説明

発酵助剤及び該発酵助剤を使用した木質系堆肥

【課題】発酵培養上澄液の有効活用を図ると共に、石灰分を高含有した木質系堆肥を提供する。
【解決手段】キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)の培養上澄液に、水酸化カルシウム及び凝集剤、好ましくはブライオゾーアを主原料とするもの、を添加してスラリーを得る。
更に、木質及び/又はバークを主原料とし、発酵助剤として上記スラリーを使用することにより木質系堆肥を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャンディダ・ユティリスの培養上澄液から得られる発酵助剤、及び該発酵助剤を使用した木質系堆肥に関する。
【背景技術】
【0002】
キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)は、炭素資化範囲が広く、好気的条件下での培養においてエタノールを生成せず、その増殖阻害も受けないことから、高濃度での連続培養による菌体製造が可能であり、食飼料用のタンパク質源として広く利用されているのみならず、グルタチオン、RNA等の有用物質の生産株として広く工業的に利用されてきた。
キャンディダ・ユティリスによる有用物質の生産は、通常、菌体内に蓄積されるため、培養液上澄は、利用されることなく、生物学的処理(好気的処理あるいは嫌気的処理)あるいは物理化学的処理(凝集沈澱処理、等)がなされ、汚濁物質が除去されている。しかしながら、培養上澄液には、炭素源をはじめとして、窒素源、リン酸源等が含まれていることから、これらを有効に利用すべく、有機性廃水を利用する方法の一つとしての堆肥化が検討されているが、培養液上澄中の成分は濃度が低いために有効な方法とは言い難い。また、石灰スラッジ及び大谷石の切削屑を造粒するに際し発酵廃液をバインダーとして利用する方法(特許文献1)の報告も見られるが、更に有効な利用方法が望まれていた。
【0003】
木質、木皮の繊維を利用した堆肥は、穀物、野菜を栽培する際に生育を良くし、病虫害や気候の変化に強くする為に昔から広く使用されてきた。かかる堆肥は、木質、木皮に動物性糞尿等の発酵助剤が添加され製造されるものであるが、堆肥の生産に時間を要することから、セルロース、リグニン等を分解する特定の菌を接種することも行われている(例えば特許文献2)。一方で、土壌は、有機物、イオウ、窒素等の微生物分解あるいは酸性雨等により酸性化しやすく、酸性土に弱い野菜類も多いことから、酸を中和する成分を含んだ木質系の堆肥が望まれている。
【特許文献1】特開2003−336065号公報
【特許文献2】特開平10−266287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、キャンディダ・ユティリス培養上澄液の有効活用を図ると共に、酸を中和する成分を含んだ木質系堆肥を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、酵母培養上澄液に水酸化カルシウム及び凝集剤を添加して得たスラリーが窒素、リン酸、カリを高含有しており発酵助剤として有用であること、該発酵助剤を利用して木質系堆肥を製造できること、該木質系堆肥には石灰が多量に含有されていることを見いだし、本発明に到達した。
すなわち本発明は、
(1)キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)の培養上澄液に水酸化カルシウム及び凝集剤を添加して得られるスラリーからなる木質系堆肥の発酵助剤、
(2)凝集剤がブライオゾーアを主原料とするものである、上記(1)記載の木質系堆肥の発酵助剤、
(3)木質及び/又はバークを主原料とする木質系堆肥において、発酵助剤として上記(1)乃至(2)記載の発酵助剤を使用したことを特徴とする、木質系堆肥、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、従来、生物学的処理あるいは物理化学的処理により廃棄されていた培養上澄液の発酵助剤としての有効な活用が図れると共に、該発酵助剤を使用した木質系堆肥は、石灰分を多量に含む為に、酸性土壌にも有効に使用することができる。
さらに、本発明の木質系堆肥を土壌に配合して化学肥料を施肥する野菜類の栽培に用いると、品質、収穫量を落とすことなく野菜類中の硝酸態窒素を低減できる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の発酵助剤は、キャンディダ・ユティリス培養液から遠心分離等で菌体を除去した上澄液に、水酸化カルシウム及び凝集剤を添加し、スラリーとしたものである。
