説明

痛みの治療に関する薬剤及び方法

本発明は、痛みを治療するための有効な薬剤を提供する。例示的な薬剤は、レトロウイルスTatタンパク質の一部を含む又は上記一部からなる。かかる薬剤の1つは、ペプチドTat-NR2B9cである。このペプチドは、既にNMDA受容体及び/又はNOSとPSD95との相互作用の阻害を介して脳卒中及び類似の状態の損傷作用を阻害するための薬剤と述べられている。本願は、上記Tat-NR2B9cペプチドが痛みの緩和において有効であることを示すデータを提供する。痛みの緩和は、NMDAR又はNOSとPSD-95との相互作用を阻害するのに必要な用量以下の上記ペプチド用量で得ることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願についてのクロスリファレンス
本願は、2008年9月3日に出願した米国仮特許出願番号第61/094026号の利益を主張し、すべての目的に関してその全部においてここに参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
痛みは、複雑な現象であって、通常、侵害刺激又は身体的危害の自覚に関係する知覚経験を含むものである。個人は、日々の様々な怪我やうずきから、より重症な障害又は病気による多様な原因による痛みを経験する。
【0003】
その不快感にもかかわらず、痛みはヒトや他の動物の生存にとって重要な部分である;実際、それは健常な生存に不可欠である。痛みは身体の防御システムの一部であり、精神的及び肉体的挙動を引き起こすことで、痛みを伴う経験を終わらせる。痛みを伴う状況の反復がより少なくなるように、学習することを駆り立てる。痛みは、痛みを伴う侵害刺激から解放されるように生物に仕向ける。事前の痛みは、損傷が差し迫っている(例:骨折前のうずく痛み)ことを示すのに役立てることが可能である。痛みは、治癒プロセスを促進することもできる。理由は、多くの生物は更なる痛みを回避するために傷ついた部分を保護するためである。
【0004】
大量の分子メディエーターが疼痛知覚に関係しており、それには、ナトリウム、カリウム及びカルシウムイオンチャネルが含まれる。非常に様々な鎮痛薬が今日使用されている。例には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID) (例:サリチル酸塩)、麻薬(例:モルヒネ)、麻薬特性を有する合成ドラッグ(例:トラマドール)、及び様々な他の薬が含まれる。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、とりわけ、痛みを軽減する薬剤を提供するものであって、上記薬剤は、例えば以下のものを有する:YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:1)を有するアミノ酸配列又は上記配列に10未満の削除、置換若しくは挿入を有する変異体又は上記配列若しくは変異体のペプチドミミック。本発明は、痛みを治療する方法であって、上記方法は、痛みを経験している又はそのリスクのある患者に、痛みの治療に効果のある又は痛みの予防に効果のある投与計画において本発明の薬剤を投与することを含む方法である。任意に、用量は、1mg/kg以下である。任意に、用量は、10-5〜10-1mg/kgである。任意に、患者は、脳卒中、てんかん、低酸素症、CNSに対する外傷、アルツハイマー病及びパーキンソン病からなる群より選択される少なくとも1つの疾患も障害も経験していない。任意に、患者は、これらの疾患のいずれにも患っていないか又は患っていると考えられていない。任意に、痛みは、末梢部位にある。任意に、痛みは、CNSにおいてである。任意に、上記ペプチド又はペプチドミミックは、末梢的に投与される。任意に、上記ペプチド又はペプチドミミックは、クモ膜下腔内に投与される。任意に、痛みの治療又は予防は、N型カルシウムチャネルに対するペプチド又はペプチドミミックの結合によってもたらされる。
【0006】
本発明は、tatペプチドを含む又は上記ペプチドからなる薬剤であって、上記ペプチドは、YGRKKRRQRRR(配列番号:2)を有するアミノ酸配列又は上記配列に4未満の削除、置換若しくは挿入を有する変異体又は上記tatペプチド又は変異体のペプチドミミックを有する。本発明は、痛みを治療する方法であって、上記方法は、痛みを経験している又はそのリスクのある患者に、痛みの治療に効果のある又は痛みの予防に効果のある投与計画において、かかる薬剤を投与することを含む方法である。任意に、上記tatペプチドは、NMDAR 2B 9Cに連結していない。任意に、上記tatペプチドは、PSD95-NMDAR相互作用の阻害剤に連結していない。任意に、tatペプチドは、NMDAR 2B 9Cに連結しない。任意に、投与されたtatペプチドは、検出可能な量がCNSに入らない。任意に、上記投与計画は、主にNMDAR又はNOSとPSD-95との相互作用を阻害することよりもN型カルシウムチャネルを阻害することである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1A、B、Cは、細胞レセプターに対する様々な放射性同位元素標識リガンドの結合を阻害する、ペプチドTat-NR2B9c(YGRKKRRQRRRKLSSIESDV、配列番号:1)の能力を評価する受容体結合/阻害研究の結果である。
【図2】図2は、DRGニューロンおけるN型カルシウム電流(上)又はホールセル電流(下)の振幅に関する様々なペプチドの投与効果を示す。「前」:ペプチド投与の直前のカルシウム電流の標準振幅;Tat-NR2B9c:YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:1); 1990: TatペプチドYGRKKRRQRRR(配列番号:2); 1991: ペプチド2B9c(KLSSIESDV、配列番号:3);ペプチドTat-NR2B9c:YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:1); 1992:ペプチドTat-NR2B9c-AA(YGRKKRRQRRRKLSSIEADA、配列番号:4); 1993:ペプチドF-Tat-NR2B9c(FGRKKRRQRRRKLSSIESDV、配列番号:5); 1994: ペプチドTat-NR2B9c K to A: YGRKKRRQRRRALSSIESDV、配列番号:6); 1995: ペプチドF-Tat-NR2B9c K to A (FGRKKRRQRRRALSSIESDV、配列番号:7); 1987: Tat-NR2B9cのD-異性体; 1976: YGRKKRRQRRRKLSSIESDXの内 X=ノルバリン(配列番号:9); 1977: YGRKKRRQRRRKLSSIESDXの内 X= L-t-ブチル-グリシン(配列番号:10)。
【図3】図3は、Tat-NR2B9cが、用量依存的に末梢神経損傷後のラットにおける痛み過敏症を改善させることを示す。図3Aは、低用量のTat-NR2B9cを用いて処理した動物(1動物につき100pmol;n=15匹の動物;塗られた棒)が、食塩水媒体単独で処理されたラット(n=9匹の動物;塗られていない棒)と比較して、痛み過敏症の軽減(即ち、足引っ込め閾値の増加)を示したことを表す。アスタリスクは、媒体コントロールとの比較によるp < 0.05を示す;バーは平均±標準誤差を表す。図3Bは、Tat-NR2B9cの痛みを軽減する効果の期間(痛み過敏症の改善に関して測定)であって、Tat-NR2B9c投与の0〜2時間後における平均な足引っ込め閾値(±標準誤差)により測定されたものである。足引っ込め閾値は、Tat-NR2B9cの投与前(時間= 0)、投与後60、90及び120分に直ちに測定した(*は、t=0との比較によるp < 0.05を示す)。図3Cは、高用量のTat-NR2B9cの静脈内投与(i.v.で10mg/kg)が、末梢神経損傷後の痛み過敏症に対する効果を示さなかったことを示す。足引っ込め閾値は、Tat-NR2B9cの投与前(時間= 0)、投与後60、90及び120分に直ちに測定した(*は、t=0との比較によるp < 0.05を示す)。
【図4】図4は、後根神経節(DRG)ニューロンにおけるN型カルシウム電流に関する様々なペプチドのIC50の定量を表す。1990: TatペプチドYGRKKRRQRRR(配列番号:2); 1991:ペプチド2B9c(KLSSIESDV、配列番号:3); 1992: Tat-NR2B9c-AA(YGRKKRRQRRRKLSSIEADA、配列番号:4); 1993: F-Tat-NR2B9c(FGRKKRRQRRRKLSSIESDV、配列番号:5); 1994: Tat-NR2B9c K to A: YGRKKRRQRRRALSSIESDV配列番号:6); 1995: F-Tat-NR2B9c K to A (FGRKKRRQRRRALSSIESDV、配列番号:7); 1976: YGRKKRRQRRRKLSSIESDXの内 X=ノルバリン(配列番号:9); 1977: YGRKKRRQRRRKLSSIESDXの内 X= L-t-ブチル-グリシン(配列番号:10); 1987: Tat-NR2B9cのD-異性体。
【図5】図5A及び5Bは、DRGニューロンにおける、L型電流を超えるN型カルシウム電流に対するTat-NR2B9cの選択性を示す。図5Aは、培養DRGニューロンにおけるカルシウム電流に対するTat-NR2B9c(100μM)及びω-コノトキシン(1μM)の効果を示す。図5Bは、Tat-NR2B9cの存在下(細胞内で100μM)における、ニフェジピンのDRGカルシウム電流阻害を示す。
【図6】図6は、Tat-NR2B9cによるN型カルシウム電流阻害に対する使用依存性の欠如を示す。異なる周波数(0.07、10、20、50Hz)による、DRGニューロンの代表的な1つについての電流が記録された。示す通りにTat-NR2B9c(100μM)が投与された。 上記電流から強い周波数依存的なランダウンが示され、周波数の増加は、Tat-NR2B9cの阻害効果を増加させなかった。
【図7】図7は、Tat-NR2B9cによるカルシウム電流の阻害は、電位依存的でないことを示す。培養DRGニューロンにおけるCa2+電流のI-Vの関係。Tat-NR2B9c(10、100μM)を10μMのニフェジピン存在下又は非存在下で投与した。電流は、-60mVの保持電位から-40から+50mVまで、50msのボルテージクランプステップを使用して誘導した。
【発明の詳細な説明】
【0008】
I. 定義
融合ポリペプチドとは、複合ポリペプチド、即ち、単一の連続したアミノ酸配列であって、融合ペプチドのアミノ酸配列のようには通常互いに融合しない2つ(又は、それ以上)の異なった、異種のポリペプチドから作製されるものをいう。
【0009】
「PDZドメイン」なる用語は、約90アミノ酸のモジュラータンパク質ドメインであって、脳シナプスタンパク質PSD-95、ショウジョウバエセプテート(septate)ジャンクションタンパク質ディスクスラージ(discs large) (DLG)、及び上皮タイトジャンクションタンパク質ZO1(ZO1)と有意な配列同一性(例:少なくとも60%)によって特徴付けられるドメインを言う。PDZドメインは、ディスクラージホモログ反復 (「DHR」)及びGLGF反復としても知られている。PDZドメインは、一般的には、コアコンセンサス配列を保持するように見える(Doyle, D. A., 1996, Cell 85: 1067-76)。 典型的なPDZドメインを含むタンパク質及びPDZドメイン配列は、米国特許出願番号第10/714,537号に開示され、その全体を参照によってここに組み込まれる。
【0010】
「PLタンパク質」又は「PDZリガンドタンパク質」なる用語は、PDZドメインと分子複合体を形成する天然のタンパク質、又は全長タンパク質から分離して(例えば、3-25残基(例:3、4、5、8、10、12、14又は16残基)のペプチド断片として)発現した時、かかる分子複合体を形成するカルボキシ末端を持つタンパク質を言う。上記分子複合体は、例えば、米国特許出願番号第10/714,537号に記述されている「Aアッセイ」又は「Gアッセイ」を用いたインビトロ、又はインビボで観察が可能である。
【0011】
NMDA受容体、又は「NMDAR」なる用語は、NMDAと相互作用することが既知である膜関連のタンパク質を意味する。上記用語は、背景節に記載の様々なサブユニット型を含む。かかる受容体は、ヒト又は非ヒト(例:マウス、ラット、ラビット、サル)のものであってもよい。
【0012】
PLモチーフとは、PDZタンパク質のPDZドメインに結合可能な、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、20又は25個の連続したアミノ酸の短いモチーフを意味する。例えば、C末端PL配列は、PLタンパク質のC末端(例:最後の3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、20又は25個の連続する、PLタンパク質のC末端残基)で見つけることができる。他のPLモチーフは、タンパク質の内部に見つけることができる(「内部PL配列」)。
