説明

白金族元素の回収方法

【課題】廃電子部品等を湿式処理して生じたRhやRuを含む溶液から、RhやRuを吸着剤へ吸着させて溶液から効率的に分離し、回収することで、これらRhやRuの再資源化を図ることが可能な、白金族元素の回収方法を提供する。
【解決手段】本発明の白金族元素の回収方法は、先ず、Rh又はRuのいずれか一方又はその双方からなる白金族元素を含む溶液に塩酸水溶液を添加して上記溶液の塩酸濃度を0.1mol/l以下に調整し、次いで、濃度調整した溶液に粒状のアルキルアミン基修飾不溶性タンニンゲルからなる吸着剤を添加混合する。次に、溶液の温度を30℃以上に保温して上記溶液に含まれる白金族元素を吸着剤に吸着する。次に、白金族元素を吸着した吸着剤を溶液から分離し、更に、白金族元素を吸着した吸着剤を焼却処理して白金族元素を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器半導体産業などで使用済みとなった基板上の部品類から、有価金属をリサイクルする目的で湿式処理した際に発生するRhやRuからなる白金族元素を、アミン基修飾不溶性タンニンゲルを用いて回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピューターや携帯電話などは、モデルチェンジの期間が短いため短サイクルで廃棄されている。それらに使用されている半導体基板などには貴金属類が含まれており、この希少な有価金属類を回収する方法がいくつか考案されている。
【0003】
先ず、半導体基板などから有価金属を回収するには、廃棄部品であるボード類を一旦適当な大きさに粉砕、裁断し、次いで高温焼却処理して金属以外は熱分解する。そして、熱分解後に酸化物として残った金属は酸などに溶解し、この溶液から吸着剤を用いて金属を吸着分離する。
【0004】
このように廃電子部品等を湿式処理して生じた溶液から様々な金属元素を吸着分離するための吸着剤としてタンニンゲルを用いた方法が知られている(例えば、特許文献1〜3参照。)。このうち、特許文献1では、含金属溶液から柿渋−アルデヒド−水、柿渋−酸−水からなる含水ゲル組成物を用いて金、銀、パラジウム等の貴金属元素、ガリウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、ジルコニウムの金属元素を吸着分離回収することが開示されている。また、特許文献2では、銀を含む硝酸性溶液から末端H型不溶性タンニン、懸濁蒸発型不溶性タンニン又はNH3型不溶性タンニンを用いて銀を吸着分離回収することが開示されている。また、特許文献3では、金属元素を含有する溶液から縮合型タンニンを用いて生成したゲル状組成物からなる金属元素吸着剤を用いてウラン、トリウム、超ウラン元素等のアクチニド元素、カドミウム、鉛、クロム、水銀、鉄等の重金属元素、コバルト、セシウム、ストロンチウム等の金属元素を吸着分離回収することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−15128号公報(特許請求の範囲請求項1〜8、第1ページ右下欄第12行〜第18行目)
【特許文献2】特許第4204235号公報(請求項1,2、段落[0001])
【特許文献3】特許第3033796号公報(請求項1〜15、段落[0001])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1〜3に示されたタンニンゲルでは、白金族元素の中でもRhやRuについての吸着分離は難しく、これら元素への適用検討は殆どされていなかった。特に、上記特許文献2,3で製造、使用されている不溶性タンニンゲル(末端H型、懸濁蒸発型、NH3型)ではRhやRuへの吸着能は認められなかった。また、NH3型不溶性タンニンゲルは、非常に脆く、ゲルの構造が不安定でどの部位に窒素元素が導入されているかが不明であり、吸着剤として使用し難いものであった。
【0007】
本発明の目的は、廃電子部品等を湿式処理して生じたRhやRuを含む溶液から、RhやRuを吸着剤へ吸着させて溶液から効率的に分離し、回収することで、これらRhやRuの再資源化を図ることが可能な、白金族元素の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、図1に示すように、Rh又はRuのいずれか一方又はその双方からなる白金族元素を含む溶液に塩酸水溶液を添加して上記溶液の塩酸濃度を0.1mol/l以下に調整する工程11と、濃度調整した溶液に粒状のアルキルアミン基修飾不溶性タンニンゲルからなる吸着剤を添加混合する工程12と、溶液の温度を30℃以上に保温して溶液に含まれる白金族元素を吸着剤に吸着する工程13と、白金族元素を吸着した吸着剤を溶液から分離する工程14と、白金族元素を吸着した吸着剤を焼却処理して白金族元素を回収する工程16とを含む白金族元素の回収方法である。
