説明

発泡ケーブル及びその製造方法

【課題】遅延時間(Td)と遅延時間差(Skew)の両方を小さくし、高発泡、高安定の発泡絶縁体を高い生産性で形成して、Skewの小さなケーブルを効率よく生産する手段を提供する。
【解決手段】中心導体21の外周に、発泡絶縁体23を形成してなる発泡絶縁電線10を、少なくとも2本並行に配置或いは少なくとも2本対よりにした構造をもつ発泡ケーブル1において、前記発泡絶縁電線10の遅延時間(Td)が3.9ns/m以上4.2ns/m以下であり、かつ前記発泡絶縁体23の170℃におけるゼロせん断粘度が3000Pa・s以上18000Pa・s以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速信号伝送に用いられる発泡ケーブル及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化と高性能化に伴い、それらに使用される信号伝送用ケーブルにおいても高性能化、すなわち伝送速度の高速化や通信容量の増大が強く望まれている。
【0003】
伝送速度は遅延時間(Td)で表されることが多く、殆どの場合1mの電線を信号が通過するのに必要な時間(ns/m)で表される。このTdが小さいほど伝送速度は大きい。
【0004】
伝送速度は電線に用いる絶縁体の誘電率の影響が大きく、誘電率が小さいほど伝送速度が向上することは広く知られており、ポリエチレン(比誘電率:約2.3)やふっ素樹脂(比誘電率:2.1〜2.2)の低誘電率絶縁体が用いられている。更に、空気の比誘電率が1であることから、これらの絶縁体中に気泡を含有させることで絶縁体全体としての比誘電率を抑制する技術も実用化されており、発泡絶縁電線として一般化している。発泡度の高いタイプではTdが4.0ns/m以下となるものがある。
【0005】
一方、通信容量の増大に対応する方法として、差動伝送方式が主流になりつつある。差動伝送方式は、GHz帯の高周波信号を用いて通信を行うため通信容量が大きい反面、信号到達の時間に僅かなズレを生じても通信不良となってしまう。そのため、ペアで使用する電線の遅延時間差(Skew)を小さくする必要がある。
【0006】
通信の速度と容量を向上させるため、このような用途にはTdとSkewの両方を小さくしたケーブルが求められている。
【0007】
なお、発泡絶縁電線の製造方法には大別して以下の2種類の製造方法がある。
【0008】
(物理発泡法)
一つは押出機の中で溶融した樹脂中に高圧のガスを注入する方法で、物理発泡法と称される。概略手順は以下の通りである。
1) 押出機中に樹脂を投入し、加熱混練を行って溶融させる。
2) 樹脂の流路の途中から高圧のガスを注入し溶解させる。
3) 導体上にガスの溶解した樹脂を被覆する。
4) 導体の移動に伴い、被覆した樹脂を押出機外部に移動させる。
5) 押出機内部での圧力から開放され、樹脂中に溶解していたガスが気泡となる。
6) 気泡が過剰に成長して絶縁体が不均一になる前に冷却し、樹脂を固化させる。
【0009】
(化学発泡法)
もう一つは、樹脂と共に化学的な発泡剤を投入する方法で、化学発泡法と呼ばれる。概略手順は以下の通りである。
1) 押出機中に樹脂と発泡剤を投入する。発泡剤は単独でも樹脂中に混練していてもよい。
2) 押出機中で発泡剤の分解温度以上に加熱する。その際押出機中で発泡しないよう樹脂の圧力が高い状態を維持し、発生したガスを樹脂中に溶解させる。
3) 導体上にガスの溶解した樹脂を被覆する。
4) 導体の移動に伴い、被覆した樹脂を押出機外部に移動させる。
5) 押出機内部での圧力から開放され、樹脂中に溶解していたガスが気泡となる。
6) 気泡が過剰に成長して絶縁体が不均一になる前に冷却し、樹脂を固化させる。
【0010】
物理発泡方式は、化学発泡方式に比べ以下の利点がある。
(1)高い発泡度を得やすい。
(2)化学的な発泡剤を使用しないため、発泡剤や発泡剤の残渣による絶縁体の電気特性(誘電率εや誘電正接tanδ)の低下が少ない。
【0011】
