説明

発熱性樹脂基板およびその製造方法

【課題】ポリカーボネート、アクリル、ABSのような熱膨張率が大きくて熱伝導率が低い合成樹脂基板に面状発熱体を形成する。
【解決手段】透明な合成樹脂基板4と、この合成樹脂基板4の表面に金属ナノ粉末をランダムな網目状パターンに形成された透明性を有する導電層2および透明で柔軟性を有する高分子ウレタン系樹脂層3を併存させた層と、上記導電層2の端部に形成された一対の通電電極5とにより面状発熱体を形成する。合成樹脂基板4が平面でも三次元曲面であっても、この面状発熱体を適用する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
この発明は、窓の防曇に用いる発熱性樹脂基板およびその製造方法に関する。
【0002】
自動車用窓ガラス、例えば、自動車用リアウインドウには、従来より強化ガラスが用いられている。
【0003】
この自動車用リアウインドウの窓ガラスの防曇のために、窓ガラスの車内側に銀ペーストを焼成させたヒータ線を等間隔に複数条配置して、窓ガラスを温めることにより結露による視界の悪化を防いでいる。
【0004】
ポリカーボネートの透明樹脂材料は、従来の強化ガラスに比べて軽量で耐衝撃性に優れているので、強化ガラスに代わって車両の窓や建築物の窓の採光材として使用されている。
【0005】
強化ガラスに比べて、ポリカーボネートの透明樹脂材料は熱伝導率が低いので、ヒータ線によって加熱しても、ヒータ線の近傍のみが温められるだけで、全面を均等に温めるには、ヒータ線を蜜に配置しなければ防曇効果を得ることができない。
【0006】
そこで、面状発熱体として、ポリカーボネートの樹脂基板の全面に、ITO(Indium−Tin−Oxide)を材料とする透明導電層を形成し、この透明導電層の上下に設けた一対の通電電極を経て電力を供給し、発熱させることにより防曇効果を有する車両用樹脂窓が、下記特許文献1などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−41343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ITOを材料とする透明導電層は、自動車用リアウインドウの窓ガラスのような三次元曲面に形成することは困難であり、破断して断線し易く、対抗値が高くて必要な発熱量を得ることはできない。発熱量を増加させるためには、透明導電層の膜厚を厚くしなければならず、厚くすると失透するという問題があった。
【0009】
そこで、この発明は、ポリカーボネート、アクリル、ABSおよびこれらの共重合樹脂のような熱膨張率が大きくて熱伝導率が低い透明な合成樹脂基板に面状発熱体を形成するために考えられたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の発熱性樹脂基板は、透明な合成樹脂基板と、この合成樹脂基板の表面に設けられた金属ナノ粉末をランダムな網目状パターンに形成した導電層と、この導電層を保持する透明で柔軟性を有する樹脂層と、上記導電層の端部に形成された一対の通電電極とを具備するするものである。
【0011】
この透明の発熱性樹脂基板で使用する柔軟性を有する樹脂層には、高分子ウレタン系樹脂が適している。
【0012】
この発明の発熱性樹脂基板の製造方法は、離型性を有する基体シートに、金属ナノ粉末をランダムな網目状パターンに形成した導電層およびこの導電層を保持する透明で柔軟性を有する樹脂層を形成した転写材を作成する工程と、透明な合成樹脂基板に上記転写材を貼り付ける工程と、上記導電層に一対の通電電極を形成する工程とを経る製造方法である。
【0013】
この発明の発熱性樹脂基板の製造方法で使用する透明で柔軟性を有する樹脂層には、高分子ウレタン系樹脂が適している。
【発明の効果】
【0014】
この発明の発熱性樹脂基板は、ポリカーボネート、アクリル、ABSおよびこれらの共重合樹脂のような熱膨張率が大きくて熱伝導率が低い合成樹脂基板であっても、平面でも三次元曲面であっても面状発熱体を形成することができる。
【0015】
