説明

発泡アルコール飲料及びその製造方法

【課題】 本発明は、麦芽及び麦類を使用しないビール様発泡アルコール飲料を提供する。
【解決手段】 本発明によるビール様発泡アルコール飲料の製造方法は、発酵前液を発酵させて製造する発泡アルコール飲料の製造方法において、発酵効率の良好な原料液を得ることにより、香味、泡品質等の諸特性の良好なビール様発泡アルコール飲料を提供することを特徴とし、さらに、前記発酵前液にエンドウ豆から抽出して得たエンドウタンパクを添加することを特徴とする。発泡性アルコール飲料としては、炭素源を含有するシロップ、窒素源、該窒素源の少なくとも一部としての酵母エキス、ホップ及び水を原材料として使用し、さらに必要に応じて、色素、起泡・泡持ち向上物質と香料を添加して原料液を造り、当該原料液に通常のビール製造工程と同様にビール酵母を添加し、アルコール発酵させて製造する方法に適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦芽及び麦類を使用しないビール様アルコール飲料に係り、特に、発酵効率を改善し、香味、泡品質等の諸特性の良好なビール様発泡アルコール飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大麦麦芽を原料として使用するビール、発泡酒等の麦芽アルコール飲料では、麦芽あるいは麦芽と麦芽以外の副原料として米、大麦、小麦、コーン、スターチ等の澱粉質を用い、麦芽の活性酵素を利用(発泡酒では酵素そのものを添加する場合もある)して、麦芽あるいは麦芽と副原料の澱粉質を糖化させ、得られた糖化液にホップを加えた後に酵母を添加してアルコール発酵させる。
【0003】
一方、上記麦芽アルコール飲料のように製麦工程や液化・糖化工程などの醸造工程を経ない、即ち、麦芽及び麦類を一切使用しないビール様発泡アルコール飲料(香味がビールに類似しているアルコール飲料)として、炭素源を含有するシロップ、アミノ酸含有材料などの窒素源、水、ホップの原材料を使用し、更に、必要に応じて色素、起泡・泡持ち向上物質と必要に応じて香料を添加して原料液を造り、当該原料液に通常のビール製造工程と同様にビール酵母を添加し、アルコール発酵させて造られるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
当該ビール様発泡アルコール飲料は、ビール、発泡酒に続く新たな発泡アルコール飲料として新たに開発されたもので、今後、更なる香味、泡品質等の諸特性の充実が期待されており、ビール、発泡酒に類似する香味、泡品質等の諸特性を得るために、使用する原材料、製造方法等の改良研究が進められている。
【特許文献1】特開2001−37462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、上述に鑑みてなされたものであり、ビール様発泡アルコール飲料において、発酵効率の良好な原料液を得ることにより、香味、泡品質等の諸特性の良好なビール様発泡アルコール飲料を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、本発明による以下の手段により解決される。
【0007】
即ち、上記目的は、請求項1に記載されるが如く、炭素源を含有するシロップ、窒素源、該窒素源の少なくとも一部としての酵母エキス、ホップ及び水を原料として発酵前液を製造する工程と、前記発酵前液を酵母を用いて発酵させることにより発泡アルコール飲料を得る発酵工程と、発酵工程を経た発泡アルコール飲料を濾過する濾過工程とで構成されたことを特徴とする発泡アルコール飲料の製造方法によって達成される。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、酵母に適した栄養源を豊富に含む発酵前液を得ることが出来、発酵効率が改善され、ビール、発泡酒に類似する香味、泡品質を備え、かつ、すっきり感を備えたビール様発泡アルコール飲料の製造方法を提供できる。
【0009】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の発明において、濾過工程前の前記各工程又は各工程間のいずれかに起泡・泡持ち向上物質を添加することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、起泡・泡持ち、即ち泡品質を向上する物質を添加することにより、泡品質を改善すると共にビール、発泡酒に類似する香味、泡品質を備え、かつ、すっきり感を備えたビール様発泡アルコール飲料の製造方法を提供できる。
【0011】
請求項3にかかる発明は、請求項2に記載の発明において、前記起泡・泡持ち向上物質としてエンドウ豆から抽出して得たエンドウタンパクを使用することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、前記起泡・泡持ち向上物質としてエンドウ豆から抽出して得たエンドウタンパクを使用することで、泡品質を改善すると共にビール、発泡酒に類似する香味、泡品質を備え、かつ、すっきり感を備えたビール様発泡アルコール飲料の製造方法を提供できる。
