説明

癌を処置するためのネイティブIGFBP−3および変異型IGFBP−3のレンチウイルスベクター送達

癌を処置するための、ネイティブIGFBP−3のレンチウイルス送達が、記載されている。癌を処置するための、変異型IGFBP−3のレンチウイルス送達もまた、記載されている。本発明はまた、ポリペプチドを発現するための方法であって、その方法は、標的哺乳動物細胞中に、DNA構築物を安定に導入する工程であって、そのDNA構築物は、正常(IGFBP−3)ポリペプチドもしくは変異型IGFBP−3(mIGFBP−3)ポリペプチドまたはそれらの機能的改変体をコードする、ヌクレオチドを含み、このDNA構築物は、レンチウイルス遺伝子送達ビヒクル中に含まれる、工程を包含する、方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、インスリン増殖因子結合タンパク質−3(IGFBP−3)遺伝子またはIGFBP−3遺伝子の変異型バージョン(mIGFBP−3)を含むレンチウイルスベクターを、上記遺伝子が、標的組織において、分泌型の生物活性IGFBP−3タンパク質またはmIGFBP−3タンパク質を産生するように発現される様式で患者に投与することによって、癌または悪性疾患を処置するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
正常な細胞分裂および正常な細胞移動は、身体において高度に調節されている。この調節系は、細胞恒常性と称され、数種の機構を利用して細胞を監視状態に保つ。細胞増殖を調節するための主要な機構としては、可溶性媒介物質(例えば、増殖因子)を通じた外部のシグナル伝達、細胞接触阻止(cell contact inhibition)を介した細胞増殖の遅延、特異的な細胞表面のレセプター−リガンド相互作用を通じた細胞接着、および細胞分化が挙げられる。
【0003】
癌の発生は、最初に非特許文献1に記載された多段階プロセスである。正常細胞は、そのDNA内に遺伝的変異(例えば、ヌクレオチドの置換、欠失、および再配置)を蓄積する。重要な調節遺伝子における複数のこれらの変異の蓄積は、多くの場合、接触阻止の損失、細胞接着の損失、および細胞分化の損失、ならびにそれらの意図された機能を実行することができないことに起因して、細胞ホメオスタシスの損失を生じる。さらに、細胞生存とプログラム細胞死(アポトーシス)との間のバランスは、変化され得る。これらの遺伝的変異の結果として、癌細胞は、細胞分裂を制御下に保つための調節性エレメントを失っており、そして組織または器官中の正常細胞に対する増殖上の利点と、転移として離れた組織および器官に移動する能力との両方を獲得している。
【0004】
成長因子およびその特異的細胞表面結合タンパク質と細胞内結合タンパク質とは、外部環境と細胞との間を連絡する重要な導管を形成する。増殖因子に対する結合タンパク質の例としては、上皮増殖因子(非特許文献2;非特許文献3)、神経成長因子(非特許文献4;非特許文献5)、インスリン様増殖因子(IGF−IおよびIGF−II)(非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9)、インスリン(非特許文献10)、血小板由来成長因子(非特許文献11)、およびトランスホーミング増殖因子(非特許文献12;非特許文献13;非特許文献4)が挙げられる。ヘパリン結合増殖因子のファミリーとしては、酸性および塩基性のFGF、K−FGF、Int−2、FGF−5、KGF、およびFGF−7が挙げられる(非特許文献14;非特許文献15;非特許文献16)。これらの増殖因子は、増殖刺激、新脈管形成、創傷治癒、および組織再生のような生物学的プロセスに関連している(非特許文献14;非特許文献16;非特許文献17)。
【0005】
IGFシグナル伝達系は、身体中の多くの組織の増殖および発生において重要な役割を果たす。このIGF系は、2つのリガンド(IGF−IおよびIGF−II)、細胞表面レセプターIGF−1RおよびIGF−2R、ならびにIGF結合タンパク質(IGFBP)1〜6(非特許文献18)を含む。IGF−IおよびIGF−IIは、種々の組織によって産生される増殖因子であり、細胞の生存および増殖に必要とされる。IGF−IおよびIGF−IIの両方は、IGF−1Rに結合するのに対して、IGF−2Rは、IGF−IIにのみ結合する。このIGFBPは、循環および細胞外空間におけるIGFの半減期ならびにバイオアベイラビリティに影響する。IGFBP−3は、優勢なIGFBPであり、IGF−IおよびIGF−IIの75%を隔離する(sequester)(非特許文献19)。血液中で、IGF−IGFBP−3は、第3のタンパク質である酸性不安定サブユニット(acid labile subunit)(ALS)と複合体化する。細胞外空間において、このIGF−IGFBP−3複合体は、優性な形態である。IGFBPのうちでインスリンに結合するものはない。
【0006】
IGFBP−3は、MartinおよびBaxterにより概説されている[非特許文献20;非特許文献21]。IGFBP−3は、正常な成体血清において、およそ6mg/Lの濃度で、多くの場合IGF−IまたはIGF−IIとALSとの複合体で見出される。代謝状態または疾患状態において、IGFBP−3のレベルは、このレベルから変動し得る。組換えIGFBP−3の発現および精製は、特許文献1に記載されている。精製タンパク質は、IGF−IおよびIGF−IIに対する高い親和性を有する(非特許文献22)。IGFBP−3は、以下の他の種において記載されている:例えば、ラット(非特許文献23)、マウス(非特許文献24)、およびウシ(非特許文献25)。
【0007】
インビトロでの実験は、IGFBP−3が、IGFシグナル伝達に依存せずに、細胞に対する増殖、移動、およびアポトーシスへの感受性に関して、その影響を発揮し得ることを示している。IGFBP−3は、細胞表面または細胞外マトリックスに結合する(非特許文献26)。非特許文献27は、IGFBP−3が、IGF−IまたはIGF−IIとは独立してヒト乳癌細胞の増殖を阻害することを示した。非特許文献28は、前立腺癌細胞が、IGFBP−3の添加の際に、アポトーシスを受けることを実証した。非特許文献29は、IGFBP−3が変異してIGF−IもしくはIGF−IIに結合することが出来ない場合に、前立腺癌細胞が依然としてアポトーシスを受けることを実証した。非特許文献30は、肺癌細胞の増殖を阻害するためにアデノウイルスベクターによって送達されたIGFBP−3によるこれらの細胞の感染を記載する。結腸癌細胞におけるIGFBP−3レベルの上昇は、細胞死の増加を生じた(非特許文献31)。
