説明

癌の治療のためのニューロピリン−2の中和によるp53発現の誘導

本発明は、抗ヒトニューロピリン-2抗体又はこれらの抗体に由来するヒトニューロピリン-2のリガンドの、抗癌治療の関係においてp53発現を増加させ、腫瘍細胞アポトーシスを誘導するための医薬品を得るための使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューロピリン-2を標的にすることによる、p53腫瘍抑制因子遺伝子の過剰発現及び腫瘍細胞アポトーシスの誘導による癌の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、細胞増殖を上方制御(癌遺伝子)又は下方制御(腫瘍抑制因子遺伝子)する遺伝子の変異を通常は原因とする、制御されない細胞増殖を特徴とする。それらの無秩序な増殖により、腫瘍細胞は健常組織に局所的に侵入し、さらなる変異を受けた後に、血流中に遊走し、転移を形成するように最初の腫瘍から離れて伝播する能力を獲得し得る。しかし、血管新生機構による腫瘍の新血管新生は、腫瘍成長にとって必須である。なぜなら、いずれの細胞も、そして特に非常に高い酸素及びエネルギー需要を有する腫瘍細胞は、血管から数十ミリメートル程度より長く離れると生存できないからである。
【0003】
よって、現在の抗癌治療は、一方で腫瘍細胞自体、そして他方では腫瘍血管新生をその主要な標的としている。
抗血管新生ストラテジーに関して、増殖因子、特にEGF又はVEGF (血管内皮増殖因子)が癌の進行及び血管新生に関与することが示されている。VEGFの作用を標的にするいくつかの分子が、抗血管新生医薬品として開発されている:VEGFを指向するヒト化モノクローナル抗体であるベバシズマブ(Avastin (登録商標))は、転移性結腸直腸癌の治療のために2004年から用いられている;VEGF/VEGF受容体経路におけるシグナル伝達を阻害する分子であるスニチニブ及びソラフェニブは、転移性腎癌の治療のための抗血管新生ストラテジーにおいて用いられている。
【0004】
腫瘍及び腫瘍細胞を標的にするストラテジーに関して、腫瘍組織の外科的切除(これが可能である場合)、固形腫瘍放射線療法、癌細胞に対する免疫応答の強化を目的とした免疫療法及び化学療法が、標準的な治療法の代表である。癌発生の分子機構の理解における主な進歩により、新しい化学療法を開発することができたが、この効率は、治療される癌の種類及び罹患した臓器に依存する。さらに、多くの癌は、主な公衆衛生問題ももたらし、従来の療法に対して耐性であることが示されている。例えば、胃腸の癌(膵臓癌、胆管細胞癌、結腸直腸癌)は、それらの自然な進展の経過の間に化学療法に対して迅速に耐性になる。p53タンパク質をコードする腫瘍抑制因子遺伝子の喪失が、アポトーシス及び化学療法又は放射線療法のような従来の抗悪性腫瘍治療に対する腫瘍細胞の耐性を説明する主な機構の1つである。これは、p53タンパク質の機能が、細胞周期を停止させるか又は細胞性DNAの損傷若しくは癌遺伝子活性化に応答して細胞のアポトーシスを誘導することであるからである。よって、p53タンパク質は、細胞周期の制御及びゲノムの完全性の維持において、細胞周期が遮られた細胞が遺伝子の異常を修復することを可能にするか、又はアポトーシスによりその分解を引き起こすことにより、中心的な役割を有する。p53は、異常な又は制御されない細胞分裂の影響に対して生物を保護するために必須であるので、p53の非存在、その過小発現又は非機能的p53タンパク質の発現は、腫瘍細胞の生存をもたらす。
【0005】
インビトロ研究モデル及びマウスモデルにおいて、遺伝子導入によるp53発現の回復は、癌の退縮を促進し、細胞毒性治療の有効性を改善することが示されている。インビトロ研究は、野生型タンパク質及び野生型タンパク質に関してドミナントネガティブ効果を有する変異p53タンパク質を発現する細胞において、変異p53タンパク質をコードするmRNAを特異的に標的にするsiRNAを用いる干渉が、p53の機能を再確立することも示している(Martinezら P.N.A.S., 99(23):14849〜54, 2002)。さらに、変異p53タンパク質を、これらのタンパク質の機能的高次構造を安定化することにより「再活性化」できることも示されている。この能力を有する最初に開発された分子であるCP-31398、PRIMA-1及びMIRA-1分子は、ヒト異種移植モデルにおける腫瘍成長を阻害するためにうまく用いられた(概説として、例えばLevesque及びEastman, Carcinogenesis., 28(1):13〜20, 2007を参照)。
機能的p53タンパク質の発現の回復、及びこのタンパク質の過剰発現の誘導は、よって、抗腫瘍療法の開発における必須の目的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、今回、ニューロピリン-2 (NRP-2)とp53タンパク質の発現との間の逆の相関関係の存在を示し、驚くべきことに、ニューロピリン-2発現をsiRNAを用いて阻害することにより、p53発現を誘導又は増加させることができることを示した。
【0007】
およそ130 kDaの膜貫通型糖タンパク質であるニューロピリン-2は、セマフォリン、特にセマフォリン3F、及びVEGFファミリーの増殖因子の受容体である。これは、ヒトにおいては、ニューロン、内皮細胞及び骨芽細胞により、並びに広範囲の腫瘍により発現される。これは、およそ40アミノ酸の細胞質内ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞外ドメインとで構成される。この細胞外ドメインは、2つのサブドメイン(a1a2)でできているドメインAと、これもまた2つのサブドメイン(b1b2)でできているドメインBと、ドメインCとを含む。BドメインがVEGF結合部位を構成し、セマフォリン3Fとの結合がAドメイン及びBドメインの両方を伴うことが示されている(Gerettiら, J. Biol. Chem., 282, 25698〜707, 2007)。Cドメインは、その部分として、NRP-2のオリゴマー形成に関与する。
【0008】
多くの場合、ニューロピリンは、癌細胞により発現される唯一のVEGF受容体であり(Bielenbergら Exp. Cell. Res., 312(5):584〜593, 2006)、いくつかの研究が、ニューロピリンの発現又は過剰発現さえもが、腫瘍成長並びに癌の侵襲的及び転移性の性質の増加と、悪い予後とに一般的に関連することを示している。
さらに、多くの知見が、これらの受容体が、血管新生を活性化することにより腫瘍進行において必須の役割を有することを示している:特に、NRP-2へのVEGFの結合は、NRP-2の短い細胞質内ドメインとVEGF受容体VEGFR1のそれとの間の協力により媒介される血管新生促進活性の原因である。NRP-2が、VEGFR1受容体及びAKTタンパク質のリン酸化を誘導する能力を有し、よって、癌の進行に有利であり、siRNAを用いるニューロピリン-2の抑制が、異種移植片における転移の出現に対向し、腫瘍サイズを減少させることが報告されている(Grayら J. Natl. Cancer Inst., 100:109〜120, 2008)。さらに、NRP-2のBドメインのVEGF結合部位を指向する抗NRP-2抗体(抗Nrp2B抗体とよばれる)が、腫瘍リンパ脈管新生及び転移の形成を低減できることも示されている。この抗体は、リンパ性内皮細胞遊走を阻害することにより作用するが、腫瘍細胞の遊走、増殖又はアポトーシスに対して影響しない(Cauntら, Cancer Cell, 13, 331〜42, 2008)。
【0009】
本発明者らは、抗NRP-2抗体を作製し、これらのいくつかが、p53発現及び腫瘍細胞のアポトーシスの誘導に対してsiRNAを用いるNRP-2の阻害と同じ効果を生じ、これらの効果がVEGF依存性であることに注目した。さらに、彼らは、インビトロ及びマウスモデルでのインビボにおいて、これらの抗体が、抗癌治療の有効性を強化することに注目した。
これらのデータは、特に、化学療法又は放射線療法又はその他の抗癌剤に対する鋭敏化のための革新的なストラテジーを開発する可能性に関して、新しい治療の見通しを開く。
【課題を解決するための手段】
【0010】
よって、本発明の主題は、ヒトニューロピリン-2を発現する腫瘍細胞へのその結合が、該腫瘍細胞のアポトーシスを誘導することを特徴とする抗ヒトニューロピリン-2抗体、又は該抗体に由来するヒトニューロピリン-2のリガンドである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
有利には、本発明による抗ヒトニューロピリン-2抗体又はリガンドは、ヒトニューロピリン-2を発現する腫瘍細胞のアポトーシスを誘導するそれらの能力に加えて、以下の特徴を有する:
