説明

発芽玄米を用いる食酢の製造方法及びこの方法で製造した玄米黒酢

【課題】 発芽玄米を原料とする黒酢の製造方法において、ギャバの失量の少ない方法を提供する。
【解決手段】 玄米を水に浸漬して発芽させた発芽玄米を丸粒のままで浸漬水と一緒に液状化促進酵素を加えて煮熟して液状化させ、次いで糖化処理、アルコール発酵、酢酸発酵を行うことで、ギャバの失量が少ない玄米黒酢を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玄米を発芽させた発芽玄米を用いる食酢の製造方法及びこの方法で製造した玄米黒酢に関するものである。
【背景技術】
【0002】
玄米を発芽させると血圧降下作用や動脈硬化抑制作用があるギャバ(γ−アミノ酪酸)等の水溶性機能性成分が生成することが知られている。一般に、玄米を発芽させるには、適温(20〜30℃)で適時間(20〜40時間)水に浸漬するが、このとき、上記した機能性成分は約1/3が水に溶出する。この場合、発芽後の浸漬水は廃棄することになるが、このとき、機能性成分も一緒に廃棄することになる。一方で、この浸漬水は産業廃棄物であるから、廃棄には十分に注意する必要があり、河川等に流出させると公害問題を引き起こす。
【0003】
ところで、従来からも、発芽玄米を原料とする食酢の製造は知られており、以下の二通りの方法がある。その一は、発芽玄米を蒸熟する方法で、これには発芽させた浸漬水を水切りする必要がある。しかし、これによると、浸漬水に溶出した機能性成分を廃棄することになるから、利用が不十分であって無駄にしているといえる。その二は、加熱して液状化させるときの効率を考慮して発芽前に予め玄米を破砕してこれを水に浸漬する方法である。しかし、この方法によっても水切りは必要であるし、第一、破砕すると発芽の処理、管理が困難になる。
【特許文献1】特開2006−187230号公報
【特許文献2】特開2003−125716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上の課題を解決したもので、蒸熟に代えて煮熟にし、このとき、浸漬水も一緒に煮熟することで、一度溶出した機能性成分を再度回収するようにしたものである。なお、上記特許文献1には玄米を用いる食酢の製造方法が示されているが、発芽玄米については記述が見られないし、浸漬水の処理や加熱の方法については具体的な記述がされていない。また、特許文献2には玄米の発芽方法とこれで発芽させた発芽玄米を食品に用いる旨が述べられているが、食酢についての具体的な記述は見られないし、当然に浸漬水の処理や加熱の方法については触れられていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、玄米を水に浸漬して発芽させた発芽玄米を丸粒のままで浸漬水と一緒に液状化促進酵素を加えて煮熟して液状化させ、次いで糖化処理、アルコール発酵、酢酸発酵を行うことを特徴とする発芽玄米を用いる食酢の製造方法を提供したものである。
【0006】
そして、本発明は、以上の製造方法において、請求項2に記載した、浸漬水を玄米に対して重量比で200%以上にする手段、請求項3に記載した、煮熟処理として、30〜40℃で3〜6時間煮熟した後、60〜80℃で4〜6時間煮熟する手段、請求項4に記載した、液状化促進酵素がヘミセルラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼを含有する植物組織崩壊酵素製剤並びに澱粉液化酵素製剤及び酸性プロテアーゼ製剤である手段を提供したものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の手段によると、蒸熟に代えて煮熟によるものであるから、浸漬水を発芽玄米と一緒に煮熟できる。したがって、機能性成分は再度回収できるし、廃棄の問題も起こらず、この点で、一石二鳥の効果があるといえる。また、浸漬の前にも後にも玄米を破砕しないのであるから、発芽処理、管理が容易であるし、コストのかかる余分な工程を必要としない。さらに、請求項2〜4の手段によると、それぞれの処理を最適にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明に係る食酢の製造方法のブロック図であるが、本発明では、玄米を水に浸漬して発芽させ、ギャバ等の機能性成分を生成させる。次いで、これを浸漬水と一緒に煮熟して液状化させ、後は常法どおりの糖化処理、アルコール発酵、酢酸発酵させて食酢(玄米黒酢)を得る。以下、各工程・処理について詳説する。
【0009】
水浸漬:玄米を無洗米のままで水に浸漬する。したがって、洗米の手間も省ける。このときの水の量は玄米に対して重量比で200%以上用いる。また、細菌の増殖を抑制するために酢酸やクエン酸等の有機酸を添加することもある。
発芽:水に浸漬した状態を保っておけば、玄米は発芽する。このとき、温度を20〜30℃に保持しておけば、20〜40時間で発芽する。
【0010】
煮熟:発芽した玄米を丸粒のままで煮熟する。このとき、浸漬水を汲水として使用するのが本発明の特徴であり、汲水は玄米に対して重量比で200%以上を確保する。なお、前の浸漬工程の際の浸漬水はそのまま汲水として使用するのであるから、浸漬槽とこの煮熟槽は同じものを使用できる。そして、玄米組織を崩壊させて液状化を促進するためにヘミセルラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ等で構成された植物組織崩壊酵素製剤及び澱粉液化酵素製剤、酸性プロテアーゼ製剤を添加する。このときの煮熟処理は、米粒の組織崩壊を促進するために30〜40℃で3〜6時間煮熟し、次いで、60〜80℃で4〜6時間かけて緩やかに攪拌しながら煮熟する。この時間が経過すると、玄米は液質分と固形分が混じった液状化物となるから、95℃以上の温度で加熱殺菌する。
【0011】
糖化処理:液状化物を十分に冷却して糖化酵素製剤と玄米麹を加える。
アルコール発酵:培養酵母を加えてアルコール発酵させる。できたものが完熟もろみであるが、次の酢酸発酵に適する濃度に希釈し、黒酢製造用もろみ原料とする。
酢酸発酵:もろみ原料に酢種菌を添加して酢酸発酵させると、発芽玄米黒酢の原酢を得る。
【実施例1】
【0012】
浸漬槽と煮熟槽を兼用したステンレス製容器に玄米1000gを無洗米のままで0.2%のクエン酸濃度の浸漬水2200mlに20℃で40時間浸漬して発芽させた。この発芽玄米にヘミセルラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼを含有した植物組織崩壊酵素製剤を重量比で(以下、同じ)0.2%及び澱粉液化酵素製剤を0.1%、酸性プロテアーゼ製剤を0.1%添加して40℃で3時間保持した後、浸漬水と一緒に60〜80℃の温度帯を4時間かけて攪拌しながら緩やかに煮熟して液状化物を得た。そして、95℃まで加熱して殺菌処理し、その後冷却させて糖化酵素製剤を0.1%と玄米麹100g及び培養酵母を添加して常法どおりのアルコール発酵を行った。このときのアルコール濃度は14%であり、もろみ熟成後に酢酸発酵に適した濃度に希釈して酢種菌を加えて発芽玄米黒酢の原酢を得た。
【0013】
このときの発芽玄米の重量は1280gで、含有するギャバ量は10.1mg/100g、玄米に吸収された水分を除く浸漬水量、すなわち水切りしたと仮定した場合の廃水量は1920mlで、廃水に含有されるギャバ量は4.0mg/100ml、最終生成物の原酢(酸度4.5%に調整)のギャバ分析値は4.5mg/酢100mlであった。
【0014】
以上から、発芽玄米、浸漬水、玄米麹のギャバ量を求めてみる。
1)浸漬処理後の発芽玄米中のギャバ総量
10.1×1280/100=129.28mg‥‥(1)
2)水切り浸漬水(従来法では遺棄するもの)のギャバ総量
4.0×1920/100=76.80mg‥‥(2)
3)玄米麹(蒸熟処理したとする)のギャバ総量
38.6×100/100=38.6‥‥(3)
4)原酢に生成するギャバ総量
(1)+(2)+(3)=244.69mg‥‥(4)
【0015】
上記(1)と(2)から水切りによって失われるギャバ総量は
76.80÷(129.28+76.80)×100=37.1%‥‥(5)
以上を検証すると、従来の水切りしての蒸熟では生成するギャバ量の実に1/3強が失われていることになる。これに対して、本発明では、損耗率は0%である。なお、上式で生産された発芽玄米黒酢の総生産量と原料中に含まれるギャバ総量から推測した計算値が完全に一致していないが、アルコール発酵、酢酸発酵の段階での酵素作用や菌体の増殖等による増減、更には原料処理や熟成に伴う着色、容器移動への付着による損耗等が推測される。
[比較例1]
【0016】
水切り蒸熟法によってみた。玄米1000gを2200mlの0.2%クエン酸濃度の浸漬水に浸漬し、20℃で40時間保持した後に水切りした。浸漬玄米は105℃で60分間蒸熟して冷却し、常法どおりのもみろに仕込んだ。そして、実施例と同じ糖化処理、アルコール発酵、酢酸発酵を施して原酢を製造した。このときのギャバ総量の分析値は3.0 mg/酢100mlであった。これを実施例1と比較すると、得られたギャバ総量は67%にしかならなかった。浸漬水を遺棄したからと思われる。
[比較例2]
【0017】
破砕玄米を浸漬水と一緒に煮熟する煮熟法によってみた。玄米を物理的に破砕し、実施例1及び比較例1と同じ方法によって原酢を製造した。ギャバ総量の分析値は1.2mg/酢100mlであった。これを実施例1と比較すると、わずか27%のギャバ総量しか得られていなかった。玄米を破砕すると、発芽が極端に悪くなるからだと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る発芽玄米を用いた食酢製造方法のブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
玄米を水に浸漬して発芽させた発芽玄米を丸粒のままで浸漬水と一緒に液状化促進酵素を加えて煮熟して液状化させ、次いで糖化処理、アルコール発酵、酢酸発酵を行うことを特徴とする発芽玄米を用いる食酢の製造方法。
【請求項2】
浸漬水を玄米に対して重量比で200%以上にする請求項1の発芽玄米を用いる食酢の製造方法。
【請求項3】
煮熟処理として、30〜40℃で3〜6時間煮熟した後、60〜80℃で4〜6時間煮熟する請求項1又は2の発芽玄米を用いる食酢の製造方法。
【請求項4】
液状化促進酵素がヘミセルラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼを含有する植物組織崩壊酵素製剤並びに澱粉液化酵素製剤及び酸性プロテアーゼ製剤である請求項1〜3いずれかの発芽玄米を用いる食酢の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかの発芽玄米を用いる食酢の製造方法によって製造した玄米黒酢。

【図1】
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【公開番号】特開2009−39016(P2009−39016A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206024(P2007−206024)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(592181325)マンネン酢合資会社 (1)
【Fターム(参考)】