説明

発電プラントの防食管理方法

【課題】防食性に優れた皮膜を形成するとともに、当該皮膜を安定に保持する、発電プラントの防食管理方法を提供する。
【解決手段】発電プラントの防食管理方法であって、前記発電プラントの各機器の内壁面にMFeO(Mは3価または4価の金属)あるいはMFe(Mは2価の金属)なる組成の皮膜を形成するステップと、前記各機器の温度及び前記各機器に対する導入酸素量を制御することによって、前記皮膜を安定的に保持するステップと、を具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電プラントの防食管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腐食は機器の構造材である金属がイオンとなって環境中に溶け出す経年事象であり、機器寿命を決定する重要な要素である。また腐食が進行すると機器の破損により思わぬ損害を招くことがあり、安全の観点からも腐食対策は必要である。そのため、腐食対策は屋外環境、高温環境で使用される多くの機器、特に発電プラントにおいて行われている。腐食は材料表面で起こる現象のため、材料の表面状態に大きく依存する。
【0003】
高温で使用される機器の金属構造材の表面は、通常、Feなどの鉄酸化物で覆われている。Feは水への溶解度が低く、緻密に生成することで防食効果のある皮膜としての効果が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、Fe皮膜は使用環境に依存して溶解消失したり、結晶系が変化したりしてしまうため、本来の防食性を発揮することができない場合がある。このような問題に鑑み、特許文献2では、モルフォリン、アルカノールアミン及び脂肪族環状アミンの少なくとも一種をpH調整剤として用い、Fe皮膜の接触する水のpHを調整してFe皮膜の溶解を防止する方法が開示されている。しかしながら、このようなpH調整剤の使用は制御が難しく、防食管理が困難になるという問題があった。
【0005】
また、特許文献3〜5には、ボイラ中への溶存酸素量を制御することによって、ボイラ設備の腐食を防止する方法が開示されているが、Fe皮膜に対する防食管理についての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−178207号
【特許文献2】特開2007−131913号
【特許文献3】特開2002−5411号
【特許文献4】特開平11−236689号
【特許文献5】特開平6−304459号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、発電プラントにおいて、防食性に優れた皮膜を形成するとともに、当該皮膜を安定に保持する、発電プラントの防食管理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、発電プラントの防食管理方法であって、前記発電プラントの各機器の内壁面にM1FeO(M1は3価または4価の金属)あるいはM2Fe(M2は2価の金属)なる組成の皮膜を形成するステップと、前記各機器の温度及び前記各機器に対する導入酸素量を制御することによって、前記皮膜を安定的に保持するステップと、を具えることを特徴とする、発電プラントの防食管理方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発電プラントにおいて、防食性に優れた皮膜を形成するとともに、当該皮膜を安定に保持する、発電プラントの防食管理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態における加圧水型原子炉の系統図である。
【図2】Fe皮膜が安定に存在できる運転温度及び導入酸素量を示すグラフである。
【図3】FeTiO皮膜が安定に存在できる運転温度及び導入酸素量を示すグラフである。
【図4】第2の実施形態における沸騰水型原子炉の系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、実施形態を詳細に説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態における加圧水型原子炉(以下、「PWR」と略す)の系統図である。図1に示すように、本実施形態のPWR10は、蒸気発生器(ボイラー)11に対して順次に高圧タービン12、湿分分離再熱器13、低圧タービン14及び復水器15が接続されている。また、復水器15には、低圧給水加熱器16及び高圧給水加熱器17が接続され、高圧給水加熱器17は蒸気発生器11に接続されている。また、低圧給水加熱器13及び高圧給水加熱器17間には、脱気器18が設けられている。