- これらはp53発現を誘導し、アポトーシスを誘導するそれらの能力は、このp53発現に依存する(これは、p53阻害剤であるピフィスリンαにより減少する);
- これらのニューロピリン結合特性及びアポトーシスを誘導するそれらの能力は、VEGF非依存性である(ヒトニューロピリン-2を発現する腫瘍細胞表面へのそれらの結合及び該細胞のアポトーシスを誘導するそれらの能力は、VEGFの存在により改変されない)。
【0013】
本発明による抗体は、よって、抗ヒトニューロピリン-2抗体又はそれに由来するリガンドから、ヒトニューロピリン-2を発現する腫瘍細胞のアポトーシスを誘導するそれらの能力に基づいて、及び/又は上記のその他の特徴の1つ以上に基づいて選択できる。
【0014】
本発明による抗体は、天然のポリクローナル若しくはモノクローナル抗体、又は組換え抗体、特にキメラ若しくはヒト化抗体であり得る。用語「キメラ抗体」とは、別の抗体、好ましくはヒト抗体の定常ドメインと結合した、それが由来するモノクローナル抗体の可変ドメインを有する抗体を意味する。
用語「ヒト化抗体」とは、そのニューロピリン-2結合特性を保存する非ヒト動物、好ましくはマウスにより元来生成されるが、ヒトにおけるその免疫原性を低減させるために、できるだけ多くのマウス配列を対応するヒト配列で置き換えた抗体のことをいう。可変ドメインについて、置き換えられる配列は、一般的に、FR (フレームワーク)領域、すなわち超可変ループであるCDR間に位置する配列である。
本発明によるキメラ又はヒト化抗体は、好ましくは、IgGクラスの免疫グロブリン、特にアイソタイプIgG1、2、3又は4である。
【0015】
「抗ニューロピリン-2抗体に由来するヒトニューロピリン-2のリガンド」との表現は、該抗体の重鎖のCDR3と軽鎖のそれらとを少なくとも含み、そして好ましくは該抗体の重鎖及び軽鎖のCDR2及び/若しくはCDR1も含む任意のニューロピリン-2リガンドを意味することを意図する。
本発明によるニューロピリン-2リガンドは、特に、以下のものであり得る:
- 該抗体の重鎖及び軽鎖のCDR3を少なくとも含み、そして好ましくはCDR2及び/又はCDR1も含む本発明による抗ニューロピリン-2抗体の任意のフラグメント;
- 上記で規定される本発明による抗ニューロピリン-2抗体フラグメントを含む、組換え免疫グロブリン分子を含む任意の組換えタンパク質。
【0016】
本発明による抗ニューロピリン-2抗体フラグメントは、特に、Fv、dsFv、Fab、Fab'2又はscFvフラグメントである。Fvフラグメントは、疎水性相互作用により互いに組み合わされた抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン、VH及びVLで構成される。dsFvフラグメントは、ジスルフィドブリッジにより連結されたVH :: VL二量体で構成される。scFvフラグメントは、フレキシブルリンカー(Clacksonら, Nature, 352: 624〜628, 1991)で互いに連結されることにより単鎖タンパク質を形成した、抗体の重鎖及び軽鎖の可変部分で構成される。Fabフラグメントは、免疫グロブリン分子に対するパパインの作用に起因し、それぞれが、ジスルフィドブリッジで互いに連結された軽鎖と重鎖の最初の半分とを含有する。F(ab')2フラグメントは、抗体をペプシンで処理することにより得ることができる:このフラグメントは2つのFabフラグメントと、ヒンジ領域の一部分とを含む。Fab'フラグメントは、F(ab')2フラグメントから、ヒンジ領域のジスルフィドブリッジの切断により得ることができる。
【0017】
これらの抗原結合フラグメントは、これらの抗原結合フラグメントの2つまたは3つの会合により得られる「ダイアボディ」又は「トリアボディ」のような多価誘導体を得るために組み合わせることもできる。
【0018】
本発明による抗ニューロピリン-2抗体フラグメントを含む組換えタンパク質は、特に、以下のものであり得る:
- 本発明による少なくとも1つの抗ニューロピリン-2抗体フラグメントと、別の抗体の少なくとも1つのフラグメントとが会合したタンパク質;例えば、二重特異性免疫グロブリン、抗ニューロピリン-2抗体のFv又はFabフラグメントと、異なる特異性を有する抗体のFv又はFabフラグメントとのコンジュゲート、抗ニューロピリン-2フラグメントのscFvフラグメントと、異なる特異性を有する抗体のFv又はFabフラグメントとの会合により得られる「二重特異性ダイアボディ」が挙げられる;
- 本発明による少なくとも1つの抗ニューロピリン-2フラグメントと、インビボで投与したときにその血漿半減期を延長するための分子、特にそのようにして得られる融合ポリペプチドの分子質量が腎臓ろ過閾値より大きくなるのに十分な分子質量の水溶性ポリペプチドとが会合したタンパク質。
【0019】
キメラ又は組換え抗体、scFvフラグメント及びその誘導体などは、Sambrookら(Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)により記載されるもののような従来の遺伝子工学的手法により得ることができる。
【0020】
本発明による抗ニューロピリン-2抗体の可変領域をコードするポリヌクレオチドは、該領域を、上記の抗体を生成するハイブリドーマのcDNAライブラリーからクローニングすることにより得ることができる。これらは、該可変領域のヌクレオチド配列に基づいて、核酸合成により完全に又は部分的に調製することもできる。
【0021】
ヒト化抗体を得るための種々の方法も、それら自体で公知である(概説として、例えばAlmagro及びFransson, Frontiers in Bioscience, 13, 1619〜1633, 2008を参照)。
非ヒト抗体のCDRを、ヒト起源の抗体のフレームワーク領域(FR)に移すことで構成されるCDR移植法に基づく方法を挙げることができる(例えばRoutledgeら,「Reshaping antibodies for therapy」, Protein Engineering of Antibody Molecules for Prophylatic and Therapeutic Applications in Man, 13〜44, Academic Titles, Nottingham, England, 1993、又はRoguskaら, Protein Engineering, 9(10): 895〜904, 1996を参照)。CDR移植法は、一般的に、フレームワーク領域の最適化により完了し、これは、ヒト化抗体の抗原結合親和性を増加させるためにフレームワーク領域のいくつかの残基を改変することである。コンビナトリアルライブラリーの使用により、この最適化ステップを単純化することが可能になる(Rosokら J. Biol. Chem. 271: 22611〜22618, 1996; Bacaら J. Biol. Chem. 272: 10678〜10684, 1997)。抗体ヒト化のための別のストラテジーは、起源の抗体の重鎖及び軽鎖のCDR3のみを保存し、残りの配列をヒトV遺伝子のナイーブライブラリーから選択することである(Raderら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95: 8910〜8915, 1998)。
【0022】
本発明による抗ヒトニューロピリン-2モノクローナル抗体の2つの例は、以下に記載する抗体ITAC-B1及びITAC-B2である。これらのモノクローナル抗体は、NRP-2を発現する腫瘍細胞のアポトーシスを誘導するそれらの能力に基づいて、本発明者らにより選択された。
【0023】
ITAC-B1及びITAC-B2の重鎖及び軽鎖の配列を決定した。これらの配列と、そこから導かれるポリペプチド配列とを、以下の表1(ITAC-B1の軽鎖及び重鎖について)及び以下の表2(ITAC-B2の軽鎖及び重鎖について)に示す。ヌクレオチド配列は、添付の配列表中に、それぞれ配列番号1、3、5及び7の番号の下にも示し、ポリペプチド配列も、それぞれ配列番号2、4、6及び8の番号の下に示す。
【0024】
ITAC-B1抗体を生成するCNCM I-4054ハイブリドーマは、さらに、ブダペスト条約に従って、2008年7月30日にCollection Nationale de Culture de Microorganismes [フランス国立微生物培養コレクション] (Institut Pasteur, 25 rue du Docteur Roux, 75724 Paris Cedex 15, France)に、CNCM I-4054の番号の下で寄託された。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
