説明

皮膚貼付用基布

【課題】透明性に優れ、かつ、伸縮性の点でも従来品と遜色のない皮膚貼着用基布を得る。
【解決手段】表目ウエール列と裏目ウエール列とが交互に位置するゴム編組織において、第1の編地の表目ウエールの下に第2の編地の裏目ウエールを、第1の編地の裏目ウエールの上に第2の編地の表目ウエールを、それぞれ交互にコースを一致させて重ね、第1の編地のシンカーループと第2の編地のシンカーループとをウエール間において交差させることで、各コースごとにウエール間にシンカーループで区画された透光路を設け、編地の透光性を高めている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明皮膚貼付用基布は、刺激薬,鎮痛剤,抗菌剤等として使用される皮膚外用剤を塗付する基布、試料を皮膚表面に接触させて貼り付けるアレルギー検査の如き試験において使用するパッチ用の基布、傷口等を被い薬や包帯等を止める絆創膏の基布等に関し、爾後これらを包括して本発明においては皮膚貼付用基布と称する。詳しくは、透明性に優れ、かつ、伸縮性において従来品と遜色のない基布に関する。
【背景技術】
【0002】
パップ剤,パッチ剤,シップ剤等を基布に塗布してなる貼着性を有する被覆部材を、患部に貼り付け薬効を得ることは極めて普通に行われている。然し、これらの貼着性を有する被覆部材を肌に貼り付け使用した場合に、外部から明らかにその使用を窺知することが可能な状態となる事態が生じている。その原因は、薬剤を担持する基布が肌に馴染まず使用部位の形を崩すこと、同基布の色相いと肌の色合いとを異にすること等にあると見られる。そのため、基布の伸縮性を高め、被覆部材がそれを使用する部位の形状に自由に添って形を得ることが出来、また、被覆部材と肌とその周囲の色調の差を少なくし、その存在を目立たないようにすることが考えられている。
【0003】
その1つに、マルチフィラメント糸を両面メリヤス編に編み立ててなる基布に粘着性被覆部材を担持した皮膚外用部材が知られているが(特許文献1参照)、上記皮膚外用部材は、貼付時に、身体の動きに応じた伸縮性には優れ、かつ、伸長後のストレッチバック性が高いため基布或いはそれに塗布されている薬剤等に皺が生ずることがない等の効果を有するが、編地を構成する編糸が縮少するとき互いに編目ループの透孔を打ち消し合うような状態を呈し、基布の透光性を妨げることになり、貼付場所において基布の存在感を顕著にし、シップ剤等の使用を窺知させることになる。
【0004】
また、皮膚貼着用基布に合成樹脂フィルムを使用するものがある。即ち、薬剤を担持する基布については肌へのなじみが良く、適度な柔軟性を有している塩化ビニル系樹脂からなるものが使用されていたりしているが、塩化ビニル樹脂からなる基材シートは、粘着剤層との親和性に乏しくなる等の事態が生じ、また、薬物によっては基材シートにも浸透拡散し、基材シートの膨潤劣化が生じ更には治療効果を得ることができなくなる等の問題も生じた(特許文献2)。そこで、ポリエチレンテレフタレートフィルムをアクリルニトリル樹脂を含む樹脂と積層してなる基材シートが作られたが、伸縮性に劣るものであった。
【特許文献1】特開平11−188054号公報
【特許文献2】特許第3485701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の点に鑑みて、透明性に優れ、かつ、伸縮性の点でも従来品と遜色のない皮膚貼着用基布を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明請求項1記載の発明にあっては、表目ウエール列と裏目ウエール列とが交互に位置するゴム編組織において、第1の編地の表目ウエールの下に第2の編地の裏目ウエールを、第1の編地の裏目ウエールの上に第2の編地の表目ウエールを、それぞれ交互にコースを一致させて重ね、第1の編地のシンカーループと第2の編地のシンカーループとをウエール間において交差させることで、各コースごとにウエール間にシンカーループで区画された透光路を設け、編地の透光性を高めている。
