説明

病理組織検査標本作成用の包埋トレイ

【課題】カセット外壁面へのパラフィンの付着量を少なくし、面倒なパラフィンの削り取り作業を省略又は軽減でき、またカセットと包埋トレイとの間のパラフィン付着量を少なく且つ均等にし、レベルのバランスしたパラフィンブロックを提供可能な病理組織検査標本作成用の包埋トレイを提供する。
【解決手段】 底部とその周りに立設された側壁とからなるパラフィン収容部2と、該収容部2の上方外側に設けられたカセット支承部6と、該支承部6の上方外側に設けられカセット本体C1の滑動を防止するための滑動防止部とからなる方形状の容器からなり、少なくとも一辺の滑動防止部が係止爪7aからなり、残余の辺の滑動防止部が係止壁7bからなることを特徴とする病理組織検査標本作成用の包埋トレイである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は病理組織検査標本作成用の包埋トレイに関し、更に詳しくは、カセット外壁面へのパラフィンの付着量を少なくし、面倒なパラフィンの削り取り作業を省略又は軽減でき、またカセットと包埋トレイとの間のパラフィン付着量を少なく且つ均等にし、レベルのバランスしたパラフィンブロックを提供できる病理組織検査標本作成用の包埋トレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の病理組織検査標本作成用の包埋トレイとしては、図17に示したようなものが多用されている。この包埋トレイTはパラフィン収容部T1と、その周縁に水平状に設けられたカセットを載置するためのカセット支承部T2と、その周縁に立設されたカセットの動きを止めるためのカセット係止壁T3と、その周縁に水平状に設けられた額縁部T4となり、更に、長手方向の額縁部T4の略中央部に横設された把持部T5とから構成されている。
【0003】
また、近年では、方形の容器からなるパラフィン収容部とその周縁に設けられたパラフィンブロック付着体の載置部とからなり、前記載置部が少なくとも2個設けられており、サイズの異なる2種類以上のカセット等に対応できる病理組織検査標本作成用トレイが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記病理組織検査標本作成用トレイを使用して顕微鏡標本を作製するには、図21〜図23に示すように、まず、カセット本体C1内に採取した検体Sを収容して蓋C2を取り付け、記録部に被験者名等のデーターを記録しておく。次いで、カセット本体C1の底部や蓋C2に穿設された透孔C4からホルマリンを流入させて検体Sを固定処理し、次いでアルコールにより検体Sの水分を除去し、キシレンにより後述する液状パラフィンとの親和性を付与する。
【0005】
次に、図23のカセットを例に挙げて説明すると、図24に示すとおり、検体Sを包埋トレイTに移してパラフィン収容部T1に溶融パラフィンを注ぎ入れ、次いでカセット支承部T2にカセット本体C1の底部を載せ、カセット本体C1が浮き上がらないように指で押えつけて上方からパラフィンPを注ぎ足す。次いで、パラフィンPを冷却固化させた後、包埋トレイTを取り除くことにより、図25に示したように、検体Sを包埋したパラフィンPがカセット本体C1の底部に付着してなるパラフィンブロックBを得る。その後、ミクロトームにカセットブロックBをカセット本体C1の開口部が下に向くように固定された状態でパラフィンに包埋された検体Sをスライスして薄片を得て、これに染色等の所定の処理を施すことにより顕微鏡標本を得るのである。
【0006】
しかしながら、上記の方法では周囲を取り囲むカセット係止壁T3のためにカセット本体と包埋トレイとの間に滞留する空気の押し出し及び余分なパラフィンP1の排出が困難であるため、パラフィンPは係止壁T3とカセット本体C1との間を上昇し、額縁部T4から空気が押し出され、余分なパラフィンP1が排出されることになり、その結果、カセット本体C1の外壁面の下部は余分なパラフィンP1によって覆われることになる(図24、図25)。カセット本体C1の外壁面下部が余分なパラフィンP1で覆われていると、このパラフィンP1で覆われていない面との間に段差が生じ、ミクロトームでスライスする際に、アダプターによりしっかりと固定できず、目的とする薄片を得ることが困難となる。また、カセットブロックを収納ケースに収納する場合にも、収納しにくくなる。更に、カセット本体C1の記録部C3の記録Rも下部がパラフィンP1により覆われるため、記録Rの内容が視認しにくく、被験者名やデーターを誤認して信頼性が大きく損なわれるという重大な結果を招く場合もある。