【0013】
「PLペプチド」は、とりわけPDZドメインに結合するPLモチーフを含む、又はそのモチーフからなる、又はそうでなければそのモチーフに基づくペプチドである。
【0014】
「ペプチドミミック」は、天然のアミノ酸からなるペプチドの構造的特徴及び/又は機能的特徴が実質的に同一の合成化合物を意味する。上記ペプチドミミックは、完全合成した非天然のアミノ酸アナログを含んでもよく、又は部分的に天然のペプチドアミノ酸及び部分的に非天然のアミノ酸アナログのキメラ分子であってもよい。上記ペプチドミミックは、任意量の天然アミノ酸同類置換を組み込むこともできるが、かかる置換がミミック構造及び/又は阻害又は結合活性を実質的に変えない場合に限られる。ポリペプチドミミック組成物は、典型的には3つの構造グループに分けられる非天然の構造成分の任意の組み合わせを含むことが可能である。その3つの構造グループとは、a) 天然アミド結合(「ペプチド結合」)以外の残基連結グループ、b) 天然のアミノ酸残基の場所が非天然の残基、又はc) 二次構造模倣を誘導する残基、即ち、二次構造(例:ベータターン、ガンマターン、ベータシート、アルファヘリックス構造等)を誘導又は安定させるための残基である。tatペプチド及び第2の治療ペプチドを含む二機能性ペプチドのペプチドミミックにおいて、tatペプチド若しくは第2のペプチドのいずれか又はその両方がペプチドミミックであってもよい。加えて、ポリペプチドは、ペプチドミミック結合(例:N-メチル化結合(-N(CH3)-CO-)、エステル結合(-C(R)H-C-OOC(R)-N-)、ケトメチレン結合(-CO-CH2-)、アザ結合(-NH-N(R)-CO-)(Rは任意のアルキル(例:メチル))、カルバ結合(-CH2-NH-)、ヒドロキシエチレン結合(-CH(OH)-CH2-)、チオアミド結合(-CS-NH-)、オレフィン二重結合(-CH=CH-)、レトロアミド結合(-NH-CO-)、ペプチド誘導体(-N(R)-CH2-CO-)(Rは「通常の」側鎖であって、当然、炭素原子で示されるもの)を有してもよい。これらの変更態様は、ペプチド鎖に沿ったいずれかの結合で起きてもよく、さらに同時にいくつか(2-3)の結合で起きてもよい。例えば、ペプチドは、エステル結合を含むことが可能である。ポリペプチドは、還元されたペプチド結合(即ち、R1-CH2-NH-R2)を組み込むことも可能であり、R1及びR2はアミノ酸残基又は配列である。還元されたペプチド結合は、ジペプチドサブユニットとして導入してもよい。かかるポリペプチドは、プロテアーゼ活性に対して抵抗性を有し、インビボにおいて半減期が延長するだろう。親和性要素は、ペプトイド(N置換グリシン)であってもよく、側鎖は、アミノ酸のようにα-炭素に付加されるのではなく、分子骨格沿いの窒素原子に付加される。
【0015】
「特異的結合」なる用語は、2つの分子(例:リガンドとレセプター)間の結合であって、多くの他の様々な分子が存在する中であっても、ある分子(リガンド)が他の特徴的な分子(受容体)に結合する能力によって特徴付けられる結合、即ち、不均一な分子の混合物における他の分子の内、1つの分子を優先して結合することを示すことを意味する。受容体に対するリガンドの特異的結合は、過剰な非標識リガンドの存在下で、検出可能な程度に標識されたリガンドによる受容体への結合の減少によっても証明される(即ち、結合競合アッセイ)。
【0016】
「薬剤」又は「活性薬剤」は、通常、所望の活性を有する化合物又は上記活性を有する可能性のある化合物である。特に明記しない限り、所望の活性は、治療的活性又は薬理学的活性(例:痛みの緩和又は予防)である。薬剤は、公知の薬である化合物、薬理活性が確認されているが、更なる治療評価を受けている化合物及び薬理活性のためのスクリーニングが可能なコレクション及びライブラリーのメンバーである化合物を含む。例えば、活性ペプチドは、ペプチドである活性薬剤である。活性キメラ薬剤には、内在化ペプチドに連結した活性薬剤が含まれる。「薬剤」という用語は、明示された薬剤だけでなく機能的に活性のある、明示された薬剤の類似体、変異体又は誘導体を含むことを意図する。「内在化剤」は、治療効果を有する必要はないが、結合した治療薬の、細胞への細胞内輸送(及び/又は血液脳関門を渡る輸送)を可能にする。
【0017】
「治療的」又は「薬理学的」活性とは、活性薬剤が痛み又は疾患(例:痛みに関連した疾患)の予防又は治療に役立つ又は役立つ可能性があることを示す活性を、スクリーニングシステムにおいて、呈することを意味する。上記スクリーニングシステムは、インビトロ、細胞、動物又は人間であってもよい。薬剤は、疾患治療における実際の予防的又は治療的効用を確立するのに更なる試験を要求される可能性があるにも関わらず、治療的又は薬理学的活性を有するとして記述することが可能である。
【0018】
「有意」とは、p値が< 0.05、好ましくは< 0.01、そして最も好ましくは< 0.001を意味する。
【0019】
II. 概要
本発明は、痛みの治療に役立つ薬剤を提供する。典型的な薬剤は、ペプチドTat-NR2B9c(YGRKKRRQRRRKLSSIESDV、配列番号:1)を含む又はからなる。このペプチドは、既に、NMDA受容体及び/又はNOSとPSD95との相互作用を阻害することを介して脳卒中及び類似の状態の損傷作用を阻害する薬剤と言われている。本願は、上記Tat-NR2B9cペプチドが痛みの緩和に有効であることを示すデータを提供する。痛みの緩和は、NMDAR又はNOSとPSD-95との相互作用を阻害するために必要な用量以下のペプチド用量で得ることが可能である。
【0020】
メカニズムの理解は、本発明の実施に必要でないが、痛みの治療又は予防におけるTat-NR2Bcペプチドの有効性は、NMDAR及びNOSとPSD95との相互作用の阻害以外のメカニズムを通してのようである。可能性がある1つのメカニズムは、N型カルシウムチャネルに対する結合を介することである。非PSD95を介したメカニズムの作用は、より低いTat-NR2Bcの薬用量の方が、既に述べられている神経学的な疾患(脳卒中及びてんかん)の治療方法よりも有効である。そして、上記方法は、Tat-NR2B9cとPSD95との相互作用の阻害に関係する。
【0021】
III. 痛み
その最も幅広い用法において、「痛み」は、それを経験している個体の非常に主観的な経験現象であり、環境及び文化的背景を含む個体の精神状態によって影響される経験現象である。「物理的」な痛みは、通常、実際の又は潜在的な組織の損傷が原因であって、第三者に知覚可能な刺激に関連付けられる。この意味は、痛みは「実際の又は潜在的な組織の損傷に関連した感覚的及び感情的な経験、又はかかる損傷に関して記載されているもの」と考えることが可能であり、これは国際疼痛学会(IASP)に従っている。しかしながら、痛みに関するいくつかの例には、原因を知覚できないものがある。例えば、心因性疼痛(心因的要因又は時々おきる持続性の症候群による、先在する物理的な痛みの悪化を含む)は、痛みに対する知覚可能な証拠が存在しない、精神的疾患を患っている患者における痛みであると理解された。
【0022】
1) 痛みのタイプ
痛みには、侵害受容性疼痛、神経障害性/神経性の痛み、突出痛、アロディニア、痛覚過敏、知覚過敏、感覚異常、錯感覚、ヒペルパチー、幻肢痛、心因性疼痛、有痛知覚麻痺、神経痛、神経炎を含む。他の分類は、悪性の痛み、狭心痛、及び/又は特発性痛み、複合性局所疼痛症候群I、複合性局所疼痛症候群IIが含まれる。痛みのタイプ及び症状は、排他的である必要はない。これらの用語は、IASPによって定義されるように意図される。
【0023】
侵害受容性疼痛は、有害な刺激に応答する末梢神経中の特殊な感覚侵害受容器によって開始され、有害な刺激をコーディングし、活動電位にしている。侵害受容器は、一般的には、A-δ及びC繊維上における、自由神経終末に存在し、自由神経終末はちょうど皮膚の直下、腱、関節中、及び体内器官中で終了する。後根神経節(DRG)ニューロンは、末梢と脊髄の間の伝達部位を提供する。信号は、脊髄から脳幹及び視床部位を通り、最後に大脳皮質で処理され、通常は(しかし、常にでなく)、痛みの感覚を誘発する。侵害受容性疼痛は、体内組織を刺激する又は損傷する可能性を有する多種多様な化学的、熱的、生物学的(例:炎症性)又は機械的イベントから生じる可能性がある。それは一般的には、侵害受容器において侵害受容活性を引き起こすのに必要とされる強度が特定の最小閾値を越える。
【0024】
神経因性疼痛は、一般的には、抹消神経系又は中枢神経系における異常な機能の結果であって、それぞれ、末梢神経因性疼痛又は中枢神経因性疼痛を引き起こす。神経因性疼痛は、神経系の一次病巣又は機能不全によって開始される痛み又は生じる痛みとして、国際疼痛学会によって定義されている。神経因性疼痛は、特に慢性病患者において、神経系への実際の損傷に多くの場合関与する。炎症性の侵害受容性疼痛は、一般的には、組織の損傷の結果であり、炎症過程の結果として生じるものである。神経因性疼痛は、観察可能な組織損傷に対して外見上、回復した後(例:数ヶ月又は数年)でも、かなり持続する。
【0025】
神経因性疼痛の場合、影響を受けた領域から処理される感覚は、通常、痛みを引き起こさないであろう刺激には、異常で無害な刺激(例:熱、触れること/圧)となり(即ち、アロディニア)、有害性の刺激は、正常な痛みを伴う刺激に応答して、誇張された痛みの知覚を誘発するだろう。加えて、電気的にうずくこと若しくはショック又は「ピン及び針で刺す」に類似する感覚(即ち、錯感覚)及び/又は不快な性質を有する感覚(即ち、感覚異常)は、通常の刺激によっても誘発される可能性がある。突出痛は、先在する慢性痛の悪化である。ヒペルパチーは、刺激に対して異常な痛みを伴う反応から生じる、痛みを伴う症候群である。多くの場合における刺激は、痛みの閾値の増大を伴って何度も繰り返され、それを患者が痛みと認識することができる、最少の痛みの経験としてみなされることがある。
【0026】
神経因性疼痛の例には、接触性アロディニア(例:神経損傷後に誘導されるもの)神経痛(例:ポスト疱疹性(又は、ポスト帯状ヘルペス)神経痛(三叉神経痛))、灼熱痛/カウザルギー(神経外傷)、癌性疼痛(例:癌そのもの又は関連する状態(例:炎症)による痛み、又は治療(例:化学療法、手術又は放射線療法)による痛み)の構成成分、幻肢痛、圧迫性神経障害(例:手根管圧迫症候群)及び神経障害(例:末梢神経病(例:糖尿病、HIV、慢性のアルコール使用、他の毒素(多くの化学療法を含む)への暴露、ビタミン欠乏症及び多種多様な他の医学的状態によるもの))が含まれる。神経因性疼痛には、様々な原因(例えば、外科手術、損傷、帯状ヘルペス、糖尿病神経障害、脚又は腕の切断、癌等)による神経損傷の後、神経系が異常に作動することによって誘発される痛みを含む。神経因性疼痛に関連した医学的状態は、外傷性神経損傷、脳卒中、多発性硬化症、脊髄空洞、脊髄損傷及び癌が含まれる。
【0027】
痛みを引き起こす刺激は、多くの場合、炎症反応を呼び起こし、炎症反応は、それ自身で痛みの体験に関与することができる。いくつかの状態において、痛みは、侵害受容の要因と神経障害性の要因との複合的に混成したものによって生じるように見える。例えば、慢性痛には、多くの場合、炎症性の侵害受容性疼痛若しくは神経障害性の痛み、又は両方が混成したものが含まれる。初期の神経系機能不全又は損傷は、炎症性メディエーターの神経性放出及びその後の神経障害性炎症を誘発するだろう。例えば、片頭痛は、神経障害性の痛み及び侵害受容性の痛みの混成として表すことが可能である。また、筋筋膜痛は、おそらく筋肉からの侵害受容性入力に対して二次的に生じるが、異常な筋肉活性は神経障害性の状態の結果で生じる可能性がある。
【0028】
2) 痛みの症状
患者が経験する痛みの症状は、臨床医に識別可能な痛みの兆候を伴うかもしれないし、伴わないかもしれない。逆にいえば、患者が症状に気づくことなく、臨床兆候によって痛みを明らかにすることが可能である。
【0029】
痛みの症状には、例えば、行動変化の形における痛みに対する反応を含むことができる。痛みに対する典型的な反応には、痛みを伴う刺激の意識的な回避、痛みを伴う刺激から身体又は身体の一部を保護することを意図する保護反応、痛みを最小化し治癒を促進することを意図する反応、痛みのコミュニケーション及び生理反応を含むことが可能である。コミュニケーション反応は、痛みに対する発声又は表情若しくは姿勢を変えることを含むことが可能である。生理反応には、自律神経系又は内分泌系によって介される反応(例:アドレナリン及びノルアドレナリンの強化された放出、グルカゴン及び/又はホルモン及び/又はコルチコステロイドの増加した産生量)が含まれる。モニターすることが可能な生理的変化には、自発運動増加作用(例えば単収縮、痙攣、不随、瞳孔散大、震え、知覚過敏及び/又は反射の変化)が含まれる。痛みに対する生理的心臓血管系応答には、血圧の変化、脈拍数及び脈の質の変化、末梢循環の減少、チアノーゼ及びうっ血を含むことが可能である。筋張力(緊張)の増加は、痛みも示す。痛みに応答する脳機能の変化は、様々な技術(例えば脳波(EEG)、正面の筋電図法(FEMG)又はポジトロンCT(PET))によってモニターすることが可能である。
【0030】
他の痛みの症状は、関連痛の可能性があり、これは刺激が引き起こす痛みの実際の部位に隣接する部位又は上記実際の部位から遠方の部位にて限局していると認識する痛みである。多くの場合、神経がその起源で又はその近くで圧迫されたり、又は損傷を受けたりしたときに関連痛は起こる。この状況において、痛みの感覚は、一般的には、損傷が他の場所で生じる場合であっても、神経が担う領域において感じられるだろう。一般的な例は、椎間板ヘルニアにおいて起こる。椎間板ヘルニアでは、脊髄から生じている神経根が隣接するディスク材料によって圧迫されている。 痛みは、ディスク自体の損傷から生じるかもしれないが、痛みは圧迫された神経(例えば、大腿、膝又は足)が担う領域においても感じられるだろう。
【0031】
侵害受容活性が侵害受容性疼痛の症状である。侵害受容活性は、意識的に知覚される痛みがない場合であっても、引き込め反射及び様々な自律反応(例えば蒼白、発汗、徐脈、低血圧、めまい、嘔気及び失神)を引き起こす可能性がある。
【0032】
IV. 薬剤
本発明の痛みを軽減する薬剤には、ペプチド及びペプチドミミックが含まれる。本発明の例示的な薬剤は、キメラポリペプチドであって、tatペプチドのC末端にNMDAR 2B 9Cが融合されているペプチドである。かかるキメラポリペプチドは、アミノ酸配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:1)を有する。この配列の変異体及び模倣体も使用可能である。いくつかの変異体は、例示された配列のいずれかの末端上に隣接配列を有する。各末端の隣接配列は、典型的には、20、10又は5個より少ないアミノ酸を有する。N末端において、隣接残基が存在する場合、それはHIV tatタンパク質由来の追加残基であってもよい。隣接配列は、2つのペプチドドメインを接続するために典型的に用いられる種類のリンカーアミノ酸(例:Gly(Ser)4(配列番号:11)、T G E K P(配列番号:12)、GGRRGGGS(配列番号:13)又はLRQRDGERP(配列番号:14)(例えば、Tang et al. (1996), J. Biol. Chem. 271, 15682-15686; Hennecke et al. (1998), Protein Eng. 11, 405-410を参照)であってもよい。例えば、隣接アミノ酸の数は10個を超えない。あるいは、隣接アミノ酸は存在しない。
【0033】
他の変異体は、残基が削除されている。例えば、いくつかの変異体は、一部又は全部のNMDAR 2B 9C(KLSSIESDV、配列番号:3)が削除されている。いくつかの変異体は、YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:1)配列における2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11個より少ない残基が削除されている。いくつかの変異体は、YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:1)配列におけるアミノ酸置換を有する。好ましくは、いかなる置換も保存的置換(例:C末端からの3番目の位置における、TによってSを置換)である。いくつかの変異体において、置換の数は、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個より少ない置換である。いくつかの変異体は、挿入された内部アミノ酸を含む。かかる内部挿入の数は、典型的には、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11個より少ない内部挿入である。好ましくは、正電荷の残基(例:Y、R及びK)は、置換も削除もされない、又は置換される場合は、他の正電荷の残基と置き換えられる。他の薬剤は、配列YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:1)のペプチドミミックであって、少なくとも一つの残基が非天然のアミノ酸と置き換えられている、及び/又は少なくとも一つの結合が非ペプチド結合と置き換えられている。ペプチドミミックは、典型的には、基礎となるペプチドと類似の電荷分布及び三次元コンフォメーションを有するが、安定性又は薬理学的動態は強化されている。本発明のいくつかの薬剤は、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個より少ない部位において、ポリヌクレオチドYGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:1)とは違うものであって、その違いは削除、置換(非内部のものとの置換を含むも)、内部置換であってもよい。
【0034】
本発明の他の例示的な薬剤は、tatペプチドである。tatペプチドは、tatタンパク質の断片である。上記断片には、塩基性残基が過剰出現するものであって、細胞の中へ又はバリア(例えば、血液脳関門)を横切って、連結した分子の取り込みを容易にする能力を有するものが含まれる。tatタンパク質は、HIV-1、HIV-2及びSIVウィルスにおいて発見されている。tatペプチドは、HIV-1 Tatタンパク質の、およそ35-70、40-65又は43-60残基を占める。HIV-2及びSIVにおいては、Tatのこの部分は、一般的には、HIV-2又はSIV tatタンパク質の70-100、75-95又は78-91残基に対応する。 HIV-1由来の代表的なtatタンパク質は、GenBank ID 9629358(NP_057853.1)として提供されるものであって、それは、以下の配列を有する、: EPVDPRLEPWKHPGSQPKTACTNCYCKKCCFHCQVCFITKALGISYGRKKRRQRRRAHQNSQTHQASLSKQPTSQPRGDPTGPKE(配列番号:15)。下線部は、標準tatペプチドと呼ばれる。標準tatペプチドは、本発明において用いられる好ましい薬剤である。
【0035】
tatペプチドの変異体及び模倣体も提供される。いくつかの薬剤は、以下を含む:tatペプチドであるが他の部分を欠いており、独立して薬理的に活性を有するもの(例:NMDAR 2B 9Cペプチド)、又は痛みを軽減することが既知の他の薬剤。いくつかの変異体は、例示された配列のいずれかの末端上に隣接配列を有する。各末端の隣接配列は、典型的には、20、10又は5個より少ないアミノ酸を有する。隣接配列が存在する場合は、それは、HIV tatタンパク質(例:上記にて提供する配列)由来の追加残基であってもよい。隣接残基は、他の機能性(例:後述するような、NMDA2B9c又は他の痛みを軽減する薬)を加えることも可能である。隣接残基は、上記したようなリンカーであってもよい。他の変異体は、残基が削除されている。いくつかの変異体は、YGRKKRRQRR(配列番号:16)配列の2、3、4、5残基より少ない残基が削除されている。いくつかの変異体は、YGRKKRRQRRR(配列番号:2)配列にアミノ酸置換を有する。好ましくは、いかなる置換も、保存的置換である。任意に、上記置換は、存在する正電荷の残基数を維持する又は増加させる。いくつかの変異体において、置換の数は、2、3、4、又は5個より少ない。いくつかの変異体には、内部アミノ酸の挿入が含まれる。かかる内部挿入の数は、典型的には、2、3、4、又は5より少ない。好ましくは、正電荷の残基(例:Y、R及びK)は、置換も削除もされない、又は置換される場合は、他の正電荷の残基と置き換えられる。他の薬剤は、配列YGRKKRRQRRR(配列番号:2)のペプチドミミックであって、少なくとも1つの残基が非天然のアミノ酸と置き換えられる、及び/又は少なくとも1つの結合が非ペプチド結合と置き換えられる。ペプチドミミックは、典型的には、基礎となるペプチドと類似の電荷分布及び三次元コンフォメーションを有するが、安定性又は薬理学的動態が強化されている。本発明のいくつかの薬剤は、2、3、4より少ない部位において、ポリヌクレオチドYGRKKRRQRRR(配列番号:2)とは違うものであって、その違いは削除、置換(非内部のものとの置換を含むも)、内部置換であってもよい。いくつかの薬剤は、部位が1箇所異なる。いくつかの変異体は、Tatタンパク質の少なくとも7、8、9、10又は12個の連続アミノ酸を含む。いくつかの変異体は、tatタンパク質の一部から実質的になっているもの、又は上記一部を含むものであって、少なくとも約60%、70%、80%、90%又は100%のアミノ酸が塩基性(例:ヒスチジン(H)、リシン(K)又はアルギニン(R))である。いくつかのtatペプチドは、Tatタンパク質中の、少なくとも7、8、9、10、11、12又は13個の連続残基を含む。いくつかの薬剤は、YGRKKRRQRRR(配列番号:2)中の、少なくとも7、8、9又は10個の連続残基(例:YGRKK(配列番号:17))を含む。いくつかの断片は、断片のN末端に天然のチロシン残基(Y)を保持する。
【0036】
上記の薬剤は、細胞への取り込みの保持、血液脳関門を横切る能力、N型カルシウムチャネルを阻害する能力及び/又は、動物モデルにおいて痛みを阻害する能力に関してスクリーニングすることが可能である。かかるスクリーニングの例は、下記にて説明する。好ましい薬剤は、少なくとも、動物モデルにおいて細胞に取り込まれる能力及び痛みを阻害する能力を有するものである。いくつかの薬剤は、N型カルシウムチャネルを阻害する能力及び/又は血液脳関門を横切る能力も有する。
【0037】
ペプチド(例:今しがた記載したもの)は、任意に、誘導体化(例:アセチル化、リン酸化及び/又は糖鎖修飾)し、阻害剤の結合親和性を改善したり、細胞膜を横切っての輸送が可能な阻害剤の能力を改善したり、又は安定性を改善したりすることが可能である。
【0038】
本発明のペプチドは、固相合成又は組換え法によって合成が可能である。ペプチドミミックは、学術文献及び特許文献(例:Organic Syntheses Collective Volumes, Gilman et al. (Eds) John Wiley & Sons, Inc., NY, al-Obeidi (1998) Mol. Biotechnol. 9:205-223; Hruby (1997) Curr. Opin. Chem. Biol. 1:114-119; Ostergaard (1997) Mol. Divers. 3:17-27; Ostresh (1996) Methods Enzymol. 267: 220-234)に記載されている様々な手順及び方法論を使用して合成が可能である。
【0039】
本発明の薬剤は、第2の治療薬又は成分(例:治療薬、標識若しくは第2の内在化剤)と結合させてもよい。治療法の組み合わせで使用する他の薬剤の例は、以下で述べる。tat以外の内在化剤の例には、アンテナペディア内在化ペプチドSGRQIKIWFQNRRMKWKKC(配列番号:18)(Bonfanti, Cancer Res. 57, 1442-6 (1997))(及びその変異体)、ペネトラチン、SynB1及び3、トランスポータン、両親媒性物質、HSV VP22、gp41NLS、polyArg並びにその他のものであって以下の引用文献に記載されているもの(Temsamani, Drug Discovery Today, 9(23):1012-1019, 2004; De Coupade, Biochem J., 390:407-418, 2005; Saalik Bioconjugate Chem. 15: 1246-1253, 2004; Zhao, Medicinal Research Reviews 24(1):1-12, 2004; Deshayes, Cellular and Molecular Life Sciences 62:1839-49, 2005) (参照により全てが組み込まれる)が含まれる。
【0040】
2以上の薬剤のカップリングは、融合タンパクの形で、又薬剤をカップリング若しくは共役することを通じて達成が可能である。かかる薬剤の多くは、市販されており、S. S. Wong, Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking, CRC Press (1991)によって概説されている。 架橋試薬のいくつかの例は、J-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸(SPDP)又はN,N'-(1,3-フェニレン)ビスマレイミド;N,N'-エチレンビス-(ヨードアセトアミド)又は6〜11の炭素メチレン橋(スルフヒドリル基に対して比較的特異的である)を有する他の架橋試薬;そして、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(アミノ基とチロシン基とで不可逆的な架橋を形成する)を含む。他の架橋試薬は、p,p'-ジフルオロ-m, m'-ジニトロジフェニルスルホン(アミノ基とフェノール基とで不可逆的な架橋を形成する);ジメチルアジプイミド酸(アミノ基に特異的である);フェノール-1,4-ジスルホニルクロリド(主にアミノ基と反応する);ヘキサメチレンジイソシアナート又はジイソチオシアネート又はアゾフェニール-p-ジイソシアナート(主にアミノ基と反応する);グルタルアルデヒド(いくつかの異なる側鎖と反応する)及びジスジアゾベンジジン(主にチロシンとヒスチジンとで反応する)を含む。