以上の理由から、高性能発泡絶縁電線の製造には物理発泡方式が多用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−339099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、当該発泡方式による発泡絶縁電線には、気泡成長が不安定になるという問題がある。気泡成長は、気泡内のガス圧を推進力としているため、周囲の材料粘度が高い場合は遅く、ゼロせん断粘度が低い場合は速くなることが知られている。気泡成長が速すぎると、気泡の成長にバラつきが生じたり、異常成長が起きやすくなり、外径変動、偏心(偏肉)、発泡度変動が原因となって個々の発泡絶縁電線のTdにバラつきが生じてSkewが大きくなる。
【0014】
また、特に細径薄肉の発泡絶縁電線、ケーブルの場合、僅かな気泡成長の違いが発泡絶縁体の変動に繋がるため、比較的高粘度の材料を用いて気泡の成長を穏やかにする場合が多い。しかし、高発泡の絶縁体を形成する場合は、高粘度の材料を使用してもさらに高圧のガスで発泡させるため気泡の異常成長が起きやすく、このような電線、ケーブルは生産性が低くなってしまう。
【0015】
この問題への対策のひとつとして、発泡核剤を極端に微粒子化して用いる方法(特許文献1)などが提案されている。これは発泡起点となる微粒子の核剤を使用することで気泡を大量に発生させ、個々の気泡に流入するガスを減らすことで、気泡の異常成長防止を狙っている。しかし、この方法も以下のような問題を抱えている。
(1) 超微粒子核剤は樹脂中への均一な分散が難しいため、2次凝集や分散不良の問題が発生しやすい。
(2) 核剤が超微粒子になると、作業環境を汚染しやすいため、取扱い上の手間がかかり、作業性が低下する。
(3) 微粒子の核剤を使用しても、発泡度を向上させるため添加量を増やした場合、発泡絶縁体としての誘電率εや誘電正接tanδに悪影響を与えやすい。
【0016】
上述の通り、Tdを小さくするとTdにバラつきが生じてしまい、Skewを小さくすることは難しい。
【0017】
本発明は、掛かる点に関して成されたものであり、TdとSkewの小さな発泡ケーブルとその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために本発明は、中心導体の外周に、発泡絶縁体を形成してなる発泡絶縁電線を、少なくとも2本並行に配置或いは少なくとも2本対よりにした構造をもつ発泡ケーブルにおいて、前記発泡絶縁電線の遅延時間(Td)が3.9ns/m以上4.2ns/m以下であり、かつ前記発泡絶縁体の170℃におけるゼロせん断粘度が3000Pa・s以上18000Pa・s以下の発泡ケーブルである。
【0019】
前記発泡絶縁体の外径が2mm以下で、かつ前記中心導体の直径が1mm以下であるとよい。
【0020】
前記発泡ケーブルの遅延時間差(Skew)が、8ps/m以下であるとよい。
【0021】
前記発泡ケーブルにおいて、中心導体の外周に被覆された発泡絶縁体が、直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とする材料からなるとよい。
【0022】
また、本発明は、ポリオレフィン樹脂と発泡剤もしくは発泡核剤を含む樹脂組成物を押出機で押し出すと共に化学発泡又は物理発泡させ、中心導体の外周に発泡絶縁体を被覆して発泡絶縁電線を形成し、その発泡絶縁電線を少なくとも2本並行に配置或いは少なくとも2本対よりにして形成する発泡ケーブルの製造方法において、前記発泡絶縁体が、ポリオレフィン樹脂と発泡剤もしくは発泡核剤を含む樹脂組成物から成り、かつ前記発泡絶縁体の170℃におけるゼロせん断粘度が3000Pa・s以上18000Pa・s以下である発泡ケーブルの製造方法である。
【0023】
前記発泡絶縁体の発泡度は50%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、発泡ケーブルのTdとSkewの両方を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施の形態に係る発泡ケーブルの断面図である。