【0008】
Hongらは、ヒトIGFBP−3のN末端領域における6つの位置に変異を導入し、これらの変異は、IGF−IおよびIGF−IIへの結合を消滅させたことを示した。この変異型IGFBP−3(mIGFBP−3)は、DNA合成を阻害し得、前立腺癌細胞においてアポトーシスを誘導し得た。前立腺癌細胞に対するこの効果は、ネイティブIGFBP−3と同じ濃度において生じた。このことは、IGFBP−3がアポトーシスを誘導する能力の主要な機構が、IGF−IおよびIGF−IIへの結合ならびにIGF−IおよびIGF−IIの隔離とは無関係であることを示唆する。IGF−IおよびIGF−IIに結合し得るIGFBP−3、ならびにIGF−IおよびIGF−IIへの結合を消滅させるIGFBP−3内の変異の両方は、前立腺癌細胞において、癌の増殖を阻害し得、アポトーシスを誘導し得る。mIGFBP−3は、IGF−IレベルまたはIGF−IIレベルの変動が、患者の処置に対して所望されない効果を有する条件下において、処置において治療的な利点を有し得る。
【0009】
IGFBP−3系の変動は、癌の進行に関与している。IGFBP−3レベルの減少は、前立腺癌(非特許文献32)および進行段階の卵巣癌(非特許文献33)に相関する。ヒトパピローマウイルスのE7タンパク質は、IGFBP−3の結合に関与しており、そして頸部の癌の発症における重要な要因であり得る(非特許文献34)。
【0010】
癌治療についてのIGFBP−3タンパク質またはmIGFBP−3タンパク質の使用に伴う1つの問題は、他のタンパク質についてと同様に、腫瘍部位におけるその濃度の変動である。腫瘍部位に対してボーラスとして送達されるか、または静脈内注入を介して全身性に送達されたIGFBP−3タンパク質またはmIGFBP−3タンパク質は、タンパク質濃度の急上昇(spike)を引き起こし、その後の除去および分解が続く。このことは、腫瘍部位におけるタンパク質濃度が治療レベル以下となる可能性を生じる。例として、Intron−A(登録商標)(インターフェロン−α,Schering,Kenilworth,NJ)およびProleukin(インターロイキン−2,Chiron,Emeryville,CA)は、それぞれおよそ2時間および1.5時間の排泄半減期(elimination half life)を有する(各製品に関するパッケージ挿入物を参照のこと)。タンパク質のペグ化は、多くの場合、治療用タンパク質の半減期を延長させる(非特許文献35)。しかし、患者はなお、タンパク質濃度を治療レベルに上昇させるための再処置を必要とする。長期の患者の処置の間、IGFBP−3タンパク質およびmIGFBP−3タンパク質の複数回の送達が、腫瘍増殖を阻害するために必要とされる。短い半減期の治療用タンパク質(例えば、インターロイキン−2およびインターフェロン−α)については、患者の処置は、1日に1〜3回の頻度であり得る。腫瘍または悪性疾患を改善するために必要とされる長期にわたって一定の治療用量を送達することが、実質的に必要とされる。
【0011】
治療レベルのIGFBP−3およびmIGFBP−3を送達するための代替的アプローチとしては、プロモーターに作動可能に連結されたIGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子を細胞中に送達し、次いで、この細胞が、生物活性IGFBP−3タンパク質または生物活性mIGFBP−3タンパク質を合成および分泌する工程が挙げられる。裸の(naked)DNAおよびリポソームコーティングされたDNAは、2つの確立された、非ウイルス式の、細胞中への遺伝子送達方法である。しかし、これらの方法は、治療用タンパク質の一過性の発現を引き起こし(非特許文献36)、そして最大の治療的処置のために必要とされる一定レベルの長期送達のためには適切ではない。非ウイルス送達システムのさらなる欠点は、細胞の防御システムの結果として、治療効果のために大量の裸のDNAが必要とされることである(非特許文献37)。
【0012】
ウイルス遺伝子送達系は、非特許文献36および非特許文献38に記載されている。一般的なウイルス系としては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、およびレトロウイルスが挙げられる。これらの系は、種々の遺伝子を送達して、細胞の遺伝的障害を改善するために使用されている。これらはまた、患者への直接投与か、または細胞のエキソビボ処理と、その後のこれらの細胞の動物または患者への再導入かのいずれかによって、動物およびヒトにおける遺伝的疾患を矯正するために使用されている。しかし、アデノウイルスベクターおよびAAVベクターは、宿主細胞中に組込まれず、したがってタンパク質を一過性に発現し、このこともまた、長期の治療処置のためには患者への再投与を必要とする。レトロウイルス配列は宿主細胞に組み込まれるが、多くの場合、宿主細胞によるこれらのプロモーター領域のメチル化によって、数週間後には不活性化される(非特許文献39;非特許文献40)。
【0013】
レンチウイルスベクターは、他の遺伝子送達系に対して数点の利点を有する。これは、哺乳動物細胞への外来遺伝子の形質転換のために非常に有効であり、非分裂細胞を形質転換し得、治療用タンパク質の長期発現を方向付け得る。このベクターは、宿主細胞ゲノム中に組込まれ得、導入遺伝子の安定した産生をもたらし、そしてこれは、インビトロでもインビボでも有効に送達され得る(非特許文献41)。
【0014】
レンチウイルスベクターは、種々の遺伝的疾患および後天的疾患の処置のために使用するために開発および標的化されてきた(非特許文献42;非特許文献43)。ヒト疾患の処置に関するレンチウイルスベクターの主な焦点は、CNS疾患の処置(例えば、リソソーム蓄積疾患、ハンチントン病およびパーキンソン病の処置)のためのニューロンへの遺伝子移送、リンパ−血液疾患(例えば、鎌状赤血球、β−サラセミア)の処置ならびに血友病のための造血性前駆体細胞への遺伝子移送に対して、そしてHIV感染に対する適用に対してである(非特許文献44;非特許文献45;非特許文献46;非特許文献47)。
【0015】
