説明

皮脂の分泌状態測定装置

【課題】本発明の課題は、輪郭が不鮮明な黒色点の画像を2値化してその黒色点の分泌状態を測定した結果が、専門家の判定者のスコアと対応させることができるレベルのものとして測定できる皮脂の分泌状態測定装置を提供することである。
【解決手段】本発明の皮脂の分泌状態測定装置は、記録した黒色点の画像をグレースケールに変換し、その画像をガンマ変換した元画像の近傍画素から算出された平均値からなる局所平均画像を作成する局所平均画像の作成手段と、元画像の輝度から局所平均画像の輝度を差し引いた輝度からなる差分画像を作成する差分画像作成手段と、該差分画像を特定の輝度の閾値で2値化する2値化処理手段と、2値化された値を計測して計測値を記録する計測値計測手段とを具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮脂腺から分泌する皮脂を皮脂採取テープの疎水性のポリマーフィルムに浸透させ、その浸透した皮脂の分泌状態を画像化してその分泌状態の画像とし、その画像から皮脂の分泌状態を測定する皮脂の分泌状態測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品の販売店頭や皮膚科の診療現場等では、被対象者の肌のあぶら性のレベル(タイプ)の判定に、種々の皮脂の分泌状態測定方法が実施されている。その測定結果により、さっぱり肌とかしっとり肌とかの肌レベル(肌のタイプ)を判定して、その肌のタイプに応じて適切な対処が行われている。皮脂分泌量が少ない肌の乾燥しやすい人は、保湿性、被覆性の高い保湿化粧料が適し、一方、皮脂分泌量が多く皮脂腺の閉塞、炎症が生じやすい人は、皮膚の洗浄に配慮し、皮膚を閉塞せず、低刺激の保湿化粧料が適しているといわれている。肌を健康に美しくするためには、皮脂の分泌状態を正確に把握し、分泌状態に応じたスキンケアを行うことが必要である。
【0003】
上記皮脂の分泌状態を簡単に測定する方法として、皮膚表面ににじみ出る皮脂を採取する皮脂採取テープが用いられている。この皮脂採取テープは黒色台紙上に疎水性のポリマーフィルムが重ねられており、このポリマーフィルムに浸透した皮脂が半透明の点になり、この半透明の点は黒色台紙の黒色を透過させるので黒色の点に見える。そのことを利用して、テストサンプルの黒色点の数と大きさを予め選定した標品のものと比較して、該サンプルの皮脂の分泌状態を目視で判定する技術が知られている(特許文献1を参照)。しかし、この判定技術はサンプルの皮脂の分泌状態を目視で判定するために、評価者によって判定にばらつきが生じる問題がある。
【0004】
この判定のばらつきを解消する技術として、上記ポリマーフィルムに皮脂が浸透して現れた黒色点の画像解析を行うシステムとして、自己相関マスクパターンを用いた学習型画像計測システムが知られている(特許文献2を参照)。このシステムは、ポリマーフィルムの黒色点をCCDカメラで撮影して、画像微分フィルターで処理してコントラストを高めて2値化画像とし、その後に上記画像計測システムで画像解析を行うことにより、皮脂面積率、皮脂1個あたりの画素数(皮脂1個あたりの皮脂面積率)、皮脂個数を求め、この得られた結果をAISSの判別スコアと呼び、このAISSの判別スコアは実際の皮脂の分泌状態を、容易に迅速に、判定者の如何によらず、常に安定した評価基準で評価できるものであると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表昭60−500439号公報
【特許文献2】特開平10−075933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の画像計測システムは、ポリマーフィルムの黒色点をCCDカメラで撮影して画像を得るが、この黒色点は皮脂が浸透した点のためにその点の輪郭が不鮮明であり、それを撮影した画像も輪郭が不鮮明な画像である。皮脂面積率、皮脂1個あたりの画素数、皮脂個数の3種類の数を計算して得た値が、AISSの判別スコアとの相関関係にあることから、皮脂の分泌状態を判定できるとされているが、前記学習型画像計測システムは、輪郭が不鮮明な画像を単純に2値化画像に処理しているために、上記3種類の計算値によりどの様にして具体的な判定評価ができるのか不明である。例えば、皮脂面積率が21%(AISSの判別スコアが4及び5)、皮脂1個あたりの画素数が50(AISSの判別スコアが1、2、3及び4)そして、皮脂個数が150(AISSの判別スコアが1、2、3、4及び5)であった場合に、どの様にして皮脂の分泌状態の判定評価を行うのか説明されていない。
【0007】
前記画像計測システムは、皮脂がポリマーフィルムに浸透した黒色点を撮影した輪郭の不鮮明な画像を、単純に2値化しているために黒色点の的確な分泌状態を測定できなという問題を有している。また、CCDカメラで撮影された黒色点の分泌状態の画像は、機種によってその明るさが異なるので、それと異なる機種で撮影した画像は明るさが異なるために、機種によって異なる判定評価が生じるという問題があり、そして、撮影される際に一定の条件の照明で撮影されることは困難なために、撮影された画像の明るさが異なり、照明の条件によって異なる判定評価が生じるという問題がある。また、被対象者は、皮脂の分泌状態がどの様な状態にあるかを、画面で確認することを望んでいるがその状態を表示する手段が記載されていない。
それ故に、本発明の課題は、上記した従来の問題点に鑑みて、前記輪郭が不鮮明な黒色点の画像を2値化してその黒色点の分泌状態を測定した結果が、専門家の判定者のスコアと対応させることができるレベルのものとして測定でき、また、様々な異なる機種のCCDカメラで、異なる照明の条件で上記黒色点を撮影した場合であっても、上記測定結果が専門家の判定者のスコアと対応させることができるレベルのものとして測定でき、更に、被対象者が画面でその測定結果の情報を確認できる皮脂の分泌状態測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、請求項1に係る発明の皮脂の分泌状態測定装置は、疎水性のポリマーフィルムに浸透した輪郭が不鮮明な皮脂を黒色点の画像として記録し、その記録した黒色点の画像を測定する皮脂の分泌状態測定装置であって、前記記録した黒色点の画像をグレースケールに変換し、その画像をガンマ変換した元画像の近傍画素から算出された平均値からなる局所平均画像を作成する局所平均画像の作成手段と、元画像の輝度から局所平均画像の輝度を差し引いた輝度からなる差分画像を作成する差分画像作成手段と、該差分画像を特定の輝度の閾値で2値化する2値化処理手段と、2値化された値を計測して計測値を記録する計測値計測手段と、を具備することを特徴とする。
請求項2に係る発明の皮脂の分泌状態測定装置は、前記特定の輝度の閾値が専門家の判定者のスコアと対応させる値であることを特徴とする。
請求項3に係る発明の皮脂の分泌状態測定装置は、前記局所平均画像の作成手段が元画像の画素の内のある画素を選択して、近傍画素数の輝度をすべて加算し、近傍画素数で割り、得られた局所平均画像の輝度を記録する処理を、全ての画素に対して繰り返すことを特徴とする。
請求項4に係る発明の皮脂の分泌状態測定装置は、基準を設けて元のスコアを新たなスコアに変換してその新たなスコアと計測値を関連付ける計測値関連付け手段を有することを特徴とする。
請求項5係る発明の皮脂の分泌状態測定装置は、前記黒色点の情報が計測値、スコア、分泌状態に応じたスキンケア、化粧方法の情報のうち、少なくとも一つ以上の情報を表示する表示手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮脂の分泌状態測定装置は、輪郭が不鮮明な黒色点の画像であるにもかかわらず、その画像を処理して2値化し、黒色点の分泌状態を計測して得られた測定値が、専門家の判定者のスコアと対応させることができるレベルのものを得ることができるので、個々の被対象者の肌のあぶら性のタイプに応じた適切なスキンケアができる。
また、異なる機種のCCDカメラで、異なる照明の条件で黒色点を撮影した場合でも、上記測定値が専門家の判定者のスコアと対応させることができるレベルのものを得ることができる。
そして、本発明の皮脂の分泌状態測定装置は、被対象者が画面で上記黒色点の分泌状態を計測して得られた情報である計測値、スコア、分泌状態に応じたスキンケア、化粧方法の情報のうち、少なくとも一つ以上の情報を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ビデオルーペVL-7EXIIで記録した画像α〜画像δである。
【図2】CharmViewで記録した画像A〜画像Dである。
【図3】ビデオルーペVL-7EXIIで記録した画像α〜画像δを2値化処理した画像α〜画像δである。
【図4】CharmViewで記録した画像A〜画像Dを2値化処理した画像A〜画像Dである。
【図5】上のグラフがスカラ社製ビデオルーペVL-7EXIIで撮影された画像から得られた実施例の近似の一次式であり、下のグラフがモリテックス社製CharmViewで撮影された画像から得られた実施例の近似の一次式である。
【図6】上のグラフがスカラ社製ビデオルーペVL-7EXIIで撮影された画像から得られた比較例1の近似の一次式であり、下のグラフがモリテックス社製CharmViewで撮影された画像から得られた比較例1の近似の一次式である。
【図7】上のグラフがスカラ社製ビデオルーペVL-7EXIIで撮影された画像から得られた比較例2の近似の一次式であり、下のグラフがモリテックス社製CharmViewで撮影された画像から得られた比較例2の近似の一次式である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
最初に、皮脂の採取について説明する。皮脂を採取する皮脂採取テープは市販のCuderm社製SEBUTAPE(商品名)、CK electronic GmbH社製Sebufix(商品名) F16等を用いることができる。皮脂の分泌状態の測定に際して、疎水性のポリマーフィルムを一定時間皮膚に接触させるが、接触時間は20〜30秒の範囲で一定時間に設定することが好ましい。いずれのポリマーフィルムを用いて額、頬又は鼻の皮脂を採取しても、該ポリマーフィルムに浸透した部分が半透明の点の形状となり皮脂が的確に採取でき、その半透明の点は黒色台紙の黒色を透過させて黒色点となって現れる。この黒色点の数と大きさは、例えば、皮脂腺の数が普通で個々の皮脂腺から分泌される皮脂の量が多い場合には、黒色点の数は普通でその大きさが普通より大きく、皮脂腺の数が少なく個々の皮脂腺から分泌される皮脂の量が少ない場合には、黒色点の数は少なくその大きさが普通より小さく現れる。
【0012】
皮脂を採取した疎水性のポリマーフィルムの皮脂の浸透による黒色点は経時的に消失するので、皮脂を採取した後にCCDカメラで黒色点を撮影してその画像を記録する。この黒色点は皮脂が浸透した領域のためにその領域の輪郭が不鮮明であるので、それを撮影した画像も輪郭が不鮮明な黒色点の画像である。以下、この輪郭が不鮮明な黒色点を「画像の黒色点」という。従って、その画像を単純に2値化処理して得られた結果から、皮脂の分泌状態の計測値を適切に測定することはできない。この画像の黒色点をどの様に処理したら皮脂の分泌状態を適切に測定できるのかを以下に説明する。
【0013】
(画像のグレースケール変換)
RGBモードの画像を256階調のグレースケールへ変換する方法として、中間値法、Gチャンネル法等の多数の変換方法があるが、本発明の皮脂の分泌状態測定装置に用いられる方法は、何れの方法でグレースケール変換を行っても良い。
(画像のガンマ変換処理)
グレースケール変換した画像は、CCDカメラの機種の違いや、撮影条件の違いにより、画像の輝度が異なる。画像の輝度が異なると、画像の黒色点を検出するための輝度の閾値を一定に決定できないため、画像の輝度調整を行う必要がある。そこで、ガンマ変換により、画像の画素の平均輝度が特定の値となるようガンマ変換処理により調整する。
【0014】
(差分による画像処理)
上記したように、画像の黒色点は輪郭が不鮮明なために従来から用いられている画像処理の方法を適用しても、皮脂の分泌状態の計測値を適切に測定することが困難である。例えば、コントラスト処理等を行ったが、目視評価(以下、「スコア」という。)と対応させることができる程度に画像の黒色点の計測値を適切に測定することができなかった。しかしながら、局所平均画像を作成し、その画像を元画像(ガンマ変換処理後の画像)から差し引くことにより、画像の黒色点の計測値を適切に測定することができることを見出した。
【0015】
操作手順としては、「ある画素」を取り囲む画素の輝度の平均値を、その「ある画素」の局所平均画像の輝度とする。例えば、ある画素P(i,j)を取り囲む近傍の画素P(i+n,j+n)(n:−20〜+20)(以下、「近傍画素数」という(41×41画素数)。)を41×41画素数で割った値を「局所平均画像P'(i,j)の輝度」と定義して、元画像の全ての画像に対して同様の処理を行う。そして、元画像と局所平均画像の輝度の差(P(i,j)−P'(i,j))を演算することで差分画像を得る。
(2値化処理と黒色点の計測値)
適切な輝度の閾値を設定して得られた差分画像を2値化して画像の黒色点を計測し、その計測値を求め、その計測値は専門家の判定者のレベルに相当するものが得られる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
皮脂採取テープはCK electronic GmbH製Sebufix(商品名) F16を用意し、この皮脂採取テープは、黒色の台紙上に疎水性のポリマーフィルムが重ねられており、一片が0.5インチの正方形状のものである。測定部位として額に皮脂採取テープを25秒間貼着して、ポリマーフィルムに皮脂を浸透させた。専門の判定者が目視観察により、そのポリマーフィルムの皮脂の黒色点の数と大きさから以下に示す5段階のスコアに分類を行った。
1:黒色点が全くない
2:黒色点の数が少なく大きさが小さい
3:黒色点の数がやや多く大きさがやや大きい
4:黒色点の数が多く大きさが大きい
5:黒色点の数がとても多く大きさがとても大きい
【0017】
ポリマーフィルムの不明確な輪郭の皮脂の黒色点を、スカラ社製ビデオルーペVL-7EXIIとモリテックス社製CharmView(CCDカメラ)で撮影した。カメラの倍率は30倍で、偏光フィルターにより無反射の画像を記録した。図1の画像α〜画像δは、ビデオルーペVL-7EXIIで記録した画像であり、色の輝度が高いのに対して、図2の画像A〜画像Dは、CharmViewで記録した画像であり、色の輝度が低いことが示されている。なお、ビデオルーペVL-7EXIIで記録された画像は背景色が薄い青緑色であり、CharmViewでで記録された画像は背景色が濃い青緑色であるが、出願書式のフォーマットが白黒形式に統一されているので白黒で表示されている。
【0018】
(画像のグレースケール変換)
RGBモードの画像を256階調のグレースケールへ変換する方法として、RGBのうちのG、つまり緑の心理物理量が7割程度ともっとも大きいことから、Gの値だけを用いて処理することで他の方法より高速に処理できるメリットがあるGチャンネル法を用いて、記録した画像の640(W)×480(H)の画素のグレースケール変換を行う。
【0019】
(画像のガンマ変換)
256階調のグレースケールに変換された画像を、画像の各画素の輝度、例えば、256/2=128を閾値としてガンマ変換を行う。
グレースケールに変換された画像の画素の色をSrcColor、変換先画素の色をDstColorとすると、DstColor = 255 ×((SrcColor/255)**(1/γ))で求められる(なお、X**Y:XのY乗を表し、γ = 1 のときは何も変化しないで、γ < 1 のとき暗くなり、γ > 1 のとき明るくなる。)。γの値を0.1ずつ増減させ平均値が128になるまで全ての画素に対してガンマ変換処理を行う。
【0020】
(元画像と局所平均画像との差分の画像処理)
1.局所平均画像の作成
元画像(ガンマ変換処理後の画像)の640(W)×480(H)の307200画素の輝度に対して、対象画素の1681近傍(41×41画素)での輝度の平均値に置き換える処理を行う。以下の(1)〜(4)の手順で処理することで局所平均画像を作成することができる。
(1)元画像と同サイズのブランク画像をコピーする。
(2)元画像の画素の内のある画素P(i,j)を選択して、その近傍の画素P(i+n,j+n)(n:−20〜+20)、いわゆる近傍画素数の輝度をすべて加算する。
(3)その結果を近傍画素数(1681)で割り、得られた局所平均画像P'(i,j)の輝度をブランク画像の当該画素位置に記録する。
(4)元画像の左上から右下まで全ての画素に対して、上記処理を繰り返す。
但し、画像の縁から20画素以内の画素の1600近傍は、縁の外となる部分が生じる。その場合、縁の外となる部分の近傍画素は無視して、画像内部の近傍画素のみの平均値を算出する。
局所平均画像P'(i,j)の輝度は以下の条件により場合わけして求める。
【0021】
21≦i≦460、21≦j≦620の場合、