【図2】図1の発泡ケーブルに用いる発泡絶縁電線の断面図である。
【図3】ポリエチレンの伸長粘度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0027】
本発明に係る発泡ケーブルは、中心導体の外周に、ポリオレフィン樹脂と発泡剤もしくは発泡核剤を含む樹脂組成物からなる発泡絶縁体を形成してなる発泡絶縁電線を、少なくとも2本並行に配置或いは少なくとも2本対よりにした構造を有するものである。
【0028】
本発明に係る発泡ケーブルの一例として、発泡絶縁電線を2本並行に配置した構造の図1に示すツインナックスケーブルについて説明するが、発泡ケーブルは図1の構造に限るものではなく、上述のように2本の発泡絶縁電線を撚り合わせた対より線構造としてもよい。また、4本あるいは6本以上の発泡絶縁電線を撚り合わせて、向かい合う2本を1組として使用する構造、スペーサーや介材を使用する構造としてもよい。さらに、これらを複数まとめて1本のケーブルとすることも可能である。
【0029】
図1に示すように、本実施の形態に係る発泡ケーブル1は、2本並行に配置された発泡絶縁電線10と、発泡絶縁電線10に沿うように配置されたドレイン線11とを有し、これらの外周にシールドテープ12が被覆され、更にその外周に樹脂テープ13が巻きつけられて形成される。
【0030】
シールドテープ12は、外部からのノイズを遮蔽するためのものであり、シールドテープ12で遮蔽した外部からのノイズは、ドレイン線11を通じて外部のアースへ落とされる。
【0031】
発泡絶縁電線10は、図2に示すように、中心導体21の外周に、無数の気泡22を有する発泡絶縁体23を押出被覆して形成される。中心導体21は、単線でもより線でもよい。なお、より線の場合は単線に比べて導体断面積が小さくなるため、同一断面積に換算したより線径に読み替えるものとする。
【0032】
発泡絶縁電線10の発泡絶縁体23の外径は2mm以下で、かつ中心導体21の直径は1mm以下である。そうすることで、細径薄肉の発泡ケーブル1が形成される。
【0033】
ここで、発泡絶縁電線においては、伝送速度の高速化の観点から遅延時間(Td)を小さくすることが望まれる。そのためには、発泡絶縁電線の発泡絶縁体における発泡度を高くする必要がある。
【0034】
しかし、発泡絶縁体の発泡度を高くすることによってTdを小さくしても、発泡絶縁電線の長手方向に亘って発泡を均一にすることは難しく、Tdにバラつきが生じてしまう。このように、Tdにバラつきがあると、これを用いて構成されるツインナックスケーブルなど、複数本の発泡絶縁電線を束ねてなる発泡ケーブルでは遅延時間差(Skew)を小さくするのが難しい。
【0035】
そこで、本発明者らは、発泡絶縁電線におけるTdのバラつきの発生を防止して、発泡ケーブルとしたときのSkewを小さくすることができる条件を規定した。
【0036】
すなわち、本発明は、発泡絶縁電線のTdが3.9ns/m以上4.2ns/m以下であり、かつ発泡絶縁電線の発泡絶縁体の170℃におけるゼロせん断粘度が3000Pa・s以上18000Pa・s以下であれば、発泡ケーブルとしたときにSkewを8ps/m以下にできる旨、保証するものである。
【0037】
以下、発泡ケーブル1の製造方法と共に、各項目について説明する。
【0038】
まず、中心導体21の外周に無数の気泡22を有する発泡絶縁体23を押出被覆して発泡絶縁電線10を形成する。このときの条件は以下の通りである。
【0039】
(発泡方式、条件)
発泡方式について述べる。発泡方法としては、物理発泡、化学発泡の2つの方法があり、本発明に適用する方法としては物理発泡方式が好ましいが、製品の目的と要求性能にあわせて化学発泡方式を選択することも出来る。
【0040】
発泡絶縁電線10のTdは、発泡絶縁体23の発泡度により調整する。例えば、樹脂組成物の主成分がLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)の場合、発泡度を50%以上とすれば、Tdを4.2ns/m以下とすることが出来る。
