説明

発酵により高い量のグリコール酸を生産する方法

本発明は、収率、力価および生産性のより高い生産を可能とする、ΔldhA、ΔmgsA、ΔarcA、およびΔlldP、ΔglcA、ΔyjcGならびにそれらの組合せなどの新たな遺伝子改変を有する組換え微生物による、発酵性炭素源をグリコール酸へ生物変換するための改良された方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、より高い収率、力価および生産性での生産を可能とする、ΔldhA、ΔmgsA、ΔarcAおよびΔlldP、ΔglcA、ΔyjcG、ならびにそれらの組合せなどの新たな遺伝子改変を有する組換え微生物によって、発酵性炭素源をグリコール酸へ生物変換する改良された方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
グリコール酸(HOCHCOOH)は、カルボン酸のα−ヒドロキシ酸ファミリーの最も単純なメンバーである。グリコール酸は、極めて小さい分子に、アルコールとやや強酸の両官能基を有する二機能性を持つ。これは、典型的な酸およびアルコール化学とともに独特の化学的性質をもたらす。
【0003】
グリコール酸はヒドロキシ基とカルボン酸基の双方を用い、多価金属と五員環錯体(キレート)を形成する。この金属イオン錯化能は強固な水垢の溶解および腐敗の防止、特に優れたすすぎ性が重要な要素である酸洗浄の用途において有用である。その特性により、これはウォーターウェルリハビリテーション、皮革工業、石油ガス工業、クリーニングおよび繊維工業で、およびパーソナルケア製品の構成要素としての使用を含む広範囲の消費者および産業用途に理想的なものとなる。グリコール酸は有機アルコールおよび酸と反応してエステルを生成する。低分子量アルキルグリコール酸エステルは独特の溶媒特性を有し、n−プロパノールおよびイソプロパノール、エチレンジアミン、フェノール、m−クレゾール、酢酸2−エトキシエチル、および乳酸エチルおよび乳酸メチルの代替品として使用され得る。高分子量アルキルエステルは、パーソナルケア製品の処方に使用することができる。
【0004】
グリコール酸はまた、ポリグリコール酸を含んでなる熱可塑性樹脂をはじめとする多様なポリマー材料を製造するために使用することができる。ポリグリコール酸を含んでなる樹脂は優れた気体遮断特性を持ち、このようなポリグリコール酸を含んでなる熱可塑性樹脂は、同じ特性を持つ包装材料(例えば、飲料容器など)を作製するためにも使用可能である。ポリエステルポリマーは水性環境中で、制御可能な速度で徐々に加水分解する。この特性によりそれらは可溶性縫合糸などの生物医学用途およびpHを下げるために酸の徐放性が必要とされる用途に有用なものとなる。現在、米国では、年間15,000トンを超えるグリコール酸が消費されている。
【0005】
図1に示される、グルコースまたは他の糖などの安価な炭素基質からのグリコール酸の生物生産はそれぞれWO2007/140816およびWO2007/141316に開示されており、その内容は引用することにより本明細書の一部とされる。これらの用途に記載されている微生物は種々のレベルで
−グリオキシレート経路のフラックス(flux)を増強し、
−グリオキシレートのグリコレートへの変換を増大させ、かつ
−グリコレートおよびその中間体であるグリオキシレートの代謝を低減する
ように遺伝的に改変されている。
【0006】
これらの改変はグリコレート合成経路の最終反応に、またはグリコレートの近縁中間体に直接的な影響を持つ。それらは総て、炭素フラックスをグリコール酸の生産に向ける、およびその異化作用を防ぐという同じ目的を持つ。
【0007】
グリコール酸の生物生産には、遺伝子ycdWによりコードされるNADPH依存性オキシドレダクターゼによってグリコレートへ還元される中間体としてのグリオキシレートの生成が必要とされる(Nunez et al, (2001) Biochemistry, 354, 707-715)。グリオキシレートは、TCA回路のシャントであるグリオキシレート回路の中間体である(Neidhardt, F. C. (Ed. in Chief), R. Curtiss III, J. L. Ingraham, E. C. C. Lin, K. B. Low, B. Magasanik, W. S. Reznikoff, M. Riley, M. Schaechter、およびH. E. Umbarger (eds). 1996. Escherichia coli and Salmonella: Cellular and Molecular Biology. American Society for Microbiologyに総説されている(三カルボン酸回路およびグリオキシレートバイパス)。TCA回路に至る前に、炭素フラックスは解糖を通り、そこでいくつかの反応が起こり、所望の化合物の生産を向上されるために至適化され得る。
【0008】
解糖は、グルコースをピルベートに変換する10の中間化合物が関わる一連の10の反応である。これらの中間体は解糖への流入点となり、これらもまた直接的または間接的に有用であり得る。例えば、中間体ジヒドロキシアセトンホスフェート(DHAP)はタンパク質MgsAを介した乳酸源である。それは乳酸デヒドロゲナーゼLdhAによって乳酸に変換されるピルビン酸分子の場合と同じである。両酵素とも、この場合には望ましくない副産物である乳酸を生産するための炭素フラックスの一部を意味する解糖経路の分子を消費する。遺伝子ldhAは、ルーメン細菌株(WO2008/0134051A1)または高収率コハク酸生産のための大腸菌などの、コハク酸生産のプロセスで減衰される。これに対し、乳酸合成を目的とするプロセスではldhAは過剰発現される(US2007/116852A1)。同様のことがmgsAでも見出され、この遺伝子は1,3−プロパンジオールの生産のための他の遺伝子改変では欠失されるが(WO2004/033646A2)、1,2−プロパンジオール合成のためには過剰発現される(WO2008/116852A1)。双方の活性を減衰することによってグリコール酸の生産は改善されると同時に、乳酸合成が軽減されるはずである。
【0009】
同様に、解糖フラックスおよびTCAフラックス、グルコース輸送または解糖酵素およびTCA酵素の触媒活性を高めるどの遺伝子改変もグリコレートの生産を改善する。ArcA活性の減衰はこのような突然変異の1つである。実際、このタンパク質は、上述の酵素をコードする遺伝子の抑制に関わっていることが示されている。
【0010】
Arc系による包括的調節の理解は、大腸菌(E.coli)におけるarcA遺伝子の同定および好気性代謝に対するその突然変異の影響を記載しているIuchi and Lin in 1988 (Iuchi and Lin, 1988, PNAS; 85: 1888-1892)による論文をもって始まった。二成分シグナル伝達系ArcAB(好気呼吸制御)は、エネルギー代謝、輸送、生存、異化作用および細胞の酸化還元状態に関わる100〜150の間のオペロンの発現を転写レベルで調節する(Liu and DeWuIf 2004, J Biol Chem, 279:12588-12597; Lynch and Lin, 1996 Responses to molecular oxygen; in Neidhardt FC, Curtiss III RJ, Ingraham L, Lin ECC, Low KB, Magasanik BW, Zeznikoff S, Riley M, Schaechter M, Umbarger HE (eds) Escherichia coli and Salmonella: Cellular and Molecular Biology, ed 2. Washington, American Society for Microbiology, 1996, vol 1, pp 1526-1538)。ArcABシグナル伝達対の主要な機能は、大腸菌において好気性経路から嫌気性経路への遷移を調節することである。好気生活レベルと包括的調節によって行使される制御の間の相関に関するさらなる理解が、Shalel- Levanonおよび共同研究者ら(Biotechnol. Bioeng. 2005a; 89:556-564およびBiotechnol. Bioeng. 2005b; 92:147-159)から得られた。これらの研究は、ArcAによるTCA遺伝子の抑制を示した。これらの結果は、様々な条件の酸素アベイラビリティにおける大腸菌でのグルコース異化作用に対するArcAの影響に対する競合生理学的研究によって確認された。ΔarcA突然変異体において、および微小好気生活下では、呼吸の増加、シトクロムo−およびd−末端オキシダーゼ上の電子フラックス分布の変化、ならびに細胞内酸化還元状態の改変などのいくつかの変化が観察されている(Aleexeva et al., 2003, J. Bacteriol. 185:204-209)。2005年のPerrenoudおよびSauerの研究からArcAB調節に対する新たな洞察が得られ、好気性および完全嫌気性TCA回路フラックスの制御がその同族センサーキナーゼであるArcBとは独立にArcAによって発揮されたことが実証している(J. Bacteriol. 2005, 187:3171-3179)。