1≦i≦20、21≦j≦620の場合、

【0022】
461≦i≦480、21≦j≦620の場合、

21≦i≦460、1≦j≦20の場合、

【0023】
21≦i≦460、621≦j≦640の場合、

1≦i≦20、1≦j≦20の場合、

【0024】
1≦i≦20、621≦j≦640の場合、

461≦i≦480、1≦j≦20の場合、

461≦i≦480、621≦j≦640の場合、

【0025】
以上述べたように、元画像の画素の内の近傍画素数の輝度を加算して近傍画素数で割って得られた値をブランク画像に記録して、該元画像の全ての画素に同様の処理を繰り返すことで局所平均画像が作成される。この元画像から局所平均画像を作成する一連の処理を「局所平均画像の作成手段」と定義する。そして、この作成手段により得られた局所平均画像は、元画像の近傍画素から算出された平均値で構成されている。
【0026】
2.元画像の輝度と局所平均画像の輝度との差分画像の作成
元画像の輝度から局所平均画像の輝度を差し引いた差分画像(D(i,j))を作成する。
D(i,j)=(P(i,j))-(P'(i,j))+ 128
従って、上記差分画像は元画像の輝度から局所平均画像の輝度を差し引いた輝度で構成されている。
3.2値化処理
CCDカメラで撮影された画像は、カメラの機種の違いと照明条件の違いで画像の明暗が相違する。例えば、あるCCDカメラで撮影された画像は、色の輝度が低く現れ、また、照明が暗い条件で撮影された場合には、一層色の輝度が低く現れるので、そのようなカメラの機種の違いと照明条件で得られた画像であっても、その画像を2値化するのに適切な閾値を設定することで、専門家の判定者のスコアと対応させることができるレベルのものを得ることができる。
前記差分画像が0〜104までを「0」、それ以外を「1」に置き換えることで、307200画素を2値化する。尚、輝度の閾値を104としたのは、上記したように、カメラの機種の違いと照明条件で得られた画像であっても、2値化するのに適切な閾値を試行錯誤により得られた値、104で2値化することで、専門家の判定者のスコアレベルのものを得ることができる。
【0027】
黒色点の数と大きさはについて、上述したように、例えば、皮脂腺の数が普通で個々の皮脂腺から分泌される皮脂の量が多い場合には、黒色点の数は普通でその大きさが普通より大きく、皮脂腺の数が少なく個々の皮脂腺から分泌される皮脂の量が少ない場合には、黒色点の数は少なくその大きさが普通より小さく現れると述べた。上記例の前者の場合には、黒色点の大きさが普通より大きいので、2値化により「1」に置き換わる数が倍になるかもしれない。しかし、後者の場合には、黒色点の大きさが普通より小さいので、2値化により「1」に置き換わる数が黒色点の数より少なくなるかもしれない。このように2値化するのに適切な閾値を設定することで専門家の判定者のスコアレベルのものを得ることができる。
【0028】
図3は、ビデオルーペVL-7EXIIで記録した画像α〜画像δを2値化処理した画像α〜画像δである。図4は、CharmViewで記録した画像A〜画像Dを2値化処理した画像A〜画像Dである。CCDカメラで記録した画像は輪郭が不鮮明であったものが、2値化処理することで得られた画像は、黒色点の分泌状態が測定できる画像に変換されていることが分かる。
4.黒色点の計測値情報の画面表示
2値化された307200画素の内から「1」の画素数を計測して、その計測した値を画像の黒色点の計測値として記録する。
【0029】
2種類のCCDカメラで撮影したスコア2、3、4、5の皮脂の黒色点のスコアと、上記1〜4の処理により測定された画像の黒色点の計測値の結果を表1に、それをグラフ化したものを図5に示す。
【表1】