【0041】
(ゼロせん断粘度)
樹脂組成物のゼロせん断粘度は、3000Pa・s以上18000Pa・s以下の範囲であるが、より好ましくは8000Pa・s以上12000Pa・s程度の範囲である。この範囲から更に粘度が高くなると、高圧のガスを用いて発泡せざるを得ず、巣の発生や気泡の異常成長が生じやすくなる。一方、低粘度に傾くと、中心導体21の外周に被覆した際に液ダレによる偏心(偏肉)が生じやすくなる。このため、材料の粘度は、最適範囲を中心とした3000Pa・s以上18000Pa・s以下が望ましい。
【0042】
ゼロせん断粘度の測定には、例えば、TAインスツルメンツ社製、動的粘度測定装置ARESを使用し、170℃でφ20mmパラレルプレートにて周波数をパラメータとして測定する。ゼロせん断粘度は、この測定結果を低周波側に延長し、せん断速度0に外挿して求める。
【0043】
中心導体上に被覆すると共に発泡し、形成された発泡絶縁体の170℃におけるゼロせん断粘度は、被覆形成前の樹脂組成物の170℃におけるゼロせん断粘度と変わらない。
【0044】
(樹脂組成物の配合)
本発明は、170℃におけるゼロせん断粘度が3000Pa・s以上18000Pa・s以下のポリオレフィン樹脂と発泡剤もしくは発泡核剤を含む樹脂組成物を発泡させることに特徴があり、特に材料組成を規定するものではないが、より、好ましい樹脂組成物の配合の例を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
すなわちJIS−K7210に準拠して測定したMFR(190℃、荷重2.16kg)が0.3〜2のHDPE(高密度ポリエチレン)とMFRが6〜10のLLDPE、第三成分としての発泡剤または発泡核剤を含むマスターバッチ(MB)のそれぞれの比率(質量部)が、15〜35、55〜75、20以下、である。MBについては後述する。
【0047】
LLDPEは、同レベルのゼロせん断粘度を持つ、他のHDPEやLDPE(低密度ポリエチレン)と比較すると、伸張粘度の歪硬化性が大きいという特徴を持つ(図3参照)。そのため、気泡が大きく成長した場合、歪硬化が発現して樹脂の粘性抵抗が増すことで、異常成長による破泡や巣の発生、外径変動等の問題を軽減できる。このLLDPEを主材料とすることで、低粘度でありながら気泡の異常成長を防止して性能の安定した発泡絶縁電線10の製造が可能になる。低粘度と歪硬化特性を併せ持つLLDPEとしては、(株)プライムポリマー製のウルトゼックス(登録商標)15150Jや、住友化学(株)製のスミカセン(登録商標)L−5721が挙げられる。
【0048】
無論、上記は本発明の考え方を示したものであり、樹脂組成物の材料配合は発泡ケーブル1に要求される性能に応じて選択できる。
【0049】
(発泡核剤MB)
物理発泡方式を採用する場合、樹脂中に溶解しているガスが気泡として発生するための起点として、発泡核剤を使用することが出来る。発泡核剤は殆どの場合微細な粉体状であり、これらを押出機中に投入した場合は樹脂中で分散不良を起こしやすい。このため、予めマスターバッチ(MB)と称する、発泡核剤を高濃度に配合したコンパウンドを添加する方法が一般的である。
【0050】
発泡核剤MBは、高濃度の発泡核剤を分散させることが目的であるため、特にその性状、形態は問わない。また、押出機中での分散性を更に向上させるため、予め本発明で使用するHDPEやLDPEあるいはLLDPEの一部または全部で希釈混練を行うことも出来る。
【0051】
発泡核剤の種類は、有機物、無機物、あるいは大きさや形状によって様々な選択肢が考えられるが、特に規定するものではなく、その目的と効果によって選択することが出来る。
【0052】