レンチウイルスベクターの用途についての数個の報告が、腫瘍学における潜在的用途に関して存在する。レンチウイルスベクターは、免疫原性タンパク質を送達して癌細胞を不活性化するために、抗癌ワクチンを産生するために、エキソビボで使用されており(非特許文献48;非特許文献49)、樹状細胞に免疫調節性タンパク質を送達して抗腫瘍応答を刺激するためにエキソビボで使用されており(非特許文献50)、そして、癌細胞を直接的に死滅させようとして、毒素(例えば、ジフテリア毒)(非特許文献51)、自殺遺伝子(例えば、HSVチミジンキナーゼ)(非特許文献52;非特許文献53)、またはトランスポータータンパク質(非特許文献54)を送達するために使用されている。しかし、細胞レポーターを介して作用して癌細胞の増殖を緩和する細胞外溶解性タンパク質モジュレーターの置き換えを目標としたレンチウイルス治療の用途についての報告はない。
【0016】
癌治療における焦点は、医学会において優先度が高いものであるが、この疾患のセットの進行に対処するために、新しい処置が必要とされる。ほとんどの癌の処置は、高い毒性プロフィールを有し、患者によって許容されない。全身性に送達されることなく腫瘍部位に標的化される新規の治療分子は、副作用を最低限にしながら改善した薬物効果を提供する見込みがある。
【0017】
IGFBP−3およびmIGFBP−3は、前立腺癌、乳癌、結腸癌および肺癌、ならびにおそらく他の型の癌の処置に関して高い有望性を示す。ほとんどの治療と同様に、投薬レベルは、このタンパク質の最大の効能のために重要である。理想的には、長期にわたる(すなわち、6ヶ月より長い)一定の用量のIGFBP−3タンパク質およびmIGFBP−3タンパク質の送達は、前立腺、乳、結腸、卵巣、頸部、および肺の腫瘍もしくは悪性疾患の軽減のための、最も主要な処置である。
【特許文献1】米国特許第5,258,287号明細書
【非特許文献1】Knudson「Proc.Nat.Acad.Sci.」1971年,第68巻,820〜3頁
【非特許文献2】Taylorら「Proc.Nat.Acad.Sci.」1970年,第67巻,164〜71頁
【非特許文献3】Taylorら「J.Biol.Chem.」1974年,第249巻,3198〜203頁
【非特許文献4】Kanzakeら「Cell」1990年,第61巻,1051〜61頁
【非特許文献5】Dennisら「J.Biol.Chem.」1989年,第264巻,7210〜6頁
【非特許文献6】Zapfら「Arch.Biochem.Biophys」1975年,第168巻,638〜45頁
【非特許文献7】CohenおよびNissley「Acta Endocrinol.」1976年,第83巻,243〜58頁
【非特許文献8】Mosesら「Nature」1976年,第263巻,137〜40頁
【非特許文献9】HintzおよびLiu「J.Clin.Endocrinol.&Metab.」1977年,第45巻,988〜95頁
【非特許文献10】Hoffimanら「Exp.Cell Res.」1973年,第80巻,275〜80頁
【非特許文献11】Huangら「Proc.Nat.Acad.Sci」1989年,第81巻,342〜6頁
【非特許文献12】O’Connor−McCourtおよびWakefield「J.Biol.Chem」1987年,第262巻,14090〜9頁
【非特許文献13】Huangら「J.Biol.Chem」1988年,第263巻,1535〜41頁
【非特許文献14】BurgessおよびMaciag「Ann.Rev.Biochem」1989年,第58巻,575〜606頁
【非特許文献15】Finchら「Science」1989年,第245巻,752〜5頁
【非特許文献16】Gospodarowiczら「Mol.Cell.Endocrinol.」1986年,第46巻,187〜204頁
【非特許文献17】Kanら「Proc.Nat.Acad.Sci.」1989年,第86巻,7432〜6頁
【非特許文献18】LeRoithおよびRoberts「Cancer Lett.」2003年,第195巻,127〜37頁
【非特許文献19】FirthおよびBaxter「Endocrine Rev.」2002年,第23巻,824〜54頁
【非特許文献20】MartinおよびBaxter「Growth Regul.」1993年,第3巻,62〜5頁
【非特許文献21】Baxter「Growth Horm.IGF Res.」2000年,第10巻(補遺A),S10−1
【非特許文献22】MartinおよびBaxter「J.Biol.Chem.」1986年,第261巻,8754〜60頁
【非特許文献23】BaxterおよびMartin「Biochem.Biophys.Res.Comm.」1987年,第147巻,408〜15頁
【非特許文献24】Schullerら「Mol.Cell.Endocrinol.」1994年,第104巻,57〜66頁
【非特許文献25】Sprattら「Biochem.Biophys.Res.Commum.」1991年,第177巻,1025〜32頁
【非特許文献26】MohanおよびBaylink「J.Endocrin.」2002年,第175巻,19〜31頁
【非特許文献27】Oh「Breast Cancer Res.Treat.」1998年,第47巻,283〜93頁
【非特許文献28】Rajahら「J.Biol.Chem.」1997年,第272巻,12181〜8頁
【非特許文献29】Hongら「J.Biol.Chem.」2002年,第277巻,10489〜97頁
【非特許文献30】Leeら「Cancer Res.」2002年,第62巻,3530〜7頁
【非特許文献31】Collardら「Carcinogenesis」2003年,第24巻,393〜401頁
【非特許文献32】Hampelら、「J.Urol.」、1998年、第159巻,2220〜5頁
【非特許文献33】Katsarosら、「Eur.J.Cancer」、2001年、第37巻,478〜85頁
【非特許文献34】Mannhardtら、「Mol.Cell.Biol.」、2000年、第20巻,6483〜95頁
【非特許文献35】HarrisおよびChess、「Nat.Rev.Drug Discov.」、2003年、第2巻,214〜21頁
【非特許文献36】Romanoら、「Stem Cells」、2000年、第18巻,19〜39頁
【非特許文献37】Crystal、「Nat.Med.」、1995年、第1巻,15〜7頁
【非特許文献38】Mahら、「Clin.Pharmacokin.」、2002年、第41巻,901〜11頁
