説明

皮膚疾患治療薬

【課題】副作用がなく、優れた皮膚疾患治療効果を有する皮膚疾患治療薬の提供。
【解決手段】次式で表される化合物、又は医薬として許容されるその塩もしくは誘導体を有効成分として含有する皮膚疾患治療薬。


(GalNAcpはピラノース型N-アセチルガラクトサミン残基を、GlcUApはピラノース型グルクロン酸残基を、DはD型を、LはL型を、Pyrはピルビン酸を、nはゲルろ過クロマトグラフィーで測定した平均分子量がプルランを標準として100万〜150万であることを示す繰り返しの数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚疾患治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚疾患とは、皮膚において炎症性あるいは増殖性の変化等を生ずる疾患である。皮膚疾患は痒みや痛みを伴う。また、手、腕、顔面等の露出部に皮疹、鱗屑、膿庖、水庖、痂皮形成、色素異常等の美容上の問題も生ずる点から、患者とその家族この精神面、社会生活面、経済面等の、いわゆる生活の質(QOL)に悪影響を及ぼすことが多い。そのため、有効な治療法の開発が望まれている。このような皮膚疾患の例として乾癬が挙げられる。乾癬は、皮膚の肥厚と乾燥した鱗屑を伴った丘疹や紅斑が全身に発生する慢性の皮膚疾患である。生命に対する危険はほとんどないものの、再発性の疾患であり、治癒することは困難である。乾癬の原因は不明であるが、遺伝的な要素の関与が指摘されている。
【0003】
今日まで、乾癬治療剤としてステロイド外用剤及びビタミンD3誘導体の外用剤が第一選択されてきた。ステロイド剤、非ステロイド系消炎剤、ビタミン剤あるいは免疫抑制剤等ある程度の効果は認められているが、効果が不十分であったり、副作用の問題があるため、さらに優れた治療剤の開発が望まれている。例えば、従来よりコルチコステロイド剤、免疫抑制剤が使用感あるいは速効性の点で、外用又は経口投与で尋常性乾癬などに好んで用いられてきたが、ステロイド剤の大量、長期使用は皮膚の萎縮、ステロイド性紫斑を生じ、ときに膿庖性乾癬への移行が危惧されている。また、免疫抑制剤においては、腎臓障害、感染症の誘発などの副作用が懸念されており、皮膚疾患とくに乾癬症に対する有効で安全性に優れた治療法の開発が待ち望まれている。
【非特許文献1】Fisheries Science, 63, 983-988(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
副作用がなく、しかも優れた皮膚疾患治療効果を有する皮膚疾患治療薬が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の発明に関する:
(1)酸性ムコ多糖又はその生理学的に許容される塩もしくは誘導体を有効成分として含む皮膚疾患治療薬。
【0006】
(2)酸性ムコ多糖が、次の構造式で示される化合物である上記(1)記載の皮膚疾患治療薬。
【化2】

(上記の構造式において、GalNAcpはピラノース型N-アセチルガラクトサミン残基を、GlcUApはピラノース型グルクロン酸残基を、DはD型を、LはL型を、Pyrはピルビン酸を、nはゲルろ過クロマトグラフィーで測定した平均分子量がプルランを標準として100万〜150万であることを示す繰り返しの数をそれぞれ表す。)
【発明の効果】
【0007】
副作用がなく、しかも優れた皮膚疾患治療効果を有する皮膚疾患治療薬が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者は、皮膚疾患治療薬の有効成分として使用が可能な物質を求めて、鋭意研究を進めていたところ、海洋細菌が産生する酸性ムコ多糖に皮膚疾患患者において、皮膚炎症を抑制する作用を有し、毒性が極めて弱く皮膚疾患、特に乾癬の治療剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明について実施形態を挙げて説明する。
【0009】
〔皮膚疾患治療薬及び皮膚疾患治療方法〕
