説明

癌マーカー用生物合成結合蛋白質

【課題】c−erbB−2またはc−erbB−2関連腫瘍抗原に結合する免疫グロブリンの免疫学結合特性を示す結合部位を特定する一本鎖Fv(sFv)ポリペプチドを提供すること。
【解決手段】c−erbB−2またはc−erbB−2関連腫瘍抗原に結合する免疫グロブリンの免疫学結合特性を示す結合部位を特定する一本鎖Fv(sFv)ポリペプチドを開示する。sFvは、1つのドメインのC末端と他のドメインのN末端の間の距離をつなぐポリペプチドリンカーによって結合されている少なくとも2つのポリペプチドドメインを含む。ポリペプチドドメインのそれぞれのアミノ酸配列はフレームワーク領域の間の挿入された一組の相補的決定領域(CDRs)を含み、そのCDRsはc−erbB−2またはc−erbB−2関連腫瘍抗原に免疫学結合に関与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(癌マーカー用生物合成結合蛋白質)
(発明の分野)
本発明は、一般的には、新規な生物合成組成物に関し、特に生物合成抗体結合部位(BABS)の蛋白質とそれらの融合体に関する。本発明の組成物は、例えば薬剤や毒物を用いた種々の癌の免疫学的治療やターゲッティング、イメージングに有用であり、さらに特異的なバインディングアッセイ、アフィニティーによる精製法および生体触媒として有用である。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
乳癌は、北米では女性の最も多い悪性疾患であり、1987年には130,000人の新患者が発生している。おおよそ女性は11人に1人の割合での一生の間に、乳癌が発生し、米国の女性にとっては、肺癌に次いで第2位の癌による死亡の原因となっている。乳癌女性の大多数は完全に切除可能疾患であったにもかかわらず、転移病巣が残存しており、完治させるためには障害となる。補助化学療法やホルモン療法は、病巣のない場合の延命と、完全切除の乳癌女性の特定の群の全体的な延命に対して明らかな有効性を示が、一般的な女性の場合は、未だに転移病巣によって悪い状態のままである(Fisher他,1986、J.Clin.Oncol.,4:929−941;”The Scottish trial”,Lancet,1987,2:171−175)。適切に選定された患者に対する化学療法やホルモン療法によって、正しく誘導性の目的とする応答が起こったとしても、転移性乳癌の完治は達成されない(Aisner他,1987、J.Clin.Oncol.,5:1523−1533)。この目的のために、新しい薬剤の使用、薬剤の併用、高容量療法(Henderson他 同上)や投与量増強療法(Kernan他、1988、Clin.Invest.259 :3154−3157)を含む革新的な治療計画が多用されている。改善は認められてはいるが、完治への最初のステップである転移病巣の完全な寛解の一般的な達成は未だ得られていない。治療のための新しいアプローチが求められている。
【0003】
免疫グロブリンのFvフラグメント分子はIgMおよびまれな場合にはIgGあるいはIgAなどから蛋白分解によって調製できる。さらにこのFvフラグメントは通常の抗原結合部位に存在する非共有結合したV−Vヘテロダイマーを有している。一本鎖Fv(sFv)ポリペプチドは、ペプチドをコードするリンカーによって結合したVとVをコードする遺伝子を含む融合遺伝子の発現される共有的に結合したV−Vヘテロダイマーである。引用により本発明と一体となっているHuston他、1988、Proc.Natl.Aca.Sci.85:5879の文献を参照のこと。
【0004】
米国特許4,753,894号公報にはヒト乳癌細胞に特異的に結合するマウスモノクローナル抗体が開示されており、リシンA鎖との融合体は、10nM以下でMCF−7,CAMA−1,SKBR−3,BT−20等の細胞の少なくとも1種に対して50%のTCIDを示す。モノクローナル抗体520C9はSKBR−3細胞を特異的に認識する。520C9の名称で特定された抗体はマウスハイブリドーマから分泌され、さらにc−erbB−2を認識することが知られている (Ring他、1991,Molecular Immunology
28:915)。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の概要)
本発明は、一本鎖Fv(sFv)ポリペプチドとして公知であった蛋白質のクラスの新規合成物を特徴としている。このポリペプチドは、生物合成一本鎖ポリペプチドの結合部位(BABS)を含み、c−erbB−2あるいはc−erbB−2関連腫瘍抗原に結合する免疫グロブリン分子の免疫学的結合特性を示す結合部位を特定している。
【0006】
sFvは、ポリペプチドリンカーによって連結された少なくとも2つのポリペプチドからなり、一つのドメインのカルボキシ(C)末端と他のドメインのアミノ(N)末端をリンカーがつないでおり、それぞれのポリペプチドドメインのアミノ酸配列は、一セットのフレームワーク部位(FRs)の間に挟まれている一セットの相補性決定部位(CDRs)を含み、CDRsはc−erbB−2またはc−erbB−2関連腫瘍抗原に対する免疫学的結合に関与している。
【0007】
その広範な目的において、本発明は、生物合成性抗体の結合部位を含む一本鎖Fvポリペプチドを特徴としており、さらにはこれらのポリペプチドを含み、且つこれらのポリペプチドをコードするDNAを発現することが可能である、組換えDNA技術によって調製された複製可能な発現ベクターにあり、さらにまた、これらのポリペプチドの生産方法、c−erbB−2あるいはc−erbB−2関連腫瘍抗原を発現している腫瘍をイメージングする方法およびこれらのポリペプチドを用いて、結合蛋白質や融合物の作用によるターゲッティング可能な治療剤を使用して腫瘍を治療する方法にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、c−erbB−2またはc−erbB−2関連腫瘍抗原に結合する免疫グロブリン分子の免疫学的結合機能を有する結合部位で特定される一本鎖Fv(sFv)ポリペプチドであって、該sFvが、一つのドメインのC末端と他の1つのN末端の間の距離をつなぐポリペプチドリンカーでつながっている少なくとも2つのポリペプチドドメインからなり、上記のポリペプチドドメインのそれぞれのアミノ酸配列が一組のフレームワーク領域(FRs)の間に挿入された相補的決定領域(CDRs)からなり、該CDRsが上記c−erbB−2またはc−erbB−2関連腫瘍抗原への免疫学的結合性を与えるCDRsである、一本鎖Fv(sFv)ポリペプチド、に関する。
【0009】
本発明の一本鎖Fvポリペプチドの一つの実施形態において、上記CDRsは、520C9、741F8、454C11モノクローナル抗体からなる群から選択されるc−erbB−2結合免疫グロブリン分子のCDRsと実質的にホモローガスである。
【0010】
本発明の一本鎖Fvポリペプチドの一つの実施形態において、上記sFvの各CDRsおよび各FRsのアミノ酸配列は、520C9抗体の可変領域のCDRsおよびFRsのアミノ酸配列と実質的にホモローガスである。
【0011】
本発明の一本鎖Fvポリペプチドの一つの実施形態において、上記ポリペプチドリンカーは、配列表配列番号4のアミノ酸残基番号118−133として配列表に示されているアミノ酸配列からなる。
【0012】
本発明の一本鎖Fvポリペプチドの一つの実施形態において、上記ポリペプチドリンカーは、配列表配列番号6のアミノ酸残基116−135または配列表配列番号15のアミノ酸残基122−135、およびアミノ酸配列配列表配列番号12および配列表配列番号14に示されているアミノ酸配列からなる群から選択されたアミノ酸配列からなる。
【0013】
本発明の一本鎖Fvポリペプチドの一つの実施形態において、一本鎖Fvポリペプチド
は、上記c−erbB−2関連腫瘍抗原を有する細胞のイメージングを可能にするために遠隔的に検出可能な成分が結合している。
【0014】
本発明の一本鎖Fvポリペプチドの一つの実施形態において、上記の遠隔的に検出可能な成分は放射性原子である。
【0015】
本発明の一本鎖Fvポリペプチドの一つの実施形態において、上記結合ドメインのNまたはC末端に結合する第3のドメインは、FRsの間に挿入されたとCDRsを特定しかつ第二の免疫学的に活性な部位を特定するアミノ酸配列からなる。
【0016】
本発明の一本鎖Fvポリペプチドの一つの実施形態において、一本鎖Fvポリペプチドは、さらに第四のポリペプチドドメインを含み、上記第三のドメインと第四のドメインがともに、c−erbB−2関連腫瘍抗原に免疫学的に結合する第二の部位からなる。
【0017】
本発明の一本鎖Fvポリペプチドの一つの実施形態において、一本鎖Fvポリペプチドは、上記の結合したドメインのNまたはC末端に結合した毒素をさらに含む。
【0018】
本発明の一本鎖Fvポリペプチドの一つの実施形態において、上記毒素は、シュードモナス エンドトキシン、リシン、リシンA鎖、フィトラシンおよびジフテリアトキシンからなる群から選択された毒性部分からなる。
【0019】
本発明の一本鎖Fvポリペプチドの一つの実施形態において、上記毒素は少なくともリシンA鎖の一部分からなる。
【0020】
さらに本発明は、上記ポリペプチド鎖をコードするDNA配列、に関する。
【0021】
さらに本発明は、次のステップからなるc−erbB−2関連腫瘍抗原に特異性を有する一本鎖ポリペプチドを生産する方法、に関する:
(a)上記DNAを宿主細胞にトランスフェクトして形質転換体を生産し、(b)上記形質転換体を培養して上記一本鎖ポリペプチドを生産する。
【0022】
さらに本発明は、次のステップからなるc−erbB−2関連抗原を発現する腫瘍をイメージングする方法、に関する:
(a)上記ポリペプチドからなるイメージング剤を準備し、(b)イメージング剤が腫瘍に結合した後に上記腫瘍の体外検出を充分に可能にする量の上記イメージング剤を生理学的に受容可能なキャリアーとともに上記腫瘍をもつ哺乳動物に投与する、(c)上記対象における遠隔的に検出可能な成分の位置を検出して上記腫瘍の像を得る。
【0023】
さらに本発明は、上記DNAをトランスフェクトした宿主細胞、に関する。
【0024】
さらに本発明は、c−erbB−2関連抗原発現腫瘍の成長をインビボで阻害する方法であって、上記一本鎖Fvと少なくともそれに結合した第一の成分ペプチドからなり、該ペプチドが腫瘍細胞の増殖を抑制することのできるからなる治療剤を腫瘍を阻害する量投与することからなる方法、に関する。
【0025】
本発明の上記方法の一つの実施形態において、上記第一の成分は細胞毒素またはその毒性フラグメントからなる。
【0026】
本発明の上記方法の一つの実施形態において、上記第一の成分は上記腫瘍細胞の増殖を阻害するために充分な放射能活性をもつラジオアイソトープからなる。
