説明

発光分光分析装置

【課題】種々の試料について、共存元素による分光干渉の影響を考慮した分析を迅速且つ適切に行うことができる発光分光分析装置を提供する。
【解決手段】試料を励起して該試料に含まれる元素に固有の波長を有する光を放出させ、その光を分光測定してスペクトルデータを取得する発光分光分析装置において、種々の目的元素毎に少なくとも該目的元素の発光スペクトル線の情報を収録した基本データベース203と、種々の干渉元素毎に該干渉元素が他の元素に及ぼす分光干渉の情報を収録した干渉データベース204と、干渉データベース204から一部の干渉元素に関する情報を取得して基本データベース203に追加するデータ追加手段205と、データ追加後の基本データベース203を参照し、測定試料のスペクトルデータに基づいて所定の目的元素に対する干渉元素の干渉量を算出する干渉量算出手段202とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma;ICP)発光分光分析装置やレーザ励起発光分光分析装置等の各種の発光分光分析装置、及びそのプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ICP発光分光分析装置では、試料をICPトーチ中の高温のプラズマ内に導入して励起発光させ、その発光光を波長分散させて検出器で検出することにより発光スペクトルを取得し、その発光スペクトルに現れているスペクトル線の波長から試料に含まれる元素の定性分析を、スペクトル線の強度からその元素の定量分析を行う(特許文献1など参照)。
【0003】
こうしたICP発光分光分析装置は、一般に、各種元素の発光スペクトルの情報を収録したデータベースを備えており、該データベースを用いて前記試料の発光スペクトルに基づく定性分析や、定量分析の評価(例えば、定量値を求めた際の波長選択が適切であったか否かの判定等)が行われる。しかしながら、ICP発光分光分析では、一種類の元素から波長の異なる多数のスペクトル線が現れるため、例えば図4に示すように、目的元素のスペクトルピークにそれに近い波長を有する共存元素(干渉元素)のスペクトルピークが重なってしまい(即ち、分光干渉の影響を受け)、目的元素のスペクトル強度が実際よりも見かけ上大きくなってしまうような場合がある。
【0004】
そこで、従来のICP発光分光分析では、上記データベースに各元素のスペクトル線の情報に加えて共存元素による分光干渉に関する情報を収録し、上記のような分光干渉の影響を考慮した分析を行うことができるようになっている。このような従来のデータベースの一例を図5に示す。従来のデータベースは、一般に、各元素毎に、該元素の測定に適したスペクトル線の波長(測定波長)と該測定波長における感度(該元素の濃度とスペクトル強度の比)の情報とから成る「測定波長情報」、及び前記各測定波長に干渉する元素(干渉元素)の元素名とそれによる干渉の度合いを表す干渉係数とから成る「分光干渉情報」を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−253540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したように一種の元素から得られるスペクトル線は一本だけでなく多数存在する。そのため、測定対象となる各種元素の各測定波長についてそれぞれ完全な分光干渉情報(即ち、想定し得る全ての干渉元素及びその干渉係数の情報)を収録しようとするとそのデータ量が膨大となり、該データベースを用いた発光スペクトルの解析に長時間を要することとなる。
【0007】
そこで、上記従来のICP発光分光分析装置では、データ量を抑えるため、前記のような分光干渉情報を前記測定波長毎に干渉係数の大きい順に元素数を制限して収録している(例えば、図5では干渉係数が大きい順に上位N個の干渉元素の元素名及び干渉係数を収録している)。
【0008】
しかし、実際の測定における干渉量は、測定試料中における干渉元素の濃度と干渉係数の積であるため、干渉係数が小さい干渉元素であっても、その濃度が極端に高い場合にはそれによる干渉の影響が無視できなくなる。それにも拘わらず、従来のデータベースでは上記のように分光干渉の情報量が制限されているため、測定試料の種類によっては適切な分析が行えない場合があった。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、様々な種類の試料について、迅速且つ適切に共存元素による分光干渉の影響を考慮した分析を行うことのできる発光分光分析装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る発光分光分析装置は、試料を励起して該試料に含まれる元素に固有の波長を有する光を放出させ、その光を分光測定して発光スペクトルデータを取得する発光分光分析装置であって、
