、最高力価の産生体を作製しかつ最適発現を得ることが可能であるベクターを同定するために、16種のレトロウイルスベクターから安定な産生体系統を構築した。検討した構成の一部には、(1)LTR駆動性発現 対 内部プロモーター;(2)ウイルス遺伝子または細胞遺伝子から誘導された内部プロモーターの選択;および(3)選択マーカーが構築物に取り込まれたかどうか、を含んでいた。安定な産生体系統を生成させる必要なく、急速で高力価のウイルス生産を可能にするパッケージング系は、それが数種の構築物から誘導された高力価生産体のクローンの同定のために必要とされていた約2ヶ月を節約するという点において、高度に有利である。
【0059】
第2に、NIH 3T3細胞と比較して、高力価の両栄養性レトロウイルス産生体を用いた哺乳類体細胞の初代培養物の感染効率は、かなり変動する。マウス筋芽細胞(Dhawanら、Science 254:1509−1512(1991))または、ラット毛管内皮細胞(Yaoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8101−8105(1991))の形質導入効率は、NIH 3T3細胞と概ね等しいことが示されたのに対し、イヌ肝細胞の形質導入効率(Armentanoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:6141−6145(1990))は、NIH 3T3細胞で観察されるものの僅か25%であった。原発性ヒト腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)、末梢血リンパ球から単離したヒトCD4+T細胞およびCD8+T細胞、ならびに霊長類の長期再形成造血幹細胞は、NIH 3T3細胞と比較して低い形質導入効率の極端な例である。精製されたヒトCD4+T細胞およびCD8+T細胞は、ある場合においては、安定な産生体クローンから得た上澄みで6%〜9%の水準まで感染したことが報告されている(Moreckiら、Cancer Immunol.Immunother.32:342−352(1991))。レトロウイルスベクターがneoR遺伝子を含有する場合、形質導入された細胞が高度に富化されている集団は、G418における選択により取得し得る。しかしながら、選択マーカーの発現は、造血幹細胞においては、長期のインビボ遺伝子発現に対しては、悪影響を有することが示されている(Apperlyら、Blood 78:310−317(1991))。
【0060】
これらの制約事項を克服するために、新しい一過性トランスフェクションパッケージング系のための方法および組成物が、提供される。レトロウイルスベクターの設計の改良により、(1)先行技術が示す面倒なプラスミドクローニング手順および融合手順を置換すること、(2)当局(すなわちFDA)の認可を得る点において試薬を妥協させる、親構築物における過度の融合および変異を回避する単一の簡単なプラスミド構築物が提供されること、(3)得られるレトロウイルスベクター内の冗長で効力の低く、かつ/または望ましくない配列を、排除すること、(4)レトロウイルスベクター中へと治療用遺伝子構築物を選択および指向的クローニングすることにおける柔軟性が増大すること、(5)レトロウイルスベクター内の種々の補助ドメインの分子クローニングの促進、(6)ベクター産生細胞の状況において親プラスミドの性能を顕著に向上させる戦略的な改変の導入により、レトロウイルスベクター産物の能力を上昇すること、(7)生物学的醗酵における「低コピー低収率」の試薬から中等度の収率の試薬までプラスミドの生産が増大する程度に、レトロウイルスベクター構築物の全体的サイズを有意に低下させること、を可能とする。総じて、これらの改変は、現在使用されているレトロウイルスの利点(ベクターの安全性、遺伝子取り込みおよび遺伝子発現に関する)を温存しつつ、ヒト遺伝子治療のための予測的レトロウイルスベクターの構築、検証、製造および性能における顕著な進歩をもたらす。これは、TDSの第2の成分が、C−REXベクターと命名された高性能レトロウイルス発現ベクターを含むことを表している。
【0061】
一過性のトランスフェクションは、パッケージング細胞方法を超える多くの利点を有す
る。この点に関して、一過性のトランスフェクションは、安定なベクター産生細胞系統を発生させるために必要なより長い時間を回避し、そしてこれは、ベクターゲノムまたはレトロウイルスパッケージング成分が細胞に対して毒性である場合に使用される。ベクターゲノムが毒性遺伝子、または宿主細胞の複製を妨害する遺伝子(例えば、細胞周期インヒビター)またはアポトーシスを誘導する遺伝子をコードする場合は、安定なベクター産生細胞系統を生成させることは、困難であり得るが、一過性のトランスフェクションは、細胞が死滅するよりも前にベクターを生産するために使用され得る。さらにまた、安定なベクター産生細胞系統から得られる水準に匹敵するベクター力価水準をもたらす細胞系統が、一過性のトランスフェクションを用いて開発されている(Pearら、1993、PNAS 90:8392−8396)。
【0062】
高いバルク力価および生物学的活性を有する細胞破壊遺伝子構築物を担持したレトロウイルスベクター保存株の大規模生産のための高度に効率的な製造方法が、提供される。この製造方法は、一過性のトランスフェクトされた293T産生細胞の使用;産生細胞のスケールアップについての操作方法;および高い信頼度で細胞破壊遺伝子発現を保持するレトロウイルスベクターを生成させる一過性トランスフィクション手順を記載している。
【0063】
別の実施形態においては、臨床的レトロウイルスベクター生産のための完全に検証された293T(SV40ラージTで形質転換されたヒト胚性腎細胞)マスター細胞バンクが、提供される。293T細胞は、実験室での使用のための中力価〜高力価のベクター保存株を少量生成しているが、これらの産生細胞は、これまで臨床的ベクター保存株の大規模生産に有用であることは、わかっていなかった。合衆国医薬品局(FDA)は、臨床産物中に未損傷の癌遺伝子を移入し得るベクターの使用を、厳しく規制し、制限している。その製造プロセスは、ベクター効力のいかなる損失ももたらさないベクターの採取および収集をする最終段階において、DNA分解方法を組み込んでいる。別の実施形態においては、ほぼ10cfu/mlの臨床ベクター産物の一貫生成のためにレトロウイルスベクター保存株を濃縮するための方法が、提供される。臨床産物の最終組成は、高力価臨床用ベクター保存株の採取、収集および保存のための臨床的に規定された無血清溶液からなる。
【0064】
別の実施形態においては、無菌性の維持、品質管理用標本のサンプリング、および最終充填の促進のための、閉鎖ループマニホールド系を使用して、臨床用ベクターを収集する方法が、提供される。閉鎖ループマニホールド組立物(図19Aおよび19B参照)は、臨床産物の収集のために必要な仕様(すなわち、サンプリング、採取、濃縮および最終充填の間の滅菌性の維持)に合致するように設計されており、そして販売用の製品としては、入手できない。本明細書に開示したウイルス粒子の採取、濃縮および保存のための閉鎖ループマニホールド組立物は、Stedim 71フィルム製のフレックスボーイバッグおよびマニホールド系;エチルビニルアセテート(EVA)の液体接触層、エチルビニルアルコール(EVOH)のガスバリア、およびEVAの外層からなる、3層の共押出フィルムを含む。全フィルム厚は、300mmである。EVAは、可塑剤の添加を必要としない不活性の非PVC系フィルムであり、このため、抽出性物質が最小限にとどまる。幹部は、広範な生物適合性試験を受けており、本製品に関するFDAのDrug Master Fileが確立されている。フィルムおよびポートチューブは、USPクラスVI基準に合致している。全てのバッグのカスタム化は、Stedimのクラス10,000制御製造環境中において行われる。フィルム、チューブおよび全ての使用成分は、45kGyまでガンマ線適合性である。ガンマ線照射は、最小曝露25kGy〜最大45kGyで行う。製品適合証書は、Stedimおよびその契約滅菌業者の両方により提示される。
【0065】
臨床用ベクターは、−80℃において500mlのクリオバッグ中150mlの容量で保存した。完全に検証された生成物は、1ミリリットル当たり3×10コロニー形成単位(Unit)のウイルス力価と、ヒト乳癌、結腸癌および膵臓癌の細胞における65〜