【0041】
任意に、痛みを軽減する薬剤(例:tatペプチド)は、他の痛みを軽減する薬剤又は他の治療薬と結合も共役もしない。任意に、痛みを軽減する薬剤は、他の治療薬であって、痛みを軽減する薬剤ではないものと共役する。上記薬剤(例:tatペプチド)は、任意に、第2の薬剤であって、上記薬剤と共役も結合もしないものと共投与される。 上記薬剤は、同時に又は異なる時間(例:それぞれ1時間又は1日又は1週以内)に共投与することが可能である。薬剤は、単一の製剤として又は別々の製剤として、一緒に共投与することが可能である。あるいは、痛みを軽減する薬剤は、他の痛みを軽減する薬剤又は他の治療薬と組み合わせては共投与されない。
【0042】
V. 治療される患者
本発明の薬剤は、上述した痛み及び/又は上述した1つ以上の痛みの症状を患っている若しくはそのリスクを有する、いかなる個体に対しても投与可能である。上記個体は、好ましくは、哺乳動物(例:ヒト)である。ヒト以外の哺乳動物には、霊長類(例:サル)又は齧歯類(例:マウス又はラット)が含まれる。
【0043】
上記方法は、合併症又は疾患感受性の有無にかかわらず、患者の痛みの治療又は予防のために用いることが可能である。いくつかの方法において、患者は、興奮毒性が引き起こす状態から苦しんでいない、又は最近(例:最後の時間、日、週、月又は年から)は、興奮毒性原因状態から苦しんではいない。いくつかの方法において、上記患者は、興奮毒性原因状態を患っていることを知っている又は上記状態を患っている疑いがあるが、興奮毒性の発作で苦しんでいることを知らないし疑いもない患者である。また、上記患者は、最近(例:最後の時間、日、週、月又は年から)は、興奮毒性の発作が起こっていたことが疑われる。いくつかの方法において、上記患者は、興奮毒性が引き起こす状態を患っていたはずであると知っているが、現在、興奮毒性から生じる神経変性又は神経損傷を経験しているとは考えられない患者である。
【0044】
いくつかの方法において、患者はグルタミン酸受容体によって媒介される興奮毒性を原因とする興奮毒性原因状態(例:NMDA受容体媒介興奮毒性損傷)を患っていない。かかる状態には、脊髄損傷、脳卒中、外傷性脳損傷及び中枢神経系(CNS)の神経変性疾患(例えば多発性硬化症、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、アルコール依存症及びハンチントン舞踏病)が含まれる。
【0045】
いくつかの方法において、上記患者は、公知の興奮毒性媒介神経損傷を患っていない。他の方法において、上記患者は、疾患又は疾病による痛みで苦しんでいない。例えば、上記患者は、外傷による痛みを経験している。他の状況では、上記患者は、他の医学的状態であって、痛みのない状態又は重大な痛みを引き起こさない状態を患っていない。
【0046】
VI. 治療方法
本発明の薬剤は、痛みを患っている又はそのリスクを有する患者に投与される。治療とは、薬剤を投与し、痛み又は少なくとも1つの痛みの兆候若しくは症状を緩和、減少、遅延、抑制及び/又は防止することを生じさせることを意味する。治療には、痛みに関する、任意の兆候又は症状の強度及び/又は持続期間の減少が含まれる。たとえ他の兆候又は症状が、治療によっても変わらない又は更に増加する場合であっても含まれる。
【0047】
治療上の予防的投与において、少なくとも1つの薬剤は、一般集団と比較して痛みを発病するリスクが高い又は痛みに関する少なくとも1つの症状が悪化している患者に投与される。かかる患者には、痛みのリスクが高いこと知らされている患者(例:手術を受けようとしている患者)又は重篤若しくは慢性の痛みを伴う疾患(例:糖尿病及び癌)に苦しんでいる患者が含まれる。上記薬剤は、痛みの発症又は増加又は悪化の前に、痛みのリスクを取り除いたり、又は減らしたり、又は発症を遅らせるのに十分な量を用いて投与することが可能である。治療的投与において、少なくとも1つの薬剤が痛みの疑いがある患者又は既に痛みに苦しんでいる患者に投与される。上記薬剤は、例えば、痛み及びその合併症の症状の少なくとも1つを消したり、又は少なくとも軽減させたりするのに十分な量を用いて投与される。
【0048】
本発明の方法を使用することで、いかなる種類の痛み(ちょうど記載されている痛みやそれらの任意に組み合わせたものも含む)も治療したり、又は予防したりすることが可能である。いくつかの方法は、神経因性疼痛を治療する又はその予防をもたらすために用いられ、神経因性疼痛には中枢又は抹消又はその両方が含まれる。いくつかの方法は、慢性痛(例:1、3、6又は12ヶ月を超えて続く痛み)を治療するために用いられる。いくつかの方法は、重篤な慢性痛を治療するために用いられる。
【0049】
治療法において、治療は、任意に、痛みの発症後可能な限り早く開始される。複数回の投与は、1、2、3、4、8、16、24時間又はより長い間隔で投与可能である。投与は、毎日若しくは毎週、又は痛みの強度の悪化に反応する不規則な間隔においても行われる。投与は、継続的(例:点滴)でもある。
【0050】
痛みの治療を受けている患者であって、興奮毒性に関連した合併症を患っている者においては、上記薬剤を投与することで、その薬剤による興奮毒性神経変性治療のための治療期間外であっても痛みを軽減することが可能である。例えば、上記薬剤を投与し、興奮毒性による発作後、約4、5、6、8、12、18、24、48又は120時間後の痛みを治療する。
【0051】
薬剤(例:本発明のペプチド又はペプチドミミック)の投与に対する患者の反応は、痛みに対する薬剤の効果を測定することによってモニターすることが可能である。
【0052】
1) 併用療法
本発明の薬剤は、痛みを治療するための薬剤及び/又は痛みを伴う基礎疾患のための従来の薬剤と組み合わせて投与可能である。2つの薬剤は、同一又は異なる時間に別々に投与可能である。あるいは、2つの薬剤は、互いに結合し、二機能性の薬剤を形成することも可能である。
【0053】
A) 薬剤の組み合わせ
本発明の薬剤と共に投与可能な鎮痛剤のいくつかの例に、コノトキシン及びシムリン(Symlin)が含まれる。コノトキシンには以下のものが含まれる:神経及び筋肉でアセチルコリンレセプターを阻害するα-コノトキシン;電位依存的ナトリウムチャネルの失活を阻害するδ-コノトキシン;カリウムチャネルを阻害するκ-コノトキシン、筋肉の電位依存的ナトリウムチャネルを阻害するμ-コノトキシン又は好ましくはN型電位依存的カルシウムチャネルを阻害するω-コノトキシン(プリアルト(Prialt))及び天然ペプチドの合成誘導体。好ましいコノトキシンには、ω-コノトキシン-GVIA、ω-コノトキシン-MVIIA(SNX-111、ジコノタイド及びプリアルトとも呼ばれる)、AM336(ω-コノトキシン-CVID)が含まれ、それはプリアルトやフエントキシン-I(huwentoxin-I)より良好な治療係数を有する。他の有用な鎮痛剤には、痛みに関連した様々な受容体に結合可能なペプチドリガンド若しくは活性断片又はその誘導体が含まれる。例としては、α-エンドルフィン、エンドモルフィン-1、エンドモルフィン-2、デルモルフィン、β-カゾモルフィン(ウシ又はヒト)、モルフィセプチン(Morphiceptin)、Leu-エンケファリン、メトエンケファリン、DALDA及びPL107、サブスタンスP、タヒキニン、ニューロキニン、プロスタグランジン、ブラジキニン、セロトニン、ニューロトロフィン、ケモカイン、ボツリヌス毒素、プロキネチシン(prokineticin)及びNK1受容体アンタゴニスト;US2006-0105947及びUS6759520 (その全体を参照によって組み込まれる)に記載されているいくつかのものが含まれる。
【0054】
本発明の薬剤と共に投与可能な低分子鎮痛剤の例として、NSAID、COX 2阻害剤、COX-3阻害剤、iNOS阻害剤、PAR2受容体アンタゴニスト、神経遮断薬、オピオイド、N-アセチルコリンレセプターアゴニスト、グリシンアンタゴニスト、バニロイド受容体アンタゴニスト、ニューロキニンアンタゴニスト、カルシトニン遺伝子関連ペプチドアンタゴニスト及びシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害一酸化窒素供与体(CINOD)が含まれる。痛みを軽減する他の薬には、コデイン、バイコジン、モルヒネ、デメロール、パーコセット、ダルボン及びダルボセットが含まれる。
【0055】
他の痛みを軽減する薬は、以下のイオンチャネル又は受容体カルシウムチャネル(例:L型及び/又はN型)のいずれかを対象とする。それは、酸感受性イオンチャネルファミリー(ASIC)(Waldmann et al., 1997);P2XファミリーのATP感受性イオンチャネル(Chen et al., 1995; Lewis et al., 1995; Chessel et al., 2005);侵害受容器特異的TTX非感受性Naチャネル(Nav1.8及びNav1.9)(Akopian et al., 1996; Dib-Hajj et al., 2002)、バニロイド受容体(例:TRPV1)、ニコチン性アセチルコリン受容体、オピオイド受容体(例えばμ、δ又はκ)受容体)、オピオイド様受容体(例:ORL-1)、サブスタンスPが作用すると考えられているNK1受容体、及び細胞外の痛みメディエーター(例:プロスタグランジン、ブラジキニン、セロトニン、アデノシン、ニューロトロフィン、ATP、プロテイナーゼ、ケモカイン及びプロキネチシン、末梢侵害受容器感作を誘導可能な活性剤)に関する他の受容体である。
【0056】
B) 痛みを伴う疾患治療の組合せ
本発明の薬剤(例:tatペプチド)は、治療薬と組み合わせて投与し、痛みを伴う疾患を治療するために用いることも可能である。治療薬と鎮痛薬は、別々の薬として、又は一緒に結合させたもの(例:融合タンパク)として投与が可能である。かかる併用療法において使用可能な治療薬の例としては、リュープロン、インシュリン、オキシトシン、エキセンディン-4、パラトルモン、カルシトニン、フゼオン、インテグリン(Integrilin)、DDAVP、サンドスタチン若しくはシムリン、又はその活性断片若しくは誘導体が含まれる。
【0057】
痛みを伴う疾患は、多種多様である。例えば、慢性痛になる可能性がある疾患としては、糖尿病、関節炎(例:骨関節炎、関節リウマチ及び若年性慢性関節炎)、癌又は化学療法の毒作用、線維筋痛、帯状ヘルペス、過敏性腸症候群、血管の問題又は鎌状赤血球貧血症が含まれる。
【0058】
発作性の一般的な痛みを伴う疾患には、リウマチ性多発性筋痛、心気症、うつ病、糖尿病、悪性貧血、鎌状赤血球症及び梅毒が含まれる。神経因性疼痛を伴う疾患には、神経痛(例えば、三叉神経痛、非定型の顔面痛及び帯状ヘルペス又はヘルペスによって引き起こされるヘルペス後神経痛)、末梢神経障害、シャルコー-マリー-ツース病、フリードライヒ失調症、糖尿病(例:糖尿病神経障害)、食事障害(特にビタミンB-12)、過剰なアルコール摂取(アルコール神経障害)、尿毒症(腎不全由来)、癌、AIDS、肝炎、コロラドダニ熱、ジフテリア、ギラン-バレー症候群、AIDSへの進行のないHIV感染症、ハンセン病、ライム病、結節性多発動脈炎、慢性関節リウマチ、サルコイドーシス、シェーグレン症候群、梅毒、全身性エリテマトーデス及び毒性化合物への暴露が含まれる。
【0059】
炎症性の痛みを伴う疾患は、以下を含む:(A)関節疾患(例:慢性関節リウマチ);若年性慢性関節リウマチ;全身性エリテマトーデス(SLE);痛風関節炎;強皮症;骨関節炎;乾癬性関節炎;強直性脊椎炎;ライター症候群(反応性関節炎);成人スティル病;ウィルス感染由来の関節炎;細菌感染症由来の関節炎(例えば、例:淋菌性関節炎及び非淋菌性の細菌性関節炎(化膿性関節炎));第3期のライム病;結核性関節炎;そして、真菌感染由来の関節炎(例:ブラストミセス症);(B)自己免疫疾患(例:ギラン-バレー症候群)、橋本甲状腺炎、悪性貧血、アジソン病、I型糖尿病、全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、紅班性狼瘡、多発性硬化症、重症筋無力症、ライター症候群及びグレーブス病。(C)結合組織障害(例:脊椎関節炎皮膚筋炎、そして線維筋痛);(D)障害−炎症が引き起したもの−;(E)感染症(例:結核又は間隙角膜炎);(F)神経炎(例:腕神経炎、球後神経障害、視神経症及び前庭神経炎);そして、(G)関節炎(例:滑液嚢炎又は腱炎)。頭痛型の痛み(頭痛)には、筋肉/筋原性、血管性、牽引性若しくは炎症性、群発性、ホルモン性、反跳性又は慢性副鼻腔炎性の頭痛が含まれる。
【0060】