【0009】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更にアルキルアミン基がメチルアミン又はエチルアミンであることを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の観点は、図2に示すように、Rh又はRuのいずれか一方又はその双方からなる白金族元素を含む溶液に塩酸水溶液を添加して上記溶液の塩酸濃度を0.1mol/l以下に調整する工程21と、濃度調整した溶液の温度を30℃以上に保温する工程22と、粒状のアルキルアミン基修飾不溶性タンニンゲルからなる吸着剤を充填したカラムを30℃以上に保温してカラムに30℃以上に保温した溶液を通して溶液に含まれる白金族元素を吸着剤に吸着する工程23と、白金族元素を吸着した吸着剤を焼却処理して白金族元素を回収する工程24とを含む白金族元素の回収方法である。
【0011】
本発明の第4の観点は、第3の観点に基づく発明であって、更にアルキルアミン基がメチルアミン又はエチルアミンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の観点では、廃電子部品等を湿式処理して生じたRhやRuを含む溶液を適切な塩酸濃度に調整し、吸着剤としてRhやRuへの吸着能を有するアルキルアミン基修飾不溶性タンニンゲル、具体的にはメチルアミン基修飾不溶性タンニンゲル(Methyl Amine-modified Tannin Gel;以下、MATGという。)やエチルアミン基修飾不溶性タンニンゲル(Ethyl Amine-modified Tannin Gel;以下、EATGという。)を使用し、かつ溶液の温度を適切な温度に保温することで、上記RhやRuを効率的に吸着剤へ吸着させて溶液から分離し、上記RhやRuを吸着させた吸着剤を焼却処理することで、上記RhやRuを容易に回収することができ、RhやRuの再資源化を図ることができる。
【0013】
本発明の第3の観点では、廃電子部品等を湿式処理して生じたRhやRuを含む溶液を適切な塩酸濃度に調整し、溶液の温度を適切な温度に保温し、吸着剤としてRhやRuへの吸着能を有するアルキルアミン基修飾不溶性タンニンゲル、具体的にはMATGやEATGを使用し、MATGやEATGを充填したカラムを適切な温度に保温してカラムに溶液を通じることで、上記RhやRuを効率的にカラム内の吸着剤へ吸着させて溶液から分離し、上記RhやRuを吸着させた吸着剤を焼却処理することで、上記RhやRuを容易に回収することができ、RhやRuの再資源化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態における白金族元素の回収方法を示す工程図である。
【図2】第2の実施形態における白金族元素の回収方法を示す工程図である。
【図3】MATGによるRh(III)の吸着挙動に対する塩酸濃度の影響を示す図である。
【図4】EATGによるRh(III)の吸着挙動に対する塩酸濃度の影響を示す図である。
【図5】ATGによるRh(III)の吸着挙動に対する塩酸濃度の影響を示す図である。
【図6】TGによるRh(III)の吸着挙動に対する塩酸濃度の影響を示す図である。
【図7】MATGによるRh(III)の吸着挙動に対する塩化物イオン濃度の影響を示す図である。
【図8】EATGによるRh(III)の吸着挙動に対する塩化物イオン濃度の影響を示す図である。
【図9】ATGによるRh(III)の吸着挙動に対する塩化物イオン濃度の影響を示す図である。
【図10】MATGによるRh(III)の吸着挙動に対する水素イオン濃度の影響を示す図である。
【図11】EATGによるRh(III)の吸着挙動に対する水素イオン濃度の影響を示す図である。
【図12】ATGによるRh(III)の吸着挙動に対する水素イオン濃度の影響を示す図である。
【図13】図10〜図12のRh(III)−塩化物錯体の存在割合と水素イオン濃度との関係を示す図である。
