説明

発熱印字体

【課題】箔押しや熱転写等する際に用いられ、通電すると発熱して印字を行う発熱印字体であって、印字体の温度制御を簡単に行うことができる発熱印字体を提供する。
【解決手段】カーボン含有ゴムからなる印字部1と、この印字部1を通電して発熱する電極部2を有する発熱印字体において、前記印字部1の発熱に伴う電気抵抗の変化特性をセンサーとして利用し、この印字部1で検出した電流値または電圧値が閾値を越えた場合に電極部2の通電を停止する温度制御手段5を設けた。温度制御手段5としては、定電流制御方式、定電圧制御方式のいずれでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、箔押しや熱転写等する際に用いられ、通電すると発熱して印字を行う発熱印字体であって、印字体の温度制御を簡単に行うことができる発熱印字体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属、ガラス、セラミックス等からなる各種の部品や商品に箔押しや熱転写等するのに、通電すると発熱して印字を行う発熱印字体を用いることが知られている。また本件出願人も、特許文献1に示すように、軟質材、硬質材を問わず鮮明な印影を得ることができる発熱印字体を開発し、先に出願している。
【0003】
特許文献1に示す発熱印字体は、印字部、支持ベース部、電極部からなるものであり、電極部を通電することで印字部を発熱させ、箔押しや熱転写等するという基本的なものである。一方、特許文献2や特許文献3に示されるように、鮮明な印刷を施すよう印字部の発熱を制御する機構を別途組み込んだ発熱印字体も知られている。
【0004】
しかしながら、印字体の温度を制御するには、別に温度センサーが必要になるため、構造が極めて複雑になるうえに、コスト的にも高価なものになってしまうという問題点があった。従って、温度制御機構を有する発熱印字体としては、比較的大型かつ複雑な装置となってしまうため、現時点では使い勝手が悪いという問題点や使用できる場所等が限られてしまうという問題点があった。
【特許文献1】特許第3521990号公報
【特許文献2】実公昭61−10987号公報
【特許文献3】特開昭62−242550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような問題点を解決して、印字体の温度制御を確実に行うことができ、しかも特別な温度センサー部材を組み込む必要もなく構造が簡単であり、コスト的にも安価なものとすることができる発熱印字体を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明の発熱印字体は、カーボン含有ゴムからなる印字部と、この印字部を通電して発熱する電極部を有する発熱印字体において、前記印字部の発熱に伴う電気抵抗の変化特性をセンサーとして利用し、この印字部で検出した電流値または電圧値が閾値を越えた場合に電極部の通電を停止する温度制御手段を設けたことを特徴とするものである。
【0007】
また、温度制御手段が、電流を一定にしておく定電流制御方式によって電圧値を検出し、この電圧値が閾値を越えた場合に電極部の通電を停止するものを請求項2に係る発明とし、更に、温度制御手段が、電圧を一定にしておく定電圧制御方式によって電流値を検出し、この電流値が閾値を越えた場合に電極部の通電を停止するものを請求項3に係る発明とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、印字部の発熱に伴う電気抵抗の変化特性をセンサーとして利用し、この印字部で検出した電流値または電圧値が閾値を越えた場合に電極部の通電を停止する温度制御手段を設けたので、従来のように別部材である複雑な構造の温度センサー部材を組み込む必要がなくなり、簡単な構造とすることができ、また小型化やコストダウンを図ることができることとなる。
【0009】
また、請求項2に係る発明では、温度制御手段を、電流を一定にしておく定電流制御方式によって電圧値を検出し、電圧値が閾値を越えた場合に電極部の通電を停止するものとし、更には、請求項3に係る発明では、温度制御手段を、電圧を一定にしておく定電圧制御方式によって電流値を検出し、電流値が閾値を越えた場合に電極部の通電を停止するものとしたので、電圧値あるいは電流値の測定により正確な温度制御ができることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1は、本発明に係る発熱印字体の一例を示す概略説明図であり、図1において、1は印字部、2は電極部、3は支持ベース部である。また、4はこの発熱印字体に接続されたコントローラである。
【0011】
そして本発明では、前記印字部1の発熱に伴う電気抵抗の変化特性をセンサーとして利用し、この印字部1で検出した電流値または電圧値が閾値を越えた場合に電極部2の通電を停止する温度制御手段5を設けた点に特徴を有している。
これは本発明者が、特別な温度センサー部材を組み込む必要もなく簡単な構造で印字体の温度制御を確実に行うことを目的として研究した結果、カーボン含有シリコーンゴムからなる印字部自体をセンサーとして利用できることを見出したことによる。即ち、カーボン含有シリコーンゴムからなる印字部は、(1)通電すると発熱する特性と、(2)温度上昇に伴い抵抗が大きくなって、電流が流れにくくなる特性を有しており、この電流が流れにくくなる特性をセンサーとして利用すれば、特別な温度センサー部材を組み込まなくても、印字部で検出した電流値または電圧値が閾値を越えた場合に電極部の通電を停止することができるとの知見を得、本発明を完成するに至った。
【0012】
前記温度制御手段5は、図1に示すように、印字体に接続されたコントローラ4内に組み込むことができる。この温度制御手段5としては、電圧値が閾値を上回った場合に電極部の通電を停止する、あるいは電流値が閾値を下回った場合に電極部の通電を停止するようにプログラムを入力したCPU、簡易リミッター付き電流計、簡易リミッター付き電圧計等を用いることができる。
【0013】
温度制御手段5は、図2に示すように、電流を一定にしておく定電流制御方式によって電圧値を検出し、この電圧値が閾値を上回った場合に電極部の通電を停止するものとすることができる。また、図3に示すように、電圧を一定にしておく定電圧制御方式によって電流値を検出し、この電流値が閾値を下回った場合に電極部の通電を停止するものも用いることができる。
【0014】
図4、図5を参照して、定電流制御方式、定電圧制御方式の説明をする。
オームの法則に従い、例えば10オームの抵抗に18Vの電圧をかけると1.8Aの電流が流れ、逆に、10オームの抵抗に1Aの電流を流すと10Vの電位差がヒータ電極間で発生する。
そして、定電流制御方式においては、抵抗値が温度とともに上昇すると、電極間にかける電圧を自動的に上げて電流を一定に保つこととなる。これを、基盤(コントローラ4)に設けた温度制御手段5が行い、設定電圧まで電極間電圧が上がると自動的に電極部2の通電を停止するよう構成されている。
また、定電圧制御方式においては、抵抗値が温度とともに上昇すると、電極間にかける電流を自動的に下げて電圧を一定に保つこととなる。これを、基盤(コントローラ4)に設けた温度制御手段5が行い、設定電流まで電極間電流が下がると自動的に電極部2の通電を停止するよう構成されている。
【0015】
また、前記温度制御手段5としては、前記の通り、電圧値が閾値を上回った場合に電極部の通電を停止する、あるいは電流値が閾値を下回った場合に電極部の通電を停止するようにプログラムを入力したCPU、簡易リミッター付き電流計、簡易リミッター付き電圧計等を用いることができる。
参考として、図6〜図9に、温度制御手段5の作動概念の回路図を示す。
図6、図7は定電流制御方式を示すものであり、図中、6は設定電流印加装置である。トリガーをONするとリレーのコイルが入り、電極部が通電して加熱する。一方、電圧が上昇して閾値を超えると、温度制御手段5が電極部の通電を停止する信号を発し、リレーのコイルが切れて、電極部の通電を停止することとなる。
図8、図9は定電圧制御方式を示すものであり、図中、7は設定電圧印加装置である。トリガーをONするとリレーのコイルが入り、電極部が通電して加熱する。一方、電流が下降して閾値を超えると、温度制御手段5が電極部の通電を停止する信号を発し、リレーのコイルが切れて、電極部の通電を停止することとなる。
【0016】
次に、印字部1、電極部2、及び支持ベース部3について説明する。
本発明で使用する印字部は、カーボン含有ゴム、特に好ましくはカーボン含有シリコーンゴムに文字等を形成して作成される。カーボン含有シリコーンゴムとは、生シリコーンゴム、カーボン、架橋剤を混合し均一に分散させた混合物を、一定の圧力下で加熱して架橋させたものである。ここで使用できる生シリコーンは特に限定されないが、東芝シリコーン(株)社製TSE221−5U・TSE221−6U・TSE2122−6U・TSE270−6U・TSE260−5U・TSE261−5U・TSE2323−5U等や、信越化学工業(株)社製KE941−U・KE951−U・KE9611−U・KE765−U・KE540−U・KE552−U等や、東レダウコーニングシリコーン(株)社製SH745U・SH35U・SH52U・SH841U・SE1120U・SE1602U・SE4706U等を例示することができる。
また、前記未架橋シリコーンゴム以外にも、本発明の発熱印字体の使用温度(約100〜150℃)で耐熱性のあるゴムであれば特に制限はなく、例えば、フッ素ゴム、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)等の未加硫ゴムを採用することができる。また、前記ゴム以外にも、例えば、ナイロン、ポリイミド、ポリエステル等の合成樹脂を採用することもできる。
カーボンは粒径0.01〜0.3μmのものが好ましく用いられ、前記混合物中20〜60重量%の割合で配合される。なお、生シリコーンゴムにカーボンを分散させたシリコーンゴムとして市販されている、東芝シリコーン(株)社製YE3452UB・TCM5406U・TCM5407U・TCM5417U等や、信越化学工業(株)社製KE3603−U・KE3601SB−U・KE3611−U・KE3711−U・KE3801M−U等や、東レダウコーニングシリコーン(株)社製SE6758U・SE6765U・SE6770U・SRX539UT・DY38−008等を用いてもよい。架橋剤は、公知のパーオキサイドが使用でき、例えばベンゾイルパーオキサイド、2,4ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、2,5ジメチル2,5ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ターシャリーブチルクミルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーベンゾエートなどを用いることができ、前記混合物中1〜5重量%の割合で配合できる。