【0011】
それらは総て、大腸菌においてArcAを包括的レギュレーターとする。その欠失は、所望の分子の好気生活または嫌気生活生産を特許請求しているいくつかの特許に記載されている。例えば、ΔarcAは、嫌気生活と同様に好気生活においてコハク酸および1,2−プロパンジオールの生産を改善する(US2006/0073577A1;WO2006/020663およびWO2008/116848)。他の遺伝子改変でのArcA活性の低下も、味の素(EP1382686A1)によるL−リシンおよびL−グルタミン酸などのL−アミノ酸の生産に関する特許、およびDuPont de Nemoursおよび共同研究者らによる1,3−プロパンジオール(WO2004/033646)の生産に関する特許で開示されている。
【0012】
GlcA、LldPおよびYjcGと呼ばれる3つのタンパク質がグリコレートおよびラクテートの輸送体として文献で特徴付けられている(Nunez, F. et al., 2001 Microbiology, 147, 1069-1077; Nunez, F. et al., 2002 Biochem. And Biophysical research communications 290, 824-829; Gimenez, R. et al., 2003 J. of Bacteriol. 185, 21, 6448-6455)。上述の刊行物によれば、GlcAはグリコレートに特異性が高いと思われ、Lldpは乳酸分子に親和性が高い。これらの3つのグリコレートパーミアーゼが欠失されている系統は外来グリコレートを全く輸送することができない(Gimenez, R. et al., 2003 J. of Bacteriol. 185, 21, 6448-6455)。このグリコレート生産株のグリコレート輸送の減衰は、細胞の、高濃度のグリコレートに耐える、従って生産力価を改善する能力を改善する。
【0013】
本発明により解決すべき問題は、グルコースまたは他の糖類などの安価な炭素基質からの、グリコール酸の生物生産の改良である。本明細書では、発酵によるグリコール酸生産のはるかに良い収率および力価を得るためのさらなる遺伝子改変および特にそれらの組合せが記載される。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、発酵性炭素源を高い収率および力価で直接グリコール酸に生物変換するための改良された方法を提供する。
【0015】
本発明の一態様では、グリコール酸を生産するために事前に改変された組換え微生物は、
−乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(ldhA)および/またはメチルグリオキサールシンターゼをコードする遺伝子(mgsA)の減衰、
−好気呼吸制御レギュレーター(arcA)の減衰、
−グリコレート輸送体タンパク質をコードする遺伝子glcA、lldPおよびyjcGの少なくとも1つの減衰
などのいくつかの改変をさらに含んでなる。
【0016】
本発明によれば、本方法に用いられる微生物は、グリコール酸を生産するために事前に遺伝的に操作されていた。該微生物には、いくつかの改変、特に以下の代謝変化:
i)該微生物は、リンゴ酸シンターゼ(aceBおよびglcB)、グリオキシレートカルボリガーゼ(gcl)および2−ケト−3−デオキシグルコン酸6リン酸アルドラーゼ(eda)をコードする遺伝子を不活性化することによって、グリオキシレートをグリコレート以外の化合物へ代謝することができない、
ii)該微生物は遺伝子glcDEFGおよびaldAを減衰することによって、グリコレートを代謝することができない、
iii)グリオキシレート経路フラックスがicd、acek、pta、ackA、poxB、iclRまたはfadRの減衰および/またはaceAの過剰発現によって増大される、
iv)ycdWのような内在コード遺伝子を用いることによってグリオキシレートのグリコレートへの変換が増強される、
v)遺伝子pgi、udhAおよびeddの減衰によってNADPHのアベイラビリティが増大される、
のいずれかを可能とする改変が事前に導入されていた。
【0017】
別の実施形態では、本発明はまた、組換え微生物からのグリコール酸の生産方法であって、
(a)本発明の組換え微生物を、単糖類、オリゴ糖類、多糖および単一炭素基質からなる群から選択される少なくとも1つの炭素源と接触させ、それにより、グリコレートを生産すること;場合により
(b)生産されたグリコール酸を少なくともグリコール酸二量体への重合工程を介して回収すること、および
(c)グリコール酸二量体、オリゴマーおよび/またはポリマーから脱重合によってグリコール酸を回収すること
を含んでなる方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【0018】
本明細書において特に断りのない限り、本明細書で用いられる総ての技術用語および科学用語は、本発明の属する技術分野の熟練者により一般に理解されているものと同じ意味を有する。
【0019】
本発明において「微生物」および「細菌」は互換的に用いられ、グラム陰性菌を意味する。本発明の好ましい実施形態では、微生物は腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属する。腸内細菌科は、他を排除するものではないが、特に、エシェリキア属(Escherichia)、クレブシェラ属(Klebsiella)、サルモネラ菌属(Salmonella)およびパンテア属を含んでなる。
【0020】
「変異株」とは、非野生型株を意味する。
【0021】
本明細書において「組換え体」または「遺伝的に改変された」または「改変微生物」とは、例えば、その生物中に天然には存在しない核酸の付加または宿主細胞中に天然に存在する核酸の改変により、そのゲノムの改変を有する宿主細胞を表す。「形質転換」または「トランスフェクション」とは、外来核酸の組み込み後の、細胞における新たな遺伝子の獲得を意味する。「形質転換体」とは、形質転換の産物を意味する。
【0022】
宿主細胞により生産されるタンパク質または酵素活性のレベルの「改変」または「改変する」とは、所望によりそれらのレベルが増大または低減されるように、培養中に生産されるタンパク質または酵素活性のレベルを制御することを意味する。核酸またはポリヌクレオチドに対していう場合の「改変された」とは、その核酸が、突然変異;置換、挿入、その核酸の一部または総ての欠失により;または転写制御領域と機能的に連結されることによるなどして、野生型核酸と比較して何らかの変更が行われていることを意味する。突然変異の例としては、限定されるものではないが、点突然変異、フレームシフト突然変異および記載の遺伝子の一部または総ての欠失が挙げられる。
【0023】
「遺伝子」とは、コード領域、コード領域の前の非コード領域(「リーダー」)およびコード領域の後の非コード領域(「テーラー」)、ならびに介在する個々のコードセグメント(「イントロン」)の間に介在する非コード配列(「エキソン」)を含む、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質と機能的に連結された調節RNAの、トランスファーRNAの、リボソームRNAのプロモーター領域のコードに関与するDNAのセグメントを意味する。コードとは、3塩基「トリプレット」コードでのアミノ酸、開始および停止シグナルの提示を意味する。
【0024】
「機能的に連結される」とは、エレメントが、それらを機能的に関連付け得る配置にある並列を意味する。プロモーターがあるコード配列の転写を制御するならば、そのプロモーターはその配列と機能的に連結されており、また、リボソーム結合部位があるコード配列のmRNAの翻訳を可能とするように配置されていれば、そのリボソーム結合部位はその配列に機能的に連結されている。
【0025】
「不活性化」または「減衰(attenuation)」とは、遺伝子の発現の減少またはその遺伝子の産物であるタンパク質の活性の低下を意味する。当業者ならば、この結果を得るための多くの手段を知っており、例えば、
−この遺伝子への、この遺伝子の発現レベルまたはコードされているタンパク質の活性レベルを低下させる突然変異の導入、
−遺伝子の天然プロモーターの、低い発現をもたらす低強度プロモーターでの置換、
−対応するメッセンジャーRNAまたはタンパク質を脱安定化させるエレメントの使用、
−発現が必要とされない場合には、遺伝子の欠失
が挙げられる。
【0026】
「発現」とは、遺伝子から、その遺伝子の産物であるタンパク質への転写および翻訳を意味する。
【0027】
「過剰発現」または「過剰発現された」とは、本明細書では、適当な対照種に比べての少なくとも150%のタンパク質活性であると定義される。過剰発現は、より活性の高い形態または阻害に対して耐性のある形態が得られるようにタンパク質を突然変異させること、インヒビターを除去すること、またはアクチベーターを付加することなどによって達成することができる。過剰発現はまた、レプレッサーを除去すること、細胞にその遺伝子の多重コピーを付加すること、または、内在遺伝子をアップレギュレートすることなどによっても達成することができる。
【0028】
