説明

発光測定装置

【課題】 高精度に試料を分析することができる発光測定装置を提供する。
【解決手段】 発光測定装置1は、同様の構成を有する第1ユニット10,第2ユニット20,第3ユニット30および第4ユニット40を備え、制御部50および表示部60をも備える。第1ユニット10は、第1励起部11,第1検出部12および第1試料セル19を含む。第1励起部11は、第1試料セル19中の試料に励起光を照射する。第1検出部12は、第1試料セル19中の試料で発生した光(蛍光および化学発光など)を検出する。第1試料セル19,第2試料セル29,第3試料セル39および第4試料セル49の周囲に、第1励起部11,第2励起部21,第3励起部31,第4励起部41,第1検出部12,第2検出部22,第3検出部32および第4検出部42が配置されている、

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料セル中の試料で発生した光を検出する発光測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光測定装置は、蛍光物質を含む試料に励起光を照射して該試料で発生する蛍光を検出したり、或いは、試料で発生する化学発光を検出したりすることにより、その試料を分析することができる(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特許第3183863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の発光測定装置では、蛍光または化学発光の測定結果に基づいて試料を分析しても、その分析を高精度に行うことができない場合がある。本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、高精度に試料を分析することができる発光測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る発光測定装置は、(1-1) 第1試料セル中の試料に励起光を照射する第1励起部と、(1-2) 第1試料セル中の試料で発生した光を検出する第1検出部と、(1-3) 第1試料セル中に試薬を注入する第1注入部と、(2-1) 第2試料セル中の試料に励起光を照射する第2励起部と、(2-2) 第2試料セル中の試料で発生した光を検出する第2検出部と、(2-3) 第2試料セル中に試薬を注入する第2注入部と、(3-1) 第3試料セル中の試料に励起光を照射する第3励起部と、(3-2) 第3試料セル中の試料で発生した光を検出する第3検出部と、(3-3) 第3試料セル中に試薬を注入する第3注入部と、(4-1) 第4試料セル中の試料に励起光を照射する第4励起部と、(4-2) 第4試料セル中の試料で発生した光を検出する第4検出部と、(4-3) 第4試料セル中に試薬を注入する第4注入部と、(5) 第1検出部,第2検出部,第3検出部および第4検出部のうち何れか2以上の検出部が同時に光を検出するよう制御を行う制御部と、を備えることを特徴とする。
【0005】
さらに、本発明に係る発光測定装置は以下のような特徴を有している。すなわち、第1励起部,第2励起部,第3励起部および第4励起部それぞれの光学系は、互いに同等の構成を有する。第1検出部,第2検出部,第3検出部および第4検出部それぞれの光学系は、互いに同等の構成を有する。第1励起部,第2励起部,第3励起部,第4励起部,第1検出部,第2検出部,第3検出部および第4検出部は、第1試料セル,第2試料セル,第3試料セルおよび第4試料セルの周囲に配置されている。第1試料セル中において第1励起部および第1検出部それぞれの光学系の光軸は互いに直交し、第2試料セル中において第2励起部および第2検出部それぞれの光学系の光軸は互いに直交し、第3試料セル中において第3励起部および第3検出部それぞれの光学系の光軸は互いに直交し、第4試料セル中において第4励起部および第4検出部それぞれの光学系の光軸は互いに直交している。また、第1励起部,第2励起部,第3励起部,第4励起部,第1検出部,第2検出部,第3検出部および第4検出部それぞれの光学系の光軸は、互いに直交する第1方向および第2方向の何れかに平行である。
【0006】
また、本発明に係る発光測定装置は、第1試料セル中の試料を攪拌する第1攪拌部と、第2試料セル中の試料を攪拌する第2攪拌部と、第3試料セル中の試料を攪拌する第3攪拌部と、第4試料セル中の試料を攪拌する第4攪拌部と、を更に備えるのが好適である。この場合には例えば試料が細胞を含む場合に有効である。
【0007】
また、本発明に係る発光測定装置は、第1検出部,第2検出部,第3検出部および第4検出部それぞれによる光検出の状況を実時間で表示する表示部を更に備えるのが好適である。また、本発明に係る発光測定装置では、制御部は、第1検出部,第2検出部,第3検出部および第4検出部のうち何れかの検出部による光検出結果から他の何れかの検出部による光検出結果を減算するのが好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高精度に試料を分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、説明の便宜の為にxyz直交座標系を設定し図中に示す。
【0010】
図1は、本実施形態に係る発光測定装置1の構成図である。この図に示される発光測定装置1は、第1励起部11および第1検出部12を含む第1ユニット10、第2励起部21および第2検出部22を含む第2ユニット20、第3励起部31および第3検出部32を含む第3ユニット30、ならびに、第4励起部41および第4検出部42を含む第4ユニット40、を備える。また、発光測定装置1は、制御部50および表示部60をも備える。
【0011】
第1ユニット10に含まれる第1励起部11は、第1試料セル19中の試料に励起光を照射する。この励起光は、第1試料セル19中の試料に含まれる蛍光物質を励起し得る波長の光である。また、第1ユニット10に含まれる第1検出部12は、第1試料セル19中の試料で発生した光(蛍光および化学発光など)を検出する。
【0012】
第2ユニット20に含まれる第2励起部21は、第2試料セル29中の試料に励起光を照射する。この励起光は、第2試料セル29中の試料に含まれる蛍光物質を励起し得る波長の光である。また、第2ユニット20に含まれる第2検出部22は、第2試料セル29中の試料で発生した光(蛍光および化学発光など)を検出する。
【0013】
第3ユニット30に含まれる第3励起部31は、第3試料セル39中の試料に励起光を照射する。この励起光は、第3試料セル39中の試料に含まれる蛍光物質を励起し得る波長の光である。また、第3ユニット30に含まれる第3検出部32は、第3試料セル39中の試料で発生した光(蛍光および化学発光など)を検出する。
【0014】
第4ユニット40に含まれる第4励起部41は、第4試料セル49中の試料に励起光を照射する。この励起光は、第4試料セル49中の試料に含まれる蛍光物質を励起し得る波長の光である。また、第4ユニット40に含まれる第4検出部42は、第4試料セル49中の試料で発生した光(蛍光および化学発光など)を検出する。
【0015】
第1励起部11,第2励起部21,第3励起部31および第4励起部41それぞれの光学系は互いに同等の構成を有している。第1検出部12,第2検出部22,第3検出部32および第4検出部42それぞれの光学系も互いに同等の構成を有している。また、第1試料セル19,第2試料セル29,第3試料セル39および第4試料セル49は、各々直方体形状のものであって、x方向およびy方向に一定間隔で配置されている。これら第1試料セル19,第2試料セル29,第3試料セル39および第4試料セル49の周囲に、第1励起部11,第2励起部21,第3励起部31,第4励起部41,第1検出部12,第2検出部22,第3検出部32および第4検出部42が配置されている、
第1試料セル19中において第1励起部11および第1検出部12それぞれの光学系の光軸は互いに直交する。第2試料セル29中において第2励起部21および第2検出部22それぞれの光学系の光軸は互いに直交する。第3試料セル39中において第3励起部31および第3検出部32それぞれの光学系の光軸は互いに直交する。また、第4試料セル49中において第4励起部41および第4検出部42それぞれの光学系の光軸は互いに直交する。
【0016】