キャンディダ・ユティリスの培養条件は、使用する菌株、有用物質の種類、等によって異なるが、それ自体公知の方法が用いられ、いずれの培養液も使用することができる。具体的に、培地組成としては、炭素源としてブドウ糖、蔗糖、廃糖蜜、亜硫酸パルプ廃液等が用いられ、窒素源としては、アンモニア、硫安、尿素、硝酸塩、等が、リン酸、カリウム、マグネシウム源として、過リン酸石灰、燐安、塩化カリ、リン酸カリ、苛性カリ、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等が、更に必要に応じて、微量の亜鉛、銅、マンガン、鉄イオン等の無機塩類、ビタミン、アミノ酸、核酸関連物質類、コーンスティーブリカー、酵母エキス、ペプトン等を加えることもできる。
培養温度は、用いられる菌株の生育至適温度前後、具体的には20〜35℃程度、培養時間はバッチ培養では25〜50時間程度であるが、連続培養がより好ましい。
【0008】
水酸化カルシウムは、培養上澄液のpHを10〜12.5、好ましくは11.5〜12.5にできる量が添加される。
凝集剤は、有機性凝集剤、無機性凝集剤のいずれでもよいが、発酵助剤とする場合、特にブライオゾーアを主原料とするものが好ましく、例えば、モスナイト(クラスター社製)等を例示することができる。凝集剤は、上澄液に対して、10〜500ppm、好ましくは50〜300ppm添加される。
【0009】
水酸化カルシウム及び凝集剤が添加された培養上澄液は、沈降槽で沈降し、上排することにより、固形分濃度1〜15%程度のスラリーとして取得することができる。また、該スラリーをスクリュープレス等で固形化して固形分濃度20%程度以上のものとすることもできる。
該スラリー中には、炭素の他、窒素、リン、カリ及びカルシウムを含む。
【0010】
本発明では、更に、上記スラリーを発酵助剤として使用した木質系堆肥が提供される。
木質系堆肥は、木質あるいはバークを主原料とし、これに発酵助剤を混合し、堆積・切替しを繰り返し6ヶ月以上、好ましくは10ヶ月から15ヶ月間発酵させて得られるものであり、バーク堆肥の品質基準を満足すると共に、石灰分を多量に含有するものである。
【0011】
発酵助剤としては、本発明の発酵助剤(スラリー)を単独で用いることもできるが、公知の発酵助剤、例えば、鶏糞、焼酎粕、等と併用することが好ましい。他の発酵助剤と併用する場合、本発明の発酵助剤(スラリー)の併用割合は、1〜20%(乾燥重量比)程度が望ましい。
発酵助剤は、木質あるいはバーク(乾燥重量)に対して、10〜50重量%(乾燥重量)添加される。
【0012】
本発明の木質系堆肥は、土壌と混ぜ合わせることにより土壌改良剤として使用される。添加量は、土壌10a(1反)に対して好ましくは1〜50t、更に好ましくは5〜20tである。
【0013】
本発明の木質系堆肥は、化学肥料を施肥する野菜類の栽培に用いると、野菜類の品質、収穫量を落とすことなく、野菜類の硝酸態窒素の蓄積を低減できることから、特に好ましい。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
実施例1 発酵助剤の製造
キャンディダ・ユティリスIAM4264株を、グルコース2%、イーストエキス2%、ペプトン1%からなる培地でフラスコ種母培養し、それを3000L容発酵槽に植菌した。
培地としては、グルコース3%、硫安0.8%、リン酸一カリウム0.2%、硫酸マグネシウム0.03%、硫酸第一鉄10ppm、硫酸亜鉛3ppm、硫酸銅1ppm、硫酸マンガン10ppmを用い、槽内液量2000Lとしてバッチ培養を行った。28時間培養後、遠心分離器で菌体を除去し、得られた上澄液(COD:280ppm、PO−P:69ppm、NH−N:34ppm、pH4.9)に、水酸化カルシウムを添加してpH12.2とした後、凝集剤としてモスナイト(クラスター社製)を対液182ppm添加し、沈降槽で沈降させることによりスラリー72Lをえた。これを、タンクに静置後上排し、培養液上澄中の固形分を含む本発明の発酵助剤(スラリー)30.6Lを得た。
固形分濃度:4.05%、比重:1.019、pH:9.95
固形分含量(絶乾%)、炭素:22.1%、T−N:3%、T−P:6%、T−Ca:38%、T−K:0.8%
C/N:7.5
【0015】
実施例2 木質系堆肥(バーク堆肥)の製造
杉バーク3300kg(乾燥重量1200kg)に、鶏糞684kg(乾燥重量340kg)、焼酎滓171kg(乾燥重量12kg)及び実施例1で得られた発酵助剤(バイオスラリー)600kg(乾燥重量24kg)を添加混合し堆積した。堆積後約1ヶ月ごとに切り返し9ヶ月堆積した後、そのまま約3ヶ月堆積し、本発明の木質系堆肥(バーク堆肥)バイオミクスBを得た。
