説明

癌の処置のための方法および組成物

本発明は、メタ亜ヒ酸ナトリウムおよび/もしくは三酸化ヒ素、ならびに細胞傷害性抗癌剤(例えば、シスプラチン、アドリアマイシン、ドセタキセルもしくはパクリタキセル)の組み合わせを被験体に投与することによって、被験体における癌を処置するための方法に関する。上記ヒ素化合物および細胞傷害性抗癌剤は、組成物中において一緒に、もしくは組み合わせ療法として別個に投与され得る。一実施形態において、本発明によって提供される組成物またはキットによって処置される癌としては、肺癌または乳癌もしくは卵巣癌が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
この出願は、2008年3月27日に出願された米国仮出願第61/039,987号および2009年3月23日に出願された米国第12/408,864号(これは、それらの全体が参考として本明細書に援用される)に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の説明)
(発明の分野)
本発明は、一般に、癌の成長および/もしくは増殖の相乗的阻害を示す組み合わせ処置に関する。より具体的には、本発明は、キット、組成物、ならびにメタ亜ヒ酸ナトリウムもしくは三酸化ヒ素、およびテロメアを阻害する第2の細胞傷害性薬剤(例えば、シスプラチンもしくはタキサン)が、固形腫瘍および白血病を含む癌の処置に使用される組み合わせ療法を含む方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
外科手術および/もしくは放射線処置とともに、およびしばしばこれに関連して、化学療法(血液循環系を介して身体全体を移動する抗新生物薬剤の全身投与)は、広く種々の癌の処置において長年広く利用されてきた。
【0004】
今日では、癌の処置において首尾よく使用されてきた種々の抗新生物薬剤が存在する。しかし、より有効かつ毒性の少ない薬剤の研究が継続されている。
【0005】
例えば、白金配位錯体抗新生物薬剤(例えば、cis−ジアミンジクロロ白金(II)(シスプラチン))での癌患者の処置は、ここ10年間で実質的に増大した。シスプラチンは、精巣癌、卵巣癌、膀胱癌、頭頚部癌、およびある種の肺癌を含む複数の悪性腫瘍の処置において有用であることが判明した抗新生物薬剤である。特に、シスプラチンは、長いテロメアを有する癌細胞の処置において特に有効であることが示されてきた。シスプラチンは、プロドラッグとして分類され、いったん活性化されると、これは、DNA中の求核性部位と相互作用し、主にプリン−プリン鎖内架橋を作り出す。この遺伝子毒性ストレスは、シグナル伝達経路を活性化し、このことは、大部分の細胞において、DNA合成停止およびプログラムされた細胞死をもたらす。不運なことに、シスプラチン化学療法の最初の成功は、しばしば、一時的なものである。なぜなら癌の再発は、多くの症例において起こるからである。白金ベースの化学療法剤の可能性は、いくつかの要因(危険な副作用、制限された溶解度、および内因性の抵抗性もしくは獲得された抵抗性を含む)によって制限される。従って、新たな治療剤が、癌患者の処置のために必要である。
【0006】
シスプラチンと同様に、抗癌剤であるアドリアマイシンおよびタキサン(例えば、パクリタキセル、ラロタキセル、オルタタキセル(orataxel)、テセタキセルおよびドセタキセル)は、テロメアに結合するかまたはテロメラーゼを妨げると考えられている。これら抗癌剤は、膀胱、前立腺、肺、乳房、卵巣および他の固形腫瘍、ならびに白血病を処置するために、慣用的に使用されている。しかし、シスプラチンと同様に、それらの効力は、外因性の要因によって、しばしば制限される。
【0007】
治療剤としてのヒ素化合物の使用は、特に腫瘍学の分野において、復活を現在経験している。研究から、特定のヒ素化合物が、悪性腫瘍(例えば、急性急性前骨髄球性白血病(APL)(三酸化ヒ素)もしくは泌尿生殖器癌(メタ亜ヒ酸ナトリウム)に対して有効であることが示された。非特許文献1;非特許文献2;特許文献1を参照のこと。APL患者の処置における三酸化ヒ素の使用の臨床試験は、米国で行われている最中であり、種々のヒ素化合物の作用機構は、無機ヒ素の理にかなった使用を可能にするために研究されている最中である。非特許文献3;非特許文献4を参照のこと。
【0008】
これら臨床試験において、三酸化ヒ素が、アポトーシスを活性化させることによって、反応性酸素種を誘導することによって、およびPML−RARa融合タンパク質(非特許文献3)の分解によって、抗腫瘍効果を発揮することが報告されてきた。最も最近のところでは、その効力は、ヒトテロメラーゼ遺伝子(hTERT)の逆転写酵素サブユニットの転写の阻害およびその後のテロメア短縮の誘導、ならびに染色体不安定性に関連づけられた(非特許文献3および非特許文献4)。
【0009】
同様に、研究から、メタ亜ヒ酸ナトリウムが、上記hTERT遺伝子の転写を不活性化し、ヒト癌細胞におけるテロメアを短縮し得ることが示された。このことは、メタ亜ヒ酸ナトリウムが、テロメア毒素であることを示す。しかし、メタ亜ヒ酸ナトリウムは、短いテロメアを有する癌の処置において最も有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2006/121280号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Shen,Z.X.ら Blood 1997;89:3354−3360
【非特許文献2】Soignet,S.L.ら N.Engl.J.Med.1998;339:1341−1348
【非特許文献3】Chou,W.C.ら J.Clin.Invest.2001;108:1541−1547
【非特許文献4】Senior K.Drug Discovery Today 2002;7:156−157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、固形腫瘍、白血病および転移を含む、癌の処置のための改善された方法および組成物が未だに必要である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