実施形態としては、(1)海洋細菌の産生する酸性ムコ多糖又はその生理学的に許容される塩もしくは誘導体を有効成分として含有する皮膚疾患治療薬、及び(2)かかる皮膚疾患治療薬を患部に施用する皮膚疾患治療方法が挙げられる。海洋細菌の産生する酸性ムコ多糖は、海洋細菌シュードモナス エスピーWAK-1(Pseudomonas sp. WAK-1)菌株又はその変異株の培養物より分離精製された酸性ムコ多糖であり[マツダ(M.Matsuda)ら: Fisheries Science, 63, 983-988(1997)]、本明細書において、単に「本酸性ムコ多糖」と表記する。本酸性ムコ多糖は、次の構造式で示される化合物である。
【化3】

(上記の構造式において、GalNAcpはピラノース型N-アセチルガラクトサミン残基を、GlcUApはピラノース型グルクロン酸残基を、DはD型を、LはL型を、Pyrはピルビン酸を、nはゲルろ過クロマトグラフィーで測定した平均分子量がプルランを標準として100万〜150万であることを示す繰り返しの数をそれぞれ表す。)
【0010】
本酸性ムコ多糖は、構成糖のモル比がN−アセチル−D−ガラクトサミン:D−グルクロン酸:N−アセチル−L−ガラクトサミン:ピルビン酸が2:1:1:1(モル濃度比)で、ゲルろ過クロマトグラフィーで測定した平均分子量がプルランを標準として100万〜150万であることが好ましい。具体的には、Asahipak GFA-7M(昭和電工製)をカラムとする高速液体クロマトグラフィー(島津製)を使用し、0.1MNaCl溶液を移動相とし、分子量既知のプルラン(Shodex STANDARD KIT P-82、昭和電工製)を標準サンプルとして作成した分子量保持時間標準曲線を使用して測定することができる。尚、上記本酸性ムコ多糖の構造式中、上記nは1175〜1762の整数に相当する。
【0011】
構成成分の分析には、セルロースアセテート膜電気泳動、又は高速液体クロマトグラフィーを用いることができる。この構成成分の分析には、多糖類を2Mのトリフルオロ酢酸(TFA)、又は4N−HClで100℃、12時間加水分解し、ロータリーエバポレイターでTFA又はHClを除いたものを検体とし、中性糖、ウロン酸、有機酸及びアミノ糖の分析を行う。構成有機酸の分析にはこの他に酵素法を用いることができる。
【0012】
実施形態に使用する本酸性ムコ多糖は、生理学的に許容される塩もしくは誘導体であっても良く、生理学的に許容される塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩又はカルシウム塩等のアルカリ金属又はアルカリ土金属の塩が挙げられる。「皮膚疾患治療薬」は、皮膚に対する毒性も刺激も無く、副作用も無い。
【0013】
「皮膚疾患治療薬」は、製剤化して「皮膚疾患治療剤」として用いることができる。「皮膚疾患治療剤」には、皮膚疾患の予防又は治療に有効な皮膚疾患治療用組成物の他に、医薬部外品としてのローション、乳液、クリーム、パック剤、石鹸等の薬用化粧品および医薬品としてのローション、乳液、クリーム、軟膏等の皮膚外用剤も含まれる。
【0014】
皮膚疾患治療剤は、皮膚疾患治療薬の有効成分である本酸性ムコ多糖又はその塩もしくは誘導体に、各種成分、例えば、充填剤、増量剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、増粘剤などの希釈剤あるいは賦形剤を、その剤型にあわせ、皮膚疾患治療薬の作用効果を損なわない範囲で適宜配合することにより調製される。皮膚疾患治療剤は、また油分、界面活性剤、紫外線吸収剤、アルコール、防腐剤、殺菌剤、色剤、粉末、香料、緩衝剤などを用いて製剤化しても構わない。
【0015】
皮膚疾患治療剤の剤型は、任意であり、治療目的に応じて各種の剤型を取ることができる。例えば化粧水等の可溶化系、乳液またはクリーム等の乳化系、あるいは軟膏または分散液などの剤型をとることができる。代表的な剤型としては、液状塗布剤、軟膏剤、貼付剤(パップ剤)、クリーム剤、液状塗布剤、ローション剤、エマルジョン剤、ゲル剤、スプレー剤、又はテープ等の外用剤が挙げられる。
【0016】
軟膏剤、硬膏剤、貼付剤、クリーム、ローション、ゲルなどの剤型で使用する場合、好ましくは薬学的に許容される添加剤と共に医薬組成物として使用される。軟膏剤に配合される添加剤としては、基剤、乳化剤、保存剤が挙げられる。基剤としては白色ワセリン、流動パラフィン等の炭化水素、大豆等の油脂類、ミツロウ、ラノリン等のロウ類、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸、ラノリンアルコール、セトステアリルアルコール等の高級アルコール及びそのエステル類、マクロゴール類等が挙げられる。乳化剤としては、非イオン性界面活性剤等が挙げられる。保存剤としては、チモール、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0017】
硬膏剤もしくは貼付剤に配合される添加剤としては、増粘剤、保湿剤、充填剤、架橋剤、溶解剤、乳化剤等が挙げられる。具体的には、増粘剤としてはアルギン酸ナトリウム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。保湿剤としては、グリセリン、マクロゴール類等が挙げられる。充填剤としては、カオリン、二酸化チタン、亜鉛華等が挙げられる。架橋剤としては、アセトアルデヒド、ジメチルケトン、硫酸アルミニウム等が挙げられる。溶解剤としては、エタノール、2-プロパノール等のアルコール類、マクロゴール類等が挙げられる。乳化剤としては、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0018】
軟膏剤(ペースト、クリーム、ゲルなど)の剤型で調製する場合は、基材、安定化剤、湿潤剤、保存剤等が必要に応じて配合される。基材としては、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィン等が挙げられる。安定化剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、エデト酸ナトリウム等が挙げられる。湿潤剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、乳酸ナトリウム等が挙げられる。保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0019】
貼付剤の形態に調製する場合は、通常の支持体に軟膏、クリーム、ゲル、ペースト等を常法により塗付すればよい。支持体としては、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布や軟質塩化ビニール、ポリエチレン、ポリウレタン等のフイルムあるいは発泡体シートが適当である。更に上記各製剤には必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤や他の医薬品を配合してもよい。
【0020】
皮膚疾患治療剤は、皮膚疾患治療剤の全重量基準で、皮膚疾患治療剤の有効成分を少なくとも0.001重量%以上、好ましくは0.01〜2.0重量%程度含めばよい。必ずしも有効成分を単離して使用する必要はなく、必要に応じて効果を損なわない範囲で、本酸性ムコ多糖を含む粗精製物を使用することができる。
【0021】
本酸性ムコ多糖は特に制限なく種々の用途に使用されうるものであるが、医薬品及び化粧品素材として、好ましくは皮膚疾患治療薬として好適に用いられる。
【0022】
実施形態にかかる皮膚疾患治療薬は、患者の年齢、体重、性別、疾患の程度(重症、軽症)、等により異なり、特に限定されず、適用量は患部の大きさにより異なる。患部へは、1日当たり1回〜数回適用する。
【0023】
上記有効成分の含有量は、製剤の全重量基準で、約0.001〜2.0重量%、好ましくは約0.01〜0.5重量%、特に好ましくは約0.005〜0.2重量%が都合がよいが、これに限定されるものではない。実施形態にかかる製剤の有効成分の投与量は、用法、患者の年齢、性別その他の条件、症状の程度等により適宜選択できる。実施形態にかかる製剤は、1日に1回又は2〜4回程度に分けて投与することができる。