ITAC-B1及びITAC-B2のCDRをコードする配列も、上記の重鎖及び軽鎖の配列から、IMGT/V-QUESTソフトウェア(Giudicelliら, Nucleic Acids Research 32, W435〜W440, 2004)を用いて決定した。そこから導かれるポリペプチド配列を、ITAC-B1抗体について以下の表3に、ITAC-B2抗体について表4に示す。これらも、添付の配列表において、配列番号9〜20の番号の下に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
ITAC-B1の可変ドメイン(すなわち、その可変ドメインが配列番号2の配列により規定される重鎖と、その可変ドメインが配列番号4の配列により規定される軽鎖とを含む)又はITAC-B2の可変ドメイン(すなわち、その可変ドメインが配列番号6の配列により規定される重鎖と、その可変ドメインが配列番号8の配列により規定される軽鎖とを含む)を含む抗体、並びにITAC-B1又はITAC-B2のCDR3を少なくとも含む上記で規定される抗体又は抗体由来リガンドも、本発明の主題の好ましい実施形態を構成する。
【0031】
本発明の主題は、本発明による抗体をコードするか、又は該抗体に由来するヒトニューロピリン-2のリガンドをコードする任意のポリヌクレオチド、及び該ヌクレオチドを含む組換えベクター、特に発現ベクターでもある。本発明の主題は、本発明による抗体又は抗体誘導体を生成する細胞でもある。これらは、特にハイブリドーマ、例えばCNCM I-4054ハイブリドーマ、及び本発明による発現ベクターで形質転換された宿主細胞であり得る。該宿主細胞は、原核又は真核細胞であり得る。用いることができる真核細胞の中でも、特に、植物細胞、サッカロミセス(Saccharomyces)のような酵母細胞、ショウジョウバエ(Drosophila)又はスポドプテラ(Spodoptera)のような昆虫細胞、並びにHeLa、CHO、3T3、C127、BHK、COS細胞などの哺乳動物細胞を挙げることができる。
本発明による発現ベクターの構築、及び宿主細胞の形質転換は、従来の分子生物学的手法により行うことができる。
【0032】
本発明の主題は、医薬品、特に抗腫瘍医薬品として用いるための本発明による抗ヒトニューロピリン-2抗体又は該抗体に由来するヒトニューロピリン-2のリガンドでもある。
本発明のある好ましい実施形態によると、該医薬品は、ニューロピリン-2を発現する腫瘍細胞のアポトーシスを、特に該腫瘍細胞におけるp53発現を増加させることにより、誘導することを意図する。
本発明は、ニューロピリン-2を発現する全ての種類の腫瘍、特に結腸直腸癌、乳癌、腎癌及び黒色腫に用い得る。腫瘍におけるニューロピリン-2の発現は、例えば抗ヒトニューロピリン-2抗体を用いて容易に検出できる。
【0033】
本発明を行うために、本発明による抗ヒトニューロピリン-2抗体又はヒトニューロピリン-2のリガンドを、静脈内、動脈内又は腹腔内で投与できる。
【0034】
有利には、これは、別の抗腫瘍薬物と組み合わせて投与できる。
本発明による抗ヒトニューロピリン-2抗体又はヒトニューロピリン-2のリガンドと組み合わせて用いることができる抗腫瘍薬物は、特に、化学療法剤(例えばアルキル化剤、ヌクレオチドアナログ又はトポイソメラーゼ阻害剤)、電離放射線又は生物学的療法(特に、例えばVEGF若しくはEGF受容体を中和する標的治療用分子、チロシンキナーゼ阻害剤又はmTor経路の阻害剤)である。
【0035】
本発明は、siRNAを用いるNRP-2の阻害によるp53発現及び腫瘍細胞アポトーシスに対する効果と、これらの効果を再現する抗NRP-2抗体の調製とについて示す限定しない実施例に言及する以下のさらなる記載により、より明確に理解される。
【実施例】
【0036】
実施例1:その膜表面にてヒトニューロピリン-2を示す株化細胞の作製
2つの株化細胞に形質移入して、それらの表面でNRP-2を発現させた。腫瘍免疫学におけるモデルとして広く用いられる実験的腫瘍であり、ヒトNRP-2を天然に発現しないマウス系統であるP815マスト細胞腫(Diaclone)と、HT29結腸直腸癌細胞から進展させ、その膜表面でNRP-2を天然に発現しないヒト腫瘍系統とに、ヒトNRP-2発現ベクターを形質移入した。プラスミドpcDNA3.1 (Invitrogen)に基づく用いた発現ベクターは、Rossignol Mら(Genomics. 2000 Dec 1; 70(2):211〜22)により記載される。
【0037】
形質移入p815マウス系統を用いて、ヒトNRP-2糖タンパク質を指向するマウスモノクローナル抗体を生成し、次いで、形質移入したヒト系統を、抗NRP-2抗体の利点を評価するための機能的実験において用いた。
【0038】
系統の形質移入は、Effecten (登録商標)キット(Qiagen)を用いて行った。P815マスト細胞及びHT29腫瘍細胞を、20 mlのDMEM培地中で、200000細胞/mlの濃度に達するまで培養した。細胞を、次いで、20 mlのPBSで1回洗浄し、フラスコ中の4 mlのDMEM培地中で2×105細胞/mlの濃度にした。細胞に、次いで、1μgのベクター(TBEバッファー中1μg/μlのプラスミドベクター)を形質移入した。
形質移入したP815及びHT29細胞を小さいフラスコ中に放置し、37℃にて5% CO2の下で湿潤環境中、48時間インキュベートした。D3にて、培養培地を、0.8 mg/mlのジェネテシン(G418, Invitrogen, France)を含有する新しい培地に、形質移入細胞の選択のために置き換えた。
【0039】
それらの表面にてNRP-2を発現する効率的に形質移入された細胞を、P815-NRP-2及びHT29-NRP-2と称する。形質移入の効率は、D7に、マウス抗ヒトNRP-2 IgG抗体(Clone C9, Santa Cruz Biotechnology)を用いて膜を標識し、フローサイトメトリーにより読み取ることにより評価する。フローサイトメトリー研究の結果を、図1に示す。
図1のパネルA及びC(P815及びHT29ctrl)は、フローサイトメトリーにより対照細胞を用いて得られた結果を示し、パネルB及びD(P815-NRP-2及びHT29-NRP-2)は、それらの膜表面でNRP-2を発現する細胞を用いて得られた結果を示す。黒色の線での分布曲線は、対照抗体を用いた標識の結果を示し、灰色の線での分布曲線は、マウス抗ヒトNRP-2 IgG抗体を用いた標識の結果を示す。
【0040】
図1のパネルのそれぞれについて、事象の数(細胞の数)をy軸に示し、蛍光強度(マウス抗ヒトNRP-2 IgG抗体での細胞の標識に相当する)をx軸に示す。図1のパネルA及びC(P815及びHT29ctrl)は、抗ヒトNRP-2抗体(灰色の線)又は対照IgG抗体(黒色の線)と接触したP815及びHT29ctrl細胞集団(非感染対照)を示す分布ピークが、重なることを示す。このことは、P815及びHT29ctrl細胞(非感染対照)が、抗ヒトNRP-2抗体を用いて、対照IgG抗体よりもより強くは標識されないことと、よってこれらがNRP-2を発現しないことを示す。一方、ヒトNRP-2発現ベクターを形質移入したP815及びHT29細胞(それぞれパネルB及びD,P815-NRP-2及びHT29-NRP-2)を抗ヒトNRP-2抗体と接触させた場合、細胞集団分布ピーク(灰色の線のピーク)が、対照IgG抗体を用いる標識に対して(黒色の線のピーク)明らかに右のほうにシフトしている。これらの結果は、形質移入した細胞が、それらの膜表面にてNRP-2を明らかに発現することを証明する。
【0041】
実施例2:抗ヒトNRP-2モノクローナル抗体の生成及び特徴決定
Matthew及びSandrockにより記載されたもの(J. Immunol. Methods, 100: 73〜82, 1987)に由来する免疫化プロトコルを用いた。各実験において、5匹の雌性Balb/Cマウス(Charles River Laboratories)に、P815-NRP-2形質移入細胞を、週1回、5週間にわたって免疫した。
それぞれの免疫化は、「肉趾」に、1×106のP815-NRP-2細胞を、マウスの各後肢に投与することからなる(すなわち、マウスあたり2×106のP815-NRP-2)。マウスの免疫化のために用いた細胞は、25μlの1×PBS及び25μlのRibiアジュバント(Immunochem Research, USA)で希釈した。50μlの細胞混合物を、次いで、それぞれのマウスに、免疫化プロトコル中に数回注射した(後肢あたり25μl)。最後の注射の5日後に、マウスのリンパ節を回収し、リンパ球を骨髄腫系統と融合させた。融合は、以下のようにして行った。回収したリンパ球を、X63/AG 8653マウス骨髄腫細胞(リンパ球/骨髄腫細胞の比率は5:1)と、ポリエチレングリコールの存在下で融合した(Kearneyら, J. of Immunol., 123: 1548, 1978)。P3X63/AG8.653マウス骨髄腫は、ATCC (ref CRL-1580)を起源とする。
【0042】
融合細胞の懸濁物を1回洗浄し、10%の熱非働化FCS (Abcys, France)、4 mMのL-グルタミン(Sigma, France)、100μg/mlのストレプトマイシン、100 IU/mlのペニシリン(Sigma, France)、13.6μg/mlのヒポキサンチン、0.19μg/mlのアミノプテリン及び3.88 IU/mlのチミジン(50×溶液, Sigma, France)を補った500 mlのRPMI 1640 (Sigma, France)で構成された選択培地で培養した。この培地は、融合されていない骨髄腫細胞の生存(イノシトール1リン酸を合成できないので)も、インビトロで無限に複製する能力を有さないリンパ球の生存も可能にしない。一方、ハイブリドーマは生存する。なぜなら、これらは、一方で外因性ヒポキサンチンを代謝する能力(リンパ球の特性)と、他方でX63/AG 8653細胞の無限に複製する能力(「不死性」)とを有するからである。
【0043】
融合の10日後に、ハイブリドーマの成長が観察された培養物からの上清を試験して、抗NRP-2モノクローナル抗体の生成を検出した。この目的のために、それぞれのハイブリドーマ培養ウェルの上清を、フローサイトメトリーにより、ニューロピリン-2を発現するか又は発現しない株化細胞に対して試験した。
P815-NRP-2系統を認識する抗体を生成するハイブリドーマを、限界希釈法を用いてクローニングした(培養ウェルあたり1細胞の播種密度)。
NRP-2を特異的に認識するいくつかの候補を作製し、ニューロピリン-2を発現する腫瘍細胞のアポトーシスを誘導するそれらの能力について、クローンITAC-B1及びITAC-B2を含めて選択した。ITAC-B1クローンは、ブダペスト条約に従って、CNCM (Collection Nationale des Microorganismes [フランス国立微生物コレクション], Institut Pasteur, 25 rue du Docteur Roux, 75724 Paris Cedex 15, France)に、2008年7月30日に、寄託番号CNCM I-4054の下で寄託した。ITAC-B1及びITAC-B2モノクローナル抗体を特徴決定するために、膜標識を、フローサイトメトリーにより、200000個のHT29、HT29-NRP-2、P815又はP815-NRP-2細胞を5μg/mlのITAC-B1又はITAC-B2と、4℃にて15分間接触させることにより行った。FITC結合ヤギ抗マウス2次抗体を、次いで、4℃にて暗所で15分間インキュベートした後に、フローサイトメトリーにより読み取った。ITAC-B1について得られたフローサイトメトリー分析の結果を、図2に示す。
【0044】
図2のパネルのそれぞれについて、事象の数(細胞の数)をy軸に示し、蛍光強度(ITAC-B1抗体での細胞の標識に相当する)をx軸に示す。図2のパネルA及びC(P815 + ITAC-B1及びHT29ctrl + ITAC-B1)は、対照細胞を用いてフローサイトメトリーにより得られた結果を示し、パネルB及びD(P815-NRP-2 + ITAC B1及びHT29-NRP-2 + ITAC-B1)は、それらの膜表面にてNRP-2を発現する細胞を用いて得られた結果を示す。黒色の線の分布曲線は、対照抗体での標識の結果を示し、灰色の線の分布曲線は、ITAC-B1抗体での標識の結果を示す。NRP-2を発現する株化細胞について、ITAC-B1での標識がある場合(灰色の線)に、細胞集団分布ピークが、対照IgG抗体での標識(黒色の線)と比較して、明らかに右のほうにシフトしている。NRP-2を発現しない細胞系統について、分布ピークのこのシフトは非常にわずかである。これらの結果は、ITAC-B1抗体が、膜表面に存在するニューロピリン-2を特異的に認識することを示す。
同様の結果が、ITAC-B2抗体について得られた。
【0045】
ITAC-B1及びITAC-B2抗体を生成するハイブリドーマの重鎖の可変領域のゲノム配列を、以下のプライマーをそれぞれ用いて配列決定により分析した:
- 5'-GARGTTAAGCTGSAGGAGTCAGG-3' (縮重センスプライマー) (配列番号21)
- 5'-ATAGACAGATGGGGGTGTCGTTTTGGC-3' (アンチセンスプライマー) (配列番号22);
及び
- 5'-GAGGTGCAGCTGGAGGAGTCAGG-3' (センスプライマー) (配列番号23)
- 5'-ATAGACAGATGGGGGTGTCGTTTTGGC-3' (アンチセンスプライマー) (配列番号24)。
【0046】
ITAC-B1及びITAC-B2抗体を生成するハイブリドーマの重鎖の可変領域のゲノム配列を、以下のプライマーをそれぞれ用いて配列決定により分析した:
- 5'-GATATTGTGATSACMCARDCTACA-3' (縮重センスプライマー) (配列番号25)
- 5'-GGATACAGTTGGTGCAGCATTA-3' (アンチセンスプライマー) (配列番号26);
及び
- 5'-GATATTGTGMTSACCCAGACTCCA-3' (縮重センスプライマー) (配列番号27)
- 5'-GGATACAGTTGGTGCAGCATTA-3' (アンチセンスプライマー) (配列番号28)。
【0047】
ITAC-B1及びITAC-B2抗体の可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3超可変ループのアミノ酸配列を、IMGT/V-QUESTソフトウェア、バージョン3.0.0を用いて、「the international ImMunoGeneTics information system (登録商標)」(IMGT/GENE-DB)の免疫グロブリンデータベース上で決定した。
【0048】
実施例3:細胞増殖におけるニューロピリン-2の役割
ヒトNRP-2遺伝子を標的にする2本鎖siRNAを発現するベクターの生成
ヒトNRP-2の遺伝子配列の一部分に相当するセンスオリゴヌクレオチド:5'-AAA GGC TGG AAG TCA GCA CTA AT-3' (配列番号29)及びアンチセンスオリゴヌクレオチド:5'-AAA AAT TAG TGC TGA CTT CCA GC-3' (配列番号30)をハイブリッド形成させ、得られた2重鎖を、BbsI酵素で予め消化した二重プロモーター発現ベクター(pFiv H1/U6puro SiRNA発現ベクター, System Biosciences)に挿入した。
挿入断片が予測されるサイズを実際に有すること(21塩基対)を確認した後に、100μlのコンピテント大腸菌(E. coli) HB101細菌(Gibco)を、この挿入断片を含有するベクター1μgで形質転換した。コロニーを、200 mlのアンピシリン含有LB培地中で、high-speed midi prepキット(Qiagen)を用いて増殖させ、次いでmaxiprep (Qiagen)を行い、プラスミドpFiv H1/U6puro SiRNA-NRP-2を精製した。
【0049】
プラスミドpFiv H1/U6puro SiRNA-NRP-2は、挿入断片を囲うRNAポリメラーゼIIIのH1及びU6プロモーターを含有するので、挿入断片のそれぞれの鎖は、プラスミドで形質移入された細胞において転写され:
センス鎖:5'- GGC UGG AAG UCA GCA CUA AUU U-3' (配列番号31);
アンチセンス鎖5'- AUU AGU GCU GAC UUC CAG CCU U - 3' (配列番号32)
で構成される、NRP-2転写産物を指向する2本鎖siRNAが作製される。
【0050】
ヒトNRP-2遺伝子を標的にするsiRNAを発現する株化細胞の生成
その膜表面でニューロピリン-2を天然に発現するColo320系統に、プラスミドpFiv H1/U6puro siRNA-NRP-2を、Effectene (登録商標)キット(Qiagen)を用いて形質移入した。これと並行して、Colo320細胞に、pFiv H1/U6puro SiRNA発現ベクターキット(System Biosciences)で提供される対照siRNA (siRNA-ctrl)を形質移入した。Colo320siRNA-NRP-2及びColo320siRNA-ctrl形質移入細胞を、次いで、D2に、2μg/mlのピューロマイシンで選択した。形質移入の効率を、D7以降、マウス抗ヒトNRP-2 IgG抗体(Clone C9, Santa Cruz Biotechnology)で標識することにより、フローサイトメトリーによって評価した。得られた結果を図3に示す。
【0051】
