説明

癌の予防及び/又は治療のためのプロテインチロシンホスファターゼ阻害物質の使用

本発明はプロテインチロシンホスファターゼ(PTP)、特にSap-1の交差結合物質を癌の治療及び/又は予防のための医薬品の調製に使用することに関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は癌の分野に属す。特に、癌の治療及び/又は予防のための阻害物質、特にプロテインチロシンホスファターゼ(PTP)を交差結合する阻害物質の使用に関するものある。受容体型PTP Sap-1の交差結合物質は好ましくは胃腸の癌の治療又は予防に使用される。
【背景技術】
【0002】
癌は先進国における第二の死亡原因である。癌の治療に成功するには原発部位、すなわち局所-部分的領域、又は身体の他の部位への転移のいずれの癌細胞も除去する必要がある。主な治療様式は(局所及び局所-部分的疾患に対しては)外科手術及び放射線療法及び(全身的部位に対しては)化学療法である。その他の重要な方法としては(特殊な癌、例えば、前立腺癌、乳癌、子宮内膜癌、肝臓癌に対しては)内分泌療法、(腫瘍に対する患者の免疫系を活性化する方法である)免疫療法、及び温熱療法(寒冷療法及び加温)がある。併用治療は上記それぞれの利点を組み合わせている。
【0003】
胃腸管の腫瘍は今日では最も頻発する癌に含まれる。これ等の腫瘍は胃腸の癌とも呼ばれ、食道腫瘍、胃癌、小腸腫瘍、大腸腫瘍、及び膵臓癌を含む。
【0004】
食道腫瘍
殆どの原発性食道癌は悪性腫瘍である。食道の最もよくある悪性腫瘍は表皮様の悪性腫瘍、次いで悪性腺腫である。食道のその他の悪性腫瘍にはリンパ腫、平滑筋肉腫、及び転移性癌がある。
【0005】
胃癌
胃癌は胃の悪性腫瘍の95%に達する胃の悪性腺腫を含む。リンパ腫(これは主として胃に局在している可能性がある)及び平滑筋肉腫は稀である。胃癌の発生率は世界中で異なっている;例えば、日本、チリ、及びアイスランドでは非常に高い。日本ではその発生率は年齢に伴って増加し、50歳以上の患者の75%を超える。
【0006】
胃癌の治療は腫瘍の切除を含む。腫瘍が粘膜及び粘膜下に限局されているならば予後は良好である。化学療法及び放射線療法の併用療法も胃のリンパ腫に有効なこともある。悪性潰瘍がある胃の腺腫患者は、多分症状のために早期に医師の診察を受けるために、最良の結果を生じる。化学療法は転移がある患者にとっては緩和効果があるであろう;化学療法を伴う放射線療法は切除できない局所的腫瘍に適応があるかも知れないが、一般的に結果はよくない。アジュバント化学療法又は化学療法及び放射線療法の併用は胃切除の後に検討されている技術である。
【0007】
癌の外科手術は胃及び隣接するリンパ節の殆ど又は全ての除去を含んでいる。転移又は広範囲の腫瘍はこのタイプの治癒の妨げとなる。
【0008】
小腸腫瘍
これには良性及び悪性腫瘍が含まれる。空腸及び回腸の腫瘍は胃腸管腫瘍の1から5%である。それらは主に良性であり、平滑筋腫、脂肪腫、神経線維腫、及び線維腫を含む;全て手術を必要とする症状を呈することがある。ポリープは小腸よりも結腸に多い。小腸における血管腫瘍は症例の55%において多中心的である。遺伝性出血性毛細血管拡張症(Rendu-Osler-Weber症候群)は拡張した内皮細胞空間を形成する先天的進行性の形質である。血管腫は出血するか又は重積する可能性がある。加齢の結果である血管形成異常又は動静脈異形成は遠位小腸又は盲腸に生じ易い。
【0009】
悪性腫瘍は例えば、悪性腺腫を含む。通常これ等は近位空腸に生じ、そして症状は少ない。クローン病が存在する場合には、腫瘍は遠位及びバイパスしたあるいは炎症を生じた腸ループに生じる傾向がある。悪性腺腫は結腸のクローン病よりも小腸のクローン病においてより多く発生する。回腸に生じた原発性の悪性リンパ腫は長く硬い部分を生じることがある。小腸リンパ腫はしばしばセリアックスプルーにおいて生じる。小腸、特に回腸はカルチノイド腫瘍の(虫垂に次ぐ)二番目の好発部位である。多発性腫瘍は症例の50%に生じる。>直径2 cmの腫瘍のうち80%は手術時には局所に又は肝臓に転移している。小腸のカルチノイドの約30%は閉塞、痛み、出血、又はカルチノイド症候群を生じる。治療は一般的に外科的切除であり、繰り返し手術が必要になるであろう。
【0010】
最初に高齢のユダヤ人及びイタリア人の男性の病気として記述されたカポジ肉腫はアフリカ人、移植レシピエント、及びエイズ患者に攻撃的な形で発生し、そしてその時の患者の40から60%には胃腸管が関係している。病巣は胃腸管のどこにでも生じうるが、通常胃、小腸又は遠位結腸に認められる。胃腸管の病巣は通常無症状であるが、出血、下痢、タンパク質消失腸障害、及び重積を生じることがある。二番目の原発性腸悪性腫瘍は患者の<20%に生じる;最も多いのはリンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、又は胃腸管の悪性腺腫である。
【0011】
大腸腫瘍
大腸腫瘍の中では、結腸及び直腸のポリープが一般的である。ポリープ(病理学的意義のない臨床的な用語)は腸壁から生じた組織の塊でありそして内腔に突き出ている。発生率は7から50%の範囲である;高い数字は剖検の際に認められる非常に小さいポリープ(通常肥厚したポリープ又は腺腫)を含んでいる。ポリープは定型的バリウム注腸により患者の約5%に、そして柔軟なファイバースコープによるS状結腸内視鏡検査、結腸内視鏡検査、又は空気造影バリウム注腸によってはさらに頻繁に検出される。ポリープは、しばしば複数で、直腸及びS状結腸に最も多く発生し、盲腸に向かって頻度は減少する。大腸癌の患者の約25%は随伴腺腫様ポリープも有している。
【0012】
管状腺腫の癌リスクについてはさまざまな意見があるが、それは悪性化することがあるという強力なエビデンスがある。悪性腫瘍のリスクは大きさに関係する;1.5-cmの管状腺腫は2%のリスクを示す。その大きさが増加するに従い、その腺は絨毛で覆われるようになる。その腺の>50%が絨毛で覆われる場合には、絨毛腺ポリープと呼ばれる;その悪性腫瘍になる可能性はまだ管状腺腫と同じである。その腺の>80%が絨毛で覆われる場合には、そのポリープは絨毛腺腫と呼ばれ、症例の約35%において悪性になる。絨毛腺腫は同じ大きさの管状腺腫よりも悪性腫瘍の大きなリスクを示す。
【0013】
完全な結腸内視鏡検査の後ポリープはスネア又は電気メスバイオプシー鉗子を使用して完全に除去することにより治療される。大きな絨毛腺腫は悪性化の高いリスクを持つので、完全に切除すべきである。
【0014】
癌性のポリープの治療は退生上皮のポリープの茎の中への侵入の深さ、内視鏡的切除線の接近、及び悪性組織の区別の程度に依存する。退生上皮が粘膜筋板上に限られている場合、ポリープの茎の切除線が明らかな場合、又は病巣がよく区別される場合は内視鏡的切除術および注意深い内視鏡的追跡で十分であろう。粘膜筋板を貫通してリンパ系に達すると、リンパ節転移の可能性が増大する。切除線が明らかでないポリープの切除術あるいは病巣の区別が明確でない場合には次いで結腸の分節部分切除を行うべきである。
【0015】
若年性ポリープは通常非腫瘍性であり、しばしば成長しすぎて血液供給が追いつかなくなり、そして思春期頃自己切断する。管理できない出血又は重積に対してのみ治療は必要である。これも非腫瘍性である過形成ポリープは結腸及び直腸によく認められる。炎症性ポリープ及び過誤腫性ポリープは慢性潰瘍性結腸炎及び結腸のクローン病において生じる。
【0016】
結腸直腸癌
西欧の国々において、年間の新規の癌症例に関して結腸及び直腸は肺を除くいずれの解剖学的部位よりも多い。結腸直腸癌は両性に発現する内臓悪性腫瘍の中で最も頻発する死因である。その発生率は40歳で上昇を始め、そして60歳から75歳で最高となる。結腸の癌は女性によく見られる;直腸の癌は男性によく見られる。同時発生癌(2以上)は患者の5%に生じる。
【0017】
Lynch症候群の一部の患者では染色体2,3,および7上に存在する少なくとも4個の遺伝子が変異していることが示されている。その他の誘発因子は慢性潰瘍性結腸炎、肉芽腫性結腸炎、及び家族性ポリポーシス(Gardner症候群を含む)を含む;これらの疾患において、癌のリスクはいずれの時点においても発症の年齢及び基礎疾患の期間に関係する。
【0018】
結腸直腸癌の発生率の高い集団は動物性タンパク質、脂肪及び精製炭水化物に富む低線維食を摂っている。発癌性物質は食品から摂取している可能性もあるが、食品中の物質からあるいは胆汁又は腸分泌物から、多分細菌の作用により、作られていることのほうがありそうである。本当の機序は不明である。
【0019】
結腸直腸癌は腸壁を介する直接拡大、血液を介する転移、局部的リンパ節転移、神経周囲性拡大、および腸管内腔転移により拡がる。
【0020】
結腸及び直腸の悪性腺腫はゆっくりと増殖するので、大きくなって症状を呈するまでに長い期間が経過する。早期診断は定期的検査による。症状は病巣の位置、型、範囲、及び合併症による。右の結腸は大きな直径と薄い壁を有している。結腸内容物は液状であるために、閉塞は後期の出来事である。通常糸状菌のような発育をする腫瘍は大きく増殖し、そして腹壁の上から触診することができる。出血は通常潜血となる。重症の貧血による疲労及び脱力感のみが愁訴であろう。左の結腸は直径が少し小さく、糞便は半固体であり、そして癌は腸を取り囲む傾向があり、便秘と排便頻度の増加又は下痢を交互に生じる。疝痛様腹痛を伴う部分的閉塞又は完全閉塞は病状を示すものであろう。便に血液の筋がついたり、血液が混じったりすることがある。直腸の癌において、最もよく表れる症状は排便に伴う出血である。直腸出血が生じた場合は、痔又は既知の憩室疾患の存在が明らかに分かっていても、必ず共存する癌の除外診断を行う必要がある。テネスムス又は残便感を生じることがある。痛みは直腸周辺組織が関係するまでは感じられない。
【0021】
主な治療法は結腸癌の広範囲の外科的切除を行いそして腸を吻合した後領域のリンパ節郭清を行うことから成り立っている。外科的治癒は患者の70%において可能である。粘膜に限定される癌の5年生存率は最もよく90%に達する;大腸壁を貫くもの80%;リンパ節転移のあるもの30%。患者が外科手術のリスクを受け入れない場合には、一部の腫瘍は局所的に電気凝固により管理することができる。直腸(結腸でなく)の癌の治療的手術の後に補助的放射線療法を行った予備的試験結果は、局所の腫瘍増殖は抑えられ、再発は遅延し、そして限定されたリンパ節転移の患者では生存率が改善されることを示している。
【0022】
1から4個のリンパ節転移のある直腸癌患者は放射線療法及び化学療法の併用療法の利益を最も受ける;切除検体において4個を超えるリンパ節に転移が認められる場合には、併用療法の有効性は低下する。試験された有効な投与方法はフルオロウラシル(5-FU)の単独投与又は葉酸との併用投与である。そのような化学療法及び放射線療法の併用を行う場合には、小腸傷害を避けるための特別な注意の下に、放射線科医の慎重な計画が必要である。
【0023】
直腸癌の切除可能率を改善するために、手術前放射線療法を使用することは意見が分かれている;この処置により手術可能性が増加するか否か、又は局所リンパ節転移の検出率が減少するか否かに関して、専門家は否定している。比較試験により直腸癌患者おいて術前対術後の化学療法及び放射線療法の使用が調べられている。
【0024】
リンパ節転移がある(ステージIII,デュークスC)結腸癌の適切な比較試験において、レバミゾール又は葉酸と併用した5-FUによる化学療法は手術の補助として使用した場合と同様に有効であることは示されなかった。
【0025】
結腸直腸癌の治療的手術の後の追跡検査の頻度については議論の的となっている。殆どの専門家は残っている腸の結腸内視鏡検査又はX線検査を年に2回行い、陰性であれば2〜3年間隔の診察を勧めている。
【0026】
肛門直腸癌
最も一般的な肛門直腸癌は悪性腺腫である。その他の腫瘍は鱗状排泄孔悪性腫瘍、黒色腫、リンパ腫、及び種々の肉腫を含む。肛門直腸の表皮性(非ケラチン化鱗状細胞又は基底細胞)悪性腫瘍は遠位大腸癌の3から5%である。慢性痔瘻、放射線照射を受けた肛門皮膚、白色増殖、性病性リンパ肉芽腫、ボーエン病(上皮内悪性腫瘍)、尖圭コンジロームは誘因である。ヒトパピローマウイルスの感染との明らかな関連が示されている。転移は直腸のリンパ系に沿って生じ、そして鼠径リンパ節に生じる。基底細胞悪性腫瘍、ボーエン病(皮内悪性腫瘍)、乳房外ページェット病、排泄孔悪性腫瘍、及び悪性黒色腫は稀である。
【0027】
膵臓癌/腫瘍
膵臓の外分泌腫瘍は管及び腺房細胞から発生する。内分泌腫瘍は島細胞及びガストリン生産細胞から生じそしてしばしば多くのホルモンを生産する。
【0028】
外分泌腫瘍
管の悪性腺腫は腺房細胞からよりも管の細胞から9倍も多く発生する;80%は腺の頭部に生じる。悪性腺腫は平均年齢55歳で出現し、男性において1.5から2倍多く生じる。症状は病気の後期に生じる;診断時に、患者の90%には局所で進行した、腹膜後方の構造に直接拡大した、局部のリンパ節に拡大した、あるいは肝臓又は肺に転移した腫瘍がある。進行した患者の大部分に体重減少及び腹痛を生じる。悪性腺腫は閉塞性黄疸、及び体部及び尾部の場合には膵静脈閉塞、脾腫、胃及び食道静脈瘤、及びGI出血を生じることがある。
