説明

発泡性ポリスチレン系樹脂粒子及びポリスチレン系樹脂発泡成形品

【課題】 本発明は、予備発泡時における予備発泡粒子同士の合着(ブロッキング)が少なく且つ型内発泡成形時における発泡粒子同士の融着性に優れ、高発泡化が可能で、更に、環境面及び安全性においても優れた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供する。
【解決手段】 本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させてなる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、ポリスチレン系樹脂粒子100重量部に対して可塑剤として炭素数が11以下の脂肪酸を0.3〜2.0重量部含有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子及びポリスチレン系樹脂発泡成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリスチレン系樹脂発泡成形品は、食品用途、家電分野、緩衝材用途、住宅建材、土木用途などの多くの分野にて用いられている。このポリスチレン系樹脂発泡成形品は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させて予備発泡粒子とし、この予備発泡粒子を発泡成形機の金型内に充填し、金型内に加熱蒸気を供給することによって予備発泡粒子を加熱して発泡させて互いに熱融着一体化させる、所謂、型内発泡成形にて製造されていた。
【0003】
近年、従来以上に高発泡倍率化されたポリスチレン系樹脂発泡成形品が求められている。更に、食品用途や建材用途などに用いられるポリスチレン系樹脂発泡成形体にあっては一層の安全性が求められており、改正労働安全衛生関連法では、危険又は健康障害を生じる虞れのあるものであって政令で定めるものを一定量以上含有している製剤その他の物は名称、成分、性質、人体におよぼす影響、取り扱い上の注意、応急の措置などをラベルや安全データシート記載する必要があることが定められている。
【0004】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子としては、特許文献1には、熱可塑性樹脂粒子中に、該樹脂の軟化点より低い沸点を持った脂肪族炭化水素又は環式脂肪族炭化水素を、該樹脂に対して1〜15重量%と、ジイソブチルアジペートを0.2〜3.0重量%含ませたことを特徴とする発泡性熱可塑性樹脂粒子が開示されている。
【0005】
又、特許文献2には、アジピン酸エステル及びセバシン酸エステルからなる群から選ばれた少なくとも一種のエステル化合物が所定量含有された発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、可塑剤の一つとしてジイソブチルアジペートなどのアジピン酸エステルやセバシン酸エステルを用いており、高発泡倍率のポリスチレン系樹脂発泡成形品を得るためには可塑剤を大量に用いる必要があり、コスト面及び環境面において好ましいものではなかった。
【0007】
更に、特許文献3には、所定の重量平均分子量を有するポリスチレン系樹脂の粒子よりなり、発泡剤としてイソブタンを所定量含有し、常温にて液体で且つ沸点が200℃以上の可塑剤が所定量含有されてなる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が開示されている。そして、段落番号〔0018〕には、可塑剤として、フタル酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステルが開示されているに過ぎず、実施例においても、フタル酸−2−エチルヘキシル、フタル酸ジメチルが用いられているだけである。
【0008】
しかしながら、上記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子も上述の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子と同様に、高発泡倍率のポリスチレン系樹脂発泡成形品を得るためには可塑剤を大量に用いる必要があると共にフタル酸エステルは環境面でも問題があり、コスト面及び環境面の双方において好ましいものではなかった。
【0009】
又、特許文献4には、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100重量部の中に、スチレンモノマーが350〜1200ppmと、圧力6.666×10-4MPa(5mmHg)下で減圧蒸留を行った場合に250℃以下の温度では蒸留できない可塑剤0.1〜2重量部と、発泡剤を含有してなることを特徴とする発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が開示されている。そして、段落番号〔0024〕には、上記可塑剤として、やし油、パーム核油、パーム油、菜種油が例示されている。
【0010】
しかしながら、可塑剤として開示されている食用油では、型内発泡成形時における予備発泡粒子同士の融着が不充分であり、良好なポリスチレン系樹脂発泡成形品を得ることができなかった。
【0011】
更に、特許文献5には、ポリスチレン系樹脂粒子に二種類の可塑剤を所定量づつ含有させてなる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が開示されている。
【0012】