有機物の一例としてはADCA(アゾジカルボンアミド)に代表されるアゾ化合物、N−N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミンに代表されるニトロソ化合物、OBSH(4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド))やHDCA(ヒドラゾジカルボンアミド)に代表されるヒドラジン誘導体などが挙げられる。これらは後述の発泡剤としての作用も持つが、発泡核剤として使用することを制限するものではない。また、ポリエステル、ポリイミド、ふっ素樹脂、ポリメチルペンテン、環状オレフィンコポリマー、ポリスチレン、スチレン共重合体、ポリ乳酸、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、その他各種樹脂の粉末を選択できる。
【0053】
また、ポリオレフィン樹脂とは異なる樹脂を発泡核剤として添加し、押出機中で混練、攪拌することで発泡核剤としての効果を発揮させる方法も選択できる。
【0054】
無機物としては、シリカ、タルク、その他金属化合物を選択できる。
【0055】
勿論、発泡核剤の添加が一般的ではあるが、発泡絶縁電線10の用途や目的よっては発泡核剤の添加を行わない方法も選択できる。
【0056】
(発泡剤MB)
一方、化学発泡を行う場合、発泡ガスの発生源としての発泡剤を樹脂中に混練しておく必要がある。発泡剤の場合も、発泡核剤MBと同様に予めMB化しておくことが一般的であるが、単体で押出機中に投入、あるいは事前に希釈混練を行うことも出来る。
【0057】
発泡剤としては、ADCA(アゾジカルボンアミド)に代表されるアゾ化合物、N−N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミンに代表されるニトロソ化合物、OBSH(4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド))やHDCA(ヒドラゾジカルボンアミド)に代表されるヒドラジン誘導体、炭酸水素ナトリウムなど、用途と目的に応じて使用できる。
【0058】
(その他、添加剤など)
本実施の形態で用いる発泡絶縁電線10の本来の目的から、その電気特性上可能な限り、樹脂組成物は純粋にポリオレフィン樹脂と発泡剤もしくは発泡核剤のみからなることが好ましいが、その他の性能維持や、樹脂組成物の製造上止むを得ない添加剤等の使用は可能である。
【0059】
前者の例では、酸化防止剤、発泡核剤分散のための分散助剤、多数の発泡絶縁電線10を識別するための着色剤などがあり、後者の例では樹脂組成物合成時の分子量制御(過剰重合防止のための失活剤)や触媒の残留などである。これらはその目的と効果に応じて、使用することが出来る。
【0060】
また、着色剤(顔料、染料など)を配合した樹脂組成物を別途用意し、発泡絶縁体23の外層に被覆する方法も可能である。
【0061】
(構造上の変形例)
構造上の変形例も考えられる。着色剤を配合した樹脂組成物による外層被覆だけでなく、中心導体21直上(外周)に非発泡層を設け、その外周に発泡層を設けることも可能である。これは、特により線を使用した場合に、素線のより目に沿ってガスが抜ける現象を防止するのに効果的である。また、これの変形例として、少しでも発泡度を向上させるため、内層を僅かに発泡させる方法もある。
【0062】
また、中心導体21に用いる導体も銅線に限らず、その他の金属や合金、充分な導電性が確保できるのであればセラミックスや有機物の線条体に導電性を付与したものでも使用可能である。
【0063】
更にめっきの有無やその種類についてもその目的と用途に応じて、金、銀、錫あるいはそれ以外のめっきが選択可能である。めっき以外の表面改質方法として、コーティング、焼結、クラッド材の使用なども選択可能である。
【0064】
以上の条件により発泡絶縁電線10を形成した後、発泡絶縁電線10を2本並行に配置し、これにドレイン線11を沿わせ、これらの外周にシールドテープ12を被覆し、更にその外周に樹脂テープ13を巻きつけて発泡ケーブル1を製造する。
【0065】
こうして得られた発泡ケーブル1は、発泡絶縁体23の気泡22が異常成長していないのでTdにバラつきが生じず、Skewが8ps/m以下と小さい。
【0066】
以上要するに、本発明によれば、発泡絶縁電線のTdと発泡絶縁体の170℃におけるゼロせん断粘度とを規定することで、発泡ケーブルのTdとSkewの両方を小さくできる。