【0027】
さらに本発明は、上記ポリペプチド鎖をコードするDNA配列、に関する。
【0028】
本発明の用語は以下に示すものである。”免疫学的結合”あるいは”免疫学的な反応性”とは免疫グロブリン分子とその免疫グロブリンが特異的である抗原の間に起こる非共有性結合を意味する。”c−erbB−2”とは乳癌および卵巣癌細胞のような腫瘍細胞の表面に発現している蛋白抗原であって、等電点約5.3、分子量200,000の酸性糖蛋白質であり、配列表配列番号1および2に示したアミノ酸配列を含んでいるものを意味する。”c−erbB−2関連腫瘍抗原”とは、乳癌および卵巣癌細胞のような腫瘍細胞の表面に存在している蛋白質であって、c−erbB−2抗原と抗原特性的に関連したものである。即ちc−erbB−2抗原に結合可能な免疫グロブリンであって、例えば520C9,741F8,454C11抗体のような免疫グロブリンと結合する蛋白質、あるいはc−erbB−2のアミノ酸配列と80%以上のホモロジーを持ち、特に好ましくは90%以上のホモロジーを持つ蛋白質である。c−erbB−2関連抗原として上皮成長因子のレセプターを例示する。
【0029】
免疫グロブリンCDRに”実質的にホモーローガス”であるsFvCDRは、少なくとも免疫グロブリンCDRのアミノ酸配列の少なくとも70%好ましくは80%または90%が残存しており、免疫グロブリンの免疫学的な結合能を有しているものである。
【0030】
”ドメイン(領域)”の用語は、天然のコンフォメーションでは単一な球状部分に折り畳まれたポリペプチドの配列を意味しており、個別の結合能あるいは機能特性であっても良い。ここで使用する”CDR”あるいは相補的決定部位とは、結合親和性と天然の免疫グロブリン結合部位のナチュラルなFv部分の特異性の両方で特定されるアミノ酸配列を意味しており、あるいはこの機能を模倣した合成ポリペプチドであっても良い。CDRsは通常、ナチュラルなFvの高度可変領域に対しては全くホモロジーがない。しかし特異的なアミノ酸またはアミノ酸配列を含んでいても良い。このアミノ酸配列は高度可変領域の側面にあり、これまで相補性に直接係わらないフレームワークと考えられていた。”FR”またはフレームワーク部位(framework region)の用語は、ここでは免疫グロブリンのCDRsの中に通常認められるアミノ酸配列を意味する。
【0031】
本発明に従って調製された一本鎖のFvポリペプチドは、あらかじめ選択されたc−erbB−2あるいはその関連抗原性物質に結合するためにデザインされた、ポリペプチドを定義付けている、生物合成的に調製されたアミノ酸の新規な配列を含んでいる。この合成ポリペプチドの構造は、天然に得られる抗体、そのフラグメント、公知の合成ポリペプチドの構造とは異なっており、また、結合の親和性と特異性に関与している一本鎖Fvの部位(天然の抗体の可変領域(V/V)に対する変異体)を持つ”キメラ抗体”はそれ自身、キメラであっても良いが、この場合例えば同一か又は異なる種由来の、少なくとも2つの異なった抗体分子の一部とホモローガスかあるいは由来するアミノ酸配列を含むキメラ体である。この変異VとV領域は、生物合成性リンカーペプチドに結合したぺプチドを介して、一方のN末端から他方のC末端に結合している。
【0032】
本発明は、c−erbB−2またはc−erbB−2関連腫瘍抗原に結合可能な、少なくとも一つの完全な結合部位で特徴づけられた一本鎖のFvポリペプチドを提供するものである。一つの完全な結合部位は、二つのポリペプチドドメイン、例えば一つのアミノ酸リンカー領域によって連結したVとVを有するアミノ酸の単一の連続した鎖を含むものである。2つの結合部位のようなc−erbB−2関連抗原に結合できる一つ以上の完全な結合部分を含んでいるsFvは、4つのポリペプチドドメインを有する1本の連続したアミノ酸鎖であり、このドメインはそれぞれ相互にVH1−リンカー−VL1−リンカー−VH2−リンカー−VL2のようにアミノ酸のリンカー部分を介して共有結合的につ
ながっている。本発明のsFvは、(VHn−リンカー−VLnで表すことのできる複数の結合部位を含むことができる(ここでnはn>1)。さらに、このドメインはn個の抗原結合部位とn×2個のポリペプチドドメインを有する連続したアミノ酸の一本鎖とすることもできる。
【0033】
本発明の好ましい実例において、一本鎖Fvポリペプチドは第一の種由来の免疫グロブリン分子の可変部分のCDRsのアミノ酸配列の少なくとも一部分と基本的にホモローガスであるCDRsを含んでおり、さらに第二の種由来の免疫グロブリン分子の可変部分のFRsのアミノ酸配列の少なくとも一部分と実質的にホモローガスであるFRsを含んでいる。好ましくは、第一の種はマウスであり、第二の種はヒトである。
【0034】
それぞれのポリペプチドドメインのアミノ酸配列は、一組のFRs間に挿入されている一組のCDRsを含んでいる。本発明においては、”CDRsの組み合わせ”の一組は各ドメインの3 CDRsを意味し、”FRsの組み合わせ”の一組は各ドメインの4 FRsを意味している。構造の検討のために、免疫グロブリン由来のCDRsの完全な一つの組み合わせが使用できるが、特定の残基の置換が生物学的活性を促進するためには好ましい。この生物学的活性はc−erbB−2関連抗原を結合する免疫グロブリンの種のCDRs中に保存されている残基の観察に基づいている。
【0035】
本発明の好ましいその他の実例においては、ポリペプチド鎖のCDRsは520C9,741F8,454C11のモノクローナル抗体のいずれか一つの可変領域のCDRsに実質的にホモロ−ガスなアミノ酸配列を有している。520C9抗体のCDRsは配列表に示しており、配列表配列番号3および4のアミノ酸残基番号31−35、50−66、99−104、159−169、185−191、224−232が対応している。
【0036】
一つの実例ではsFvはヒト型ハイブリッド分子であって、1またはそれ以上のヒト免疫グロブリン分子由来のFRsの間に挿入されたマウス520C9抗体のCDRsを含んでいる。このハイブリッドsFvは、このように、ヒトFRのアミノ酸配列によって適切な免疫化学的結合性コンフォメーションを保持している、c−erbB−2抗原またはc−erbB−2関連抗原に高い特異性のある結合部分を含んでいる。さらにまた、このハイブリッドsFvは、ヒトの生体では異物として認識されないことが好ましい。
【0037】
別の実例においては、ポリペプチドリンカー部分は、配列表配列番号3と4にアミノ酸残基番号123−137として配列を示しているアミノ酸配列、および配列表配列番号11と12にアミノ酸残基番号1−16として配列を示しているアミノ酸配列を含んでいる。別の実例では、リンカー配列は、配列表配列番号9と10にアミノ酸残基番号410−424として配列を示しているアミノ酸配列、および配列表配列番号13と14にアミノ酸残基番号1−15として配列を示しているアミノ酸配列を含んでいる。
【0038】
さらに上記の一本鎖ポリペプチドは、それらに結合した遠隔的に検出可能な、c−erbB−2あるいはc−erbB−2関連腫瘍抗原を持った腫瘍のイメージングや放射化免疫療法に採用することのできる成分を含んでいることがある。“遠隔的に検出可能”な成分とは、sFvに結合した成分が外部およびその成分の部位から離れている場合でも検出できることを意味している。イメージングのために遠隔的に検出可能な成分として好ましくは、99mテクネチュウム(99mTc)のようなガンマー線源である放射性原子を含むものを上げることができる。高容量の放射化免疫療法のための好ましいヌクレオチドとしては、90イットリウム(90Yt)、131ヨウ素(131I)、111インジュウム(111In)を含むものを上げることができる。
【0039】
さらに、sFvは融合遺伝子に由来する融合蛋白質を含んでいることがある。この場合
発現sFv融合蛋白質は結合性部位のポリペプチドにペプチド結合している補助的なポリペプチドを含んでいる。好ましい実例として、補助的ポリペプチドセグメントは、さらにまたc−erbB−2あるいは関連抗原に結合親和性を有しており、三番目あるいはさらに四番目のポリペプチドドメインを含んでいてもよい。これらのポリペプチドドメインはFRsの間に挿入されたCDRsを特定するアミノ酸配列から構成されており、そして上記の第一のポリペプチドに対すると同様な第二の一本鎖ポリペプチドの生物合成結合部位を一緒に形成する。
【0040】
別の実例において、補助的なポリペプチド配列は、sFvのN末端またはC末端に対して結合した毒素を構成する。この毒素として、シュードモナスのエンドトキシンの毒素部分、フィトラシン、リシン、リシンA鎖、ジフテリア毒素あるいはリシンA鎖様のリボゾーム性蛋白質阻害物として公知の蛋白質を上げることができる。リボゾームのレベルで蛋白質合成を阻害する蛋白質としては、ポークウイードの抗ウイルス性蛋白質、ゲロニン、大麦リボゾーム蛋白質阻害物などがある。その他の実例では、sFvは、sFvの内部組み込みを促進する、少なくとも第二のポリペプチドあるいは成分を含むことができる。
【0041】
本発明は、さらにまたsFvを調製するための方法を含み、この方法は、一本鎖のポリペプチドをコードするDNAを含み、かつ、発現させる複製可能な発現ベクターを得るためのステップ、宿主細胞に発現ベクターをトランスフェクトし形質転換体を得、形質転換体を培養してsFvポリペプチドを生産する方法からなっている。
【0042】
本発明はさらにまた、c−erbB−2または関連腫瘍抗原を発現している腫瘍をイメージングする方法を含む。この方法は、上記の一本鎖Fvポリペプチドを含有するイメージング剤を投与するステップと遠隔的に検出可能な成分を結合させることからなる。この方法は、体外での腫瘍の検出を可能にするに充分な、製剤学的に許容されたキャリアーを用いたイメージング剤の、一定量を使用して、腫瘍のひそむ臓器にイメージング剤を投与し、薬剤が腫瘍に結合したことを確認して、そして腫瘍像の視覚化を行うために非結合剤を充分に排出させた後、患者における成分の分布を検出することからなる。
【0043】
本発明は、さらにまたc−erbB−2あるいは関連抗原の発現している腫瘍の増殖をインビボで抑制することによって癌を治療する方法を含む。この方法は、発明のsFvを含む治療剤の腫瘍抑制量を癌患者に投与し、さらにすくなくとも最初のペプチド成分が腫瘍に結合し、腫瘍細胞の増殖を抑制させることを含む。
【0044】
好ましくは最初の成分は毒素またはリシンAのような毒素のフラグメントを含んでいる。さらにまた90イットリウム(90Yt)、111インジュウム(111In)、131ヨウ素(131I)のような腫瘍細胞の増殖を阻害するに充分な放射能活性を有する放射性同位元素を含んでいる。治療剤はさらにその有効性を促進するような第二の成分を少なくとも含んでいても良い。
【0045】
