説明

発酵液からの有価物回収方法

【課題】発酵液から効率的に且つ経済的に有価物を回収できる実用的な発酵液からの有価物回収方法を提供すること。
【解決手段】発酵後の懸濁液を電解槽2に導入する工程と、該電解槽2の電着用電極20上に有価物を析出する電着工程と、該電着用電極20上に析出した有価物を分離する分離工程とを有する焼酎発酵蒸留残渣、メタン発酵消化液等の発酵液からの有価物回収方法であって、前記電着用電極20に、銀を付着させた導電性の炭素繊維電極を用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵液からの有価物回収方法に関し、詳しくは発酵液から効率的に有価物を回収できる有価物回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、発酵液から菌体を凝集分離して有価物を回収するに際し、高価な凝集剤であるキトサンの使用量を低減して経済的に有価物を回収する菌体の凝集分離法が開示されている。この特許文献1の技術は、発酵液にアミジン単位を有するカチオン性高分子凝集剤とキトサンを添加して発酵液中の菌体を凝集分離する方法である。
【0003】
特許文献2、3には、発酵液を濃縮して、濃縮液を膜分離によって菌体と有価物に分離し、膜を透過した有価物を回収する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2001−178495号公報
【特許文献2】特開平11−169671号公報
【特許文献3】特開2000−210072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、キトサンの使用量は減るが、高分子凝集剤の使用量は増加するので、結局、凝集剤のコストがかかり、また凝集分離では有価物に反応する凝集剤が限定され、汎用性がない欠点ある。
【0005】
特許文献2、3に記載の技術は、膜分離法であり、以下のような問題がある。一般に、膜分離法は、発酵液を膜で処理するプロセスは有価物回収だけでなく、発酵液(消化液)の処理(下水道や河川放流のための処理)プロセスとしても有効と考えられている。しかし、膜は発酵液に対して、一般に極めて目詰まりを起こしやすく、この点を解決しなければ実用的なプロセスにはならない。この傾向はイオン透析膜、微多孔膜ともに同じである。実際に膜処理装置を組み込んだメタン発酵プロセスが稼動しているが、これは単に固形物をある程度分離する程度の機能しかなく、有価物を回収するという機能までは有していない。むしろ、この膜処理の後段に本発明による有価物回収プロセスを置くことによって、従来からの固形物除去が行えて、有価物回収効率を向上することが可能になる。
【0006】
また有価物の回収法で、発酵液を活性炭層やイオン交換樹脂層を通して有価物を回収する吸着法もあるが、共存する固形物や無機イオン等のため、これら吸着法の効率は一般に大きく低下する。例えば、麦焼酎粕からの陰イオン交換樹脂によるクエン酸回収率は、通常50%を大きく下回る。この原因は大過剰に共存するより低級脂肪酸(これらは有価物として価値は小さい。)によるものである。メタン発酵液の場合は酢酸、プロピオン酸や蟻酸が優先的に吸着されて、微量の有価物回収には繋がらない。
【0007】
そこで、本発明は、発酵液から効率的に且つ経済的に有価物を回収できる実用的な発酵液からの有価物回収方法を提供することを課題とする。
【0008】
本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0010】
(請求項1)
発酵後の懸濁液を電解槽に導入する工程と、該電解槽の電着用電極上に有価物を析出する電着工程と、該電着用電極上に析出した有価物を分離する分離工程とを有する発酵液からの有価物回収方法であって、
前記電着用電極に、銀を付着させた導電性の炭素繊維電極を用いることを特徴とする発酵液からの有価物回収方法。
【0011】
(請求項2)
前記分離工程で分離された有価物を精製する精製工程を有することを特徴とする請求項1記載の発酵液からの有価物回収方法。
【0012】
(請求項3)
前記電着用電極上に析出した有価物を分離する工程は、前記電着用電極の極性を電着時と逆転させることを特徴とする請求項1又は2記載の発酵液からの有価物回収方法。
【0013】
(請求項4)
発酵液が焼酎発酵蒸留残渣であり、回収する有価物がオキシカルボン酸、多価フェノール、アミノ酸、蛋白質含有物質の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の発酵液からの有価物回収方法。
【0014】
(請求項5)
