説明

白色有機電界発光素子

【課題】演色性の低下を抑えつつ、日本人女性の肌色の好ましさ指数PSを向上させることができる白色有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】発光層14は、青色領域と緑色領域と赤色領域それぞれに少なくとも1つ以上の発光ピークを有し、青色領域における青領域発光層14aの発光ピークが445nm〜455nm間となるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色有機電界発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から蛍光灯や電球等と比較して消費電力や小型化(薄型化)などの面で有利性があることから、例えば特許文献1に示すような白色有機電界発光素子の実用化が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−63349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような白色有機電界発光素子では、青色発光のピーク波長を短波長側に設定することで例えば色の再現性を表す平均演色評価数Raを高くして演色性の向上を図ることができる。その一方で、青色発光のピーク波長を長波長側に設定することで例えば日本人女性の肌色の好ましさ指数であるPSを高くすることができる。
【0005】
しかしながら、従来の白色有機電界発光素子では、日本人女性の肌色の好ましさ指数PSを向上させるために、青色発光のピーク波長を長波長側にすると、演色評価指数Raが低下してしまうこととなる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、演色性の低下を抑えつつ、日本人女性の肌色の好ましさ指数PSを向上させることができる白色有機電界発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の白色有機電界発光素子は、正孔輸送層と、正孔及び電子の注入を持続することができる複数層の発光層と、電子輸送層とを、陽極及び陰極間に設けて形成される白色有機電界発光素子であって、前記発光層は、青色領域と緑色領域と赤色領域それぞれに少なくとも1つ以上の発光ピークを有し、青色領域における発光ピークが445nm〜455nm間となるように構成されること特徴とする。
【0008】
また上記構成において、発光層は、前記赤色領域における発光ピークが600nm以上となるように構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、演色性の低下を抑えつつ、日本人女性の肌色の好ましさ指数PSを向上させることができる白色有機電界発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態における白色有機電界発光素子の層構造について説明するための概略断面図である。
【図2】白色有機電界発光素子を構成する発光材料の一例を説明するためのスペクトルの特性図である。
【図3】各条件A,Bと比較例1,2とでの効果の違いについて説明するための説明図である。
【図4】条件Aの白色有機電界発光素子におけるスペクトルの特性図である。
【図5】条件Bの白色有機電界発光素子におけるスペクトルの特性図である。
【図6】比較例1の白色有機電界発光素子におけるスペクトルの特性図である。
【図7】比較例2の白色有機電界発光素子におけるスペクトルの特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように本実施形態の白色有機電界発光素子10は、透明ガラス板などで形成される基板11上に透明導電膜などからなる陽極12が積層される。この陽極12上には正孔輸送層13を介して発光層14が積層されるとともに、この発光層14上に電子輸送層15を介して陰極16が積層されている。
【0012】
陽極12は、素子中に正孔を注入するための電極であり、例えばその一例として金などの金属、CuI、ITO、SnO2、ZnO、IZO等の導電性透明材料で構成される。
正孔輸送層13は、正孔輸送材料として正孔を輸送する能力を有し、陽極12からの正孔注入効果を有するとともに、後述する発光層14に対して優れた正孔注入効果を有し、また電子の正孔輸送層13への移動を防止し、薄膜形成能力の優れた化合物である。具体的にはフタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)や4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等の芳香族ジアミン化合物、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、及びポリビニルカルバゾール、ポリシラン、ポリエチレンジオキサイドチオフェン(PEDOT)等の導電性高分子等の高分子材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
発光層14は、複数の蛍光材料を一種類ずつ含有する複数層でなり、図1に示すように青色領域である445nm〜455nm間にピーク波長を有する青領域発光層14aと赤色領域である600nm以上の領域にピーク波長を有する赤領域発光層14bを備える。また、発光層14は、緑領域発光層(図示略)を備え、この緑領域発光層に加えて前記青領域発光層14a及び赤領域発光層14bとで白色に発光するように構成されている。