【図14】MATG,EATG,ATGによるRh(III)の吸着挙動に対する保温温度25℃(298K)の影響を示す図である。
【図15】MATG,EATG,ATGによるRh(III)の吸着挙動に対する保温温度40℃(313K)の影響を示す図である。
【図16】MATG,EATG,ATGによるRh(III)の吸着挙動に対する保温温度60℃(333K)の影響を示す図である。
【図17】MATGによるRu(III,IV)の吸着挙動に対する塩酸濃度の影響を示す図である。
【図18】EATGによるRu(III,IV)の吸着挙動に対する塩酸濃度の影響を示す図である。
【図19】ATGによるRu(III,IV)の吸着挙動に対する塩酸濃度の影響を示す図である。
【図20】TGによるRu(III,IV)の吸着挙動に対する塩酸濃度の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
<第1の実施の形態>
<MATG,EATG及びそれらの製造方法>
本発明の回収方法に用いる吸着剤は、アルキルアミン基修飾不溶性タンニンゲルであり、タンニンゲルの特定部位(B環状の化合物側)にアルキルアミン基が修飾された構造をとる。このうち、以下の化学式(1)に示すMATG又は以下の化学式(2)に示すEATGが好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
【化2】

上記MATG及びEATGの製造方法を説明する。
【0019】
先ず、以下の化学式(3)に示すように、水溶性の縮合型ワットルタンニン分子を塩基性下においてホルムアルデヒドで架橋することにより、不溶性のタンニンゲル(Tannin Gel;TG)を作製する。
【0020】
【化3】

具体的には、ワットルタンニン分子を水酸化ナトリウム水溶液中に加えて、室温で撹拌することによりワットルタンニンの溶解液を調製する。この溶解液に架橋剤としてホルムアルデヒドを添加し、室温で撹拌した後、70〜80℃の高温で静置することによってゲル化を行う。そして、ゲル化して得られた塊状のタンニンゲルを破砕し、破砕物を篩い分けした後に、蒸留水と硝酸で洗浄し、凍結乾燥する。このような手順によって粒状のタンニンゲルが得られる。なお、篩い分けして得られるタンニンゲルの粒径は、後述するMATG及びEATGの取扱い易さや吸着効率を考慮すると、125〜250μmの範囲に制御することが好ましい。
【0021】
縮合型ワットルタンニンは、自然界に豊富に存在し、また、多数のポリフェニル基を有することから、金属イオンに対して高い親和性を示す。なお、式(3)に示されるワットルタンニン分子は推定化学構造であり、ワットルタンニン分子は、Phloroglucinolic、resorcinolic又はpyrogallolicの形態をとるA環状と、catecholic又はpyrogallolicの形態をとるB環状で構成されている。A環状がPhloroglucinolicの形態をとる場合はR1がOH及びR2がHを、resorcinolicの形態をとる場合はR1,R2がともにHを、pyrogallolicの形態をとる場合はR1がH及びR2がOHをとり、B環状がcatecholicの形態をとる場合はR3がHを、pyrogallolicの形態をとる場合はR3がOHをとる。A環状は強い求核性を有することからホルムアルデヒドと反応し易く、容易にゲル化する。一方、B環状はオルソ水酸基を有していることから、多くの一般金属、重金属、白金族、貴金属、ランタノイド、アクチノイド等と複合体を形成する。このように、タンニン分子をゲル化することにより、水に可溶なタンニン分子を不溶化することができ、また、柔軟性のある3次元ネットワークが形成される。タンニン分子を不溶化したタンニンゲルは、安価である上、C,H,Oのみから構成される低環境負荷型の吸着剤となる。しかしながら、RhやRuへの吸着能は認められない。
【0022】
そこで、以下の化学式(4)に示すように、得られた粒状のタンニンゲルにメチルアミン溶液を用いてメチルアミン基を導入することにより、RhやRuへの吸着能を示す、粒状のMATGを作製する。
【0023】
【化4】

具体的には、上記得られた粒状のタンニンゲルをメチルアミン水溶液(塩基性)に加えた後、硝酸にてpH12に調整し、25〜60℃(導入速度からは60℃が望ましい。)に保たれた恒温槽中で振とうすることにより、タンニンゲルの特定部位(B環状の化合物側)にメチルアミン基を導入する。続いて、濾別したゲルを蒸留水で洗浄し、pH試験紙にて洗浄液が中性になるのを確認した後、凍結乾燥する。このような手順によって粒状のMATGが得られる。