70%増殖抑制活性という生物学的効力と、ウイルス凝集を伴わない約100nmの均一な粒径と、未損傷の癌遺伝子の非存在を示す550bp未満の残存DNAと、検出可能なE1AもSV40ラージT抗原も存在しないことと、mus Dunniおよびヒト293細胞における5継代において検出可能な複製コンピテントレトロウイルス(PCR)が存在しないことを、示す。生成物は、内毒素レベル<0.3EU/mlで滅菌されており、製造終了時の細胞は、マイコプラズマおよび他の付随ウイルスを含有しない。
【0066】
ウィルスエンベロープは、例えば、フィブロネクチンに結合するアルギニン−グリシン−アスパラギン酸(即ち、RGD)配列、およびやはりフィブロネクチンに結合する配列Gly−Gly−Trp−Ser−His−Trpを有するポリペプチドを含む、標的化リガンドを含む。結合領域のほかに、標的化ポリペプチドは、結合領域のN末端および/またはC末端に位置する、1つ以上のアミノ酸残基のリンカー配列を更に含んでよく、これによりこのようなリンカーは、修飾されたエンベロープポリペプチドの回転柔軟性を増大させ、そして/または立体障害を最小限にする。ポリヌクレオチドは、当業者に公知の遺伝子工学的な手法により構築してよい。
【0067】
従って、本発明により作製された標的化された送達ベクターは、標的部位におけるベクターの蓄積を促進するリガンド、即ち標的特異的リガンドを、自身に関連させて含有する。リガンドは、化学的部分(例えば、分子、官能基またはそのフラグメント)であり、これは、選択された標的に特異的に反応性であるが、他の標的に対する反応性は低く、これにより、選択された標的の近傍の細胞内に選択的に、治療用または診断用のポリペプチドをコードする核酸を転移させるという利点を、標的化された送達ベクターに与える。「反応性である」とは、細胞または組織への結合親和性を有すること、または、当該分野で公知の何れかの手段で、例えば何れかの標準的なインビトロの試験(例えばELISA、フローサイトメトリー、免疫細胞化学、表面プラズモン共鳴など)により、結合親和性が検出できる細胞内に内在化できることを意味する。通常、リガンドは、特定の分子部分、即ち、エピトープ(例えば分子、官能基、または細胞もしくは組織に会合した分子複合体)に結合することにより、2メンバーの結合対を形成する。結合対において、何れかのメンバーがリガンドであり得、他方がエピトープであると認識される。このような結合対は、当該分野において公知である。例示される結合対は、抗体−抗原、ホルモン−受容体、酵素−基質、栄養物(例えばビタミン)−輸送タンパク、成長因子−成長因子受容体、炭水化物−レクチンおよび相補配列を有する2つのポリヌクレオチドである。リガンドのフラグメントは、リガンドとみなすべきであり、そしてフラグメントが適切な細胞表面エピトープに結合する能力を保持している限り、本発明のために使用してよい。好ましくは、リガンドは、免疫グロブリンの抗原結合配列を含むタンパクおよびペプチドである。より好ましくは、リガンドは、Fc配列を欠いた抗原結合抗体フラグメントである。このような好ましいリガンドは、免疫グロブリンのFabフラグメント、免疫グロブリンのF(ab)フラグメント、Fv抗体フラグメントまたは単鎖Fvフラグメントである。これらのフラグメントは、酵素的に誘導され得るか、または組み換えにより製造できる。その機能的な特徴において、リガンドは、好ましくは、内在化リガンド、即ち、例えばエンドサイトーシスの過程により選択された細胞により内在化されるリガンドである。同様に、置換または他の改変を有するがエピトープ結合能力を保持しているリガンドも使用してよい。リガンドは、病的細胞(例えば悪性細胞)または感染物質を認識するように、好都合に選択される。曝露したコラーゲンに結合するリガンドは、例えば、悪性組織を含む被験体の区域にベクターを標的化できる。一般的に、身体の別の区域に転移している細胞は、健康な組織を侵害して破壊することにより、これを行う。この侵害が、本明細書中で提供されるベクターにより標的化できる曝露コラーゲンをもたらす。
【0068】
ベクターを標的化するために使用できる別のグループのリガンドは、多くの腫瘍において細胞表面上に過剰発現されるチロシンキナーゼ成長因子受容体と結合対を形成するもの
である。チロシンキナーゼ成長因子の例は、VEGF受容体、FGF受容体、PDGF受容体、IGF受容体、EGF受容体、TGF−アルファ受容体、TGF−ベータ受容体、HB−EGF受容体、ErbB2受容体、ErbB3受容体およびErbB4受容体である。EGF受容体vIIIおよびErbB2(HEr2)受容体は、これらの受容体が悪性細胞に対してより特異的であり、正常細胞上には殆ど存在しないことから、INSERTSを用いたがん治療の範囲において特に好ましい。或は、リガンドは、有利な遺伝子の導入による遺伝子の是正または遺伝子の改変を必要とする細胞(例えば、遺伝子的に欠損のある生物の肝細胞、上皮細胞、内分泌細胞)、インビトロの胚細胞、生殖細胞(germ cell)、幹細胞、生殖細胞(rproductive cell)、ハイブリッド細胞、植物細胞または産業上のプロセスにおいて使用される何れかの細胞を認識するように選択する。
【0069】
リガンドは、当該分野で使用できるいずれかの適当な方法により、ウィルス粒子の表面上で発現させても、非ウィルス粒子に結合させてもよい。結合は、共有結合または非共有結合(例えば、吸着または複合体形成)によるものであってよい。結合は、好ましくは、共有結合または非共有結合を形成することにより、リガンドにコンジュゲートでき、そして「アンカー」と称されている親油性分子部分を使用する。アンカーは親油性の環境(例えば、脂質ミセル、二重層または他の濃縮相)に対する親和性を有しており、これにより、脂質核酸微粒子にリガンドを結合させる。親油性アンカーを介したリガンドの結合の方法は、当該分野で公知である(例えばF.Schuber,「Chemistry of
ligand−coupling to liposomes」,Liposomes
as Tools for Basic Research and Industry,J.R.PhilippotおよびF.Schuber編,CRC Press,Boca Raton, 1995,p.21−37参照)。
【0070】
本明細書に開示する標的化された送達ベクターは、ウィルスおよび非ウィルスの粒子を包含することが理解される。非ウィルス粒子は、脂質二重層にカプセル化された核タンパク(完全または部分的に組み立てられたウィルス粒子が挙げられる)を包含する。脂質二重層にウィルスをカプセル化するための方法は、当該分野で公知である。これらには、脂質二重層封入ベシクル(リポソーム)内への受動的捕獲、および、リポソームと共にビリオンをインキュベートすることを包含する(米国特許5,962,429;Fasbender et al.,J.Biol.Chem.272:6479−6489;Hodgson and Solaiman,Nature Biotechnology 14:339−342(1996))。理論に制約されないが、ビリオンの表面上に曝露された酸性のタンパクは、標的化された送達ベクターのカチオン性の脂質/カチオン性の重合体成分との複合体形成のための界面を提供し、そして中性の脂質成分による二重層形成のための「スカホールド」として機能すると考える。例示されるウィルスの型は、アデノウィルス、レトロウィルス、ヘルペスウィルス、レンチウィルスおよびバクテリオファージである。
【0071】
非ウィルス送達系(例えば、微粒子またはナノ粒子であり、例えば、カチオン性リポソームおよびポリカチオンが挙げられる))は、送達系のための代替法を提供し、本発明の開示に包含される。
【0072】
非ウィルス送達系の例は、例えば、Wheeler等の米国特許5,976,567および5,981,501を包含する。これらの特許は、カチオン性および非カチオン性の脂質を含有する有機溶液にプラスミドの水溶液を接触させることによる、血清安定性のプラスミド−脂質粒子の調製を開示している。Thierry等の米国特許6,096,335は、全般的にアニオン性の生物学的活性物質、カチオン性構成成分およびアニオン性構成成分を含む、複合体の製造を開示している。AllenおよびStuartのPCT