【0013】
PWR10は、例えば以下のようにして動作させることができる。すなわち、蒸気発生器11で発生した水蒸気によって高圧タービン12を駆動させる。次いで、高圧タービン12を駆動させた後の水蒸気は冷却され、一部が液化されて水に戻されるので、湿分分離再熱器13によって前記水蒸気を再加熱し、液化した水分を蒸気化させた後、低圧タービン14に導入し、これを駆動させる。低圧タービン14を駆動させた後、前記水蒸気は復水器15で冷却され、水に戻される。その後、低圧給水加熱器16及び高圧給水加熱器17を経て加熱され、さらに蒸気発生器11内に導入されて加熱され再度水蒸気となる。発成した水蒸気は、再度高圧タービン12及び低圧タービン14に導入されて、これらタービンを駆動する。
【0014】
次に、図1に示すPWR10の防食管理方法について説明する。
図2は、PWR10の代表的な運転温度である25℃〜225℃の温度範囲において、Fe皮膜が安定に存在できる酸素濃度の範囲を示したグラフである。また、図3は、PWR10の代表的な運転温度である25℃〜225℃の温度範囲において、FeTiO皮膜が安定に存在できる酸素濃度の範囲を示したグラフである。すなわち、図2及び図3に示すように、Fe皮膜及びFeTiO皮膜は、運転温度及び導入酸素量に依存するものの、曲線及び直線で囲まれた領域内では溶解腐食されることなく安定的に存在することができるものである。
【0015】
Fe皮膜及びFeTiO皮膜は従来から公知であるように、水への溶解度が低く、緻密に生成することで防食効果のある皮膜として知られている。
【0016】
なお、図2及び図3に示すグラフ、すなわち、Fe皮膜及びFeTiO皮膜が安定に存在できる運転温度及び導入酸素量に依存した領域は、本発明者らの膨大な研究と鋭意検討によって得られたものである。
【0017】
これによって、図1に示すPWR10、すなわち発電プラントに使用するFe皮膜及びFeTiO皮膜は、その運転温度及び導入酸素量を制御することによって安定的に保持できることが分かる。換言すれば、pH調整剤などの制御の困難な薬剤を用いることなく、運転温度及び導入酸素量を制御するという極めて簡易な手法によって、発電プラントに使用するFe皮膜及びFeTiO皮膜を安定的に保持できることが分かる。したがって、PWR10の防食性を高い信頼性の下に保持することができるようになる。
【0018】
本実施形態において、PWR10に防食を施すに際しては、PWR10を構成する各機器、すなわち、蒸気発生器11から高圧給水加熱器17及び脱気器18までの内壁面に防食皮膜としてのFe皮膜あるいはFeTiO皮膜を形成する。
【0019】
Fe皮膜の形成は、例えば、室温、大気開放環境下で水質をpH9.3以上、あるいは、酸素注入を行うことによって形成することができる。また、図2に示すように、運転温度、すなわち水あるいは水蒸気の温度、及びこのときの導入酸素量を調節し、Fe皮膜が安定に存在できるような領域とすることによって、自ずから形成することができる。
【0020】
FeTiO皮膜の形成は、このFeTiO皮膜を直接塗布する、あるいはPWR10を構成する各機器がFeを含むような場合は、TiO皮膜などを塗布して行う。後者の場合は、各機器を構成する構造材中の鉄イオンや鉄酸化物がTiO皮膜などと反応し、上記FeTiO皮膜に転換されることになる。
【0021】
次いで、図2及び図3を参照して、Fe皮膜あるいはFeTiO皮膜を安定的に保持できるように、PWR10の運転温度、すなわち各機器の運転温度及び導入酸素量を制御する。図1に示すPWR10の場合、復水器15の運転温度は25℃〜50℃と最も低く、蒸気発生器11及び高圧給水加熱器17は、200℃〜225℃と最も高い。
【0022】
したがって、復水器15の内壁面にFe皮膜を形成した場合、図2を参照して、復水器15の酸素導入量は、約1.0×10−5ppm〜1.0×10ppmとなるように制御する。一方、蒸気発生器11の内壁面にFe皮膜を形成した場合、蒸気発生器11への酸素導入量は約1.0×10−1ppm〜1.0×10ppmとなるように制御する。
【0023】
一方、復水器15の内壁面にFeTiO皮膜を形成した場合、図3を参照して、復水器15の酸素導入量は、約1.0×10−8ppm〜0.5×10−4ppmとなるように制御する。一方、蒸気発生器11の内壁面にFeTiO皮膜を形成した場合、蒸気発生器11への酸素導入量は約1.0×10−6ppm〜1.0ppmとなるように制御する。
【0024】