a)種々の目的元素毎に少なくとも該目的元素のスペクトル線の情報を収録した基本データベースと、
b)種々の干渉元素毎に該干渉元素が他の元素に及ぼす分光干渉の情報を収録した干渉データベースから、一部の干渉元素に関する前記分光干渉の情報を取得して前記基本データベースに追加するデータ追加手段と、
c)前記データ追加後の基本データベースを参照し、測定試料の発光スペクトルデータに基づいて該試料中の所定の目的元素のスペクトル線に対する干渉元素の干渉量を算出する干渉量算出手段と、
を有することを特徴としている。
【0011】
ここで、上記基本データベースには、前記目的元素の発光スペクトル線の情報のみ(又は該発光スペクトル線の情報と一部の干渉元素による分光干渉の情報のみ)が収録され、前記干渉データベースには、多数の干渉元素(典型的にはICP発光分光分析で検出可能な全ての元素)による分光干渉の情報(即ち、各干渉元素が他の元素のどの波長にどれだけ干渉するかを表す情報)が収録される。従って、上記本発明に係る発光分光分析装置によれば、上記データ追加手段によって干渉データベースから所定の干渉元素に関する情報を適宜抽出して基本データベースに追加することができ、これにより目的に応じて最適化された基本データベースを利用して前記干渉量算出手段による干渉量の算出を行うことができる。
【0012】
上記本発明の発光分光分析装置におけるデータ追加手段は、例えば、測定対象とする試料に応じて予め設定された干渉元素又はユーザが指定した干渉元素を前記「一部の干渉元素」とし、該干渉元素が他の元素に及ぼす分光干渉の情報を前記干渉データベースから取得して前記基本データベースに追加するものなどとすることができる。
【0013】
また、上記本発明に係る発光分光分析装置は、
d)前記基本データベースを参照し、測定試料の発光スペクトルデータに基づいて該試料中の主成分元素を特定する主成分元素特定手段、
を更に有し、前記データ追加手段によるデータ追加を行うに際して、前記主成分元素特定手段による主成分元素の特定を行い、これにより特定された主成分元素による分光干渉の情報を前記データ追加手段によって前記基本データベースに追加するものとしてもよい。
【0014】
ここで「主成分元素」とは、前記測定試料を構成する元素のうち主要なものを意味する。主成分元素は測定試料中に高濃度で存在するものであるため、上述したように、該元素の干渉係数が小さい場合であっても目的元素への分光干渉の影響は大きくなる。そこで、上記のような主成分元素特定手段を設け、これによって特定された主成分元素による分光干渉の情報が自動的に基本データベースに追加されるようにすることで、共存元素による分光干渉の影響をより容易且つ適切に評価することが可能となる。また、上記のような構成によれば、ユーザによる干渉元素の指定等を行う手間を省くことができると共に、主成分元素が未知の試料を測定する場合にも、主成分元素による分光干渉の影響を適切に評価することができる。
【0015】
また、上記課題を解決するためになされた本発明に係るプログラムは、発光分光分析により試料を測定して得られた発光スペクトルデータを分析するためのコンピュータで実行されるプログラムであって、
a)種々の干渉元素毎に該干渉元素が他の元素に及ぼす分光干渉の情報を収録した干渉データベースから、一部の干渉元素に関する前記分光干渉の情報を取得する干渉情報取得ステップと、
b)種々の目的元素毎に少なくとも該目的元素の発光スペクトル線の情報を収録した基本データベースに、前記干渉データベースから取得した情報を追加するデータ追加ステップと、
c)前記データ追加後の基本データベースを参照し、測定試料の発光スペクトルデータに基づいて該試料中の所定の目的元素のスペクトル線に対する干渉元素の干渉量を算出する干渉量算出ステップと、
を前記コンピュータに実行させることを特徴としている。
【0016】
また、上記本発明に係るプログラムは、更に、
d)前記基本データベースを参照し、測定試料の発光スペクトルデータに基づいて該試料中の主成分元素を特定する主成分元素特定ステップ、
を前記コンピュータに実行させるものであって、前記干渉情報取得ステップを実行する前に、前記主成分元素特定ステップを実行させ、これにより特定された主成分元素による分光干渉の情報を前記干渉情報取得ステップ及びデータ追加ステップによって前記基本データベースに追加させるものとしてもよい。
【0017】
なお、上記本発明に係る発光分光分析装置及びプログラムにおいて、前記干渉データベースは前記基本データベースと同一の装置内に設けられたものであってもよく、あるいは前記基本データベースが設けられた装置とコンピュータネットワークを介して接続された他の装置内に設けられたものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上で説明したように、上記本発明に係る発光分光分析装置及びプログラムによれば、最小限の情報のみを基本データベースに収録しておき、適宜必要な情報を干渉データベースから抽出して基本データベースに追加することができる。このため、基本データベースのデータ量を抑えつつ、種々の測定試料について該試料の測定における分光干渉の影響の大きさを求めることが可能となり、その結果、迅速且つ適切な定性分析、半定量分析、又は定量分析の評価等を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例に係るICP発光分光分析装置の概略構成を示すブロック図。
【図2】同実施例のICP発光分光分析装置における干渉データベースの内容の一例を示す図。
【図3】同実施例のICP発光分光分析装置におけるデータベース最適化及び干渉量算出を行う際の処理手順を示すフローチャート。
【図4】スペクトルの重なりによる分光干渉を示す図。
【図5】従来のICP発光分光分析装置におけるデータベースの内容の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施例によるICP発光分光分析装置について図面を参照しつつ説明する。図1は本実施例に係るICP発光分光分析装置の概略構成図である。このICP発光分光分析装置は多波長同時検出が可能ないわゆるマルチチャンネル型の装置である。
【0021】
図1において、制御部21により制御されるオートサンプラ11から供給された試料溶液は、図示しないネブライザで霧化された後、発光部10に導入されプラズマ炎によって励起される。これにより発生した光は集光レンズ12により集光され、スリット13を通過して回折格子14に送られる。回折格子14で波長分散された光は、例えばリニアCCDセンサ等のマルチチャンネル型検出器15でほぼ同時に検出される。具体的には、ここでは検出器15の受光面の両端部にそれぞれ到達する波長λ1、λ2の間の光をほぼ同時に検出し、各受光素子で光電変換した検出信号をデータ処理部20へと送る。
【0022】
データ処理部20は該検出信号をデジタルデータ(スペクトルデータ)に変換し、所定のアルゴリズムに従って演算処理することにより、試料の定性分析や定量分析を実行する。そのために、データ処理部20はスペクトルデータを記憶するスペクトルデータメモリ201、分析処理部202、基本データベース203、干渉データベース204、及びデータベース管理部(図中では「DB管理部」と略称している)205を備えている。このデータベース管理部205が本発明におけるデータ追加手段に相当し、分析処理部202が本発明における干渉量算出手段及び主成分元素特定手段に相当する。なお、上記干渉データベース204と基本データベース203はそれぞれ個別の記憶装置によって構成してもよいが、一つの記憶装置を論理的に分割して成るものとしてもよい。
【0023】
上記各部の動作は制御部21により統括的に制御されており、制御部21とデータ処理部20の機能の多くは汎用のパーソナルコンピュータ22上で所定のプログラムを実行することによって達成される。また、パーソナルコンピュータ22には、ユーザが分析条件等を入力するためのキーボード等から成る入力部23と、測定結果等を表示するためのディスプレイ等から成る表示部24とが接続されている。
【0024】
上記干渉データベース204の収録内容の一例を図2に示す。なお、上記基本データベース203の収録内容は図5で示した従来のデータベースと同様であるため図示を省略する。
【0025】
基本データベース203は、各種目的元素毎に、その元素の測定に適したスペクトル線の波長(測定波長)と該測定波長における感度(該元素の濃度とスペクトル強度の比)とから成る「測定波長情報」、及び前記各スペクトル線に分光干渉する元素(干渉元素)の元素名と該干渉元素による干渉の度合いを表す干渉係数とから成る「分光干渉情報」が収録されている。この基本データベース203は、上述のように従来のICP発光分光分析装置におけるデータベースと同様のものであり、前記分光干渉情報としては、前記測定波長毎に干渉係数の大きい順に上位数個の干渉元素及びその干渉係数のみが収録されている。
【0026】
一方、干渉データベース204には、全ての干渉元素について各干渉元素毎に、該干渉元素が分光干渉の影響を与え得る波長(干渉波長)と、該干渉波長において該干渉元素が他の各元素に及ぼす分光干渉の度合いを表す干渉係数とが格納されている。なお、図中の「元素No.」はICP発光分光分析装置によって測定可能な72種類の元素の各々に付与された通し番号であり、図中の「干渉係数n」(n=1〜72)は、それぞれ元素No.nの元素に及ぼす分光干渉の度合いを表している。
【0027】
これらのデータベース203、204に収録されるデータは、分析装置の機種毎に固有のものであるから、ICP発光分光分析装置の機種毎に実測され、予め基本データベース203、及び干渉データベース204に格納されている。
【0028】
本実施例に係るICP発光分光分析装置は、スペクトルデータメモリ201に格納された測定試料のスペクトルデータに基づき、分析処理部202が基本データベース203を参照することによって定性分析等の所定の分析を行うものであり、その際に、測定試料に応じて予め基本データベース203の内容を最適化する機能を備える点に特徴を有している。以下、図3のフローチャートに沿って、このデータベース最適化機能における処理手順を説明する。
【0029】
まず、測定試料に対するICP分析が実行され、その結果、データ処理部20のスペクトルデータメモリ201にはλ1〜λ2の波長範囲の発光スペクトルデータが格納される(ステップS31)。
【0030】
分析処理部202は、前記発光スペクトルデータを基本データベース203に照会することで定性分析及び半定量分析を行い、前記測定試料の主成分元素を特定する(ステップS32)。具体的には、まず、前記発光スペクトルデータ上に含まれる各スペクトルピークの波長を、基本データベース203に収録された各目的元素のスペクトル線の波長(測定波長)と照会することにより、前記測定試料中に含まれる元素の種類を特定し(定性分析)、続いて、前記発光スペクトルデータ上の各スペクトルピークの高さと該ピーク波長における感度とに基づいて各元素の概算濃度(半定量値)を算出する(半定量分析)。その後、前記半定量値が所定の基準を満たす元素、例えば、測定試料中の濃度が高かったものから順に所定の数の元素や、ユーザが予め指定した所定の目的元素に対する濃度比が所定値以上であった元素等を該試料の主成分元素として決定する。
【0031】
なお、上記のような主成分元素の特定を行う際にも、共存元素による分光干渉の影響を考慮することが望ましい。そのため、上記のステップS32では、各目的元素の測定波長及び感度の情報(即ち、測定波長情報)に加えて、予め基本データベース203に収録されている分光干渉情報(即ち、干渉元素1〜N及び干渉係数1〜N)を参照することが望ましい。
【0032】
続いて、分析処理部202はステップS32で特定された主成分元素の情報をデータベース管理部205に送出する。すると、データベース管理部205は、該主成分元素に対応付けられた情報を干渉データベース204から抽出し(ステップS33)、これを基本データベースに追加する(ステップS34)。
【0033】
例えば、基本データベース203には、予め分光干渉情報として各測定波長における干渉係数が大きい順に上位3つの干渉元素の情報(即ち、干渉元素1〜3及び干渉係数1〜3)が収録されており、ステップS32において主成分元素としてAgが特定された場合、上記のステップS33、S34では、干渉データベース204に収録された情報のうち、Ag(厳密にはAgに付与された元素No.)に対応付けて記憶されている干渉波長及び各干渉波長における干渉係数1〜72の情報が抽出され、所定の順序に並べ替えられて基本データベース203に格納される。これにより、基本データベース203には、予め記載されていた干渉元素1〜3及び干渉係数1〜3の情報に加えて、「干渉元素4」として元素名Agが、「干渉係数4」として各測定波長におけるAgの干渉係数が収録されることとなる。
【0034】
以上により、基本データベース203が測定試料に応じた最適な内容に変更されたこととなるので、続いて、分析処理部202は、該基本データベース203を利用して前記測定試料の測定における分光干渉の影響の大きさ(即ち干渉量)を算出する(ステップS35)。なお、分析処理部202によって実行される干渉量の算出には従来の手法を用いることができるが、とりわけ、本出願人が特開2006−275892号により既に提案しているような方法を用いるとよい。
【0035】
ここで、上に述べた特開2006−275892号に記載の方法を利用した干渉量の算出方法の概略を説明する。
【0036】
まず、ユーザは入力部23より定量分析の目的とする所定の目的元素及び定量分析に使用する測定波長を指定する。この入力を受けたデータ処理部20は、基本データベース203を参照して、設定された目的元素の測定波長における各干渉元素(上記の干渉元素1〜4)の干渉係数(上記の干渉係数1〜4)、及び前記各干渉元素の測定波長の情報を読み出す。
【0037】
次に分析処理部202は、スペクトルデータメモリ201に保存されている発光スペクトルデータの中で目的元素の測定波長におけるスペクトル強度を取得し、これに対し、バックグラウンド補正を行うことによって、バックグラウンドノイズを除いた強度値を算出する(以下、これを「目的元素の強度値」と呼ぶ)。次にデータ処理部20は、スペクトルデータメモリ201に保存されているデータの中で各干渉元素の測定波長におけるスペクトル強度を取得し、これに対し上記と同様にバックグラウンド補正を行うことによってバックグラウンドノイズを差し引いた強度値を算出する(以下、これを「干渉元素の強度値」と呼ぶ)。その後、分析処理部202は、干渉元素の強度値に前記の干渉係数を乗じることにより、目的元素の測定波長において目的元素の強度値に含まれる各干渉元素の干渉量を算出する。
【0038】
その後、以上の干渉量の算出結果が表示部24に表示される(ステップS36)。また、以上で求められた干渉量に所定の係数を乗じ、その値と目的元素の強度値とから測定精度(定量下限値)を算出して、その結果を表示部24に表示するようにしてもよい。これにより、ユーザは上記干渉量又は測定精度を参照することで、上記で指定した測定波長が前記目的元素の定量分析に用いる波長として適切であったか否かを評価することができる。また、一つの目的元素につき複数の測定波長を指定して上記のような干渉量又は測定精度の算出を行い、その結果、共存元素による干渉量が小さかった波長又は測定精度が高かった波長を定量分析に適した波長として決定することもできる。
【0039】
なお、データ追加後の基本データベースを用いて、再び前記測定元素の発光スペクトルデータに基づく定性分析及び半定量分析を行うようにしてもよい。これにより、主成分元素による干渉の影響を考慮したより適切な定性分析及び半定量分析を行うことができる。なお、この場合には、定性対象とする全ての目的元素について上述のような共存元素による干渉量を算出し、所定の測定波長における目的元素の強度値から該測定波長における各干渉元素の干渉量を減じて得られた値に該測定波長における目的元素の感度を乗じることで該目的元素の概算濃度(半定量値)を求めることができる。
【0040】
なお、ステップS34で追加したデータは、そのまま基本データベース203に収録しておいてもよく、一連の分析が完了した後にデータベース管理部205によって自動的に(又はユーザの指示に応じて)削除されるようにしてもよい。前者の場合、次回以降に同様の試料を分析する際に、主成分元素の特定及び基本データベース203へのデータ追加を実行する必要がなくなり、スペクトルデータの分析に要する時間を短縮することができる。一方、後者の場合は、多様な試料を分析するうちに、追加したデータが基本データベース203に蓄積されて基本データベース203のデータ量が増大するのを防止することができる。
【0041】
また、基本データベースに追加したデータを自動的に削除する場合、測定試料の測定時における各種条件を記載した測定メソッドと該測定試料についてステップS32で特定された主成分元素の情報とを関連づけて所定の記憶装置(図示略)に記憶させ、次回以降に同様の測定メソッドで測定した試料については、スペクトルデータを分析する際に、前記主成分元素に関する分光干渉情報が自動的に基本データベース203に追加されるようにしてもよい。
【0042】
以上のように、本実施例に係るICP発光分光分析装置によれば、測定試料に応じて最適化された基本データベースを用いて、測定試料の主成分元素を含む各共存元素からの分光干渉の影響の大きさを求めることができるため、迅速且つ適切な定性分析、半定量分析、又は定量分析の評価を行うことが可能となる。
【0043】
なお、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜に変更や追加を行っても本願発明に包含されることは当然である。
【0044】
