説明

皮膚を染色するための水性消毒溶液および適合性カチオン性色素

皮膚を染色するための水性消毒溶液および適合性色素、ならびにそのような溶液を作製および使用するための方法が提供される。より具体的には、1つの態様において、本発明は、クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液と、水性溶液が表面に塗布された時に患者の皮膚を染色するのに十分な量のカチオン性色素とを含む水性消毒溶液に関する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
消毒とは、生きた組織の表面に存在する微生物の破壊または抑制のことである。消毒剤は微生物を死滅させる、またはその増殖を妨げる。よく用いられる消毒剤には、ヨウ素、ホウ酸およびアルコールが含まれる。用いられる別のタイプの消毒薬は、例えばグルコン酸クロルヘキシジン(CHG)のようなその塩を含む、クロルヘキシジンである。CHGは特に効果的な消毒薬であるが、これはそれが皮膚に対する強い親和性、高度の抗菌活性および長期的な残留効果を示すためである。CHGは即効性で持続性のある優れた術前皮膚消毒剤(preoperative skin preparation)であり、従来のヨードフォアまたはアルコールよりも多くの細菌を死滅させることが見いだされている。さらに、CHGはグラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して即効性を示す。
【0002】
CHG溶液のための溶媒としてはイソプロパノールなどのアルコールがよく用いられる。アルコールを基剤とするCHG溶液の一例はChloraPrep(登録商標)であり、これはMedi-Flex, Inc., Leawood, Kansasから販売されている、CHGが2% w/vでイソプロパノールが70% v/vの溶液である。しかし、その可燃性のために、この種のアルコールを基剤とする溶液は事故を招く恐れがある。その結果として、外科手術室(surgical suite)および類似の臨床環境の中には、そのような溶液の使用を禁止しているところもある。このため、そのような環境では水性CHG溶液を用いることが望ましいと思われる。水性溶液とは、水が主たる溶解媒質または溶媒である任意の溶液のことである。
【0003】
水性CHG溶液は無着色の、または透明な液体であるため、使用者は液体がどこに塗布されたかを調べることが困難である。しかし、水性CHG溶液などの消毒薬を用いる多くの状況では、個人が、消毒薬がどこに塗布されたかを把握することが重要である。例えば、消毒剤はしばしば、外科手術の直前に患者の皮膚に塗布される。看護師または外科医などの個人が、術前液剤がどこに塗布されたかを調べられることは極めて重要である。そのような場合に、術前液剤が、液体が塗布された時に患者の皮膚を染色するように着色されることになっていれば、個人は、消毒薬が塗布されたことだけでなく、液体が患者の身体のどこに塗布されたかも識別することが容易になると考えられる。
【0004】
手洗いなどのいくつかの用途では着色剤がCHG溶液に添加されているが、これらの用途ではいずれも、患者の皮膚を染色または着色させるのに十分な量での色素の添加は提案されていない。具体的には、着色剤はCHG溶液に対して、美的な目的でごく弱い色のみを与えるように添加されている。色づけ剤(tint)または色素などの着色剤が高レベルで水性CHG溶液に添加されると、さまざまな問題に直面する。例えば、比較的高い濃度の色素は一般に、水性CHG溶液との適合性がない。色素をCHG溶液に添加した場合には、溶液の保存寿命が短縮されること、および/または着色された溶液が不安定になることがある。言い換えれば、色素の添加はCHG溶液の効力を低下させる可能性がある。さらにもう1つの問題は、着色剤が溶液から沈殿し、着色された溶液が塗布時に不均一な分布を引き起こす可能性があることである。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
この概要は、以下の詳細な説明の項でさらに説明される、選ばれた概念を単純化された形で紹介するために提供される。この概要は、特許請求される主題の鍵となる特徴または必須な特徴を特定することを意図してはおらず、特許請求される主題の範囲を決定する一助として用いられることも意図していない。
【0006】
本発明の諸態様は、クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液と、患者の皮膚を染色するのに十分な量の適合性(compatible)色素とを含む、水性消毒溶液に関する。色素は、本発明の態様によれば、患者の皮膚を染めるのに十分な量が溶液中に溶解可能であり、その上、視認しうる沈殿物がほとんどまたは全く形成されない場合に、適合性がある。したがって、本明細書で用いる適合性色素は、水性消毒溶液が塗布された時に、クロルヘキシジンまたはその塩の効力を低下させることなく患者の皮膚を染色する能力を提供する。
【0007】
したがって、1つの局面において、本発明の1つの態様は、クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液と、塗布時に患者の皮膚を染色するのに十分な量にあるカチオン性色素とを含む水性消毒溶液を対象とする。
【0008】
本発明のもう1つの態様は、2.0% w/v〜6.0% w/vのクロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液と、0.004% w/v〜0.25% w/vのカチオン性色素とを含む水性消毒溶液を対象とする。
【0009】
本発明のさらなる局面において、1つの態様は、適合性色素を有する水性消毒溶液を調製するための方法を対象とする。本方法は、患者の皮膚を染色するのに十分な量のカチオン性色素を、クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液に対して添加する段階を含む。
【0010】
本発明のさらにもう1つの態様は、水性消毒溶液および適合性色素を提供する方法を対象とする。本方法は、クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液を提供する段階を含む。本方法はまた、カチオン性色素を提供する段階も含み、ここでカチオン性色素は、クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液と組み合わされた場合に、塗布時に患者の皮膚を染色できる消毒薬溶液が得られる量で提供される。
【0011】
本発明のもう1つの局面において、1つの態様は、クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液と、塗布時に患者の皮膚を染色するのに十分な量のアニオン性色素と、カチオン性添加剤とを含む、水性消毒溶液を対象とする。
【0012】
本発明のさらなる態様は、2.0% w/v〜6.0% w/vのクロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液と、0.07% w/v〜0.15% w/vのアニオン性色素と、カチオン性添加剤とを含む水性消毒溶液であって、カチオン性添加剤とアニオン性色素との最小モル比がカチオン性添加剤とアニオン性色素との電荷比に基づく、水性消毒溶液を対象とする。
【0013】
もう1つの態様において、本発明の1つの局面は、適合性色素を有する水性消毒溶液を調製するための方法を対象とする。本方法は、クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液に対して以下を添加する段階を含む:患者の皮膚を染色するのに十分な量のアニオン性色素、およびカチオン性添加剤。
【0014】
さらになお、本発明の1つの態様は、水性消毒溶液および適合性色素を提供する段階を対象とする。本方法は、クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液を提供する段階を含む。本方法はまた、アニオン性色素を提供する段階も含み、ここでアニオン性色素は、クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液と組み合わされた場合に、塗布時に患者の皮膚を染色できる消毒薬溶液が得られる量で提供される。本方法はさらに、カチオン性添加剤を添加する段階を含む。
【0015】
本発明のそのほかの局面は、それに付随する利点および新規な特徴とともに、一部には以下の説明において示されると考えられ、一部には以下を吟味することで当業者に明らかになると考えられ、または本発明の実施によって学ばれると思われる。本発明の目的および利点は、添付される特許請求の範囲において特に指摘された手段、方便(instrumentality)および組み合わせによって実現および達成されると思われる。
【0016】
発明の詳細な説明
本発明の諸態様は、消毒薬としてのクロルヘキシジンまたはその塩と、患者の皮膚を目に見えるように染色するか他の様式で着色するのに十分な量の適合性色素とを有する水性消毒溶液を対象とする。本発明の消毒薬溶液は水性溶液中で優れた抗菌活性を示し、そのためアルコールを基剤とする溶液に伴う危険性がない。さらに、適合性色素を含めることは、消毒薬溶液が患者に対してどこに塗布されたかを使用者が容易に特定することを可能にすることにより、かなりの有益性をもたらす。
【0017】
本明細書で用いる場合、「水性溶液」という用語は、水が主たる溶解媒質または溶媒である溶液のことを指す。言い換えれば、「水性溶液」という用語は、水が容積比で最も濃度の高い溶媒である溶液のことを指す。
【0018】
本発明の組成物に抗菌活性を与えるために用いうる消毒剤には、クロルヘキシジンおよびその塩が含まれる。好ましい態様で用いられるクロルヘキシジン塩はCHGである。CHGは以下の例で提示されるクロルヘキシジン塩ではあるものの、他のタイプのクロルヘキシジン塩も適しているため、本発明はCHGに限定されるべきではない。そのような適したクロルヘキシジン塩の例には、グルコン酸塩、酢酸塩、塩化物塩、臭化物塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩およびホスファニレート(phosphanilate)が含まれる。水性消毒溶液中のクロルヘキシジンまたはクロルヘキシジン塩の濃度は、本発明のさまざまな態様においてさまざまであってよい。しかし、好ましい態様において、クロルヘキシジンまたはクロルヘキシジン塩の濃度は約2.0% w/v〜約6.0% w/vである。好ましくは、水性消毒溶液は約2.0% w/vのCHGを含む。
【0019】
本発明のいくつかの態様において、水性消毒溶液は、クロルヘキシジンまたはその塩の溶液と、塗布された時に患者の皮膚を目に見えるように染色するのに十分な量のアニオン性色素と、アニオン性色素がクロルヘキシジンまたはその塩と沈殿物を形成するのを防ぐのに十分な量のカチオン性添加剤とを含む。FD&C色素を含め、アニオン性色素は極めて低濃度であってもクロルヘキシジンと沈殿物を形成する。このため、水性クロルヘキシジン溶液に対してアニオン性色素のみを添加すると、クロルヘキシジンのかなりの割合が溶液から除去されて、溶液の効力が低下する。沈殿物はクロルヘキシジンカチオンと少なくとも1つの色素アニオンとの不溶性塩と考えられている。1つのアニオンを仮定した場合のクロルヘキシジン色素塩の溶解度積は、そのようなすべてのアニオン性色素に関して10-9と推測されている。しかし、アニオン性色素の負電荷がカチオン性添加剤によってクロルヘキシジンから「隠される」と、クロルヘキシジン-色素塩は直ちには形成されないと考えられる。カチオン性添加剤はアニオン性色素と可逆的な会合を生じてその構造を保護する。しかし、クロルヘキシジン-色素塩の会合は、その溶解度積を上回る場合には非可逆的な会合となる。添加剤-色素会合が速度論的には有利であるが、クロルヘキシジン-色素複合体が、逆反応の速度が事実上ゼロであるため熱力学的には有利である。しかし、好ましい態様において、カチオン性添加剤の添加は、予想される使用寿命(usage life)である約72時間にわたってクロルヘキシジン-色素塩を防止すると考えられる。
【0020】
本発明の水性消毒溶液中でのアニオン性色素とカチオン性添加剤との相互作用は、イオン性相互作用によるアニオン性色素とカチオン性添加剤ミセルとの可逆的会合を含む。ミセル化とは、ごく微小な分子がコロイド系中の液滴として凝集する過程のことを指す。凝集の原動力は、疎水性分子と以前に会合していて現在は他の水分子と会合している水分子の、ボルツマンの原理によるエントロピー増大である。エントロピーが増大するのは、水が非分極性分子(疎水性)の隣にあるよりも分極性分子(親水性)の隣にある方が多くの許容性状態を有するためである。アニオン性色素が溶解することに伴うイオン強度の上昇は、ミセル性のカチオン性添加剤分子をさらに近接するように充填させ、ミセルの表面での正電荷の密度を高める。
【0021】
本発明の水性消毒溶液中にて用いうるアニオン性色素には、FD&C色素、例えば、FD&C Blue No. 1(ブリリアントブルーFCF)、FD&C Blue No. 2(インジゴカルミン)、FD&C Green No. 3(ファストグリーンFCF)、FD&C Red No. 3(エリスロシン)、FD&C Red No. 40(アルラレッド)、FD&C Yellow No. 5(タルトラジン)およびFD&C Yellow No. 6(サンセットイエローFCF)などが含まれる。諸態様において、患者の皮膚を染色するのに十分であって、しかし他の点ではカチオン性添加剤の添加を介してクロルヘキシジンと適合性のあるアニオン性色素の濃度は、約0.07% w/v〜約0.15% w/vの範囲であってよい。好ましい態様において、アニオン性色素の濃度は約0.13% w/vである。
【0022】
適合性のあるクロルヘキシジン-アニオン性色素溶液を得るために、ある種のタイプのカチオン性添加剤を本発明の範囲内で用いることができる。いくつかの態様において、カチオン性添加剤はカチオン性界面活性剤を含む。いくつかの態様においては、第四級窒素を含むカチオン性添加剤を用いることができる。そのようなカチオン性添加剤には、例えば、塩化セチルピリジニウム(CPC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、塩化ベンゼトニウムおよび塩化ベンザルコニウムが含まれうる。カチオン性添加剤の濃度は、水性消毒溶液を調製するために用いられる色素とカチオン性添加剤との電荷比に依存する。例えば、一価の正電荷を有するカチオン性添加剤と二価の負電荷を有するアニオン性色素では、カチオン性添加剤とアニオン性色素とのモル比は約2対1になると考えられる。
【0023】
本発明の他の態様において、水性消毒溶液は、クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液と、塗布時に患者の皮膚を目に見えるように染色するのに十分な量にあるカチオン性色素とを含む。そのようなカチオン性色素の非限定的な例には、クリスタルバイオレット、アクリフラビン、ビスマルクブラウン、マラカイトグリーン、メチルグリーン、ビクトリアピュアブルーBOおよびアズールCが含まれる。アニオン性色素とは対照的に、カチオン性色素はカチオン性添加剤の添加を伴わずに水性クロルヘキシジン溶液と適合性があることが見いだされている。しかし、カチオン性色素の中には、塩素イオン、または濃度が上昇するとクロルヘキシジンと沈殿物を形成する他のイオンを含むものがある。例えば、塩素イオンを有するカチオン性色素と水性クロルヘキシジン溶液との適合性は、クロルヘキシジンと塩化物との溶解度積が約0.05% w/v色素を上回った後には低下する。このため、諸態様において、患者の皮膚を染色するのに十分であって、しかし他の点ではクロルヘキシジンと適合性のあるカチオン性色素の濃度は、約0.004% w/v〜約0.25% w/vの範囲であってよい。好ましい態様において、カチオン性色素の濃度は約0.05% w/vである。
【0024】
本発明のいくつかの態様による水性消毒溶液は、さらなる成分を用いることができる。例えば、いくつかの態様において、水性消毒溶液は界面活性剤を用いることができる。そのような適した界面活性剤の例には、ポリビニルピロリドン(PVP)(平均分子量10,000)およびPVP(平均分子量1,300,000)が含まれる。諸態様において、水性消毒溶液中の界面活性剤の濃度は一般に、約0.5% w/v〜約5% w/vの範囲であってよい。1つの好ましい態様において、PVP(平均分子量10,000)が界面活性剤として約1% w/vの濃度で添加される。
【0025】
加えて、いくつかの態様において、水性消毒溶液は可溶化補助剤(solubilization aid)を用いることができる。そのような適した可溶化補助剤には、ポリエチレングリコール(PEG)(平均分子量200)、PEG(平均分子量400)およびグリセロールが含まれる。本発明の態様の水性消毒溶液における可溶化補助剤の濃度は一般に、約1% v/v〜約49% v/vの範囲である。1つの好ましい態様においては、PEG(平均分子量200)が可溶化補助剤として約1% v/v〜約49% v/vの濃度で添加される。
【0026】
例えば低濃度のアルコールを含む、さらなる添加物を、本発明のさらなる態様の水性消毒溶液の中に用いることもできる。そのような添加物は、当技術分野で確立された許容される様式および量で用いられると考えられる。
【0027】
いくつかの態様において、水性消毒溶液および適合性色素は、液体アプリケーターとともに提供される。例えば、壊れやすい材料でできた少なくとも1つのアンプルを収容するための内部チャンバーの範囲を定める中空体を含む液体アプリケーターを提供することができる。いくつかの態様において、アンプルは、本明細書で上述した色素を内部に有する水性消毒溶液を含む。アンプルを折って、着色された水性消毒溶液を所望の表面に塗布することができる。他の態様において、アンプルは色づけされていない水性クロルヘキシジン溶液を含み、液体アプリケーターは適合性色素を内部に有する多孔質エレメントを含む。多孔質エレメントは、アンプルを折ると、色づけされていない水性消毒溶液が多孔質エレメントを通過して色素が溶液に移行し、続いてそれを所望の表面に塗布することができるように配置されている。そのような液体アプリケーターの例は、以下にさらに記載されている:米国特許第6,729,786号;米国特許第6,991,393号、および2005年10月20日に提出された米国特許出願第11/254,318号;それらのそれぞれはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0028】
アンプルは、塗布する必要のある液体の量に応じて、さまざまな異なる形状およびサイズであってよい。例えば、液体アプリケーターは長い円筒形を含んでもよく、またはバイアル型アンプルを含んでもよい。さらに、複数のアンプルが筐体によって収容されてもよい。好ましくはアンプルはガラス製であるが、他の材料もすべて本発明の範囲内にある。アンプルの壁は、輸送および貯蔵の間に所望の液体を含めるのに十分であって、なおかつ、アンプルに局所的な圧迫を加えると折れるような厚さのものである。
【0029】
液体アプリケーターの筐体は数多くの形態をとることができる。筐体は、少なくとも1つのアンプルを収容するように適合化された内部チャンバーを有する。筐体はまた、複数のアンプルを保持するような形状にすることもできる。1つの形態では、筐体は、筐体の内部に含められたアンプルと概ね合致するような形状にされる。
【0030】
本発明の多孔質エレメントも数多くの形状をとることができる。多孔質エレメントは多孔質栓および/または多孔質パッドであってよい。言い換えれば、多孔質栓はアプリケーターの筐体の内部に、アンプルと筐体の開口端との間に配置することができる。追加的または代替的に、多孔質パッドを筐体の開口端に配置してもよい。いくつかの態様において、適合性色素(例えば、カチオン性色素またはアニオン性色素/カチオン性添加剤の組成物)は、多孔質エレメントの中および/または表面上に用意することができる。多孔質エレメントは、アンプルが折られた時に、色づけされていない水性消毒溶液が多孔質エレメントを通って流れて、色素が塗布される溶液へと移行するように配置される。多孔質エレメントは、液体が材料を通して流れることを可能にする任意の多孔質材料でできていてよい。多孔質エレメントは繊維質、発泡体またはフェルト材料でよいが、それらには限定されない。色素は多孔質エレメント全体に十分に染み込ませてもよく、またはエレメントの一部のみの上に配置してもよい。
【0031】
アプリケーターの筐体の内部に含められたアンプルは、当業者に公知の任意の方法によって割ることができる。これらには、アンプルを割るために筐体壁を内側に圧搾すること、アンプルを割るためにレバーもしくは他の機構を用いること、またはタペット付きの突出翼(projecting wing)を利用することが非限定的に含まれる。
【0032】
実施例
ここで、本発明の諸態様を、以下の非限定的な実施例によってさらに例証する。
【0033】
実施例1
アニオン性色素のみと水性CHG溶液との適合性(すなわち、カチオン性添加剤の添加なし)を調べた。0.13gのFD&C Yellow 6を100mlの蒸留水中に溶解させることにより、0.13% w/vアニオン性色素溶液を調製した。続いて20% w/v水性CHG溶液を色素溶液に対して1滴ずつ添加した。2滴の水性CHG溶液を色素溶液に添加した後に沈殿物が形成されたが、このことはこの色素のみでは水性CHG溶液との適合性がないことを示している。
【0034】
実施例2
アニオン性色素およびカチオン性添加剤の適合性を調べるために、異なるアニオン性色素およびカチオン性添加剤を用いて数多くの溶液を調製した。調べたカチオン性添加剤には以下が含まれた:CPC、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、塩化ベンゼトニウムおよび塩化ベンザルコニウム。調べたアニオン性色素には以下が含まれた:FD&C Green No. 3(ファストグリーンFCF)、FD&C Yellow No. 5(タルトラジン)、FD&C Red No. 40(アルラレッド)、FD&C Yellow No. 6(サンセットイエローFCF)、FD&C Blue No. 1(ブリリアントブルーFCF)、FD&C Blue No. 2(インジゴカルミン)およびFD&C Red No. 3(エリスロシン)。これらの色素のそれぞれの化学構造および化学カテゴリーは以下に提示されている。

【0035】
アニオン性色素およびカチオン性添加剤の適合性は以下の通りに調べた。まず、0.1グラムの各アニオン性色素を別々の40mlビーカーに入れた。20mlの4mM添加剤溶液を各40mlビーカーに入れた。カチオン性添加剤のそれぞれをアニオン性色素に溶解させた。
【0036】
実施例3
カチオン性添加剤とアニオン性色素との適切なモル比を決定するために、滴定実験をデザインした。実験は、カチオン性添加剤としてのCPC、および色素としてのFD&C Yellow No. 6を用いて行った。滴定は、既知の容積の4mM CPC溶液をビーカーに入れて、FD&C Yellow No. 6の2% w/v溶液で滴定することによって行った。CPCおよびFD&C Yellow No. 6を含む溶液を、水性2.0% w/v CHG溶液に1滴ずつ添加した。その結果により、CPCとFD&C Yellow No. 6との最小モル比はおよそ2対1であることが示された。この結果は、2つの成分間の電荷比を表している。