【0029】
いずれの薬物も単独又は併用投与により生活の質の延長又は改善をしない。試験された単剤は5-FU、メトトレキセート、アクチノマイシンD、ドキソルビシン、カルムスチン、セムスチン、及びストレプトゾシンである。試験された併用はFAM(5-FU、ドキソルビシン、マイトマイシンC)、FAMMC(5-FU、ドキソルビシン、マイトマイシンC、セムスチン)、及びSMF(ストレプトゾシン、マイトマイシン、5-FU)である。これに対して、5-FU及び放射線療法(4,000から5,000 cGy)は局所的切除不能病巣のある患者において放射線療法のみに比較して生存率を改善する。新しい薬物(例えばゲムシタビン)は5-FUを基にした化学療法より有効である可能性がある。局所の切除不能腫瘍のある患者に対する手術中の電子線ビーム照射法(4,500から5,500 cGy)又は125Iインプラント(120から210 cGy)は局所的な腫瘍の進行を抑える可能性があるが、外からのビーム照射療法に比較して生存率を改善することはない。局所的手術不能腫瘍のある患者の殆どは化学療法及び放射線療法が施されている;肝臓転移のある患者には化学療法のみが施される。
【0030】
嚢胞悪性腺腫は稀な腺腫性の膵臓癌であり、粘膜嚢胞腺腫の悪性変性として発生し、そして上腹部痛及び触診可能な内臓塊を呈する。
【0031】
管内乳頭-ムチン形成腫瘍は最近記載されたムチン過剰生産を伴う主膵管又は分枝管の拡張の症候群である。
【0032】
内分泌腫瘍
膵臓内分泌腫瘍は二つの一般的表現がある。無機能性腫瘍は胆管又は十二指腸の閉塞症状、胃腸管への出血、又は内臓塊形成を生じることがある。機能性腫瘍はそれぞれのホルモンを過剰分泌し、低血糖(インスリノーマはインスリンを過剰分泌する);ゾリンジャー-エリソン症候群(ガストリノーマはガストリンを過剰分泌する);VIP産生腺腫(血管活性腸ペプチド又はプロスタグランジンE及びE2の過剰分泌);カルシノイド症候群、糖尿病(グルカゴノーマはグルカゴンを過剰分泌する);クッシング症候群(ACTH過剰分泌);及び胆石を伴う軽度高血糖(ソマトスタチノーマ)を含む種々の症状を生じる。これ等の臨床症状は多発性内分泌新形成においても時々生じるが、この腫瘍又は過形成において二つ以上の内分泌腺、通常副甲状腺、下垂体、甲状腺又は副腎が傷害されている。
【0033】
インスリノーマは稀な島細胞腫瘍であり、インスリンを過剰分泌する。インスリノーマは膵臓のベータ細胞の腫瘍又は稀に瀰漫性に過剰増殖したベータ細胞である。全インスリノーマの80%は一つであり、確認されれば切除して治癒することができる。インスリノーマのわずか10%が悪性である。30歳代に発症する多発性内分泌新形成タイプI(インスリノーマの約10%)を除いて、中央値50歳において1/250,000人に発症する。多発性内分泌新形成タイプIに随伴するインスリノーマは多発性であるらしい。
【0034】
治療は総合して外科的治療による。
【0035】
ゾリンジャー-エリソン症候群(Z-E症候群;ガストリノーマ)は著しい高ガストリン血症、ガストリン過剰分泌、及び膵臓又は十二指腸壁のガストリン生産腫瘍による消化性潰瘍を特徴とする症候群である。
【0036】
ガストリノーマは時々脾門、腸間膜、胃、リンパ節、又は卵巣に存在する。殆どの患者は複数の腫瘍を有しており、その50%は悪性である。通常、腫瘍は小さく(<1 cm の直径)及びゆっくりと増殖し、そして広がる。主に他の内分泌異常、特に副甲状腺、稀に下垂体及び副腎に異常がある患者に生じる。
【0037】
治療はH+,K+-ATPアーゼ阻害薬オメプラゾールの投与を含み、これにより胃壁細胞のH+分泌は著しく減少する。症状を緩和し、潰瘍の治癒を促進するので、今では選択される治療である。最初の開始用量は60 mg/day経口であるが、より高い容量が30%の患者、特に重症の逆流性食道炎、胃の手術の既往、多発性内分泌新形成タイプI、又は大きな又は転移性の腫瘍がある患者では必要であろう。非家族性Z-Eの患者の20%で可能である外科的治療を行わない限り、患者はオメプラゾールを無期限に服用する必要がある。ソマトスタチン同族体も胃酸の生産を減少させることができるので、オメプラゾールに十分反応しない患者において一時的に使用することができる。
【0038】
VIP産生腺腫は非ベータ膵島細胞の腫瘍であり、水様性下痢、低カリウム血症、及び低胃酸症の症状を呈する。この腫瘍の50から75%は悪性であり、そして一部の腫瘍は診断時に非常に大きい(7 cm)ことがある。主な臨床的特徴は持続する大量の水様性下痢(絶食時の便容積>750から1,000 ml/day及び非絶食時容積>3,000 ml/day)及び低カリウム血症、アシドーシス及び脱水の症状である。患者の50%は比較的一定して下痢があるが、残りは激しい下痢と緩和な下痢が交互に生じ、33%は診断前<1年に下痢があり、25%は診断前>5年下痢がある。嗜眠状態、筋肉の脱力、嘔気、嘔吐、及び腹部の痙攣痛が頻発する。高血糖及びグルコース耐性障害が患者の<50%に生じる。稀にカルチノイド症候群に類似する潮紅が下痢の発作中に生じる。
【0039】
腫瘍の切除により局在する腫瘍の患者の50%において治癒する。転移腫瘍がある患者では確認できる腫瘍を全て切除することにより一時的に症状を軽減することができる。ストレプトゾシン及びドキソルビシンの併用は、客観的反応が生じるならば(50から60%において)、下痢と腫瘍の大きさを減少させることができる。化学療法では治癒しない。
【0040】
グルカゴノーマは膵臓のアルファ細胞グルカゴン分泌腫瘍であり、高血糖を生じる。グルカゴノーマは非常に稀であるが、原発及び転移病巣はゆっくり増殖する他の島細胞腫瘍に類似する:グルカゴノーマの80%は悪性である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0041】
プロテインチロシンキナーゼ(PTK)は癌の発生に関係することが示されている。キナーゼsrc, abl, fps, yes, fyn, lyn, lck, blk, hck, fgr及びyrk(Bolen et al., 1992により総説されている)のようなPTKは細胞増殖及び代謝シグナル伝達経路に関係しているので、多くのPTK-仲介癌に関係することが予想され、そして示されてきた。例えば、変異src (v-src)はニワトリにおけるオンコプロテイン(p60v-src)であることが示されている。さらに、その細胞性同族体、原がん遺伝子p60c-srcは多くの受容体の癌シグナルを伝達する。腫瘍におけるE.G.F.R.(epidermal growth factor receptor)またはHER2/neuの過剰発現は、悪性細胞に特徴的であるが正常細胞には認められないp60c-srcの構成的活性化を生じる。他方では、c-srcの発現ができないマウスは大理石骨の表現型を呈し、破骨細胞機能におけるc-srcの重要な関与及び関連障害に関係する可能性を示している。
【0042】
p60c-srcがんキナーゼの活性はそのC-末端Tyr527のCsk-仲介リン酸化により負の調節を受けており、それは次いでN-末端SH2ドメインの上に折り返し、キナーゼ活性の抑制を生じる[(Liu et al. 1993)及びその中の引用文献]。
【0043】
シグナリングにおけるリン酸化及び脱リン酸化の動的性質の理解が進むと共に(Espanel et al. 2001)、自己抑制的リン酸基を除去するプロテインチロシンホスファターゼ(PTP)を同定するための努力がなされてきた。c-src又は関連するファミリーメンバーがこのC-末端チロシンの突然変異による調節を避けることができなかった癌において(Thomas and Brugge 1997)、そのようなPTPの特異的阻害物質は治療上の有用性がありうる。PTP-α(Zheng et al. 1992;den Hertog et al. 1993; Bhandari et al. 1998),CD-45 (Cahir McFarland et al. 1993; Hurley et al. 1993), PTP-D1 (Moller et al. 1994), SHP-2 (Peng and Cartwright 1995), GLEPP-1 (Suhr et al. 2001)及びPTP1B(Bjorge et al. 2000b; Cheng et al. 2001)を含めて多数のPTPは、活性化においてsrc-ファミリーキナーゼに関係しているが、このうちのわずかのもののみがヒト腫瘍において過剰発現することが知られている(Wiener et al. 1994; Bjorge et al. 2000b)。
【0044】
今日、5個のPTPは明らかにヒト癌に関係している:PTP-DEP(Ruivenkamp et al. 2002)はヒト腫瘍においてしばしば突然変異を生じている。Prl-3は転移癌において過剰発現し(Saha et al. 2001),そしてcdc25(Galaktionov et al. 1995)及びSap-1(Matozaki et al. 1994; Seo et al. 1997)、は種々の癌において過剰発現している。
【0045】
Sap-1(胃癌に伴うPTP)は1994年にタイプI膜貫通PTPの新しいメンバーとしてクローン化された(Matozaki and Kasuga 1996)。その大きな細胞外ドメインは8個のフィブロネクチンタイプIII類似ドメインを含んでいる。多くの他の受容体PTPと異なり、Sap-1は1個の触媒活性チロシンホスファターゼドメインを持っており、そしてGLEPP-1. PTP-β,DEP-1及びPTPS31に関係している(Hooft van Huijsduijnen 1998; Andersen et al. 2001)。これ等の「受容体型」ホスファターゼは共通の構造を有しており、フィブロネクチンIII類似反復を含む細胞外ドメイン、及び1個の細胞内PTPドメインにより特徴付けられている。フィブロネクチン類似配列は細胞-細胞相互作用に関係しているらしい。
【0046】
今のところSap-1のリガンドは同定されていない。
【0047】
Seo et al.(1997)はSap-1発現を分析した。健康な膵臓又は結腸ではSap-1 mRNAを検出できなかったが、膵臓癌及び結腸直腸癌細胞ではmRNA及びタンパク質が高度に発現していた。Sap-1発現はバイオプシー検体の免疫組織化学により調べられ、そしてその過剰発現は軽度の異形成を伴う腺腫から悪性腺腫への進行と相関することが認められた(Seo et al. 1997)。過剰発現試験はSap-1の基質としてp130casを示している(Noguchi et al. 2001)。
【0048】
多数のPTPはその細胞外ドメインにより調節することができる。一部のタイプI「受容体型」PTPは2量化することが知られている(den Hertog et al. 1999; Meng et al.2000)。PTP-α及びCD45について、この2量化は細胞内触媒ドメインの抑制を生じることが示されている(Majeti and Weiss, 2001)。リガンドが発見されている唯一の受容体-PTPであるPTP-ζもこの後者の範疇に属している(Meng et al. 2000)。PTP-ζに対するプレイオトロフィンの結合は受容体2量化、酵素の不活化及びβ-カテニンリン酸化の増加及び細胞増殖を生じる。その(形質膜に近い)N-末端ドメインのみが活性を有している2個の触媒ドメインを持つPTPが三つの例全てに関係している。
【0049】
しかし、Sap-1,PTP-β,DEP-1, GLEPP1及びPTPS31を含むホスファターゼのグループについて、細胞外ドメインの役割については判明していない。今のところリガンドは一つも同定されていない。それらが2量化することができるか否か、その2量化に影響する何がホスファターゼ活性に影響するのか不明である。
【課題を解決するための手段】
【0050】
発明の要約
本発明はSap-1が2量体を形成することにより細胞内触媒活性が減少することを発見したことに基づいている。従って、本発明は、癌の治療及び/又は予防するためにプロテインチロシンホスファターゼSap-1に対する交差結合物質を使用することに関するものである。交差結合物質は好ましくはsrcに関連する胃腸の癌の治療又は予防に使用される。
【0051】
発明の詳細な説明
本発明は、正常組織及び一次細胞ではSap-1 mRNAが非常に低いレベルで発現するが、種々の腸癌腫細胞系において高度に発現するという知見に基づいている。さらに他のホスファターゼの大きな集団の中で、Sap-1触媒ドメインはC-末端c-src及びc-lck自己抑制調節配列に対応するリン酸化ペプチドの脱リン酸化能力において独特であることが示されている。これに加えて、本発明の発明者らは細胞においてSap-1はc-srcを脱リン酸化して活性化することができることを立証した。