体性痛は、過剰な筋張力、反復性運動障害、筋障害(例:多発性筋炎、皮膚筋炎、狼瘡、線維筋痛、リウマチ性多発性筋痛)、及び横紋筋融解症、筋痛、感染(例:筋肉の膿瘍)、旋毛虫症、インフルエンザ、ライム病、マラリア、ロッキー山紅斑熱、トリインフルエンザ、感冒、市中肺炎、髄膜炎、サル痘、重症急性呼吸器症候群、毒性ショック症候群、旋毛虫症、腸チフス及び上気道感染症を伴う可能性がある。内臓痛は、例えば、過敏性腸症候群、慢性機能性腹痛(CFAP)、機能性便秘、機能性消化不良、非心臓性胸痛(NCCP)及び慢性腹痛のような疾患、慢性胃腸炎(例:胃炎、炎症性大腸疾患、その他の炎症(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎、顕微鏡的大腸炎、憩室炎及び胃腸炎);間質性膀胱炎;腸管虚血;胆嚢炎;虫垂炎;胃食道逆流)、潰瘍、腎結石、尿路感染症、膵臓炎及びヘルニアを伴う可能性がある。
【0061】
慢性痛を伴う多くの疾患は、PCT公報WO07/138336(全体として参照によって組み込まれる)において開示される。
【0062】
VII. 医薬組成物、投与量、及び投与ルート
本発明の薬剤は、医薬組成物の形態で投与可能である。医薬組成物は、通常、GMP条件下で製造される。医薬組成物は、上で明示される任意の投与量を含んでいる単位用量の形態(即ち、1回分の投与量)にて提供が可能である。医薬組成物は、従来の混合、溶解、造粒、糖衣化、すりつぶし、乳化、カプセル化、封入又は凍結乾燥工程により製造することができる。特に、凍結乾燥した、本発明の薬剤は、後述する製剤及び組成物で用いることができる。
【0063】
医薬組成物は、1以上の生理学的に許容可能な担体、希釈剤、賦形剤又は補助剤を使用する従来の方法であって、薬剤的に使用可能な製剤にするための薬剤処理を容易にする方法で調製可能である。適当な製剤は、選択する投与ルートに依存する。
【0064】
投与は、非経口、静脈、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、髄腔内、腹腔内、局所、鼻腔内又は筋肉内であってもよい。静脈内投与が好ましい。
【0065】
本発明の薬剤は、投与する領域として適している場合(例:痛みが、身体の特定の部分に限局している場合)は、局所的(locally)又は部分的(topically)に、その領域へ(例えば、筋肉内投与を介して)投与が可能である。例えば、痛みが全身性であったり、CNS組織に関係したりする場合は、上記薬剤は、任意に、CNSに対して(例えば、静脈内又はクモ膜下腔内に)投与可能である。上記薬剤は、薬剤を末梢神経系(例:後根神経節)に接触させることが可能な様式においても投与可能である。
【0066】
非経口投与用の医薬組成物は、好ましくは無菌且つ実質的に等張である。注射用に、薬剤を水溶液として、好ましくは生理的に適合可能な緩衝液(例:ハンク溶液、リンゲル液、又は生理食塩液若しくは酢酸緩衝液(注射部における不快感低減のため))として調製可能である。上記溶液には、調整剤(例:懸濁剤、安定化剤及び/又は分散剤)を含むことができる。
【0067】
あるいは、上記薬剤は、使用前に適切な媒体(例:無菌であって発熱物質が含まれていない水)と共に構成するための粉末形態であってもよい。
【0068】
経粘膜投与用には、障壁を透過するのに適する浸透剤が上記調製に使用される。この投与ルートは、化合物を鼻腔に届けるために、又は舌下投与のため用いることが可能である。
【0069】
内服用として、上記薬剤を医薬的に許容可能な担体と共に調製し、治療すべき患者の経口摂取用に、錠剤、丸剤、糖衣剤、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等とすることが可能である。経口用固形製剤(例:粉末、カプセル及び錠剤)として、適切な賦形剤には、充填剤(例えば糖(例:ラクトース、蔗糖、マンニトール及びソルビトール);セルロース製剤(例えばトウモロコシ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、ジャガイモ澱粉、ゼラチン)は、トラガント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及び/又はポリビニルピロリドン(PVP));造粒剤;そして、結合剤が含まれる。必要に応じて、架橋したポリビニルピロリドン、寒天又はアルギン酸若しくはその塩(例:アルギン酸ナトリウム)のような、崩壊剤を加えることが可能である。必要に応じて、固体投与形態を標準的な方法を使用して糖衣化したり、腸溶性としたりしてもよい。経口用液体製剤(例:懸濁液、エリキシル及び水溶液、適切な担体、賦形剤又は希釈液)には、水、グリコール、油、アルコールが含まれる。加えて、香料、防腐剤、色素及びその他同様のものを加えてもよい。
【0070】
以前から述べられている製剤に加えて、上記薬剤は、デポー製剤として調製することも可能である。このような長時間作用する製剤は、埋め込み(例:皮下又は筋肉内)又は筋肉内注射によって投与することが可能である。従って、例えば、上記化合物は、適切な高分子材料又は疎水性材料(例えば、許容可能な油のエマルジョンとして)若しくはイオン交換樹脂、又はやや難溶性の誘導体(例えば、やや難溶性の塩として)と共に投与が可能である。
【0071】
あるいは、他の医薬送達系を採用してもよい。リポソーム及びエマルジョンを使用し、薬剤を送達してもよい。ある種の有機溶剤(例:ジメチルスルホキシド)を採用することも可能であるが、通常、より大きな毒性を代償として払う。加えて、上記化合物は、徐放性製剤(例:治療薬を含んでいる、固体ポリマーの半透過性マトリクス)を使用して送達することが可能である。
【0072】
徐放性カプセルは、それらの化学的性質に応じて、数週間から100日以上の期間、上記薬剤を放出することが可能である。治療用薬剤の化学的性質及び生物学的安定性に応じて、タンパク質の安定化に対する更なる方針を採用してもよい。
【0073】
本発明の薬剤が荷電側鎖又は末端を含む場合、それらを遊離酸若しくは遊離塩基又は医薬的に許容可能な塩として、上記製剤のいずれかに含ませることが可能である。医薬的に許容可能な塩とは、遊離塩基の生物活性を実質的に保持し、無機酸との反応によって調製される、それらの塩類である。医薬塩は、水性及び他のプロトン性溶媒の方が対応する遊離塩基系よりも、より可溶性になる傾向がある。
【0074】
本発明の薬剤は、意図された目的を達成するのに効果的な量で使用される。治療上有効な量とは、現在痛みの兆候及び/又は症状を経験している患者において、痛みに関する少なくとも1つの兆候及び/又は症状の悪化を取り除いたり、軽減したり、又は阻害したりするのに十分な薬剤の量を意味する。例えば、量が治療上有効であるとみなされる場合は、治療を受けている患者(ヒト又は動物)群が無処置患者のコントロール群と比較して、痛みに関する少なくとも1つの兆候又は症状を著しく軽減する場合である。上記量が治療上有効であるとみなされる場合は、個々の治療を受けている患者が、本発明の方法による治療を受けていない比較可能な患者のコントロール群における平均的な治療結果よりも良好な治療結果になる場合である。予防上有効な薬剤量とは、現在兆候及び/又は症状を経験していないが、かかる兆候及び/又は症状を発病している母集団と比較してリスクが高いと思われる患者において、痛みに関する少なくとも1つの兆候又は症状の進行を遅らせたり、阻害したり、又は防止したりするのに十分な薬剤の量を意味する。例えば、予防上有効な量とみなされる場合は、上記薬剤を用いた治療を受けている、痛みの症状を発病するリスクのある患者群が、上記薬剤を用いた治療を受けていないコントロール群と比較して、兆候又は症状が軽減する場合である。有効量の基準とは、治療上有効な量又は予防上有効な量のいずれかを意味する。有効な投与計画の基準とは、上記の通り、意図する目的を達成するの必要な有効量と投与頻度の組合せを意味する。
【0075】
平均体重を75kgと仮定すると、ヒトにおける適切な用量は、通常300マイクロモル未満(例:30マイクロモル未満)である。用量は、時には、0.03ナノモル〜30マイクロモル(例:0.03ナノモル〜3マイクロモル)、又は0.3ナノモル〜600マイクロモル、又は3ナノモル〜60マイクロモル、又は30ナノモル〜30マイクロモルの範囲である。いくつかの用量範囲は、以下を含む:体重75kgの患者あたり総用量0.05〜500ナノモルの薬剤、任意に患者あたり0.5〜50ナノモル(例:75kgの患者あたり約0.5、1、2、5、10、20又は50ナノモル)。いくつかの方法において、総用量は、1-10ナノモル(例:75kgの患者あたり約1、5又は10ナノモル)である。いくつかの状況において、上記用量は、0.1〜1ナノモル(例:75kgの患者あたり0.1、0.2、0.5又は0.8ナノモル)であってもよい。他の状況では、上記用量は、10-100ナノモル(例:75kgの患者あたり20、50、80又は100ナノモル)であってもよい。任意に、上記用量は、75kgの患者あたり2250ナノモル未満である。任意に、上記用量は、75kgの患者あたり75ナノモル未満である。用量を調整して体重のバリエーションに合わせてもよい。上記用量は、割算によってkg体重あたりの薬剤量(ナノモル)に換算してもよく、例えば、75kgで割算する
【0076】
用量は、薬剤のモル重量(例:Tat-NR2B9cなら2519)を掛算することにより、モルからグラムの単位に換算してもよい。ヒト用治療薬の適切な用量は、通常、10mg/kg未満(例:1mg/kg未満)である。用量は、時には、10-4から1mg/kg、10-4から0.1mg/kg、10-4から20μg/kg又は10-3から2μg/kg又は10-2から2μg/kgまでの範囲であって、例えば、50、100、150、200、500、1000又は1500ng/kgである。いくつかの用量の範囲には、kg体重あたり10-200ngの薬剤用量(例:患者あたり約1、5、10、20、50、80、120、160又は200ng/kg)が含まれる。いくつかの方法において、上記用量は、2-20μg/kg(例:2、4、6、8、10、12、16、18、又は20μg/kg)である。任意に、上記用量は、75μg/kg未満である。任意に、上記用量は、2.5μg/kg未満である。患者あたりの総用量は、kg体重あたりの用量を患者体重(kg)で掛算することによって算出可能である。例えば、75kgの患者の総用量は、上記用量を75で掛算することによって算出可能である。
【0077】
用量は、所望の薬物動態学的パラメータ(例:Cmax(即ち、投与後に観察される薬の血中濃度の最大値又は「ピーク」値)、Caverage(血液中における定常状態の濃度)及びAUC(即ち、血漿(例:血清又は血液)濃度曲線下面積)当量)を、用量、頻度及び投与ルートについて規定した投与計画として表わしてもよい。
【0078】
投与される薬剤の量は、治療を受けている患者、患者の体重、苦痛の重症度、投与の様式及び処方する医師の判断に依存する。上記治療法は、断続的に繰り返すことが可能であり、症状が検出可能な間であったり、更には検出不可能な場合であっても可能である。上記治療法は、単独又は他の薬と併用して提供してもよい。
【0079】
本薬剤の治療上有効な量は、実質的な毒性を引き起こすことなく治療的な利益を提供することが可能である。上記薬剤の毒性は、培養細胞又は実験動物における標準的な製薬的手順によって測定することが可能であり、例えば、LD50(集団の50%にとって致命的な用量)又はLD100(集団の100%にとって致命的な用量)を測定することによって測定が可能である。毒作用と治療効果の間の用量比が治療係数である。薬剤(例:ペプチド又はペプチドミミック)であって、高い治療係数を呈する薬剤が好ましい(例えば、Fingl et al., 1975, In: The Pharmacological Basis of Therapeutics, Ch.1, p.1を参照)。
【0080】
VIII. カルシウムチャネル
上記のように、痛みの治療における薬剤の有効性の内、少なくとも一部が寄与するであろう1つのメカニズムは、N型カルシウムチャネル、特にω-コノトキシンGVIAによって遮断される神経N型チャネルへの結合に関係するものである。任意に、上記薬剤は、VDCCのα1サブユニットに結合する。
【0081】
N型カルシウムチャネルは、神経伝達物質放出を調節するシナプス前神経終末に位置しており、一次求心性侵害受容器(nocioceptor)の脊髄末端由来とするものが含まれる。N型チャネルに対する結合の薬理効果は、ジコノチド薬(又は、プリアルト(Prialt)と呼ばれるイモガイの合成型ωコノトキシンM-VII-A前駆体ペプチド)に関連して、よく特徴づけられている。N型カルシウムチャネルに対する結合は、多数の活性を伴うものであり、それにはモルヒネにより誘導されるものよりも強い痛覚消失が含まれる。
【0082】
N型カルシウムチャネルは、α1B-(Cav2.2)、β-及びα2δ-サブユニットそして時にはγサブユニットをからなるヘテロオリゴマー複合体である。α1B-サブユニットは、主チャネルを形成し、単一遺伝子によりコードされている。4つのα2δ-サブユニット遺伝子がある(α2δ-1-α2δ-4) (Snutch et al., Molecular properties of voltage-gated calcium channels. In: Voltage-gated calcium (Zamponi G, ed), pp 61=94. New York: Landes Bioscience, 2005. Catterall, Biochemical studies of Ca2+ channels. In: Voltage-Gated Calcium (Zamponi G, ed), pp 48=60. New York: Landes Bioscience, 2005)。N型Ca2+チャネルは、種を渡って近い保存を示す。
