説明

発電システムのトラブル対処支援システム、トラブル対処支援方法、及びプログラム

【課題】発電システムのトラブルにおいて、作業者に対し、修理を継続するべきか中断するべきかを適切に決定することを支援する。
【解決手段】発電システムのトラブルにおいて、演算部3は、発生したトラブルの複数の対処手順に関連付けられた、当該手順の実行に標準的にかかる時間を示す標準時間に基づいて、トラブルの対処の実行に必要な所要時間を算出する。これにより、トラブル対処支援システムは、トラブルの対処の実行に必要な所要時間を作業者に提示することができ、作業者に対し、修理を継続するべきか中断するべきかを適切に決定することを支援することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばボイラ等を用いた発電システムのトラブル対処支援システム、トラブル対処支援方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ボイラ等を用いた火力発電プラントなどにおける主要機器、補助機器等にトラブルが発生した場合、作業者は、当該主要機器、補助機器等の修理・点検を試みる必要がある。しかし、当該作業者は必ずしも主要機器、補助機器等の技術内容を熟知しているとは限らず、迅速な対応ができるとは限らない。そこで、トラブルの対処を行う作業者の個人のスキルレベルに依存せずに迅速な対応を行うトラブル対処支援システムが要求されている。
【0003】
発電プラント設備ではないが、運用管理の手順をフローチャート化して画面上に表示し、当該フローチャートを構成するブロックのうち所定のブロックを指定することで、当該ブロックの情報や対応処理手順情報を表示する技術の提案がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−265474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ボイラ等を用いた火力発電プラント等における主要機器、補助機器等にトラブルが発生した場合、作業者は、プラントを安定化させるような運転を行いつつ、所定の制限時間内に、その場で主要機器、補助機器等の修理・点検を行って運転を再開させるか、運転の再開を断念して当該主要機器、補助機器等を外部へ修理を依頼するかを決定する必要がある。
しかしながら、特許文献1に記載の提案では、実行すべき手順は表示されるものの、トラブル解消作業にかかる作業時間が分からず、復旧・修理を継続するべきか中断するべきかを適切に決定することができない、という問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、トラブルの対処の実行に必要な所要時間を提示する発電システムのトラブル対処支援システム、トラブル対処支援方法、及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、発電システム内で発生したトラブルへの対処を所定の制限時間内に行うことを支援する発電システムのトラブル対処支援システムであって、発生したトラブルの内容を示すトラブル内容と、発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順及び当該手順の実行に標準的にかかる時間を示す標準時間を記憶する対処方法記憶部と、作業者から、前記対処方法記憶部が記憶するトラブル内容のうち、発生したトラブルと同じ内容を示す前記トラブル内容の選択を受け付け、当該選択された発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順、及び各手順の標準時間を前記対処方法記憶部から読み出す読み出し部と、前記読み出し部が読み出した標準時間に基づいて、前記トラブルの対処の実行に必要な所要時間を算出する演算部と、を備えることを特徴とする発電システムのトラブル対処支援システムである。
【0008】
また、本発明は、前記読み出し部が読み出した発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順と前記演算部が算出した所要時間とを表示する表示部を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、前記読み出し部が読み出した複数の手順のうち、次に作業者が実行する手順の選択を受け付ける選択部を備え、前記演算部は、前記選択部により手順が選択される毎に所要時間を算出することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、前記演算部は、前記選択部が一の手順の選択を受け付ける毎に、当該トラブルにおける前記一の手順以降の手順の所要時間を算出することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記演算部は、前記読み出し部が読み出した発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順の組み合わせのうち、最も所要時間が短くなる組み合わせの実行に必要な所要時間と、最も所要時間が長くなる組み合わせの実行に必要な所要時間とを算出することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前記選択部が一の手順を選択した時刻から他の手順を選択する時刻までの時間を計時する計時部と、前記計時部が計時した時間に基づいて、前記対処方法記憶部が前記一の手順に関連付けて記憶する標準時間を更新する更新部とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記演算部が算出した所要時間を、所定の制限時間と比較する比較部を備え、前記表示部は、前記比較部によって前記所要時間が前記制限時間を超えた場合に、前記制限時間の超過を示す情報を表示することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、発電システム内で発生したトラブルの内容を示すトラブル内容と、発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順及び当該手順の実行に標準的にかかる時間を示す標準時間を記憶する対処方法記憶部を備え、発生したトラブルへの対処を所定の制限時間内に行うことを支援するトラブル対処支援方法であって、読み出し部は、作業者から、前記対処方法記憶部が記憶するトラブル内容のうち、発生したトラブルと同じ内容を示す前記トラブル内容の選択を受け付け、当該選択された発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順、及び各手順の標準時間を前記対処方法記憶部から読み出し、演算部は、前記読み出し部が読み出した標準時間に基づいて、前記トラブルの対処の実行に必要な所要時間を算出することを特徴とする発電システムのトラブル対処支援方法である。