【0014】
青領域発光層14aは、例えば分光分布を示す図2において「LA」で示すTBP(トリブチルホスフェート)や同図において「LB」で示すsty−NPDで構成される。但し、青色領域である445nm〜455nm間にピーク波長を有する蛍光体材料であれば適宜変更してもよい。
【0015】
赤領域発光層14bは、例えば分光分布を示す図2において「LE」で示す赤色のりん光錯体であるPQIr(acac)で構成される。但し、赤色領域である600nm以上の波長域にピーク波長を有する蛍光体材料であれば適宜変更してもよい。
【0016】
緑領域発光層は、例えば分光分布を示す図2において「LC」で示す緑色のイリジウム錯体であるIr(ppy)や同図において「LD」で示すC545T(10-1,3-benzothiazol-2-yl)-1,1,7,7-tetramethyl-2,3,6,7-tetrahydro-1H,5H,11H-pyrano[2,3-f]pyrido[3,2,1-ij]quinolin-11-one)で構成される。
【0017】
電子輸送層15を構成する電子輸送材料としては、電子を輸送する能力を有し、陰極16からの電子注入効果を有するとともに、発光層14または発光材料に対して優れた電子注入効果を有し、さらに正孔の電子輸送層15への移動を防止し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物を挙げることができる。具体的には、フルオレン、バソフェナントロリン、バソクプロイン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、アントラキノジメタン等やそれらの化合物、金属錯体化合物もしくは含窒素五員環誘導体である。具体的には、金属錯体化合物としては、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリ(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)ガリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリナート)(o−クレゾラート)ガリウム、ビス(2−メチル−8−キノリナート)(1−ナフトラート)アルミニウム等があるが、これらに限定されるものではない。また含窒素五員環誘導体としては、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾールもしくはトリアゾール誘導体が好ましい。具体的には、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−チアゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2−(4’−tert−ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル)1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルチアジアゾリル)]ベンゼン、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−トリアゾール、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等があるが、これらに限定されるものではない。さらに、ポリマー有機エレクトロルミネッセンス素子に使用されるポリマー材料も使用することができる。例えば、ポリパラフェニレン及びその誘導体、フルオレン及びその誘導体等である。
【0018】
前記陰極16は、発光層14中に電子を注入するための電極であり、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物からなる電極材料を用いることが好ましい。具体的には、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、マグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金、Al/Al2O3混合物、Al/LiF混合物などを挙げられる。
【0019】
次に、本実施形態の白色有機電界発光素子10の各条件の差異による各効果の違いについて図3〜図7を主に用いて説明する。なお、本実施形態では、次の(A)、(B)、(比較例1)及び(比較例2)を条件としている。
【0020】
条件(A):青色の発光ピーク波長が略445nmの相対スペクトル強度を1とした場合に、波長475nmにおける相対スペクトル強度が略0.65とする。また、赤色の発光ピーク波長が略610nmに設定され、更に発光される光の色温度が約6400Kとする。なお、このように構成された白色有機電界発光素子10のスペクトルの特性を図4に示す。
【0021】
条件(B):青色の発光ピーク波長が略455nmの相対スペクトル強度を1とした場合に、波長485nmにおける相対スペクトル強度が略0.8とする。また、赤色の発光ピーク波長が略600nmに設定され、更に発光される光の色温度が約6400Kとする。なお、このように構成された白色有機電界発光素子10のスペクトルの特性を図5に示す。
【0022】
(比較例1):青色の発光ピーク波長が略440nmの相対スペクトル強度を1とした場合に、波長470nmにおける相対スペクトル強度が略0.7とする。また、赤色の発光ピーク波長が略595nmに設定され、更に発光される光の色温度が約6400Kとする。なお、このように構成された白色有機電界発光素子10のスペクトルの特性を図6に示す。