本発明である天然型の活性を有し、対応する免疫グロブリンのFvよりも相対的に小さな、一本鎖のFvあるいは適切なsFv融合蛋白質の臨床的な投与は、より大きななフラグメントあるいは完全な抗体分子の使用と比較して多くの利点がある。本発明の一本鎖FvおよびsFvの融合蛋白質は、循環する蛋白分解酵素によって切断される部位を殆ど有していないため、非常に安定である。標的臓器に速やかに到達し、そして生体から速やかに排出されるため、腫瘍を検出するための理想的なイメージング剤であり、腫瘍を殺すための理想的な放射化免疫治療剤となる。
【0046】
さらにまた、これらは非特異的な結合性がなく、マウス抗体に比べて抗原性が殆どない。さらに、単一の遺伝子からの発現は、その他の分子や薬剤と特異的にカップリングさせ
るその他の毒素蛋白質あるいはペプチド配列との融合によってターゲッティングへの応用が容易になる。さらに、本発明の幾つかのsFv誘導体または融合蛋白質は、細胞の表面にc−erbB−2あるいはその関連抗原と共通に結合した場合、腫瘍細胞の表面に発現したc−erbB−2あるいはその関連抗原の内在化を促進する作用を持つ。この方法は、適切なデザインの一本鎖−Fv−毒素の融合体を用いてこのような抗原の発現した細胞の選択的な死滅を可能にする。本発明のsFv −毒素融合蛋白質は、抗体全体あるいはFabと化学的に交差結合させた毒素を含む共有結合体と比べて15−200倍以上も高い殺腫瘍細胞活性を有している。
【0047】
悪性化した細胞でのc−erbB−2あるいは関連レセプター過剰発現は、腫瘍が良性な局所型であるか転移性であるか、腫瘍細胞のsFvの種のターゲッティングを可能にする。上記の場合、sFv−毒素融合蛋白質の内在化が、c−erbB−2または関連抗原が過剰に発現した腫瘍細胞の特異的な破壊をさせる。別の例では、感染細胞、悪性化の特性、あるいは患者個々の治療上の因子に依存して同じc−erbB−2またはその関連レセプターが殆ど内在化しなかったり、安定な腫瘍抗原の個体群である場合がある。このような時、毒素融合物の内在化を利用可能にする目的以外に異なった状態で、一本鎖のFvとその融合蛋白質が生産的に使用することができる。c−erbB−2レセプター/sFvまたはsFv融合蛋白質複合体が殆ど内在化しない場合、リボゾームの不活性化によって細胞質的に機能するリシンA鎖のような毒素は殺細胞には有効性を示さない。それにも関わらず、一本鎖非融合Fvは有用である。例えばイメージング、放射化免疫療法があげられる。同じポリペプチド鎖上の二つの異なった結合部位を有するような、種々のデザインの二特異性一本鎖Fv融合蛋白質は、その分子が特異性を示す二つの抗原に対するターゲッティングに使用可能である。例えば、二特異的一本鎖抗体として、c−erbB−2とサイトトキシックリンフォサイト(CTLs)上に存在していることが最近明らかになったCD3抗原の両方に特異性を有しているものを上げることができる。この二特異的分子は、腫瘍細胞のCTL依存性溶解をもたらす、抗体依存性殺細胞活性(ADCC)を引き起こすことができる。同様な結果がc−erbB−2とFcγレセプタータイプIまたはIIに特異的な二特異的一本鎖Fvを用いて得ることができる。その他の二特異的sFvの構成として、c−erbB−2特異的なドメインとトランスフェリンまたは上皮成長因子(EGF)のレセプターのようなホルモンや成長因子レセプターに特異的な成長因子ドメインの組み合わせによるものを上げることができる。
【0048】
(発明の詳細な説明)
乳癌および卵巣癌細胞、さらには癌の形態が明らかに類似している腫瘍細胞に高いレベルで発現している、c−erbB−2関連抗原への親和性を有する一本鎖のFvとsFvの融合蛋白質が本発明で開示される。このポリペプチドは、生物合成した抗体結合部位として挙動する領域を構成する一つまたはそれ以上のアミノ酸配列によって特徴付けられる。図1に示したように、この部位は重鎖の可変領域(V)10、軽鎖の可変領域(V)14の一本鎖からなっている。ここでV 10とV 14はポリペプチドリンカー12により結合されている。結合ドメインは、分離した免疫グロブリンから得ることができるFRs32、34、36、38および32’、34’、36’、38’に結合した、c−erbB−2関連腫瘍抗原に結合することのできる免疫グロブリン分子由来のCDRs 2、4、6と2’、4’、6’を含む。図2A、図2B、図2Cに示したようにBABSの一本鎖ポリペプチド(V 10、V 14、リンカー12)は遠隔的に検出可能な成分および/またはその他のポリペプチド配列16、18又は22を含むことができ、これは酵素、毒素、結合部位、固定化マトリックスあるいは放射能活性原子に結合する部位などの機能を持っている。本発明は蛋白質の生産方法およびその使用方法を開示する。
【0049】
本発明の一本鎖Fvポリペプチドは、合成DNA、即ち複数の化学的に合成され再クロ
−ン化されたオリゴヌクレオチドのライゲ−ションからなるまたはハイブリド−マのゲノム由来のフラグメントのライゲ−ションによる組み換えDNA、成熟B細胞クロ−ンまたは天然材料由来のcDNAライブラリ−、に一部基づいた遺伝子配列を含むプラスミドによってコ−ドされた蛋白質を発現させる宿主細胞中で合成され、再クロ−ン化されるという意味で生物合成される。
【0050】
発明の蛋白質は、これら合成一本鎖ポリペプチドは、あらかじめ選択されたc−erbB−2またはその関連腫瘍抗原への親和性を保持させるために、特異的にデザインされた3次元コンフォメーションにリフォールディングさせることができる“抗体結合部位”として正しく特徴づけられる。一本鎖Fvポリペプチドは、PCT出願US88/01737に開示されたようにして調製可能である。このPCT出願US88/01737は、1989年2月6日づけで出願されたUSSN 342,449の対応出願であり1987年5月21日付け出願されたUSSN 052,800を優先権主張しており、Creative BioMoleculesInc.が出願人であり、引用により本発明と一体となっている。本発明のポリペプチドは、その構造がc−erbB−2関連抗原を認識するために、反応性を有していることが公知の天然型抗体の部分に続けて模倣されている点で抗体様であると言える。
【0051】
さらに特徴的なこととして、蛋白質に対する結合能を付与する部分でのこれらの生物合成抗体の結合部位(BABS)の構造は、c−erbB−2またはその関連抗原に対する天然型抗体のFv部分に類似している。親和性と結合性に必要な三次元分子構造を形成する、少なくとも3つのポリペプチドセグメントを特定しているアミノ酸配列からなっている一連の領域を含んでいる。CDRsは、天然型抗体のFvフラグメントのフレームワーク部位に類似するポリペプチドセグメントにより、適切なコンフォメーションを保持している。
【0052】
CDRとFRポリペプチドセグメントは、米国特許第4,753,894号に記載され引用により本発明と一体となっている、すでに存在する抗体のFv部分の配列分析またはこの抗体をコードするDNA配列に基づいて、経験的にデザインされている。
【0053】
このような抗体の一つとしての520C9はマウスモノクローナル抗体であり、ヒト乳癌細胞株SK−Br−3(米国特許第4,753,894号)により発現されている抗原に反応性を有していることが知られている。抗原は約200KDの酸性の糖蛋白質であり、等電点5.3であり、細胞あたり500万コピーが存在する。放射化ラベル抗体を用いて測定したた結合定数はおよそ4.6×10−1である。
【0054】
一つの実例において、一本鎖ポリペプチドのFRsを構成するアミノ酸配列は、例えばヒトIgGのような、第一の既に存在する抗体のFR配列の類似体である。CDRsを構成するアミノ酸配列は、卵巣癌および乳癌細胞の表面に発現しているc−erbB−2またはその関連抗原を認識する、齧歯類またはヒトIgGのCDRsのような第二の異なった既に存在する抗体のアミノ酸配列に類似している。さらにまた、CDRsとFRsは、セルラインからの単一の既存抗体から完全に複製しても良い。セルラインとしては、培養が困難で、不安定であっても良い。例えばマウス、マウス/ヒト、ヒトモノクローナル抗体分泌細胞株に基づいたsFv生産セルラインを上げることができる。
【0055】
本発明の実施は種々の試薬のデザインと生物合成を可能とする。これらの全てが、あらかじめ選択されたc−erbB−2またはその関連抗原に対する親和性を有する領域によって特徴づけられている。生物合成蛋白質のその他の領域は、思いつく蛋白質の利用を特に計画する場合にデザインされるものである。このように、仮に試薬が哺乳類に静脈投与するようにデザインされるならば、FRsは、哺乳動物の種の天然型抗体のFRのアミノ
酸の少なくとも一部分と同一かまたは類似したアミノ酸配列を含んでいても良い。一方、CDRsを含むアミノ酸配列は、超可変領域由来のアミノ酸配列(そして明らかなフランキングアミノ酸配列)の一部分に類似する。この超可変領域はマウスまたはラット由来のc−erbB−2または関連抗原に対する抗体、あるいは特異的ヒト抗体または免疫グロブリンなどの公知の親和性と特異性を有する抗体のもので良い。
【0056】
およびCのような天然型免疫グロブリン蛋白質の構造のその他の部分は、本発明には必要なく、本発明の生物合成蛋白質をからは、通常意図的に除去しておく。しかし、本発明の一本鎖ポリペプチドはリーダー配列や第二のポリペプチド鎖を特定している付加的なポリペプチド領域を含んでいても良い。第二のポリペプチド鎖としてはサイトカイン、毒素、リガンド、ホルモン、免疫グロブリンドメイン、酵素などの生物活性物や、毒素、薬剤、放射性核種のような遠隔的に検出可能成分を結合させる部位である。
【0057】
有用な毒素であるリシンはヒマの実からとれる酵素であり、高い毒性を有している。リシンは1 ng/mlのような低濃度で培養細胞の増殖を阻害する。リシンA鎖は分子量30,000で糖鎖が結合している。リシンB鎖は分子量が大きく(34,000)、同様に糖鎖が結合している。B鎖は2つのガラクトース結合部位を持ち、折り畳みサブユニットを構成する2つのドメインからなる。リシンの結晶学的構造はA鎖のトレーシングが骨格となっている。恐らく活性部位である割れ目が存在しており、分子を斜めに走っている。さらに分子内にはα−螺旋とβ−構造が存在し、不規則な構造である。
【0058】
A鎖は真核細胞のリボゾームの60sリボゾームサブユニットを酵素的に不活性化する。B鎖は細胞表面に存在するガラクトース基の炭化水素残基に結合する。その糖は細胞表面へ毒素が結合するためには必要であると考えられ、細胞内への毒素侵入のメカニズムを容易にし、かつ関与する。全ての細胞はガラクトースを含む細胞表面のレセプターを有しており、リシンは全てのタイプの哺乳動物細胞殆ど同じ有効性をもって阻害する。
【0059】
