白金族金属担持触媒、過酸化水素の分解処理水の製造方法、溶存酸素の除去処理水の製造方法及び電子部品の洗浄方法
【解決課題】SVが2000h−1を超えるような大きなSVで通水しても、更に、触媒の充填層高が薄くても過酸化水素の分解除去又は溶存酸素の除去が可能な高性能触媒を提供すること。
【解決手段】有機多孔質アニオン交換体に、平均粒子径1〜100nmの白金族金属のナノ粒子が、担持されている白金族金属担持触媒であり、該有機多孔質アニオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径20〜300μmの開口となる連続マクロポア構造体であり、該連続マクロポア構造体の骨格部の表層部が多孔構造であり、水湿潤状態での体積当たりのアニオン交換容量が0.4mg当量/ml以上であり、アニオン交換基が該多孔質アニオン交換体中に均一に分布しており、該白金族金属の担持量が、乾燥状態で0.004〜20重量%であること、を特徴とする白金族金属担持触媒。
【解決手段】有機多孔質アニオン交換体に、平均粒子径1〜100nmの白金族金属のナノ粒子が、担持されている白金族金属担持触媒であり、該有機多孔質アニオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径20〜300μmの開口となる連続マクロポア構造体であり、該連続マクロポア構造体の骨格部の表層部が多孔構造であり、水湿潤状態での体積当たりのアニオン交換容量が0.4mg当量/ml以上であり、アニオン交換基が該多孔質アニオン交換体中に均一に分布しており、該白金族金属の担持量が、乾燥状態で0.004〜20重量%であること、を特徴とする白金族金属担持触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電所用水や半導体製造などの精密加工洗浄用水に使用される、超純水中の過酸化水素や溶存酸素の様な酸化性物質を除去するための白金族金属担持触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電所で用いられる用水中の溶存酸素は、配管や熱交換器等の部材の腐食を引き起こすことが知られており、特に、原子力発電所の一次系及び二次系においては、溶存酸素を極力低減する必要がある。
【0003】
また、半導体製造産業においては、不純物を高度に除去した超純水を用いてシリコンウエハの洗浄等が行われている。超純水は、一般に原水(河川水、地下水、工業用水等)中に含まれる懸濁物質や有機物の一部を前処理工程で除去した後、その処理水を一次純水系システム及び二次純水系システム(サブシステム)で順次処理することによって製造され、ウエハ洗浄を行うユースポイントに供給される。このような超純水は、不純物の定量も困難であるほどの純度を有するが、全く不純物を有していないわけではない。
【0004】
例えば、超純水中に含まれる溶存酸素は、シリコンウエハの表面に自然酸化膜を形成する。自然酸化膜がウエハ表面に形成されると、低温でのエピタキシャルSi薄膜の成長を妨げたり、ゲート酸化膜の膜圧及び膜質の精密制御の妨げとなったり、コンタクトホールのコンタクト抵抗の増加原因となったりする。そのため、ウエハ表面の自然酸化膜の形成は、極力抑制する必要がある。
【0005】
そこで、超純水製造装置においては、特に一次純水系システムにおいて、脱気装置を用いて溶存酸素を低減している。この脱気装置により、二次純水系システム入り口における被処理水(一次純水)中の溶存酸素濃度は、通常、100μg/L以下にまで低減されている。更に、10μg/L以下に管理されている場合もある。
【0006】
前述した超純水の製造では、一般に、二次純水系システムに設置した紫外線酸化装置によって有機物の分解を行っている。紫外線酸化処理の過程では過酸化水素が副生するため、紫外線酸化装置の処理水中には、過酸化水素が残存しているのが一般的である。この過酸化水素は、二次純水系システムのポリッシャ工程で部分的に分解されて酸素を生成し、処理水中の溶存酸素濃度を上昇させてしまう。
【0007】
そこで、紫外線酸化装置の処理水中に含まれる過酸化水素を、合成炭素系粒状吸着剤を用いて吸着除去する方法が提案されている(特開平9−29233号公報)。この方法によれば、紫外線酸化装置の処理水中に残存する過酸化水素自体を除去することから、ウエハ表面の自然酸化皮膜の形成を抑制することが可能である。しかし、この方法では、所定の過酸化水素除去率を達成するためには、多量の合成炭素系粒状吸着剤を充填した大型の吸着塔が必要であった。
【0008】
また、紫外線酸化装置の処理水中に含まれる過酸化水素を、白金族金属ナノコロイド粒子を担体に担持させた触媒によって分解する方法が提案されている(特開2007−185587号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−29233号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2007−185587号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2009−62512号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2009−67982号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特開2007−185587号公報に記載の触媒は、通水空間速度(SV)が100〜2000h−1と比較的低い領域でしか使用できず、SVが2000h−1を越えると、過酸化水素の分解除去が不十分になるといった欠点を有していた。
【0011】
従って、本発明の目的は、SVが2000h−1を超えるような大きなSVで通水しても過酸化水素の分解除去又は溶存酸素の除去が可能であり、更に、触媒の充填層高が薄くても過酸化水素の分解除去又は溶存酸素の除去が可能な高性能触媒を提供することにある。
【0012】
なお、有機多孔質体及び有多孔質イオン交換体としては、特開2009−62512号公報(特許文献3)及び特開2009−67982号公報(特許文献4)に開示がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、特開2002−306976号公報記載の方法で得られた比較的大きな細孔容積を有するモノリス状有機多孔質体(中間体)の存在下に、ビニルモノマーと架橋剤を、特定の脂肪族アルコール中、特定の組成で静置重合すれば、開口径が大きくでき、連続マクロポア構造体を形成する骨格の表面層に更に多孔構造を導入できること、また、上記新規構造を有するモノリス状有機多孔質体にアニオン交換基を導入したモノリス状の有機多孔質アニオン交換体は、イオン交換が迅速かつ均一であるばかりでなく、体積当りの吸着容量やイオン交換容量が大きく、開口の平均直径が大きいため圧力損失が格段に小さく、連続マクロポア構造を維持しているため機械的強度が高く、ハンドリング性に優れ、微粒子の捕捉能力に優れる等、従来のモノリス状有機多孔質体やモノリス状有機多孔質アニオン交換体が達成できなかった、優れた特性を兼備していることなどを見出した。そして、この新規構造型モノリス状有機多孔質体にアニオン交換基を導入して得られるモノリス状の有機多孔質アニオン交換体に、平均粒子径1〜100nmの白金族金属のナノ粒子を担持した白金族金属担持触媒は、SVが2000h−1を超えるような大きなSVで通水しても過酸化水素の分解除去又は溶存酸素の除去が可能であり、更に、触媒の充填層高が薄くても過酸化水素の分解除去又は溶存酸素の除去が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明(1)は、有機多孔質アニオン交換体に、平均粒子径1〜100nmの白金族金属のナノ粒子が、担持されている白金族金属担持触媒であり、
該有機多孔質アニオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径20〜300μmの開口となる連続マクロポア構造体であり、該連続マクロポア構造体の骨格部の表層部が多孔構造であり、水湿潤状態での体積当たりのアニオン交換容量が0.4mg当量/ml以上であり、アニオン交換基が該多孔質アニオン交換体中に均一に分布しており、
該白金族金属の担持量が、乾燥状態で0.004〜20重量%であること、
を特徴とする白金族金属担持触媒を提供するものである。
【0015】
また、本発明(2)は、本発明(1)の白金族金属担持触媒に、過酸化水素を含有する被処理水を接触させて、該過酸化水素を含有する被処理水中の過酸化水素を分解除去することを特徴とする過酸化水素の分解処理水の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(3)は、本発明(2)の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄することを特徴とする電子部品の洗浄方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(4)は、本発明(1)の白金族金属担持触媒の存在下で、水素と酸素を含有する被処理水中の溶存酸素とを反応させて水を生成させることにより、該酸素を含有する被処理水から溶存酸素を除去することを特徴とする溶存酸素の除去処理水の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(5)は、本発明(4)の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄することを特徴とする電子部品の洗浄方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の白金族金属担持触媒によれば、SVが2000h−1を超えるような大きなSVで通水しても過酸化水素の分解除去又は溶存酸素の除去が可能であり、更に、触媒の充填層高が薄くても過酸化水素の分解除去又は溶存酸素の除去が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のモノリスアニオン交換体の構造を説明するための模式図である。
【図2】本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例の模式的なフロー図である。
【図3】本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第二の形態例の模式的なフロー図である。
【図4】参考例1で得たモノリスのSEM画像である。
【図5】実施例1で得た白金族金属担持触媒におけるパラジウムナノ粒子の分散状態を示したTEM画像である。
【図6】参考例2で得たモノリスのSEM画像である。
【図7】参考例3で得たモノリスのSEM画像である。
【図8】参考例4で得たモノリスのSEM画像である。
【図9】参考例5で得たモノリスのSEM画像である。
【図10】参考例6で得たモノリスのSEM画像である。
【図11】参考例7で得たモノリスのSEM画像である。
【図12】参考例8で得たモノリスのSEM画像である。
【図13】参考例9で得たモノリスのSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の白金族金属担持触媒の担体として用いられる有機多孔質アニオン交換体は、骨格部の表層部に多孔構造を有するモノリス状の有機多孔質アニオン交換体である。本明細書中、「モノリス状の有機多孔質体」を単に「モノリス」と、「モノリス状の有機多孔質アニオン交換体」を単に「モノリスアニオン交換体」と、「モノリス状の有機多孔質中間体」を単に「モノリス中間体」とも言う。
【0022】
<モノリスアニオン交換体の説明>
本発明に係るモノリスアニオン交換体の基本構造を模式図である図1を参照して説明する。図1中、右側の四角図は、モノリスアニオン交換体の壁部(骨格部)Aを拡大した模式図である。モノリスアニオン交換体10は気泡状のマクロポア1同士が重なり合い、この重なる部分が共通の開口(メソポア)2となる連続マクロポア構造であり、開口2の平均直径が水湿潤状態で20〜300μm、好ましくは20〜200μm、特に20〜150μmであり、マクロポア1と開口2で形成される連続気泡内が流路となる。モノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、モノリスにアニオン交換基を導入する際、モノリス全体が膨潤するため、モノリスの開口の平均直径よりも大となる。連続マクロポア構造は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。モノリスアニオン交換体の水湿潤状態での開口(メソポア)の平均直径が20μm未満であると、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、また、水湿潤状態での開口(メソポア)の平均直径が300μmを超えると、被処理水とモノリスアニオン交換体および担持された白金族金属ナノ粒子との接触が不十分となり、その結果、過酸化水素分解特性又は溶存酸素の除去特性が低下してしまうため好ましくない。
【0023】
本発明では、乾燥状態のモノリス中間体の開口の平均直径、乾燥状態のモノリスの開口の平均直径及び乾燥状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値である。また、水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、乾燥状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径に、膨潤率を乗じて算出される値である。具体的には、水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の直径がx1(mm)であり、その水湿潤状態のモノリスアニオン交換体を乾燥させ、得られる乾燥状態のモノリスアニオン交換体の直径がy1(mm)であり、この乾燥状態のモノリスアニオン交換体を水銀圧入法により測定したときの開口の平均直径がz1(μm)であったとすると、水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径(μm)は、次式「水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径(μm)=z1×(x1/y1)」で算出される。また、アニオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの開口の平均直径、及びその乾燥状態のモノリスにアニオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の膨潤率がわかる場合は、乾燥状態のモノリスの開口の平均直径に、膨潤率を乗じて、水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径を算出することもできる。
【0024】
なお、モノリスアニオン交換体10は骨格の表層部に多孔構造を有するが、骨格中に占める表層部の割合が小さいこと、更に多孔構造が「巣」のような非連続孔が大部分であることから、水銀圧入法によりメソポアの平均直径を求めることができる。
【0025】
モノリスアニオン交換体10において、連続マクロポア構造体の骨格部6は内層部3と表層部4からなり、表層部4が多孔構造である。すなわち多孔構造は表層部4中に水湿潤状態で直径が0.1〜30μm、特に0.1〜15μmの細孔7が無数に存在する、表層部の断面が所謂蜂の巣に類似する構造のものである。多数の細孔7は、互いに独立のものあるいは隣接の孔同士が連通しているものもある。水湿潤状態で表層部4の厚みは概ね1〜45μmである。なお、図1中、符号5は気相(気泡)部である。骨格部6の多孔構造は、連続マクロポア構造体(乾燥体)を切断した面のSEM(走査型電子顕微鏡による二次電子像)画像で確認することができる。すなわち、モノリスアニオン交換体10としては、多孔構造を構成する細孔7が外部から観察されないもの(以下、「一体型モノリスアニオン交換体」とも言う。)又は骨格切断面などの端面に多孔構造を構成する細孔7が外部から観察されるもの(以下、「切断型モノリスアニオン交換体」とも言う。)が挙げられる。一体型モノリスアニオン交換体は反応容器から取り出し切断を施さないものであり、切断型モノリスアニオン交換体は刃物等で切断した例えばサイコロ形状のものである。本発明に係るモノリスアニオン交換体に白金族金属を担持した本発明の白金族金属担持触媒を、触媒として使用すれば、多孔構造の表面層に対する液の浸透が速く、液とアニオン交換基との接触効率が高くなり、触媒活性が高くなる。
【0026】
上記連続マクロポア構造体の水湿潤状態での表層部の細孔直径は、乾燥状態のモノリスアニオン交換体のSEM観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の細孔直径を測定し、その平均値に、膨潤率を乗じて算出される値である。具体的には、水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の直径がx2(mm)であり、その水湿潤状態のモノリスアニオン交換体を乾燥させ、得られる乾燥状態のモノリスアニオン交換体の直径がy2(mm)であり、この乾燥状態のモノリスアニオン交換体のSEM観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の細孔直径を測定し、その平均値がz2(μm)であったとすると、モノリスアニオン交換体の連続構造体の表層部の水湿潤状態での細孔直径(μm)は、次式「モノリスアニオン交換体の連続マクロポア構造体の表層部の水湿潤状態での細孔直径(μm)=z2×(x2/y2)」で算出される。また、アニオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの表層部の細孔直径、及びその乾燥状態のモノリスにアニオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の膨潤率がわかる場合は、乾燥状態のモノリスの表層部の細孔直径に、膨潤率を乗じて、水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の表層部の細孔直径を算出することもできる。なお、モノリスアニオン交換体の表層部の厚みも同様の方法で算出することができる。
【0027】
なお、切断型モノリスアニオン交換体は、骨格部の表層部の多孔構造が表面に表れるため比表面積が格段に大きく、ほとんどの場合、モノリスアニオン交換体を乾燥させて測定した比表面積は20〜70m2/gである。切断型モノリスアニオン交換体は、比表面積が大きいため、これに白金族金属を担持した本発明の白金族金属担持触媒を触媒として用いた場合、流体との接触面積が大きく、かつ流体の円滑な流通が可能となるため、優れた触媒性能が発揮できる。なお、本発明では、モノリス及びモノリスアニオン交換体の比表面積は、乾燥体を水銀圧入法により測定した値である。
【0028】
本発明に係るモノリスアニオン交換体は、水湿潤状態での体積当りのアニオン交換容量が0.4mg当量/ml以上、好ましくは0.4〜1.8mg当量/mlのアニオン交換容量を有する。モノリスアニオン交換体の体積当りのアニオン交換容量が0.4mg当量/ml未満であると、体積当りの白金族金属のナノ粒子担持量が低下してしまうため好ましくない。一方、モノリスアニオン交換体の体積当りのアニオン交換容量が1.8mg当量/mlを超えると、通水時の圧力損失が増大してしまうため好ましくない。なお、本発明に係るモノリスアニオン交換体の乾燥状態における重量当りのアニオン交換容量は特に限定されないが、アニオン交換基がモノリスアニオン交換体の骨格表面及び骨格内部にまで均一に導入されているため、3〜5mg当量/g(乾燥体)である。なお、アニオン交換基が骨格の表面のみに導入された有機多孔質アニオン交換体のアニオン交換容量は、有機多孔質体やアニオン交換基の種類により一概には決定できないものの、せいぜい500μg当量/g(乾燥体)である。
【0029】
本発明に係るモノリスアニオン交換体において、導入されたアニオン交換基は、有機多孔質体の表面のみならず、有機多孔質体の骨格内部にまで均一に分布している。ここで言う「アニオン交換基が均一に分布している」とは、アニオン交換基の分布が少なくともμmオーダーで表面および骨格内部に均一に分布していることを指す。アニオン交換基の分布状況は、対アニオンを塩化物イオン、臭化物イオンなどにイオン交換した後、EPMAを用いることで、比較的簡単に確認される。また、アニオン交換基が、モノリスアニオン交換体の表面のみならず、骨格内部にまで均一に分布していると、表面と内部の物理的性質及び化学的性質を均一にできるため、膨潤及び収縮に対する耐久性が向上する。
【0030】
