説明

発光装置の製造方法

【課題】第1有機層を構成する材料が隣接層である第2有機層へ混入することを確実に防止して、発光不具合の発生を防止する手法を提供する。
【解決手段】本発明の発光装置の製造方法は、第1の有機材料を含む液状体を基材101に配して第1有機層103を形成する工程と、形成した第1有機層103が特定溶媒に対して不溶となるように、当該第1有機層103を処理する工程と、第1有機層103のうち不溶化されていない部分を溶解可能な第1溶媒を用いて、当該第1有機層103を洗浄する工程と、第1有機層103のうち不溶化されていない部分を溶解可能であって、且つ第1溶媒よりも蒸気圧の高い第2溶媒を用いて、当該第1有機層103を洗浄する工程と、不溶化された第1有機層103上に、第2の有機材料を特定溶媒に溶解させた液状体を配して、第2有機層104を形成する工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置の製造方法に関し、特に有機EL素子等の有機層を含む発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、薄型、全固体型、面状自発光及び高速応答であるといった特徴を有する発光素子であり、フラットディスプレイパネルやバックライトへの応用が期待されることから、近年各方面で盛んに研究が行われている。以前、有機EL素子は、無機物を用いた無機EL素子に比べて素子特性が著しく劣っていたが、1987年にコダック社のTangらが有機物層を積層構成にする方法を発表してから、素子特性が向上し、急速に発展している。また、近年、有機EL素子をディスプレイパネルに用いた、商品も発売されつつある。有機EL素子は、有機材料を含む複数の薄膜を第1の電極と第2の電極で挟んだ構造を有しており、2つの電極から注入したキャリヤが有機薄膜中で再結合することにより発光する素子である。
【0003】
このような有機EL素子の製造方法としては例えば湿式法が採用されている。湿式法で積層型の有機EL素子を製造する場合、第1有機層が第2有機層へ混入することに起因する劣化が懸念され、相溶解しない溶媒を選択して使用する必要があった。このような問題を解決する技術として、例えば特許文献1や特許文献2に開示されたようなものがある。
【特許文献1】特開2005−302567号公報
【特許文献2】特開2005−251734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、第1有機層の表面を熱源により加熱して有機溶媒に対して不溶化させた後、第1有機層上に第2有機層形成材料を有機溶媒に溶解させた溶液状態にて塗布することとしている。一方、特許文献2では、確実に第1有機層が第2有機層へ混入すること回避するべく、第1有機層を加熱後、不溶化しきれてはいない第1有機層を有機溶媒でリンス除去することにより、選択的に不溶化部分のみを残し、さらに第1有機層上に第2有機層形成材料を有機溶媒に溶解させた溶液状態で塗布することとしている。このような方法によると、第1有機層は有機溶媒に対して溶出することがないため、第2有機層を適切に積層することができ、また有機材料と溶媒の溶解性を考慮することなく、簡単な湿式の製造プロセスで有機EL素子の積層構造を構築することが可能となっている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献2においては、第1有機層のリンス溶媒が蒸気圧の高い溶媒(トルエン、キシレン、塩化メチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等)であり、スピンコートでリンスする場合には、スピンコーター槽内において、塗布中に溶媒が揮発しやすいことから、溶媒中に溶解した第1有機層の溶質濃度が溶媒揮発により早期で飽和状態に達し、溶解性が落ち、リンス効果が低下する等の欠点があった。また、仮に蒸気圧の低い溶媒を用いてリンスしても、有機層からの残留溶媒除去が難しく、デバイス特性へ悪影響を与えるという欠点もあった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、複数の有機層を含む発光装置の製造方法において、第1有機層を構成する材料が隣接層である第2有機層へ混入することを確実に防止して、発光不具合の発生を防止する手法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の発光装置の製造方法は、発光機能層として複数の有機層を有する発光装置の製造方法であって、第1の有機材料を含む液状体を基材に配して第1の有機層を形成する