リシンA鎖とリシンB鎖は、AおよびB鎖共に特徴付ける遺伝子によってコードされている。遺伝子から転写されたmRNAで合成されたポリペプチドは、’J’(結合のため)ペプチドによってB鎖に結合したA鎖を含んでいる。JペプチドフラグメントはA鎖とB鎖を放出するために、翻訳後修飾によって除去される。しかしA鎖とB鎖は鎖間のSS結合によりまだ両方とも保持されている。好ましいリシンの形状はB鎖が全てはずれた遺伝子組換えA鎖であって、大腸菌で発現させるとき、糖鎖を持たず、糖鎖を持つものよりも血液中からゆっくりと消失する。リボゾームに対する遺伝子組換えリシンA鎖の特異的な活性とヒマの実リシンから単離した天然型リシンA鎖の活性は同じである。リシンA鎖のアミノ酸配列と対応する核酸配列は配列表配列番号7と8として示した。
【0060】
遺伝子組み換えリシンA鎖、植物由来リシンA鎖、脱糖鎖リシンAまたはこれらの誘導体は、本発明の一本鎖Fvポリペプチドにより、c−erbB−2またはその関連抗原を発現している細胞に対するターゲット剤とすることができる。これを行う場合、sFvはリシンA鎖またはそれらの活性な類似体に化学的に交差結合させることができる。また好ましい実施例においては、一本鎖Fv− リシンA鎖イムノトキシンが、相応する遺伝子融合を通して一本鎖Fvポリペプチドと1またはそれ以上のリシンA鎖を融合させることによって形成させることができる。リシンB鎖に置き換えてc−erbB−2または関連抗原への抗体結合部位を備えたA鎖は、細胞の表面のこのような抗原部位へ誘導されてゆく。この方法では、これらの抗原を発現している腫瘍細胞の選択的な死滅を可能にする。この選択性は、培養中の細胞増殖対して起きる多くの例で示されている。この細胞増殖に対する効果は、イムノトキシンが直接作用する細胞の表面に抗原が存在するか否かに依存している。
【0061】
本発明は、イメージング法および腫瘍治療の一部として、ヒト型化した一本鎖Fv結合部位の使用をも含んでいる。蛋白質は経静脈または筋肉注射で投与することができる。抗腫瘍療法または有効な腫瘍イメージングに一本鎖Fvの構成物の有効な投与は治療の対象の状態を保持しているようなルーチン化した試験によって決定できる。
【0062】
注射可能な用法に適した製剤の形態は滅菌液剤または分散剤の形態を含んでいる。全てのケースで、剤形は滅菌されていなければならないし、注射器によって投与が容易なように液状でなければならない。薬剤は、生産および保存の条件で安定でなければならないし、微生物汚染のないようにしなければならない。これは、例えば、0.22μmのフィルターによる濾過滅菌および/またはガンマー線による殺菌後の凍結乾燥によって行うことができる。滅菌した注射溶液は、フィルター滅菌したリン酸ナトリウム緩衝生理食塩水のような、適切な溶媒に必要な量の本発明の一本鎖構成物溶解させて調製する。ここに示したように、”製剤学的に許容可能なキャリアー”はヒトに対して毒性を示さない全ての溶媒、分散剤、抗菌剤、抗カビ剤およびこれらの類似物を含む。この媒体や薬剤は、一本鎖ポリペプチドの適切なコンフォメーションの保持に適合していなければならない。そしてそれを治療組成物に使用する。補助的な活性成分も組成物に加えることができる。
【0063】
二特異性一本鎖Fvは毒素と融合させることができる。例えばc−erbB−2と速やかに内在化されるターゲットであるトランスフェリンレセプターに特異性を持つ二特異的sFv構成物は、トランスフェリンレセプター/ sFv −毒素コンプレックスの内在化を誘導する有効な殺細胞剤となるであろう。sFv融合蛋白質は、例えばEGF−sFv − リシンAのように、同一のポリペプチド鎖上に複数の蛋白質ドメインを含むことができる。ここではEGFドメインはEGFレセプターにインターラクションしたsFvに結合している毒素の内在化を促進する。
【0064】
本発明の一本鎖ポリペプチドは、例えばヨウ素131、インジュウム111、テクネチウム99mなどの放射性同位元素でラベル化することができる。テクネチウム99mやインジュウム111のようなβ線源が好ましい。それは、インビボのイメージングにγカメラを用いて検出を行うためであり、半減期が適しているためである。一本鎖ポリペプチドは、例えばイットリウム90、テクネチウム99m、インジュウム111のような放射性同位元素でラベル化する際に、複合金属キレートを用いる(Khaw他、1980、Science 209 :295; Gansow 他、米国特許第4,472,509;
Hnatowich,米国特許第4,479,930)。また先行技術によって公知となっているアイソトープ結合のための標準的な方法であっても良い。
【0065】
本発明はc−erbB−2または関連抗原への完全な結合部位を提供する。これは複合体である(V − リンカー− V)nまたは(V− リンカー− V)n構造のポリペプチドを構成するポリペプチド配列によって結合したV − V二量体の類似体である。ここでnは1またはそれ以上の数である。ポリペプチドは抗体分子の認識には基本的に必須であり、さらに検出可能な成分あるいは、VまたはVに結合した第三のポリペプチド配列を含んでいても良い。
【0066】
ここに開示された技術を用いて調製できる、本発明の実施物である蛋白質の構造の例を図2A−2Eは示している。全ての構造図は、すくなくとも一つの、結合部位を特定する生物合成sFv 一本鎖セグメントによって特徴づけられており、異なる免疫グロブリン由来のCDRsとFRsを包含するアミノ酸配列からなっており、また異なる免疫グロブリンのCDRsとFRsの一部とホモローガスな配列からなっている。
【0067】
図2Aは、与えられた抗c−erbB−2モノクローナル抗体の重鎖可変領域(V)に類似のアミノ酸配列を持つポリペプチド10からなる一本鎖sFv 100を図で説明
している。抗体はポリペプチドリンカー12ヘカルボキシル末端を介して結合しており、そして抗c−erbB−2モノクローナル抗体の軽鎖可変領域(V)に類似のアミノ酸配列を有するポリペプチド14にリンカーが結合している。
【0068】
当然のことであるが、軽鎖と重鎖のドメインは逆に配置することもできる。リンカー12は少なくとも、鎖10と14が正しいコンフォメーションとドメイン内の相互関係を取るために充分長くなっている(10ないし15アミノ酸また40Å)。
【0069】
薬剤の使用を目的とした場合、リンカー12は、それが導入される種によって”自身”として認識される配列のホモローガスなアミノ酸配列を含むことができる。不構造性の場合には、親水性アミノ酸配列が好ましい。このようなリンカー配列は、配列表配列番号3、4の配列のアミノ酸残基数116−135として配列を示した。この配列は配列表配列番号12および14に示した15アミノ酸のリンカー配列を含んでいる。
【0070】
その他の蛋白質またはポリペプチドは図2Aに示したタイプの蛋白質のアミノまたはカルボキシ末端のいずれかに結合している。実施例のように、リーダ配列16はVドメイン10のアミノ末端から延長していることを示している。
【0071】
図2Bは一本鎖ポリペプチド100とペンダント蛋白質18を含む試薬200の別のタイプを図示したものである。ポリペプチド鎖100(免疫グロブリン結合部位からなるFRとCDR配列を含む)のカルボキシル末端に結合したものはペンダント蛋白質18であり、例えば毒素や毒素のフラグメント、結合蛋白質、酵素、酵素活性フラグメント、イメージング剤のための結合部位(インジュウム111のような放射活性イオンをキレートしている)からなる。
【0072】
図2Cは、同一または異なる特異性を持ち、そして最初の一本鎖ポリペプチド100にリンカー22を介して結合した発明の第二の一本鎖ポリペプチド110を含む一本鎖ポリペプチド300を図示している。
【0073】
図2Dは、リンカー22により結合した一本鎖ポリペプチド110と100および、110のカルボキシル末端に結合したペンダント蛋白質18を含む一本鎖ポリペプチド400を図示している。
【0074】
図2Eは図2Dの鎖400と鎖400のアミノ末端に結合したぺンダント蛋白質20(EGF)を含む一本鎖ポリペプチド500を図示している。
【0075】
図2A−2Eに示したように、発明の一本鎖蛋白質は、複数の生物合成結合部位を含むことによって、紐の上のビーズに似た形状となる。それぞれの結合部位は、特徴的な特異性かまたは蛋白質の親和性を促進させるために同一の特異性の繰り返し部位を有する。先に示した事実から、本発明は、可変領域またはc−erbB−2または関連抗原に対する免疫グロブリン領域の後に形成された結合部位を特定している、少なくとも一部分の蛋白質から構成される試薬の大きなファミリーを提供するものである。
【0076】
本発明の一本鎖のポリペプチドはDNAのレベルでデザインされている。合成DNAsは適切な宿主系で発現されて、必要に応じて発現蛋白質は回収されて再生化される。
【0077】
本発明の一本鎖ポリペプチドをデザインするための能力は、目的のモノクローナル抗体を特定し、この抗体の可変領域のアミノ酸配列を決定するかまたはそれらをコードするDNA配列を決定する能力に依存している。ハイブリドーマ技術は、免疫反応を誘発するために必要な物質に対して必然的に抗体を分泌する細胞株の調製を可能にする。例えば米国
特許第4,753,894号には、乳癌細胞上のc−erbB−2関連抗原を認識するモノクローナル抗体が開示されており、いかにしてこの抗体を得るか説明されている。この目的に特に有用なモノクローナル抗体は520C9である(Bjon他、1985,Cancer Res. 45 :124−1221;米国特許第4,753,894号)。この抗体は特異的に、種々の腫瘍セルラインの表面に発現しているc−erbB−2抗原を認識する。そして正常組織に結合することは非常にまれである。必要とする特異性を持つsFv配列の別の資源としては、ファージ抗体とコンビネーショナルライブラリーの進歩を利用できる。このような配列は、腫瘍細胞膜、c−erbB−2、c−erbB−2関連抗原フラグメントまたはペプチドによって予備免疫したマウスから得たcDNAに基づいて得られる(Clackson他、Nature 352 624−628(1991))。
【0078】
目的の一本鎖ポリペプチドをコードするDNAをデザインする工程は、以下のようにして達成することができる。必要な免疫グロブリンの軽鎖と重鎖をコードするRNAは、免疫グロブリンを生産するハイブリドーマの細胞質から得ることができる。mRNAは、先行技術で公知のPCR法(Sambrook他 編集、Molecular Cloning,1989,Cold Spring Harbor Laboratories Press,NY)によってVとV遺伝子を続けて単離するためにcDNAを調製する目的で使用することができる。H鎖、L鎖のN末端アミノ酸配列は、自動エドマン分析によって独自に決定することができる。必要に応じて、CDRsとフランキングFRsの延長は、HとL鎖のV領域のフラグメントのアミノ酸配列分析によって決定することができる。このような配列分析は、現在ではルーチンに行うことができる。このような情報は、c−erbB−2またはその関連抗原に結合する公知のモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマ細胞からVとV遺伝子の単離に必要な合成プライマーをデザインするために利用する。これらのV遺伝子は、もととなった抗体中に存在している、c−erbB−2に結合するFv部分をコードしている。
【0079】
c−erbB−2または関連レセプターに特異的なFv結合部位をコードする合成V遺伝子のデザインと構築を、別のアプローチによって達成できる。例えばCompugenのようなコンピュータプログラムと公知の可変領域のDNA配列を使用して、最初の抗体分子由来の天然または天然型に近似したFR配列と、第二の抗体分子由来のCDR配列をデザインし、直接合成する。上記のVとV配列は、一つのアミノ酸鎖または、その他のN末端を有している一本鎖のC末端に結合したリンカーを介して直接結合させる。
【0080】
一度合成したこれらの遺伝子は、リーダーペプチドをコードしているDNAのような付加部分を有しているか、または有していない状態でクローン化することができる。この付加部分としては、分泌を促進するリーダーペプチド、融合ポリペプチドの細胞内安定化、第二のポリペプチドをコードするリーダーまたはトレイル配列などがある。遺伝子は次いで、適切な宿主細胞中で直接発現させることができる。
【0081】
c−erbB−2または関連抗原に対する抗体を直接配列分析するか、文献から配列を得るかして、これらの開示を考慮し、先行技術を使用することで、必要なCDRとFRからなる一本鎖のFvを生産することができる。例えば、配列表配列番号3に配列を示した520C9モノクローナル抗体のDNA配列を使用して、c−erbB−2関連抗原に結合親和性を有する一本鎖ポリペプチドを生産することができる。発現させた配列は、結合性を試験し、アミノ酸配列データおよび/またはコンピュータモデリング技術による傾向の観察に基づいて、相対的に保存されている領域のアミノ酸を選定して交換することによって経験的に改良を行う。
【0082】
とVのデザイン中の有意なフレキシビリティは、DNAレベルにおいてアミノ酸
配列の変更をもたらしているため可能である。
【0083】
従って、本発明の一本鎖のFvとsFv融合蛋白質をコードするDNAの構築は、種々の制限酵素の使用を含む公知の技術を使用して行われる。この技術には、制限酵素技術、平滑末端または接続末端を調製するDNAの配列特異的切断、DNAリガーゼ、平滑末端DNAにスティッキエンドを酵素的に付加する技術、短いかあるいは中間の長さのオリゴヌクレオチドの集合による合成DNAsの構築、cDNA合成技術、免疫グロブリン遺伝子を単離するための合成プローブなどがある。種々のプロモータ配列と発現を行うために使用されるその他の調節RNA配列および種々のタイプの宿主細胞も公知であり使用可能である。従来のトランスフェクション技術および同様にDNAのクローニングとサブクローニングのための従来の技術は本発明の実施に有用であり、当業者に知られている。種々のタイプのベクターがプラスミドと動物ウイルスおよびバクテリオファージを含むウイルスベクターとして使用できる。ベクターは、充分にトランスフェクト細胞に伝達され、表現型の特性が検出でき、さらにベクターの組換えDNAが完全にクローンに組み込まれて、クローンのファミリーを特定するために使用できる種々のマーカー遺伝子が使用できる。
【0084】
もちろん操作や増幅の方法、目的のアミノ酸配列をコードする組換えDNAが一般的に良く知られており、従ってここでは詳細に説明を行わない。目的の抗体のFv領域をコードする単離したV遺伝子を特定する方法は、良く知られており、特許及びその他の文献に開示されている。一般的に方法は、アミノ酸配列をコードする遺伝子材料を選択することを含んでおり、アミノ酸配列は、遺伝子コードに従って逆転写で目的のCDRsとFRsを特定している。
【0085】
ここに開示された一本鎖FvをコードするDNAを得る方法は、適切なリガーゼを用いてライゲーションによって、従来法の自動化ポリヌクレオチドシンセサイザーで調製した合成オリゴヌクレオチドをつなげることである。例えば、15塩基からなる共通の部分があり、相補的なDNAフラグメントがリン酸化アミド化学により半手作業的に、ライゲーションのあいだの重合を抑制するために、リン酸化されていない残りの末端セグメントを用いて合成する。合成DNAの一方の末端は特定の制限エンドヌクレアーゼの作用部位に対応する゛“スティッキ−エンド”として残り、他方の末端は他の制限エンドヌクレアーゼの作用部位にそ対応する末端を持って残る。従って、この方法十分に自動化が可能である。一本鎖ポリペプチドをコードするDNAは長い一本鎖フラグメント(例えば、50−100ヌクレオチド長)を例えば、バイオサーチ製オリゴヌクレオチドシンセサイザーを使って合成し、そしてフラグメントをライゲーションすることによって調製できる。
【0086】
一定領域のアミノ酸または生物活性分子をコードする付加的なヌクレオチド配列は、その遺伝子配列に結合させて二機能蛋白質を生産することができる。
【0087】
例えば、上記のようにデザインされた合成遺伝子およびDNAフラグメントは化学的に合成したオリゴヌクレオチドを集積して製造できる。15―100merのオリゴヌクレオチドはバイオサーチ製DNA Model 8600シンセサイザーで合成でき、トリス―ホウ酸―EDTA緩衝液(TBE)中でポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で精製する。次いでDNAをゲルから電気泳動して溶出させる。オーバーラッピングしたオリゴマーはT4ポリヌクレオチドキナーゼでリン酸化し、PAGEによって精製したより大きいブロックにライゲートさせる。
【0088】
そのブロックあるいはより長いオリゴヌクレオチドのぺアーは、適切なクローニングベクター(例えばpUC)を使用して大腸菌でクローン化する。最初に、このベクターは、部位を変化させて残基6塩基を除去するために、一本鎖の突然変異誘発を行う。例えばV
を合成し、次の制限酵素切断部位またがる5つのプライマリーなブロックとしてpUCでクローニングする。(1)EcoRI−第一のNarI、(2)第一のNarI−XbaI (3)XbaI−SalI (4)SalI−NcoI (5)NcoI−BamHI。これらのクローン化フラグメントは単離し、3フラグメントのライゲーション体を複数を集め、pUC8プラスミド中にクローニングする。PAGEで選別した必要なライゲーション体でE.coli JM8を形質転換させ、標準方法に従ってLBアンピシリン+Xgalプレートで培養する。遺伝子配列はサンガーのジデオキシ法(Molecular Cloning,1989,Sambrook et al.,eds.,2d
ed., Vol.2, Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY)に従って、M13にクローニングするかサブクローニング後スーパーコイルシーケンシングによって確認する。
【0089】
操作した遺伝子は、E.coliの変異株などの適切な原核細胞宿主か、あるいはチャイニーズハムスター卵母細胞(CHO)、マウスミエローマ、ハイブリドーマ、トランスフェクトーマ、ヒトミエローマ細胞のような真核細胞宿主で発現させる。
【0090】
遺伝子をE.coli中で発現させると、それは最初に発現ベクターをクローン化する。TrpやTacのようなプロモータ配列下流に操作遺伝子およびスタフィロコッカスのプロテインAのフラグメントB(FB)のようなリーダーポリペプチドのための遺伝子コーディングを配置することによりクローン化が達成される。その結果発現した融合蛋白質は細胞の細胞質中の屈折体中に蓄積し、フレンチプレスや超音波によって細胞を破壊して回収できる。屈折体は溶解させ、発現した融合蛋白質は、いくつかの他の組換え蛋白質のために、すでに確立させた方法(Huston他 前述)で切断し、リフォールディングさせる。また直接発現法では、リーダー配列がなく、封入体が切断されずにリフォールディングされている(Huston et al.,1991,Methods in Enzymology,Vol.203,pp46−88)。
【0091】
リーダー配列の融合物から単離したsFvを引き続いて蛋白分解性切断をして、フリーのsFvを回収する。フリーのsFvは、完全な生物合成性ハイブリッド抗体結合部位を得るために再生化させることができる。この切断部位は、好ましくはsFvポリペプチドに隣接しており、一本鎖ポリペプチドのアミノ酸構造中に確認されるアミノ酸またはアミノ酸配列の幾つかを除いたアミノ酸またはアミノ酸配列を含んでいる。
【0092】
切断部位は好ましくは、特定の物質で特異的に切断されるようにデザインされている。エンドペプチダーゼが好ましいが、非酵素的(化学的)切断剤も使用可能である。例えば有用な切断剤としては、固有の切断部位を優先的あるいは特異的に認識し切断するシアン化ブロマイド、希酸、トリプシン、スタフィロコッカス アウレウスのV8ポロテアーゼ、ポストプロリン開裂酵素(post−proline cleaving enzyme)、血液凝固因子ファクターXa、エンテロキナーゼ、レニンなどが上げられる。特に好ましいペプチド配列切断剤としては、V8プロテアーゼが上げられる。特に好ましい切断部位はGlu残基である。その他の有用な酵素は、切断部位として複数の残基を認識するものがある。これにはファクターXa(Ile−Glu−Gly−Arg)あるいはエンテロキナーゼ(Asp−Asp−Asp−Asp−Lys)がある。希酸はAsp−Pro残基の間を優先的に切断し、酸性CNBrは、Tyrが続いている以外のMetの後ろを切断する。
【0093】
仮に操作遺伝子が、従来の免疫グロブリン発現系である真核ハイブリドーマ細胞中で発現すると、免疫グロブリンプロモータ、分泌シグナル、免疫グロブリンエンハンサー、および種々のイントロンを含む発現ベクター中に、その遺伝子は組み込まれる。このプラスミドはまた、安定領域の一部または全部、発現させる重鎖または軽鎖の完全部分、さらに
また毒素、酵素、サイトカイン、ホルモンなどの少なくとも一部分のような別のポリペプチドをコードする配列もまた含んでいる。遺伝子は既に確立された電気融合法またはプロトプラスト融合法でミエローマ細胞にトランスフェクトする。トランフェクト細胞はV− リンカー− VまたはV − リンカー− Vの一本鎖Fvポリぺプチドを発現する。それぞれのポリペプチドは上記の種々の方法で別の機能を有する蛋白質ドメイン(細胞毒性物など)を結合している。
【0094】
もしもこの配列が存在しない場合に、明らかな複数の結合部位のあるアミノ酸配列の、単一の連続した鎖を構築するために、単一の結合部位(即ちV − リンカー− V