特開2002−306976号に記載されているような本発明とは異なる連続マクロポア構造を有する従来型のモノリス状有機多孔質イオン交換体では、実用的に要求される低い圧力損失を達成するために、開口径を大きくすると、全細孔容積もそれに伴って大きくなってしまうため、体積当りのイオン交換容量が低下し、体積当りの交換容量を増加させるために全細孔容積を小さくしていくと、開口径が小さくなってしまうため圧力損失が増加するといった欠点を有していた。それに対して、本発明に係るモノリスアニオン交換体は、開口径を大きくすると共に、連続マクロポア構造体の骨格を太くする(骨格の壁部を厚くする)ことができ、且つ表面層に多孔構造を有するため、透過時の圧力損失を低く押さえたままで触媒活性を飛躍的に大きくすることができる。
【0031】
本発明に係るモノリスアニオン交換体のアニオン交換基としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基や、トリメチルアミノ基、トリエチルアミノ基、トリブチルアミノ基等の三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。
【0032】
本発明に係るモノリスアニオン交換体は、その厚みは1mm以上であり、膜状の多孔質体とは区別される。厚みが1mm未満であると、多孔質体1枚当たりのアニオン交換容量が極端に低くなるため好ましくない。本発明に係るモノリスアニオン交換体の厚みは、好ましくは3〜1000mmである。また、本発明に係るモノリスアニオン交換体は、骨格の基本構造が連続マクロポア構造であるため、機械的強度が高い。
【0033】
また、本発明に係るモノリスアニオン交換体は、0.5〜5ml/g、好適には0.8〜4ml/gの全細孔容積を有するものである。全細孔容積が0.5ml/g未満であると、単位断面積当りの透過液量や透過気体量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が5ml/gを越えると、触媒活性が低下してしまうため好ましくない。なお、本発明では、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリスアニオン交換体)の全細孔容積は、水銀圧入法により測定される値である。また、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリスアニオン交換体)の全細孔容積は、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
【0034】
なお、本発明に係るモノリスアニオン交換体に水を透過させた際の圧力損失は、モノリスアニオン交換体を1m充填したカラムに通水線速度(LV)1m/hで通水した際の圧力損失(以下、「差圧係数」と言う。)で示すと、0.005〜0.1MPa/m・LVの範囲、特に0.005〜0.05MPa/m・LVであることが好ましい。
【0035】
本発明に係るモノリスアニオン交換体において、連続マクロポア構造体の骨格を構成する材料、すなわち、内層部3及び表層部4の骨格部41は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.1〜10モル%、好適には0.2〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.1モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、10モル%を越えると、連続マクロポア構造体の骨格部分への多孔構造導入が認められなくなるため好ましくない。該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリビニルトルエン、ポリビニルベンジルクロライド、ポリビニルビフェニル、ポリビニルナフタレン等の芳香族ビニルポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化ポリオレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸グリシジル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー等の架橋重合体が挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、連続マクロポア構造形成の容易さ、アニオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸及びアルカリに対する安定性の高さから、芳香族ビニルポリマーの架橋重合体が好ましく、特に、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
【0036】
<モノリスアニオン交換体の製造方法>
本発明に係るモノリスアニオン交換体は、アニオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルションを調製し、次いで油中水滴型エマルションを重合させて全細孔容積が5〜16ml/gの連続マクロポア構造のモノリス状の有機多孔質中間体(モノリス中間体)を得るI工程、ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する架橋剤、炭素数3〜9の脂肪族アルコール及び重合開始剤からなる混合物を調製する工程であって、ビニルモノマー、架橋剤及び脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度(重量%)を56〜80%とするか、若しくはビニルモノマー濃度を40%以上、56%未満とし、且つビニルモノマーと架橋剤の合計量に対する該架橋剤の量を0.1〜1モル%とするII工程、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体の存在下に重合を行い、モノリス状の有機多孔質体(モノリス)を得るIII工程、該III工程で得られたモノリスにアニオン交換基を導入するIV工程、を行うことにより得られる。
【0037】
なお、本発明に係るモノリスアニオン交換体の製造方法において、I工程は、特開2002−306976号公報記載の方法に準拠して行なえばよい。
【0038】
(モノリス中間体の製造方法)
I工程のモノリス中間体の製造において、アニオン交換基を含まない油溶性モノマーとしては、例えば、三級アミノ基や四級アンモニウム基等のアニオン交換基を含まず、水に対する溶解性が低く、親油性のモノマーが挙げられる。これらモノマーの好適なものとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ジビニルベンゼン、エチレン、プロピレン、イソブテン、ブタジエン、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これらモノマーは、一種単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。ただし、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート等の架橋性モノマー(架橋剤)を少なくとも油溶性モノマーの一成分として選択し、その含有量を全油溶性モノマー中、0.1〜10モル%、好ましくは0.2〜5モル%とすることが、後の工程でアニオン交換基量を定量的に導入できるため好ましい。
【0039】
界面活性剤は、アニオン交換基を含まない油溶性モノマーと水とを混合した際に、油中水滴型(W/O)エマルションを形成できるものであれば特に制限はなく、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等の非イオン界面活性剤;オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等の陰イオン界面活性剤;ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤;ラウリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤を用いることができる。これら界面活性剤は一種単独又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、油中水滴型エマルションとは、油相が連続相となり、その中に水滴が分散しているエマルションを言う。上記界面活性剤の添加量としては、油溶性モノマーの種類および目的とするエマルション粒子(マクロポア)の大きさによって大幅に変動するため一概には言えないが、油溶性モノマーと界面活性剤の合計量に対して約2〜70%の範囲で選択することができる。
【0040】
また、I工程では、油中水滴型エマルション形成の際、必要に応じて重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤は、熱又は光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は水溶性であっても油溶性であってもよく、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素−塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム−酸性亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
アニオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び重合開始剤を混合し、油中水滴型エマルションを形成させる際の混合方法としては、特に制限はなく、各成分を一括して一度に混合する方法、油溶性モノマー、界面活性剤及び油溶性重合開始剤である油溶性成分と、水や水溶性重合開始剤である水溶性成分とを別々に均一溶解させた後、それぞれの成分を混合する方法などが使用できる。エマルションを形成させるための混合装置についても特に制限はなく、通常のミキサーやホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等を用いることができ、目的のエマルション粒径を得るのに適切な装置を選択すればよい。また、混合条件についても特に制限はなく、目的のエマルジョン粒径を得ることができる攪拌回転数や攪拌時間を、任意に設定することができる。
【0042】
I工程で得られるモノリス中間体は、連続マクロポア構造を有する。これを重合系に共存させると、モノリス中間体の構造を鋳型としてモノリス中間体の骨格表面に多孔構造の表層部が形成されるため、表面層が多孔構造を有する骨太骨格を有する多孔質体構造が形成される。また、モノリス中間体は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.1〜10モル%、好ましくは0.2〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.1モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくない。特に、全細孔容積が10〜16ml/gと大きい場合には、連続マクロポア構造を維持するため、架橋構造単位を0.2モル%以上含有していることが好ましい。一方、10モル%を越えると、連続マクロポア構造体の骨格部の表層部に多孔構造を導入することが困難となる。
【0043】
モノリス中間体のポリマー材料の種類としては、特に制限はなく、前述のモノリスアニオン交換体のポリマー材料と同じものが挙げられる。これにより、モノリス中間体の骨格に同様のポリマーを形成して、表層部に多孔構造を有する骨太の骨格構造のモノリスを得ることができる。
【0044】
モノリス中間体の全細孔容積は、5〜16ml/g、好適には6〜16ml/gである。モノリス中間体の全細孔容積が小さ過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの全細孔容積が小さくなりすぎ、被処理水透過時の圧力損失が大きくなるため好ましくない。一方、モノリス中間体の全細孔容積が大き過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの構造が連続マクロポア構造から逸脱するため好ましくない。モノリス中間体の全細孔容積を上記数値範囲とするには、モノマーと水の比(重量)を、概ね1:5〜1:16とすればよい。
【0045】
また、モノリス中間体は、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)の乾燥状態での平均直径が15〜200μmである。モノリス中間体の乾燥状態での開口の平均直径が15μm未満であると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が小さくなり、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。一方、モノリス中間体の乾燥状態での開口の平均直径が200μmを超えると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が大きくなり過ぎ、被処理水とモノリスアニオン交換体との接触が不十分となり、その結果、過酸化水素分解特性又は溶存酸素除去特性が低下してしまうため好ましくない。モノリス中間体は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。
【0046】
(モノリスの製造方法)
II工程は、ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第2架橋剤、炭素数3〜9の脂肪族アルコール及び重合開始剤からなる混合物を調製する工程であって、ビニルモノマー、第2架橋剤及び脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度(重量%)を56〜80%とするか、若しくはビニルモノマー濃度を40%以上、56%未満とし、且つビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対する該第2架橋剤の量を0.1〜1モル%とする工程である。なお、I工程とII工程の順序はなく、I工程後にII工程を行ってもよく、II工程後にI工程を行ってもよい。
【0047】
II工程で用いられるビニルモノマーとしては、分子中に重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒に対する溶解性が高い親油性のビニルモノマーであれば、特に制限はない。これらビニルモノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のα-オレフィン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。これらモノマーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明で好適に用いられるビニルモノマーは、スチレン、ビニルベンジルクロライド等の芳香族ビニルモノマーである。
【0048】
ビニルモノマー、第2架橋剤及び脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度(重量%)が56〜80%の場合、ビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対する該第2架橋剤の量は、好ましくは0.1〜5モル%、更に好ましくは0.3〜4モル%である。一方、ビニルモノマー、第2架橋剤及び脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度が40%以上、56%未満の場合、ビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対する該第2架橋剤の量は0.1〜1モル%、好ましくは0.2〜1モル%である。ビニルモノマー濃度が上記範囲を逸脱すると、骨格部への多孔構造導入が認められなくなる。また、ビニルモノマー濃度が80%を超えると、重合熱の除熱が困難となり、重合反応の制御が困難になるため好ましくない。
【0049】
これらビニルモノマーの添加量は、重合時に共存させるモノリス中間体に対して、重量で3〜70倍、好ましくは4〜50倍である。ビニルモノマー添加量がモノリス中間体に対して3倍未満であると、骨格部への多孔構造導入が困難になるため好ましくない。一方、ビニルモノマー添加量が70倍を超えると、開口径が小さくなり、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。
【0050】
II工程で用いられる第2架橋剤は、分子中に少なくとも2個の重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒への溶解性が高いものが好適に用いられる。第2架橋剤の具体例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールジアクリレート等が挙げられる。これら第2架橋剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい第2架橋剤は、機械的強度の高さと加水分解に対する安定性から、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル等の芳香族ポリビニル化合物である。第2架橋剤の使用量は、ビニルモノマー、第2架橋剤、脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度(重量%)により変動するが、ビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対して0.1〜5モル%、特に0.2〜5モル%であることが好ましい。第2架橋剤使用量が0.1モル%未満であると、モノリスの機械的強度が不足するため好ましくない。一方、5モル%を越えると、骨格部分への多孔構造導入が困難になるため好ましくない。なお、上記第2架橋剤使用量は、ビニルモノマー/第2架橋剤重合時に共存させるモノリス中間体の架橋密度とほぼ等しくなるように用いることが好ましい。両者の使用量があまりに大きくかけ離れると、生成したモノリス中で架橋密度分布の偏りが生じ、アニオン交換基導入反応時にクラックが生じやすくなる。
【0051】
II工程で用いられる溶媒は、炭素数3〜9の脂肪族アルコールである。該脂肪族アルコールの具体例としては、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1-オクタノール、2-エチルヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン、セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等が挙げられる。また、上記脂肪族アルコール以外の溶媒であっても、その使用量が少ない場合には、上記脂肪族アルコールに添加して使用することができる。これら脂肪族アルコールの使用量は、上記ビニルモノマー濃度が40〜80重量%となるように用いることが好ましい。脂肪族アルコール使用量が上記範囲から逸脱してビニルモノマー濃度が40%未満となると、骨格部分への多孔構造導入が困難になるため好ましくない。一方、ビニルモノマー濃度が80重量%を超えると、重合熱の除熱が困難となり、重合反応の制御が困難になるため好ましくない。
【0052】
重合開始剤としては、熱又は光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は油溶性であるほうが好ましい。本発明で用いられる重合開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、モノマーの種類や重合温度等によって大きく変動するが、ビニルモノマーと架橋剤の合計量に対して、約0.01〜5%の範囲で使用することができる。
【0053】
III工程は、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体の存在下、重合を行い、該モノリス中間体の骨格より太い骨格を有し、且つ骨格の表面層が多孔構造を有するモノリスを得る工程である。
【0054】
反応容器の内容積は、モノリス中間体を反応容器中に存在させる大きさのものであれば特に制限されず、反応容器内にモノリス中間体を載置した際、平面視でモノリスの周りに隙間ができるもの、反応容器内にモノリス中間体が隙間無く入るもののいずれであってもよい。このうち、重合後のモノリスが容器内壁から押圧を受けることなく、反応容器内に隙間無く入るものが、モノリスに歪が生じることもなく、反応原料などの無駄がなく効率的である。なお、反応容器の内容積が大きく、重合後のモノリスの周りに隙間が存在する場合であっても、ビニルモノマーや第2架橋剤は、モノリス中間体に吸着、分配されるため、反応容器内の隙間部分に粒子凝集構造物が生成することはない。
【0055】