【0013】
請求項4にかかる発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造方法により製造した発泡アルコール飲料によって達成できる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、泡品質を改善すると共にビール、発泡酒に類似する香味、泡品質を備え、かつ、すっきり感を備えたビール様発泡アルコール飲料を提供できる。
【0015】
本発明で使用されるエンドウタンパクは、エンドウ豆から抽出し、精製分離して得た植物性タンパクであり、商業的に入手可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、炭素源を含有するシロップ、窒素源、該窒素源の少なくとも一部としての酵母エキス、ホップ及び水を原料として発酵前液を製造し、当該発酵前液を発酵させてビール様発泡アルコール飲料を製造することにより、酵母に適した栄養源を豊富に含む発酵前液を得ることが出来、発酵効率が改善され、ビール、発泡酒に類似する香味、泡品質を備え、かつ、すっきり感を備えたビール様発泡アルコール飲料の製造方法を得ることができる。また、製造工程あるいは各製造工程間においてエンドウタンパクを配合することにより、泡品質を改善した発泡アルコール飲料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下には本発明をより詳細に説明するために実施例を示す。
[実施例]
以下、本発明の製法に従って実施した具体例について述べる。
【0018】
ここでは、適当な窒素源と泡特性を改善する原材料とを組み併せて、あるいは何れ一方を使用する場合に適用して実施した試験醸造を説明する。なお、本実施例は、400Lスケールの醸造設備において試験的に実施したものである。計21種類のビール様発泡アルコール飲料及び2種類の発泡酒を製造し、これらについて泡持ち、発酵性香味の官能比較試験を行った。実施例1乃至7は何れも原材料以外の工程条件は同じとし、最終的にアルコール5.0容量%に調整した。同様に、実施例8も何れの原材料以外の工程条件は同じとし、最終的に5.5容量%に調整した。
【0019】
なお、エンドウ豆(豌豆:Pisum Sativum L)には黄色、グリーン、赤の3種類が有る
が、以下の実施例に使用したエンドウ豆は黄色エンドウであり、この当該黄色エンドウ豆より抽出したエンドウタンパクを使用する。
(実施例1)
実施例1は、麦芽、窒素源を使用することなく、炭素源を含有するシロップ、ホップ、色素、・泡特性を改善する原材料及び水を原料として発酵前液を製造し、該発酵前液を酵母を使用して発酵させることによりビール様発泡アルコール飲料を製造する方法に泡特性を改善する原材料としてエンドウタンパク(オルガノローディアフード社製:エンドウタンパク、以下同じ)、大豆タンパク(昭和産業社製:昭和フレッシュ、以下同じ)を使用することにより本発明を適用した例で、以下の手順で実施した。
(1)以下の原料を使用して発酵前液を調整する。
【0020】
使用原料:ビール様発泡アルコール飲料を製造するために、原料をシロップ69kg(固形分75%、シロップはDE50の製品を使い、商業的に入手可能 注:DEとはDextrose equivalentの略で、でん粉の糖化率)とした。そして泡特性を改善する原材料を使
用しない(#1−1)エンドウタンパク2000g(#1−2)、大豆タンパク2000
g(#1−3)として、発明の実施の形態で述べた製造工程に従って製造した。
【0021】
すなわち、カラメル色素240g(池田糖化工業社製:コクヨカラメル、以下同じ),ホップペレット400gに300乃至350Lのお湯を加えて、更にシロップを加えて溶解させ、60乃至90分間煮沸する。
【0022】
その後、ワールプールと呼ばれる沈殿槽でホップ粕などを除去し、10℃までプレートクーラーで冷却し、発酵前液を得る。この発酵前液にビール酵母を添加し、6乃至12℃で発酵させる(発酵日数は後述)。その後、−1℃で貯酒を行った。
【0023】
発酵液は珪藻土を利用して濾過して酵母を取り除き、最終的なビール様発泡アルコール飲料を得た。
【0024】
前述した様に、本実施例では、2種類の泡特性を改善する原材料を使って、ビール様発泡アルコール飲料を製造し、これらの3つの試験について泡特性について調べた。この泡特性は泡持ちNIBEM値(一般的にビール及び発泡酒などの発泡アルコール飲料の泡持ちを評価する指標値)を測定することにより行った。すなわち、NIBEM値が高い値を示せば、
泡持ちが良いと評価できる。
【0025】
【表1】


