皮内インフルエンザワクチン
本発明はヒトに皮内投与する薬の製造のためのビロソームに基づくインフルエンザワクチンに関する。本発明はワクチン接種の準備において用いるために、血清抗体陽転率、GMT(幾何平均抗体価)の増加倍率、および血清抗体保有率に関して免疫反応基準を満たすビロソーム調製物において、低用量の血球凝集素(HA)抗原を含む(三価)組成を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医学の分野および特に伝染病の分野に関する。さらに特に、本発明はインフルエンザ感染症の予防療法のために用いる薬剤の製造におけるビロソームを備えるワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルス、オルトミクソウイルス科のウイルス、は毎年流行する急性呼吸器疾患の原因因子である。インフルエンザの伝染と流行は人間の命を奪い、世界経済に影響を与える。米国だけでも、毎年500万人の米国人がインフルエンザに感染する。年間死者数(1972年〜1992年における)は世界中で60,000人(CDC統計)と見積もられている。最近1世紀において、季節性流行以外のインフエンザ大流行として3つの大きな出来事がある。過酷なインフルエンザ流行の典型例として、地球上でおよそ400〜500万人が死亡した1918年〜1919年の「スペイン風邪」があった。その他に、1957年(アジア風邪、推定死亡者数100万)、および1968年(ホンコン風邪、推定死亡者数70万)に流行した。今日では(致死性の)鳥インフルエンザウイルスがヒト個体群に侵入することができ、そしてある種の場合においてその鳥ウイルスまたはその致死性の構成物のヒトからヒトへの感染が実際に可能であることが明らかになった。
【0003】
インフルエンザウイルスの感染力は、特に持病を伴う高齢の人々と患者の場合には、世界における実質上の罹病率と死亡率の広いスペクトルと連関する。インフルエンザに対するワクチン接種は、その感染に関連するしばしば致命的な合併症を防ぐことについて最も有効であり、インフルエンザワクチンの開発に多くの努力が注がれてきた。
【0004】
3つの型の不活性化したインフルエンザワクチンが現在使用されている:ウイルス全体、分解産物と表面抗原、またはサブユニットワクチンである。季節性ワクチンは全て、数年のうちにヒト社会に蔓延すると予想されるインフルエンザウイルス株の表面糖タンパク質である、赤血球凝集素(HA)とノイラミニターゼ(NA)タンパク質を含む。ワクチンに導入したHAおよびNAタンパク質を運搬する株を孵化鶏卵の中で成育し、その後さらなる処理の前にウイルス粒子を精製する。
【0005】
インフルエンザワクチンの年次調節は、「抗原ドリフト」と「抗原シフト」として知られているプロセスによって引き起こされた抗原変異のために必要となる:抗原ドリフトは、ウイルスのHAかNAタンパク質のいずれかにおける一連のポイントミューテーションの蓄積により、複数のアミノ酸が置換されることによって起こる。これらの置換により、以前の感染によって生じた中和抗体の結合が妨げられ、新しい変異体が宿主に感染することができるようになる。抗原シフトとは、動物(しばしば鳥)のA型インフルエンザウイルスとヒトのA型インフルエンザウイルスの間の遺伝子再集合により、新しい亜型インフルエンザが出現することである。1957年の(H2N2)と1968年(H3N2)に流行したインフルエンザ株は、鳥のHAまたはNAをコードする遺伝子を循環するヒトウイルス中に導入したリアソータント型ウイルスの例であり、後のヒト社会への蔓延を可能にした。
【0006】
100以上の国立のインフルエンザ研究機関による疫学調査に基づいて、世界保健機関(WHO)は毎年北半球については通常2月にまた南半球については9月に、インフルエンザワクチンを作成し直すことを推奨している。この慣例により、ワクチンの生産と標準化のための時間を長くとも9か月までに制限している。
【0007】
多用量のワクチンが緊急に必要になった場合、例えば、抗原ドリフトと抗原シフトによって新しい特殊型のA型インフルエンザウイルスが生じ、ワクチンの供給を増やす必要があるときには、孵化鶏卵の供給が限られてしまうためワクチンを素早く生産することが妨げられる。この生産システムの更なる欠点は、柔軟性の欠如、毒素に伴う危険性、外来性ウイルス特にレトロウイルスに伴う危険性、および無菌環境への配慮である。孵化鶏卵中において他の株よりも速く成長する株もあり、このワクチンを届ける速度が最終的に遅くなる。要するにこれらの欠点は、このような有胚鶏卵の使用による今日のインフルエンザワクチン生産方法における深刻な問題を提起している。したがって、伝染と流行に備えたインフルエンザワクチン生産のために細胞培養システムを使用することが、代替の生産手段として魅力的でありかつ信頼できる。インフルエンザウイルス生産のために、変異型アデノウィルス−E1により形質転換し不死化した細胞株を使用する方法は、WO01/38362に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第01/38362号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
年次調節したインフルエンザワクチンは通常、2種類のA型インフルエンザウイルス株由来の抗原と1種類のB型インフルエンザウイルス株由来の抗原を含む。標準の0.5mlの注射可能な用量は、一般に一元放射免疫拡散分析評価で測定されるように、各株由来の赤血球凝集素(HA)抗原成分を15μg、足し合わせて合計で約45μgのHAを含む。
【0010】
世界中に利用可能な生産施設について、増加する世界人口、成長および発展する経済、盛んな海外旅行、年一度のインフルエンザ流行病のさらなる広がり、世界的なインフルエンザ流行の脅威、および世界のワクチン生産施設の制限により、現在用いられている基準と比べて特性を改良したワクチンを使用して防御免疫反応をヒトで達成するのが望ましい;また、同水準の感染防御免疫を得ながらより少ない用量で(用量節約のため)ワクチンを使用するのも望ましい。用量の減少を考えたとき、アルミニウムを用いたアジュバントなどの免疫賦活性物質が考えられる。しかしながら一般に、インフルエンザワクチンへのアルミニウムの応用は、注射部位の痛みなどの有害な副作用のため行われない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ワクチン接種を受けた18〜60歳の人の筋肉内配送(IM)後もしくは皮内配送(ID)後における、A/New Caledonia株(左バー)、A/Hiroshima株(中央バー)およびB/Malaysia株(右バー)に対する(A)血清抗体陽転(SC)率(%)、(B)GMT(幾何平均抗体価)の増加倍率(>2.5倍)、および(C)血清抗体保有率(SP)(>70%)を示す。
【図2】ワクチン接種を受けた60歳より高齢の人の筋肉内デリバリー(IM)後における、A/New Caledonia株(左バー)、A/Hiroshima株(中央バー)およびB/Malaysia株(右バー)に対する(A)血清抗体陽転(SC)率(%)、(B)幾何平均抗体価の増加倍率(>2.5倍)、および(C)血清抗体保有率(SP)(>70%)を示す。
【図3】欧州医薬品局の基準のほとんどが満たされたことを示し、図中、+(プラス)は基準を満たすことを、−(マイナス)は基準を満たさないことを示す。
【図4】一回の皮下投与において3つのインフルエンザ株のHA抗原を3、4.5、および6 μg投与した実験における血清抗体陽転率と血清抗体保有率を、筋肉内投与による多用量(それぞれの株の15 μgのHA)の場合、およびNanoPass社製の装置(一般にMicronJet装置と称する)を用いた皮下投与による低用量(それぞれの株の3 μgのHA)の場合と比較して示す。本実験は各実験グループの56人のヒト患者が関わった第II相臨床試験であり、2007/2008のインフルエンザシーズンのインフルエンザワクチンInflexal(R)(商標)を使用した。
【図5】それぞれの株からのHA抗原を3、4.5、および6μgずつ投与したグループのワクチン接種前後における幾何平均抗体価を示す。
【図6】それぞれの株からのHA抗原を3、4.5、および6μgずつ投与したグループの血清抗体陽転率、血清抗体保有率、および幾何平均抗体価を示す。
【図7】それぞれの株からのHA抗原を15μgずつ筋肉内投与したグループ、およびそれぞれの株からのHA抗原を3μgずつ一回の皮下投与により投与したグループの、血清抗体陽転率、血清抗体保有率、および幾何平均抗体価を示す。
【図8】それぞれの株からのHA抗原を15μgずつ筋肉内投与したグループ、およびそれぞれの株からのHA抗原を3μgずつNanoPass社製MicronJet装置を用いて皮下投与したグループの、血清抗体陽転率、血清抗体保有率、および幾何平均抗体価を示す。
【図9】それぞれの株からのHAの3μgずつを、単一の皮下ニードルまたはNanoPass社製MicronJet(マルチプルマイクロニードル)装置を用いて受けるグループの、ワクチン接種前後における幾何平均抗体価を示す。それぞれの左バーはA/Solomon Island株、中央バーはA/Wisconsin株、そして右バーはB/Malaysia株を示す。
【図10】それぞれの株からのHAの3μgずつを、単一の皮下ニードルまたはNanoPass社製MicronJet(マルチプルマイクロニードル)装置を用いて受けるグループの、血清抗体陽転率、血清抗体保有率、および幾何平均抗体価を示す。
【0012】
(発明の概略)本発明はヒト対象体(被験者)における皮内インフルエンザワクチンとして使用するための、インフルエンザ(赤)血球凝集素(HA)抗原を含むビロソーム調製物に関する。本技術は、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)抗原を有するビロソーム調製物が動物(ブタ)実験において十分な、血清変換、抗体保有、および幾何平均抗体価の増加倍率の水準を提供しないことを明らかにした。本発明の発明者は本明細書にこれらのワクチンをヒトに投与したときに国際基準を満たすことを示す。
【0013】
本発明はさらにヒト被験者に皮内投与するインフルエンザワクチンを製造する段階における、インフルエンザHA抗原を有するビロソーム調製物の使用に関し、好適にはInflexal(R)Vワクチンの組成として調製する。さらにこのようなワクチンを少量、好適には一回の投与量を約0.1 mlとして製造するのが好ましい。また本発明は、本発明に従ったビロソーム調製物を含むキットと、ワクチンの皮下デリバリーに適したデリバリー装置、好適にはNanoPass社により開発されたMicronJet装置などのマルチチャンネルの皮下デリバリー装置に関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般に、アジュバンドもしくは免疫増強剤の添加はワクチン改良の1つの選択肢である。さまざまなアジュバンドが今日存在する。典型的な例はアルミニウム水酸化物かアルミニウムリン酸塩などのアルミニウムに基づくアジュバンドである。他の例として、油中水乳剤、サポニン(免疫刺激複合体という形で用いることができる)、および破傷風トキソイドなどの病原体由来の毒素がある。
【0015】
インフルエンザ抗原に対する免疫反応を刺激する別の方法は、本質的に包膜に組み込んでいる赤血球凝集素抗原を含みインフルエンザウイルス自体の遺伝的背景を持たない、再構成した機能性ウイルス包膜である、再構成されたインフルエンザビロソームをつくりだすことによる(Gluck 1992; Huckriede et al. 2005)。そのようなインフルエンザビロソームが、毎年流行するインフルエンザに使用すべきインフルエンザの予防接種に承認されて、商標Inflexal(R)Vの下でBerna Biotech AGにより販売されている。
【0016】
上述のようなビロソームを有するインフルエンザワクチンは、年一度の予防接種プログラムのためにWHOによって推奨される株(2種類のインフルエンザA株および1種類のインフルエンザB株)のHAを、一般にはそれぞれの15μgずつ有する。これらのワクチンは一般に注射針を使用して筋肉内投与される。
【0017】
毎年のインフルエンザワクチンの需要を満たすために、十分な量のワクチンを供給することに関して問題がある上に、長い針を用いて投与する必要があるために、これらのワクチンの投与における問題もある:すなわち、多くの人々が長い針を恐れるために、他の投与方法が望まれる。
【0018】