しかしながら、可塑剤としてトルエンが開示されており、トルエンは、近年の有機化学物質の規制の強化、環境への影響、食品用途への使用禁止の理由から使用することができず、人体にも有害であり作業者の健康面においても問題点を有していた。
【0013】
【特許文献1】特開平9−52970号公報
【特許文献2】特開2006−213850号公報
【特許文献3】特開平9−100366号公報
【特許文献4】特開2003−64212号公報
【特許文献5】特開2004−307729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、予備発泡時における予備発泡粒子同士の合着(ブロッキング)が少なく且つ型内発泡成形時における予備発泡粒子を発泡させて得られる発泡粒子同士の融着性に優れ、高発泡化が可能で、更に、環境面及び安全性においても優れており、食品用途、家電分野、緩衝材用途、住宅建材、土木用途などの幅広い分野、特に、食品分野において好適に用いることができるポリスチレン系樹脂発泡成形品を得ることができる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子及びこれを用いて得られたポリスチレン系樹脂粒子発泡成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させてなる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、ポリスチレン系樹脂粒子100重量部に対して可塑剤として炭素数が11以下の脂肪酸を0.3〜2.0重量部含有していることを特徴とする。
【0016】
上記ポリスチレン系樹脂粒子を構成するポリスチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレンなどのスチレン系モノマーの単独重合体又はこれらの共重合体などが挙げられる。
【0017】
又、上記ポリスチレン系樹脂としては、上記スチレン系モノマーを50重量%以上含有する、上記スチレン系モノマーと、このスチレン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとの共重合体であってもよく、このようなビニルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレートの他、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの二官能性モノマーなどが挙げられる。なお、上記ポリスチレン系樹脂のGPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィ)法による重量平均分子量は、15万〜40万が好ましく、25万〜35万がより好ましい。
【0018】
そして、ポリスチレン系樹脂粒子には発泡剤が含浸されて発泡性ポリスチレン系樹脂粒子とされている。上記発泡剤としては、従来から発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタンなどの脂環式炭化水素;1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン(HCFC−141b)、1−クロロ−1,1−ジフルオロエタン(HCFC−142b)、2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HCFC−124)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)などのフロン系発泡剤が挙げられ、脂肪族炭化水素が好ましい。なお、発泡剤は単独で使用されても併用されてもよい。
【0019】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における発泡剤の含有量は、少ないと、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡させて得られる発泡粒子同士の熱融着が不充分となって発泡成形品の機械的強度が低下することがある一方、多いと、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡させて得られる発泡粒子の大きさが大きくなり過ぎて、発泡成形品表面の平滑性が損なわれ、発泡成形品の外観や発泡成形品表面に印刷を施した際の見栄えが低下することがあるので、ポリスチレン系樹脂粒子100重量部に対して2〜12重量部が好ましく、3〜9重量部がより好ましい。
【0020】
ここで、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における発泡剤の含有量は下記の要領で測定されたものをいう。即ち、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を180℃の加熱炉に供給してガスクロマトグラフから測定対象となる発泡剤のチャートを得、予め測定しておいた、測定対象となる発泡剤の検量線に基づいて、上記チャートから発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中の発泡剤量を算出する。
【0021】
なお、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における発泡剤の含有量は、ガスクロマトグラフ(島津製作所社製 商品名「GC−14B」)を用いて下記条件にて測定することができる。
検出器:FID