表1は泡持ちNIBEM値を示すものである。
【0026】
表1に示したデータから、エンドウタンパクを使用した#1−2は#1−1、#1−3と比較して優れた泡特性を有することが確認された。
【0027】
【表2】


評価基準:項目毎に以下の通り、3または段階評価
硫化物臭 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
エステル香 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
後味 :0(切れず)、1(やや切れず)、2(並)、3(やや切れる)
表2の官能評価は#1−1の香味を基準としている。
【0028】
なお、本実施例ではいずれのサンプルとも「後味」の評価は良好とは言えなかった。これは、各サンプルの製造過程で窒素源を添加していないため、発酵が途中で止まり、所定より残存エキス分が所定よりも多いことに起因し、この残存エキス分によって、より甘味が感じられることとなり、後味に影響が現われた。しかしながら、そのような状況においても、エンドウタンパクを使用したサンプル#1−2が、他のサンプル#1−1、#1−
3と比べてより硫化物臭が低減されて、エステル香や切れも明らかに上回っていた。
【0029】
【表3】


表3は本実施例におけるビール様発泡アルコール飲料の製造工程において、発酵日数を比較したものである。発酵日数は、当該発酵前液のエキスが11.00%から仮性エキスで2.50%になるまでを目指したが、本実施例では、仮性エキスで4.00%まで下が
らなかった。仮性エキスは発酵によって当該発酵前液中の糖から生じたアルコールと発酵されていない糖との比重から求められたエキスであり、より具体的には発酵工程中の発酵液を採取して、振動式密度計で測定した。通常の発酵日数は7乃至9日であるが、本実施例では、発酵液中に酵母が資化可能な糖があるにも関わらず、仮性エキスが4.00%で発酵は止まった。
【0030】
【表4】


表4は本実施例における酵母を添加する前の当該発酵前液中の遊離アミノ態窒素の量を示している。好ましい発酵が出来なかったために、更に窒素源を補給することが望ましい。
(実施例2)
実施例2は、窒素源として麦芽を使用することなく大豆タンパクの分解物(不二製油社製:ハイニュート、以下同じ)を使用し、炭素源を含有するシロップ、窒素源、ホップ、色素、・泡特性を改善する原材料及び水を原料として発酵前液を製造し、該発酵前液を酵母を使用して発酵させることによりビール様発泡アルコール飲料を製造する方法に泡特性を改善する原材料としてエンドウタンパク、大豆タンパクを使用することにより本発明を適用した例で、以下の手順で実施した。
(1)以下の原料を使用して発酵前液を調整する。
【0031】
使用原料:ビール様発泡アルコール飲料を製造するために、原料をシロップ69kg(固形分75%、シロップはDE50の製品を使い、商業的に入手可能 注:DEとはDextrose equivalentの略で、でん粉の糖化率)とした。窒素源として大豆タンパクの分解物
を400g使用した。そして泡特性を改善する原材料を使用しない(#2−1)、エンドウタンパク2000g(#2−2)、大豆タンパク2000g(#2−3)として、発明
の実施の形態で述べた製造工程に従って製造した。
【0032】
すなわち、カラメル色素240g,ホップペレット400gに300乃至350Lのお湯を加えて、更にシロップを加えて溶解させ、60乃至90分間煮沸する。
【0033】
その後、ワールプールと呼ばれる沈殿槽でホップ粕などを除去し、10℃までプレートクーラーで冷却し、発酵前液を得る。この発酵前液にビール酵母を添加し、6乃至12℃で発酵させる(発酵日数は後述)。その後、−1℃で貯酒を行った。
【0034】
発酵液は珪藻土を利用して濾過して酵母を取り除き、最終的なビール様発泡アルコール飲料を得た。
【0035】
以下、実施例1と同様に、泡持ち、官能評価、発酵日数、遊離アミノ酸量をそれぞれ表5乃至表8に示す。
【0036】
【表5】


表5は泡持ちNIBEM値を示すものである。
【0037】
表5に示したデータから、エンドウタンパクを使用した#2−2は、#2−1、#2−3と比較して優れた泡特性を有することが確認された。
【0038】
【表6】


評価基準:項目毎に以下の通り、3または段階評価
硫化物臭 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
エステル香 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
後味 :0(切れず)、1(やや切れず)、2(並)、3(やや切れる)
表6の官能評価は#2−1の香味を基準としている。
【0039】
10名のパネルで官能評価を行った結果、エンドウタンパクを使用した#2−2が、#2−1、#2−3と比べてより硫化物臭が低減されて、エステル香が増加し、後味で切れが増すなどビール、発泡酒などの麦芽アルコール飲料で好まれる特徴が増強された。
【0040】
【表7】