【0015】
また、本発明は、発電システム内で発生したトラブルの内容を示すトラブル内容と、発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順及び当該手順の実行に標準的にかかる時間を示す標準時間を記憶する対処方法記憶部を備え、発生したトラブルへの対処を所定の制限時間内に行うことを支援するトラブル対処支援システムを、作業者から、前記対処方法記憶部が記憶するトラブル内容のうち、発生したトラブルと同じ内容を示す前記トラブル内容の選択を受け付け、当該選択された発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順、及び各手順の標準時間を前記対処方法記憶部から読み出す読み出し部、前記読み出し部が読み出した標準時間に基づいて、前記トラブルの対処の実行に必要な所要時間を算出する演算部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、演算部は、発生したトラブルの複数の対処手順に関連付けられた標準時間に基づいて、トラブルの対処の実行に必要な所要時間を算出する。これにより、トラブル対処支援システムは、トラブルの対処の実行に必要な所要時間を作業者に提示することができる。そのため、トラブル対処支援システムは、作業者に対し、修理を継続するべきか中断するべきかを適切に決定することを支援することができる。
これにより、作業者はプラントを安定化させるような運転を行いつつ、的確な判断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施形態によるトラブル対処支援システムの構成を示す概略ブロック図である。
【図2】図2は、対処方法記憶部が記憶する情報を示す図である。
【図3】図3は、トラブル対処支援システムの動作を示すフローチャートである。
【図4】図4は、表示部が表示するトラブル内容の一覧の画面例である。
【図5】図5は、最短所要時間及び最長所要時間の算出方法の一例を示すフローチャートである。
【図6】図6は、表示部が表示するトラブル処理画面の第1の画面例である。
【図7】図7は、表示部が表示するトラブル処理画面の第2の画面例である。
【図8】図8は、火力発電プラントの電気設備に搭載された電力変換器の簡略な構成を示す図である。
【図9】図9は、電力変換器の温度警報器が温度異常アラームを発生した場合に、トラブル処理画面に表示されるフローチャートである。
【図10】図10は、トラブル対処の履歴の分析結果を示す図である。
【図11】図11は、本発明の他の一実施形態による火力発電プラントの概略図である。
【図12】図12は、火力発電プラントのトラブルの一例に対応した対応手順のフローチャートである。
【図13】図13は、火力発電プラントのトラブル対処の履歴の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0019】
[第1の実施形態]
以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態について詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるボイラ等を用いた火力発電プラント等における主要機器、補助機器等にトラブルが発生した場合のトラブル対処支援システムの構成を示す概略ブロック図である。
本発明に係るトラブル対処支援システムは、対処方法記憶部1、読み出し部2、演算部3、表示部4、選択部5、比較部6、計時部7、標準時間更新部8を備える。
【0020】
対処方法記憶部1は、発生したトラブルの内容を示すトラブル内容と当該トラブルの解消に必要な複数の手順とを関連付けて記憶する。また、対処方法記憶部1は、トラブルの解消に必要な手順の各々に関連付けて、当該手順の実行に標準的にかかる時間を示す標準時間を記憶する。
読み出し部2は、作業者から、発生したトラブルと同じ内容を示すトラブル内容の選択を受け付け、選択されたトラブル内容に関連付けられた各手順の標準時間を対処方法記憶部1から読み出す。また、読み出し部2は、読み出した手順を演算部3、表示部4に出力する。
演算部3は、読み出し部2から複数の手順の標準時間を入力する。また、演算部3は、計時部7が計時した経過時間を入力する。そして、演算部3は、読み出し部2から入力した標準時間と計時部7から入力した経過時間とに基づいて、トラブルの対処の実行に必要な所要時間を算出する。また、演算部3は、算出した所要時間を表示部4、比較部6に出力する。
【0021】
表示部4は、読み出し部2が読み出した各手順をフローチャート形式で表示する。また、表示部4は、演算部3が算出した所要時間を表示する。
選択部5は、読み出し部2が読み出した複数の手順のうち、次に作業者が実行する手順の選択を受け付け、選択された手順を演算部3に通知する。
比較部6は、演算部3が算出した所要時間を、所定の制限時間と比較する。そして、比較部6は、所要時間が制限時間を超えた場合に、表示部4に制限時間の超過を示す情報を表示させる。
計時部7は、トラブルの対処の開始時刻からの経過時間を計時し、当該経過時間を演算部3、標準時間更新部8に出力する。
標準時間更新部8は、計時部7が計時した経過時間に基づいて、対処方法記憶部1が記憶する標準時間を書き換える。
【0022】
図2は、対処方法記憶部が記憶する情報を示す図である。図2中、(a)はトラブルテーブルの内容を、(b)は手順テーブルの内容を各々示す。
対処方法記憶部1は、トラブルの種類を格納するトラブルテーブルと、トラブルテーブルが格納する各トラブルの解消に必要な手順を格納する手順テーブルとを記憶する。
図2(a)を参照すると、トラブルテーブルは、トラブルの種類を特定するトラブルIDと、発生したトラブルの内容を示すトラブル内容とを格納する。