癌の有効な処置および/もしくは転移の予防は、シスプラチン、アドリアマイシンおよび/もしくはタキサン(例えば、ドセタキセル、ラロタキセル、オルタタキセル、テセタキセルもしくはパクリタキセル)と組み合わせた、メタ亜ヒ酸ナトリウム(NaAsO)もしくは三酸化ヒ素の投与によって達成される。本発明は、メタ亜ヒ酸ナトリウムおよび/もしくは三酸化ヒ素、ならびにシスプラチン、アドリアマイシン、もしくはタキサン(例えば、パクリタキセル、ラロタキセル、オルタタキセル、テセタキセルもしくはドセタキセル、またはこれらの組み合わせを含む、組成物、キットおよび方法(例えば、組み合わせ療法)に関する。本発明の組成物、キット、および方法は、本発明の組成物、キットおよび組成物は、本明細書で開示される新生物疾患の予防、介入および/もしくは処置のために使用され得る。
【0014】
本発明の一局面において、患者における固形腫瘍、白血病もしくは転移を処置するための方法が提供され、上記方法は、メタ亜ヒ酸ナトリウムおよび三酸化ヒ素から選択される、治療的な量のヒ素化合物、ならびに治療的な量のシスプラチンを、上記患者に投与する工程を包含する。一実施形態において、上記ヒ素化合物は、メタ亜ヒ酸ナトリウムであり、上記ヒ素化合物は経口投与され得るのに対して、シスプラチンは、注入を介して投与される。他の実施形態において、上記処置されている癌は、肺癌または乳癌もしくは卵巣癌である。
【0015】
本発明の特定の実施形態において、メタ亜ヒ酸ナトリウムおよび/もしくは三酸化ヒ素は、シスプラチン、アドリアマイシン、パクリタキセル、ドセタキセルもしくはこれらの組み合わせで抗癌処置を受けている最中の患者に、治療上有効な量において投与される。
【0016】
本発明の別の局面において、複数の治療上有効な投与量のメタ亜ヒ酸ナトリウムおよび/もしくは三酸化ヒ素、ならびにシスプラチン、アドリアマイシン、および/もしくはタキサン(例えば、ラロタキセル、オルタタキセル、テセタキセル、ドセタキセルもしくはパクリタキセル)を含むキットが提供される。一実施形態において、上記キットは、経口投与形態のメタ亜ヒ酸ナトリウム、ならびにシスプラチンおよび/もしくはタキサン(例えば、ラロタキセル、オルタタキセル、テセタキセル、パクリタキセルもしくはドセタキセル)の非経口用処方物を含む。別の実施形態において、上記メタ亜ヒ酸ナトリウムおよび/もしくは三酸化ヒ素、ならびにシスプラチン、アドリアマイシン、ラロタキセル、オルタタキセル、テセタキセル、ドセタキセルおよび/もしくはパクリタキセルは、注入を介する投与のために処方される。
【0017】
本発明のさらに別の局面において、組成物が提供され、上記組成物は、治療上有効な量のシスプラチンと混合した状態で、治療上有効な量のメタ亜ヒ酸ナトリウムもしくは三酸化ヒ素を含む。
【0018】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方が、例示的かつ説明のためであるに過ぎず、本発明(特許請求される)を限定するものではないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】図1Aは、A549細胞における単一薬剤シスプラチン(菱形)、およびシスプラチンとメタ亜ヒ酸ナトリウムとの同時組み合わせ(四角)についての増殖曲線のグラフである;結果は、MTT増殖アッセイからのものである。
【図1B】図1Bは、A549細胞におけるメタ亜ヒ酸ナトリウムとシスプラチンとの組み合わせについての組み合わせ指数(CI)効果ブロット(Fa=「部分効果(fraction effect)」)である。
【図1C】図1Cは、H460細胞におけるメタ亜ヒ酸ナトリウムとシスプラチンとの組み合わせについての組み合わせ指数(CI)効果ブロット(Fa=部分効果)である。CI<1は、相乗効果を示す。C=1は、相加的である;C>1は、拮抗的である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(発明の詳細な説明)
本発明のキット、組成物もしくは方法(例えば、組み合わせ療法)の使用は、相乗効果的な抗癌効果を生じて、最大の治療的恩恵を達成し、そしてより高い用量もしくはより長期の単一療法(monotherapy)(すなわち、各化合物単独での治療)の使用からしばしば生じる副作用のリスクが低下した、治療に対する寛容性を改善し得る。従って、本発明の組成物、キットおよび方法は、各化合物の有害作用が低下した(例えば、ヒ素化合物もしくは癌の薬剤(例えば、シスプラチン)の副作用が低下した)、各化合物のより低い用量(例えば、より低い用量の上記ヒ素化合物もしくはシスプラチン)の使用を可能にし得る。最適に及ばない用量(suboptimal dosage)は、増大した安全性限界を提供し得、予防および治療を達成するために必要な薬物のコストも下げ得る。上記ヒ素化合物と、シスプラチン、アドリアマイシン、ドセタキセルおよび/もしくはパクリタキセル、または他のタキサンとの組み合わせを利用する相乗効果的処置はまた、便利さが増大し得、高められたコンプライアンスを生じ得る。組み合わせ療法の利点は、分解および代謝に対するより高い安定性、より長期の作用時間、ならびに/または特に低用量でのより長い作用時間もしくは有効時間をさらに含み得る。
【0021】
本発明の特定の局面において、本発明は、キット、特に、メタ亜ヒ酸ナトリウムおよび/もしくは三酸化ヒ素、ならびにシスプラチンもしくは他の細胞傷害性抗癌剤(例えば、アドリアマイシン、ドセタキセルもしくはパクリタキセル)、ならびに上記細胞傷害性抗癌剤の組み合わせを、必要に応じて、薬学的に受容可能なキャリア、賦形剤、もしくはビヒクルと組み合わせて含む薬学的組成物を含むキットに関する。
【0022】
本発明の癌を処置するための方法は、このような処置を必要とする哺乳動物に、有効量の上記ヒ素化合物を、シスプラチンもしくはテロメアを阻害するかもしくは妨げる別の細胞傷害性抗癌剤(例えば、タキサン)と組み合わせて投与する工程を包含する。上記ヒ素化合物もしくはヒ素化合物の組み合わせは、シスプラチンもしくは他のこのような細胞傷害性抗癌剤の投与の前、後もしくはそれと同時のいずれかに投与され得る。例えば、上記ヒ素化合物の1日用量は、1〜10日間投与され得、その後、細胞傷害性薬剤の1〜10日間の、または必要であればより長い投与レジメンが続く。あるいは、上記細胞傷害性薬剤は、上記ヒ素化合物の前に送達され得る。または、上記ヒ素化合物および細胞傷害性薬剤の両方が、上記患者に同時に投与され得るが、必ずしも同時でなくてもよい。上記投与レジメンは、投与中の薬物の各々の投与量、上記癌のタイプおよびステージ、患者の健康状態のような要因に基づいて、処置している医師によって容易に確認され得る。