【0007】
従って、カセット本体C1の外壁面に付着した余分なパラフィンP1をナイフで削り取る作業が不可欠となる。しかるに、冷却固化したパラフィンは硬く、このパラフィンP1の削り取り作業は極めて面倒で、多くの時間と手間を要し作業性を大きく低下させる原因となる。また、ナイフでパラフィンP1を削り取る作業中にカセット本体C1の外壁表面が傷つけられ、この傷にパラフィンが入り込み益々パラフィンを強固に付着させることになり、削り取り作業を一層困難にするばかりでなく、カセット本体C1の外観を損ない、繰り返し使用回数を低下させることにもなる。
【0008】
更にまた、上記のように、係止壁T3により空気の押し出し及び余分なパラフィンP1の排出がしにくいため、図26、図27に示すように、カセット本体C1の底部と包埋トレイTのカセット支承部T2との間に滞留するパラフィンの量が増え、例えば、図示した如く、左右でのパラフィン量にアンバランスが生じ、この状態で冷却固化して得られるパラフィンブロックBもまた左右のレベルがアンバランスとなり易い。得られたパラフィンブロックBは、カセットCの開口部を下に向けてミクロトームにセットされスライスされるが、パラフィンブロックBのパラフィン量がアンバランスな場合は、パラフィンP中に包埋された検体Sもレベルもまたアンバランスとなるため、水平にスライスして得られる薄片は所望の検体を含んでいなかったり、また含んでいても局部的に含んでいたり、目的とする薄片が得られず信頼性の高い検査結果が得られない場合がある。
【特許文献1】特開2006−300745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、かかる実情に鑑み、上記問題点を解消するべく鋭意研究の結果、上記カセット係止壁に代えて係止爪又は係止爪と係止壁とを採用して空気の押し出しや余分のパラフィンの排出を改善することにより、上記問題点が一挙に解消されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するためになされたもので、本発明の請求項1は、底部とその周りに立設された側壁とからなるパラフィン収容部と、該収容部の上方外側に設けられたカセット支承部と、該支承部の上方外側に設けられカセットの滑動を防止するための滑動防止部とからなる方形状の容器からなり、少なくとも一辺の滑動防止部が係止爪からなり、残余の辺の滑動防止部が係止壁からなることを特徴とする病理組織検査標本作成用の包埋トレイを内容とする。
【0011】
本発明の請求項2は、四辺に設けられた滑動防止部が係止爪からなることを特徴とする請求項1に記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイを内容とする。
【0012】
本発明の請求項3は、三辺に設けられた滑動防止部が係止爪からなり、他の一辺に設けられた滑動防止部が係止壁からなることを特徴とする請求項1に記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイを内容とする。
【0013】
本発明の請求項4は、対向する二辺に設けられた滑動防止部が係止爪からなり、対向する他の二辺に設けられた滑動防止部が係止壁からなることことを特徴とする請求項1に記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイを内容とする。
【0014】
本発明の請求項5は、一辺に設けられた滑動防止部が係止爪からなり、他の三辺に設けられた滑動防止部が係止壁からなることを特徴とする請求項1に記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイを内容とする。
【0015】
本発明の請求項6は、把持部が係止爪又は係止壁の上端から横設されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイを内容とする。
【0016】
本発明の請求項7は、把持部が枠状又はT字状である請求項6に記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイを内容とする。
【0017】