図5の2種類のグラフは、上のグラフがスカラ社製ビデオルーペVL-7EXIIで撮影された画像から得られた計測値4点の近似の一次式であり、下のグラフがモリテックス社製CharmViewで撮影された画像から得られた計測値4点の近似の一次式である。この両者のグラフは、スコアが増加するのに対して計測値が比例して増加していること、下のグラフの勾配が上のグラフより小さいことを示している。この機種の違いによる計測値の差を検討した結果、以下に示す基準を設けて新たなスコアとすることで、新たなスコアと計測値とが関連付けることができる。
【0030】
スコアと対応する上記1〜4の処理により得られた2種類の画像の黒色点の計測値との関係を表1に示す。画像の黒色点の計測値に基づいて以下の(ア)〜(ウ)の基準を設けると、この基準(新たなスコア)とスコア(当初のスコア)との対応関係は表2のとおりである。
(ア)画像の黒色点の計測値が10,000未満の場合には、画像の黒色点が少ない。
(イ)画像の黒色点の計測値が10,000以上、13,000未満の場合には、画像の黒色点が多い。
(ウ)画像の黒色点の計測値が13,000以上の場合には、画像の黒色点がとても多い。
【表2】

【0031】
このように、計測値が10,000未満の場合には新たなスコア(ア)、計測値が10,000以上、13,000未満の場合には新たなスコア(イ)、計測値が13,000以上の場合には新たなスコア(ウ)として記録して、その新たなスコアの情報が画面に表示される。画像に表示する情報としては、計測値、新たなスコア、分泌状態に応じたスキンケア等の情報のうち、少なくとも一つ以上の情報を表示するのが好ましい。
【比較例】
【0032】
比較例1はグレースケール変換の処理を行った後に、ガンマ変換を行わなくともスコア評価と同様な傾向が得られるか、また、比較例2はグレースケール変換の処理を行った後に、スコア2のサンプルの輝度がスカラ社製ビデオルーペVL-7EXIIで記録した画像のスコア2のサンプルとほぼ一致するようにガンマ変換を施すことで、スコア評価と同様な傾向が得られるかを試みた。
(比較例1)
実施例1と同様に、スカラ社製ビデオルーペVL-7EXIIとモリテックス社製CharmView(CCDカメラ)で記録した画像について、Gチャンネル法を用いて記録した画像の640(W)×480(H)の307200画素のグレースケール変換を行った。その後にガンマ変換せずに、画像の輝度が0〜60までを「0」、それ以外を「1」に置き換えて2値化した。2値化画像の「1」の画素数を、画像の黒色点として画素数を計測して、黒色点の計測値を記録した。尚、輝度の閾値を60としたのは、上記実施例で述べた理由と同じであるから省略する。
2種類のCCDカメラで撮影したスコア2、3、4、5の皮脂の黒色点のスコアと、上記画像処理により測定された画像の黒色点の計測値の結果を表3に、それをグラフ化したものを図6に示す。
図6のグラフは、下のグラフがスカラ社製ビデオルーペVL-7EXIIで撮影された画像から得られた比較例1の近似の一次式であり、上のグラフがモリテックス社製CharmViewで撮影された画像から得られた比較例1の近似の一次式である。
【0033】
【表3】