図3のパネルのそれぞれについて、事象の数(細胞の数)をy軸に示し、蛍光強度(抗NRP-2抗体C9での細胞の標識に相当する)をx軸に示す。黒色の線の分布曲線は、対照抗体で標識した後に得られた結果を示し、灰色の線の分布曲線は、C9抗体で標識した後に得られた結果を示す。NRP-2を天然に発現するColo320siRNA-NRP-2細胞を用いて行われた分析を示す図3のパネルBは、C9抗体で標識された細胞についての分布ピークが、パネルAに示すColo320siRNA-ctrl細胞を用いて行われた分析と比較して、左のほうにシフトすることを示す。
これらの結果は、NRP-2タンパク質の発現が、siRNA-NRP-2を発現する細胞において効率的に阻害されることを示す。
【0052】
siRNA-NRP-2の存在下での増殖アッセイ:MTT試験
MTT増殖アッセイは、活性な生存細胞のミトコンドリアスクシネート脱水素酵素による3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミドの還元(フォルマザンを生じる)に基づく。この反応により誘導される着色強度(OD)は、アッセイ中に存在する生存細胞の数と、その代謝活性とに比例する。
【0053】
4000個のHT29ctrl、HT29-NRP-2、Colo320siRNA-ctrl又はColo320siRNA-NRP-2細胞を、96ウェルMaxisorpプレートに、100μlの10%非働化FCS含有DMEM培地中で播種した。アッセイは、3重で行った。それぞれ24、48及び72時間に、10μlの5 mg/ml MTTを各ウェルに加えた。37℃、5% CO2での2時間のインキュベーションの後に、200μlのDMSOを各ウェルに振とうの後に加え、ODを570 nm にて分光光度計を用いて読み取った。これらの実験の結果を図4に示す。
【0054】
図4.A及び4.Bは、HT29ctrl及びHT29-NRP-2細胞と、Colo320siRNA-ctrl及びColo320siRNA-NRP-2細胞を用いてそれぞれ行った増殖アッセイにおいて得られた結果を示すヒストグラムである。細胞によるフォルマザンの生成に相当する着色強度(光学密度「OD」)をy軸に示し、生存試験を行った時間をx軸に示す。パネルAについて、淡い灰色のバーはHT29-NRP-2細胞について行った測定を示し、濃い灰色のバーはHT29ctrl対照細胞について行った測定を示す。パネルBについて、淡い灰色のバーはColo320siRNA-NRP-2細胞について行った測定を示し、そのNRP-2発現は抑制されており、濃い灰色のバーはNRP-2を発現するColo320siRNA-ctrl対照細胞について行った測定を示す。
【0055】
図4.Aは、細胞がNRP-2を発現する場合にODが増加することを示し、このことは、HT29-NRP-2細胞によるNRP-2の発現が細胞増殖及び生存を、NRP-2を発現しない細胞のものよりも大きく誘導することを意味する。
図4.Bは、Colo320細胞におけるNRP-2発現が抑制される場合にODが減少することを示す(Colo320siRNA-ctrlを表すバーと比較してColo320siRNA-NRP-2を表すバーを参照)。この結果は、HT29細胞を用いて得られた結果:NRP-2が細胞において、より大きい細胞増殖及び生存を誘導することを確実にする。
【0056】
細胞周期に対するニューロピリン-2の影響を研究した。50000個のHT29又はHT29-NRP-2細胞を、1 mlのDMEM-10%FCS中に、2ウェルプレートにて播種した。播種の24時間後に細胞をトリプシン処理し、3 mlのPBSで2回洗浄し、1 mlの70%エタノール中に採集した。これらを4℃にて、70%エタノール中に1晩放置した。次の日に、細胞を3 mlのPBSで2回洗浄し、Dnアーゼで消化し、PIで標識した。30分後に、細胞を、EPIC'C Altraサイトメーター(Beckman Coulter)及びWincyclesサイクル分析ソフトウェアを用いて分析した。この分析の結果を図4-2に示す。
図4-2は、細胞がNRP-2を発現する場合に、G2M期及びS期の細胞の数が増加するが、G1期の細胞の数は減少することを示す。つまり、ニューロピリン-2発現は、S及びG2M期の細胞画分の増加と関連する。
【0057】
ニューロピリン-2の発癌性の影響も、マウスにおいて、種々の腫瘍系統の異種移植の発達を、これらの系統におけるニューロピリン-2の発現の関数として比較することにより評価した。
図5.A、5.B、5.C及び5.Dは、それぞれHT29ctrl、HT29-NRP-2、Colo320siRNA-ctrl及びColo320siRNA-NRP-2細胞を皮下接種したマウスの写真である。
NRP-2を発現しない細胞を接種したマウスにおいて(図5.A及び図5.D)、異種移植片の異常な進行はなく、異種移植片の増殖の異常な増加が、NRP-2を発現する細胞を接種したマウスにおいて観察される(図5.B及び図5.C)。
これらの実験は、形質移入の後のニューロピリン-2の発現、又は干渉RNAによるこのタンパク質の抑制が、これらの系統の発癌に影響することを示す。
【0058】
ヒトNRP-2遺伝子を標的にするsiRNAを用いるp53発現の調節
p53、Eカドヘリン及びサイトケラチン20の、ニューロピリン-2を発現するか又は発現しない腫瘍細胞(HT29ctrl又はHT29-NRP-2系統)の異種移植片における発現を、これらの3つのタンパク質のそれぞれに特異的な抗体を用いる免疫組織化学により検討した。
図6.A、6.C及び6.Eは、HT29ctrl対照系統を接種したマウスで採集された異種移植片の切片の写真であり、図6.B、6.D及び6.Fは、NRP-2を発現する系統(HT29-NRP-2)を接種したマウスにおいて採集された異種移植片の切片の写真である。
【0059】
図6.A及び6.Bの異種移植片の切片を、抗サイトケラチン抗体で標識し、図6.C及び6.Dの異種移植片の切片を、抗Eカドヘリン抗体で標識し、図6.E及び6.Fの異種移植片の切片を、抗p53抗体で標識した。
図6.A、6.C及び6.Eは、HT29ctrl対照系統に由来する異種移植片が、抗サイトケラチン、抗Eカドヘリン及び抗p53抗体で強く標識されるが、HT29-NRP-2対照系統に由来する異種移植片はこれらの抗体のいずれによっても標識されないことを示す。
【0060】
この研究は、異種移植片の進行を促進する(図5.A〜5.D)ニューロピリン-2の形質移入が、腫瘍細胞の核内でのp53抗癌遺伝子の発現の喪失と関連することを示した(図6)。さらに、免疫組織化学的研究は、ニューロピリン-2を発現する異種移植片におけるEカドヘリン及びサイトケラチン20の喪失を示し(図6)、このことは、ニューロピリン-2の獲得が、上皮間充織の移行を促進するであろうことを示唆する。
【0061】
p53発現に対するニューロピリン-2の影響も検討した。このために、HT29-NP-2又はColo320系統を、ニューロピリン-2の翻訳を阻害するsiRNA、又はITAC-B1ハイブリドーマから得られるモノクローナル抗体のいずれかで処理した。
図7は、フローサイトメトリーにより、抗p53抗体で標識した、HT29-ctrl (パネルA)、HT29-NRP-2 (パネルB)、Colo320siRNA-ctrl (パネルC)及びColo320siRNA-NRP-2 (パネルD)細胞について得られた結果を示す。黒色の線の曲線は、対照抗体での標識の結果を示し、灰色の線の曲線は、抗p53抗体での標識の結果を示す。事象の数(細胞の数)をy軸に示し、蛍光強度(抗p53抗体での細胞の標識に相当する)をx軸に示す。
【0062】
NRP-2を発現する系統について得られた結果を示すパネルB及びC,すなわちパネルHT29-NRP-2及びColo320siRNActrlは、p53タンパク質が発現されないか、又はほとんど発現されないことを示す(対照抗体又は抗p53抗体で標識された集団の曲線が重なる)。一方、NRP-2タンパク質を発現しない系統について得られた結果を示すパネルA及びD、すなわちパネルHT29ctrl及びColo320siRNA-NRP-2について、抗p53抗体で標識が行われる場合(灰色の線)、対照IgG抗体での標識と比較して(黒色の線)、細胞集団分布ピークが右のほうにシフトする。
【0063】
これらの実験は、ニューロピリン-2の存在とp53の存在との間に負の相関関係があることを示す。特に、ニューロピリン-2を構成的に発現する腫瘍系統であるcolo320を干渉RNAで、このタンパク質の翻訳を阻害するように処理した場合(Colo320siRNA-NRP-2系統)、腫瘍系統におけるp53発現の回復が明らかに観察される。
【0064】
HT29-ctrl、HT29-NRP-2、Colo320siRNA-ctrl及びColo320siRNA-NRP-2系統のタンパク質抽出物も、抗p53抗体を用いるウェスタンブロッティングにより分析した。細胞系統の溶解、10%ポリアクリルアミドゲル(ウェルあたり10μgのタンパク質、アクチンのイムノブロッティングに対して標準化)で得られたタンパク質ペレットの泳動、及びPVDFメンブレンへのトランスファーの後に、PVDFメンブレンを1晩、1/500に希釈したp53一次抗体(BD Biosciences, マウス抗ヒトp53)とインキュベートした。TBS/0.1% Tween20で洗浄した後のメンブレンを1時間、1/12500に希釈した抗マウスHRP二次抗体とインキュベートした。結果を図8に示す。
図8は、p53タンパク質が、NRP-2を発現しないHT29-ctrl系統において強く発現されるが、これはHT29-NP-2系統において検出できないことを示す。同様に、p53は、NRP-2を発現するColo320siRNA-ctrl系統で示されないが、これは、NRP-2の発現が抑制されたColo320siRNA-NRP-2系統において強く発現される。
【0065】
この実験は、ニューロピリン-2の存在とp53の発現との間に負の相関関係が存在することを確実にする。
これらのデータは、ニューロピリン-2発現の阻害が、p53発現の増加を可能にすることを示す。
【0066】
実施例4:腫瘍細胞成長に対するITAC-B1抗体の影響
半固形寒天培地での腫瘍コロニーの形成についての試験
ITAC-B1抗体が、インビトロでの腫瘍コロニーの形成に対して中和活性を有するかを決定するために、寒天含有半固形寒天培地でのインビトロ腫瘍コロニー形成についての試験を行った。この試験の原理は、Colo320ヒト腫瘍細胞(その膜表面にてNRP-2を発現し、そしてさらに培養培地中にVEGFを天然に分泌する)をITAC-B1抗体と接触させることに基づく。4000個のColo320細胞を24ウェルプレートのそれぞれのウェルに、寒天含有半固形培地中で、10μg/mlの抗NRP-2抗体ITAC-B1の存在下に播種する。比較のために、同じ試験を、証明された作用を有する細胞傷害性薬物、すなわち50μg/mlの量で用いる5-フルオロウラシル(5-FU)若しくは50μg/mlの量で用いるAvastin (登録商標) (ベバシズマブ:VEGFを指向するヒト化モノクローナル抗体)、又は10μg/mlの量で用いる対照アイソタイプ抗体(マウスIgG1モノクローナル抗体(BZ1))の存在下で行う。
播種の10日後に、コロニーを光学顕微鏡の下で計数した。
【0067】
図9は、得られた結果を示す。形成されたコロニーの数をy軸に示す、試験した種々の分子をx軸に示す。
これらの結果は、ITAC-B1抗体の存在下では、5-FUの存在下と同様に、コロニーの数はおよそ40個であり、これに対して、「細胞単独」対照又は陰性対照について140個を超え、細胞をAvastin (登録商標) (ベバシズマブ)の存在下で培養した場合はおよそ120個のコロニーであることを示す。
【0068】
このインビトロ研究から、ITAC-B1抗NRP-2抗体が、それらの表面でNRP-2を発現する細胞の腫瘍コロニーの形成を、Avastin (登録商標) (ベバシズマブ)を用いるよりも効率的な様式でほぼ完全に阻害することがわかる。
【0069】
ニューロピリン-2がVEGFについての共受容体であるので、ITAC-B1の活性が、Colo320細胞により生成されるNRP-2とVEGFとの間の相互作用に依存するかどうかを確認した。この目的を持って、Colo320細胞コロニー形成についての試験を、上記の条件下で、別々に用いるか又は組み合わせたITAC-B1抗体(10μg/ml)、ベバシズマブ(50μg/ml)又は対照抗体(10μg/ml)の存在下で行った。
結果を図10に示す。y軸は、形成されたコロニーの数を示す。x軸上に、培養培地に存在する抗体を「+」で示す。
【0070】
図10は、培養培地中のベバシズマブの存在が、Colo320細胞の増殖にほとんど影響しないことを示す。対照抗体、ベバシズマブ又はこれらの2つの抗体の組み合わせの存在下で観察されたコロニー数は同様であり、「細胞単独」対照を用いて観察されたものとわずかのみ異なる。一方、ITAC-B1抗体の存在下で観察されたコロニー数は、「細胞単独」対照と比較して大きく低下する。さらに、培養培地がITAC-B1抗体及びベバシズマブ(VEGF-Aを中和する)を含有する場合、コロニー数は、培地がITAC-B1抗体単独を含有する場合に観察されるものと同一である。この結果は、ITAC-B1が細胞増殖を、VEGFの存在下及びVEGFの非存在下と等しく効果的に阻害し、よって、ITAC-B1の治療効果が、NRP-2/VEGF相互作用に依存しないことを示す。
【0071】
腫瘍細胞増殖についてのMTTアッセイ:
それらの膜表面にてNRP-2を示すヒト腫瘍細胞の増殖に対するITAC-B1抗体の影響も、上記の実施例3に記載されるようなMTTアッセイを用いて検討した。
100μlの10%非働化FCS含有DMEM培地中のColo320siRNA-ctrl細胞(空のベクターを形質移入した対照細胞)又はColo320siRNA-NRP-2細胞(NRP-2を標的にするsiRNAで形質移入)のウェルあたり4000個の細胞を、96ウェルMaxisorpプレートに播種した。細胞接着の後に、5μg/mlのITAC-B抗NRP-2抗体又は5μg/mlの対照抗体を加えた。24、48又は72時間の培養の後に、PBS中で5 mg/mlに再構成した10μlのMTTを各培養ウェルに加えた。プレートを、次いで、暗所で3時間、37℃及び5% CO2にてインキュベートし、遠心分離し、次いで上清を除去した。次いで、200μlのDMSOを各ウェルに加えた。光学密度を1時間以内に570 nmにて、プレートを振とうした後に読み取った。アッセイは3重で行った。結果を図11に示す。
【0072】
図11のパネルA及びBはそれぞれ、Colo320siRNA-ctrl又はColo320siRNA-NRP-2細胞を用いて行った増殖アッセイで得られた結果を示す。細胞によるフォルマザンの生成を反映する光学密度「OD」をy軸に示し、培養時間をx軸に示す。「細胞単独」対照を◇で示し、対照抗体の存在下で培養した細胞を■で示し、ITAC-B1抗体の存在下で培養した細胞を△で示す。
【0073】
これらの結果は、NRP-2を発現するColo320siRNA-ctrl細胞の場合、ITAC-B1抗体の存在下での増殖が、細胞単独のもの及び対照抗体の存在下で観察されるものより低いことを示す。一方、Colo320siRNA-NRP-2細胞の場合、ITAC-B1抗体の存在下での増殖は、対照細胞のもの及び対照抗体の存在下で観察されるものと同一である。ITAC-B1抗体は、よって、表面にてNRP-2を示す細胞(Colo320siRNA-ctrl細胞)の増殖を特異的に遅くし、NRP-2を発現しない細胞(Colo320siRNA-NRP-2細胞)の増殖を遅くしない。
【0074】
実施例5:ITAC-B1抗体は、ニューロピリン-2を発現する腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する能力を有する
NRP-2を発現する腫瘍細胞のアポトーシスを誘導するITAC-B1抗体の能力を決定するために、インビトロアネキシンV-APCアポトーシス試験を行った(BD Pharmingen, San Diego, CA)。この試験は、アポトーシス細胞によるホスファチジルセリンの外在化とこの分子へのアネキシンV-APCの結合とに基づく。
【0075】
I - ITAC-B1単独のアポトーシス促進効果
1 mlの10%の非働化FCS含有DMEM培地及び100000個のHT29-NRP-2細胞又は100000個のHT29ctrl細胞を、ウェルあたりに、24ウェルNuncプレートに播種した。細胞接着の後に(3時間)、3つの濃度のITAC-B抗NRP-2抗体(0.5μg/ml、1μg/ml及び5μg/ml)を種々のウェル中で試験した。並行して、「細胞単独」対照を、陰性対照(ITAC-B1抗体と同じ濃度の抗ヒトマウスIgG1抗体(BZ1))と同様に行った。
16時間のインキュベーションの後に、培養上清を排出し、500μlのトリプシン-EDTAを各ウェルに加え、10分間接触させた。細胞が剥離し始めたら、500μlのDMEM培地-10% FCSをウェルあたりに加えた。細胞を、次いで遠心分離し、PBSで2回洗浄し、次いで300μlの1×結合バッファー(キットにおいて提供される)中に採集し、5μlのアネキシンV-APCをその後、100μlのこの溶液に加えた。ITAC-B1抗体及び対照抗体の濃度の関数としてのアネキシンV-APCで標識された細胞集団のフローサイトメトリー分析を、図12に示す。
【0076】