面状発熱体に使用する透明性および柔軟性を有する導電層として、金属ナノ粉末をランダムな網目状パターンに形成した導電層および高分子ウレタン系樹脂を用いることにより、導電層が破断して断線することがなく、かつ透明性を損なうことなく基板全面を均等に加熱することができて、優れた防曇効果を奏することができる。
【0016】
金属ナノ粉末をランダムな網目状パターンに形成した導電層は、比較的、抵抗値が小さいので低電圧(例えば、12V)で動作させることができるから、面状発熱体を外気側に形成して、監視カメラ、照明装置などの窓部の融雪装置として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の発熱性樹脂基板の第1の実施形態の製造工程を示す断面図、
【図2】この発明の第2の実施形態の製造工程を示す断面図、
【図3】この発明の第3の実施形態の製造工程を示す断面図、
【図4】この発明の第4の実施形態の製造工程を示す断面図、
【図5】この発明の製造工程で使用する金属ナノ粉末をランダムな網目状パターンに形成した導電層の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
この発明の発熱性樹脂基板の第1の実施形態の製造工程は、図1の断面図に示すように、
(a)離型性を有する基体シート10を用意し、この基体シート10にランダムな網目状パターンを有する透明導電層2を形成し、
(b)この透明導電層2の上に透明で柔軟性および粘着性を有する樹脂層3を形成した転写材1を作成する。
【0019】
(c)真空圧空成型またはインモールド成型により、ポリカーボネート、アクリル、ABSおよびこれらの共重合樹脂などの樹脂基板4に予め用意した転写材1を貼り付けて、
(d)転写材1から基体シート10を剥離する。
【0020】
(e)基体シート10の剥離により露出した透明導電層2の上下または左右両端部に銀ペーストにより一対の通電電極5を形成する。
【0021】
(f)露出した透明導電層2および樹脂層3の表面に、電子線硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などのハードコート層6を形成する。
【0022】
一対の通電電極より透明導電層2に通電して面状発熱体として利用すると、ポリカーボネート樹脂基板が均等に温められて、窓の視界を妨げることなく防曇作用を行わせることができる。
【0023】
以上で説明した透明導電層2は、ランダムな網目による透明性を有するもので、アメリカ合衆国のCima Nano Tech Inc.社から商品名 「SANTE」として販売されているインクを使用する。なお、このインクに関する詳細は、特許第4636496号公報、特開2005−531679号公報に開示されている。
【0024】
この導電性インクは、金属ナノ粉末を含むもので、
(1)溶媒中で、金属ナノ粉末と、結合剤、界面活性剤、添加剤、重合体、緩衝剤、分散剤および/またはカップリング剤から選択される少なくとも1つとを均質な溶液となるように混合する工程と、
(2)上記工程(1)において均質化された混合物を被覆すべき表面に塗布する工程と、
(3)この均質化された混合物から溶媒を蒸発させる工程と、
(4)0.005Ω/スクエア乃至5Ω/スクエアの抵抗値を有する導電性インクを生成するために、被覆すべき表面の上で、50℃乃至300℃の温度範囲で被覆層を焼結する工程とを経て金属ナノ粉末をランダムな網目状パターンに形成した導電層である。
【0025】
このような工程を経て形成されたランダムな網目状パターンは、図4の走査型電子顕微鏡写真に示すように、網目の間から光を透過させることができる。この網目の形状は、光透過率および導電性を考慮して設定される。
【0026】
以上で説明した透明で柔軟性を有する樹脂層3には、網目状パターンの導電層2と密着性のよい高分子ウレタン系樹脂が適しており、透明導電層2に高分子ウレタン系樹脂層3を併存させておくと、成型時に曲げられたり引き伸ばされても、金属ナノ粉末で形成された透明導電層2の網目状パターンは、高分子ウレタン系樹脂層3とともに変形するので、特定の部分に応力が集中することはなく、透明導電層2の網目状パターンが破断することはないのである。
【0027】
また、温度変化によってポリカーボネートなどの樹脂基板が伸縮しても、透明で柔軟性を有する樹脂層3が併存しているので、透明導電層2の網目状パターンが破断することはないのである。