III工程において、反応容器中、モノリス中間体は混合物(溶液)で含浸された状態に置かれる。II工程で得られた混合物とモノリス中間体の配合比は、前述の如く、モノリス中間体に対して、ビニルモノマーの添加量が重量で3〜70倍、好ましくは4〜50倍となるように配合するのが好適である。これにより、適度な開口径を有しつつ、骨格中にも多孔構造が導入されたモノリスを得ることができる。反応容器中、混合物中のビニルモノマーと第2架橋剤は、静置されたモノリス中間体の骨格に吸着、分配され、モノリス中間体の骨格内で重合が進行する。この重合が進行する過程において、多孔構造が形成される理由の詳細については不明であるものの、ビニルモノマー濃度が著しく高い場合や架橋剤量が著しく少ない場合、重合の進行が不均一となり、架橋構造が偏在してしまうためと考えられる。
【0056】
重合条件は、モノマーの種類、開始剤の種類により様々な条件が選択できる。例えば、開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、30〜100℃で1〜48時間加熱重合させればよい。加熱重合により、モノリス中間体の骨格に吸着、分配したビニルモノマーと第2架橋剤が該骨格内で重合し、該骨格を太らせるとともに、骨格中に多孔構造を形成していく。重合終了後、内容物を取り出し、未反応ビニルモノマーと有機溶媒の除去を目的に、メタノールやアセトン等の溶剤で抽出して特定骨格構造のモノリスを得る。
【0057】
III工程で得られるモノリスの基本構造は、図1で示したモノリスアニオン交換体と比べて、開口の直径の大きさが異なる以外、同様の構造である。すなわち、モノリスは気泡状のマクロポア1同士が重なり合い、この重なる部分が共通の開口(メソポア)2となる連続マクロポア構造であり、乾燥状態における開口2の平均直径が15〜200μm、好ましくは15〜150μm、特に15〜100μmである。また、モノリスは骨格の表層部にモノリスアニオン交換体と同様の多孔構造を有する。モノリスの多孔構造は表層部4中に乾燥状態における直径が0.1〜20μm、特に0.1〜10μmの細孔7が無数に存在する、SEM断面が所謂蜂の巣に類似する構造のものである。
【0058】
IV工程ではIII工程で得られたモノリスにアニオン交換基を導入するため、モノリスアニオン交換体の多孔構造を厳密にコントロールすることができる。
【0059】
(モノリスアニオン交換体の製造方法)
次に、本発明に係るモノリスアニオン交換体の製造方法について説明する。該モノリスアニオン交換体の製造方法としては、特に制限はないが、上記の方法によりモノリスを製造した後、アニオン交換基を導入する方法が、得られるモノリスアニオン交換体の多孔構造を厳密にコントロールできる点で好ましい。
【0060】
上記モノリスにアニオン交換基を導入する方法としては、特に制限はなく、高分子反応やグラフト重合等の公知の方法を用いることができる。例えば、四級アンモニウム基を導入する方法としては、モノリスがスチレン−ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法;モノリスをクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合により製造し、三級アミンと反応させる方法;モノリスに、均一にラジカル開始基や連鎖移動基を骨格表面及び骨格内部導入し、N,N,N−トリメチルアンモニウムエチルアクリレートやN,N,N−トリメチルアンモニウムプロピルアクリルアミドをグラフト重合する方法;同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換により四級アンモニウム基を導入する方法等が挙げられる。これらの方法のうち、四級アンモニウム基を導入する方法としては、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体にクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法やクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合によりモノリスを製造し、三級アミンと反応させる方法が、アニオン交換基を均一かつ定量的に導入できる点で好ましい。なお、導入するアニオン交換基としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基や、トリメチルアミノ基、トリエチルアミノ基、トリブチルアミノ基等の三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。
【0061】
<白金族金属担持触媒の説明>
本発明の白金族金属担持触媒は、上述のモノリスアニオン交換体に、白金族金属のナノ粒子が担持されている白金族金属担持触媒である。
【0062】
本発明に係る白金族金属とは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金である。これらの白金族金属は、一種類を単独で用いても、二種類以上の金属を組み合わせて用いても良く、更に、二種類以上の金属を合金として用いても良い。これらの中で、白金、パラジウム、白金/パラジウム合金は触媒活性が高く、好適に用いられる。
【0063】
本発明に係る白金族金属のナノ粒子の平均粒子径は、1〜100nmであり、好ましくは1〜50nm、更に好ましくは1〜20nmである。平均粒子径が1nm未満であると、ナノ粒子が担体から脱離する可能性が高くなるため好ましくなく、一方、平均粒子径が100nmを超えると、金属の単位質量当たりの表面積が少なくなり触媒効果が効率的に得られなくなるため好ましくない。なお、ナノ粒子の平均粒子径が上記範囲内の場合、表面プラズモン共鳴によりナノ粒子は強く着色するため、目視によっても確認可能である。
【0064】
乾燥状態の白金族金属担持触媒中の白金族金属ナノ粒子の担持量((白金族金属ナノ粒子/乾燥状態の白金族金属担持触媒)×100)は、0.004〜20重量%、好ましくは0.005〜15重量%である。白金族金属ナノ粒子の担持量が0.004重量%未満であると、過酸化水素分解効果又は溶存酸素の除去効果が不十分になるため好ましくない。一方、白金族金属ナノ粒子の担時量が20重量%を超えると、水中への金属溶出が認められるようになるため好ましくない。
【0065】
白金族金属担持触媒の製造方法には特に制約はなく、公知の方法により、モノリスアニオン交換体に、白金族金属のナノ粒子を担持させることにより、白金族金属担持触媒を得ることができる。例えば、乾燥状態のモノリスアニオン交換体を塩化パラジウムの塩酸水溶液に浸漬し、塩化パラジウム酸アニオンをアニオン交換によりモノリスアニオン交換体に吸着させ、次いで、還元剤と接触させてパラジウム金属ナノ粒子をモノリスアニオン交換体に担持する方法や、モノリスアニオン交換体をカラムに充填し、塩化パラジウムの塩酸水溶液を通液して塩化パラジウム酸アニオンをアニオン交換によりモノリスアニオン交換体に吸着させ、次いで、還元剤を通液してパラジウム金属ナノ粒子をモノリスアニオン交換体に担持する方法等が挙げられる。用いられる還元剤にも特に制約はなく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールや、ギ酸、シュウ酸、クエン酸、アスコルビン酸等のカルボン酸、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等を用いることができる。
【0066】
本発明の白金族金属担持触媒において、白金族金属ナノ粒子の担体であるモノリスアニオン交換体のイオン形は、白金族金属ナノ粒子を担持した後は、通常、塩化物形のような塩形となる。本発明では、このような塩形のものを、過酸化水素分解用又は溶存酸素除去用の触媒として用いても良い。また、白金族金属担持触媒は、これに限定されるものではなく、モノリスアニオン交換体のイオン形を、OH形に再生したものであっても良い。そして、これらのうち、モノリスアニオン交換体のイオン形がOH形であることが、高い触媒効果が得られるため好ましい。白金族金属ナノ粒子を担持した後のモノリスアニオン交換体のOH形への再生方法には特に制限はなく、水酸化ナトリウム水溶液を通液する等の公知の方法を用いればよい。
【0067】
<本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法>
本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法は、本発明の白金族金属担持触媒に、過酸化水素を含有する被処理水を接触させて、過酸化水素を含有する被処理水中の過酸化水素を分解除去する過酸化水素の分解処理水の製造方法である。
【0068】
過酸化水素を含有する被処理水は、過酸化水素を含有するものであれば、特に制限されず、例えば、半導体製造等の電子部品の製造及び電子部品の製造器具を洗浄するための超純水の製造において、その中の種々の工程により生じる水が挙げられ、具体的には、水中の有機物を分解するための紫外線酸化処理工程を行った後の水が挙げられる。また、過酸化水素を含有する被処理水としては、他には、用廃水系に過酸化水素を添加し、酸化、還元、殺菌、洗浄を行った処理液又は処理水やこれらの処理液又は処理水を用いて処理を行った後の廃液又は排水が挙げられる。例えば、半導体製造工程から排出される過酸化水素を含む洗浄排水、半導体製造工程から排出される有機物を含む洗浄排水を超純水として回収再利用するために、過酸化水素の存在下に紫外線を照射し有機物を酸化分解して得られる処理水、フェントン試薬を用いて有機物を分解して得られる処理水、逆浸透膜、限外ろ過膜等を過酸化水素で殺菌又は洗浄した後の排水、6価クロムを含有する排水を過酸化水素で還元処理して得られる処理水等が挙げられる。
【0069】
過酸化水素を含有する被処理水中の過酸化水素濃度は、特に制限されないが、通常、0.01〜100mg/Lである。超純水製造のサブシステムでは、通常、過酸化水素濃度は、10〜50μg/Lである。過酸化水素濃度が100mg/Lを超えると、母体であるモノリスアニオン交換体の劣化が進み易い。
【0070】
本発明の白金族金属担持触媒に、過酸化水素を含有する被処理水を接触させる方法としては、特に制限されず、例えば、触媒充填塔に、本発明の白金族金属担持触媒を充填し、触媒充填塔に、過酸化水素を含有する被処理液を供給することにより、本発明の白金族金属担持触媒に、過酸化水素を含有する被処理水を通液する方法等が挙げられる。
【0071】
上記方法の場合、本発明の白金族金属担持触媒に、過酸化水素を含有する被処理水を、SV=2000〜20000h−1、好ましくはSV=5000〜10000h−1で通水することができる。本発明の白金族金属担持触媒を用いると、SVが2000h−1を超えるような大きなSVで被処理水を通水しても、過酸化水素の分解除去が可能である。更に、SVが10000h−1であっても、本発明の白金族金属担持触媒を用いると、過酸化水素の分解が可能であり、本発明の白金族金属担持触媒は、粒子状アニオン交換樹脂に白金族金属ナノ粒子を担持した従来の担持触媒の処理限界を大きく上回る、卓越した性能を示す。本発明の白金族金属担持触媒への過酸化水素を含有する被処理水の通水速度は、特に制限されないが、好ましくはSV=2000〜20000h−1、特に好ましくはSV=5000〜10000h−1である。なお、本発明の白金族金属担持触媒は、過酸化水素分解能力が著しく高いため、あえて通水速度をSV=2000h−1未満の領域とする必要はないが、通水速度をSV=2000h−1未満の領域としてもよく、通水速度をSV=2000h−1未満の領域とした場合も、本発明の白金族金属担持触媒は、優れた過酸化水素分解能力を発揮する。一方、SVが20000h−1を超えると、通水差圧が大きくなり過ぎる傾向にある。
【0072】
更に、本発明の白金族金属担持触媒は、過酸化水素分解能力が著しく高いため、触媒の充填層高を薄くしても過酸化水素の分解除去が可能である。
【0073】
本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行い得られる処理水中の過酸化水素濃度は、1μg/L以下であることが好ましい。
【0074】
本発明の電子部品の洗浄方法(I)は、本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄する電子部品の洗浄方法である。
【0075】
本発明の電子部品の洗浄方法(I)の形態例について、図2及び図3を参照して説明する。図2は、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例の模式的なフロー図であり、図3は、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第二の形態例の模式的なフロー図である。
【0076】
図2に示すように、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例は、オゾンを含有する水(以下、オゾン含有水とも記載する。)に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第1工程21と、水素を含有する水(以下、水素含有水とも記載する。)に被洗浄物を接触させて、500kHz以上の振動を与えながら被洗浄物を洗浄する第2工程22と、フッ化水素酸及び過酸化水素を含有する水に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第3工程23と、水素含有水に被洗浄物を接触させて、500kHz以上の振動を与えながら被洗浄物を洗浄する第4工程24と、を有する。
【0077】
第1工程21に供給される洗浄水は、超純水32にオゾンを溶解させて調製されたオゾン含有水である。そして、超純水は、その製造工程で、紫外線酸化処理等がされているので、過酸化水素を含有している。そこで、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例では、超純水32にオゾン33を溶解させる前に、超純水32を被処理水として本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行う過酸化水素除去工程25を行い、得られた処理水にオゾン33を溶解させて、第1工程21の洗浄水として供給する。
【0078】
また、第2工程22に供給される洗浄水は、超純水32に水素を溶解させて調製された水素含有水である。そこで、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例では、超純水32に水素34を溶解させる前に、超純水32を被処理水として本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行う過酸化水素除去工程26を行い、得られた処理水に水素34を溶解させて、第2工程22の洗浄水として供給する。本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例では、第4工程24も同様に、超純水32に水素36を溶解させる前に、超純水32を被処理水として本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行う過酸化水素除去工程28を行い、得られた処理水に水素36を溶解させて、第4工程24の洗浄水として供給する。なお、水素34又は36を溶解させる時期は、過酸化水素除去工程26又は28の前段であってもよい。
【0079】
また、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例では、超純水32を被処理水として本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行う過酸化水素除去工程27を行い、得られた処理水にフッ化水素酸及び過酸化水素35を溶解させ、得られたフッ化水素酸及び過酸化水素を含有する水を、第3工程23の洗浄水として供給することもできる。
【0080】
そして、洗浄前の電子部品20aを被洗浄物として、第1工程21〜第4工程24を順に行い、洗浄後の電子部品30aを得る。
【0081】
図3に示すように、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第二の形態例は、硫酸及び過酸化水素を含有する液に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第1工程40と、超純水でリンスする第2工程42と、フッ化水素酸を含有する水(希フッ酸)に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第3工程43と、超純水でリンスする第4工程44と、アンモニア及び過酸化水素を含有する水に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第5工程45と、超純水でリンスする第6工程46と、加熱した超純水に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第7工程47と、超純水でリンスする第8工程48と、塩酸及び過酸化水素を含有する水に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第9工程49と、超純水でリンスする第10工程50と、フッ化水素酸を含有する水(希フッ酸)に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第11工程51と、超純水でリンスする第12工程52と、を有する。
【0082】
図3中の第3、5、9及び11工程に供給される洗浄水63、65、69及び71は、超純水に各工程で必要な薬剤を溶解させた水である。そこで、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第二の形態例では、図2に示す本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例と同様に、超純水に各工程で必要な薬剤を溶解させる前に、超純水を被処理水として本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行う過酸化水素除去工程を行い、得られた処理水に各工程で必要な薬剤を溶解させて、各工程の洗浄水(洗浄液)として供給する。
【0083】
また、図3中の第2、4、6、7、8、10及び12工程に供給される洗浄水62、64、66、67、68、70及び72は、超純水である。そこで、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第二の形態例では、超純水を被処理水として本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行う過酸化水素除去工程を行い、得られた処理水を、各工程の洗浄水として供給する。
【0084】
そして、洗浄前の電子部品20bを被洗浄物として、第1工程40〜第12工程52を順に行い、洗浄後の電子部品30bを得る。
【0085】
なお、上記のように、本発明において、本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄するとは、本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行った直後の処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄するということだけではなく、電子部品又は電子部品の製造器具の洗浄に用いられる超純水を製造する工程のいずれか1箇所又は2箇所以上で、本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行い、超純水の製造工程の全工程を行って得られる超純水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄するということを意味する。
【0086】
<本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法>
本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法は、本発明の白金族金属担持触媒の存在下で、酸素を含有する被処理水中の溶存酸素と水素とを反応させて水を生成させることにより、酸素を含有する被処理水から溶存酸素を除去する溶存酸素の除去処理水の製造方法である。
【0087】
酸素を含有する被処理水は、酸素を含有するものであれば、特に制限されず、例えば、半導体製造等の電子部品の製造及び電子部品の製造器具等を洗浄するための超純水の製造に用いられる原水又はその製造工程中の種々の水等が挙げられ、具体的には、超純水製造サブシステムの循環水、例えば、紫外線酸化装置の出口水等が挙げられる。また、溶存酸素を含有する被処理水としては、他には、発電所で用いられる用水、各種工場で用いられるボイラー水や冷却水等が挙げられる。
【0088】
酸素を含有する被処理水中の溶存酸素濃度は、特に制限されないが、通常、0.01〜10mg/Lである。
【0089】
溶存酸素と反応させる水素の量は、特に制限されないが、酸素濃度の1倍当量〜10倍当量、好ましくは1.1倍当量〜5倍当量である。