【0023】
上記ヒ素化合物がメタ亜ヒ酸ナトリウムである場合、これは、任意の形態において(例えば、経口的に、注入を介して、直腸に、非経口的になど)投与され得る。三酸化ヒ素が上記処置において含められる場合、これは、本発明のいくつかの実施形態において注入を介して投与され得るが、任意の受容可能な投与経路が使用され得る。同様に、シスプラチンもしくは他の細胞傷害性抗癌剤(例えば、タキサン)は、一般に、注入を介して投与されるが、当該分野で公知の任意の受容可能な経路を介して投与されてもよい。
【0024】
本発明は、癌を有するか、または癌を発症するかもしくは原発性腫瘍の転移のリスクのある被験体の処置のための改善された方法および生成物を提供する。本発明は、メタ亜ヒ酸ナトリウム(NaAsO)および/もしくは三酸化ヒ素が、シスプラチンもしくは他のテロメア阻害細胞傷害性抗癌剤(例えば、アドリアマイシン)もしくはタキサン(例えば、ドセタキセルおよび/もしくはパクリタキセル)とともに使用される場合、いくらかの予測外かつ改善された結果が観察され、上記ヒ素抗癌剤および非ヒ素抗癌剤との間での相乗効果を示すという知見に一部基づいている。例えば、上記組み合わせ療法の有効性は、上記抗癌剤単独のいずれかの使用より、腫瘍芽より長いテロメアを有する癌患者において大いに改善される。また、上記組み合わせ療法の毒性は、上記抗癌剤単独のうちのいずれかの使用と比較して、癌患者において大いに低下し得る。
【0025】
本発明はまた、メタ亜ヒ酸ナトリウムもしくは三酸化ヒ素のいずれかと組み合わせて、シスプラチン以外のテロメラーゼインヒビターの使用を包含する。例えば、これらヒ素化合物のうちの1つと、テロメラーゼインヒビターもしくはテロメラーゼ結合ペプチドもしくはテロメア修復をブロックしかつ阻害する低分子と相乗効果を発揮することが公知であるアドリアマイシンおよび/もしくはタキサン(toxane)(例えば、ドセタキセルもしくはパクリタキセル)との組み合わせが、本発明のキット、組成物および方法において使用され得ることが企図される。当業者は、単一薬剤の抗癌剤治療剤としての他の抗癌剤もしくは使用と組み合わせて、それら公知の使用に基づいて、これらテロメラーゼインヒビターの投与のための投与量、処方およびレジメンを容易に決定し得る。
【0026】
本発明によれば、上記ヒ素化合物と、シスプラチンおよび/もしくは他の細胞傷害性抗癌剤(例えば、アドリアマイシン、タキサン(例えば、ドセタキセルおよび/もしくはパクリタキセル)との組み合わせは、いずれかの薬物単独で成功裏に処置可能でないかもしれない癌の有効な処置を可能にする。例えば、シスプラチンは、いくつかの肺癌(特に、長いテロメアを有するもの)のための有効な処置であることが公知である一方で、メタ亜ヒ酸ナトリウム(sodium meta arsenite)は、短いテロメアを有する癌(例えば、前立腺癌)の処置においてより有効である。しかし、シスプラチンとメタ亜ヒ酸ナトリウムとの組み合わせは、驚くべきことに、長いテロメアを有する腫瘍細胞(すなわち、特定の肺癌)の処置において、シスプラチン単独より顕著に有効である。よって、本発明は、種々の固形腫瘍および/または悪性疾患もしくは状態の相乗効果的処置のための組成物および方法を提供し、上記固形腫瘍および/または悪性疾患もしくは状態としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:膀胱(加速したかつ転移性の膀胱がんを含む)、乳房、子宮頚部、結腸(結腸直腸癌を含む)、腎臓、肝臓、肺(小細胞肺癌および非小細胞肺癌、ならびに肺腺癌を含む)、卵巣、前立腺、精巣、尿生殖路、リンパ系、直腸、喉頭、膵臓(外分泌性膵臓癌(exocrine pancreatic carcinoma)を含む)、食道、胃、胆嚢、子宮頚、甲状腺、および皮膚(扁平上皮癌を含む)のものを含む癌;リンパ系統の造血腫瘍(hematopoietic tumor)(白血病、急性リンパ性白血病、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、ヘアリー細胞白血病、組織球性リンパ腫、およびバーキットリンパ腫を含む);骨髄系統の造血腫瘍(急性および慢性の骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、骨髄性白血病、ならびに前骨髄球性白血病を含む);中枢神経系および末梢神経系の腫瘍(星状細胞種、神経芽腫、神経膠腫、および神経鞘腫を含む);間葉起源の腫瘍(線維肉腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、および骨肉腫を含む);および他の腫瘍(黒色腫、色素性乾皮症、ケラトアカントーマ(keratoactanthoma)、精上皮腫、濾胞性甲状腺腺癌、および奇形癌を含む)。
【0027】
本発明の特定の実施形態において、シスプラチン、アドリアマイシン、および/もしくはタキサン(例えば、ラロタキセル、オルタタキセル、テセタキセル、ドセタキセルおよび/もしくはパクリタキセル)が、メタ亜ヒ酸ナトリウムおよび/もしくは三酸化ヒ素の処置レジメンに供されている最中の患者の処置において投与される。特定の実施形態において、そのような処置を受けている上記患者は、肺癌、または乳癌もしくは卵巣癌を有する。他の実施形態において、シスプラチンは、メタ亜ヒ酸ナトリウムの処置レジメンに供されている最中の患者の処置において投与される。
【0028】
本発明は、種々の固形腫瘍および白血病(表1に列挙されるものが挙げられるが、これらに限定されない)の処置のための組成物、キットおよび方法をさらに提供する。
【0029】
【表1】

特定の実施形態において、本発明は、肺癌の処置のための組成物、キットおよび方法を提供する。大部分の肺癌は、顕著な染色体異常および特定の癌遺伝子の過剰発現を示す。肺癌は、組織学的に、扁平上皮癌、小細胞癌、腺癌、大細胞癌(非小細胞癌)、類癌腫、中皮腫などに下位分類され得る。
【0030】
本発明の特定の実施形態において、上記キットおよび組成物は、特定の癌もしくは腫瘍の処置のために有用な別の治療剤をさらに含み得る。例えば、上記キット、組成物および方法は、1つ以上の選択肢的処置薬剤(例えば、免疫治療剤、癌ワクチン、生物学的応答改変剤(例えば、サイトカインおよび造血因子)、またはホルモン療法(例えば、副腎皮質ステロイド、アンドロゲン、抗アンドロゲン、エストロゲン、抗エストロゲン、プロゲスチン、アロマターゼインヒビター、ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト、ソマトスタチンアナログなど)を含み得る。
【0031】
さらに別の実施形態において、上記選択肢的処置薬剤は、ホルモン(例えば、適切な場合、エストロゲン治療(例えば、ジエチルスチルベストロールおよびエチニルエストラジオール)、抗エストロゲン治療(例えば、タモキシフェン)、プロゲスチン治療(例えば、メドロキシプロゲステロンおよび酢酸メゲストロール)、アンドロゲン遮断(例えば、抗アンドロゲン(例えば、フルタミド)、副腎皮質ステロイド(副腎ステロイドを含む)、合成グルココルチコイド治療(例えば、プレドニゾン、メチルプレドニゾン、およびデキサメタゾン)、アンドロゲン(例えば、フルオキシメステロン)、合成テストステロンアナログ(アロマターゼインヒビター(例えば、アミノグルテチミド)、ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト(例えば、ロイプロリド)、ソマトスタチンアナログ(例えば、オクトレオチド))である。特定の実施形態において、上記方法は、上記被験体にインターフェロン−αを投与する工程をさらに包含する。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的組成物」とは、三酸化ヒ素、メタ亜ヒ酸ナトリウムおよびこれらの組み合わせから選択されるヒ素化合物、ならびにシスプラチン、アドリアマイシン、ドセタキセル、パクリタキセルもしくはこれらの組み合わせの混合物または組み合わせ、あるいは上記選択される化合物の各々単独のいずれかをいう。薬学的組成物は、他の化学的成分(例えば、生理学的に/薬学的に受容可能なキャリアおよび賦形剤)を含み得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、「処置する」もしくは「処置」とは、2種以上の薬剤(すなわち、ヒ素化合物、あるいはヒ素化合物とシスプラチン、アドリアマイシン、ドセタキセル、パクリタキセルもしくはこれらの組み合わせ、または他の細胞傷害性抗癌剤)の、癌を有するか、または癌を発症するかもしくは転移のリスクがある被験体への投与をいう。「腫瘍細胞の増殖の阻害」とは、上記患者に存在する腫瘍細胞の増殖の阻害をいう。このような処置はまた、腫瘍増殖の退縮(すなわち、測定可能な腫瘍のサイズの縮小)をもたらし得る。本発明のいくつかの実施形態において、このような処置は、上記腫瘍の完全な退縮をもたらす。
【0034】
用語「予防」とは、臨床的に明らかな新生物の発生を全体的に予防すること、またはリスク(例えば、転移)のある個体における新生物の部分的に明らかなステージの発生を予防することのいずれかを含む。また、この定義によって包含されるのは、悪性腫瘍細胞の開始の予防、または悪性になる前の細胞から悪性腫瘍細胞への進行を停止もしくは逆にすることであることが意図される。これは、上記新生物を発症させるリスクのある者の予防的処置を含む。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「相乗効果的結果」もしくは「相乗効果」とは、組み合わせて投与された場合に、本発明のヒ素化合物およびシスプラチンまたは他の細胞傷害性薬剤が、上記癌の処置においていずれかの単一薬剤単独で得られた最適な効力より顕著によい結果を生じるようになる、特定の癌に対する治療的効果に言及する。
【0036】
本明細書で使用される場合、「投与」もしくは「投与する(administer)」もしくは「投与する(administering)」とは、2種以上の薬剤(例えば、メタ亜ヒ酸ナトリウムおよび/もしくは三酸化ヒ素とシスプラチン、アドリアマイシンおよび/もしくはタキサン(例えば、パクリタキセルもしくはドセタキセル))を被験体に分与するか、適用するか、もしくは提供することをいう。投与は、当該分野で公知の多くの方法のうちのいずれかを使用して行われ得る。例えば、「投与」とは、本明細書で使用される場合、注入(静脈内投与(i.v.))、非経口投与および/もしくは経口投与を介することを意味する。「非経口」とは、静脈内投与、皮下投与および筋肉内投与を意味する。本発明の使用において、メタ亜ヒ酸ナトリウムは、例えば、例えば、シスプラチンと同時に投与され得るか、または上記化合物は、いずれの順序であれ、逐次的に投与され得る。実際の好ましい方法および投与の順序は、とりわけ、利用されているヒ素化合物の特定の処方;上記利用されている細胞傷害性抗癌剤(例えば、シスプラチン、アドリアマイシン、および/もしくはタキサン)の特定の処方;処置されている特定の腫瘍細胞および処置されている特定の宿主に従って変動することが認識される。上記方法および所定の条件セットについてのヒ素化合物と他の抗癌剤の投与の順序は、従来の技術を使用して、および本明細書に記載される情報に鑑みて、当業者によって確認され得る。
【0037】
本発明の上記ヒ素化合物、ならびにシスプラチン、アドリアマイシン、ドセタキセル、パクリタキセルおよび/もしくは他の細胞傷害性抗癌剤は、組み合わせ療法もしくは共同治療(co−therapy)の一部として投与され得る。従って、「組み合わせ療法」(もしくは「共同治療」)とは、これら治療剤の相乗効果的共同作用から有益な効果を提供されることが意図された特定の処置レジメンの一部として、本発明の、上記ヒ素化合物とシスプラチンもしくは他の細胞傷害性抗癌剤の投与を包含する。上記組み合わせの有益な効果としては、上記治療剤の組み合わせから得られる薬物動態的もしくは薬力学的共同作用が挙げられるが、これらに限定されない。組み合わせでのこれら治療剤の投与は、代表的には、規定された期間(通常は、選択された組み合わせに依存して、数分、数時間、数日、もしくは数週間)にわたって行われる。「組み合わせ療法」とは、一般に、本発明の組み合わせを偶然におよび自由裁量によって生じる別個の単一療法レジメンの一部として、これら治療剤のうちの2種以上の投与を包含するとは意図しない。「組み合わせ療法」は、逐次的様式もしくは同時でのこれら治療剤の投与(すなわち、各治療剤が、異なる時間に投与される)、ならびにこれら治療剤もしくは上記治療剤のうちの少なくとも2種の、実質的に同時の様式での投与を包含することが意図される。
【0038】
各治療剤の逐次的もしくは実質的同時の投与は、任意の適切な経路(経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、粘膜組織を介する直接吸収、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない)によって行われ得る。上記治療剤は、同じ経路もしくは異なる経路によって投与され得る。例えば、上記選択される組み合わせの第1の治療剤は、静脈内注射によって投与され得る(例えば、シスプラチンもしくは三酸化ヒ素)一方で、他方の治療剤(例えば、メタ亜ヒ酸ナトリウム)は、経口投与され得る。あるいは、例えば、治療剤の両方もしくは全ては、静脈内注射もしくは注入によって投与され得る。上記治療剤が投与される順番は、重要ではない。
【0039】
「組み合わせ療法」はまた、他の生物学的に活性な成分(例えば、異なる抗新生物薬剤が挙げられるが、これに限定されない)および非薬物療法(例えば、外科手術および照射処置が挙げられるが、これらに限定されない)とさらに組み合わせて、上記のように、上記治療剤の投与を包含し得る。上記組み合わせ療法が、照射処置をさらに含む場合、上記照射処置は、上記治療剤と照射処置との組み合わせの共同作用から有益な効果が達成される限りにおいて、任意の適切な時間において行われ得る。例えば、適切な場合には、上記有益な効果は、おそらく数日間もしくは数週間まで、上記治療剤の投与から一時的に外される場合になお達成される。
【0040】
用語「治療上有効な」とは、代替の治療と代表的に関連する有害な副作用を回避すると同時に、腫瘍サイズまたは悪性疾患もしくは新生物疾患の重篤度、および各薬剤単独での処置にわたる新生物疾患の頻度における改善の目的を達成する、各薬剤の量を修正する(qualify)することが意図される。「治療効果」もしくは「治療有効量」とはまた、新生物障害の症状のうちの1つ以上をある程度まで寛解するために、1種以上の他の抗癌剤と組み合わせて、もしくはこれらを有する組成物において必要とされる抗癌剤の量を制限することが意図される。これらとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:1)癌細胞数の減少;2)腫瘍サイズの縮小;3)周辺器官への癌細胞浸潤の阻害(すなわち、ある程度遅らせる、もしくは停止させる);3)腫瘍転移の阻害(すなわち、ある程度遅らせる、もしくは停止させる);4)腫瘍増殖のある程度までの阻害;5)上記障害と関連する症状のうちの1つ以上のある程度までの軽減もしくは低下;および/または6)抗癌剤の投与と関連する副作用の軽減もしくは低下。
【0041】
本発明は、固形腫瘍の増殖、白血病もしくは転移の組み合わせ療法処置もしくは予防および阻害のための薬学的組成物、キットおよび方法を提供し、上記方法は、処置の必要な被験体に、有効量での、メタ亜ヒ酸ナトリウムおよび/もしくは三酸化ヒ素と、シスプラチン、アドリアマイシン、ドセタキセル、パクリタキセルおよび/もしくは他の細胞傷害性抗癌剤の投与を包含する。特定の実施形態において、本発明は、肺癌の処置のための組み合わせ療法、または患者における他の部位もしくは器官への肺癌の転移の予防を含む、薬学的組成物、キットおよび方法を提供する。
【0042】
本発明はまた、本発明に従って、メタ亜ヒ酸ナトリウムおよび/もしくは三酸化ヒ素、ならびにシスプラチン、アドリアマイシン、ドセタキセル、パクリタキセル、および/もしくは他の細胞傷害性抗癌剤を、組み合わせ療法のために、1つの組成物中に一緒にもしくは別個の組成物中に含むキットを提供する。上記キットは、上記ヒ素化合物およびシスプラチン、アドリアマイシン、ドセタキセル、パクリタキセルおよび/もしくは他の細胞傷害性抗癌剤を含む容器を有用し、同様に、被験体に上記組成物を投与するための説明書を収容するパッケージであり得る。特に、キットは、同時の、別個の、もしくは逐次的な使用のための説明書を含み得る。キットは、単一投与形態を含んでいてもよいし、別個の投与形態(すなわち、投与されるべき各治療剤に対して1つ)を含んでいてもよい。一実施形態において、上記キットは、上記ヒ素化合物およびシスプラチンもしくは他の細胞傷害性抗癌剤の固定比の投与量を含む。上記キットはまた、合わせて処方されていようと、別個に処方されていようと、上記抗癌剤の各々の複数投与量を含み得る。
【0043】
上記キットは、商業的立場もしくはユーザーの立場から望ましい他の物質(緩衝液、希釈剤、フィルタ、ニードル、シリンジ、および本明細書で開示される任意の方法(例えば、本明細書で開示される疾患を処置するための方法)を行うための説明書を伴うパッケージ挿入物が挙げられるが、これらに限定されない)をさらに含み得る。本発明のキットにおける医薬もしくは処方物は、本明細書で開示される組み合わせもしくは組成物のいずれかを含み得る。
【0044】
本発明の局面において、上記キットは、本明細書で開示される方法のうちのいずれか(癌、固形腫瘍、もしくは肺癌有するかまたはこれらを発症させるリスクのある被験体を処置することが挙げられるが、これらに限定されない)に有用であり得る。
【0045】
(処方物)
本発明の活性成分は、癌の処置のために、哺乳動物への投与のための薬学的調製物(例えば、組み合わせ療法において使用されるように、組成物中で一緒にもしくは別個に)に処方される。
【0046】
経口投与については、上記薬学的調製物は、液体形態(例えば、液剤、シロップ剤、もしくは懸濁物)であってもよいし、使用前に水もしくは他のビヒクルで再構成するための薬物製品として提示されてもよい。このような液体調製物は、薬学的に受容可能な添加剤(例えば、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体もしくは食用水素化脂肪);乳化剤(例えば、レシチンもしくはアカシアガム);非水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油性エステル、もしくは分画した植物性油);および保存剤(例えば、メチル−p−ヒドロキシベンゾエートもしくはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸)を用いて、従来の手段によって調整され得る。上記薬学的組成物は、薬学的に受容可能な賦形剤(例えば、結合剤(例えば、α化(pregelatinized)コーンスターチ、ポリビニルピロリドン、もしくはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶性セルロースもしくはリン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクもしくはシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンもしくはカルボキシメチルスターチナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム))を用いて従来の手段によって調製される、例えば、錠剤もしくはカプセル剤の形態をとり得る。上記錠剤は、当該分野で周知の方法によってコーティングされ得る。