【0023】
(比較例2):青色の発光ピーク波長が略460nmの相対スペクトル強度を1とした場合に、波長490nmにおける相対スペクトル強度が略0.68とする。また、赤色の発光ピーク波長が略595nmに設定され、更に発光される光の色温度が約6400Kとする。なお、このように構成された白色有機電界発光素子10のスペクトルの特性を図6に示す。
【0024】
[条件Aと各比較例1及び2の比較]
ここで、例えば本実施形態の各発光層14a,14bを前記条件(A)に則した構成とすることで、例えば特開平11−258047号公報で開示される日本人女性の肌色の好ましさ指数PSを90とすることができる。これは、比較例1のPS=66及び比較例2のPS=84と比較して十分に高い値を得ることができている。また、条件(A)に則した構成の各発光層14a,14bでは平均演色評価数Raを90とすることができ、比較例2のRa=73と比較して十分な演色性を得ることができる。また、JIS Z 9110「照明基準総則」で住宅やオフィスの執務空間として推奨する「80」以上とすることができる。
【0025】
[条件Bと各比較例1及び2の比較]
また、例えば本実施形態の各発光層14a,14bを前記条件(B)に則した構成とすることで、日本人女性の肌色の好ましさ指数PSを96とすることができ、比較例1のPS=66及び比較例2のPS=84と比較して高い値を得ることができる。また、条件(B)に則した構成の各発光層14a,14bでは平均演色評価数Raを80以上の82とすることができ、(比較例2)のRa=73と比較して十分な演色性を得ることができる。また、JIS Z 9110「照明基準総則」で住宅やオフィスの執務空間として推奨する「80」以上とすることができる。
【0026】
次に、本実施形態の作用を説明する。
上記構成の白色有機電界発光素子10は、陽極12に正電圧を、陰極16に負電圧を印加すると、各輸送層13,15を介して発光層14に注入された正孔と電子とが、発光層14内、又は発光層14と正孔輸送層13の界面等にて再結合して発光が起こる。ここで、発光層14は複数層を積層した積層型に形成してあり、各発光層14からの発光色を混色することによって白色に発光される。
【0027】
また、上記比較結果を踏まえ、青領域発光層14aのピーク波長が445nm〜455nmとなる構成とすることで、平均演色評価数Raを80以上で日本人女性の肌色の好ましさ指数であるPSを90以上とすることができる。また、赤領域発光層14bのピーク波長が600nm以上となる構成とすることで、発光層14からの光を長波長側とすることができ、日本人女性の肌色の好ましさ指数であるPSの向上に寄与することができる。
【0028】
次に、本実施形態の特徴的な作用効果を記載する。
(1)発光層14は、青色領域と緑色領域と赤色領域それぞれに少なくとも1つ以上の発光ピークを有し、青色領域における青領域発光層14aの発光ピークが445nm〜455nm間となるように構成される。これにより、平均演色評価数Raを80以上で日本人女性の肌色の好ましさ指数であるPSを90以上とすることができ、演色性の低下を抑えつつ、肌の見えの好ましさを表すPS値の向上できる。
【0029】
(2)赤領域発光層14bのピーク波長が600nm以上となる構成とすることで、発光層14からの光を長波長側とすることができ、日本人女性の肌色の好ましさ指数であるPSの向上に寄与することができる。
【0030】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、発光層14を青領域発光層14a、赤領域発光層14b、緑領域発光層の3層で構成したが、青、赤、緑にピーク波長(発光ピーク)を有する構成であれば何層であってもよい。
【0031】
・上記実施形態では、特に言及していないが、本白色有機電界発光素子10は、ベースライト、ダウンライト、スポットライト、ブラケットライト、ペンダントライト及びシーリングライトなどの各種照明器具として利用してもよい。
【符号の説明】
【0032】
10…白色有機電界発光素子、12…陽極、13…正孔輸送層、14…発光層、15…電子輸送層、16…陰極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正孔輸送層と、正孔及び電子の注入を持続することができる複数層の発光層と、電子輸送層とを、陽極及び陰極間に設けて形成される白色有機電界発光素子であって、
前記発光層は、青色領域と緑色領域と赤色領域それぞれに少なくとも1つ以上の発光ピークを有し、青色領域における発光ピークが445nm〜455nm間となるように構成されたことを特徴とする白色有機電界発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の白色有機電界発光素子において、
前記発光層は、前記赤色領域における発光ピークが600nm以上となるように構成されたことを特徴とする白色有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−227042(P2012−227042A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94843(P2011−94843)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】