第1励起部11,第2励起部21,第3励起部31,第4励起部41,第1検出部12,第2検出部22,第3検出部32および第4検出部42それぞれの光学系の光軸は、互いに直交するx軸方向およびy軸方向の何れかに平行である、すなわち、第1励起部11から出力されて第1試料セル19中の試料に照射される励起光は−y方向に進み、第1試料セル19中の試料で発生して第1検出部12により検出される光は+x方向に進む。第2励起部21から出力されて第2試料セル29中の試料に照射される励起光は−y方向に進み、第2試料セル29中の試料で発生して第2検出部22により検出される光は−x方向に進む。第3励起部31から出力されて第3試料セル39中の試料に照射される励起光は+y方向に進み、第3試料セル39中の試料で発生して第3検出部32により検出される光は−x方向に進む。また、第4励起部41から出力されて第4試料セル49中の試料に照射される励起光は+y方向に進み、第4試料セル49中の試料で発生して第4検出部42により検出される光は+x方向に進む。
【0017】
制御部50は、第1検出部12,第2検出部22,第3検出部32および第4検出部42のうち何れか2以上の検出部が同時に光を検出するよう制御を行う。すなわち、制御部50は、第1励起部11,第2励起部21,第3励起部31および第4励起部41それぞれにおける励起光出力を制御するとともに、第1検出部12,第2検出部22,第3検出部32および第4検出部42それぞれにおける光検出動作を制御する。制御部50は、第1検出部12,第2検出部22,第3検出部32および第4検出部42それぞれによる光検出の状況や検出結果を取得し、これらを表示部60に実時間で表示させる。また、制御部5は、第1検出部12,第2検出部22,第3検出部32および第4検出部42のうち何れかの検出部による光検出結果から他の何れかの検出部による光検出結果を減算し、この減算結果を表示部60に表示させる。
【0018】
図2は、本実施形態に係る発光測定装置1に含まれる第1ユニット10の構成図である。第1ユニット10は、上述した第1励起部11および第1検出部12を含む他、第1攪拌部13および第1温調部14をも含む。
【0019】
第1励起部11は、ドライバ111、発光素子112、レンズ113および光フィルタ114を含む。ドライバ111は、制御部50により制御されて、発光素子112に供給されるべき駆動電流を出力する。発光素子112は、ドライバ111から出力された駆動電流を入力して励起光を出力するものであって、好適には発光ダイオードまたはレーザダイオードである。レンズ113は、発光素子112から出力された光を収斂させて、その励起光を第1試料セル19内に集光させる。また、光フィルタ114は、発光素子112から出力された光のうち、試料中の蛍光物質を励起し得る波長の励起光を選択的に透過させるものである。なお、発光素子112としてレーザダイオードが用いられ、発光素子112から出力される光の単色性が優れている場合には、光フィルタ114は不要である。発光素子112から第1試料セル19に到るまでの光学系の光軸はy軸に平行である。
【0020】
第1検出部12は、レンズ121、光フィルタ122および光検出器123を含む。レンズ121は、第1試料セル19中の試料で発生した光を入力し、この光をコリメートする。光フィルタ122は、第1試料セル19中の試料から到達した光のうち、励起光の散乱成分を選択的に遮断し、他の波長の光(蛍光または化学発光など)を透過させる。光検出器123は、光フィルタ122を透過した光を受光し、その受光した光の強度を検出して、その検出結果を制御部50へ通知する。この光検出器123は、光電子増倍管を含むのが好適であり、また、フォトンカウンティングを行うことができるのが好適である。第1試料セル19から光検出器123に到るまでの光学系の光軸はx軸に平行である。
【0021】
第1攪拌部13は、スターラ131および攪拌制御部132を含む。スターラ131は、攪拌制御部132による制御の下、第1試料セル19中の試料を攪拌する。第1温調部14は、温度センサ141、ヒータ142および温度制御部143を含む。温度センサ14は、第1試料セル19中の試料の温度を測定する。ヒータ142は、この温度測定結果に基づいて行われる温度制御部143による制御の下、第1試料セル19中の試料の温度を所望値に維持する。
【0022】
図3は、第1試料セル19の斜視図である。第1試料セル19は、試料セルホルダ191と、直方体形状の透明容器であるキュベット192とから構成され、xz平面およびyz平面の何れかに各側壁が平行となるように配置される。試料セルホルダ191は、底部にスターラ131が配置されていて、上部が開放されていてキュベット192が挿入可能となっている。また、試料セルホルダ191は、励起光を内部へ入射するための入射窓193を+y側の側壁に有するとともに、内部で発生した光を外部へ出射するための出射窓194を+x側の側壁に有する。
【0023】
図4は、第1励起部11の構成を示す一部断面図である。第1励起部11に含まれる発光素子112は、発光素子用ホルダ115の開口に嵌め込まれている。また、光フィルタ114は、光フィルタ用ホルダ116の開口に嵌め込まれている。発光素子112から出力された光は、発光素子用ホルダ115の開口を経て、更に光フィルタ用ホルダ116の開口および光フィルタ114を経て、第1試料セル19中の試料に照射される。
【0024】
図5は、第1検出部12の構成を示す一部断面図である。第1検出部12に含まれる光フィルタ122は、ホルダ124の開口に嵌め込まれている。光検出器123は、光電子増倍管125、ブリーダ抵抗回路126、ディスクリミネータ127、高圧電源128およびコネクタ129を含み、これらがシールドボックス内に収められている。光電子増倍管125は、ブリーダ抵抗回路126により所定電圧値が多段のダイノードに与えられ、光電面への光子の入射に伴い発生した光電子を多段のダイノードにより増倍して、その増倍された電子に応じた電流パルスをディスクリミネータ127へ出力する。ブリーダ抵抗回路126は、高圧電源128から出力された高電圧を抵抗分割し、その抵抗分割後の所定電圧値を光電子増倍管125の多段のダイノードに与える。ディスクリミネータ127は、光電子増倍管125から出力された電流パルスを入力して波高弁別する。第1試料セル19で発生した光のうち光フィルタ122を透過した光が光電子増倍管125の光電面に入射すると、その光電面から光電子が発生する。その光電子は光電子増倍管125の多段のダイノードにより増倍されて、その増倍された電子に応じた電流パルスが光電子増倍管125から出力されてディスクリミネータ127に入力する。そして、その電流パルスはディスクリミネータ127により波高弁別されてコネクタ129から制御部50へ出力される。
【0025】
これまで図2〜図5を用いて第1ユニット10について説明してきたが、第2ユニット20,第3ユニット30および第4ユニット40それぞれも、第1ユニット10と同様の構成を有している。すなわち、第2ユニット20,第3ユニット30および第4ユニット40それぞれは、対応する試料セル中の試料を攪拌する攪拌部(第1攪拌部13と同様の構成のもの)を含み、対応する試料セル中の温度を調整する温調部(第1温調部14と同様の構成のもの)を含み、各々の励起部21,31,41が第1励起部11と同様の構成を有し、各々の検出部22,32,42が第1検出部12と同様の構成を有する。
【0026】
図6は、本実施形態に係る発光測定装置1の斜視図である。この図に示されるように、基盤2上に、第1ユニット10に含まれる発光素子用ホルダ115,光フィルタ用ホルダ116,光検出器123,ホルダ124および第1試料セル19、第2ユニット20に含まれる発光素子用ホルダ215,光フィルタ用ホルダ216,光検出器223,ホルダ224および第2試料セル29、第3ユニット30に含まれる発光素子用ホルダ315,光フィルタ用ホルダ316,光検出器323,ホルダ324および第3試料セル39、第4ユニット40に含まれる発光素子用ホルダ415,光フィルタ用ホルダ416,光検出器423,ホルダ424および第4試料セル49、ならびに、制御部50(の一部)が、相対的位置関係を固定されて配置されている。
【0027】
なお、発光素子用ホルダ215,315,415それぞれは、前述の発光素子用ホルダ115と同様の構成のものである。光フィルタ用ホルダ216,316,416それぞれは、前述の光フィルタ用ホルダ116と同様の構成のものである。光検出器223,323,423それぞれは、前述の光検出器123と同様の構成のものである。ホルダ224,324,424それぞれは、前述のホルダ124と同様の構成のものである。基盤2上に配置される制御部50(の一部)は、例えば、光検出器123,223,323,423それぞれから出力されるデータを処理する部分である。
【0028】
図7は、本実施形態に係る発光測定装置1の斜視図である。この図には、図6に示された構成のものに加えて、上蓋3,第1注入部15,第2注入部25,第3注入部35および第4注入部45が示されている。上蓋3は、基盤2の上から、第1ユニット10,第2ユニット20,第3ユニット30および第4ユニット40を覆うものである。この覆われた状態では、基盤2および上蓋3により囲まれた空間への外乱光の侵入が遮断される。また、この覆われた状態において、第1注入部15は第1試料セル19中に試薬を注入することができ、第2注入部25は第2試料セル29中に試薬を注入することができ、第3注入部35は第3試料セル39中に試薬を注入することができ、また、第4注入部45は第4試料セル49中に試薬を注入することができる。
【0029】
注入部15,25,35,45それぞれは、上蓋3に対し着脱自在であるシリンジを含むのが好適であり、この場合には、上蓋3から取り外された状態のときに試薬を吸引し、上蓋3に装着された状態のときに対応試料セル中に試薬を注入することができる。注入部15,25,35,45それぞれにより注入されるべき試薬は、例えば、対応する試料セル中の試料に対し何らかの反応を誘起せしめるための刺激薬である。
【0030】
次に、本実施形態に係る発光測定装置1を用いた測定の一例について説明する。ここでは、試料としてのヒト好中球様細胞から発生する蛍光および化学発光を同時に測定する場合について説明する。3つの試料セル19,29,39それぞれに試料としてヒト好中球様細胞の水溶液を容れ、他の1つの試料セル40に試料として溶媒(一般に水)のみを容れる。
【0031】
ここで、ヒト好中球様細胞は、ヒト単球系株細胞THP−1を0.5mMのBtcAMP(ジブチリル環状アデノシンリン酸)を含む10%血清入りRPMImediumで細胞密度を3×10細胞/mlに合わせ、これを3日間37℃で5%CO存在下で培養したものである。試料である好中球様細胞は、予め、カルシウム蛍光指示薬fluo-3(1-[2-amino-5-(2,7-dichloro-6-hydroxy-3-oxy-9-xanthenyl)phenoxyl]-2-(2-amino-5-methylphenoxy)ethane-N,N,N',N'-tetraaceticacid )で処理され、また、化学発光試薬CLA(ウミホタルルシフェリン誘導体、2-methyl-6-phenyl-3,7-dihydroimidazo[1,2-a]pyrazin-3-one)が添加されて、懸濁液とされる。
【0032】
このような試料が容れられた試料セル19,29,39それぞれが所定位置にセットされる。また、溶媒のみが容れられた試料セル49も所定位置にセットされる。そして、これらの試料セル19,29,39,49それぞれに容れられた試料は、攪拌部により攪拌されるとともに、温調部により一定温度37℃に維持される。
【0033】
以上の測定準備が終了すると、励起部11,21,31,41それぞれからパルス状の励起光(波長488nm)が一定繰り返し周期(ミリ秒程度)で出力され、その励起光が試料セル19,29,39,49それぞれの中の試料に照射される。そして、試料セル19,29,39,49それぞれの中の試料で発生した光は、検出部12,22,32,42により検出され、その検出した光の強度に応じた値の信号が制御部50へ出力される。
【0034】
試料セル19,29,39それぞれの中の試料から発生した光の検出に際しては、励起光の照射時には蛍光,化学発光およびラマン散乱光が検出され、励起光の非照射時には化学発光が検出される。一方、試料セル49中の試料で発生した光の検出に際しては、励起光の照射時にラマン散乱光が検出される。
【0035】
ここで、蛍光は、好中球様細胞内の遊離カルシウムイオンとカルシウム蛍光指示薬fluo-3とが結合して生成された錯体に励起光が照射されて発生する光であり、その強度が好中球様細胞内の遊離カルシウムイオンの濃度を表すものであって、波長が530nmである。化学発光は、ヒト好中球により産生されるスーパーオキサイドと化学発光試薬CLAとが化学反応してCLA酸化物が生成される際に発生する光であり、その強度がスーパーオキサイド産生量を表すものであって、波長が380nmである。また、ラマン散乱光は、各試料セル中の溶媒への励起光照射に伴うラマン散乱現象に因り生じた光であって、その波長が530nm付近である。蛍光およびラマン散乱光それぞれの波長は互いに近いので、直ちに両者を分離することができない。
【0036】
光検出部12,22,32,42それぞれから出力された信号は、制御部50に入力されて以下のように処理される。まず、励起光照射時に光検出部12,22,32それぞれから出力された信号値は、光検出部42から出力された信号値を減算され、これにより、ラマン散乱光成分が除去された値となる。光検出部12,22,32それぞれから出力された信号値の当該減算結果は、励起光の照射時には蛍光および化学発光の強度を表し、励起光の非照射時には化学発光の強度を表すので、前者から後者を減算した結果が蛍光の強度を表すものとなる。このように、光検出部12,22,32それぞれの中の試料で発生する光のうち蛍光および化学発光それぞれの強度が別個に且つ高精度に測定され得る。
【0037】
以上のように励起光照射、ラマン散乱光成分除去、化学発光強度検出および蛍光強度検出を行いながら、注入部15,25,35により刺激薬が試料(好中球様細胞)へ滴下される。刺激薬として例えば好中球遊走性ペプチドfMLP(formyl-methionyl-leucyl-phenylalanine)が用いられる。そして、制御部50により、試料への刺激薬の滴下、化学発光強度(スーパーオキサイド産生量)および蛍光強度(細胞内カルシウム濃度)の間の因果関係や時間的関係が実時間で解析され、その解析結果が表示部60により実時間で表示される。
【0038】
図8は、蛍光指示薬(フルオレセイン)濃度と検出光強度との関係を示すグラフである。このグラフで、実線は、上述したような方法でラマン散乱光成分を除去した実施例の場合を示し、破線は、ラマン散乱光成分を除去しない比較例の場合を示す。比較例(破線)では、ラマン散乱光の影響に因り検出光強度(蛍光強度+ラマン散乱光強度)が蛍光指示薬濃度に比例していないが、これに対して、実施例(実線)では、ラマン散乱光成分が除去されているので、蛍光指示薬濃度10−11mol/Lの領域まで検出光強度(蛍光強度)が蛍光指示薬濃度に比例している。このことから、本実施形態に係る発光測定装置1を用いてラマン散乱光成分を除去することにより、より低濃度の蛍光試薬を高精度に測定することができることが判る。
【0039】
本実施形態に係る発光測定装置1は、4つのユニット10,20,30,40を備えていることにより、上述したような効果を奏することができるだけでなく、以下のような効果をも奏することができる。すなわち、同じ細胞集団が試料として用いられたとしても、時間の経過とともに細胞の活性が低下するので、1つずつ測定したのでは、細胞の活性の低下が薬剤・食品成分および時間経過の何れに因るものであるのか区別することができない。これに対して、本実施形態では、同じ細胞集団が試料として試料セル19,29,39に容れられ、リファレンス試料が試料セル49に容れられて、これらが同時に測定され得るので、免疫活性等を定量する上で非常に有効である。また、2種類の試料それぞれの蛍光および化学発光の双方または何れか一方を測定することができるので、これら2種類の試料の相互関係や作用機序を解明する上でも有効である。
【0040】
さらに、本実施形態に係る発光測定装置1は、化学発光物質や化学発光物質を使ったアッセイにおいても、効果を奏することができる。すなわち、化学発光物質は経時的に不安定なものが多いため、測定時刻が異なる場合、化学物質の経時変化により複数の試料間の微細な差を測定することは難しい。これに対して、本実施形態に係る発光測定装置1は、4つのユニット10,20,30,40を備えていることにより、全く同時に複数の試料を測定できるので、試料間の微細な差を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施形態に係る発光測定装置1の構成図である。
【図2】本実施形態に係る発光測定装置1に含まれる第1ユニット10の構成図である。
【図3】第1試料セル19の斜視図である。
【図4】第1励起部11の構成を示す一部断面図である。
【図5】第1検出部12の構成を示す一部断面図である。
【図6】本実施形態に係る発光測定装置1の斜視図である。
【図7】本実施形態に係る発光測定装置1の斜視図である。