/US98/12937(WO98/58630)は、カチオン性脂質の可溶化のために適する脂質溶媒中にポリヌクレオチド−カチオン性脂質粒子を形成すること、この粒子を含有する溶媒に中性のベシクル形成脂質を添加すること、および脂質溶媒を蒸発させて内部に捕獲されたポリヌクレオチドを有するリポソームを形成することを開示している。AllenおよびStuartの米国特許6,120,798は、第1の、例えば、水性の溶媒中にポリヌクレオチドを溶解することにより、ポリヌクレオチド−脂質微粒子を形成すること、該第1の溶媒と非混和性の第2の、例えば、有機性の溶媒中に脂質を溶解すること、第3の溶媒を添加して単一の相を形成すること、ならびに更にある量の第1および第2の溶媒を添加して、2つの液相の形成を行うことを開示している。Bally等の米国特許5,705,385およびZhang等の米国特許6,110,745は非カチオン性脂質およびカチオン性脂質を含有する溶液に核酸を接触させて脂質−核酸混合物を形成することによる、脂質−核酸粒子の製造方法を開示している。Maurer等のPCT/CA00/00843(WO01/06574)は、予備形成された脂質ベシクル、荷電治療薬および脱安定化剤を組み合わせることによりベシクルを脱安定化させるが破壊しない脱安定化溶媒中のその混合物を形成すること、およびその後脱安定化剤を除去することを含む、荷電治療薬の完全脂質カプセル化治療薬粒子の製造方法を開示している。
【0073】
粒子形成成分(「PFC」)は、典型的には、脂質(例えば、カチオン性脂質)を、場合によりカチオン性脂質以外のPFCと組み合わせて含んでいる。カチオン性脂質は、約3〜約10のpH領域において、好ましくは約4〜約9の生理学的pH領域において、その分子が電離して実質的に正のイオン電荷をもたらす脂質である。このようなカチオン性脂質は、例えば、カチオン性洗剤、例えば単一の炭化水素鎖を有するカチオン性両親媒性物質を包含する。特許および科学文献は、核酸トランスフェクション増強特性を有する多くのカチオン性脂質を記載している。これらのトランスフェクション増強カチオン性脂質は、例えば、1,2−ジオレイルオキシ−3−(N,N,N−トリメチルアンモニオ)プロパンクロリド、DOTMA(米国特許4,897,355);DOSPA(Hawley−Nelson et al.,Focus 15(3):73(1993)参照);N,N−ジステアリル−N,N−ジメチル−アンモニウムブロミド即ちDDAB(米国特許5,279,833);1,2−ジオレオイルオキシ−3−(N,N,N−トリメチルアンモニオ)プロパンクロリド−DOTAP(Stamatatos et al.,Biochemistry 27:3917−3925(1988));グリセロール系脂質(Leventis et al.,Biochem.Biophys.Acta 1023:124(1990)参照);アルギニル−PE(米国特許5,980,935);リジニル−PE(Puyal et al.,J.Biochem.228:687)1995))、リポポリアミン(米国特許5,171,678)およびコレステロール系脂質(WO93/05162、米国特許5,283,185);CHIM(1−(3−コレステリル)−オキシカルボニル−アミノメチルイミダゾール)等を包含する。トランスフェクションのためのカチオン性脂質は、例えば、Behr,Bioconjugate
Chemistry,5:382−389(1994)に概説されている。好ましいカチオン性脂質はDDAB、CHIMまたはその組み合わせである。カチオン性洗剤であるカチオン性脂質の例は、(C12−C18)−アルキル−トリメチルアンモニウム塩および(C12−C18)−アルケニル−トリメチルアンモニウム塩、N−(C12−C18)−アルキル−ピリジニウム塩およびN−(C12−C18)−アルケニル−ピリジニウム塩等を包含する。
【0074】
本発明により形成される、標的化された送達ベクターのサイズは、約40〜約1500nmの範囲、好ましくは約50〜500nmの範囲、最も好ましくは約20〜150nmの範囲である。このサイズの選択によれば、標的化された送達ベクターを、それが身体に投与される場合の、血管を通過して疾患組織、例えば悪性腫瘍に到達し、そしてその内部に治療用核酸を移動させることを好都合に補助する。例えば、動的光散乱法により測定し
たそのサイズが、細胞外の生物学的流体、例えばインビトロの細胞培養培地または血漿の存在下で大きく増大しないこともまた、標的化された送達ベクターの、特徴的で好都合な性質である。
【0075】
或は、Culver et al(1992)Science 256,1550−1552に記載の通り、レトロウィルスを生産する細胞を腫瘍に注射することができる。そのようにして導入されたレトロウィルス生産細胞を、標的化された送達ベクター(例えば、ウィルスベクター粒子)を能動的に生産するように操作することにより、インサイチュの腫瘍塊内部で、ベクターの連続的生産が起こるようにする。従って、増殖している腫瘍細胞は、レトロウィルスベクター生産細胞と混合されれば、インビボで良好に形質導入できる。
【0076】
(治療方法)
本発明の標的化されたベクターはまた、突然変異体サイクリン−Gポリペプチドのような治療薬をコードする核酸を送達するための、遺伝子療法プロトコルの一部として使用できる。従って、本発明の別の局面は、転移した新生物性障害に関わる細胞型を含む被験体の区域への、インビボまたはインビトロでの治療薬のトランスフェクションのための発現ベクターを特徴とする。本明細書において提供される標的化されたベクターは、遺伝子療法のためのベクターとしての使用を意図している。突然変異体サイクリン−Gポリペプチドおよび核酸分子は、他の標的化されたベクターにおける、相当する遺伝子を置き換えるために使用できる。或は、本明細書に開示する標的化されたベクター(例えばコラーゲン結合ドメインを含むもの)は、何れかの治療薬(例えばチミジンキナーゼ)をコードする核酸を含有することができる。有利なものは、新生物性の障害を治療するために有用な治療薬である。
【0077】
本研究は、インビボのヒト臨床治験から発生したデータを提供する。しかしなお、本明細書に開示した標的化されたベクターのその他の毒性または治療上の薬効は、例えば、LDS50(集団の50%に対して致命的である用量)およびED50(集団の50%において治療上有効である用量)を測定するための細胞培養物または実験動物における、標準的な薬学的操作法により測定できる。毒性と治療効果との間の用量の比が治療指数であり、これは、比LD50/ED50として表すことができる。大きい治療指数を示す用量が好ましい。本発明においては、処置されない細胞の損傷を最小限にし、副作用を低減するために、治療部位を標的化するように送達系が設計されているため、通常では毒性の副作用を示す用量を使用してよい。
【0078】
ヒト臨床治験(後述)から得られたデータによれば、本発明の標的化されたベクターは、新生物性障害の進行を抑制するように、インビボで機能することがわかっている。表1に示すデータは、患者へのこのようなベクターの投与のための治療用法を示す。更に、標的化されたベクターの別の形態(例えば代替標的化機構または代替治療薬)を用いて細胞培養アッセイおよび動物研究で得られたデータを用いて、ヒトにおける使用のための用量の範囲を設定することができる。用量は、好ましくは、毒性が殆どまたは全く無いようなED50を含む循環系中濃度の範囲内である。用量は、使用される剤型および使用される投与経路に応じて、上記範囲内で変動してよい。治療有効量は、細胞培養アッセイからまず推定することができる。用量は、細胞培養で決定されたIC50(即ち、最大感染の半分または最大抑制の半分を達成する試験化合物の濃度)を含む循環系の血漿中濃度の範囲を達成するように、動物モデルにおいて設定してよい。このような情報を用いて、より正確にヒトにおける有用用量を決定できる。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーにより測定してよい。
【0079】
標的化された送達ベクターを含有する薬学的組成物は、選択された量のベクターを、生
理学的に許容される担体または賦形剤1つ以上と混合することにより、何れかの従来の態様において処方できる。例えば、標的化された送達ベクターをPBS(リン酸緩衝化食塩水)のような担体中に懸濁してよい。活性化合物は何れかの適切な経路(例えば、経口投与、非経口投与、静脈内投与、皮内投与、皮下投与または局所投与)により、液体、半液体または固体の形態で投与することができ、そして各投与経路に適する態様で処方される。好ましい投与様式は、経口および非経口の投与様式である。
【0080】
標的化された送達ベクターおよび生理学的に許容される塩および溶媒和物は吸入または注入(口内または鼻内を経由)による投与のため、または、経口、頬側、非経口または直腸投与のために、処方され得る。吸入による投与のためには標的化された送達ベクターは加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー供給の形態で、適当な高圧ガス、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適当なガスを用いながら、送達することができる。加圧エアロゾルの場合は、単位用量は計量された量を送達する弁を装着することにより測定され得る。吸入器または注入器内で使用するためのゼラチンのようなカプセルおよびカートリッジは、治療化合物と適当な粉末基剤、例えば乳糖または澱粉の粉末混合物を含有するように処方され得る。
【0081】
経口投与のためには、薬学的組成物は例えば、製薬上許容しうる賦形剤、例えば結合剤(例えば予備ゼラチン化コーンスターチ、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース)のような製薬上許容しうる賦形剤;充填剤(例えば乳糖、微結晶セルロースまたはリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカ);錠剤崩壊剤(例えばバレイショ澱粉またはナトリウム澱粉グリコレート);または湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)と共に従来の手段により製造される、例えば、錠剤またはカプセルの形態をとってよい。錠剤は当該分野でよく知られた方法によりコーティングされ得る。経口投与用の液体製剤は例えば溶液、シロップまたは懸濁液の形態をとってよく、或は、それらは、使用前に水または他の適当なビヒクルで構成するための乾燥製品として存在し得る。このような液体製剤は製薬上許容しうる添加剤、例えば懸濁剤(例えばソルビトールシロップ、セルロース誘導体または水素化食用脂肪);乳化剤(例えばレシチンまたはアカシア);非水性ベヒクル(例えばアーモンド油、油性エステル、エチルアルコールまたは分画植物油);および保存料(例えばメチルまたはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸)と共に従来の手段により製造され得る。製剤はまた緩衝塩、フレーバー剤、着色料および甘味剤を適宜含有し得る。
【0082】
経口投与用の製剤は活性化合物の制御放出が可能となるように適宜処方され得る。頬側投与の場合は、組成物は従来の様式で処方された錠剤またはロゼンジ剤の形態であってよい。
【0083】
標的化された送達ベクターは注射により、例えば、ボーラス注射または連続注入により、非経腸投与のために処方され得る。注射用の製剤は単位剤型、例えばアンプル中または多用量コンテナ中、保存料を添加しながら調製され得る。組成物は油性または水性のベヒクル中の懸濁液、溶液または乳液のような形態をとってもよく、そして、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤のような製剤用物質も含有され得る。或は、活性成分は使用前に、適切なベヒクル(例えば、滅菌された発熱物質非含有の水)で再構成するための粉末の凍結乾燥型であり得る。
【0084】
前述の製剤のほかに、標的化された送達ベクターはまたデポ製剤とされ得る。そのような長時間作用する製剤は移植(例えば皮下または筋肉内)によるか、または、筋肉内注射により投与され得る。即ち、例えば、治療用化合物は適当な重合体または疎水性の物質(例えば許容される油中の乳液として)またはイオン交換樹脂とともに、または不溶性の誘
導体として、例えば不溶性の塩として処方され得る。
【0085】
活性剤は局部または局所への適用のため、例えば、皮膚および粘膜、例えば眼への局所適用のため、ゲル、クリームおよびローションの形態で、または、眼への適用のため、または、クモ膜下槽内または脊髄内の適用のために処方され得る。このような溶液、特に眼科用を意図したものは、適切な塩を用いてpH約5〜7の0.01%〜10%の等張製溶液として処方され得る。化合物は吸入によるなど局所適用のためのエアロゾルとして処方され得る。
【0086】
薬剤組成物中の活性化合物の濃度は、活性化合物の吸収、不活性化および排出の速度、投与予定、および投与量、並びに当業者の知る他の要因により変動する。例えば、送達される量は高血圧の症状を治療するために十分なものである。
【0087】
組成物は、所望により活性成分を含有する単位剤型1つ以上を含んでよいパックまたはディスペンサー装置中に存在し得る。パックは、例えば、ブリスタパックのような金属またはプラスチックのホイルを含み得る。パックまたはディスペンサー装置は、投与に関する使用上の注意を伴い得る。
【0088】
活性剤は、パッケージング材料、本明細書に記載する薬剤および薬剤が提供される障害を示すラベルを含む製造元の商品としてパッケージされ得る。
【0089】
サイトカイン遺伝子を含む標的化されたレトロウィルス粒子は単独、または他の治療または活性剤と組み合わせて投与され得る。例えば、サイトカイン遺伝子を含む標的化されたレトロウィルス粒子は、細胞殺傷遺伝子を含む標的化されたレトロウィルス粒子と共に投与され得る。投与すべき細胞殺傷遺伝子を含む標的化されたレトロウィルス粒子の量は、本明細書において上記したウィルス粒子の力価に基づく。例えば、サイトカイン遺伝子を含む標的化されたレトロウィルス粒子を、細胞殺傷遺伝子を含む標的化されたレトロウィルス粒子と組み合わせて投与する場合は、各ベクターに関するレトロウィルス粒子の力価は、各ベクターを単独で使用する場合よりも低値となる。サイトカイン遺伝子を含む標的化されたレトロウィルス粒子は、細胞殺傷遺伝子を含む標的化されたレトロウィルス粒子と同時に、または別々に投与され得る。
【0090】
本発明の方法はまた、標的化されたレトロウィルス粒子(例えば、サイトカインを発現する標的化されたレトロウィルスベクター単独、または、細胞殺傷遺伝子を発現する標的化されたレトロウィルスベクターとの組み合わせ)を他の活性剤1つ以上と共に投与することにより癌を治療する方法に関する。使用され得る他の活性剤の例には、化学療法剤、抗炎症剤、プロテアーゼ阻害剤、例えば、HIVプロテアーゼ阻害剤、ヌクレオシド類縁体、例えば、AZTが挙げられるが、これらに限定されない。活性剤1つ以上は、活性剤1つ以上と同時または別々(例えば標的化されたレトロウィルス粒子の投与の前、または、標的化されたレトロウィルス粒子の投与の後)に投与され得る。当業者の知るとおり、標的化されたレトロウィルス粒子は薬剤1つ以上と同じ経路(例えば標的化されたレトロウィルスベクターと薬剤の両方を静脈内投与)によるか、または異なる経路(例えば標的化されたレトロウィルスベクターを静脈内投与し、薬剤1つ以上を経口投与)によるかの何れかにより投与され得る。
【0091】
治療を要する被験体に投与すべき標的化されたレトロウィルス粒子の有効量または治療有効量は種々の方法で決定され得る。例えば、その量は、動物モデルにおけるウィルス力価または薬効に基づいていてよい。或は、臨床治験において使用される用量用法を一般的指針として使用され得る。一日当たり用量は単回用量として、または、1日のうちの種々の時間において分割用量で投与され得る。初期は、より高用量が必要であり、最適な初期
応答が得られるまで経時的に低減され得る。例えば、治療は数日間、数週間または数年間継続してよく、または、介在する休薬期間を伴って間隔をおきながら行ってよい。用量は個体に行われ得る他の治療にしたがって変更され得る。しかしながら、治療方法は標的化されたレトロウィルス粒子の特定の濃度または範囲に限定されず、治療する各個体に対して、そして、使用する各誘導体に対して変化され得る。
【0092】
投薬の個別化が所定の個体に対する最高の作用を達成するために必要であり得ることは、当業者に公知である。治療すべき個体に投与される用量が、個体の年齢、疾患の重症度および段階、および治療の過程に対する応答により変動され得ることは、更に当業者に理解される。本明細書に記載した方法により治療される個体に対する適切な用量を決定するために評価すべき臨床パラメーターは、当業者に公知である。用量を決定するために調べられ得る臨床パラメーターの例としては、腫瘍の大きさ、特定の悪性疾患に関わる臨床試験で使用される腫瘍マーカーの濃度の変化が挙げられるが、これらに限定されない。このようなパラメーターに基づいて、治療する医師は所定の個体に対して使用される治療有効量を決定する。このような治療は、治療する医師が必要と判断する頻度および期間において投与され得る。
【0093】
本発明の試験において、例示されるプロトコルは癌患者のために設計した。Rexin−Gの静注による患者内用量上漸増用法を、8〜10日間毎日実施した。この用法の終了の後、毒性の評価のために1週間の休薬期間をおき、その後はRexin−Gの最大耐容用量を更に8〜10日間IV投与した。患者が治療期間中Rexin−Gに関連する3または4等級の副作用を発症しなかった場合に、Rexin−Gの用量を以下の通り増量した。
【0094】
【表1】

最初の2患者において観察された安全性に基づいて、多くの肝転移を伴ったステージIVBの膵臓癌を有する第3の患者に、6日間静脈内Rexin−Gを用いた最前線治療、ついでフィリピンBFADにより認可された第2のプロトコルにおける1000mg/mのゲムシタビン8回各週投与を行った。
【0095】
(キット)
本明細書に記載した方法において使用するための組成物を含むキットまたは薬剤送達系も提供される。標的化されたレトロウィルス粒子の投与のために必要な全ての必須の材料および試薬(例えばパッケージング細胞コンストラクトまたは細胞系統、サイトカイン発現ベクター)は、キット内に集められ得る。キットの要素は前述したように種々の製剤において提供され得る。標的化されたレトロウィルス粒子1つ以上を、薬剤1つ以上(例えば化学療法剤)と共に、単一の製薬上許容しうる組成物または別々の製薬上許容し得る組成物に処方し得る。
【0096】
これらのキットまたは薬剤送達系の要素はまた、乾燥または凍結乾燥した形態で提供し
てもよい。試薬または成分を乾燥形態で提供する場合は、再構成は一般的には、適当な溶媒の添加により行われ、これはまた、別の容器手段中において提供され得る。本発明のキットはまた標的化されたレトロウィルス粒子のための用量に関する説明書および/または投与に関する情報を含んでよい。本発明のキットまたは薬剤送達系はまた、典型的には一般販売用の密封状態にバイアルを含有する手段、例えば所望のバイアルを格納するインジェクション成型またはブロー成型されたプラスチック容器を含む。容器の数または種類とは無関係に、キットはまた、注射/投与または被験体の身体内部への最終的複合組成物の定置を容易にする器具を含むか、これと共にパッケージされ得る。そのような器具は、アプリケーター、吸入器、シリンジ、ピペット、ピンセット、計量スプーン、点眼器または何れかのこのような医療上許可された送達ベヒクルであってよい。
【0097】
別の実施形態において、遺伝子療法業務を実施するための方法が提供される。方法は、標的化された送達ベクターを発生させること、および、適当な培地中の溶液中にベクター粒子を回収して懸濁することおよび懸濁液を保存することによりベクターのバンクを樹立することを含む。方法は更に、粒子および粒子の使用に関する説明書を、これを必要とする被験体(患者)への投与のために、医師または健康管理提供者に提供することを含む。このようなベクターの使用に関する説明書は表1に示される例示的な治療用法を含むことができる。方法は、場合により患者または患者の保険提供者に支払請求することを含む。
【0098】
更に別の実施形態においては、医師または健康管理提供者に、本明細書に開示したキットを提供することを含む遺伝子療法業務を実施するための方法が提供される。
【0099】
以下の実施例は説明のみを目的として記載したものであり、本発明の範囲を制限する意図はない。例示した特定の方法は、他の物質種を用いて実施することができる。実施例は一般的な方法を例示することを意図している。
【実施例】
【0100】
膵臓癌は合衆国の癌による死亡の第4の原因であり、全ての癌のうち最も致命的である。膵臓腫瘍の完全な外科的切除が、本疾患の唯一の有効な治療を提供する。残念なことに、このような「治癒的」な操作は、典型的には黄疸が顕在の症状となっている個体である膵臓癌患者の10〜15%でのみ可能である。切除不可能な膵臓癌を有する患者の生存期間の中央値は3〜6ヶ月である。したがって、進行膵臓癌の管理は、一般的に症状の緩和を指向している。外部からの放射線照射は、腫瘍サイズの十分な低減が疼痛の緩解はもたらすものの、生存期間を延長するとは考えられない。外部からの放射線照射にフルオロウラシル(5−FU)を用いた化学療法を付加させることは、これらの患者の生存期間を増大している(18)。近年、ゲムシタビン、デオキシシチジン類縁体が進行膵臓癌患者のクオリティーオブライフを改善することがわかったが、生存期間は8〜10週間延長されるのみである。
【0101】
(実施例1:コンストラクト)
プラスミドpBv1/CAEPはコラーゲン結合機能のインテグラルゲインを取り込むように修飾されている4070A両種向性エンベロープタンパク(ゲンバンクアクセッション番号:M33469)のコーディング配列を含んでいる(Hall et al.,Human Gene Therapy,8:2183−2192,1997)。親発現プラスミドpCAE(Morgan et al.,Journal of Virology,67:4712−4721,1967)はUSC Gene Therapy Laboratoriesより提供された。このpCAEプラスミドを、アミノ酸6および7のコーディング配列の間の成熟タンパクのN末端近傍のPstI部位(gct gca gga、アミノ酸AAGをコード)の挿入により修飾した(pCAEP)。この独特のPstI部位に、合成オリゴヌクレオチド二重らせん(gga cat gta gg
a tgg aga gaa cca tca ttc atg gct ctg tca gct gca、アミノ酸GHVGWREPSFMALSAAをコード、ウシフォン・ビルブラント因子のD2ドメインから誘導され(Hall et al.,Human
Gene Therapy,11:983−993,2000)、そして戦略的リンカー(下線)によりフランキングされている最小コラーゲン結合デカペプチド(太字))をクローニングしてpBv1/CAEPを作成した。
【0102】
293T産生細胞中のキメラエンベロープタンパクの発現は強力なCMV、即ちプロモーターにより賦活される。キメラエンベロープは正しくプロセシングされ、そして、感染力価をそれほど損失することなくゲインオブファンクションの表現型を示すレトロウィルス粒子内に安定に取り込まれる。コラーゲン結合ドメインの正しい方向はDNA配列分析により確認し、そしてプラスミドの品質管理はプラスミドを線状化してコラーゲン結合ドメインを放出する制限消化PstIにより確認した。
【0103】
プラスミドpCgpnは、Ψパッケージングシグナルの134塩基対欠失およびenvコーディング配列のトランケーションを示す当初はpGag−pol−gpt(Markowitz et al.,Journal of Virology,62:1120−1124)としてプロウィルスクローン3POから誘導されたMoMuLVgag−polコーディング配列を含んでいる(ゲンバンクアクセッション番号:331934)。5’EcoRI部位がGagの上流のXmaIII部位に相当し、3’EcoRI部位がenvのScaI部位に隣接して付加されているpCgp中のEcoRIフラグメントとしてコンストラクトを準備した。EcoRIフラグメントはpCgpから切り出し、そして独特のEcoRIクローニング部位においてpcDNA3.1+発現ベクター(Invitrogen)にライゲーションした。
【0104】
正しい方向はSalIの制限消化により確認し、そしてインサートは更にEcoRIおよびHindIIIによる消化により特性化した。gag−polインサートの5’および3’配列の両方とも、T7プロモーター結合部位プライマー(S1)およびpcDNA3.1/BGH逆プライミング部位(AS1)をそれぞれ用いながらDNA配列分析により確認した。得られたプラスミドはpCgpnと命名し、強力なCMVプロモーターにより賦活されるgag−polポリタンパクおよびSV40早期プロモーターにより賦活されるネオマイシン耐性遺伝子をコードしている。このプラスミド中にSV40oriが存在することにより、SV40ラージT抗原を発現する細胞系統のエピソーム複製が可能となる(即ち293T産生細胞)。
【0105】
以下に優性ネガティブサイクリンG1コンストラクト(dnG1)を含有するpdnG1/C−REXレトロウィルス発現ベクターを担持したプラスミドの構築を記載する。プラスミドは一過性のトランスフェクションプロトコルにより高感染力価のベクターの生産のために増強する。ヒトサイクリンG1のaa41〜249をコードするcDNA配列(472−1098+終止コドン)(CYCG1 Wu et al.,Oncology
Reports,1:705−11,1994;アクセッション番号U47413)をPCRにより完全長サイクリンG1鋳型から作成し、NotI/SalIオーバーハングを取り込んだ。N末端欠失突然変異体コンストラクトをまずTAクローニングベクター(Invitrogen)内にクローニングし、その後NotI/SalI消化を行い、そして、精製されたインサートをNotI/SalI消化pG1XSvNaレトロウィルス発現ベクター(Genetic Therapy,Inc.)にライゲーションすることにより、5’および3’長末端リピート(LTR)配列およびΨレトロウィルスパッケージング配列を完備したpdnG1SvNaベクターを作成した。
【0106】
CMV、即ちプロモーター−エンハンサーを、PCRによりCMV賦活pIRES鋳型
(Clontech)から作成し、SacIIオーバーハングを取り込み、そして5’LTRの上流のpdnG1SvNaの独特のSacII部位内にクローニングした。ベクターの力価の測定を容易にするネオマイシン耐性遺伝子をそのネステッドoriを有するSV40e.p.により賦活する。Sv40oriに加えて強力なCMVプロモーターが含まれることにより、ラージT抗原を発現する293T細胞における高力価レトロウィルスベクター生産が促進される(Soneoka et al.,Nucleic Acid
Research,23:628−633,1995)。CMVプロモーターの正しい方向および配列はdnG1コーディング配列の場合と同様に制限消化およびDNA配列分析により確認した。プラスミドの実体と品質管理はSacII(750bpCMVプロモーターを放出)およびBglII(dnG1コンストラクト内の独特の部位において切断)を用いた消化により確認する。
【0107】
(実施例2:REXIN−G)
最終生成物Mx−dnG1(REXIN−GTM)はハイブリッドLTR/CMVプロモーターの制御下にN末端欠失突然変異体ヒトサイクリンG1コンストラクトをコードするマトリックス(コラーゲン)標的化レトロウィルスベクターである。ベクターはまたSV40早期プロモーターにより賦活されるネオマイシン耐性遺伝子を含む。
【0108】
Mx−dnG1ベクターは十分有効化されたマスター細胞バンクから得られた293T(SV40ラージT抗原で形質転換されたヒト胚性腎293細胞)細胞の3プラスミドによる一過性同時トランスフェクションにより作成する。
【0109】
トランスフェクション系の要素はCMV即時早期プロモーターにより賦活されるa.a.41〜249をコードするヒトサイクリンG1遺伝子の欠失突然変異体を含むpdnG1/C−REX治療用プラスミドコンストラクト、パッケージング配列および細菌ネオマイシン耐性遺伝子を内部SV40早期プロモーターの制御下に含む。トランケーションされたサイクリンG1遺伝子をまずTAクローニングベクター(Invitrogen)内にクローニングし、その後NotI/SalI消化を行い、そして、精製されたインサートをNotI/SalI消化pG1XSvNaレトロウィルス発現ベクター(Genetic Therapy,Inc.Gaithersburg,MDより入手)にライゲーションすることにより、5’および3’LTR配列およびΨ配列を完備したpdnG1SvNaベクターを作成した。CMV、即ちプロモーター−エンハンサーを、PCRによりCMV賦活pIRES鋳型(Clontech)から作成し、SacIIオーバーハングを取り込み、そして5’LTRの上流のpdnG1SvNaの独特のSacII部位内にクローニングした。
【0110】
系は更に、A4070AエンベロープのN末端領域のa.a.6〜7において操作されたPstI部位にコラーゲン結合ペプチドが挿入されたCMV賦活修飾両種向性4070Aエンベロープタンパクを含有するMx(Bvl/pCAEP)エンベローププラスミドを含む。
【0111】
系はまたCMV即時早期プロモーターにより賦活されるMLVgag−polエレメントを含有するpCgpnプラスミドを含む。これはpGag−pol−gptとしてクローン3POから誘導される。ベクター骨格はInvitrogenのpcDNA3.1+である。ウシ成長ホルモン由来のポリアデニル化シグナルおよび転写終止配列がRNA安定性を増強する。SV40oriはSV40標的T抗原を発現する細胞系統におけるエピソーム複製およびベクターレスキューのためのe.p.と共に特徴付けられている。
【0112】
プラスミドは制限エンドヌクレアーゼ消化により分析されており、そして細胞系統は4g/Lグルコース、3g/L重炭酸ナトリウムおよび10%ガンマ線照射ウシ胎児血清(
Biowhittaker)を添加したDMEM培養基よりなる。血清は合衆国の供給元より入手し、USDA規制遵守のウシウィルス非含有であることが確認されている。レトロウィルス粒子の発芽は酪酸ナトリウムで誘導することにより増強される。得られるウィルス粒子は0.45ミクロンのフィルターに上澄みを通過させることによってのみプロセシングされるか、または、タンゲンシャルフロー/ダイアフィルトレーション法を用いて濃縮する。ウィルス粒子は見かけ上はC型レトロウィルスである。レトロウィルス粒子を採取し、95%DMEM培地および1.2%ヒト血清アルブミンの溶液中に懸濁する。この組成物を500mlのクリオバッグ中150mlの小分量ずつ保存し、使用時まで−70〜−86℃で凍結保存する。
【0113】
患者への投与用のMx−dnG1ベクターの製造は37℃の80%エタノールバス中でベクターバッグを解凍することよりなる。各ベクターバッグは患者への注入の1時間前に解凍し、Pulmozyme(10U/ml)で処理し、そして即時、1〜3時間以内に注入する。
【0114】
(実施例3:Mx−dnG1ベクターの治療効果)
インビトロでがん細胞の増殖を抑制し、そして、肝転移のヌードマウスモデルにおいてインビボで腫瘍の成育を停止させるMx−dnG1の効力を試験した。膵臓起源のヒト未分化癌細胞系統を転移癌のプロトタイプとして選択した。これらの癌細胞におけるレトロウィルスの形質導入の効率は優れており、感染の多重度(それぞれ4および250)に応じて26%〜85%の範囲となる。治療用遺伝子の選択のために、種々のサイクリンG1コンストラクトを担持するベクターを用いて形質導入した細胞において細胞増殖試験を実施した。標準的な条件下において、Mx−dnG1ベクターは一貫して、dnG1タンパクを示す20kDaの領域において免疫反応性サイクリンG1の出現を伴いながら最大の抗増殖作用を示した。これらの結果に基づいて、Mx−dnG1ベクターをその後のインビボの効力試験のために選択した。
【0115】
インビボにおけるMx−dnG1の性能を評価するために、14日間静置した留置カテーテルを介して門脈に7×105ヒト膵臓癌細胞を注入することにより肝転移のヌードマウスモデルを樹立した。ベクターの注入は3日後に開始し、合計9日間、Mx−dnG1(REXIN−GTM;力価:9.5×10cfu/ml)またはPBS食塩水対照群の何れかの200ml/日とした。マウスはベクター注入の終了の1日後に屠殺した。
【0116】
PBSまたは低用量のMx−dnG1のいずれかを投与したマウスに由来する転移癌病巣の組織学的および免疫細胞化学的な評価を行い、Optimas画像化システムを用いて評価した。ヒトサイクリンG1タンパクはPBS投与動物における増強されたサイクリンG1核免疫反応性(茶色染色物質)により明らかにされるとおり転移癌病巣において、そして、Mx−dnG1ベクター投与動物の残留する腫瘍病巣において高度に発現された。対照動物の肝切除物の組織学的検査によれば血管形成とストロマ形成の付帯領域を伴った顕著な腫瘍病巣が明らかになり;上皮成分はサイトカインについて陽性に染色され、そして、関連する腫瘍ストロマ/内皮細胞はビメンチンおよびFLK受容体について陽性に染色された。これとは対照的に、低用量Mx−dnG1投与動物における腫瘍病巣の平均の大きさはPBS対照と比較して有意に低減しており(p=0.001)、同時にPBS対照群と比較してアポトーシス核の密度の局所的増大が明らかになった。更にまた、PAS+、CD68+およびヘモジデリン担持マクロファージの浸潤がMx−dnG1投与動物の残留腫瘍病巣において観察され、肝網内皮細胞系による変性腫瘍細胞および腫瘍破砕物の活動的クリアランスが示唆された。これらを総括すれば、これらの所見は細胞殺傷性細胞周期制御遺伝子を担持する標的化された注射可能なレトロウィルスベクターのインビボの抗腫瘍薬効を示しており、転移癌のための標的化された注射可能なベクターの開発における決定的な進歩を示している。
【0117】
ヌードマウスの皮下ヒト膵臓癌モデルにおいて、本発明者等は、非標的化のCAE−dnG1ベクター(p=0.014)、マーカー遺伝子を担持した対照のマトリックス標的化されたベクター(Mx−nBg;p=0.004)およびPBS対照(p=0.001)と比較して、Mx−dnG1の静脈内(IV)注入が遺伝子送達を増強し、そして皮下腫瘍の生育を停止したことを明らかにした。増強されたベクターの浸透性および腫瘍結節の形質導入(35.7+S.D.1.4%)は全身毒性を伴うことなく治療薬効と相関していた。Kaplan−Meierの生存性試験もまたPBSプラセボ、非標的化のCAE−dnG1ベクターおよびMx−dnG1ベクターを投与した投与マウスにおいて実施した。Taroneログランク試験を用いながら、3群全てを同時に比較した場合の全体的なp値は0.003であり、0.004の水準まで有意な傾向を有し、腫瘍生育の長期の制御の確率は非標的化のCAE−dnG1ベクターまたはPBSプラセボの場合よりも標的化されたMx−dnG1ベクターの場合に有意に高値であることを示している。これらを総括すれば、Mx−dnG1は、末梢静脈注射により利用すれば、(i)1時間以内に血管形成性の腫瘍の脈管内に蓄積し、(ii)高水準の効率で腫瘍細胞に形質導入し、そして、(iii)毒性をそれほど示すことなく増強された治療用遺伝子送達および長期の薬効を増強することが本試験により示された。
【0118】
(実施例4:薬理学的/毒性学的試験)
細胞外マトリックス成分(例えばコラーゲン)を標的化するペプチドを取り込んだマトリックス標的化された注射可能なレトロウィルスベクターはインビボの治療用遺伝子送達を増強することが明らかにされている。2種の癌のマウスモデルおよび2種の細胞殺傷性/細胞活動抑制性の優性ネガティブサイクリンG1コンストラクト(Mx−dnG1およびMxV−dnG1と命名)を用いて別のデータを提示する。Mx−dnG1およびMxV−dnG1は共に病的区域を標的化するためのマトリックス(コラーゲン)標的化モチーフをディスプレイする両種向性の4070AMLV系のレトロウィルスベクターである。2つのベクターの間の唯一の相違点はMxV−dnG1は水疱性口内炎ウィルスGタンパクにより擬似型とされていることである。
【0119】
皮下ヒト癌異種移植片モデルにおいて、1x10個のヒトMiaPaca2膵臓癌細胞(転移胃腸癌のプロトタイプ)をヌードマウスの脇腹に皮下移植した。6日後、200μlのMx−dnG1ベクターを、1回または2回の10日間治療サイクルにつき、毎日尾部静脈に直接注射した(総ベクター用量:それぞれ5.6×10[n=6]または1.6×10cfu[n=4])。肝転移のヌードマウスモデルにおいては、7x10個のMiaPaca2細胞を10〜14日間静置させた留置カテーテルを介して門脈を経由して注射した。MxV−dnG1ベクター200mlを、腫瘍細胞の注入の3日後から、6または9日間に渡り毎日10分間かけて注入した(総ベクター用量:それぞれ4.8×10[n=3]または1.1×10cfu用量[n=4])。生体分布試験については、マウスゲノムDNAバックグラウンド内にSV40遺伝子配列およびネオマイシン(Neo)遺伝子配列を含有するG1XSvNa系ベクターを検出するためにTaqManTM系試験を開発した(Althea Technologies,San Diego,CA,USA)。試験は蛍光標識プローブがSV40遺伝子の3’部分およびネオマイシンホスホトランスフェラーゼ耐性(Neor)遺伝子上の5’部分にオーバーラップする95ntアンプリコン(G1XSvNaプラスミドベクターのnts.1779−1874)を検出する。
【0120】
Mx−dnG1またはMxV−dnG1ベクターのいずれかで観察される死亡率または罹患率に関連するベクターは存在しなかった。低用量および高用量のベクター処置動物の両方の肝臓、肺および脾臓では、低レベルの陽性シグナルが検出された。ベクター処置動物の精巣、脳または心臓では、PCRシグナルは検出されなかった。組織病理学的検査に
より、留置カテーテルを有し抗生物質予防を受けない2匹の動物で、局所的心筋炎を伴う門脈の静脈炎、腎盂腎炎が明らかとなった。他の病理は、Mx−dnG1で処置したマウスおよびMxV−dnG1で処置した非標的臓器では全く観察されなかった。血清化学プロフィールにより、PBSコントロールと比較して、Mx−dnG1処置動物においてALTおよびASTの穏やかな上昇が明らかになった。しかし、そのレベルは、マウスについての正常限度内であった。ベクター中和抗体は、7週間の追跡期間では、ベクター処置動物の血清には検出されなかった。
【0121】
上記の前臨床知見は、ヒト膵臓癌の2種のヌードマウスモデルにおけるMx−dnG1の静脈内注入が、隣接する正常組織に対して感知可能な損傷を示さず、全身性副作用も示さなかったことを確認する。静脈内注入を介する標的化遺伝子送達方法は、臨床的に関連するいくつかの利点を提供する。静脈系への注入は、腫瘍ならびに腫瘍の潜在的病巣の処置を可能にする。分裂中の腫瘍細胞で観察されるより高い有棘分裂の速度は、腫瘍においてより高い形質導入効率を生じ、一方で肝細胞および他の正常組織は影響されないと考えられる。従って、本発明者らは、局所進行性膵臓癌もしくは転移性膵臓癌および標準的な化学療法には不応性の他の固形腫瘍の処置のために静脈内投与されたMx−dnG1ベクターを使用する、ヒト臨床研究プロトコルを提案する。
【0122】
(実施例5:臨床報告)
本研究の目的は、(1)Rexin−Gの連続的静脈内注入の用量規定毒性および最大耐量(安全性)を測定すること、および(2)潜在的な抗腫瘍応答を評価することであった。プロトコルを、少なくとも3ヶ月の推定生存時間を有する末期癌患者に対して設計した。担当の内科腫瘍専門医により標準的な化学療法に不応性であるとみなされたIV期の膵臓癌患者3名に、フィリピン食品医薬品局により認可されたRexin−Gを用いる例外的使用プロトコルに関与するように依頼した。Rexin−Gの静脈内注入による患者内用量増大レジメンを、8〜10日間毎日行った。このレジメンの終了後、用量規定毒性に関する1週間の評価期間を設け、その後、Rexin−Gの最大耐量をさらに8〜10日間投与した。観察期間中に患者がRexin−Gに関する3等級または4等級の有害事象を発症しなかった場合、Rexin−Gの用量は表1(前出)に示されるように増大させた。
【0123】
腫瘍応答はカリパス、または放射線画像化(MRIまたはCTスキャン)により測定されるように、式:幅×長さ×0.52を用いて腫瘍容量の連続測定により評価した。
【0124】
患者番号1の、47歳のフィリピン人女性は、生検腫瘍組織の組織学的検査および病期分類研究により、膵頭部の局在性腺癌を有すると診断された。その患者は、Whipples外科的処置(原発腫瘍の完全切除が含まれる)を受けた。その後、単剤ゲムシタビンを7用量の間毎週与えたが、許容し得ない毒性に起因して化学療法を中断した。数ヵ月後、追跡MRIは、鎖骨上のリンパ節および腹部のリンパ節の両方に広がる転移を伴う原発腫瘍の再発を示した。臨床プロトコルに従って、患者に、28日間にわたって2.1×1011ユニットの累積用量のために、Rexin−Gの10日間処置サイクルを2回、1週間の中間休息期間とともに与えた。全身毒性の非存在下で、患者に、3×1011ユニットの総累積用量のために、さらなる10日間の治療サイクルを与えた。
【0125】
2つの表在性鎖骨上リンパ節のサイズを、カリパスを用いて手動で測定した。鎖骨上リンパ節の腫瘍体積の漸進的減少が観察され、28日目の処置サイクル番号2の終了時までに、腫瘍サイズはそれぞれ33%および62%減少に達した(表2)。
【0126】
(表2:患者番号1 鎖骨上リンパ節のカリパス測定)
【0127】
【表2】

追跡腹部MRIにより、(i)腫瘍転移の新しい領域はないこと、(ii)原発腫瘍の40〜50%を含む中心壊死の識別可能な領域区域、そして(iii)大動脈傍腹部リンパ節のサイズの有意な減少が明らかになった(図1A−B)。54日目には、追跡MRIは原発腫瘍のサイズの間隔変化がないことを示した。これらの知見と一致して、CA19−9の血清レベルの継続的低下(ピークの1200から584U/mlの最低値まで)が観察され、54日目にはCA19−9レベルは50%の低下に達した。しかし、101日目に追跡CTスキャンは、原発腫瘍および鎖骨上リンパ節のサイズの有意な増大を示した。患者が、ゲムシタビン1000mg/m2を毎週受けることに同意した場合、175日目までさらなる化学療法を拒絶した。RECIST基準によれば、患者番号1は、追跡189日目、Rexin−Gの注入開始から6.75ヶ月、腫瘍再発時から11ヶ月、そして最初の診断時から20ヶ月の時点で、進行性疾患を有して生存している。
【0128】
患者番号2の、56歳のフィリピン人女性は、胆管ブラッシングの細胞学的検査により、膵臓頭部のIVA期の局所的に進行した切除不可能な癌を有すると診断された。試験開腹により、この腫瘍が門脈を包囲しており、上腸間膜動脈および静脈の近接部に侵入していたことが明らかになった。5−フルオロウラシルと共に外照射療法を与え、そしてさらに単剤のゲムシタビンを8用量の間毎週、その後、維持用量を毎月与えた。しかし、CA19−9の血清中濃度が継続的に上昇し、追跡CTスキャンにより、この腫瘍はサイズが増大したことが明らかになった(図2A)。この患者に、1.8×1011ユニットの総累積用量まで毎日静脈内注入としてRexin−Gの2回の処置サイクルを与えた。結果:連続腹部CTスキャンは、Rexin−G注入の開始時の6.0cmから治療終了時の3.2cmまで有意な減少を示し、28日目には腫瘍サイズで47%減少に達した(図2A〜C)。103日目の追跡CTスキャンは、腫瘍のサイズにおける間隔変化を全くしめさないことを示し、その後、その後患者を毎月のゲムシタビンで維持した。RECIST基準により、患者番号2は、154日目の追跡、Rexin−G注入開始から5.5ヶ月、そして最初の診断の14ヵ月後の時点で、安定した疾患を有して生存し、無症候性である。
【0129】
患者#3の、47歳の中国人糖尿病男性は、膵臓の体部および尾部のIVB期の腺癌を有すると診断され、肝臓および門脈リンパ節に多くの転移を有することがCT誘導肝生検で確認された。膵臓のIVB期腺癌の急速な致命的結果に基づき、患者に、Rexin−G最先端治療を使用して第2の臨床プロトコルに関与するように依頼し、その後、毎週ゲムシタビンを与えた。Rexin−Gのプライミング用量を投与して、より良い細胞殺傷効力のためにゲムシタビンを用いる化学療法に対して腫瘍を感作した。患者に、総累積用量2.7×1010単位のために6日間、4.5×10ユニット/投薬の用量で、Rexin−GをIV注入し、その後、ゲムシタビン(1000mg/m)の毎週投薬を8回行った。62日目に、追跡CTスキャンは、原発腫瘍がベースライン測定値の7.0×4.2cm(腫瘍体積:64.2cm)から6.0×3.8cm(腫瘍体積:45cm)に減少したことを示した(図3A)。さらに、肝結節数が18結節(ベースライン)から5結節(図3C)まで劇的に減少しており、最大の肝結節は62日目(図3B)でベースラインの2.2×2cm(腫瘍体積:4.6cm)から1×1cm(腫瘍体積:0
.52cm)まで退縮していた。RECIST基準により、患者番号3は、133日目の追跡、Rexin−Gの注入開始から4.7ヶ月、そして診断時から約5ヶ月の時点で、安定した疾患を有して生存している。
【0130】
表3は、3名の患者における全体的腫瘍応答の比較評価を示す。RECIST基準を用いて、Rexin−Gは3名の患者全員において腫瘍増殖の安定化を誘導した。
【0131】
(表3:RECISTによる全体的な腫瘍応答の評価)
【0132】
【表3】

本研究では、2種の方法を用いてRexin−Gの静脈内注入に対する腫瘍の応答を評価した。2cmより大きい標的損傷の最長直径の合計、および比較点として全ての非標的損傷の消失 対 持続を測定するNCI−RECIST基準により、Rexin−Gで処置した3名の患者中3名(100%)が、100日より長期間(3ヶ月)の腫瘍増殖安定化を示した(表3)。腫瘍体積の測定(式:幅×長さ×0.52)(16)による応答の評価により、Rexin−Gが3名の患者中3名(100%)で、腫瘍の退縮(すなわち、患者番号1での転移リンパ節症の33〜62%退縮(表2)、患者番号2での原発腫瘍の47%退縮(図2C)および患者番号3では原発腫瘍の30%退縮、転移肝病巣の72%(13/18)根絶および転移門脈結節の89%退縮)が、撮影研究(MRIまたはCTスキャン)およびカリパス測定(図3)により明らかになった。さらに、安全性の評価は、3×1011ユニットの累積ベクター用量までは用量規定毒性は生じず、より大きな治療効力を達成するためにより多くのベクターを投与され得ることを示す。Rexin−Gベクター注入は、嘔気または嘔吐、下痢、神経症、毛髪損失、血液力学的不安定性、骨髄抑制、肝または腎の損傷とは関連しなかった。
【0133】
本発明の実施は、他に示されない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組み換えDNAおよび免疫学の従来の技術を使用し、このことは当業者の範囲内である。このような技術は文献に記載されている。例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual,第2版、Sambrook, FritschおよびManiatis編(Cold Spring
Harbor Laboratory Press:1989;DNA Cloning,第I巻およびII巻(D.N.Glover編、1985);Oligonucle
otide Synthesis(M.J.Gait編、1984);Mullisら、米国特許第4,683,195号;Nucleic Acid Hybridization(B.D.HamesおよびS.J.Higgins編、1984);Transcription And Translation(B.D.HamesおよびS.J.HIggins編、1984);Culture Of Animal Cells(R.I.Freshney,Alan R.Liss,Inc.,1987);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,1986);B.Perbal,A Practical Guide To Molecular
Cloning(1984);the treatise,Methods In Enzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.);Gene
Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.MillerおよびM.P.Calos編、1987,Cold Spring Harbor Laboratory);Methods In Enzymology,Vols.154 and 155(Wuら編),Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(MayerおよびWalker編、Academic Press,London,1987);Handbook Of Experimental Immunology,第I〜IV巻(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編、1986);Manipulating the Mouse Embryo,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1986)を参照のこと。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17−1】
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【図17−2】
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【図17−3】
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【図18−1】
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【図18−2】
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【図19A−1】
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【図19A−2】
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【図19B】
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【公開番号】特開2009−112314(P2009−112314A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43222(P2009−43222)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【分割の表示】特願2006−513191(P2006−513191)の分割
【原出願日】平成16年4月21日(2004.4.21)
【出願人】(505389271)エペイウス バイオテクノロジーズ コーポレイション (3)
【Fターム(参考)】