本明細書において「プラスミド」または「ベクター」とは、多くの場合、細胞の中枢代謝の一部ではない、通常は環状二本鎖DNA分子の形態の遺伝子を有する染色体外エレメントを意味する。
【0029】
「炭素基質」、「炭素源」または「発酵性炭素源」とは、微生物によって代謝され得る任意の炭素源を意味し、その基質は少なくとも1つの炭素原子を含む。
【0030】
「ATCC」とは、American Type Culture Collection, 12301 Parklawn Drive, Rockville, Md. 20852, U.S.A.を意味する。
【0031】
「グリオキシレート」と「グリオキシル酸」は互換的に用いられる。
【0032】
「グリコレート(glycolate)」と「グリコール酸(glycolic acid)」は互換的に用いられる。「グリコール酸、その誘導体または前駆体」とは、グリコール酸の形成および分解の代謝経路における総ての中間化合物を表す。グリコール酸の前駆体は特に、シトレート、イソシトレート、グリオキシレート、および一般にグリオキシレート回路の総ての化合物である(図1参照)。グリコール酸の誘導体は特に、グリコール酸エステル(グリコール酸エチルエステル、グリコール酸メチルエステルなど)、およびポリグリコール酸などのグリコレートを含むポリマーである。
【0033】
本発明の記載において、酵素はそれらの比活性によって同定される。よって、この定義には、他の生物、より詳しくは他の微生物にも存在する定義された比活性を有する総てのポリペプチドが含まれる。多くの場合、同様の活性を有する酵素は、PFAMまたはCOGとして定義される特定のファミリーに分類されることで特定することができる。
【0034】
PFAM(protein families database of alignments and hidden Markov models; http://www.sanger.ac.uk/Softwarc/Pfara/)は、タンパク質配列アラインメントの大きなコレクションである。各PFAMによって複数のアライメントの表示、タンパク質ドメインの閲覧、生物間での分布の評価、他のデータベースへのアクセス、および既知のタンパク質構造の表示が可能となる。
【0035】
COG(clusters of orthologous groups of proteins; http://www.ncbi.nlm.nih. gov/COG/)は、30の主要な系統学的系列に相当する、完全配列決定された43のゲノムのタンパク質配列を比較することによって得られる。各COGは、少なくとも3つの系統から定義され、前に保存されているドメインの同定を可能にする。
【0036】
相同配列およびそれらの相同性パーセントを同定する手段は当業者に周知であり、特に、BLASTプログラムが含まれ、このプログラムは、ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BTAST/からそのウェブサイトに示されているデフォルトパラメーターを用いて利用することができる。得られた配列は、次に、例えば、CLUSTALW(http://www.ebi.ac.uk/clustalw/)またはMULTALIN(http://prodes.toulousc.inra.fr/multalin/cgi-bin/multalin.pl)をそれらのウェブサイトに示されているデフォルトパラメーターとともに用いて活用(例えば、アライン)することができる。
【0037】
当業者ならば、既知の遺伝子に対してGenBankで得られる参照を用い、他の生物、細菌株、酵母、真菌、哺乳類、植物などにおいて等価な遺伝子を決定することができる。この慣例の作業は、他の微生物由来の遺伝子との配列アライメントを実行し、他の生物中の対応遺伝子をクローニングするための縮重プローブを設計することによって決定することができるコンセンサス配列を用い有利に行われる。分子生物学のこれら慣例の方法は当業者に周知であり、例えば、Sambrook et al. (1989 Molecular Cloning: a Laboratory Manual. 2nd ed. Cold Spring Harbor Lab., Cold Spring Harbor, New York)に記載されている。
【0038】
大腸菌を参照して本願で確認される遺伝子は、総てのグラム陰性菌に見出すことができる。
【0039】
本発明は、グリコール酸を生産するために予め改変され、かつ、以下の改変:
−遺伝子ldhAおよびmgsAの減衰
−遺伝子arcAの減衰
−グリコレートの膜輸送を減衰するための遺伝子glcA、lldPおよびyjcGの少なくとも1つの減衰
およびそれらの組合せ
の少なくとも1つを含むようにさらに遺伝的に操作された単一の組換えグラム陰性菌を用いて、発酵性炭素源を直接グリコール酸に生物変換する改良された方法を提供する。
【0040】
これらの改変のあらゆる組合せが可能であり、特に、
−遺伝子ldhAおよびmgsAの減衰と遺伝子arcAの減衰;
−遺伝子ldhAおよびmgsAの減衰とグリコレートの膜輸の減衰;
−遺伝子arcAの減衰とグリコレートの膜輸送の減衰;
−遺伝子ldhAおよびmgsAの減衰と遺伝子arcAの減衰とグリコレートの膜輸送の減衰
が挙げられる。
【0041】
遺伝子は次のように省略される:乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhA)、メチルグリオキサールレダクターゼ(mgsA)、好気呼吸制御レギュレーターA(arcA)、L−乳酸パーミアーゼ(lldP)、グリコール酸パーミアーゼ(glcA)および酢酸輸送体(yjcG)。
【0042】
これらの付加的改変の主な利点は、操作された微生物によるグリコール酸生産の改良である。実際、これらの改変は総て、2%〜36%(0.38g/gに対して0.39g/g〜0.52g/g)の間の生産収率の改良ならびに/または9%〜28%(4.0g/Lに対して4.36g/L〜5.14g/L)の間のグリコレート力価の改良をもたらす。
【0043】
発酵によりグリコール酸を生産するためにすでに改変された微生物は、特許出願WO2007/140816およびWO2007/141316に記載されている。
【0044】
本発明の一実施形態では、グリコール酸を生産するために予め改変された微生物は以下の遺伝子改変のうち少なくとも1つを含んでなる。
−グリコレートの重要な前駆体であるグリオキシレートを消費する酵素をコードする遺伝子、すなわち、マレート酸シンターゼをコードするaceBおよびgclB遺伝子、グリオキシレートカルボリガーゼをコードするgcl、および2−ケト−3−デオキシグルコン酸6リン酸アルドラーゼをコードするedaの減衰による、グリコレートを生産する以外のグリオキシレート変換能力の低減。
−微生物が実質的にグリコレートを代謝することができないような改変。この結果は、グリコレートを消費する酵素をコードする遺伝子(グリコール酸オキシダーゼをコードするglcDEFGおよびグリコアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードするaldA)の少なくとも1つの減衰によって達成することができる。遺伝子の減衰は、天然プロモーターを低強度プロモーターに置換することによるか、または対応するメッセンジャーRNAもしくはタンパク質を脱安定化するエレメントによって行うことができる。必要であれば、対応するDNA配列の欠失によって、遺伝子の完全な減衰も行うことができる。
【0045】
−種々の手段、特に、
i)酵素イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH)の活性を低減すること、
ii)遺伝子の減衰による以下の酵素:
・pta遺伝子によりコードされているホスホトランスアセチラーゼ
・ackA遺伝子によりコードされている酢酸キナーゼ
・poxB遺伝子によりコードされているピルビン酸オキシダーゼ
の少なくとも1つの活性を低減すること、
iii)aceA遺伝子によりコードされている酵素イソクエン酸リアーゼの活性を増強すること、
iv)酵素イソクエン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ/ホスファターゼAceKの活性を低減することによる
グリオキシル酸経路のフラックスの増強。
【0046】
イソクエン酸デヒドロゲナーゼレベルの低減は、イソクエン酸デヒドロゲナーゼをコードするicd遺伝子の発現を駆動する人工プロモーターを導入することによるか、またはicd遺伝子にこのタンパク質の酵素活性を低減する突然変異を導入することによって行うことができる。
【0047】
タンパク質ICDHの活性はリン酸化によって低減されることから、それはまた、野生型AceK酵素に比べて高いキナーゼ活性または低いホスファターゼ活性を有する突然変異aceK遺伝子を導入することによって制御することもできる。
【0048】
イソクエン酸リアーゼ活性の増強は、aceA遺伝子の発現を刺激する(例えば、その遺伝子の発現を駆動する人工プロモーターを導入することによる)か、またはaceA遺伝子へコードされているタンパク質の活性を増強する突然変異を導入するかのいずれかにより、グリオキル酸経路のレプレッサーをコードするiclRまたはfadR遺伝子を減衰することによって行うことができる。