皮内投与は長い注射針の使用を避けてワクチンを投与する方法であって、使い易く、信頼の高い装置を用いて投与することができる。そのうえ皮膚は特化した樹状細胞であるランゲルハンス細胞が高密度で存在するため、優れた免疫器官である。一般にワクチンの皮内投与により、より効率的に抗原が取り込まれると考えられている。当該技術分野におけるインフルエンザワクチンの皮内投与について、より少ない用量(一種類の株のHA3〜6μg)を用いて有望な結果を示す報告(Belshe et al. 2004; Kenney et al. 2004)がされてきた。Belsheら(2004)は119人の被験者への皮内投与に6μgのHAを使用することで100%の血清抗体陽転を達成したことを示したが、一方でKenneyら(2004)は、50人の被験者について15μgのHAを筋肉内投与した場合と、3μgのHAを皮下投与した場合と比べて血清抗体陽転率および抗体保有効率が同様であることを示した。
【0019】
ウイルス成分ワクチンもしくは精製抗原ワクチンの皮内投与への応用はできるが、容量および抗原用量は一般に筋肉内投与によるワクチン構成と比較して少なく、そのような研究は行われて公開されたが、現在のところどんな皮内投与のインフルエンザワクチンも上市されていない。基準を満たしかつ筋肉内投与ワクチンと同程度効果的にするために、(皮内投与したときに)アジュバンドによってそのような構成の免疫反応を刺激するのが望ましい。しかしながら、アルミニウムに基づいたアジュバンドは通常、皮内投与するのに不適当となる有害な副作用をもたらす。免疫反応を刺激するもう一つ方法は、抗原をビロソーム膜と細胞膜の融合処理によって直接的に抗原提示細胞に届けられるようHA抗原を含む、再構成した免疫賦活性インフルエンザビロソームを使用することである。このようなビロソーム構成は当技術分野でよく知られており、国際公開WO92/19267は他のタイプのワクチンへの使用について記載している(参照例:Huang et al. 1979; Kawasaki et al. 1983; Hosaka et al. 1983)。
【0020】
インフルエンザビロソームは皮内投与に使用されており、このような方法は国際公開WO2004/016281に開示されている。WO2004/016281の実施例と図面によると、ビロソームに基づいたインフルエンザワクチン(Inflexal(R)V)を様々な濃度のADPリボシル化毒素(大腸菌の易熱性エンテロトキシンLT)と組み合わせて用いることにより、それぞれのワクチン株に関して欧州医薬品局の評価基準の1つを満たす(少なくとも40%の、血清抗体陽転率=ワクチン接種の後に少なくとも4倍の赤血球凝集阻害(HI)力価を有する、ワクチン接種を受けた人の割合)ことが開示されている:文献中の図1〜3を参照されたい。しかしながら、アジュバンド(ADPリボシル化毒素)を除きそれぞれの株の3μgのHAのみを使用した場合には、良好な結果が全く得らなかった。血清抗体陽転率はLTのないビロソームを皮内投与した場合のどの場合においても40%に達しなかった。通常の筋肉内投与の方法によっては十分な血清抗体陽転が得られた。したがってWO2004/016281による結論は、ビロソームに基づいたインフルエンザワクチンが十分な抗体保有を得るために用いるべきでないということと言える。
【0021】
本発明の発明者は、Inflexal(R)Vの名称で売り出されたものなどのビロソームに基づくインフルエンザワクチンは皮内投与することができ、ヒトに使用したときに当局によって設定されるような基準に達する結果をえることができるということを今回発見した。本発明に従った皮下投与への応用は、一般的な評価基準(EMEAが設定したものなど)によって必要とされる防御免疫を引き起こす性質を維持しながら、一般に必要とされるそれぞれの株あたり15μgのHAよりも低用量(かつ低容量)で行う。用量を下げることにより、世界的な生産能力に関する問題およびインフルエンザワクチンの需要増大に関する問題への解決法が与えられる。皮内投与は、多くの人々が恐れる、針を用いた厄介な筋肉内注射に対する解決法を与える。そのうえ、ビロソームを用いてアジュバンド化したインフルエンザワクチンが高純度であるため、ビロソームに基づくワクチンを使用することによって有害事象の割合がより低くなることを期待することができる。
【0022】
明らかに、本発明の発明者が低用量のかつビロソームの形のワクチンが皮内投与したときに十分な抗体保有を与えるということを今回発見した事実は、WO2004/016281を考慮すると、全く予期せぬものであった。この相違は、WO2004/016281における実験がヒトではなく動物、正確に言うとブタを用いて行われたという事実によって説明することができる。本発明の発明者は今回、ビロソームに基づくインフルエンザワクチンの皮内投与によりヒト被験者へのHA抗原投与を低用量としても、十分な血清抗体陽転率と血清抗体保有率を与えることを発見した。
【0023】
本発明は1種類のインフルエンザウイルス株からの約3μgのHA抗原を含むワクチン構成に関し、その構成にはヒトへの治療もしくは予防において使用するために、複数のインフルエンザウイルス株由来の、好適にはB型株と同様にA型株由来の、HA抗原をさらに含むこともできる。構成を、複数のインフルエンザ株由来のHA抗原を含みHA抗原の量を好適には1株あたり約3μgとすることができる点を理解されたい。
【0024】
ここに使用される「皮内デリバリー」もしくは「皮内投与」は、それは必ずしも皮膚の真皮、すなわち表面から約1.0mmと約2.0mmの間に位置する皮膚中の層にのみ位置するというわけではないであろうが、真皮の領域へのインフルエンザワクチンのデリバリーを意味する。個々人および身体の部分においてある程度の変動があるものとしてよい。一般に、皮膚表面の約1.5mmになると真皮に達し、それぞれ皮膚表面と皮下層の下に存在する角質層と表皮の間に位置する。投与後にワクチンを真皮のみに、もしくは表皮にも存在させることができる。
【0025】
皮内投与ワクチンに伴って使用するための適した装置は、NanoPass Technologies Ltd.によって市販されているもの、および米国特許4886499、米国特許5190521、米国特許5328483、米国特許5527288、米国特許4270537、米国特許5015235、米国特許5141496、米国特許5417662、国際公開99/34850、欧州特許1092444、米国特許5480381、米国特許5599302、米国特許5334144、米国特許5993412、米国特許5649912、米国特許5569189、米国特許5704911、米国特許5383851、米国特許5893397、米国特許5466220、米国特許5339163、米国特許5312335、米国特許5503627、米国特許5064413、米国特許5520639、米国特許4596556、米国特許4790824、米国特許4941880、米国特許4940460、米国特許6494865、米国特許6569123、米国特許6569143、米国特許6689118、米国特許6776776、米国特許6808506、米国特許6843781、米国特許6986760、米国特許7083592、米国特許7083599、国際公開2004/069302、国際公開2004/098676、国際公開2004/110535、国際公開2005/018703、国際公開2005/018704、国際公開2005/018705、国際公開2005/086773、国際公開2005/115360、国際公開02/02178、国際公開02/02179、国際公開02/083205、国際公開02/083232、国際公開03/066126、国際公開03/094995、国際公開2004/032990、国際公開2004/069301、国際公開97/37705、国際公開97/13537に記載されているもの、などの塗布器を含む。
【0026】
本発明に従って当業者によって適当であるとわかったインフルエンザワクチンのデリバリーのためのどんな皮内デリバリー装置も使用することができ、また本発明に従ったキットの一部とすることができる。好適にはNanoPass社によって開発され一般に複数のデリバリーチャネルを有するMicronJet装置と称する装置とし、本装置はマイクロニードルもしくはMicroPyramidsとも称される。皮内で用いられる(本明細書の例2における)MicronJet装置は、4本の別々の針を含むが、MicronJet装置は他の個数の、少なくとも2つからさらにヒトの皮膚にデリバリーする必要がある構成を流すことのできる本数の、別々のマイクロニードルを含めることができる。
【0027】
インフルエンザワクチンの効力を測定するために国際的に適用される基準がある。インフルエンザに対する有効なワクチンの、欧州医薬品局の評価基準は
血清抗体陽転率: >40%(18〜60歳)
>30%(>60歳)
血清陽転因子: >2.5(18〜60歳)
>2.0(>60歳)
血清抗体保有率: >70%(18〜60歳)
>60%(>60歳)
【0028】
血清抗体陽転は、ワクチン接種の後に少なくとも4倍の赤血球凝集阻害(HI)力価を有する、ワクチン接種を受けた人のパーセンテージと定義される。血清陽転因子は、各株についてのワクチン接種後における血清HIの幾何平均抗体価の倍加数と定義される。血清抗体保有率は、ワクチン接種後における血清HI力価(それぞれのワクチン株について)であり、1:40と同等かまたはそれよりも高く、また一般的に抗体保有を示唆する。
【0029】
理論的に欧州医薬品局の要求を満たすために、インフルエンザワクチンはワクチンに含まれるインフルエンザのすべての株について、上述した評価基準のうち1つだけを満たせばよい。しかしながら実際には、すべての株について少なくとも2つ満たすことが必要条件となり、また十分条件となる。筋肉内投与した場合であっても、他のものより免疫原性を有する株もあり基準に達しない可能性がある。しばしば、18〜60歳の健常者についての基準を満たしたときに、高齢者(>60歳)についての基準を満たさないこともありうる。
【0030】
本発明はヒトに皮内投与するためのインフルエンザワクチンの製造における、ビロソームに基づくインフルエンザワクチンの調製物の使用に関する。さらに、ワクチンを皮内にデリバリーするときに投与用量を低減する。
【0031】
ある具体例においては、本発明に従った構成における抗原量は、一回のワクチン投与用量においてそれぞれのインフルエンザ株のHA1〜10μgとし、例えば、2〜10μg、例えば、約3、4、5、6、7、8もしくは9μgのそれぞれのインフルエンザ株のHAとする。好適には、本発明に従った構成における抗原量は一回のワクチン投与量においてそれぞれのインフルエンザ株の約3.0μgのHAである;これにより、必要となる投与用量が典型的な筋肉内投与用量の20%(0.5mLの代わりに0.1mL)となる。
【0032】
本発明は、インフルエンザの血球凝集素(HA)抗原を含むビロソーム調製物に関し、ヒト被験者への皮内投与インフルエンザワクチンとして使用するために用いる。好適には、インフルエンザウイルス以外のウイルス由来の抗原を含まない調製物とする。HA抗原を含むビロソームは何十年もの間製造されており、そのようなビロソームの生産方法は当業者によく知られている。また、インフルエンザウイルス由来のHA抗原を含むビロソーム調製は、A型肝炎ワクチン(Epaxal(R))のために製造されていたものなどの他の予防療法のためにも用いられてきた。しかしながら、好適な実施例では治療を受けたヒト被験者がインフルエンザ感染を防ぐために予防注射されるときに、ワクチンの調製にはA型肝炎ウイルスのような他の病原体由来の抗原を含まない。流行病が生じたときには、インフルエンザウイルス由来のHA抗原を含むビロソーム調製を使用することができる。その場合、1種類のインフルエンザ株由来のHA抗原をビロソーム調製の一部に使用する。しかしながら、季節性のワクチンが作り出されているとき、そのようなワクチンはHAが3種類の異なったインフルエンザ株(一般に2種類のA株と1種類のB株)によって存在しているという意味で、通常三価である。季節性インフルエンザの流行期におけるヒト被験者の治療のために、本発明に従ったワクチン調製は2種以上のインフルエンザウイルス株由来のHA抗原を含み、好適には3種類の株、より好適には2種類のA型株および1種類のB型株を含む。本発明に従ったワクチン調製は、好適にはヒト被験者への予防療法に有用であり、ゆえにさらに好適には製薬学的に許容される賦形剤および/または溶剤を含む。製薬学的に許容される賦形剤は当業界でよく知られているもので、例えば、レシチン、Na2HPO4、KH2PO4およびNaClから選択するものとできる。適切な溶媒は水である。
【0033】
好適な実施例においては、本発明は本発明に従った調製物であり、各インフルエンザ株からの濃縮HA抗原をインフルエンザ1株あたり約3.0μgとする。一般に、季節性インフルエンザ流行期のためのビロソーム調製物の筋肉内投与は、インフルエンザウイルス1株あたりの約15μgのHAを用いて行われる。本明細書に開示するように現在、適正水準の血清抗体陽転率、血清抗体保有率、および幾何平均抗体価の増加倍数を得る一方で、筋内投与に使用されるそのような調製物の1/5(20%)を皮下投与に使用することができる。したがって皮下投与においては、好適なインフルエンザ1株あたりのHAの濃度は約1/5とし、約3.0μgである。
【0034】
インフルエンザウイルスに基づくビロソーム、および免疫原性決定因としてHA抗原を含む調製物は市販されている。皮下投与のためのそのような調製物1/5ルのサンプリングが、生産が容易になるため好ましい。好適な実施例では、本発明は本発明に従ったワクチン調製に関し、調製を、Berna Biotech AG(スイス)により市販されているように、Inflexal(R)Vによるワクチン構成とする。WHOの推奨に従い、このワクチンには毎年異なったインフルエンザ株由来のHAが内容物として含む。好適には、本発明に従ったワクチン調製は、ここに挙げるインフルエンザ株のHA抗原を三価構成(trivalent combination)を含まない;A/New Caledonia/20/99、A/Moscow/10/99、およびB/Hong Kong/330/2001。ここに示す株のような、株もしくはウイルスのいずれかを用いた他の組み合わせも可能であり、本発明に従ったワクチン調製に含まれる。
【0035】
本発明はヒト被験者に対する皮内投与のためのインフルエンザワクチンの製造における、インフルエンザHA抗原を含むビロソーム調製物の使用に関する。好適には、本発明に従った使用において調製物は、インフルエンザウイルス以外のウイルス由来の抗原を含まない。季節性インフルエンザワクチンへの応用については、好適には調製物は2またはそれよりも多くのインフルエンザウイルス株由来のHA抗原を含む。流行性インフルエンザワクチンへの応用について、世界的流行の原因となる1種類のインフルエンザ株は、本発明に従って使用する調製物においてそのHA抗原を提示するのが好ましい。好適な使用においては、1種類のインフルエンザ株のみが調製物において存在するときでさえ、それぞれのインフルエンザ株由来の濃縮HA抗原をインフルエンザ1株あたり約3.0μgとする。好適には本発明に従った薬の製造にはInflexal(R)Vのワクチン組成を使用し、好適には以下に挙げるインフルエンザ株のHA抗原を三価構成で用いない調製とする;A/New Caledonia/20/99、A/Moscow/10/99、およびB/Hong Kong/330/2001。
【0036】
皮内デリバリーに用いる容量を低減させる。原始的な筋肉内投与するワクチンは0.5mLの容量である(1回の投与におけるInflexal(R)Vのように)のに対して、皮内投与するワクチンについてはその容量の20%を使用するだけでよい。したがって、ワクチンの1回の投与における容量を好適には約0.1mlとして製造する。
【0037】
ビロソームはアジュバンド活性を有することがあるため、アジュバンドとして考慮することができる。本発明に従ったビロソーム調製を、インフルエンザに対するヒト被験者に対して皮内投与によるワクチン接種に使用するとき、さらなるアジュバンド(すなわち、ビロソーム以外には)は必要でないことをここに示す。したがって、好適な実施例では、本発明のワクチン組成は追加的なアジュバンドを含まない。そのような追加的なアジュバンドは副作用を起こすかもしれず、本発明に従うことでそれを回避する。さらには、本発明は追加的なアジュバンド成分の製造と試験を必要としないため、追加的な費用と煩雑さを回避することができる。
【0038】
本発明はまた、本発明に従った調製物およびそれを皮内に配送するデリバリー装置の組み合わせに関する。それゆえ、本発明はまた、本発明に従ったビロソーム調製物を含むキットと、ワクチンの皮下デリバリーに適したデリバリー装置に関する。さらにより好適には、調製物をデリバリー装置内部に既に有するキットであって、医療従事者がヒト被験者にワクチンを容易に投与することを可能にする。本発明に従うキットで使用される好適なデリバリー装置は、NanoPassにより開発されたMicronJetという名称で販売されている装置などである。本発明に従ってキットで使用することができる、これらおよび他のデリバリー装置は、以下の特許および特許出願のいずれか1つに開示されたものとする:米国特許4886499、米国特許5190521、米国特許5328483、米国特許5527288、米国特許4270537、米国特許5015235、米国特許5141496、米国特許5417662、国際公開99/34850、欧州特許1092444、米国特許5480381、米国特許5599302、米国特許5334144、米国特許5993412、米国特許5649912、米国特許5569189、米国特許5704911、米国特許5383851、米国特許5893397、米国特許5466220、米国特許5339163、米国特許5312335、米国特許5503627、米国特許5064413、米国特許5520639、米国特許4596556、米国特許4790824、米国特許4941880、米国特許4940460、米国特許6494865、米国特許6569123;米国特許6569143、米国特許6689118、米国特許6776776、米国特許6808506、米国特許6843781、米国特許6986760、米国特許7083592、米国特許7083599、国際公開2004/069302、国際公開2004/098676、国際公開2004/110535、国際公開2005/018703、国際公開2005/018704、国際公開2005/018705、国際公開2005/086773、国際公開2005/115360、国際公開02/02178、国際公開02/02179、国際公開02/083205、国際公開02/083232、国際公開03/066126、国際公開03/094995、国際公開2004/032990、国際公開2004/069301、国際公開97/37705、国際公開97/13537。
【0039】
本発明はさらにインフルエンザ感染症に対してヒト被験者へのワクチン接種する方法、追加的アジュバンドを用いることなくインフルエンザの血球凝集素(HA)を含むビロソームを、皮下投与によりヒト被験者に対して投与する前記方法にも関する。また本発明は哺乳類被験体に対してワクチン接種する方法を提供し、本発明はインフルエンザ株由来のHA抗原を含むビロソームに基づくインフルエンザワクチンを調製するステップと、ワクチンを皮下投与するステップを含む。好適には、哺乳動物をヒトとする。世界的流行の脅威にさらされた状況において、好適にはワクチンに興味の株および世界的流行の脅威を引き起こす株のみに由来するHA抗原を含む。しかしながら、季節性ワクチンのセットアップ、手順およびキャンペーン(接種)の間は、本発明に従って皮下投与されるワクチンを三価ワクチンとし、3種類の異なったインフルエンザ株から、より好適には2種類のA型ウイルス株および1種類のインフルエンザB株由来のHA抗原を含ませる。
【0040】
別の好適な実施例においては、ワクチンは1種類の株から、または三価ワクチンの場合には3種類のインフルエンザ株それぞれから、1〜10、例えば約3.0μgのHA抗原を含む。さらに好適な実施例では、ビロソームに基づくインフルエンザワクチンを、Inflexal(R)Vワクチンの商標でBerna Biotech AG(スイス)により商品化されているワクチンとする。好適には本発明は、本発明に従った方法が、ここに挙げるインフルエンザ株からのHA抗原の三価の組合せを含有しないワクチンであるものに関する;A/New Caledonia/20/99、A/Moscow/10/99およびB/Hong Kong/330/2001。文中で示されているように、投与を好適にはワクチンの皮内デリバリーに適したデリバリー装置を使用することによって行う。皮内デリバリーに適した装置を1つの皮下注射器とすることができる。それらの針が表面薄層を越えてしまい、最適でない皮内デリバリーをもたらさないようにして、装置が作られていることがわかる。言い換えれば、ある装置はあまりにも短い針を有するため、全てとは言わないが大部分のワクチン調製物が皮下に配送される。本発明に従った方法で使用される好適な装置は、2以上の別々のマイクロニードルもしくはMicroPyramidsとも称されるチャンネルを有するデリバリー装置とする。より好適にはそのようなデリバリー装置は4本の別々の針を有する。特に好適には、MicronJet装置などのNanoPass社製のデリバリー装置とする。
[実施例]
(例1)ビロソームに基づくインフルエンザワクチンのヒト被験者への臨床試験(各株3μgのHAを用いた場合)
【0041】
安全のためおよび皮内投与によるワクチン接種に対する液性免疫応答を評価するため、入れ子の研究グループについて、ヒト被験者臨床試験をInflexal(R)Vを用いて行った。本研究は公開かつ非無作為に行ったものである。使用したワクチンは、2006−2007のインフルエンザ期に開発されかつ研究されたワクチン、3価のビロソームに基づくアジュバンドインフルエンザワクチンInflexal(R)Vとした。この皮内ワクチンの1種の用量は、ビロソームに接合した3種の次のインフルエンザ株;A/New Caledonia/20/99(H1N1; IVR-116)、A/Hiroshima/52/2005 (H3N2; IVR 142; A/Wisconsin/67/2005ウイルス様)およびB/Malaysia/2506/2004の各々の15μgの血球凝集素を(最初には)含んだ。皮内投与はそのワクチンの20%を用いて行った:一回の用量をそれぞれのインフルエンザ株の3μgのHAを含む0.1mLとし、針を有する一般の注射器を使用した。皮内投与実験は、18〜60歳(年齢幅19.2〜59.6)の23人の健康なボランティアに対して行った。用いた標準は欧州医薬品局によって設定されたものである。本実験は、18〜60歳(年齢幅21.1〜59.8)の56人の成人と60歳より高齢(年齢幅60.4〜83.3)の58人の成人に対し、一回の用量を0.5mlとするワクチン(筋肉内投与の一般的な用量)を用いて行った筋肉内投与実験と比較した。サンプリングをワクチン接種の20〜24日後に行った。
【0042】
図1Aは、筋肉内投与(IM)後および皮内投与(ID)後のワクチン接種を受けた人の血清抗体陽転率(%)、および3種類すべての株について設定した基準(血清抗体陽転率>40%)が両方のデリバリー方法によって満たされること示す。図1Bは、幾何平均抗体価の倍加数の基準(>2.5回)もすべての3種類の株において満たされることを示す。図1Cは、血清抗体保有率が2種類A型株について十分な値(>70%)であった一方で、B型株の血清抗体保有率は皮内投与の場合に基準値を満たさなかったことを示す。しかしながら、図2Cに示されているように高齢者(>60歳)で得られた結果を見ても、筋肉内投与においてはこの年齢層の標準となる60%を超える血清抗体保有率をもたらさなかった。この結果はおそらく、このB型インフルエンザ株のHA抗原の免疫原性のためである。図2Aと図2Bは60歳以上の高齢者グループへ筋肉内投与の後の結果を示し、値が欧州医薬品局の基準を満たすのに十分な水準に達したことを示唆している。図3は結果の概要を示し、図中+(プラス)が基準を満たすことを表し、−(マイナス)は基準を満たしていないことを示す。
【0043】
これらの実験は、ビロソームに基づくインフルエンザワクチンをヒト被験者に対してそれぞれの株(2種類のA型株、および1種類のB型株)について3μgの濃度で皮内投与するとき、血清抗体陽転率、および幾何平均抗体価の倍加数の基準は3種類すべての株について満たし、血清抗体保有率の基準は少なくとも2種類のA株について満たすことを示している。本結果は全く予期せぬものであり、上で用いた3種類の株のすべてについてこのようなワクチン療法が当局の設定した基準を満たさないことを示したという、国際公開2004/016281において開示されているような知見と極めて対照的な結果である。
(例2)ビロソームに基づくインフルエンザワクチンを用いたヒト被験者に対する用量増加実験(および筋肉内投与と皮内投与の比較実験)
【0044】
ヒト個体を用いた2つ目の臨床実験は、季節性のビロソームに基づくアジュバンドインフルエンザワクチンを皮内投与したときの液性免疫反応を評価するために行った。本実験は、単一施設における無作為抽出の用量増加実験であり、2007/2008のインフルエンザ期のインフルエンザワクチンである三価Inflexal(R)Vを0.1mLの用量で皮内投与を行い、ワクチン用量中にそれぞれのインフルエンザ株(A/New Caledonia/20/99(HIN1;IVR−116),A/Hiroshima/52/2005(H3N2;IVR−142;A/Wisconsin/67/2005様ウイルス);およびB/Malaysia/2506/2004)のHAを3、4.5もしくは6μg含有させた。筋肉内デリバリーされたワクチンをポジティブコントロール(0.5mlの用量中に1株あたり3x15 μgのHAを含む)とした。その上、NanoPass社が開発したマイクロニードル装置(一般にMicronJet装置と称される)が抗体の皮内デリバリーに用いることができるか、また有益な結果が得られるかどうかについても試験した。
【0045】
MicronJet装置は一般に安定して定まった注射深度を有する複数の「針」もしくはチャンネルを利用し、ただ1つのチャンネルしかなく注射深度がかなり変動する(主にワクチン投与する人による)1本の皮下注射器と対照的である。MicronJet装置は一般に、痛みを伴わずに薬剤とワクチンを皮内投与するために設計された針代替品である。従来の針の代わりに標準的なシリンジに取り付けて、MicronJetを用いると、制御した皮内投与デリバリーを可能とするものならば実際上どんな物質も注射することができる。薬剤、タンパク質、およびワクチンの皮内投与に非常に適しており、医療従事者は最小限の専門技術しか必要としない。マイクロニードルはとても短いため、痛覚を司る皮膚の自由神経終末に達することはなく「チクリ」とする痛みはなく、また大部分の物質を痛みを伴わずに投与することができる。マイクロニードルはとても小さいため、裸眼ではほとんど視認できず、MicronJet装置は従来の針よりもはるかに恐怖は少なく、子供と針恐怖症の患者にとっては完璧なものとなる。
【0046】
用量増加実験において最低の用量を用いた際に、MicronJet装置を用いた実験グループに対して、それぞれのインフルエンザ株のHAを3.0μg投与した。全体では、実験は合計で5つのグループに対して行った。各グループは56人の個人を含み、3つのグループが、1つの皮下注射器を使用して皮内投与を受け(グループA1、A2、A3)、1つのグループは筋肉内投与(グループC;用量3.0μg)を受け(グループB;用量15μg)、また1つのグループはマイクロニードル装置を使用して皮内投与を受けた。グループA1にはそれぞれのインフルエンザ株由来のHA3μgを、グループA2にはそれぞれのインフルエンザ株由来のHA4.5μgを、またグループA3にはそれぞれのインフルエンザ株由来のHA6.0μgを投与した。
【0047】
第1日目、ワクチン接種前日にワクチン接種前の、免疫後22日目のサンプルを取り、各個人から別々のサンプルを取った。図1に、私が各グループ内の平均年齢を、実験グループごとの性別を、そして異なる株ごとの幾何平均抗体価を示す。幾何平均抗体価、血清抗体保有率および血清抗体陽転率は、前述の実施例と同様に決定した。
【0048】
図4は、すべての3種類の株およびすべての実験グループについての、免疫後のサンプルの血清抗体陽転率効率(左のパネル)を、免疫後22日目のサンプル(右のパネル)と比べて示す。概してどの実験グループもワクチン接種後には各グループについて、ほとんどすべての場合70%という閾値を越えた平均血清抗体保有率の水準に達するものの、いずれの株に対する十分な抗体保有率をも有しないことを明確に示している。
【0049】
図5は、皮下注射器を用いて1株あたり3、4.5、および6μgのHAの接種を受けた、A1、A2およびA3の皮下投与グループについて、幾何平均抗体価の値を表している。明確に幾何平均抗体価がかなり増加することがわかる。図6(右のパネル)に、幾何平均抗体価の増加倍数を示し、増加(点線)における閾値(>2.5倍)に、B型標準ウイルスの症例においても、達していることを示唆している。この水準には最小用量である3μgのHA抗原を用いることによっても達成することができる。図6には、左および中央のパネルは皮下注射器を用いてこれらの3種類の株を低用量でワクチン接種を受けたグループの血清抗体陽転率と血清抗体保有率を示す。B型株のHAを3μg用量で用いる場合を除いて、すべてのワクチンが、ここで議論したような閾値(血清抗体陽転率40%および血清抗体保有率70%)を超えて十分な効率を与えた。こうしてワクチンの免疫原性を各株について確認した。
【0050】
また、HAを一般的な15μgの用量で筋肉内投与した場合(グループB)を、皮下注射器を通して投与する3μgのHAを3μgの用量で投与する場合と比較した(グループA1)。図7(左のパネル)は、図6(左の3つのバー、中央パネル)に示した結果と一致してA株だけに関してのみ抗体保有が得られまたB株の血清抗体保有率が70%の閾値より若干低くなったものの(中央パネル)、十分な血清抗体陽転率が得られたことを示す。幾何平均抗体価の増加倍数(右のパネル)は筋肉内投与による多用量の場合および皮下投与による少用量の場合の両方において、十分であった。
【0051】
また、1株(グループB)あたり15μgのHAを筋肉内投与した場合を、NanoPass(MicrorJet)装置を用いて1株あたりの3μgのHAを皮下投与した場合(グループC)とも比較した。高用量による筋肉内投与デリバリーと比較して、低用量による投与の血清抗体陽転率は許容される水準を超え、重要なことに血清抗体保有率(B型ウイルスの血清抗体保有率を含む)も閾値値に達した(図8、左および中央パネル)。したがって、1つの皮下注射器による皮下投与と比較して、B型ウイルスの場合には血清抗体保有率がさらなる増加を導いたという点において、複数の針を有するMicronJet装置が格別な効力を発揮した。NanaoPass社製のデリバリー装置が数本の非常に小さい針(もしくはMicroPyramids)を利用するため、非常に小さい皮膚片に複数の注射を行うことで、ワクチンをデリバリーできる領域を広くすると言える。こうしてワクチン接種の効果をさらに大きくする。したがって、皮下デリバリーを行うときには複数の同時に注射できる箇所を有することが好ましい。本文における「同時に」とは、同時に、単一装置についての複数のかつ分離した注入口を用いて、好適には一回の投与により、患者にワクチン投与を行うことを意味する。好適にはそのような1つのデリバリー装置において、1個以上のチャンネル(細い針、マイクロニードル、もしくはMicroPyramids)を;好適には少なくとも2、3または4個のチャンネルを、さらに好適には、4個以上のチャンネルを使用する。最も望ましくは、多数のチャンネルを用いることで、ワクチン構成が流れることができ、目詰まりすることなく複数の注入口に渡って分離することができ、(閾値に達する)十分な効力、すなわち許容可能な血清抗体陽転率、血清抗体保有率および幾何平均抗体価の増加倍数の水準を伴うワクチン接種をもたらすワクチン構成をデリバリーすることのできる装置を用いる。
【0052】
図8、右のパネル、は、ワクチン接種前の力価をワクチン接種後の力価と比較したときの、従来の針を用いた筋肉内投与とNanoPass装置を使用した皮内投与の間における幾何平均抗体価の増加を示す。注目すべきことに、5倍少ない用量のHA抗原を皮内投与するとき、筋肉内投与により高用量を用いる場合と比べると、より高い幾何平均抗体価の増加がそれぞれの3種類の株について検出される。したがって、ビロソームに基づくインフルエンザワクチンを皮内投与方法、好適には、本明細書に開示するようにNanoPass装置と共に用いることで、許容可能かつ十分な値の幾何平均抗体価が、A型および、B型インフルエンザ株について得られ、少なくとも5倍少ない用量(この場合、(1株あたり)15μgのHAから、3μgのHA)を用いることが可能になる。このことは、ビロソームに基づくインフルエンザワクチンを、好適にはNanoPass社が開発した多重チャンネルの装置などの皮内投与装置と共に用いる本発明に従ったキットを用いることにより、劇的な用量の節約を達成することができ、世界中の人々に用いるための用量が莫大に増加する。
【0053】
図9は、1個の皮下注射器(各パネルにおける左3つのバー)を用いた皮内投与をMicronJet装置(各パネルにおける右3つのバー)と比較するときに同様:注射部位(同時に複数のチャンネルを使用することによる)の広がりにより幾何平均抗体価の高い増加を引き起こす、という結果を示す。各々の中央バーはA/Wisconsin株を、右バーはB/Malaysia株を表す。そして、1株あたり3μgのHAという低用量を、1つの皮下注射器を用いて投与する場合と、MicronJet装置を用いて投与する場合とを比較するとき、1本の針を用いたときには70%の閾値を下回ったままのB型ウイルスの血清抗体保有率が、ビロソームに基づくインフルエンザワクチンを複数の針を用いたNanoPass社製のMicronJet装置を用いて投与するときに、70%を超える水準に達するということがわかる。本結果により、一回の投与を複数の注射部位を用いて行うことによる、有益な免疫原性効果および付加価値を示す。
【0054】
HAI力価およびと統計分析の後に、B/Malaysiaウイルスに関して、MicronJetを用いたグループにおいてはB型ウイルスに関して統計的にかなり高いHAI力価(p=0.001)が見られたという点から、3.0μg投与したグループ(1つの皮下注射器を用いた皮内投与およびMicronJet装置を用いた皮内投与)の違いが重要であることが明らかになった。同じ分析から、A/Wisconsin株に関して、MicronJet装置を用いたワクチン接種を受けたグループでは、筋肉内投与によるより高用量で投与したグループよりも極めて高いHAI力価(p=0.008)が見られたという点から、15μgを投与したグループ(筋肉内投与)と3.0μg投与したMicronJetグループの差も大分異なることがわかった。
【0055】
全体から見ると、インフルエンザワクチンの皮内投与により十分な血清抗体保有率と血清抗体陽転率が得られると結論づけられる。そのうえ、一般的に使用されるインフルエンザワクチン生産および構成(15μgのそれぞれの株由来のHA)よりもはるかに低い用量(3、4.5、および6μgのそれぞれの株由来のHA)で投与するときも、そういった値を実現することが可能である。さらには、マルチチャンネルデリバリー装置および/もしくは少なくとも「本当」(真皮を越えることのない)の皮内デリバリーを達成できるように安定した、かつ標準化された注射深度を有する装置を使用するのが好ましいと結論づけられる。本研究においては例えば3.0μgのHAを投与した場合に4.5μgもしくは6.0μgを投与した場合よりも低い効能を検出することができなかったので、本明細書に開示するように、Inflexal(R)Vなどのビロソームに基づくインフルエンザワクチンを用いて皮内投与を行うときは、用量をさらに低くすることができる。言い換えれば、それぞれの株のHAを3.0μgずつ用いるときに、少なくとも皮内投与する場合には既にプラトーに達していると結論付けることができる。1株あたりのHAを3.0μgより低くして投与できるかどうかについては今後の研究課題である。
【0056】
【表1】
【0057】
参考
(1)Belshe R.B. et al. (2004). Serum antibody responses after intradermal vaccination against influenza. New Engl. J. Med. 351:2286 2294.
(2)Gluck R. (1992). Immunopotentiating reconstituted influenza virosomes (IRIVs) and other adjuvants for improved presentation of small antigens. Vaccine 10:915 920
(3)Hosaka Y. et al. (1983). Hemolysis by liposomes containing influenza virus hemagglutinins. J. Virol. 46:1014 1017.
(4)Huang R.T. et al. (1979). Association of the envelope glycoproteins of influenza virus with liposomes a model study on viral envelope assembly. Virology 97:212 217.
(5)Huckriede A. et al. (2005). The virosome concept for influenza vaccines. Vaccine 23 Suppl. 1:S26 38.
(6)Kawasaki K. et al. (1983). Membrane fusion activity of reconstituted vesicles of influenza virus hemagglutinin glycoproteins. Biochim. Biophys. Acta. 733:286 290.
(7)Kenney R.T. et al. (2004). Dose sparing with intradermal injection of influenza vaccine. New Engl. J. Med. 351:2295 2301.
【技術分野】
【0001】
本発明は医学の分野および特に伝染病の分野に関する。さらに特に、本発明はインフルエンザ感染症の予防療法のために用いる薬剤の製造におけるビロソームを備えるワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルス、オルトミクソウイルス科のウイルス、は毎年流行する急性呼吸器疾患の原因因子である。インフルエンザの伝染と流行は人間の命を奪い、世界経済に影響を与える。米国だけでも、毎年500万人の米国人がインフルエンザに感染する。年間死者数(1972年〜1992年における)は世界中で60,000人(CDC統計)と見積もられている。最近1世紀において、季節性流行以外のインフエンザ大流行として3つの大きな出来事がある。過酷なインフルエンザ流行の典型例として、地球上でおよそ400〜500万人が死亡した1918年〜1919年の「スペイン風邪」があった。その他に、1957年(アジア風邪、推定死亡者数100万)、および1968年(ホンコン風邪、推定死亡者数70万)に流行した。今日では(致死性の)鳥インフルエンザウイルスがヒト個体群に侵入することができ、そしてある種の場合においてその鳥ウイルスまたはその致死性の構成物のヒトからヒトへの感染が実際に可能であることが明らかになった。
【0003】
インフルエンザウイルスの感染力は、特に持病を伴う高齢の人々と患者の場合には、世界における実質上の罹病率と死亡率の広いスペクトルと連関する。インフルエンザに対するワクチン接種は、その感染に関連するしばしば致命的な合併症を防ぐことについて最も有効であり、インフルエンザワクチンの開発に多くの努力が注がれてきた。
【0004】
3つの型の不活性化したインフルエンザワクチンが現在使用されている:ウイルス全体、分解産物と表面抗原、またはサブユニットワクチンである。季節性ワクチンは全て、数年のうちにヒト社会に蔓延すると予想されるインフルエンザウイルス株の表面糖タンパク質である、赤血球凝集素(HA)とノイラミニターゼ(NA)タンパク質を含む。ワクチンに導入したHAおよびNAタンパク質を運搬する株を孵化鶏卵の中で成育し、その後さらなる処理の前にウイルス粒子を精製する。
【0005】
インフルエンザワクチンの年次調節は、「抗原ドリフト」と「抗原シフト」として知られているプロセスによって引き起こされた抗原変異のために必要となる:抗原ドリフトは、ウイルスのHAかNAタンパク質のいずれかにおける一連のポイントミューテーションの蓄積により、複数のアミノ酸が置換されることによって起こる。これらの置換により、以前の感染によって生じた中和抗体の結合が妨げられ、新しい変異体が宿主に感染することができるようになる。抗原シフトとは、動物(しばしば鳥)のA型インフルエンザウイルスとヒトのA型インフルエンザウイルスの間の遺伝子再集合により、新しい亜型インフルエンザが出現することである。1957年の(H2N2)と1968年(H3N2)に流行したインフルエンザ株は、鳥のHAまたはNAをコードする遺伝子を循環するヒトウイルス中に導入したリアソータント型ウイルスの例であり、後のヒト社会への蔓延を可能にした。
【0006】
100以上の国立のインフルエンザ研究機関による疫学調査に基づいて、世界保健機関(WHO)は毎年北半球については通常2月にまた南半球については9月に、インフルエンザワクチンを作成し直すことを推奨している。この慣例により、ワクチンの生産と標準化のための時間を長くとも9か月までに制限している。
【0007】
多用量のワクチンが緊急に必要になった場合、例えば、抗原ドリフトと抗原シフトによって新しい特殊型のA型インフルエンザウイルスが生じ、ワクチンの供給を増やす必要があるときには、孵化鶏卵の供給が限られてしまうためワクチンを素早く生産することが妨げられる。この生産システムの更なる欠点は、柔軟性の欠如、毒素に伴う危険性、外来性ウイルス特にレトロウイルスに伴う危険性、および無菌環境への配慮である。孵化鶏卵中において他の株よりも速く成長する株もあり、このワクチンを届ける速度が最終的に遅くなる。要するにこれらの欠点は、このような有胚鶏卵の使用による今日のインフルエンザワクチン生産方法における深刻な問題を提起している。したがって、伝染と流行に備えたインフルエンザワクチン生産のために細胞培養システムを使用することが、代替の生産手段として魅力的でありかつ信頼できる。インフルエンザウイルス生産のために、変異型アデノウィルス−E1により形質転換し不死化した細胞株を使用する方法は、WO01/38362に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第01/38362号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
年次調節したインフルエンザワクチンは通常、2種類のA型インフルエンザウイルス株由来の抗原と1種類のB型インフルエンザウイルス株由来の抗原を含む。標準の0.5mlの注射可能な用量は、一般に一元放射免疫拡散分析評価で測定されるように、各株由来の赤血球凝集素(HA)抗原成分を15μg、足し合わせて合計で約45μgのHAを含む。
【0010】
世界中に利用可能な生産施設について、増加する世界人口、成長および発展する経済、盛んな海外旅行、年一度のインフルエンザ流行病のさらなる広がり、世界的なインフルエンザ流行の脅威、および世界のワクチン生産施設の制限により、現在用いられている基準と比べて特性を改良したワクチンを使用して防御免疫反応をヒトで達成するのが望ましい;また、同水準の感染防御免疫を得ながらより少ない用量で(用量節約のため)ワクチンを使用するのも望ましい。用量の減少を考えたとき、アルミニウムを用いたアジュバントなどの免疫賦活性物質が考えられる。しかしながら一般に、インフルエンザワクチンへのアルミニウムの応用は、注射部位の痛みなどの有害な副作用のため行われない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ワクチン接種を受けた18〜60歳の人の筋肉内配送(IM)後もしくは皮内配送(ID)後における、A/New Caledonia株(左バー)、A/Hiroshima株(中央バー)およびB/Malaysia株(右バー)に対する(A)血清抗体陽転(SC)率(%)、(B)GMT(幾何平均抗体価)の増加倍率(>2.5倍)、および(C)血清抗体保有率(SP)(>70%)を示す。
【図2】ワクチン接種を受けた60歳より高齢の人の筋肉内デリバリー(IM)後における、A/New Caledonia株(左バー)、A/Hiroshima株(中央バー)およびB/Malaysia株(右バー)に対する(A)血清抗体陽転(SC)率(%)、(B)幾何平均抗体価の増加倍率(>2.5倍)、および(C)血清抗体保有率(SP)(>70%)を示す。
【図3】欧州医薬品局の基準のほとんどが満たされたことを示し、図中、+(プラス)は基準を満たすことを、−(マイナス)は基準を満たさないことを示す。
【図4】一回の皮下投与において3つのインフルエンザ株のHA抗原を3、4.5、および6 μg投与した実験における血清抗体陽転率と血清抗体保有率を、筋肉内投与による多用量(それぞれの株の15 μgのHA)の場合、およびNanoPass社製の装置(一般にMicronJet装置と称する)を用いた皮下投与による低用量(それぞれの株の3 μgのHA)の場合と比較して示す。本実験は各実験グループの56人のヒト患者が関わった第II相臨床試験であり、2007/2008のインフルエンザシーズンのインフルエンザワクチンInflexal(R)(商標)を使用した。
【図5】それぞれの株からのHA抗原を3、4.5、および6μgずつ投与したグループのワクチン接種前後における幾何平均抗体価を示す。
【図6】それぞれの株からのHA抗原を3、4.5、および6μgずつ投与したグループの血清抗体陽転率、血清抗体保有率、および幾何平均抗体価を示す。
【図7】それぞれの株からのHA抗原を15μgずつ筋肉内投与したグループ、およびそれぞれの株からのHA抗原を3μgずつ一回の皮下投与により投与したグループの、血清抗体陽転率、血清抗体保有率、および幾何平均抗体価を示す。
【図8】それぞれの株からのHA抗原を15μgずつ筋肉内投与したグループ、およびそれぞれの株からのHA抗原を3μgずつNanoPass社製MicronJet装置を用いて皮下投与したグループの、血清抗体陽転率、血清抗体保有率、および幾何平均抗体価を示す。
【図9】それぞれの株からのHAの3μgずつを、単一の皮下ニードルまたはNanoPass社製MicronJet(マルチプルマイクロニードル)装置を用いて受けるグループの、ワクチン接種前後における幾何平均抗体価を示す。それぞれの左バーはA/Solomon Island株、中央バーはA/Wisconsin株、そして右バーはB/Malaysia株を示す。
【図10】それぞれの株からのHAの3μgずつを、単一の皮下ニードルまたはNanoPass社製MicronJet(マルチプルマイクロニードル)装置を用いて受けるグループの、血清抗体陽転率、血清抗体保有率、および幾何平均抗体価を示す。
【0012】
(発明の概略)本発明はヒト対象体(被験者)における皮内インフルエンザワクチンとして使用するための、インフルエンザ(赤)血球凝集素(HA)抗原を含むビロソーム調製物に関する。本技術は、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)抗原を有するビロソーム調製物が動物(ブタ)実験において十分な、血清変換、抗体保有、および幾何平均抗体価の増加倍率の水準を提供しないことを明らかにした。本発明の発明者は本明細書にこれらのワクチンをヒトに投与したときに国際基準を満たすことを示す。
【0013】
本発明はさらにヒト被験者に皮内投与するインフルエンザワクチンを製造する段階における、インフルエンザHA抗原を有するビロソーム調製物の使用に関し、好適にはInflexal(R)Vワクチンの組成として調製する。さらにこのようなワクチンを少量、好適には一回の投与量を約0.1 mlとして製造するのが好ましい。また本発明は、本発明に従ったビロソーム調製物を含むキットと、ワクチンの皮下デリバリーに適したデリバリー装置、好適にはNanoPass社により開発されたMicronJet装置などのマルチチャンネルの皮下デリバリー装置に関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般に、アジュバンドもしくは免疫増強剤の添加はワクチン改良の1つの選択肢である。さまざまなアジュバンドが今日存在する。典型的な例はアルミニウム水酸化物かアルミニウムリン酸塩などのアルミニウムに基づくアジュバンドである。他の例として、油中水乳剤、サポニン(免疫刺激複合体という形で用いることができる)、および破傷風トキソイドなどの病原体由来の毒素がある。
【0015】
インフルエンザ抗原に対する免疫反応を刺激する別の方法は、本質的に包膜に組み込んでいる赤血球凝集素抗原を含みインフルエンザウイルス自体の遺伝的背景を持たない、再構成した機能性ウイルス包膜である、再構成されたインフルエンザビロソームをつくりだすことによる(Gluck 1992; Huckriede et al. 2005)。そのようなインフルエンザビロソームが、毎年流行するインフルエンザに使用すべきインフルエンザの予防接種に承認されて、商標Inflexal(R)Vの下でBerna Biotech AGにより販売されている。
【0016】
上述のようなビロソームを有するインフルエンザワクチンは、年一度の予防接種プログラムのためにWHOによって推奨される株(2種類のインフルエンザA株および1種類のインフルエンザB株)のHAを、一般にはそれぞれの15μgずつ有する。これらのワクチンは一般に注射針を使用して筋肉内投与される。
【0017】
毎年のインフルエンザワクチンの需要を満たすために、十分な量のワクチンを供給することに関して問題がある上に、長い針を用いて投与する必要があるために、これらのワクチンの投与における問題もある:すなわち、多くの人々が長い針を恐れるために、他の投与方法が望まれる。
【0018】
皮内投与は長い注射針の使用を避けてワクチンを投与する方法であって、使い易く、信頼の高い装置を用いて投与することができる。そのうえ皮膚は特化した樹状細胞であるランゲルハンス細胞が高密度で存在するため、優れた免疫器官である。一般にワクチンの皮内投与により、より効率的に抗原が取り込まれると考えられている。当該技術分野におけるインフルエンザワクチンの皮内投与について、より少ない用量(一種類の株のHA3〜6μg)を用いて有望な結果を示す報告(Belshe et al. 2004; Kenney et al. 2004)がされてきた。Belsheら(2004)は119人の被験者への皮内投与に6μgのHAを使用することで100%の血清抗体陽転を達成したことを示したが、一方でKenneyら(2004)は、50人の被験者について15μgのHAを筋肉内投与した場合と、3μgのHAを皮下投与した場合と比べて血清抗体陽転率および抗体保有効率が同様であることを示した。
【0019】
ウイルス成分ワクチンもしくは精製抗原ワクチンの皮内投与への応用はできるが、容量および抗原用量は一般に筋肉内投与によるワクチン構成と比較して少なく、そのような研究は行われて公開されたが、現在のところどんな皮内投与のインフルエンザワクチンも上市されていない。基準を満たしかつ筋肉内投与ワクチンと同程度効果的にするために、(皮内投与したときに)アジュバンドによってそのような構成の免疫反応を刺激するのが望ましい。しかしながら、アルミニウムに基づいたアジュバンドは通常、皮内投与するのに不適当となる有害な副作用をもたらす。免疫反応を刺激するもう一つ方法は、抗原をビロソーム膜と細胞膜の融合処理によって直接的に抗原提示細胞に届けられるようHA抗原を含む、再構成した免疫賦活性インフルエンザビロソームを使用することである。このようなビロソーム構成は当技術分野でよく知られており、国際公開WO92/19267は他のタイプのワクチンへの使用について記載している(参照例:Huang et al. 1979; Kawasaki et al. 1983; Hosaka et al. 1983)。
【0020】
インフルエンザビロソームは皮内投与に使用されており、このような方法は国際公開WO2004/016281に開示されている。WO2004/016281の実施例と図面によると、ビロソームに基づいたインフルエンザワクチン(Inflexal(R)V)を様々な濃度のADPリボシル化毒素(大腸菌の易熱性エンテロトキシンLT)と組み合わせて用いることにより、それぞれのワクチン株に関して欧州医薬品局の評価基準の1つを満たす(少なくとも40%の、血清抗体陽転率=ワクチン接種の後に少なくとも4倍の赤血球凝集阻害(HI)力価を有する、ワクチン接種を受けた人の割合)ことが開示されている:文献中の図1〜3を参照されたい。しかしながら、アジュバンド(ADPリボシル化毒素)を除きそれぞれの株の3μgのHAのみを使用した場合には、良好な結果が全く得らなかった。血清抗体陽転率はLTのないビロソームを皮内投与した場合のどの場合においても40%に達しなかった。通常の筋肉内投与の方法によっては十分な血清抗体陽転が得られた。したがってWO2004/016281による結論は、ビロソームに基づいたインフルエンザワクチンが十分な抗体保有を得るために用いるべきでないということと言える。