【0090】
本発明の白金族金属担持触媒の存在下で、酸素を含有する被処理水中の溶存酸素と水素を反応させる方法としては、特に制限されず、例えば、触媒充填塔に、本発明の白金族金属担持触媒を充填し、触媒充填塔に、酸素を含有する被処理液を供給すると共に、被処理液の供給管内に、水素ガスを注入することにより、本発明の白金族金属担持触媒に、溶存水素と溶存酸素を含有する被処理水とを通液する方法等が挙げられる。
【0091】
上記の方法の場合、本発明の白金族金属担持触媒に、酸素を含有する被処理水を、SV=2000〜20000h−1、好ましくはSV=5000〜10000h−1で通水することができる。本発明の白金族金属担持触媒を用いると、SVが2000h−1を超えるような大きなSVで被処理水を通水しても、溶存酸素の除去が可能である。更に、SVが10000h−1であっても、本発明の白金族金属担持触媒を用いると、溶存酸素の除去が可能であり、本発明の白金族金属担持触媒は、粒子状アニオン交換樹脂に白金族金属ナノ粒子を担持した従来の担持触媒の処理限界を大きく上回る、卓越した性能を示す。本発明の白金族金属担持触媒への酸素を含有する被処理水の通水速度は、特に制限されないが、好ましくはSV=2000〜20000h−1、特に好ましくはSV=5000〜10000h−1である。なお、本発明の白金族金属担持触媒は、溶存酸素除去能力が著しく高いため、粒子状アニオン交換樹脂に白金族金属ナノ粒子を担持した従来の担持触媒の処理限界を大きく上回る通水速度で、被処理水を通水しても、被処理水中の溶存酸素を分解することができる。
【0092】
更に、本発明の白金族金属担持触媒は、溶存酸素除去能力が著しく高いため、触媒の充填層高を薄くしても溶存酸素の除去が可能である。
【0093】
本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行い得られる処理水中の溶存酸素濃度は、10μg/L以下であることが好ましい。
【0094】
本発明の電子部品の洗浄方法(II)は、本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄する電子部品の洗浄方法である。
【0095】
空気中の酸素は水中に溶存酸素として溶け込む。溶存酸素は超純水中の不純物として管理され、前述のように、超純水製造装置の二次純水系システム入り口における被処理水(一次純水)中の溶存酸素濃度は、通常、100μg/L以下にまで低減されている。更に、10μg/L以下に管理されている場合もある。そして、超純水中の溶存酸素濃度は、10μg/L以下、更には1μg/L以下に管理されている場合もある。一方、超純水の製造工程では、紫外線酸化処理等により発生した過酸化水素が分解する際に酸素が生じる。そこで、本発明の電子部品の洗浄方法(II)の形態例では、本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行う溶存酸素除去工程を行い、得られた処理水を、電子部品の洗浄方法の各工程に供給される洗浄水(洗浄液)又はその調製用の超純水とする。
【0096】
本発明の電子部品の洗浄方法(II)の第一の形態例は、図2中の過酸化水素除去工程25、26、27及び28を、超純水32を被処理水として本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行う溶存酸素除去工程に代えたものである。そして、洗浄前の電子部品20aを被洗浄物として、第1工程21〜第4工程24を順に行い、洗浄後の電子部品30aを得る。
【0097】
本発明の電子部品の洗浄方法(II)の第二の形態例は、図3中の第3、5、9及び11工程に供給される洗浄水(洗浄液)63、65、69及び71を、超純水を被処理水として本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行う溶存酸素除去工程を行い、得られた処理水に各工程で必要な薬剤を溶解させることにより調製し、また、図3中の第2、4、6、7、8、10及び12工程に供給される洗浄水62、64、66、67、68、70及び72を、超純水を被処理水として本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行う溶存酸素除去工程を行うことにより得るものである。そして、洗浄前の電子部品20bを被洗浄物として、第1工程40〜第12工程52を順に行い、洗浄後の電子部品30bを得る。
【0098】
なお、上記のように、本発明において、本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄するとは、本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行った直後の処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄するということだけではなく、電子部品又は電子部品の製造器具の洗浄に用いられる超純水を製造する工程のいずれか1箇所又は2箇所以上で、本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行い、超純水の製造工程の全工程を行って得られる超純水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄するということを意味する。
【実施例】
【0099】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0100】
<モノリスアニオン交換体の製造(参考例1)>
(I工程;モノリス中間体の製造)
スチレン19.9g、ジビニルベンゼン0.4g、ソルビタンモノオレエート(以下SMOと略す)1.1gおよび2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.26gを混合し、均一に溶解させた。次に、当該スチレン/ジビニルベンゼン/SMO/2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)混合物を、THF1.8mlと180mlの純水よりなる混合液に添加し、遊星式撹拌装置である真空撹拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて5〜20℃の温度範囲において減圧下撹拌して、油中水滴型エマルションを得た。このエマルションを速やかに反応容器に移し、密封後静置下で60℃、24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、メタノールで抽出した後、減圧乾燥して、連続マクロポア構造を有する架橋密度1.3モル%のモノリス中間体を製造した。水銀圧入法により測定した該モノリス中間体のマクロポアとマクロポアが重なる部分の開口(メソポア)の平均直径は56μm、全細孔容積は7.5ml/gであった。
【0101】
(モノリスの製造)
次いで、スチレン59.4g、ジビニルベンゼン0.6g、1-オクタノール50g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.5gを混合し、均一に溶解させた(II工程)。次に上記モノリス中間体を直径70mm、厚さ約30mmの円盤状に切断して7.7gを分取した。分取したモノリス中間体を内径89mmの反応容器に入れ、当該スチレン/ジビニルベンゼン/1-オクタノール/2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)混合物に浸漬させ、減圧チャンバー中で脱泡した後、反応容器を密封し、静置下60℃で24時間重合させた。重合終了後、厚さ約60mmのモノリス状の内容物を取り出し、アセトンでソックスレー抽出した後、85℃で一夜減圧乾燥した(III工程)。
【0102】
このようにして得られたスチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる架橋成分を0.6モル%含有したモノリス(乾燥体)の内部構造を、SEMにより観察した結果を図4に示す。当該モノリスは連続マクロポア構造を有しており、連続マクロポア構造体を構成する骨格部にもハニカム状の多孔構造が導入されていた。水銀圧入法により測定した当該モノリスの開口の平均直径は35μm、全細孔容積は1.7ml/g、比表面積は55.2m2/gであった。
【0103】
(モノリスアニオン交換体の製造)
上記の方法で製造したモノリスを、直径70mm、厚み約15mmの円盤状に切断した。これにジメトキシメタン1400ml、四塩化スズ40mlを加え、氷冷下クロロ硫酸560mlを滴下した。滴下終了後、昇温して35℃で5時間反応させ、クロロメチル基を導入した。反応終了後、母液をサイフォンで抜き出し、THF/水=2/1の混合溶媒で洗浄した後、更にTHFで洗浄した。このクロロメチル化モノリスにTHF1000mlとトリメチルアミン30%水溶液600mlを加え、60℃、6時間反応させた。反応終了後、生成物をメタノール/水混合溶媒で洗浄し、次いで純水で洗浄して単離した。
【0104】
得られたモノリスアニオン交換体の反応前後の膨潤率は1.5倍であり、体積当りのアニオン交換容量は水湿潤状態で0.75mg当量/mlであった。水湿潤状態でのモノリスアニオン交換体の開口の平均直径を、モノリスの値と水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の膨潤率から見積もったところ53μmであった。また、全細孔容積は1.7ml/g、比表面積は55.2m2/gであった。
【0105】
次に、モノリスアニオン交換体中の四級アンモニウム基の分布状態を確認するため、モノリスアニオン交換体を塩酸水溶液で処理して塩化物形とした後、EPMAにより塩化物アニオンの分布状態を観察した。その結果、塩化物アニオンはモノリスアニオン交換体の骨格表面のみならず、骨格内部にも均一に分布しており、四級アンモニウム基がモノリスアニオン交換体中に均一に導入されていることが確認できた。
【0106】
なお、水を透過させた際の圧力損失の指標である差圧係数は、0.016MPa/m・LVであり、実用上支障のない低い圧力損失であった。更に、該モノリスアニオン交換体のフッ化物アニオンに関するアニオン交換帯長さを測定したところ、LV=20m/hにおけるアニオン交換帯長さは15mmであり、市販の強塩基性アニオン交換樹脂であるアンバーライトIRA402BL(ロームアンドハース社製)の値(165mm)に比べて圧倒的に短かった。
【0107】
実施例1
(白金族金属担持触媒の調製)
参考例1のモノリスアニオン交換体をCl形にアニオン交換した後、水湿潤状態で円柱状に切り出し、減圧乾燥した。乾燥後のモノリスアニオン交換体の重量は、1.0gであった。この乾燥状態のモノリスアニオン交換体を、塩化パラジウム270mgを溶解した希塩酸に24時間浸漬し、塩化パラジウム酸形にアニオン交換した。浸漬終了後、モノリスアニオン交換体を純水で数回洗浄し、ヒドラジン水溶液中に24時間浸漬して還元処理を行った。塩化パラジウム酸形モノリスアニオン交換体が茶色であったのに対し、還元処理終了後のモノリスアニオン交換体は黒色に着色しており、パラジウムナノ粒子の生成が示唆された。このようにして得られたパラジウムナノ粒子担持触媒aを数回純水で洗浄し、乾燥した。
【0108】
乾燥状態のパラジウムナノ粒子担持触媒aに担持されたパラジウムナノ粒子の担持量は、9.7重量%であった。担持されたパラジウムナノ粒子の平均粒子径を測定するため、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った。得られたTEM画像を図5に示す。パラジウムナノ粒子の平均粒子径は、6nmであった。乾燥状態のパラジウムナノ粒子担持触媒aを内径10mmのカラムに充填し、水酸化ナトリウム水溶液を通液して担体であるモノリスアニオン交換体をOH形とし、過酸化水素分解特性の評価に用いた。パラジウムナノ粒子担持触媒aの充填層高は10mmであった。このとき、水湿潤状態の樹脂体積に対するパラジウムナノ粒子の担持量は、8.6g−Pd/L−R(パラジウムナノ粒子担持触媒1L当たりに担持されているパラジウム重量)であった。
【0109】
(触媒の評価)
内径10mmのカラムに充填した上記のパラジウムナノ粒子担持触媒aに、過酸化水素15〜30μg/Lを含む超純水をSV=5000h−1にて27時間下向流で通水し、カラム出口で試料水を採水し過酸化水素濃度を測定した。その結果、カラム出口で採水した試料水中の過酸化水素濃度は1μg/L未満であり、過酸化水素は分解除去されていた。次に、SVを10000h−1とし、同様の処理を行った。カラム出口で採水した試料水中の過酸化水素濃度は、SVが10000h−1と非常に速く、触媒の充填層高が10mmと薄いにもかかわらず、1μg/L未満であり、過酸化水素は分解除去されていた。
【0110】
比較例1
水分保有能力がOH形基準において60〜70%であり、ゲル形である粒子状の強塩基性アニオン交換樹脂(I形)に公知の方法でパラジウムナノ粒子を担持し、パラジウムナノ粒子担持粒状アニオン交換樹脂触媒を得た。Cl形の粒子状アニオン交換樹脂を塩化パラジウムの塩酸水溶液に浸漬し、水洗後に、ヒドラジン水溶液で還元処理を行った。水酸化ナトリウム水溶液を通液して粒子状のアニオン交換樹脂をOH形とし、過酸化水素分解特性の評価に用いた。このとき、パラジウムナノ粒子担持量は、乾燥状態で0.4重量%、水湿潤状態で970mg−Pd/L−Rであった。このパラジウムを担持したOH形の粒子状アニオン交換樹脂を内径25mmのカラムに40mL(層高80mm)充填して実施例1と同じ方法で過酸化水素低減の実験を行った。
【0111】
(触媒の評価)
触媒として、パラジウムナノ粒子担持触媒aに代えて上記パラジウムナノ粒子担持粒状アニオン交換樹脂触媒を用いたこと、及び超純水をSV=1500h−1および2500h−1で通水したことを除いて、実施例1と同様の方法でパラジウムナノ粒子担持粒状アニオン交換樹脂触媒の過酸化水素分解効果を評価した。その結果、カラム出口で採水した試料水中の過酸化水素濃度はそれぞれ1μg/L未満、1.6μg/Lであった。SV=1500h−1においては、過酸化水素は1μg/L未満となったが、SVを2500h−1に上げると、過酸化水素は処理水中にリークした。このように、従来技術である粒子状アニオン交換樹脂にパラジウムナノ粒子を担持した触媒では、実施例よりも遅いSV、厚い触媒充填層高といった過酸化水素を除去しやすい条件を設定しても、SV=2500h−1では過酸化水素がリークした。
【0112】
比較例2
パラジウムナノ粒子を担持させず、参考例1のモノリスアニオン交換体のみを用いて、実施例1と同様の方法でSV=10000h−1における過酸化水素分解効果を評価した。その結果、過酸化水素の分解効果は認められなかった。
【0113】
実施例2
塩化パラジウム使用量を270mgから190mgに変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で参考例1のモノリスアニオン交換体にパラジウムナノ粒子を担持し、パラジウムナノ粒子担持触媒bを得た。
【0114】
乾燥状態のパラジウムナノ粒子担持触媒bに担持されたパラジウムナノ粒子の担持量は、6.8重量%であった。乾燥状態のパラジウムナノ粒子担持触媒bを内径10mmのカラムに充填し、溶存酸素除去特性の評価に用いた。触媒の充填層高は15mmであった。このとき、水湿潤状態の樹脂体積に対するパラジウムナノ粒子の担持量は6.1g−Pd/L−Rであった。
【0115】
(触媒の評価)
内径10mmのカラムに充填した上記パラジウムナノ粒子担持触媒bに、溶存酸素濃度32μg/L且つ溶存水素濃度11μg/Lに調整した超純水をSV=10000h−1にて通水し、カラム出口の処理水中の溶存酸素濃度が安定するまで測定を行った。その結果、カラム出口の溶存酸素濃度は3.6μg/Lに低減していた。
【0116】
(比較例3)
水分保有能力がOH形基準において60〜70%でありゲル形である粒子状の強塩基性アニオン交換樹脂(Cl形)にパラジウムを水湿潤状態で910mg−Pd/L−R担持させたCl形触媒樹脂を作製した。このCl形触媒樹脂を上記内径10mmのカラムに充填層高360mmで、SV=430h−1の流速で通水した以外は、実施例2と同様の方法で触媒評価を行った。その結果、処理水が安定した時点でのカラム出口溶存酸素濃度は4.1μg/Lであった。
実施例2と比較例3における評価結果を表1にまとめた。
【0117】
【表1】
【0118】
実施例2は、SV=10000h−1と非常に高流速であり、且つ、担持したパラジウム金属触媒の質量あたりの通水流速においても実施例2の方が比較例3に比べ多いにも関わらず、比較例3と同程度の溶存酸素濃度の処理水が得られた。このことから、本発明の白金族金属担持触媒を用いれば、高流速で低樹脂層高においても効果的な溶存酸素除去が可能であるため、触媒使用量の低減、装置の小型化と共に溶出物の低減が図れる。
【0119】
<モノリスの製造(参考例2〜12)>
(モノリスの製造)
スチレンの使用量、架橋剤の種類と使用量、有機溶媒の種類と使用量、スチレン及びジビニルベンゼン含浸重合時に共存させるモノリス中間体の多孔構造、架橋密度および使用量を表2に示す配合量に変更した以外は、参考例1と同様の方法でモノリスを製造した。その結果を表2に示す。また、参考例2〜9で得られたモノリス(乾燥体)の内部構造をSEMにより観察した結果を図6〜図13に示す。これらのSEM画像は、モノリスを任意の位置で切断して得た切断面の任意の位置における画像である。なお、図6の中央で傾斜して上下方向に延びる帯び状のものは内層部であり、多孔構造が表れる部分が表層部である。また、図9の3000倍のSEM画像から、切断面ではない、骨格表面には多孔構造が表れていないことが判る。表2から、参考例2〜9のモノリスは、いずれも連続マクロポア構造体の骨格部の表層部に多孔構造が導入されており、その比表面積も20m2/g以上と大きな値を示した。また、参考例2〜9のモノリスの多孔構造は、いずれも表層部中に、乾燥状態で平均直径が1〜15μmの細孔が無数に存在する、断面が所謂蜂の巣に類似する構造であった。また、表層部の厚みは概ね10〜50μmであった。一方、参考例10〜12で得られたモノリスの表層部には、多孔構造が導入されていなかった。
【0120】
【表2】
*1){(スチレン+ジビニルベンゼン)/(スチレン+ジビニルベンゼン+脂肪族アルコール)}×100
*2)骨格へ多孔構造が導入されている
*3)骨格へ多孔構造が導入されていない
【0121】
なお、上記参考例2〜9で得られたモノリスには、公知の方法を適宜適用することで、例えば、参考例1に示す方法で、アニオン交換基を導入することができる。また、参考例2〜9で得られたモノリスにアニオン交換基が導入されたモノリスアニオン交換体には、公知の方法を適宜適用することで、例えば、実施例1又は実施例2に示す方法で、白金族金属ナノ粒子を担持することができる。
【符号の説明】
【0122】
1 マクロポア
2 共通の開口(メソポア)
3 内層部
4 表層部
5 気泡(気相)部
6 連続マクロポア構造体の骨格部
7 表層部中の非連続孔10 連続マクロポア構造体
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電所用水や半導体製造などの精密加工洗浄用水に使用される、超純水中の過酸化水素や溶存酸素の様な酸化性物質を除去するための白金族金属担持触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電所で用いられる用水中の溶存酸素は、配管や熱交換器等の部材の腐食を引き起こすことが知られており、特に、原子力発電所の一次系及び二次系においては、溶存酸素を極力低減する必要がある。
【0003】
また、半導体製造産業においては、不純物を高度に除去した超純水を用いてシリコンウエハの洗浄等が行われている。超純水は、一般に原水(河川水、地下水、工業用水等)中に含まれる懸濁物質や有機物の一部を前処理工程で除去した後、その処理水を一次純水系システム及び二次純水系システム(サブシステム)で順次処理することによって製造され、ウエハ洗浄を行うユースポイントに供給される。このような超純水は、不純物の定量も困難であるほどの純度を有するが、全く不純物を有していないわけではない。
【0004】
例えば、超純水中に含まれる溶存酸素は、シリコンウエハの表面に自然酸化膜を形成する。自然酸化膜がウエハ表面に形成されると、低温でのエピタキシャルSi薄膜の成長を妨げたり、ゲート酸化膜の膜圧及び膜質の精密制御の妨げとなったり、コンタクトホールのコンタクト抵抗の増加原因となったりする。そのため、ウエハ表面の自然酸化膜の形成は、極力抑制する必要がある。
【0005】
そこで、超純水製造装置においては、特に一次純水系システムにおいて、脱気装置を用いて溶存酸素を低減している。この脱気装置により、二次純水系システム入り口における被処理水(一次純水)中の溶存酸素濃度は、通常、100μg/L以下にまで低減されている。更に、10μg/L以下に管理されている場合もある。
【0006】
前述した超純水の製造では、一般に、二次純水系システムに設置した紫外線酸化装置によって有機物の分解を行っている。紫外線酸化処理の過程では過酸化水素が副生するため、紫外線酸化装置の処理水中には、過酸化水素が残存しているのが一般的である。この過酸化水素は、二次純水系システムのポリッシャ工程で部分的に分解されて酸素を生成し、処理水中の溶存酸素濃度を上昇させてしまう。
【0007】
そこで、紫外線酸化装置の処理水中に含まれる過酸化水素を、合成炭素系粒状吸着剤を用いて吸着除去する方法が提案されている(特開平9−29233号公報)。この方法によれば、紫外線酸化装置の処理水中に残存する過酸化水素自体を除去することから、ウエハ表面の自然酸化皮膜の形成を抑制することが可能である。しかし、この方法では、所定の過酸化水素除去率を達成するためには、多量の合成炭素系粒状吸着剤を充填した大型の吸着塔が必要であった。
【0008】
また、紫外線酸化装置の処理水中に含まれる過酸化水素を、白金族金属ナノコロイド粒子を担体に担持させた触媒によって分解する方法が提案されている(特開2007−185587号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−29233号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2007−185587号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2009−62512号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2009−67982号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特開2007−185587号公報に記載の触媒は、通水空間速度(SV)が100〜2000h−1と比較的低い領域でしか使用できず、SVが2000h−1を越えると、過酸化水素の分解除去が不十分になるといった欠点を有していた。
【0011】
従って、本発明の目的は、SVが2000h−1を超えるような大きなSVで通水しても過酸化水素の分解除去又は溶存酸素の除去が可能であり、更に、触媒の充填層高が薄くても過酸化水素の分解除去又は溶存酸素の除去が可能な高性能触媒を提供することにある。
【0012】
なお、有機多孔質体及び有多孔質イオン交換体としては、特開2009−62512号公報(特許文献3)及び特開2009−67982号公報(特許文献4)に開示がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、特開2002−306976号公報記載の方法で得られた比較的大きな細孔容積を有するモノリス状有機多孔質体(中間体)の存在下に、ビニルモノマーと架橋剤を、特定の脂肪族アルコール中、特定の組成で静置重合すれば、開口径が大きくでき、連続マクロポア構造体を形成する骨格の表面層に更に多孔構造を導入できること、また、上記新規構造を有するモノリス状有機多孔質体にアニオン交換基を導入したモノリス状の有機多孔質アニオン交換体は、イオン交換が迅速かつ均一であるばかりでなく、体積当りの吸着容量やイオン交換容量が大きく、開口の平均直径が大きいため圧力損失が格段に小さく、連続マクロポア構造を維持しているため機械的強度が高く、ハンドリング性に優れ、微粒子の捕捉能力に優れる等、従来のモノリス状有機多孔質体やモノリス状有機多孔質アニオン交換体が達成できなかった、優れた特性を兼備していることなどを見出した。そして、この新規構造型モノリス状有機多孔質体にアニオン交換基を導入して得られるモノリス状の有機多孔質アニオン交換体に、平均粒子径1〜100nmの白金族金属のナノ粒子を担持した白金族金属担持触媒は、SVが2000h−1を超えるような大きなSVで通水しても過酸化水素の分解除去又は溶存酸素の除去が可能であり、更に、触媒の充填層高が薄くても過酸化水素の分解除去又は溶存酸素の除去が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明(1)は、有機多孔質アニオン交換体に、平均粒子径1〜100nmの白金族金属のナノ粒子が、担持されている白金族金属担持触媒であり、
該有機多孔質アニオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径20〜300μmの開口となる連続マクロポア構造体であり、該連続マクロポア構造体の骨格部の表層部が多孔構造であり、水湿潤状態での体積当たりのアニオン交換容量が0.4mg当量/ml以上であり、アニオン交換基が該多孔質アニオン交換体中に均一に分布しており、
該白金族金属の担持量が、乾燥状態で0.004〜20重量%であること、
を特徴とする白金族金属担持触媒を提供するものである。
【0015】
また、本発明(2)は、本発明(1)の白金族金属担持触媒に、過酸化水素を含有する被処理水を接触させて、該過酸化水素を含有する被処理水中の過酸化水素を分解除去することを特徴とする過酸化水素の分解処理水の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(3)は、本発明(2)の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄することを特徴とする電子部品の洗浄方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(4)は、本発明(1)の白金族金属担持触媒の存在下で、水素と酸素を含有する被処理水中の溶存酸素とを反応させて水を生成させることにより、該酸素を含有する被処理水から溶存酸素を除去することを特徴とする溶存酸素の除去処理水の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(5)は、本発明(4)の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄することを特徴とする電子部品の洗浄方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の白金族金属担持触媒によれば、SVが2000h−1を超えるような大きなSVで通水しても過酸化水素の分解除去又は溶存酸素の除去が可能であり、更に、触媒の充填層高が薄くても過酸化水素の分解除去又は溶存酸素の除去が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のモノリスアニオン交換体の構造を説明するための模式図である。
【図2】本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例の模式的なフロー図である。
【図3】本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第二の形態例の模式的なフロー図である。
【図4】参考例1で得たモノリスのSEM画像である。
【図5】実施例1で得た白金族金属担持触媒におけるパラジウムナノ粒子の分散状態を示したTEM画像である。
【図6】参考例2で得たモノリスのSEM画像である。
【図7】参考例3で得たモノリスのSEM画像である。
【図8】参考例4で得たモノリスのSEM画像である。
【図9】参考例5で得たモノリスのSEM画像である。
【図10】参考例6で得たモノリスのSEM画像である。
【図11】参考例7で得たモノリスのSEM画像である。
【図12】参考例8で得たモノリスのSEM画像である。
【図13】参考例9で得たモノリスのSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の白金族金属担持触媒の担体として用いられる有機多孔質アニオン交換体は、骨格部の表層部に多孔構造を有するモノリス状の有機多孔質アニオン交換体である。本明細書中、「モノリス状の有機多孔質体」を単に「モノリス」と、「モノリス状の有機多孔質アニオン交換体」を単に「モノリスアニオン交換体」と、「モノリス状の有機多孔質中間体」を単に「モノリス中間体」とも言う。
【0022】
<モノリスアニオン交換体の説明>
本発明に係るモノリスアニオン交換体の基本構造を模式図である図1を参照して説明する。図1中、右側の四角図は、モノリスアニオン交換体の壁部(骨格部)Aを拡大した模式図である。モノリスアニオン交換体10は気泡状のマクロポア1同士が重なり合い、この重なる部分が共通の開口(メソポア)2となる連続マクロポア構造であり、開口2の平均直径が水湿潤状態で20〜300μm、好ましくは20〜200μm、特に20〜150μmであり、マクロポア1と開口2で形成される連続気泡内が流路となる。モノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、モノリスにアニオン交換基を導入する際、モノリス全体が膨潤するため、モノリスの開口の平均直径よりも大となる。連続マクロポア構造は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。モノリスアニオン交換体の水湿潤状態での開口(メソポア)の平均直径が20μm未満であると、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、また、水湿潤状態での開口(メソポア)の平均直径が300μmを超えると、被処理水とモノリスアニオン交換体および担持された白金族金属ナノ粒子との接触が不十分となり、その結果、過酸化水素分解特性又は溶存酸素の除去特性が低下してしまうため好ましくない。
【0023】
本発明では、乾燥状態のモノリス中間体の開口の平均直径、乾燥状態のモノリスの開口の平均直径及び乾燥状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値である。また、水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、乾燥状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径に、膨潤率を乗じて算出される値である。具体的には、水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の直径がx1(mm)であり、その水湿潤状態のモノリスアニオン交換体を乾燥させ、得られる乾燥状態のモノリスアニオン交換体の直径がy1(mm)であり、この乾燥状態のモノリスアニオン交換体を水銀圧入法により測定したときの開口の平均直径がz1(μm)であったとすると、水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径(μm)は、次式「水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径(μm)=z1×(x1/y1)」で算出される。また、アニオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの開口の平均直径、及びその乾燥状態のモノリスにアニオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の膨潤率がわかる場合は、乾燥状態のモノリスの開口の平均直径に、膨潤率を乗じて、水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径を算出することもできる。
【0024】
なお、モノリスアニオン交換体10は骨格の表層部に多孔構造を有するが、骨格中に占める表層部の割合が小さいこと、更に多孔構造が「巣」のような非連続孔が大部分であることから、水銀圧入法によりメソポアの平均直径を求めることができる。
【0025】
モノリスアニオン交換体10において、連続マクロポア構造体の骨格部6は内層部3と表層部4からなり、表層部4が多孔構造である。すなわち多孔構造は表層部4中に水湿潤状態で直径が0.1〜30μm、特に0.1〜15μmの細孔7が無数に存在する、表層部の断面が所謂蜂の巣に類似する構造のものである。多数の細孔7は、互いに独立のものあるいは隣接の孔同士が連通しているものもある。水湿潤状態で表層部4の厚みは概ね1〜45μmである。なお、図1中、符号5は気相(気泡)部である。骨格部6の多孔構造は、連続マクロポア構造体(乾燥体)を切断した面のSEM(走査型電子顕微鏡による二次電子像)画像で確認することができる。すなわち、モノリスアニオン交換体10としては、多孔構造を構成する細孔7が外部から観察されないもの(以下、「一体型モノリスアニオン交換体」とも言う。)又は骨格切断面などの端面に多孔構造を構成する細孔7が外部から観察されるもの(以下、「切断型モノリスアニオン交換体」とも言う。)が挙げられる。一体型モノリスアニオン交換体は反応容器から取り出し切断を施さないものであり、切断型モノリスアニオン交換体は刃物等で切断した例えばサイコロ形状のものである。本発明に係るモノリスアニオン交換体に白金族金属を担持した本発明の白金族金属担持触媒を、触媒として使用すれば、多孔構造の表面層に対する液の浸透が速く、液とアニオン交換基との接触効率が高くなり、触媒活性が高くなる。
【0026】
上記連続マクロポア構造体の水湿潤状態での表層部の細孔直径は、乾燥状態のモノリスアニオン交換体のSEM観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の細孔直径を測定し、その平均値に、膨潤率を乗じて算出される値である。具体的には、水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の直径がx2(mm)であり、その水湿潤状態のモノリスアニオン交換体を乾燥させ、得られる乾燥状態のモノリスアニオン交換体の直径がy2(mm)であり、この乾燥状態のモノリスアニオン交換体のSEM観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の細孔直径を測定し、その平均値がz2(μm)であったとすると、モノリスアニオン交換体の連続構造体の表層部の水湿潤状態での細孔直径(μm)は、次式「モノリスアニオン交換体の連続マクロポア構造体の表層部の水湿潤状態での細孔直径(μm)=z2×(x2/y2)」で算出される。また、アニオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの表層部の細孔直径、及びその乾燥状態のモノリスにアニオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の膨潤率がわかる場合は、乾燥状態のモノリスの表層部の細孔直径に、膨潤率を乗じて、水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の表層部の細孔直径を算出することもできる。なお、モノリスアニオン交換体の表層部の厚みも同様の方法で算出することができる。
【0027】
なお、切断型モノリスアニオン交換体は、骨格部の表層部の多孔構造が表面に表れるため比表面積が格段に大きく、ほとんどの場合、モノリスアニオン交換体を乾燥させて測定した比表面積は20〜70m2/gである。切断型モノリスアニオン交換体は、比表面積が大きいため、これに白金族金属を担持した本発明の白金族金属担持触媒を触媒として用いた場合、流体との接触面積が大きく、かつ流体の円滑な流通が可能となるため、優れた触媒性能が発揮できる。なお、本発明では、モノリス及びモノリスアニオン交換体の比表面積は、乾燥体を水銀圧入法により測定した値である。
【0028】
本発明に係るモノリスアニオン交換体は、水湿潤状態での体積当りのアニオン交換容量が0.4mg当量/ml以上、好ましくは0.4〜1.8mg当量/mlのアニオン交換容量を有する。モノリスアニオン交換体の体積当りのアニオン交換容量が0.4mg当量/ml未満であると、体積当りの白金族金属のナノ粒子担持量が低下してしまうため好ましくない。一方、モノリスアニオン交換体の体積当りのアニオン交換容量が1.8mg当量/mlを超えると、通水時の圧力損失が増大してしまうため好ましくない。なお、本発明に係るモノリスアニオン交換体の乾燥状態における重量当りのアニオン交換容量は特に限定されないが、アニオン交換基がモノリスアニオン交換体の骨格表面及び骨格内部にまで均一に導入されているため、3〜5mg当量/g(乾燥体)である。なお、アニオン交換基が骨格の表面のみに導入された有機多孔質アニオン交換体のアニオン交換容量は、有機多孔質体やアニオン交換基の種類により一概には決定できないものの、せいぜい500μg当量/g(乾燥体)である。
【0029】
本発明に係るモノリスアニオン交換体において、導入されたアニオン交換基は、有機多孔質体の表面のみならず、有機多孔質体の骨格内部にまで均一に分布している。ここで言う「アニオン交換基が均一に分布している」とは、アニオン交換基の分布が少なくともμmオーダーで表面および骨格内部に均一に分布していることを指す。アニオン交換基の分布状況は、対アニオンを塩化物イオン、臭化物イオンなどにイオン交換した後、EPMAを用いることで、比較的簡単に確認される。また、アニオン交換基が、モノリスアニオン交換体の表面のみならず、骨格内部にまで均一に分布していると、表面と内部の物理的性質及び化学的性質を均一にできるため、膨潤及び収縮に対する耐久性が向上する。
【0030】
特開2002−306976号に記載されているような本発明とは異なる連続マクロポア構造を有する従来型のモノリス状有機多孔質イオン交換体では、実用的に要求される低い圧力損失を達成するために、開口径を大きくすると、全細孔容積もそれに伴って大きくなってしまうため、体積当りのイオン交換容量が低下し、体積当りの交換容量を増加させるために全細孔容積を小さくしていくと、開口径が小さくなってしまうため圧力損失が増加するといった欠点を有していた。それに対して、本発明に係るモノリスアニオン交換体は、開口径を大きくすると共に、連続マクロポア構造体の骨格を太くする(骨格の壁部を厚くする)ことができ、且つ表面層に多孔構造を有するため、透過時の圧力損失を低く押さえたままで触媒活性を飛躍的に大きくすることができる。
【0031】
本発明に係るモノリスアニオン交換体のアニオン交換基としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基や、トリメチルアミノ基、トリエチルアミノ基、トリブチルアミノ基等の三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。
【0032】
本発明に係るモノリスアニオン交換体は、その厚みは1mm以上であり、膜状の多孔質体とは区別される。厚みが1mm未満であると、多孔質体1枚当たりのアニオン交換容量が極端に低くなるため好ましくない。本発明に係るモノリスアニオン交換体の厚みは、好ましくは3〜1000mmである。また、本発明に係るモノリスアニオン交換体は、骨格の基本構造が連続マクロポア構造であるため、機械的強度が高い。
【0033】
また、本発明に係るモノリスアニオン交換体は、0.5〜5ml/g、好適には0.8〜4ml/gの全細孔容積を有するものである。全細孔容積が0.5ml/g未満であると、単位断面積当りの透過液量や透過気体量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が5ml/gを越えると、触媒活性が低下してしまうため好ましくない。なお、本発明では、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリスアニオン交換体)の全細孔容積は、水銀圧入法により測定される値である。また、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリスアニオン交換体)の全細孔容積は、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
【0034】
なお、本発明に係るモノリスアニオン交換体に水を透過させた際の圧力損失は、モノリスアニオン交換体を1m充填したカラムに通水線速度(LV)1m/hで通水した際の圧力損失(以下、「差圧係数」と言う。)で示すと、0.005〜0.1MPa/m・LVの範囲、特に0.005〜0.05MPa/m・LVであることが好ましい。
【0035】
本発明に係るモノリスアニオン交換体において、連続マクロポア構造体の骨格を構成する材料、すなわち、内層部3及び表層部4の骨格部41は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.1〜10モル%、好適には0.2〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.1モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、10モル%を越えると、連続マクロポア構造体の骨格部分への多孔構造導入が認められなくなるため好ましくない。該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリビニルトルエン、ポリビニルベンジルクロライド、ポリビニルビフェニル、ポリビニルナフタレン等の芳香族ビニルポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化ポリオレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸グリシジル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー等の架橋重合体が挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、連続マクロポア構造形成の容易さ、アニオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸及びアルカリに対する安定性の高さから、芳香族ビニルポリマーの架橋重合体が好ましく、特に、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
