説明

白湯スープの製造法

本発明の目的は、乳化安定性の高い白湯スープの製造法および白湯スープの乳化安定化方法を提供することにある。畜肉エキスから油相と分離して得られる水相に油脂を添加、混合し、乳化させる工程を含む白湯スープの製造法において、該水相中に含まれる30重量%以上のタンパク質の等電点を該白湯スープのpHより1.5以上低くすることにより、乳化安定性の向上した白湯スープを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、白湯スープの製造法および白湯スープの乳化安定化方法に関する。
【背景技術】
白湯スープとは乳化状態にある畜肉エキスの総称であり、例えば、豚骨ラーメンのスープ等があげられる。
飲食品店で製造する場合等、小規模で白湯スープを製造する場合は、通常、動物の骨を長時間、常圧釜等を用いて常圧条件下で加熱処理することによりゼラチンおよび油脂を主成分とする畜肉エキスを抽出し、自然に乳化させている。しかし、骨などの廃棄物が少ないこと、簡便に利用できること等の理由により、工業的に大量生産された白湯スープの需要が高まっている。
工業的に製造する場合も、小規模で製造する場合と同様に、常圧条件下で加熱処理する方法を用いることができるが、この方法は製造に時間がかかる等の問題がある。また、常圧条件下で製造した白湯スープは油脂の含有量が製造ロット毎に異なることが多く、均質な製品を調製するために煩雑な工程が必要になる等の問題がある。
これに対して、加圧釜等を用いて加圧条件下で抽出した場合、加熱処理時間が短縮できるという利点の他に、油相と水相が分離した状態で原料から抽出されるため、油脂の含有量の調整が容易となり、均質な製品を製造しやすくなるという利点がある。
したがって、工業的に白湯スープを製造する場合、加圧条件下で畜肉エキスを抽出し、得られた畜肉エキス中の油相と水相とを分離し、該水相に、油脂を適量添加し、乳化する方法が行われることが多い。この方法では、上記で述べた、白湯スープ中の油脂の量を調整しやすいという利点の他に、水相を濃縮することにより、濃縮された白湯スープを効率よく製造することができるという利点がある。濃縮された白湯スープは、貯蔵スペースを節約できること、流通コストが低減できること等の理由から需要が高い。
しかし、上記のいずれの方法で製造した場合であっても、調製した白湯スープをそのまま加熱滅菌処理した場合、経時的に乳化安定性が低下するという問題がある。
このため、白湯スープの乳化安定性の向上を目的として、デンプン、ゼラチン、増粘多糖類、乳化剤等の添加が一般に行われているが、これらの添加により、食感や味の悪化、操作性の低下がおこることがある。
異なる等電点を有する2種類のゼラチンを、乳化剤としてスープ中に含有させる方法(特開平5−3772号公報)も知られているが、該方法では、あらかじめ2種類のゼラチンを用意する必要がある。
これらのことから、簡便に乳化安定性の高い白湯スープを製造する方法の開発が望まれている。
【発明の開示】
本発明の目的は、乳化安定性の高い白湯スープの製造法および白湯スープの乳化安定化方法を提供することにある。
本発明は、以下の(1)〜(3)に関する。
(1) 畜肉エキスから油相と分離して得られる水相に油脂を添加、混合し、乳化させる工程を含む白湯スープの製造法において、該水相中に含まれる30重量%以上のタンパク質の等電点を該白湯スープのpHより1.5以上低くすることを特徴とする製造法。
(2) 畜肉エキスから油相と分離して得られる水相を濃縮する工程を含む請求項1記載の製造法。
(3) 白湯スープの水相に含まれる30重量%以上のタンパク質の等電点を、白湯スープのpHより1.5以上低くすることを特徴とする白湯スープの乳化安定性を向上させる方法。
本発明に用いられる畜肉エキスは、動物の肉または骨を含む原料に、抽出媒体を加えて加熱処理した後、固液分離することにより抽出液として得ることができる。
動物は、いずれの動物であってもよいが、ブタ、トリまたはウシが好適に用いられる。動物の肉または骨は、いずれの部位のものでもよく、これらを単独または2種類以上併用してもよい。
原料からの抽出は、水性媒体、有機溶媒等の抽出媒体を用いて行われるが、水性媒体が好ましく用いられる。
水性媒体としては、水または無機塩水溶液があげられる。無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等があげられる。
有機溶媒としては、飲食品への利用という点から、エタノールが好ましく用いられる。エタノールは含水エタノールであってもよく、含水率が10%(v/v)〜90%(v/v)のものが好ましく用いられる。
抽出媒体のpHは、いずれのpHであってもよいが、pH6〜10が好ましく、pH7〜9がさらに好ましい。
抽出は、原料からタンパク質、ペプチド、その他の呈味成分等を加熱条件下で抽出できるものであればいずれの装置を用いてもよい。例えば、加圧釜等の加熱装置があげられる。
抽出は、上記の原料に抽出媒体を加え、60〜150℃、好ましくは100〜120℃で、30分間〜1週間、好ましくは30分間〜24時間、加熱処理することで行う。この際、発生する蒸気を大気中に放出しながら加熱処理すると、等電点が白湯スープのpHより1.5以上低い、好ましくは1.5〜4.0低いタンパク質の含有率を水相中の全タンパク質の30重量%以上、好ましくは40重量%以上とすることが容易になるので好ましい。
加熱処理は、常圧条件下(0.1MPa)および加圧条件下での処理を組み合わせて行ってもよい。例えば、加圧条件下での加熱処理を行った後に、常圧での加熱処理を行う方法があげられる。
加圧処理条件での圧は特に限定されないが、0.11〜0.20MPa(メガパスカル)が好ましく、0.11〜0.15MPaがさらに好ましく、0.11〜0.13MPaが特に好ましい。
抽出操作後、ケークろ過、清澄ろ過、遠心ろ過、フィルタープレス、沈降分離、遠心沈降、圧搾分離等の固液分離方法により、抽出液を取得し、これを畜肉エキスとして用いることができる。
得られた畜肉エキスを静置または遠心分離法により上層と下層とに分離し、それぞれを油相および水相として取得する。
水相は、そのまま白湯スープの製造に用いてもよいが、さらに、加熱濃縮、凍結濃縮、逆浸透膜濃縮、減圧濃縮等の方法により濃縮して用いるのが好ましい。
また、濃縮は、操作性も考慮すると、該水相中の固形分量が10〜50%となるように行なうことが好ましく、20〜40%となるように行なうことがより好ましく、20〜30%となるように行なうことがさらに好ましい。水相のゼラチン含有率が多い場合は、水相の温度を、ゼラチンがゲル化しない温度以上に保持するのが好ましく、例えば、40℃〜80℃に保持することが好ましい。
得られた水相をそのまま、または必要に応じて水等で希釈し、ロトファー(バイオラッド社製)等の等電点電気泳動装置に供し、水相中のタンパク質を等電点に応じて分画する。
分画した各画分のタンパク質の量を測定し、タンパク質の量を等電点の低いものから積算することで、水相中に存在するタンパク質であって、かつある等電点より低い等電点を有するタンパク質の量(Aとする)を求める。
全画分のタンパク質の量を積算して水相中に存在する全タンパク質の量(Bとする)を求め、Bに対するAの百分率を算出することにより、水相中に存在するタンパク質であって、かつある等電点より低い等電点を有するタンパク質の、水相中の全タンパクにおける含有率(%)を求めることができる。
上記AおよびBを求める方法としては、等電点に応じて分画された各画分を、それぞれローリー法等のタンパク質の定量法に供して各画分のタンパク質の量を測定し、各画分のタンパク質の量を等電点の低いものから積算してもよいが、等電点電気泳動後、そのまま、または各画分を分取し、分取した画分をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供し、該SDS−PAGE後のゲル上のバンドまたはスポットの濃さ、面積等から各バンドまたはスポットを構成するタンパク質の量を算出し、このタンパク質の量を等電点の低いものから積算するのが好ましい。
このようにして、白湯スープのpHより1.5以上低い、好ましくは1.5〜4.0低い等電点を有するタンパク質の水相中の全タンパク質における含有率(%)を知ることができる。
これらの、等電点電気泳動、SDS−PAGE等の電気泳動およびタンパク質の定量は、たとえば、新生化学実験講座1、タンパク質I、日本生化学会編(1990)等に記載の公知の方法により行うことができる。各方法における条件は適宜設定することができる。
上記方法により、等電点が白湯スープのpHより1.5以上低い、好ましくは1.5〜4.0低いタンパク質を全タンパク質の30重量%以上、好ましくは40重量%以上含有する水相を調製することができるが、調製した水相において、等電点が白湯スープのpHより1.5以上低いタンパク質の含有率が、全タンパク質の30重量%に満たない場合は、該水相をさらに60〜150℃、好ましくは100〜120℃で、30分間〜1週間、好ましくは30分間〜24時間加熱処理して、該条件を満たすように調製してもよいし、等電点が白湯スープのpHより1.5以上低いタンパク質を、該水相に添加して、該条件を満たすように調製してもよい。
タンパク質を添加する後者の方法では、添加するタンパク質は、等電点が白湯スープのpHより1.5以上低いタンパク質であればいずれのタンパク質であってもよく、例えばカゼイン等があげられる。
また、上記方法により、別途、等電点が白湯スープのpHより1.5以上低いタンパク質の含有率が全タンパク質の30重量%以上、好ましくは40重量%以上である畜肉エキスを調製し、該畜肉エキスまたは該畜肉エキスより得られる水相を添加することもできる。この場合、該畜肉エキスの水相中のタンパク質の等電点を上記の方法で測定し、添加量を設定してから添加することが望ましい。
上記以外に、上記条件を満たすように調整する方法としては、水相のpHを調整する方法があげられる。例えば、水相のpHを、水酸化ナトリウム等の飲食品に使用可能なアルカリを用いて、全タンパク質の30重量%以上、好ましくは40重量%以上のタンパク質の等電点が、白湯スープのpHより1.5以上、好ましくは1.5〜4.0低くなるように調整する。
なお、上記方法において、水相のpHと白湯スープのpHは、通常、ほぼ同一であるので、水相のpHを白湯スープのpHの目安として調製すると簡便である。
上記で得られた水相に、油脂を添加、混合し、攪拌式ホモミクサー、高圧ホモゲナイザー、回転式のコロイドミル、超音波発生装置、ボテーター等の装置、好ましくは攪拌式ホモミクサーまたは高圧ホモゲザイザーを用いて、水相および油脂の混合物を乳化する。得られた乳化物を本発明の白湯スープとして用いることができる。
油脂としては、骨油(ボーンオイル)、豚脂、鶏油、牛脂、乳脂等の動物油脂、なたね油、大豆油、パーム油、コーン油、米ぬか油、パーム核油、サフラワー油、ごま油、綿実油等の植物油脂等をあげることができ、骨油が好ましく用いられる。
また、畜肉エキスから水相と分離して得られる油相も油脂として用いることができる。
水相に油脂を添加して乳化する場合、油脂の添加量は特に限定されないが、白湯スープ中0.5〜60%(v/v)、好ましくは10〜40%(v/v)となるように添加することが好ましい。
乳化条件は、水相および油脂の混合物を乳化することができればいずれの条件でもよく、用いる装置等により異なるが、例えば、水相および油脂の混合物を、40℃〜100℃、好ましくは50℃〜80℃に保ちながら、例えば攪拌式ホモミクサーの場合、1,000〜10,000rpmで10分間〜8時間、高圧ホモゲナイザーの場合、10〜40Mpaの圧力で10分間〜8時間乳化処理を行う。
本発明の白湯スープは、必要に応じて無機塩、酸、アミノ酸、核酸、糖類、調味料、香辛料等の飲食品に使用可能な各種添加物を含有していてもよい。
無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム等があげられる。酸としては、アスコルビン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、酢酸、脂肪酸等のカルボン酸およびそれらの塩等があげられる。該塩としては、ナトリウム塩およびカリウム塩があげられる。アミノ酸としては、グルタミン酸ナトリウム、グリシン等があげられる。核酸としては、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等があげられる。糖類としては、ショ糖、ブドウ糖、乳糖、果糖等があげられる。調味料としては醤油、味噌、野菜、魚介等のエキス等の天然調味料、香辛料としては各種の香辛料があげられる。これらの使用量は、使用目的に応じて適宜設定することができるが、例えば水相および油脂の混合物100重量部に対して0.1〜100重量部用いられる。
本発明の白湯スープのpHは特に限定されるものではないが、6.0〜9.0であることが好ましく、6.0〜8.0であることがさらに好ましい。
得られた白湯スープは、そのまま容器に充填してもよいが、レトルト滅菌処理等の加熱滅菌処理を行い、容器に充填することが好ましい。
上記のように、畜肉エキスを水相と油相とに分離し、該水相に油脂を添加、混合し、乳化して得られる白湯スープにおいて、該水相中の全タンパク質の30重量%以上、好ましくは40重量%以上のタンパク質の等電点を、該白湯スープのpHより1.5以上低く、好ましくは1.5〜4.0低くすることにより、白湯スープの乳化安定性を向上させることができる。
また、市販の白湯スープ等、既存の白湯スープの保存安定性を向上させることもできる。この場合、白湯スープの水相は、例えば白湯スープを遠心分離等により油相と分離して得られる。水相中のタンパク質の等電点は上記方法により調べることができる。等電点が白湯スープのpHより1.5以上低いタンパク質の含有率が、水相中の全タンパク質の30重量%未満である場合は、上記方法により、等電点が白湯スープのpHより1.5以上低い、好ましくは1.5〜4.0低いタンパク質の含有率が水相中の全タンパク質の30重量%以上、好ましくは40重量%以上となるように白湯スープを調製して、白湯スープの乳化安定性を向上させることができる。該方法は、水相の加熱、水相のpHの調整、等電点が白湯スープのpHより1.5以上低いタンパク質の添加等、上記方法のいずれの方法であってもよい。
白湯スープの乳化安定性を調べる方法としては、白湯スープをレトルト滅菌処理条件で加熱処理し、放置して乳化状態を観察する方法、加熱滅菌処理前と加熱滅菌処理後の濁度を分光光度計等を用いて測定し、比較して調べる方法(最新乳化技術ハンドブック、工業技術会、1986年、183〜199頁、食品用乳化剤第2版、幸書房、1991年、91〜92頁)等があげられる。
以下に、本発明の実施例を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
(1)40kgの豚骨および80kgの水道水を加圧抽出釜(小松川化工機社製、以下同じ)に入れ、120℃で120分間、加熱および加圧処理(0.12〜0.13MPa、以下同じ)した。加熱および加圧処理後、蓋を開けて、内容物の液量が80kgとなるように加水して調節しながら95℃で一晩保持した。
加圧抽出釜の内容物を取り出し、静置して上層と下層とに分離した後、下層を抜き取り回収した。下層を油取り紙でろ過して骨などの固体を除去し、固形分を5.5%含有する抽出液を得た。該抽出液をエバポレーターで濃縮し、固形分を30%含有し、pH6.3である抽出液を約14.5kg調製し、これを水相1とした。
水相1を水で100倍希釈し、得られた希釈液50mlを、12Wの条件下で等電点分析装置であるロトファー(BIORAD社製)に2時間供し、タンパク質の等電点の違いにより、20画分に分画した。
各画分をそれぞれ、12.5%アクリルアミドゲル(レディーゲルJ、BIORAD社製)を用いてSDS−PAGE(ミニプロティアン3レディーゲルセル、BIORAD社製)に、20mAで約1時間供した。電気泳動後、アクリルアミドゲルを、450mlの水、450mlのメタノール、100mlの酢酸および2.5gのクーマシーブリリアントブルーからなる溶液で約15分間染色し、20%(v/v)2−プロパノールおよび10%(v/v)酢酸からなる溶液で約5時間脱色処理した。脱色処理後、ゲルをスキャナー(マスタースキャン エスエス機器社製)で読み込み、バンドの濃さおよびバンドの面積を測定し、各画分中のタンパク質量の相対値を求め、これを各等電点におけるタンパク質量の相対値とした。横軸を等電点、縦軸を各等電点におけるタンパク質量の相対値とするグラフを作成し、各プロットをなめらかな曲線で結び、等電点を指標としたタンパク質の分布図を作成した。
1kgの水相1と0.43kgのポークボーンオイル(ゼンミ食品社製、以下同じ)とをTKホモミクサー(特殊機化工業社製、以下同じ)に供し、10,000r.p.mで10分間乳化処理し、pH6.3の白湯スープを得た。該白湯スープを白湯スープ1とした。
上記で作成した分布図において、該曲線とグラフの横軸により形成される領域の面積を測定し、これを全タンパク質量とした。また、該領域において、横軸の値が白湯スープ1のpH6.3より1.5以上低い値である4.8以下の部分の面積を測定し、これを水相1において、白湯スープ1のpH6.3より1.5以上低い等電点を有するタンパク質量とした。
これにより、水相1において、白湯スープ1のpH6.3より1.5以上低い等電点を有するタンパク質の水相1における全タンパク質中の含有率を算出したところ、40重量%であった。
白湯スープ1を500ml容のレトルト袋に入れ、121℃で30分間レトルト滅菌処理した。
(2)下記(4)で調製、した水相4のpHを水酸化ナトリウムでpH7.5に調整して、水相2を調製した。1kgの水相2および0.43kgのポークボーンオイルをTKホモミクサーに供し、10,000r.p.mで10分間乳化処理してpH7.5の白湯スープを調製した。該白湯スープを白湯スープ2とした。
上記(1)の方法に準じて水相2に含まれるタンパク質の等電点および含有率の分布を調べたところ、白湯スープ2のpH7.5より1.5以上低い値である、6.0以下の等電点を有するタンパク質は、水相2中の全タンパク質中40重量%であった。
白湯スープ2を500ml容のレトルト袋に入れ、121℃で30分間レトルト滅菌処理した。
(3)7.7kgの豚骨および水酸化ナトリウムでpH9.0に調整した20kgの水道水を加圧抽出釜に入れ、120℃で60分間、加熱および加圧処理した。加熱および加圧処理後、加熱抽出釜の蓋を開けた状態で、8時間沸騰させた。加圧抽出釜の内容物を取り出し、静置して、上層と下層とに分離した後、下層を抜き取り回収した。下層を油取り紙でろ過して骨などの固体を除去し、固形分を6.2%含有する抽出液を得た。該抽出液をエバポレーターで濃縮して固形分を30%含有する、pH6.8の抽出液を約16kg調製し、これを水相3とした。
上記(1)の方法に準じて水相3に含まれるタンパク質の等電点および含有率の分布を調べたところ、水相3のpH6.8より1.5以上低い値である、5.3以下の等電点を有するタンパク質の含有率は、水相3中の全タンパク質の40重量%であった。
下記(4)で調製した500gの水相4と1000gの水相3とを混合して水相3と水相4との混合物を調製し、これを水相5とした。
1kgの水相5と0.43kgのポークボーンオイルとをTKホモミクサーに供し、10,000r.p.m、10分間の条件下で予備乳化し、次に高圧ホモゲナイザーで圧力39.2MPaの条件下で処理し、白湯スープ3を調製した。