【0024】
また、上記MATGの製造方法のメチルアミン溶液に代えて、エチルアミン溶液を用いることで、以下の化学式(5)に示すように、RhやRuへの吸着能を示す、粒状のEATGが得られる。
【0025】
【化5】

なお、タンニンゲルへのアルキルアミン基の導入は、ワットルタンニン分子、タンニンゲル、MATG及びEATGに対して、炭素元素(C)、水素元素(H)、酸素元素(O)、窒素元素(N)の有機微量元素分析を行い、ワットルタンニン分子、タンニンゲル、MATG及びEATGにそれぞれ含まれる窒素を定量することによって確認できる。
【0026】
上記方法により製造したMATG,EATGは、機械的強度も大きく、アルキルアミン基の導入部位及びアルキルアミン基の導入量と操作条件との関連性も明瞭であり、白金族元素の中でも分離が難しいとされる、Rh、Ruの吸着分離特性を有し、これら元素の吸着剤として利用し易い形態をとる。
【0027】
<MATG,EATGを吸着剤として用いた白金族元素の回収方法>
本発明の処理対象となる溶液は、モデルサイクルが速いパーソナルコンピューターや携帯電話などの電子機器関係で使用済みとなった廃電子部品等を粉砕、酸化処理して得られる金属酸化物を湿式処理して生じたRh又はRuのいずれか一方又はその双方の白金族元素を含む溶液である。溶液に含まれる白金族元素の濃度は合計で3〜100ppmの範囲内が取扱いの観点から好ましい。
【0028】
先ず、図1に示すように、この白金族元素を含む溶液に塩酸水溶液を添加して上記溶液の塩酸濃度を0.1mol/l以下に調整する(工程11)。ここで塩酸濃度を上記範囲に調整するのは、強塩酸条件下では、MATG,EATGからなる吸着剤による白金族元素の吸着量が減少するためである。例えば、Rh(III)を含む塩酸性溶液では、Rh(III)の溶液中の存在形態が塩酸濃度の上昇とともにRhCl52-からRhCl63-へと変化し、塩化物イオンの配位数が多くなるため、MATG,EATGとの錯体形成反応が起こり難くなり、結果として吸着量の減少に繋がる。また、Ru(III)、Ru(IV)を含む塩酸性溶液では、Ru(III)、Ru(IV)の溶液中の存在形態が塩酸濃度の上昇とともにRu(III)はRuCl3からRuCl4-へ、Ru(IV)はRu(OH)2Cl2からRu(OH)2Cl4-と変化し、塩化物イオンの配位数が多くなるため、MATG,EATGとの錯体形成反応が起こり難くなり、結果としてRhの場合と同様、吸着量の減少に繋がる。
【0029】
次いで、塩酸濃度調整した溶液に粒状のMATG,EATGからなる吸着剤を添加混合する(工程12)。そして、吸着剤を添加混合した溶液の温度を30℃以上に保温して上記溶液に含まれる白金族元素を上記吸着剤に吸着する(工程13)。
【0030】
この第1の実施の形態に係る方法はバッチ式であって、塩酸濃度調整した溶液を容器に入れ、MATG,EATGからなる吸着剤を溶液に添加した後、溶液の温度を30℃以上に保温した状態で撹拌するか、又は振り混ぜる。
【0031】
このバッチ式の場合、塩酸濃度調整した溶液に対する上記MATG,EATGからなる吸着剤の添加量は、溶液中に含まれる白金族元素の濃度に依存するが、好ましくは溶液10〜100mlに対して乾燥重量で1gである。
【0032】
粒状のMATG,EATGからなる吸着剤を塩酸濃度調整した溶液に添加した後、30℃以上の保温した状態で好ましくは2時間以上十分に撹拌するか、或いは振り混ぜる。
【0033】
溶液を上記温度以上に保温し、かつ吸着剤に粒状のMATG,EATGを用いることで、従来より知られている吸着剤を用いた場合に比べて、RhやRuの白金族元素を極めて高効率に、かつ短時間で吸着することができる。
【0034】
溶液の温度を保温するのは、溶液の温度が高ければ高いほど吸着剤への白金族元素の吸着速度が速くなるためであり、上記温度以上であれば、溶液と吸着剤との接触時間が短くてすむため、回収に好適である。このうち、溶液の温度を40〜60℃の範囲内に保温することが、吸着剤への白金族元素の吸着速度が高く、かつ溶液の取扱い安全性の観点から特に好ましい。なお、上記温度未満であっても、10℃以上40℃未満の範囲内であれば、溶液と吸着剤との接触時間を長くすれば、吸着剤に白金族元素を吸着させることは可能であるが、回収効率が低く、また時間がかかり分離操作の効率が悪い。