)をコードしているDNAの境界部位における切断部位が利用され、もしなければ創造される。発現プラスミドに集め、クローン化した遺伝子からさらに、単一の結合部位をコードするDNAをシャトルプラスミドにライゲーションし、クローン化する。目的のドメインは、多様化させ、そしてドメインの間のスペーサーは、ドメインのフォールディングを独立させるために必要なフレキシビリティー付与している。発現レベル、リフォールディング、機能活性に関する最適技術は経験的に決定される。二機能sFvを創造するためには、例えば、最初の結合部位をコードする遺伝子のストップコドンはオープンリーディングフレームに変え、そしてBamHI(Gly−Serをコード)またはXhoI(Gly−Ser−Serをコード)のような制限酵素切断部位になる、いくつかのグリシンにセリンを結合させるコドンは、他のコドン置き換える。第二のsFv遺伝子は、同じリーディングフレームの同じ制限酵素切断部位を確認して、その5’末端側を同様に改変する。遺伝子は、二機能性sFv遺伝子を調製するために、この部位に結合させる。
【0095】
一つのドメインのC 末端を次のドメインのN 末端に結合するリンカーは、通常親水性アミノ酸からなる。この親水性アミノ酸は生理学的な溶液中では、不構造性の状態を呈しており、V、Vまたはペンダント鎖のフォールディング作用を阻害する大きな側鎖基を持たないことが好ましい。利用可能なリンカーの一つは、[(Gly)Ser]のアミノ酸配列を有する(配列表配列番号9および10のアミノ酸残基番号410−424)。特に好ましいリンカーは、[(Ser)Gly]及び[(Ser)Gly]のような配列(配列表配列番号3および4)であって、[(Ser)Gly] の2ないし3回の繰り返し配列を有している。
【0096】
本発明を以下に示す実施例により限定することなくさらに説明する。
【実施例】
【0097】
1.c−erbB−2関連抗原に対する抗体
乳癌に対するモノクローナル抗体は、ヒト乳癌細胞またはマウスに免疫して得た細胞の膜抽出物を用いて、Frankel他の示した方法によって(Frankel et al.,1985, J.Biol.Resp.Modif.,4:273−286) 得た。文献は引用により発明と一体化している。ハイブリドーマを調製し、正常および乳癌細胞のパネルを用いて、抗体生産を選別した。8つの正常組織膜のパネル、線維芽細胞株、および乳癌細胞の凍結切片をスクリーニングに用いた。最初のスクリーニングを通過した候補は、さらに、16の正常組織切片、5つの正常血球タイプ、11の乳癌以外の腫瘍切片、21の乳癌切片、14の乳癌細胞株を用いて試験を行った。このセレクションにより127の抗体が選択された。不適切な抗体および乳癌以外の癌細胞株をコントロール実験に使用した。
【0098】
有用なモノクローナル抗体として520C9、454C11(A.T.C.C.番号HB8696およびHB8484)、741F8が見出された。抗体は、5種の異なった抗原に対して反応させるスクリーニングで、乳癌を選択することを確認した。抗体が認識する抗原のサイズは以下のとおりである。200KD;200KDの分子サイズの分解物で
ある一連の蛋白質、93KD、60KD、37KD;180KD(トランスフェリンレセプター);42KD;および55KD。抗原の5つのクラスに対して結合した抗体の最大の特異性は、200KDの物質に対するものであった。その抗原のクラスに代表的な抗体は520C9であった。520C9は少数の乳癌組織に反応する(分析条件に依存するが20−70%)。そして極わずかな正常組織に反応する。520C9は腎臓の細管に反応する(多くのモノクロナール抗体がそうであるように)。しかし、膵臓、食道、肺、大腸、胃、脳、扁桃、肝臓、心臓、卵巣、皮膚、骨、子宮、膀胱、正常な乳房組織には試験を行ったが反応しなかった。
【0099】
2.520C9抗体をコードするcDNAの調製
ポリアデニレートRNAをInvitrogen(サンディエゴ、カリフォルニア)の”FAST TRACK”mRNAアイソレーションキットを使用して、約1×10個の細胞(520C9ハイブリドーマ)から分離した。免疫グロブリン重鎖RNAの存在は、重鎖の染色体DNAの種々のJ領域を含む組換えプローブを使用して、ノーザン分析で確認した(Molecular Cloning,1989,Sambrook et al.,eds.,2ded.,Vol.2, Cold Spring Harbor
Laboratory Press, NY)。それぞれ6μgのRNAを用いて、cDNAをインビトロージェンcDNA合成システムとランダムおよびオリゴdTプライマーの両方を使用して調製した。合成に引き続き、cDNAはアガロースゲル電気泳動で0.5−3.0キロベース(Kb)フラグメントを単離してサイズセレクションを行った。cDNAとベクターの比率の最適化を行ってこのフラグメントをインビトロージェン クローニング ベクターpCDNA IIにライゲーションした。
【0100】
3.VおよびVドメインの単離
プラスミドライブラリーDNAを用いて細菌の形質転換後、コロニーハイブリダイゼションを、軽鎖または重鎖遺伝子のどちらかについて、抗体の定常(C)領域と結合(J)領域のプローブを使用して実施した。なおOrland et
al.,1989,Proc.Nat.Aca.Sci.86:3833を参照のこと。抗体定常領域のプローブは、公知の方法で免疫グロブリン遺伝子の重鎖または軽鎖のヌクレオチド配列から得ることができる。いくつかの可能性の高いクローンを重鎖および軽鎖遺伝子ともに特定し、精製後に第二のスクリーニングを行なって、この配列を決定した。一つのクローン(M207)は、保存されたシステインに代えてチロシンを有する非機能性κ鎖の配列を含んでおり、そしてさらに、これは可変J領域のジャンクションにはフレームシフトミューテーシヨンを誘導する4塩基の欠失があるために早期に終了している。第二の軽鎖のクローン(M230)は定常領域の最後の18残基のアミノ酸とシグナル配列の約半分を除いては、完全な520C9軽鎖の遺伝子を実質的含んでいた。520C9の重鎖の可変領域は、CH2 ドメインの末端付近で終了しているところの、約1100塩基対(F320)のクローン上に存在していた。
【0101】
4.VおよびV ドメインの変異化
sFvを構築する目的で、重鎖と軽鎖両方の可変領域に適切な制限酵素切断部位を挿入するため変異させた(Kunkel,T.A.,1985,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 82:1373)。重鎖クローン(F320)には、V(F321)の5’末端にBamHIを挿入して変異を起こした。軽鎖にもまた5’末端にEcoRVと可変部位(M231)の3’末端に翻訳ストップコドンを含むPstIサイトを挿入して同時変異を起こさせた。
【0102】
5.スクリーニング
軽および重鎖をコードするcDNAクローンは、外来の標準pUCプライマーと複数の特異的内部プライマーを用いてシーケンシングを行なった。
【0103】
プライマーは得られた配列に基づいて重鎖用に調製した。ヌクレオチド配列は、内在性免疫グロブリン遺伝子を除くためにジーンバンクホモロジーサーチ(DNA−star のNuscan プログラム)で分析を行なった。アミノ酸への翻訳はE.Kabat編集のNIHアトラスのアミノ酸配列でチェックした。
【0104】
520C9免疫グロブリン由来のアミノ酸配列から、VおよびV cDNAクローンの特性を確認した。重鎖クローンpF320は最初のATGコドンの6塩基上流から始まり、CH2コード部分まで延長していた。しかし3’側非翻訳領域とポリA末端鎖と同様CH3コード領域の全部とCH2定常ドメインの最後の9アミノ酸は欠けていた。CH2とCH3コード領域のみを含む別の短い重鎖クローンとポリA末端は重鎖520C9の欠落部分にはじめから存在していた。しかしどちらのクローンもオーバーラップはせず独立していた。520C9クローン(pF320)はマウスIgG1のCH1とCH2をコードしているが、一方短いクローンpF315はIgG2bのCH2とCH3をコードしていた。
【0105】
6.遺伝子デザイン
c−erb−2関連腫瘍抗原を認識する一本鎖のFv結合部位を含む合成520C9 sFv領域をコードする核酸配列はCompugenソフトウェアーの手助けによってデザインした。その遺伝子は520C9抗体のVおよびV領域をコードする核酸配列を含んでおり、配列表配列番号3および4のアミノ酸残基番号116−133として配列を示したアミノ酸配列を持ったペプチドをコードする2本鎖の合成オリゴヌクレオチドが同時に結合している。このリンカーオリゴヌクレオチドはヘルパークローニングサイトEcoRIとBamHIを含んでいる。そしてそれぞれその5’と3’近傍のアセンブリーサイトSacIとEcoRVを含むようにデザインされている。これらのサイトはそれぞれ520C9のVおよびVの5’と3’末端をマッチアップしライゲーションすることを可能にしている。これらはまた、(V − リンカー− V)サイトを含んでいる。しかしオリゴヌクレオチドのリンケージの順序は、この例や発明のどのsFvでも(V −リンカー−V)のように逆転できることである。その他の制限酵素切断部位は、選択的なアッセンブリーサイトを提供できるようにデザインされている。プロテインAのフラグメントをコードする配列をリーダーとして使用した。
【0106】
本発明は、ヒトフレームワーク配列を含むヒト型一本鎖Fvおよび520C9抗体のCDRs様のc−erb−2結合を特定するCDRを包含する。
【0107】
本発明の実施は、520C9抗体のCDRs様のc−erb−2結合を特定する、ヒトフレームワーク配列とCDR配列を含む、ヒト型一本鎖Fvを提供するものである。ヒト型Fvは、患者に投与した時、免疫反応が極わずかか或いはないにも関わらずc−erb−2には結合できる。ヒト化sFvをコードする核酸配列は、以下のようにデザインし構築することができる。sFvをデザインするためには二つのストラテジーが特に有用である。最も関連するヒトフレームワーク(FR)領域をGenBankデータベースでホモロジーサーチして、対応するヒト配列を再生産するために、sFvのFR領域をサーチで特定した配列に従って変異させる。さらにモデルのFabフラグメントのX線解析構造に基づくコンピュータモデル情報を用いた(Amit et al.,1986,Science 233: 747−753;Colman et al.,1987,Nature 326:358−363;Sheiff et al.,1987,Proc.Nat.Aca.Sci.,84:8075−8079:Satow et al.,1986,J.Mol.Biol .190:593−604全ての文献は引用によって発明と一体化している)。好ましい例として、最もホモローガスなVおよびV配列はPCRクローン化ヒトV領域のコレクションから選択される。完全なヒト化VおよびV