【0047】
経口投与のための調製物は、上記活性化合物の制御された放出を与えるために、適切に処方され得る。経口投与のために、上記組成物は、従来の様式で処方された錠剤もしくはロゼンジの形態をとり得る。
【0048】
吸入による投与については、本発明に従う使用のための化合物は、適切なプロペラント(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素もしくは他の適切なガス)の使用とともに、圧縮パックもしくはネブライザーからのエアロゾルスプレー提示の形態で都合よく送達される。圧縮エアロゾルの場合において、上記投与単位は、計測量を送達するためにバルブを提供することによって、決定され得る。例えば、吸入器(inhalerまたはinsufflator)における使用のためのゼラチンのカプセル剤およびカートリッジが処方され得、これは、上記化合物と適切な散剤基剤(例えば、ラクトースもしくはデンプン)との粉末混合物を含む。
【0049】
上記治療剤は、注射による(例えば、ボーラス注射もしくは連続注入による)非経口投与のために処方され得る。このような処方物は、無菌である。注射用の処方物は、単位投与形態において(例えば、アンプルにおいて)もしくは保存剤が添加された複数用量容器において、提示され得る。上記組成物は、油性もしくは水性のビヒクル中において、懸濁物、液剤もしくはエマルジョンのような形態をとり得、処方薬剤(例えば、懸濁剤、安定化剤および/もしくは分散剤)を含み得る。あるいは、上記活性成分は、使用前に適切なビヒクル(例えば、滅菌発熱物質非含有水)で再構成するための粉末形態であり得る。
【0050】
上記化合物はまた、例えば、従来の坐剤用基剤(例えば、カカオ脂もしくは他のグリセリド)を含む直腸用組成物(例えば、坐剤もしくは保持浣腸(retention enema)中に処方され得る。
【0051】
上記の処方物に加えて、上記化合物はまた、デポー調製物として処方され得る。このような長期間作用処方物は、移植によって(例えば、皮下にもしくは筋肉内に)または筋肉内注射によって、投与され得る。従って、例えば、上記化合物は、適切なポリマー物質もしくは疎水性物質(例えば、受容可能な油中のエマルジョンとして)またはイオン交換樹脂とともに、あるいは可溶性の乏しい誘導体として(例えば、可溶性の乏しい塩として)処方され得る。リポソームおよびエマルジョンは、親水性薬物についての送達ビヒクルもしくはキャリアの周知の例である。
【0052】
上記薬学的調製物は、望ましい場合、上記活性成分を含む1以上の単位投与形態を含み得るパックもしくはディスペンサーデバイスにおいて提示され得る。上記パックは、例えば、金属もしくはプラスチックホイル(例えば、ブリスターパック)を含み得る。上記パックもしくはディスペンサーデバイスは、投与のための説明書が付随し得る。
【0053】
(投与方法)
本発明の薬学的調製物中の上記活性成分の含有量が、多くの要因(例えば、望ましい投与量および使用されている薬学的に受容可能なキャリア)に依存して、極めて広範に変動し得ることは、当業者によって認識されている。投与に関して、上記ヒ素化合物の投与量は、通常、約0.1mg/kg〜約100mg/kgの範囲、特定の実施形態において、約1.0〜約50mg/kgの範囲、他の実施形態において、約2.5〜約25mg/kgの範囲、および他の実施形態において、約3〜約15mg/kgの範囲である。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明のシスプラチン含有薬学的組成物は、約0.1mg/ml〜約500mg/ml、もしくは約1mg/ml〜約50mg/ml、および他の実施形態において、約1〜5mg/mlの量のシスプラチンを含む。マンニトールおよび/もしくは塩化ナトリウムは、シスプラチン調製について従来の量で含められ得る。注射もしくは注入の薬物組み合わせの生理的pHは、当該分野で公知であるように、緩衝化剤を含めることによって確立される。
【0055】
他の細胞傷害性抗癌剤が、シスプラチンの代わりに使用される場合、上記量は、上記使用される薬剤の特性に基づいて決定される。例えば、アドリアマイシンは、60mg/mの用量において投与され得、中心静脈カテーテルを介する連続注入として、もしくは例えば、プログラム可能な携帯式ポンプによって注入される約3.8mg/m(2.2〜4.5mg/m)の平均用量におけるADMの15日間もしくは25日間の過程として、投与され得る。同様に、ドセタキセルもしくはパクリタキセル(もしくは他のタキサン)は、高用量の化学療法剤(例えば、3週間に1回、2週間に1回250mg/m)、もしくは低用量の化学療法剤(例えば、1週間1回のベースで100mg/m未満)として与えられ得る。いくつかの場合において、タキサン(例えば、ドセタキセルもしくはパクリタキセル)は、24時間注入の間にゆっくりと与えられ得る。当業者は、いくつかの要因(上記患者の相対的な健康状態、ならびに上記癌のタイプおよびステージ、ならびに上記組み合わせ療法において投与される他の薬物を含む)に依存して、適切な用量の抗癌剤および送達時間過程を決定し得る。
【0056】
本発明の薬学的調製物において利用されるべき上記適切な薬学的に受容可能なキャリアおよび希釈剤は、化合物を薬学的組成物へと処方する分野の当業者に周知である。非経口投与に適した形態にある本発明の薬学的調製物は、薬学的に受容可能なキャリアとともに、当業者に周知の多くの方法において静脈内注入もしくは注射のために処方され得る。特定の実施形態において、このような薬学的調製物は、従来の技術によって調製される単位投与形態において、上記活性成分の凍結乾燥混合物の形態であり、これは、投与のときに、水もしくは他の適切な注入液体で再構成され得る。