【0036】
<モノリスアニオン交換体の製造方法>
本発明に係るモノリスアニオン交換体は、アニオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルションを調製し、次いで油中水滴型エマルションを重合させて全細孔容積が5〜16ml/gの連続マクロポア構造のモノリス状の有機多孔質中間体(モノリス中間体)を得るI工程、ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する架橋剤、炭素数3〜9の脂肪族アルコール及び重合開始剤からなる混合物を調製する工程であって、ビニルモノマー、架橋剤及び脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度(重量%)を56〜80%とするか、若しくはビニルモノマー濃度を40%以上、56%未満とし、且つビニルモノマーと架橋剤の合計量に対する該架橋剤の量を0.1〜1モル%とするII工程、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体の存在下に重合を行い、モノリス状の有機多孔質体(モノリス)を得るIII工程、該III工程で得られたモノリスにアニオン交換基を導入するIV工程、を行うことにより得られる。
【0037】
なお、本発明に係るモノリスアニオン交換体の製造方法において、I工程は、特開2002−306976号公報記載の方法に準拠して行なえばよい。
【0038】
(モノリス中間体の製造方法)
I工程のモノリス中間体の製造において、アニオン交換基を含まない油溶性モノマーとしては、例えば、三級アミノ基や四級アンモニウム基等のアニオン交換基を含まず、水に対する溶解性が低く、親油性のモノマーが挙げられる。これらモノマーの好適なものとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ジビニルベンゼン、エチレン、プロピレン、イソブテン、ブタジエン、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これらモノマーは、一種単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。ただし、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート等の架橋性モノマー(架橋剤)を少なくとも油溶性モノマーの一成分として選択し、その含有量を全油溶性モノマー中、0.1〜10モル%、好ましくは0.2〜5モル%とすることが、後の工程でアニオン交換基量を定量的に導入できるため好ましい。
【0039】
界面活性剤は、アニオン交換基を含まない油溶性モノマーと水とを混合した際に、油中水滴型(W/O)エマルションを形成できるものであれば特に制限はなく、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等の非イオン界面活性剤;オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等の陰イオン界面活性剤;ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤;ラウリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤を用いることができる。これら界面活性剤は一種単独又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、油中水滴型エマルションとは、油相が連続相となり、その中に水滴が分散しているエマルションを言う。上記界面活性剤の添加量としては、油溶性モノマーの種類および目的とするエマルション粒子(マクロポア)の大きさによって大幅に変動するため一概には言えないが、油溶性モノマーと界面活性剤の合計量に対して約2〜70%の範囲で選択することができる。
【0040】
また、I工程では、油中水滴型エマルション形成の際、必要に応じて重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤は、熱又は光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は水溶性であっても油溶性であってもよく、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素−塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム−酸性亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
アニオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び重合開始剤を混合し、油中水滴型エマルションを形成させる際の混合方法としては、特に制限はなく、各成分を一括して一度に混合する方法、油溶性モノマー、界面活性剤及び油溶性重合開始剤である油溶性成分と、水や水溶性重合開始剤である水溶性成分とを別々に均一溶解させた後、それぞれの成分を混合する方法などが使用できる。エマルションを形成させるための混合装置についても特に制限はなく、通常のミキサーやホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等を用いることができ、目的のエマルション粒径を得るのに適切な装置を選択すればよい。また、混合条件についても特に制限はなく、目的のエマルジョン粒径を得ることができる攪拌回転数や攪拌時間を、任意に設定することができる。
【0042】
I工程で得られるモノリス中間体は、連続マクロポア構造を有する。これを重合系に共存させると、モノリス中間体の構造を鋳型としてモノリス中間体の骨格表面に多孔構造の表層部が形成されるため、表面層が多孔構造を有する骨太骨格を有する多孔質体構造が形成される。また、モノリス中間体は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.1〜10モル%、好ましくは0.2〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.1モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくない。特に、全細孔容積が10〜16ml/gと大きい場合には、連続マクロポア構造を維持するため、架橋構造単位を0.2モル%以上含有していることが好ましい。一方、10モル%を越えると、連続マクロポア構造体の骨格部の表層部に多孔構造を導入することが困難となる。
【0043】
モノリス中間体のポリマー材料の種類としては、特に制限はなく、前述のモノリスアニオン交換体のポリマー材料と同じものが挙げられる。これにより、モノリス中間体の骨格に同様のポリマーを形成して、表層部に多孔構造を有する骨太の骨格構造のモノリスを得ることができる。
【0044】
モノリス中間体の全細孔容積は、5〜16ml/g、好適には6〜16ml/gである。モノリス中間体の全細孔容積が小さ過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの全細孔容積が小さくなりすぎ、被処理水透過時の圧力損失が大きくなるため好ましくない。一方、モノリス中間体の全細孔容積が大き過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの構造が連続マクロポア構造から逸脱するため好ましくない。モノリス中間体の全細孔容積を上記数値範囲とするには、モノマーと水の比(重量)を、概ね1:5〜1:16とすればよい。
【0045】
また、モノリス中間体は、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)の乾燥状態での平均直径が15〜200μmである。モノリス中間体の乾燥状態での開口の平均直径が15μm未満であると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が小さくなり、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。一方、モノリス中間体の乾燥状態での開口の平均直径が200μmを超えると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が大きくなり過ぎ、被処理水とモノリスアニオン交換体との接触が不十分となり、その結果、過酸化水素分解特性又は溶存酸素除去特性が低下してしまうため好ましくない。モノリス中間体は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。
【0046】
(モノリスの製造方法)
II工程は、ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第2架橋剤、炭素数3〜9の脂肪族アルコール及び重合開始剤からなる混合物を調製する工程であって、ビニルモノマー、第2架橋剤及び脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度(重量%)を56〜80%とするか、若しくはビニルモノマー濃度を40%以上、56%未満とし、且つビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対する該第2架橋剤の量を0.1〜1モル%とする工程である。なお、I工程とII工程の順序はなく、I工程後にII工程を行ってもよく、II工程後にI工程を行ってもよい。
【0047】
II工程で用いられるビニルモノマーとしては、分子中に重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒に対する溶解性が高い親油性のビニルモノマーであれば、特に制限はない。これらビニルモノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のα-オレフィン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。これらモノマーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明で好適に用いられるビニルモノマーは、スチレン、ビニルベンジルクロライド等の芳香族ビニルモノマーである。
【0048】
ビニルモノマー、第2架橋剤及び脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度(重量%)が56〜80%の場合、ビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対する該第2架橋剤の量は、好ましくは0.1〜5モル%、更に好ましくは0.3〜4モル%である。一方、ビニルモノマー、第2架橋剤及び脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度が40%以上、56%未満の場合、ビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対する該第2架橋剤の量は0.1〜1モル%、好ましくは0.2〜1モル%である。ビニルモノマー濃度が上記範囲を逸脱すると、骨格部への多孔構造導入が認められなくなる。また、ビニルモノマー濃度が80%を超えると、重合熱の除熱が困難となり、重合反応の制御が困難になるため好ましくない。
【0049】
これらビニルモノマーの添加量は、重合時に共存させるモノリス中間体に対して、重量で3〜70倍、好ましくは4〜50倍である。ビニルモノマー添加量がモノリス中間体に対して3倍未満であると、骨格部への多孔構造導入が困難になるため好ましくない。一方、ビニルモノマー添加量が70倍を超えると、開口径が小さくなり、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。
【0050】
II工程で用いられる第2架橋剤は、分子中に少なくとも2個の重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒への溶解性が高いものが好適に用いられる。第2架橋剤の具体例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールジアクリレート等が挙げられる。これら第2架橋剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい第2架橋剤は、機械的強度の高さと加水分解に対する安定性から、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル等の芳香族ポリビニル化合物である。第2架橋剤の使用量は、ビニルモノマー、第2架橋剤、脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度(重量%)により変動するが、ビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対して0.1〜5モル%、特に0.2〜5モル%であることが好ましい。第2架橋剤使用量が0.1モル%未満であると、モノリスの機械的強度が不足するため好ましくない。一方、5モル%を越えると、骨格部分への多孔構造導入が困難になるため好ましくない。なお、上記第2架橋剤使用量は、ビニルモノマー/第2架橋剤重合時に共存させるモノリス中間体の架橋密度とほぼ等しくなるように用いることが好ましい。両者の使用量があまりに大きくかけ離れると、生成したモノリス中で架橋密度分布の偏りが生じ、アニオン交換基導入反応時にクラックが生じやすくなる。
【0051】
II工程で用いられる溶媒は、炭素数3〜9の脂肪族アルコールである。該脂肪族アルコールの具体例としては、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1-オクタノール、2-エチルヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン、セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等が挙げられる。また、上記脂肪族アルコール以外の溶媒であっても、その使用量が少ない場合には、上記脂肪族アルコールに添加して使用することができる。これら脂肪族アルコールの使用量は、上記ビニルモノマー濃度が40〜80重量%となるように用いることが好ましい。脂肪族アルコール使用量が上記範囲から逸脱してビニルモノマー濃度が40%未満となると、骨格部分への多孔構造導入が困難になるため好ましくない。一方、ビニルモノマー濃度が80重量%を超えると、重合熱の除熱が困難となり、重合反応の制御が困難になるため好ましくない。
【0052】
重合開始剤としては、熱又は光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は油溶性であるほうが好ましい。本発明で用いられる重合開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、モノマーの種類や重合温度等によって大きく変動するが、ビニルモノマーと架橋剤の合計量に対して、約0.01〜5%の範囲で使用することができる。
【0053】
III工程は、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体の存在下、重合を行い、該モノリス中間体の骨格より太い骨格を有し、且つ骨格の表面層が多孔構造を有するモノリスを得る工程である。
【0054】
反応容器の内容積は、モノリス中間体を反応容器中に存在させる大きさのものであれば特に制限されず、反応容器内にモノリス中間体を載置した際、平面視でモノリスの周りに隙間ができるもの、反応容器内にモノリス中間体が隙間無く入るもののいずれであってもよい。このうち、重合後のモノリスが容器内壁から押圧を受けることなく、反応容器内に隙間無く入るものが、モノリスに歪が生じることもなく、反応原料などの無駄がなく効率的である。なお、反応容器の内容積が大きく、重合後のモノリスの周りに隙間が存在する場合であっても、ビニルモノマーや第2架橋剤は、モノリス中間体に吸着、分配されるため、反応容器内の隙間部分に粒子凝集構造物が生成することはない。
【0055】
III工程において、反応容器中、モノリス中間体は混合物(溶液)で含浸された状態に置かれる。II工程で得られた混合物とモノリス中間体の配合比は、前述の如く、モノリス中間体に対して、ビニルモノマーの添加量が重量で3〜70倍、好ましくは4〜50倍となるように配合するのが好適である。これにより、適度な開口径を有しつつ、骨格中にも多孔構造が導入されたモノリスを得ることができる。反応容器中、混合物中のビニルモノマーと第2架橋剤は、静置されたモノリス中間体の骨格に吸着、分配され、モノリス中間体の骨格内で重合が進行する。この重合が進行する過程において、多孔構造が形成される理由の詳細については不明であるものの、ビニルモノマー濃度が著しく高い場合や架橋剤量が著しく少ない場合、重合の進行が不均一となり、架橋構造が偏在してしまうためと考えられる。
【0056】
重合条件は、モノマーの種類、開始剤の種類により様々な条件が選択できる。例えば、開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、30〜100℃で1〜48時間加熱重合させればよい。加熱重合により、モノリス中間体の骨格に吸着、分配したビニルモノマーと第2架橋剤が該骨格内で重合し、該骨格を太らせるとともに、骨格中に多孔構造を形成していく。重合終了後、内容物を取り出し、未反応ビニルモノマーと有機溶媒の除去を目的に、メタノールやアセトン等の溶剤で抽出して特定骨格構造のモノリスを得る。
【0057】
III工程で得られるモノリスの基本構造は、図1で示したモノリスアニオン交換体と比べて、開口の直径の大きさが異なる以外、同様の構造である。すなわち、モノリスは気泡状のマクロポア1同士が重なり合い、この重なる部分が共通の開口(メソポア)2となる連続マクロポア構造であり、乾燥状態における開口2の平均直径が15〜200μm、好ましくは15〜150μm、特に15〜100μmである。また、モノリスは骨格の表層部にモノリスアニオン交換体と同様の多孔構造を有する。モノリスの多孔構造は表層部4中に乾燥状態における直径が0.1〜20μm、特に0.1〜10μmの細孔7が無数に存在する、SEM断面が所謂蜂の巣に類似する構造のものである。
【0058】
IV工程ではIII工程で得られたモノリスにアニオン交換基を導入するため、モノリスアニオン交換体の多孔構造を厳密にコントロールすることができる。
【0059】
(モノリスアニオン交換体の製造方法)
次に、本発明に係るモノリスアニオン交換体の製造方法について説明する。該モノリスアニオン交換体の製造方法としては、特に制限はないが、上記の方法によりモノリスを製造した後、アニオン交換基を導入する方法が、得られるモノリスアニオン交換体の多孔構造を厳密にコントロールできる点で好ましい。
【0060】
上記モノリスにアニオン交換基を導入する方法としては、特に制限はなく、高分子反応やグラフト重合等の公知の方法を用いることができる。例えば、四級アンモニウム基を導入する方法としては、モノリスがスチレン−ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法;モノリスをクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合により製造し、三級アミンと反応させる方法;モノリスに、均一にラジカル開始基や連鎖移動基を骨格表面及び骨格内部導入し、N,N,N−トリメチルアンモニウムエチルアクリレートやN,N,N−トリメチルアンモニウムプロピルアクリルアミドをグラフト重合する方法;同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換により四級アンモニウム基を導入する方法等が挙げられる。これらの方法のうち、四級アンモニウム基を導入する方法としては、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体にクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法やクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合によりモノリスを製造し、三級アミンと反応させる方法が、アニオン交換基を均一かつ定量的に導入できる点で好ましい。なお、導入するアニオン交換基としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基や、トリメチルアミノ基、トリエチルアミノ基、トリブチルアミノ基等の三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。
【0061】
<白金族金属担持触媒の説明>
本発明の白金族金属担持触媒は、上述のモノリスアニオン交換体に、白金族金属のナノ粒子が担持されている白金族金属担持触媒である。
【0062】
本発明に係る白金族金属とは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金である。これらの白金族金属は、一種類を単独で用いても、二種類以上の金属を組み合わせて用いても良く、更に、二種類以上の金属を合金として用いても良い。これらの中で、白金、パラジウム、白金/パラジウム合金は触媒活性が高く、好適に用いられる。
【0063】
本発明に係る白金族金属のナノ粒子の平均粒子径は、1〜100nmであり、好ましくは1〜50nm、更に好ましくは1〜20nmである。平均粒子径が1nm未満であると、ナノ粒子が担体から脱離する可能性が高くなるため好ましくなく、一方、平均粒子径が100nmを超えると、金属の単位質量当たりの表面積が少なくなり触媒効果が効率的に得られなくなるため好ましくない。なお、ナノ粒子の平均粒子径が上記範囲内の場合、表面プラズモン共鳴によりナノ粒子は強く着色するため、目視によっても確認可能である。
【0064】
乾燥状態の白金族金属担持触媒中の白金族金属ナノ粒子の担持量((白金族金属ナノ粒子/乾燥状態の白金族金属担持触媒)×100)は、0.004〜20重量%、好ましくは0.005〜15重量%である。白金族金属ナノ粒子の担持量が0.004重量%未満であると、過酸化水素分解効果又は溶存酸素の除去効果が不十分になるため好ましくない。一方、白金族金属ナノ粒子の担時量が20重量%を超えると、水中への金属溶出が認められるようになるため好ましくない。
【0065】
白金族金属担持触媒の製造方法には特に制約はなく、公知の方法により、モノリスアニオン交換体に、白金族金属のナノ粒子を担持させることにより、白金族金属担持触媒を得ることができる。例えば、乾燥状態のモノリスアニオン交換体を塩化パラジウムの塩酸水溶液に浸漬し、塩化パラジウム酸アニオンをアニオン交換によりモノリスアニオン交換体に吸着させ、次いで、還元剤と接触させてパラジウム金属ナノ粒子をモノリスアニオン交換体に担持する方法や、モノリスアニオン交換体をカラムに充填し、塩化パラジウムの塩酸水溶液を通液して塩化パラジウム酸アニオンをアニオン交換によりモノリスアニオン交換体に吸着させ、次いで、還元剤を通液してパラジウム金属ナノ粒子をモノリスアニオン交換体に担持する方法等が挙げられる。用いられる還元剤にも特に制約はなく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールや、ギ酸、シュウ酸、クエン酸、アスコルビン酸等のカルボン酸、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等を用いることができる。
【0066】
本発明の白金族金属担持触媒において、白金族金属ナノ粒子の担体であるモノリスアニオン交換体のイオン形は、白金族金属ナノ粒子を担持した後は、通常、塩化物形のような塩形となる。本発明では、このような塩形のものを、過酸化水素分解用又は溶存酸素除去用の触媒として用いても良い。また、白金族金属担持触媒は、これに限定されるものではなく、モノリスアニオン交換体のイオン形を、OH形に再生したものであっても良い。そして、これらのうち、モノリスアニオン交換体のイオン形がOH形であることが、高い触媒効果が得られるため好ましい。白金族金属ナノ粒子を担持した後のモノリスアニオン交換体のOH形への再生方法には特に制限はなく、水酸化ナトリウム水溶液を通液する等の公知の方法を用いればよい。
【0067】
<本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法>
本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法は、本発明の白金族金属担持触媒に、過酸化水素を含有する被処理水を接触させて、過酸化水素を含有する被処理水中の過酸化水素を分解除去する過酸化水素の分解処理水の製造方法である。
【0068】
過酸化水素を含有する被処理水は、過酸化水素を含有するものであれば、特に制限されず、例えば、半導体製造等の電子部品の製造及び電子部品の製造器具を洗浄するための超純水の製造において、その中の種々の工程により生じる水が挙げられ、具体的には、水中の有機物を分解するための紫外線酸化処理工程を行った後の水が挙げられる。また、過酸化水素を含有する被処理水としては、他には、用廃水系に過酸化水素を添加し、酸化、還元、殺菌、洗浄を行った処理液又は処理水やこれらの処理液又は処理水を用いて処理を行った後の廃液又は排水が挙げられる。例えば、半導体製造工程から排出される過酸化水素を含む洗浄排水、半導体製造工程から排出される有機物を含む洗浄排水を超純水として回収再利用するために、過酸化水素の存在下に紫外線を照射し有機物を酸化分解して得られる処理水、フェントン試薬を用いて有機物を分解して得られる処理水、逆浸透膜、限外ろ過膜等を過酸化水素で殺菌又は洗浄した後の排水、6価クロムを含有する排水を過酸化水素で還元処理して得られる処理水等が挙げられる。
【0069】
過酸化水素を含有する被処理水中の過酸化水素濃度は、特に制限されないが、通常、0.01〜100mg/Lである。超純水製造のサブシステムでは、通常、過酸化水素濃度は、10〜50μg/Lである。過酸化水素濃度が100mg/Lを超えると、母体であるモノリスアニオン交換体の劣化が進み易い。
【0070】
本発明の白金族金属担持触媒に、過酸化水素を含有する被処理水を接触させる方法としては、特に制限されず、例えば、触媒充填塔に、本発明の白金族金属担持触媒を充填し、触媒充填塔に、過酸化水素を含有する被処理液を供給することにより、本発明の白金族金属担持触媒に、過酸化水素を含有する被処理水を通液する方法等が挙げられる。
【0071】
上記方法の場合、本発明の白金族金属担持触媒に、過酸化水素を含有する被処理水を、SV=2000〜20000h−1、好ましくはSV=5000〜10000h−1で通水することができる。本発明の白金族金属担持触媒を用いると、SVが2000h−1を超えるような大きなSVで被処理水を通水しても、過酸化水素の分解除去が可能である。更に、SVが10000h−1であっても、本発明の白金族金属担持触媒を用いると、過酸化水素の分解が可能であり、本発明の白金族金属担持触媒は、粒子状アニオン交換樹脂に白金族金属ナノ粒子を担持した従来の担持触媒の処理限界を大きく上回る、卓越した性能を示す。本発明の白金族金属担持触媒への過酸化水素を含有する被処理水の通水速度は、特に制限されないが、好ましくはSV=2000〜20000h−1、特に好ましくはSV=5000〜10000h−1である。なお、本発明の白金族金属担持触媒は、過酸化水素分解能力が著しく高いため、あえて通水速度をSV=2000h−1未満の領域とする必要はないが、通水速度をSV=2000h−1未満の領域としてもよく、通水速度をSV=2000h−1未満の領域とした場合も、本発明の白金族金属担持触媒は、優れた過酸化水素分解能力を発揮する。一方、SVが20000h−1を超えると、通水差圧が大きくなり過ぎる傾向にある。
【0072】
更に、本発明の白金族金属担持触媒は、過酸化水素分解能力が著しく高いため、触媒の充填層高を薄くしても過酸化水素の分解除去が可能である。
【0073】
本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行い得られる処理水中の過酸化水素濃度は、1μg/L以下であることが好ましい。
【0074】
本発明の電子部品の洗浄方法(I)は、本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄する電子部品の洗浄方法である。
【0075】
本発明の電子部品の洗浄方法(I)の形態例について、図2及び図3を参照して説明する。図2は、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例の模式的なフロー図であり、図3は、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第二の形態例の模式的なフロー図である。
【0076】
図2に示すように、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例は、オゾンを含有する水(以下、オゾン含有水とも記載する。)に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第1工程21と、水素を含有する水(以下、水素含有水とも記載する。)に被洗浄物を接触させて、500kHz以上の振動を与えながら被洗浄物を洗浄する第2工程22と、フッ化水素酸及び過酸化水素を含有する水に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第3工程23と、水素含有水に被洗浄物を接触させて、500kHz以上の振動を与えながら被洗浄物を洗浄する第4工程24と、を有する。
【0077】
第1工程21に供給される洗浄水は、超純水32にオゾンを溶解させて調製されたオゾン含有水である。そして、超純水は、その製造工程で、紫外線酸化処理等がされているので、過酸化水素を含有している。そこで、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例では、超純水32にオゾン33を溶解させる前に、超純水32を被処理水として本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行う過酸化水素除去工程25を行い、得られた処理水にオゾン33を溶解させて、第1工程21の洗浄水として供給する。
【0078】
また、第2工程22に供給される洗浄水は、超純水32に水素を溶解させて調製された水素含有水である。そこで、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例では、超純水32に水素34を溶解させる前に、超純水32を被処理水として本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行う過酸化水素除去工程26を行い、得られた処理水に水素34を溶解させて、第2工程22の洗浄水として供給する。本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例では、第4工程24も同様に、超純水32に水素36を溶解させる前に、超純水32を被処理水として本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行う過酸化水素除去工程28を行い、得られた処理水に水素36を溶解させて、第4工程24の洗浄水として供給する。なお、水素34又は36を溶解させる時期は、過酸化水素除去工程26又は28の前段であってもよい。
【0079】
また、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例では、超純水32を被処理水として本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行う過酸化水素除去工程27を行い、得られた処理水にフッ化水素酸及び過酸化水素35を溶解させ、得られたフッ化水素酸及び過酸化水素を含有する水を、第3工程23の洗浄水として供給することもできる。
【0080】
そして、洗浄前の電子部品20aを被洗浄物として、第1工程21〜第4工程24を順に行い、洗浄後の電子部品30aを得る。
【0081】
図3に示すように、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第二の形態例は、硫酸及び過酸化水素を含有する液に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第1工程40と、超純水でリンスする第2工程42と、フッ化水素酸を含有する水(希フッ酸)に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第3工程43と、超純水でリンスする第4工程44と、アンモニア及び過酸化水素を含有する水に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第5工程45と、超純水でリンスする第6工程46と、加熱した超純水に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第7工程47と、超純水でリンスする第8工程48と、塩酸及び過酸化水素を含有する水に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第9工程49と、超純水でリンスする第10工程50と、フッ化水素酸を含有する水(希フッ酸)に被洗浄物を接触させて、被洗浄物を洗浄するための第11工程51と、超純水でリンスする第12工程52と、を有する。
【0082】
図3中の第3、5、9及び11工程に供給される洗浄水63、65、69及び71は、超純水に各工程で必要な薬剤を溶解させた水である。そこで、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第二の形態例では、図2に示す本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第一の形態例と同様に、超純水に各工程で必要な薬剤を溶解させる前に、超純水を被処理水として本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行う過酸化水素除去工程を行い、得られた処理水に各工程で必要な薬剤を溶解させて、各工程の洗浄水(洗浄液)として供給する。
【0083】
また、図3中の第2、4、6、7、8、10及び12工程に供給される洗浄水62、64、66、67、68、70及び72は、超純水である。そこで、本発明の電子部品の洗浄方法(I)の第二の形態例では、超純水を被処理水として本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行う過酸化水素除去工程を行い、得られた処理水を、各工程の洗浄水として供給する。
【0084】
そして、洗浄前の電子部品20bを被洗浄物として、第1工程40〜第12工程52を順に行い、洗浄後の電子部品30bを得る。
【0085】
なお、上記のように、本発明において、本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄するとは、本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行った直後の処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄するということだけではなく、電子部品又は電子部品の製造器具の洗浄に用いられる超純水を製造する工程のいずれか1箇所又は2箇所以上で、本発明の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行い、超純水の製造工程の全工程を行って得られる超純水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄するということを意味する。
【0086】
<本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法>
本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法は、本発明の白金族金属担持触媒の存在下で、酸素を含有する被処理水中の溶存酸素と水素とを反応させて水を生成させることにより、酸素を含有する被処理水から溶存酸素を除去する溶存酸素の除去処理水の製造方法である。
【0087】
酸素を含有する被処理水は、酸素を含有するものであれば、特に制限されず、例えば、半導体製造等の電子部品の製造及び電子部品の製造器具等を洗浄するための超純水の製造に用いられる原水又はその製造工程中の種々の水等が挙げられ、具体的には、超純水製造サブシステムの循環水、例えば、紫外線酸化装置の出口水等が挙げられる。また、溶存酸素を含有する被処理水としては、他には、発電所で用いられる用水、各種工場で用いられるボイラー水や冷却水等が挙げられる。
【0088】
酸素を含有する被処理水中の溶存酸素濃度は、特に制限されないが、通常、0.01〜10mg/Lである。
【0089】
溶存酸素と反応させる水素の量は、特に制限されないが、酸素濃度の1倍当量〜10倍当量、好ましくは1.1倍当量〜5倍当量である。
【0090】
本発明の白金族金属担持触媒の存在下で、酸素を含有する被処理水中の溶存酸素と水素を反応させる方法としては、特に制限されず、例えば、触媒充填塔に、本発明の白金族金属担持触媒を充填し、触媒充填塔に、酸素を含有する被処理液を供給すると共に、被処理液の供給管内に、水素ガスを注入することにより、本発明の白金族金属担持触媒に、溶存水素と溶存酸素を含有する被処理水とを通液する方法等が挙げられる。
【0091】
上記の方法の場合、本発明の白金族金属担持触媒に、酸素を含有する被処理水を、SV=2000〜20000h−1、好ましくはSV=5000〜10000h−1で通水することができる。本発明の白金族金属担持触媒を用いると、SVが2000h−1を超えるような大きなSVで被処理水を通水しても、溶存酸素の除去が可能である。更に、SVが10000h−1であっても、本発明の白金族金属担持触媒を用いると、溶存酸素の除去が可能であり、本発明の白金族金属担持触媒は、粒子状アニオン交換樹脂に白金族金属ナノ粒子を担持した従来の担持触媒の処理限界を大きく上回る、卓越した性能を示す。本発明の白金族金属担持触媒への酸素を含有する被処理水の通水速度は、特に制限されないが、好ましくはSV=2000〜20000h−1、特に好ましくはSV=5000〜10000h−1である。なお、本発明の白金族金属担持触媒は、溶存酸素除去能力が著しく高いため、粒子状アニオン交換樹脂に白金族金属ナノ粒子を担持した従来の担持触媒の処理限界を大きく上回る通水速度で、被処理水を通水しても、被処理水中の溶存酸素を分解することができる。
【0092】
更に、本発明の白金族金属担持触媒は、溶存酸素除去能力が著しく高いため、触媒の充填層高を薄くしても溶存酸素の除去が可能である。
【0093】
本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行い得られる処理水中の溶存酸素濃度は、10μg/L以下であることが好ましい。
【0094】
本発明の電子部品の洗浄方法(II)は、本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄する電子部品の洗浄方法である。
【0095】
空気中の酸素は水中に溶存酸素として溶け込む。溶存酸素は超純水中の不純物として管理され、前述のように、超純水製造装置の二次純水系システム入り口における被処理水(一次純水)中の溶存酸素濃度は、通常、100μg/L以下にまで低減されている。更に、10μg/L以下に管理されている場合もある。そして、超純水中の溶存酸素濃度は、10μg/L以下、更には1μg/L以下に管理されている場合もある。一方、超純水の製造工程では、紫外線酸化処理等により発生した過酸化水素が分解する際に酸素が生じる。そこで、本発明の電子部品の洗浄方法(II)の形態例では、本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行う溶存酸素除去工程を行い、得られた処理水を、電子部品の洗浄方法の各工程に供給される洗浄水(洗浄液)又はその調製用の超純水とする。
【0096】
本発明の電子部品の洗浄方法(II)の第一の形態例は、図2中の過酸化水素除去工程25、26、27及び28を、超純水32を被処理水として本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行う溶存酸素除去工程に代えたものである。そして、洗浄前の電子部品20aを被洗浄物として、第1工程21〜第4工程24を順に行い、洗浄後の電子部品30aを得る。
【0097】