【0083】
上記α1B-サブユニットN型カルシウムチャネル(Williamsらによって1992年(Science 257 (5068), 389-395 (1992), Genebank Acc No. Q00975, Species: Homo Sapiens)に、そしてCoppolaらによって1994年(FEBS Lett. 338 (1), 1-5 (1994), Genebank Acc No O55017, Species: Mus Musculus)に、そして、Dubelらによって1992年(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89 (11), 5058-5062 (1992) Genebank Acc No Q02294, Species: Rattus norvegicus)に記述されているもの)であって、完全なタンパク質と同様のカルシウムチャネル活性を有する、そのスプライスバリアント及び断片を含む上記チャネルは、スクリーニング用に好ましい。上記配列のいずれかと少なくとも90%の配列同一性を有する対立遺伝子変異体及び種変異体は、本発明のスクリーニング法でも使用可能である。 任意に、α1Bサブユニットは、alpha2(a-e)/デルタ、beta1-4及び/又はγサブユニットと組み合わせて使用してもよい。
【0084】
IX. スクリーニング方法及びアッセイ
本発明の薬剤の所望の活性は、いくつかのアッセイによって試験したり、確認したりすることができる。並行(parallel)アッセイは、通常、コントロール対薬剤について実行し、そして、所望の活性は、検出可能な差異、好ましくは統計的に有意な差異(例:コントロールと比較してより大きな結合、より大きな細胞の取り込み、より大きな痛みの低減又は阻害)から確かめられる。
【0085】
1. 対象(例:カルシウムチャネル)に対する結合測定
薬剤は、かかるチャネルに結合することが公知の標識ペプチド(例:ジコノチド)を用いた競合結合測定によって、興味がある対象(例:N型カルシウムチャネル)の結合に関するスクリーニングを行うことができる。N型カルシウムチャネルは、精製された形態又は天然に若しくは組換えとして細胞から発現されたものとして提供してもよい。精製された形態として提供される場合、N型カルシウムチャネルは、任意に、ビーズ又はマイクロタイターウェルに固定してもよい。標識ペプチドと試験薬剤とをインキュベートした後のカルシウムチャネルに結合する標識の量は、カルシウムチャネルに結合する試験薬剤の能力と反比例の関係にある。上記アッセイは、マイクロタイタープレートのウェル内においてハイスループット原理に基づいて実行することが可能である。ネガティブ及びポジティブコントロールを含むことも可能である。ネガティブコントロールは、媒体であってもよい。ポジティブコントロールは、N型カルシウムチャネルに結合することが公知のペプチドの非標識型であってもよい。
【0086】
2. インビトロにおける対象の阻害測定
薬剤は、対象の活性を阻害(例:N型カルシウムチャネルによって伝達されるイオン電流の阻害)する能力に関してスクリーニングすることが可能である。阻害とは、測定したイオン電流(カルシウムチャネルによってもたらされたもの)が統計的に有意に減少することを意味する。そのような減少は、測定された電流について、20%を超える減少、好ましくは30%を超える減少、そしてより好ましくは40%を超える減少でなければならない。阻害は、例えば、後根神経節ニューロン(ここで、カルシウム電流が発生する)におけるホールセルパッチクランプ記録を実行することによって測定することが可能である。後根神経節(DRG)の培養組織は、妊娠期間が13-14日のスイスマウスから調製可能である。簡単に言えば、DRGを解剖し、37℃で20分間、トリプシンで消化し、機械的に分離し、ポリ-D-リシンによってコートされたカバーガラス上において平板培養される。それらを無血清MEM(Neurobasal MEM、B-27 - Gibco Invitrogen Corporation , Carlsbad,CA)において生育させる。3-5日後に、10μMのFUDR溶液を加え、神経膠の増殖を抑制する。上記培養組織は、37℃、湿度のある5%CO2雰囲気下に保持し、そして週に2回栄養供給される。ホールセル記録は、平板培養の10-14日後、室温で行われる。電気生理学記録:ホールセル記録は、ボルテージクランプモードのAxopatch-1B増幅器(Axon Instruments, Foster City, CA)を用いて実行される。記録用電極は、3-5MΩの抵抗と、2ステージプラー(PP83; Narishige, Tokyo, Japan)を使用している薄壁ホウ珪酸ガラス(直径1.5mm; World Precision Instruments, Sarasota, FL)から構成される。データをデジタル化し、フィルターに通し(2kHz)、pClamp 9のプログラム(Axon Instruments)を使用してオンラインにて取得される。ピペットは、CsCl 110、MgCl2 3、EGTA 10、HEPES 10、MgATP 3、GTP 0.6(mM)を含む溶液で満たされる。pHは、CsOHを用いて7.2に調整される。 浴溶液は、pH(NaOH)7.4のCaCl2 1、BaCl2 10、HEPES 10、TEA-Cl 160、グルコース 10、TTX 0.0002(mM)含有浴溶液である。ホールセル電流は、-60mVの保持電位から+20mVまで、40msの脱分極パルスを使用して、15s毎に印加し、誘導される。使用依存性阻害を試験する目的で、電流は、-60mVの保持電位から+20mVまで、10msの脱分極パルスを使用して、0.02s(50Hz)、0.05s(20Hz)、0.1s(10Hz)又は15s(0.07Hz)毎に印加し、誘導される。実施例にて説明するように、試験薬剤によって阻害される対象の正体は、その対象に対する特異的阻害剤を用いた更なる阻害を調べることで同定可能である。
【0087】
3. インビボにおける鎮痛活性の評価
薬剤は、動物における痛みの予防又は緩和に関してスクリーニングを行うことが可能である。ヒトが哺乳動物において好ましい種類である。ヒト以外の哺乳動物は、例えば霊長類(例:サル)又は齧歯類(例:マウス又はラット)が使用可能である。
【0088】
痛みに関する哺乳動物(例:齧歯類)の侵害受容試験には、テール-フリック(tail-flick)(脊髄を介する侵害受容反射)試験(D'Amour et al. (1941), J. Pharmacol. Exp. Ther. 72: 74-79)、ホット-プレート(hot-plate)試験、ランダル-セリット(Randall-Selitto)試験(Swingle et al. (1971), Proc. Soc. exp. Biol. Med. 137: 536-538)及びテール-ピンチ(tail-pinch)試験が含まれる。サクス(Sucs)試験を用いて、種々の種類の有害な刺激に対する侵害受容閾値(例:熱に対する閾値(テール-フリック試験、ホット-プレート試験、足引き込めに関するハーグリーヴズ試験、そして尾部又は後肢足を熱水に簡易浸漬することによるハーグリーヴズ試験);又は刺激を断続させる触覚閾値(アロディニア試験(J Neurosci Methods. 1999 Mar 1;87(2):185-93)に関するフォンフレイ(Von Frey)試験によるもの)を評価することが可能である。動的なアロディニアは、綿棒を用いて後足のプランター(planter)表面を軽く打つことによって評価することが可能である。動的なアロディニアを呈するとみなされる場合は、打ち始めてから8秒以内に、動物が綿刺激に対して反応する場合である。有害な化合物に対する痛み反応は、例えば希酢酸の腹腔内注射後の腹部ねじれをモニターすることによって、そしてカプサイシンを飲料水に加えることによる嫌悪飲料試験(それを使用することで、三叉神経侵害知覚を評価することができる)によって測定可能である。
【0089】
炎症性の痛みに関する試験には、ホルマリン足試験(Tjolsen et al. (1992), Pain 51: 5-17)、ホルマリン誘導顔面痛(Clavelou et al. (1989), Neurosci. Lett. 103: 349-353)、そして物質(例:カラギーナン(carageenan)、カプサイシン又はブラジキニン)の投与による足試験が含まれる。関節炎状態は、様々なモデルによってシミュレーションすることが可能であり、上記モデルには、薬剤(カラギーナン、尿酸又はカラシ油)又はアジュバントを様々な関節に注射することが含まれる。内臓痛は、物質(例えばブラジキニン、アセチルコリン、酢酸又はフェニルキノン)の腹腔内注射によるモデル化が可能である。ストレプトゾシン(STZ)誘導糖尿病の神経細胞障害(neuroropathy)モデルは、3週以内に、再現可能な機械的アロディニアを誘導する(Chen and Pan, J europhysiol 87: 2726-2733, 2002)。
【0090】
末梢神経損傷から生じている神経因性疼痛に対する試験には、慢性狭窄傷害(例:坐骨神経結紮のベネットとシェモデル、Pain 33:87-107);部分的な神経結紮(Seltzer et al., 1990)、脊髄神経処置又は結紮(Lombard et al., 1979; Kim & Chung, 1992)、低温神経剥離(deleo et al., 1994)座骨神経乏血(Kupers et al., 1998)が含まれる。一般的な試験は、接触性アロディニア試験(Chaplan et al. (1994) J. Neurosci. Meth. 53: 55-63)である。神経因性疼痛を誘導するタキソールは、炎症性成分を含まない。ある種の末梢神経障害性状態に特異的なモデルには、三叉神経痛(Vos and Maciewicz, 1994)、糖尿病神経障害(Burchiel et al., 1985)及びビンクリスチン神経炎(Aley et al., 1996)の動物モデルが含まれる。神経腫モデル(Wall et al., 1979)は、肢切断から生じる幻痛を反映することが可能である。
【0091】
脊髄損傷から生じる痛みの動物モデルには、髄処理又は部分的処置(Levitt & Levitt, 1981)、照射誘導乏血モデル(Hao et al. 1991)、そしてキスカル酸塩の脊椎内注射を用いる興奮毒性モデル(Yezeierski & Park, 1993)及び挫傷モデル(Siddall et al., 1995)が含まれる。
【0092】
ヒトにおいて、痛みと、痛みに対する試験薬剤の効果は、様々な試験を用いて評価することが可能である。1以上の痛みの症状(上記のものを含む)は、投与の前後で評価することが可能である。投与後、1以上の症状における有意な軽減は、上記薬剤が治療上有効であることを示す。痛みに関する質問表及び尺度の多くが、種々の方法を用いて患者の痛みを評価するように設計されてきている。痛みは、1つの測定(強度のみ)により評価されるかもしれないし、複数の測定(持続期間及び強度)を使用して評価されるかもしれない。
【0093】
痛みランキングシステムのリストは、英国国立健康図書館による「1度で共有する(Once and Share)」(DOaS)プログラムに関する痛み評価プロジェクトの草案の付録35において見つけることが可能であり、その全体を参照するによって組み込まれる。 役立つ痛み尺度は、以下を含む:視覚的アナログスケール、マクギル疼痛質問表及び記述子判別(Descriptor differential)尺度。かかる痛みのランキングシステム及び尺度は、以下の引用(各々全体を引用することによって組み込まれる)に記載されている: 「Measurement of pain". J. Rheumatol. 9 (5): 768-9. PMID 6184474. Melzack R (September 1975). "The McGill Pain Questionnaire: major properties and scoring methods". Pain 1 (3): 277-99. PMID 1235985. Gracely RH, Kwilosz DM (December 1988). "The Descriptor Differential Scale: applying psychophysical principles to clinical pain assessment". Pain 35 (3): 279-88. PMID 3226757; "The subjective experience of acute pain. An assessment of the utility of 10 indices". Clin J Pain 5 (2): 153-9. PMID 2520397. Hartrick CT, Kovan JP, Shapiro S (December 2003) (incomplete citation?)。