【0024】
実施形態にかかる皮膚疾患治療薬は、各種の皮膚疾患に適用でき、例えば乾癬症、魚鱗癬症、アトピー性皮膚炎等を挙げることができる。
【0025】
〔本酸性ムコ多糖の製造方法〕
皮膚疾患治療薬の有効成分である本酸性ムコ多糖の製造方法について、1実施形態を挙げて説明する。本酸性ムコ多糖は、医薬として使用できる程度に精製されたものであれば、種々の方法で調製されたものを用いることができる。尚、本酸性ムコ多糖の生産方法は以下の製法に限定されないことはいうまでもない。
【0026】
本酸性ムコ多糖の製造方法の1実施形態としては、例えば、海洋微生物を炭素源として蔗糖、窒素源としてペプトン、酵母エキスを含有する海水より成る培地又はこれを寒天で固めた培地で培養して多糖類を生産し、採取、精製して得ることができる[マツダ(M.Matsuda):ら、日本水産学会誌, 58, 1735-1741(1992)]。
【0027】
より具体的には、例えば寒天平板培養では、炭素源して蔗糖、窒素源としてペプトン、酵母エキスを含有する多糖類生産用海水培地を寒天で固めた培地においてシュードモナス エスピーWAK-1(Pseudomonas sp. WAK-1)菌株又はその変異株を培養し、寒天平板上に生じた粘質物中の本酸性ムコ多糖を分離、精製して得ることができる。液体培養では静置又は攪拌培養することができる。
【0028】
本酸性ムコ多糖は、遊離の形態で用いても良いが、通常は塩基塩を用いる。塩基塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0029】
本酸性ムコ多糖を産生する微生物を培養する基本培地としては、多糖類を生産しうる微生物が生育できるものであって、少なくとも炭素源と、窒素源と、各種無機塩と及び微量元素とを適量含有するものが用いられる。さらに好ましくは、基本培地として、シュードモナス属(Pseudomonas)に属する微生物が生育できるものが用いられる。炭素源としては、グルコース、フラクトース、ガラクトース、シュクロース等の糖、あるいは糖蜜や廃糖蜜が挙げられる。炭素源として1種または2種以上を単独で又は組み合わせて用いることができる。窒素源としては、硝酸塩、アンモニウム塩等の化合物やペプトン、酵母エキス、アミノ酸などの天然物が挙げられる。窒素源として1種または2種以上を単独で又は組み合わせて用いることができる。無機塩としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カリウム塩等が挙げられる。無機塩として1種または2種以上を単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0030】
培養条件、例えば、使用する培地、培地のpH、培地への添加物、培養温度などは通常微生物の培養の際に用いられている条件をそのまま用いることができる。培養条件は、培養時のpHは微生物が生育し、かつ多糖類を生産する範囲であれば制限されないが、通常は6から7.5の範囲のpHが好ましい。培養温度については微生物が生育し、かつ多糖類を生産する範囲であれば制限されないが、25℃から30℃の範囲が多糖類の生産には良好である。培養期間は培養のpHや温度により変化するが、通常2日から7日が適切である。
【0031】
本酸性ムコ多糖の産生に用いられる微生物としては、多糖類を生産しうるものであれば特に制限なく使用することができる。好ましくは海洋微生物、さらに好ましくは本酸性ムコ多糖を生産する能力のある海洋微生物が用いられる。具体的には海洋性シュードモナス属細菌が挙げられ、より具体的にはシュードモナス エスピーWAK-1(Pseudomonas sp. WAK-1)菌株又はその変異株が挙げられる。本菌株は本発明者らが瀬戸内海においてワカメの表面より分離した海洋性細菌であり、その分類学的特性は、日本水産学会誌[上記マツダ(M.Matsuda)ら: 1992]に記載されている。