【0052】
本発明により、Sap-1はホモ2量体を形成することができること、フィブロネクチンIII類似細胞外ドメインが2量体形成に関係していること、そして2量化はシステイン架橋の還元(開裂)により止めることができること、が驚くべきことに発見された。さらに2量化によりSap-1の細胞内触媒活性の減少を生じることが示された。
【0053】
従って、本発明は癌の治療及び/又は予防のための医薬品の調製のためにプロテインチロシンホスファターゼSap-1に対する交差結合物質を使用することに関係する。交差結合物質は癌細胞上に存在する二つ以上のSap-1分子を交差結合することができるので、Sap-1活性及びSap-1活性により生じる細胞内効果を減少させる。
【0054】
本発明の文脈の中の用語「治療」とは、疾患の発症後の病的進展の減弱、減少、低下又は縮小を含む疾患の進行に対する有益な効果をいう。
【0055】
本発明の文脈の中の用語「予防」とは、疾患の発症前又は初期におけるある影響の完全な阻止のみならず、影響の部分的又は実質的な阻止、減弱、減少、低下又は縮小をいう。
【0056】
「交差結合物質」は二つ以上のプロテインチロシンホスファターゼSap-1の分子を交差結合して、Sap-1ホスファターゼ活性を減弱、減少、低下又は縮小する化学的分子、タンパク質、ポリペプチド、フラグメント、ミューテイン、誘導体、又はその塩でありうる。
【0057】
本発明の文脈においてSap-1交差結合はその触媒活性を減少し、それによって癌の治療又は予防のための新しい方法を開発し、Sap-1ホスファターゼ活性の減少が治療的意義を有することが示される。
【0058】
Sap-1はそのメンバーが類似の全体的構造的構成を持つPTPサブファミリーの部分である。このタンパク質ファミリーの他のメンバーは:GLEPP-1,PTP-β,DEP-1及びPTPS31である。これ等の受容体型ホスファターゼの交差結合も癌の治療及び/又は予防に使用することができるが、その場合にGLEPP-1,PTP-β,DEP-1及びPTPS31の活性がそれぞれ減少する必要がある。
【0059】
本発明の文脈においてSap-1は脱リン酸化を触媒するホスファターゼであり、それによりタンパク質src及びその他のsrc−類似キナーゼの活性化を生じることが発見された。srcの過剰活性は癌の発生に関係することはよく知られている。
【0060】
従って、本発明の望ましい態様において、その癌はsrcキナーゼ活性に関連する癌である。src活性は、結腸癌、直腸癌、前立腺癌及び乳癌のような多数の癌、特に転移性の癌に関連している。本発明の交差結合物質はこれ等の癌の治療又は予防のために特に有用である。
【0061】
Sap-1は胃腸の癌、特に膵臓及び結腸直腸のがん細胞に過剰発現することが認められている(Matozaki et al., 1994, Seo et al., 1997)。
【0062】
従って、本発明のさらに好ましい態様において、その癌は胃腸の癌である。
【0063】
胃腸の癌又は腫瘍は胃腸管に由来するか胃腸管に存在する癌でありうる。
【0064】
好ましくは、胃腸の癌は食道腫瘍、胃癌、小腸腫瘍、大腸腫瘍、及び膵臓癌からなる群から選択される。
【0065】
食道癌は上記発明の背景に記述されている。それらは、限定はしないが、類表皮癌、悪性腺腫、リンパ腫、平滑筋肉腫、及び転移性癌を含む。
【0066】
胃癌は胃の悪性腺腫、リンパ腫又は平滑筋肉腫でありうる。
【0067】
小腸癌又は小腸腫瘍は上記「発明の背景」に記述した。それらは空腸及び回腸の腫瘍、平滑筋腫、脂肪腫、神経線維腫、及び線維腫、ポリープ、血管腫、遺伝性出血性毛細血管拡張症(Rendu-Osler-Weber症候群)、血管腫からなる良性腫瘍及び悪性腫瘍を含む。小腸の悪性腫瘍は、例えばクローン病の存在において起こりうる悪性腺腫、原発性悪性リンパ腫、カルチノイド腫瘍、又は多発性腫瘍、カポジ肉腫、リンパ球性白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、又は胃腸管の腺癌を含む。
【0068】
大腸癌は「発明の背景」に記述した。大腸癌はポリープ、結腸直腸癌又は肛門直腸癌、結腸及び直腸の悪性腺腫、鱗状排泄孔悪性腫瘍、黒色腫、リンパ腫、及び種々の肉腫でありうる。さらに基底細胞悪性腫瘍、ボーエン病(皮内悪性腫瘍)、乳房外ページェット病、排泄孔悪性腫瘍、及び悪性黒色腫を含む。
【0069】
膵臓がんは、限定はしないが、上記「発明の背景」に詳細に記述した腫瘍を含む外分泌腫瘍及び内分泌腫瘍をふくむ。
【0070】
好ましい態様において、交差結合物質はタンパク質性の交差結合物質である。ここに使用する「タンパク質性交差結合物質」は、Sap-1触媒活性を減少させるために、2個以上のSap-1分子を好ましくはその細胞外ドメインを介して交差結合するために有用なタンパク質、ポリペプチド及びペプチドのことである。
【0071】
さらに好ましい態様において、交差結合物質は抗体、好ましくはモノクロナール抗体である。
【0072】
さらに好ましい態様において、交差結合物質はヒト化抗体、好ましくはヒト抗体又はヒト免疫システムを使用して遺伝子的に再構築され、動物により生産された抗体である。
【0073】
本出願の実施例に示されているように、Sap-1細胞外ドメインのフィブロネクチンタイプIII類似反復はSap-1分子間のホモフィリックな相互作用に寄与していると考えられている。従って、本発明の交差結合抗体は好ましくはSap-1のフィブロネクチン類似ドメインに結合する。
【0074】
本発明はさらに癌、特に「発明の背景」に詳細に記述した癌の予防又は治療のために阻害物質又はSap-1を使用することに関係する。その阻害物質は、例えば、低分子量化合物、アンチセンスRNA又は干渉RNA(RNAi)のようないずれかの種類の阻害物質でありうる。好ましくは、阻害物質はSap-1に結合する抗体である。抗体は好ましくはSap-1の細胞外部分に、例えば、Sap-1のフィブロネクチン-タイプIII類似反復の一つ又はそれ以上に結合できる。本発明のSap-1抗体の結合によりSap-1 PTPの生物活性、例えば、src-キナーゼの脱リン酸化の触媒作用の阻害を生じる。該抗体は1価、2価又は多価でありうるし、交差結合活性を持つこともできるし、Sap-1の触媒活性を阻害するならば、交差結合活性を持たなくてもよい。その抗体は、例えば、一つのSap-1細胞外鎖に結合して、Sap-1触媒活性を阻害又は不活化を生じるコンフォメーション変化を誘発することができる。
【0075】
本発明に従って使用する抗体はウサギにおいて生産される抗体のようなポリクロナール抗体またはモノクロナール抗体でありうる。それらは全長ヒトSap-1、又はそのフラグメント、好ましくはヒトSap-1の細胞外ドメインからなる可溶性フラグメント、例えば全長細胞外Sap-1ドメインに存在する8個のフィブロネクチン-タイプIII類似反復の一つ又はそれ以上からなるフラグメントを認識することができる。
【0076】
好ましくは、本発明はヒトSap-1又はヒトSap-1のフラグメントを認識して結合するポリクロナール、モノクロナール、キメラ、ヒト化、ヒト又は抗-抗-イディオタイプ抗体又はそれらのフラグメントに関係する。
【0077】
用語「モノクロナール抗体」(mAb)は可溶型又は結合型で標識することができるモノクロナール抗体、キメラ、ヒト化抗体、ヒト又は抗-イディオタイプ抗体に対する抗体(抗-抗-Id抗体)、並びに、限定はしないが、酵素切断、ペプチド合成又は組換え技術のような既知技術のいずれかにより提供されるそれらのフラグメントを含むことを意味する。
【0078】
モノクロナール抗体は抗原に特異的な抗体の実質的に均一な集団を含み、その集団は実質的に同じ抗原決定基結合部位を含んでいる。mAbは当業者に既知の方法により得ることができる。例えば、Kohler and Milstein, Nature, 256;495-497 (1975); U.S. Patent No.4,376,110; Ausubel et al., eds., Harlow and Lane ANTIBODIES: A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Laboratory (1988);及びColligan et al., eds., Current Protocols in Immunology、Greene Publishing Assoc. and Wiley Interscience N.Y., (1992-1996)参照。該抗体はIgG,IgM, IgE, IgAを含む免疫グロブリンクラス及びそれらのサブクラスのいずれであってもよい。本発明のmAbを生産するハイブリドーマをインビトロ、インサイツ又はインビボで培養することができる。インビボ又はインサイツでの高力価のmAbの生産はやがて抗ましい生産方法になる。
【0079】
キメラ抗体は、マウスmAbに由来する可変領域及びヒト免疫グロブリン定常領域を持つ抗体のような、各部分が異なる動物種に由来する分子である。キメラ抗体は主に、適用においては免疫原性を減少させるためにそして生産においては収量を増加させるために使用され、例えば、マウスmAbがハイブリドーマから高い収量で得られるがヒトにおいて高い免疫原性を示す場合に、ヒト/マウスキメラmAbが使用される。キメラ抗体及びその生産方法は当業者に既知である(Cabilly et al.,欧州特許出願125023(1984年11月14日公開);Taniguchi et al.,欧州特許出願171496(1985年2月19日 公開);Morrison et al.,欧州特許出願173494(1986年3月5日公開);Neuberger et al., PCT出願WO 8601533 (1986年3月13日公開);Kudo et al.,欧州特許出願184187(1986年6月11日公開);Robinson et al.,国際特許出願番号WO8702671(1987年5月7日公開);Riechmann et al. and Harlow and Lane, ANTIBODIES; A LABORATORY MANUAL,前出)。
【0080】
「ヒト抗体」はヒト免疫グロブリンの可変領域及び定常領域の両者を含む分子である。完全なヒト抗体は、抗-イディオタイプ免疫原性を著しく減少しているか又は理想的には存在しないはずであるから、特に治療用の使用に適している。完全なヒト抗体を調製する一つの方法はマウス体液性免疫システムの「ヒト化」、すなわち、内在性のIg遺伝子型を不活性化したマウスにヒト免疫グロブリン(Ig)遺伝子座を導入することにより、ヒトIgを生産することができるマウス株(セノマウス)の作製により成り立つ。Ig遺伝子座は、物理的構造及び遺伝子再編成の両面において非常に複雑でありそして発現過程は結局広範囲の免疫応答を生ぜざるを得ない。抗体の多様性は主にIg遺伝子に存在する種々のV, D及びJ遺伝子間のコンビナトリアル再編成により発生する。これ等の遺伝子は散在する抗体発現、対立遺伝子型排除、クラススイッチ及び親和性成熟を調節する調節配列も含んでいる。再編成していないヒトIg導入遺伝子を導入することにより、マウス組換え機構はヒト遺伝子に適合することが示された。さらに、種々のイソタイプの抗原特異的hu-mAbを分泌するハイブリドーマは抗原によるセノマウスの免疫により得ることができる。
【0081】
完全なヒト抗体及びその生産方法は当業者既知である(Mendez et al (1997); Buggemann et al (1991); Tomizuka et al.,(2000)特許WO 98/24893)。
【0082】
抗-イディオタイプ(抗-Id)抗体は、ある抗体の抗原結合部位に共通する固有の決定基を認識する抗体である。Id抗体は、抗-Idが調製されるmAbの由来と同じ動物種及び遺伝型(例えば、マウス株)の動物を免疫することにより調製することができる。免疫された動物は、これ等のイディオタイプ決定基(抗-Id抗体)に対する抗体を生産することにより免疫した抗体のイディオタイプ決定基を認識しそして応答するであろう。例えば、U.S.Patent No.4,699,880参照。
【0083】
抗-Id抗体はさらに他の動物に免疫応答を誘発する「免疫原」として使用することもでき、いわゆる抗-抗-Id抗体を生産する。この抗-抗-Id抗体は、抗-Idを誘発した元のmAbと抗原としては同じである。従って、MAbのイディオタイプ決定基に対する抗体を使用することにより、同じ特異性の抗体を発現する他のクローンを同定することが可能である。
【0084】
従って、Sap-1、そのイソフォーム、同族体、フラグメント又はその誘導体に対して作製されたmAbは適当な動物、例えば、BALB/cマウスにおいて抗-Idを誘発するために使用することができる。該免疫マウスの脾臓細胞を抗-Id mAbを分泌する抗-Idハイブリドーマを作製するために使用することができる。さらに、抗-Id mAbをキーホール固定ヘモシアニン(KLH)のような担体に結合することができそして別のBALB/cマウスを免疫するために使用することができる。これ等のマウスの血清は、上記Sap-1タンパク質、又はその同族体、フラグメント及び誘導体の抗原に特異的な元のmAbの結合性を有する抗-抗-Id抗体を含んでいるであろう。