【0057】
乳癌および固形腫瘍の多くの他の形態の処置について、ならびに白血病および肺癌の処置において、本発明のヒ素化合物は、このような賦形剤もしくは不活性成分を含む薬学的組成物において、全身に投与されるようであり、このことは、腫瘍の化学療法に関する分野において周知である。より具体的には、本発明のヒ素化合物は、漸進的に投与されるべきである場合、散剤、丸剤、錠剤などとして、または経口投与に適したシロップ剤もしくはエリキシル剤として、調合され得る。静脈内投与もしくは腹腔内投与については、上記ヒ素化合物は、注射によって投与され得る液剤もしくは懸濁物として調製される。特定の場合において、上記ヒ素化合物は、注射によってこれら化合物を処方するために有用であり得る。特定の他の場合において、上記ヒ素化合物は、坐剤形態において、または上記皮膚下の堆積物(deposit)もしくは筋肉内注射のための長期放出処方物として、これら化合物を処方するために有用であり得る。
【0058】
本発明のヒ素化合物は、有用な治療用量のシスプラチン(これは、条件間で変動し、かつ特定の場合には、処置される状態の重篤度および処置に対する患者の感受性とともに変動し得る)と一緒に、化学療法剤として投与される。よって、単一用量は、一律には有用でないが、処置されている上記腫瘍もしくは悪性腫瘍の詳細に依存して、改変を要する。このような用量は、慣用的な実験を通じて達成され得る。固形腫瘍および白血病(特に、乳癌および急性骨髄性白血病)の処置については、上記増殖を停止もしくはゆっくりさせるか、または上記腫瘍を散らすか、あるいは白血病細胞増殖を停止させるに有効な用量において、本発明のヒ素化合物が、約1〜8週間にわたって患者に投与されることは認識される。本発明の特定の実施形態において、上記ヒ素化合物は、メタ亜ヒ酸ナトリウムであり、これは、本発明のいくつかの実施形態においては、約0.0001mg/kg/日〜100mg/kg/日の範囲;もしくは0.05mg/kg/日〜50mg/kg/日の範囲;または他の実施形態において、1mg/日〜25mg/日の範囲;および他の実施形態において、2mg/kg/日〜20mg/kg/日もしくは2.5〜10mg/kg/日の範囲である一日用量において経口投与されるべきである。しかし、上記要領は、任意の特定の患者の必要性に適合するように、上方にもしくは下方に調節され得る。
【0059】
上記組み合わせ療法のシスプラチンもしくは他の細胞傷害性抗癌剤成分は、臨床経験において公知ように、同じ様式において、本発明に従って投与され得る。例えば、緩慢な静脈注入は、シスプラチンに対して選択された方法である。シスプラチンを使用する場合に利尿を促進するために、デキストロース/生理食塩水溶液中へのマンニトールの組み込みは、好ましいキャリアである。上記プロトコルはまた、上記シスプラチン、アドリアマイシン、ドセタキセルおよび/もしくはパクリタキセルを投与する前に、デキストロース/生理食塩水溶液の投与によって、上記患者の予備水和(prehydration)を含み得る。本発明のいくつかの実施形態において、シスプラチンの投与量は、本発明に従って、ヒ素化合物と一緒に投与される場合、約3〜約100mg/mのシスプラチンの単一用量であり、特定の実施形態において、上記ヒ素化合物での1日から連続5日間の処置過程の最後に、送達される。他の実施形態において、上記シスプラチンの用量は、3〜4週間に1回、約20mg/m以上である。あるいは、他の細胞傷害性薬剤(例えば、アドリアマイシン、ドセタキセルおよび/もしくはパクリタキセル)の治療上適切な量は、上記患者に投与されうる。シスプラチン、アドリアマイシン、ドセタキセルおよび/もしくはパクリタキセルまたは他の細胞傷害性薬剤の注入は、1週間に1〜2回与えられ得るか、または腎毒性、神経毒性、もしくは他の副作用が禁忌をもたらさなければ、1週間に数回の反復処置が与えられ得る。
【0060】
三酸化ヒ素の非経口投与については、一般に使用される治療過程は、連続約5日間に、0.0001〜100mg/kg/日、もしくは0.001〜50mg/ml、および他の実施形態において、連続約5日間に、0.01〜20mg/kgである。本発明のいくつかの実施形態において、シスプラチンと組み合わせて使用されるべき三酸化ヒ素の投与量は、約0.1〜5.0mg/kg/日である。当業者は、三酸化ヒ素の適切な量および投与過程を決定し得、それに応じて処置プロトコルを調節し得る。
【実施例】
【0061】
実施例1:
シスプラチンおよびメタ亜ヒ酸ナトリウムでのインビトロ研究。シスプラチンおよびメタ亜ヒ酸ナトリウムの両方が、テロメア損傷を引き起こし得る。従って、これら2種の抗癌剤の組み合わせを試験して、上記2種の薬剤が、2種の非小細胞肺癌細胞株においてインビトロでの相乗効果の証拠を示すか否かを決定した。H460(4kb,IC50,IC50=10μM)およびA549(6kb,IC50=13μM)を選択した。なぜなら、これらは、比較的短いテロメアを有し、National Cancer Institute(NCI)の60の細胞株パネルのうちの一部であるからである。シスプラチンおよびKML001のIC50濃度を、MTTアッセイおよびChou and Talalay(Advances in Enzyme Regulation(1984),22:27−55(その全体が参考として援用される))による広く受け入れられたメジアン効果方法論によって、相乗効果、相加的なものもしくは拮抗性の決定のために使用される固定されたIC50比に基づいて決定した(図1A〜1C)。
【0062】
細胞培養およびMTTアッセイ。細胞を、それらそれぞれの推奨される培地(例えば、RMPI 1640、Iscove’sもしくはDMEM(Invitrogen))中で、標準的な条件(5% CO/37℃/加湿雰囲気)下で増殖させ、慣用的に継代した。MTT増殖アッセイについては、指数関数的に増殖している細胞を回収し、96ウェルプレート(2,000/ウェル)においてプレートした。薬物の増殖阻害能力を評価するために、試験薬物を、1nM〜100μMの範囲に及ぶ濃度で添加した。実際脳細胞死滅の計算を可能にする薬物添加の時点(d0)での細胞増殖を決定するために、上記96ウェルプレートのうちの1つを、薬物添加の直後に発色させた。他のものは、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)を添加する前に5日間インキュベートし、生細胞による紫色のホルマザンへの変換を、SynergyHTプレートリーダー(550nm)およびK4Cソフトウェア(BioTEK)を使用して測定した。ホルマザンを、DMSOで溶解した。増殖曲線をMSExcelで作成し、増殖阻害濃度50%および100%、ならびに正味の細胞死滅を決定した。その結果を、図1A〜Cおよび表2〜4に示す。