上記(1)に記載した方法により、水相5に含まれるタンパク質の等電点および含有率の分布を調べたところ、白湯スープ3のpH6.8.より1.5以上低い値である、5.3以下の等電点を有するタンパク質の含有率は、水相5中の全タンパク質中30重量%であった。
白湯スープ3を500ml容のレトルト袋に入れ121℃で30分間レトルト滅菌処理した。
(4)40kgの豚骨および80kgの水道水を加圧抽出釜に入れ、120℃で120分間、加熱および加圧処理した。加熱および加圧処理後、加圧抽出釜を自然冷却し、蓋をしたまま、一晩放置した。
加圧抽出釜の内容物を取り出し、静置して、上層と下層とに分離した後、下層を抜き取り回収した。下層を油取り紙でろ過して骨などの固体を除去し、固形分を6.0%含有する抽出液を得た。該抽出液をエバポレーターで濃縮し、固形分を30%含有する、pH6.8の抽出液を約16kg調製し、これを水相4とした。
上記(1)の方法に準じて水相4に含まれるタンパク質の等電点および含有率の分布を調べたところ、水相4のpH6.8より1.5以上低い値である、5.3以下の等電点を有するタンパク質の含有率は、水相4中の全タンパク質中10重量%であった。
1kgの水相4と0.43kgのポークボーンオイルとを混合し、TKホモゲナイザーに供し、10,000r.p.mで10分間乳化処理し、pH6.8の白湯スープを得た。該白湯スープを白湯スープ4とした。
白湯スープ4を500ml容のレトルト袋に入れ、121℃で30分間レトルト滅菌処理した。
(5)上記(1)〜(4)で調製したレトルト滅菌処理前およびレトルト滅菌処理後の白湯スープ1〜4を水で1000倍に希釈し、分光光度計で660nmでの吸光度を測定した。レトルト滅菌処理前のものの吸光度(OD660)の値をAとし、レトルト滅菌処理後のもののOD660をBとした。
以下の式により求めた値を、白湯スープの乳化安定性を示す値(以下、乳化安定率という)とした。
乳化安定率(%)=B/A×100
(6)レトルト滅菌処理後の白湯スープをレトルト袋に入れたまま1ヶ月間放置した。1ヶ月後、袋を開封し、各白湯スープの乳化状態を調べた。
各白湯スープについて、pH、各白湯スープの水相中、等電点が該白湯スープのpHより1.5以上低いタンパク質の含有率、乳化安定率および1ヶ月後の乳化状態を第1表に示す。

第1表に示されるとおり、等電点が、白湯スープのpHより1.5以上低いタンパク質を水相中の全タンパク質の30重量%以上含有する白湯スープ1〜3は良好な乳化安定性を示した。
【産業上の利用可能性】
本発明により、乳化安定性の高い白湯スープの製造法および白湯スープの乳化安定化方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜肉エキスから油相と分離して得られる水相に油脂を添加、混合し、乳化させる工程を含む白湯スープの製造法において、該水相中に含まれる30重量%以上のタンパク質の等電点を該白湯スープのpHより1.5以上低くすることを特徴とする製造法。
【請求項2】
畜肉エキスから油相と分離して得られる水相を濃縮する工程を含む請求項1記載の製造法。
【請求項3】
白湯スープの水相に含まれる30重量%以上のタンパク質の等電点を、白湯スープのpHより1.5以上低くすることを特徴とする白湯スープの乳化安定性を向上させる方法。

【国際公開番号】WO2005/063052
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516720(P2005−516720)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019729
【国際出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(505144588)協和発酵フーズ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】