表7は本実施例におけるビール様発泡アルコール飲料の製造工程において、発酵日数を比較したものである。発酵日数は、当該発酵前液のエキスが11.00%から仮性エキスで2.50%になるまでとした。仮性エキスは発酵工程中の発酵液を採取して、振動式密度計で測定した。通常の発酵日数は7乃至9日であるが、この結果からも分かる様に、#2−2が、#2−1、#2−3に比べて発酵日数が1日短縮された。
【0041】
【表8】


表8は本実施例における酵母を添加する前の当該発酵前液中の遊離アミノ態窒素の量を示している。#2−1と比べて、エンドウタンパクを使った#2−2、大豆タンパクを使った#2−3で何れも値がわずかに上昇していた。
(実施例3)
実施例3は、窒素源として麦芽を使用することなく炭素源として使用するシロップの一部に米糖化液(群栄化学社製、米の分解物、商業的に入手可能)を使用し、この米糖化液に含まれる窒素源を利用する。更にホップ、色素、・泡特性を改善する原材料及び水を原料として発酵前液を製造し、該発酵前液を酵母を使用して発酵させることによりビール様発泡アルコール飲料を製造する方法に泡特性を改善する原材料としてエンドウタンパク、大豆タンパクを使用することにより本発明を適用した例で、以下の手順で実施した。
(1)以下の原料を使用して発酵前液を調整する。
【0042】
使用原料:ビール様発泡アルコール飲料を製造するために、原料をシロップ69kg(固形分75%、DE50のシロップ52.1kg、残りの6.9kgは米糖化液を使用、何れも商業的に入手可能)とした。窒素源として、前記シロップ69kgの内、6.9kgを米糖化液で置換え、この米糖化液に含まれる窒素源を利用した。そして泡特性を改善する原材料として使用しない(#3−1)エンドウタンパク2000g(#3−2)、大
豆タンパク2000g(#3−3)として、発明の実施の形態で述べた製造工程に従って製造した。
【0043】
すなわち、カラメル色素240g,ホップペレット400gに300乃至350Lのお湯を加えて、更にシロップを加えて溶解させ、60乃至90分間煮沸する。
【0044】
その後、ワールプールと呼ばれる沈殿槽でホップ粕などを除去し、10℃までプレートクーラーで冷却し、発酵前液を得る。この発酵前液にビール酵母を添加し、6乃至12℃で発酵させる(発酵日数は後述)。その後、−1℃で貯酒を行った。
【0045】
発酵液は珪藻土を利用して濾過して酵母を取り除き、最終的なビール様発泡アルコール飲料を得た。
【0046】
【表9】


表9は泡持ちNIBEM値を示すものである。
【0047】
表9に示したデータから、エンドウタンパクを使用した#3−2は#3−1、#3−3と比較して優れた泡特性を有することが確認された。
【0048】
【表10】


評価基準:項目毎に以下の通り、3または段階評価
硫化物臭 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
エステル香 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
後味 :0(切れず)、1(やや切れず)、2(並)、3(やや切れる)
表10の官能評価は#3−1の香味を基準としている。
【0049】
10名のパネルで官能評価を行った結果、エンドウタンパクを使用した#3−2が、#3−1、#3−3と比べてより硫化物臭が低減されて、エステル香が増加し、後味で切れが増すなどビール、発泡酒などの麦芽アルコール飲料で好まれる特徴が増強された。
【0050】
【表11】


表11は本実施例におけるビール様発泡アルコール飲料の製造工程において、発酵日数を比較したものである。発酵日数は、当該発酵前液のエキスが11.00%から仮性エキスで2.50%になるまでとした。仮性エキスは発酵工程中の発酵液を採取して、振動式密度計で測定した。通常の発酵日数は7乃至9日であるが、この結果からも分かる様に、#3−2、#3−3が、#3−1に比べて発酵日数が1日短縮された。
【0051】
【表12】


