説明

皮膜形成用組成物

【課題】油性膜を有するワークに均一な水溶性皮膜を形成することが可能な皮膜形成用組成物を提供する。
【解決手段】本発明に開示される皮膜形成用組成物は、ジオクチルスルホコハク酸金属塩と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、を含んでいる。この皮膜形成用組成物は、水溶性皮膜であって、表面に油性膜を有する金属材料の油性膜上に均一に皮膜することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製のワークに水溶性皮膜を形成するための皮膜形成用組成物に関し、詳しくは、防錆剤やワックスなどの油性膜を有する金属ワークに水溶性皮膜を形成するための皮膜形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防錆剤やワックスなどの油性膜が塗布された自動車の外板等の金属ワークについて、表面の凹凸やヒビ等の表面検査をするためには、光沢のある均一な皮膜を形成して、光の反射により凹凸の有無が確認されている。また、こうしたワークをプレス加工する際には、加工性を向上させるために、均一な皮膜が形成される。こうした皮膜の形成に際しては、油性膜に対して親油性の溶剤系の皮膜形成用組成物を供給して、親油性の油性膜を形成する方法が採用されている(特許文献1、2)。こうした皮膜剤は、その後、ワークを塗装等する前に洗浄によって除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−36483号公報
【特許文献2】特開2008−28341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、溶剤系の皮膜形成用組成物を用いて形成した親油性の油性膜では、その揮発性ゆえに皮膜を長時間安定して保持することが困難である。また、洗浄による油性膜の除去が不十分であると、ワークを塗装する際に不良が発生する問題がある。さらに、こうした油性膜や皮膜形成用組成物には、引火の危険性や、悪臭の発生、洗浄液による環境汚染といった問題がある。
一方、水溶性の皮膜を形成すればこうした問題点は解決されるが、油性膜に対して水溶性組成物を供給すると乳化により白濁したり、不均一な膜厚の皮膜が形成されたりするなど、油性膜に代えて同等の機能を実現する水溶性皮膜を形成するのは困難であった。
【0005】
本発明は以上の課題に鑑みなされたものであり、すなわち油性膜を有するワークに均一な水溶性皮膜を形成することが可能な皮膜形成用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題に鑑みて、油性膜を有するワークに均一な水溶性皮膜を形成する方法を種々検討した。その結果、表面に油性膜を有する金属材料の前記油性膜上に水溶性皮膜を形成することができる組成を見出した。こうした知見に基づき以下の手段が提供される。
【0007】
本明細書に開示される皮膜形成用組成物によれば、表面に油性膜を有する金属材料の前記油性膜上に水溶性皮膜を形成することができる。皮膜形成用組成物は、ジオクチルスルホコハク酸金属塩と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、を含むことができる。
【0008】
前記皮膜形成用組成物は、全重量に対して、ジオクチルスルホコハク酸金属塩を2.5wt%以上32wt%以下含有し、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルを18wt%以上47.5wt%以下含有し、残部が水性媒体の組成物を用いることができる。
【0009】
前記水性媒体には、水を用いることができる。
【0010】
前記ジオクチルスルホコハク酸金属塩に、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムを用いることができる。
【0011】
前記ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルのHLB値は、10以下であってもよい。
【0012】
前記ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの炭素数が10以上90以下であってもよい。
【0013】
本明細書に開示される皮膜形成用組成物は、前記金属材料の表面検査用に用いることができる。
【0014】
前記皮膜形成用組成物は、さらに、潤滑剤を含有することができる。
【0015】