【非特許文献39】Duchら、「J.Virol.」、1994年、第68巻,5596〜601頁
【非特許文献40】ChangおよびHe、「Curr.Opin.Mol.Therap.」、2001年、第3巻,468〜75頁
【非特許文献41】Naldini、「Curr.Opin.Biotechnol.」、1998年、第8巻,457〜63頁
【非特許文献42】GalimiおよびVerma、「Curr.Topics Micro.Immunol.」、2001年、第261巻,245〜54頁
【非特許文献43】Klimatchevaら、「Front.Biosci」、1999年、第4巻、D481〜96
【非特許文献44】YeeおよびZaia、「Som.Cell Mol.Genet.」、2001年、第26巻,159〜74頁
【非特許文献45】DeglonおよびAebischer、「Curr.Topics Micro.Immunol.」、2001年、第261巻,191〜210頁
【非特許文献46】SalmonおよびTrono、「Curr.Topics Micro.Immunol.第261巻,211〜28頁
【非特許文献47】AmadoおよびChen、「Curr.Topics Micro.Immunol.」、第261巻,229〜44頁
【非特許文献48】Nawrockiら、「Expert Opin.Biol.Ther.」、2001年、第1巻,193〜204頁
【非特許文献49】Koyaら、「Leukemia、」2002年、第16巻,1645〜54頁
【非特許文献50】Stripeckeら、「Blood Cells Mol.Dis.」、2003年、第31巻,28〜37頁
【非特許文献51】Yuら、「Cancer Gene Ther.」、2001年、第8巻,628〜35頁
【非特許文献52】Kongら、「In Vivo」、2003年、第17巻,153〜6頁
【非特許文献53】Del Palmaら、「Nat.Med.」、2003年、第9巻,789〜95頁
【非特許文献54】Dingliら「Gene Ther.」、2003年、第102巻,489〜96頁
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0018】
(発明の要旨)
本発明は、腫瘍または悪性疾患部位における治療レベルのIGFBP−3またはmIGFBP−3の産生のための方法に関する。標的組織において活性なプロモーターに作動可能に連結したIGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子を含有するレンチウイルスベクターが、腫瘍部位またはその近くに送達される。レンチウイルスベクターは、プロモーターに作動可能に連結されたIGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子を、細胞内に送達し、その細胞においてその遺伝子が、細胞DNAの中に安定に組込まれる。上記プロモーターは細胞から分泌される生物活性IGFBP−3タンパク質または生物活性mIGFBP−3タンパク質の合成を命令する。生物活性IGFBP−3タンパク質または生物活性mIGFBP−3タンパク質は、癌細胞の細胞周期を阻害し、前立腺癌、乳癌、結腸癌および肺がんにおいてアポトーシスを誘導する。
【0019】
前立腺癌、乳癌、結腸癌、卵巣癌、子宮頸部癌および肺癌を、レンチウイルスベクターにより送達されるIGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子を用いて処置することは、長期の安定なIGFBP−3タンパク質の発現を生じる。レンチウイルスベクターにより命令された外因性IGFBP−3タンパク質または外因性mIGFBP−3タンパク質の発現は、腫瘍増殖を抑制し、前立腺癌、乳癌、結腸癌、卵巣癌、子宮頸部癌および肺癌において癌細胞のアポトーシスを誘導する。
【0020】
本発明者らは、患者において腫瘍部位で局所的な治療レベルのIGFBP−3タンパク質およびmIGFBP−3タンパク質を発現する、IGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子を含有するレンチウイルスベクターを送達することにより、前立腺癌、乳癌、結腸癌、卵巣癌、子宮頸部癌および肺癌を処置するための方法を記載する。上記方法は、レンチウイルスベクターを、直接注入(単なる直接注入ではなく種々の送達方法が特定される「発明の詳細な説明」の「送達」を参照のこと)を使用して腫瘍部位または近くに投与する工程を包含する。上記IGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子を含有するレンチウイルスベクターは、他の癌処置と一緒に送達され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(発明の詳細な説明)
本発明は、腫瘍部位において治療有効量のIGFBP−3またはmIGFBP−3を送達するプロモーターに作動可能に連結されたIGFBP−3またはmIGFBP−3の遺伝子を有するレンチウイルスベクターを投与することにより、患者において癌または悪性疾患を処置する方法に関する。そのような癌または悪性疾患としては、前立腺癌、乳癌、結腸癌、卵巣癌、子宮頸部癌および肺癌ならびにIGFBP−3またはmIGFBP−3に反応する他の癌が挙げられる。
【0022】
望ましいIGFBP−3をコードする本発明の方法に使用する遺伝物質は、Hongらから得られ得るか、または分子生物学的方法(Current Protocol in Molecular Biology(F.M.Ausubel,R.Brent,R.E.Kingston,D.D.Moore,J.G.Seidman,K.Struhl,編)Wiley、Hoboken、NJ)により作製され得る。ヒトIGFBP−3遺伝子配列が、GenBank登録番号、M31159、BC00013、M35878、NM_000598、およびX64875に記載され、ウシIGFBP−3遺伝子配列が、NM_174556、AY355439、CB223206、AF305712、およびAF305199に記載され、マウス配列が、NM_008343およびX81581に記載され、そしてラット配列が、NM_012588に記載される。IGFBP−3遺伝子全体、またはIGF−IまたはIGF−IIに結合することが出来るタンパク質をコードするその断片のいずれかが、mIGFBP−3を生成する基礎として使用され得る。