例えば、上記実施例では基本データベース203と干渉データベース204を同一のパーソナルコンピュータ22上に設ける構成としたが、この他、前記パーソナルコンピュータ22上には基本データベース203のみを設け、干渉データベース204は、該パーソナルコンピュータ22とコンピュータネットワークを介して接続された他のコンピュータ上に設けるようにしてもよい。この場合、データベース管理部205は、分析処理部202から指示された主成分元素に関する情報を前記コンピュータネットワークを介して干渉データベースから取得し、基本データベースに追加するものとする。
【0045】
また、上記実施例ではマルチチャンネル型の発光分光分析装置を示したが、本発明はシーケンシャル型の発光分光分析装置にも適用可能である。更に、本発明は上記のようなICP発光分光分析装置のみに適用されるものではなく、それ以外のレーザ励起プラズマ発光分光分析装置や固体発光分光分析装置、グロー放電発光分光分析装置等の種々の発光分光分析装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10…発光部
11…オートサンプラ
12…集光レンズ
13…スリット
14…回折格子
15…検出器
20…データ処理部
201…スペクトルデータメモリ
202…分析処理部
203…基本データベース
204…干渉データベース
205…データベース管理部
21…制御部
22…パーソナルコンピュータ
23…入力部
24…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を励起して該試料に含まれる元素に固有の波長を有する光を放出させ、その光を分光測定して発光スペクトルデータを取得する発光分光分析装置であって、
a)種々の目的元素毎に少なくとも該目的元素のスペクトル線の情報を収録した基本データベースと、
b)種々の干渉元素毎に該干渉元素が他の元素に及ぼす分光干渉の情報を収録した干渉データベースから、一部の干渉元素に関する前記分光干渉の情報を取得して前記基本データベースに追加するデータ追加手段と、
c)前記データ追加後の基本データベースを参照し、測定試料の発光スペクトルデータに基づいて該試料中の所定の目的元素のスペクトル線に対する干渉元素の干渉量を算出する干渉量算出手段と、
を有することを特徴とする発光分光分析装置。
【請求項2】
更に、
d)前記基本データベースを参照し、測定試料の発光スペクトルデータに基づいて該試料中の主成分元素を特定する主成分元素特定手段、
を有し、前記データ追加手段によるデータ追加を行うに際して、前記主成分元素特定手段による主成分元素の特定を行い、これにより特定された主成分元素による分光干渉の情報を前記データ追加手段によって前記基本データベースに追加することを特徴とする請求項1に記載の発光分光分析装置。
【請求項3】
発光分光分析により試料を測定して得られた発光スペクトルデータを分析するためのコンピュータで実行されるプログラムであって、
a)種々の干渉元素毎に該干渉元素が他の元素に及ぼす分光干渉の情報を収録した干渉データベースから、一部の干渉元素に関する前記分光干渉の情報を取得する干渉情報取得ステップと、
b)種々の目的元素毎に少なくとも該目的元素の発光スペクトル線の情報を収録した基本データベースに、前記干渉データベースから取得した情報を追加するデータ追加ステップと、
c)前記データ追加後の基本データベースを参照し、測定試料の発光スペクトルデータに基づいて該試料中の所定の目的元素のスペクトル線に対する干渉元素の干渉量を算出する干渉量算出ステップと、
を前記コンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項4】
更に、
d)前記基本データベースを参照し、測定試料の発光スペクトルデータに基づいて該試料中の主成分元素を特定する主成分元素特定ステップ、
を前記コンピュータに実行させるものであって、前記干渉情報取得ステップを実行する前に、前記主成分元素特定ステップを実行させ、これにより特定された主成分元素による分光干渉の情報を前記干渉情報取得ステップ及びデータ追加ステップによって前記基本データベースに追加させることを特徴とする請求項3に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−169412(P2010−169412A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9784(P2009−9784)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】