発酵液がメタン発酵消化液であり、回収する有価物がアミノ酸、蛋白質含有物質、オキシカルボン酸の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の発酵液からの有価物回収方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、発酵液から効率的に且つ経済的に有価物を回収できる実用的な発酵液からの有価物回収方法を提供することができる。具体的には、電極電位と溶出液の組成によって回収する物質の範囲を選択できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は本発明の回収方法を実施する装置の一例を示す説明図であり、図に示す装置は電極の電位を例えば反転させて電着と溶出を交互に行うバッチ式(回分式)の回収プロセスを示している。
【0018】
同図において、1は発酵液導入管であり、2は電解槽である。
【0019】
電解槽2の内部には、電着用電極20と対極21を備え、両電極20、21の間には必要により隔膜22が設けられている。23は回収処理後の発酵液を取り出す排出管である。
【0020】
電着用電極20に電着された有価物は極性の反転やアルカリ洗浄により、電着された有価物を分離する。分離された電着物は溶出液と共に外部に取り出されて、晶析等の精製手段で精製される。
【0021】
図示の例では、有価物を溶出した溶出液は溶出液配管24を介してタンク25に貯留され、溶出液ポンプ26により、図示しない精製手段に輸送される。なお溶出液の一部は溶出液ポンプ26により電解槽2に返送することができる。
【0022】
本発明において、電着用電極20は、銀を付着させた導電性の炭素繊維製電極が用いられる。炭素繊維製電極に銀を付着させるには、例えば炭素繊維製フェルト又はクロス上に、銀を電気的に、あるいは無電解的にメッキすることが好ましいが、銀を蒸着する方法でもよい。炭素繊維製フェルト又はクロスは、電子導電性の炭素繊維の集合体であり、その原料はセルロース、ポリアクリルニトリル、ピッチ系などの繊維である。
【0023】
このような導電性を有する炭素繊維製フェルト又はクロスの製法は、例えば炭素繊維を用いて形成した織布又は不織布を、好ましくは1200℃以上、より好ましくは1500℃以上で空気を遮断して焼成し、炭素質化あるいはグラファイト質化して導電性を付与する方法が挙げられ、更に、表面の酸化処理等によって水素あるいは酸素過電圧を向上せしめる方法も好ましい。
【0024】
本発明では、電着用電極20として、銀を付着させた導電性の炭素繊維製電極を用いているので、アミノ酸、一部の微生物を含む蛋白質含有物質、オキシカルボン酸類、多価フェノール等を効率よく、銀塩あるいは錯化合物として捕捉する効果がある。
【0025】
かかる電着用電極20の形状は、銀と有価物の反応により銀化合物(固形物)を生成することができ、それを溶出することにより容易に回収することができる形状であれば任意であり、例えば銀を付着させた炭素繊維製電極を平板状、波板状等に付形する態様が挙げられる。
【0026】
対極21には、通常の電極として用いられるものを使用することができ、隔膜22を挟んで電着用電極20に対峙させる態様や、あるいは無隔膜式の態様が挙げられる。電流効率を重視しなくても良い場合は無隔膜式でも十分である。この無隔膜式の場合には膜の目詰まりの問題が回避できる効果がある。図2には無隔膜式の例が示されている。
【0027】
この電極系の少なくとも電着用電極20側に発酵液を導入し、有価物を含む固形物を該電着用電極20上に析出させて回収する。
【0028】
次に、有価物の精製・回収法例について説明すると、電着させた有価物を含む固形分を、まず、加温下で水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリで洗浄して、溶出成分を液側に溶解する。これを中和した後、温度を下げて、有価物を析出させて回収する。
【0029】
本発明では、回収目的物質に合わせて酸濃度を調整することにより、析出し易さを調節することができる。さらに溶解・析出を繰り返して、精製度を向上させること等が可能である。
【0030】
次に、電着用電極20への有価物析出例のメカニズムについて説明する。
【0031】
発酵液中の有価物としての有機酸(カルボン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸などのアミノカルボン酸類、一部微生物を含有する蛋白質含有物質、クエン酸、酒石酸などを含むオキシカルボン酸類、ポリフェノール類など)は、一般に酸性が強くなるほど溶解性が低減する。
【0032】
電解槽2内の陽極側で酸素発生反応を行う場合、陽極周辺では水酸イオン濃度が低下してpH値が低下する。その結果として、有機酸類の溶解性が低下して、電極面を中心に析出する。これを極性反転やアルカリ洗浄することによって、有機酸類を濃縮液として回収することができる。これをさらに晶析法などによって精製し有価物を回収する。
【0033】
また銀を付着させた炭素繊維製電極は、電極を若干卑の領域(例えば、+0.2VvsAg/AgCl:銀塩化銀基準で+0.2V)に維持して有機酸を接触させると、有機酸銀として電極表面に有機酸が析出する。これも極性反転して有機酸を溶出させて、濃縮液を回収することが可能である。
【0034】
本発明において、回収される有価物は、焼酎粕(蒸留残渣)中のクエン酸、りんご酸、コハク酸、乳酸等のほか、アミノ酸としてアルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられ、さらにポリフェノール、ピロガロールなども挙げられ、その他、食品残渣メタン発酵消化液中のクエン酸等のオキシカルボン酸類、トリプトファン等のアミノ酸類、アスパラギンなどの蛋白質や一部の微生物を含む蛋白質含有物質なども挙げられる。
【0035】
以上、本発明に関して銀を付着させた炭素繊維製電極を用いた電着法による有価物回収方法について説明したが、上述したように電極の電位を反転させて電着と溶出とを交互に行うことにより有価物を回収してもよいし、また反転によって電着と溶出とを交互に行うに際して、溶出液としてアルカリ水溶液を使用することは好ましい態様である。更に電着と溶出とを交互に行うに際して、反転させずにアルカリ洗浄のみで溶出させることも可能である。
【0036】
この方法では、電極電位と溶出液の組成によって回収する物質の範囲を選択できる効果がある。また共析法によって多価アルコールの回収なども行える効果もある。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0038】
実施例1
試料として麦焼酎粕を用い、その麦焼酎粕中に含まれるクエン酸を回収する実験を行った。
【0039】
実験装置としては、図3に示す基礎試験用電気化学リアクター(小型シングルセル)を用いた。
【0040】
Aは作用極(正極)であり、銀メッキ炭素繊維製電極を用いた。Bは対極(負極)であり、炭素繊維製電極を用いた。作用極Aと対極Bの間には、隔膜Cを配置した。隔膜は陽イオン交換膜(セレミオンCMV)用いた。Dはグラファイト製の仕切り板である。なお積層する場合は、バイポーラ仕切り板にすればよい。Eは集積シートであり、Fは押さえ用樹脂板である。
【0041】
麦焼酎粕試料液Gを作用極Aのセルに導入し、電着を行った。Hは対極液(酢酸−酢酸ナトリウム水溶液)である。
【0042】
電着条件は、印加電圧5V(定電圧、みかけの電流密度約0.3mA/cm)とした。
【0043】
電着所要電力は、本試験から推定すると、3kWh/m(焼酎粕)であり、所要電力の90%以上はポンプ動力である。
【0044】
溶出条件は、印加電圧0Vで溶出液H(アルカリ液:0.1M炭酸ナトリウム水溶液50ml)を循環させて溶出させ、クエン酸を回収した。
【0045】
200mlの麦焼酎粕から、0.7gのクエン酸を回収した。クエン酸の定量法は、定電位クーロメトリー法による。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の回収方法を実施する装置の一例を示す説明図
【図2】本発明の回収方法を実施する装置の他の例を示す説明図
【図3】実験装置の概略断面図
【符号の説明】
【0047】
1:発酵液導入管
2:電解槽
20:電着用電極
21:対極
22:隔膜
23:排出管
24:溶出液配管
25:タンク
26:溶出液ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵後の懸濁液を電解槽に導入する工程と、該電解槽の電着用電極上に有価物を析出する電着工程と、該電着用電極上に析出した有価物を分離する分離工程とを有する発酵液からの有価物回収方法であって、
前記電着用電極に、銀を付着させた導電性の炭素繊維電極を用いることを特徴とする発酵液からの有価物回収方法。
【請求項2】
前記分離工程で分離された有価物を精製する精製工程を有することを特徴とする請求項1記載の発酵液からの有価物回収方法。
【請求項3】
前記電着用電極上に析出した有価物を分離する工程は、前記電着用電極の極性を電着時と逆転させることを特徴とする請求項1又は2記載の発酵液からの有価物回収方法。
【請求項4】
発酵液が焼酎発酵蒸留残渣であり、回収する有価物がオキシカルボン酸、多価フェノール、アミノ酸、蛋白質含有物質の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の発酵液からの有価物回収方法。
【請求項5】
発酵液がメタン発酵消化液であり、回収する有価物がアミノ酸、蛋白質含有物質、オキシカルボン酸の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の発酵液からの有価物回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−220310(P2008−220310A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65723(P2007−65723)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】