【0085】
このように抗-Id mAbはそれ自身のイディオタイプ抗原決定基、あるいは評価されている抗原決定基と構造的に類似の「イディオトープ」を有している。
【0086】
用語「モノクロナール抗体」は完全な分子並びに、例えば、抗原に結合することができるF(ab)又はF(ab')2のようなそのフラグメントの両者を含むことを意味する。該フラグメントは典型的に、例えば、ペプシン又はパパインのような酵素を使用する酵素的切断により製造される。F(ab)又はF(ab')2フラグメントは、循環から非常に速やかに除去され、そして完全な抗体より非特異的組織結合が少ない可能性がある(Wahl et al. 1983)。
【0087】
交差結合抗体の使用は本発明に従うのが特に好ましい。天然の免疫グロブリンは2個の抗原認識ドメインを有しているので、それらは抗原を2量化(多量化)する内在的性質を有している。Sap-1酵素活性を阻害する抗体の能力を評価するために、適当な交差結合抗体を適当な細胞測定システムにおいて試験することができる。そのほかに、強く結合する一本鎖免疫グロブリン、又はSap-1によく結合するが正しい形の2又は多量化を誘導できないMabを種々の化学的方法を使用して交差結合することができる。免疫蛍光法又はELISAに使用できるように酵素にMabを共有結合する多くの技術が存在する。これ等の方法は同様に多量化Mabを創るために使用することができる。
【0088】
本発明のその他の態様において、交差結合物質はSap-1の細胞外部分の全て、又は部分、からなる可溶性タンパク質である。その可溶性タンパク質は好ましくはSap-1のフィブロネクチン-タイプIII類似ドメインの1,2,3,4,5,6,7又は8個からなることができる。
【0089】
可溶性タンパク質は好ましくは組換えにより製造される。例えば、真核性発現システム、好ましくはCHO細胞のような哺乳動物細胞において製造することができる。
【0090】
本発明の範囲内において使用することができるタンパク質性の交差結合物質は他にも多数存在しうることを当業者は理解するであろう。その他の該交差結合物質は、例えば、天然に存在するような交差結合Sap-1分子に結合するタンパク質、好ましくはテネイシン、コラーゲン、又はそれらのフラグメント、又はインテグリン受容体の可溶性フラグメントのようなフィブロネクチンに結合するヒトタンパク質でありうる。
【0091】
Sap-1の細胞外ドメインに交差結合することができる交差結合抗体、又は可溶性Sap-1由来タンパク質、のミューテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性フラクション又は塩もまた本発明によると好ましい。
【0092】
ここに使用された用語「ミューテイン」とは、タンパク質性の交差結合物質の一つ又はそれ以上のアミノ酸残基が異なるアミノ酸残基により置換されているか、又は除去されているか、又は一つ又はそれ以上のアミノ酸残基が付加されているタンパク質性の交差結合物質である。これ等のミューテインは既知の合成法及び/又は位置指定突然変異誘起技術、又はそれに適するその他の既知技術のいずれかにより調製される。
【0093】
本発明に従うミューテインはタンパク質性の交差結合物質をコードするDNA又はRNAにストリンジェント条件の下にハイブリダイズするDNA又はRNAのような核酸によってコードされているタンパク質を含む。その用語「ストリンジント条件」とは、当業者が慣習的に「ストリンジェント」と言っているハイブリダイゼーション及び続く洗浄条件のことである。Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, 前出,Interscience, N.Y., §§6.3 and 6.4 (1987, 1992),及びSambrook et al.,前出を参照。限定することなく、ストリンジェント条件の例は試験するハイブリッドの計算Tmの12〜20℃下の温度において、例えば、2xSSC及び0.5% SDS中5分間、2xSSC及び0.1% SDS中15分間;37℃において0.1xSSC及び0.5% SDS 30〜60分間次いで68℃において0.1xSSC及び0.5% SDS 30〜60分間の洗浄条件を含む。ストリンジェント条件はDNA配列、オリゴヌクレオチドプローブ(例えば10〜40塩基)又は混合オリゴヌクレオチドプローブの長さにもよることを当業者は理解している。混合プローブが使用された場合には、SSCの代りにテトラメチルアンモニウムクロリド(TMAC)を使用することが好ましい。Ausubel,前出を参照。
【0094】
該ミューテインのいずれも、Sap-1と交差結合してSap-1活性を減少又は減弱させることができるように、元のタンパク質性交差結合物質の配列に類似性の高いアミノ酸配列を持つことが好ましい。そのミューテインはSap-1、特にSap-1の細胞外ドメインに実質的に結合する能力、及びSap-1分子に交差結合してsrc脱リン酸化のようなSap-1ホスファターゼ活性を減少させる能力により規定することができる。
【0095】
望ましい態様において、該ミューテインのいずれもSap-1の細胞外ドメイン又はSap-1の細胞外ドメインの可溶性タンパク質を標的とした組換え抗体のようなタンパク質性交差結合物質と少なくとも40%の同一性又は相同性を有する。より好ましくは、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%以上の同一性又は相同性を有する。
【0096】
本発明に従って使用することができるSap-1のタンパク質性交差結合物質のミューテイン、またはそれをコードする核酸は、ここに提供された教唆及びガイダンスに基づいて、過度の実験を行うことなく、当業者が日常的に得ることができる置換ペプチド又はポリヌクレオチドとして実質的に相当する配列の限定的セットを含む。
【0097】
本発明に従って望ましいミューテインの変更は「保存」置換として知られているものである。保存的アミノ酸置換は、グループのメンバー間の置換がその分子の生物的機能を保存するであろう類似性の高い物理化学的性質を持つグループ内の同義アミノ酸を含むことができる(Grantham, 1974)。その機能を変化させずに、特に挿入又は削除が数アミノ酸、例えば、30未満、そして望ましくは10未満のアミノ酸が含まれるのみであり、そして機能に関係するコンフォーメーションに重要なアミノ酸、例えば、システイン残基の除去又は移動がない場合には、アミノ酸の挿入及び削除を上記配列に行うこともできる。該削除及び/又は挿入により作製されたタンパク質及びミューテインは本発明の範囲内に入る。
【0098】
望ましくは、同義アミノ酸グループは表1に定義したものである。より望ましくは、同義アミノ酸グループは表2に定義したものである;そして最も望ましくは、同義アミノ酸グループは表3に定義したものである。
表1
同義アミノ酸の望ましいグループ


表2
同義アミノ酸のより望ましいグループ


表3
同義アミノ酸の最も望ましいグループ

【0099】
本発明に使用するために、タンパク質性交差結合物質のミューテインを得るために使用することができる蛋白質におけるアミノ酸置換を行う例は次に提示されているような既知方法段階のいずれかを含む:Mark et alに対する米国特許4,959,314、4,588,585及び4,737,462;Koths et alに対する5,116,943;Namen et alに対する4,965,195;Chong et alに対する4,879,111;及びLee et alに対する5,017,691;及び米国特許No.4,904,584(Shaw et al)に提示されているリシン置換タンパク質。
【0100】
用語「融合タンパク質」とは、他のタンパク質と融合したタンパク質性交差結合物質又はそのミュータント又はフラグメントからなる、例えば、体液中において延長した存在時間を有するポリペプチドのことである。このようにSap-1のタンパク質性交差結合物質は他のタンパク質、ポリペプチドなど、例えば、免疫グロブリン又はそのフラグメントに融合することができる。免疫グロブリン融合タンパク質の製法は当業者によく知られており、例えば一つはWO 01/03737に記述されている。生成した本発明の融合タンパク質はSap-1に対する交差結合活性、及び特にSap-1活性の減弱作用を維持していることを当業者は理解しているであろう。融合は直接行うこともできるし、あるいは1から3アミノ酸の短い長さ又はより長く、例えば、13から20アミノ酸残基の長さであってもよい短いリンカーペプチドを介して行うことができる。該リンカーは配列E-F-M(Glu-Phe-Met)のトリペプチドであってもよく、例えば、又はタンパク質性交差結合物質の配列と免疫グロブリン配列の間に導入されたGlu-Phe-Gly-Ala-Gly-Leu-Val-Leu-Gly-Gly-Gln-Phe-Metからなる13-アミノ酸リンカーであってもよい。生成した融合タンパク質は、体液中における延長した存在時間(半減期)、増加した特異的活性、増加した発現レベルのような改善された性質を持つことができ、あるいは融合タンパク質の精製が促進される。
【0101】
好ましい態様において、タンパク質性交差結合物質はIg分子の定常領域に融合される。好ましくは、例えば、ヒトIgG1又はIgG2のCH2及びCH3ドメインのような重鎖領域に融合する。イソフォームIgG2又はIgG4,のようなIg分子の他のイソフォーム又は、例えば、IgM又はIgAのようなその他のIgクラスもまた本発明の融合タンパク質の作製に適している。
【0102】
ここに使用されている「官能基誘導体」はタンパク質性交差結合物質及びそのミュータント及び融合タンパク質の誘導体を包括しており、残基上の側鎖又はN-又はC-末端基として存在する官能基から当業者既知の手段により調製され、それらが医薬品として受容しうる、すなわち、それらがSap-1と交差結合してそれによりSap-1脱リン酸活性を減少させる限り本発明に包含される。
【0103】
この誘導体は、例えば、ポリエチレングリコール側鎖を含むことができ、これにより抗原部位をマスクすることができそして体液中においてタンパク質性交差結合物質の存在を延長することができる。その他の誘導体はカルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアまたは1または2級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル基(例えば、アクカノイル又はカルボサイクリックアロイル基)により形成されるアミノ酸残基の遊離アミンN-アシル誘導体又はアシル基により形成される遊離ヒドロキシル基(例えば、セリル又はトレオニル残基)のO-アシル誘導体を含む。
【0104】
タンパク質性交差結合物質、そのミューテイン又は融合タンパク質の「活性フラクション」として、本発明は、該フラクションがSap-1に対して実質的交差結合活性を持つことを前提として、単独又はそれに結合する関連分子又は残基、例えば、糖または燐酸残基を伴うタンパク質分子のポリペプチド鎖のフラグメント又は前駆体又はタンパク質分子の集合体又は糖残基それ自体を包含する。
【0105】
好ましくは、交差結合物質はフィブロネクチン-タイプIII類似ドメインを指向する。
【0106】
2価又は多価の交差結合物質を使用することがさらに好ましい。
【0107】
さらに好ましい態様において、交差結合物質はアミノ酸残基上の少なくとも一つ又はそれ以上の側鎖として存在する少なくとも一つ又はそれ以上の官能基に結合した少なくとも一つの基からなる官能基誘導体である。
【0108】
Sap-1交差結合物質の官能基誘導体は交差結合物質の性質、例えば安定性、半減期、生物学的利用率、人体による耐性、又は免疫原性を改善するためにポリマーに結合することができる。この目的を達成するために、交差結合物質はポリエチレングリコール(PE.G.)に結合することができる。PEG化は、例えば、WO 92/13095に記述されているような既知の方法により実施することができる。
【0109】
従って、本発明の好ましい態様において、本発明の交差結合物質の官能基誘導体はポリエチレングリコール基からなり、すなわち、PEG化されている。
【0110】
本発明はさらに末梢血管疾患の予防及び/又は治療のための医薬品の調製にタンパク質性交差結合物質のコード配列からなる発現ベクターを使用することに関係している。このように、必要とする部位にタンパク質性交差結合物質を供給するために遺伝子治療法が考慮されている。癌を治療及び/又は予防するために、タンパク質性交差結合物質の配列からなる遺伝子型治療ベクターを病巣組織へ直接注射することができるので、例えば、ベクターの希釈、標的細胞又は組織への到達及びターゲティング、及び副作用のような遺伝子治療ベクターの全身投与に関係する問題を避けることができる。
【0111】