前記皮膜形成用組成物は、前記金属材料のプレス加工用に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、防錆剤やワックスなどの油性膜を有する金属材料に水溶性皮膜を形成するための皮膜形成用組成物に関する。本発明の皮膜形成用組成物によれば、皮膜形成用組成物に、ジオクチルスルホコハク酸金属塩と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルを含む水性媒体を用いることによって、皮膜形成用組成物と油性膜とのマイクロエマルションを形成することができる。マイクロエマルションは、容易に分離しない安定したエマルションであり、油性膜を有する金属材料上に、水溶性の皮膜形成用組成物を、分離することなく均一に皮膜することができる。この皮膜は、マイクロエマルションで構成されて塗布表面から容易に剥離されないため、金属材料表面に安定して保持される。さらに、マイクロエマルションは、水性と油性の会合体が微細にかつ安定して分散した状態であるために透明である。このため、たとえば、光反射性等を用いた金属材料の表面検査に用いることができる。また、マイクロエマルションを形成するため、金属材料に対して濡れ性が良好であり、金属材料に均一に皮膜を形成することができる。
【0017】
また、本発明の皮膜形成用組成物は、表面を検査するために必要な光沢性ないし透明性を油性膜を有する金属材料表面に形成することができる。さらに、本発明の皮膜形成用組成物は不揮発性であるために、湿潤性が良く、皮膜を長時間(5分以上)保持することができる。すなわち、金属材料の表面を検査する間に乾燥してしまう心配がない。したがって、本発明の皮膜形成用組成物は、金属材料の表面を検査する際の皮膜として用いることができる。
【0018】
本発明の皮膜形成用組成物は、非水系の(水不溶性の)有機溶剤を用いなくてもよいので、刺激臭の発生等を低減することができる。さらに、本発明の皮膜形成用組成物が形成するのが水溶性皮膜であることによって、金属材料上から容易に洗浄によって水溶性皮膜を除去することができる。さらに、本発明の皮膜形成用組成物は、油性膜とマイクロエマルションを形成するため、洗浄によって皮膜形成用組成物と共に、油性膜を効率よく除去することができる。すなわち、本発明の皮膜形成用組成物を用いることによって、皮膜形成用組成物及び油性膜を除去するための洗浄に係る有機溶剤や洗浄水等の洗浄液の使用を抑えることができるだけでなく、洗浄に要する洗浄液の量を低減することができるため、環境負荷を低減することができる。さらに、本発明の皮膜形成用組成物を用いることによって、油性膜や皮膜形成用組成物の皮膜が、効率的に金属材料上から除去できるため、油性膜の残存による塗装不良を防ぐことができる。
【0019】
本発明の皮膜形成用組成物は、金属材料の表面検査用に用いることができるだけでなく、潤滑剤を添加して金属加工用に用いることができる。本発明の潤滑剤を添加した皮膜形成用組成物は、防錆剤やワックスなどの油性膜を有する金属材料に均一に皮膜することができるため、プレス等の加工を行う際の金属材料の成形不良や焼付を防止するためのプレス加工用皮膜として用いることができる。さらに、本発明の潤滑剤を添加した皮膜形成用組成物は、水溶性であるために、洗浄によって効率よく除去することができる。
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
(皮膜形成用組成物)
本明細書において、皮膜形成用組成物とは、金属材料(ワークとも呼ぶ)に皮膜を形成するための組成物である。なお、本発明の皮膜形成用組成物は、油性膜を備えていないワークに均一に皮膜することもできる。本発明の皮膜形成用組成物による皮膜は、好適には、塗布した際には液体であり、光沢性を有しており、乾燥しにくく、持続的に湿潤性を有しているものが好ましい。さらに、ワークや油性膜に弾かれにくく、均一に皮膜されることが好ましい。皮膜形成用組成物は、水溶性皮膜であって、油性膜とマイクロエマルションを形成することが好ましい。さらに好適には、皮膜形成用組成物は、油性膜と乳化によって白濁しない材料であることが好ましい。
【0022】
皮膜形成用組成物は、水性媒体と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、ジアルキルスルホコハク酸金属塩を含むことが好ましい。皮膜形成用組成物が、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、ジアルキルスルホコハク酸金属塩を含むことによって、油性膜と皮膜形成用組成物とが、白濁せずにマイクロエマルションを形成することができる。油性膜と皮膜形成用組成物とが、マイクロエマルションを形成することによって、ワークに均一に皮膜形成用組成物の皮膜を形成することができる。また、水性媒体は、環境負荷が低く、洗浄が容易であるものが好ましい。特に好適には、水性媒体に、水、及び水溶液を用いることができる。
【0023】
ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、ポリアルキレングリコール成分が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコールのいずれでもであってもよいが、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの炭素数が10以上90以下であることが好ましい。ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの炭素数が10未満であると、油膜成形不良によって加工性能が落ちてしまう。また、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの炭素数が90を超えると、油性が高いために水性として扱うには乳化や可溶化が困難となるためである。また、アルキレングリコールの付加モル数が大き過ぎては、常温で液状にならないため、使用時に加熱して液状化する必要がある。なお、このような加熱による液状化には手間がかかるが、常温で液状でなくとも50℃以下で液状を呈するものであれば、僅かな加温で液状化が可能であるため、本発明ではコスト的に許容できる。
【0024】
さらに、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、皮膜形成用組成物中に、全体に対して2.5wt%以上32wt%以下含まれることが好ましい。ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルが、皮膜形成用組成物中に2.5wt%未満、もしくは32wt%を超えて含まれると、油性膜を有するワークに皮膜した際の光沢性、均一性が低下し、さらにワークに対する弾き性が増大してしまうため、均一な皮膜を形成することができないためである。特に好適には、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、皮膜形成用組成物中に、全体に対して2.5wt%以上31wt%以下含まれることが好ましい。
【0025】
ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの界面活性剤の親水性と親油性の程度を表すHydrophile-Lipophile Balance(HLB)は、10以下であることが好ましい。HLBが10を超えるポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルを皮膜形成用組成物に用いると、親水性の性質が親油性の性質よりも強く現れるため、皮膜形成用組成物中のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの分散に偏りが生じるためである。特に好適には、HLBが7以上10以下であると、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの親水性と親油性との均衡が取れているため好ましい。
【0026】
例えば、好ましいポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの具体例としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノi−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノi−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノn−プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノi−プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノi−ブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノn−プロピルエーテル、テトラエチレングリコールモノi−プロピルエーテル、テトラエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノi−ブチルエーテル、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル、及び、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテルなどが挙げられる。例えば、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとして、三洋化成工業社製のニューポール50HB−55(ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル)、及びニューポール50HB−100(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル)が好適に利用できる。
【0027】
ジアルキルスルホコハク酸金属塩は、表面張力が低く、拡散性が優れており、処理剤成分の相溶性を向上させるために用いられることができる。ジアルキルスルホコハク酸金属塩の、金属塩部分にはアルカリ金属を含むことができる。ジアルキルスルホコハク酸金属塩としては、例えば各アルキル基の炭素数が11〜14の炭化水素基を有するジアルキルスルホコハク酸エステルジ金属塩もしくはジアルキルスルホコハク酸エステルモノ金属塩が挙げられ、なかでもNaやKとの塩が好ましい。さらに、ジアルキルスルホコハク酸金属塩は、皮膜形成用組成物中に、全体に対して18wt%以上47.5wt%以下含まれることが好ましい。ジアルキルスルホコハク酸金属塩が、皮膜形成用組成物中に18wt%未満、もしくは47.5wt%を超えて含まれると、油性膜を有するワークに皮膜した際の光沢性、均一性が低下し、さらにワークに対する弾き性が増大してしまうため、均一な皮膜を形成することができないためである。特に好適には、ジアルキルスルホコハク酸金属塩は、皮膜形成用組成物中に、全体に対して19wt%以上47.5wt%以下含まれることが好ましい。
【0028】
例えば、好ましいジアルキルスルホコハク酸金属塩の具体例としては、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジトリデシルスルホコハク酸ナトリウム、ジ−2−エチルへキシルスルホコハク酸ナトリウム、などが挙げられる。特にジオクチルスルホコハク酸ナトリウムが好ましい。例えば、ジアルキルスルホコハク酸金属塩として、東邦化学工業株会社製のコハクールL−300(スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム)、コハクールL−40、コハクールL−400(ポリオキシエチレンアルキル(12〜14)スルホコハク酸二ナトリウム)、コハクールNL−400(スルホコハク酸ポリオキシエチレンラウロイルエタノールアミド二ナトリウム)、及びエアロールCT−1L(ジオクチルスルホサクシネート)が好適に利用できる。
【0029】
本発明の皮膜形成用組成物は、潤滑剤をさらに含んでもよい。こうした皮膜形成用組成物は、ワークを加工するための保護用の皮膜として用いることができる。潤滑剤を含む皮膜形成用組成物をワークに皮膜することによって、ワークを加工する際に、ワークと加工のための工具との間に生じる摩擦を低減することができる。
【0030】
なお、本明細書において、潤滑剤とは、摩擦熱や摩耗を防ぐために用いられる物質である。本実施形態の潤滑剤は、ワークをプレス加工する際に、ワークと工具とが接触することによって生じる磨耗を低減する働きをもつ。潤滑剤は、皮膜形成用組成物に含まれる成分と凝集せずに、均一に混合される材料であることが好ましい。特に、潤滑剤を含む皮膜形成用組成物が、ワークに均一に皮膜されることが好ましい。潤滑剤には、例えば、アミン塩やアルカリ金属塩、ペンタエリスリトール及びその誘導体、脂肪酸ポリアルキルエーテル、及びグリセライド誘導体が挙げられる。さらにアミン塩には、例えば、脂肪酸アミン塩、12−ヒドロキシステアリン酸アミン塩、二塩基酸アミン塩等が挙げられる。潤滑剤の濃度は限定しないが、好適には、皮膜形成用組成物中に、潤滑剤は5wt%含まれることが好ましい。
【0031】
潤滑剤に用いることができる脂肪酸アミン塩に選ばれる脂肪酸としては、例えば、イソヘプタン酸、イソノナン酸、イソデカン酸、イソトリデカン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、イソアラキジン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、ペンタデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、p−t−ブチル安息香酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、オクチル酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リシノレン酸等が挙げられる。防錆性能を考慮すると、セバシン酸、ドデカン二酸、カプリル酸、p−t−ブチル安息香酸が好ましい。これら脂肪酸はそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用できる。また、脂肪酸アミン塩に選ばれるアミンとしては、アンモニア、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、グアニジン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノ−n−プロピルアミン、ジ−n−プロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、モノ−n−ブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−エトキシプロピルアミン、t−ブチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、o−アミノフェノール、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、o−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等が挙げられる。好適には、炭素数が16以上18以下となる組み合わせの脂肪酸アミン塩が好ましい。炭素数が16未満であると、油膜形成不良によって加工性能が落ちてしまう。また、炭素数が19以上であると、油性が高いために水性として扱うには乳化や可溶化が困難となるためである。また、二塩基酸アミン塩には、例えば、ダイマー酸、セバシン酸、ドデカ二酸等が含まれる。潤滑剤には、上記から1種類または2種類以上を選択して用いることができる。
【0032】
(皮膜形成用組成物の使用方法、製造方法)