トラブルIDは、トラブルの種類を特定する識別情報である。
トラブル内容は、発生したトラブルの内容を示す。
例えばトラブルID1は、火力発電用プラント設備の電力変換器で温度異常アラームが発生した場合であり、ID2は、同じく電力変換器で過電流検出アラームが発生した場合であり、ID3は、同じく電力変換器の動作停止が発生した場合等である。
【0023】
図2(b)を参照すると、手順テーブルは、手順ID、トラブルID、シンボル、手順内容、標準時間、次手順、詳細データを格納する。
手順IDは、手順を特定する識別情報である。
トラブルIDは、トラブルテーブルで定義されたトラブルIDである。
シンボルは、フローチャートのシンボルを示す。具体的には、作業者による処理を示す「処理(長方形)」や、条件による判断とその結果による分岐を示す「判断(菱形)」などがある。
手順内容は、トラブルIDが示すトラブルに対する対処の手順の内容を示す。なお、手順内容が「開始」を示す場合、当該手順からトラブルに対する対処が開始することを示す。また、手順内容が「終了」を示す場合、当該手順によってトラブルに対する対処が終了することを示す。
標準時間は、当該手順の実行に標準的にかかる時間を示す。
次手順は、当該手順の次に実行すべき手順の手順IDを示す。
詳細データは、当該手順の詳細な実行方法を示すデータを示す。
【0024】
トラブル対処支援システムは、このような構成を有することで、図1に示すように、読み出し部2が、作業者から、対処方法記憶部1が記憶するトラブル内容のうち、発生したトラブルと同じ内容を示すトラブル内容の選択を受け付け、当該選択されたトラブル内容に関連付けられた複数の手順を対処方法記憶部1から読み出し、演算部3が、読み出し部2が読み出した複数の手順に関連付けられた標準時間に基づいて、トラブルの対処の実行に必要な所要時間を算出する。
これにより、トラブル対処支援システムは、トラブルの対処の実行に必要な所要時間を提示することができる。
【0025】
次に、トラブル対処支援システムの動作を説明する。
図3は、トラブル対処支援システムの動作を示すフローチャートである。
トラブル対処支援システムは、作業者がコンピュータに格納されたトラブル対処支援システムのプログラムを実行する。トラブル対処支援システムが起動すると、読み出し部2は、対処方法記憶部1のトラブルテーブルを読み出し、トラブルテーブルに格納されたトラブル内容の一覧を表示部4に表示させる(ステップS1)。
【0026】
図4は、表示部が表示するトラブル内容の一覧の画面例である。
図4に示すように、トラブル内容の一覧画面には、トラブルテーブルに格納されたトラブルIDとトラブル内容との組み合わせが一覧で表示される。また、当該画面では、文字列を入力することで、一覧に表示されたトラブルIDまたはトラブル内容から、入力された文字列を含むトラブルIDまたはトラブル内容を検索することができる。
【0027】
次に、読み出し部2は、作業者から、表示部4に表示されたトラブル内容のうち、発生したトラブルと同じ内容を示すトラブル内容の選択を受け付ける(ステップS2)。具体的には、作業者が図4に示す一覧画面を参照し、表示されたトラブルIDとトラブル内容との組み合わせを選択してOKボタンを押下することで、読み出し部2がトラブル内容の選択を受け付けることとなる。
次に、計時部7は、トラブルの対処の開始時刻からの経過時間の計時を開始する(ステップS3)。
【0028】
次に、読み出し部2は、ステップS2で選択されたトラブルの解消に必要な手順の情報を読み出す(ステップS4)。
具体的には、まず、読み出し部2は、選択されたトラブル内容に関連付けられたトラブルIDを対処方法記憶部1のトラブルテーブルから読み出す。次に、読み出し部2は、読み出したトラブルIDに関連付けられた手順(手順ID、シンボル、手順内容、標準時間、次手順、詳細データ)を対処方法記憶部1の手順テーブルから読み出し、読み出し部2の内部メモリに記録する。
【0029】
次に、演算部3は、作業者が次に実行すべき手順の手順IDを内部メモリから読み出す(ステップS5)。
すなわち演算部3は、初回実行時に手順内容が「開始」を示す手順に関連付けられた手順IDを読み出す。他方、2回目以降の実行時には、演算部3は、後述するステップS11において選択部5によって選択された手順を読み出す。
次に、演算部3は、読み出した次に実行すべき手順以降に実行する複数の手順の組み合わせのうち、最も所要時間が短くなる組み合わせの実行に必要な所要時間(最短所要時間)と、最も所要時間が長くなる組み合わせの実行に必要な所要時間(最長所要時間)とを算出する(ステップS6)。
【0030】
最短所要時間および最長所要時間は、例えば以下の処理により求めることができる。
図5は、最短所要時間及び最長所要時間の算出方法の一例を示すフローチャートである。
まず、演算部3は、内部メモリの所要時間算出用領域に「0分」を、最短所要時間算出用領域に「NULL」を、最長所要時間算出用領域に「NULL」を記録する(ステップS101)。次に、演算部3は、読み出し部2の内部メモリから、ステップS5で読み出した手順IDに関連付けられた次手順の手順IDを読み出す(ステップS102)。ここで、次手順に複数の手順IDが含まれる場合、演算部3は、当該複数の手順IDの何れか1つを読み出し、他の手順IDをスタックに格納する。このとき、演算部3は、他の手順IDに関連付けて現在内部メモリの所要時間算出用領域に格納された値もスタックに格納する。
【0031】
次に、演算部3は、読み出した1つの手順IDに関連付けられた手順内容が「終了」を示すか否かを判定する(ステップS103)。演算部3は、手順内容が「終了」を示していないと判定した場合(ステップS103:No)、当該読み出した手順IDに関連付けられた標準時間を、内部メモリの所要時間算出用領域に格納された値に加算する(ステップS104)。そして、ステップS102に戻り、当該読み出した手順IDに関連付けられた次手順の手順IDを読み出す。
【0032】
他方、演算部3は、手順内容が「終了」を示していると判定した場合(ステップS103:Yes)、内部メモリの所要時間算出用領域に格納された値が最短所要時間算出用領域に格納された値より小さいか否かを判定する(ステップS105)。なお、初回実行時は、最短所要時間算出用領域にはNULLが格納されている。この場合、演算部3は、所要時間算出用領域に格納された値が最短所要時間算出用領域に格納された値より小さいと判定する。