【0023】
本明細書で使用される、mIGFBP−3は、IGF−IまたはIGF−IIのいずれかに結合するIGFBP−3の能力を減少または消失させるが癌細胞においてアポトーシスを誘導する能力を維持する、あらゆる変異体をいう。例としては、ヒトmIGFBP−3は、Hongらに記載されるIGFBP−3におけるIle56、Tyr57、Arg75、Leu77、Leu80およびLeu81の位置にあるアミノ酸の1以上が変化する変異を含む。mIGFBP−3ポリペプチドによるIGF−IまたはIGF−IIへの結合を減少または消失させる結果をもたらす、部位特異的変異が、化学的方法、酵素的方法または組換え方法(Current Protocol in Molecular Biology)により遺伝子に導入され得る。1以上のヌクレオチドの変化が、mIGFBP−3ポリペプチドの合成を命令するようにIGFBP−3遺伝子に導入され得る。特定のヌクレオチド変化が、特定のアミノ酸をコードする3つのヌクレオチドのうちの1以上で起こって、そのアミノ酸を変化させ、そしてmIGFBP−3を生成し得る。上記ヌクレオチド変化は、Hong等により記載されているものには限定されず、mIGFBP−3ポリペプチドのIGF−IまたはIGF−IIへ結合する能力を減少または消失させるが、癌細胞におけるアポト−シスを誘導する能力は維持する如何なる変異も含まれる。
【0024】
本明細書で使用される場合、「遺伝子」とは、哺乳動物のIGFBP−3またはmIGFBP−3をいい、好ましくはヒトのIGFBP−3またはmIGFBP−3をいう。「遺伝子」とは、IGFBP−3の全てまたは部分をコードする遺伝子、cDNA、DNA、核酸、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたはその断片もしくはその部分であり得る。この遺伝子は、イントロンを含み得る。上記IGFBP−3遺伝子は、ヌクレオチド配列を変化させ、かつ1以上のアミノ酸配列を変化させ得る、一般的集団において記載される天然の多型を含む。非限定的例としては、断片または部分とは、少なくとも70〜100ヌクレオチド以上の核酸断片を含む。上記遺伝子は、化学的方法、酵素的方法または組換え的方法により作製され得る。上記IGFBP−3遺伝子はまた、IGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子に連結して、リーダー配列またはN末端もしくはC末端に付加的アミノ酸配列を、あるいは融合タンパク質(例えばグルタチオン−S−トランスフェラーゼ)コードする付加的遺伝子配列を含み得る。
【0025】
本明細書で使用される「生物活性」があるIGFBP−3ポリペプチドとは、IGFBP−3ポリペプチドの活性と、必ずしも同一である必要はないが、同様な活性を示す、ポリペプチドをいう。上記生物活性IGFBP−3ポリペプチドは、IGF−IまたはIGF−IIと結合し、癌細胞の細胞周期を阻害しそしてアポト−シスを誘導する。生物活性mIGFBP−3は、IGF−IまたはIGF−IIと結合する能力を減少または消失させるが、癌細胞の増殖を阻害し、DNA合成を阻害し、そしてアポトーシスを誘導する能力を維持することを示す。用量依存性は、Hongらにより記載されるmIGFBP−3ポリペプチドと同一ではないかもしれない。
【0026】
本明細書で使用される「レンチウイルスベクター」とは、HIV−1またはHIV−2またはサル免疫不全ウイルス、ネコ免疫不全ウイルス、ウマ免疫不全ウイルスもしくはウシ免疫不全ウイルス、またはレンチウイルスに基づく、他の哺乳動物種に感染し得るベクターを包含する。本発明の方法に使用するためのよく開発された系は、HIV−1ベースのレンチウイルスベクターを用いる。この系は、AillesおよびNaldini[Curr.Topics Micro.Immunol.216、31〜52]に概説される。レンチウイルスベクターは、ヒトにおける使用のための安全性プロフィールを増大するよう大きく改変されてきた。元のウイルス配列のほんの10%のみが、転移ベクターに残存する。一般的にそのようなベクターは、複製欠損性である。レンチウイルスベクターを産生するのに必要なパッケージング細胞は、組換えを最小化するように4種までの別個のプラスミドでトランスフェクトされる。
【0027】
上記レンチウイルスベクターにおいてIGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターは、構成的であっても、誘導性であってもよく、そして前立腺特異的、結腸直腸特異的、肺特異的、乳房特異的などのように組織特異的であり得る。IGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子のリーダー配列は、同種由来であっても、または異種由来であってもよい。IGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子は、イントロンを含む全長遺伝子、cDNA、その遺伝子もしくはcDNAの断片、またはそれらの組合せであり得る。レンチウイルスベクターは、誘導性プロモーターに作動可能に結合されるか、またはIRES(内部リボソームエントリーサイト)を介して作動可能に結合された別の治療遺伝子または自殺遺伝子または例えば、HSVチミジンキナーゼのような毒素遺伝子を含み得る(de Flipe(2002)Curr.Gene Ther.2、355〜78)。
【0028】
本明細書で使用される場合、「薬学的組成物」とは、1以上の薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤または賦形剤と一緒にIGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子を含むレンチウイルスベクターを含み、そして他の活性成分を含み得る。薬学的組成物の処方は、等張水性滅菌溶液もしくは懸濁液または非水性滅菌溶液もしくは懸濁液であり得る。好ましい処方は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)であり得る。ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、ヒスチジン、グリシン、ゼラチン、コラーゲン、ポリビニルピロリドンなどの他のキャリアが、PBS溶液中に存在し得る。キャリアのリストは、網羅的ではない。薬学的調製物は、4℃、−20℃または−80℃で保管され得、患者に投与する前に、室温に戻されるか、あるいは粉末または乾燥処方物から再構成される。
【0029】
上記IGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子を含むレンチウイルスベクターは、注入または局所適用を含む、種々の経路で患者に投与され得る。レンチウイルスベクター薬学的処方物は、シリンジを使用して組織部位に注入され得る。注入部位は、腫瘍内、血管内、皮下、筋肉内または腹腔内であり得る。上記薬学的処方物は、局所的に手術部位、例えば原発性腫瘍の切除後に、適用され得る。さらに上記処方物は、吸入投与のためにエアロゾル化され得る。上記ベクターはまた、例えば血球細胞または幹細胞のような宿主細胞に、エクスビボでそして宿主に再導入された形質導入細胞に曝露され得る。
【0030】
レンチウイルスベクターは、他の癌処置とともに薬学的処方物として送達され得る。例えば、トポイソメラーゼ(例えば、カンプトテシン)処方物、チューブリン結合因子(例えば、パクリタキセル)処方物、アルキル化剤(例えば、クロラムブシル)処方物、代謝拮抗剤(例えば、L−アスパラギナーゼ)処方物または免疫抑制剤(例えば、デキサメタゾン)処方物は、レンチウイルスベクター処方物と混合され得、再処方され得、患者に注入され得るか、または局所的に適用され得る。
【0031】
レンチウイルスベクター処置は、他の癌治療、例えば外科的介入、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、免疫療法、寒冷療法などと組み合わせられ得る。
【0032】
本明細書で使用される場合、患者は、癌または悪性疾患と医師に診断されたヒトである。癌は、種々の組織もしくは器官に発生またはあり、限定されないが、前立腺、乳房、乳腺上皮、結腸、結腸直腸、卵巣、頸部および肺が含まれる。この患者は、早期癌または後期癌であり得る。他の癌処置は、IGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子を含む薬学的処方物を含むレンチウイルス薬学的処方物による処置の前、同時または後で適用され得る。
【0033】
治療用量とは、癌または悪性疾患を改善したり、減少させたり除去したりするIGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子を含むレンチウイルスベクターの量をいう。IGFBP−3遺伝子またはmIGFBP−3遺伝子を含むレンチウイルスベクターの量は、投与の経路、適用される組織および患者の状態(例えば、年齢、体重および性別、ならびに癌もしくは悪性疾患の重篤さ、これらは全て医師もしくは開業医により決定される)に依存して変化する。治療有効性および毒性は、治療用量および毒性用量の範囲を決定するために細胞培養および動物モデルを使用する標準的手順により決定され得る。レンチウイルスベクターの用量の測定は、培養における細胞の感染および限界希釈により決定され得るか、p24カプシドタンパク質(Perkin−Elmer、Wellesley、MA)を測定するERISAを基礎にし得る。好ましい用量は、高有効指標および低毒性指標を有する用量である。ヒト患者における癌の治療処置のための形質導入単位(TU)により測定されるレンチウイルスベクターの範囲は、10〜1010TU/用量の範囲にわたる。
【0034】
上記ベクターは、IGFBP−3またはmIGFBP−3を産生するのに使用され得る。従って、細胞がトランスフェクトされ、培養され、発現された導入遺伝子が標準技術を使用して得られ得る。適切な宿主細胞としては、ヒト細胞、マウス細胞、ラット細胞、昆虫細胞などが挙げられる。上記細胞は、例えば、乳細胞、肺細胞、前立腺細胞、上皮細胞などのような特定の器官型または組織型であり得る。
【0035】
以下の非限定的な実施例は、対象の本発明を例証するために提供される。
【実施例】
【0036】
(実施例1.ヒトIGFBP−3遺伝子を含むレンチウイルスベクターの構築、およびこのベクターが形質導入された哺乳動物細胞において生物活性IGFBP−3の合成を支配し得ることの証明)
ヒトIGFBP−3遺伝子は、Hongらより入手可能である。あるいは、IGFBP−3遺伝子は、cDNAライブラリー(BD Biosciences(Clontech),Palo Alto,CA)のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して単離し得る。2つのプライマーである、5’−TGGATTCCACAGCTTCGCGCCGT−3’および5’−GCATATTTGAGCTCCACATTAACTTG−3’を使用し、ヒトIGFBP−3コード領域を含むDNAを生成し得る(Current Protocols in Molecular Biology)。
【0037】
mIGFBP−3遺伝子を生成するために、アミノ酸Ile56、Tyr57、Arg75、Leu77、Leu80、およびLeu81などをコードするIGFBP−3遺伝子のヌクレオチド配列に変化を導入するように、IGFPB−3遺伝子を鋳型として使用し、製造者の指示に従って部位特異的突然変異誘発を使用して、mIGFBP−3に変換する。QuikChange(登録商標)Site Directed Mutagenesis Kit,Stratagene,La Jolla,CA;Muta−Gene Phagemid in vitro Mutagenesis Kit,Bio−Rad Laboratories,Hercules,CA;Altered Sites(登録商標)II in vitro Mutagenesis Systems,Promega,Madison,WI。
【0038】