【0032】
上記製造方法で得られた培養液又は寒天平板上に生じた粘質物から本酸性ムコ多糖を抽出する方法としては、特に制限はないが、例えば、寒天平板上又は培養液中に生じた培養物から常法により菌体を含む不溶解分を除去する方法が挙げられる。除去方法としては、遠心分離により除く方法、濾過助剤 (例えばセライト503、ラジオライト#500又は#800)を添加し、加圧濾過又は減圧濾過等により不溶解分を除去する。培養物から菌体の除去に際しては孔径が0.1〜0.45μmの中空糸モジュールを備えた膜分離装置を用いることができる。これをそのまま、あるいは濃縮してから、2〜3倍量のエタノール、イソプロパノール、あるいはアセトン等を加え、沈殿を生じさせる。この沈殿物を再度、水あるいは1〜15%塩化ナトリウム溶液に溶解させた後で、アルコール等による沈殿を2〜3回繰り返し、水で透析を行い、噴霧乾燥や凍結乾燥機等を用いて乾燥させることにより、本酸性ムコ多糖を得る。これ以外にも電気透析法や限外濾過法も利用することができる。さらに精製するためには、イオン交換、ゲル濾過等の各種クロマトグラフィーや第4級アンモニウム塩による沈殿や塩析などを用いることができる。
【0033】
限外濾過装置を用いて抽出液中に含まれる不純物を除去し、濃縮するに際しては、限外濾過膜の材質としてはポリオレフィン、ポリアミド、ポリスルホン等が挙げられるが、限外濾過膜としては、下記の分画分子量範囲のものであればどのようなものでも用いることができる。膜形態としては、平膜型、スパイラル型、管状型、中空糸膜型等が用いられる。中空糸膜型は特に優れた処理能力を有する。膜の分画分子量は20,000〜60,000、好ましくは50,000である。分画分子量がこれより大きいと、目的の本酸性ムコ多糖の流出を来たし、又これより小さいとタンパク質などの莢雑物を十分に除去できず又十分な透過流量が得られない。限外濾過装置による精製は、濃縮液に水を加え、さらに濃縮を行うことを繰り返すことにより、不純物の除去性が向上する。この濃縮液を活性炭処理することにより精製度はさらに向上する。次いで脱水乾燥する。脱水乾燥法としては、スプレードライ、フリーズドライ、真空乾燥、溶剤沈殿法等を用いることができる。これらの方法を併用しても良い。以上により本酸性ムコ多糖が生産及び回収される。
【実施例】
【0034】
参考例及び実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例になんら制約されるものではない。
【0035】
(参考例1)
ペプトン0.5%、酵母エキス0.1%の組成を有する海水又は人工海水から調製した培地を、温度121℃としたオートクレーブ中で15分間滅菌し、シュードモナス エスピーWAK-1菌株(Pseudomonas sp.WAK-1)の保存用斜面培養から、1白金耳を試験管中の上記滅菌培地(10ml)に接種し、25℃の温度で24時間静置又は振とう培養を行った。次いでこの前培養液を500ml容の三角フラスコ中に上記組成を有する滅菌培地200ml(121℃、15分間)に接種し、25℃の温度で3日間の振とう培養を行った。培養後培養液を遠心分離又は加圧濾過して菌体を除いた。加圧濾過には珪藻土濾過助剤(ラジオライト#800及び#100)を添加し、NA-100濾過板(Advantec社)を装着した加圧濾過機(Advantec社 KST-293-20-UH)により濾過した。上澄液又は濾液に、2倍量のエタノールを加えて白色沈殿を得た。この沈殿物を採取して水200ml中に溶解し、この溶液に再度2倍量のエタノールを加えて多糖類を沈殿させ、凍結乾燥により粉末化した。
これをM/100リン酸緩衝液(pH=7.0)に溶解し、予め同緩衝液で平衡化したDEAE−セルロースイオン交換クロマトグラフィーにより吸着した画分から0.4M NaClで溶出される画分を集め、透析後凍結乾燥して本酸性ムコ多糖粉末を得た。
このようにして得られた多糖類については、セルロースアセテート膜電気泳動法を用いて均一性を確認すると共に、化学分析、核磁気共鳴分析により、本酸性ムコ多糖であることを確認した。
【0036】
(参考例2)
前培養までは参考例1と同様に処理し、参考例1で述べた培地に寒天を1.5%添加した寒天培地250mlを平板(18×26cm)に広げて前培養液を塗沫し、25℃の温度で4日間培養を行った後、寒天平板の表面に生じた粘質物をかきとり、1%フエノール溶液に懸濁させ、参考例1と同じ方法で菌体を遠心分離又は加圧濾過により除いて得られた上澄液又は濾液に2倍量のエタノールを加えて白色沈殿を得た。この沈殿物を採取し、水200mlに溶解し5%第4級アンモニウム塩(Cetavlon)溶液を加えて沈殿する画分を濾過により集めた。これを4MNaCl溶液に溶解し再度エタノールを加えて同様の処理をして多糖類を得た。このようにして得られた多糖類については、セルロースアセテート膜電気泳動法を用いて均一性を確認すると共に、化学分析、核磁気共鳴分析により、本酸性ムコ多糖であることを確認した。
【0037】
(参考例3)
前培養までは参考例1と同様に処理し、次いでこの前培養液を500ml容の三角フラスコ中に参考例1に示す組成を有する滅菌培地200ml(121℃、15分間)に接種し、25℃の温度で3日間の静置培養を行った。培養後培養液を遠心分離又は加圧濾過して菌体を除いた。得られた上澄液又は濾液を限外濾過膜(Spectrum社、分画分子量50,000)を装着したMiniKros型中空糸膜型モジュールを用いて、圧力0.05MPa、循環流量10L/30分の条件下で濃縮倍率5倍まで濃縮し、水を加えて再度濃縮することを繰り返して抽出液が無色透明になったことを確認した。この濃縮液を活性炭濾過板(Advantec 社CA-90)を用いて加圧濾過し、凍結乾燥して多糖類を得た。なお、上記膜濾過装置は東洋紡エンジニアリング社製SYLS-SB04型を用いた。このようにして得られた多糖類については、セルロースアセテート膜電気泳動法を用いて均一性を確認すると共に、化学分析、核磁気共鳴分析により、本酸性ムコ多糖であることを確認した。
【0038】
(製剤例1)
皮膚疾患治療剤の全重量基準で、ブチレングリコール:5.0%、エタノール:5.0%、ペンチレングリコール:3.0%、ポリソルベート20:1.0%、フエノキシエタノール:0.3%、グリチルリチン酸2K:0.1%、EDTA-3Na:0.1%、精油:0.09%、センブリエキス:適量、オウゴンエキス:適量、グリセリン:適量、チョウジエキス:適量、カプリル酸グリセリル:適量、ラウリン酸ポリグリセリル−10:適量、加水分解シルク:適量、本酸性ムコ多糖:0.01%、残部:水、を加えて100%に調整した。
【0039】
(治療例1〜8)
参考例3で得られた本酸性ムコ多糖を含む製剤例1からなるヘアエッセンスを用いて治療を行った。治療例1〜治療例8において、治療中の薬と併用、1日朝晩各1回患部皮膚に本試験品を8週間塗布し評価した。評価はPASI法を用いた。PASI法(Pseriasis Area and Severity Index)は、乾癬症状の程度と広さを全体的に測るものとして乾癬治療の臨床試験で良く用いられている。PASI法では身体を4つの区分に分けてそれぞれに点数をつけ最後に集計するが、今回は頭部(身体の全皮膚の10%)についてのみ評価し他の部分については参考に留めた。頭部の乾癬部分の割合(%)を測り、表1に示す基準で点数化した。又、症状の程度を紅斑(E,赤み)、鱗屑(S)、肥厚(T)について表2に示す基準で点数化した。これらのパラメーターを用いて下記により評価した。
評価値=(E+S+T)×A×0.1
【表1】

【表2】

【0040】
治療例1:患者A、42歳、男、病歴13年、30%程度の改善が認められた。
治療例2:患者B、44歳、女、病歴8年、変化は認められなかった。
治療例3:患者C、56歳、男、病歴39年、15%程度の改善が認められた。
治療例4:患者D、25歳、女、病歴0.5年、変化は認められなかった。
治療例5:患者E、33歳、男、病歴6年、頭部の患部には変化が認められなかったが、上肢の患部は25〜50%の改善が認められた。
治療例6:患者F、37歳、男、病歴8年、頭部の患部はやや進行が認められたが、上肢及び胴部の患部は25%程度の改善が認められた。
治療例7:患者G、46歳、男、病歴22年、若干の改善が認められた。
治療例8:患者H、51歳、女、病歴26年、50%程度の改善が認められた。
【0041】
(治療例9)
参考例3で得られた本酸性ムコ多糖を含む製剤例1からなるヘアエッセンスを用い治療を行った。
患者Y.K.56歳、女性、平成18年はじめ、頭部に直径1cm程の表面がカサカサした膨らみを生じ、触れるとフケ様のものが落ちた。ステロイドのローションを一回塗布すると緩和したのでそのままにしておいたところ、5月頃から症状が進行、6月には頭部全体にかゆみと滲出液を伴う湿疹が多発、触れるとハラハラとフケが落ちた。又、爪に釘の先で押したようなくぼみがいくつも見られた。このため、頭部に、ほぼ毎日ステロイド剤を塗布して小康状態が保たれた。
平成18年7月1日からステロイド剤の代わりに本液剤を塗布し始めたところ、翌日から症状が明らかに緩和され、2日後にはかゆみがなくなった。使用開始後2週間、ステロイド剤の塗布なしで症状が緩快した。両肘に一部皮膚が薄いのに妙にカサカサした部分が現れたが、本液剤を1週間程塗布すると消えた。爪の症状も徐々に消滅した。この時期に皮膚科クリニックを受診、乾癬と診断された。
平成18年7月16日ごろ頭部に症状が発現したので一度だけステロイド剤を塗布し、後は本液剤のみを1日2回塗布した。その後ステロイド剤の塗布はまったくなしで、平成18年9月前半は症状もほとんど消えた。平成18年9月22日に再発。頭部全体にかゆみと5mm〜1cmくらいのふくらみ多発。顔面頬、あご部分に数箇所のかゆみを伴う発赤がでた。ステロイド剤は使用せず頭部には根気よく本液剤を塗布したところ、再発から1週間後には症状が和らいだ。又顔、あごの発赤を伴う皮膚疾患は乾癬かどうかは不明であったが、本液剤を数日間塗布することにより消えた。この他両膝の少し上、両足同位置に小さな発赤の集落がでたが、本液剤を3日間塗布すると消えた。しかし、平成18年10月6日頃から再度頭部症状が現れ、平成18年10月9日に1度だけステロイド剤を使用。その後は本液剤のみを塗布。かなり症状は改善し、本発明出願時現在(平成18年12月14日)、小康状態が続いている。
【0042】
上記の結果より、本発明の治療剤は、皮膚疾患とくに乾癬の治療に有効でかつ副作用、再発が少ないことが明らかになった。
【0043】
なお、本参考例1, 参考例2及び参考例3において用いられた上記のWAK−1菌株は、日本国独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6 に寄託し、平成14年8月28日 受託番号 FERM P−18988として受託され、その後ブタペスト条約に基づく寄託への移管請求を行い受託番号 FERM BP−8275として受託されたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性ムコ多糖又はその生理学的に許容される塩もしくは誘導体を有効成分として含むことを特徴とする皮膚疾患治療薬。
【請求項2】
酸性ムコ多糖が、次の構造式で示される化合物であることを特徴とする請求項1記載の皮膚疾患治療薬。
【化1】

(上記の構造式において、GalNAcpはピラノース型N-アセチルガラクトサミン残基を、GlcUApはピラノース型グルクロン酸残基を、DはD型を、LはL型を、Pyrはピルビン酸を、nはゲルろ過クロマトグラフィーで測定した平均分子量がプルランを標準として100万〜150万であることを示す繰り返しの数をそれぞれ表す。)

【公開番号】特開2008−169202(P2008−169202A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318013(P2007−318013)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(502456541)有限会社 シーバイオン (8)
【Fターム(参考)】