上述した内容から明らかなように、蒸気発生器11などのように、運転温度が高いほど導入酸素量を多くする必要がある。したがって、PWR10の系内に存在する酸素量が少ないような場合は、例えば図中矢印19aで示すような位置において酸素供給を行い、上記範囲の酸素導入量となるようにする。
【0025】
一方、復水器15などのように、運転温度が低いほど導入酸素量を少なくする必要がある。したがって、PWR10の系内に存在する酸素量が多いような場合は、例えば図中矢印19bで示すような位置において還元剤供給を行い、系内に存在する酸素量を低減して上記範囲の酸素導入量となるようにする。
【0026】
なお、図2及び図3から明らかなように、Fe皮膜の方がFeTiO皮膜に比較して、各温度に対する導入酸素量の許容範囲が広くなっている。したがって、例えば、PWR10に対して、酸素導入量を1.0ppmとし、PWR10の総ての機器においてFe皮膜を形成すれば、各機器の運転温度においてFe皮膜は安定に保持されることになる。したがって、PWR10の防食性を高い信頼性の下に保持することができるようになる。
【0027】
但し、FeTiO皮膜の場合も、酸素導入量を例えば5×10−3ppmとすれば、運転温度100℃〜150℃の比較的広範囲でFeTiO皮膜が安定に保持される。したがって、FeTiO皮膜は、運転温度100℃〜150℃の機器が複数あるような場合においては、これら複数の機器において、酸素導入量を5×10−3ppmの一点に設定することにより、安定に保持することができる。
【0028】
図1に示すPWR10においては、高圧タービン12や湿分分離再熱器13、低圧給水加熱器16が上記温度範囲、すなわち100℃〜150℃の温度で運転される。
【0029】
なお、PWR10は、総ての機器の内壁面に一律にFe皮膜あるいはFeTiO皮膜を形成する必要はなく、機器の一部に対してはFe皮膜を使用し、残りの機器に対してはFeTiO皮膜を使用するようにできる。
【0030】
また、本実施形態では、PWR10の機器の内壁面に形成すべき皮膜として、Fe皮膜あるいはFeTiO皮膜について述べてきたが、本実施形態では、これらに限らず、一般式M1FeO(M1は3価または4価の金属)あるいはM2Fe(M2は2価の金属)なる組成の皮膜に対して適用することができる。この場合の金属M1としては、3価の場合は、Y、Laを挙げることができ、4価の場合は、Ti,Zr,Hfを挙げることができる。金属M2としては、Ni、Co、Mn等を挙げることができる。
【0031】
(第2の実施形態)
図4は、本実施形態における沸騰水型原子炉(以下、「BWR」と略す)の系統図である。図1に示すように、本実施形態のBWR20は、原子炉21に対して順次に高圧タービン22、湿分分離再熱器23、低圧タービン24及び復水器25が接続されている。また、復水器25には、低圧給水加熱器26及び高圧給水加熱器27が接続され、高圧給水加熱器27は原子炉21に接続されている。また、原子炉21には、炉水浄化系28が設けられている。
【0032】
BWR20は、例えば以下のようにして動作させることができる。すなわち、原子炉21で発生した水蒸気によって高圧タービン22を駆動させる。次いで、高圧タービン22を駆動させた後の水蒸気は冷却され、一部が液化されて水に戻されるので、湿分分離再熱器23によって前記水蒸気を再加熱し、液化した水分を蒸気化した後、低圧タービン24に導入し、これを駆動させる。低圧タービン24を駆動させた後、前記水蒸気は復水器25で冷却され、水に戻される。その後、低圧給水加熱器26及び高圧給水加熱器27を経て加熱され、さらに原子炉21内に導入されて再度水蒸気となる。発生した水蒸気は、再度高圧タービン22及び低圧タービン24に導入されて、これらタービンを駆動する。
【0033】
次に、図4に示すBWR20の防食管理方法について説明するが、この防食管理方法は、図1に示すPWR10と、構成機器の態様が多少異なるのみで、基本的な管理方法は同様である。
【0034】
すなわち、図4に示すBWR20の代表的な運転温度もPWR10とほぼ同様に25℃〜225℃の温度範囲とすることができる。したがって、図2を参照することにより、各運転温度においてFe皮膜が安定に存在できる酸素濃度の範囲が分かり、図3を参照することにより、各運転温度においてFeTiO皮膜が安定に存在できる酸素濃度の範囲が分かる。
【0035】
したがって、図4に示すBWR20の各機器の内壁面に形成した皮膜がFe皮膜であるかFeTiO皮膜であるかによって、図2及び図3を参照し、各機器の運転温度に対してFe皮膜及びFeTiO皮膜が安定に保持される導入酸素量を同定し、各機器内の酸素量をこのようにして同定した酸素量とすることにより、各機器の内壁面に形成したFe皮膜及びFeTiO皮膜を安定に保持することができる。
【0036】
換言すれば、pH調整剤などの制御の困難な薬剤を用いることなく、運転温度及び導入酸素量を制御するという極めて簡易な手法によって、発電プラントに使用するFe皮膜及びFeTiO皮膜を安定的に保持できることが分かる。この結果、BWR20の防食性を高い信頼性の下に保持することができるようになる。
【0037】
例えば、復水器25の運転温度は25℃〜50℃と最も低く、原子炉21及び高圧給水加熱器27は、200℃〜225℃と最も高い。
【0038】
したがって、復水器25の内壁面にFe皮膜を形成した場合、図2を参照して、復水器25の酸素導入量は、約1.0×10−5ppm〜1.0×10ppmとなるように制御する。一方、原子炉21の内壁面にFe皮膜を形成した場合、原子炉21への酸素導入量は約1.0×10−1ppm〜1.0×10ppmとなるように制御する。
【0039】
一方、復水器25の内壁面にFeTiO皮膜を形成した場合、図3を参照して、復水器25の酸素導入量は、約1.0×10−8ppm〜0.5×10−4ppmとなるように制御する。一方、原子炉21の内壁面にFeTiO皮膜を形成した場合、原子炉21への酸素導入量は約1.0×10−6ppm〜1.0ppmとなるように制御する。
【0040】
なお、原子炉21などのように、運転温度が高いほど導入酸素量を多くする必要がある。したがって、BWR20の系内に存在する酸素量が少ないような場合は、例えば図中矢印29aで示すような位置において酸素供給を行い、上記範囲の酸素導入量となるようにする。
【0041】
一方、復水器25などのように、運転温度が低いほど導入酸素量を少なくする必要がある。したがって、BWR20の系内に存在する酸素量が多いような場合は、例えば図中矢印29bで示すような位置において還元剤供給を行い、系内に存在する酸素量を低減して上記範囲の酸素導入量となるようにする。
【0042】
なお、その他の特徴及び利点については、図1に関する第1の実施形態におけるPWR10と同様であるので説明を省略する。
【0043】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
10 加圧水型原子炉
11 蒸気発生器
12 高圧タービン
13 湿分分離再熱器
14 低圧タービン
15 復水器
16 低圧給水加熱器
17 高圧給水加熱器
18 脱気器
20 沸騰水型原子炉
21 原子炉
22 高圧タービン
23 湿分分離再熱器
24 低圧タービン
25 復水器
26 低圧給水加熱器
27 高圧給水加熱器
28 炉水浄化系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電プラントの防食管理方法であって、前記発電プラントの各機器の内壁面にMFeO(Mは3価または4価の金属)あるいはMFe(Mは2価の金属)なる組成の皮膜を形成するステップと、前記各機器の温度及び前記各機器に対する導入酸素量を制御することによって、前記皮膜を安定的に保持するステップと、を具えることを特徴とする、発電プラントの防食管理方法。
【請求項2】
M1FeO(M1は3価または4価の金属)あるいはM2Fe(M2は2価の金属)なる組成の前記皮膜の形成は、前記各機器の前記内壁面にM1FeO(M1は3価または4価の金属)あるいはM2Fe(M2は2価の金属)なる組成の前記皮膜を塗布することによって行うことを特徴とする、請求項1に記載の発電プラントの防食管理方法。
【請求項3】
前記皮膜はFeなる組成を有することを特徴とする、請求項1に記載の発電プラントの防食管理方法。
【請求項4】
前記皮膜を構成する金属M1は、Y,La,Ti,Zr,及びHfから選択されて成ることを特徴とする、請求項1又は2に記載の発電プラントの防食管理方法。
【請求項5】
前記皮膜を構成する金属M2は、Ni,Co及びMnから選択されて成ることを特徴とする、請求項1又は2に記載の発電プラントの防食管理方法。
【請求項6】
前記皮膜はFeTiOあるいはFeTiOなる組成を有することを特徴とする、請求項1に記載の発電プラントの防食管理方法。
【請求項7】
前記発電プラントは、加圧水型原子炉または沸騰水型原子炉であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の発電プラントの防食管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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