本発明に従って使用されるSap-1交差結合物質は好ましくは医薬組成物として投与される。
【0112】
「医薬として受容しうる」の定義は、活性成分の交差結合活性の有効性を妨害せず、そしてそれを投与した宿主に対して毒性がない担体を全て包含することを意味する。例えば、非経口投与のために、活性タンパク質は、生理食塩液、デキストロース溶液、血清アルブミン及びリンゲル溶液のような溶媒中に注射用の単位投与形態として製剤化することができる。
【0113】
本発明による医薬組成物の活性成分は種々の方法で各人に投与することができる。投与経路は皮内、経皮(例えば、徐放製剤で)、筋肉内、腹腔内、静脈内、経口、頭蓋内、硬膜外、局所、及び鼻腔内経路を含む。その他のいずれかの治療上有効な投与経路を使用することができる、例えば、表皮又は内皮組織を経由する吸収又は活性物質のインビボにおける発現及び分泌を生じる活性物質をコードするDNA分子を(例えば、ベクターを介して)患者に投与する遺伝子治療による。さらに、本発明のタンパク質を、医薬として受容しうる界面活性剤、賦形剤、担体、希釈剤及び溶媒のような生物学的活性物質の他の成分と共に投与することができる。
【0114】
非経口投与(例えば、静脈内、皮下、筋肉内)投与のために、医薬として受容しうる非経口用溶媒(例えば、水、生理食塩液、デキストロース溶液)及び等張性(例えば、マンニトール)又は化学的安定性(例えば、保存剤及び緩衝剤)を維持する添加物と共に活性タンパク質を溶液、懸濁液、乳液又は凍結乾燥粉末として製剤化することができる。製剤は一般的に使用されている技術により滅菌される。
【0115】
本発明の活性タンパク質の生物学的利用率は、例えば、PCT特許出願WO 92/13095中に記述されているように、分子にポリエチレングリコールを結合して、ヒト体内における分子の半減期を増加させる結合法を使用することにより改善することもできる。
【0116】
医薬組成物の活性成分の治療有効量は多くの変数、拮抗物質により示される残余細胞毒性活性、投与経路、及び患者の臨床状態の関数であろう。
【0117】
「治療有効量」は、投与された場合に、Sap-1交差結合物質がSap-1の生物活性の阻害を生じる量である。各個体に1回又は複数回に投与される投与量は、Sap-1交差結合物質の薬物動態的性質、投与経路、患者の状態及び特性(性、年齢、体重、健康状態、身長)、症状の程度、併用治療、治療頻度及び目的の効果を含む種々の要因により変動するであろう。確立した投与量の調節及び操作は当業者の能力並びに各人におけるSap-1の阻害を決定するインビトロ及びインビボの方法の範囲内にある。
【0118】
本発明により、Sap-1交差結合物質は0.001から100 mg/kg又は約0.01から10 mg/kg体重、又は約0.1から5 mg/kg体重又は約1から3 mg/kg体重又は約2 mg/kg体重の量で使用される。
【0119】
本発明によって好ましい投与経路は皮下投与による投与である。Sap-1交差結合物質を直接その作用する場所へ投与するために、局所に投与することも好ましい。
【0120】
さらに好ましい態様において、Sap-1交差結合物質を毎日又は一日置きに投与する。
【0121】
一日用量は通常分割用量で投与されるか又は求める結果を得るために持続放出型で投与される。二回目又は続く投与は各人に投与された最初又は前の用量と同じか、少ないか又は多い量の投与量で行うことができる。二回目又は継続投与は病気の間又は発病の前に投与することができる。
【0122】
本発明により、Sap-1交差結合物質は各人に、他の治療方法又は治療薬(例えば、多剤療法)に先立って、と同時に又はそれに続いて治療有効量で、特に化学療法剤及び/又は放射線療法及び/又は外科手術と組み合わせて、予防的に又は治療的に投与することができる。他の治療薬と同時に投与される活性物質は同じ又は異なる組成物として投与することができる。本発明の枠内に規定される特別なタイプの癌に対する治療及び医薬品は「発明の背景」に詳細に記述されている。Sap-1交差結合物質はそれに対する治療法が既知となっている特別な癌に対するいずれの他の治療薬とも同時投与又は併用することができることを同業者は理解するであろう。
【0123】
本発明はさらにSap-1交差結合物質の有効量と医薬として受容しうる担体の混合からなる医薬組成物の調製方法に関係する。
【0124】
本発明はさらにSap-1交差結合物質の治療有効量をそれを必要とする患者に投与することからなる、癌の治療方法に関係する。
【0125】
いまや本発明を完全に記述したので、本発明の精神及び範囲から離れずそして過剰の実験をせずに広範囲の同等のパラメーター、濃度及び条件の中で同じことを実施することができることを当業者は理解するであろう。
【0126】
本発明をその特定の態様に関連して説明したが、さらに修飾をすることができることは理解されるであろう。本出願は、一般的に、本発明の原理に従う本発明の変更、使用又は適用を包含することを意図しており、本発明が属する技術分野において既知又は日常作業になるようなそして後に付属する請求項の範囲に記述されている本質的特徴に適用することができるこの開示からの該乖離を含んでいる。
【0127】
ジャーナル記事又は要約、公開又は非公開の米国又は外国の特許出願、登録された米国及び外国の特許又はその他の引用文献を含むここに引用した文献は全て、引用文献に提示されている全てのデータ、表、図及び記述を含めてここに引用して完全に取り入れた。さらにここに引用された文献の中に引用されている引用文献の全ての内容も文献により完全に取り入れられている。
【0128】
既知方法段階、通常の方法段階、既知方法又は通常の方法の参考文献の中に、本発明の局面、説明又は態様のいずれも関連技術に開示され、教えられ又は示唆されていることはとにかく認められない。
【0129】
特別の態様のこれからの記述は本発明の一般的本質を十分明らかにしているので、本発明の一般的コンセプトから離れずに、過剰の実験をせずに、(ここに引用下文献の内容を含め)当業者の知識を適用することにより他人が容易に該特別の態様を修飾及び/又は種々の応用を行うことができる。従って、該応用及び修飾はここに提示された教示及びガイダンスに基づいて、開示した態様の同等物の範囲の意味の中に入ると考えられる。ここの文章又は用語は説明の目的のためのものであり、限定のためではないことは理解されるべきであり、本明細書の用語及び文章は、当業者の知識と組み合わせて、ここに提示した教示とガイダンスに照らして当業者により解釈されるべきものである。
【0130】
実施例
方法
抗体、ペプチド及び化学試薬
抗-HA:ウエスタンブロットにはマウスモノクロナール抗-HA.11(BAbCO)(インフルエンザヘマグルチニン(HA)抗原決定基YPYDVPDYAを認識)又はウサギポリクロナール抗-HA(Santa Cruz)を使用した。免疫沈降法には、効率のよい抗体は抗-HA.11(BAbCO)であることが判明した。抗体誘発交差結合には、マウスモノクロナール抗-HA5CA.12(Roche)を使用した。抗-Myc:マウスモノクロナール抗-Myc9E10(Santa-Cruz)。抗-SRC:抗-SRC327はDr. J. Bruggeから供与された、ウサギポリクロナール抗-SRCPAN、ウサギポリクロナール抗-SRCPY530(Biosource)及びウサギポリクロナール抗-SRC(Santa-Cruz)。抗-His:マウスモノクロナール抗-His(Dianova)。
【0131】
ノーザンブロット、RT-PCR及びマルチプルティッシュアレイ
総RNAはメーカー説明に従ってTrizolTM試薬(Life Technologies)を使用して抽出した。ノーザンブロットハイブリダイゼーションは記述に従った(Sambrook et al. 1989)。要約すると、20 μgのRNAをMOPS緩衝液中ホルムアルデヒドアガロースゲル上泳動させ、物質をニトロセルロースに転写した。UV-交差結合の後、ゲルをExpressHybTM溶液(Clontech)中で固定し、プローブ(900 bp Sap-1触媒ドメインに対応)を加えた。プローブはHighPrimeTMキット(Roche)を使用して調製した。
【0132】
マルチプルティッシュアレイ(MTE, Clontech)ハイブリダイゼーションはクレノーポリメラーゼ(NEB)を使用した以外はプロトコール説明書に従った。膜の放射線画像はコダックX-OMATフィルムを使用して現像した。
【0133】
TaqmanによるリアルタイムPCR
逆転写PCR(RT-PCR)は1 μgのRNA及びOmniscriptTM RTキット(Qiagen)をメーカー説明書に従って使用して実施した。得られたcDNAは、純度及び起こりうるゲノムDNAの混入(この目的のために、RNAのみをPCRミックス中でインキュベートした)を調べるために、特異的プライマー(5'-CCA GCT CAC CAT GGA TGA TG-3'及び5'-CCT TAA TGT CAC GCA CGA TTT C-3')を使用してアクチンcDNAを増幅することにより試験した。cDNAはメーカーのCyberGreenプロトコール及びSap-1特異的プライマー5'-CAT GCT GAC CAA CTG CAT GG及び5'-GCG AGT CCA GAG GCC AGT AAを使用してTaqManTMにより増幅した
【0134】
Sap-1及びGAPDH(自家保存対照)のPCRプライマーはPerkin-Elmer BiosystemsのPrimer Expressソフトウエアを使用して、公開されている配列に基づいて設計された:Sap-1,逆GCG AGT CCA GAG GCC AGT AA:前進CAT GCT GAC CAA CTG CAT GG;GAPDH,逆GAT GGG ATT TCC ATT GAT GAC A;前進CCA CCC ATG GCA AAT TCC;イントロン-GAPDH,逆CCT AGT CCC AGG GCT TTG ATT;前進CTG TGC TCC CAC TCC TGA TTT C 。特性及び最適プライマー濃度はcDNAを挿入したプラスミドの系統希釈により試験した。(cDNAの)ゲノムDNAの混入の可能性は特異的イントロン-GAPDHプライマーを使用するPCR反応を実施することにより除外された。非特異的増幅が無いことは3.5%アガロースゲル上でPCR産物を分析することにより管理した。SYBR GreenリアルタイムPCR反応は0.5 U AmpErase ウラシルN-グリコシラーゼ(UNG)を含む25 μlのSYBR Green PCRマスターミックス(PE Biosystems)及び20 μlのプライマー(300 nM)を含んでいた。鋳型は5 μlのRT-産物であった;0.5 ngのヒト組織からの総RNA(ColnTech)又は卵巣のポリA、PEマルチスクライブ酵素を使用。WiDr(ヒト結腸悪性腺腫、HT-29)はATCCから入手した。PCRは50℃で2分間(AmpErase UNG混入DNA消化;(Udaykumar et al. 1993))、95℃で10分間(AmpliTaq Gold活性化)及び次いで95℃ 15秒間、60℃ 1分間の40サイクルをABI PRISM 7700 Detection System上で実施した。逆転写cDNA検体はこのように増幅され、そしてそのCt値(サイクル閾値)が測定された。全てのCt値はハウスキーピング遺伝子GAPDHに対して正規化した。ヒトSap-1及びGAPDHに対する一つの特異的DNAバンドがゲル電気泳動分析により認められた。
【0135】
リン酸ペプチドの脱リン酸化検定
src(TSTEPQZQPGENL;Z=リン酸チロシン)及びlck(FFTATE.G.QZQPQP)C-末端配列に対応したペプチドを試験した;両者ともNeosystemから購入した。GST-PTP酵素を作製し、以前記述したように


遊離燐酸の指標としてマラカイトグリーンを使用して試験した。検定当り1.25 ngのPTPと200 μMリン酸ペプチドを、50 mM HEPES pH 7.2, 1 mM EDTA, 1 mM DTT及び0.05% (v/v) NP-40を含有する40 μl中で試験した。インキュベーション(30分間室温)の後100 μl BioMol Green (BioMol)を加え、20分後にOD650 を測定した。そのODを標準曲線を使用してnmole遊離リン酸に換算した。
【0136】
細胞培養、トランスフェクション及びレトロウイルス感染
細胞は5% CO2の下で、ダルベッコ修正イーグル培地、DMEM、10% FCS添加(COS 7, 3T3細胞)又は最小必須培地、10% FCS及び1%非必須アミノ酸(WiDr)を加えたMEM中で増殖した。両培地とも105U/Lペニシリン及びストレプトマイシン及びL-グルタミンを添加した。トランスフェクションはメーカー説明書に従いFugene-6試薬(Roche)を使用して実施した。
【0137】
プルダウン実験