本発明の請求項8は、把持部が斜め上方向に延設されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイを内容とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の病理組織検査標本作成用の包埋トレイは、カセット(カセット本体)の滑動を防止するための滑動防止部として少なくとも一辺に係止爪を採用したことにより、カセット本体と包埋トレイとの間の空気が抜け易くなるとともに、余分なパラフィンも排出され易くなる。従って、カセット本体と包埋トレイとの間に滞留するパラフィン量は少なくなり、その結果、例えば左右におけるパラフィン量のアンバランスも起こりにくくなり、レベルがバランスしたパラフィンブロックを得ることができる。
【0019】
また、空気が押し出され易く、余分のパラフィンが排出され易いため、カセット本体の外壁面に付着するパラフィン量は極めて少量であり、ナイフによる削り取り作業を省略するか、又は簡単な削り取り作業ですみ、作業性は大巾に高められる。
特に、係止爪の部分は仮に余分のパラフィンが付着したとしても極く僅かであり、例えば、包埋トレイの係止爪のある辺にカセット本体の記録部の辺がくるように配置することにより、記録部の視認性は殆ど妨げられることがなく、誤認によるトラブルが解消される。更に、カセット本体と包埋トレイとを結合させるパラフィン中には殆ど空気が含まれていないので、大きな係合力が得られる。
【0020】
また、上記の如く、余分のパラフィンの排出性が良好であるので、包埋トレイのパラフィン収容部にパラフィンを注ぎ、その上面にカセットを載置し、カセット本体を包埋トレイに押し付けることによりカセット本体と包埋トレイとの間の空気が押し出されるとともに、余分のパラフィンは係止爪の両側から殆ど排出される。極く僅かに残留したパラフィンは、カセット本体の外壁面と包埋トレイの係止爪又は係止壁との間に入り込むが、少量であるため短時間で冷却固化し、恰も冷却固化したパラフィンが接着剤の如く作用して、カセット本体は包埋トレイに仮り止めされた状態となる。従って、引き続いて、カセット本体の上方から溶融パラフィンを注ぎ足す際に、カセット本体が浮き上がらないように指で押さえつける必要がなく、例えば溶融パラフィンで火傷をする恐れもなくなる。
【0021】
四辺に設けられた滑動防止部が全て係止爪からなる場合は、空気の押し出しや余分のパラフィンの排出は四辺から行われるのでカセット本体のいずれの外壁面に付着する余分なパラフィン量は一層少なくなる。
また、係止爪と係止壁を併設すると、カセット本体を包埋トレイのカセット支承部に載置する際、係止壁にカセット本体をあてがうことができるので、例えカセット支承部が狭小であっても、容易にカセット本体を載置できるので作業性が高められる。また、対向する二辺又は三辺に係止壁を設けると該係止壁によりカセット本体の載置は容易となるが、空気の押し出しや余分なパラフィンの排出は減少する傾向にある。
【0022】
係止爪又は係止壁の上端から把持部を横設すれば、包埋トレイを扱いやすくなり、作業性が向上する。この場合、2個の係止爪の上端から横設して枠状としたり、また、1個の係止爪の上端から横設してT字状とすることにより、把持部によって空気の押し出しや余分のパラフィンの排出が殆ど妨げられることがないので好ましい。更に、把持部が斜め上方向に延設することにより、例えば、机上面やホットプレート面から距離が取れるので把持し易く、またホットプレートに触れ火傷をしたりする恐れも小さくなる。更に、積み重ねができるので嵩張らない利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の包埋トレイは、底部とその周りに立設された側壁とからなるパラフィン収容部と、該収容部の上方外側に設けられたカセット支承部と、該支承部の上方外側に設けられカセットの滑動を防止するための滑動防止部とからなる方形状の容器からなり、少なくとも一辺の滑動防止部が係止爪からなり、残余の辺の滑動防止部が係止壁からなることを特徴とする。
【0024】
本発明の包埋トレイは溶融パラフィンに耐える耐熱性素材から作られ、かかる素材としては、ステンレス等の金属、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ABS等の樹脂等が挙げられるが、熱伝導性が良好である点で金属が好ましい。
【0025】
パラフィン収容部は、パラフィンブロックの脱型を容易にするため、通常、側壁が底部から開口部に向かって末広がりのテーパー状の容器からなる。
【0026】