完成させるまで、FRを合成し、PCR−に基づいたリゲーションにより完全なV領域を連続的に調製するためにCDRに融合させる。例えば、マウス520C9抗体CDRsとヒトミエローマ蛋白質NEW FRsのハイブリッドであるヒト化sFvは、ヒトフレームワーク (FR1−CDR−FR2−CDR2−FR3−CDR3−FR4)のマウス結合部位をそれぞれの可変領域が保持するようにデザインされている。Fab NEWの結晶構造は(Saul etal.,1978,J.Biol.Chem.253:585−597)は可変領域のFRsの配置を予測するために使用できる。すでにこれらの領域は予測されており、領域のアミノ酸配列または対応する塩基配列が決定されており、配列は合成されて、シャトルプラスミドにクローン化されている。それらは集合させて、発現プラスミドでもクローン化されている。従って、520C9のsFvのFR配列は直接突然変異させて、変化は内部プライマーを使用してスーパーコイルシーケンシングで確認した(Che et al.,1985,DNA 4:165−170)。
【0108】
7.5209C sFvの調製と精製
A.インクルージョンボディーの溶解化
プロモータとベクターに基づいた520C9 sFvプラスミドの、配列表配列番号3として配列表を示した融合遺伝子をE.coli中で直接発現させた。2.01の培養液から得たインクルージョンボディー(15.8g)を25mM Tris、10mM
EDTA、pH8.0(TE)に1Mグアニジン塩酸塩(GuHCl)加えて洗浄した。インクルーションボディーはTE、6M GuHCl、10mM ジチオスレイトール(DTT)、pH9.0に溶解させ、3825 A280ユニットの物質を回収した。この物質はエタノール沈澱、TE、3M尿素洗浄、次いでTE、8M尿素、10mM DTT、pH8.0に再分散させた。この沈澱操作で、変成sFvのイオン交換の精製のための蛋白質を調製した。
【0109】
B.イオン交換クロマトグラフィー
sFvを再生する前に混入している核酸とE.coli蛋白質を除去するために、溶解したインクルージョンボディーをイオン交換クロマトグラフィにより処理した。8M尿素に溶解させたインクルージョンボディーをTEで希釈して、最終尿素濃度を6Mとして、ついでラジアル フロー カラム中のDEAE− セファロース ファースト フロー(100ml)を通過させた。sFvは、非結合画分に回収された(出発サンプルの69%)。
【0110】
S−セファロース ファースト フローカラムに通す前に、このsFv溶液(A280=5.7;290ml)のpHは1M酢酸で5.5に調整した。しかしpHが6.0になると沈澱が出現した。サンプルは清浄化させた。サンプルの60%はペレット中に、40%が上清に存在した。上清を100mlのs−セファロース ファースト フローカラムを通し、sFvを非吸着画分として回収した。ペレットはTE、6MGuHCl、10mM DTT、pH9.0再溶解させ、280nmで吸光度を測定して、45mlのプール中に20吸光度単位の一次のsFvを含有していることを確認した。この回収したsFvプールは次の精製のステップに回した。
【0111】
C.sFvの再生
sFvの再生はジスルフィド開裂リフォールディングアプローチで行った。この方法では、sFvが完全に変成しているため、ジスルフィドを酸化して、変成を除去し次いでリフォールディングさせる。sFvサンプルの酸化はTE、6M
GuHCl、1mM 酸化グルタチオン(GSSG)、0.1mM還元グルタチオン(GSH)、pH9.0で行った。sFvは酸化緩衝液で希釈して4000mlの容量で、最終蛋白質濃度がA280=0.075にし、室温で一晩インキュベートした。
【0112】
一晩酸化した後、溶液は10mMリン酸ナトリウム、1mM EDTA、150mM NaCl、500mM尿素、pH 8.0(PNEU)の溶液に対して一晩透析を行った[4×(201×24時間)]。活性の低いものはリフォールディングサンプルに検出された。
【0113】
D.膜分画と活性sFvの濃縮
濃縮ステップに入る前に凝集したミスフォールディング物を除去する目的で、透析終了リフォールド520C9 sFv(5050ml)をミニタン ウルトラフィルトレーション 装置(ミリポア)を使用して100K MWCO膜(100,000mol.wt.カットオフ)(4 x 60cm)を通して濾過した。このステップはかなりの長時間(9時間)が必要があったが、これは主として膜処理物中の沈澱形成と処理物中の蛋白質濃度の増加に伴う膜の汚れのためである。リフォールドしたサンプル中の蛋白質の95%は100Kの膜に不溶物の形の75%とともにと不溶解物の状態の79%は100Kの膜に保持された。100Kでの保持物は非常に低い活性であり、廃棄した。100Kの濾過液は、c−erbB−2に結合する活性を有して可溶性sFvの大部分を含んでいた。次にミニタンに取りつけた10KのMWCO膜(10,000 mol.wt.カットオフ)(4×60cm)を使って100mlの容量(50×)に濃縮した。この物質は、さらに50mlのアミコンスティアードセルのYM10 10K MWCO膜を使用して、最終容量5.2mlまで濃縮した(1000×)。極わずかな沈澱が2回の10K濃縮操作で発生しただけだった。この濃縮物の比活性は、最初の透析リフォールディング物に対して相対的にみて有意に増加していた。
【0114】
E.濃縮sFvのサイズ排除クロマトグラフィー
折り畳まれたsFvはサイズ排除クロマトグラフィーによって分画した時に、全ての520C9 sFv活性は、折り畳まれたモノマーの位置に溶出することが確認された。活性なモノマーを多く得るために、1000倍濃縮sFv試料を、0.5M尿素を加えたPBSA(2.7mM KCI,1.1mM KHPO,138mM NaCl,8.1mM NaHPO・ 7HO,0.02%NaN)中で、セファクリルS−200 HRカラム(2.5×40cm)で分画した。カラムからの溶出パターンとフラクションのSDS−PAGE分析は、二つのsFvモノマーのピークを示した。二つのsFvモノマーピークフラクションはプールして(全10ml)、c−erbB−2結合活性を拮抗分析で表示した。
【0115】
F.520C9 sFvのアフィニティー精製
c−erbB−2の細胞外ドメイン(ECD)はバキュラウイルス感染昆虫細胞で発現させた。この蛋白質(ECD c−erbB−2)はアガロースアフィニティーマトリックスに固定化させた。sFvモノマーのピークは尿素を除くためにPBSAに対して透析を行った。そして次いで、PBSAで0.7×4.5cm ECD c−erbB−2−アガロースアフィニティカラムに適用した。カラムはA280がベースラインになるまで洗浄し、PBSA+3M LiCl,pH=6.1で溶出した。ピークのフラクションを集め(4ml)、そしてPBSAに対して透析を行ってLiClを除去した。精製sFv
72μgが750μgのS−200モノマーフラクションから得られた。カラムフラクションでの活性測定は拮抗分析によって行った。簡潔に言えば、sFvアフィニティ精製フラクションとHRP−複合520C9FabフラグンメントはSK−BR−3の膜に対する結合に拮抗することが確認された。sFv調製物の充分な結合は、HRP−520C9Fabフラグメントの膜への結合を抑制した。さらにHRP基質の抑制と減少を行ったが色沢は変化しなかった(拮抗分析の詳細は以下を参照のこと)。その結果は、実際にはsFv活性の全てがカラムに結合し、溶出ピークに回収された(図4)。期待したように、溶出したピークの比活性はカラムのサンプルに対して相対的に増加していた。そしてこれらの測定の実験誤差の範囲内で、コントロールのペアレントFabと、必然的に同じ結
果を示した。
【0116】
9.精製後の収量
表Iに精製工程中の種々の520C9調製物の回収率を示した。蛋白質濃度(μg/ml)はバイオラッド プロテインアッセイで測定した。”全収量”の下の300AUは、0.41の培養液から3.15gのインクルージョンボディーが含まれている保有sFvを変成させたものである。酸化緩衝液は25mM Tris、10mM EDTA、6MGuHCl、1 mMGSSG、0.1mM
GSH、pH9.0を使用した。酸化は室温で一夜行った。酸化後のサンプルは、10mM リン酸ナトリウム、1mM EDTA、150mM NaCl、500mM尿素、pH 8.0の溶液に対して透析を行った。アフィニティクロマトグラフィーはPBSAで行ったが、それ以外の工程全ての緩衝液はこれを使用した。
【0117】
【表1】

10.イムノトキシンの構築
リシンA−520C9 一本鎖融合イムノトキシン(配列表配列番号7)をコードする遺伝子は、pPL229(シータース エメリービル カリフォルニア)からHindIII−BamHI上のリシンA鎖をコードする遺伝子を単離し、図3に示したようにpH777の520C9の上流を使用して構築した。融合体はリシンのAドメインとBドメインの間に122アミノ酸の天然のリンカーを有している。しかし、オリジナルなpRAP299発現ベクター中を、リシンのアミノ酸268のコドンが、翻訳停止コドンTAAに変換していたため、得られた遺伝子の発現は、リシンAのみを生産していた。それ故、翻訳停止コドンを除去する目的で、部位直接突然変異を行ってTAAを除去し、天然型のセリンコドンに置き換えた。次いで完全なイムノトキシン遺伝子を連続させて、この遺伝子を翻訳させた。
【0118】
pPL229およびpRA229発現ベクターにイムノトキシンのバックを挿入するため、イムノトキシン遺伝子の末端のPstI部位をベクターのBamHIと両立した配列に変換する必要がある。PstIと末端の間にBclI部位を含んでいる合成オリゴヌク
レオチドアダプターが挿入された。BclIとBamHI末端は両立しており、ハイブリッドBclI/BamHI部位に重ねあわせることができた。BclIヌクレアーゼは、damメチレーションに感受性が高いため、構築にあたって最初に、プラスミドDNAをBclI(およびHindIII)で消化する目的で、dam(−)E.coli株Gm48に形質転換させた。次いでHindIII/BclIフラグメントバック上の完全なイムノトキシン遺伝子を、発現ベクターのHindIII/BclI分解位置に挿入した。
【0119】
天然型520C9 IgGを天然また組換えリシンA鎖と結合させた時、得られたイムノトキシンは、0.4×10−9Mの濃度でSK−Br−3細胞の蛋白質合成の50%を阻害できる。さらにSK−Br−3乳癌細胞の反応に加えて、天然の520C9 IgG1イムノトキシンは、卵巣癌細胞株OVCAR−3を阻害し、そのID50は2.0×10−9Mであった。
【0120】
上記のリシンA − sFv融合蛋白質では、リシンは発現のリーダとして作用する、即ちsFvのアミノ末端に融合している。ダイレクトエクスプレッションに従うと、溶解蛋白質は天然520C9のFabに対して抗体として反応し、リシンA鎖の酵素活性作用を有している。
【0121】
別のデザインでは、リシンA鎖はsFvのカルボキシ末端に融合している。520C9