演算部3は、所要時間算出用領域に格納された値が最短所要時間算出用領域に格納された値より小さいと判定した場合(ステップS105:Yes)、所要時間算出用領域に格納された値を最短所要時間算出用領域に格納する(ステップS106)。
【0033】
ステップS105で、所要時間算出用領域に格納された値が最短所要時間算出用領域に格納された値以上であると判定した場合(ステップS105:No)、またはステップS106で最短所要時間算出用領域に格納された値を書き換えた場合、所要時間算出用領域に格納された値が最長所要時間算出用領域に格納された値より大きいか否かを判定する(ステップS107)。なお、初回実行時は、最長所要時間算出用領域にはNULLが格納されている。この場合、演算部3は、所要時間算出用領域に格納された値が最長所要時間算出用領域に格納された値より大きいと判定する。
演算部3は、所要時間算出用領域に格納された値が最長所要時間算出用領域に格納された値より大きいと判定した場合(ステップS107:Yes)、所要時間算出用領域に格納された値を最長所要時間算出用領域に格納する(ステップS108)。
【0034】
ステップS107で、所要時間算出用領域に格納された値が最長所要時間算出用領域に格納された値未満であると判定した場合(ステップS107:No)、またはステップS108で最長所要時間算出用領域に格納された値を書き換えた場合、演算部3は、スタックが空であるか否かを判定する(ステップS109)。
演算部3は、スタックが空でないと判定した場合(ステップS109:No)、スタックから手順IDと所要時間算出用領域に格納されていた値を読み出し、所要時間算出用領域に格納されていた値を所要時間算出用領域に格納する(ステップS110)。そして、ステップS103に戻り、当該手順IDに関連付けられた手順内容が「終了」を示すか否かを判定する。
他方、演算部3は、スタックが空であると判定した場合(ステップS109:Yes)、最短所要時間及び最長所要時間の算出処理を終了する。このとき、最短所要時間算出用領域に格納された値が最短所要時間を示し、最長所要時間算出用領域に格納された値が最長所要時間を示す。
なお、ここで説明した最短所要時間及び最長所要時間の算出処理は、あくまで一例であり、算出方法はこれに限られない。例えば、演算部3は、ダイクストラ法などの手法を用いて最短所要時間および最長所要時間を算出しても良い。
【0035】
演算部3が、図3のステップS6で次に実行すべき手順以降の最短所要時間及び最長所要時間を算出すると、表示部4は、ステップS4で読み出し部2が読み出した各手順と、ステップS6で演算部3が算出した次に実行すべき手順以降の最短所要時間及び最長所要時間とを含むトラブル処理画面を表示する(ステップS7)。
【0036】
図6は、表示部が表示するトラブル処理画面の第1の画面例である。
図6に示すように、トラブル処理画面には、ステップS4で読み出し部2が読み出した手順が一覧で表示される。また、トラブル処理画面には、ステップS4で読み出し部2が読み出した手順がフローチャート形式で表示される。当該フローチャートには、ステップS6で演算部3が算出した次に実行すべき手順以降の最短所要時間及び最長所要時間が含まれる。
これにより、トラブル対処支援システムは、最短所要時間及び最長所要時間を表示することで、作業者に対して修理を継続するべきか中断するべきかを適切に決定することを支援することができる。
【0037】
図7は、表示部が表示するトラブル処理画面の第2の画面例である。
また、トラブル処理画面には、押下することで次に実行すべき手順の詳細な実行方法を表示させる詳細ボタンが表示される。作業者が詳細ボタンを押下すると、表示部4は、読み出し部2の内部メモリから、次に実行すべき手順に関連付けられた詳細データを読み出す。そして、表示部4は、図7に示すように、読み出した詳細データをトラブル処理画面に表示する。
これにより、トラブル対処支援システムは、処理毎に詳細な情報を提供することができるため、作業者による誤操作、誤認識を防ぐことができる。
【0038】
ステップS7で表示部4がトラブル処理画面を表示すると、演算部3は、計時部7が計時する時間と算出した最長所要時間とを加算することで、トラブル対処開始時からトラブル解消までに要する全体所要時間を算出する(ステップS8)。次に、比較部6は、演算部3が算出した全体所要時間が所定の制限時間を上回るか否かを判定する(ステップS9)。
比較部6が、全体所要時間が所定の制限時間を上回ると判定した場合(ステップS9:Yes)、表示部4は、表示しているトラブル処理画面に、全体所要時間が制限時間を上回ったことを示す警告を表示する(ステップS10)。
これにより、トラブル対処支援システムは、トラブルへの対処が制限時間内に完了しない惧れがあることを作業者に通知することができる。そのため、作業者は修理の中断を適切に決定することができる。
【0039】
次に、選択部5は、作業者によって次に実行すべき手順が選択されたか否かを判定する(ステップS11)。
具体的には、作業者が図6に示す次手順ボタンを押下することで、選択部5が次手順の選択を受け付けることとなる。
選択部5が、次に実行すべき手順が選択されていないと判定した場合(ステップS11:No)、ステップS8に戻り、再度全体所要時間を算出する。
【0040】
他方、選択部5が、次に実行すべき手順が選択されたと判定した場合(ステップS11:Yes)、標準時間更新部8は、計時部7が計時する経過時間を読み出し、内部メモリに記録する(ステップS12)。次に、標準時間更新部8は、前回ステップS12を実行したときに内部メモリに記録した経過時間と今回記録した経過時間との差を算出することで、今回実行した手順にかかった作業時間を算出する(ステップS13)。
次に、標準時間更新部8は、算出した作業時間に基づいて、対処方法記憶部1の手順テーブルに今回実行した手順に関連付けて格納された標準時間を更新する(ステップS14)。
標準時間の更新は、例えば手順テーブルの標準時間を、ステップS13で算出した作業時間で上書きすることで行っても良いし、過去の作業時間の平均を算出して上書きすることで行っても良い。
これにより、トラブル対処支援システムは、手順テーブルに格納された標準時間を適切な値に設定することができる。
【0041】