パラフィン収容部の上方外側には、カセット本体を載置するためのカセット支承部が設けられる。カセット支承部はカセット本体を安定に載置できるかぎり特に限定されず、例えば、パラフィン収容部を形成する側壁の上端を用いてもよく、また、パラフィン収容部のコーナー部や各辺に沿って設けることもできる。
【0027】
カセット支承部の上方外側には、カセットの滑動(横滑り)を防止するための滑動防止部が設けられるが、本発明の包埋カセットは、少なくとも一辺の滑動防止部は係止爪とする必要がある。
【0028】
係止爪の形状、大きさ、個数は特に限定されないが、幅1〜5mm、好ましくは2〜5mmで、一辺当たりの係止爪の幅の合計は側壁の長さの1/5以下、更には1/20以下が好ましい。幅が5mmを超えると、その部分に冷却固化したパラフィンが盛り上がってしまうことがあり、1mm未満ではカセット本体の滑動を防止する効果が小さくなる。また、一辺当たりの係止爪の幅の合計が側壁の長さの1/5を超えると、空気の押し出し性や余分のパラフィンの排出性が低下する傾向がある。
【0029】
なお、一辺あたり係止爪が一個だけであると、カセット支承部の幅を狭くした場合には、載置したカセット本体の安定性が低下する場合がある。また、狭いカセット支承部にカセット本体を載置する際に、位置決めがし難くなる傾向がある。従って、一辺あたり、係止爪を2個以上設けるほうが好ましく、さらにその辺の両端付近に設けるほうがさらに好ましい。
また、係止爪の高さはカセットの滑動を押さえられる限り特に限定されず、カセットや包埋トレイの大きさに応じて扱い易い程度の大きさとすることができる。
【0030】
残余の辺、即ち係止爪が設けられていない辺には係止壁が立設される。なお、係止壁も係止爪と同様、カセット本体の動きを抑えてカセット支承部に安定に載置する機能を有する点で共通するが、カセット本体と包埋トレイの間に滞留する空気や余分なパラフィンを排出する機能が劣る点で異なる。なお、本明細書において、係止壁とは包埋トレイの辺の長さの1/5を超える場合をいい、係止爪と区別して用いられる。
係止壁の高さはカセット本体の滑動を防止できれば特に限定されないが、カセット本体の外壁面には付着するパラフィンを減らし、また記録部に記載された文字等を確実に読み取るために、低く(例えば2〜3mm程度)形成するほうが好ましい。
【0031】
係止壁にはその一部を低くしたパラフィン排出部を形成してもよい。このようにすると、パラフィン排出部から余分なパラフィンが排出され、冷却固化後のパラフィンの盛り上がりが抑えられる。パラフィン排出部の大きさは特に限定されないが、他の部分より1mm以上低い部分を幅2mm以上に渡って設けるのが好ましい。
【0032】
係止壁を併設した場合、カセット支承部上にカセット本体をより安定して載置することができるばかりでなく、カセット本体をカセット支承部上に載置する際に、この係止壁にカセット本体の一辺をあてがうことにより、容易に位置決めをすることができる。係止爪と係止壁とは、係止爪を設けた辺が多い程空気の押し出しや余分のパラフィンの排出はし易くなるが、カセット本体のカセット支承部への載置性は低下する関係にある。従って、空気の押し出しや余分のパラフィンの排出性にウエイトを置く場合は、係止爪の辺は多くし、逆に、カセット本体の載置性にウエイトを置く場合は係止壁の辺を二辺又は三辺とするのがよい。尚、二辺を係止爪とし、残りの二辺を係止壁とする場合は、それぞれ対向する二辺を係止爪又は係止壁とするのが好ましい。尚、三辺に係止壁を設ける場合、係止壁を連続して設けてもよいが、空気の押し出し性、余分なパラフィンの排出性からは、例えば、コーナー部に隙間を設ける等不連続に設けるのが好ましい。
【0033】
係止爪、係止壁とカセット本体とは、両者の間の隙間ができるだけ小さくなるように設計することが好ましい。このようにすることにより、たとえ両者の隙間にパラフィンが入り込んでも少量で且つ薄く、ミクロトームのアダプターに装着する際に支障となることがないからである。本発明の包埋トレイでは、少なくとも一辺に係止爪を採用したのでこれの傾斜角の調整は比較的小さな力で可能であり、この係止爪の角度を調整することにより、係止爪又は係止壁とカセット本体との隙間を小さくすることができる。
【0034】
本発明の包埋トレイを取り扱いやすくするために把持部を設けてもよい。把持部は、係止爪や係止壁の上端から横設するのが好ましい。把持部を係止爪の上端から設ける場合、係止爪が1個の場合は略T字状となり、また、係止爪が2個の場合は、内部に穴があいた枠状となり、空気の押し出しや余分のパラフィンは排出性は殆ど損なわれない。係止爪が3個以上の場合でも同様である。把持部を係止壁の上端から設ける場合も、内側に穴のあいた枠状に設け、内側の穴から空気を押し出し、余分のパラフィンを排出させるのが好ましい。
また、把持部は、包埋トレイから斜め上方向に向けて延設することもできる。このようにすると、例えば包埋トレイをホットプレート上で使用する場合でも、把持部のホットプレートからの距離が大きくなるので、包埋トレイを把持する際にホットプレートなどに手指が触れ、火傷をする等の危険性が減少する。斜め上方向の把持部は、例えば、パラフィン収容部が浅い場合や、係止壁を設けない包埋トレイの場合に特に有効である。また、斜め上方向の把持部は積み重ねができるので嵩張らない利点もある。斜め上方向に延設する角度は、余り小さいと上記した効果が小さいので30〜80度程度が好ましい。
【0035】
パラフィン収容部の形状は、左右非対称とすることにより、ミクロトームでスライスされた薄片の左右が明確に区別されるので、作業性が高められ、また左右誤認により検体を取り違えるといったトラブルが防止されるので、検査の信頼性が向上する。
左右非対称とする方法は特に限定されないが、例えば、角部のうち一箇所のアール半径を変える(大きくする)方法や、側壁のうち一辺を波形や円弧形にするなどの方法が採用できる。
【0036】
本発明の包埋トレイでパラフィンブロックを作成するカセットはカセット本体の底面に透孔を有するカセットであれば特に限定はなく、代表的なカセットとして、例えば、側面にミクロトームのアダプターを係止するためのアダプター係止部C5を備えたカセット(図18,図21)、斜面状の記録部C3を備えたカセット(図19,図22)及びカセット本体の深さが大きく、アダプター係止部C5を備えたカセット(図20, 図23)が挙げられる。
【0037】
また、本発明の包埋トレイは図24,図25に例示された一般的な方法で用いることができるが、溶融パラフィンの流動性を高めて、余分な溶融パラフィンを排出しやすくするため、予め包埋トレイを暖めておくか、パラフィン注入中または注入後に包埋トレイを一時的に適温まで加熱するのが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されないことは云うまでもない。
【0039】
実施例1
本実施例の包埋トレイ1は、図1、図2に示すように、底部3とそれを取り囲む側壁4とから形成される方形の容器からなるパラフィン収容部2と、前記側壁4の上端、即ち、パラフィン収容部2の開口部の周縁に設けられたカセット支承部6と、このカセット支承部6の外縁に立設された係止爪7aからなる。
【0040】
図1に示すように、本実施例においては包埋トレイ1の右辺側に2個の係止爪7aが、その他の辺にそれぞれ1個の係止爪7aが立設されている。即ち、カセット本体C1と包埋トレイ1との間の空気が全ての辺から抜けるとともに、余分なパラフィンも全ての辺から排出されるので、排出の速度は最も速く、カセット本体C1の周囲には余分なパラフィンP1は殆ど付着しない。また、カセット本体と係止爪7aとの間にパラフィンが少量入り込むが、少量であるため短時間で冷却固化し、この冷却固化したパラフィンが接着剤の如く作用してカセット本体が包埋トレイに仮り止めされた状態となり、従って、指で押さえることなく、溶融パラフィンを注ぎ足すことができる。更に、パラフィン収容部2は左下側の角の部分が三角形に切り欠かれた略方形状であり、左右非対称であるので、検体をスライスした際にも付着したパラフィン切片の形状を見ることにより検体の方向を確かめることができ、左右誤認による検体の取り違えといったトラブルが防止されるので、検査の信頼性が向上する。尚、この三角形の部分はカセット支承部6の一部としての役割も果たす。
【0041】
本実施例の包埋トレイ1は、検体Sをパラフィン収容部2に入れるとともに、カセット本体C1をカセット支承部6の上に載置して使用する。本実施例の場合、カセット本体C1の記録部C3は4辺のいずれにも配置することができるが、係止爪7aと記録部C3の間に余分なパラフィンP1が僅かに付着することもあるので、係止爪7aが1個だけ立設された辺に記録部C3を配置するのが好ましい。
【0042】
実施例2
本実施例の包埋トレイ1は、図3、図4に示すように、実施例1の包埋トレイ1とほぼ同様であるが、長辺側に立設された係止爪7aの上端からT字状の把持部8が横設されている点のみで異なる。従って、本実施例ではこの把持部8を持って作業することができるので、包埋トレイ1が扱いやすくなり、作業性が向上している。その上、長辺側の係止爪7aの幅は実施例1と同様なので、把持部8によって空気の押し出しや余分のパラフィンP1の排出が殆ど妨げられることがない。
【0043】
実施例3
本実施例の包埋トレイ1は、図5〜図7に示すように、実施例1の包埋トレイ1とほぼ同様であるが、長辺側の対向する二辺にはそのほぼ全面に渡って係止壁7bが立設されていると共に、その中央部付近から枠状の把持部8が斜め上方に延設されている点のみで異なる。従って、本実施例ではカセット本体C1は対向する二辺の係止壁7bの間に載置するので容易であり、載置性は優れている反面、実施例1の包埋トレイ1と比較して、空気の押し出しや余分のパラフィンの排出性が若干劣る。また、カセット本体と係止壁7bとの間にパラフィンが入り込むが少量であるので特に問題はない。更に、把持部が斜め上方向に延設されているので、例えば、机上面やホットプレート面から距離が取れるので把持し易く、またホットプレートに触れ火傷をしたりする恐れも小さくなる。更に、積み重ねができるので嵩張らない利点もある。
【0044】
実施例4
本実施例の包埋トレイ1は、図8〜図10に示すように、実施例3の包埋トレイ1とほぼ同様であるが、右辺側にも係止壁7bが設けられている点のみで異なる。
従って、カセット本体C1はコの字状の係止壁7bの間に載置するのが極めて容易であり、上記実施例1〜3と比較しても載置性は最も優れている反面、空気の押し出しや余分のパラフィンの排出は主として左辺側だけで行われるため、係止爪のみの実施例に比べると劣るが、三辺の係止壁7bはコーナー部で隙間が設けられているため実用上特に問題はない。また、記録部C3を左辺側に向けた場合には、この記録部C3を覆うパラフィンの量はごく僅かであるので問題はない。また、カセット本体と係止壁7bとの間にパラフィンが入り込むが少量であるので特に問題はない。
【0045】
実施例5
本実施例の包埋トレイ1は、図11〜図13に示すように、底部3とそれを取り囲む側壁4とから形成され、左下が三角形状に切り欠かれた略方形の容器からなるパラフィン収容部2と、パラフィン収容部2の周囲に設けられた副収容部2aと、収容部2の上方外側であって副収容部2aの右側及び左側に設けられたカセット支承部6と、包埋トレイ1の長辺側にそれぞれ2個、左辺側に1個立設された係止爪7aと、右辺側に立設された係止壁7bと、長辺側の2個の係止爪7aの間に横設され、全体として枠状とされた把持部8からなる。
【0046】
本実施例の包埋トレイ1は、パラフィン収容部2のパラフィンのみならず、パラフィン副収容部2aのパラフィンによってもカセット本体C1と係合するので係合力が強いという特徴を有する。
本実施例では係止壁7bが左辺だけなので、空気の押し出し性や余分なパラフィンの排出性は特に問題ではなく、また載置性についても、カセット本体C1をカセット支承部6に載置する際、係止壁7bにカセット本体C1をあてがうことができるので、カセット載置性も良好である。
【0047】
実施例6
本実施例の包埋トレイ1は、図14〜図16に示すように、パラフィン収容部2が左右に長く上下に短い点、左右側のカセット支承部6が幅広である点、及び把持部8が横向きで且つ大き目に延設されている点を除き、実施例4と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
叙上のとおり、本発明の病理組織検査標本作成用の包埋トレイは、少なくとも一辺のカセット滑動防止部として係止爪を採用したことにより、カセットと包埋トレイの間に滞留する空気の押し出し性及び余分なパラフィンの排出性が大巾に改善され、カセット外壁面へのパラフィンの付着量を少なくし、面倒なパラフィンの削り取り作業を省略又は軽減でき、またカセットと包埋トレイとの間のパラフィン付着量を少なく且つ均等にし、レベルのバランスしたパラフィンブロックを提供することが可能となり、病理組織検査標本を作成する作業性や検査の信頼性が大幅に高められる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の包埋トレイの実施例1を示す平面図である。
【図2】実施例1の右側面図である。
【図3】本発明の包埋トレイの実施例2を示す平面図である。
【図4】実施例2の右側面図である。
【図5】本発明の包埋トレイの実施例3を示す平面図である。