ガンマ変換を施さないと、異なる機種のCCDカメラ、異なる照明の条件によってグレースケール変換した画像の輝度が大きく異なるため、同一の輝度の閾値で2値化した計測値は、図6のグラフが示すように、その差が大きいために専門家の判定者のスコアと対応させることができるレベルのものではなかった。
【0034】
(比較例2)
実施例1と同様に、スカラ社製ビデオルーペVL-7EXIIとモリテックス社製CharmView(CCDカメラ)で記録した画像について、Gチャンネル法を用いて記録した画像の640(W)×480(H)の307200画素のグレースケール変換を行った。次いで、モリテックス社製CharmViewで記録した画像について、スコア2のサンプルの輝度が、スカラ社製ビデオルーペVL-7EXIIで記録した画像のスコア2のサンプルとほぼ一致するようにガンマ変換を施した。そして、画像の輝度が0〜60までを「0」、それ以外を「1」に置き換えて2値化した。2値化画像の「1」の画素数を、画像の黒色点として画素数を計測して、黒色点の計測値を測定した。尚、輝度の閾値を60としたのは、上記実施例で述べた理由と同じであるから省略する。
2種類のCCDカメラで撮影したスコア2、3、4、5の皮脂の黒色点のスコアと、上記画像処理により測定された画像の黒色点の計測値の結果を表4に、それをグラフ化したものを図7に示す。
図7のグラフは、上のグラフがスカラ社製ビデオルーペVL-7EXIIで撮影された画像から得られた比較例2の近似の一次式であり、下のグラフがモリテックス社製CharmViewで撮影された画像から得られた比較例2の近似の一次式である。
【0035】
【表4】

比較例1と異なりガンマ変換処理を行った比較例2は、同一の輝度の閾値で2値化した計測値が図7のグラフが示すように、上のグラフがスカラ社製ビデオルーペVL-7EXIIで撮影された画像から得られた計測値4点の近似の一次式であり、下のグラフがモリテックス社製CharmViewで撮影された画像から得られた計測値4点の近似の一次式である。この両者のグラフは、スコアが増加するのに対して計測値が比例して僅かにしか増加していないために、実施例のグラフと比べて、上及び下のグラフの勾配が小さいことを示している。このグラフの勾配が小さいために、同一の輝度の閾値で2値化した計測値は、専門家の判定者のスコアと対応させることができるレベルのものではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性のポリマーフィルムに浸透した輪郭が不鮮明な皮脂を黒色点の画像として記録し、その記録した黒色点の画像を測定する皮脂の分泌状態測定装置であって、
前記記録した黒色点の画像をグレースケールに変換し、その画像をガンマ変換した元画像の近傍画素から算出された平均値からなる局所平均画像を作成する局所平均画像の作成手段と、元画像の輝度から局所平均画像の輝度を差し引いた輝度からなる差分画像を作成する差分画像作成手段と、該差分画像を特定の輝度の閾値で2値化する2値化処理手段と、2値化された値を計測して計測値を記録する計測値計測手段と、
を具備することを特徴とする皮脂の分泌状態測定装置。
【請求項2】
前記特定の輝度の閾値が専門家の判定者のスコアと対応させる値であることを特徴とする請求項1に記載の皮脂の分泌状態測定装置。
【請求項3】
前記局所平均画像の作成手段が元画像の画素の内のある画素を選択して、近傍画素数の輝度をすべて加算し、近傍画素数で割り、得られた局所平均画像の輝度を記録する処理を、全ての画素に対して繰り返すことを特徴とする請求項2に記載の皮脂の分泌状態測定装置。
【請求項4】
基準を設けて元のスコアを新たなスコアに変換してその新たなスコアと計測値を関連付ける計測値関連付け手段を有することを特徴とする請求項1に記載の皮脂の分泌状態測定装置。
【請求項5】
前記黒色点の情報が計測値、スコア、分泌状態に応じたスキンケア、化粧方法の情報のうち、少なくとも一つ以上の情報を表示する表示手段を有することを特徴とする請求項1又は4に記載の皮脂の分泌状態測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−30592(P2011−30592A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176855(P2009−176855)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】