c-Src WT又はY530F変異体を過剰発現するCOS 7細胞の総細胞分解物をGST-PTPトラッピング変異体又はGSTの存在下に1時間インキュベートした。複合体を十分に洗ったグルタチオン-セファロースビーズを加えて抽出した。最後に、検体緩衝液を加えて、混合物をSDS-PAGE上で泳動した。検出はPVDF膜上に転写した後抗-SRC抗体を使用して行った。
【0138】
プラスミド構築
PTP-Sap1 FL構築(Matozaki et al. 1994)をpcDNA4aベクター(Invitrogene)中にXbal及びHindIII制限酵素を使用して再クローニングした。pcDNA4-Sap1intra HAクローンはHA-タグ及びTMのN-末端部分のPTP配列が続くPTP-Sap1の一つのペプチド配列の融合体である。それは次のように調製される:Herculaseポリメラーゼ(Stratagene)及びベクターのアンチセンスプライマー及びTMのN-末端側の5個の細胞外アミノ酸をコードする配列に融合したHA-タグを含むプライマー(5'-TAC CCA TAC GAC GTC CCA GAC TAC GCT CAC ACC GAG AGT GCA GGG GT-3')を使用してPTP-Sap1の全長細胞質ドメインをPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)により増幅した。別の末端から、配列のC-末端部分におけるHA-タグに融合した逆プライマー(5'-AGC GTA GTC TGG GAC GTC GTA TGG GTA GGG GGC AGG CGC CCT GGC CCC T-3')を使用してシグナルペプチドを増幅した、そして前進プライマーはベクターから得た。二つのPCR産物を混合し、そして外部プライマーを使用して再度増幅した。シグナルペプチド及びHA-タグに融合したPTP-Sap1の細胞内部分を挿入するために、アンプリコンを挟む二つのXbal部位(一つは作製されそしてもう一つは元のベクター由来)を使用した。C-末端にHA-タグを融合した全長構築を、XhoI部位、HA-タグ及びSTOPコドンのあるPTP-Sap1配列の末端の配列を含むアンチセンスプライマー(5'-TAC TCG AGT TAA GCG TAG TCT GGG ACG TCG TAT GGG TAG ACC TCC AAC TTG TGG GCC T-3')を使用して調製した。全長Sap1-HA融合構築を、前進プライマー特異的プラスミドを5% DMSOの存在及び「ホットスタート」条件の下にHerculaseを使用する長時間PCRに使用して増幅した。N-末端のHA-タグ構築は得ることができなかった。FLEX構築は、標的配列(5'-ATG AAT TCA GCG GCC CAT CTG GCT GCC TCT TTC TCA GGA AGA AAA TCA-3') 及び加えたEcoRI部位を維持するために、細胞内近位TMコード配列(約30 bp下流)に相補的なプライマーでECD配列を増幅することにより得た。アンプリコンがpCDNA4bに融合した場合には、二つのタグ(His及びc-Myc)及び終結コドンに関してインフレームである。FLEXにおけるC-及びN-末端削除は、正しい読み枠を維持するECDコード配列切断酵素を使用してpcDNA4-FLEX構築を消化することにより行われる。XcmI(NEB)及びPstIがpcDNA4-FLEXの消化に使用される;大きいフラグメント(切断されたFLEXを含む)を精製し、そしてC-及びN-末端を構築するために、それぞれ再度連結する。GST-Sap1構築は以前に記述されている


PTP-Sap1 ma(膜結合)はPTP-Sap1細胞質領域とC-末端部分のHA-タグの融合からなる(pcDNA4-PTP-Sap1FLHA構築の増幅)。Lckミリストイル化部位(下線部分)およびKozak配列を挟む開始コドンを含むプライマーATA AGC TTA CCA TGG GCT GTG GCT GCA GCT CAC ACC CGG AAG ATG ACT GGA AGA GGA GGA ATA AGA AGA AG,をPTP-Sap1細胞質フラグメントを増幅するためにベクタープライマーと共に使用した。アンプリコンは5'末端連結のためのプライマーのHindIII制限部位を使用してpcDNA4の中にクローニングした。
【0139】
位置指定突然変異誘起。コドンの交換は次のように行われた。PCRは14サイクルについて使用するプラスミドの大きさに比例する伸長時間(0.5 kb/分)の特別なプログラムに従ってPfuポリメラーゼ(Promega)で行った。100 ngのプラスミドの増幅の後、DpnIを混合物中1時間37℃でインキュベートした。ウルトラコンピテント細胞(XL2-blue, Stratagene)をPCRミックスの1/10で形質転換し、そして選択培地に入れた。PTP-Sap1位置指定突然変異誘起のためのプライマー対は次の通り:C747S(5'-CTC TGT GGT CAG CCA CAC CGA GAG T-3'及び5'-CTC GGT GTG GCT GAC CAC AGA GTG A-3'), D986A (トラッピング変異、3'-GCC TGG CCG GCT CAC GGC GTT CCC T-5'及び3'-AAC GCC GTG AGC CGG CCA GG-5'), Y1094F (3'-CGA GAA GGA AGT CCC GTT TGA GGA T-5'及び3'-CAT CCT CAA ACG GGA CTT CCT TCT C-5'), Y1002F (3'-TGT CGA AAA CCT CAT CTT CGA GAA C-5'及び3'-CGG CCA CGT TCT CGA AGA TGA GGT T-5')
これ等の構築は全て配列分析により管理された。
【0140】
c-Src構築:
c-Src cDNAは種々のベクターにクローニングされたが、殆どpcDNA4として使用された。c-Src Y530F変異体は次のプライマー(5'-AGT TCC AGC CCG GGG AGA ACC TC-3'及び5'-GAG GTT CTC CCC GGG CTG GAA CT-3')で既に記述した方法を使用して作製した。
【0141】
免疫沈降法(IP)
いずれのIPも同じ緩衝液を使用して行い、最適抗体力価は経験的に決定した。細胞分解物は次ぎのように調製した;細胞をRIPA分解緩衝液(PBS, 1% IGEPAL, 0.5% Na-デオキシコール酸,完全タンパク分解酵素阻害物質カクテル錠剤(Roche)及びオルトバナジン酸ナトリウム1 mM)を添加した0.1% SDS又は抗-mycに対してはNP-40緩衝液(50 mM Tris pH 7.5, 150 mM NaCl, 1 mM EDTA, 10 mM NaF, 25 mM β-グリセロリン酸,1 mM ピロリン酸ナトリウム,1 % NP-40及び完全タンパク分解酵素阻害物質カクテル(Roche)を添加)中でインキュベートした。両緩衝液は氷冷して使用した。細胞は1回凍結-解凍及びG21シリンジを通して機械的に破壊した。分解物を10分間4℃で遠心分離(14,000 rpm)により透明にし、非特異的抗体(Santa Cruz)及び予めコーティングしたプロテインA/Gセファロースビーズ(Santa Cruz)20 μlで前処置をした。混合物を遠心分離し、上清を回収して、protA/Gビース上に2時間予めコーティングした特異的抗体と終夜4℃でインキュベートした。ビーズを最終的に分解緩衝液で1回、そしてPBS-0.1% TritonX-100で2回洗った(洗浄液の容積は分解液の2倍に相当)。次いで検体をウエスタンブロット分析またはキナーゼ検定に使用した。
【0142】
ウエスタンブロット
タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル(PAGE)、NovexのNuPAGEゲルシステム(Invitrogene)、上でメーカーのプロトコールに従って分離した。タンパク質を半乾燥転写装置(Pharmacia)を使用してPVDF膜に転写した。緩衝液(泳動及び転写)は全てNovexのものを使用したが、最終10%メタノールを加えた2xを使用した場合に転写緩衝液の効率は増加することを発見した。
Amido-Black (Sigma)で膜を染色した後、ブロットをPBS-0.2% TweenTM及び5%脱脂粉乳の溶液中で1時間ブロックした。抗体をブロッキング緩衝液で希釈し、そして室温(RT)で1時間インキュベートした。両抗体でのインキュベーションの後、ブロットを少なくとも3回PBS-0.2% TweenTMで15分間洗った。バンドはECL検出システム(Amersham)で現像した。
【0143】
キナーゼ検定
IPの最後の洗浄の後、キナーゼをリン酸緩衝液(20 mM Tris pH 7.5, 150 mM NaCl, 1 mM DTT及び1 mM EDTA)に再懸濁した。この溶液の1/10をSDS-PAGE上で泳動して対照ウエスタンブロットを実施し、残りをキナーゼ検定に使用した。インビトロGST-Sap1仲介活性化には、10から100 ngの精製PTPをIP検体に加え、そして30分間30℃でインキュベートした。IPキナーセがPTPを過剰発現する細胞に由来する場合には(細胞性活性化)、この段階を省略してIP検体を直接MBP,1 mMオルトバナジン酸ナトリウム及び35 μCi μ-γ-ATPとインキュベートする。さらに、緩衝液は5 mM MgCl2, 2.5 mM MnCl2及び2.5 mM DTTの最終濃度にした。反応を30分間30℃で行った後、タンパク質検体緩衝液を加えることにより反応を停止し、そしてSDS-PAGE上で泳動した。バンドをコダックX-OMATフィルムを使用してオートラジオグラフィーを行って現像した。
【0144】
BS3, DSS及びDTT処理
COS 7細胞に指示した構築でトランスフェクションを行い、そして24時間37℃に置いた。培地を交換し、PBS中BS3(Pierce)の溶液(2.5 mg/ml)又はPBSのみを加え、そして1時間4℃に置いた。0.15 M Tris pH 7.5を含むPBS加えて15分間4℃におくことにより交差結合反応を停止した。細胞を最終的に分解し、そして含有タンパク質をさらに分析に使用した。DSS(Pierce)による処理は、産物を25 mM(10x)の濃度のDMSOに溶解する以外は同じであった。それは次いでPBSで希釈され、そして細胞を0.1xDMSOでインキュベートした。
【0145】
DTTで処理した細胞には(PTP-Sap1構築又はベクターによる)トランスフェクションの後8時間血清を与えなかった。次いで30分間無血清培地で種々の量のDTT (Sigma)とインキュベートした。遊離DTTをブロックするために、細胞を50 mMヨード酢酸アミドを含む氷冷PBSで洗った後、150 mMヨード酢酸アミド("IODA" Sigma)を含む緩衝液中で細胞を分解した。還元及び非還元条件下、検体緩衝液にβ-メルカプトエタノールを加えるか又は加えずにそれぞれ検体を泳動させた。
【0146】
細胞膜の調製及びホスファターゼ活性の測定
トランスフェクションは10 cmプレート中(5x105細胞)で行い、そして24時間後に使用した。細胞を2回氷冷PBSで洗い、次いで10 ml PBSに回収した。1,600 rpm (15 ml Falcon試験管中)で遠心分離した後、500 μlの採取緩衝液(50 mM Tris pH=7.6, 150 mM NaCl,プラスプロテアーゼ阻害剤カクテル)中に懸濁した。超音波処理(3回10秒間)に続いて検体を105g 4℃で30分間超遠心分離した。細胞質フラクション(上清)を回収し、そしてグリセロールを20%になるように加えた。ペレットを採取緩衝液で1回洗い、そして1% Triton-X100を加えた採取緩衝液に再懸濁した。溶液を1時間氷上に保ち、そして再度105 g で30分間超遠心分離した。膜フラクション(上清)を単離し、そしてグリセロールを20%になるように加えた。タンパク質発現をウエスタンブロットによりチェックした。タンパク質濃度はBradfordの方法(BioRad)により測定した。1 μgの膜抽出物及び100 μMの基質ペプチドを検定緩衝液(50 mM Hepes pH 7.4, 0.05% NP-40及び1 mM DTT)中で混合した;種々の時点においてマラカイトグリーン(BioMol)を加えることにより反応を停止した。96ウエルプレートをOD605で測定した。
【0147】
実施例1:訂正されたSap-1配列
Sap-1配列及び発現
全長Sap-1発現ベクター構築の配列分析の過程において、以前に公開されていた配列の誤りを訂正した。図1Aに訂正された全長Sap-1アミノ酸配列を示す。図1Bに本実験に使用した種々のSap-1組換えタンパク質を示す。
【0148】
実施例2:ヒト組織におけるSap-1のmRNA発現