次に、トラブル対処支援システムは、ステップS11で次に実行すべき手順として選択された手順に関連付けられた処理内容が「終了」を示し、または、作業者などによる操作や割り込み処理などにより、外部から処理の終了要求を入力したか否かを判定する(ステップS15)。トラブル対処支援システムは、次に実行すべき手順の処理内容が「終了」でなく、かつ終了要求の入力がないと判定した場合(ステップS15:No)、ステップS5に戻り、選択された手順の読み出しを行う。他方、トラブル対処支援システムは、次に実行すべき手順の処理内容が「終了」を示し、または、外部から終了要求を入力したと判定した場合(ステップS15:Yes)、処理を終了する。
【0042】
次に、具体的なトラブルの例を用いて本実施形態によるトラブル対処支援システムの動作を説明する。
図8は、火力発電プラントの電気設備に搭載された電力変換器の簡略な構成を示す図である。
電力変換器は、筐体に、電力ケーブルの入力コネクタ並びに出力コネクタ、通信ケーブルの入力コネクタ並びに出力コネクタ、放熱用のファン、及び抵抗素子並びにリレー回路を備える。
また、図8に示す電力変換器は、温度警報器(図示せず)を内蔵する。そして、電力変換器の温度が所定の閾値を超えた場合、温度警報器は、温度異常アラームを発する。
【0043】
ここで、ある電気設備に搭載された電力変換器の温度警報器が温度異常アラームを発生したものとする。このとき、作業者は「60分以内」にトラブルの解消を図る必要があるものとする。
まず、作業者は、コンピュータに格納されたトラブル対処支援システムのプログラムを実行する。これにより、トラブル対処支援システムが起動する。次に、トラブル対処支援システムの読み出し部2は、対処方法記憶部1のトラブルテーブルを読み出し、トラブルテーブルに格納されたトラブル内容の一覧を表示部4に表示させる。
このとき、図2に示すように、トラブルID「1」に関連付けられたトラブル内容が「電力変換器で温度異常アラーム発生」を示すため、作業者は、表示部4が表示する一覧画面を参照し、表示されたトラブルID「1」を選択してOKボタンを押下する。
【0044】
作業者がOKボタンを押下すると、読み出し部2は、トラブルID「1」の選択を受け付ける。次に、読み出し部2は、トラブルID「1」に関連付けられた手順の情報を読み出す。そして、演算部3は、手順内容が「開始」を示す手順に関連付けられた手順ID「0」を読み出し、手順ID「0」に関連付けられた手順以降に実行する手順に要する最短所要時間と最長所要時間とを算出する。
ここでは、最短所要時間は、手順IDを順に「1、2、10」とたどった場合の標準時間の和である「1分」となり、最長所要時間は、手順IDを順に「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10」とたどった場合の標準時間の和である「60分」となる。
【0045】
図9は、電力変換器の温度警報器が温度異常アラームを発生した場合に、トラブル処理画面に表示されるフローチャートの一例である。
次に、表示部4は、トラブルID「1」に関連付けられた各手順と、演算部3が算出した最短所要時間及び最長所要時間とを含むトラブル処理画面を表示する。このとき、最長所要時間が「60分」であるため、トラブル処理画面の表示直後に全体所要時間が「60分」を超える。そのため、表示部4は、全体所要時間が制限時間を上回ったことを示す警告を表示することとなる。
【0046】
トラブル処理画面が表示されると、作業者は、実行すべき手順を確認するため、次手順ボタンを押下する。これにより、選択部5は、次に実行すべき手順として、手順ID「0」に関連付けられた次手順が示す手順ID「1」を選択する。
次に、演算部3は、手順ID「1」を読み出し、手順ID「1」に関連付けられた手順以降に実行する手順に要する最短所要時間と最長所要時間とを算出する。
ここでは、最短所要時間は、手順IDを順に「2、10」とたどった場合の標準時間の和である「0分」となり、最長所要時間は、手順IDを順に「2、3、4、5、6、7、8、9、10」とたどった場合の標準時間の和である「59分」となる。
手順ID「1」が選択されると、トラブル処理画面に表示された手順に従い、作業者は、電力変換器の電源を一度OFFにし、再度ONにする(手順ID「1」)。
これにより、作業者はノイズによる誤動作などに対するリセット措置が働くか否かを見極めることができる。
【0047】
作業者は、手順ID「1」の処理を完了すると、次手順ボタンを押下する。これにより、選択部5は、次に実行すべき手順として、手順ID「1」に関連付けられた次手順が示す手順ID「2」を選択する。
次に、演算部3は、手順ID「2」を読み出し、手順ID「2」に関連付けられた手順以降に実行する手順に要する最短所要時間と最長所要時間とを算出する。なお、手順ID「2」は判断フローであるため、当該判断による分岐の各々に対して最短所要時間と最長所要時間とを算出する。
【0048】
Yesを選択した場合、最短所要時間及び最長所要時間は、「0分」となる。
これに対し、Noを選択した場合、最短所要時間は、手順IDを順に「3、4、5、10」とたどった場合の標準時間の和である「6分」となる。また、最長所要時間は、手順IDを順に「3、4、5、6、7、8、9、10」とたどった場合の標準時間の和である「59分」となる。
手順ID「2」が選択されると、トラブル処理画面に表示された手順に従い、作業者は、アラームが解除されたか否かを判断する(手順ID「2」)。
【0049】
作業者は、手順ID「2」の処理を完了すると、アラームが解除されたか否かの判断に基づいて次手順ボタンを押下する。つまり、アラームが解除されたと判断した場合は「Yes」ボタンを、アラームが解除されていないと判断した場合は「No」ボタンを押下する。ここでは、作業者はアラームが解除されていないと判断し、「No」ボタンを押下する。これにより、選択部5は、次に実行すべき手順として、手順ID「2」に関連付けられた次手順のうち「No」に関連付けられた手順ID「3」を選択する。
次に、演算部3は、手順ID「3」を読み出し、手順ID「3」に関連付けられた手順以降に実行する手順に要する最短所要時間と最長所要時間とを算出する。
そして、作業者は、トラブル処理画面に表示された手順に従い、電力変換器の筐体に接続されているケーブル及びコネクタに異常があるか否かを判断する(手順ID「3」)。
【0050】