レンチウイルスベクターは、Zuffereyら、(1998)J.Virol.72,9873−80;Yamら、(2002)Mol.Ther.5,479−84;およびLoganら、(2002)Curr.Opin.Biotechnol.13,429−36に記載され、商業的供給元(例えば、ViraPowerTM Lentiviral Expression System(Invitrogen)およびLentiPakTM(Genetix Pharmaceuticals,Cambridge,MA))から得ることができる。これらのベクターは、cDNAの挿入のために都合が良い制限酵素切断部位を有し、かつCMVプロモーターを含む。上記IGFBP−3遺伝子を、その同種由来のシグナル配列およびポリ(A)部位と組み合わせて導入する。このベクタープラスミド構築物を、リン酸カルシウム沈殿により、2つのコアパッケージングプラスミド(core packaging plasmid)およびVSV−Gエンベローププラスミドに、同時トランスフェクトする。20μg(450μl)のプラスミド混合物を、10%FBSを含むIscove改変ダルベッコ培地(JRH Biosciences,Lenexa,KS)で増殖した5×10個の293細胞(CRL−1573,ATCC,Manassas,VA)を含む100mm皿へ添加する。トランスフェクションの16時間後に新鮮な培地を添加し、新鮮な培地の添加から24時間後に、馴化培地を回収する。この培地を低速の遠心分離により除き、0.2μの酢酸セルロースフィルターを通して濾過し、そして−80℃にて保管する。そのウイルス調製物の力価(形質導入単位(TU))を、293細胞の限定希釈を使用する定量PCRおよびp24カプシドタンパク質ELISAアッセイ(Perkin−Elmer,Wellesley,MA)を使用する総ウイルス粒子の計測により、決定する。
【0039】
レンチウイルスベクター調製物(10TU/ml)を、2×10個の細胞で播種したHela細胞に添加する。培地を48時間で回収し、その培地中のIGFBP−3タンパク質を、ヒトIGFBP−3に対して特異的な抗体を使用してELISAにより定量する。このELISAは、IGFBP−3およびmIGFBP−3を検出し得る。
【0040】
(実施例2.IGFBP−3特異的活性の測定)
293細胞の5枚の100mmプレートを、実施例1に記載されるようにトランスフェクトする。実施例1に記載されるように、馴化培地をトランスフェクトの24時後および48時間後に回収し、プールし、処理する。この培地を、p24カプシドタンパク質およびTU/mlについて特徴付ける。実施例1に記載されるように、この馴化培地をHela細胞に添加し、これらの培養物由来のIGFBP−3を含む馴化培地を24時後および48時間後に回収する。
【0041】
この培地を、スピンカラムを使用して、IGFBP−3タンパク質約10μg/mlに濃縮する。IGFBP−3タンパク質産生をELISAにより定量し、1μg/mlを、ヒトPC−3前立腺癌細胞におけるアポトーシスを誘導する能力について試験する。細胞を24時間および72時間に回収し、アポトーシスを、アポトーシスELISAキット(Chemicon,Temecula,CA)により測定する。レンチウイルス指向性IGFBP−3により誘導されたアポトーシスレベルは、類似の濃度を使用してE.coliにおいて産生された組み換えIGFBP−3に匹敵する。
【0042】
(実施例3.インビトロでの前立腺癌細胞における形質導入効率)
上記ヒト前立腺癌細胞株PC−3を、1〜5のMOIでIGFBP−3遺伝子を含むレンチウイルスベクターで形質導入する。48時間後、その細胞の半分を回収し、形質導入された細胞のパーセンテージを、レンチウイルスベクターに特異的なプライマーを使用して定量PCRにより測定する。同様に48時間にて、その細胞の残りの半分を回収し、ELISAによるアポトーシス測定のために処理する。培地を回収し、ELISAによりIGFBP−3タンパク質産生について定量する。
【0043】
(実施例4.予めヒト前立腺癌細胞を接種された雄性ヌードマウスを処理することによる、遺伝子送達を介して送達されたIGFBP−3の、腫瘍増殖および血管形成の軽減についての有効性の決定、ならびにIGFBP−3遺伝子送達 対 IGFBP−3タンパク質蓄積の送達の有効性の比較)
コホート当たり5匹の動物の4つのヌードマウスコホートを、以下:1)未処置コントロール、2)IGFBP−3レンチウイルスベクターでの処置、3)mIGFBP−3タンパク質での処置、および4)コントロールのレンチウイルスベクターで試験する。3×10個のPC−3腫瘍細胞を、各ヌードマウスの前立腺に注射する。腫瘍の注射から7〜10日後、(実施例3において規定される)3つの濃度のうちの1つの濃度のIGFBP−3遺伝子を含むレンチウイルスベクターを、シリンジを使用してマウスの1つのコホートの各腫瘍部位に注射する。ポジティブコントロールとして、IGFBP−3タンパク質を、動物の別のコホートの腫瘍部位に注射する。ネガティブコントロールとして、マウスの第三のコホートに生理食塩水を注射し、第四のコホートにIGFBP−3遺伝子を含まないレンチウイルスベクターを注射する。12週間後、そのマウスを屠殺し、前立腺および周囲の組織を、肉眼で切開により露出させ(gross visualization)、組織病理学および免疫組織化学により試験する。RT−PCRおよびPCRにより、IGFBP−3タンパク質発現の存在、IGFBP−3 RNA転写物およびIGFBP−3レンチウイルスDNAの存在を測定する。
【0044】
本明細書中に引用される全ての参考文献は、その全体が参考として本明細書中に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドを発現するための方法であって、該方法は、
標的哺乳動物細胞中に、DNA構築物を安定に導入する工程であって、該DNA構築物は、正常(IGFBP−3)ポリペプチドもしくは変異型IGFBP−3(mIGFBP−3)ポリペプチドまたはそれらの機能的改変体をコードする、ヌクレオチドを含み、該DNA構築物は、レンチウイルス遺伝子送達ビヒクル中に含まれる、工程;
を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記DNA構築物は、レンチウイルス遺伝子送達ビヒクルを標的組織もしくは標的器官中に注入することによって、前記標的哺乳動物細胞中へとインビボで導入される、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記DNA構築物は、レンチウイルス遺伝子送達ビヒクルの形質導入によって、前記標的哺乳動物細胞中へとインビトロで導入される、方法。
【請求項4】
請求項1、請求項2、または請求項3に記載の方法であって、前記標的哺乳動物細胞は、前立腺細胞である、方法。
【請求項5】
請求項1、請求項2、または請求項3に記載の方法であって、前記標的哺乳動物細胞は、結腸直腸細胞である、方法。
【請求項6】
請求項1、請求項2、または請求項3に記載の方法であって、前記標的哺乳動物細胞は、肺上皮細胞である、方法。
【請求項7】
請求項1、請求項2、または請求項3に記載の方法であって、前記標的哺乳動物細胞は、乳房上皮細胞である、方法。
【請求項8】
請求項1、請求項2、または請求項3に記載の方法であって、前記DNA構築物は、前記mIGFBP−3ポリペプチドもしくはその機能的改変体をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターをさらに含み、該DNA構築物は、前記標的哺乳動物細胞においてインビボまたはインビトロで発現可能である、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記プロモーターは、前立腺特異的プロモーターである、方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法であって、前記プロモーターは、結腸直腸細胞特異的プロモーターである、方法。
【請求項11】
請求項8に記載の方法であって、前記プロモーターは、肺特異的プロモーターである、方法。
【請求項12】
請求項8に記載の方法であって、前記プロモーターは、乳腺特異的プロモーターである、方法。
【請求項13】
請求項8に記載の方法であって、前記プロモーターは、構成的プロモーターである、方法。
【請求項14】
請求項8に記載の方法であって、前記プロモーターは、誘導性プロモーターである、方法。
【請求項15】
請求項8に記載の方法であって、前記DNA構築物は、自殺遺伝子をさらに含む、方法。
【請求項16】
哺乳動物における腫瘍の増殖を阻害するための方法であって、該方法は、
標的組織中の細胞もしくは標的器官中の細胞に、レンチウイルスベクターを直接投与する工程であって、該レンチウイルスベクターは、プロモーターに作動可能に連結された核酸配列を含み、該核酸配列は、IGFBP−3ポリペプチドもしくはmIGFBP−3ポリペプチドをコードし、該核酸配列の発現は、腫瘍増殖の調節をもたらす、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、前記ベクターは、注入によって前記標的組織もしくは標的器官へと投与され、その結果、該ベクターは、前記腫瘍部位または前記腫瘍部位付近に存在するようになる、方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法であって、前記腫瘍増殖の調節は、腫瘍細胞増殖速度の減少である、方法。
【請求項19】
請求項16に記載の方法であって、前記腫瘍増殖の調節は、前記標的細胞におけるDNA合成の阻害である、方法。
【請求項20】
請求項16に記載の方法であって、前記腫瘍増殖の調節は、前記標的細胞におけるアポトーシスの増強である、方法。
【請求項21】
請求項16に記載の方法であって、該方法は、
外科的介入、放射線療法、ホルモン療法、免疫療法、化学療法、および寒冷療法から選択される、さらなる処置、
をさらに包含する、方法。
【請求項22】
レンチウイルスDNA構築物を安定に組み込まれた標的哺乳動物細胞であって、該レンチウイルスDNA構築物は、該標的哺乳動物細胞において活性であるプロモーターに作動可能に連結された、ヌクレオチド配列を含み、該ヌクレオチド配列は、IGFBP−3ポリペプチドもしくはmIGFBP−3ポリペプチドまたはそれらの機能的改変体をコードする、細胞。
【請求項23】
請求項22に記載の形質転換された標的哺乳動物細胞であって、前記プロモーターは、前立腺特異的である、細胞。
【請求項24】
請求項22に記載の形質転換された標的哺乳動物細胞であって、前記プロモーターは、結腸直腸特異的である、細胞。
【請求項25】
請求項22に記載の形質転換された標的哺乳動物細胞であって、前記プロモーターは、肺特異的である、細胞。
【請求項26】
請求項22に記載の形質転換された標的哺乳動物細胞であって、前記プロモーターは、乳腺特異的である、細胞。
【請求項27】
請求項22に記載の形質転換された標的哺乳動物細胞であって、前記プロモーターは、構成的である、細胞。
【請求項28】
請求項22に記載の形質転換された標的哺乳動物細胞であって、前記プロモーターは、誘導性である、細胞。
【請求項29】
請求項22に記載の形質転換された標的哺乳動物細胞であって、該細胞は、マウス由来である、細胞。
【請求項30】
請求項22に記載の形質転換された標的哺乳動物細胞であって、該細胞は、ラット由来である、細胞。
【請求項31】
請求項22に記載の形質転換された標的哺乳動物細胞であって、該細胞は、ヒト由来である、細胞。
【請求項32】
IGFBP−3遺伝子もしくはmIGFBP−3遺伝子を発現する上皮細胞であって、該IGFBP−3遺伝子もしくはmIGFBP−3遺伝子は、レンチウイルス形質導入を介して該上皮細胞中に導入された、細胞。
【請求項33】
IGFBP−3遺伝子もしくはmIGFBP−3遺伝子を含む組換えレンチウイルスベクターであって、該IGFBP−3遺伝子もしくはmIGFBP−3遺伝子は、DNAに作動可能に連結されており、かつインビボまたはインビトロで標的細胞において発現可能である、ベクター。
【請求項34】
請求項33に記載の組換えベクターであって、前記レンチウイルスのゲノムは、複製欠損性である、ベクター。
【請求項35】
請求項33に記載の組換えベクターであって、前記標的細胞は、前立腺上皮細胞である、ベクター。
【請求項36】
請求項33に記載の組換えベクターであって、前記標的細胞は、卵巣上皮細胞である、ベクター。
【請求項37】
請求項33に記載の組換えベクターであって、前記標的細胞は、肺上皮細胞である、ベクター。
【請求項38】
請求項33に記載の組換えベクターであって、前記標的細胞は、乳房上皮細胞である、ベクター。
【請求項39】
請求項33に記載のベクターと、薬学的に受容可能なキャリアと、を含む、薬学的組成物。

【公表番号】特表2007−516727(P2007−516727A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547473(P2006−547473)
【出願日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/043635
【国際公開番号】WO2005/065309
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(506130964)アクティス バイオロジクス, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】