sFvは、sFvのC末端に結合したリシンA鎖と一緒に、Pe1Bシグナル配列を介して分泌される。これを構築するためには、PelB−シグナル配列、sFv、リシンをコードする配列をsFv (発現プラスミド中の)のすぐ後のHindIII部位を介してブルースクリプトプラスミドに結合させる。さらにHindIII部位は、3つの部分の集まり(RI−HindIII−BamHI)においてルシン遺伝子より先行する。リシン遺伝子に続く新しいPstIサイトは、ブルースクリプト ポリリンカーを介して得ることができる。このDNA変異は、sFvの末端でストップコドンとオリジナルのPstIサイトを除去し、幾つかのセリン残基をsFvとリシン遺伝子の間に置くところにある。この新しい融合遺伝子Pe1Bシグナル配列/ sFv /リシンAは発現ベクターのEcoRI/PstIフラグメントに挿入できる。
【0122】
別のデザインでは、リシンA鎖のアナログであるシュードモナスエキソトキシンフラグメントPE40を抗c−erbB−2 7418 sFv(配列表配列番号15および16)のカルボキシ末端に融合させている。得られた741F8
sFv −PE40は一本鎖Fv− トキシン融合蛋白質であり、蛋白質に最初から存在している18残基短いFBリーダーで構築する。この蛋白質のE.coliでの発現は、3M尿素 グルタチオン/レドックス緩衝液中でリフォールディングしたインクルージョンボディーを生産した。得られたsFv −PE40は、対応する架橋イムノトキシンと比べて、c−erbB−2保持細胞をより完全にかつ明らかにより強い細胞障害作用で、特異的に殺すことができた。741F8 sFvと同様に、sFv −毒素蛋白質は、この方法で効率良く調製できる。乳癌や卵巣癌などのc−erbB−2または関連抗原を保持する腫瘍に対する治療剤、診断剤として使用できる。
【0123】
11.分析
A.拮抗ELISA
SK−Br−3抽出物を以下のようなc−erbB−2抗原のソースとして調製した。SK−Br−3乳癌細胞(Ring et al.,1989, Cancer Research 49:3070− 3080)は、5%ウシ胎児血清と2mMグルタミン添加イソコブの培地(ギブコBRLゲイタースバーグMD)でコンフルエンスに近い状態まで培養した。培地を吸引除去して、細胞をカルシウムとマグネシウムを添加した10ml
のウシ胎児血清(FBS)ですすぎ洗い、ゴムの付いたガラス棒でカルシウムとマグネシウムを添加したFBSに取り出した。培養容器は新しいこの緩衝液5mlですすいだ。100rpmの遠心分離で細胞を回収した。上清を吸引除去し、細胞を10mMNaCl、0.5%NP40、pH8の緩衝液(TNN緩衝液)10mMを用いて10細胞/mlの密度になるように再分散させた。そしてピペッティングでアップダウンを行い、ペレットを溶解させた。溶液は1000rpmで遠心し、細胞核とその他の不溶解残渣を除去した。抽出物は0.45のマイレックスHAと0.2のマイレックスGvフィルターで濾過した。TNN抽出物はアリコートとして、ホエートン凍結用バイアルに入れて−70℃で保存した。
【0124】
SK−Br−3 TNN抽出物の新鮮なバイアルは解凍し、そして脱イオン水で200倍に希釈した。その後直ちに、ダイナテックPVC96ウエルプレートに、1ウエル当たり40μgを入れ、37℃の乾燥インキュベータで一晩保持した。プレートはリン酸緩衝食塩水(PBS)、1%脱脂乳、0.05%ツイーン20の溶液で4回洗浄した。
【0125】
非特異的な結合部位は以下のようにしてブロックした。プレートが乾燥後、1%脱脂乳を含むPBS 100μgを各ウエルに加え、1時間室温でインキュベートして反応を進行させた。
【0126】
一本鎖Fv試験サンプルと標準520C9ホール抗体希釈物を以下のように加えた。520C9抗体と試験サンプルは、2倍希釈法により希釈緩衝液(PBS+1% 脱脂乳)で希釈した。最初に50μg/mlにし、最後に標準520C9を少なくとも10回希釈する。希釈緩衝液のみを含むコントロールも調製する。希釈サンプル、標準とも50μlをウエルに加え室温で30分間インキュベートした。
【0127】
520C9 −ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)プローブを次のように加えた。520C9−HRP複合体(ザイムド ラボ、サウスサンフランシスコ、カリフォルニア)は1%脱脂乳を含む希釈緩衝液で14μg/mlに希釈した。最適の希釈は、前のステップを省くことなしに、ペルオキシダーゼ複合体の新しいバッチごとに決定する。20μlのプローブを各ウエルに加え、室温で1時間インキュベートした。プレートはPBSで4回洗浄した。ペルオキシダーゼの基質をさらに添加した。基質溶液は、希釈テトラメチルベンジジンストック(TMB;2mg/ml 100%エタノール)1:20と基質緩衝液(10mM酢酸ナトリウム、10mM Na EDTA,pH5.0)中の3%過酸化水素ストック1:2200を使用する都度調製する。これを室温で30分間インキュベートする。ウエルに0.8M硫酸を100μl加え、酵素反応を止め、150nmで吸収を測定した。
【0128】
図4は、ペアレントのリフォールドしているが未精製520C9モノクローナル抗体、520C9 Fabフラグメント、および結合後アフィニティーカラムからの溶出(溶出)、または非結合通過フラクション(通過)520C9 sFv一本鎖結合部位の結合能を比較した。図4には完全に精製した520C9 sFvは測定蛋白質濃度の誤差範囲でペアレントなモノクローナル抗体と区別が困難であるc−erbB−2に親和性を有することを示している。
【0129】
B.インビボ試験
培養増殖する乳癌細胞に対して、強い蛋白質合成阻害を示すイムノトキシンは、インビボでその有効性を試験できる。インビボ分析は、ヒト乳癌細胞株MX−1を移植したヌードマウスモデルを使用して一般的に行うことができる。マウスにはPBS(コントロール)、種々の濃度のsFv −毒素のイムノトキシンを注射し、濃度依存的に腫瘍の増殖が抑制されることが観察される。より高い濃度のイムノトキシンの投与がより効果を示すこ
とが予測される。
【0130】
本発明はその精神と範囲から離れることなしに、その他の特徴的な形態を実施することが可能である。従って本発明の実施は、説明されているように、そして限定なしに、全てに関して考慮されている。発明の範囲は、記載の説明よりむしろ付属のクレームによって示されており、クレームが意味し均等の範囲からくる全ての変更は、それらを包含するものである。
【0131】
(配列表)
【0132】
【化1】
































【図面の簡単な説明】
【0133】
本発明の先に示した内容、さらにその他の目的に関する種々の特徴は、本発明と同様に、図面とともに説明を熟読して、以下に示す説明を充分に理解されるものである。
【図1A】図1Aは本発明のsFvをコードするDNAの構築を模式図で示したものである。ドメインをコードするVおよびVとリンカー部分を示している。
【図1B】図1BはVとVドメインを表しているFvの構造を模式図で示した。3つの相補的決定部分(CDRs)と公知の特徴付けられたモノクローナル520C9の4つのフレームワーク部分(FRs)からなっており、c−erbB−2に特異的なマウスモノクローナル抗体である。
【図2A】図2A−2Eは本発明の実例を模式図で示す。それぞれ生物合成した一本鎖Fvポリペプチドからなり、c−erbB−2関連抗原を認識する。図2Aはぺンダントリーダー配列を有するsFvである。
【図2B】図2A−2Eは本発明の実例を模式図で示す。それぞれ生物合成した一本鎖Fvポリペプチドからなり、c−erbB−2関連抗原を認識する。図2BはsFv −毒素(あるいはその他の補助蛋白質)の構成である。
【図2C】図2A−2Eは本発明の実例を模式図で示す。それぞれ生物合成した一本鎖Fvポリペプチドからなり、c−erbB−2関連抗原を認識する。図2Cは二価あるいは二特異性sFvの構成を示す。
【図2D】図2A−2Eは本発明の実例を模式図で示す。それぞれ生物合成した一本鎖Fvポリペプチドからなり、c−erbB−2関連抗原を認識する。図2Dはカルボキシ末端にペンダント蛋白質が結合した二価sFvを示す。
【図2E】図2A−2Eは本発明の実例を模式図で示す。それぞれ生物合成した一本鎖Fvポリペプチドからなり、c−erbB−2関連抗原を認識する。図2Eはアミノ末端とカルボキシ末端両方にぺンダント蛋白質を持つ二価sFvを示す。
【図3】図3は、520C9 sFv − リシンAの融合した免疫毒素遺伝子をコードするプラスミドの構築を図式化して示す。
【図4】図4は5209モノクローナル抗体(c−erbB−2特異的)のc−erbB−2結合活性を比較する拮抗分析の結果をグラフ化して示したものである。モノクローナル抗体のFabフラグメント(黒点)と520C9モノクローナル抗体の可変領域から構築したc−erbB−2に一本鎖−Fv結合部の異なる親和性で精製したフラクション(sFv全サンプル(+)、sFvに結合しc−erbB−2の細胞外ドメイン固定化カラムから溶出したもの(四角)、sFv溶出(未結合、*)を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
c−erbB−2腫瘍抗原に結合する結合部位を特定する一本鎖Fv(sFv)ポリペプチドであって、該sFvポリペプチドは、ポリペプチドリンカーで連結された少なくとも2つのポリペプチドドメインを含み、該ポリペプチドリンカーは、1つのポリペプチドドメインのC末端と他のポリペプチドドメインのN末端との間の距離にわたっており、該ポリペプチドドメインのそれぞれのアミノ酸配列は、一組のフレームワーク領域の間に挿入された一組の相補性決定領域(CDRs)を含み、該CDRsは、該c−erbB−2抗原に対する免疫学的結合を与え、ここで、該ポリペプチドリンカーは、配列番号4のアミノ酸残基118〜133として示される配列、配列番号15のアミノ酸残基122〜135として示される配列、および配列番号12に示されているアミノ酸配列の群より選択されるアミノ酸配列からなる、一本鎖Fv(sFv)ポリペプチド

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−231027(P2007−231027A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163220(P2007−163220)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【分割の表示】特願2004−178961(P2004−178961)の分割
【原出願日】平成5年2月5日(1993.2.5)
【出願人】(591076811)カイロン コーポレイション (265)
【Fターム(参考)】