作業者は、手順ID「3」の処理を完了すると、ケーブル及びコネクタに異常がないと判断し、「異常なし」ボタンを押下する。これにより、選択部5は、次に実行すべき手順として、手順ID「3」に関連付けられた次手順のうち「異常なし」に関連付けられた手順ID「6」を選択する。
次に、演算部3は、手順ID「6」を読み出し、手順ID「6」に関連付けられた手順以降に実行する手順に要する最短所要時間と最長所要時間とを算出する。
そして、作業者は、トラブル処理画面に表示された手順に従い、電力変換器を目視で確認し、故障部品が特定できるか否かを判断する(手順ID「6」)。
【0051】
なお、手順ID「6」の手順において作業者は、故障部品の特定を行うべく、例えばファン状況の確認やリレー回路の確認など、種々のチェックを行う。但し、作業者のスキルレベルや故障部品の種類などにより、当該特定は容易に完了するとは限らない。そのため、手順ID「6」に関連付けられた標準時間は「3分」を示すが、作業者による実際の作業時間は3分を超えることがある。
このとき、トラブル対処支援システムがステップS10による警告を表示していない間は、作業者は現在実行中の手順を継続することができる。これは、現在実行中の手順以降の手順がそれぞれに関連付けられた標準時間内に完了することで、トラブルの解消を制限時間(60分)以内に完了することができるためである。
したがって、作業者は、処理中にトラブル対処支援システムがステップS10による警告を表示した場合に、故障部品特定不可能と判断し、電力変換器を交換する(手順ID「9」)。
【0052】
このように、本実施形態によれば、演算部3は、発生したトラブルの複数の対処手順に関連付けられた標準時間に基づいて、トラブルの対処の実行に必要な所要時間を算出する。これにより、トラブル対処支援システムは、トラブルの対処の実行に必要な所要時間を作業者に提示することができる。
また、本実施形態によれば、トラブル対処支援システムは、作業者によるトラブル対処にかかる時間が予め規定される制限時間を超えないための情報を作業者に提示することができる。これにより、トラブル対処支援システムは、作業者に対し、修理を継続するべきか中断するべきかを適切に決定することを支援することができる。
【0053】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、本実施形態では、対処方法記憶部1が記憶する手順テーブルに基づいて演算部3が最短所要時間及び最長所要時間を算出する場合を説明したが、これに限られず、例えば、予め手順テーブルに各手順の最短所要時間及び最長所要時間を格納しておくことで、演算部3が最短所要時間及び最長所要時間を算出しない構成であっても良い。
【0054】
図10は、トラブル対処の履歴の分析結果を示す図である。
また、トラブル対処の履歴を蓄積する履歴記憶部と、当該履歴記憶部が記憶する履歴情報を分析する履歴分析部とを更に備える構成としても良い。
例えば、履歴分析部は、履歴記憶部が記憶する履歴情報に基づいて、図9に示すような、場所ごとのトラブル発生傾向や、部品等の劣化予測、作業者の能力評価などの分析情報を生成する。これにより、トラブルの事前対処が可能になり、トラブル対処支援システムの有用性を更に高めることができる。また、作業員の能力を評価することで、作業員毎の能力のばらつきを抑えることができる。
【0055】
上述のトラブル対処支援システムは内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0056】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。
さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0057】
[第2の実施形態]
以下、図面を参照しながら本発明の他の一実施形態について詳しく説明する。
図11は、本発明の他の一実施形態による火力発電プラントの概略図である。図12は、火力発電プラントのトラブルの一例に対応した対応手順のフローチャートである。図13は、火力発電プラントのトラブル対処の履歴の分析結果を示す図である。
【0058】
図11に示すように、本発明に係る火力発電プラント100は、蒸気101を発生させる燃焼用のボイラ102と、前記蒸気101により駆動される蒸気タービン(高圧タービン:HPT、中圧タービン:IPT、低圧タービン:LPT)103A〜103Cと、この蒸気タービン103A〜103Cで仕事を終えた蒸気を回収するとともに、凝縮・復水するコンデンサ(復水器)104と、復水をボイラ側へ給水として戻す復水ポンプ105と、給水106を加熱する低圧給水ヒータ107と、加熱された給水106を脱気する脱気器108と、脱気された給水をさらに加熱する高圧給水ヒータ109とから構成されている。なお、図中、符号110は給水ポンプ、111は燃料、112は空気、113は給水供給通路に設けた脱気器レベル制御弁、114は給水バイパス通路に設けた脱気器レベル制御弁バイパス弁を各々図示する。
【0059】
本実施形態のトラブル対処支援システムの構成は、図1と同様であるので、その説明は省略する。
ここで、火力発電プラントは、電力を安定供給するために、プラント停止を極力回避する必要があるので、トラブルの発生内容に起因する複数の点検項目があり、この複数の点検項目に対応した複数のプラント安定化に向けた運転手順が準備されている。
よって、前述した実施形態のように、電源系統のトラブルのような独立した機器に対するトラブル対策において、さらにプラント安定化を常に考慮する必要がある。
【0060】
そこで、前述した実施形態におけるトラブル一覧表示に対応するトラブル選択受付において、発生したトラブルに関係する複数の点検項目が準備され、さらにこの点検項目に応じた対応運転手順が準備され、それぞれの選択において、対応にかかる時間の算出ができるようにしている。
【0061】
本実施形態においては、火力発電プラントのトラブル想定を「プラント増負荷中の脱気器」とし、これに対応する対応手順の一例を説明する。
このトラブルの想定原因は、脱気器レベル制御弁の固着である。
【0062】
図12は、その対応フローチャートの一例である。表1は、トラブルに対応する複数の点検項目の一例であり、表2は、この点検項目に起因する対応・運転手順の一例である。
ここで、図1に示す表示部4は、トラブル脱気器に関連付けられた各点検項目と、この点検項目に対応する運転手順と、演算部3が算出した最短所要時間及び最長所要時間とを含むトラブル処理画面を表示する。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