【0067】
また、本発明によれば、発泡を均一に行えるので、発泡絶縁体の外径を2mm以下とし、かつ中心導体の直径を1mm以下とする発泡絶縁電線を用いた細径薄肉の発泡ケーブルを形成でき、電子機器の小型化と高性能化に対応できる。
【0068】
さらに、LLDPEを主成分とする樹脂組成物を発泡絶縁体に用いることで、低粘度でありながら気泡の異常成長を防止して性能の安定した発泡絶縁電線の製造が可能となる。
【実施例】
【0069】
次に、本発明の実施例を比較例と共に説明する。
【0070】
表2に実施例と比較例の材料組成を示す。樹脂組成物として、密度0.951g/cm3,MFR0.8のHDPE、密度0.937g/cm3,MFR8のLLDPE、発泡核剤MB(核剤MB)をそれぞれ配合し、表中のゼロせん断粘度をもつ材料を得た。核剤MBはベース樹脂に密度0.918g/cm3,MFR4のLDPEを使用し、核剤としてADCAを10mass%含有している。
【0071】
【表2】

【0072】
これらの材料組成からなる樹脂組成物を用いて、電線試作を行った。試作条件を表3に示す。Tdの目標は3.9ns/m、4.2ns/mとし、中心導体上に各樹脂組成物からなる発泡絶縁体を形成し、それぞれのTdの電線を試作した。
【0073】
試作には、口径45mm、L/D25(L:押出機のシリンダー長さ、D:押出機のシリンダーの口径)の押出機を用いた。試作ライン中に、静電容量、外径、偏心の各測定機を設け、静電容量と外径から求めた発泡度と外径が、それぞれの目標に一致するよう温度や線速、ガス圧を調節した。押出温度は150〜190℃、線速は80〜150m/min、ガス圧は20〜60MPaであった。
【0074】
使用した導体は錫めっき銅線の単線で、外径0.81mm(20AWG)であった。この導体に発泡押出を行い、外径1.84mmの発泡絶縁電線を得た。
【0075】
【表3】

【0076】
試作した結果を表4,5に示す。試作結果と材料粘度の関係を見やすくするため、Td別に表4には4.2ns/mを目標とした試作結果、表5には3.9ns/mを目標とした試作結果を表示し、粘度の順に並べた。なお、表4,5には、評価結果も併せて記載しているが、具体的な判定基準については後述する。
【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
表4,5中の各評価項目について、測定方法の概略を述べる。
【0080】
各試料とも5000m以上を作製し、押出機のライン中に設けたセンサのデータから偏平量、発泡度変動量を評価した。
【0081】
これらの発泡絶縁電線を使用して、それぞれツインナックスケーブルと対よりケーブルを作製し、Skewを評価した。評価は、それぞれ100m以上の間隔を置いて3mの試料を10本採取して測定を行い、それぞれの最大値を記載した。
【0082】
Tdについては、各試料で目標値(4.2ns/m、3.9ns/m)を満たすことを確認し、下記の評価を行った。
【0083】
試作した発泡絶縁電線とケーブルの判定基準を表6に示した。判定基準に対する合否の○、×だけでなく、特に優れる◎も含めた3段階評価とした。各項目の具体的な判定基準を表7に示す。
【0084】
【表6】

【0085】
【表7】

【0086】
表7に示した発泡度変動量、Td及びSkewの測定方法を詳述する。
【0087】
(偏平量)
偏平量の測定は、偏平測定機において、試料が偏平化した際の長径と短径を読み取り、その差が10μm以下を○、5μm以下を◎とした。
【0088】
(発泡度変動量)
発泡変動量の測定は、外径変動量の測定と共に行った。外径変動量の測定には、電線製造ライン上に設置した2台(X−Y軸)の外径測定機を使用した。0.2秒毎に外径を測定し、データロガーを経由してPCにデータを蓄積することで、経時的な外径変動を測定すると共に、静電容量Cも連続的に測定を行った。導体直径aと発泡絶縁電線の外径b、静電容量Cから発泡絶縁体の誘電率εsが計算でき、さらに発泡前の樹脂組成物の誘電率εpは既知であることから、発泡絶縁体の発泡度Fが計算できる。これにより、発泡変動量を測定した。発泡度の詳細な計算方法は、下式(1)(2)の通りである。なお、発泡度は、Td4.2ns/mでは50%、Td3.9ns/mでは70%であった。
【0089】
【数1】

【0090】
(Td及びSkewの測定方法)
いずれも高機能オシロスコープのTDT(Time Domain Transmission)や、TDR(Time Domain Reflection)モードで測定を行った。
【0091】
実施例及び比較例の結果を比較検討する。
【0092】
Td4.2ns/mの試作結果を比較した表4を説明する。最も低粘度材料を用いた比較例1では偏平量が大きいため、発泡度変動は基準内であってもSkewが大きくなっており、対よりでは基準を超過した。一方、実施例1〜4においては、Skewも8ps/m以下であり、偏平量、発泡度変動量はいずれも小さく充分に実用に耐えることがわかった。高粘度材料を用いた比較例2では偏平量は非常に小さかったが、発泡度の変動量が大きいためSkewも大きくなった。
【0093】
Td3.9ns/mの試作結果を比較した表5を説明する。やはり低粘度材料を用いた比較例3では偏平量、発泡度変動量共に大きく、Skewは明らかに基準を超過している。実施例5では各項目とも基準値に入り、裕度はないものの実用上の問題は無い。実施例6,7ではいずれの項目も基準に対し充分な裕度を持っていることがわかる。実施例8では発泡度変動が大きくなり、裕度は少ないもののSkewの基準内に納まっている。比較例4になると、発泡度変動が大きいため、Skewも基準値を超えて実用に適さないことが判る。
【0094】
以上、表4,5の評価結果に示したように、本発明による発泡絶縁電線は、偏平量や発泡度変動量が小さく、ケーブルにした際のSkewがいずれも従来のものよりも小さいことがわかった。これにより、高速信号伝送用の高性能な発泡ケーブルが、効率よく生産できる。
【符号の説明】
【0095】
1 発泡ケーブル
10 発泡絶縁電線
11 ドレイン線
12 シールドテープ
13 樹脂テープ
21 中心導体
22 気泡
23 発泡絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体の外周に、発泡絶縁体を形成してなる発泡絶縁電線を、少なくとも2本並行に配置或いは少なくとも2本対よりにした構造をもつ発泡ケーブルにおいて、前記発泡絶縁電線の遅延時間(Td)が3.9ns/m以上4.2ns/m以下であり、かつ前記発泡絶縁体の170℃におけるゼロせん断粘度が3000Pa・s以上18000Pa・s以下であることを特徴とする発泡ケーブル。
【請求項2】
前記発泡絶縁体の外径が2mm以下で、かつ前記中心導体の直径が1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の発泡ケーブル。
【請求項3】
前記発泡ケーブルの遅延時間差(Skew)が、8ps/m以下であることを特徴とする請求項2に記載の発泡ケーブル。
【請求項4】
前記発泡ケーブルにおいて、中心導体の外周に被覆された発泡絶縁体が、直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とする材料からなることを特徴とする請求項3に記載の発泡ケーブル。
【請求項5】
ポリオレフィン樹脂と発泡剤もしくは発泡核剤を含む樹脂組成物を押出機で押し出すと共に化学発泡又は物理発泡させ、中心導体の外周に発泡絶縁体を被覆して発泡絶縁電線を形成し、その発泡絶縁電線を少なくとも2本並行に配置或いは少なくとも2本対よりにして形成する発泡ケーブルの製造方法において、前記発泡絶縁体が、ポリオレフィン樹脂と発泡剤もしくは発泡核剤を含む樹脂組成物から成り、かつ前記発泡絶縁体の170℃におけるゼロせん断粘度が3000Pa・s以上18000Pa・s以下であることを特徴とする発泡ケーブルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate