発光ダイオードを用いた光触媒装置
【課題】発光ダイオードで効率よく光触媒を光励起し、光触媒効果を発揮させる。
【解決手段】光触媒装置は、光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層10と、光触媒層10の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な発光ダイオード12と、発光ダイオード12を駆動する駆動回路14と、駆動回路14を制御して発光ダイオード12の点灯時間を制御可能な制御回路とを有する。制御回路は、発光ダイオード12の点灯時間を、消灯時間以下とするパルス周期でパルス点灯させるよう駆動回路14を制御する。このように点灯時間を同じかそれよりも短い消灯時間を設けて発光ダイオード12をON/OFFすることにより、光触媒反応を促進することができる。
【解決手段】光触媒装置は、光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層10と、光触媒層10の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な発光ダイオード12と、発光ダイオード12を駆動する駆動回路14と、駆動回路14を制御して発光ダイオード12の点灯時間を制御可能な制御回路とを有する。制御回路は、発光ダイオード12の点灯時間を、消灯時間以下とするパルス周期でパルス点灯させるよう駆動回路14を制御する。このように点灯時間を同じかそれよりも短い消灯時間を設けて発光ダイオード12をON/OFFすることにより、光触媒反応を促進することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオードと光触媒を組み合わせて消臭等を行う光触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光源により活性化させて光触媒反応を生じさせ、消臭・脱臭、抗菌・殺菌、防汚・防曇効果を発揮し、悪臭除去や空気清浄、除菌、殺菌等に利用される。従来、光源としては太陽光の他、水銀ランプやブラックライト、殺菌灯が用いられてきた。しかしながら、これらの光源は寿命が数千時間であるため、連続点灯で使用した場合1年程度で交換する必要がある。また、電気−光変換効率が20%程度であり発熱量が多く、エネルギー消費が大きい。これに対し、近年発光ダイオード(LED)を光触媒反応用光源とする試みがなされている。例えば紫外線発光ダイオード(UV−LED)は、寿命が約5万時間と大変長く、消費電力の80%以上が光に変換されるため、低消費電力であり、蛍光灯に替わる将来の光源として期待されている。さらに、LEDはパルス照射や電流制御が可能であるという利点もある。また、小型素子ゆえ、デザインが多様であるという点から装置設計の柔軟性へと繋がる。
【0003】
また光触媒として用いられる半導体には、ガリウムリン(GaP)、ガリウム砒素(GaAs)等がある。これら大部分の半導体は水に入れて光を当てると、陽イオンと陰イオンになって溶解してしまう光溶解反応が生じ、半導体が溶出して無くなってしまう。一方で、酸化チタンは化学的に極めて安定なのでそのような溶解を起こさない。溶解現象を起こさない材料として他にないわけではないが、そうした物質はバンドギャップエネルギーが酸化チタンより大きい。すなわち、よりエネルギーの高い紫外線が光触媒作用のために必要となる。酸化チタンは可視光を吸収しないが、可視光に近い紫外線を吸収でき、太陽光や蛍光灯に含まれるわずかな紫外線を利用することができるという点で、光触媒として有利である。
【0004】
このような観点から、近年、半導体の光触媒に、光源として発光ダイオードを組み合わせ、発光ダイオードからの発光で光触媒を活性化させる空気清浄機が提案されている(特許文献1参照)。例えば、空気清浄機の空気流路に、ここを流れる空気流を浄化する光触媒物質を有する光触媒層を配置して、発光ダイオードで光触媒層の光触媒物質を活性化させ、空気中のにおい物質を分解、除去する。
【特許文献1】特開2002−98375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、酸化チタン系等半導体の光触媒と発光ダイオード等の半導体素子を組み合わせた消臭装置において、消臭能力を向上させるためには、発光ダイオードの出力を向上させることがよいと考えられてきた。しかしながら、本発明者らの行った研究によれば、単に発光ダイオードを連続照射するのみでは、十分な光触媒の能力を発揮させることができないことが判明した。この原因は、光触媒が光触媒効果を発揮するのは、対象となるガスを吸着した場合であり、十分な吸着が行われない時には消臭等の効果が十分に発揮されないためであると考えられる。
【0006】
また、このような消臭・脱臭方式では、対象ガスが低濃度になった場合、境膜拡散抵抗により除去効率が著しく低下するという問題もあった。対象ガスが低濃度である場合、濃度差によって生じる濃度勾配によって吸着駆動力も低くなるため、二酸化チタンに対する対象ガスの吸着速度が遅く、除去効率が悪くなる。この傾向は、濃度が低くなるほど顕著となる。このため、従来の二酸化チタンを用いた従来の処理方法では、一段当たりの除去効率が低いため、通常は数段から十数段の処理や閉鎖空間での循環使用といった方法が採用されている。しかしながら、触媒層を多段にする構成は専有スペースが大きくなり、各触媒層に励起光を照射する光源の配置も問題となり、コストもかかる。また閉鎖空間での循環利用は、循環設備や閉鎖空間の構成が必要となる上、利用できる条件が限られている等の問題があった。このため、より効率よく光触媒を悪臭ガス等の分解対象物と接触させて光触媒反応を生じさせることのできる光触媒装置が求められるところである。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものである。本発明の主な目的は、発光ダイオードで効率よく光触媒を光励起し、光触媒効果を発揮し得る発光ダイオードを用いた光触媒装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置は、光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な発光ダイオードと、発光ダイオードを駆動する駆動回路と、駆動回路を制御して発光ダイオードの点灯時間を制御可能なパルス制御回路とを有する光触媒装置であって、パルス制御回路が、発光ダイオードの点灯時間を、消灯時間以下とするパルス周期でパルス点灯させるよう駆動回路を制御する。このように点灯時間を同じかそれよりも短い消灯時間を設けて発光ダイオードをON/OFFすることにより、光触媒反応を促進することができる。
【0009】
また、本発明の第2の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置は、光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な発光ダイオードと、発光ダイオードを駆動する駆動回路と、駆動回路を制御して発光ダイオードの点灯時間を制御可能なパルス制御回路とを有する光触媒装置であって、パルス制御回路が、発光ダイオードの点灯時間を30ms以下でパルス点灯させるよう駆動回路を制御する。このように短い点灯時間でパルス点灯させ、ON/OFF点灯させることにより、光触媒反応を促進することができる。
【0010】
さらに、本発明の第3の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置は、光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な発光ダイオードと、発光ダイオードを駆動する駆動回路と、駆動回路を制御して発光ダイオードの点灯時間を制御可能なパルス制御回路とを有する光触媒装置であって、パルス制御回路が、発光ダイオードの点灯時間をデューティ比10%以下でパルス点灯させるよう駆動回路を制御する。このように点灯時間を短くすることで、消灯時間に新たな反応物を供給して、効率よく光触媒反応を行うことができる。またデューティ比を小さくすることで省電力化が図られ、電池駆動も実現可能とできる。
【0011】
さらにまた、本発明の第4の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置は、パルス制御回路が、発光ダイオードの点灯周期を50Hz〜5kHzの周期でパルス点灯させるよう駆動回路を制御する。このように短い点灯時間でパルス点灯させ、ON/OFF点灯させることにより、光触媒反応を促進することができる。
【0012】
さらにまた、本発明の第5の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置はさらに、駆動回路の駆動源として、太陽電池を備える。これによって、太陽電池で昼間の駆動電力を確保し、省電力で駆動できる。また商用電源との併用により、光触媒装置を昼夜にわたり使用可能とできる。
【0013】
さらにまた、本発明の第6の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置はさらに、光触媒層を振動させる振動付与手段を備える。これによって、光触媒層と光触媒反応の対象物との表面積を大きくでき、光触媒反応をさらに促進できる。
【0014】
さらにまた、本発明の第7の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置は、発光ダイオードが、紫外線照射発光ダイオードである。
【0015】
さらにまた、本発明の第8の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置は、光触媒物質が二酸化チタンである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の発光ダイオードを用いた光触媒装置によれば、光触媒を励起する励起光を照射する発光ダイオードの点灯タイミングを制御することで、効率よく光触媒反応を生じさせ高効率の光触媒装置を得ることができる。特に、光触媒表面への有機物の吸着は点灯時より消灯時の方が効率よく行われ、しかも光分解は短時間で行われるとの知見に基づき、点灯時間を抑えることで連続点灯よりも優れた効率を達成でき、しかも消費電力を少なく、発熱量も低減した長寿命で信頼性の高い光触媒装置とできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための発光ダイオードを用いた光触媒装置を例示するものであって、本発明は発光ダイオードを用いた光触媒装置を以下のものに特定しない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0018】
本発明者らは、このような光触媒装置における光触媒効果の発現程度と、光照射の関係を調べた結果、光源を光触媒に連続照射するよりもパルス照射する方が良好な結果を示す知見を得、本発明を成すに至った。以下、そのメカニズムについて図1に基づき説明する。
【0019】
酸化チタン等の光触媒物質に光が照射されるとラジカルが発生し、このラジカルが有機物を分解する。この分解反応は、光触媒物質自体が分解対象物と接触している必要がある。光源を点灯し続けて連続照射する場合は、光触媒物質と有機物との接触部分で分解が生じるが、その結果発生するガスの影響で、新たな有機物の吸着が少ない。吸着が少ないと光触媒反応も少なくなり、その結果処理能力が低下する。一方、パルス点灯する場合は、光源を消灯する期間があるため、この期間には分解反応は生じず、その結果新たな有機物が吸着し易くなる。より多くの有機物が光触媒物質に吸着するようになると、光触媒反応も活発になり分解が促進される。また、本発明者らの行った試験によれば、光触媒反応は短時間の照射で行われるため、ON時間がたとえ一瞬であっても十分な分解効果が得られることが判明した。したがってON時間を短くし、またOFF時間を分解対象物の有機物の吸着が十分に得られる長さに設定することで、極めて効率よく光源を発光させて光触媒反応を得ることができる。またON時間を短くすることは、光源の消費電力の低減にもつながり、発熱量を抑えて光源の発光ダイオード素子の寿命を長くし、長期にわたって信頼性高く利用できることにも繋がる。
【0020】
この性質を利用して、光触媒反応を利用した有機物の分解や殺菌作用を用いた消臭・脱臭装置や殺菌装置、防汚機器等の光触媒装置の高効率化が実現できる。以下、本発明の一実施の形態として、光触媒装置として広く利用されている消臭・空気清浄機能に着目し、悪臭を浄化する悪臭浄化装置に本発明を適用した例について説明する。
(実施の形態1)
【0021】
図2に、本発明の実施の形態1に係る悪臭浄化装置を示す。この光触媒装置100は、光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層10と、この光触媒層10に光を照射可能な位置に固定された光源として、複数の発光ダイオード12と、発光ダイオード12を駆動する駆動回路14と、駆動回路14を制御して発光ダイオード12の点灯時間を制御可能なパルス制御回路16と、これらを駆動する電源18とを有する。
(発光ダイオード12)
【0022】
発光ダイオード12は、360〜400nmの紫外線を含む光を発光するものが利用できる。発光波長は、使用される光触媒の励起光の波長に応じて選択される。このような発光ダイオードの材料としては、BN、SiC、ZnSeやGaN、InGaN、InAlGaN、AlGaN、BAlGaN、BInAlGaN等種々の半導体を挙げることができる。同様に、これらの元素に不純物元素としてSiやZn等を含有させ発光中心とすることもできる。光触媒を効率良く励起できる紫外領域の短波長を効率よく発光可能な発光層の材料として特に、窒化物半導体(例えば、AlやGaを含む窒化物半導体、InやGaを含む窒化物半導体としてInXAlYGa1-X-YN(0<X<1、0<Y<1、X+Y≦1)がより好適に挙げられる。また、半導体の構造としては、MIS接合、PIN接合やpn接合等を有するホモ構造、ヘテロ構造あるいはダブルへテロ構成のものが好適に挙げられる。半導体層の材料やその混晶比によって発光波長を種々選択することができる。また、半導体活性層を量子効果が生ずる薄膜に形成させた単一量子井戸構造や多重量子井戸構造とすることでより出力を向上させることもできる。発光ダイオード12の数は1個でも良いし、多数個並設しても良い。なお、本明細書において発光ダイオードとは、必ずしも可視光成分を含む光を発光する必要はなく、紫外領域の短波長を出力可能なダイオードを含む意味で使用する。また高出力のパワー系LEDや半導体レーザ(LD)も含む概念で使用する。
(光触媒物質)
【0023】
光触媒物質は、半導体系の物質を利用し、好ましくは光溶解反応で溶出する半導体の量が少なく、効果の持続性が高いものを使用する。ここではバンドギャップエネルギーが比較的小さく、可視光に近い紫外線で励起可能な光触媒物質として酸化チタンを利用した。
(酸化チタン)
【0024】
酸化チタンの反応機構を、以下説明する。酸化チタンには、ルチル、アナターゼ、ブルッカイトの3種の結晶形がある。ブルッカイトは他に比べて不安定であり、純粋な結晶を合成するのは難しい。塗料中の顔料として広く用いられているのはルチルで、光触媒としてはアナターゼが主として用いられている。酸化チタンはn型半導性を示し、光電極や光触媒の材料として太陽エネルギー変換材料への応用が注目されていた。一般の光化学反応は反応基質の光励起によって起こる。これに対して酸化チタンの光触媒反応は、3〜3.2eV程度のバンドギャップ以上の光(紫外線)のエネルギーを吸収すると、次式のように伝導帯に電子(e-)、荷電子帯に正孔(h+)を生成する。
【0025】
[化1]
TiO2+近紫外線→e-(電子)+h+(正孔)
【0026】
この電子は、酸素を還元してスーパーオキシドイオン(O2-)を生成する。その後、スーパーオキシドイオンは水分と反応して過酸化水素を経てヒドロキシルラジカルが生成すると思われる。また、正孔もヒドロキシルラジカル生成へ関与している。この様子を次式に示す。
【0027】
[化2]
O2+e-→O2-
O2-+2H+→H2O2
H2O2+e-+H+→OH+H2O
h++H2O→OH+OH-
【0028】
ヒドロキシルラジカル、スーパーオキシドイオン等は活性酸素と呼ばれ、ヒドロキシルラジカルはその中で最も反応性が高く、最も酸化力が強い。そのため、あらゆる有機物を分解して水と二酸化炭素に変化させる。
(光触媒層10)
【0029】
光触媒物質自体を造粒・焼成し、又は光触媒物質を布地、陶器、金属等の他の部材に担持させて光触媒層10を形成する。担持には、例えばバインダを使用できる。
(駆動回路14)
【0030】
またLEDの駆動回路14は、LEDをON/OFFさせるスイッチング回路であり、FET等により構成される。またパルス制御回路16は、駆動回路14を制御してLEDに供給される電流量や点灯周期を調整する。またLEDのON時間を規定するデューティ比を調整可能なPWM制御を行う。デューティ比は、パルス周期に対するLED照射時間の比率(点灯時間/周期)である。パルス制御回路16は、例えばパルス周期を120μs〜999sまで可変とし、LED1素子あたりの電流量を最大100mA、タイマを0.5h間隔で0.5〜9.5h可変にできる。この光触媒装置は、発光ダイオード12を駆動回路14で駆動して励起光を光触媒物質に照射することにより光触媒物質を活性化させる。この際の点灯周期やデューティ比を調整することで、光触媒効率を向上させる。
(電源18)
【0031】
駆動回路14は、電源18と接続される。電源18は、商用電源の他、一次電池や二次電池等とすることもできる。一般にLEDは通常の紫外線ランプや紫外線蛍光灯に比較して電力消費量が低い。ただ、LEDを用いた場合でも連続照射やデューティ比の高いパルス照射では、商用電源等の電力供給が必要となる。これに対して、本実施の形態では、デューティ比を1〜50%に抑えたパルス駆動とすることで、消費電力を抑え、電池等の携帯電源での駆動を可能とできる。これにより、電源線の接続が不要で取り回しの容易な光触媒装置や、電源設備のない場所で利用可能な携帯型の光触媒装置が実現できる。さらに電源18として、太陽電池を利用することもできる。昼間は太陽光に含まれる紫外光を利用して光励起する一方で太陽電池で電力を蓄えておき、夜間には蓄えられた電力を利用することで、昼夜にわたって連続駆動可能とできる。なお、電源18として商用電源と蓄電池、太陽電池のいずれかを併用したり、これらを切り替えて利用可能とする構成も採用できることはいうまでもない。
(実施の形態2)
【0032】
また、悪臭浄化装置等の光触媒装置には、光触媒層10を振動させる振動付与手段20を付加してもよい。図3に、本発明の実施の形態2に係る光触媒装置200として、振動付与手段20を付加した悪臭浄化装置を示す。なお、図2に示した部材と同じ部材については、同じ番号を付し、詳細説明を省略する。図3に示す振動付与手段20は、低周波振動器であり、振動数を0〜300Hzまで可変できる。微細振動を付加することで、光触媒層10と光触媒反応の対象物との接触確率を増加させ、光触媒反応をさらに促進できる。特に、悪臭ガス等有機物の分解・除去が困難な低濃度域での除去率の向上させることができる。
(実施例1)
【0033】
以下、実施例1として図2の悪臭浄化装置を用いて、悪臭物質を含む対象ガスを流し、LEDパルス照射と連続照射とを行いガス濃度を測定して、それぞれの除去率を演算した。
(ガス濃度測定)
【0034】
ガス濃度の測定及び分析する機器として、ここでは気体検知管(検知管式気体測定器)を使用した。気体検知管は対象とする気体の濃度を測定する機器で、対象気体に反応して変色する粒状の検知剤を一定内径のガラス管に緊密に充填し、両端が熔封されたガラス管の表面に濃度目盛りを印刷したものである。充填する検知剤には、乾燥剤となるシリカゲルやアルミナ等粒体に各試薬をコーティングしており、その試薬は測定対象の気体のみ反応して鮮明な変色層を示し、長時間にわたって安定しているものが用いられる。
(悪臭物質)
【0035】
本実施例では、アセトアルデヒドとホルムアルデヒドの2種類の悪臭物質を用いた。
(アセトアルデヒド)
【0036】
アセトアルデヒド(CH3CHO)は刺激臭のある無色の化学物質で、沸点は20.8℃、融点は−123.3℃であり、エチレンを酸化する方法等によって合成され、酢酸、ブタノール、合成高分子等の製造原料となる。大気中への排出は、アセトアルデヒドの製造工程、アセトアルデヒドを原料とする物質の製造工程から、また自動車排出ガスやたばこの煙から等がある。悪臭の原因となる物質として、特定悪臭物質に指定されている。臭気を感知できる濃度(検知閾値濃度)は0.002ppm、悪臭防止法により都道府県知事が規制基準として定めることのできる濃度範囲(臭気強度2.5〜3.5)は0.05〜0.5ppmである。
(ホルムアルデヒド)
【0037】
ホルムアルデヒド(HCHO)は、刺激臭のある無色の気体で、沸点は−19.3℃、融点は−118.3〜−117.8℃である。40%程度水に溶かしたものがホルマリンと呼ばれる水溶液で、フェノール樹脂、メラニン樹脂、ユリア樹脂等の樹脂、接着剤、塗料やホルマリン漬標本等に代表される防腐、殺菌剤等に広く使用されている。低濃度でも人によっては、シックハウス症候群のような障害を起こすことがある。VOC(揮発性有機化合物)の一種である。
(LED悪臭浄化装置)
【0038】
LEDを光源に用いた悪臭浄化装置は、図2に示すように対象ガスが光触媒層10を通過するような連続接触型浄化装置とした。なお実施例においては、UV−LEDとして日亜化学工業株式会社製NSHU550を使用した。そのピーク波長は375nm、パルス順電流の最大定格は50mAである。このUV−LEDを光触媒層10の上下に各々6個ずつ設置した。
【0039】
また光触媒物質として、MILLENNIUM社のアナターゼ型二酸化チタン(TiO2)PC−500粉末を使用した。装置への応用の前処理として、水で混練することで造粒した後500、600、800℃で焼成処理を行った。その他、石膏10%を加え70℃で乾燥処理した試料も作製した。
【0040】
以上のようにして作製された試料の粒子は微小球状であり、二酸化チタンを主要成分としている。この光触媒物質を60メッシュのステンレスメッシュで担持し、光触媒層10とした。光触媒層10の面積は約4.32cm2、光触媒層10の厚みは約2mm、光触媒量は約1.1gである。またLEDと光触媒層10の距離を約9mmとし、平均照度は0.6mW/cm2とした。この浄化装置のLEDのパルス制御回路16でパルス周期やデューティ比を変化させ、パルス出力を制御する。
【0041】
処理前のガスを浄化装置に通過させるために、浄化装置の出口側にポンプ26を取り付けた。ポンプ26にはミニポンプ(0.05〜3l/min)を使用した。また、光触媒層近傍でのLED照射による発熱を発散するために、必要に応じて送風機を設置する。光触媒による酸化反応は環境温度に影響されるため、試験は20〜25℃の恒温室内で行った。
【0042】
図2の浄化装置を用いて、以下の手順で測定を行った。まず試験ガス調製用テドラーバッグ22を用いてアセトアルデヒドを空気で希釈し、アセトアルデヒド濃厚ガス(約6000ppm)を作製した。この濃厚ガスを目的に応じた濃度に希釈し、テドラーバッグ22に入れ、処理前のガスとした。ガス流量や紫外線LEDの照射方法は、測定目的に応じて設定する。浄化装置始動後、装置内(デッドスペース)の気体を別のバッグに取り除き、新たに試験ガス採取用テドラーバッグ24を取り付けた。この回収したガスを試験後のガスとした。そして回収した処理後のガスの濃度を測定した。測定された濃度に基づき、下記の数1を用いて、除去率によって性能を評価した。
【0043】
【数1】
【0044】
他の悪臭成分であるホルムアルデヒドに対しても、同様の操作で試験を行った。
(焼成処理による二酸化チタンの影響)
【0045】
二酸化チタンのXRD結果とBET法による比表面積測定の結果を図4〜図5に示す。未焼成の試料(原料)から焼成温度900℃の試料については、アナターゼが観察された。しかし、1000℃焼成した試料については、アナターゼの他にルチルも確認された。焼成温度が高くなるにつれて、二酸化チタンの比表面積は減少し、500℃で77、600℃で43、800℃で13m2/gとなった。
【0046】
図6〜図7に用いた試料表面のSEM写真を示す。図6の(a)は未焼成の粉末、(b)は石膏を用いて押し出し造粒したもの、(c)及び(d)は造粒装置で顆粒にしたものである。(b)は、石膏により粒子が大きくなっており、(c)及び(d)はよく似た粒状の外観であることが分かる。さらに、倍率は異なるが図7で詳しく観察すると焼成温度が高くなるに従って空隙が少なくなり、粒子が詰まっていることが分かる。また、(d)は、(c)と比較すると粒成長しており、焼結が進んでいることも分かる
(粉末試料による光触媒性能評価)
【0047】
図8にガスバッグB法によるアセトアルデヒドの除去率を示す。図8の実験に限り、紫外線光源にはブラックライトを用い、紫外線強度は1.0mW/cm2とした。未焼成の二酸化チタンから、700℃で焼成した二酸化チタンまでの光触媒活性度には、大きな違いは見られず、焼成温度が800℃以上の試料のものから除去速度は遅くなった。これは、比表面積と光触媒活性に直接的な関係はなく、吸着や分解の起こるための十分な比表面積があれば分解反応が起こるものと考えられる。
(アセトアルデヒドに対するLED悪臭浄化装置の効果)
【0048】
図9に、パルス周期に対するアセトアルデヒドの除去率変化を示す。試験条件は、ガス濃度20ppm、電流値20mA、線速度0.0042m/s、温度20℃、デューティ比50%、紫外線強度0.6mW/cm2として600℃で焼成した二酸化チタンを用いた。周期約0.2〜2msまでは連続照射と同程度、あるいはそれ以上の除去率であった。周期約2ms以後では、除去率は徐々に減少し、約10ms前後では連続照射の約1/2になった。
【0049】
これらのことから、アセトアルデヒドの除去機構は、上述した図1に従うと考えられる。すなわち、パルス周期が1ms前後の場合は、LED消灯時の吸着量が点灯時の処理量より十分に大きいため、除去効率が連続点灯と同等、あるいはそれ以上となる。一方、点灯時は、分解が発生するためそれによる発生ガスの影響で吸着が少なくなる。パルス周期が約10ms前後で除去率が約1/2となった原因は、光触媒層上の吸着が飽和状態となり、消灯時の吸着の効果が失われたためと考えられる。このようにアセトアルデヒドは、主としてLED点灯時に吸着、分解が同時に起こり、消灯時には吸着のみが起こることによって除去される。消灯時の吸着は、点灯時より大きいものの、時間の経過と共に急速に減少する。一方、点灯が瞬時であっても十分な分解が得られる。このことから、LEDの点灯周期は消灯時間が支配的となり、有機物の光触媒物質への吸着効果が発揮できる時間に設定する。好ましくは、消灯時間は吸着が飽和するよりも短い時間とする。一方、消費電力節約の観点からは、点灯時間を短くすることが好ましいが、LEDの駆動回路14のスイッチング速度の高速化やコスト等の面から、0.1ms〜30ms、好ましくは1〜20ms、より好ましくは2ms〜5msとする。また点灯周期は、50Hz〜5kHz程度の周期とする。さらにデューティ比は50%以下、好ましくは10%以下とする。これら点灯時間及び点灯周期は、使用される光触媒物質やLEDの出力、電源の種類等に応じて、最適に調製される。
【0050】
以下説明する実施例では、特記するものを除いて600℃で焼成した二酸化チタンを用いて、線速度0.0042m/s、温度20℃でLED照射を実施した。
【0051】
まず、アセトアルデヒドのガス濃度20ppm、パルス周期を1msとし、デューティ比を変化させたときの除去率を測定した。この結果を図10に示す。アセトアルデヒドの分解は、デューティ比が10〜80%の範囲で連続照射よりも良好な除去効率を示した。デューティ比が10%の場合でも連続照射より優れた除去効率を示した原因は、アセトアルデヒドに対しての酸化チタンの分解能力が余剰にあるため、処理されたものと推測される。したがって、効率的な分解が行われていないことが確認できる。そのため、酸化チタンと表面で十分に接触するように工夫すれば、この10倍程度の化学量の処理も可能となる。またデューティ比が80%以上になると、連続照射と同程度の除去率になった。これは、前述の通りLED点灯時は分解が起こるため、分解による発生ガスの影響で吸着が阻害されるためと考えられる。
【0052】
次に、アセトアルデヒドの濃度を5ppmとした場合のパルス周期に対する除去率の変化を測定した。この結果を図11に示す。ここでのデューティ比は50%とした。測定の結果、図9に示すアセトアルデヒド20ppmでの場合と異なり、パルス幅が70〜1msになるに従ってアセトアルデヒドの除去率は減少した。20ppmの試験の場合と比べて、濃度勾配が小さく、前述のモデルのLED消灯時の吸着量が少なく、そのままガスが通過したと考えられる。なおグラフのばらつきについては、低濃度であるため検知管の値が判別し難いことによる誤差と思われる。
(実施例2)
【0053】
次に、低濃度での吸着効率を向上させるために、振動付与手段20を付加した図3に示す実施の形態2を使用して、対象ガスの除去率を測定した。一般に実施例1のような消臭・脱臭方式では、対象ガスが低濃度になった場合、境膜拡散抵抗により除去効率が著しく低下する。そこで、アセトアルデヒドが触媒内を通過する装置の下部に振動付与手段20として低周波振動器を設置し、光触媒と対象ガスとの接触確率を高めることで低濃度での吸着効率の向上効果を確認した。
【0054】
実施例2として、低濃度域で振動数60Hzの微細振動を付与し、デューティ比を変化させてアセトアルデヒドの除去能力を測定した結果を図12に示す。比較例として、連続照射を行った場合のアセトアルデヒドの除去能力は、60%前後であった。一方、実施例2としてパルス周期を1ms前後とすると、連続照射試験のときよりも良好な除去率を示した。これは、パルス周期が短い場合、LED点灯時と消灯直後の濃度勾配は等しく、消灯時のより大きな吸着が有効に作用したものと考えられる。一方でパルス周期が長くなると濃度勾配が小さくなるため、LED消灯時の吸着量も小さくなる。したがって、低濃度でのアセトアルデヒドの除去には、微細振動の付与と1ms前後のパルス照射が効果的であることが判明した。
(光触媒物質の比表面積とパルス周期の関係)
【0055】
さらに、アセトアルデヒドの除去試験で用いた二酸化チタンの比表面積と最適なパルス周期との関係を調べた。この結果を図13〜図15に示す。図13は、70℃で乾燥した二酸化チタン試料に対してガス濃度20ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を50%としてLEDを照射した場合の除去率を示している。また図14は、同一の条件で試料として500℃で焼成した二酸化チタン試料を使用した場合の除去率、図15は同じく800℃で焼成した二酸化チタン試料を使用した場合の除去率をそれぞれ示している。各試料ともパルス照射の方が連続照射より良好な除去率を示す部分が見出された。図12〜図15の試験において、除去率がピークとなるパルス周期を、図16に示す。この図に示すように、除去率がピークとなるパルス周期は、70℃、500℃、800℃の試料につき、それぞれ50、30、5msとなった。パルス照射の場合は、図1のような対象ガスの吸脱着が生じる。これらの例では、光触媒物質の比表面積が大きく、吸着量が大きいものについては、パルス周期を長くしても除去できることが判る。
【0056】
一方で、比較例として行った連続照射では、70、500、800℃と処理温度を高くするに従い、除去率は65、60、30%と低下した。また、70℃乾燥試料と500℃の焼成試料では除去効率に大きな差は見られなかった。これは、LED連続照射の場合、比表面積とアセトアルデヒドの除去とに直接的な関係はなく、吸着や分解が起こるための充分な比表面積があれば分解反応が起こるという図8と同様の現象であると思われる。
【0057】
800℃焼成試料は、光触媒活性が低いが機械的強度は高い。機械的強度が高ければ、装置として使うのに有利である。しかしながら、除去率は30%程度である。そこで、低周波振動を付与することでアセトアルデヒドの除去率の向上を試みた。
【0058】
ここで、図15と同様の条件で、パルス周期を10ms、振動数180Hzの振動を付与しデューティ比を変化させた。この結果を図17に示す。この結果を図15と比較すると、パルス周期が10msの時、振動を加えることにより除去率が2倍以上向上した。振動の付与により、アセトアルデヒドと試料との接触確率が増加し吸着が促進された結果、反応性が向上したことが原因と考えられる。また、デューティ比が20〜60%の範囲で連続照射より良好な値を示した。これは、LED消灯時の吸着量が点灯時より大きく、全体として処理量が増加したためと思われる。デューティ比が80%以上で除去効率が低下した原因は、アセトアルデヒドが分解されることでガスが発生し吸着が起こり難くなり、吸着量が少なくなったためと思われる。
(ホルムアルデヒドに対するLED悪臭浄化装置の効果)
【0059】
次に悪臭物質として、アセトアルデヒドに代わりホルムアルデヒドを使用した除去試験を行った。近年シックハウス症候群のような低濃度域での大気汚染が問題になっており、VOCの中でもその主成分となっているホルムアルデヒドは優先的取り組みの対象として一番目に取り上げられている。ここでは、ガス濃度を0.5ppm、3ppm及び4ppmとし、振動数を200Hz、図13で使用した70℃乾燥試料、デューティ比100%にて試験を行った。この結果を図24に示す。この図から、ガス濃度が3ppm以上では、除去率が80%以上を示した。3ppmが4ppmよりも除去効率が高いのは、濃度範囲が広い検知管を使用したことによる測定誤差だと思われる。また、0.5ppmでは除去率が40%程度となり4ppmの1/2に減少した。これは、アセトアルデヒド5ppmと場合と同様、濃度勾配が小さく二酸化チタンの吸着が少ないためだと考えられる。
【0060】
さらに、低濃度でのホルムアルデヒドの除去効率を向上するために、ガス濃度0.5ppm、デューティ比50%、振動数200Hzで、パルス周期を変化させたときの除去率を測定した。この結果を図25に示す。この図に示すように、パルス照射と振動を付与することで、低濃度のホルムアルデヒドでも80%程度の除去率になることが示された。これは、前述のアセトアルデヒドの場合と同様、パルス照射を行うことによりLED消灯時の吸着量がLED点灯時の処理量より十分に大きくなったためと考えられる。しかし、パルス周期が1msの場合の除去率は、LED連続照射時の1/2の20%しかなかった。
【0061】
そこで、図25の試験をパルス周期1msで、デューティ比を変化させることよって除去率への影響を調べた。この結果を図26に示す。デューティ比が1%の場合の除去率は、デューティ比が20〜80%の場合と比べて上昇した。これは、LED消灯時の吸着量が大きいためと考えられる。また、試験ガス濃度に対して酸化チタンの吸着能力が十分にあればデューティ比を小さくしても高除去率を得ることができると分かった。従ってシックハウス症候群対策等では、デューティ比を小さく設定すれば、低消費電力で、しかもLEDの長寿命化が可能となることが示された。
【0062】
以上のように、パルス周期を長くしデューティ比を小さくしても高除去率を維持できる。アセトアルデヒドやホルムアルデヒドの分解試験では、連続照射より数〜数十m秒周期のパルス照射を行った方が除去率が優れていた。また、デューティ比が1〜50%で良好な除去率を示した。また、長時間使用可能な悪臭浄化装置に使用する酸化チタンには、LEDパルス照射時において短時間で吸脱着が可能で、しかも光触媒活性の高い材料が有効である。詳細には、アセトアルデヒドが20ppmのとき、光触媒物質として600℃で焼成した二酸化チタンを用いた場合、LED連続照射試験において除去率80%を達成した。また、デューティ比50%のLEDパルス照射試験では、周期約0.2〜2msでは連続照射と同程度の処理能力が得られる。二酸化チタンは、焼成温度が高くなるにつれて除去率が低下傾向にある。このため、高比表面積であるほど酸化チタンに対象ガスが吸着することが判明した。さらに、光触媒物質に微細振動を付与すると、対象ガスと光触媒物質との接触確率が増加し吸着が促進される結果、反応性が向上する。例えば、800℃で焼成した二酸化チタンに微細振動を付与すると、アセトアルデヒドの除去率が向上する。振動を付与することにより、パルス周期が10msの場合で除去率が2倍以上に向上した。また対象ガス濃度が低い場合、デューティ比を小さく設定しても高い除去率を示し、さらに低消費電力でLEDの長寿命化も図れる。例えば、ホルムアルデヒド0.5ppmに70℃で乾燥した二酸化チタンに200Hzの振動を付与し、デューティ比を変化させたときの除去率を測定した結果、デューティ比が1%であってもデューティ比が40%の場合と同程度の除去率を示した。このように、二酸化チタンに照射する光源としてLEDを使用して、さらにデューティ比を適切に設定したパルス照射を行うことで、二酸化チタンの対象ガスに対する吸着力を向上させて処理能力を高めることができる。また、点灯期間を短くすることで消費電力量を著しく低減させ、電池や二次電池での使用も可能となる。同時に太陽電池と組み合わせて、夜間の稼働も可能とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の発光ダイオードを用いた光触媒装置は、消臭・脱臭装置に限られず、殺菌装置、防汚機器等に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】パルス照射によって光触媒効果が発現する過程を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置のブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置のブロック図である。
【図4】二酸化チタンのXRD結果を示すグラフである。
【図5】二酸化チタンのBET法による比表面積測定の結果を示すグラフである。
【図6】試料表面のSEM写真を示すイメージ図である。
【図7】試料表面のSEM写真を示すイメージ図である。
【図8】ガスバッグB法によるアセトアルデヒドの除去率を示すグラフである。
【図9】600℃で焼成した二酸化チタン試料に対し、ガス濃度20ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を50%とし、パルス周期を変化させてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図10】600℃で焼成した二酸化チタン試料に対し、ガス濃度20ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でパルス周期を1msとし、デューティ比を変化させてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図11】600℃で焼成した二酸化チタン試料に対し、ガス濃度5ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を50%とし、パルス周期を変化させてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図12】600℃で焼成した二酸化チタン試料に振動数60Hzの微細振動を付与し、ガス濃度5ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を変化させてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図13】70℃で乾燥した二酸化チタン試料に対してガス濃度20ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を50%としてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図14】500℃で焼成した二酸化チタン試料に対してガス濃度20ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を50%としてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図15】800℃で焼成した二酸化チタン試料に対してガス濃度20ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を50%としてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図16】図12〜図15において、除去率がピークとなるパルス周期を示すグラフである。
【図17】800℃で焼成した二酸化チタン試料に振動数180Hzの振動を付与し、図15と同様にガス濃度20ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を変化させてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図18】70℃で乾燥した二酸化チタン試料に振動数200Hzの振動を付与し、ガス濃度0.5ppm、3ppm、4ppmのホルムアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でLEDを連続照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図19】70℃で乾燥した二酸化チタン試料に振動数200Hzの振動を付与し、ガス濃度0.5ppmのホルムアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を50%としパルス周期を変化させてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図20】70℃で乾燥した二酸化チタン試料に振動数200Hzの振動を付与し、ガス濃度0.5ppmのホルムアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でパルス周期を1msとし、デューティ比を変化させてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
100、200…光触媒装置
10…光触媒層
12…発光ダイオード
14…駆動回路
16…パルス制御回路
18…電源
20…振動付与手段
22…調製用テドラーバッグ
24…採取用テドラーバッグ
26…ポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオードと光触媒を組み合わせて消臭等を行う光触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光源により活性化させて光触媒反応を生じさせ、消臭・脱臭、抗菌・殺菌、防汚・防曇効果を発揮し、悪臭除去や空気清浄、除菌、殺菌等に利用される。従来、光源としては太陽光の他、水銀ランプやブラックライト、殺菌灯が用いられてきた。しかしながら、これらの光源は寿命が数千時間であるため、連続点灯で使用した場合1年程度で交換する必要がある。また、電気−光変換効率が20%程度であり発熱量が多く、エネルギー消費が大きい。これに対し、近年発光ダイオード(LED)を光触媒反応用光源とする試みがなされている。例えば紫外線発光ダイオード(UV−LED)は、寿命が約5万時間と大変長く、消費電力の80%以上が光に変換されるため、低消費電力であり、蛍光灯に替わる将来の光源として期待されている。さらに、LEDはパルス照射や電流制御が可能であるという利点もある。また、小型素子ゆえ、デザインが多様であるという点から装置設計の柔軟性へと繋がる。
【0003】
また光触媒として用いられる半導体には、ガリウムリン(GaP)、ガリウム砒素(GaAs)等がある。これら大部分の半導体は水に入れて光を当てると、陽イオンと陰イオンになって溶解してしまう光溶解反応が生じ、半導体が溶出して無くなってしまう。一方で、酸化チタンは化学的に極めて安定なのでそのような溶解を起こさない。溶解現象を起こさない材料として他にないわけではないが、そうした物質はバンドギャップエネルギーが酸化チタンより大きい。すなわち、よりエネルギーの高い紫外線が光触媒作用のために必要となる。酸化チタンは可視光を吸収しないが、可視光に近い紫外線を吸収でき、太陽光や蛍光灯に含まれるわずかな紫外線を利用することができるという点で、光触媒として有利である。
【0004】
このような観点から、近年、半導体の光触媒に、光源として発光ダイオードを組み合わせ、発光ダイオードからの発光で光触媒を活性化させる空気清浄機が提案されている(特許文献1参照)。例えば、空気清浄機の空気流路に、ここを流れる空気流を浄化する光触媒物質を有する光触媒層を配置して、発光ダイオードで光触媒層の光触媒物質を活性化させ、空気中のにおい物質を分解、除去する。
【特許文献1】特開2002−98375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、酸化チタン系等半導体の光触媒と発光ダイオード等の半導体素子を組み合わせた消臭装置において、消臭能力を向上させるためには、発光ダイオードの出力を向上させることがよいと考えられてきた。しかしながら、本発明者らの行った研究によれば、単に発光ダイオードを連続照射するのみでは、十分な光触媒の能力を発揮させることができないことが判明した。この原因は、光触媒が光触媒効果を発揮するのは、対象となるガスを吸着した場合であり、十分な吸着が行われない時には消臭等の効果が十分に発揮されないためであると考えられる。
【0006】
また、このような消臭・脱臭方式では、対象ガスが低濃度になった場合、境膜拡散抵抗により除去効率が著しく低下するという問題もあった。対象ガスが低濃度である場合、濃度差によって生じる濃度勾配によって吸着駆動力も低くなるため、二酸化チタンに対する対象ガスの吸着速度が遅く、除去効率が悪くなる。この傾向は、濃度が低くなるほど顕著となる。このため、従来の二酸化チタンを用いた従来の処理方法では、一段当たりの除去効率が低いため、通常は数段から十数段の処理や閉鎖空間での循環使用といった方法が採用されている。しかしながら、触媒層を多段にする構成は専有スペースが大きくなり、各触媒層に励起光を照射する光源の配置も問題となり、コストもかかる。また閉鎖空間での循環利用は、循環設備や閉鎖空間の構成が必要となる上、利用できる条件が限られている等の問題があった。このため、より効率よく光触媒を悪臭ガス等の分解対象物と接触させて光触媒反応を生じさせることのできる光触媒装置が求められるところである。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものである。本発明の主な目的は、発光ダイオードで効率よく光触媒を光励起し、光触媒効果を発揮し得る発光ダイオードを用いた光触媒装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置は、光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な発光ダイオードと、発光ダイオードを駆動する駆動回路と、駆動回路を制御して発光ダイオードの点灯時間を制御可能なパルス制御回路とを有する光触媒装置であって、パルス制御回路が、発光ダイオードの点灯時間を、消灯時間以下とするパルス周期でパルス点灯させるよう駆動回路を制御する。このように点灯時間を同じかそれよりも短い消灯時間を設けて発光ダイオードをON/OFFすることにより、光触媒反応を促進することができる。
【0009】
また、本発明の第2の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置は、光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な発光ダイオードと、発光ダイオードを駆動する駆動回路と、駆動回路を制御して発光ダイオードの点灯時間を制御可能なパルス制御回路とを有する光触媒装置であって、パルス制御回路が、発光ダイオードの点灯時間を30ms以下でパルス点灯させるよう駆動回路を制御する。このように短い点灯時間でパルス点灯させ、ON/OFF点灯させることにより、光触媒反応を促進することができる。
【0010】
さらに、本発明の第3の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置は、光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な発光ダイオードと、発光ダイオードを駆動する駆動回路と、駆動回路を制御して発光ダイオードの点灯時間を制御可能なパルス制御回路とを有する光触媒装置であって、パルス制御回路が、発光ダイオードの点灯時間をデューティ比10%以下でパルス点灯させるよう駆動回路を制御する。このように点灯時間を短くすることで、消灯時間に新たな反応物を供給して、効率よく光触媒反応を行うことができる。またデューティ比を小さくすることで省電力化が図られ、電池駆動も実現可能とできる。
【0011】
さらにまた、本発明の第4の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置は、パルス制御回路が、発光ダイオードの点灯周期を50Hz〜5kHzの周期でパルス点灯させるよう駆動回路を制御する。このように短い点灯時間でパルス点灯させ、ON/OFF点灯させることにより、光触媒反応を促進することができる。
【0012】
さらにまた、本発明の第5の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置はさらに、駆動回路の駆動源として、太陽電池を備える。これによって、太陽電池で昼間の駆動電力を確保し、省電力で駆動できる。また商用電源との併用により、光触媒装置を昼夜にわたり使用可能とできる。
【0013】
さらにまた、本発明の第6の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置はさらに、光触媒層を振動させる振動付与手段を備える。これによって、光触媒層と光触媒反応の対象物との表面積を大きくでき、光触媒反応をさらに促進できる。
【0014】
さらにまた、本発明の第7の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置は、発光ダイオードが、紫外線照射発光ダイオードである。
【0015】
さらにまた、本発明の第8の側面に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置は、光触媒物質が二酸化チタンである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の発光ダイオードを用いた光触媒装置によれば、光触媒を励起する励起光を照射する発光ダイオードの点灯タイミングを制御することで、効率よく光触媒反応を生じさせ高効率の光触媒装置を得ることができる。特に、光触媒表面への有機物の吸着は点灯時より消灯時の方が効率よく行われ、しかも光分解は短時間で行われるとの知見に基づき、点灯時間を抑えることで連続点灯よりも優れた効率を達成でき、しかも消費電力を少なく、発熱量も低減した長寿命で信頼性の高い光触媒装置とできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための発光ダイオードを用いた光触媒装置を例示するものであって、本発明は発光ダイオードを用いた光触媒装置を以下のものに特定しない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0018】
本発明者らは、このような光触媒装置における光触媒効果の発現程度と、光照射の関係を調べた結果、光源を光触媒に連続照射するよりもパルス照射する方が良好な結果を示す知見を得、本発明を成すに至った。以下、そのメカニズムについて図1に基づき説明する。
【0019】
酸化チタン等の光触媒物質に光が照射されるとラジカルが発生し、このラジカルが有機物を分解する。この分解反応は、光触媒物質自体が分解対象物と接触している必要がある。光源を点灯し続けて連続照射する場合は、光触媒物質と有機物との接触部分で分解が生じるが、その結果発生するガスの影響で、新たな有機物の吸着が少ない。吸着が少ないと光触媒反応も少なくなり、その結果処理能力が低下する。一方、パルス点灯する場合は、光源を消灯する期間があるため、この期間には分解反応は生じず、その結果新たな有機物が吸着し易くなる。より多くの有機物が光触媒物質に吸着するようになると、光触媒反応も活発になり分解が促進される。また、本発明者らの行った試験によれば、光触媒反応は短時間の照射で行われるため、ON時間がたとえ一瞬であっても十分な分解効果が得られることが判明した。したがってON時間を短くし、またOFF時間を分解対象物の有機物の吸着が十分に得られる長さに設定することで、極めて効率よく光源を発光させて光触媒反応を得ることができる。またON時間を短くすることは、光源の消費電力の低減にもつながり、発熱量を抑えて光源の発光ダイオード素子の寿命を長くし、長期にわたって信頼性高く利用できることにも繋がる。
【0020】
この性質を利用して、光触媒反応を利用した有機物の分解や殺菌作用を用いた消臭・脱臭装置や殺菌装置、防汚機器等の光触媒装置の高効率化が実現できる。以下、本発明の一実施の形態として、光触媒装置として広く利用されている消臭・空気清浄機能に着目し、悪臭を浄化する悪臭浄化装置に本発明を適用した例について説明する。
(実施の形態1)
【0021】
図2に、本発明の実施の形態1に係る悪臭浄化装置を示す。この光触媒装置100は、光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層10と、この光触媒層10に光を照射可能な位置に固定された光源として、複数の発光ダイオード12と、発光ダイオード12を駆動する駆動回路14と、駆動回路14を制御して発光ダイオード12の点灯時間を制御可能なパルス制御回路16と、これらを駆動する電源18とを有する。
(発光ダイオード12)
【0022】
発光ダイオード12は、360〜400nmの紫外線を含む光を発光するものが利用できる。発光波長は、使用される光触媒の励起光の波長に応じて選択される。このような発光ダイオードの材料としては、BN、SiC、ZnSeやGaN、InGaN、InAlGaN、AlGaN、BAlGaN、BInAlGaN等種々の半導体を挙げることができる。同様に、これらの元素に不純物元素としてSiやZn等を含有させ発光中心とすることもできる。光触媒を効率良く励起できる紫外領域の短波長を効率よく発光可能な発光層の材料として特に、窒化物半導体(例えば、AlやGaを含む窒化物半導体、InやGaを含む窒化物半導体としてInXAlYGa1-X-YN(0<X<1、0<Y<1、X+Y≦1)がより好適に挙げられる。また、半導体の構造としては、MIS接合、PIN接合やpn接合等を有するホモ構造、ヘテロ構造あるいはダブルへテロ構成のものが好適に挙げられる。半導体層の材料やその混晶比によって発光波長を種々選択することができる。また、半導体活性層を量子効果が生ずる薄膜に形成させた単一量子井戸構造や多重量子井戸構造とすることでより出力を向上させることもできる。発光ダイオード12の数は1個でも良いし、多数個並設しても良い。なお、本明細書において発光ダイオードとは、必ずしも可視光成分を含む光を発光する必要はなく、紫外領域の短波長を出力可能なダイオードを含む意味で使用する。また高出力のパワー系LEDや半導体レーザ(LD)も含む概念で使用する。
(光触媒物質)
【0023】
光触媒物質は、半導体系の物質を利用し、好ましくは光溶解反応で溶出する半導体の量が少なく、効果の持続性が高いものを使用する。ここではバンドギャップエネルギーが比較的小さく、可視光に近い紫外線で励起可能な光触媒物質として酸化チタンを利用した。
(酸化チタン)
【0024】
酸化チタンの反応機構を、以下説明する。酸化チタンには、ルチル、アナターゼ、ブルッカイトの3種の結晶形がある。ブルッカイトは他に比べて不安定であり、純粋な結晶を合成するのは難しい。塗料中の顔料として広く用いられているのはルチルで、光触媒としてはアナターゼが主として用いられている。酸化チタンはn型半導性を示し、光電極や光触媒の材料として太陽エネルギー変換材料への応用が注目されていた。一般の光化学反応は反応基質の光励起によって起こる。これに対して酸化チタンの光触媒反応は、3〜3.2eV程度のバンドギャップ以上の光(紫外線)のエネルギーを吸収すると、次式のように伝導帯に電子(e-)、荷電子帯に正孔(h+)を生成する。
【0025】
[化1]
TiO2+近紫外線→e-(電子)+h+(正孔)
【0026】
この電子は、酸素を還元してスーパーオキシドイオン(O2-)を生成する。その後、スーパーオキシドイオンは水分と反応して過酸化水素を経てヒドロキシルラジカルが生成すると思われる。また、正孔もヒドロキシルラジカル生成へ関与している。この様子を次式に示す。
【0027】
[化2]
O2+e-→O2-
O2-+2H+→H2O2
H2O2+e-+H+→OH+H2O
h++H2O→OH+OH-
【0028】
ヒドロキシルラジカル、スーパーオキシドイオン等は活性酸素と呼ばれ、ヒドロキシルラジカルはその中で最も反応性が高く、最も酸化力が強い。そのため、あらゆる有機物を分解して水と二酸化炭素に変化させる。
(光触媒層10)
【0029】
光触媒物質自体を造粒・焼成し、又は光触媒物質を布地、陶器、金属等の他の部材に担持させて光触媒層10を形成する。担持には、例えばバインダを使用できる。
(駆動回路14)
【0030】
またLEDの駆動回路14は、LEDをON/OFFさせるスイッチング回路であり、FET等により構成される。またパルス制御回路16は、駆動回路14を制御してLEDに供給される電流量や点灯周期を調整する。またLEDのON時間を規定するデューティ比を調整可能なPWM制御を行う。デューティ比は、パルス周期に対するLED照射時間の比率(点灯時間/周期)である。パルス制御回路16は、例えばパルス周期を120μs〜999sまで可変とし、LED1素子あたりの電流量を最大100mA、タイマを0.5h間隔で0.5〜9.5h可変にできる。この光触媒装置は、発光ダイオード12を駆動回路14で駆動して励起光を光触媒物質に照射することにより光触媒物質を活性化させる。この際の点灯周期やデューティ比を調整することで、光触媒効率を向上させる。
(電源18)
【0031】
駆動回路14は、電源18と接続される。電源18は、商用電源の他、一次電池や二次電池等とすることもできる。一般にLEDは通常の紫外線ランプや紫外線蛍光灯に比較して電力消費量が低い。ただ、LEDを用いた場合でも連続照射やデューティ比の高いパルス照射では、商用電源等の電力供給が必要となる。これに対して、本実施の形態では、デューティ比を1〜50%に抑えたパルス駆動とすることで、消費電力を抑え、電池等の携帯電源での駆動を可能とできる。これにより、電源線の接続が不要で取り回しの容易な光触媒装置や、電源設備のない場所で利用可能な携帯型の光触媒装置が実現できる。さらに電源18として、太陽電池を利用することもできる。昼間は太陽光に含まれる紫外光を利用して光励起する一方で太陽電池で電力を蓄えておき、夜間には蓄えられた電力を利用することで、昼夜にわたって連続駆動可能とできる。なお、電源18として商用電源と蓄電池、太陽電池のいずれかを併用したり、これらを切り替えて利用可能とする構成も採用できることはいうまでもない。
(実施の形態2)
【0032】
また、悪臭浄化装置等の光触媒装置には、光触媒層10を振動させる振動付与手段20を付加してもよい。図3に、本発明の実施の形態2に係る光触媒装置200として、振動付与手段20を付加した悪臭浄化装置を示す。なお、図2に示した部材と同じ部材については、同じ番号を付し、詳細説明を省略する。図3に示す振動付与手段20は、低周波振動器であり、振動数を0〜300Hzまで可変できる。微細振動を付加することで、光触媒層10と光触媒反応の対象物との接触確率を増加させ、光触媒反応をさらに促進できる。特に、悪臭ガス等有機物の分解・除去が困難な低濃度域での除去率の向上させることができる。
(実施例1)
【0033】
以下、実施例1として図2の悪臭浄化装置を用いて、悪臭物質を含む対象ガスを流し、LEDパルス照射と連続照射とを行いガス濃度を測定して、それぞれの除去率を演算した。
(ガス濃度測定)
【0034】
ガス濃度の測定及び分析する機器として、ここでは気体検知管(検知管式気体測定器)を使用した。気体検知管は対象とする気体の濃度を測定する機器で、対象気体に反応して変色する粒状の検知剤を一定内径のガラス管に緊密に充填し、両端が熔封されたガラス管の表面に濃度目盛りを印刷したものである。充填する検知剤には、乾燥剤となるシリカゲルやアルミナ等粒体に各試薬をコーティングしており、その試薬は測定対象の気体のみ反応して鮮明な変色層を示し、長時間にわたって安定しているものが用いられる。
(悪臭物質)
【0035】
本実施例では、アセトアルデヒドとホルムアルデヒドの2種類の悪臭物質を用いた。
(アセトアルデヒド)
【0036】
アセトアルデヒド(CH3CHO)は刺激臭のある無色の化学物質で、沸点は20.8℃、融点は−123.3℃であり、エチレンを酸化する方法等によって合成され、酢酸、ブタノール、合成高分子等の製造原料となる。大気中への排出は、アセトアルデヒドの製造工程、アセトアルデヒドを原料とする物質の製造工程から、また自動車排出ガスやたばこの煙から等がある。悪臭の原因となる物質として、特定悪臭物質に指定されている。臭気を感知できる濃度(検知閾値濃度)は0.002ppm、悪臭防止法により都道府県知事が規制基準として定めることのできる濃度範囲(臭気強度2.5〜3.5)は0.05〜0.5ppmである。
(ホルムアルデヒド)
【0037】
ホルムアルデヒド(HCHO)は、刺激臭のある無色の気体で、沸点は−19.3℃、融点は−118.3〜−117.8℃である。40%程度水に溶かしたものがホルマリンと呼ばれる水溶液で、フェノール樹脂、メラニン樹脂、ユリア樹脂等の樹脂、接着剤、塗料やホルマリン漬標本等に代表される防腐、殺菌剤等に広く使用されている。低濃度でも人によっては、シックハウス症候群のような障害を起こすことがある。VOC(揮発性有機化合物)の一種である。
(LED悪臭浄化装置)
【0038】
LEDを光源に用いた悪臭浄化装置は、図2に示すように対象ガスが光触媒層10を通過するような連続接触型浄化装置とした。なお実施例においては、UV−LEDとして日亜化学工業株式会社製NSHU550を使用した。そのピーク波長は375nm、パルス順電流の最大定格は50mAである。このUV−LEDを光触媒層10の上下に各々6個ずつ設置した。
【0039】
また光触媒物質として、MILLENNIUM社のアナターゼ型二酸化チタン(TiO2)PC−500粉末を使用した。装置への応用の前処理として、水で混練することで造粒した後500、600、800℃で焼成処理を行った。その他、石膏10%を加え70℃で乾燥処理した試料も作製した。
【0040】
以上のようにして作製された試料の粒子は微小球状であり、二酸化チタンを主要成分としている。この光触媒物質を60メッシュのステンレスメッシュで担持し、光触媒層10とした。光触媒層10の面積は約4.32cm2、光触媒層10の厚みは約2mm、光触媒量は約1.1gである。またLEDと光触媒層10の距離を約9mmとし、平均照度は0.6mW/cm2とした。この浄化装置のLEDのパルス制御回路16でパルス周期やデューティ比を変化させ、パルス出力を制御する。
【0041】
処理前のガスを浄化装置に通過させるために、浄化装置の出口側にポンプ26を取り付けた。ポンプ26にはミニポンプ(0.05〜3l/min)を使用した。また、光触媒層近傍でのLED照射による発熱を発散するために、必要に応じて送風機を設置する。光触媒による酸化反応は環境温度に影響されるため、試験は20〜25℃の恒温室内で行った。
【0042】
図2の浄化装置を用いて、以下の手順で測定を行った。まず試験ガス調製用テドラーバッグ22を用いてアセトアルデヒドを空気で希釈し、アセトアルデヒド濃厚ガス(約6000ppm)を作製した。この濃厚ガスを目的に応じた濃度に希釈し、テドラーバッグ22に入れ、処理前のガスとした。ガス流量や紫外線LEDの照射方法は、測定目的に応じて設定する。浄化装置始動後、装置内(デッドスペース)の気体を別のバッグに取り除き、新たに試験ガス採取用テドラーバッグ24を取り付けた。この回収したガスを試験後のガスとした。そして回収した処理後のガスの濃度を測定した。測定された濃度に基づき、下記の数1を用いて、除去率によって性能を評価した。
【0043】
【数1】
【0044】
他の悪臭成分であるホルムアルデヒドに対しても、同様の操作で試験を行った。
(焼成処理による二酸化チタンの影響)
【0045】
二酸化チタンのXRD結果とBET法による比表面積測定の結果を図4〜図5に示す。未焼成の試料(原料)から焼成温度900℃の試料については、アナターゼが観察された。しかし、1000℃焼成した試料については、アナターゼの他にルチルも確認された。焼成温度が高くなるにつれて、二酸化チタンの比表面積は減少し、500℃で77、600℃で43、800℃で13m2/gとなった。
【0046】
図6〜図7に用いた試料表面のSEM写真を示す。図6の(a)は未焼成の粉末、(b)は石膏を用いて押し出し造粒したもの、(c)及び(d)は造粒装置で顆粒にしたものである。(b)は、石膏により粒子が大きくなっており、(c)及び(d)はよく似た粒状の外観であることが分かる。さらに、倍率は異なるが図7で詳しく観察すると焼成温度が高くなるに従って空隙が少なくなり、粒子が詰まっていることが分かる。また、(d)は、(c)と比較すると粒成長しており、焼結が進んでいることも分かる
(粉末試料による光触媒性能評価)
【0047】
図8にガスバッグB法によるアセトアルデヒドの除去率を示す。図8の実験に限り、紫外線光源にはブラックライトを用い、紫外線強度は1.0mW/cm2とした。未焼成の二酸化チタンから、700℃で焼成した二酸化チタンまでの光触媒活性度には、大きな違いは見られず、焼成温度が800℃以上の試料のものから除去速度は遅くなった。これは、比表面積と光触媒活性に直接的な関係はなく、吸着や分解の起こるための十分な比表面積があれば分解反応が起こるものと考えられる。
(アセトアルデヒドに対するLED悪臭浄化装置の効果)
【0048】
図9に、パルス周期に対するアセトアルデヒドの除去率変化を示す。試験条件は、ガス濃度20ppm、電流値20mA、線速度0.0042m/s、温度20℃、デューティ比50%、紫外線強度0.6mW/cm2として600℃で焼成した二酸化チタンを用いた。周期約0.2〜2msまでは連続照射と同程度、あるいはそれ以上の除去率であった。周期約2ms以後では、除去率は徐々に減少し、約10ms前後では連続照射の約1/2になった。
【0049】
これらのことから、アセトアルデヒドの除去機構は、上述した図1に従うと考えられる。すなわち、パルス周期が1ms前後の場合は、LED消灯時の吸着量が点灯時の処理量より十分に大きいため、除去効率が連続点灯と同等、あるいはそれ以上となる。一方、点灯時は、分解が発生するためそれによる発生ガスの影響で吸着が少なくなる。パルス周期が約10ms前後で除去率が約1/2となった原因は、光触媒層上の吸着が飽和状態となり、消灯時の吸着の効果が失われたためと考えられる。このようにアセトアルデヒドは、主としてLED点灯時に吸着、分解が同時に起こり、消灯時には吸着のみが起こることによって除去される。消灯時の吸着は、点灯時より大きいものの、時間の経過と共に急速に減少する。一方、点灯が瞬時であっても十分な分解が得られる。このことから、LEDの点灯周期は消灯時間が支配的となり、有機物の光触媒物質への吸着効果が発揮できる時間に設定する。好ましくは、消灯時間は吸着が飽和するよりも短い時間とする。一方、消費電力節約の観点からは、点灯時間を短くすることが好ましいが、LEDの駆動回路14のスイッチング速度の高速化やコスト等の面から、0.1ms〜30ms、好ましくは1〜20ms、より好ましくは2ms〜5msとする。また点灯周期は、50Hz〜5kHz程度の周期とする。さらにデューティ比は50%以下、好ましくは10%以下とする。これら点灯時間及び点灯周期は、使用される光触媒物質やLEDの出力、電源の種類等に応じて、最適に調製される。
【0050】
以下説明する実施例では、特記するものを除いて600℃で焼成した二酸化チタンを用いて、線速度0.0042m/s、温度20℃でLED照射を実施した。
【0051】
まず、アセトアルデヒドのガス濃度20ppm、パルス周期を1msとし、デューティ比を変化させたときの除去率を測定した。この結果を図10に示す。アセトアルデヒドの分解は、デューティ比が10〜80%の範囲で連続照射よりも良好な除去効率を示した。デューティ比が10%の場合でも連続照射より優れた除去効率を示した原因は、アセトアルデヒドに対しての酸化チタンの分解能力が余剰にあるため、処理されたものと推測される。したがって、効率的な分解が行われていないことが確認できる。そのため、酸化チタンと表面で十分に接触するように工夫すれば、この10倍程度の化学量の処理も可能となる。またデューティ比が80%以上になると、連続照射と同程度の除去率になった。これは、前述の通りLED点灯時は分解が起こるため、分解による発生ガスの影響で吸着が阻害されるためと考えられる。
【0052】
次に、アセトアルデヒドの濃度を5ppmとした場合のパルス周期に対する除去率の変化を測定した。この結果を図11に示す。ここでのデューティ比は50%とした。測定の結果、図9に示すアセトアルデヒド20ppmでの場合と異なり、パルス幅が70〜1msになるに従ってアセトアルデヒドの除去率は減少した。20ppmの試験の場合と比べて、濃度勾配が小さく、前述のモデルのLED消灯時の吸着量が少なく、そのままガスが通過したと考えられる。なおグラフのばらつきについては、低濃度であるため検知管の値が判別し難いことによる誤差と思われる。
(実施例2)
【0053】
次に、低濃度での吸着効率を向上させるために、振動付与手段20を付加した図3に示す実施の形態2を使用して、対象ガスの除去率を測定した。一般に実施例1のような消臭・脱臭方式では、対象ガスが低濃度になった場合、境膜拡散抵抗により除去効率が著しく低下する。そこで、アセトアルデヒドが触媒内を通過する装置の下部に振動付与手段20として低周波振動器を設置し、光触媒と対象ガスとの接触確率を高めることで低濃度での吸着効率の向上効果を確認した。
【0054】
実施例2として、低濃度域で振動数60Hzの微細振動を付与し、デューティ比を変化させてアセトアルデヒドの除去能力を測定した結果を図12に示す。比較例として、連続照射を行った場合のアセトアルデヒドの除去能力は、60%前後であった。一方、実施例2としてパルス周期を1ms前後とすると、連続照射試験のときよりも良好な除去率を示した。これは、パルス周期が短い場合、LED点灯時と消灯直後の濃度勾配は等しく、消灯時のより大きな吸着が有効に作用したものと考えられる。一方でパルス周期が長くなると濃度勾配が小さくなるため、LED消灯時の吸着量も小さくなる。したがって、低濃度でのアセトアルデヒドの除去には、微細振動の付与と1ms前後のパルス照射が効果的であることが判明した。
(光触媒物質の比表面積とパルス周期の関係)
【0055】
さらに、アセトアルデヒドの除去試験で用いた二酸化チタンの比表面積と最適なパルス周期との関係を調べた。この結果を図13〜図15に示す。図13は、70℃で乾燥した二酸化チタン試料に対してガス濃度20ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を50%としてLEDを照射した場合の除去率を示している。また図14は、同一の条件で試料として500℃で焼成した二酸化チタン試料を使用した場合の除去率、図15は同じく800℃で焼成した二酸化チタン試料を使用した場合の除去率をそれぞれ示している。各試料ともパルス照射の方が連続照射より良好な除去率を示す部分が見出された。図12〜図15の試験において、除去率がピークとなるパルス周期を、図16に示す。この図に示すように、除去率がピークとなるパルス周期は、70℃、500℃、800℃の試料につき、それぞれ50、30、5msとなった。パルス照射の場合は、図1のような対象ガスの吸脱着が生じる。これらの例では、光触媒物質の比表面積が大きく、吸着量が大きいものについては、パルス周期を長くしても除去できることが判る。
【0056】
一方で、比較例として行った連続照射では、70、500、800℃と処理温度を高くするに従い、除去率は65、60、30%と低下した。また、70℃乾燥試料と500℃の焼成試料では除去効率に大きな差は見られなかった。これは、LED連続照射の場合、比表面積とアセトアルデヒドの除去とに直接的な関係はなく、吸着や分解が起こるための充分な比表面積があれば分解反応が起こるという図8と同様の現象であると思われる。
【0057】
800℃焼成試料は、光触媒活性が低いが機械的強度は高い。機械的強度が高ければ、装置として使うのに有利である。しかしながら、除去率は30%程度である。そこで、低周波振動を付与することでアセトアルデヒドの除去率の向上を試みた。
【0058】
ここで、図15と同様の条件で、パルス周期を10ms、振動数180Hzの振動を付与しデューティ比を変化させた。この結果を図17に示す。この結果を図15と比較すると、パルス周期が10msの時、振動を加えることにより除去率が2倍以上向上した。振動の付与により、アセトアルデヒドと試料との接触確率が増加し吸着が促進された結果、反応性が向上したことが原因と考えられる。また、デューティ比が20〜60%の範囲で連続照射より良好な値を示した。これは、LED消灯時の吸着量が点灯時より大きく、全体として処理量が増加したためと思われる。デューティ比が80%以上で除去効率が低下した原因は、アセトアルデヒドが分解されることでガスが発生し吸着が起こり難くなり、吸着量が少なくなったためと思われる。
(ホルムアルデヒドに対するLED悪臭浄化装置の効果)
【0059】
次に悪臭物質として、アセトアルデヒドに代わりホルムアルデヒドを使用した除去試験を行った。近年シックハウス症候群のような低濃度域での大気汚染が問題になっており、VOCの中でもその主成分となっているホルムアルデヒドは優先的取り組みの対象として一番目に取り上げられている。ここでは、ガス濃度を0.5ppm、3ppm及び4ppmとし、振動数を200Hz、図13で使用した70℃乾燥試料、デューティ比100%にて試験を行った。この結果を図24に示す。この図から、ガス濃度が3ppm以上では、除去率が80%以上を示した。3ppmが4ppmよりも除去効率が高いのは、濃度範囲が広い検知管を使用したことによる測定誤差だと思われる。また、0.5ppmでは除去率が40%程度となり4ppmの1/2に減少した。これは、アセトアルデヒド5ppmと場合と同様、濃度勾配が小さく二酸化チタンの吸着が少ないためだと考えられる。
【0060】
さらに、低濃度でのホルムアルデヒドの除去効率を向上するために、ガス濃度0.5ppm、デューティ比50%、振動数200Hzで、パルス周期を変化させたときの除去率を測定した。この結果を図25に示す。この図に示すように、パルス照射と振動を付与することで、低濃度のホルムアルデヒドでも80%程度の除去率になることが示された。これは、前述のアセトアルデヒドの場合と同様、パルス照射を行うことによりLED消灯時の吸着量がLED点灯時の処理量より十分に大きくなったためと考えられる。しかし、パルス周期が1msの場合の除去率は、LED連続照射時の1/2の20%しかなかった。
【0061】
そこで、図25の試験をパルス周期1msで、デューティ比を変化させることよって除去率への影響を調べた。この結果を図26に示す。デューティ比が1%の場合の除去率は、デューティ比が20〜80%の場合と比べて上昇した。これは、LED消灯時の吸着量が大きいためと考えられる。また、試験ガス濃度に対して酸化チタンの吸着能力が十分にあればデューティ比を小さくしても高除去率を得ることができると分かった。従ってシックハウス症候群対策等では、デューティ比を小さく設定すれば、低消費電力で、しかもLEDの長寿命化が可能となることが示された。
【0062】
以上のように、パルス周期を長くしデューティ比を小さくしても高除去率を維持できる。アセトアルデヒドやホルムアルデヒドの分解試験では、連続照射より数〜数十m秒周期のパルス照射を行った方が除去率が優れていた。また、デューティ比が1〜50%で良好な除去率を示した。また、長時間使用可能な悪臭浄化装置に使用する酸化チタンには、LEDパルス照射時において短時間で吸脱着が可能で、しかも光触媒活性の高い材料が有効である。詳細には、アセトアルデヒドが20ppmのとき、光触媒物質として600℃で焼成した二酸化チタンを用いた場合、LED連続照射試験において除去率80%を達成した。また、デューティ比50%のLEDパルス照射試験では、周期約0.2〜2msでは連続照射と同程度の処理能力が得られる。二酸化チタンは、焼成温度が高くなるにつれて除去率が低下傾向にある。このため、高比表面積であるほど酸化チタンに対象ガスが吸着することが判明した。さらに、光触媒物質に微細振動を付与すると、対象ガスと光触媒物質との接触確率が増加し吸着が促進される結果、反応性が向上する。例えば、800℃で焼成した二酸化チタンに微細振動を付与すると、アセトアルデヒドの除去率が向上する。振動を付与することにより、パルス周期が10msの場合で除去率が2倍以上に向上した。また対象ガス濃度が低い場合、デューティ比を小さく設定しても高い除去率を示し、さらに低消費電力でLEDの長寿命化も図れる。例えば、ホルムアルデヒド0.5ppmに70℃で乾燥した二酸化チタンに200Hzの振動を付与し、デューティ比を変化させたときの除去率を測定した結果、デューティ比が1%であってもデューティ比が40%の場合と同程度の除去率を示した。このように、二酸化チタンに照射する光源としてLEDを使用して、さらにデューティ比を適切に設定したパルス照射を行うことで、二酸化チタンの対象ガスに対する吸着力を向上させて処理能力を高めることができる。また、点灯期間を短くすることで消費電力量を著しく低減させ、電池や二次電池での使用も可能となる。同時に太陽電池と組み合わせて、夜間の稼働も可能とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の発光ダイオードを用いた光触媒装置は、消臭・脱臭装置に限られず、殺菌装置、防汚機器等に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】パルス照射によって光触媒効果が発現する過程を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置のブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る発光ダイオードを用いた光触媒装置のブロック図である。
【図4】二酸化チタンのXRD結果を示すグラフである。
【図5】二酸化チタンのBET法による比表面積測定の結果を示すグラフである。
【図6】試料表面のSEM写真を示すイメージ図である。
【図7】試料表面のSEM写真を示すイメージ図である。
【図8】ガスバッグB法によるアセトアルデヒドの除去率を示すグラフである。
【図9】600℃で焼成した二酸化チタン試料に対し、ガス濃度20ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を50%とし、パルス周期を変化させてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図10】600℃で焼成した二酸化チタン試料に対し、ガス濃度20ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でパルス周期を1msとし、デューティ比を変化させてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図11】600℃で焼成した二酸化チタン試料に対し、ガス濃度5ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を50%とし、パルス周期を変化させてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図12】600℃で焼成した二酸化チタン試料に振動数60Hzの微細振動を付与し、ガス濃度5ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を変化させてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図13】70℃で乾燥した二酸化チタン試料に対してガス濃度20ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を50%としてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図14】500℃で焼成した二酸化チタン試料に対してガス濃度20ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を50%としてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図15】800℃で焼成した二酸化チタン試料に対してガス濃度20ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を50%としてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図16】図12〜図15において、除去率がピークとなるパルス周期を示すグラフである。
【図17】800℃で焼成した二酸化チタン試料に振動数180Hzの振動を付与し、図15と同様にガス濃度20ppmのアセトアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を変化させてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図18】70℃で乾燥した二酸化チタン試料に振動数200Hzの振動を付与し、ガス濃度0.5ppm、3ppm、4ppmのホルムアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でLEDを連続照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図19】70℃で乾燥した二酸化チタン試料に振動数200Hzの振動を付与し、ガス濃度0.5ppmのホルムアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でデューティ比を50%としパルス周期を変化させてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【図20】70℃で乾燥した二酸化チタン試料に振動数200Hzの振動を付与し、ガス濃度0.5ppmのホルムアルデヒドを線速度0.0042m/sで流し、20℃の室温でパルス周期を1msとし、デューティ比を変化させてLEDを照射した場合の除去率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
100、200…光触媒装置
10…光触媒層
12…発光ダイオード
14…駆動回路
16…パルス制御回路
18…電源
20…振動付与手段
22…調製用テドラーバッグ
24…採取用テドラーバッグ
26…ポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、
前記光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な発光ダイオードと、
前記発光ダイオードを駆動する駆動回路と、
前記駆動回路を制御して前記発光ダイオードの点灯時間を制御可能なパルス制御回路と、
を有する光触媒装置であって、
前記パルス制御回路が、前記発光ダイオードの点灯時間を、消灯時間以下とするパルス周期でパルス点灯させるよう前記駆動回路を制御することを特徴とする光触媒装置。
【請求項2】
光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、
前記光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な発光ダイオードと、
前記発光ダイオードを駆動する駆動回路と、
前記駆動回路を制御して前記発光ダイオードの点灯時間を制御可能なパルス制御回路と、
を有する光触媒装置であって、
前記パルス制御回路が、前記発光ダイオードの点灯時間を30ms以下でパルス点灯させるよう前記駆動回路を制御することを特徴とする光触媒装置。
【請求項3】
光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、
前記光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な発光ダイオードと、
前記発光ダイオードを駆動する駆動回路と、
前記駆動回路を制御して前記発光ダイオードの点灯時間を制御可能なパルス制御回路と、
を有する光触媒装置であって、
前記パルス制御回路が、前記発光ダイオードの点灯時間をデューティ比10%以下でパルス点灯させるよう前記駆動回路を制御することを特徴とする光触媒装置。
【請求項4】
請求項3に記載の発光ダイオードを用いた光触媒装置であって、
前記パルス制御回路が、前記発光ダイオードの点灯周期を50Hz〜5kHzの周期でパルス点灯させるよう前記駆動回路を制御することを特徴とする光触媒装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の発光ダイオードを用いた光触媒装置であって、さらに、
前記駆動回路の駆動源として、太陽電池を備えることを特徴とする光触媒装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の発光ダイオードを用いた光触媒装置であって、さらに、
前記光触媒層を振動させる振動付与手段を備えることを特徴とする発光ダイオードを用いた光触媒装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の発光ダイオードを用いた光触媒装置であって、
前記発光ダイオードが、紫外線照射発光ダイオードであることを特徴とする発光ダイオードを用いた光触媒装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の発光ダイオードを用いた光触媒装置であって、
前記光触媒物質が二酸化チタンであることを特徴とする発光ダイオードを用いた光触媒装置。
【請求項1】
光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、
前記光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な発光ダイオードと、
前記発光ダイオードを駆動する駆動回路と、
前記駆動回路を制御して前記発光ダイオードの点灯時間を制御可能なパルス制御回路と、
を有する光触媒装置であって、
前記パルス制御回路が、前記発光ダイオードの点灯時間を、消灯時間以下とするパルス周期でパルス点灯させるよう前記駆動回路を制御することを特徴とする光触媒装置。
【請求項2】
光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、
前記光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な発光ダイオードと、
前記発光ダイオードを駆動する駆動回路と、
前記駆動回路を制御して前記発光ダイオードの点灯時間を制御可能なパルス制御回路と、
を有する光触媒装置であって、
前記パルス制御回路が、前記発光ダイオードの点灯時間を30ms以下でパルス点灯させるよう前記駆動回路を制御することを特徴とする光触媒装置。
【請求項3】
光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、
前記光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な発光ダイオードと、
前記発光ダイオードを駆動する駆動回路と、
前記駆動回路を制御して前記発光ダイオードの点灯時間を制御可能なパルス制御回路と、
を有する光触媒装置であって、
前記パルス制御回路が、前記発光ダイオードの点灯時間をデューティ比10%以下でパルス点灯させるよう前記駆動回路を制御することを特徴とする光触媒装置。
【請求項4】
請求項3に記載の発光ダイオードを用いた光触媒装置であって、
前記パルス制御回路が、前記発光ダイオードの点灯周期を50Hz〜5kHzの周期でパルス点灯させるよう前記駆動回路を制御することを特徴とする光触媒装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の発光ダイオードを用いた光触媒装置であって、さらに、
前記駆動回路の駆動源として、太陽電池を備えることを特徴とする光触媒装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の発光ダイオードを用いた光触媒装置であって、さらに、
前記光触媒層を振動させる振動付与手段を備えることを特徴とする発光ダイオードを用いた光触媒装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の発光ダイオードを用いた光触媒装置であって、
前記発光ダイオードが、紫外線照射発光ダイオードであることを特徴とする発光ダイオードを用いた光触媒装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の発光ダイオードを用いた光触媒装置であって、
前記光触媒物質が二酸化チタンであることを特徴とする発光ダイオードを用いた光触媒装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2006−296811(P2006−296811A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−124320(P2005−124320)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(592197108)徳島県 (30)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(592197108)徳島県 (30)
【Fターム(参考)】
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