図12のパネルのそれぞれについて、事象の数(細胞の数)をy軸に示し、蛍光強度(アネキシンV-APCでの細胞の標識に相当する)をx軸に示す。パネルA、C及びEは、HT29-NRP-2細胞を用いて行った実験を示し、パネルB、D及びFは、HT29ctrl細胞を用いて行った実験を示す。ITAC-B1抗体の濃度が0.5μg/mlである実験を、図12のパネルA及びBに示す。ITAC-B1抗体の濃度が1μg/mlである実験を、図12のパネルC及びDに示し、ITAC-B1抗体の濃度が5μg/mlである実験を、図12のパネルE及びFに示す。それぞれのパネルについて、分布曲線(1)は細胞単独を示し、分布曲線(2)は対照マウスアイソタイプ抗体の存在下で培養した細胞を示し、分布曲線(3)は、ITAC-B1抗体の存在下で培養した細胞を示す。
【0077】
NRP-2を発現するHT29-NRP-2細胞を用いて行った実験を示すパネルC及びEについて、右のほうへのシフトが、それぞれ、1及び5μg/mlの濃度のITAC-B1抗体に相当する分布ピークについて観察される。分布ピークのこのシフトは、「細胞単独」及び「対照抗体」の対照について観察されない。この結果は、アポトーシスが、NRP-2を発現する細胞において、培養培地中の1μg/mlのITAC-B1抗体から開始して特異的に誘導されることを示す。
【0078】
NRP-2を発現しないHT29ctrl細胞を用いて行った対応実験に関して、以下の条件:細胞単独及び対照抗体及びITAC-B1-抗体対照を示す曲線が重なり、このことは、ITAC-B1抗体が、NRP-2を発現しない細胞のアポトーシスを引き起こさないことを示す。
ITAC-B1抗体が、1μg/ml以上の用量にて、その細胞表面でNRP-2を発現する細胞のアポトーシスを誘導することが注目される。ITAC-B1により誘導されるアポトーシスは、より高い濃度のITAC-B1がより多くのアポトーシスを導くので、用量依存的である。
これらの実験は、よって、ITAC-B1抗体が、それらの膜表面にてNRP-2を発現する腫瘍細胞(HT29-NRP-2)のアポトーシスを、NRP-2を発現しない細胞(HT29)のアポトーシスを誘導することなく、特異的に誘導することを示す。
【0079】
II - その他の抗癌剤と組み合わせたITAC-B1のアポトーシス促進効果
NRP-2を発現する細胞のアポトーシスを誘導するITAC-B1の能力を評価するための同様の実験を、化学療法において一般的に用いられる2つの抗癌剤である5-FU (5-フルオロウラシル)又はイリノテカンのいずれかの存在下で培養した細胞を用いて行った。この一連の実験において、2.5μg/ml及び5μg/mlのITAC-B1抗体濃度を試験した。並行して、「細胞単独」対照を、2.5μg/ml及び5μg/mlの濃度でのBZ1抗体を用いる対照と同様に行った。5-FU及びイリノテカンを、10μg/mlで用いた。これらの実験の結果を、図13に示す。
【0080】
図13のパネルは、フローサイトメトリー分析の点群図である。パネルのそれぞれについて、蛍光強度(アネキシンV-APCでの細胞の標識に相当する)をx軸に示す。y軸は、細胞の顆粒性(granulosity)を示す(側方散乱又はSSC)。抗体処理条件はパネルの上に示し、5-FU又はイリノテカンでの処理はパネルの右に示す。アネキシンV-APCで標識された細胞のパーセンテージ(アポトーシスに入った細胞のパーセンテージに相当する)を、それぞれのパネルの右下に示す。
【0081】
細胞単独は、およそ12%のアポトーシスを示し、5-FU若しくはイリノテカン単独の存在下又はBZ1対照抗体と組み合わせたものの存在下で培養した細胞は、5-FUの場合におよそ34%〜43%のアポトーシスを、そしてイリノテカンの場合に21%〜35%のアポトーシスを示す。
5-FUとITAC-B1抗体との組み合わせの存在下で培養した細胞のアポトーシスは、培地中のITAC-B1の濃度が2.5μg/mlについて78.5%程度であり、ITAC-B1濃度5μg/mlについて80%程度である。
イリノテカンとITAC-B1との存在下で培養した細胞について、アポトーシスは、ITAC-B1抗体濃度2.5μg/mlについて51%程度であり、5μg/mlの濃度について58%程度である。
これらの結果は、よって、ITAC-B1抗体と抗癌分子との相乗作用を示し、5-FU/ITAC-B1の組み合わせが、試験した条件下で最も有効である。
【0082】
III- ITAC-B1のアポトーシス促進効果は、p53発現と相関する
アポトーシスの誘導をp53発現と相関させるために、Colo320siRNA-ctrl細胞を18時間、27μMの用量のp53の化学的阻害剤であるピフィスリンα(PFTα, Sigma)で前処理した。前処理の後に、細胞を3 mlのPBSで2回洗浄し、24ウェルプレートに、100000細胞/ウェルの割合で、1 mlのRPMI-10% FCS中に入れる。前処理していない細胞を、同じ条件下に置く。細胞を5時間、20μg/mlの対照マウスアイソタイプ抗体(BZ1)又はITAC-B1とインキュベートし、アポトーシスを上記のようにして測定する。
【0083】
図14は、PFTαで前処理したか又は前処理していないColo320siRNA-ctrl細胞を用いて行ったアポトーシス誘導実験の結果を示す。アネキシンV-APCで標識された細胞のパーセンテージをy軸に示し、細胞培養条件をx軸に示す(培地からなる対照、対照アイソタイプ抗体-BZ1-を補った培地からなる対照、ITAC-B1抗体を補った培地からなる試験)。PFTαで前処理した細胞を用いて行った試験の結果を淡い灰色で示し、前処理していない細胞を用いて行った試験の結果は濃い灰色で示す。
【0084】
培地からなる対照及び対照抗体を補った培地からなる対象において、アネキシンV-APCでの標識は、細胞がPFTαで処理されていてもいなくても同様であったが、ITAC-B1抗体の存在下で培養した細胞は、それらがPFTαで前処理されている場合により弱く標識されることが注目される(およそ28%の標識 対 前処理していない細胞について41%)。
これらの結果は、PFTαでの前処理が、ITAC-B1依存性アポトーシスを妨げることを示す。ITAC-B1により誘導されるアポトーシスは、よって、p53発現に依存するようである。
【0085】
IV - ITAC-B1のアポトーシス促進効果はVEGF非依存性である
細胞をITAC-B1抗体で処理する間に観察されたアポトーシス効果が、NRP-2とのVEGFの結合に依存するかを決定するために、NRP-2を発現するHT29-NRP-2細胞(そしてこれは、Colo320細胞と同様に、VEGFを培養培地中に天然に分泌する)を、50μg/mlでの抗VEGFヒト化モノクローナル抗体Avastin (登録商標) (ベバシズマブ)の存在下で培養し、細胞を、次いで、20μg/mlの対照マウスアイソタイプ抗体(BZ1)又はITAC-B1の存在下で6時間インキュベートした。誘導されたアポトーシスは、上記のようにアネキシンV-APCで標識することにより測定した。結果を図15に示す。
【0086】
図15のパネルは、フローサイトメトリー分析の点群図である。それぞれのパネルについて、蛍光強度(アネキシンV-APCでの細胞の標識に相当する)をx軸に示す。y軸は、細胞の顆粒性(側方散乱)を示す。抗体及びAvastin (登録商標)での処理条件をパネルの左に示す。アポトーシスに入った細胞のパーセンテージに相当する、アネキシンV-APCで標識された細胞のパーセンテージを、それぞれのパネルの右上に示す。
Avastin (登録商標)あり又はなしでBZ1対照抗体の存在下で培養した細胞は、それぞれ12%及び13%のアポトーシスを示す。ITAC-B1抗体の存在下で培養したHT29-NRP-2細胞のアポトーシスは51%程度であり、細胞のおよそ58%がAvastin (登録商標)で前処理された。
これらの結果は、VEGFの中和が、アポトーシスを誘導するITAC-B1抗体の能力を損なわないことを明確に示し、よって、ITAC-B1抗体のアポトーシス促進特性がVEGF非依存性であることが確認される。
【0087】
実施例6:ITAC-B1は、AKTタンパク質のVEGFR1受容体のリン酸化に影響しない
VEGF受容体(VEGFR1)のリン酸化の程度と、VEGF受容体により活性化されるAKTタンパク質のリン酸化に対するITAC-B1抗体の可能性のある効果を、HT29-NRP-2及びColo320siRNA-ctrl腫瘍細胞について調べた。
細胞を24時間、RPMI培地 + 10% FCS中で、20μg/mlのBZ1対照抗体、20μg/mlのITAC-B1又は50μg/mlの5-FUの存在下で培養した。「未処置細胞」対照を加えた(「培地」対照)。細胞を、次いで、単離して溶解し、VEGFR-1及びAKTのリン酸化を、非リン酸化VEGFR1 (抗VEGFR1ウサギポリクローナル抗体)若しくはリン酸化VEGFR1 (抗ホスホ-VEGFR1Tyr1213ウサギポリクローナル抗体, R&D systems)を指向する抗体、又は非リン酸化AKT(ウサギポリクローナル抗体C67E7, Cell Signaling technology)若しくはリン酸化AKT (抗ホスホ-AKTSer473ウサギポリクローナル抗体DE-9, Cell Signaling technology)を指向する抗体を用いる細胞タンパク質抽出物についてのウェスタンブロッティングにより評価した。結果を図16及び17に示す。