【0037】
実施例4
アニオン性色素を有する水性2.0% w/v CHG溶液を、クラスAの100ml容量フラスコを用いて配合した。その手順は、0.30グラムのCPCおよび0.13グラムのFD&C Yellow No. 6を、6.0mlの50/50% v/vのイソプロパノールおよび蒸留水に溶解させることを含んだ。別個に、1.0グラムのPVP(平均分子量10,000)を30.0mlの蒸留水中に溶解させた。ひとたび溶解したところで、PVP溶液を色素/添加剤溶液と混和させた。次に、5mlのPEG(平均分子量200)を添加した。加えて、10.6グラムの20% w/v CHG溶液を添加した。最後に、100mlの目盛に達するまで蒸留水をフラスコに添加した。
【0038】
実施例5
アニオン性色素およびカチオン性添加剤を用いた、色づけされた水性6.0% w/v CHG溶液を、クラスAの100ml容量フラスコを用いて調製した。まず、0.30グラムのCPCおよび0.13グラムのFD&C Yellow No. 6を、フラスコ内で、6.0mlの50/50% v/vのイソプロパノールおよび蒸留水に溶解させた。次に、31.8グラムの20% w/v CHG溶液を添加した。続いて、100mlの目盛に達するまで蒸留水をフラスコに添加した。
【0039】
実施例6
本実施例では、アンプル中にある色づけされていない水性CHG溶液と、多孔質エレメント中に含まれるアニオン性色素/カチオン性添加剤組成物とを有する、液体アプリケーターを調製した。水性CHG溶液を調製するためには、1グラムのPVP(平均分子量10,000)を30mlの蒸留水中に溶解させた。続いて、5mlのPEG(平均分子量200)を添加した。さらに、10.6グラムの20% w/v水性CHG溶液を与え、100mlの目盛に達するまで蒸留水を添加した。この水性CHG溶液をガラス製アンプルに添加し、続いてそれを密封して、液体アプリケーターの中空体の内側に配置した。
【0040】
アニオン性色素/カチオン性添加剤組成物を有する多孔質エレメントを、液体アプリケーター用に以下の通りに調製した。まず、2.0グラムのFD&C Yellow No. 6および4.6グラムのCPCを100mlの50/50% v/vのイソプロパノールおよび蒸留水に添加することによって、100mlの色素溶液を調製した。多孔質エレメントを色素溶液中に1分間浸漬させ、続いて24時間にわたり風乾させた。続いて多孔質エレメントをアプリケーター筐体の端部に固定した。
【0041】
アンプルを割ると、色づけされていない水性CHG溶液が、アニオン性色素/カチオン性添加剤組成物を含む多孔質エレメントを通って流れる。それにより、色素およびカチオン性添加剤は、水性CHG溶液が多孔質エレメントを通って流れるのに伴ってそこに移行する。その結果生じた着色された水性CHG溶液は患者の皮膚などの所望の表面に対して塗布することができ、それにより、表面を消毒するとともに目に見えるように染色する。
【0042】
実施例7
クロルヘキシジンがカチオン性アンモニウム含有色素と沈殿しないことを証明するために、以下の色素を調べた:クリスタルバイオレット、ビクトリアピュアブルーBO、メチルグリーン、マラカイトグリーン、アクリフラビンおよびビスマルクブラウン。これらの色素のそれぞれの化学構造および化学カテゴリーは以下に提示されている。クリスタルバイオレット、マラカイトグリーンおよびビクトリアピュアブルーBOはすべて同じ化学ファミリーであるトリアシルメタンに属する。ビスマルクブラウンおよびアクリフラビンは、それぞれ異なる化学ファミリーであるアゾおよびアクリジンにそれぞれ属する。


【0043】
溶液の安定性を調べるために、2.0% w/vのCHGおよび0.05% w/v色素の水性溶液を、以上に表記した色素のそれぞれに対して調製した。それぞれの水性溶液はクラスAの100ml容量フラスコを用いて調製し、その中で0.050グラムの色素を30.0mlの蒸留水中に溶解させた。加えて、10.6gの20% w/v水性CHG溶液をフラスコに添加した。続いて、100mlの目盛に達するまで蒸留水をフラスコに添加した。溶液を3カ月間室温で貯蔵した。視認しうる沈殿物はいずれの溶液でも形成されず、このことは溶液が安定であり、色素が0.05% w/vの濃度では少なくとも3カ月にわたって適合性があることを示している。
【0044】
実施例8
カチオン性アンモニウム含有色素の水性CHG溶液との適合性により、適合性がアンモニウム含有色素には限定されないと思われること、およびカチオン性色素に適合性があると思われることが示唆された。このため、アンモニウム基を含まないカチオン性色素を有する水性CHG溶液を、その適合性を調べるために調製した。具体的には、調べた色素は、チアジンファミリーに属するカチオン性色素であるアズールCであった。その正電荷は第四級窒素原子の代わりに第三級イオウ原子から生じている。アズールCの化学構造および化学カテゴリーは以下に提示されている。

【0045】
2.0% w/vのCHGおよび0.05% w/vのアズールC色素の水性溶液を、溶液の安定性を調べるために調製した。溶液は、実施例7における溶液の調製と同様に調製した。まず、クラスAの100ml容量フラスコを用いて、0.050グラムのアズールC色素を30.0mlの蒸留水中に溶解させた。加えて、10.6gの20% w/v水性CHG溶液をフラスコに添加した。続いて、100mlの目盛に達するまで蒸留水をフラスコに添加した。溶液を3カ月間室温で貯蔵した。溶液は視認しうる沈殿物を示さず、このことは溶液が安定であり、色素が0.05% w/vの濃度では少なくとも3カ月にわたって適合性があることを示している。
【0046】
実施例9
カチオン性色素を有する水性6.0% w/v CHG溶液を、クラスAの100ml容量フラスコを用いて調製した。まず、0.050グラムのクリスタルバイオレットを30.0mlの蒸留水中に溶解させた。次に、31.8グラムの20% w/v CHG溶液を添加した。続いて100mlの目盛に達するまで蒸留水をフラスコに添加した。
【0047】
実施例10
本実施例では、アンプル中にある色づけされていない水性CHG溶液と、多孔質エレメント中に含まれるカチオン性色素とを有する、液体アプリケーターを調製した。水性CHG溶液を調製するためには、10.6グラムの20% w/v水性CHG溶液を用意し、100mlの目盛に達するまで蒸留水を添加した。この水性CHG溶液をガラス製アンプルに添加し、続いてそれを密封して、液体アプリケーターの中空体の内側に配置した。
【0048】
カチオン性色素を有する多孔質エレメントを、液体アプリケーター用に以下の通りに調製した。まず、100mlの50/50% v/vのイソプロパノールおよび蒸留水中にある0.3グラムのクリスタルバイオレット色素を添加することにより、100mlの色素溶液を調製した。多孔質エレメントを色素溶液中に1分間浸漬させ、続いて24時間にわたり風乾させた。続いて多孔質エレメントをアプリケーター筐体の端部に固定した。
【0049】
アンプルを割ると、色づけされていない水性CHG溶液が、カチオン性色素を含む多孔質エレメントを通って流れる。それにより、色素は、水性CHG溶液が多孔質エレメントを通って流れるのに伴ってそこに移行する。その結果生じた着色された水性CHG溶液は患者の皮膚などの所望の表面に対して塗布することができ、それにより、表面を消毒するとともに目に見えるように染色する。
【0050】
理解されたであろうが、本発明は、クロルヘキシジンまたはその塩と、患者の皮膚を染色するのに十分な量にある適合性色素との水性溶液を含む水性消毒溶液を提供する。
【0051】
本発明を特定の態様に関連して説明してきたが、それらはすべての点において限定的ではなく例証的であることを意図している。可能性のある多くの態様を、本発明から、その範囲を逸脱することなく作り出せるため、本明細書で述べた、または添付の図面において示されたすべての事物は例証的であって限定的な意味ではないと解釈される。代替的な態様は、本発明が属する当業者にとって、その範囲を逸脱することなしに明らかになると考えられる。例えば、本発明の態様は患者の皮膚を消毒および着色することに関連して記載されているが、さらなる態様において、水性消毒溶液を、例えば医用機器といった他の他の材料および表面を消毒および着色するために用いることもできる。
【0052】
前記のことから、本発明が、システムおよび方法にとって明白であって固有である他の利点とともに、以上に述べたすべての目標および目的を達成するように十分に順応したものであることを見てとれるであろう。ある特定の特徴および組み合わせの構成要素(subcombination)も有用性があって、他の特徴および組み合わせの構成要素に関係なく用いうることも理解されるであろう。このことは想定されており、本発明の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液と、塗布時に患者の皮膚を染色するのに十分な量のカチオン性色素とを含む、水性消毒溶液。
【請求項2】
クロルヘキシジンの塩が、グルコン酸塩、酢酸塩、塩化物塩、臭化物塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩およびホスファニレート(phosphanilate)のうち少なくとも1つを含む、請求項1記載の水性消毒溶液。
【請求項3】
クロルヘキシジンまたはその塩の濃度が2.0% w/v〜6.0% w/vである、請求項1記載の水性消毒溶液。
【請求項4】
クロルヘキシジンまたはその塩の濃度が2.0% w/vである、請求項1記載の水性消毒溶液。
【請求項5】
カチオン性色素が、クリスタルバイオレット、アクリフラビン、ビスマルクブラウン、マラカイトグリーン、メチルグリーン、ビクトリアピュアブルーBOおよびアズールCのうち少なくとも1つを含む、請求項1記載の水性消毒溶液。
【請求項6】
カチオン性色素の濃度が0.004% w/v〜0.25% w/vである、請求項1記載の水性消毒溶液。
【請求項7】
界面活性剤をさらに含む、請求項1記載の水性消毒溶液。
【請求項8】
界面活性剤がポリビニルピロリドンである、請求項7記載の水性消毒溶液。
【請求項9】
界面活性剤の濃度が0.5% w/v〜5.0% w/vである、請求項7記載の水性消毒溶液。
【請求項10】
可溶化補助剤をさらに含む、請求項1記載の水性消毒溶液。
【請求項11】
可溶化補助剤が、ポリエチレングリコールおよびグリセロールのうち少なくとも1つを含む、請求項10記載の水性消毒溶液。
【請求項12】
可溶化補助剤の濃度が1.0% v/v〜49% v/vである、請求項10記載の水性消毒溶液。
【請求項13】
請求項1記載の水性消毒溶液を患者の皮膚に対して塗布する段階を含む、患者の皮膚を消毒する方法。
【請求項14】
2.0% w/v〜6.0% w/vのクロルヘキシジンまたはその塩、および0.004% w/v〜0.25% w/vのカチオン性色素の水性溶液を含む、水性消毒溶液。
【請求項15】
クロルヘキシジンの塩が、グルコン酸塩、酢酸塩、塩化物塩、臭化物塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩およびホスファニレートのうち少なくとも1つを含む、請求項14記載の水性消毒溶液。
【請求項16】
カチオン性色素が、クリスタルバイオレット、アクリフラビン、ビスマルクブラウン、マラカイトグリーン、メチルグリーン、ビクトリアピュアブルーBOおよびアズールCのうち少なくとも1つを含む、請求項14記載の水性消毒溶液。
【請求項17】
界面活性剤をさらに含む、請求項14記載の水性消毒溶液。
【請求項18】
可溶化補助剤をさらに含む、請求項14記載の水性消毒溶液。
【請求項19】
患者の皮膚を染色するのに十分な量のカチオン性色素をクロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液に対して添加する段階を含む、適合性色素を有する水性消毒溶液を調製するための方法。
【請求項20】
クロルヘキシジンまたはその塩の濃度が2.0% w/v〜6.0% w/vである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
カチオン性色素の濃度が0.004% w/v〜0.25% w/vである、請求項19記載の方法。
【請求項22】
クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液を提供する段階;および
カチオン性色素を提供する段階であって、該カチオン性色素が、クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液と組み合わされた場合、塗布時に患者の皮膚を染色できる消毒溶液が得られる量で提供される、段階
を含む、水性消毒溶液および適合性色素を提供する方法。
【請求項23】
クロルヘキシジンまたはその塩の濃度が2.0% w/v〜6.0% w/vである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
クロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液が少なくとも1つのアンプル中に提供され、カチオン性色素が液体アプリケーターの少なくとも1つの多孔質エレメント中に提供され、
アンプルが折られた時にクロルヘキシジンまたはその塩の水性溶液が少なくとも1つの多孔質エレメントを通って流れ、カチオン性色素が水性溶液に移行するように、少なくとも1つの多孔質エレメントが配置されている、
請求項22記載の方法。

【公表番号】特表2009−535423(P2009−535423A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510029(P2009−510029)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【国際出願番号】PCT/US2007/067937
【国際公開番号】WO2007/130981
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(508326910)エンチュリア インコーポレイティッド (2)
【Fターム(参考)】