【0094】
痛みに対する患者の感度(痛覚域値)は、痛覚計を使用して測定することも可能である。有効な痛覚計には、以下のものが含まれる:音波パルポメーター、圧力制御パルポメーター、レーザーを使用したd 痛覚圧痛計(IITC Life Sciences)、ベースラインアルゴリメーター(Baseline Algorimeter) (Kom Kare Company)、痛みに対する皮膚の感度を測定するBjornstrom圧痛計、痛みに対する上腹部の感度を測定するボーアス圧痛計。
【0095】
4. 薬剤の内在化測定
薬剤は、動物のおける内在化又は輸送活性を試験することが可能である。上記薬剤(例:tatペプチド)は、例えば、標識して動物(例:マウス)に注入することが可能である。例えば、腹腔内注射又は静脈内注射が適切である。注射の約1時間後に、マウスを殺し、固定液(3%パラホルムアルデヒド、0.25%グルタルアルデヒド、10%スクロース、10U/mLヘパリン含有食塩水)を注ぐ。脳を取り出し、凍結し、切片化する。 切片は、共焦点顕微鏡を使用して蛍光分析する。内在化活性は、任意に、ポジティブコントロール及びネガティブコントロールと比較して、蛍光を基にして測定する。 適切なポジティブコントロールは、標準tatペプチド配列を含んでいる薬剤である。 適切なネガティブコントロールは、上記tat配列を欠いている蛍光標識活性薬剤である。非標識媒体を、ネガティブコントロールとして使用してもよい。
【0096】
類似の実験を培養細胞において実行し、tat変異体(US20030050243を参照)を試験してもよい。蛍光標識tatペプチドの変異体は、任意に活性ペプチドに連結し、皮質ニューロン培養に投与する。取り込みは、投与後の数分にわたって蛍光顕微鏡法を使用して測定する。動物の取り込みの実験に関する記述の通り、取り込みの増加は、ポジティブコントロールとネガティブコントロールとの比較により測定可能である。
【実施例】
【0097】
実施例1:Tat-NR2B9cの副作用に関するスクリーニング
Tat-NR2B9cは、標準tatペプチドとKLSSIESDV(配列番号:3)のキメラペプチドであって、既にラットの脳卒中モデルにおいて有効であることが示されている。この実施例は、様々な受容体タンパク質への既知リガンドの結合を阻害する能力に関してペプチドTat-NR2B9cをスクリーニングする。スクリーニングされた受容体の例には、N型カルシウムチャネルが含まれていた。
【0098】
上記スクリーニングは、競合結合アッセイとして実行した。上記アッセイは、濃度10μMの非標識Tat-NR2B9cとその受容体に結合するI125標識リガンドとを、感度を増加させるために非標識リガンドの存在下において競合させたアッセイである。10μMにおいて、Tat-NR2B9cは、放射性同位元素を使って識別されたω-コノトキシンGVIAのN型カルシウムチャネルへの結合を100%阻害することを示した。 Tat-NR2B9cは、同じ濃度でIL-8/IL-8RBを80%阻害することも示した。
【0099】
実施例2:標準Tatペプチドの変異誘発
標準tatペプチド及び強力な鎮痛薬の配列
YGRKKRRQRRRKLSSIESDV (Tat-NR2B9c) (配列番号:1)
CKGKGAKCSRLMYDCCTGSCRSGKCG (ジコノチド) (配列番号:19)
【0100】
N型カルシウムチャネルの阻害に関して、Tat-NR2B9c変異体を試験した。これらの変異体は、Tat-NR2B9cの1番目に位置するY残基をFに変異している変異体、とTat-NR2B9cにおける塩基性残基の延在に改変を有する変異体を含んでいた。ペプチドをそれぞれ100μM投与した。以下のペプチドが試験したものである(各ペプチドの後に、Ca2+電流のパーセンテージとして示した):1990 TAT: YGRKKRRQRRR (配列番号:2) (57 +/- 1.6% (n=5)); 1991 2B9c: KLSSIESDV (配列番号:3) (94 +/- 1.7% (n=5)); 1992 Tat-NR2B9c-AA; YGRKKRRQRRRKLSSIEADA (配列番号:4) (74 +/- 2.4% (n=6)); 1993 F-Tat-NR2B9c: FGRKKRRQRRRKLSSIESDV (配列番号:5) (91 +/- 1.6% (n=5)); 1994 Tat-NR2B9c K to A: YGRKKRRQRRRALSSIESDV (配列番号:6) (77 +/- 1.8% (n=7)); 1995 F-Tat-NR2B9c K to A: FGRKKRRQRRRALSSIESDV (配列番号:7) (97 +/- 0.2% (n=6)); 1976: YGRKKRRQRRRKLSSIESDX (配列番号:9)の内 X=ノルバリン(66 +/- 3.4% (n=6)); 1977: YGRKKRRQRRRKLSSIESDX (配列番号:10) の内 X= L-t-ブチル-グリシン(65 +/- 5.1% (n=5)); 1987: Tat-NR2B9cのD-異性体(82 +/- 2.2% (n=6)). Tat-NR2B9c (68 +/- 1.7% (n=7))。データは、平均+/-標準誤差としてプロットされた。
【0101】
以下のパッチクランプアッセイにおいて、上記ペプチドを試験した。後根神経節ニューロン(そこにおいて、N型カルシウム電流が誘導される)に対してホールセルパッチクランプ記録を使用し、N型カルシウムチャネルによって介されるイオン電流を阻害する上記ペプチドの能力に関してスクリーニングした。後根神経節(DRG)の培養組織は、妊娠期間13-14日のスイスマウスから調製した。簡単に言えば、DRGを解剖し、20分間、37℃でトリプシン消化を行い、そして機械的に分離し、ポリ-D-リシンを用いてコートしたカバーガラス上で平板培養した。それらを無血清MEM(Neurobasal MEM, B-27 - Gibco Invitrogen Corporation , Carlsbad,CA)において生育させた。3-5日後に、10μMのFUDR溶液を加え、神経膠の増殖を抑制した。上記培養組織を37℃、湿気のある5%CO2雰囲気下に保持し、そして週に2回栄養供給した。ホールセル記録を平板培養の10-14日後に、室温にて実施した。電気生理学記録:ホールセル記録は、ボルテージクランプモードのAxopatch-1B増幅器(Axon Instruments, Foster City, CA)にて実行した。記録用電極を3-5MΩの抵抗と、2ステージプラー(PP83; Narishige, Tokyo, Japan)を使用している薄壁ホウ珪酸ガラス(直径1.5mm; World Precision Instruments, Sarasota, FL)から構成した。データをデジタル化し、フィルターに通し(2kHz)、pClamp 9のプログラム(Axon Instruments)を使用して、オンラインにて取得した。塩化セシウム110、MgCl2 3、EGTA 10、HEPES 10、MgATP 3、GTP 0.6(mM)を含む溶液でピペットを満たした。pHは、CsOHを用いて7.2に調整した。浴溶液は、pH(NaOH) 7.4のCaCl2 1、BaCl2 10、HEPES 10、TEA-Cl 160、グルコース 10、TTX 0.0002(mM)含有浴溶液であった。ホールセル電流は、-60mVの保持電位から+20mVまで、40msの脱分極パルスを使用して、15s毎に印加し、誘導した。使用依存性阻害を試験する目的で、電流は、-60mVの保持電位から+20mVまで、10msの脱分極パルスを使用して、0.02s(50Hz)、0.05s(20Hz)、0.1s(10Hz)又は15s(0.07Hz)毎に印加し、誘導した。
【0102】
結果は、図2に示される。上部は、示されているペプチドの存在下におけるホールセルカルシウム電流の平均+/-標準誤差を表し、上記ペプチドの投与前と同じ細胞を由来とするホールセルのカルシウム電流を標準としている。図2の下部は、上部由来の平均値からの代表的なホールセルトレースを示す。データは、Tat-NR2B9cのtat部分がN型カルシウムチャネルの阻害を媒介できることを示す。Tat-NR2B9cのN末端チロシン変異は、ほぼ完全に、N型カルシウムチャネルを阻害するこのキメラペプチドの能力を失わせる。Tat-NR2B9cのC末端部分(KLSSIESDV(配列番号:3))、F-Tat-NR2B9c又は1994 Tat-NR2B9c K to Aは、N型カルシウムチャネル活性に対する有意な阻害を示さなかった。ペプチド1992、1994及び1987は、tat単独に対してチャネル活性の有意な改善を示したが、N型カルシウムチャネル活性の量の減少はわずかであることが示された。これらのペプチドの全ては、標準Tat単独に対してN型カルシウムチャネルへの結合性の低下をもたらす。このことは、これらのTat変異体配列のうちの1つが含まれる薬は、治療係数を増加させることを示す。
【0103】
実施例3:Tat-NR2B9cを用いた、末梢神経損傷後における痛み過敏症の用量依存的な改善
この実施例は、Tat-NR2B9cの静脈内投与がどのように末梢神経損傷後の成体雄スピローグ-ドーリーラットにおける痛み過敏症を改善させたかについて示す。これは、低用量(約100pmol/ラット)のTat-NR2B9cを静脈内に投与して行った実施例である。 驚くべきことに、高用量(約10mg/kg)Tat-NR2B9cの静脈内投与は、痛み過敏症の明らかな改善を生じなかった。
【0104】
これらの実験において、坐骨神経の慢性狭窄傷害は、ポリエチレンカフ法(Mosconi T, Kruger L., Pain 1996, 64: 37-57)を使用して誘発させた。成体雄スピローグ-ドーリーラットの左の坐骨神経をハロセン麻酔下で中央大腿部において露出させた。ポリエチレンカフ(PE90管、長さ2mm)を縦方向に切り開いて、坐骨神経周辺に埋め込み、そして、動物を適切な期間(例:10-14日)回復させた。溶解されたTat-NR2B9cを含む無菌の等張食塩水、又は食塩水のみのコントロールを簡単なハロセン麻酔下で、動物の尾静脈に注射した。痛みに対する感度は、動物の足引っ込め閾値を試験することで測定した。機械的刺激に対する足引っ込め閾値は、フォン-フレイフィラメント(Stoelting Co.,Wood Dale, IL, USA)を使用して評価した。動物を底がプラスチックであるプラスチックケージに置いた。刺激された足の引っ込めを引き起こすのに必要とされる触覚閾値を試験するために、フォンフレイフィラメント(0.008-15.18g)を小さい順に後足の足底一部に対して垂直に行使した。各フィラメントを5回行使し、5回のフィラメント行使の内、3回の陽性反応があった場合に足引っ込め閾値を決定した。組織の損傷を回避するために、カットオフ閾値を15.18gに設定した。
【0105】
図3Aに示すように、Tat-NR2B9cの静脈内投与は、末梢神経損傷後の痛み過敏症に改善が見られた。足引っ込め閾値は、末梢神経を取り出す外科的手技の前(手術前)に試験した。手術の10-14日後(手術後)であって、Tat-NR2B9c又は食塩水媒体コントロールを投与する直前においては、すべての動物は足引っ込め閾値の劇的な低下を示した。これは末梢神経損傷が引き起こす痛み過敏症の特徴である。動物をTat-NR2B9c(1動物につき100pmol;n=15匹の動物;塗られた棒)又は食塩水媒体(n=9匹の動物;塗られていない棒)を用いて処理した。*-p < 0.05は、媒体コントロールとの比較による。棒は、平均±標準誤差である。
【0106】
図3Bは、Tat-NR2B9cによって痛み過敏症が改善する時間経過に関する結果を開示している。グラフは、Tat-NR2B9cの投与後、2時間にわたって、Tat-NR2B9c(i.v.で動物あたり100pmol)を用いて処理した動物の平均足引っ込め閾値(±標準誤差)を示す。足引っ込め閾値は、Tat-NR2B9c投与前(時間= 0)、60、90及び120分後に直ちに測定した。*-p < 0.05は、t= 0との比較による。
【0107】
図3Cに示されるように、Tat-NR2B9cの高用量(i.v.で10mg/kg)静脈内投与は、末梢神経損傷後の痛み過敏症に影響を及ぼさなかった。足引っ込め閾値は、末梢神経を取り出す外科的手技の前(手術前)に試験した。手術の10-14日後(手術後)であって、Tat-NR2B9cを投与する直前においては、すべての動物(n=4)は、足引っ込め閾値(右側のt=0分のグラフ)の劇的な低下を示した。これは末梢神経損傷が引き起こす痛み過敏症の特徴である。未処理の動物とは対照的に、処理を受けた動物は、Tat-NR2B9c投与の60、90又は120分後には、足引っ込め閾値に変化を示さなかった。 データは、平均±標準誤差である。
【0108】
実施例4:Tat-NR2B9cによるN型Ca2+チャネル媒介イオン電流の阻害