−反応を触媒するポリペプチドをコードする少なくとも1つの遺伝子を発現させることによる、グリオキシレートのグリコレートへの変換を触媒する活性の増強。特に、NADPH依存性グリオキシル酸レダクターゼ酵素をコードする遺伝子は、好気条件下で、有毒なグリオキシル酸中間体を毒性の低い最終産物であるグリコレートに変換するために存在する。該遺伝子は、外来のものでも内在するものでもよく、染色体上でも、あるいは染色体外でも発現することができる。NADPH依存性グリオキシル酸レダクターゼをコードする遺伝子は、大腸MG1655のゲノムからycdWまたはyiaE遺伝子で取り出すことができる。好ましい実施形態では、該遺伝子の少なくとも1つの発現が増強される。必要であれば、高レベルのNADPH依存性グリオキシル酸レダクターゼ活性は、当業者に知られている組換えの方法によって導入され得るゲノム上の1コピーまたは数コピーを用いることによって、染色体に位置する遺伝子から取得することができる。染色体外遺伝子については、それらの複製起点および従って細胞内でのそれらのコピー数が異なる種々のタイプのプラスミドが使用可能である。それらは、厳格な複製の低コピー数プラスミド(pSC101、RK2)、低コピー数プラスミド(pACYC、pRSF1010)または高コピー数プラスミド(pSK bluescript II)に対応する、1〜5コピー、およそ20コピー、最高500コピーとして存在し得る。ycdWまたはyiaE遺伝子は、インデューサー分子によって誘発される必要があるまたはその必要がない強度の異なるプロモーターを用いて発現させることができる。例えば、プロモーターPtrc、Ptac、Plac、ラムダプロモーターcIまたは当業者に知られている他のプロモーターが挙げられる。遺伝子の発現は、対応するメッセンジャーRNA(Carrier and Keasling (1998) Biotechnol. Prog. 15, 58-64)またはタンパク質(例えば、GSTタグ、Amersham Biosciences)を安定化するエレメントによってもまた増強され得る。
−NADPH依存性グリオキシル酸レダクターゼに対するNADPHアベイラビリティの増強。この微生物の特徴の改変は、以下:グルコース−6−リン酸イソメラーゼをコードするpgi、可溶性トランスヒドロゲナーゼをコードするudhAおよび6−ホスホグルコン酸デヒドレート活性をコードするeddの中から選択される少なくとも1つの遺伝子の減衰によって得ることができる。このような遺伝子改変がある場合には、グルコース−6−リン酸は総てペントースリン酸経路を介して解糖に入らなければならず、グルコース−6−リン酸が代謝されるたびに2つのNADPHが生産される。
【0049】
本発明の別の実施形態では、グリコール酸を生産するために予め改変された微生物は特に遺伝子aceKの減衰を含む。グリオキシル酸迂回酵素ICLは、それらの共通基質をめぐってクレブス回路酵素イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH)と直接競合し、ICDHはイソシトレートに対してずっと高い親和性を有するが、ICLを介する炭素フラックスは、イソシトレートの高い細胞内レベルと大部分のICDHの可逆的リン酸化/不活性化によって保証される。可逆的不活性化は、同じポリペプチド上に両触媒活性を備えた、AceKと呼ばれるICDHキナーゼ/ホスファターゼによる可逆的リン酸化によるものである(Laporte DC 1989, Biochimie Sep-Oct; 71(9-10):1051-7; Ikeda TP, 1992, J Bacteriol Feb;174(4):1414-6; Cozzone AJ, El-Mansi M. 2005, J Mol Microbiol Biotechnol. 9(3-4): 132-46)。
【0050】
本発明のプロセスにとって、aceKを含むあらゆる既知の調節を細胞から除去することによってICDHの活性を完全に制御することが有利である。aceKの欠失はICDH活性の増強をもたらし得る。しかしながらはやり、そのプロモーターの遺伝子改変によってicd遺伝子の発現を人為的に低くすることで、定義された低レベルICDHを有する生産株の構築が可能となり、それにより、グリオキシレート、従ってΔaceKのバックグラウンドでグリコレートの生産が可能となる。
【0051】
本発明の特定の実施形態では、初めに(initially)グリコール酸を生産するために改変された微生物は、遺伝子ldhAおよびmgsAの減衰をさらに含んでなる。遺伝子ldhAは、解糖の最終産物であるピルベートを乳酸に変換する乳酸デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.27)をコードする。遺伝子mgsAは、ジヒドロキシアセトンホスフェート(DHAP)をメチルグリオキサールに変換するメチルグリオキサールシンターゼ(EC4.2.3.3)をコードする。
【0052】
両酵素とも、解糖代謝経路に主要な生化学的役割を有する分子を消費し、ラクテートの生産をもたらす。グリコレートの生産のための炭素を節約し、副産物としてのラクテートの蓄積を避けるために、本発明の方法で用いる株ではldhAおよびmgsAの欠失を行った。このような欠失の目的はグリコレート生産の収率を向上させること、および本発明者らの生成物の精製を容易にすることである。
【0053】
本発明のさらなる実施形態は、初めにグリコール酸を生産するために改変された微生物が、遺伝子arcAの減衰をさらに含んでなる方法を提供する。本明細書において「ArcA」および「arcA」とは、それぞれポリペプチドおよびコード領域を意味する。
【0054】
ArcAは二成分調節ArcAB系の1つのポリペプチドである。二成分シグナル伝達系により、細菌は広範な環境、ストレスおよび増殖条件に対する感受、応答および適応が可能となる。原型の二成分系では、センサーヒスチジンキナーゼはその自己リン酸化を触媒し、次に、ホスホリル基を応答レギュレーターに転移させ、このようにして多くの場合には遺伝子発現を調節することによって細胞生理に変化を及ぼし得る。例えば、ArcBは膜結合型ヒスチジンキナーゼであり、ArcAは応答レギュレーターである(Georgellis et al, 1999)。この調節系によって、大腸菌は、完全好気条件から微小好気条件、そして完全嫌気条件まで、広範な酸素濃度に応答可能となる。
【0055】
ArcAは、大腸菌および他のグラム陰性菌で多くのオペロンの発現を制御する。ArcAレギュロンには主として、糖基質から細胞エネルギーを生成する経路に含まれる因子、すなわち、フラボタンパク質種のいくつかのデヒドロゲナーゼ、ターミナルオキシダーゼ、三カルボン酸回路酵素、グリオキシレートシャントの酵素、発酵性代謝に含まれる酵素が含まれる(Iuchi, S., and Lin, E. C. C. (1993) Mol. Microbiol. 9, 9-15; Bauer, C. E., Elsen, S., and Bird, T. H. (1999) Annu. Rev. Microbiol. 53, 495-523)。ArcAは、嫌気的増殖中および高成長率(例えば、対数増殖)での好気条件中にこれらのオペロンの多くの発現低下を生じる(S. Iuchi et al., Cell, 66, 5-7 (1991))。ArcAタンパク質は三カルボン酸回路(TCA)の酵素の遺伝子の発現に負の制御を行うことが知られている。arcAが破壊された株では、TCA回路の遺伝子の発現が増強される(http://www. genome.ad.jp/dbget-bin/get_htext?Exp_DB+-n+Bget-bin/get htext?Exp DB+-n+B)。
【0056】
グリコレート合成の生産性および収率を向上させるために、本発明の方法で用いる株では遺伝子arcAが欠失される。実際、予めその株に行われていた遺伝子改変とΔarcAが組み合わさると、TCA回路、また、グリコレートの生産に向かうグリオキシレート分流のフラックスが増すはずである。
【0057】
さらに、ArcAは、細胞の酸化還元現状に応答してPTS発現の調節に関与することが実証されている(Jeong, J-Y. et al, 2004, Journal of Bio. Chem.)。リン酸化型のArcAはP1プロモーターからのptsG転写を抑制する。ArcAが主として嫌気条件でリン酸化され、ArcBは酸素の不在下では自己リン酸化されるとしても、本発明者らは、ArcAが好気条件で別の二成分系のキナーゼによってリン酸化される(交差反応)ということが排除できない(Laub, M. T. and Goulian, M. Annu. Rev. Genet. (2007); 41:121-45)。従って、本発明者らは、好気条件でのArcA−PによるptsG発現の抑制を排除できない。これが、本発明に記載のプロセスにおいて用いるグリコレート生産株のarcA遺伝子を欠失させるもう1つの理由である。
【0058】
本発明の別の実施形態では、初めにグリコール酸を生産するために改変された微生物は、グリコレート膜輸送の減衰をさらに含んでなる。特に、グリコレート輸送体をコードする遺伝子glcA、lldPおよびyjcGの少なくとも1つが減衰される。