【0035】
次に、白金族元素を吸着した吸着剤を溶液から分離する(工程14)。分離する方法としては、濾紙、可燃性ポリプロピレン製のフィルタ、或いは粒状のMATG,EATGのみが通過できない目開きを有するステンレス鋼製のスクリーンが採用される。
【0036】
更に、溶液から分離した白金族元素を吸着した吸着剤を焼却処理して白金族元素を回収する(工程16)。濾紙や可燃性フィルタでMATG,EATGからなる吸着剤を分離した場合には、濾紙やフィルタとともにMATG,EATGを焼却することにより、RhやRuのみを酸化物として回収することができる。ステンレス鋼製スクリーンを使用する場合には、MATG,EATGの粒径が0.5mm以上あれば、目開きが0.2〜0.3mm程度のスクリーンが選ばれ、分離したMATG,EATGを直接焼却することにより、RhやRuのみを回収することができる。
【0037】
以上の工程を経ることにより、廃電子部品等を湿式処理して生じたRhやRuを含む溶液から、RhやRuを吸着剤へ吸着させて溶液から効率的に分離し、回収することで、これらRhやRuの再資源化を図ることができる。
【0038】
<第2の実施の形態>
この第2の実施の形態に係る方法はカラム式である。
【0039】
先ず、図2に示すように、Rh又はRuのいずれか一方又はその双方の白金族元素を含む溶液に塩酸水溶液を添加して上記溶液の塩酸濃度を0.1mol/l以下に調整する(工程21)。次いで、塩酸濃度調整した溶液の温度を30℃以上に保温する(工程22)。この工程21及び工程22は上記第1の実施の形態における工程11及び工程13と同一である。
【0040】
次に、粒状のMATG,EATGからなる吸着剤を鉛直方向に長い筒体からなるカラム内に所定の割合で充填し(工程23a)、塩酸濃度調整した溶液だけでなく、吸着剤を充填したカラムも30℃以上に保温する(工程23b)。吸着剤を充填したカラムは、上記工程22で保温した塩酸濃度調整した溶液の温度と同程度の温度となるように保温することが好ましい。そして、保温した状態の吸着剤を充填したカラムに保温した溶液を任意の流速で通液することにより、溶液に含まれる白金族元素をカラム内の吸着剤に吸着させる(工程23c)。カラムへ通液する溶液の流速は、溶液中に含まれる白金族元素濃度、溶液の塩酸濃度、カラムの内径や長さ、充填した吸着剤の容量によっても多少前後するが、例えば、白金族元素濃度が3〜100ppmで塩酸濃度を0.1〜1Mに調整した溶液に対して、内径15〜20mm及び長さ15〜20cmのカラムに、吸着剤を7.7〜18gの割合で充填した場合、カラムへ通液する溶液の流速は、0.35〜5.4ml/minとすることが好ましい。
【0041】
次に、カラム内部で白金族元素を吸着させた吸着剤に純水などを通液させて吸着剤を洗浄し、カラムに加熱した乾燥空気を通過させて吸着剤を乾燥させた後、乾燥した吸着剤をカラム内部より取出し、吸着剤を焼却処理して白金族元素を回収する(工程24)。この工程24は上記第1の実施の形態における工程16と同一である。
【0042】
この第2の実施の形態では、溶液と吸着剤との接触が溶液をカラムに通じることにより行われるため、第1の実施の形態における分離工程14を施す必要がなく、回収の際の溶液や吸着剤の取扱いがより簡便となる。
【実施例】
【0043】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0044】
<実施例1>
先ず、ワットルタンニン分子28gを0.25Mの水酸化ナトリウム水溶液50ml中に加えて、室温で24時間撹拌することによりワットルタンニンの溶解液を調製した。この溶解液に架橋剤として37質量%のホルムアルデヒド6mlを添加し、室温で1.5時間撹拌した後、80℃(353K)で12時間静置することによってゲル化を行った。そして、ゲル化して得られた塊状のタンニンゲルを破砕し、破砕物を125〜250μmに篩い分けした後に、蒸留水と0.05Mの硝酸で洗浄し、凍結乾燥することにより、粒状のタンニンゲルを得た。次に、上記得られた粒状のタンニンゲル2.5gを10%メチルアミン水溶液(塩基性)50mlに加えた後、硝酸にてpH12に調整し、60℃(333K)に保たれた恒温槽中で12時間振とうすることにより、タンニンゲルにメチルアミン基を導入した。続いて、濾別したゲルを蒸留水で洗浄し、pH試験紙にて洗浄液が中性になるのを確認した後、凍結乾燥した。このような手順によって粒状のMATGを得た。得られた粒状のMATGを実施例1の吸着剤とした。
【0045】
<実施例2>
実施例1で得られた粒状のタンニンゲル2.5gを10%エチルアミン水溶液(塩基性)50mlに加えた後、硝酸にてpH12に調整し、60℃(333K)に保たれた恒温槽中で12時間振とうすることにより、タンニンゲルにエチルアミン基を導入した。続いて、濾別したゲルを蒸留水で洗浄し、pH試験紙にて洗浄液が中性になるのを確認した後、凍結乾燥した。このような手順によって粒状のEATGを得た。得られた粒状のEATGを実施例2の吸着剤とした。
【0046】
<参考例1>
実施例1で得られた粒状のタンニンゲル2.5gを10%アンモニア水溶液50mlに加え、60℃(333K)に保たれた恒温槽中で12時間振とうすることにより、タンニンゲルにアミン基を導入した。続いて、濾別したゲルを蒸留水で洗浄し、pH試験紙にて洗浄液が中性になるのを確認した後、凍結乾燥した。このような手順によって粒状のアミン基修飾不溶性タンニンゲル(Amine-modified Tannin Gel;ATG)を得た。得られた粒状のATGを参考例1の吸着剤とした。
【0047】
<比較例1>
実施例1で得られた粒状のタンニンゲルを比較例1の吸着剤とした。
【0048】
<比較試験及び評価>
<各タンニンゲルの元素分析>
実施例1のMATG、実施例2のEATG、参考例1のATG及び比較例1のTGについて、元素分析装置により元素分析測定を行った。その結果を次の表1に示す。
【0049】
【表1】

表1から明らかなように、MATG及びEATGはともにTGよりも窒素含有量が増加していることが判る。また、MATG及びEATGはATGに比べて窒素含有量が大きいことから、メチルアミン水溶液並びにエチルアミン水溶液の処理によりアミン基導入量を増大することができたといえる。更に、MATGとEATGを比較すると、MATGの方がEATGに比べて窒素含有量が高く、アミン基導入量に違いが生じる結果となった。このアミン基導入量の違いは、エチルアミンはメチルアミンに比べてメチル基が一つ多いことから、タンニンのB環状で立体障害が生じ、エチルアミン基の導入が阻止されたことによるものと推察される。
【0050】
<Rh(III)吸着に及ぼす塩酸濃度の影響>
実施例1のMATG、実施例2のEATG、参考例1のATG及び比較例1のTGをそれぞれ吸着剤として使用し、Rh(III)を含む塩酸水溶液50mlに粒状の吸着剤を乾燥重量で1.0g添加混合し、振とう恒温槽中で回分吸着実験を行った。ここで、溶液の温度は40℃(313K)に保温し、溶液中のRh(III)の濃度は100ppmに調整し、溶液の塩酸濃度は0.1M、1.0M、3.0M、5.0Mにそれぞれ調整した。そして、任意の時間ごとに1mlずつサンプリングし、孔径0.45μmのメンブレンフィルターで濾過後、蒸留水4mlで希釈し、ICPによりRhの濃度を測定した。実施例1の結果を図3に、実施例2の結果を図4に、参考例1の結果を図5に、比較例1の結果を図6にそれぞれ示す。
【0051】
図3〜図6から明らかなように、吸着剤に比較例1のタンニンゲル(TG)を用いた場合では、どの塩酸濃度でも、Rh(III)のタンニンゲル(TG)への吸着は殆どみられなかった。一方、吸着剤に実施例1のMATG、実施例2のEATG及び参考例1のATGを用いた場合では、全ての塩酸濃度でRh(III)が吸着剤へ吸着されており、溶液の塩酸濃度が3.0Mや5.0Mと高濃度域においても吸着剤へのRh(III)の吸着が確認された。また、溶液の塩酸濃度が低いほど吸着剤へのRh(III)の吸着量が増加する傾向が見られた。更に、MATG,EATGの吸着量がATGの吸着量よりも高いことから、アルキルアミン基の方がアミン基よりもRh(III)に対する親和性が高いといえる。このような各タンニンゲルによるRh(III)吸着量の違いは主に求核性の違いによって生じているものと考えられる。特に、実施例1のMATG、実施例2のEATGを用いた場合、溶液の塩酸濃度が0.1Mでは120時間の保持で80%以上の高い吸着率を示し、MATGやEATGを吸着剤として用い、かつ溶液を適切な塩酸濃度に調整し、溶液を適切な温度に保温することで、優れた吸着効率が認められた。
【0052】
<Rh(III)吸着に及ぼす塩化物イオン濃度の影響>
実施例1のMATG、実施例2のEATG及び参考例1のATGを吸着剤として使用し、Rh(III)を含む塩化物水溶液50mlに粒状の吸着剤を乾燥重量で1.0g添加混合し、振とう恒温槽中で回分吸着実験を行った。ここで、溶液の温度は40℃(313K)に保温し、溶液中のRh(III)の濃度は100ppmに調整し、溶液の水素イオン濃度は0.01M(pH2)、塩化物イオン濃度は0.01M、0.1M、1.0M(pCl2,1,0)、イオン強度は1.0にそれぞれ調整した。なお、塩化物イオン濃度及びイオン強度の調整は塩化ナトリウム及び過塩素酸ナトリウムを用いて行った。そして、任意の時間ごとに1mlずつサンプリングし、孔径0.45μmのメンブレンフィルターで濾過後、蒸留水4mlで希釈し、ICPによりRhの濃度を測定した。実施例1の結果を図7に、実施例2の結果を図8に、参考例1の結果を図9にそれぞれ示す。
【0053】
図7〜図9から明らかなように、各吸着剤において全ての塩化物イオン濃度で高い吸着率が得られる結果となった。そして、溶液の塩化物イオン濃度が低いほど各吸着剤へのRh(III)の吸着量が増加する傾向が見られた。また、吸着速度はいずれの条件においても、実施例1のMATG、実施例2のEATG、参考例1のATGの順となった。これは主に求核性の違いに起因すると考えられる。
【0054】
<Rh(III)吸着に及ぼす水素イオン濃度の影響>
実施例1のMATG、実施例2のEATG及び参考例1のATGを吸着剤として使用し、Rh(III)を含む塩化物水溶液50mlに粒状の吸着剤を乾燥重量で1.0g添加混合し、振とう恒温槽中で回分吸着実験を行った。ここで、溶液の温度は40℃(313K)に保温し、溶液中のRh(III)の濃度は100ppmに調整し、溶液の塩化物イオン濃度は0.01M(pCl2)、水素イオン濃度は0.01M、0.1M、0.5M、1.0M(pH2,1,0.3,0)、イオン強度は1.0にそれぞれ調整した。なお、水素イオン濃度及びイオン強度の調整は過塩素酸及び過塩素酸ナトリウムを用いて行った。そして、任意の時間ごとに1mlずつサンプリングし、孔径0.45μmのメンブレンフィルターで濾過後、蒸留水4mlで希釈し、ICPによりRhの濃度を測定した。実施例1の結果を図10に、実施例2の結果を図11に、参考例1の結果を図12に、Rh(III)−塩化物錯体の存在割合を図13にそれぞれ示す。
【0055】
図10〜図12から明らかなように、各吸着剤において、Rh(III)吸着量は水素イオン濃度の増加に伴って低下する結果となった。また、図13から明らかなように、水素イオン濃度が1.0Mから0.01M(pH0から2)の範囲において、Rh(III)−塩化物錯体が陽イオンとして存在することから、水素イオン濃度依存性は、主に、水酸基とアミンのプロトン化による静電反発に起因すると考えられる。
【0056】
また、図10〜図12に示す、水素イオン濃度1.0M及び塩化物イオン濃度0.01Mの条件下よりも、前述した図3〜図5に示す、1.0M塩酸水溶液条件下における吸着量の方が大きくなった。これは、水溶液中におけるRh(III)−塩化物錯体の違いにより説明することができる。1.0M塩酸水溶液中ではRh(III)は主にRhCl52-の形態で存在している。しかし、水素イオン濃度1.0M、塩化物イオン濃度0.01Mの条件では主にRhCl2+の形態で存在している。このため、プロトン化したヒドロキシ基及びアミノ基とRhCl2+の間で強い静電反発が起こり、Rh(III)−タンニンゲル錯体の形成が阻害されていると考えられる。
【0057】
<Rh(III)吸着に及ぼす温度の影響>
実施例1のMATG、実施例2のEATG及び参考例1のATGを吸着剤として使用し、Rh(III)を含む塩酸水溶液50mlに粒状の吸着剤を乾燥重量で1.0g添加混合し、振とう恒温槽中で回分吸着実験を行った。ここで、溶液の温度は25℃(298K)、40℃(313K)、60℃(333K)にそれぞれ保温し、溶液中のRh(III)の濃度は100ppmに調整し、溶液の塩酸濃度は0.01M(pH2、pCl2)、イオン強度は1.0に調整した。なお、イオン強度の調整は過塩素酸ナトリウムを用いて行った。そして、任意の時間ごとに1mlずつサンプリングし、孔径0.45μmのメンブレンフィルターで濾過後、蒸留水4mlで希釈し、ICPによりRhの濃度を測定した。保温温度25℃の結果を図14に、保温温度40℃の結果を図15に、保温温度60℃の結果を図16にそれぞれ示す。
【0058】
図14〜図16から明らかなように、溶液の温度が高いほど吸着速度が速くなる傾向が見られた。また、この実験条件下では、保持時間の差異はあるが、長時間保持すると全ての温度でほぼ100%の吸着率が得られた。