また、前記カーボンとして、カーボンナノチューブを配合することもできる。カーボンナノチューブは、チューブ径0.4〜90nmのものが好ましく用いられ、具体的には、チューブ径0.4〜90nm・チューブ長1〜100μm・チューブ層5〜50の多層カーボンナノチューブ(MWNT)、又は、チューブ径0.4〜35nm・チューブ長0.01〜100μmの単層カーボンナノチューブ(SWNT)を用いることができる。当該カーボンナノチューブは、前記未架橋シリコーンゴム100重量部に対して、20〜80重量部の割合(20〜80phr)で配合される。配合量が少なすぎると十分に発熱しない発熱印字体となるし、配合量が多すぎると割れたり脆くなったり柔軟性が無くなったり物性的に劣る発熱印字体となるので好ましくない。
印字部は、前記混合物をシート状にして、凹状の文字等を彫った金型に入れ、加圧加熱して得る方法が一般的である。圧力は100〜200kg/cm2、温度は150〜200℃、加熱時間は5〜20分が適当である。本発明において印字部の厚さは0.1〜5mmにすることができるが、0.3〜3mmが最も好ましい。0.3mm以下では文字部分の成形が困難であり、3mm以上では発熱効率が低下するからである。
また、未架橋シリコーンゴム、カーボンナノチューブ、架橋剤、その他必要に応じて添加剤を加え、これを均一に分散した混合物をシート状に成形し、一定の圧力下で加熱して架橋させた後、彫刻機やレーザ加工機などで文字等を彫刻してもよい。架橋時の圧力は100〜200kg/cm2、温度は150〜200℃、加熱時間は5〜20分が適当である。
【0017】
また、前記電極部2は、導電性のものであればよく、特に導電性の高い銅が好ましい。しかし、銅は熱伝導性も高いので極めて薄くして使用するか、プラスチックフィルムに銅を蒸着させたものを断熱材に巻くか、または断熱材に銅を直接蒸着して電極とする等の工夫が必要である。更に、接触抵抗を下げるために印字部1との接触面積を大きくすることが好ましい。
【0018】
また、前記支持ベース部3には、絶縁性、断熱性、耐熱性に優れた材質を使用する。特に、ガラス、セラミックス、フッ素ゴム、シリーコンゴム等が好ましく、一般の市販品を用いることができる。その他、ガラス繊維やアラミド繊維等からなる耐熱布や、使用条件によっては綿布も用いることができる。
【0019】
以上の説明からも明らかなように、本発明はカーボン含有シリコーンゴムからなる印字部と、この印字部を通電して発熱する電極部を有する発熱印字体において、前記印字部の発熱に伴う電気抵抗の変化特性をセンサーとして利用し、この印字部で検出した電流値または電圧値が閾値を越えた場合に電極部の通電を停止する温度制御手段を設けた構造としたので、印字体の温度制御を確実に行うことができ、しかも特別な温度センサー部材を組み込む必要もなく構造が簡単であり、コスト的にも安価なものとすることができることとなる。また、センサーの役割を果たす印字部表面と捺印対象物とが直接接触するため、印字部表面と捺印対象物との間に温度差が生じないことによって、応答性がよく、供給する電力にロスが生じないという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態を示す概略説明図である。
【図2】定電流制御方式を示すフロー図である。
【図3】定電圧制御方式を示すフロー図である。
【図4】定電流制御方式の説明図である。
【図5】定電圧制御方式の説明図である。
【図6】定電流制御方式の温度制御手段の作動概念を示す回路図である。
【図7】定電流制御方式の温度制御手段の作動概念を示す回路図である。
【図8】定電圧制御方式の温度制御手段の作動概念を示す回路図である。
【図9】定電圧制御方式の温度制御手段の作動概念を示す回路図である。
【符号の説明】
【0021】
1 印字部
2 電極部
3 支持ベース部
4 コントローラ
5 温度制御手段
6 設定電流印加装置
7 設定電圧印加装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン含有ゴムからなる印字部と、この印字部を通電して発熱する電極部を有する発熱印字体において、前記印字部の発熱に伴う電気抵抗の変化特性をセンサーとして利用し、この印字部で検出した電流値または電圧値が閾値を越えた場合に電極部の通電を停止する温度制御手段を設けたことを特徴とする発熱印字体。
【請求項2】
温度制御手段は、電流を一定にしておく定電流制御方式によって電圧値を検出し、この電圧値が閾値を越えた場合に電極部の通電を停止するものである請求項1に記載の発熱印字体。
【請求項3】
温度制御手段は、電圧を一定にしておく定電圧制御方式によって電流値を検出し、この電流値が閾値を越えた場合に電極部の通電を停止するものである請求項1に記載の発熱印字体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−234230(P2009−234230A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86820(P2008−86820)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(390017891)シヤチハタ株式会社 (162)
【Fターム(参考)】