【0059】
膜輸送タンパク質(または単に輸送体)は、イオン、小分子、または別のタンパク質などの高分子の生体膜間移動に関与するタンパク質である。輸送タンパク質は内在性膜タンパク質であり、すなわち、輸送タンパク質はそれらがそれを通って物質を輸送する膜の内部に存在し、膜を貫通している。これらのタンパク質は拡散または能動輸送の助長によって物質の移動を補助することができる。上記の3つのタンパク質は総て、グリコレートおよびラクテートの輸送体として同定されている(Nunez, F. et al, 2001 Microbiology, 147, 1069-1077; Nunez, F. et al., 2002 Biochem. And Biophysical research communications 290, 824-829; Gimenez, R. et al., 2003 J. of Bacteriol. 185, 21, 6448-6455)。各グリコール酸パーミアーゼで突然変異誘発された株は炭素源としてのグリコレート上で増殖することができず、このことは、この株はグリコレートを輸送することができないことを示している(Gimenez, R. et al., 2003)。この目的は、グリコール酸を生産するのに用いられる細胞へのグリコレート輸送を減衰することで、この株のグリコール酸に耐え、グリコール酸を蓄積する能力を改良し、生産力価を向上させることである。
【0060】
本発明の特定の実施形態では、3つの遺伝子glcA、lldPおよびyjcGが減衰される。
【0061】
また、グリコール酸生産微生物からのグリコール酸輸出を増大させることも有利となる。当業者はこのように特定の代謝産物の輸出の増大を得るための多くの手段を知っており、特に、輸出タンパク質の活性および/または発現を増強すると、微生物から培地へグリコール酸を輸出することができる。
【0062】
本発明の特定の実施形態は、組換え生物からのグリコール酸の発酵生産方法であって、
(a)本発明の組換え生物を、グルコース、スクロース、単糖類(フルクトース、マンノース、キシロース、アラビノースなど)、オリゴ糖類(ガラクトース、セロビオースなど)、多糖類(セルロースなど)、デンプンもしくはその誘導体、グリセロールおよび単一炭素基質からなる群から選択される少なくとも1つの炭素源と接触させ、それにより、グリオキシル酸を生産すること、
(b)場合により、該プロセスは細菌中または培地中においてグリコレートを濃縮する工程、ならびに発酵培養液および/またはバイオマスから、場合により最終産物中に一部または全量(0〜100%)残留するグリコール酸を単離する工程を含んでもよく、
場合により、該プロセスは工程(a)で生産されたグリコール酸を少なくともグリコール酸二量体への重合工程を通して回収する工程を含んでなってもよく、
(c)発酵培養液および/またはバイオマスから、場合により最終産物中に一部または全量残留するグリコール酸を、グリコール酸二量体、オリゴマーおよび/またはポリマーからの脱重合によって単離および回収すること
を含む方法を提供する。
【0063】
当業者ならば、本発明に従う微生物の培養条件を定義することができる。特に、グラム陰性菌は20℃〜55℃、好ましくは25℃〜40℃の間の温度、より具体的には大腸菌では約37℃で発酵される。
【0064】
発酵は一般に、発酵槽にて、少なくとも1つの単一炭素源および必要であれば代謝産物の生産に必要な補助基質を含み、使用する細菌に適合した既知の定義された組成の無機培養培地を用いて行われる。
【0065】
本発明はまた、これまでに記載されたような微生物に関する。好ましくは、該微生物は腸内細菌科に属する。より好ましくは、該微生物はエシェリキア属に由来し、いっそうより好ましくは大腸菌(Escherichia coli)である。
【実施例】
【0066】
いくつかのプロトコールを用いて、以下の実施例に記載されるグリコール酸生産株を構築した。これらのプロトコールを以下に詳説する。
【0067】
プロトコール1:組換えのためのPCR産物の導入と組換え体の選択(FRT系)
遺伝子または遺伝子間領域の置換のために選択され、表1に示されたオリゴヌクレオチドを用いて、プラスミドpKD3由来のクロラムフェニコール耐性カセットまたはプラスミドpKD4由来のカナマイシン耐性カセットのいずれかを増幅した(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L. (2000))。次に、得られたPCR産物をエレクトロポレーションによって、発現されるλ Red系(γ、β、exo)が相同組換えに極めて好都合であるプラスミドpKD46を担持するレシピエント株に導入した。その後、抗生物質耐性形質転換体を選択し、耐性カセットの挿入を、表2に示される適当なオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析によって確認した。
【0068】
プロトコール2:耐性カセットの除去(FRT系)
クロラムフェニコールおよび/またはカナマイシン耐性カセットを以下の技術に従って除去した。クロラムフェニコールおよび/またはカナマイシン耐性カセットのFRT部位に作用するFLPレコンビナーゼを有するプラスミドpCP20をエレクトロポレーションによってこの株に導入した。42℃で連続培養を行った後、抗生物質耐性カセットの欠失を表2に示されるオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析によって確認した。
【0069】
プロトコール3:遺伝子欠失のためのP1ファージを用いた形質導入
レシピエント大腸菌株における遺伝子を耐性カセット(カナマイシンまたはクロラムフェニコール)で置換することによる選択遺伝子の欠失を、P1ファージを用いた形質導入法によって行った。このプロトコールは、(i)一遺伝子欠失を有するドナー株でのファージライゼートの調製と(ii)このファージライゼートによるレシピエント株の形質導入の二段階であった。
【0070】
ファージライゼートの調製
10mlのLB+Cm30μg/ml+グルコース0.2%+CaCl 5mMに、一遺伝子欠失を有するMG1655株の一晩培養物100μlを播種する。
振盪しながら37℃で30分間インキュベートする。
ドナー株MG1655で調製したP1ファージライゼート100μlを加える(およそ1×10ファージ/ml)。
37℃で3時間、総ての細胞が溶解するまで振盪する。
200μlのクロロホルムを加え、ボルテックスにかける。
4500gで10分間遠心分離して細胞残渣を除去する。
上清を無菌試験管に移し、200μlのクロロホルムを加える。
ライゼートを4℃で保存する。
【0071】
形質導入
LB培地中、大腸菌レシピエント株の一晩培養物5mlを1500gで10分間遠心分離する。
細胞ペレットを2.5mlのMgSO 10mM、CaCl 5mMに懸濁させる。
対照試験管:細胞100μl
一遺伝子欠失を有するMG1655株のP1ファージ100μl
供試試験管:細胞100μl+一遺伝子欠失を有するMG1655株のP1ファージ100μl
振盪しながら30℃で30分間インキュベートする。
各試験間に1Mクエン酸ナトリウム100μlを加え、ボルテックスにかける。
1mlのLBを加える。
振盪しながら37℃で1時間インキュベートする。
7000rpmで3分間遠心分離した後にLB+Cm30μg/mlのディッシュにプレーティングする。
37℃で一晩インキュベートする。
次に、抗生物質耐性形質転換体を選択し、欠失の挿入を、表2に示される適当なオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析によって確認した。
【0072】
プロトコール4:組換えのためのPCR産物の導入と組換え体の選択(Cre−LOX系)
遺伝子または遺伝子間領域の置換のために選択され、表1に示されたオリゴヌクレオチドを用いて、プラスミドloxP−cm−loxP(Gene Bridges)由来のクロラムフェニコール耐性カセットまたはプラスミドloxP−PGK−gb2−neo−loxP(Gene Bridges)由来のネオマイシン耐性カセットのいずれかを増幅した。次に、得られたPCR産物をエレクトロポレーションによって、発現されるλ Red系(γ、β、exo)が相同組換えに極めて好都合であるプラスミドpKD46を担持するレシピエント株に導入した。その後、抗生物質耐性形質転換体を選択し、耐性カセットの挿入を、表2に示される適当なオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析によって確認した。
【0073】
プロトコール5:耐性カセットの除去(Cre−LOX系)
クロラムフェニコールおよび/またはカナマイシン耐性カセットを以下の技術に従って除去した。クロラムフェニコールおよび/またはカナマイシン耐性カセットのCre−LOX部位に作用するCreレコンビナーゼを有するプラスミドpJW168(Palmeros B. et al (2000), Gene 247:255-264)をエレクトロポレーションによってこの株に導入した。42℃で連続培養を行った後、抗生物質耐性カセットの欠失を表2に示されるオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析によって確認した。
【0074】
【表1】


【0075】
【表2】

【0076】
実施例1
プラスミドpME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01(図2)の構築
プラスミドpME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01をプラスミドpME101−ycdW(特許出願PCT/EP2006/063046およびPCT/EP2007/055625に記載がある)およびプラスミドpJB137−aceAから3段階で構築した。
【0077】
最初の工程は、ycdWの終端にターミネーターを付加することによってプラスミドpME101−ycdW−TT07を構築することであった。この遺伝子ycdWの終端を、それらの配列にTT07を含み、表1に示されるオリゴヌクレオチドを用いてゲノムDNAに対して行われたPCRによって増幅した。Agcl/SmaIで消化したPCR断片を同じ制限酵素で切断したプラスミドpME101−ycdWにクローニングし、プラスミドpME101−ycdW−TT7を得た。
【0078】
プラスミドpJB137−aceAは、PCR断片をSmaI/HindIIIで消化したプラスミドpJB137(EMBL受託番号U75326)にクローニングすることによって構築した。このPCR断片は、特許出願PCT/EP2006/063046およびPCT/EP2007/055625に記載されているMG1655 ΔaceB株から精製されたゲノムDNAと表1に記載されるオリゴヌクレオチド(Oag0037およびOag0038)で得たものである。プラスミドにクローニングする前にその固有のプロモーターとしての遺伝子ace Aを増幅した。
【0079】
最後の工程はプラスミドpJB137−aceAを切断して断片PaceA−aceA−TT01(TT01はpJB137のターミネーターである)を得ることであった。プラスミドpJB137−aceAをHindIIIで切断し、クレノウ酵素で処理し、最後にPstI制限酵素で消化した。得られたDNA断片を次に、SmaIおよびPstI)で順次開環したプラスミドpME101−ycdW−TT07にクローニングした。得られたプラスミドはpME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01であり、pAG025と呼称した。
【0080】
実施例2
発酵によってグリコール酸を生産することができる株:MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta(pME101−ycdW−TT01−PaceA−aceA−TT01)の構築
大腸菌MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta株を、特許出願PCT/EP2006/063046およびPCT/EP2007/055625に示されている記載に従って構築した。
【0081】
icd転写の減衰は、大腸菌MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta株において、天然icdプロモーターを、クロラムフェニコール耐性カセットを有するPtrc50/RBSB/TTGと呼ばれる人工プロモーターに置換することによって得た。構築は、プロトコール1に記載されている技術に従い、表1に示されるオリゴヌクレオチド(配列番号1および2)を用いて行う。クロラムフェニコールカセットを除去する。
【0082】
まず、PCR断片Ptrc50/RBSB/TTG−icd::CmをエレクトロポレーションによってMG1655株(pKD46)に導入し、MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm株を得、配列決定によってバリデートした。
【0083】
第二段階で、この減衰icd構築物を形質導入によってMG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta株に導入し(プロトコール3参照)、MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta株を得た。
【0084】
次に、この株にプラスミドpME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01(実施例1)を導入し、AG0662と呼称されるMG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta(pME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01)を得た。
【0085】
実施例3
発酵によるグリコール酸生産を改良するための株:MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔldhA(pME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01)の構築
大腸菌MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta(pKD46)株において遺伝子ldhAを、表1に示されるオリゴ番号3および4を用いて行ったPCR産物による組換えによって不活性化した(プロトコール1参照)。得られた株は、MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔldhA::Kmであり、これに最終段階でプラスミドpME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01(実施例1)を導入した。
【0086】
実施例4
発酵によるグリコール酸生産を改良するための株:MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA(pME101−ycdW−TT01−PaceA−aceA−TT01)の築物
大腸菌MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta株において遺伝子mgsAを、プロトコール3に記載されているP1ファージによる形質導入法によって不活性化した。ドナー株MG1655 ΔmgsA::Kmは、MG1655(pKD46)株にPCR断片を導入することによって構築した。この構築に用いたオリゴヌクレオチドを表1に示す。この株を配列決定によって確認した。
【0087】
次に、このプラスミドpAG025を大腸菌MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA::Km株に導入し、AG0819と呼称される最終株:MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA::Km(pME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01)を得た。
【0088】
実施例5
発酵によるグリコール酸生産を改良するための株:MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔarcA(pME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01)の構築
大腸菌MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta株において遺伝子arcAを、プロトコール3に記載されているP1ファージによる形質導入法によって不活性化した。ドナー株MG1655 ΔarcA::Kmは、MG1655(pKD46)株にPCR断片を導入することによって構築した。この構築に用いたオリゴヌクレオチドを表1に示す。この株を配列決定によって確認した。
【0089】
次に、このプラスミドpAG025を大腸菌MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔarcA::Km株に導入し、AG0956と呼称される最終株:MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔarcA::Km(pME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01)を得た。
【0090】
実施例6
発酵によるグリコール酸生産を改良するための株:MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔldhA ΔmgsA(pME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01)の構築
第一段階において、欠失ΔmgsA::Cmは、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta株へのファージ形質導入(プロトコール3)によって行い、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB株 ΔackA+pta ΔmgsA::Cm株を得た。ドナー株MG1655 ΔmgsA::Cmは、MG1655(pKD46)株にPCR断片を導入することによって構築した。この構築に用いたオリゴヌクレオチドを表1に示す。この株を配列決定によって確認した。
【0091】
第二段階において、ドナー株MG1655 ΔldhA::Kmからの形質導入(実施例3に記載)によってMG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA::Cm株に欠失ΔldhA::Kmを導入し、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA::Cm ΔldhA::Km株を得た。これらのクロラムフェニコールおよびカナマイシン耐性カセットをプロトコール2に記載されている技術に従って除去した。MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA株を、表2に示されるオリゴを用いたPCRによってバリデートした。
【0092】
第三段階において、実施例2に記載されているMG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm株からの形質導入によって、構築物Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cmを導入した。得られた株はMG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhAであった。
【0093】
最後に、プラスミドpAG25(実施例1)をMG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA株に導入し、AG0873と呼称されるMG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA(pME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01)株を得た。
【0094】
実施例7
発酵によるグリコール酸生産を改良するための株:MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔldhA ΔmgsA ΔarcA(pME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01)の構築
実施例6に記載されている株MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhAへの形質導入によって、欠失ΔarcA::Kmを導入し、MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA ΔarcA::Km株を得た。この形質導入実験に用いたドナー株MG1655 ΔarcA::Kmは実施例5に記載されている。
【0095】
次に、この株にプラスミドpAG25を導入し、AG1099と呼称されるM1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA ΔarcA::Km(pME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01)株を得た。
【0096】
実施例8
グリコレートを輸送することができない株MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔglcA ΔlldP ΔyjcG(pME101−ycdW−TT01−PaceA−aceA−TT01)の構築
第一段階において、構築物ΔyjcG::Nm(Cre/Lox)を、PCR産物(プロトコール4参照)によって、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta(pKD46)株に導入し、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔyjcG::Nm株を得た。用いたオリゴヌクレオチドを表1に示す。得られた株を配列決定によって確認した。
ネオマイシン耐性カセットをプロトコール5に記載されている技術に従って除去し、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔyjcG株を得た。
【0097】
第二段階において、構築物ΔglcA::Nmを、PCR産物(プロトコール4参照)によって、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔyjcG(pKD46)株に導入し、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔyjcG ΔglcA::Nm株を得た。用いたオリゴヌクレオチドを表1に示す。得られた株を配列決定によって確認した。
ネオマイシン耐性カセットをプロトコール5に記載されている技術に従って除去し、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔyjcG ΔglcA株を得た。
【0098】
第三段階において、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔyjcG ΔglcA株に形質導入によって欠失ΔlldP::Kmを導入し、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔyjcG ΔglcA ΔlldP::Km株を得た。この形質導入実験に用いたドナー株MG1655 ΔlldP::Kmは、MG1655(pKD46)に導入されたPCR断片の組換えによって構築した。オリゴヌクレオチドを表1に示す。MG1655 ΔlldP::Km株を配列決定によって確認した。
【0099】
次の段階は、実施例2に記載されているM1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm株からの形質導入によって、減衰Ptrc50/RBSB/TTG−icd::CmをMG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔyjcG ΔglcA ΔlldP::Km株に形質導入してMG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔyjcG ΔglcA ΔlldP::Km株を得ることであった。
【0100】
最後の段階は、プラスミドpAG25の導入(実施例1)によって、AG1056と呼称されるMG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔyjcG ΔglcA ΔlldP::Km(pME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01)株を得ることであった。
【0101】
実施例9
発酵によるグリコール酸生産を改良し、かつ、グリコレートを輸送することができない株:MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔldhA ΔmgsA ΔglcA ΔlldP ΔyjcG (pME101−ycdW−TT01−PaceA−aceA−TT01)の構築
第一段階において、構築物ΔyjcG::Nmを、PCR産物(プロトコール4)によって、実施例6に記載されているMG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA(pKD46)株に導入し、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA ΔyjcG::Nm株を得た。
【0102】
耐性カセットをプロトコール5に従って除去し、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA ΔyjcG株を得た。
【0103】
第二段階において、欠失ΔglcA::Nm(Cre/Lox)を、PCR産物によって、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA ΔyjcG(pKD46)株に導入し、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA ΔyjcG ΔglcA::Nm株を得た。
【0104】
耐性カセットをプロトコール5に従って除去し、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA ΔyjcG ΔglcA株を得た。
【0105】
第三段階は、実施例8に記載されているMG1655 ΔlldP::Km株からの形質導入によって、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA ΔyjcG ΔglcA株にΔlldP::Kmを導入してMG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA ΔyjcG ΔglcA ΔlldP::Km株を得ることであった。
【0106】