図12、表1及び表2に示すように、水、蒸気系統における脱気器において警報が発生したとする。
【0066】
発電プラントの「水、蒸気系統」における「脱気器」の様々なトラブルにおいて、複数の点検項目としては、例えば表1に示すように、点検項目(1)脱気器水位、点検項目(2)脱気器器内圧力、点検項目(3)復水流量、点検項目(4)給水流量・・・点検項目(10)給水ポンプの吸込圧力等が例示される。
【0067】
この点検項目(1)の項目「脱気器水位」に対応する運転手順としては、表2に示すように、手順A−1:脱気器水位の確認(中央操作室)、手順A−2:脱気器水位の確認(現場計器)、手順B−1:脱気器レベル制御弁開度の確認(中央操作室)、手順B−2:脱気器レベル制御弁開度の確認(現場計器)、手順C:脱気器レベル制御弁バイパス弁の操作、手順D:プラント増負荷停止、手順E:プラント減負荷開始等が準備されている。
各々の対応時間は表2に示すとおりである。
【0068】
ここで、図12に示すように、水、蒸気系統にトラブルが発生した場合、複数の点検項目から、プラント安定化に向けた複数の手順を選択するために、先ず、複数の点検項目から、「(1)脱気器水位」の項目を点検項目として、選択する(S201)。この選択の対応時間は5〜10秒である。
【0069】
次に、(1)脱気器水位の項目に対応する運転手順である脱気器水位の確認を行う(S202)。
このステップS202における判断は、手順A−1:脱気器水位の確認(中央操作室)と、手順A−2:脱気器水位の確認(現場計器)とである。
この対応時間は、中央操作室と現場計器とでは異なるが、対応時間は5〜20秒である。
【0070】
このステップS202の確認により、脱気器水位が正常か否か、が判断される(ステップS203)。
【0071】
ここで、S203のステップの確認により、異常と判定した場合(ステップS203:No)、対応運転手順Bに移る(ステップS204)。
【0072】
このステップS204における判断は、手順B−1:脱気器レベル制御弁開度の確認(中央操作室)と、手順B−2:脱気器レベル制御弁開度の確認(現場計器)とである。
この対応時間は、中央操作室と現場計器とでは異なるが、対応時間は5〜20秒である。
【0073】
このステップS204の確認により、脱気器レベル制御弁の開度が正常か否か、が判断される(ステップS205)。
【0074】
ここで、S205のステップの確認により、異常と判定した場合(ステップS205:No)、対応運転手順Cの操作に移る(ステップS206)。
【0075】
このステップS206における操作は、給水の通路をバイパス通路に変更する操作であり、脱気器レベル制御バイパス弁を開く操作である。
この操作の対応時間は現場で行うので、20秒である。
【0076】
このステップS206の操作により、脱気器水位が正常に戻ったか否か、が判断される(ステップS207)。
【0077】
ここで、S207のステップの確認により、異常と判定した場合(ステップS207:No)、対応運転手順Dの操作に移る(ステップS208)。
【0078】
このステップS208における操作は、プラント運転において、増負荷停止に変更する操作である。
この操作の対応時間は4〜5分である。
【0079】
このステップS208の操作により、プラントが安定したか否か、が判断される(ステップS209)。
【0080】
ここで、S209のステップの確認により、プラントが安定しないと判定した場合(ステップS209:No)、更に、対応運転手順Eの操作に移る(ステップS210)。
【0081】
このステップS210における操作は、プラント運転において、減負荷運転に変更する操作である。
この操作の対応時間は4〜5分である。
【0082】
この操作で、点検項目(1)に起因する対応運転手順は終了する。
【0083】
また、S203のステップの確認により、正常と判定した場合(ステップS203:Yes)、ステップS211において、他の点検項目(2)〜(10)の選定を行い、各々対応した運転手順を実施する。
【0084】
また、S205のステップの確認により、正常と判定した場合(ステップS205:Yes)、ステップS211において、他の点検項目(2)〜(10)の選定を行う。
【0085】
また、S207のステップの確認により、正常と判定した場合(ステップS207:Yes)、ステップS212において、脱気器レベル制御弁の修理・交換を行う。
この操作の対応時間は30分である。
この操作で、点検項目(1)に起因する対応運転手順は終了する。
【0086】
このように、本実施形態によれば、演算部3は、発生したトラブルの複数の対処手順に関連付けられた標準時間に基づいて、トラブルの対処の実行に必要な所要時間を算出する。これにより、トラブル対処支援システムは、トラブルの対処の実行に必要な所要時間を作業者に提示することができる。
このように、火力発電プラント等においては、石炭を燃料としてボイラ燃焼させ、そこで発生した蒸気を用いて電力を得ているので、緊急時以外には、火力発電プラントを簡単に停止しない運転が求められている。よって、本発明のような運転支援においても、できる限りプラントを停止せずに、トラブルを回避することが求められており、本発明により、プラントを安定させるような運転を行いつつ、所定時間の制限内に、トラブル対応が可能か否かの情報を提供することができる。
【0087】
また、補助機械のバックアップ体制、トラブル回避手段を講ずるバイパスライン等の補完設備の充実を図り、異常を回避するための措置(対応・運転手順)の提示、自動運転を手動運転にする介入操作、トリップしたとき、バックアップに切り替える対策等を講じるようにしている。
これにより、従来例えば運転訓練センター等での研修、その後の現場経験の積み重ねによるトラブル対策において、トラブルの所用時間、対策を的確に判断し、作業員の経験等に頼らない、安定運転を考慮した運転支援システムを提供することができる。
【0088】
また、点検項目(1)〜(10)の選定は過去のトラブルの情報を積み重ね、検討を行い、発電プラントの安定化に向けて常に最適な選定が可能となるように学習を重ねるようにしている。
