説明

癒着防止用組成物

本発明は、生体適合性を有するヒアルロン酸と高分子化合物とからなる組織癒着防止用組成物に関するもので、特に、化学的架橋剤または化学的修飾剤により改質されていないヒアルロン酸を含む組成物及びその製造方法に関するもので、優れた効能を持つ癒着防止用組成物に関する。
この癒着防止用組成物は、その癒着防止効果において物理的障壁の役割を果たす高分子物質間の単純混合とは違い、物理的障壁の機能を果たす他、癒着発生の主因とされる血栓形成も抑制する新しい癒着防止機能を発揮し、従来に使われた材料に比べてより効果的な物理的障壁の役割を果たし、一定時間体内に留まってから分解、吸収、排せつされ、術後に傷が治ることを妨害せず、手術部位への適用が便利な優れた効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性を有するヒアルロン酸と高分子化合物とからなる組織癒着防止用組成物に関するもので、特に、化学的架橋剤または化学的修飾剤により改質されていないヒアルロン酸を含む組成物及びその製造方法に関するもので、優れた効能を持つ癒着防止用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癒着(adhesion)とは、炎症、創傷、摩擦、手術などによる創傷などの傷の治癒過程で線維組織(fibrous tissue)が過度に生成されたり、血液が流出して凝固したりすることから、互いに離れているべき周辺の臓器または組織がくっつき合う現象のことをいうもので、いかなる種類の手術後にも発生する可能性がある。このような現象により、手術後の回復過程において手術部位周辺の臓器または組織が付着しあい、深刻な臨床的後遺症につながることがある。
【0003】
一般に、術後の臓器癒着発生率は55%〜93%に達すると報告されている(Ann.Royal Coll.Surg.Engl.,75,147−153,1993)。特に、開腹手術後の癒着発生頻度が非常に多く、その一部は自発的に分解されることもあるが、大部分の場合は傷の治癒後も癒着が存在し、各種の後遺症を招くこともある。後遺症の種類は非常に多岐にわたっており、米国の統計資料によると、術後癒着によって発生する主な症状として、小腸閉塞が49%〜74%、不妊が15%〜20%、慢性骨盤症が20%〜50%、後続手術時の腸穿孔が19%程度に至ることが知られている(Eur.J.Surg.,Suppl 577,32−39,1997)。
【0004】
腹腔内癒着の発生メカニズムについては、Grangerにより発表された論文(Infert.Reprod.Med.Clin.North Am.,5:3,391−404,1994)に詳細に説明されているが、これによると、癒着は、手術後に発生した滲出液中の血液の凝固過程で形成されるフィブリンに起因する。炎症性滲出液にはフィブリンが豊富で、傷の表面に血餠を形成する。フィブリンが分解されながら中皮が再生されることで正常に傷が治癒する。フィブリンの分解は、プラスミノーゲン(plasminogen)のフィブリン分解酵素であるプラスミン(plasmin)への変換に依存し、この反応は、中皮と下部の基質に共に存在するティッシュプラスミノーゲンアクチベーター(tissue plasminogen activator;tPA)により促されるが、もし、フィブリンの分解が起きないとフィブリン母体に炎症細胞及び線維母細胞が侵入して癒着が組織化する。このように一連のフィブリン形成メカニズムとフィブリン分解機作により癒着が発生するが、これらの関係は単純とはいえず、傷の治癒過程と密接な関連がある。
【0005】
様々な癒着防止方法のうちの一つとして、防壁(barrier)を用いるものがあり、組織の損傷が治癒される間に界面活性剤と同様に物理的な障壁を形成することで、隣り合う組織同士が癒着することを防止する癒着防止剤に関する研究が活発に行われている。このような防壁として使用可能な癒着防止剤は、その形態から、大きく2種類に分類することができ、一つは、フィルム、不織布、スポンジの形態を含む膜状の防壁であり、他の一つは、ゲル状を含む溶液状の防壁である。
【0006】
膜状の癒着防止材料には、酸化再生セルロース(Oxidized−regenerated cellulose)、ePTFE(Expanded polyterafluoroethylene)、改質されたヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び化学的架橋剤などで構成されたフィルムなどがある。
【0007】
溶液状癒着防止材料には、ラクテートリンゲル溶液、デキストラン−70溶液、ヘパリン溶液、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Carboxymethyl cellulose)溶液、ヒアルロン酸(Hyaluronic acid)溶液、コンドロイチン硫酸(Chondroitin sulfate)溶液、ポリエチレングリコール(Polyethylene glycol)溶液、ポロキサマ(Poloxamer)溶液などがある。このような溶液状癒着防止材料のうち、ラクテートリンゲル溶液、デキストラン−70溶液、ヘパリン溶液などは、腹膜の治癒が起きる間にフィブリンで覆われた表面が互いに浮くように浮遊させることを主な機転とし、組織を互いに分離させて癒着を抑制させる目的で使用した製剤であるが、腹腔内で吸収が速いため癒着防止の効果を十分に得ることができなかった(Am.surg.,63,775−777,1983)。一方、ポリエチレングリコールなどは、生体内で分解されないことから、吸収後に代謝経路を経て排出されうる分子量が小さい材料のみ使用できるが、吸収が速すぎるため、癒着を防止する防壁としての役割を十分に長く持続することができない。
【0008】
一方、米国特許第4,141,973号に開示されたヒアルロン酸は、β−D−N−アセチルグルコサミン及びβ−D−グルクロン酸が交互に結合してなる直鎖状の高分子多糖で、生体に移植または注入した場合にも優れた生体適合性を示すものと知られているが、これも同様、生体内で比較的短時間で分解及び吸収され、癒着防止剤としての性能には制限がある。
【0009】
これを改善するために、米国特許第6,387,413B1号では、ヒアルロン酸ゲル自体の物性側面の性質を補完すべくカルボキシメチルセルロースなどの高分子化合物を添加し、ヒアルロン酸ゲル組成物を製造した。
【0010】
このようにヒアルロン酸ゲル自体の物性側面の性質を補完するために様々な検討がなされているが、特に、ヒアルロン酸の生体への適用時に、水に解けやすく、生体内の滞留時間が比較的短い点を改良するために、種々のヒアルロン酸の化学的架橋剤または化学的修飾剤により改質された様々な修飾物が提案されてきた。
【0011】
このように今まで開発された材料は、癒着防止への可能性を見せてはいるが、化学的な架橋方法を主に用いているから、架橋剤または添加剤を除去しなければならない不便さ、複雑な工程の問題、及び毒性及び安全性の問題を抱えている。
【0012】
そこで、本発明者らは上記のような問題点、すなわち、癒着防止機能の低い効率、化学的架橋剤または添加剤の合成、そして残留毒性の可能性といった問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、化学的架橋剤を全く使用することなく生体適合性の特徴を最大限に生かした高分子ヒアルロン酸を含有する組成物を提供することによって上記の問題点を解決できるということを確認し、本発明を完成するに至った。
【0013】
また、本発明におけるヒアルロン酸及びヒドロキシエチルスターチの使用は、癒着防止の効果において、物理的障壁の役割を果たす高分子物質間の混合とは違って、物理的障壁の役割を果たさせるだけでなく、癒着発生の主因とされる血栓の形成を抑えるという新しい癒着防止への機能的な接近であって、既存の製品と差別化を図ることができ、癒着防止の効果及び安全性の面においても格別であることが確認された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4,141,973号
【特許文献2】米国特許第6,387,413B1号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Ann.Royal Coll.Surg.Engl.,75,147−153,1993
【非特許文献2】Eur.J.Surg.,Suppl 577,32−39,1997
【非特許文献3】Infert.Reprod.Med.Clin.North Am.,5:3,391−404,1994
【非特許文献4】Am.surg.,63,775−777,1983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、ヒアルロン酸、及びヒドロキシエチルスターチ(Hydroxyethyl starch)またはキトオリゴ糖(Chitooligosaccharide)を含む癒着防止用組成物、好ましくは、ゲル状組成物を提供することにある。
【0017】
本発明の目的は、癒着防止用医療剤を製造するためのヒアルロン酸、及びヒドロキシエチルスターチまたはキトオリゴ糖を含む組成物の用途を提供することにある。
【0018】
本発明の目的は、ヒアルロン酸、及びヒドロキシエチルスターチまたはキトオリゴ糖を含む組成物を、ヒトを含む哺乳類に投与して術後癒着を防止する方法を提供することにある。
【0019】
本発明はまた、ヒアルロン酸及びヒドロキシエチルスターチを含む組成物を提供することによって、物理的障壁を形成する他、癒着発生の主因とされる血栓の形成を抑制するという新しい癒着防止への機能的な接近を果たし、従来の製品との差別化が可能であり、癒着防止の効果及び安全性の面においても格別な効果を提供する。
【0020】
なお、本発明は、ヒアルロン酸及びキトオリゴ糖を含む組成物を提供することによって、ヒアルロン酸の単独使用時に発生する生体内での速い分解及び吸収を遅延させ、それによる癒着発生の度合を軽減する。
【0021】
本発明の他の目的は、術後癒着の発生を減少させる他、一次手術後の癒着の形成を防止し、傷の治癒が完了すると体内で分解され、吸収及び排出が可能な組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の組成物は、ヒアルロン酸に高分子物質を添加して得られるもので、この高分子物質としては、好ましくは、ヒドロキシエチルスターチまたは水溶性キトオリゴ糖を挙げることができるが、ヒアルロン酸ゲル単独では満たし難い医薬用材料の要求物性に対してヒアルロン酸ゲルが本来持つ性質を補完できるものであれば、PLGA(poly(DL−lactide−co−glycolide))、PLL(poly−L−lysine)、PEG(polyethyleneglycol)、HEC(hydroxyethylcellulose)、CMC(Carboxymethylcellulose)などを含めて、いかなる高分子物質も使用することができる。
【0023】
したがって、本発明は、ヒアルロン酸、及びヒドロキシエチルスターチまたは水溶性キトオリゴ糖を含む癒着防止用組成物、好ましくは、ゲル状組成物を提供する。
また、本発明は、癒着防止用医薬製剤を製造するためのヒアルロン酸、及びヒドロキシエチルスターチ(Hydroxyethyl starch)またはキトオリゴ糖(Chitooligosaccharide)を含む組成物の用途を提供する。
【0024】
また、本発明は、ヒアルロン酸、及びヒドロキシエチルスターチまたはキトオリゴ糖を含む組成物を、ヒトを含む哺乳類に投与して手術後の周辺臓器または組織が互いに癒着することを防止する方法を提供する。
【0025】
本発明の癒着防止用組成物についてより詳細に説明すると、下記の通りである。
【0026】
1.ヒアルロン酸(以下、‘HA’という。)
【0027】
本発明のヒアルロン酸は動物組織から抽出したものとするが、発酵法で製造したものなど、いずれのものもその起源を問わず使用することができる。該ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸分解酵素(Hyaluronidase)により分解された後に吸収され、代謝経路を経て除去される。
【0028】
また、本発明のヒアルロン酸は、化学的架橋がなされない生体由来材料で、既存の架橋がなされたヒアルロン酸の問題点である長時間体内滞留による人体への毒性などの蓄積が解消されるため、既存の製剤に比べて安全性に優れている。
【0029】
本発明のヒアルロン酸の分子量は、約5.0×10〜約5.0×10ダルトンの範囲、好ましくは、約0.8×10〜約3×10ダルトンの範囲とすることができ、この範囲の分子量を持つヒアルロン酸は適切な体内半減期を有するため、物理的な障壁の役割を果たすことができる。これに対し、既存の低分子量のヒアルロン酸(5.0×10未満)は、傷が治るまで物理的障壁としての役割を維持し難く、3×10ダルトンを超える高分子量を持つヒアルロン酸は粘度が非常に高くなり、流体の移送、ろ過などを含む製造工程において問題が生じることがあり、好ましくない。
【0030】
本発明のヒアルロン酸は、本発明の組成物の総重量対比約0.3〜約7.0重量%、好ましくは、約0.5〜約5.0重量%含まれる。ヒアルロン酸が0.3重量%未満であると、癒着防止の効果に限界があり、7.0重量%を超えると、粘度によって製造上問題が生じることができる。
【0031】
2.ヒドロキシエチルスターチ(Hydroxyethyl starch:以下‘HES’という。)
【0032】
本発明による組成物においてHESは、癒着発生の原因となる血液凝固機転において凝固発生を低下させる薬剤学的成分として用いられる。
【0033】
現在、種々のヒドロキシエチルスターチがコロイド血量代用液として用いられており、それらのヒドロキシエチルスターチは、主にそれらの分子量及び/またはヒドロキシエチル基に対するそのエーテル化及びその他パラメータで区別されるが、代表の例に、ヘタスターチ(Hetastatch)(HES 450/0.7)及びペンタスターチ(Pentastarch)(PES 200/0.5)などがある。
【0034】
HESは、重量平均に基づいて総じてキロダルトンに短縮して使用される分子量、ヒドロキシエチル基に対するエーテル化またはモル置換度MS(例:HES 200/0.5において0.5;MS=ヒドロキシエチル基対無水グルコース単位の平均モル比)、または置換度(例:DS=モノまたはポリヒドロキシエチル化グルコース対総無水グルコース単位の比)で特定される。臨床使用しているHESは、その分子量によって、高分子量(450kD)、中間分子量(200kD〜250kD)及び低分子量(70kD〜130kD)の製剤に分類することができる。
【0035】
HESは血液凝固に対する非特異的効果を有するが、これは、HESが循環系に注入される間に発生する血液の希釈に起因する。このような血液希釈への影響は、凝固因子の希釈による凝固低下を招くことができる。初期の研究過程では、HESの分子量が血液凝固に影響を及ぼすと報告されたが、Franz等は、血液凝固障害において高分子と低分子間に大差はないと報告し(Anesth.Analg.,92,1402−1407,2001)、ヨーロッパ特許第2005−050877号では、HES溶液の止血系統抑制は平均分子量よりはモル置換度に大きく影響を受けることが開示されている点などに照らしてみると、HESの平均分子量ではなく他の要素が血小板の機能に大きい影響を及ぼすものと考えられる。
【0036】
現在、血量代用液としてFDA承認を受けて海外で市販されているHES溶液には、Hextend(HES 670/0.75、Biotime)、Hespan(HES130/0.4、BBraun)、Voluven(HES 130/0.4、Fresenius kabi)などがある。
【0037】
本発明のヒドロキシエチルスターチの分子量は、約2.0×10〜約1.0×10ダルトン、好ましくは、約2.5×10〜約6.7×10ダルトンとし、ヒドロキシエチルスターチの分子量を2.0×10ダルトン未満にすると、癒着防止に効果的でないという問題があり、1.0×10を超えると、体内半減期が長くなるという問題につながる。ヒドロキシエチルスターチのモル置換度は、約0.2〜約0.8、好ましくは、約0.75〜約0.4にすることができ、モル置換度を0.2未満にすると癒着防止に効果的でなく、0.8超にすると、物質自体の安全性に問題が発生することがある。
【0038】
また、本発明のヒドロキシエチルスターチは、本発明の組成物の総重量対比約0.05〜約3.0重量%、好ましくは、約0.1重量%〜約2.0重量%にする。0.05重量%未満にすると癒着防止に効果的でなく、3.0重量%超にすると、癒着防止の効果がむしろ低下し、体内に長く留まるという問題がある。
【0039】
3.キトオリゴ糖(Chitooligosaccharide:以下、‘COS’という。)
【0040】
キチン(Chitin)とキトサン(Chitosan)は天然に存在する多糖類で、最近特に注目されている素材である。キトサンは天然(カニ、エビなどの甲殻類)に存在するキチンを脱アセチル化した物質で、グルコサミンがβ−1,4で結合した天然高分子多糖類であるが、分子量が大きすぎるため体内吸収率や溶解度が低いことから、優れた生理活性を持っていることにもかかわらず、その応用には制限がある。
【0041】
反面、キトオリゴ糖(Chitooligo−saccharide)は、キチンとキトサンの部分分解物で、キトサンの生理的特性を有しながらも、溶解度が高く、反応性の高い1級アミノ基が存在するから、様々な化学修飾が可能であり、生体吸収度が高く、坑菌活性を有し、医用材料として癒着防止効果に寄与できることが確認された。
【0042】
本発明のキトオリゴ糖の分子量は、約0.5×10〜約1.0×10ダルトンの範囲、好ましくは、約1×10〜約5×10ダルトンの範囲内にすることができ、分子量が0.5×10ダルトン未満である場合は、癒着防止効果に問題があり、1.0×10を超える場合は、体内使用に制限がある。
【0043】
本発明のキトオリゴ糖は、本発明の組成物の総重量対比約0.05重量%〜約15重量%、好ましくは、約0.1重量%〜約10重量%を含むことができ、0.05重量%未満にすると癒着防止効果に問題があり、15重量%超にすると、溶解度によって製造上に問題が生じることがある。
【0044】
本発明の組成物は、種々の製剤形態とすることができ、液剤、ゲル(gel)剤などが好ましく、液剤、またはゲル剤を製造するために、薬学的に許容される賦形剤、添加剤などを添加でき、例えば、生理食塩水または蒸溜水などを使用することができる。
【0045】
本発明の組成物を含む製品は、手術後の組織または器官同士の癒着防止のために、下記のような一般的な方法で使用することができる。
1)傷あるいは手術部位が止血されたことを確認した後に、
2)必ず滅菌した場所で当該製品の包装を剥がし、注射器の栓を除去した後、カテーテルを回して嵌めこみ、
3)適用部位に十分に塗布されるように投与する。必要時には、溶液の効果的な塗布のためにスプレーのような補助機構を使用しても良い。
4)投与して残った溶液は廃棄する。
【0046】
本発明の組成物の有効量は、単位面積(1cm)当たり約0.01〜10mlとすることができ、約0.1〜5mlとすることがより好ましいが、この有効量は、傷あるいは手術部位の深さ、大きさ、位置、損傷した部位の組織及び器官特異性、本発明の組成物の濃度及び施術者の個人的な見解によって変わることがある。
【発明の効果】
【0047】
以上説明したように、本発明による癒着防止用組成物は、化学的架橋のない生体由来物質を使用することによって異物反応を最小化し、一定時間体内で留まり、窮極としては分解及び吸収され、手術後の傷の治癒に妨げとならず、手術部位に容易に適用でき、癒着を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施例による組成物を動物に注射する写真である。
【図2】本発明の対照群に対する動物実験の結果を代表する写真である。
【図3】本発明の比較例による動物実験の結果を代表する写真である。
【図4】本発明による組成物の動物実験に対する癒着面積減少率を比較して示すグラフである。
【図5】本発明の実施例による動物実験の結果を代表する写真である。
【図6】本発明の実施例による動物実験の結果を代表する写真である。
【図7】本発明による組成物の動物実験に対する癒着の程度を比較して示すグラフである。
【図8】本発明による組成物の動物実験に対する癒着の強度を比較して示すグラフである。
【図9】本発明による組成物の動物実験に対する癒着の面積を比較して示すグラフである。
【図10】本発明による組成物の動物実験に対する癒着面積減少率を比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明の利点及び特徴、並びにそれらを達成する方法は、詳述される下記の実施例から明らかになるであろう。ただし、本発明は、以下に開示される実施例に限定されず、様々な形態に具現可能である。したがって、それらの実施例は本発明の開示を完全にし、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者に発明の範ちゅうを完全に教示するために提供されるもので、本発明は、それらの実施例によって定義されてはならず、請求項の範ちゅうによって定義されなければならない。
【0050】
比較例1〜4.対照群及びヒアルロン酸単独の癒着防止用組成物の製造
【0051】
[比較例1]−Guardix−sol
HA及びカルボキシメチルセルロースで構成された癒着防止剤として市販されている製品(Guardix−sol、Biorane社製)を使用した。
【0052】
分子量2.5×10〜3×10ダルトン、粘度30dl/g〜35dl/g範囲のHAを、生理食塩水に0.5重量%になるように溶解させた。この水溶液を4℃に設定された低温室で約2日間溶解させ、ヒアルロン酸を含むゲル組成物を得た。
【0053】
[比較例3]
HAを生理食塩水に1重量%になるように溶解させた以外は、実施例1と同様の方法でHA含有ゲル組成物を得た。
【0054】
[比較例4]
HES(670/0.75)を生理食塩水に8.0重量%になるように溶解したHES単独の組成物を得た。
【0055】
実施例1〜5.ヒアルロン酸及びヘタスターチ450/0.7を含む癒着防止用組成物の製造
【0056】
[実施例1]
6%HES(450/0.7)溶液を生理食塩水に0.03重量%になるように溶解させ、分子量2.5×10〜3×10ダルトン、粘度30dl/g〜35dl/g範囲のHAを、得られた生理食塩水溶液に1重量%になるように溶解させた。この水溶液を、4℃に設定された低温室で約2日間溶解させ、HA及びHESを含むゲル組成物を得た。
【0057】
[実施例2]
HESを生理食塩水に0.06重量%になるように溶解させた以外は、実施例3と同様の方法でHA及びHESを含有するゲル組成物を得た。
【0058】
[実施例3]
HESを生理食塩水に0.12重量%になるように溶解させた以外は、実施例3と同様の方法でHA及びHESを含有するゲル組成物を得た。
【0059】
[実施例4]
HESを生理食塩水に0.24重量%になるように溶解させた以外は、実施例3と同様の方法でHA及びHESを含有するゲル組成物を得た。
【0060】
[実施例5]
HESを生理食塩水に0.5重量%になるように溶解させた以外は、実施例3と同様の方法でHA及びHESを含有するゲル組成物を得た。
【0061】
実施例6.ヒアルロン酸及びヘタスターチ670/0.75を含む癒着防止用組成物の製造
異なる分子量及びモル置換度を有する6%HES(670/0.75)溶液を生理食塩水に0.5重量%になるように溶解させた以外は、実施例1と同様の方法でHA及びHESを含有するゲル組成物を得た。
【0062】
実施例7.ヒアルロン酸及びヘタスターチ264/0.45を含む癒着防止用組成物の製造
異なる分子量及びモル置換度を有する10%HES(264/0.45)溶液を生理食塩水に0.5重量%になるように溶解させた以外は、実施例1と同様の方法でHA及びHESを含有するゲル組成物を得た。
【0063】
実施例8.ヒアルロン酸及びキトオリゴ糖を含む癒着防止用組成物の製造
分子量1×10〜5×10ダルトンのキトオリゴ糖(以下、COSという。)(キトライフ)を生理食塩水に0.5重量%になるように溶解させ、HAを溶液の1重量%になるように溶解させた。この水溶液を、4℃に設定された低温室で約2日間溶解させ、HA及びCOSを含有するゲル組成物を得た。
【0064】
実験例1.ラットの盲腸/腹壁擦過傷モデルにおける癒着防止試験
比較例1〜4及び実施例1〜8で製造された試料の組織癒着防止性能を評価するために、ラットの盲腸/腹壁擦過傷モデルを利用した。実験動物は、7週齢雄Sparague−Dawley rat(SLC、Japan)を群当たり5匹使用した。癒着を誘発させるために、実験動物にKetamin・HClを腹腔に注射(0.1ml/100g)して麻酔した後、腹部を除毛して70%エタンオールで消毒した後、4〜5cm程度を中央線に沿って開腹した。次に、盲腸を取り出して1.2cm×1.2cm大きさの滅菌ガーゼを用いて出血がおきる程度に漿膜に損傷を与え、向かい合う腹腔膜に同一の大きさで試薬用スプーンを用いて損傷を加えた。両損傷面を当接するようにして摩擦損傷部位から1cm離れた2ヶ所を5−0ナイロン縫合糸で固定することで、癒着の形成を促進した。
【0065】
陰性対照群に対しては生理食塩水を、実験群に対しては癒着防止溶液を5mlずつ損傷部位に注入し(図1参照)、腹腔膜と皮膚を縫合した。手術後の動物は水と餌を十分に与えながら1週間育てた後、犠牲死させ、癒着評価システムを用いてその成績を合算して平均値を得た(Am.J.Obstet.Gynecol.,146,88−92,1983)。その結果をそれぞれ表1乃至表4に示す。
【0066】
癒着の程度に対する評価は、基準によって0〜5に分類した(0:癒着がない場合、1:1つの薄いフィルム状の癒着、2:2つ以上の薄いフィルム状の癒着、3:点状の集中化した厚い癒着、4:板状の集中化した癒着、5:血管が形成された非常に厚い癒着あるいは1つ以上の板状の厚い癒着)。
【0067】
癒着の強度に対する評価は、基準によって1〜4に分類した(1:フィルム状であり、非常に弱い力によっても離れる癒着、2:中間程度の力が要求される癒着、3:相当な圧力によって離れる癒着、4:癒着が非常に強いため、離れにくいまたは極めて大きい圧力が要求される癒着)。
【0068】
【表1】

【0069】
上記の表1に示すように、対照群に比べて比較例2、3の組織癒着が減少し、比較例2に比べて比較例3の癒着防止効果が向上した。したがって、HA単独組成物が、市販されている既存の組成物に比べて優れた癒着防止効果を有することがわかる。
【0070】
比較例4の組成物は、癒着防止効果が非常に低く、よって、HES単独では防壁としての役割を充分に果たすことができないということがわかる。
【0071】
対照群の動物実験結果の代表写真は図2に示し、比較例1の動物実験結果の代表写真は図3に示す。また、比較例1乃至4の動物実験による組織癒着面積の減少率は図4にグラフとして示す。
【0072】
【表2】

【0073】