【0021】
本発明の発明者は、Inflexal(R)Vの名称で売り出されたものなどのビロソームに基づくインフルエンザワクチンは皮内投与することができ、ヒトに使用したときに当局によって設定されるような基準に達する結果をえることができるということを今回発見した。本発明に従った皮下投与への応用は、一般的な評価基準(EMEAが設定したものなど)によって必要とされる防御免疫を引き起こす性質を維持しながら、一般に必要とされるそれぞれの株あたり15μgのHAよりも低用量(かつ低容量)で行う。用量を下げることにより、世界的な生産能力に関する問題およびインフルエンザワクチンの需要増大に関する問題への解決法が与えられる。皮内投与は、多くの人々が恐れる、針を用いた厄介な筋肉内注射に対する解決法を与える。そのうえ、ビロソームを用いてアジュバンド化したインフルエンザワクチンが高純度であるため、ビロソームに基づくワクチンを使用することによって有害事象の割合がより低くなることを期待することができる。
【0022】
明らかに、本発明の発明者が低用量のかつビロソームの形のワクチンが皮内投与したときに十分な抗体保有を与えるということを今回発見した事実は、WO2004/016281を考慮すると、全く予期せぬものであった。この相違は、WO2004/016281における実験がヒトではなく動物、正確に言うとブタを用いて行われたという事実によって説明することができる。本発明の発明者は今回、ビロソームに基づくインフルエンザワクチンの皮内投与によりヒト被験者へのHA抗原投与を低用量としても、十分な血清抗体陽転率と血清抗体保有率を与えることを発見した。
【0023】
本発明は1種類のインフルエンザウイルス株からの約3μgのHA抗原を含むワクチン構成に関し、その構成にはヒトへの治療もしくは予防において使用するために、複数のインフルエンザウイルス株由来の、好適にはB型株と同様にA型株由来の、HA抗原をさらに含むこともできる。構成を、複数のインフルエンザ株由来のHA抗原を含みHA抗原の量を好適には1株あたり約3μgとすることができる点を理解されたい。
【0024】
ここに使用される「皮内デリバリー」もしくは「皮内投与」は、それは必ずしも皮膚の真皮、すなわち表面から約1.0mmと約2.0mmの間に位置する皮膚中の層にのみ位置するというわけではないであろうが、真皮の領域へのインフルエンザワクチンのデリバリーを意味する。個々人および身体の部分においてある程度の変動があるものとしてよい。一般に、皮膚表面の約1.5mmになると真皮に達し、それぞれ皮膚表面と皮下層の下に存在する角質層と表皮の間に位置する。投与後にワクチンを真皮のみに、もしくは表皮にも存在させることができる。
【0025】
皮内投与ワクチンに伴って使用するための適した装置は、NanoPass Technologies Ltd.によって市販されているもの、および米国特許4886499、米国特許5190521、米国特許5328483、米国特許5527288、米国特許4270537、米国特許5015235、米国特許5141496、米国特許5417662、国際公開99/34850、欧州特許1092444、米国特許5480381、米国特許5599302、米国特許5334144、米国特許5993412、米国特許5649912、米国特許5569189、米国特許5704911、米国特許5383851、米国特許5893397、米国特許5466220、米国特許5339163、米国特許5312335、米国特許5503627、米国特許5064413、米国特許5520639、米国特許4596556、米国特許4790824、米国特許4941880、米国特許4940460、米国特許6494865、米国特許6569123、米国特許6569143、米国特許6689118、米国特許6776776、米国特許6808506、米国特許6843781、米国特許6986760、米国特許7083592、米国特許7083599、国際公開2004/069302、国際公開2004/098676、国際公開2004/110535、国際公開2005/018703、国際公開2005/018704、国際公開2005/018705、国際公開2005/086773、国際公開2005/115360、国際公開02/02178、国際公開02/02179、国際公開02/083205、国際公開02/083232、国際公開03/066126、国際公開03/094995、国際公開2004/032990、国際公開2004/069301、国際公開97/37705、国際公開97/13537に記載されているもの、などの塗布器を含む。
【0026】
本発明に従って当業者によって適当であるとわかったインフルエンザワクチンのデリバリーのためのどんな皮内デリバリー装置も使用することができ、また本発明に従ったキットの一部とすることができる。好適にはNanoPass社によって開発され一般に複数のデリバリーチャネルを有するMicronJet装置と称する装置とし、本装置はマイクロニードルもしくはMicroPyramidsとも称される。皮内で用いられる(本明細書の例2における)MicronJet装置は、4本の別々の針を含むが、MicronJet装置は他の個数の、少なくとも2つからさらにヒトの皮膚にデリバリーする必要がある構成を流すことのできる本数の、別々のマイクロニードルを含めることができる。
【0027】
インフルエンザワクチンの効力を測定するために国際的に適用される基準がある。インフルエンザに対する有効なワクチンの、欧州医薬品局の評価基準は
血清抗体陽転率: >40%(18〜60歳)
>30%(>60歳)
血清陽転因子: >2.5(18〜60歳)
>2.0(>60歳)
血清抗体保有率: >70%(18〜60歳)
>60%(>60歳)
【0028】
血清抗体陽転は、ワクチン接種の後に少なくとも4倍の赤血球凝集阻害(HI)力価を有する、ワクチン接種を受けた人のパーセンテージと定義される。血清陽転因子は、各株についてのワクチン接種後における血清HIの幾何平均抗体価の倍加数と定義される。血清抗体保有率は、ワクチン接種後における血清HI力価(それぞれのワクチン株について)であり、1:40と同等かまたはそれよりも高く、また一般的に抗体保有を示唆する。
【0029】
理論的に欧州医薬品局の要求を満たすために、インフルエンザワクチンはワクチンに含まれるインフルエンザのすべての株について、上述した評価基準のうち1つだけを満たせばよい。しかしながら実際には、すべての株について少なくとも2つ満たすことが必要条件となり、また十分条件となる。筋肉内投与した場合であっても、他のものより免疫原性を有する株もあり基準に達しない可能性がある。しばしば、18〜60歳の健常者についての基準を満たしたときに、高齢者(>60歳)についての基準を満たさないこともありうる。
【0030】
本発明はヒトに皮内投与するためのインフルエンザワクチンの製造における、ビロソームに基づくインフルエンザワクチンの調製物の使用に関する。さらに、ワクチンを皮内にデリバリーするときに投与用量を低減する。
【0031】
ある具体例においては、本発明に従った構成における抗原量は、一回のワクチン投与用量においてそれぞれのインフルエンザ株のHA1〜10μgとし、例えば、2〜10μg、例えば、約3、4、5、6、7、8もしくは9μgのそれぞれのインフルエンザ株のHAとする。好適には、本発明に従った構成における抗原量は一回のワクチン投与量においてそれぞれのインフルエンザ株の約3.0μgのHAである;これにより、必要となる投与用量が典型的な筋肉内投与用量の20%(0.5mLの代わりに0.1mL)となる。
【0032】
本発明は、インフルエンザの血球凝集素(HA)抗原を含むビロソーム調製物に関し、ヒト被験者への皮内投与インフルエンザワクチンとして使用するために用いる。好適には、インフルエンザウイルス以外のウイルス由来の抗原を含まない調製物とする。HA抗原を含むビロソームは何十年もの間製造されており、そのようなビロソームの生産方法は当業者によく知られている。また、インフルエンザウイルス由来のHA抗原を含むビロソーム調製は、A型肝炎ワクチン(Epaxal(R))のために製造されていたものなどの他の予防療法のためにも用いられてきた。しかしながら、好適な実施例では治療を受けたヒト被験者がインフルエンザ感染を防ぐために予防注射されるときに、ワクチンの調製にはA型肝炎ウイルスのような他の病原体由来の抗原を含まない。流行病が生じたときには、インフルエンザウイルス由来のHA抗原を含むビロソーム調製を使用することができる。その場合、1種類のインフルエンザ株由来のHA抗原をビロソーム調製の一部に使用する。しかしながら、季節性のワクチンが作り出されているとき、そのようなワクチンはHAが3種類の異なったインフルエンザ株(一般に2種類のA株と1種類のB株)によって存在しているという意味で、通常三価である。季節性インフルエンザの流行期におけるヒト被験者の治療のために、本発明に従ったワクチン調製は2種以上のインフルエンザウイルス株由来のHA抗原を含み、好適には3種類の株、より好適には2種類のA型株および1種類のB型株を含む。本発明に従ったワクチン調製は、好適にはヒト被験者への予防療法に有用であり、ゆえにさらに好適には製薬学的に許容される賦形剤および/または溶剤を含む。製薬学的に許容される賦形剤は当業界でよく知られているもので、例えば、レシチン、Na2HPO4、KH2PO4およびNaClから選択するものとできる。適切な溶媒は水である。
【0033】
好適な実施例においては、本発明は本発明に従った調製物であり、各インフルエンザ株からの濃縮HA抗原をインフルエンザ1株あたり約3.0μgとする。一般に、季節性インフルエンザ流行期のためのビロソーム調製物の筋肉内投与は、インフルエンザウイルス1株あたりの約15μgのHAを用いて行われる。本明細書に開示するように現在、適正水準の血清抗体陽転率、血清抗体保有率、および幾何平均抗体価の増加倍数を得る一方で、筋内投与に使用されるそのような調製物の1/5(20%)を皮下投与に使用することができる。したがって皮下投与においては、好適なインフルエンザ1株あたりのHAの濃度は約1/5とし、約3.0μgである。
【0034】
インフルエンザウイルスに基づくビロソーム、および免疫原性決定因としてHA抗原を含む調製物は市販されている。皮下投与のためのそのような調製物1/5ルのサンプリングが、生産が容易になるため好ましい。好適な実施例では、本発明は本発明に従ったワクチン調製に関し、調製を、Berna Biotech AG(スイス)により市販されているように、Inflexal(R)Vによるワクチン構成とする。WHOの推奨に従い、このワクチンには毎年異なったインフルエンザ株由来のHAが内容物として含む。好適には、本発明に従ったワクチン調製は、ここに挙げるインフルエンザ株のHA抗原を三価構成(trivalent combination)を含まない;A/New Caledonia/20/99、A/Moscow/10/99、およびB/Hong Kong/330/2001。ここに示す株のような、株もしくはウイルスのいずれかを用いた他の組み合わせも可能であり、本発明に従ったワクチン調製に含まれる。
【0035】
本発明はヒト被験者に対する皮内投与のためのインフルエンザワクチンの製造における、インフルエンザHA抗原を含むビロソーム調製物の使用に関する。好適には、本発明に従った使用において調製物は、インフルエンザウイルス以外のウイルス由来の抗原を含まない。季節性インフルエンザワクチンへの応用については、好適には調製物は2またはそれよりも多くのインフルエンザウイルス株由来のHA抗原を含む。流行性インフルエンザワクチンへの応用について、世界的流行の原因となる1種類のインフルエンザ株は、本発明に従って使用する調製物においてそのHA抗原を提示するのが好ましい。好適な使用においては、1種類のインフルエンザ株のみが調製物において存在するときでさえ、それぞれのインフルエンザ株由来の濃縮HA抗原をインフルエンザ1株あたり約3.0μgとする。好適には本発明に従った薬の製造にはInflexal(R)Vのワクチン組成を使用し、好適には以下に挙げるインフルエンザ株のHA抗原を三価構成で用いない調製とする;A/New Caledonia/20/99、A/Moscow/10/99、およびB/Hong Kong/330/2001。
【0036】
皮内デリバリーに用いる容量を低減させる。原始的な筋肉内投与するワクチンは0.5mLの容量である(1回の投与におけるInflexal(R)Vのように)のに対して、皮内投与するワクチンについてはその容量の20%を使用するだけでよい。したがって、ワクチンの1回の投与における容量を好適には約0.1mlとして製造する。
【0037】
ビロソームはアジュバンド活性を有することがあるため、アジュバンドとして考慮することができる。本発明に従ったビロソーム調製を、インフルエンザに対するヒト被験者に対して皮内投与によるワクチン接種に使用するとき、さらなるアジュバンド(すなわち、ビロソーム以外には)は必要でないことをここに示す。したがって、好適な実施例では、本発明のワクチン組成は追加的なアジュバンドを含まない。そのような追加的なアジュバンドは副作用を起こすかもしれず、本発明に従うことでそれを回避する。さらには、本発明は追加的なアジュバンド成分の製造と試験を必要としないため、追加的な費用と煩雑さを回避することができる。
【0038】
本発明はまた、本発明に従った調製物およびそれを皮内に配送するデリバリー装置の組み合わせに関する。それゆえ、本発明はまた、本発明に従ったビロソーム調製物を含むキットと、ワクチンの皮下デリバリーに適したデリバリー装置に関する。さらにより好適には、調製物をデリバリー装置内部に既に有するキットであって、医療従事者がヒト被験者にワクチンを容易に投与することを可能にする。本発明に従うキットで使用される好適なデリバリー装置は、NanoPassにより開発されたMicronJetという名称で販売されている装置などである。本発明に従ってキットで使用することができる、これらおよび他のデリバリー装置は、以下の特許および特許出願のいずれか1つに開示されたものとする:米国特許4886499、米国特許5190521、米国特許5328483、米国特許5527288、米国特許4270537、米国特許5015235、米国特許5141496、米国特許5417662、国際公開99/34850、欧州特許1092444、米国特許5480381、米国特許5599302、米国特許5334144、米国特許5993412、米国特許5649912、米国特許5569189、米国特許5704911、米国特許5383851、米国特許5893397、米国特許5466220、米国特許5339163、米国特許5312335、米国特許5503627、米国特許5064413、米国特許5520639、米国特許4596556、米国特許4790824、米国特許4941880、米国特許4940460、米国特許6494865、米国特許6569123;米国特許6569143、米国特許6689118、米国特許6776776、米国特許6808506、米国特許6843781、米国特許6986760、米国特許7083592、米国特許7083599、国際公開2004/069302、国際公開2004/098676、国際公開2004/110535、国際公開2005/018703、国際公開2005/018704、国際公開2005/018705、国際公開2005/086773、国際公開2005/115360、国際公開02/02178、国際公開02/02179、国際公開02/083205、国際公開02/083232、国際公開03/066126、国際公開03/094995、国際公開2004/032990、国際公開2004/069301、国際公開97/37705、国際公開97/13537。
【0039】
本発明はさらにインフルエンザ感染症に対してヒト被験者へのワクチン接種する方法、追加的アジュバンドを用いることなくインフルエンザの血球凝集素(HA)を含むビロソームを、皮下投与によりヒト被験者に対して投与する前記方法にも関する。また本発明は哺乳類被験体に対してワクチン接種する方法を提供し、本発明はインフルエンザ株由来のHA抗原を含むビロソームに基づくインフルエンザワクチンを調製するステップと、ワクチンを皮下投与するステップを含む。好適には、哺乳動物をヒトとする。世界的流行の脅威にさらされた状況において、好適にはワクチンに興味の株および世界的流行の脅威を引き起こす株のみに由来するHA抗原を含む。しかしながら、季節性ワクチンのセットアップ、手順およびキャンペーン(接種)の間は、本発明に従って皮下投与されるワクチンを三価ワクチンとし、3種類の異なったインフルエンザ株から、より好適には2種類のA型ウイルス株および1種類のインフルエンザB株由来のHA抗原を含ませる。
【0040】
別の好適な実施例においては、ワクチンは1種類の株から、または三価ワクチンの場合には3種類のインフルエンザ株それぞれから、1〜10、例えば約3.0μgのHA抗原を含む。さらに好適な実施例では、ビロソームに基づくインフルエンザワクチンを、Inflexal(R)Vワクチンの商標でBerna Biotech AG(スイス)により商品化されているワクチンとする。好適には本発明は、本発明に従った方法が、ここに挙げるインフルエンザ株からのHA抗原の三価の組合せを含有しないワクチンであるものに関する;A/New Caledonia/20/99、A/Moscow/10/99およびB/Hong Kong/330/2001。文中で示されているように、投与を好適にはワクチンの皮内デリバリーに適したデリバリー装置を使用することによって行う。皮内デリバリーに適した装置を1つの皮下注射器とすることができる。それらの針が表面薄層を越えてしまい、最適でない皮内デリバリーをもたらさないようにして、装置が作られていることがわかる。言い換えれば、ある装置はあまりにも短い針を有するため、全てとは言わないが大部分のワクチン調製物が皮下に配送される。本発明に従った方法で使用される好適な装置は、2以上の別々のマイクロニードルもしくはMicroPyramidsとも称されるチャンネルを有するデリバリー装置とする。より好適にはそのようなデリバリー装置は4本の別々の針を有する。特に好適には、MicronJet装置などのNanoPass社製のデリバリー装置とする。
[実施例]
(例1)ビロソームに基づくインフルエンザワクチンのヒト被験者への臨床試験(各株3μgのHAを用いた場合)
【0041】
安全のためおよび皮内投与によるワクチン接種に対する液性免疫応答を評価するため、入れ子の研究グループについて、ヒト被験者臨床試験をInflexal(R)Vを用いて行った。本研究は公開かつ非無作為に行ったものである。使用したワクチンは、2006−2007のインフルエンザ期に開発されかつ研究されたワクチン、3価のビロソームに基づくアジュバンドインフルエンザワクチンInflexal(R)Vとした。この皮内ワクチンの1種の用量は、ビロソームに接合した3種の次のインフルエンザ株;A/New Caledonia/20/99(H1N1; IVR-116)、A/Hiroshima/52/2005 (H3N2; IVR 142; A/Wisconsin/67/2005ウイルス様)およびB/Malaysia/2506/2004の各々の15μgの血球凝集素を(最初には)含んだ。皮内投与はそのワクチンの20%を用いて行った:一回の用量をそれぞれのインフルエンザ株の3μgのHAを含む0.1mLとし、針を有する一般の注射器を使用した。皮内投与実験は、18〜60歳(年齢幅19.2〜59.6)の23人の健康なボランティアに対して行った。用いた標準は欧州医薬品局によって設定されたものである。本実験は、18〜60歳(年齢幅21.1〜59.8)の56人の成人と60歳より高齢(年齢幅60.4〜83.3)の58人の成人に対し、一回の用量を0.5mlとするワクチン(筋肉内投与の一般的な用量)を用いて行った筋肉内投与実験と比較した。サンプリングをワクチン接種の20〜24日後に行った。
【0042】
図1Aは、筋肉内投与(IM)後および皮内投与(ID)後のワクチン接種を受けた人の血清抗体陽転率(%)、および3種類すべての株について設定した基準(血清抗体陽転率>40%)が両方のデリバリー方法によって満たされること示す。図1Bは、幾何平均抗体価の倍加数の基準(>2.5回)もすべての3種類の株において満たされることを示す。図1Cは、血清抗体保有率が2種類A型株について十分な値(>70%)であった一方で、B型株の血清抗体保有率は皮内投与の場合に基準値を満たさなかったことを示す。しかしながら、図2Cに示されているように高齢者(>60歳)で得られた結果を見ても、筋肉内投与においてはこの年齢層の標準となる60%を超える血清抗体保有率をもたらさなかった。この結果はおそらく、このB型インフルエンザ株のHA抗原の免疫原性のためである。図2Aと図2Bは60歳以上の高齢者グループへ筋肉内投与の後の結果を示し、値が欧州医薬品局の基準を満たすのに十分な水準に達したことを示唆している。図3は結果の概要を示し、図中+(プラス)が基準を満たすことを表し、−(マイナス)は基準を満たしていないことを示す。
【0043】
これらの実験は、ビロソームに基づくインフルエンザワクチンをヒト被験者に対してそれぞれの株(2種類のA型株、および1種類のB型株)について3μgの濃度で皮内投与するとき、血清抗体陽転率、および幾何平均抗体価の倍加数の基準は3種類すべての株について満たし、血清抗体保有率の基準は少なくとも2種類のA株について満たすことを示している。本結果は全く予期せぬものであり、上で用いた3種類の株のすべてについてこのようなワクチン療法が当局の設定した基準を満たさないことを示したという、国際公開2004/016281において開示されているような知見と極めて対照的な結果である。
(例2)ビロソームに基づくインフルエンザワクチンを用いたヒト被験者に対する用量増加実験(および筋肉内投与と皮内投与の比較実験)
【0044】
ヒト個体を用いた2つ目の臨床実験は、季節性のビロソームに基づくアジュバンドインフルエンザワクチンを皮内投与したときの液性免疫反応を評価するために行った。本実験は、単一施設における無作為抽出の用量増加実験であり、2007/2008のインフルエンザ期のインフルエンザワクチンである三価Inflexal(R)Vを0.1mLの用量で皮内投与を行い、ワクチン用量中にそれぞれのインフルエンザ株(A/New Caledonia/20/99(HIN1;IVR−116),A/Hiroshima/52/2005(H3N2;IVR−142;A/Wisconsin/67/2005様ウイルス);およびB/Malaysia/2506/2004)のHAを3、4.5もしくは6μg含有させた。筋肉内デリバリーされたワクチンをポジティブコントロール(0.5mlの用量中に1株あたり3x15 μgのHAを含む)とした。その上、NanoPass社が開発したマイクロニードル装置(一般にMicronJet装置と称される)が抗体の皮内デリバリーに用いることができるか、また有益な結果が得られるかどうかについても試験した。
【0045】
MicronJet装置は一般に安定して定まった注射深度を有する複数の「針」もしくはチャンネルを利用し、ただ1つのチャンネルしかなく注射深度がかなり変動する(主にワクチン投与する人による)1本の皮下注射器と対照的である。MicronJet装置は一般に、痛みを伴わずに薬剤とワクチンを皮内投与するために設計された針代替品である。従来の針の代わりに標準的なシリンジに取り付けて、MicronJetを用いると、制御した皮内投与デリバリーを可能とするものならば実際上どんな物質も注射することができる。薬剤、タンパク質、およびワクチンの皮内投与に非常に適しており、医療従事者は最小限の専門技術しか必要としない。マイクロニードルはとても短いため、痛覚を司る皮膚の自由神経終末に達することはなく「チクリ」とする痛みはなく、また大部分の物質を痛みを伴わずに投与することができる。マイクロニードルはとても小さいため、裸眼ではほとんど視認できず、MicronJet装置は従来の針よりもはるかに恐怖は少なく、子供と針恐怖症の患者にとっては完璧なものとなる。
【0046】
用量増加実験において最低の用量を用いた際に、MicronJet装置を用いた実験グループに対して、それぞれのインフルエンザ株のHAを3.0μg投与した。全体では、実験は合計で5つのグループに対して行った。各グループは56人の個人を含み、3つのグループが、1つの皮下注射器を使用して皮内投与を受け(グループA1、A2、A3)、1つのグループは筋肉内投与(グループC;用量3.0μg)を受け(グループB;用量15μg)、また1つのグループはマイクロニードル装置を使用して皮内投与を受けた。グループA1にはそれぞれのインフルエンザ株由来のHA3μgを、グループA2にはそれぞれのインフルエンザ株由来のHA4.5μgを、またグループA3にはそれぞれのインフルエンザ株由来のHA6.0μgを投与した。
【0047】
第1日目、ワクチン接種前日にワクチン接種前の、免疫後22日目のサンプルを取り、各個人から別々のサンプルを取った。図1に、私が各グループ内の平均年齢を、実験グループごとの性別を、そして異なる株ごとの幾何平均抗体価を示す。幾何平均抗体価、血清抗体保有率および血清抗体陽転率は、前述の実施例と同様に決定した。
【0048】
図4は、すべての3種類の株およびすべての実験グループについての、免疫後のサンプルの血清抗体陽転率効率(左のパネル)を、免疫後22日目のサンプル(右のパネル)と比べて示す。概してどの実験グループもワクチン接種後には各グループについて、ほとんどすべての場合70%という閾値を越えた平均血清抗体保有率の水準に達するものの、いずれの株に対する十分な抗体保有率をも有しないことを明確に示している。
【0049】
図5は、皮下注射器を用いて1株あたり3、4.5、および6μgのHAの接種を受けた、A1、A2およびA3の皮下投与グループについて、幾何平均抗体価の値を表している。明確に幾何平均抗体価がかなり増加することがわかる。図6(右のパネル)に、幾何平均抗体価の増加倍数を示し、増加(点線)における閾値(>2.5倍)に、B型標準ウイルスの症例においても、達していることを示唆している。この水準には最小用量である3μgのHA抗原を用いることによっても達成することができる。図6には、左および中央のパネルは皮下注射器を用いてこれらの3種類の株を低用量でワクチン接種を受けたグループの血清抗体陽転率と血清抗体保有率を示す。B型株のHAを3μg用量で用いる場合を除いて、すべてのワクチンが、ここで議論したような閾値(血清抗体陽転率40%および血清抗体保有率70%)を超えて十分な効率を与えた。こうしてワクチンの免疫原性を各株について確認した。
【0050】
また、HAを一般的な15μgの用量で筋肉内投与した場合(グループB)を、皮下注射器を通して投与する3μgのHAを3μgの用量で投与する場合と比較した(グループA1)。図7(左のパネル)は、図6(左の3つのバー、中央パネル)に示した結果と一致してA株だけに関してのみ抗体保有が得られまたB株の血清抗体保有率が70%の閾値より若干低くなったものの(中央パネル)、十分な血清抗体陽転率が得られたことを示す。幾何平均抗体価の増加倍数(右のパネル)は筋肉内投与による多用量の場合および皮下投与による少用量の場合の両方において、十分であった。
【0051】
また、1株(グループB)あたり15μgのHAを筋肉内投与した場合を、NanoPass(MicrorJet)装置を用いて1株あたりの3μgのHAを皮下投与した場合(グループC)とも比較した。高用量による筋肉内投与デリバリーと比較して、低用量による投与の血清抗体陽転率は許容される水準を超え、重要なことに血清抗体保有率(B型ウイルスの血清抗体保有率を含む)も閾値値に達した(図8、左および中央パネル)。したがって、1つの皮下注射器による皮下投与と比較して、B型ウイルスの場合には血清抗体保有率がさらなる増加を導いたという点において、複数の針を有するMicronJet装置が格別な効力を発揮した。NanaoPass社製のデリバリー装置が数本の非常に小さい針(もしくはMicroPyramids)を利用するため、非常に小さい皮膚片に複数の注射を行うことで、ワクチンをデリバリーできる領域を広くすると言える。こうしてワクチン接種の効果をさらに大きくする。したがって、皮下デリバリーを行うときには複数の同時に注射できる箇所を有することが好ましい。本文における「同時に」とは、同時に、単一装置についての複数のかつ分離した注入口を用いて、好適には一回の投与により、患者にワクチン投与を行うことを意味する。好適にはそのような1つのデリバリー装置において、1個以上のチャンネル(細い針、マイクロニードル、もしくはMicroPyramids)を;好適には少なくとも2、3または4個のチャンネルを、さらに好適には、4個以上のチャンネルを使用する。最も望ましくは、多数のチャンネルを用いることで、ワクチン構成が流れることができ、目詰まりすることなく複数の注入口に渡って分離することができ、(閾値に達する)十分な効力、すなわち許容可能な血清抗体陽転率、血清抗体保有率および幾何平均抗体価の増加倍数の水準を伴うワクチン接種をもたらすワクチン構成をデリバリーすることのできる装置を用いる。
【0052】
図8、右のパネル、は、ワクチン接種前の力価をワクチン接種後の力価と比較したときの、従来の針を用いた筋肉内投与とNanoPass装置を使用した皮内投与の間における幾何平均抗体価の増加を示す。注目すべきことに、5倍少ない用量のHA抗原を皮内投与するとき、筋肉内投与により高用量を用いる場合と比べると、より高い幾何平均抗体価の増加がそれぞれの3種類の株について検出される。したがって、ビロソームに基づくインフルエンザワクチンを皮内投与方法、好適には、本明細書に開示するようにNanoPass装置と共に用いることで、許容可能かつ十分な値の幾何平均抗体価が、A型および、B型インフルエンザ株について得られ、少なくとも5倍少ない用量(この場合、(1株あたり)15μgのHAから、3μgのHA)を用いることが可能になる。このことは、ビロソームに基づくインフルエンザワクチンを、好適にはNanoPass社が開発した多重チャンネルの装置などの皮内投与装置と共に用いる本発明に従ったキットを用いることにより、劇的な用量の節約を達成することができ、世界中の人々に用いるための用量が莫大に増加する。
【0053】
図9は、1個の皮下注射器(各パネルにおける左3つのバー)を用いた皮内投与をMicronJet装置(各パネルにおける右3つのバー)と比較するときに同様:注射部位(同時に複数のチャンネルを使用することによる)の広がりにより幾何平均抗体価の高い増加を引き起こす、という結果を示す。各々の中央バーはA/Wisconsin株を、右バーはB/Malaysia株を表す。そして、1株あたり3μgのHAという低用量を、1つの皮下注射器を用いて投与する場合と、MicronJet装置を用いて投与する場合とを比較するとき、1本の針を用いたときには70%の閾値を下回ったままのB型ウイルスの血清抗体保有率が、ビロソームに基づくインフルエンザワクチンを複数の針を用いたNanoPass社製のMicronJet装置を用いて投与するときに、70%を超える水準に達するということがわかる。本結果により、一回の投与を複数の注射部位を用いて行うことによる、有益な免疫原性効果および付加価値を示す。
【0054】
HAI力価およびと統計分析の後に、B/Malaysiaウイルスに関して、MicronJetを用いたグループにおいてはB型ウイルスに関して統計的にかなり高いHAI力価(p=0.001)が見られたという点から、3.0μg投与したグループ(1つの皮下注射器を用いた皮内投与およびMicronJet装置を用いた皮内投与)の違いが重要であることが明らかになった。同じ分析から、A/Wisconsin株に関して、MicronJet装置を用いたワクチン接種を受けたグループでは、筋肉内投与によるより高用量で投与したグループよりも極めて高いHAI力価(p=0.008)が見られたという点から、15μgを投与したグループ(筋肉内投与)と3.0μg投与したMicronJetグループの差も大分異なることがわかった。
【0055】
全体から見ると、インフルエンザワクチンの皮内投与により十分な血清抗体保有率と血清抗体陽転率が得られると結論づけられる。そのうえ、一般的に使用されるインフルエンザワクチン生産および構成(15μgのそれぞれの株由来のHA)よりもはるかに低い用量(3、4.5、および6μgのそれぞれの株由来のHA)で投与するときも、そういった値を実現することが可能である。さらには、マルチチャンネルデリバリー装置および/もしくは少なくとも「本当」(真皮を越えることのない)の皮内デリバリーを達成できるように安定した、かつ標準化された注射深度を有する装置を使用するのが好ましいと結論づけられる。本研究においては例えば3.0μgのHAを投与した場合に4.5μgもしくは6.0μgを投与した場合よりも低い効能を検出することができなかったので、本明細書に開示するように、Inflexal(R)Vなどのビロソームに基づくインフルエンザワクチンを用いて皮内投与を行うときは、用量をさらに低くすることができる。言い換えれば、それぞれの株のHAを3.0μgずつ用いるときに、少なくとも皮内投与する場合には既にプラトーに達していると結論付けることができる。1株あたりのHAを3.0μgより低くして投与できるかどうかについては今後の研究課題である。
【0056】
【表1】
【0057】
参考
(1)Belshe R.B. et al. (2004). Serum antibody responses after intradermal vaccination against influenza. New Engl. J. Med. 351:2286 2294.
(2)Gluck R. (1992). Immunopotentiating reconstituted influenza virosomes (IRIVs) and other adjuvants for improved presentation of small antigens. Vaccine 10:915 920
(3)Hosaka Y. et al. (1983). Hemolysis by liposomes containing influenza virus hemagglutinins. J. Virol. 46:1014 1017.
(4)Huang R.T. et al. (1979). Association of the envelope glycoproteins of influenza virus with liposomes a model study on viral envelope assembly. Virology 97:212 217.
(5)Huckriede A. et al. (2005). The virosome concept for influenza vaccines. Vaccine 23 Suppl. 1:S26 38.
(6)Kawasaki K. et al. (1983). Membrane fusion activity of reconstituted vesicles of influenza virus hemagglutinin glycoproteins. Biochim. Biophys. Acta. 733:286 290.
(7)Kenney R.T. et al. (2004). Dose sparing with intradermal injection of influenza vaccine. New Engl. J. Med. 351:2295 2301.
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象体における皮下インフルエンザワクチンとしての使用のためのインフルエンザ血球凝集素(HA)抗原を含むビロソーム調製物。
【請求項2】
2またはそれよりも多くのインフルエンザウイルス株からのHA抗原を含む、請求項1に記載の調製物。
【請求項3】
各インフルエンザ株からの濃縮HA抗原はインフルエンザ株当たり1および10μgの間、なるべくならインフルエンザ株当たり約3.0μgである、請求項1〜2のいずれか1項に記載の調製物。
【請求項4】
前記調製物は、インフルエンザ株A/ニューカレドニア/20/99、A/モスクワ/10/99およびB/ホンコン/330/2001からのHA抗原の三価の組合せを含有しない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の調製物。
【請求項5】
ヒト対象体において皮下投与するためのインフルエンザワクチンの製造におけるインフルエンザ血球凝集素(HA)抗原を含むビロソーム調製物の使用。
【請求項6】
前記ビロソーム調製物は、2またはそれよりも多くのインフルエンザウイルス株からのHA抗原を含む、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
各インフルエンザ株からの濃縮HA抗原は、インフルエンザ株当たり1および10μgの間、なるべくならインフルエンザ株当たり約3.0μgである、請求項5〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記ワクチンは約0.1 mLの単一用量容量において製造される、請求項5〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
a)ヒト対象体のワクチン接種のためのインフルエンザ血球凝集素(HA)抗原を含むビロソーム調製物であり、追加のアジュバンドを含有しない調製物、および
b)ワクチンの皮内配送に適するデリバリー装置
を含むキット。
【請求項10】
前記デリバリー装置は、2またはそれよりも多くの別々の、マイクロニードルまたはマイクロピラミッドのようなデリバリーチャネルを含み、なるべくなら前記デリバリー装置は4またはそれよりも多くの別々のデリバリーチャネルを含む、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
ビロソーム調製物は、2またはそれよりも多くのインフルエンザウイルス株からのHA抗原を含む、請求項9または10に記載のキット。
【請求項12】
各インフルエンザ株からの濃縮HA抗原はインフルエンザ株当たり1および10μgの間、なるべくならインフルエンザ株当たり約3.0 μgである、請求項9〜11のいずれか1項に記載のキット。
【請求項13】
前記調製物は、インフルエンザ株A/ニューカレドニア/20/99、A/モスクワ/10/99およびB/ホンコン/330/2001からのHA抗原の三価の組合せを含有しない、請求項9〜12のいずれか1項に記載のキット。
【請求項14】
ヒト対象体にインフルエンザ感染に対してワクチン接種する方法であって、ヒト対象体に対し、追加のアジュバンドを伴わずにインフルエンザ血球凝集素(HA)を含むビロソーム調製物を皮内に投与することを含む方法。
【請求項15】
ビロソーム調製物は、2またはそれよりも多くのインフルエンザウイルス株からのHA抗原を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ワクチンは、各インフルエンザ株からの1および10μgの間のHAを、なるべくなら各インフルエンザからの3.0μgのHAを含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記投与は、ワクチンの皮内配送のために適するデリバリー装置を用いて行い、前記デリバリー装置は、2またはそれよりも多くの別々の、マイクロニードルまたはマイクロピラミッドのようなデリバリーチャネルを、例として4またはそれよりも多くの別々のデリバリーチャネルを含む、請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
哺乳類対象体にインフルエンザ感染に対してワクチン接種する方法であって、
追加のアジュバンドを伴わずに3つのインフルエンザ株からのHA抗原を含む三価のビロソームに基づくインフルエンザワクチンを調製する工程、および
ワクチンを皮内に投与する工程
を含む方法。
【請求項1】
ヒト対象体における皮下インフルエンザワクチンとしての使用のためのインフルエンザ血球凝集素(HA)抗原を含むビロソーム調製物。
【請求項2】
2またはそれよりも多くのインフルエンザウイルス株からのHA抗原を含む、請求項1に記載の調製物。
【請求項3】
各インフルエンザ株からの濃縮HA抗原はインフルエンザ株当たり1および10μgの間、なるべくならインフルエンザ株当たり約3.0μgである、請求項1〜2のいずれか1項に記載の調製物。
【請求項4】
前記調製物は、インフルエンザ株A/ニューカレドニア/20/99、A/モスクワ/10/99およびB/ホンコン/330/2001からのHA抗原の三価の組合せを含有しない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の調製物。
【請求項5】
ヒト対象体において皮下投与するためのインフルエンザワクチンの製造におけるインフルエンザ血球凝集素(HA)抗原を含むビロソーム調製物の使用。
【請求項6】
前記ビロソーム調製物は、2またはそれよりも多くのインフルエンザウイルス株からのHA抗原を含む、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
各インフルエンザ株からの濃縮HA抗原は、インフルエンザ株当たり1および10μgの間、なるべくならインフルエンザ株当たり約3.0μgである、請求項5〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記ワクチンは約0.1 mLの単一用量容量において製造される、請求項5〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
a)ヒト対象体のワクチン接種のためのインフルエンザ血球凝集素(HA)抗原を含むビロソーム調製物であり、追加のアジュバンドを含有しない調製物、および
b)ワクチンの皮内配送に適するデリバリー装置
を含むキット。
【請求項10】
前記デリバリー装置は、2またはそれよりも多くの別々の、マイクロニードルまたはマイクロピラミッドのようなデリバリーチャネルを含み、なるべくなら前記デリバリー装置は4またはそれよりも多くの別々のデリバリーチャネルを含む、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
ビロソーム調製物は、2またはそれよりも多くのインフルエンザウイルス株からのHA抗原を含む、請求項9または10に記載のキット。
【請求項12】
各インフルエンザ株からの濃縮HA抗原はインフルエンザ株当たり1および10μgの間、なるべくならインフルエンザ株当たり約3.0 μgである、請求項9〜11のいずれか1項に記載のキット。
【請求項13】
前記調製物は、インフルエンザ株A/ニューカレドニア/20/99、A/モスクワ/10/99およびB/ホンコン/330/2001からのHA抗原の三価の組合せを含有しない、請求項9〜12のいずれか1項に記載のキット。
【請求項14】
ヒト対象体にインフルエンザ感染に対してワクチン接種する方法であって、ヒト対象体に対し、追加のアジュバンドを伴わずにインフルエンザ血球凝集素(HA)を含むビロソーム調製物を皮内に投与することを含む方法。
【請求項15】
ビロソーム調製物は、2またはそれよりも多くのインフルエンザウイルス株からのHA抗原を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ワクチンは、各インフルエンザ株からの1および10μgの間のHAを、なるべくなら各インフルエンザからの3.0μgのHAを含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記投与は、ワクチンの皮内配送のために適するデリバリー装置を用いて行い、前記デリバリー装置は、2またはそれよりも多くの別々の、マイクロニードルまたはマイクロピラミッドのようなデリバリーチャネルを、例として4またはそれよりも多くの別々のデリバリーチャネルを含む、請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
哺乳類対象体にインフルエンザ感染に対してワクチン接種する方法であって、
追加のアジュバンドを伴わずに3つのインフルエンザ株からのHA抗原を含む三価のビロソームに基づくインフルエンザワクチンを調製する工程、および
ワクチンを皮内に投与する工程
を含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2010−529166(P2010−529166A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511624(P2010−511624)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057268
【国際公開番号】WO2008/152052
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(509342186)クルセル スウィツァーランド アーゲー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057268
【国際公開番号】WO2008/152052
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(509342186)クルセル スウィツァーランド アーゲー (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]