Tat-NR2B9cによるN型Ca2+チャネル媒介イオン電流の阻害を更に特徴づけた。図4は、Tat-NR2B9c(YGRKKRRQRRRKLSSIESDV、配列番号1)によるCa2+電流の阻害の程度を特徴づけている。これを、以下の他の変異体と比較している:1990 TAT (YGRKKRRQRRR、配列番号:2); 1992 Tat-NR2B9c AA (YGRKKRRQRRRKLSSIEADA、配列番号:4); 1994 Tat-NR2B9c KtoA (YGRKKRRQRRRALSSIESDV、配列番号:6); 1987 D-Tat-NR2B9c (YGRKKRRQRRRKLSSIESDV (全てD-アミノ酸)、配列番号:8); 1976 (YGRKKRRQRRRKLSSIESDXの内、X=ノルバリン、配列番号:9); 1977 (YGRKKRRQRRRKLSSIESDXの内、X= L-t-ブチルブリシン、配列番号:10)。
【0109】
組織培養:後根神経節(DRG)の培養組織は、妊娠期間が13-14日のスイスマウスから調整した。簡単に言えば、DRGを解剖し、20分間、37℃でトリプシン消化を行い、そして機械的に分離し、ポリ-D-リシンを用いてコートしたカバーガラス上で平板培養した。それらを無血清MEM(Neurobasal MEM、B-27- Gibco Invitrogen Corporation、Carlsbad,CA)において生育させた。3-5日後に、10μMのFUDR溶液を加え、神経膠の増殖を抑制した。培養組織は、37℃、湿った5%CO2雰囲気下に保持し、週に2回栄養供給した。ホールセル記録は、平板培養の10-14日後に、室温にて実施した。
【0110】
電気生理学記録:ホールセル記録は、ボルテージクランプモードのAxopatch-1B増幅器(Axon Instruments, Foster City, CA)にて実行した。記録用電極は、3-5MΩの抵抗と、2ステージプラー(PP83; Narishige, Tokyo, Japan)を使用している薄壁ホウ珪酸ガラス(直径1.5mm;World Precision Instruments, Sarasota, FL)から構成した。データをデジタル化し、フィルターに通し(2kHz)、pClamp 9のプログラム(Axon Instruments)を使用して、オンラインにて取得した。塩化セシウム110、MgCl2 3、EGTA 10、HEPES 10、MgATP 3、GTP 0.6(mM)を含む溶液でピペットを満たした。pHは、CsOHを用いて7.2に調整した。浴溶液は、pH(NaOH) 7.4のCaCl2 1、BaCl2 10、HEPES 10、TEA-Cl 160、グルコース 10、TTX 0.0002(mM)含有浴溶液であった。ホールセル電流は、-60mVの保持電位から+20mVまで、40msの脱分極パルスを使用して、15s毎に印加し、誘導した。使用依存性阻害をテストする目的で、電流は、-60mVの保持電位から+20mVまで、10msの脱分極パルスを使用して、0.02s(50Hz)、0.05s(20Hz)、0.1s(10Hz)又は15s(0.07Hz)毎に印加し、誘導した。データ分析:データは、平均+/-標準誤差としてプロットした。
【0111】
図4は、完全なTat配列(YGRKKRRQRRR(配列番号:2))を含む全てのペプチドにおいて濃度を上げることで、後根神経節ニューロン(主にN型Ca2+チャネルを発現している)のカルシウム電流を有意に阻害したことを示す。これは、N型Ca2+チャネル電流を阻害する特性がTat配列には存在することを示す。
【0112】
図5A及びBは、オメガコノトキシン(1μM、選択的N型Ca2+チャネル遮断薬)又はニフェジピン(選択的L型Ca2+チャネル遮断薬)とTat-NR2B9cとの組み合わせにおける、DRG細胞のN型Ca2+チャネル電流の阻害を示す。オメガコノトキシンはCa2+電流を阻害する。そして、一旦N-チャネルが遮断されると、付加的な阻害はTat-NR2B9c(100M)によっては与えられない(図5Aの左側)。同様に、コノトキシンをTat-NR2B9cによるイオン電流の阻害後に加える場合、付加的な電流の阻害は見られない(図5Aの右側)。また、図5Bに示すように、選択的L型Ca2+チャネル遮断薬であるニフェジピンは、Tat-NR2B9cの存在(100μM細胞内)又は不存在において、Ca2+電流の記録のサイズに著しく影響を及ぼす。図5Bの左側は、カルシウム電流の平均+/-標準誤差を示し、もう一方の右側は、単一の実験由来のホールセル電流のトレースを表している。
【0113】
図6は、Tat-NR2B9cによるCa2+電流の遮断が周波数に依存しないことを示す。100μMのTat-NR2B9cを使用し、使用依存的効果を試験した。+20mVの脱分極パルスによって誘導された電流は、強い周波数依存的なランダウンを示した。しかしながら、周波数の増加(0.07、10、20、50Hz)は、この電流に対するTat-NR2B9cの阻害効果を増加させなかった。図は、種々の周波数における1つの代表的なDRGニューロンに関して、記録したCa2+電流を示す。これらの電流は、数分後、自然にランダウンする傾向示し、そして、周波数の増加はTat-NR2B9cによる電流の阻害に影響を及ぼさなかった(n = 4の代表図)。
【0114】
図7は、Tat-NR2B9cが、電圧非依存的にDRGニューロンにおけるカルシウム電流を阻害し、この阻害がN型Ca2+チャネルと関係することを示す。上記電流は、-60mVの保持電位から、-40から+50mVまで、50msのボルテージクランプステップを使用して誘導した。
【0115】
結論として、図4-7は、Tat-NR2B9cがDRGの電流(例:N型カルシウムチャネルにより媒介されるカルシウム電流)を阻害することができることを示す。加えて、Tat配列を含む他のペプチドは、電流を阻害することもできる。データは、この阻害がN型Ca2+チャネルに関係し、周波数及び電圧に独立していることも示す。
【0116】
前述の発明は理解の明快さのために詳述したものであるが、特定の変更態様が添付の請求の範囲で実施できることは明らかのはずである。上記全ての刊行物、文書、登録番号などは、あたかも各々がそのように個々的に示されたかのように、同程度にすべての目的のためのそれらの全部を引用によりここに組み込まれる。複数のバージョンの配列が、異なる時間において同じ登録番号に関連している場合、その登録番号に対する引用は、その登録番号を含む任意の優先権出願に遡り本願を提出する時の、それに関連したバージョンを意味する。
【0117】
もし別の方法で前後関係から明らかでなければ、いかなる態様も他のものと組み合わせて主張したり、又は他の態様との組合せの中に存在しないものがあることを主張したりすることも可能である。態様は、例えば任意の工程、特徴、特性、要素、モード、変数、寸法、量又は実施形態でもあってもよい。もし別の方法で前後関係から明らかでなければ、一態様が不必要であるか、任意であるか、又は、例示的であることを意図されること明示しているいかなる言葉も、「排他的な」又は「否定的な」言葉を含む請求項に関する十分な記述的サポート(例:米国特許法112又はEPC第83条及び第84条)を提供する。排他的な言葉には、特に、そして明確に請求項を問題の態様に制限するいかなる用語も含まれる。「否定的な」言葉には、例えば問題の態様を請求の範囲から明確に除外するのに役立つ。「排他的な」又は「否定的な」なる用語の非限定的な例には、「だけ」、「単に」、「からなる」、「単独で」、「除く」、「でない」、「しない」、「できない」、「非存在下」又は「除外する」又はそのバリエーションが含まれる。一態様が不必要であるか、任意であるか、又は、例示的であること明示している、実施例に制限しない言語には、例えば、「バリエーション」、「任意に」、「含む」、「可能である」、「してもよい」、「例」、「実施形態」、「態様」、「場合」、又はそのバリエーションが含まれる。
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
tatペプチドの使用であって、前記ペプチドは、YGRKKRRQRRR(配列番号:2)を含むアミノ酸配列、又は4アミノ酸未満の削除、置換若しくは挿入を有するその変異体、又は前記tatペプチドのペプチドミミックを有し、痛みを治療する又は予防する、tatペプチドの使用。
【請求項2】
前記tatペプチドは、YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:1)を含むアミノ酸配列、又は前記配列に10未満の削除、置換若しくは挿入を有する変異体、又はそのペプチドミミックである、請求項1記載の使用。
【請求項3】
1mg/kg以下の用量で投与する、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
10-5から10-1mg/kgの用量で投与する、請求項1から3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
前記tatペプチドは、NMDAR 2B 9Cに連結していない、請求項1から4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
前記tatペプチドは、PSD95-NMDARの相互作用の阻害剤に連結していない、請求項1から5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
前記tatペプチドは、NMDAR 2B 9Cに連結している、請求項1から6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
前記ペプチドが末梢的に投与される、請求項1から7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
前記ペプチドがクモ膜下腔内に投与される、請求項1から8のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
前記投与されたペプチドは、検出可能な量がCNSに入らない、請求項1から9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
前記ペプチドが、NMDAR又はNOSとPSD-95との相互作用を阻害するよりもむしろ、主にN型カルシウムチャネルを阻害する結果になる投与計画において投与される、請求項1から10のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
前記用量が1mg/kg以下である、請求項1から11のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
前記用量が10-5から10-1mg/kgである、請求項1から12のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
患者が脳卒中、てんかん、低酸素症、CNSに対する外傷、アルツハイマー病及びパーキンソン病を経験していない、請求項1から13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
前記痛みが末梢部位にある、請求項1から14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
前記痛みがCNSにおいてである、請求項1から15のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
前記ペプチド又はペプチドミミックは末梢的に投与される、請求項1から16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
前記ペプチド又はペプチドミミックはクモ膜下腔内に投与される、請求項1から17のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
痛みの治療又は予防がN型カルシウムチャネルに前記ペプチド又はペプチドミミックが結合することによって果たされる、請求項1から18のいずれかに記載の使用。

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2012−501973(P2012−501973A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525298(P2011−525298)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/055786
【国際公開番号】WO2010/028089
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(505088020)アルボー ビータ コーポレーション (12)
【住所又は居所原語表記】6611 Dumbarton Circle Fremont, California United States of America
【出願人】(509011178)ノノ インコーポレイテッド (8)
【住所又は居所原語表記】88 Strath Avenue Toronto,Ontario Canada
【Fターム(参考)】