上記の表2に示すように、実施例1乃至実施例5を投与した群において対照群に比べて組織癒着が顕著に減少し、本発明の実施例の組成物中のHESの重量%が増加するにつれて癒着の面積は減少し、より優れた組織癒着抑制性能を示すことが確認できた。
実施例5の動物実験結果は図5に示し、癒着が発生しなかった結果(実施例5の投与群のうちの1例)に対する代表写真は図6に示した。また、この動物実験に対する組織癒着の程度、癒着の強度、癒着の面積、及び癒着面積の減少率をそれぞれ図7〜10に示した。
【0074】
【表3】

【0075】
上記の表3に示すように、対照群に比べて実施例6、7の組織癒着が減少したことが確認したが、ゲル組成物に6%HES(264/0.45)溶液が0.5重量%添加された実施例7に比べて、10%HES(670/0.75)溶液が0.5重量%添加された実施例6の癒着面積がより減少し、癒着が全く発生しなかった個体数も2匹であって、より優れた癒着抑制力を示した。
【0076】
【表4】

【0077】
上記の表4に示すように、対照群に比べてCOSの添加された実施例8の組織癒着が減少したことが確認された。
実験群1乃至8の投与時、いずれも対照群に比べて塗布された材料による特異な炎症反応は観察されず、塗布された材料が優れた生体適合性を有することも確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸、及びヒドロキシエチルスターチ(Hydroxyethyl starch)またはキトオリゴ糖(Chitooligosaccharide)を含む癒着防止用組成物。
【請求項2】
ヒアルロン酸の分子量が0.8×10〜3×10ダルトンであることである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ヒアルロン酸が総重量対比0.5〜5重量%含まれる請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ヒドロキシエチルスターチは、2.0×10〜1.0×10ダルトンの分子量、及び0.75〜0.4のモル置換度を有するものである請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ヒドロキシエチルスターチは、2.5×10〜6.7×10ダルトンの分子量、及び0.75〜0.4のモル置換度を有するものである請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記ヒドロキシエチルスターチが総重量対比0.1重量%〜2.0重量%含まれる請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記水溶性キトオリゴ糖は、1×10〜5×10ダルトンの分子量を有するものである請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記水溶性キトオリゴ糖が総重量対比0.1重量%〜10重量%含まれる請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記ヒアルロン酸は、動物組織から抽出されたものまたは発酵法で製造されたものである請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
癒着防止用医療剤を製造するための請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物を、ヒトを含む哺乳類に投与して手術後の周辺臓器または組織が互いに癒着することを防止する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−509706(P2012−509706A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537373(P2011−537373)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【国際出願番号】PCT/KR2009/006962
【国際公開番号】WO2010/064806
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(501131210)シン・プーン・ファーマシューティカル・カンパニー・リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】SHIN POONG PHARMACEUTICAL CO., LTD.
【出願人】(509242794)ポステック アカデミー‐インダストリー ファウンデーション (9)
【Fターム(参考)】