本発明の電子部品の洗浄方法(II)の第二の形態例は、図3中の第3、5、9及び11工程に供給される洗浄水(洗浄液)63、65、69及び71を、超純水を被処理水として本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行う溶存酸素除去工程を行い、得られた処理水に各工程で必要な薬剤を溶解させることにより調製し、また、図3中の第2、4、6、7、8、10及び12工程に供給される洗浄水62、64、66、67、68、70及び72を、超純水を被処理水として本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行う溶存酸素除去工程を行うことにより得るものである。そして、洗浄前の電子部品20bを被洗浄物として、第1工程40〜第12工程52を順に行い、洗浄後の電子部品30bを得る。
【0098】
なお、上記のように、本発明において、本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄するとは、本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行った直後の処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄するということだけではなく、電子部品又は電子部品の製造器具の洗浄に用いられる超純水を製造する工程のいずれか1箇所又は2箇所以上で、本発明の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行い、超純水の製造工程の全工程を行って得られる超純水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄するということを意味する。
【実施例】
【0099】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0100】
<モノリスアニオン交換体の製造(参考例1)>
(I工程;モノリス中間体の製造)
スチレン19.9g、ジビニルベンゼン0.4g、ソルビタンモノオレエート(以下SMOと略す)1.1gおよび2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.26gを混合し、均一に溶解させた。次に、当該スチレン/ジビニルベンゼン/SMO/2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)混合物を、THF1.8mlと180mlの純水よりなる混合液に添加し、遊星式撹拌装置である真空撹拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて5〜20℃の温度範囲において減圧下撹拌して、油中水滴型エマルションを得た。このエマルションを速やかに反応容器に移し、密封後静置下で60℃、24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、メタノールで抽出した後、減圧乾燥して、連続マクロポア構造を有する架橋密度1.3モル%のモノリス中間体を製造した。水銀圧入法により測定した該モノリス中間体のマクロポアとマクロポアが重なる部分の開口(メソポア)の平均直径は56μm、全細孔容積は7.5ml/gであった。
【0101】
(モノリスの製造)
次いで、スチレン59.4g、ジビニルベンゼン0.6g、1-オクタノール50g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.5gを混合し、均一に溶解させた(II工程)。次に上記モノリス中間体を直径70mm、厚さ約30mmの円盤状に切断して7.7gを分取した。分取したモノリス中間体を内径89mmの反応容器に入れ、当該スチレン/ジビニルベンゼン/1-オクタノール/2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)混合物に浸漬させ、減圧チャンバー中で脱泡した後、反応容器を密封し、静置下60℃で24時間重合させた。重合終了後、厚さ約60mmのモノリス状の内容物を取り出し、アセトンでソックスレー抽出した後、85℃で一夜減圧乾燥した(III工程)。
【0102】
このようにして得られたスチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる架橋成分を0.6モル%含有したモノリス(乾燥体)の内部構造を、SEMにより観察した結果を図4に示す。当該モノリスは連続マクロポア構造を有しており、連続マクロポア構造体を構成する骨格部にもハニカム状の多孔構造が導入されていた。水銀圧入法により測定した当該モノリスの開口の平均直径は35μm、全細孔容積は1.7ml/g、比表面積は55.2m2/gであった。
【0103】
(モノリスアニオン交換体の製造)
上記の方法で製造したモノリスを、直径70mm、厚み約15mmの円盤状に切断した。これにジメトキシメタン1400ml、四塩化スズ40mlを加え、氷冷下クロロ硫酸560mlを滴下した。滴下終了後、昇温して35℃で5時間反応させ、クロロメチル基を導入した。反応終了後、母液をサイフォンで抜き出し、THF/水=2/1の混合溶媒で洗浄した後、更にTHFで洗浄した。このクロロメチル化モノリスにTHF1000mlとトリメチルアミン30%水溶液600mlを加え、60℃、6時間反応させた。反応終了後、生成物をメタノール/水混合溶媒で洗浄し、次いで純水で洗浄して単離した。
【0104】
得られたモノリスアニオン交換体の反応前後の膨潤率は1.5倍であり、体積当りのアニオン交換容量は水湿潤状態で0.75mg当量/mlであった。水湿潤状態でのモノリスアニオン交換体の開口の平均直径を、モノリスの値と水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の膨潤率から見積もったところ53μmであった。また、全細孔容積は1.7ml/g、比表面積は55.2m2/gであった。
【0105】
次に、モノリスアニオン交換体中の四級アンモニウム基の分布状態を確認するため、モノリスアニオン交換体を塩酸水溶液で処理して塩化物形とした後、EPMAにより塩化物アニオンの分布状態を観察した。その結果、塩化物アニオンはモノリスアニオン交換体の骨格表面のみならず、骨格内部にも均一に分布しており、四級アンモニウム基がモノリスアニオン交換体中に均一に導入されていることが確認できた。
【0106】
なお、水を透過させた際の圧力損失の指標である差圧係数は、0.016MPa/m・LVであり、実用上支障のない低い圧力損失であった。更に、該モノリスアニオン交換体のフッ化物アニオンに関するアニオン交換帯長さを測定したところ、LV=20m/hにおけるアニオン交換帯長さは15mmであり、市販の強塩基性アニオン交換樹脂であるアンバーライトIRA402BL(ロームアンドハース社製)の値(165mm)に比べて圧倒的に短かった。
【0107】
実施例1
(白金族金属担持触媒の調製)
参考例1のモノリスアニオン交換体をCl形にアニオン交換した後、水湿潤状態で円柱状に切り出し、減圧乾燥した。乾燥後のモノリスアニオン交換体の重量は、1.0gであった。この乾燥状態のモノリスアニオン交換体を、塩化パラジウム270mgを溶解した希塩酸に24時間浸漬し、塩化パラジウム酸形にアニオン交換した。浸漬終了後、モノリスアニオン交換体を純水で数回洗浄し、ヒドラジン水溶液中に24時間浸漬して還元処理を行った。塩化パラジウム酸形モノリスアニオン交換体が茶色であったのに対し、還元処理終了後のモノリスアニオン交換体は黒色に着色しており、パラジウムナノ粒子の生成が示唆された。このようにして得られたパラジウムナノ粒子担持触媒aを数回純水で洗浄し、乾燥した。
【0108】
乾燥状態のパラジウムナノ粒子担持触媒aに担持されたパラジウムナノ粒子の担持量は、9.7重量%であった。担持されたパラジウムナノ粒子の平均粒子径を測定するため、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った。得られたTEM画像を図5に示す。パラジウムナノ粒子の平均粒子径は、6nmであった。乾燥状態のパラジウムナノ粒子担持触媒aを内径10mmのカラムに充填し、水酸化ナトリウム水溶液を通液して担体であるモノリスアニオン交換体をOH形とし、過酸化水素分解特性の評価に用いた。パラジウムナノ粒子担持触媒aの充填層高は10mmであった。このとき、水湿潤状態の樹脂体積に対するパラジウムナノ粒子の担持量は、8.6g−Pd/L−R(パラジウムナノ粒子担持触媒1L当たりに担持されているパラジウム重量)であった。
【0109】
(触媒の評価)
内径10mmのカラムに充填した上記のパラジウムナノ粒子担持触媒aに、過酸化水素15〜30μg/Lを含む超純水をSV=5000h−1にて27時間下向流で通水し、カラム出口で試料水を採水し過酸化水素濃度を測定した。その結果、カラム出口で採水した試料水中の過酸化水素濃度は1μg/L未満であり、過酸化水素は分解除去されていた。次に、SVを10000h−1とし、同様の処理を行った。カラム出口で採水した試料水中の過酸化水素濃度は、SVが10000h−1と非常に速く、触媒の充填層高が10mmと薄いにもかかわらず、1μg/L未満であり、過酸化水素は分解除去されていた。
【0110】
比較例1
水分保有能力がOH形基準において60〜70%であり、ゲル形である粒子状の強塩基性アニオン交換樹脂(I形)に公知の方法でパラジウムナノ粒子を担持し、パラジウムナノ粒子担持粒状アニオン交換樹脂触媒を得た。Cl形の粒子状アニオン交換樹脂を塩化パラジウムの塩酸水溶液に浸漬し、水洗後に、ヒドラジン水溶液で還元処理を行った。水酸化ナトリウム水溶液を通液して粒子状のアニオン交換樹脂をOH形とし、過酸化水素分解特性の評価に用いた。このとき、パラジウムナノ粒子担持量は、乾燥状態で0.4重量%、水湿潤状態で970mg−Pd/L−Rであった。このパラジウムを担持したOH形の粒子状アニオン交換樹脂を内径25mmのカラムに40mL(層高80mm)充填して実施例1と同じ方法で過酸化水素低減の実験を行った。
【0111】
(触媒の評価)
触媒として、パラジウムナノ粒子担持触媒aに代えて上記パラジウムナノ粒子担持粒状アニオン交換樹脂触媒を用いたこと、及び超純水をSV=1500h−1および2500h−1で通水したことを除いて、実施例1と同様の方法でパラジウムナノ粒子担持粒状アニオン交換樹脂触媒の過酸化水素分解効果を評価した。その結果、カラム出口で採水した試料水中の過酸化水素濃度はそれぞれ1μg/L未満、1.6μg/Lであった。SV=1500h−1においては、過酸化水素は1μg/L未満となったが、SVを2500h−1に上げると、過酸化水素は処理水中にリークした。このように、従来技術である粒子状アニオン交換樹脂にパラジウムナノ粒子を担持した触媒では、実施例よりも遅いSV、厚い触媒充填層高といった過酸化水素を除去しやすい条件を設定しても、SV=2500h−1では過酸化水素がリークした。
【0112】
比較例2
パラジウムナノ粒子を担持させず、参考例1のモノリスアニオン交換体のみを用いて、実施例1と同様の方法でSV=10000h−1における過酸化水素分解効果を評価した。その結果、過酸化水素の分解効果は認められなかった。
【0113】
実施例2
塩化パラジウム使用量を270mgから190mgに変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で参考例1のモノリスアニオン交換体にパラジウムナノ粒子を担持し、パラジウムナノ粒子担持触媒bを得た。
【0114】
乾燥状態のパラジウムナノ粒子担持触媒bに担持されたパラジウムナノ粒子の担持量は、6.8重量%であった。乾燥状態のパラジウムナノ粒子担持触媒bを内径10mmのカラムに充填し、溶存酸素除去特性の評価に用いた。触媒の充填層高は15mmであった。このとき、水湿潤状態の樹脂体積に対するパラジウムナノ粒子の担持量は6.1g−Pd/L−Rであった。
【0115】
(触媒の評価)
内径10mmのカラムに充填した上記パラジウムナノ粒子担持触媒bに、溶存酸素濃度32μg/L且つ溶存水素濃度11μg/Lに調整した超純水をSV=10000h−1にて通水し、カラム出口の処理水中の溶存酸素濃度が安定するまで測定を行った。その結果、カラム出口の溶存酸素濃度は3.6μg/Lに低減していた。
【0116】
(比較例3)
水分保有能力がOH形基準において60〜70%でありゲル形である粒子状の強塩基性アニオン交換樹脂(Cl形)にパラジウムを水湿潤状態で910mg−Pd/L−R担持させたCl形触媒樹脂を作製した。このCl形触媒樹脂を上記内径10mmのカラムに充填層高360mmで、SV=430h−1の流速で通水した以外は、実施例2と同様の方法で触媒評価を行った。その結果、処理水が安定した時点でのカラム出口溶存酸素濃度は4.1μg/Lであった。
実施例2と比較例3における評価結果を表1にまとめた。
【0117】
【表1】
【0118】
実施例2は、SV=10000h−1と非常に高流速であり、且つ、担持したパラジウム金属触媒の質量あたりの通水流速においても実施例2の方が比較例3に比べ多いにも関わらず、比較例3と同程度の溶存酸素濃度の処理水が得られた。このことから、本発明の白金族金属担持触媒を用いれば、高流速で低樹脂層高においても効果的な溶存酸素除去が可能であるため、触媒使用量の低減、装置の小型化と共に溶出物の低減が図れる。
【0119】
<モノリスの製造(参考例2〜12)>
(モノリスの製造)
スチレンの使用量、架橋剤の種類と使用量、有機溶媒の種類と使用量、スチレン及びジビニルベンゼン含浸重合時に共存させるモノリス中間体の多孔構造、架橋密度および使用量を表2に示す配合量に変更した以外は、参考例1と同様の方法でモノリスを製造した。その結果を表2に示す。また、参考例2〜9で得られたモノリス(乾燥体)の内部構造をSEMにより観察した結果を図6〜図13に示す。これらのSEM画像は、モノリスを任意の位置で切断して得た切断面の任意の位置における画像である。なお、図6の中央で傾斜して上下方向に延びる帯び状のものは内層部であり、多孔構造が表れる部分が表層部である。また、図9の3000倍のSEM画像から、切断面ではない、骨格表面には多孔構造が表れていないことが判る。表2から、参考例2〜9のモノリスは、いずれも連続マクロポア構造体の骨格部の表層部に多孔構造が導入されており、その比表面積も20m2/g以上と大きな値を示した。また、参考例2〜9のモノリスの多孔構造は、いずれも表層部中に、乾燥状態で平均直径が1〜15μmの細孔が無数に存在する、断面が所謂蜂の巣に類似する構造であった。また、表層部の厚みは概ね10〜50μmであった。一方、参考例10〜12で得られたモノリスの表層部には、多孔構造が導入されていなかった。
【0120】
【表2】
*1){(スチレン+ジビニルベンゼン)/(スチレン+ジビニルベンゼン+脂肪族アルコール)}×100
*2)骨格へ多孔構造が導入されている
*3)骨格へ多孔構造が導入されていない
【0121】
なお、上記参考例2〜9で得られたモノリスには、公知の方法を適宜適用することで、例えば、参考例1に示す方法で、アニオン交換基を導入することができる。また、参考例2〜9で得られたモノリスにアニオン交換基が導入されたモノリスアニオン交換体には、公知の方法を適宜適用することで、例えば、実施例1又は実施例2に示す方法で、白金族金属ナノ粒子を担持することができる。
【符号の説明】
【0122】
1 マクロポア
2 共通の開口(メソポア)
3 内層部
4 表層部
5 気泡(気相)部
6 連続マクロポア構造体の骨格部
7 表層部中の非連続孔10 連続マクロポア構造体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機多孔質アニオン交換体に、平均粒子径1〜100nmの白金族金属のナノ粒子が、担持されている白金族金属担持触媒であり、
該有機多孔質アニオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径20〜300μmの開口となる連続マクロポア構造体であり、該連続マクロポア構造体の骨格部の表層部が多孔構造であり、水湿潤状態での体積当たりのアニオン交換容量が0.4mg当量/ml以上であり、アニオン交換基が該有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しており、
該白金族金属の担持量が、乾燥状態で0.004〜20重量%であること、
を特徴とする白金族金属担持触媒。
【請求項2】
請求項1記載の白金族金属担持触媒に、過酸化水素を含有する被処理水を接触させて、該過酸化水素を含有する被処理水中の過酸化水素を分解除去することを特徴とする過酸化水素の分解処理水の製造方法。
【請求項3】
前記有機多孔質アニオン交換体が、OH形であることを特徴とする請求項2記載の過酸化水素の分解処理水の製造方法。
【請求項4】
前記白金族金属担持触媒に、前記過酸化水素を含有する被処理水を、SV=2000〜20000h−1で接触させることを特徴とする請求項2又は3いずれか1項記載の過酸化水素の分解処理水の製造方法。
【請求項5】
請求項2〜4いずれか1項記載の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄することを特徴とする電子部品の洗浄方法。
【請求項6】
請求項1記載の白金族金属担持触媒の存在下で、水素と酸素を含有する被処理水中の溶存酸素とを反応させて水を生成させることにより、該酸素を含有する被処理水から溶存酸素を除去することを特徴とする溶存酸素の除去処理水の製造方法。
【請求項7】
前記有機多孔質アニオン交換体が、OH形であることを特徴とする請求項6記載の溶存酸素の除去処理水の製造方法。
【請求項8】
前記白金族金属担持触媒に、前記酸素を含有する被処理水を、SV=2000〜20000h−1で接触させることを特徴とする請求項6又は7いずれか1項記載の溶存酸素の除去処理水の製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8いずれか1項記載の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄することを特徴とする電子部品の洗浄方法。
【請求項1】
有機多孔質アニオン交換体に、平均粒子径1〜100nmの白金族金属のナノ粒子が、担持されている白金族金属担持触媒であり、
該有機多孔質アニオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径20〜300μmの開口となる連続マクロポア構造体であり、該連続マクロポア構造体の骨格部の表層部が多孔構造であり、水湿潤状態での体積当たりのアニオン交換容量が0.4mg当量/ml以上であり、アニオン交換基が該有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しており、
該白金族金属の担持量が、乾燥状態で0.004〜20重量%であること、
を特徴とする白金族金属担持触媒。
【請求項2】
請求項1記載の白金族金属担持触媒に、過酸化水素を含有する被処理水を接触させて、該過酸化水素を含有する被処理水中の過酸化水素を分解除去することを特徴とする過酸化水素の分解処理水の製造方法。
【請求項3】
前記有機多孔質アニオン交換体が、OH形であることを特徴とする請求項2記載の過酸化水素の分解処理水の製造方法。
【請求項4】
前記白金族金属担持触媒に、前記過酸化水素を含有する被処理水を、SV=2000〜20000h−1で接触させることを特徴とする請求項2又は3いずれか1項記載の過酸化水素の分解処理水の製造方法。
【請求項5】
請求項2〜4いずれか1項記載の過酸化水素の分解処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄することを特徴とする電子部品の洗浄方法。
【請求項6】
請求項1記載の白金族金属担持触媒の存在下で、水素と酸素を含有する被処理水中の溶存酸素とを反応させて水を生成させることにより、該酸素を含有する被処理水から溶存酸素を除去することを特徴とする溶存酸素の除去処理水の製造方法。
【請求項7】
前記有機多孔質アニオン交換体が、OH形であることを特徴とする請求項6記載の溶存酸素の除去処理水の製造方法。
【請求項8】
前記白金族金属担持触媒に、前記酸素を含有する被処理水を、SV=2000〜20000h−1で接触させることを特徴とする請求項6又は7いずれか1項記載の溶存酸素の除去処理水の製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8いずれか1項記載の溶存酸素の除去処理水の製造方法を行い得られる処理水で、電子部品又は電子部品の製造器具を洗浄することを特徴とする電子部品の洗浄方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−36807(P2011−36807A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186432(P2009−186432)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】
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