【0063】
A549およびH460は、それぞれ、1.5μMおよび1μMのシスプラチンに対してIC50を有するが、メタ亜ヒ酸ナトリウムに対しては比較的非感受性である。しかし、H460細胞(より短いテロメア(4kb)を有する)は、A549細胞(比較的長いテロメア(6kb,図1A)を有する)よりも低いIC50を有する。しかし、上記2種の薬物を組み合わせた場合、大部分の効果レベルに関して、非常に顕著な相乗効果が得られた(図1B〜C、表2〜4)。1より十分に低い組み合わせ指数(CI)は、有効用量(ED)レベル50%、75%および90%に対して見いだされ(表2)、例えば、A549細胞において1.5μMから0.45μMへとシスプラチンのIC50を低下させた(図1A)。従って、KML001は、肺癌細胞株をシスプラチンに対して感受性にし得る。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

本発明の他の実施形態は、本明細書を考慮し、本明細書で開示される発明の実施することから、当業者に明らかである。
(項目1)
治療上有効な量のメタ亜ヒ酸ナトリウム、三酸化ヒ素もしくはこれらの組み合わせを含む第1の組成物、ならびにシスプラチン、アドリアマイシンおよびタキソールからなる群より選択される、治療上有効な量の細胞傷害性抗癌剤を含む第2の組成物を含む、癌の処置のためのキット。
(項目2)
上記第1の組成物は、メタ亜ヒ酸ナトリウムを含み、上記第2の組成物は、シスプラチンを含む、項目1に記載のキット。
(項目3)
上記第1の組成物は、経口投与のために処方されている、項目2に記載のキット。
(項目4)
上記第1の組成物は、三酸化ヒ素を含み、上記第2の組成物は、シスプラチンを含む、項目1に記載のキット。
(項目5)
上記癌は、肺癌である、項目1に記載のキット。
(項目6)
上記癌は、長いテロメアを有する染色体を含む癌細胞と関連する癌である、項目1に記載のキット。
(項目7)
患者における癌の処置のための非ヒ素抗癌剤の使用であって、ここで該患者は、メタ亜ヒ酸ナトリウム、三酸化ヒ素もしくはこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つの該患者への投与を含む処置レジメンに供されている、使用。
(項目8)
上記患者は、肺癌を有する、項目7に記載の使用。
(項目9)
上記癌は、長いテロメアを有する染色体を含む癌細胞と関連する、項目7に記載の使用。
(項目10)
上記非ヒ素抗癌剤は、シスプラチン、アドリアマイシン、タキサンおよびこれらの組み合わせから選択される、項目7に記載の使用。
(項目11)
上記タキサンは、パクリタキセルもしくはドセタキセルである、項目10に記載の使用。
(項目12)
上記非ヒ素抗癌剤は、シスプラチンである、項目7に記載の使用。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療上有効な量の、メタ亜ヒ酸ナトリウム、もしくはメタ亜ヒ酸ナトリウムと三酸化ヒ素との組み合わせを含む第1の組成物、ならびにシスプラチン、アドリアマイシンおよびタキソールからなる群より選択される、治療上有効な量の細胞傷害性抗癌剤を含む第2の組成物を含む、癌の処置のためのキット。
【請求項2】
前記第1の組成物は、メタ亜ヒ酸ナトリウムを含み、前記第2の組成物は、シスプラチンを含む、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記第1の組成物は、経口投与のために処方されている、請求項2に記載のキット。
【請求項4】
前記第1の組成物は、メタ亜ヒ酸ナトリウムと三酸化ヒ素との組み合わせを含み、前記第2の組成物は、シスプラチンを含む、請求項1に記載のキット。
【請求項5】
前記癌は、肺癌である、請求項1に記載のキット。
【請求項6】
前記癌は、長いテロメアを有する染色体を含む癌細胞と関連する癌である、請求項1に記載のキット。
【請求項7】
患者における癌の処置のための非ヒ素抗癌剤の使用であって、ここで該患者は、メタ亜ヒ酸ナトリウム、メタ亜ヒ酸ナトリウムと三酸化ヒ素との組み合わせもしくはこれらの組み合わせの該患者への投与を含む処置レジメンに供されている、使用。
【請求項8】
前記患者は、肺癌を有する、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記癌は、長いテロメアを有する染色体を含む癌細胞と関連する、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
前記非ヒ素抗癌剤は、シスプラチン、アドリアマイシン、タキサンおよびこれらの組み合わせから選択される、請求項7に記載の使用。
【請求項11】
前記タキサンは、パクリタキセルもしくはドセタキセルである、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記非ヒ素抗癌剤は、シスプラチンである、請求項7に記載の使用。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate


【公表番号】特表2011−515481(P2011−515481A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501983(P2011−501983)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【国際出願番号】PCT/US2009/038104
【国際公開番号】WO2009/120697
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(510257499)コミファーム インターナショナル カンパニー, リミテッド (1)
【Fターム(参考)】