【0028】
(第2の実施形態)
この発明の発熱性樹脂基板の第2の実施形態の製造工程は、図2の断面図に示すように、第1の実施形態と同様に工程(a)(b)により転写材1を作成する。
【0029】
(c)予めポリカーボネートなどの樹脂基板4に一対の通電電極5を形成しておき、
(d)真空圧空成型により、転写材1をポリカーボネートなどの樹脂基板4に貼り付けて、
(e)転写材1から基体シート10を剥離する。
【0030】
この真空圧空成型において、転写材1は加熱してポリカーボネートなどの樹脂基板に押し付けられるので、透明で柔軟性を有する樹脂層3が存在しても、通電電極5と透明導電層2は導通する。
【0031】
(f)露出した透明導電層2および樹脂層3の表面に、電子線硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などのハードコート層6を形成する。
【0032】
(第3の実施形態)
この発明の発熱性樹脂基板の第3の実施形態の製造工程は、図3の断面図に示すように、
(a)離型性を有する基体シート10を用意し、この基体シート10に電子線硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などのハードコート層6を形成し、
(b)このハードコート層6にランダムな網目状パターンを有する透明導電層2を形成する。
【0033】
(c)この透明導電層2の上に透明で柔軟性および粘着性を有する樹脂層3を形成した転写材1を作成する。
【0034】
(d)予めポリカーボネートなどの樹脂基板4に一対の通電電極5を形成しておき、
(e)真空圧空成型により、転写材1をポリカーボネートなどの樹脂基板4に貼り付けて、
(f)転写材1から基体シート10を剥離するとハードコート層6で覆われた発熱性樹脂基板を得ることができる。
【0035】
(第4の実施形態)
この発明の発熱性樹脂基板の第4の実施形態の製造工程は、図4の断面図に示すように、
(a)離型性を有する基体シート10を用意し、この基体シート10にランダムな網目状パターンを有する透明導電層2を形成し、この透明導電層2両端部に、銀ペイントにより一対の通電電極5を形成し、
(b)この透明導電層2の上に透明で柔軟性および粘着性を有する樹脂層3を形成した転写材1を作成する。
【0036】
(c)ポリカーボネートなどの樹脂基板4を用意し、
(d)真空圧空成型により、転写材1をポリカーボネートなどの樹脂基板4に貼り付けて、
(e)転写材1から基体シート10を剥離する。
【0037】
(f)露出した透明導電層2および樹脂層3の表面に、電子線硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などのハードコート層6を形成する。
【符号の説明】
【0038】
1 転写材
10 離型性を有する基体シート
2 透明導電薄層
3 透明で柔軟性を有する樹脂層
4 ポリカーボネートなどの樹脂基板
5 通電電極
6 ハードコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な合成樹脂基板と、該合成樹脂基板の表面に設けられた金属ナノ粉末をランダムな網目状パターンに形成した導電層と、該導電層を保持する透明で柔軟性を有する樹脂層と、上記導電層の端部に形成された一対の通電電極とを具備することを特徴とする発熱性樹脂基板。
【請求項2】
透明で柔軟性を有する樹脂層は、高分子ウレタン系樹脂であることをを特徴とする請求項1に記載の発熱性樹脂基板。
【請求項3】
離型性有する基体シートに、金属ナノ粉末をランダムな網目状パターンに形成した導電層および該導電層を保持する透明で柔軟性を有する樹脂層を形成した転写材を作成する工程と、
透明な合成樹脂基板に上記転写材を貼り付ける工程と、
上記導電層に一対の通電電極を形成する工程とを経ることを特徴とする発熱性樹脂基板の製造方法。
【請求項4】
透明で柔軟性を有する樹脂層は、高分子ウレタン系樹脂であることをを特徴とする請求項1に記載の発熱性樹脂基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate