説明

発泡ポリウレタンの製造方法

【課題】 気泡径の微細化および気泡数密度の増加を実現する発泡ポリウレタンの製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリウレタン樹脂と疎水性シリカとを含む組成物に加圧下で気体を溶解させた後、減圧下で組成物中に気泡を発生させることにより発泡ポリウレタンを製造する。この方法によって得られたポリウレタン発泡体は、平均気泡径が1.5μm以下が好ましく、且つ、気体の体積含有率が1%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡ポリウレタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリウレタンは、様々な工業用途(自動車向けの衝撃吸収材、制振材、シール部材、表面保護部材等)に用いられている。近年では、さらに、ポリウレタンを発泡させたもの(以下、「発泡ポリウレタン」という)が前述のような用途に供されており、そのための発泡技術も様々な方法が報告されている(特許文献1)。しかしながら、このような発泡ポリウレタンは、強度、制振性、衝撃吸収性、断熱性等について、さらなる向上が求められている。そして、これらの特性については、発泡ポリウレタンにおける気泡径の微細化、気泡数密度の増加(単位体積あたりの気泡数の増加)が必要であると考えられる。
【特許文献1】特開2002−201301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、気泡径の微細化および気泡数密度の増加を実現する発泡ポリウレタンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するために、本発明の発泡ポリウレタンの製造方法は、ポリウレタン樹脂を含む組成物に加圧下で気体を溶解させた後、減圧下で組成物中に気泡を発生させることにより発泡ポリウレタンを製造する方法であって、前記組成物に、さらに疎水性シリカを含有させることを特徴とする。
【0005】
また、本発明の発泡ポリウレタンは、ポリウレタン樹脂およびシリカを含む発泡ポリウレタンであって、前記シリカが疎水性シリカであることを特徴とし、また、本発明の発泡ポリウレタンの製造方法により得られる発泡ポリウレタンである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の発泡ポリウレタンの製造方法によれば、疎水性シリカをポリウレタン樹脂と併用することによって、従来法による発泡ポリウレタンと比較して、より微細な気泡径であり、且つ、気泡数密度が高い(体積当たりの気泡数が多い)発泡ポリウレタンを得ることができる。そして、本発明の発泡ポリウレタンは、このように気泡径が微細であり、気泡が高密度であることから、例えば、高い強度、制振性、衝撃吸収性および断熱性という効果を発揮することが可能である。なお、疎水性シリカとポリウレタン樹脂との併用により微細で高密度の気泡を有する発泡ポリウレタンが得られる理由は定かでないが、一般的に、ポリウレタン樹脂は微細なハードセグメンとソフトセグメントとからなり、これが気泡の微細化に寄与し、さらに疎水性シリカが気泡の核剤となって、気泡数密度の向上に寄与していると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
<疎水性シリカ>
本発明に使用する疎水性シリカは、疎水性を示すものであればよく、特に制限されない。本発明の発泡ポリウレタンの製造方法においては、前述のように疎水性シリカを用いることによって、例えば、疎水性シリカ以外の組成や処理条件が同じである製造方法で得た発泡体と比較して、気泡径をより小さくでき、また、気泡の体積含有率が同じであっても単位体積当たりの気泡数をより大きくすることができる。
【0008】
前記シリカとしては、特に制限されず、従来公知のシリカが使用でき、天然物でも合成物でもよく、また、結晶性シリカでも非晶性シリカでもよい。シリカの合成方法としては、特に制限されないが、高熱法、溶解固体法、湿式化学法等があげられる。前記高熱法は、例えば、1,000℃以上の高温下で微粉珪酸粒子を生成させる方法であり、いわゆるフュームドシリカが得られる。前記湿式化学法としては、例えば、珪酸ソーダと鉱酸とを反応させ、ゲル中の水を有機溶媒で置換してオルガノゾルとし、これをオートクレーブの中で加圧加熱処理する方法や、珪酸ソーダと鉱酸と塩類とを、水溶液中で反応させる方法があげられる。これらの中でも、人体への安全性の点から、合成シリカが好ましく、その製造方法としては、粒径制御の観点から、高熱法のシリカが好ましい。
【0009】
未処理のシリカは、通常、その表面にシラノール基が分布しているため親水性を示すが、疎水性処理を施すことによって、疎水性のシリカを調製できる。前記疎水性処理の方法としては、特に制限されないが、カップリング剤による処理があげられる。前記カップリング剤としては、チタンカップリング剤、シランカップリング剤等があげられる。具体的には、シリカ表面の水酸基と反応するものが使用でき、例えば、アルキルアルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン、ビニル基含有アルコキシシラン、メタクリロキシ基含有アルコキシシラン等があげられる。これらのカップリング剤のアルコキシ基を塩素原子に置換したものであってもよい。これらのカップリング剤は、1種または2種以上のものを混合して用いてもよい。前記カップリング剤のシリカ100重量部に対する処理量は、0.01〜20重量部が望ましい。
【0010】
本発明においてシリカをカップリング剤で処理する方法としては、通常のカップリング剤処理方法として知られている種々の方法を採用することができる。例えば、湿式法として、前記カップリング剤を溶剤に溶解させ、シリカを混合した後に溶剤を除去する方法、また、乾式法として、前記カップリング剤とシリカとを混合機により乾式混合する方法、あるいは、気相法として、高温下において、シランカップリング剤と不活性ガスによって表面処理する方法、また、カップリング剤の種類によっては、さらに水蒸気を導入して表面処理する方法等があげられる。また、カップリング剤で処理した後、あるいは、カップリング剤で処理すると同時に、疎水化処理溶媒で疎水化してもよい。好ましい疎水化処理溶媒としては、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルシラザン、アミノシラン、アルキルシラン、オクタメチルテトラシクロシロキサン等があげられ、中でも、疎水性の程度を示す疎水度を高くできる点で、ヘキサメチルシラザンが特に好ましい。
【0011】
処理された疎水性のシリカは、以下に示すメタノール沈降試験によって、その疎水度を求めることができる。まず、サンプル瓶にイオン交換水10.000g〜10.100gを量りとり(採取量を記録)、さらに、評価対象のシリカ0.020gを精秤して25℃の前記イオン交換水中に投入する。そして、このイオン交換水を十分に攪拌しながら、この中にメタノール(特級、和光純薬製)を滴下し、前記シリカが浮遊せず完全に分散した時点で滴下を終了させ、滴下したメタノールの量を記録する。これらの結果を下記式に代入することによって疎水度が算出できる。親水性の物質は、例えば、水に溶けやすく、疎水性の物質は、メタノールに溶けやすいため、この値が大きい程、疎水性が高いシリカであると判断できる。
疎水度=[A/(A+B)]×100
A:用いたメタノールの量(g)
B:用いたイオン交換水の量(g)
【0012】
前記疎水性シリカの疎水度は、特に制限されないが、10〜100が好ましく、より好ましくは20〜100、さらに好ましくは30〜100である。なお、疎水性シリカの疎水度は、例えば、処理に使用するシランカップリング剤の使用量を増減させることで調整することができる。
【0013】
前記疎水性シリカの形状は、特に制限されないが、粒子であることが好ましい。その粒径は、発泡体の製造における核剤としての機能を考慮すると、単位重量あたりの添加個数を多くする点から、相対的に小さいことが好ましい。また、疎水性シリカ粒子の凝集によって、見かけの粒径が逆に大きくなり、核剤として有効に機能し難くなることを十分に抑制できることから、凝集が起こらない粒径が好ましい。具体例として、前記疎水性シリカの一次粒子の平均粒子径下限は、1nm以上が好ましく、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上であり、その上限は、10000nm以下が好ましく、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。したがって。前記一次粒子の平均粒子径の範囲は、1〜10000nmが好ましく、より好ましくは5〜10000nm、さらに好ましくは10〜100nm、特に好ましくは10〜50nmである。
【0014】
一次粒子の平均粒子径は、以下の方法によって測定できる。まず、走査型電子顕微鏡(電界放射型電子顕微鏡 商品名S−4000;日立製作所製)により、疎水性シリカの拡大写真を撮影する。そして、前記拡大写真から、一次粒子そのもの、もしくは、二次凝集した一次粒子集合体から一次粒子を100個選択し、各一次粒子の長軸方向の直径と短軸方向の直径とを測定する。それらの結果から各一次粒子の平均粒子径を算出し、これらの算出値と拡大写真の拡大倍率とから、算術平均によって求めることができる。なお、前記長軸方向の直径とは、拡大写真の選択した各一次粒子において最も長い軸方向の長さを意味し、短軸方向の直径とは、前記各一次粒子において最も短い軸方向の長さを意味する。
【0015】
<ポリウレタン樹脂>
本発明に使用するポリウレタン樹脂としては、特に制限されず、分子中にウレタン結合(-NH-COO-)、尿素結合、ビュレット結合、アロファネート結合等を有する従来公知のポリウレタン樹脂があげられる。中でも、シリカとの溶融混練性、押し出しや加工の容易性の点から、熱可塑性ポリウレタン樹脂(thermoplastic polyurethane:TPU)が好ましい。熱可塑性ポリウレタン樹脂は、架橋構造が少ないため熱可塑性を有する。このようなポリウレタン樹脂の調製方法は、何ら制限されず、活性水素を有する化合物(以下、「化合物A」という)とイソシアネート基(−N=C=O)を有する化合物(以下、「化合物B」という)とを反応させる、従来公知の方法により得ることができる。熱可塑性ポリウレタン樹脂としては、ポリエステル系ウレタンおよびポリエーテル系ウレタン等があげられる。中でも、微細発泡の観点から、ポリエステル系ウレタンが好ましい。ポリエステル系ウレタンは、前記化合物Aとして、ポリエステルポリオールを50重量%以上を含む原料を用いたものである。熱可塑性ポリウレタン樹脂は、化合物Aおよび化合物Bの種類と量とを選択することで得ることができる。
【0016】
前記化合物Aの活性水素は、特に制限されないが、水酸基(−OH)やアミノ基(例えば、−N(R)H、−NH2)等の活性水素があげられる。前記化合物Aは、特に制限されないが、強度、制振性、衝撃吸収性、断熱性等に優れる発泡ポリウレタンが得られることから、1分子内に2個以上の活性水素を有し且つ数平均分子量が400未満(好ましくは、150以下)の化合物(以下、「化合物A−1」という)と、1分子内に2個以上の活性水素を有し且つ数平均分子量が400以上20,000未満(好ましくは、800以上10,000未満)の化合物(以下、「化合物A−2」という)とを含むことが好ましい。
【0017】
前記化合物A−1としては、架橋剤、鎖延長剤等があげられ、具体例としては、強度やゴム弾性を十分に両立できることから、エチレングリコール、プロピレングリコールおよび1,4−ブタンジオール、もしくは、それらのオリゴマー(ポリテトラメチレングリコール(PTMG)等)等があげられる。他方、前記化合物A−2としては、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール等のポリオールがあげられ、中でも、カルボニル基等の極性基を含むポリオールであるポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が好ましく、特にポリエステルポリオールが好ましい。このようなポリオールは、後述する発泡処理工程において、高圧ガスや超臨界流体との親和性をさらに向上することができる。なお、化合物Aとしては、化合物Bとの反応を妨げない範囲で、さらに他の反応成分や添加剤を含んでもよい。
【0018】
前記化合物Bとしては、イソシアネート基を有する化合物であれば特に制限されないが、いわゆるイソシアネートが使用でき、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等があげられる。
【0019】
具体的な商品名としては、BASFジャパン製「エラストラン」、ディーアイシーバイエルポリマー製「バンデックス」、花王製「エディーフォーム」等があげられる。
【0020】
本発明の発泡ポリウレタンの製造方法において、前記ポリウレタン樹脂の種類は何ら制限されないが、ポリウレタン樹脂の種類を選択することによって、疎水性シリカの使用による前述のような効果だけでなく、さらに発泡ポリウレタンの特性を変化させることができる。すなわち、疎水性シリカの種類や、ポリウレタン樹脂以外の組成、処理条件等を同じに設定して本発明の製造方法により発泡ポリウレタンを作製した場合、例えば、ポリエステルポリオールを化合物Aとするポリウレタン樹脂を使用すれば、ポリエ−テルポリオールを化合物Aとするポリウレタン樹脂よりも、気泡径をより小さくでき、また、気泡の体積含有率が同じであっても単位体積あたりに含まれる気泡の数をより大きくすることができる。この点から、前記化合物A中にポリエステルポリオールを50重量%以上使用することが好ましい。
【0021】
<ポリウレタン樹脂組成物>
発泡ポリウレタンの原料となるポリウレタン樹脂組成物は、前記ポリウレタン樹脂と前記疎水性シリカを含む混合物である。これに後述する発泡処理を施すことによって、本発明の発泡ポリウレタンを製造できる。
【0022】
前記組成物におけるポリウレタン樹脂の含有量は、特に制限されないが、ポリウレタン樹脂特有の物性を保持する点から、好ましくは60重量%以上であり、より好ましくは80重量%以上である。また、前記組成物における疎水性シリカの量は、ポリウレタン樹脂100重量部に対して0.1〜50重量部が好ましく、制振性、衝撃吸収性および断熱性にさらに優れる発泡ポリウレタンが得られることから、より好ましくは0.3〜40重量部であり、さらに好ましくは0.5〜20重量部である。
【0023】
このポリウレタン樹脂組成物は、後述する発泡処理に先立って、ポリウレタン樹脂と疎水性シリカとを二軸押出機等を用いて溶融混練しておくことが好ましい。また、このポリウレタン樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂と疎水性シリカの他に、可塑剤、活剤、帯電防止剤、防曇剤、酸化防止剤、耐候性付与剤、着色剤、有機もしくは無機フィラー等の添加剤を含んでもよい。
【0024】
<発泡ポリウレタンの製造方法>
本発明の発泡ポリウレタンの製造方法は、発泡処理が施されるポリウレタン樹脂組成物に、前記疎水性シリカが含有されていればよく、その他の工程や条件等は何ら制限されない。例えば、予めポリウレタン原料とシリカとを混合した後に、ポリウレタン樹脂を製造する方法、ポリウレタン樹脂製造後にシリカを混合する方法等があげられる。以下に本発明の製造方法の一例をあげるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0025】
まず、前述のようなポリウレタン樹脂組成物を準備し、これをペレット化して、射出成形機等により、所望の形状に成形する。そして、この成形したポリウレタン樹脂組成物に加圧下で気体を溶解させた後、減圧して前記組成物から気泡を発生させることにより、発泡体(発泡ポリウレタン)を得ることができる。このように前記組成物を加圧下におくと、前記組成物中には前記気体が溶解することとなる。そして、さらに前記組成物を減圧下におくと、前記組成物中に溶解した気体が再度発生して気泡を生じるため、これによって前記組成物の形態は発泡状となる。ここで、減圧下とは、気体を加圧下で溶解させた圧力より低く、溶解した気体が再度発生する圧力のことであり、例えば、減圧下には常圧も含まれる。
【0026】
加圧下における圧力条件は、特に制限されず、気体の種類や温度に応じて適宜決定できるが、特に、気体種(ガス種)とポリウレタン樹脂との親和性を向上できることから、前記気体を超臨界状態とすることが好ましい。具体例としては、1〜40MPaの範囲が好ましい。前記「超臨界状態」とは、一般に、圧力が臨界圧力以上であり、且つ、温度が臨界温度以上である状態をいう。なお、超臨界状態下とは、加圧下の下位概念である。
【0027】
前記気体種としては、特に制限されないが、二酸化炭素や窒素が好ましく、ポリウレタン樹脂への親和性(拡散速度)が高いことから、特に好ましくは二酸化炭素である。前記気体種が炭酸ガスの場合、圧力条件が二酸化炭素の臨界圧力(7.38MPa)以上であり、且つ、温度条件が臨界温度(31.1℃)以上であれば、超臨界状態となるため好ましい。より具体的には、二酸化炭素の温度が40〜180℃、且つ、圧力が7.38〜40MPaが好ましく、より好ましくは、温度が80〜170℃、且つ、圧力が10〜30MPaである。前記気体種が窒素ガスの場合、臨界圧力が3.40MPaであり、且つ、臨界温度が−147℃であるため、具体的には、温度範囲が−140℃〜180℃、圧力範囲が3.4〜30MPaが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法においては、疎水性シリカとポリウレタン樹脂とを併用することにより、発泡ポリウレタンの気泡径をより小さく、また、単位体積あたりの気泡数をより大きくすることが可能である。得られる発泡ポリウレタンの気泡径や前記気泡数の制御方法は特に制限されないが、後述のようにして行うことができる。
【0029】
(本発明の発泡ポリウレタン)
本発明の発泡ポリウレタンは、ポリウレタン樹脂と疎水性シリカを含むことを特徴とし、例えば、前述のような製造方法によって得ることができる。本発明の発泡ポリウレタンは、前述のように疎水性シリカを使用して製造されることから、疎水性シリカを未使用である以外は組成や処理条件が同じである製造方法(いわゆる従来法)で得た発泡体と比較して、気泡径がより小さく、また、気泡の体積含有率が同じであっても単位体積あたりに含まれる気泡数がより大きい。このため、本発明の発泡ポリウレタンによれば、以下のような顕著な効果も実現可能である。すなわち、本発明の発泡ポリウレタンは、従来の無発泡ポリウレタンや、本発明よりも相対的に大きな気泡を有する発泡ポリウレタンと比較して、強度低下がより抑制され、さらに高い衝撃吸収性や制振性を示すと解される。このため、衝撃吸収部材や制振部材として有用である。さらに、気泡を多く含有することからより軽量であり、また、気泡が非常に微細であってその形状もほぼ球状であることから、従来の発泡ポリウレタンでは実現できなかった光学特性や断熱性能の発揮も可能である。なお、本発明の発泡ポリウレタンにおいて「気泡」とは、当該技術分野において「セル」ともいう。発泡体は、通常、空洞になった気泡とそれらを仕切る隔膜から構成されるが、本発明における気泡は、完全に膜に仕切られた気泡のみでもよいし、複数の気泡が連通している気泡を含んでもよい。
【0030】
本発明の発泡ポリウレタンにおける気泡の平均気泡径は、特に制限されないが、強度、制振性、衝撃吸収性および断熱性等の効果が期待できることから、好ましくは1.5μm以下であり、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.8μm以下、特に好ましくは0.5μm以下である。また、本発明のように微細な気泡の発泡ポリウレタン、例えば、平均気泡径200nm以下の発泡ポリウレタンであれば、光が通過できることから、透明性にも優れるため、透明性が必要となる用途へも適用可能となる。なお、本発明の発泡ポリウレタンは、前述のような製造方法により、従来法と比較して容易に微細な気泡径を形成できることから、上述のような気泡径をも実現することが可能である。
【0031】
前記平均気泡径は、以下の方法により測定することができる。まず、走査型電子顕微鏡(電界放射型電子顕微鏡 商品名S−4000;日立製作所製)により、発泡ポリウレタンの拡大写真を撮影する。そして、前記拡大写真から、100個の気泡を選択し、それぞれの長軸方向の直径と短軸方向の直径とを測定する。それらの結果から各気泡の平均径を算出し、これらの算出値と拡大写真の拡大倍率とから、算術平均によって平均気泡径を求めることができる。なお、前記長軸方向の直径とは、拡大写真の選択した各気泡において最も長い軸方向の長さを意味し、短軸方向の直径とは、前記各気泡において最も短い軸方向の長さを意味する。なお、シリカの疎水度を大きくすることにより、気泡径を小さくすることができ、また、核剤となるシリカの数を増やすことにより、気泡の数を増やすことができる。
【0032】
本発明の発泡ポリウレタンにおける気泡の体積含有率は、強度、制振性、衝撃吸収性および断熱性等の効果が期待できることから、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、特に好ましくは15%以上である。また、その上限は特に制限されないが、10000%以下が好ましく、より好ましくは5000%以下であり、さらに好ましくは3000%以下である。この体積含有率は、下記方法により測定できる。
【0033】
同一の配合組成である発泡処理前のポリウレタン樹脂組成物と、発泡処理後の発泡ポリウレタンとをサンプルとする。まず、各サンプルの重量を測定した後、さらに前記各サンプルを水中に浸漬することにより増加する体積を測定する。そして、これらの結果を下記式(1)に代入して、各サンプルの密度(g/cm3)を求める。さらに、これらの結果を下記式(2)に代入して、気泡の体積含有率を算出する。
密度=重量/増加した体積 ・・・(1)
気泡の体積含有率(%)=[1−(ρf/ρp)]×100 ・・・(2)
ρf:発泡処理後の発泡体の密度
ρp:発泡処理前のシートの密度
【0034】
また、気泡数密度は、強度、制振性、衝撃吸収性および断熱性等の効果が期待できることから、好ましくは1×1010個/cm3以上であり、より好ましくは1×1011個/cm3以上、さらに好ましくは1×1012個/cm3以上、特に好ましくは1×1013個/cm3以上である。この気泡数密度は、下記方法により算出する。
【0035】
気泡数密度は、発泡ポリウレタン1cm3あたりに気泡が何個含まれているかを表す指標である。これは、発泡処理前のポリウレタン樹脂組成物の密度と、発泡処理後の発泡ポリウレタンの密度および平均気泡径とから算出される。この算出方法は、NanoLetts.2001;1:503に開示されている。
気泡数密度(個/cm3)=(X/100)/[(4/3)π×[(d/2)×10-43]
X:気体の体積含有率(%)
d:平均気泡径(μm)
【0036】
本発明の発泡ポリウレタンの貯蔵弾性率(例えば、10Hzの振動数、25℃)は、強度、制振性、衝撃吸収性および断熱性等の効果が期待できることから、好ましくは1×108〜1×109Paであり、より好ましくは5×108〜1×109Paである。この貯蔵弾性率は、下記方法により測定する。
【0037】
発泡ポリウレタンについて、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御製、商品名DVA−250)を用いて、周波数10Hz、昇温速度2℃/minの条件下における−20℃〜180℃の温度領域の貯蔵弾性率を測定する。
【0038】
本発明の発泡ポリウレタンは、強度、制振性、衝撃吸収性および断熱性に優れるため、断熱フィルム、保護フィルム等の用途に好適に使用できる。
【実施例】
【0039】
ポリウレタン樹脂として、熱可塑性ポリウレタンA(BASFジャパン製:商品名エラストランC74D;エステル系ウレタン)を、予め、100℃の乾燥エアー雰囲気下で15時間放置し乾燥させたものを使用した。
【0040】
疎水性シリカ等のフィラーとしては、下記表に示すものをそのまま使用した。a〜eのフィラーは、すでに下記表面処理剤で処理された製品である。gについてはイオン交換処理済のものを購入した。
【0041】
【表1】

【0042】
(疎水度:メタノール沈降試験)
前記フィラーの疎水度は、以下に示すメタノール沈降試験によって測定した。まず、サンプル瓶にイオン交換水10.000g〜10.100gを量りとり(採取量を記録)、さらに、評価対象のシリカ0.020gを精秤して前記イオン交換水に投入する。そして、これを十分に攪拌しながら、この中にメタノール(特級、和光純薬製)を滴下し、前記シリカが浮遊せず完全に分散した時点で滴下を終了させ、滴下したメタノールの量を記録した。これらの結果を下記式に代入することによって疎水度を求めた。なお、疎水度の値が大きい程、疎水性が高いシリカであると判断できる。
疎水度=[A/(A+B)]×100
A:用いたメタノールの量(g)
B:用いたイオン交換水の量(g)
【0043】
下記表2の配合となるように、前記各熱可塑ポリウレタンと前記各フィラーとを、二軸押出機(商品名HK−25D(41D)、パーカーコーポレーション製、スクリュー径φ25、スクリュー回転数200rpm、ペレタイザー速度8m/分 L/D=41、設定温度220℃)を用いて混練し、ペレット状にした。その後、このペレットを、射出成型機(商品名F−40、クロックナー社製、シリンダー温度220℃)を用いて、金型(120mm×60mm×2mm、設定温度25℃)に射出し、前記金型から取り出した後、120℃の乾燥エアー雰囲気下で3時間放置して、熱可塑ウレタンシートを作成した。
【0044】
【表2】

【0045】
得られたシートを内容積1000cm3のオートクレーブ中に投入し、これに、所定温度(下記表3の温度)、20MPaの条件下、超臨界状態の二酸化炭素を6時間含浸させた。その後、圧力開放速度2MPa/秒で前記オートクレーブ内の圧力を開放させることによって発泡処理を行い発泡体を得た。これらの発泡体についての特性結果を下記表3に示す。なお、下記表3において、実施例1〜7は、それぞれ疎水性シリカを添加したシートNo.1〜7に発泡処理を施した発泡体であり、比較例1は、発泡処理を施していないシートNo.7、比較例2は、フィラー無添加のシートNo.8の発泡体、比較例3は、フィラーとして親水性シリカを添加したシートNo.9の発泡体、比較例4は、フィラーとしてモンモリロナイトを添加したシートNo.10の発泡体である。また、比較例5は、樹脂としてPMMA(ポリメタクリル酸メチル)を使用し、フィラーを使用しない以外は、前述と同様にしてシートの作製と、前記シートを用いた発泡体の作製を行った。また、比較例6は、樹脂としてPC(ポリカーボネート)を使用し、フィラー使用しない以外は、前述と同様にしてシートの作製と、前記シートを用いた発泡体の作製を行った。
【0046】
(1)貯蔵弾性率
動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御製、商品名DVA−250)を用いて、周波数10Hz、昇温速度2℃/minの条件下における−20℃〜180℃の温度領域の貯蔵弾性率を測定した。25℃における結果を下記表3に示す。
【0047】
(2)平均気泡径
発泡体をスライスして、その割断面の写真を撮影し、前記写真を走査型電子顕微鏡(日立製作所製、商品名S−4000)を用いて画像処理し、前述のようにして平均気泡径を求めた。
【0048】
(3)気泡の体積含有率(%)
同一の配合組成である発泡処理前の熱可塑ウレタンシートと、発泡処理後の発泡体とをサンプルとした。各サンプルの重量を測定した後、さらに前記各サンプルを水中に浸漬することにより増加する体積を測定した。これらの結果を下記式(1)に代入して、各サンプルの密度(g/cm3)を求めた。さらに、これらの結果を下記式(2)に代入して、気泡の体積含有率を算出した。
密度=重量/増加した体積 ・・・(1)
気泡の体積含有率(%)=[1−(ρf/ρp)]×100 ・・・(2)
ρf:発泡処理後の発泡体の密度
ρp:発泡処理前のシートの密度
【0049】
(4)気泡数密度(個/cm3
発泡体1cm3あたりに気泡が何個含まれているかを表す指標である。これは、発泡処理前のシートの密度と、発泡処理後の発泡体の密度および平均気泡径とから算出される。この算出方法は、気泡を球として、下記式より気泡数密度を算出した。
気泡数密度(個/cm3)=(X/100)/[(4/3)π×[(d/2)×10-43]
X:気体の体積含有率(%)
d:平均気泡径(μm)
【0050】
(5)引張り物性低下率
島津製作所製 AUTOGRAPH AGS-500Gを用いて引っ張り試験を行った。発泡処理後の発泡体を2号ダンベルで打ち抜いて打ち抜きサンプルを調製し、引っ張り速度500mm/minで試験を行った。試験で得られた破断強度の比を低下率(%)で示した。
【0051】
(6)耐折曲げ性
得られた発泡体をサンプルとし、これを2つに折り曲げて、クラック発生の有無を目視で評価した。クラックが発生した場合を×とし、クラックが発生しない場合を○とした。
【0052】
【表3】

【0053】
前記表3に示すように、未発泡の比較例1、シリカ未添加の比較例2、親水性シリカを使用した比較例3、シリカに代えてモンモリロナイトを使用した比較例4、他の樹脂を使用した比較例5および6と比較して、疎水性シリカを使用した各実施例の発泡ポリウレタンは、平均気泡径が極めて小さく、気泡数密度(体積当たりの気泡数)も多いという結果が得られた。このため、引張り物性の低下率も低減でき、耐折り曲げ性にも優れていた。また、同じ熱可塑性ポリウレタンを使用している実施例1〜7と比較例2および3とを比較することにより、使用するシリカの疎水性(疎水度)を変化させることによって、平均気泡径や気泡数密度も適宜調節できることがわかる。さらに、実施例の比較により以下のようなこともわかる。実施例1〜3は、疎水性シリカの添加量が同一で、シリカの疎水度が異なるものの結果であるが、これらの比較により、疎水性が高いほど気泡数密度が高くなることがわかる。また、実施例3〜5は、シランの表面処理剤の種類が同一で、フィラーの粒子径が異なるものの結果であるが(疎水度および発泡温度はほぼ同一)、これらの比較により、シリカの粒径が小さいほど気泡数密度が高くなることがわかる。そして、特に実施例7の条件によれば、極めて気泡数密度が高い、優れた発泡体を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、本発明の発泡ポリウレタンの製造方法によれば、疎水性シリカをポリウレタン樹脂と併用することによって、従来法による発泡ポリウレタンと比較して、より微細な気泡径であり、且つ、気泡数密度が高い(体積当たりの気泡数が多い)発泡ポリウレタンを得ることができる。そして、本発明の発泡ポリウレタンは、このように気泡径が微細であり、気泡が高密度であることから、高い強度、制振性、衝撃吸収性および断熱性という効果を発揮することが可能である。なお、疎水性シリカとポリウレタン樹脂との併用により微細で高密度の気泡を有する発泡ポリウレタンが得られる理由は定かでないが、ポリウレタン樹脂が気泡の微細化に寄与し、疎水性シリカが気泡の核剤となって、気泡数密度の向上に寄与していると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂を含むポリウレタン樹脂組成物に加圧下で気体を溶解させた後、減圧下で前記組成物中に気泡を発生させることにより発泡ポリウレタンを製造する方法であって、
前記組成物に、さらに疎水性シリカを含有させる発泡ポリウレタンの製造方法。
【請求項2】
前記疎水性シリカの添加割合が、前記ポリウレタン樹脂100重量部に対して、0.1〜50重量部の範囲である、請求項1に記載の発泡ポリウレタンの製造方法。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂が、ポリエステル系ウレタンである、請求項1または2に記載の発泡ポリウレタンの製造方法。
【請求項4】
前記疎水性シリカが、疎水化したフュームドシリカである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発泡ポリウレタンの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法によって得られる発泡ポリウレタン。
【請求項6】
ポリウレタン樹脂およびシリカを含む発泡ポリウレタンであって、前記シリカが疎水性シリカである発泡ポリウレタン。
【請求項7】
平均気泡径が1.5μm以下であり、且つ、気体の体積含有率が1%以上である、請求項5または6に記載の発泡ポリウレタン。
【請求項8】
測定温度25℃、測定周波数10Hzの条件下における貯蔵弾性率が1×108〜1×109Paである、請求項5〜7のいずれか一項に記載の発泡ポリウレタン。

【公開番号】特開2007−297418(P2007−297418A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123809(P2006−123809)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】