請求項2記載の発明にあっては、表目ウエール列と裏目ウエール列とが交互に位置するゴム編組織において、第1の編地の表目ウエールの下に第2の編地の裏目ウエールを、第1の編地の裏目ウエールの上に第2の編地の表目ウエールを、それぞれ交互にコースを一致させて重ね、第1の編地のシンカーループと第2の編地のシンカーループとをウエール間において交差させることで、各コースごとにウエール間にシンカーループで区画された透光路を設け、編地の透光性を高めると共に、表目及び又は裏目ウエール列が隣接するウエール同志同じ表目又は裏目で編成されたコースを付加することにより編地の柔軟性を高めている。
【発明の効果】
【0007】
表目ウエール列と裏目ウエール列とが交互に位置するゴム編組織において、第1の編地の表目ウエールの下に第2の編地の裏目ウエールを、第1の編地の裏目ウエールの上に第2の編地の表目ウエールを、それぞれ交互にコースを一致させて重ね、第1の編地のシンカーループと第2の編地のシンカーループとをウエール間において交差させることで、各コースごとにウエール間にシンカーループで区画された透光路を設けたために、該編地を基布として皮膚に貼付使用した際に、基布は皮膚からの反射光を多く通過させることが出来皮膚の状況を覚知することが出来、そのために皮膚に対して基布の存在感を目立たせることがなく、皮膚外用剤等を使用することが出来る。
【0008】
また、基布の表目及び又は裏目ウエール列が隣接するウエール同志同じ表目又は裏目で編成されたコースを付加することにより当該コース間のシンカーループは交差することなく平行に保たれているために編地の伸縮性を高めるこが出来るという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明皮膚貼付用基布1は、図4に示す如き方形、或いは円形等適宜形状に裁断されその表面に皮膚外用剤2等を塗布され湿布3等に構成されている。基布1は、皮膚面に貼着け使用されるものであるため、身体の動きに応じて伸縮可能なものでなければならず、本発明にあってはその組織を両面編のスムース組織を変形したものとした。
【0010】
基布1の組織の編目構成図を図1に、また、同組織の編成過程を、同編地のコースを編口から見た編目構成図により図2に示す。図3は他の例を示す。尚、図において、1コースごとに白糸と斜線(ハッチング)を入れた糸とを交互に記載しているが、これは糸種の違いを現しているのではなく、ループの構成を見易くするためである。
【0011】
図1に示す例は、丸編機や横編機で両面編出合いによって編成されており、図2Aに示す針L1,L2,L3,L4…で第1の編地F1を、針S1,S2,S3,S4…で第2の編地F2を編成している。図2Aに記した矢印X方向から第1の編地F1を見ると表目Kだけで構成された表目ウエールKwと、裏目Pだけで構成された裏目ウエールPwが交互に存在している。
【0012】
第2の編地F2も同様に図2において矢印X方向から見ると、裏目Pだけで構成された裏目ウエールPwと表目Kだけで構成された表目ウエールKwとが交互に存在している。そして、第1の編地F1の表目ウエールKwと第2の編地F2の裏目ウエールPwとが重なり合い、第1,第2の編地F1,F2共に隣接する表目ウエールKwと裏目ウエールPwとを構成する表目Kと裏目Pとの間はシンカーループSLでそれぞれ連続されている。
【0013】
即ち、図2Aにおける矢印Xの方向に基布1を見た場合、第1の編地F1の表目ウエールKwと第2の編地F2の表目ウエールKwとが交互に位置することになり、基布1の全面が表目で被われることになり、基布1を矢印Xと逆の方向から見た場合にも、矢印X方向から見た場合に裏目に見えていたループは、矢印方向Xと逆方向から見れば表目に見えるから、基布1を矢印Xと逆方向から見ても全面に表目が現れることになる。尚、図1においては、表目ウエールKwと裏目ウエールPwとを若干ずらして記載しているが、これは両ウエールの関係を明確に現すためで、実際には図2Aのように左右にずれることはなく完全に重なった位置関係にある。
【0014】
基布1の編成方法を更に詳細に説明する。図2Aに示す1コース目を針L1,L2…により矢印X方向から見て、表目K,裏目P,表目K,裏目P…と繰り返し編成し表目Kと裏目Pとの間はシンカーループSLにより連ねた第1の編地F1を編成する。次に2コース目は針S1,S2…により矢印X方向から見て裏目P,表目K,裏目P,表目K…と繰り返し編成し、表目Kと裏目Pの間はシンカーループSLにより連ねた第2の編地F2を編成する。上記編成により1コース目のシンカーループSLをその上から2コース目のシンカーループSLが押さえる状態で交差することになる。
【0015】
3コース目は図2Bに示す如く針S1,S2…により矢印X方向から見て裏目P,表目K,裏目P,表目K…と連続し、裏目Pと表目Kとの間はシンカーループSLにより連なっている第2の編地F2を編成する。上記3コース目のシンカーループSLは、2コース目のシンカーループSLが1コース目のシンカーループSLを押さえるよう1コース目のシンカーループと接触しているために、2コース目のシンカーループとはニードルループの長さに対応するが如き間隔を持って2コース目のシンカーループSLと対位することになり、その間に空隙が生ずる。図1に10で示す。
【0016】
次に4コース目は、針L1,L2,L3,…により矢印X方向から見て表目K,裏目P,表目K,裏目P…と繰り返し編成し、裏目Pと表目Kの間はシンカーループSLにより連なっている第1の編地を編成する。上記編成により3コース目のシンカーループSLに4コース目のシンカーループSLが交差し、4コース目のシンカーループSLにより3コース目のシンカーループSLが上から押さえられる状態で位置することになる。
【0017】
次の5コース目(図1に示す)は、前記1コース目と同様の編成となり、5コース目のシンカーループは、4コース目のシンカーループとは間隔を有して位置することになり、以下これを繰り返す。即ち、各シンカーループSLは1,2コース、3,4コース、5,6コース…の各コースで互いに接し、2,3コース、4,5コース,6,7コース…の各コースの間には間隔が生じ互いに接触しない空隙が生ずる。
【0018】
図1,図2Aに示す一つの編地F1又はF2において、隣接するウエール間に渡るシンカーループSLは、前記した如く、基布1の表面に位置するウエールと裏面に位置するウエール間に渡っており、このシンカーループは前記第1,第2の編地F1,F2共に存在するので各コースごとにシンカーループの交差が行われ、それによりウエール間の編地ループの妄動は防止されている。そして、各コースのシンカーループSL間には空隙が作られることになり、該部は光の通過率が高く、透光路10としての作用を満足することになる。
【0019】
上記図1,図2Aに示す例は、第1の編地F1と第2の編地F2とが、1ウエールごとに基布1の表裏面に交互に位置する組織とすることによって、シンカーループを各ウエール間に交差させているが、シンカーループの渡りを変化させて編地の柔軟性を高め伸縮性を良くすることも考えられる。
【0020】
図3に示す如く、矢印X方向から見て、第1の編地F1の隣接する2つの裏目ウエールPwに対位する第2の編地F2の2つのウエールを表目ウエールKwとすることにより第1,第2の編地F1,F2の当該2つのウエール間には第1の編地F1と第2の編地F2のそれぞれのシンカーループSLの交差はなく、平行状態に保たれており、これによって該部の固定状態は柔げられ、生地の伸縮性,柔軟性は高められる。
【0021】
次に本発明基布を構成する糸について示す。
本発明基布はポリエステル及び又はナイロン等の合成繊維の繊度20〜100dtex、フィラメント数1〜48程度の糸を用い、編成される。
その例を下記表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
尚、上記品番Aは、使用原糸としてフィラメント(未捲縮加工糸)を採用する事で光透過率は従来品の36.5%に比べて倍以上の81.1%にまで高める事が実現している。従って、この糸使いと組織の組み合わせがベストと考えられる。
光透過率測定は次の如く行った。装置としてスペクトル測定可能な分光光度計(日本分光工業株式会社製 Ubest−50)に積分球をセットして使用した。透過率の測定は可視光の波長範囲(350nm〜800nm)のブランク(試料なし)の透過率スペクトル面積に対する試験試料の透過率スペクトル面積の比率を可視光透過率%とした。また、測定はN=3にて行い、平均値を小数点以下1桁まで求めた。
モジュラス測定方法は、試料を生地から長門方向及び幅方向それぞれ幅50mm×長さ300mmに断裁して準備し、張り試験機で評点速度200mm/min、つかみ間隔200mm、伸張率30%の条件で測定し、長さ方向、幅方向の試料それぞれN=4にて測定して平均した。
【0024】
尚、上記品番Bは、使用原糸をフィラメント(未捲縮加工糸)との捲縮加工糸1:1の使用を採用した場合は光透過率はベスト品には及ばないものの目標と考える70%を上回る71.1%を実現している。従って生地の透明度を上げる発明品としてこのような糸使いでも良いと考えられる。
【0025】
尚、上記品番Cは、本発明と同じ組織で糸使いを従来品と同様の捲縮加工糸にした場合。光透過率は本発明ベスト品、ベター品と比較して目標と考える70%を下回る結果である。従って、使用原糸は捲縮加工糸だけでは透明度を上げる事に限界があると推察される。
尚、上記品番A,B,C共に編組織は同一である。
【0026】
上記品番Dは、フィラメント数36のポリエステル捲縮加工糸による従来品で、繊度が56dtexと品番Cより細いにもかかわらず編組織が本発明と異なるため光透過率は36.5%と品番Cに比べてもかなり劣っている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明基布の実施例を示す編目構成図。
【図2】図1に示す編地において表裏編地のコースを編口より見た編目構成図で、Aは1,2コースの、Bは3,4コースの編目の状態をそれぞれ示す。
【図3】他の編地の編目構成図である。
【図4】皮膚外用剤の斜視図。
【図5】本発明基布を示す平面図で、Aは最も光透過率の高い基布、Bは次位の基布、Cは糸使いを未巻縮加工糸から巻縮加工糸に替えたもの、Dは従来品である。
【符号の説明】
【0028】
1 基布
2 皮膚外用剤
3 湿布
10 透光路
S1,S2,S3,S4,L1,L2,L3,L4 針
F1 第1の編地
F2 第2の編地
K 表目
Kw 表目ウエール
P 裏目
Pw 裏目ウエール
SL シンカーループ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表目ウエール列と裏目ウエール列とが交互に位置するゴム編組織において、第1の編地の表目ウエールの下に第2の編地の裏目ウエールを、第1の編地の裏目ウエールの上に第2の編地の表目ウエールを、それぞれ交互にコースを一致させて重ね、第1の編地のシンカーループと第2の編地のシンカーループとをウエール間において交差させることで、各コースごとにウエール間にシンカーループで区画された透光路を設け、編地の透光性を高めたことを特徴とする皮膚貼付用基布。
【請求項2】
表目ウエール列と裏目ウエール列とが交互に位置するゴム編組織において、第1の編地の表目ウエールの下に第2の編地の裏目ウエールを、第1の編地の裏目ウエールの上に第2の編地の表目ウエールを、それぞれ交互にコースを一致させて重ね、第1の編地のシンカーループと第2の編地のシンカーループとをウエール間において交差させることで、各コースごとにウエール間にシンカーループで区画された透光路を設け、編地の透光性を高めると共に、表目及び又は裏目ウエール列が隣接するウエール同志同じ表目又は裏目で編成されたコースを付加することにより編地の柔軟性を高めたことを特徴とする皮膚貼付用基布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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