次に、断片Ptrc50/RBSB/TTG−icd::CmをMG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA ΔyjcG ΔglcA ΔlldP::Km株に形質導入し、MG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA ΔyjcG ΔglcA ΔlldP::Km株を得た。実施例2に記載されているMG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm株がこの形質導入実験のドナー株であった。
【0107】
最後に、この株にエレクトロポレーションによってプラスミドpAG25を導入し、AG0960と呼称されるMG1655 Ptrc50/RBSB/TTG−icd::Cm ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd+eda ΔpoxB ΔackA+pta ΔmgsA ΔldhA ΔyjcG ΔglcA ΔlldP::Km(pME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01)株を得た。
【0108】
当業者には微生物を遺伝的に操作するために用いられる技術が分かり、欠失を得るために種々の方法が存在することが分かるであろう。
【0109】
実施例10
エルレンマイヤーフラスコでのグリコール酸生産株の発酵
まず、株の性能を、40g/lのMOPSおよび10g/lのグルコースを添加し、pH6.8に調整した改変M9培地(Anderson, 1946, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 32:120-128)を用いた250mlバッフルエルレンマイヤーフラスコ培養にて評価した。必要であれば、スペクチノマイシンを50mg/lの濃度で加えた。72時間前培養物を用いて、50ml培養物にOD600nmが約0.3となるまで接種した。培養物を30℃にて200rpmのシェーカー上で培養培地中のグルコースが消耗するまで維持した。培養の終了時に、分離用にBiorad HPX 97Hカラム、検出用に屈折計を用いたHPLCによって、グルコースおよびグリコール酸を分析した。
【0110】
種々の株の性能の比較を下表3に示す。実施例2に記載されている株を参照とした。各値はn回の繰り返し(n=1〜n=6)の平均値である。
【0111】
【表3】

【0112】
実施例11
流加発酵槽でのグリコール酸生産株の発酵
上記の実施例に記載されている株を、流加プロトコールを用いる600ml発酵槽での生産条件下で評価した。
【0113】
40g/lのMOPS、10g/lのグルコース(フラスコ培養に用いたものと同じ培地)および10%のLB培地を添加した50mlの合成培地を充填した500mlエルレンマイヤーフラスコにて30℃で3日間、独自の前培養を行った。この前培養物を発酵槽の接種に用いた。
【0114】
20g/lのグルコース、50mg/lのスペクチノマイシンを添加した200mlの合成培地を充填した発酵槽に初期光学密度約2で接種した。培養は37℃にて、溶存酸素が30%超の飽和を維持するように振盪および曝気を調整して行った。pHは塩基の添加により6.8に調整した。培養は回分様式でグルコースの消耗まで行った。その時、硫酸マグネシウム、オリゴ要素およびスペクチノマイシンを添加した700g/lのグルコース溶液を加え(グルコースパルス)、培地中20g/lのグルコース濃度に戻した。5回目の流加パルスの後、培養が終了するまでpHを7.4に調整した。
【0115】
通常、実施例5に記載の株は実施例2に記載の参照株よりも発酵槽で良好な生産性能を示した。
【0116】
実施例5の株(AG0956)を用いたグリコール酸生産の代表的な経時的発酵を以下に示す。
【0117】
【表4】

【0118】
得られた最終力価は52.2g/lグリコール酸であり、グルコースからの収率は0.38g/g、生産性は1.33g/l/時であった。
【参考文献】
【0119】


【図面の簡単な説明】
【0120】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部となっている添付図面は本発明を例示し、記述とともに本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図1】炭水化物からのグリコール酸生産系の進展における解糖、TCA回路およびグリオキシレート経路の遺伝子工学を示す。
【図2】pAG25と呼ばれるベクターpME101−ycdW−TT07−PaceA−aceA−TT01の構築を示す図である。
【図3】乳酸および酢酸経路を拡大表示したものである。これらの経路に含まれる遺伝子のいくつかが本発明において改変される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源を含んでなる適当な培養培地中で改変微生物を培養すること、およびその培養培地からグリコール酸を回収すること、によるグリコール酸、その誘導体または前駆体の発酵生産方法であって、該改変微生物が、グリコール酸を生産するために遺伝的に改変されたグラム陰性菌であって、以下の改変:
−遺伝子ldhAおよびmgsAの減衰
−遺伝子arcAの減衰
−遺伝子glcA、lldPおよびyjcGの少なくとも1つの減衰
およびそれらの組合せ
の少なくとも1つをさらに含んでなる、方法。
【請求項2】
初めにグリコール酸を生産するために改変された微生物が、以下の改変:
−グリオキシレートのグリコレート以外の産物への変換の減衰(aceB、glcB、gcl、edaの減衰)
−実質的にグリコレートを代謝することができない(glcDEFG、aldAの減衰)−グリオキシレート経路フラックスの増大(icd、aceK、pta、ackA、poxB、iclRもしくはfadRの減衰および/またはaceAの過剰発現)
−グリオキシレートのグリコレートへの変換の増大(ycdWの過剰発現)
−NADPHのアベイラビリティの増大(pgi、udhA、eddの減衰)
の少なくとも1つを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
初めにグリコール酸を生産するために改変された微生物が、遺伝子aceKの減衰を含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
初めにグリコール酸を生産するために改変された微生物が、遺伝子ldhAおよびmgsAの減衰をさらに含んでなる、請求項1〜3に記載の方法。
【請求項5】
初めにグリコール酸を生産するために改変された微生物が、遺伝子arcAの減衰をさらに含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
初めにグリコール酸を生産するために改変された微生物が、遺伝子glcA、lldPおよびyjcGの少なくとも1つの減衰をさらに含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
3つの遺伝子glcA、lldPおよびyjcGが減衰された、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
炭素源が、以下:グルコース、スクロース、単糖もしくはオリゴ糖、デンプンもしくはその誘導体、またはグリセロールの少なくとも1つである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のグリコレートの発酵生産方法であって、以下の工程:
a)初めにグリコレートを生産するために改変された改変微生物の発酵、
b)細菌中または培地中におけるグリコレートの濃縮、および
c)発酵培養液および/またはバイオマスからの、場合により最終産物中に一部または全量(0〜100%)残留するグリコール酸の単離
を含んでなる、方法。
【請求項10】
グリコレートが、少なくともグリコレート二量体へ重合する工程を通して単離される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
グリコレートが、グリコレート二量体、オリゴマーおよび/またはポリマーからの脱重合によって回収される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項で定義される改変微生物。
【請求項13】
腸内細菌科に属する、請求項12に記載の微生物。
【請求項14】
エシェリキア属に属する、請求項13に記載の微生物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−521206(P2012−521206A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501279(P2012−501279)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053758
【国際公開番号】WO2010/108909
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(505311917)メタボリック エクスプローラー (26)
【Fターム(参考)】