説明

発光素子、発光装置、表示装置および電子機器

【課題】長寿命化を図ることができる発光素子、かかる発光素子を備えた発光装置、表示装置および電子機器を提供すること。
【解決手段】発光素子1は、陽極3と、陰極9と、陽極3と陰極9との間に設けられ、陽極3と陰極9との間に通電することにより発光する発光層6と、発光層6と陰極9との間に設けられ、アミン系化合物を含んで構成された電子輸送層7とを有する。また、発光素子1は、電子輸送層7と発光層6との間にこれらの両層に接して設けられ、電子注入性を有する電子注入中間層11を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、発光装置、表示装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(いわゆる有機EL素子)は、陽極と陰極との間に発光層として少なくとも1層の発光性有機層を介挿した構造を有する発光素子である。このような発光素子では、陰極と陽極との間に電界を印加することにより、発光層に陰極側から電子が注入されるとともに陽極側から正孔が注入され、発光層中で電子と正孔が再結合することにより励起子が生成し、この励起子が基底状態に戻る際に、そのエネルギー分が光として放出される。
【0003】
このような発光素子では、一般に、電子の輸送性を向上させるために、陰極と発光層との間に、電子輸送層が設けられている(例えば、特許文献1参照)。
従来、このような電子輸送層の構成材料としては、電子輸送性に優れるという観点から、Alq、フェナンスロリン誘導体(BCP)、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体等の電子輸送性材料が用いられる。
【0004】
しかし、このような電子輸送性材料は、正孔輸送性が低いため、電子輸送層の構成材料として用いると、陽極からの正孔を電子輸送層の陽極側の面付近に大量に滞留させてしまう。また、このような電子輸送性材料は、正孔に対する耐性が低い。このようなことから、従来では、電子輸送層中の電子輸送性材料が正孔により酸化(劣化)してしまい、発光素子の寿命低下を招くという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−280576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、長寿命化を図ることができる発光素子、かかる発光素子を備えた発光装置、表示装置および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の発光素子は、陽極と、
陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に設けられ、前記陽極と前記陰極との間に通電することにより発光する発光層と、
前記発光層と前記陰極との間に設けられ、アミン系化合物を含んで構成された電子輸送層とを有することを特徴とする。
このように構成された発光素子によれば、電子輸送層がアミン系化合物を含んで構成されているので、正孔を電子輸送層の陽極側の面付近に滞留させずに電子輸送層の陽極側から陰極側へ通過させることができる。そのため、電子輸送層の正孔による劣化を防止することができる。その結果、発光素子の長寿命化を図ることができる。
【0008】
本発明の発光素子では、前記電子輸送層と前記発光層との間にこれらの両層に接して設けられ、電子注入性を有する電子注入中間層を有することが好ましい。
これにより、電子輸送層が電子輸送性に乏しいアミン系化合物を含んで構成されていても、電子輸送層から発光層への電子注入性を優れたものとすることができる。そのため、発光素子の発光効率を優れたものとすることができる。
【0009】
本発明の発光素子では、前記電子注入中間層は、金属化合物で構成されていることが好ましい。
これにより、電子注入中間層の耐久性を優れたものとすることができる。
本発明の発光素子では、前記金属化合物は、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物であることが好ましい。
これにより、電子注入中間層の電子注入性を優れたものとすることができる。その結果、発光素子の発光効率を高めることができる。
【0010】
本発明の発光素子では、前記電子輸送層と前記陰極との間に設けられ、電子注入性を有する電子注入層を有することが好ましい。
これにより、陰極から電子輸送層への電子注入性を優れたものとすることができる。
本発明の発光素子では、前記電子注入層は、前記電子注入中間層と同じ材料で構成されていることが好ましい。
これにより、発光素子の製造に必要な材料の種類を少なくすることができる。その結果、発光素子の低コスト化を図ることができる。
【0011】
本発明の発光素子では、前記アミン系化合物は、トリフェニルアミン誘導体であることが好ましい。
トリフェニルアミン誘導体はガラス転移温度が比較的高い。そのため、高温環境下や、発光素子の駆動に伴って生じる熱に対する発光素子の耐性を優れたものとすることができる。その結果、発光素子をさらに長寿命なものとすることができる。
【0012】
本発明の発光素子では、前記発光層と前記陽極との間に設けられ、正孔輸送性を有する正孔輸送層を有することが好ましい。
これにより、陽極から発光素子への正孔の輸送性を優れたものとすることができる。その結果、発光素子の発光効率を高めることができる。
本発明の発光素子では、前記正孔輸送層は、前記電子輸送層と同じ材料で構成されていることが好ましい。
これにより、発光素子の製造に必要な材料の種類を少なくすることができる。その結果、発光素子の低コスト化を図ることができる。
【0013】
本発明の発光素子では、前記電子注入中間層の平均厚さは、0.01nm以上100nm以下であることが好ましい。
これにより、電子注入中間層の電子注入性を優れたものとするとともに、発光素子の駆動電圧を抑えることができる。
本発明の発光装置は、本発明の発光素子を備えることを特徴とする。
このような発光装置によれば、高発光効率および長寿命な発光素子を備えるので、信頼性に優れる。
【0014】
本発明の表示装置は、本発明の発光素子を備えることを特徴とする。
このような表示装置によれば、高発光効率および長寿命な発光素子を備えるので、信頼性に優れる。
本発明の電子機器は、本発明の発光素子を備えることを特徴とする。
このような電子機器によれば、高発光効率および長寿命な発光素子を備えるので、信頼性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る発光素子を模式的に示す断面図である。
【図2】電子注入中間層の有無による電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
【図4】本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の発光素子、発光装置、表示装置および電子機器を添付図面に示す好適な実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る発光素子を模式的に示す断面図である。なお、以下では、説明の便宜上、図1中の上側を「上」、下側を「下」として説明を行う。
図1に示す発光素子(エレクトロルミネッセンス素子)1は、陽極3と正孔注入層4と正孔輸送層5と発光層6と電子注入中間層11と電子輸送層7と電子注入層8と陰極9とがこの順に積層されてなるものである。すなわち、発光素子1では、陽極3と陰極9との間に、陽極3側から陰極9側へ正孔注入層4と正孔輸送層5と発光層6と電子注入中間層11と電子輸送層7と電子注入層8とがこの順で積層された積層体14が介挿されている。
そして、発光素子1は、その全体が基板2上に設けられるとともに、封止部材10で封止されている。
【0017】
このような発光素子1にあっては、陽極3および陰極9に駆動電圧が印加されることにより、発光層6に対し、それぞれ、陰極9側から電子が供給(注入)されるとともに、陽極3側から正孔が供給(注入)される。そして、発光層6では、正孔と電子とが再結合し、この再結合に際して放出されたエネルギーによりエキシトン(励起子)が生成し、エキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出(発光)する。これにより、発光素子1は、発光する。
【0018】
基板2は、陽極3を支持するものである。本実施形態の発光素子1は、基板2側から光を取り出す構成(ボトムエミッション型)であるため、基板2および陽極3は、それぞれ、実質的に透明(無色透明、着色透明または半透明)とされている。
基板2の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料や、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
このような基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜30mm程度であるのが好ましく、0.1〜10mm程度であるのがより好ましい。
なお、発光素子1が基板2と反対側から光を取り出す構成(トップエミッション型)の場合、基板2には、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。
不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料で構成された基板、ステンレス鋼のような金属基板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成したもの、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
また、このような発光素子1では、陽極3と陰極9との間の距離(すなわち積層体14の平均厚さ)は、取出す光の波長に応じて決められるものであり、特に限定されないが、150〜300nmであるのが好ましく、150〜250nmであるのがより好ましく、160〜200nmであるのがさらに好ましい。
【0020】
以下、発光素子1を構成する各部を順次説明する。
[陽極]
陽極3は、後述する正孔注入層4を介して正孔輸送層5に正孔を注入する電極である。この陽極3の構成材料としては、特に限定されないが、仕事関数が大きく、導電性に優れる材料を用いるのが好ましい。
【0021】
陽極3の構成材料としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、In、SnO、フッ素添加SnO、Sb添加SnO、ZnO、Al添加ZnO、Ga添加ZnO等の金属酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
特に、陽極3は、ITOで構成されているのが好ましい。ITOは、透明性を有するとともに、仕事関数が大きく、導電性に優れる材料である。これにより、陽極3から正孔注入層4へ効率的に正孔を注入することができる。
また、陽極3の正孔注入層4側の面(図1にて上面)は、プラズマ処理が施されているのが好ましい。これにより、陽極3と正孔注入層4との接合面の化学的および機械的な安定性を高めることができる。その結果、陽極3から正孔注入層4への正孔注入性を向上させることができる。なお、かかるプラズマ処理については、後述する発光素子1の製造方法の説明において詳述する。
このような陽極3の平均厚さは、特に限定されないが、10〜200nm程度であるのが好ましく、50〜150nm程度であるのがより好ましい。
【0023】
[陰極]
一方、陰極9は、後述する電子注入層8を介して電子輸送層7に電子を注入する電極である。この陰極9の構成材料としては、仕事関数の小さい材料を用いるのが好ましい。
陰極9の構成材料としては、例えば、Li、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb、Ag、Cu、Al、Cs、Rb、Auまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば、複数層の積層体、複数種の混合層等として)用いることができる。
【0024】
特に、陰極9の構成材料として合金を用いる場合には、Ag、Al、Cu等の安定な金属元素を含む合金、具体的には、MgAg、AlLi、CuLi等の合金を用いるのが好ましい。かかる合金を陰極9の構成材料として用いることにより、陰極9の電子注入効率および安定性の向上を図ることができる。
このような陰極9の平均厚さは、特に限定されないが、100〜10000nm程度であるのが好ましく、100〜500nm程度であるのがより好ましい。
なお、本実施形態の発光素子1は、ボトムエミッション型であるため、陰極9に、光透過性は、特に要求されない。
【0025】
[正孔注入層]
正孔注入層4は、陽極3からの正孔注入効率を向上させる機能を有する(すなわち正孔注入性を有する)ものである。
このように陽極3と後述する正孔輸送層5との間に正孔注入層4を設けることにより、陽極3からの正孔性を向上させ、その結果、発光素子1の発光効率を高めることができる。
この正孔注入層4は、正孔注入性を有する材料(すなわち正孔注入性材料)を含んでいる。
【0026】
この正孔注入層4に含まれる正孔注入材料としては、特に限定されないが、例えば、導電性高分子材料(または導電性オリゴマー材料)に電子受容性ドーパントを添加したイオン伝導性正孔注入材料、銅フタロシアニンや、4,4’,4’’−トリス(N,N−フェニル−3−メチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、N,N’−ビス−(4−ジフェニルアミノ−フェニル)−N, N’−ジフェニル−ビフェニル−4−4’−ジアミン等が挙げられるが、液相プロセスを用いて成膜し得ることから、イオン伝導性正孔注入材料が好適に用いられる。
【0027】
このようなイオン伝導性正孔注入材料としては、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)のようなポリチオフォン系正孔注入材料や、ポリアニリン−ポリ(スチレンスルホン酸)(PANI/PSS)のようなポリアニリン系正孔注入材料が使用できる。
このような正孔注入層4の平均厚さは、特に限定されないが、5〜90nm程度であるのが好ましく、10〜70nm程度であるのがより好ましい。
なお、正孔注入層4は、陽極3および正孔輸送層5の構成材料によっては、省略してもよい。
【0028】
(正孔輸送層)
正孔輸送層5は、陽極3から正孔注入層4を介して注入された正孔を発光層6まで輸送する機能を有する(すなわち正孔輸送性を有する)ものである。
このように陽極3と発光層6との間に正孔輸送層5が設けられていることにより、陽極3からの正孔を発光層6へ効率的に輸送することができる。その結果、発光素子1の発光効率を高めることができる。
【0029】
この正孔輸送層5は、正孔輸送性を有する材料(すなわち正孔輸送性材料)を含んで構成されている。
この正孔輸送層5に含まれる正孔輸送性材料には、各種p型の高分子材料や、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができ、例えば、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)等のテトラアリールベンジジン誘導体、テトラアリールジアミノフルオレン化合物またはその誘導体(アミン系化合物)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような正孔輸送層5の平均厚さは、特に限定されないが、5〜90nm程度であるのが好ましく、10〜70nm程度であるのがより好ましい。
なお、この正孔輸送層5は、正孔注入層4の構成材料によっては、省略することができる。
【0030】
(発光層)
この発光層6は、前述した陽極3と陰極9との間に通電することにより、発光するものである。
このような発光層6は、発光材料を含んで構成されている。
このような発光材料としては、特に限定されず、各種蛍光材料、各種燐光材料を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0031】
赤色の蛍光を発する蛍光材料としては、特に限定されず、例えば、下記式(1)で表わされる化合物等の高分子量材料、テトラアリールジインデノペリレン誘導体等のペリレン誘導体、ユーロピウム錯体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、ポルフィリン誘導体、ナイルレッド、2−(1,1−ジメチルエチル)−6−(2−(2,3,6,7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル−1H,5H−ベンゾ(ij)キノリジン−9−イル)エテニル)−4H−ピラン−4H−イリデン)プロパンジニトリル(DCJTB)、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)等を挙げられる。
【0032】
【化1】

【0033】
赤色の燐光を発する燐光材料としては、特に限定されず、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられ、これら金属錯体の配位子の内の少なくとも1つがフェニルピリジン骨格、ビピリジル骨格、ポルフィリン骨格等を持つものも挙げられる。より具体的には、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジネート−N,C’]イリジウム(アセチルアセトネート)(btp2Ir(acac))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−12H,23H−ポルフィリン−白金(II)、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジネート−N,C’]イリジウム、ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(アセチルアセトネート)が挙げられる。
【0034】
青色の蛍光を発する蛍光材料としては、特に限定されず、例えば、ジスチリルジアミン系化合物等のジスチリルアミン誘導体、モノスチリルジアミン誘導体、フルオランテン誘導体、ピレン誘導体、ペリレンおよびペリレン誘導体、アントラセン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、クリセン誘導体、フェナントレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、テトラフェニルブタジエン、4,4’−ビス(9−エチル−3−カルバゾビニレン)−1,1’−ビフェニル(BCzVBi)等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0035】
青色の燐光を発する燐光材料としては、特に限定されず、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられる。より具体的には、ビス[4,6−ジフルオロフェニルピリジネート−N,C’]−ピコリネート−イリジウム、トリス[2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジネート−N,C’]イリジウム、ビス[2−(3,5−トリフルオロメチル)ピリジネート−N,C’]−ピコリネート−イリジウム、ビス(4,6−ジフルオロフェニルピリジネート−N,C’)イリジウム(アセチルアセトネート)が挙げられる。
【0036】
緑色の蛍光を発する蛍光材料としては、特に限定されず、例えば、下記式(2)で表わされる化合物等の高分子量材料、クマリン誘導体、キナクリドン誘導体等のキナクリドンおよびその誘導体、9,10−ビス[(9−エチル−3−カルバゾール)−ビニレニル]−アントラセン等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0037】
【化2】

【0038】
緑色の燐光を発する燐光材料としては、特に限定されず、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられる。中でも、これら金属錯体の配位子の内の少なくとも1つが、フェニルピリジン骨格、ビピリジル骨格、ポルフィリン骨格等を持つものが好ましい。より具体的には、ファク−トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))、ビス(2−フェニルピリジネート−N,C’)イリジウム(アセチルアセトネート)、ファク−トリス[5−フルオロ−2−(5−トリフルオロメチル−2−ピリジン)フェニル−C,N]イリジウムが挙げられる。
【0039】
黄色の蛍光を発する蛍光材料としては、例えば、ルブレン系材料等のナフタセン骨格を有する化合物であって、ナフタセンにアリール基(好ましくはフェニル基)が任意の位置で任意の数(好ましくは2〜6)置換された化合物、モノインデノペリレン誘導体等を用いることができる。
このような発光材料(蛍光材料や燐光材料)は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の発光材料を組み合わせて用いる場合、発光層6は、含まれる発光材料が互い異なる複数の層(発光層)を積層した積層体の形態としてもよいし、複数種の発光材料を混合した混合材料で構成された層の形態としてもよい。なお、発光層6が複数の発光層で構成されている場合、発光層同士の間に発光に寄与しない層(中間層)が介在していてもよい。
【0040】
また、発光材料としては、低分子量材料であっても、高分子量材料であってもよいが、液相プロセスを用いて成膜し得るものを用いるもの、すなわち、溶媒に溶解または分散媒に分散し得るもの、具体的には、例えば、前述した式(1)および(2)で表わされる化合物等の高分子量材料を用いるのが好ましい。
また、発光層6の構成材料としては、前述したような発光材料に加えて、この発光材料がゲスト材料(ドーパント)として添加(担持)されるホスト材料を用いてもよい。このホスト材料は、正孔と電子とを再結合して励起子を生成するとともに、その励起子のエネルギーを発光材料に移動(フェルスター移動またはデクスター移動)させて、発光材料を励起する機能を有する。このようなホスト材料は、例えば、ゲスト材料である発光材料をドーパントとしてホスト材料にドープして用いることができる。
【0041】
このようなホスト材料としては、用いる発光材料に対して前述したような機能を発揮するものであれば、特に限定されないが、発光材料が蛍光材料を含む場合、例えば、ジスチリルアリーレン誘導体、ナフタセン誘導体、2−t−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(TBADN)等のアントラセン誘導体、ペリレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアミン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)等のキノリノラト系金属錯体、トリフェニルアミンの4量体等のトリアリールアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ルブレンおよびその誘導体、シロール誘導体、ジカルバゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ベンゾピラン誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、キノリン誘導体、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0042】
発光層6がホスト材料を含む場合、発光層6中における発光材料の含有量(ドープ量)は、0.01〜10wt%であるのが好ましく、0.1〜5wt%であるのがより好ましい。発光材料の含有量をこのような範囲内とすることで、発光効率を最適化することができる。
また、発光層6の平均厚さは、特に限定されないが、1〜60nm程度であるのが好ましく、3〜50nm程度であるのがより好ましい。
【0043】
(電子注入中間層)
電子注入中間層11は、電子輸送層7と発光層6との間にこれらの両層に接して設けられ、電子注入性を有する。このような電子注入中間層11を設けることにより、後述するように電子輸送層7が電子輸送性に乏しいアミン系化合物を含んで構成されていても、電子輸送層7から発光層6への電子注入性を優れたものとすることができる。これは、電子注入中間層11の構成材料が電子輸送層7に拡散することにより、電子輸送層7に電子輸送性が発現することによるものと考えられる。
【0044】
図2に、CsCOで構成された電子注入中間層を用いた発光素子の電流−電圧特性を示す。
電子輸送層7と発光層6との間にこれらの両層に接して電子注入中間層11が設けられている場合(図2中のCsCO有り)、電子注入中間層11が無い場合(図2中のCsCO無し)に比し、発光素子1の電流密度に対する駆動電圧が低く抑えられる(すなわち発光効率を向上させることができる)。
この電子注入中間層11の構成材料(電子注入性材料)としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属塩(酸化物、フッ化物、塩化物等)、アルカリ土類金属塩(酸化物、フッ化物、塩化物等)、希土類金属塩(酸化物、フッ化物、塩化物等)を用いることができる。
【0045】
アルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられる。また、アルカリ土類金属としては、例えば、Mg、Ca、Sr、Baが挙げられる。さらに、希土類金属としては、例えば、Nd、Sm、Y、Tb、Euが挙げられる。
アルカリ金属塩としては、例えば、LiF、LiCO、LiCl、NaF、NaCO、NaCl、CsF、CsCO、CsClが挙げられる。また、アルカリ土類金属塩としては、例えば、CaF、CaCO、SrF、SrCO、BaF、BaCOが挙げられる。さらに、希土類金属塩としては、例えば、SmF、ErFが挙げられる。
【0046】
中でも、電子注入中間層11は、アルカリ金属塩(アルカリ金属化合物)、アルカリ土類金属塩(アルカリ土類金属化合物)、希土類金属塩等の金属化合物で構成されているのが好ましい。これにより、電子注入中間層11の耐久性を優れたものとすることができる。
特に、電子注入中間層11を構成する金属化合物は、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物であるのが好ましい。これにより、電子中注入中間層11の電子注入性を優れたものとすることができる。その結果、発光素子1の発光効率を高めることができる。
【0047】
また、電子注入中間層11の構成材料は、後述する電子注入層8の構成材料と同じであるのが好ましい。これにより、発光素子1の製造に必要な材料の種類を少なくすることができる。その結果、発光素子1の低コスト化を図ることができる。
電子注入中間層11の平均厚さは、特に限定されないが、0.01〜100nm程度であるのが好ましく、0.1〜10nm程度であるのがより好ましい。これにより、電子注入中間層の電子注入性を優れたものとするとともに、発光層からの正孔を電子注入層を介して電子輸送層へ輸送することができる。
これに対し、かかる平均厚さが薄すぎると、電子注入中間層11の電子注入性が低下する傾向を示す。一方、かかる平均厚さが厚すぎると、発光素子の1の駆動電圧を抑えることができる。
【0048】
(電子輸送層)
電子輸送層7は、陰極9から電子注入層8を介して注入された電子を電子注入中間層11に輸送する機能を有するものである。
特に、電子輸送層7は、アミン系化合物を含んで構成されている。このようにアミン系化合物を含んで構成された電子輸送層7が発光層6と陰極9との間に設けられていると、発光層6の発光で消費しきれなかった正孔を電子輸送層7の陽極3側の面付近に滞留させずに電子輸送層7の陽極3側から陰極9側へ通過させることができる。そのため、電子輸送層7の正孔による劣化を防止することができる。その結果、発光素子1の長寿命化を図ることができる。
【0049】
このような電子輸送層7に含まれるアミン系化合物としては、例えば、下記式(3)および(4)で表わされる化合物、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)等のテトラアリールベンジジン誘導体、下記式(5)で表わされる化合物のようなスターバースト型等のトリフェニルアミン誘導体、テトラアリールジアミノフルオレン化合物またはその誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
【化3】

【0051】
【化4】

【0052】
【化5】

【0053】
中でも、電子輸送層7に含まれるアミン系化合物は、トリフェニルアミン誘導体であるのが好ましい。トリフェニルアミン誘導体はガラス転移温度が比較的高い。そのため、電子輸送層7がトリフェニルアミン誘導体を含んで構成されることにより、高温環境下や、発光素子1の駆動に伴って生じる熱に対する発光素子1の耐性を優れたものとすることができる。その結果、発光素子1をさらに長寿命なものとすることができる。
【0054】
特に、スターバースト型のトリフェニルアミン誘導体は、アモルファス性を有するので、比較的簡単に、均質な膜質で成膜することができ、また、結晶化が起きにくい。そのため、このようなトリフェニルアミン誘導体を用いて電子輸送層7を形成することにより、優れた特性を有する電子輸送層7を比較的簡単に得ることができる。
また、電子輸送層7の構成材料は、前述した正孔輸送層5の構成材料と同じであるのが好ましい。これにより、発光素子1の製造に必要な材料の種類を少なくすることができる。その結果、発光素子1の低コスト化を図ることができる。
【0055】
また、電子輸送層7は、前述したようなアミン系化合物のうち2種以上を組み合わせて用いる場合、2種以上のアミン系化合物を混合した混合材料で構成されていてもよいし、異なるアミン系化合物で構成された複数の層を積層して構成されていてもよい。
また、電子輸送層7には、前述したようなアミン系化合物以外の材料が含まれていてもよい。例えば、電子輸送層7には、電子輸送性材料が含まれていてもよい。かかる電子輸送性材料としては、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体などのキノリン誘導体、アザインドリジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
また、電子輸送層7中におけるアミン系化合物の含有量は、80wt%以上100wt%以下であるのが好ましく、90wt%以上100wt%以下であるのがより好ましく、95wt%以上100wt%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、電子輸送層7の正孔輸送性を優れたものとすることができる。これに対し、かかる含有量が少なすぎると、電子輸送層7の十分な正孔輸送性が得られず、電子輸送層7が劣化しやすくなる傾向を示す。
電子輸送層7の平均厚さは、特に限定されないが、0.5〜100nm程度であるのが好ましく、1〜50nm程度であるのがより好ましい。
【0057】
(電子注入層)
電子注入層8は、陰極9からの電子注入効率を向上させる機能を有する(電子注入性を有する)ものである。
このように電子注入層8が電子輸送層7と陰極9との間に設けられていることにより、陰極9から電子輸送層7への電子注入性を優れたものとすることができる。
【0058】
この電子注入層8の構成材料(電子注入材料)としては、例えば、各種の無機絶縁材料、各種の無機半導体材料が挙げられる。
このような無機絶縁材料としては、例えば、アルカリ金属カルコゲナイド(酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物)、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらを主材料として電子注入層8を構成することにより、電子注入性をより向上させることができる。特にアルカリ金属化合物(アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物等)は仕事関数が非常に小さく、これを用いて電子注入層8を構成することにより、発光素子1は、高い輝度が得られるものとなる。
【0059】
アルカリ金属カルコゲナイドとしては、例えば、LiO、LiO、NaS、NaSe、NaO等が挙げられる。
アルカリ土類金属カルコゲナイドとしては、例えば、CaO、BaO、SrO、BeO、BaS、MgO、CaSe等が挙げられる。
アルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、CsF、LiF、NaF、KF、LiCl、KCl、NaCl等が挙げられる。
アルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaF、BaF、SrF、MgF、BeF等が挙げられる。
【0060】
また、無機半導体材料としては、例えば、Li、Na、Ba、Ca、Sr、Yb、Al、Ga、In、Cd、Mg、Si、Ta、SbおよびZnのうちの少なくとも1つの元素を含む酸化物、窒化物または酸化窒化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
電子注入層8は、前述した電子注入中間層11と同じ材料で構成されているのが好ましい。これにより、発光素子1の製造に必要な材料の種類を少なくすることができる。その結果、発光素子1の低コスト化を図ることができる。
電子注入層8の平均厚さは、特に限定されないが、0.01〜100nm程度であるのが好ましく、0.1〜10nm程度であるのがより好ましい。
【0061】
(封止部材)
封止部材10は、陽極3、積層体14、および陰極9を覆うように設けられ、これらを気密的に封止し、酸素や水分を遮断する機能を有する。封止部材10を設けることにより、発光素子1の信頼性の向上や、変質・劣化の防止(耐久性向上)等の効果が得られる。
封止部材10の構成材料としては、例えば、Al、Au、Cr、Nb、Ta、Tiまたはこれらを含む合金、酸化シリコン、各種樹脂材料等を挙げることができる。なお、封止部材10の構成材料として導電性を有する材料を用いる場合には、短絡を防止するために、封止部材10と陽極3、積層体14および陰極9との間には、必要に応じて、絶縁膜を設けるのが好ましい。
【0062】
また、封止部材10は、平板状として、基板2と対向させ、これらの間を、例えば熱硬化性樹脂等のシール材で封止するようにしてもよい。
以上のように構成された発光素子1によれば、発光層6と陰極9との間に設けられた電子輸送層7がアミン系化合物を含んで構成されているので、正孔を電子輸送層7の陽極3側の面付近に滞留させずに電子輸送層7の陽極3側から陰極9側へ通過させることができる。そのため、電子輸送層7の正孔による劣化を防止することができる。その結果、発光素子1の長寿命化を図ることができる。
【0063】
また、発光素子1では、電子輸送層7と発光層6との間にこれらの両層に接して設けられた電子注入中間層11が電子注入性を有しているので、電子輸送層7が電子輸送性に乏しいアミン系化合物を含んで構成されていても、電子輸送層7から発光層6への電子注入性を優れたものとすることができる。そのため、発光素子1の発光効率を優れたものとすることができる。
以上のような発光素子1は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0064】
[1] まず、基板2を用意し、この基板2上に陽極3を形成する。
陽極3は、例えば、プラズマCVD、熱CVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着等の乾式メッキ法、電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、導体箔の接合等を用いて形成することができる。
[2] 次に、陽極3上に正孔注入層4を形成する。
正孔注入層4は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
【0065】
また、正孔注入層4は、例えば、正孔注入材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる正孔注入層形成用材料を、陽極3上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)すること(すなわち液相プロセス)によっても形成することができる。
正孔注入層形成用材料の供給方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることもできる。かかる塗布法を用いることにより、正孔注入層4を比較的容易に形成することができる。
【0066】
正孔注入層形成用材料の調製に用いる溶媒または分散媒としては、例えば、各種無機溶媒や、各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
なお、乾燥は、例えば、大気圧または減圧雰囲気中での放置、加熱処理、不活性ガスの吹付け等により行うことができる。
また、本工程に先立って、陽極3の上面には、酸素プラズマ処理を施すようにしてもよい。これにより、陽極3の上面を親液性を付与すること、陽極3の上面に付着する有機物を除去(洗浄)すること、陽極3の上面付近の仕事関数を調整すること等を行うことができる。
ここで、酸素プラズマ処理の条件としては、例えば、プラズマパワー100〜800W程度、酸素ガス流量50〜100mL/min程度、被処理部材(陽極3)の搬送速度0.5〜10mm/sec程度、基板2の温度70〜90℃程度とするのが好ましい。
【0067】
[3] 次に、正孔注入層4上に正孔輸送層5を形成する。
正孔輸送層5は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
また、正孔輸送材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる正孔輸送層形成用材料を、正孔注入層4上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)すること(すなわち液相プロセス)によっても形成することができる。
【0068】
[4] 次に、正孔輸送層5上に、発光層6を形成する。
発光層6は、例えば、真空蒸着等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
また、発光層6の構成材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる発光層形成用材料を、正孔輸送層5上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)すること(すなわち液相プロセス)によっても形成することができる。
【0069】
[5] 次に、発光層6上に、電子注入中間層11を形成する。
電子注入中間層11の構成材料として無機材料を用いる場合、電子注入中間層11は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセス、無機微粒子インクの塗布および焼成等を用いて形成することができる。
[6] 次に、電子注入中間層11上に、電子輸送層7を形成する。
電子輸送層7は、例えば、真空蒸着等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成するのが好ましい。
なお、電子輸送層7は、例えば、電子輸送材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる電子輸送層形成用材料を、電子注入中間層11上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)することによっても形成することができる。
【0070】
[7] 次に、電子輸送層7上に、電子注入層8を形成する。
電子注入層8の構成材料として無機材料を用いる場合、電子注入層8は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセス、無機微粒子インクの塗布および焼成等を用いて形成することができる。
[8] 次に、電子注入層8上に、陰極9を形成する。
陰極9は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、金属箔の接合、金属微粒子インクの塗布および焼成等を用いて形成することができる。
以上のような工程を経て、発光素子1が得られる。
最後に、得られた発光素子1を覆うように封止部材10を被せ、基板2に接合する。
【0071】
以上説明したような発光素子1は、それぞれ、例えば、電子写真方式を採用するプリンター、複写機、ファクシミリ装置等の露光用ヘッドの光源、センサー用の光源、照明、ピコプロジェクター(ハンディプロジェクター)用の光源、スキャナー用の光源、反射型液晶表示装置のフロントライト用の光源等の発光装置として使用することができる。このような発光装置は、高発光効率および長寿命な発光素子を備えるので、信頼性に優れる。
【0072】
また、複数の発光素子をマトリックス状に配置することにより、例えば、ディスプレイ装置(本発明の表示装置)を構成することができる。このような表示装置は、高発光効率および長寿命な発光素子を備えるので、長期に亘り高品位な画像を表示し得るとともに、信頼性に優れる。
なお、ディスプレイ装置の駆動方式としては、特に限定されず、アクティブマトリックス方式、パッシブマトリックス方式のいずれであってもよい。
また、本発明の発光素子、光源装置または表示装置を備える電子機器は、信頼性に優れる。
【0073】
(表示装置)
次に、本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の一例について説明する。
図3は、本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
図3に示すディスプレイ装置100は、基板21と、サブ画素100R、100G、100Bに対応して設けられた複数の発光素子1R、1G、1Bおよび複数の駆動用トランジスタ24とを有している。
【0074】
なお、本実施形態において、ディスプレイ装置100は、各発光素子1R、1G、1Bからの光R、G、Bを基板21側から透過させるボトムエミッション構造のディスプレイパネルである。
基板21上には、複数の駆動用トランジスタ24が設けられ、これらの駆動用トランジスタ24を覆うように、絶縁材料で構成された平坦化層22が形成されている。
【0075】
各駆動用トランジスタ24は、シリコン等の半導体材料からなる半導体層241と、半導体層241上に形成されたゲート絶縁層242と、ゲート絶縁層242上に形成されたゲート電極243と、ソース電極244と、ドレイン電極245とを有している。
また、平坦化層22上には、各駆動用トランジスタ24に対応して、発光素子(有機EL素子)1R、1G、1Bが設けられている。
【0076】
発光素子1R、1G、1Bは、陽極3R、3G、3Bと、陰極9と、陽極3R、3G、3Bと陰極9とを有する。
そして、陽極3R、3G、3Bと陰極9との間には、陽極3R、3G、3B側から陰極9側へ、正孔注入層4R、4G、4B、正孔輸送層5R、5G、5B、発光層6R、6G、6B、電子注入中間層11、電子輸送層7、電子注入層8がこの順で積層されている。
【0077】
ここで、発光素子1Rは、陽極3R、正孔注入層4R、正孔輸送層5R、発光層6R、電子注入中間層11、電子輸送層7、電子注入層8および陰極9で構成されている。また、発光素子1Gは、陽極3G、正孔注入層4G、正孔輸送層5G、発光層6G、電子注入中間層11、電子輸送層7、電子注入層8および陰極9で構成されている。また、発光素子1Bは、陽極3B、正孔注入層4B、正孔輸送層5B、発光層6B、電子注入中間層11、電子輸送層7、電子注入層8および陰極9で構成されている。
【0078】
そして、発光素子1Rは、発光層6Rが赤色発光材料を含んで構成され、赤色の光Rを出射するように構成されている。また、発光素子1Gは、発光層6Gが緑色発光材料を含んで構成され、緑色の光Gを出射するように構成されている。また、発光素子1Bは、発光層6Bが青色発光材料を含んで構成され、青色の光Bを出射するように構成されている。
【0079】
なお、発光素子1R、1G、1Bは、それぞれ、前述した発光素子1と同様に構成される。また、陽極3R、3G、3Bの構成材料は、互いに同じであっても異なっていてもよい。また、正孔注入層4R、4G、4Bの構成材料は、互いに同じであっても異なっていてもよい。また、正孔輸送層5R、5G、5Bの構成材料は、互いに同じであっても異なっていてもよい。
かかる構成の発光素子1R、1G、1Bの隣接するもの同士の間には、隔壁31が設けられている。
【0080】
本実施形態では、発光素子1R、1G、1Bにおいて、陽極3R、3G、3B、正孔注入層4R、4G、4B、正孔輸送層5R、5G、5Bおよび発光層6R、6G、6Bが隔壁31で区画されることにより個別に設けられている。また、発光素子1R、1G、1Bにおいて、電子注入中間層11、電子輸送層7、電子注入層8および陰極9が一体的に設けられ共通とされている。
【0081】
ここで、陽極3R、3G、3Bは、それぞれ、画素電極(個別電極)を構成し、陰極9は、共通電極を構成する。そして、各発光素子1R、1G、1Bの各陽極3R、3G、3Bは、各駆動用トランジスタ24のドレイン電極245に導電部(配線)27により電気的に接続されている。
さらに、これらの発光素子1R、1G、1B上には、本実施形態では、これらを覆うように、エポキシ樹脂で構成されたエポキシ層35が形成されている。
【0082】
そして、エポキシ層35上に、これを覆うように封止基板20が設けられている。これにより、発光素子1R、1G、1Bの気密性が確保され、酸素や水分の浸入を防止できることから、発光素子1R、1G、1Bの信頼性の向上を図ることができる。
以上説明したようなディスプレイ装置100は、各発光素子1R、1G、1Bを組み合わせて発光させることでフルカラー表示も可能となる。
【0083】
このようなディスプレイ装置100(本発明の表示装置)は、各種の電子機器に組み込むことができる。
図4は、本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
この図において、パーソナルコンピュータ1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部を備える表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
【0084】
このパーソナルコンピュータ1100において、表示ユニット1106が備える表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
図5は、本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
この図において、携帯電話機1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206とともに、表示部を備えている。
【0085】
携帯電話機1200において、この表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
図6は、本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。なお、この図には、外部機器との接続についても簡易的に示されている。
ここで、通常のカメラは、被写体の光像により銀塩写真フィルムを感光するのに対し、ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により光電変換して撮像信号(画像信号)を生成する。
【0086】
ディジタルスチルカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、表示部が設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、被写体を電子画像として表示するファインダとして機能する。
ディジタルスチルカメラ1300において、この表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0087】
ケースの内部には、回路基板1308が設置されている。この回路基板1308は、撮像信号を格納(記憶)し得るメモリが設置されている。
また、ケース1302の正面側(図示の構成では裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
撮影者が表示部に表示された被写体像を確認し、シャッタボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、回路基板1308のメモリに転送・格納される。
【0088】
また、このディジタルスチルカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、図示のように、ビデオ信号出力端子1312にはテレビモニタ1430が、データ通信用の入出力端子1314にはパーソナルコンピュータ1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、回路基板1308のメモリに格納された撮像信号が、テレビモニタ1430や、パーソナルコンピュータ1440に出力される構成になっている。
【0089】
なお、本発明の電子機器は、図4のパーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、図5の携帯電話機、図6のディジタルスチルカメラの他にも、例えば、テレビや、ビデオカメラ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、タッチパネルを備えた機器(例えば金融機関のキャッシュディスペンサー、自動券売機)、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置、内視鏡用表示装置)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ、その他各種モニタ類、プロジェクター等の投射型表示装置等に適用することができる。
以上、本発明の発光素子、発光装置、表示装置および電子機器を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【実施例】
【0090】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.発光素子の製造
(実施例)
<1> まず、平均厚さ0.5mmの透明なガラス基板を用意した。次に、この基板上に、スパッタ法により、平均厚さ100nmのITO電極(陽極)を形成した。
【0091】
その後、基板上に陽極を露出させつつ囲むようにアクリル樹脂で構成されたバンク(隔壁)を形成した。
そして、隔壁が形成された基板の表面を、まずOガスを処理ガスとしてプラズマ処理することにより、陽極の表面と隔壁の表面(壁面を含む)を親液化(親水化)した。続いて、隔壁が形成された基板の表面を、CFガスを処理ガスとしてプラズマ処理することにより、アクリル系樹脂からなる隔壁の表面のみにCFガスを反応させて、隔壁の表面を撥液化(撥水化)した。
【0092】
<2> 次に、ITO電極上に、インクジェット法により、1.0wt%PEDOT/PSS水分散液を塗布し、その塗布された分散液を乾燥、焼成することにより、平均厚さ50nmの正孔注入層を形成した。
<3> 次に、正孔注入層上に、インクジェット法により、前記式(2)で表わされる化合物(高分子量材料)の1.2wt%テトラメチルベンゼン溶液を塗布し、その塗布された溶液を乾燥、焼成することにより、平均厚さ60nmの発光層(緑色発光層)を形成した。
【0093】
<4> 次に、発光層上に、真空蒸着法により、CsCOを成膜し、平均厚さ0.5nmの電子注入中間層を形成した。
<5> 次に、電子注入中間層上に、真空蒸着法により、α−NPDを成膜し、平均厚さ20nmの電子輸送層を形成した。
<6> 次に、電子輸送層上に、フッ化リチウム(LiF)を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ0.5nmの電子注入層を形成した。
【0094】
<7> 次に、電子注入層上に、Alを真空蒸着法により成膜した。これにより、Alで構成される平均厚さ200nmの陰極を形成した。
<8> 次に、形成した各層を覆うように、ガラス製の保護カバー(封止部材)を被せ、エポキシ樹脂により固定、封止した。
以上の工程により、発光素子を製造した。
(比較例)
電子注入中間層の形成を省略するとともに、電子輸送層の構成材料として2−(4−tert−ブチルフェニル)−5−(4−ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)を用いた以外は、前述した実施例と同様にして発光素子を製造した。
【0095】
2.評価
2−1.発光寿命の評価
実施例および比較例について、初期の輝度が1,000cd/mとなるような電流密度で直流電源を用いて発光素子に電流を流しつづけ、その間、輝度計を用いて輝度を測定し、その輝度が初期の輝度の80%となる時間(LT80)を測定した。そして、比較例におけるLT80の時間を1.00として規格化し、比較例および実施例のLT80の時間を相対的に評価した。
【0096】
【表1】

表1から明らかなように、実施例の発光素子は、比較例の発光素子に比し、長寿命化を図ることができた。これは、実施例の発光素子において電子輸送層の発光層側の面付近に正孔が滞留(蓄積)せず、発光素子内の材料の劣化が抑制されたためと考えられる。
【符号の説明】
【0097】
1、1R、1B、1G……発光素子 2……基板 3……陽極 3R、3G、3B……陽極 4……正孔注入層 4R、4G、4B……正孔注入層 5……正孔輸送層 5R、5G、5B……正孔輸送層 5X……電子中和層 6……発光層 6R、6G、6B……発光層 7……電子輸送層 8……電子注入層 9……陰極 10……封止部材 11……電子注入中間層 14……積層体 19、19、19……カラーフィルタ 100……ディスプレイ装置 100、100、100……サブ画素 20……封止基板 21……基板 22……平坦化層 24……駆動用トランジスタ 241……半導体層 242……ゲート絶縁層 243……ゲート電極 244……ソース電極 245……ドレイン電極 27……配線 31……隔壁 32……反射膜 33……腐食防止膜 34……陰極カバー 35……エポキシ層 36……遮光層 1100……パーソナルコンピュータ 1102……キーボード 1104……本体部 1106……表示ユニット 1200……携帯電話機 1202……操作ボタン 1204……受話口 1206……送話口 1300……ディジタルスチルカメラ 1302……ケース(ボディー) 1304……受光ユニット 1306……シャッタボタン 1308……回路基板 1312……ビデオ信号出力端子 1314……データ通信用の入出力端子 1430……テレビモニタ 1440……パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に設けられ、前記陽極と前記陰極との間に通電することにより発光する発光層と、
前記発光層と前記陰極との間に設けられ、アミン系化合物を含んで構成された電子輸送層とを有することを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記電子輸送層と前記発光層との間にこれらの両層に接して設けられ、電子注入性を有する電子注入中間層を有する請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記電子注入中間層は、金属化合物で構成されている請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記金属化合物は、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物である請求項3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記電子輸送層と前記陰極との間に設けられ、電子注入性を有する電子注入層を有する請求項2ないし4のいずれかに記載の発光素子。
【請求項6】
前記電子注入層は、前記電子注入中間層と同じ材料で構成されている請求項5に記載の発光素子。
【請求項7】
前記アミン系化合物は、トリフェニルアミン誘導体である請求項1ないし6のいずれかに記載の発光素子。
【請求項8】
前記発光層と前記陽極との間に設けられ、正孔輸送性を有する正孔輸送層を有する請求項1ないし7のいずれかに記載の発光素子。
【請求項9】
前記正孔輸送層は、前記電子輸送層と同じ材料で構成されている請求項8に記載の発光素子。
【請求項10】
前記電子注入中間層の平均厚さは、0.01nm以上100nm以下である請求項2ないし9のいずれかに記載の発光素子。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の発光素子を備えることを特徴とする発光装置。
【請求項12】
請求項1ないし10のいずれかに記載の発光素子を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項13】
請求項1ないし10のいずれかに記載の発光素子を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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