【0088】
これらの結果は、VEGFRのリン酸化状態並びにAKTの量及びそのリン酸化状態が、細胞がITAC-B1で処理されているか否かにかかわらず同様であることを示し、このことは、この抗体の影響がVEGF/VEGFRシグナル伝達経路に連結しないことを示す。
【0089】
実施例7:VEGFとITAC-B1により認識されるニューロピリン-2エピトープとの間のいずれかの相互作用の探索
ニューロピリン-2の認識についてVEGFaとITAC-B1との間でのいずれかの競合を示すために、ニューロピリン-2を発現するHT29-NRP-2腫瘍細胞を、VEGF (1000 ng/ml)とともに又はなしで15分間プレインキュベーションした。これらの細胞を、次いで、ITAC-B1抗体又は対照アイソタイプ抗体 (BZ1抗体)とインキュベートし、上記の実施例2に記載されるようにしてフローサイトメトリーにより分析した。
これらの結果を、図18に示す。これらの結果は、VEGFaの存在が、腫瘍細胞とのITAC-B1の結合を妨げないことを示す。
【0090】
実施例8:ITAC-B1及びITAC-B2抗体は、P53タンパク質の発現を誘導する能力を有する
ニューロピリン-2が、p53の発現を、HT29系統において変更し、それをColo320siRNA-NRP-2系統において回復する能力を有することを示した後で、HT29-NRP-2及びColo320siRNA-ctrlのようなニューロピリン-2を発現する系統におけるp53の発現に対するITAC-B1抗体の影響を検討した。
HT29、HT29-NRP-2、Colo320siRNA-ctrl及びColo320siRNA-NRP-2腫瘍細胞を、20μg/mlのITAC-B1抗体又は対照抗体に曝露し、48時間培養した。株化細胞の溶解、10%ポリアクリルアミドゲル上で得られたタンパク質ペレットの泳動(ウェルあたり10μgのタンパク質)及びPVDFメンブレンへのその後のトランスファーの後に、メンブレンを、1/500に希釈した抗p53一次抗体(BD Biosciences, マウス抗ヒトp53)と1晩インキュベートした。TBS/0.1% Tween20で洗浄した後に、メンブレンを1時間、1/6000に希釈した抗マウスIgG-HRP二次抗体とインキュベートした。結果を図19に示す。
【0091】
これらの結果は、p53タンパク質が、NRP-2を発現しないHT29-ctrl及びColo320siRNA-NRP-2系統において、培地中にITAC-B1抗体が存在するか否かにかかわらず、強く発現されることを示す。NRP-2を発現するHT29-NRP-2及びColo320siRNA-ctrlを単独又は対照抗体の存在下で培養した場合、p53は検出されないが、培養培地中にITAC-B1抗体が存在することは、p53の発現を部分的に回復する。これらの結果は、よって、それらの膜表面でNRP-2を発現する細胞(HT29-NRP-2及びColo320siRNA-ctrl)をITAC-B1で処理することにより、腫瘍系統におけるp53の発現が回復することを示す。
この実験は、ニューロピリン-2の存在とp53の存在との間に負の相関関係が存在し、ITAC-B1が、p53発現のレベルを調節できる元々の能力を有することを確実にする。
【0092】
実施例7:インビボでの抗悪性腫瘍治療の効果を強化するためのITAC-B1抗体の使用
HT29-NRP-2腫瘍細胞を、20匹の免疫不全マウスに、マウスあたり1×106細胞の割合で、右側腹部に皮下注射した。注射の10日後に、腫瘍はおよそ5 mm×5 mmと測定される。同等の腫瘍を有する3匹のマウスの4群を作製した。各群に、PBS (対照群A)又はITAC-B1抗体(群B)又は5-FU (群C)又は5-FUとITAC-B1抗体(D群)のいずれかを腹腔内で与えた。
化学療法プロトコルは、図20に模式的に示す。
上記のプロトコルに従って、群Bに、ITAC-B1を、D0 (12 mg/kg)、D3 (6 mg/kg)、D7 (12 mg/kg)及びD10 (6 mg/kg)にて接種した。群Cに、20 mg/kgの5-FUを、D0〜D4にて、そして100 mg/kgをD9にて接種した。群Dに、ITAC-B1を、D0 (12 mg/kg)、D3 (6 mg/kg)、D7 (12 mg/kg)及びD10 (6 mg/kg)に、そして20 mg/kgの5-FUをD0〜D4にて、100 mg/kgの5-FUをD9にて接種した。
腫瘍を週に2回測定し、腫瘍の量を、式:V(mm3) = d2×D/2を用いて算出した。これらの測定の結果を図21に示す。
【0093】
図21は、時間の関数としての腫瘍量を示す。A群(PBS対照)を(◇)で示し、B群(ITAC-B1抗体を接種したマウス)を(■)で示し、C群(5-FUを接種したマウス)を(△)で示し、D群(ITAC-B1抗体及び5-FUの両方を接種したマウス)を(×)で示す。
腫瘍量の減少が、D14から開始して、ITAC-B1抗体又は5-FUを接種したマウスで観察される。この減少は、5-FU/ITAC-B1の組み合わせの処置の間により著しい。
これらの結果は、ITAC-B1抗体が、インビボで腫瘍成長を遅くできることを示す。さらに、ITAC-B1と組み合わせた5-FUで処置したマウスが、5-FU単独又はITAC-B1単独で処置したマウスと比較して腫瘍成長の最大の遅延を経験するので、これらの結果は、ITAC-B1抗体の使用が、5-フルオロウラシルの有効性を強化することを明確に示す。
【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図5A】

【図5B】

【図5C】

【図5D】

【図17】

【図1】

【図3】

【図4−1】

【図4−2】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトニューロピリン-2を発現する腫瘍細胞へのその結合が、該腫瘍細胞のアポトーシスを誘導することを特徴とする抗ヒトニューロピリン-2抗体。
【請求項2】
i) それぞれ配列番号2及び配列番号4の配列で規定される、ITAC-B1抗体の重鎖の可変ドメインと軽鎖の可変ドメインとを含む抗体;
ii) それぞれ配列番号6及び配列番号8の配列で規定される、ITAC-B2抗体の重鎖の可変ドメインと軽鎖の可変ドメインとを含む抗体
から選択される請求項1に記載の抗ヒトニューロピリン-2抗体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗体の重鎖のCDR3と軽鎖のCDR3とを少なくとも含むことを特徴とするヒトニューロピリン-2のリガンド。
【請求項4】
ITAC-B1又はITAC-B2抗体の重鎖及び軽鎖のCDR2及び/又はCDR1も含むことを特徴とする請求項3に記載のヒトニューロピリン-2のリガンド。
【請求項5】
抗腫瘍医薬品を得るための、請求項1若しくは2に記載の抗体又は請求項3若しくは4に記載のリガンドの使用。
【請求項6】
前記医薬品が、ヒトニューロピリン-2を発現する腫瘍細胞のアポトーシスを、該細胞のp53発現を増加させることにより誘導することを特徴とする請求項5に記載の使用。

【公表番号】特表2012−500832(P2012−500832A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524427(P2011−524427)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【国際出願番号】PCT/FR2009/001035
【国際公開番号】WO2010/023382
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(511048351)
【氏名又は名称原語表記】DIACLONE
【住所又は居所原語表記】1, bd Alexandre Fleming, F−25000 Besancon, FRANCE
【出願人】(511048362)
【氏名又は名称原語表記】EFS BOURGOGNE FRANCHE COMTE
【住所又は居所原語表記】1, bd Alexandre Fleming, F−25000 Besancon, FRANCE
【出願人】(511048373)ユニヴェルシテ ド フランシュ コンテ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE FRANCHE COMTE
【住所又は居所原語表記】1, rue Claude Goudimel, F−25000 Besancon, FRANCE
【Fターム(参考)】