多組織ポリ(A)RNAドットブロット、及びヒト組織のcDNA検体のセットにも定量的PCR(TaqMan)を使用して、Sap-1 mRNA発現を初代細胞及び種々の癌細胞系において試験した(図2)。図2Aでは、肺癌腫及び結腸悪性腺腫細胞系においてSap-1 mRNAが過剰発現しているが(レーン2,3,5及び6)、初代内皮細胞には発現していない(レーン1)ので、Sap-1は肺及び結腸の癌腫の発癌に関与している可能性があることを示している。正常組織において(図2B,ドットブロット)、最も高い発現は胃腸管の種々の部分、副腎及び脾臓において認められ、そしてCNSは弱い発現を示した。この発現パターンは、脾臓、小腸及び副腎において最も高い発現を認めたTaqManのデータにおいて確認された。全体的な発現は他のホスファターゼの大きな集団に比較して非常に低かった(データは示さず)。Sap-1 mRNA発現は結腸悪性腺腫WiDr細胞からのRNAにおいても分析した。図2Cに示すように、この細胞は小腸細胞よりも5倍以上多くSap-1を発現する。総合して、これ等のデータからSap-1は特に胃腸の癌において過剰発現するという以前の知見が確認された(Seo et al. 1997)。
【0149】
実施例3:Sap-1はsrc-ファミリーキナーゼに対して基質特性を有す
Sap-1の過剰発現がどのように癌に関係しているかを理解する第一段階として、src-又はlck-由来C-末端自己抑制配列に対応する燐酸ペプチドを脱リン酸する酵素の能力を調べた。多数のPTPの触媒ドメイン(約250アミノ酸)を調製し、そしてリン酸ペプチドとインキュベートした。図3に示すように、Sap-1はこの検定において、23 μMのKm(示さず)が測定され、比較的高いホスファターゼ活性を示した。lckに対して良い選択性がある他のPTPはCD45である。この結果は、CD45がlck活性を阻害するという以前の知見(D'Oro and Ashwell 1999)とよく一致した。lck及びsrcペプチドに対して認められた選択性パターンは試験された他のペプチドに対する選択性とは劇的に異なるものである(データは示さず)。PTP及びその標的の両者の他のドメインは基質選択性に関与しているらしい。しかし、Sap-1はその重要なリン酸チロシンにおいてsrcを強力に脱リン酸することは明らかである。
【0150】
認識及びSap-1によるc-srcの活性化
Sap-1がc-srcと相互作用してc-srcによって活性化されるか否かを見るために、COS細胞中でsrcを過剰発現させた。このシステムにおいて、srcの>90%はTyr530においてリン酸化されているので不活性である(Bjorge et al. 2000a)。対照として、発癌性がありそしてTyr419 リン酸化を行うY530F変異体を使用した。Sap-1によるsrcの認識を調べるために、位置986のアスパラギン酸がアラニンに変換されているPTPトラッピング変異体Sap-1DAを使用した。該変異体は基質特異性を保持しているが、脱リン酸化せずにその基質と緊密に会合することを維持している(Flint et al. 1997)。図4に示すように、野生型srcは基質トラッピングSap-1により過剰発現細胞から「プルダウン」されるが、変異体srcは「プルダウン」されない(図4A,最後のレーン)。野生型Sap-1及びGSTのいずれも単独ではsrcをプルダウンしない。Sap-1DAがY530F-srcと相互作用できないという事実は、それがリン酸化Tyr419に対して親和性を持たないことを示す。
【0151】
Sap-1が全長srcを脱リン酸することができるか否かも調べた。Srcは過剰発現した3T3細胞から免疫沈降し、そしてGSTまたはGST-Sap-1(野生型酵素)と5分間インキュベートした。ホスファターゼで処理した後にはもう、srcは抗-リン酸チロシン抗体によって検出出来なかったので、srcは脱リン酸されたことを示している(図4B)。
【0152】
次に、Sap-1によるc-src Tyr530 の脱リン酸化によりキナーゼの活性化を生じるか否かを分析した。免疫沈降したsrcをGST,GST-Sap-1又はGST-PTP-β,Sap-1に関係するPTPとインキュベートした。バナジン酸ナトリウム、強力な非特異的ホスファターゼ阻害剤、で反応を停止し、各検体を放射標識ATP及びMBP(ミエリン塩基性タンパク質)、srcキナーゼ基質、とインキュベートした。最後に混合物をSDS-アクリルアミドゲル上で泳動し、放射活性バンドを現像した。図4Cに示すように、Sap-1 によるsrcの処理は放射活性MBPの生産増加並びにsrc自己リン酸化(上側のバンド)を生じた。別の実験において(図4C,右パネル)、GST-Sap1DAトラッピング変異体は同じ効果を持つことが認められた。多分、Sap1変異体はsrcリン酸化Tyr530に結合して、C-末端ドメインとsrcのSH2ドメインの相互作用を阻止するので、キナーゼ活性の活性化を生じる。
【0153】
Sap-1によるc-srcの活性化がインビボで生じたか否かを次いでチェックした。細胞をc-srcプラス全長又はECD(細胞外ドメイン)-削除Sap-1の発現ベクターで共トランスフェクションした。次いでsrcを免疫沈降して、キナーゼ活性を調べた。図4Dに示すように、Sap-1共トランスフェクションはsrcキナーゼ活性の増加を生じた。たとえ対照がSap-1 FL(全長)構築よりも若干低いレベルの発現であったことを示したとしても、キナーゼ活性の増加はECDを失ったSap-1構築としては大きかった(図4D、右パネル)。このことはホモマー又はヘテロマーの形成により全長細胞外ドメインによりSap-1が阻害されることを示している。
【0154】
最後にc-srcとSap-1の間のインビボ相互作用を示すために逆実験を行った。HA-タグ付Sap-1を細胞抽出物から免疫沈降して、c-srcの存在をウエスタンブロットで検出した(図4E,上段パネル)。Sap-1の基質トラッピング変異体(レーン1〜3)はc-srcを免疫沈降することができたが、野生型Sap-1(レーン4〜6)はできなかった。再度、Y530F c-src変異体は非常に弱い相互作用であった(レーン3)。抽出物中のタンパク質のリン酸化状態も調べた(図5E,中央パネル)。予想されたように、c-srcは自己リン酸化されていたが、Sap-1もそうであった。後者のリン酸化状態はc-srcの過剰発現とは無関係のようである。野生型Sap-1はリン酸化されていない(レーン4〜6)。このブロット上のsrcとSap の間のバンドは抗-HA抗体である。
【0155】
実施例4:Sap-1細胞外ドメインは多量化に携わる
全長Sap-1 ECDが安定な2量体を形成する場合には、それらは適当な化合物によって細胞を処理することにより化学的に交差結合することができる。COS7細胞を全長又はECD-削除型のSap-1で一過性にトランスフェクションし、次いでBS3(ビス-スルフォスクシンイミジル-スベラート)、化学的交差結合物質、で処理した。次いで細胞分解物を、抗-HAタグ抗体を使用してウエスタンブロットで分析した。図5Aに示すように、FL-Sap-1による処理は高分子の複合体の形成を誘発したが、ECD-削除型は誘発しなかった。BS3は細胞透過性でないので、ECD-削除Sap-1変異体に効果が認められなかったことはそう驚くことではない。従って、トランスフェクションした細胞を細胞透過性のスルホン化してない誘導体、DSS(ジ-スクシンイミジル-スベラート)でも処理した。図5Bに示すように、この化合物はFL-Sap-1を交差結合することはできたが、ECD-削除Sap-1はできなかった。最後に、Sap-1の膜貫通ドメインも欠失しておりそしてlck由来ミリストイル化ペプチドを介して内側の膜に接着しているECD-削除構築を試験した(図1B)。この構築は交差結合できなかった(図5B,右パネル)。これ等の結果は、全長Sap-1は少なくとも部分的に多量化しており、そしてECDは多量体形成に必須であることを示している。
【0156】
多量化におけるシステインの関与
修正したSap-1細胞外配列(図1A)は奇数(13)のシステインを有している。細胞外環境は通常非還元的であるので、このドメインのシステインは分子内ジスルフィド架橋に使用されるであろう。従って、Sap-1を過剰発現した細胞からの抽出物は、破壊の間にジスルフィド架橋形成を阻止するために遊離スルフヒドリル基を保護するヨードアセトアミドの存在下に単離される。次いで検体をポリアクリルアミドゲル上で非還元及び還元条件下に泳動を行い、そしてSap-1を抗-HAタグ抗体を使用するウエスタンブッロトで検出する。図6Aに示すように、高分子量Sap-1は非還元泳動条件下に認めることができたが、Sap-1のECD-削除型については認められなかった。次に細胞を還元剤ジチオトレイトール(DTT)で処理することにより多量体を分解できるか否かを試験した。図6Bに示すように、Sap-1を過剰発現する細胞をDTT中30分間インキュベートすることにより非還元ゲル上で検出される多量化Sap-1の用量依存性の減少を生じた。このDTT-誘発分解は可逆的であった。細胞を30分間50 mM DTTで処理し、続いて洗い流し、そして15分間DTTの非存在下に回復させたところ多量体の形成は完全に復活した(図6B,最後の2レーン)。
【0157】
Sap-1は2量体を形成する
図5及び6に示したSap-1多量体の大きさからSap-1はホモ-2量体を形成することを示しているが、他のタンパク質と相互作用することも可能である。この問題に答えるために、種々の抗原性タグを有するSap-1構築を過剰発現させた。ECD-含有、His6/Myc-タグ付Sap-1を種々の他のタグ付Sap-1構築と共に発現させた。タンパク質を抗-HA抗体を使用して免疫沈降し、そしてHA-タグ付Sap-1タンパク質の免疫沈降物を抗-HA抗血清を使用するウエスタンブロットにより検出した。図7に示すように、HA-タグ付全長Sap-1はHis6-タグ付FL Sap-1構築と相互作用できたが、ECD-削除Sap-1はできなかった。
【0158】
Sap-1細胞外ドメインは8個のフィブロネクチン(FN)-類似ドメインを有している。受容体のどの部分が2量体形成に必要であるかを調べるために、3個のN-末端反復(「FLEX-C末端」)又は2個のC-末端反復(「FLEX-N末端」;図1B参照)を欠失したmyc-タグ付Sap-1構築を作製した。FLEX-C末端はBS3と十分に交差結合した(図8A)。両構築とも、HA-タグ付FL-Sap-1と共にトランスフェクションした場合に、抗-HA抗体により効率よく共に免疫沈降し、次いで抗-mycにより免疫的に検出された(図8B)。このことはN-及びC-末端ドメインが冗長であること、又は2量化が3個のFNIII類似反復を持つ中央ドメインにより仲介されていることを示している。結合ドメインはFNIII-類似反復の5及び6に局在している可能性がある。相互作用が複数ドメインを介して生じていることもありうる。
【0159】
実施例5:Sap-1の2量化は酵素活性を伴っている
既に示したように、ECD-削除Sap-1構築はc-srcの活性化において全長構築よりも効率がよかった(図4D)。さらに、ECDはSap-1の2量化を仲介することも示され、Sap-1の2量化はSap-1の触媒活性の阻害を生じることを示唆している。これにさらに直接的に応じるために、FL及びECD-削除Sap-1変異体を発現する細胞から膜フラクションを調製し、その活性を調べた。トランスフェクションしていない細胞の膜調製品は非常に低いPTP活性を示す。図9Aに示すように、ECD-削除型による調製品はFL-Sap1を発現する細胞のものより高い触媒活性を有している。この膜フラクションは交差結合抗体の存在下においても試験した。図9Bに示すように、モノクロナール抗-HA抗血清の添加によりSap-1酵素活性の用量依存的な減少を生じ、それは抗血清の交差結合能力の影響に帰することができる。
【0160】
実施例6:アンチセンス方法によるSap-1の阻害
方法
ストレプトリシントランスフェクション及び増殖検定
細胞を種々の希釈で(1000〜10000細胞/ウエル)96ウエルプレート上3系列に配分した。翌日細胞をトランスフェクションした:最初細胞をストレプトリシン-O(0.4 U最終)を含むPBS 1X及び緩衝液(137 mM NaCl, 10 mM PIPES pH 7.4, 5.6 mM グルコース,2.7 mM KCl, 2.7 mM EGTA, 0.1% BSA及び1 mM Na-ATP)で2回洗い、そしてオリゴデオキシヌクレオチド、ODN,(1 mM最終)を細胞に加えて5分未満インキュベートした。その後、200 μlの完全培地を各ウエルに加えて15から40時間置いた。次いでBrdU(Roshe)を細胞に加え、そしてメーカー説明書に従った。われわれはいくつかの対照実験を行ったが、それは+/-ストレプトリシン-O、+/-ODN及び+/- BrdUである。
【0161】
プライマーの配列は(AS:アンチセンス、S:センス):AS1:CCA GCC ATG CCT CCA GAC ACT,S1:TGC CCA CAC TCA AGC ACC CTG,AS2:TGA CCC GGG TCC AAG GCC AT, S2: GCG CGC TAG CCA CTT CGG AA, AS3: TGG TGT CTG TTG TGT TTC GA, S3: AGG GTC GGT TTT TTG GTT CT.