【0059】
<Ru(III,IV)吸着に及ぼす塩酸濃度の影響>
先ず、Ru(III,IV)−塩化物錯体の形態を安定化するため、塩化物水溶液50mlに塩化ルテニウムを溶解させ、3日間撹拌した。次に、実施例1のMATG、実施例2のEATG、参考例1のATG及び比較例1のTGをそれぞれ吸着剤として使用し、この調整した塩化ルテニウム溶液に粒状の吸着剤を乾燥重量で1.0g添加混合し、振とう恒温槽中で回分吸着実験を行った。ここで、溶液の温度は40℃(313K)に保温し、溶液中のRu(III,IV)の濃度は100ppmに調整し、溶液の塩酸濃度は0.1M、1.0M、3.0M、5.0Mにそれぞれ調整した。そして、任意の時間ごとに1mlずつサンプリングし、孔径0.45μmのメンブレンフィルターで濾過後、蒸留水4mlで希釈し、ICPによりRuの濃度を測定した。実施例1の結果を図17に、実施例2の結果を図18に、参考例1の結果を図19に、比較例1の結果を図20にそれぞれ示す。
【0060】
図17〜図20から明らかなように、Rh吸着試験の場合と異なり、Ru吸着試験では比較例1のタンニンゲル(TG)に対しても吸着が認められた。そして、比較例1のタンニンゲル(TG)よりも実施例1のMATG、実施例2のEATG及び参考例1のATGの方が高いRu(III,IV)吸着能を有する結果が得られた。これはRh(III)の場合と同様、ヒドロキシ基よりもソフトな配位子であるアミン基、アルキルアミン基の導入によるものであると考えられる。また、塩酸濃度が低くなるにつれて各吸着剤によるRu(III,IV)吸着量は増加する傾向が見られた。この結果から、塩酸溶液中でのRu(III,IV)吸着量は、Rh(III)の吸着と同様に、塩素配位数の違いやヒドロキシ基、アミン基のプロトン化の影響を受けると考えられる。
【0061】
なお、実施例1のMATG、実施例2のEATG及び参考例1のATGをそれぞれ用いた吸着量の結果を比較すると、塩酸濃度が5.0Mでは、MATG、EATG、ATGの順、塩酸濃度が3.0Mでは、MATG、ATG、EATGの順、塩酸濃度が0.1M、1.0Mと低い場合には、ATG、MATG、EATGの順となった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の白金族元素の回収方法は、RhやRuの回収だけでなく、PdやPt、Ag、Au等の回収にも適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rh又はRuのいずれか一方又はその双方からなる白金族元素を含む溶液に塩酸水溶液を添加して前記溶液の塩酸濃度を0.1mol/l以下に調整する工程と、
前記濃度調整した溶液に粒状のアルキルアミン基修飾不溶性タンニンゲルからなる吸着剤を添加混合する工程と、
前記溶液の温度を30℃以上に保温して前記溶液に含まれる白金族元素を前記吸着剤に吸着する工程と、
前記白金族元素を吸着した吸着剤を前記溶液から分離する工程と、
前記白金族元素を吸着した吸着剤を焼却処理して白金族元素を回収する工程と
を含む白金族元素の回収方法。
【請求項2】
アルキルアミン基がメチルアミン又はエチルアミンである請求項1記載の回収方法。
【請求項3】
Rh又はRuのいずれか一方又はその双方からなる白金族元素を含む溶液に塩酸水溶液を添加して前記溶液の塩酸濃度を0.1mol/l以下に調整する工程と、
前記濃度調整した溶液の温度を30℃以上に保温する工程と、
粒状のアルキルアミン基修飾不溶性タンニンゲルからなる吸着剤を充填したカラムを30℃以上に保温して前記カラムに前記30℃以上に保温した溶液を通して前記溶液に含まれる白金族元素を前記吸着剤に吸着する工程と、
前記白金族元素を吸着した吸着剤を焼却処理して白金族元素を回収する工程と
を含む白金族元素の回収方法。
【請求項4】
アルキルアミン基がメチルアミン又はエチルアミンである請求項3記載の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−41593(P2012−41593A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182679(P2010−182679)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】