なお、本実施形態での点検項目は、一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。また、火力発電プラントを一例としているが、火力発電プラント以外の発電プラントにおける発電システムのトラブル対処支援にも適用できる。
【0089】
図13は、火力発電プラントのシステムにおけるトラブル対処の履歴の分析結果を示す図である。
例えば給水ポンプであれば、5年周期でトラブルが発生していることから、トラブルの事前対処が可能になり、トラブル対処支援システムの有用性を更に高めることができる。また、設備(給水ポンプ、復水器、脱気器、高圧タービン(HPT)、中圧タービン(IPT)、低圧タービン(LPT)のアラームの過去の発生回数を確認することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 対処方法記憶部
2 読み出し部
3 演算部
4 表示部
5 選択部
6 比較部
7 計時部
8 標準時間更新部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電システム内で発生したトラブルへの対処を所定の制限時間内に行うことを支援する発電システムのトラブル対処支援システムであって、
発生したトラブルの内容を示すトラブル内容と、発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順及び当該手順の実行に標準的にかかる時間を示す標準時間を記憶する対処方法記憶部と、
作業者から、前記対処方法記憶部が記憶するトラブル内容のうち、発生したトラブルと同じ内容を示す前記トラブル内容の選択を受け付け、当該選択された発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順、及び各手順の標準時間を前記対処方法記憶部から読み出す読み出し部と、
前記読み出し部が読み出した標準時間に基づいて、前記トラブルの対処の実行に必要な所要時間を算出する演算部と、
を備えることを特徴とする発電システムのトラブル対処支援システム。
【請求項2】
前記読み出し部が読み出した発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順と前記演算部が算出した所要時間とを表示する表示部を備えることを特徴とする請求項1に記載の発電システムのトラブル対処支援システム。
【請求項3】
前記読み出し部が読み出した複数の手順のうち、次に作業者が実行する手順の選択を受け付ける選択部を備え、
前記演算部は、前記選択部により手順が選択される毎に所要時間を算出する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発電システムのトラブル対処支援システム。
【請求項4】
前記演算部は、前記選択部が一の手順の選択を受け付ける毎に、当該トラブルにおける前記一の手順以降の手順の所要時間を算出する
ことを特徴とする請求項3に記載の発電システムのトラブル対処支援システム。
【請求項5】
前記演算部は、前記読み出し部が読み出した発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順の組み合わせのうち、最も所要時間が短くなる組み合わせの実行に必要な所要時間と、最も所要時間が長くなる組み合わせの実行に必要な所要時間とを算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載の発電システムのトラブル対処支援システム。
【請求項6】
前記選択部が一の手順を選択した時刻から他の手順を選択する時刻までの時間を計時する計時部と、
前記計時部が計時した時間に基づいて、前記対処方法記憶部が前記一の手順に関連付けて記憶する標準時間を更新する更新部と
を備えることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の発電システムのトラブル対処支援システム。
【請求項7】
前記演算部が算出した所要時間を、所定の制限時間と比較する比較部を備え、
前記表示部は、前記比較部によって前記所要時間が前記制限時間を超えた場合に、前記制限時間の超過を示す情報を表示する
ことを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項に記載の発電システムのトラブル対処支援システム。
【請求項8】
発電システム内で発生したトラブルの内容を示すトラブル内容と、発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順及び当該手順の実行に標準的にかかる時間を示す標準時間を記憶する対処方法記憶部を備え、発生したトラブルへの対処を所定の制限時間内に行うことを支援するトラブル対処支援方法であって、
読み出し部は、作業者から、前記対処方法記憶部が記憶するトラブル内容のうち、発生したトラブルと同じ内容を示す前記トラブル内容の選択を受け付け、当該選択された発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順、及び各手順の標準時間を前記対処方法記憶部から読み出し、
演算部は、前記読み出し部が読み出した標準時間に基づいて、前記トラブルの対処の実行に必要な所要時間を算出する
ことを特徴とする発電システムのトラブル対処支援方法。
【請求項9】
発電システム内で発生したトラブルの内容を示すトラブル内容と、発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順及び当該手順の実行に標準的にかかる時間を示す標準時間を記憶する対処方法記憶部を備え、発生したトラブルへの対処を所定の制限時間内に行うことを支援するトラブル対処支援システムを、
作業者から、前記対処方法記憶部が記憶するトラブル内容のうち、発生したトラブルと同じ内容を示す前記トラブル内容の選択を受け付け、当該選択された発生したトラブルに関係する点検項目、各点検項目に対応したプラント安定化に向けた複数の運転手順、及び各手順の標準時間を前記対処方法記憶部から読み出す読み出し部、
前記読み出し部が読み出した標準時間に基づいて、前記トラブルの対処の実行に必要な所要時間を算出する演算部として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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