【図6】実施例3の正面図である。
【図7】実施例3の右側面図である。
【図8】本発明の包埋トレイの実施例4を示す平面図である。
【図9】実施例4の正面図である。
【図10】実施例4の右側面図である。
【図11】本発明の包埋トレイの実施例5を示す平面図である。
【図12】実施例5の正面図である。
【図13】実施例5の右側面図である。
【図14】本発明の包埋トレイの実施例6を示す平面図である。
【図15】実施例6の正面図である。
【図16】実施例6の側面図である。
【図17】従来の包埋トレイの例を示す斜視図である。
【図18】本発明の包埋トレイと共に使用するカセットの例を示す斜視図である。
【図19】カセットの他の例を示す斜視図である。
【図20】カセットの他の例を示す斜視図である。
【図21】カセット内に検体を入れた状態を示す断面図である。
【図22】カセット内に検体を入れた状態を示す断面図である。
【図23】カセット内に検体を入れた状態を示す断面図である。
【図24】従来の顕微鏡標本の作製方法を示す説明図である。
【図25】従来の顕微鏡標本の作製方法を示す説明図である。
【図26】従来の顕微鏡標本の作製方法を示す説明図である。
【図27】従来の顕微鏡標本の作製方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 包埋トレイ
2 パラフィン収容部
2a パラフィン副収容部
3 底部
4 側壁
5 角部
6 カセット支承部
7a 係止爪
7b 係止壁
8 把持部
C カセット
C1 本体
C2 蓋
C3 記録部
C4 透孔
C5 アダプター係止部
P パラフィン
P1 余分なパラフィン
S 検体
T 従来の包埋トレイ
T1 パラフィン収容部
T2 カセット支承部
T3 カセット係止壁
T4 額縁部
T5 把持部
B パラフィンブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部とその周りに立設された側壁とからなるパラフィン収容部と、該収容部の上方外側に設けられたカセット支承部と、該支承部の上方外側に設けられカセットの滑動を防止するための滑動防止部とからなる方形状の容器からなり、少なくとも一辺の滑動防止部が係止爪からなり、残余の辺の滑動防止部が係止壁からなることを特徴とする病理組織検査標本作成用の包埋トレイ。
【請求項2】
四辺に設けられた滑動防止部が係止爪からなることを特徴とする請求項1に記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイ。
【請求項3】
三辺に設けられた滑動防止部が係止爪からなり、他の一辺に設けられた滑動防止部が係止壁からなることを特徴とする請求項1に記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイ。
【請求項4】
対向する二辺に設けられた滑動防止部が係止爪からなり、他の対向する二辺に設けられた滑動防止部が係止壁からなることことを特徴とする請求項1に記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイ。
【請求項5】
一辺に設けられた滑動防止部が係止爪からなり、他の三辺に設けられた滑動防止部が係止壁からなることを特徴とする請求項1に記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイ。
【請求項6】
把持部が係止爪又は係止壁の上端から横設されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイ。
【請求項7】
把持部が枠状又はT字状である請求項6に記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイ。
【請求項8】
把持部が斜め上方向に延設されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2009−42075(P2009−42075A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207486(P2007−207486)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(591242450)村角工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】