第1の有機層形成工程と、形成した前記第1の有機層が所定の有機溶媒に対して不溶となるように、当該第1の有機層を処理する不溶化処理工程と、前記不溶化処理工程後、前記第1の有機層のうち不溶化されていない部分を溶解可能な第1溶媒を用いて、当該第1の有機層を洗浄する第1洗浄工程と、前記第1洗浄工程後、前記第1の有機層のうち不溶化されていない部分を溶解可能であって、且つ前記第1溶媒よりも蒸気圧の高い第2溶媒を用いて、当該第1の有機層を洗浄する第2洗浄工程と、前記不溶化された第1の有機層上に、第2の有機材料を前記所定の有機溶媒に溶解させた液状体を配して、第2の有機層を形成する第2の有機層形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
このような製造方法によると、第1の有機層に対して不溶化処理を行うとともに、不溶化されていない第1の有機層を第1溶媒で洗浄し、さらに第2溶媒で再洗浄した後、第1の有機層上に、第2の有機材料を特定溶媒に溶解させた液状体を配して第2の有機層を形成することとしたので、第1の有機層は、特定溶媒に対して溶け出すことがなく、第2の有機層を好適に積層することができ、簡単な湿式の製造プロセスで、発光装置の積層構造を構築することが可能となる。
特に、第1の有機層の洗浄を2段階で行うものとしており、第1洗浄工程では、相対的に蒸気圧の低い第1溶媒を用いて洗浄を行う一方、第2洗浄工程では、相対的に蒸気圧の高い第2溶媒を用いて洗浄を行うものとしているため、不溶化されていない第1の有機層を構成する材料(第1有機層材料)が第2の有機層へ混入することを一層防止することができるものとされている。つまり、蒸気圧の低い溶媒にて洗浄することで、当該洗浄中に溶媒が揮発し難くなるため、溶媒に溶解した第1の有機層の溶質濃度が飽和状態となり難く、不溶化されていない第1有機層材料をより一層抽出することができ、ひいては第1有機層材料が第2の有機層へ混入することを一層確実に防止することができるのである。さらにその後、蒸気圧の高い溶媒で再洗浄することで、第1の有機層上に残留した第1溶媒を除去し易くなるため、残留溶媒による発光特性への影響を低減することができ、また、第1の有機層の洗浄で用いた溶媒の第2の有機層への混入も防止でき、ひいては当該溶媒による発光特性への影響も低減することができる。以上のような効果の相乗により、本発明の方法によれば、発光特性に優れた発光装置を簡便に製造することが可能となる。
【0009】
本発明の製造方法において、前記不溶化処理工程は、前記第1の有機層を構成する材料の分子について、当該分子間に架橋を生じさせる処理を含むものとすることができる。このような架橋処理により、第1有機層材料が確実に不溶化されることとなる。
【0010】
架橋処理としては、第1有機層材料として架橋可能な官能基を含む場合には、当該官能基が活性化される条件の処理を行うものとすることができる。具体的には、加熱処理、紫外線照射処理等を行って前記官能基を活性化させることが可能である。
また、架橋処理として、第1有機層材料に架橋剤を含有させておき、当該架橋剤が活性化される条件の処理を行うものとすることもできる。具体的には、加熱処理、紫外線照射処理等を行って前記架橋剤を活性化させることが可能である。
【0011】
また、本発明の製造方法において、前記第1の有機層を構成する材料の分子は、前記所定の有機溶媒に対して難溶性を示すユニット(難溶性ユニット)と、前記特定溶媒に対して易溶性を示すユニット(易溶性ユニット)とが結合された構成を有し、前記不溶化処理工程は、前記第1の有機層を構成する材料の分子内の前記各ユニットの結合を切断させる処理を含むものとすることができる。このような各ユニット間の結合を切断する処理を行うことで、第1有機層材料を構成する分子が、難溶性ユニットからなる分子と、易溶性ユニットからなる分子とに分解され、結果的に難溶性ユニットが第1有機層を構成することとなる。このような難溶性ユニットにより構成される第1有機層は不溶化されるわけであるが、少なくとも難溶性ユニットには当該第1有機層が備える機能(発光に寄与する機能)が具備されていることが必要である。なお、分解形成された他方の易溶性ユニットからなる分子は、洗浄工程により除去されることとなる。
【0012】
また、本発明において、前記第1の有機層を正孔注入/輸送層とし、前記第2の有機層を発光層とすることができる。なお、発光層は有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)材料からなるものとすることができる。これにより、正孔注入/輸送層と発光層の積層構造を、簡単な湿式の製造プロセスで構築することができる。