加熱炉:島津製作所社製 商品名「PYR−1A」
カラム:信和化工社製(3mm径×3m)
液相:Squalane 25重量%
担体:Shimalite 60〜80 NAW
加熱炉温度:180℃
カラム温度: 70℃
検出器温度:110℃
注入口温度:110℃
キャリア−ガス:窒素
キャリアーガス流量:60ミリリットル/分
【0022】
そして、本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、可塑剤として炭素数が11以下の脂肪酸を含有しており、好ましくは、炭素数が11以下の直鎖状飽和脂肪酸が含有されており、より好ましくは、炭素数が8〜10の直鎖状飽和脂肪酸が含有されている。このような炭素数が11以下の脂肪酸としては、特に限定されず、カプリル酸(炭素数が8の直鎖状飽和脂肪酸)、カプリン酸(炭素数が10の直鎖状飽和脂肪酸)などが挙げられ、カプリル酸が好ましい。
【0023】
脂肪酸の炭素数は、多いと、可塑効果が弱くなり、型内発泡成形時に、予備発泡粒子を発泡させて得られる発泡粒子同士の融着性が不充分となるので、11以下に限定され、少ないと、脂肪酸の臭気が強くなり、特に、食品用途には用いることが困難となるので、6〜11が好ましく、8〜10がより好ましい。
【0024】
そして、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における炭素数が11以下の脂肪酸の含有量は、少ないと、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の発泡性が低下して、高発泡のポリスチレン系樹脂発泡成形品を得ることができない一方、多いと、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させて得られる予備発泡粒子を用いて型内発泡成形をすると、予備発泡粒子に破泡を生じて予備発泡粒子が収縮してしまい、良好なポリスチレン系樹脂発泡成形品を得ることができないので、ポリスチレン系樹脂粒子100重量部に対して0.3〜2.0重量部に限定され、0.5〜1.2重量部が好ましい。
【0025】
更に、上記脂肪酸の他に、シクロへキサン、ジイソブチルアジペート、やし油などの公知の可塑剤が含有されていてもよい。ジイソブチルアジペートの含有量は、ポリスチレン系樹脂粒子100重量部に対して0.3〜1.5重量部が好ましく、0.3〜1.2重量部がより好ましく、0.5〜1.0重量部が特に好ましい。
【0026】
又、シクロヘキサンの含有量は、ポリスチレン系樹脂粒子100重量部に対して0.3〜1.5重量部が好ましく、0.3〜1.2重量部がより好ましく、0.5〜1.0重量部が特に好ましい。
【0027】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は上述のように可塑剤として炭素数が11以下の脂肪酸を含有していることから、可塑剤として作用していた上記スチレン系モノマー量の低減化が可能であり、具体的には、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中におけるスチレン系モノマーの含有量が、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の全重量に対して3000ppm以下であることが好ましい。
【0028】
なお、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中のスチレン系モノマーの含有量は下記の要領で測定される。発泡性スチレン系樹脂粒子1gを精秤し、この精秤した発泡性スチレン系樹脂粒子に、0.1体積%のシクロペンタノールを含有するジメチルホルムアミド溶液1ミリリットルを内部標準液として加えた後、更に、上記ジメチルホルムアミド溶液にジメチルホルムアミドを加えて25ミリリットルとして測定溶液を作製し、この測定溶液1.8マイクロリットルを230℃の試料気化室に供給してガスクロマトグラフから測定対象となるスチレン系モノマーのチャートを得、予め測定しておいた、測定対象となるスチレン系モノマーの検量線に基づいて、上記チャートからスチレン系モノマー量を算出する。
【0029】
なお、発泡性スチレン系樹脂粒子中におけるスチレン系モノマーの含有量は、ガスクロマトグラフ(島津製作所社製 商品名「GC−14A」)を用いて下記測定条件にて測定することができる。
検出器:FID
カラム:ジーエルサイエンス社製(3mm径×2.5m)
液相:PEG−20M PT 25重量%
担体:Chromosorb W AW−DMCS
メッシュ:60/80
カラム温度:100℃
検出器温度:230℃
注入口温度:230℃
キャリアーガス:窒素
キャリアーガス流量:40ミリリットル/分
【0030】
又、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面を金属石鹸、タルク粉末、ワックスなどで被覆し、型内発泡成形して得られるポリスチレン系樹脂粒子発泡成形品の表面性の向上を図ってもよい。
【0031】
次に、本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法について説明する。発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法としては、先ず、汎用の製造方法で製造されたポリスチレン系樹脂粒子を汎用の要領で水性媒体中に分散させて粒子分散液を作製する。なお、水性媒体としては、特に限定されず、水、アルコールなどが挙げられ、水が好ましい。
【0032】
ここで、ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法としては、例えば、(1)水性媒体中にスチレン系モノマーを供給してスチレン系モノマーを重合開始剤の存在下にて重合させてポリスチレン系樹脂粒子を製造する方法、(2)水性媒体中にポリスチレン系樹脂種粒子を懸濁させてなる分散液を作製し、この分散液中にスチレン系モノマーを供給してポリスチレン系樹脂種粒子にスチレン系モノマーを重合開始剤の存在下にて含浸、重合させてポリスチレン系樹脂粒子を製造する方法、(3)ポリスチレン系樹脂を押出機に供給して溶融混練しストランド状に押出し、ストランドを所定間隔毎に切断してポリスチレン系樹脂粒子を製造する方法などが挙げられ、(1)の製造方法が好ましい。
【0033】
上記スチレン系モノマーを重合させる際に用いられる重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルへキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−t−ブチルパーオキシブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシ−3、3、5トリメチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレートなどの有機過酸化物やアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物などが挙げられ、これらは単独で用いても併用してもよい。
【0034】
なお、(1)(2)の製造方法によってポリスチレン系樹脂粒子を製造した場合には、その反応液を上記粒子分散液として用いてもよいし、或いは、ポリスチレン系樹脂粒子を分散液から一旦、分離し、このポリスチレン系樹脂粒子を新たな水性媒体に分散させて粒子分散液を作製してもよい。
【0035】
そして、粒子分散液に可塑剤として炭素数が11以下の脂肪酸を供給した上で、粒子分散液を加熱し、粒子分散液中に発泡剤を圧入してポリスチレン系樹脂粒子に炭素数が11以下の脂肪酸及び発泡剤を含浸させて発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得ることができる。なお、ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させてから、炭素数が11以下の脂肪酸をポリスチレン系樹脂粒子に加熱、加圧下にて含浸させてもよい。
【0036】
又、上述では、ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤と共に炭素数が11以下の脂肪酸を含浸させた場合、或いは、ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後に、炭素数が11以下の脂肪酸をポリスチレン系樹脂粒子に含浸させた場合を説明したが、スチレン系モノマー中に炭素数が11以下の脂肪酸を含有させておき、ポリスチレン系樹脂粒子の製造と同時に、得られるポリスチレン系樹脂粒子中に炭素数が11以下の脂肪酸を含有させるようにしてもよい。
【0037】
次に、本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を用いて型内発泡成形によってポリスチレン系樹脂粒子発泡成形品を製造する要領について説明する。先ず、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を汎用の予備発泡機にて予備発泡させて予備発泡粒子を製造する。
【0038】
次に、得られた予備発泡粒子を発泡成形機の型内に充填した上で、型内に蒸気などの加熱媒体を供給して予備発泡粒子を加熱し発泡させて、予備発泡粒子が発泡してなる発泡粒子同士をこれらの発泡圧によって互いに熱融着一体化させて発泡成形品を得ることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させてなる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、ポリスチレン系樹脂粒子100重量部に対して可塑剤として炭素数が11以下の脂肪酸を0.3〜2.0重量部含有していることを特徴とするので、上記脂肪酸によるポリスチレン系樹脂の可塑化効果に優れており、型内発泡成形時に、予備発泡粒子を発泡させて得られる発泡粒子同士の融着性に優れていると共に、予備発泡時においても予備発泡粒子の合着(ブロッキング)を殆ど生じない。
【0040】
よって、本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子によれば、予備発泡から型内発泡成形の一連の工程を円滑に行うことができ、環境面及び安全性に優れ且つ機械的強度及び外観にも優れたポリスチレン系樹脂粒子発泡成形品を容易に成形することができる。そして、得られたポリスチレン系樹脂粒子発泡成形品は、安全性に優れていることから、特に食品用途や建材用途に好適に用いることができる。
【0041】
そして、本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は上述の所定の脂肪酸を含有しており、可塑化効果に優れているので、スチレン系モノマーの含有量を発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の全重量に対して3000ppm以下に抑えることができる。
【0042】
従って、本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を用いて得られたポリスチレン系樹脂粒子発泡成形品は、揮発成分が抑えられており、安全性が求められる食品用途及び建材用途に特に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
(実施例1)
攪拌機が付いたオートクレーブ中に、スチレンモノマー40000重量部、リン酸三カルシウム(大平化学社製)120重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ4重量部、ベンゾイルパーオキサイド(純度75%)140重量部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート30重量部及びイオン交換水40000重量部を供給した後、オートクレーブの攪拌機の攪拌羽を80rpmの攪拌速度で回転させてオートクレーブ内を攪拌して懸濁液を作製した。
【0044】
次に、オートクレーブの攪拌機の攪拌羽を80rpmで回転させながら、オートクレーブ内を90℃まで昇温し、90℃で6時間に亘って保持した後、オートクレーブ内を120℃まで昇温し、120℃で2時間に亘って保持した上で、オートクレーブ内を25℃まで冷却し、オートクレーブから懸濁液を取り出して脱水、洗浄を繰り返して行い、乾燥工程及び分級工程を経て粒子径0.7〜1.2mm、平均粒子径0.9mmのポリスチレン粒子を得た。
【0045】
次に、撹拌機が付いたオートクレーブ中に、水100重量部を供給した上で、攪拌機の攪拌羽を120rpmの回転速度で回転させてオートクレーブ内を攪拌しながら、分散剤として、複分解法で生成させたピロリン酸マグネシウム0.6重量部及びドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.015重量部を供給して水性媒体を作製した後、この水性媒体中に上記ポリスチレン粒子100重量部を供給した。
【0046】
しかる後、上記オートクレーブ内に、可塑剤としてカプリル酸(花王社製 商品名「ルナック8−98」)1.0重量部を供給した。更に、オートクレーブの攪拌機の攪拌羽を120rpmの回転速度で回転させながら、オートクレーブ内を100℃に昇温した後、オートクレーブ内に、発泡剤としてブタン(イソブタン:30重量%、ノルマルブタン:70重量%)8重量部を窒素加圧して30分間かけて圧入し、その状態で2時間保持した後、オートクレーブ内の温度を25℃まで冷却し、オートクレーブ内から内容物を取り出し、脱水、乾燥して発泡性ポリスチレン粒子を得た。なお、カプリル酸はポリスチレン粒子に全て、吸収されていた。その後、分級工程を経て粒子径0.7〜1.2mm、平均粒子径0.9mmの発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0047】
次に、得られた発泡性ポリスチレン粒子100重量部、ポリエチレングリコール0.05重量部及びステアリン酸亜鉛0.15重量部からなる表面処理剤をレーディゲミキサーに供給して10分間に亘って撹拌し、発泡性ポリスチレン粒子表面を表面処理剤で均一に全面的に被覆した。なお、レーディゲミキサー内に供給した表面処理剤は全て、発泡性ポリスチレン粒子の表面に付着された。
【0048】
そして、発泡性ポリスチレン粒子を15℃の保冷庫にて24時間に亘って放置した後、円筒型バッチ式加圧予備発泡機に供給して蒸気により加熱して嵩倍率60倍に予備発泡させて予備発泡粒子を得た。
【0049】
続いて、得られた予備発泡粒子を室温雰囲気下にて24時間に亘って放置した後、縦1840mm×横930mm×高さ530mmの直方体形状のキャビティを有する金型内に予備発泡粒子を充填した後、金型のキャビティ内を水蒸気でゲージ圧0.07MPaの圧力でもって20秒間に亘って加熱し、しかる後、金型のキャビティ内の圧力が−0.01MPaになるまで冷却した後、金型内から縦1840mm×横930mm×厚み530mmの直方体形状のポリスチレン発泡成形品を得た。
【0050】
(実施例2)
攪拌機が付いたオートクレーブ中に、スチレンモノマー40000重量部、リン酸三カルシウム(大平化学社製)120重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ4重量部、ベンゾイルパーオキサイド(純度75%)140重量部、t−ブチルパーオキシベンゾエート100重量部、可塑剤としてカプリル酸1.0重量部及びイオン交換水40000重量部を供給した後、オートクレーブの攪拌機の攪拌羽を80rpmの攪拌速度で回転させてオートクレーブ内を攪拌して懸濁液を作製したこと、ポリスチレン粒子に発泡剤を含浸させる際にオートクレーブ内にカプリル酸を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子及びポリスチレン発泡成形品を得た。
【0051】
(実施例3)
攪拌機が付いたオートクレーブ中に、スチレンモノマー40000重量部、リン酸三カルシウム(太平化学社製)120重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ4重量部、ベンゾイルパーオキサイド(純度75重量%)140重量部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート30重量部及びイオン交換水40000重量部を供給した後、オートクレーブの攪拌機の攪拌羽を80rpmの攪拌速度で回転させてオートクレーブ内を攪拌して懸濁液を作成した。
【0052】
次に、オートクレーブの攪拌機の攪拌羽を80rpmで回転させながら、オートクレーブ内を90℃まで昇温し、90℃で6時間に亘って保持した後、オートクレーブ内を120℃まで昇温し、120℃で2時間に亘って保持した上で、オートクレーブ内を25℃まで冷却し、オートクレーブから懸濁液を取り出して脱水、洗浄を繰り返して行い、乾燥工程および分級工程を経て粒子径0.4〜0.7mmのポリスチレン粒子を得た。
【0053】
次に、撹拌機が付いたオートクレーブ中に、上記ポリスチレン粒子300重量部、イオン交換水700重量部、ドテシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.1重量部及びピロリン酸マグネシウム3重量部をオートクレーブに供給した。
【0054】
又、イオン交換水300重量部にドテシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.08重量部、ピロリン酸マグネシウム0.8重量部を分散させてなる分散液を作製する一方、スチレンモノマー200重量部にベンゾイルパーオキサイド3.5重量部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート0.2重量部を溶解させてなるスチレンモノマー混合物を作製し、このスチレンモノマー混合物を上記分散液に添加してホモミキサーを用いて乳濁化させた乳濁液を得た。
【0055】
しかる後、上記オートクレーブ内を75℃に加熱、保持した上で上記乳濁液を供給した。20分保持した後に、オートクレーブ内を75℃から108℃まで0.2℃/分で昇温させながら、予めカプリル酸(花王社製 商品名「ルナック8−98」)10重量部をスチレンモノマー500重量部に溶解させた溶解液510重量部を160分かけてオートクレーブ内に連続的に滴下し、滴下が終了してから20分後にオートクレーブ内を120℃まで昇温し、90分に亘って保持して、シード重合によりポリスチレン粒子を得た。又、スチレンモノマーはすべて重合に用いられていた。
【0056】
しかる後、上記オートクレーブの攪拌機の攪拌羽を120rpmの回転数で回転させながら、オートクレーブ内を100℃に保ち、オートクレーブ内に、発泡剤としてブタン(イソブタン:30重量%、ノルマルブタン:70重量%)80重量部を窒素加圧して30分間かけて圧入し、その状態で2時間保持した後、オートクレーブ内の温度を25℃まで冷却し、オートクレーブ内から内容物を取り出し、脱水、乾燥して発泡性ポリスチレン粒子を得た。なお、カプリル酸はポリスチレン粒子に全て、吸収されていた。その後、分級工程を経て粒子径0.7〜1.2mm、平均粒子径0.9mmの発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0057】
次に、得られた発泡性ポリスチレン粒子100重量部、ポリエチレングリコール0.05重量部及びステアリン酸亜鉛0.15重量部からなる表面処理剤をレーディゲミキサーに供給して10分間に亘って攪拌し、発泡性ポリスチレン粒子表面を表面処理剤で均一に全面的に被覆した。なお、レーディゲミキサー内に供給した表面処理剤は全て、発泡性ポリスチレン粒子の表面に付着された。その後は、実施例1と同様の要領で予備発泡粒子及びポリスチレン発泡成形品を得た。
【0058】
(実施例4)
t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネートを30重量部の代わりに100重量部添加したこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子及びポリスチレン発泡成形品を得た。
【0059】
(実施例5)
カプリル酸を1.0重量部の代わりに0.5重量部としたこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子及びポリスチレン発泡成形品を得た。
【0060】
(実施例6)
カプリル酸を1.0重量部の代わりに1.8重量部としたこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子及びポリスチレン発泡成形品を得た。
【0061】
(実施例7)
可塑剤としてカプリル酸の代わりにカプリン酸(花王社製 商品名「ルナック10−98」)を用いたこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子及びポリスチレン発泡成形品を得た。
【0062】
(実施例8)
カプリル酸を1.0重量部の代わりに0.8重量部とし、オートクレーブ内にカプリル酸と共に可塑剤としてシクロヘキサン(JOMO社製 商品名「シクロヘキサン」)0.5重量部を供給したこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子及びポリスチレン発泡成形品を得た。
【0063】
(実施例9)
カプリル酸を1.0重量部の代わりに0.8重量部とし、オートクレーブ内にカプリル酸と共に、可塑剤としてシクロヘキサン(JOMO社製 商品名「シクロヘキサン」)0.5重量部及びジイソブチルアジペート0.3重量部を供給したこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子及びポリスチレン発泡成形品を得た。
【0064】
(実施例10)
カプリル酸を1.0重量部の代わりに0.8重量部とし、オートクレーブ内にカプリル酸と共に可塑剤としてやし油(花王社製 商品名「ルナックL−50」)0.5重量部を供給したこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子及びポリスチレン発泡成形品を得た。
【0065】
(実施例11)
カプリル酸を1.0重量部の代わりに0.8重量部とし、オートクレーブ内にカプリル酸と共に可塑剤としてジイソブチルアジペート(花王社製 商品名「ルナックL−50」)0.5重量部を供給したこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子及びポリスチレン発泡成形品を得た。
【0066】
(比較例1)
可塑剤としてカプリル酸の代わりにトルエン(モービル社製 商品名「トルエン」)を用いたこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子及びポリスチレン発泡成形品を得た。
【0067】
(比較例2)
可塑剤としてカプリル酸の代わりにシクロへキサンを用いたこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子及びポリスチレン発泡成形品を得た。
【0068】
(比較例3)
可塑剤としてカプリル酸の代わりにやし油を用いたこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子及びポリスチレン発泡成形品を得た。
【0069】
(比較例4)
可塑剤としてカプリル酸の代わりに、やし油0.8重量部及びトルエン0.5重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子及びポリスチレン発泡成形品を得た。
【0070】
(比較例5)
カプリル酸を1.0重量部の代わりに2.5重量部としたこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子を得た。この発泡性ポリスチレン粒子を実施例1と同様の要領でポリスチレン系樹脂発泡成形品を成形しようとしたが、発泡性ポリスチレン粒子の予備発泡時に収縮が生じた。
【0071】
(比較例6)
カプリル酸を1.0重量部の代わりに0.1重量部としたこと以外は実施例1と同様の要領で発泡性ポリスチレン粒子及びポリスチレン系樹脂発泡成形品を得た。
【0072】
得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中の残存スチレンモノマー量を上記の要領で測定し、発泡性、ブロッキング性及び融着性を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。なお、比較例5については、発泡性スチレン粒子の予備発泡時に収縮を生じたため、発泡性、ブロッキング性及び融着性の評価は行わなかった。
【0073】
(発泡性)
発泡性スチレン粒子を発泡炉に供給し690kPa(0.7kgf/cm2)の蒸気で3分間に亘って加熱し発泡させて発泡粒子を得た。得られた発泡粒子10gをメスシリンダーに入れて体積を測定し、体積を重量(10g)で除して見掛けの発泡倍率(cm3/g)を算出した。
【0074】
(ブロッキング性)
発泡性スチレン粒子W1gを見掛け体積で60倍に予備発泡させた。予備発泡粒子同士が合着したブロッキング粒子を目開き10mmの篩を用いて分離し、ブロッキング粒子の重量W2gを測定した。そして、下記式に基づいてブロッキング性を算出した。
ブロッキング性(%)=100×W2/W1
【0075】
(融着性)
ポリスチレン発泡成形品を切込線に沿って手で二分割し、この分割断面を目視観察した。そして、試験シートの分割断面において、全部の発泡粒子の数(a)と、発泡粒子同士が熱融着界面で破断することなく発泡粒子自体が破断された発泡粒子の数(b)とを数え、下記式に基づいて融着率を算出した。
融着率(%)=100×b/a
【0076】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させてなる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、ポリスチレン系樹脂粒子100重量部に対して可塑剤として炭素数が11以下の脂肪酸を0.3〜2.0重量部含有していることを特徴とする発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項2】
可塑剤が、炭素数が8〜10の脂肪酸であることを特徴とする請求項1に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項3】
脂肪酸がカプリル酸であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項4】
スチレン系モノマー量が発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の全重量に対して3000ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させてなる予備発泡粒子を型内発泡成形させて得られるポリスチレン系樹脂発泡成形品。

【公開番号】特開2009−298969(P2009−298969A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157065(P2008−157065)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】