表12は本実施例における酵母を添加する前の当該発酵前液中の遊離アミノ態窒素の量を示している。#3−1と比べて、エンドウタンパクを使った#3−2、大豆タンパクを使った#3−3で何れも値がわずかに上昇していた。
(実施例4)
実施例4は、窒素源として麦芽を使用することなくコーンタンパク粉末(コーンタンパクの分解物、商業的に入手可能)を使用し、炭素源を含有するシロップ、窒素源、ホップ、色素、・泡特性を改善する原材料及び水を原料として発酵前液を製造し、該発酵前液を酵母を使用して発酵させることによりビール様発泡アルコール飲料を製造する方法に泡特性を改善する原材料としてエンドウタンパク、大豆タンパクを使用することにより本発明を適用した例で、以下の手順で実施した。
(1)以下の原料を使用して発酵前液を調整する。
【0052】
使用原料:ビール様発泡アルコール飲料を製造するために、原料をシロップ69kg(固形分75%、シロップはDE50の製品を使い、何れも商業的に入手可能 、注:DEとはDextrose equivalentの略で、でん粉の糖化率)とした。窒素源としてコーンタンパク粉末を240g使用した。そして泡特性を改善する原材料を使用しない(#4−1)、エンドウタンパク2000g(#4−2)、大豆タンパク2000g(#4−3)として
、発明の実施の形態で述べた製造工程に従って製造した。
【0053】
すなわち、カラメル色素240g,ホップペレット400gに300乃至350Lのお湯を加えて、更にシロップを加えて溶解させ、60乃至90分間煮沸する。
【0054】
その後、ワールプールと呼ばれる沈殿槽でホップ粕などを除去し、10℃までプレートクーラーで冷却し、発酵前液を得る。この発酵前液にビール酵母を添加し、6乃至12℃で発酵させる(発酵日数は後述)。その後、−1℃で貯酒を行った。
【0055】
発酵液は珪藻土を利用して濾過して酵母を取り除き、最終的なビール様発泡アルコール飲料を得た。
【0056】
以下、実施例3と同様に、泡持ち、官能評価、発酵日数及び遊離アミノ酸量を示す。
【0057】
【表13】


表13は泡持ちNIBEM値を示すものである。
【0058】
表13に示したデータから、エンドウタンパクを使用した#4−2は#4−1、#4−3と比較して優れた泡特性を有することが確認された。
【0059】
【表14】


評価基準:項目毎に以下の通り、3または段階評価
硫化物臭 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
エステル香 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
後味 :0(切れず)、1(やや切れず)、2(並)、3(やや切れる)
表14の官能評価は#4−1の香味を基準としている。
【0060】
10名のパネルで官能評価を行った結果、エンドウタンパクを使用した#4−2が、#4−1、#4−3と比べてより硫化物臭が低減されて、エステル香が増加し、後味で切れが増すなどビール、発泡酒などの麦芽アルコール飲料で好まれる特徴が増強された。
【0061】
【表15】


表15は本実施例におけるビール様発泡アルコール飲料の製造工程において、発酵日数を比較したものである。発酵日数は、当該発酵前液のエキスが11.00%から仮性エキスで2.50%になるまでとした。仮性エキスは発酵工程中の発酵液を採取して、振動式密度計で測定した。通常の発酵日数は7乃至9日であるが、この結果からも分かる様に、#4−2が、#4−1、#4−3に比べて発酵日数が1日短縮された。
【0062】
【表16】


表16は本実施例における酵母を添加する前の当該発酵前液中の遊離アミノ態窒素の量を示している。#4−1と比べて、エンドウタンパクを使った#4−2、大豆タンパクを使った#4−3で何れも値がわずかに上昇していた。
(実施例5)
実施例5は、窒素源として麦芽を使用することなくコーンタンパク粉末(コーンタンパクの分解物、商業的に入手可能)、酵母エキス(サッポロビール社製、乾燥酵母のエキス溶液、商業的入手可能)を使用し、炭素源を含有するシロップ、窒素源、ホップ、色素、・泡特性を改善する原材料及び水を原料として発酵前液を製造し、該発酵前液を酵母を使用して発酵させることによりビール様発泡アルコール飲料を製造する方法に泡特性を改善する原材料としてエンドウタンパク、大豆タンパクを使用することにより本発明を適用した例で、以下の手順で実施した。
(1)以下の原料を使用して発酵前液を調整する。
【0063】
使用原料:ビール様発泡アルコール飲料を製造するために、原料をシロップ69kg(固形分75%、シロップはDE50の製品を使い、何れも商業的に入手可能 、注:DEとはDextrose equivalentの略で、でん粉の糖化率)とした。窒素源としてコーンタンパク粉末を120g、酵母エキス60g使用した。そして泡特性を改善する原材料を使用しない(#5−1)、エンドウタンパク2000g(#5−2)、大豆タンパク2000g
(#5−3)として、発明の実施の形態で述べた製造工程に従って製造した。
【0064】
すなわち、カラメル色素240g,ホップペレット400gに300乃至350Lのお湯を加えて、更にシロップを加えて溶解させ、60乃至90分間煮沸する。
【0065】
その後、ワールプールと呼ばれる沈殿槽でホップ粕などを除去し、10℃までプレートクーラーで冷却し、発酵前液を得る。この発酵前液にビール酵母を添加し、6乃至12℃で発酵させる(発酵日数は後述)。その後、−1℃で貯酒を行った。
【0066】
発酵液は珪藻土を利用して濾過して酵母を取り除き、最終的なビール様発泡アルコール飲料を得た。
【0067】
以下、実施例5における、泡持ち、官能評価、発酵日数、遊離アミノ酸量を示す。
【0068】
【表17】


表17は泡持ちNIBEM値を示すものである。
【0069】
表17に示したデータから、エンドウタンパクを使用した#5−2は#5−1、#5−3と比較して優れた泡特性を有することが確認された。
【0070】
【表18】


評価基準:項目毎に以下の通り、3または段階評価
酵母臭 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
エステル香 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
後味 :0(切れず)、1(やや切れず)、2(並)、3(やや切れる)
表18の官能評価は#5−1の香味を基準としている。
【0071】
10名のパネルで官能評価を行った結果、何れの実施例も同等の酵母臭とエステル香を有した。
【0072】
【表19】


表19は本実施例におけるビール様発泡アルコール飲料の製造工程において、発酵日数を比較したものである。発酵日数は、当該発酵前液のエキスが11.00%から仮性エキスで2.50%になるまでとした。仮性エキスは発酵工程中の発酵液を採取して、振動式密度計で測定した。通常の発酵日数は7乃至9日であるが、この結果からも分かる様に、#5−2が、#5−1、#5−3に比べて発酵日数が1日短縮された。
【0073】
【表20】


表20は本実施例における酵母を添加する前の当該発酵前液中の遊離アミノ態窒素の量を示している。#5−1と比べて、エンドウタンパクを使った#5−2、大豆タンパクを使った#5−3で何れも値がわずかに上昇していた。
【0074】
また、上記実施例4と5の結果から、窒素源としてコーンタンパク粉末と酵母エキスを使用した実施例5は、コーンタンパク粉末だけを窒素源として使用した実施例4と比較して、起泡・泡持ち向上物質の種類や有無に関係なく、酵母の栄養源である遊離アミノ態窒素の含有量が増加しており、発酵日数も減少していることが確認された。したがって、少なくとも窒素源の一部として酵母エキスの使用が酵母にとって適しており、発酵効率が改善されたことが分かる。
(実施例6)
実施例6は、窒素源として麦芽を使用することなくコーンタンパク粉末(コーンタンパクの分解物、商業的に入手可能)、硫酸アンモニウムを使用し、炭素源を含有するシロップ、窒素源、ホップ、色素、・泡特性を改善する原材料及び水を原料として発酵前液を製造し、該発酵前液を酵母を使用して発酵させることによりビール様発泡アルコール飲料を製造する方法に泡特性を改善する原材料としてエンドウタンパク、大豆タンパクを使用することにより本発明を適用した例で、以下の手順で実施した。
(1)以下の原料を使用して発酵前液を調整する。
【0075】
使用原料:ビール様発泡アルコール飲料を製造するために、原料をシロップ69kg(固形分75%、シロップはDE50の製品を使い、何れも商業的に入手可能 、注:DEとはDextrose equivalentの略で、でん粉の糖化率)とした。窒素源としてコーンタンパク粉末を240g、硫酸アンモニウム26g使用した。そして泡特性を改善する原材料を使用しない(#6−1)、エンドウタンパク2000g(#6−2)、大豆タンパク20
00g(#6−3)として、発明の実施の形態で述べた製造工程に従って製造した。
【0076】
すなわち、カラメル色素240g,ホップペレット400gに300乃至350Lのお湯を加えて、更にシロップを加えて溶解させ、60乃至90分間煮沸する。
【0077】
その後、ワールプールと呼ばれる沈殿槽でホップ粕などを除去し、10℃までプレートクーラーで冷却し、発酵前液を得る。この発酵前液にビール酵母を添加し、6乃至12℃で発酵させる(発酵日数は後述)。その後、−1℃で貯酒を行った。
【0078】
発酵液は珪藻土を利用して濾過して酵母を取り除き、最終的なビール様発泡アルコール飲料を得た。
【0079】
以下、実施例6における泡持ち、官能評価、発酵日数、遊離アミノ酸量の測定結果を示す。
【0080】
【表21】


表21は泡持ちNIBEM値を示すものである。
【0081】
表21に示したデータから、エンドウタンパクを使用した#6−2は、#6−1、#6−3と比較して優れた泡特性を有することが確認された。
【0082】
【表22】


評価基準:項目毎に以下の通り、3または段階評価
硫化物臭 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
エステル香 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
後味 :0(切れず)、1(やや切れず)、2(並)、3(やや切れる)
表22の官能評価は#6−1の香味を基準としている。
【0083】
10名のパネルで官能評価を行った結果、エンドウタンパクを使用した#6−2が、#6−1、#6−3と比べてより硫化物臭が低減されて、エステル香が増加し、後味で切れが増すなどビール、発泡酒などの麦芽アルコール飲料で好まれる特徴が増強された。
【0084】
【表23】


表23は本実施例におけるビール様発泡アルコール飲料の製造工程において、発酵日数を比較したものである。発酵日数は、当該発酵前液のエキスが11.00%から仮性エキスで2.50%になるまでとした。仮性エキスは発酵工程中の発酵液を採取して、振動式密度計で測定した。通常の発酵日数は7乃至9日であるが、この結果からも分かる様に、#6−2が、#6−1、#6−3に比べて発酵日数が1日短縮された。
【0085】
【表24】


表24は本実施例における酵母を添加する前の当該発酵前液中の遊離アミノ態窒素の量を示している。#6−1と比べて、エンドウタンパクを使った#6−2、大豆タンパクを使った#6−3で何れも値がわずかに上昇していた。
(実施例7)
実施例7は、窒素源として麦芽を使用することなくホワイトソルガム(日本ではこうりゃん、またはモロコシと呼ばれている、ホワイトソルガムの粉砕物、商業的に入手可能)、硫酸アンモニウムを使用し、炭素源を含有するシロップ、窒素源、ホップ、色素、・泡特性を改善する原材料及び水を原料として発酵前液を製造し、該発酵前液を酵母を使用して発酵させることによりビール様発泡アルコール飲料を製造する方法に泡特性を改善する原材料としてエンドウタンパク、大豆タンパクを使用することにより本発明を適用した例で、以下の手順で実施した。
(1)以下の原料を使用して発酵前液を調整する。
【0086】
使用原料:ビール様発泡アルコール飲料を製造するために、原料をシロップ34.5k
g(固形分75%、シロップはDE50の製品を使い、何れも商業的に入手可能 、注:DEとはDextrose equivalentの略で、でん粉の糖化率)とした。窒素源としてホワイトソルガムの粉砕物を34.5kg、αアミラーゼ34.5g、βアミラーゼ34.5g、プロテアーゼ34.5gを使用した。そして泡特性を改善する原材料を使用しない(#7−1)、エンドウタンパク2000g(#7−2)、大豆タンパク2000g(#7−3)として、発明の実施の形態で述べた製造工程に従って製造した。
【0087】
すなわち、150乃至175Lのお湯を加えて、ホワイトソルガム粉砕物とαアミラーゼ、βアミラーゼ、プロテアーゼを加えて48℃で20分間保持した。次に65℃まで昇温して25分間保持して、75℃まで昇温した。その後、カラメル色素240g,ホップペレット400gに150乃至175Lのお湯を加えて、更にシロップを加えて溶解させ、60乃至90分間煮沸した。
【0088】
その後、ワールプールと呼ばれる沈殿槽でホップ粕などを除去し、10℃までプレートクーラーで冷却し、発酵前液を得る。この発酵前液にビール酵母を添加し、6乃至12℃で発酵させる(発酵日数は後述)。その後、−1℃で貯酒を行った。
【0089】
発酵液は珪藻土を利用して濾過して酵母を取り除き、最終的なビール様発泡アルコール飲料を得た。
【0090】
【表25】


表25は泡持ちNIBEM値を示すものである。
【0091】
表25に示したデータから、エンドウタンパクを使用した#7−2は#7−1、#7−3と比較して優れた泡特性を有することが確認された。
【0092】
【表26】


評価基準:項目毎に以下の通り、3または段階評価
硫化物臭 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
エステル香 :0(弱い)、1(やや弱い)、2(並)、3(やや強い)
後味 :0(切れず)、1(やや切れず)、2(並)、3(やや切れる)
表26の官能評価は#7−1の香味を基準としている。
【0093】
10名のパネルで官能評価を行った結果、エンドウタンパクを使用した#7−2と#7−3が、#7−1と比べてより硫化物臭が低減されており、さらに#7−2は#7−1、#7−3と比べてエステル香が増加したが、後味の切れは何れの実施例で同等であった。
【0094】
【表27】

表27は本実施例におけるビール様発泡アルコール飲料の製造工程において、発酵日数を比較したものである。発酵日数は、当該発酵前液のエキスが11.00%から仮性エキスで2.50%になるまでとした。仮性エキスは発酵工程中の発酵液を採取して、振動式密度計で測定した。通常の発酵日数は7乃至9日であるが、この結果からも分かる様に、何れの実施例も通常の発酵日数よりもかなり短縮されて、同等の発酵日数であった。
【0095】
【表28】


表28は本実施例における酵母を添加する前の当該発酵前液中の遊離アミノ態窒素の量を示している。#7−1と比べて、わずかではあるが、エンドウタンパクを使った#7−2、大豆タンパクを使った#7−3で何れも値が上昇していた。
【0096】
本発明の実施例1乃至7の様な、麦芽及び麦類を使用しないアルコール飲料において、エンドウタンパクが、泡持ちに寄与するだけでなく、後味の切れのようなビール、発泡酒などの麦芽アルコール飲料で好まれる特徴が増強され、結果として好ましい香味のアルコール飲料の製造に寄与していると考えることができ、このことは上記実施例による試験結果と一致する。
【0097】
更に、上記の官能評価からもわかる様に、少なくとも0.5%のエンドウタンパクを使用することで、硫化物臭や酸味のような香味が低減され、かつエステル臭、味の厚味と言ったビール、発泡酒などの麦芽アルコール飲料で好まれる特徴が増強された。
(実施例8)
本実施例は、エンドウタンパクを発泡酒仕様のアルコール飲料の製造に適用したもので以下の手順により実施した。
(1)麦芽15kgに57℃のお湯を加え糖化を行ったろ過麦汁310Lにシロップ50kgとエンドウタンパク350g、ホップペレット500gを加え、60乃至90分間煮沸する。その後、ワールプールと呼ばれる沈殿槽でホップ粕などを除去し、10℃までプレートクーラーで冷却し、発酵前液を得る。
(2)この発酵前液にビール酵母を添加し、6乃至15℃で5日乃至15日間発酵させる。その後、−1℃で貯酒を行った。発酵液は珪藻土を利用して濾過して酵母を取り除き、アルコール5.0容量%の試験発泡酒(♯8―1)を製造した。
(3)更に、比較として発酵前液の配合からエンドウタンパクだけを除いて対照の発泡酒(♯8−2)を得た。
(4)前例と同様に泡持ち試験を実施し、対照と比較した結果を、表29に示している。本実施例においても、エンドウタンパクを使用しないものと比較して泡持ちが向上していることがわかる。
【0098】
【表29】


以上本発明の好ましい実施形態及び実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。より具体的には、エキス分が2.00%を切る様に上記の雑酒を濃度調整すればスピリッツになり、発酵工程以降に、フレーバーなどを添加すればリキュールへの転用も容易に可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源を含有するシロップ、窒素源、該窒素源の少なくとも一部としての酵母エキス、ホップ及び水を原料として発酵前液を製造する工程と、前記発酵前液を酵母を用いて発酵させることにより発泡アルコール飲料を得る発酵工程と、発酵工程を経た発泡アルコール飲料を濾過する濾過工程とで構成されたことを特徴とする発泡アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
濾過工程前の前記各工程又は各工程間のいずれかに起泡・泡持ち向上物質を添加することを特徴とする請求項1に記載の発泡アルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
前記起泡・泡持ち向上物質としてエンドウ豆から抽出して得たエンドウタンパクを使用することを特徴とする請求項2に記載の発泡アルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造方法により製造した発泡アルコール飲料。

【公開番号】特開2008−295463(P2008−295463A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235953(P2008−235953)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【分割の表示】特願2005−35263(P2005−35263)の分割
【原出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】