【0162】
コロニー形成検定:
3T3細胞(2X105)を2 μgのDNA(プラスミドの90%は目的の遺伝子及びトランスフェクションの効率を調べるために10%のpCIE-EGFPを含む)でトランスフェクションを行った。24時間後、細胞を回収し、1/10を3%血清及びG418 (500 μg/ml)の存在下に6-ウエルプレートに注いだ(残りはウエスタン分析のためにRIPA中で分解した)。培地を3日ごとに交換して2週間後に細胞をトリパンブルーで染色して、コロニーを数えた。
【0163】
RNAi設計及びトランスフェクション
RNAiはDharmaconから得た説明書に従い設計した:鋳型は最初のAAダイマーが存在する開始コドンから下流75塩基を選択した。次いで続く19ヌクレオチドを記録し、そしていくつかの条件に対して試験した:GC含有量は30〜70%、プライマー-ダイマー形成を避ける、そして目的の配列以外はどの配列もcDNAデータベース(NCBI)の中に認められない。われわれはすぐ使用できる2量化RNAを注文した。
【0164】
トランスフェクションはWiDr細胞に対してはオリゴフェクタミン試薬(Life Technologies)をそしてCOS7細胞に対してはTransIT-TKO(Mirus)を使用して行った。両タイプの試薬に対して、われわれは6ウエルフォーマットを使用した:60 pmolのsiRNA duplex及び8 μlのTransIT-TKO又は3 μlのオリゴフェクタミン。いずれの実験もpCIE-EGFPプラスミドを共トランスフェクションして行った。ついで細胞を24時間(COS7)又は48時間(WiDr)置いた後に次の実験に使用した。
【0165】
結果
細胞内におけるSap-1活性の遮断を評価するために合成アンチセンスによる方法を使用した。最初に、オリゴ-デオキシヌクレオチド(ODN)をストレプトリシン(膜に孔を開ける細菌毒素)(Barry et al., 1993)と組み合わせて使用し、そして2番目に干渉RNA(RNAi)(Tuschl et al., 1999)を適用した。
【0166】
オリゴデオキシヌクレオチドによるトランスフェクションはストレプトリシン-Oを使用して行った(Barry et al., 1993)。3個の異なるオリゴ(AS1-3)及びその同族センス(S1-3)ヌクレオチドをPTP-Sap1のmRNA配列に基づいて設計した。mRNAの2次元構造から推測される露出ループを結合の効率を増加させるための標的とした(データは示さず)。ヌクレオチド類似のBrdUを加えて試験して、WiDr細胞の増殖を実験の測定値とした。AS2はこの検定において最も有効であるように思われたが、わずか20%の増殖減少が観察された(結果は示さず)。
【0167】
新しい型のアンチセンス、RNAi(Tuschl et al., 1999)も試験した。合成RNAiの効率を調べるために、トランスフェクションしたCOS7細胞におけるPTP-SAP1(又は対照として、PTP-β)の発現を減少させる能力を試験した。興味あることに、RNAi-9はPTP-βと干渉し、以前に記述されていること(Tuschl et al)とは逆に非特異的RNAi認識が起こることを示した。第二段階は目的とする細胞背景、すなわちWiDr細胞においてそれを試験することであった。トランスフェクションの後、RNAi効率を強化グリーン蛍光タンパク質、EGFPをコードするプラスミドを加えることにより監視した。最適条件では60%の細胞をトランスフェクションすることができた(データは示さず)。48時間後、細胞を回収し、そして総RNAを調製した。このRNAをさらに逆転写し、そしてPTP-SAP1に対する特異的オリゴヌクレオチドを使用するTaqManにより増幅した。これによりまだ使用できるPTP-SAP1メッセンジャーの正確な量の測定が可能である。不幸にも、PTP-SAP1の発現は非常に低かった。しかし、一つの構築は再現性よくPTP-SAP1 mRNAの1.5X減少を示した。
【0168】
結論
上記実施例に記述した研究において、Sap-1のECDはSap-1の2量化に必須であること、この2量化はSap-1の触媒活性を減少させること及びSap-1はc-src発癌性キナーゼ活性を活性化できることが示された。従って、その触媒ドメインに対する阻害物質により、又は2量化を増加又は安定化する物質によりSap-1を阻害することは胃腸の癌又はその他の癌、例えば肺癌腫の治療又は予防に有用であろう。N-及びC-末端のECDドメインは2量化にとって冗長であるので(図8)、ECD中のフィブロネクチン-III類似反復そのものが2量化の原因であるらしい。該2量化は2価抗体、又は多価抗体、フィブロネクチン-結合性化合物によって行うことができる。Sap-1のECDに連結するための天然に存在するフィブロネクチン-結合タンパク質としてはコラーゲン(Stanton et al. 2002)、テナシン-C(Huang et al. 2001)、ヘパリン(Kapila et al. 2001)及びインテグリン(Boettiger et al. 2001)が記述されている。これ等のタンパク質からSap-1交差結合物質が製造されるであろう。
【0169】
化学的交差結合実験では、化学反応の有効性を測定するのが困難であるので、どのくらいのパーセンテージのSap-1分子が2量化したか測定できない。しかし、(天然の)非還元環境においてインキュベートされた細胞は少なくとも50%の2量化を示す(図7B)。ECDの2量化にシステイン架橋は重要であり、そして対になっていないシステインは2量化に使用される可能性があることも示された。そのほかに、還元剤による処理により正常なタンパク質3次構造が破壊され、ECDタンパク質-タンパク質相互作用が間接的に阻害される。しかし、ECD中の膜に近いシステインの削除は2量化に対して影響しなかった(データは示さず)。
【0170】
Sap-1がc-srcを活性化することができることを示すことにより、Sap-1過剰発現が胃腸の腫瘍の悪性形質転換を伴う理由を説明できると現在考えている。3T3細胞におけるSap-1の過剰発現は、発現したSap-1の量が予想よりも低かったにもかかわらず、細胞に対して毒性を示した(示さず、又Noguchi et al. 2001)。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1A−1B】(A)Sap-1アミノ酸配列(修正)。一本下線:シグナルペプチド;二本下線:膜貫通配列。太字:触媒ドメイン。一部のcDNAにおいてI244はバリンに交換(多形)。(B)本発明に使用したPTP-Sap1構築。GST構築は細菌に発現させた。その他の構築は哺乳動物細胞に発現させた。太い横線は形質膜を示す。FL:全長、HA:ヘマグルチニン-タグ、FLEX:全長細胞外ドメイン、Myc-Hisタグ:c-Mycタグプラスヒスチジン6タグ、FN III:フィブロネクチンタイプIII反復及びfatty acid:PTP-Sap1の細胞質ドメインに融合したLckのミリスチル化部位。
【図2A−2C】PTP-Sap1の発現の分析。(A)ノーザンブロット、ヒトSap-1プローブ(上)又はβ-アクチンプローブ(下、対照)による検出。ブロットにヒト細胞系の総RNAの20 μgを適用:HUVEC(1)、大細胞肺カルシノーマ、ATCC HTB-177 (2)、肺悪性腺腫、CRL-5800 (3)、卵巣悪性腺腫 HTB-161 (4)、結腸悪性腺腫 CCL-224 (5)、結腸悪性腺腫 CCL-218 (6)及び胚性横紋筋肉腫、CCL-136 (7)。(B)ヒト組織からのポリ(A)RNAを使用した多組織アレイ。Sap-1ハイブリダイゼーションは(A)と同様。(C)種々の組織のTaqMan分析。WiDrは結腸悪性腺腫の細胞系。発現はGAPDH mRNAのシグナルに対するパーセンテージとして表示する。
【図3】ペプチド脱リン酸検定。src及びlckのC-末端自己抑制ホスフォチロシンを含むリン酸ペプチドをヒトPTPで脱リン酸した。
【図4A−4E】Src はSap-1により認識されそして活性化される。(A)基質トラッピングSap-1変異体によるc-Srcのプルダウン検定。WCL:全細胞分解物、FT:通過及びPD:プルダウン。(B)Sap-1によるsrcの脱リン酸。Src は過剰発現細胞から免疫沈降し、そして1 mgのGST又はGST-Sap1とインキュベートした。ホスファターゼ処理srcではチロシンはリン酸化されていない。(C)Sap-1によるc-srcの活性化。過剰発現細胞から免疫沈降により得たsrcをGST-Sap1(WT),GST-PTP-β又はGSTとインキュベートした。次いでキナーゼ活性をMBT(ミエリン塩基性タンパク質)キナーゼ基質を加えて測定した。右パネル、別の実験においてGST-Sap1DAトラッピング変異体を使用した。(D)srcのインビボ活性化。3T3細胞をsrcの発現ベクタープラス空ベクター又は細胞外ドメインのないHA-タグ付Sap-1、図1Bの"intra"又は全長(FL)のベクターと共トランスフェクションした。Srcは免疫沈降し、キナーゼ活性を試験する(左パネル)かあるいはsrcの発現(中央パネル)及びSap-1(右パネル、WCL全細胞溶解物)を管理した。(E)c-src及びSap-1の間のインビボ相互作用、及びSap-1のリン酸化。細胞をSap-1のwt(野生型)又はトラッピング変異体を発現するベクター、プラスwt又はTyr530-変異src(src Y530F)を発現するベクターでトランスフェクションした。HA(ヘマグルチニン)-タグ付Sapタンパク質を免疫沈降し、そして(共)免疫沈降物をウエスタンブロット及び3種の抗体で分析した。IB=イムノブロット;IP=イムノ沈降。
【図5】全長Sap-1は化学的に交差結合することができる。(A)COS7細胞をHA-タグ付、全長(FL)又はECD-削除Sap1("intra")の発現ベクターでトランスフェクションし、そしてBS3交差結合物質で処理した。(B)DSS、細胞透過性である化学的交差結合物質、による交差結合。Sap-1 m.a.はSap-1の膜結合型である。交差結合産物は星印で示されている。
【図6A−6B】Sap-1多量化におけるシステインの関与。(A)Sap-1構築又はベクターでトランスフェクションされたCOS7細胞を、遊離SH基を保護するためのIODAを含むRIPA緩衝液中において破壊した。タンパク抽出物を還元条件又は非還元条件下に電気泳動を行った。BS3交差結合実験を平行して実施した。(B)左パネル:PTP-Sap1を過剰発現するCOS7を示した濃度のジチオトレイトール(DTT)を30分間インキュベートした後、破壊して(A)に記述したように分析した。右パネル:30分間インキュベーション後、DTTを洗って除き、そして細胞をさらに15分間DTTのない培地でインキュベートした。
【図7A−7B】Sap-1は2量体を形成する。左パネル:細胞をトランスフェクションして全長、His6-タグ付Sap-1(Sap-1 FLEX)プラス種々のHA-タグ付Sap-1構築を発現させた。HA-タグ付タンパク質を免疫沈降し、そしてHis-タグ付Sap-1を抗体で検出した。右パネル:対照。左パネルに示された同じ検体はHA-タグ付構築の発現をウエスタンブロット上で調べた。
【図8A−8B】ECD-仲介2量化における冗長。(A)BS3交差結合物質で処理した又は処理しないCOS7においてFLEX-C-末端構築を発現させた。構築はウエスタンブロット上で抗-Myc抗体により検出する。(B)PTP-Sap1 FL-HAをFLEX-C-末端及びFLEX-N-末端及び対照と共トランスフェクションした。抗-Myc抗体で免疫沈降した後、タンパク質を共免疫沈降した抗-His(FLEX構築)又は抗-HA(Sap1FLHAの管理)により可視化した。
【図9A−9B】ECD-誘発2量化は酵素活性を減少させる。(A)種々のSap-1構築でトランスフェクションした細胞からの膜分画(1 mg)をP-SRCY530脱リン酸化について試験した。(B)種々の濃度の抗-HA-12CA5モノクロナール抗体の存在下におけるリン酸化活性について膜分画を含むSap1intraHAを試験した。
【0172】
「引用文献」









【配列表】



















【図2】

【図2C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の治療及び/又は予防のための医薬品を調製するためにプロテインチロシンホスファターゼSap-1の少なくとも2分子を交差結合する物質の使用。
【請求項2】
癌がsrc関連癌である請求項1に記載の使用。
【請求項3】
癌が胃腸の癌である請求項1に記載の使用。
【請求項4】
胃腸の癌が食道腫瘍、胃癌、小腸腫瘍、大腸腫瘍及び膵臓癌からなる群から選択される請求項2又は3に記載の使用。
【請求項5】
交差結合物質がタンパク質性交差結合物質である前記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
タンパク質性交差結合物質がSap-1の細胞外ドメインに対する抗体である請求項5に記載の使用。
【請求項7】
抗体がSap-1のフィブロネクチン-III類似ドメインに対するものである請求項6に記載の使用。
【請求項8】
交差結合物質がモノクロナール抗体である請求項5又は6に記載の使用。
【請求項9】
交差結合物質がヒト化抗体である請求項8に記載の使用。
【請求項10】
交差結合物質がヒト抗体である請求項8に記載の使用。
【請求項11】
交差結合物質がSap-1の細胞外ドメインの可溶性フラグメントである請求項5に記載の使用。
【請求項12】
交差結合物質がSap-1のフィブロネクチン-タイプIII類似反復の1,2,3,4,5,6,7又は8個からなる請求項11に記載の使用。
【請求項13】
交差結合物質がタンパク質性交差結合物質のミューテイン、融合タンパク質、官能基誘導体、活性フラクション又は塩である請求項5から12のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
交差結合物質が
アミノ酸残基の一つ又はそれ以上の側鎖として存在する一つ又はそれ以上の官能基に結合した少なくとも一つの基を含む官能基誘導体である前記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
基がポリエチレングリコール基である請求項14に記載の使用。

【図3】
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【図9A】
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【図9】
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【図1B】
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【図2A】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【公表番号】特表2006−510599(P2006−510599A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540812(P2004−540812)
【出願日】平成15年9月29日(2003.9.29)
【国際出願番号】PCT/EP2003/050666
【国際公開番号】WO2004/030697
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(504444485)アプライド リサーチ システムズ アルス ホールディング ナムローゼ フエンノートシャップ (3)
【Fターム(参考)】