バイオミクスBの分析結果を表1に示す。
なお、同表中の分析は、肥料分析法及び土壌養分分析法によった。
【0016】
実施例3 木質系堆肥(木質系の堆肥)の製造
庭木の剪定材をチップ化したもの2800kg(乾燥重量1200kg)に、鶏糞684kg(乾燥重量340kg)、焼酎滓171kg(乾燥重量12kg)及び実施例1で得られた発酵助剤(バイオスラリー)600kg(乾燥重量24kg)を添加混合し堆積した。堆積後約1ヶ月ごとに切り返し9ヶ月堆積した後、そのまま約3ヶ月堆積し、本発明の木質系堆肥(木質系の堆肥)バイオミクスWを得た。
バイオミクスWの分析結果を表1に示す。
なお、同表中の分析は、肥料分析法及び土壌養分分析法によった。
【0017】
【表1】

【0018】
評価例
実施例2及び3で製造したバイオミクスB及びバイオミクスWを使用し、小松菜を栽培し、その硝酸態窒素の蓄積量を測定した。
4個の15L容プランター(横58cm×タテ18cm×高さ15cm)に、基本土壌(グリーンファーム社製、花と野菜の土)、木質系堆肥及び化学肥料(日産アグリ社製、みずほ8・8・8)を下記に示す混合比で調整した。
(A)基本土壌11.7L:バイオミクスB1.3L:化学肥料30g
(B)基本土壌11.7L:バイオミクスW1.3L:化学肥料30g
(C)基本土壌13L:木質系堆肥なし:化学肥料30g
(D)基本土壌13L:木質系堆肥なし:化学肥料なし
各プランターに小松菜の種を播種し、発芽後に生育の揃った8株を選抜し、他は間引いた。
発芽後33日目に、前記化学肥料300gを10Lの水に溶解し、各プランターに各1Lを追肥した。その後、発芽後45、54、57、64日目に各2株ずつ採取し、重量、草丈、硝酸態窒素を測定した。(栽培時期:平成16年7月24日〜9月10日、場所:興人佐伯工場内)
結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
表2に示されるように、バイオミクス配合区(A、B)は化学肥料区(C)と同様の生育状況を示した。硝酸態窒素の蓄積については、化学肥料区(C)が高位で横ばいであるのに対してバイオミクス配合区(A、B)では、栽培後半に激減する事が分かる。なお、小松菜の出荷サイズは、通常、80〜100g程度であり、栽培に数は50〜60日である。
【0021】
なお、評価例における測定は、以下の方法によった。
1.野菜中の硝酸態窒素測定法
野菜の1/2株または1株を秤量後、小型ミキサ−で切り刻み、これを濾布で搾り取り、絞り汁を試料液とした。
試料液をリフレクトクァント試験紙(硝酸テスト用No3標準試験紙)に浸し、 関東化学社製RQフレックスプラス(高感度反射式光度計)測定器により、硝酸態窒素を測定した。
2.野菜の重量及び草丈の測定法
(1)重量は、根部を切除した葉部を秤量した。
(2)草丈は、根部を切除した葉部を測定した。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上述べてきたように、本発明によると、キャンディダ・ユティリス培養上澄液から、窒素、リン酸、カリを含有した木質系堆肥の発酵助剤、及び該発酵助剤を使用した木質系堆肥が提供される為、従来廃棄されていた発酵培養上澄液の有効な活用が図れる。また、該木質系堆肥は石灰分を多量に含有しているために酸性土壌にも、土壌改良剤として有効に使用することができる。
さらに、本発明の木質系堆肥を土壌改良剤として土壌に配合して化学肥料を施肥する野菜類の栽培に用いると、品質、収穫量を落とすことなく野菜類中の硝酸態窒素を低減できるため、自然環境や人体にやさしい野菜類を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)の培養上澄液に水酸化カルシウム及び凝集剤を添加して得られるスラリーからなる木質系堆肥の発酵助剤。
【請求項2】
凝集剤がブライオゾーアを主原料とするものである、請求項1記載の木質系堆肥の発酵助剤。
【請求項3】
木質及び/又はバークを主原料とする木質系堆肥において、発酵助剤として請求項1乃至2記載の発酵助剤を使用したことを特徴とする、木質系堆肥。

【公開番号】特開2006−273638(P2006−273638A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−93484(P2005−93484)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】