【0013】
また、本発明において、前記第1の有機層を発光層とし、前記第2の有機層を電子輸送層とすることができる。なお、発光層は有機EL材料からなるものとすることができる。これにより、発光層と電子輸送層の積層構造を、簡単な湿式の製造プロセスで構築することができる。
【0014】
また、本発明において、前記不溶化処理工程は、熱源の表面に前記第1の有機層の表面を重ねてその表面の加熱することが望ましい。これにより、第1の有機層の熱源との接触面側のみを加熱して改質することができ、第1の有機層の機能を劣化させることを防止することができる。
【0015】
なお、本発明の方法により製造された発光装置は、発光特性が非常に優れたものとなる。そして、このような発光装置としては例えば有機EL装置の他、プラズマ表示装置等を例示することができる。また、本発明の方法により製造された発光装置は、各種電子機器に具備させることができる。つまり、例えば携帯電話等の表示部に上記発光装置を採用することで、表示特性に優れた電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0017】
図1は、本発明の製造方法を用いて製造された有機EL素子(発光装置)100の構成を示す要部断面図である。この有機EL素子100は、基体101上に陽極(第1電極)102と、陰極(第2電極)105とを有し、これら陽極102と陰極105との間に、有機層110を備えたものである。有機層110は、正孔注入/輸送層103と、発光層104とが積層されて構成される。この有機EL素子100は、発光層104で発光した光を基体101側から射出するボトムエミッション方式となっている。
【0018】
基体101は、ガラス基板等の透明基板(図示せず)上にTFT素子からなる駆動素子(図示せず)や各種配線(図示せず)等を形成して構成されたもので、これら駆動素子や各種配線の上に絶縁層や平坦化膜を介して陽極102が形成されている。
【0019】
陽極102は、基体101上にパターニングされて形成され、かつ、TFT素子からなる駆動素子や前記各種配線等と接続されたもので、本実施例では、ITO(Indium Tin Oxide)によって形成されている。
【0020】
正孔注入/輸送層103は、陽極102が形成された基体101の全面に形成されている。正孔注入/輸送層103は、陽極102から注入した正孔を発光層104に輸送する。正孔注入/輸送層103の形成材料としては、アリールアミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポリアニリン誘導体+有機酸、ポリチオフェン誘導体+ポリマー酸等を使用することができる。
【0021】
発光層104は、正孔注入/輸送層103上に形成されており、陰極105から注入される電子と、正孔注入/輸送層103から注入される正孔が結合して所定帯域の波長の光を発光する。この発光層104の材料としては具体的には、ポリフルオレン誘導体(PF)、ポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などの高分子有機材料が好適に用いられる。
【0022】
また、これらの高分子有機材料に、ペニレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子有機材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6,キナクリドン等の低分子有機材料をドープして用いることもできる。
【0023】
陰極105は、発光層104上にLiF層と、Ca層と、およびAl層とが積層されて形成されたものである。この陰極105上には、不図示の封止層が形成されている。
【0024】
次に、このような構成の有機EL素子100の製造方法について、図2及び図3を参照して説明する。図2及び図3は、有機EL素子100の一製造工程を示す説明図である。
【0025】
[基板処理工程]
従来と同様にして、ガラスからなる基体101上にTFT素子や各種配線等を形成し、さらに、層間絶縁層や平坦化膜を形成した後、蒸着法等によってITOを成膜し、さらにパターニングすることによって陽極102を形成する。これにより、図2(a)に示すように、基体101上に陽極101が形成される。この後、陽極102が形成された基板を洗浄後、大気圧において酸素プラズマ処理を行い、基板表面を親水性に改質する。これにより、陽極102の仕事関数を上げることができる。
【0026】
[正孔注入/輸送層形成工程(第1の有機層形成工程)]
次に、陽極102が形成された基体101の全面に、正孔注入/輸送層103を形成する。ここでは、まず正孔注入/輸送層材料を溶媒または分散媒に溶解または分散させた液状体をスピンコーティング法により、所定の膜厚に成膜して、図2(b)に示すように、プレ正孔注入/輸送層103aを形成する。
【0027】
続いて、プレ正孔注入/輸送層103aの不溶化処理を行う(不溶化処理工程)。具体的には、図2(c)に示すように、プレ正孔注入/輸送層103aが成膜された基体101を加熱されたホットプレート120上に載置し、焼成処理を行う。このような焼成処理により、図2(d)に示すようにプレ正孔注入/輸送層103aは、基体101側が不溶化されて不溶化層103bを形成する。つまり、当該正孔注入/輸送層103上に配する発光層104の形成工程において用いる有機溶媒(特定溶媒)に対して不溶な不溶化層103bが形成されることとなる。
【0028】
なお、プレ正孔注入/輸送層103aのうち不溶化されるのはホットプレート120側の一部であって、ホットプレート120とは反対側の不溶化層103b上には図2(d)に示すようにプレ正孔注入/輸送層103aの一部が残存することとなる。ここで、プレ正孔注入/輸送層103aは溶媒(特定溶媒)に対して溶解性(易溶性)を示すものを用いている。
【0029】
ところで、上記焼成処理によりプレ正孔注入/輸送層103aの一部が不溶化する機構は以下のような態様による。つまり、プレ正孔注入/輸送層103aを構成する材料の分子について、当該分子間に架橋を生じさせることで不溶化層103bを生成しており、架橋処理としては、プレ正孔注入/輸送層103aに対して架橋可能な官能基を導入させておき、その官能基が活性化される条件の加熱処理を行うものとすることができる。なお、本実施形態では加熱により活性化を行っているが、例えば紫外線照射によって官能基を活性化させることも可能である。また、架橋処理として、プレ正孔注入/輸送層103aに架橋剤を含有させておき、当該架橋剤が活性化される条件の加熱処理を行うものとすることもできる。この場合も、加熱処理に限られず、紫外線照射処理等を行って架橋剤を活性化させることも可能である。
【0030】
さらに、不溶化処理としては、以下のような態様のものを採用することもできる。つまり、プレ正孔注入/輸送層103aを構成する材料として、その分子中に、特定溶媒に対して難溶性を示すユニット(難溶性ユニット)と、特定溶媒に対して易溶性を示すユニット(易溶性ユニット)とが結合された構成を有したものを採用し、プレ正孔注入/輸送層103aを構成する材料の分子内の各ユニットの結合を切断させる処理を行うものとすることができる。このような各ユニット間の結合の切断処理を行うことで、難溶性ユニットからなる分子と、易溶性ユニットからなる分子とが分解生成され、結果的に難溶性ユニットが不溶化層103bを構成することとなる。
【0031】
なお、このような難溶性ユニットにより構成される正孔注入/輸送層103は不溶化されるわけであるが、少なくとも難溶性ユニットには当該正孔注入/輸送層103が備える機能(発光に寄与する機能)が具備されていることが必要である。なお、分解形成された他方の易溶性ユニットからなる分子は、後の洗浄工程により除去されることとなる。
【0032】
以上のような不溶化処理を施すことにより、プレ正孔注入/輸送層103aの一部が不溶化層103bとなり、該不溶化層103b上にプレ正孔注入/輸送層103aの一部が残存する(図2(d))。
【0033】
[洗浄工程(第1洗浄工程及び第2洗浄工程)]
その後、残存したプレ正孔注入/輸送層103aを洗浄により除去する工程を行う(第1洗浄工程)。具体的には、図3(a)に示すように残存したプレ正孔注入/輸送層103aに対して、室温にて蒸気圧の低い第1溶媒(1,2,4-トリメチルベンゼン)をスピンコーターでリンス処理するものとしている。これにより不溶化されていないプレ正孔注入/輸送層103aが確実に洗浄され、選択的に不溶化層103bのみを基材101上に残すことが可能となる。
【0034】
続いて、異なる溶媒を用いて再洗浄工程を行う(第2洗浄工程)。具体的には、図3(b)に示すように、第1洗浄工程を施した不溶化層103bに対して、室温にて前記第1溶媒よりも相対的に蒸気圧の高い第2溶媒(キシレン)をスピンコーターで再リンス処理するものとしている。このような第2洗浄工程により、仮に不溶化層103b上に残存する第1溶媒があった場合にも、当該残存溶媒を確実に除去することが可能となり、その後に形成する発光層104に当該溶媒が混入する不具合を回避することが可能となる。
【0035】
なお、第1溶媒としては、以下のようなものを用いることができる。例えば、トリメチルベンゼン(蒸気圧1.5mmHg(20℃))、クメン(蒸気圧3.9mmHg(20℃))、テトラリン(蒸気圧2.0mmHg(20℃))、エトキシベンゼン(蒸気圧1.3mmHg(20℃))、芳香族系ケトンとしてアセトフェノン(蒸気圧0.37mmHg(25℃))、芳香族系エステルとして酢酸ベンジル(蒸気圧0.4mmHg(46℃))、芳香族系エーテルとしてベンジルエチルエーテル(蒸気圧1mmHg(26℃))、脂肪族系ケトンとしてシクロヘキサノン(蒸気圧4mmHg(20℃))、脂肪族系エステルとしてプロピオン酸イソペンチル(蒸気圧2mmHg(25℃))、脂肪族系エーテルとしてジヘキシルエーテル(蒸気圧0.07mmHg(20℃))である。
【0036】
また、第2溶媒としては、以下のようなものを用いることができる。例えば、ベンゼン(蒸気圧80mmHg(21℃))、トルエン(蒸気圧18.4mmHg(20℃))、キシレン(蒸気圧20mmHg(40℃))、芳香族系エーテルとしてジフェニルエーテル(蒸気圧20mmHg(13.2℃))、脂肪族系ケトンとしてアセトン(蒸気圧175mmHg(20℃))、脂肪族系エーテルとしてジエチルエーテル(蒸気圧400mmHg(17.9℃))、脂肪族系エステルとして酢酸エチル(蒸気圧92mmHg(25℃))である。
【0037】
[発光層形成工程(第2の有機層形成工程)]
つぎに、図3(c)に示すように、形成された不溶化層103b(これが正孔注入/輸送層103を構成する)上に、発光層材料を溶媒に溶解させた液状体をスピンコーティング法により所定の膜厚により形成した後、焼成処理を行って溶媒を蒸発させて、発光層104を形成する。
【0038】
[陰極形成工程]
つぎに、発光層104上に真空蒸着法で、LiF、Ca、Alを順次積層させて、図3(d)に示すように、LiF層、Ca層、Al層からなる陰極105を形成する。その後、封止工程を行って、本実施形態の有機EL素子100を製造するものとしている。
【0039】
(実験例1)
ガラスからなる基体101上にTFT素子や各種配線等を形成し、さらに、層間絶縁層や平坦化膜を形成した後、蒸着法等によってITOを成膜し、さらにパターニングすることによって陽極102を形成した。この後、陽極102が形成された基板を洗浄後、大気圧において酸素プラズマ処理を行い、基板表面を親水性に改質した。
【0040】
次に、陽極102が形成された基体101に、[化1]に示す正孔注入/輸送層材料を1,2,4-トリメチルベンゼンに2.2wt%の濃度で溶解させた液状体をスピンコーティングして、50nmの薄膜を形成した。この後、[化1]に示す正孔注入/輸送層材料を形成した基体101を、約200℃に加熱したホットプレート120上に載置し、窒素雰囲気(水分濃度<1ppm、酸素濃度<1ppm)下で、所定時間、焼成処理を行った。
【0041】
次に、有機溶媒に対して不溶化されていない正孔注入/輸送層材料を洗浄するために、蒸気圧の低い溶媒(1,2,4-トリメチルベンゼン)でスピンコーターによりリンス処理し、数nm程の不溶化層103bを残存させる。さらに、残留溶媒を不溶化層103bから除去するために、1,2,4-トリメチルベンゼンよりも蒸気圧の高い溶媒(キシレン)でスピンコーターにより再リンス処理し、残存溶媒のない不溶化層103bを得る。このような工程を経て得られる不溶化層103bが正孔注入/輸送層103となる。
【0042】
なお、[化1]に示す正孔注入/輸送層材料の替わりに、[化2]で示す正孔注入/輸送層材料を使用した場合も同様のリンス効果が得られることを確認した。
【0043】
【化1】

【0044】
【化2】

【0045】
続いて、[化3]に示す発光層材料をキシレンに1.5wt%の濃度で溶解させた液状体を、スピンコーティングにより、[化1]に示す正孔注入/輸送層材料で形成された正孔注入/輸送層103(不溶化層103b)の表面に約80nmの膜厚で成膜した。この際、正孔注入/輸送層103は相溶することがなかった。この後、窒素雰囲気下において、130℃で30分焼成処理を行い、正孔注入/輸送層103上に発光層104を成膜した。[化3]に示す発光層材料の替わりに、[化4]に示す発光層材料を使用した場合にも同様の効果が得られることを確認した。
【0046】
【化3】

【0047】
【化4】

【0048】
そして、発光層104上に、真空蒸着装置の真空度を10−7〜10−8Torrとして、LiFを4nm、Caを10nm、Alを200nmと順に積層して、陰極103を形成し、続いて封止工程を行った。この結果、高い発光輝度の有機EL素子を得ることができた。
【0049】
なお、本実施形態では、発光層104上に陰極105が形成された構成の有機EL素子100を例示したが、例えば図4に示すように陰極105と発光層104との間に電子輸送層201を導入するものとしても良い。この場合は、正孔注入/輸送層103と、発光層104と、電子輸送層201とが有機層111を構成することとなる。
【0050】
また、本実施形態では、ボトムエミッション方式の有機EL素子について説明したが、トップエミッション方式にしても良い。
さらに、本実施形態では有機EL素子の製造方法について述べたが、本発明はこれに限られるものではなく、複数の有機層が積層されてなる有機積層体の製造方法、つまり有機積層体を具備した基板の製造方法に適用することができる。
【0051】
つぎに、本発明の発光装置に係る有機EL素子を適用可能な電子機器の具体例について図5を参照して説明する。図5(a)は、有機EL素子を可搬型のパーソナルコンピュータ(いわゆるノート型パソコン)300の表示部に適用した例を示す斜視図である。同図に示すように、パーソナルコンピュータ300は、キーボード301を備えた本体部302と、有機EL素子を適用した表示部303とを備えている。
【0052】
図5(b)は、有機EL素子を携帯電話機400の表示部に適用した例を示す斜視図である。同図に示すように、携帯電話機400は、複数の操作ボタン401のほか、受話口402、送話口403とともに、有機EL素子を適用した表示部404を備えている。
【0053】
本発明の発光装置に係る有機EL素子は、上述した携帯電話機やノートパソコン以外にも、PDA(Personal Digital Assistants)と呼ばれる携帯型情報機器、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、デジタルスチルカメラ、車載用モニタ、デジタルビデオカメラ、テレビ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話機、およびPOS端末機などの電子機器に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の方法を採用して製造された有機EL装置の構成を模式的に示す断面図。
【図2】有機EL装置の一製造工程を示す説明図。
【図3】図2に続く、有機EL装置の一製造工程を示す説明図。
【図4】本発明の方法を採用して製造された有機EL装置の異なる構成を模式的に示す断面図。
【図5】電子機器の一例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0055】
100…有機EL素子(発光装置)、101…基材、103…正孔注入/輸送層(第1の有機層)、104…発光層(第2の有機層)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光機能層として複数の有機層を有する発光装置の製造方法であって、
第1の有機材料を含む液状体を基材に配して第1の有機層を形成する第1の有機層形成工程と、
形成した前記第1の有機層が特定溶媒に対して不溶となるように、当該第1の有機層を処理する不溶化処理工程と、
前記不溶化処理工程後、前記第1の有機層のうち不溶化されていない部分を溶解可能な第1溶媒を用いて、当該第1の有機層を洗浄する第1洗浄工程と、
前記第1洗浄工程後、前記第1の有機層のうち不溶化されていない部分を溶解可能であって、且つ前記第1溶媒よりも蒸気圧の高い第2溶媒を用いて、当該第1の有機層を洗浄する第2洗浄工程と、
前記不溶化された第1の有機層上に、第2の有機材料を前記特定溶媒に溶解させた液状体を配して、第2の有機層を形成する第2の有機層形成工程と、
を含むことを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項2】
前記不溶化処理工程は、前記第1の有機層を構成する材料の分子について、当該分子間に架橋を生じさせる処理を含むことを特徴とする請求項1に記載の発光装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1の有機層を構成する材料の分子は、前記特定溶媒に対して難溶性を示すユニットと、前記特定溶媒に対して易溶性を示すユニットとが結合された構成を有し、
前記不溶化処理工程は、前記第1の有機層を構成する材料の分子内の前記各ユニットの結合を切断させる処理を含むことを特徴とする請求項1に記載の発光装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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