【図8】蛍光指示薬(フルオレセイン)濃度と検出光強度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1…発光測定装置、2…基盤、3…上蓋、10…第1ユニット、11…第1励起部、12…第1検出部、13…第1攪拌部、14…第1温調部、15…第1注入部、19…第1試料セル、20…第2ユニット、21…第2励起部、22…第2検出部、25…第2注入部、29…第2試料セル、30…第3ユニット、31…第3励起部、32…第3検出部、35…第3注入部、39…第3試料セル、40…第4ユニット、41…第4励起部、42…第4検出部、45…第4注入部、49…第4試料セル、50…制御部、60…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1試料セル中の試料に励起光を照射する第1励起部と、
前記第1試料セル中の試料で発生した光を検出する第1検出部と、
前記第1試料セル中に試薬を注入する第1注入部と、
第2試料セル中の試料に励起光を照射する第2励起部と、
前記第2試料セル中の試料で発生した光を検出する第2検出部と、
前記第2試料セル中に試薬を注入する第2注入部と、
第3試料セル中の試料に励起光を照射する第3励起部と、
前記第3試料セル中の試料で発生した光を検出する第3検出部と、
前記第3試料セル中に試薬を注入する第3注入部と、
第4試料セル中の試料に励起光を照射する第4励起部と、
前記第4試料セル中の試料で発生した光を検出する第4検出部と、
前記第4試料セル中に試薬を注入する第4注入部と、
前記第1検出部,前記第2検出部,前記第3検出部および前記第4検出部のうち何れか2以上の検出部が同時に光を検出するよう制御を行う制御部と、
を備え、
前記第1励起部,前記第2励起部,前記第3励起部および前記第4励起部それぞれの光学系が互いに同等の構成を有し、
前記第1検出部,前記第2検出部,前記第3検出部および前記第4検出部それぞれの光学系が互いに同等の構成を有し、
前記第1励起部,前記第2励起部,前記第3励起部,前記第4励起部,前記第1検出部,前記第2検出部,前記第3検出部および前記第4検出部が、前記第1試料セル,前記第2試料セル,前記第3試料セルおよび前記第4試料セルの周囲に配置され、
前記第1試料セル中において前記第1励起部および前記第1検出部それぞれの光学系の光軸が互いに直交し、
前記第2試料セル中において前記第2励起部および前記第2検出部それぞれの光学系の光軸が互いに直交し、
前記第3試料セル中において前記第3励起部および前記第3検出部それぞれの光学系の光軸が互いに直交し、
前記第4試料セル中において前記第4励起部および前記第4検出部それぞれの光学系の光軸が互いに直交し、
前記第1励起部,前記第2励起部,前記第3励起部,前記第4励起部,前記第1検出部,前記第2検出部,前記第3検出部および前記第4検出部それぞれの光学系の光軸が、互いに直交する第1方向および第2方向の何れかに平行である、
ことを特徴とする発光測定装置。
【請求項2】
前記第1試料セル中の試料を攪拌する第1攪拌部と、前記第2試料セル中の試料を攪拌する第2攪拌部と、前記第3試料セル中の試料を攪拌する第3攪拌部と、前記第4試料セル中の試料を攪拌する第4攪拌部と、を更に備えることを特徴とする請求項1記載の発光測定装置。
【請求項3】
前記第1検出部,前記第2検出部,前記第3検出部および前記第4検出部それぞれによる光検出の状況を実時間で表示する表示部を更に備えることを特徴とする請求項1記載の発光測定装置。
【請求項4】
前記制御部が、前記第1検出部,前記第2検出部,前記第3検出部および前記第4検出部のうち何れかの検出部による光検出結果から他の何れかの検出部による光検出結果を減算することを特徴とする請求項1記載の発光測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−266938(P2006−266938A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86939(P2005−86939)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構生物系特定産業技術研究支援センター、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】