本発明の皮膜形成用組成物は、ワークの表面検査をする際の皮膜剤に用いることができる。例えば、ワークの表面検査方法としては、光源によってワーク表面に光を照射し、反射光をCCDやCMOS等の光電センサによって受光する方法が挙げられる。光電センサは、反射光の角度が変化によってワーク表面上の凹凸や傷の有無を検出することができる。こうした表面検査装置は、ワークもしくは光電センサのいずれかを走査させて検査する装置であってもよいし、ワーク全体に光を照射して撮像する装置であってもよい。本発明の皮膜形成用組成物は、いずれの表面検出方法においても適用できる。
【0033】
また、本発明の皮膜形成用組成物は、金属加工用の皮膜剤として用いることができる。こうした金属加工用の皮膜形成用組成物には、潤滑剤を加えることで良好な潤滑特性が付与される。潤滑特性が要求される加工としては、例えばプレス加工が挙げられるが、各種の加工方法の画分は当業者であれば適宜従来技術を参照して適用することができる。
【0034】
尚、本発明の皮膜形成用組成物の塗布方法は、特に限定されるものではなく、一般的なディッピング、スプレー塗布、はけ塗り等の方法を採用することができる。また、ワークの表面検査や、ワークの加工の後に、皮膜形成用組成物を除去する必要がある場合には、洗浄によって皮膜形成用組成物を除去することができる。皮膜形成用組成物の洗浄には、例えば、水、アルコール、油性洗浄剤、油性溶剤等を、適宜選択して用いることができる。各種の洗浄液及び洗浄方法を含む画分は当業者であれば適宜従来技術を参照して適用することができる。特に、本発明の皮膜形成用組成物は水溶性であるため、洗浄剤に水を用いることが、コスト及び環境負荷の点から好ましい。
【0035】
本発明の皮膜形成用組成物を製造する方法を以下に示す。本発明の皮膜形成用組成物は、水性媒体に、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、ジアルキルスルホコハク酸金属塩を混合することによって得られる。好適には、室温において、水性媒体を撹拌子によって撹拌子ながら、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、ジアルキルスルホコハク酸金属塩を加え混合することが好ましい。また、ワークの表面検査用の皮膜形成用組成物の濃度は、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、ジアルキルスルホコハク酸金属塩が、全体に対して50wt%であり、残部の水性媒体が50wt%になるように調製されることが好ましい。この濃度であることによって、表面検査用の油性の皮膜形成用組成物と同等の粘度となるため、取り扱いが容易である。また、皮膜形成用組成物に潤滑剤を加える場合は、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、ジアルキルスルホコハク酸金属塩が、全体に対して45wt%であり、潤滑剤が5wt%であり、残部の水性媒体が45wt%になるように調製されることが好ましい。この濃度であることによって、金属加工用の油性の皮膜形成用組成物と同等の粘度となるため、取り扱いが容易である。
【0036】
以下、本発明を、実施例を比較例とともに挙げて具体的に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。以下の実施例では、本発明の皮膜形成用組成物の組成と性質を説明する。
【実施例1】
【0037】
(金属表面検査用の皮膜形成用組成物の検討)
ワークには、長手長さ100mm、短手長さ50mm、厚さ0.8mmの鉄片(SPCC−SD)を用い、アルカリ脱脂を施した。次いで、水に、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(A)と、三洋化成工業製ニューポール50HBシリーズ(B)を添加し、皮膜形成用組成物を調製した。表2に示すように、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムの濃度は、1〜40wt%の範囲で調製した。また、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの濃度は、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムと合わせて50wt%になるように、10〜49wt%の範囲で調製した。いずれの条件においても、水は50wt%とした。
【0038】
次いで、ワーク上に5mmの高さから、調製した皮膜形成用組成物を0.5cc滴下し、ワーク材料上に広がるように皮膜を形成した。この皮膜が、ワークの表面検査に適用可能であるかを判断するために、目視によって光沢、弾き性、均一性、及び湿潤性の点から皮膜の状態を確認した。表1に、目視による光沢、弾き性、均一性、及び湿潤性の判断基準を示す。光沢においては、ワークに蛍光灯を照射し、反射される蛍光灯の像が、鮮明に映るか、滲むように歪んで写るかを判断した。弾き性は、ワーク上に滴下した皮膜形成用組成物が、ワーク表面に弾かれずに馴染んで広がるか、ワーク表面上で張力によって皮膜形成用組成物の液の端が膨らむかによって判断した。また、均一性は、ワーク上に皮膜した皮膜形成用組成物の量が、多い部分と少ない部分とで、線や垂れとなって現れているところがないかを判断した。さらに、湿潤性については、ワーク上に皮膜した皮膜形成用組成物の水分(濡れ)が、一定時間保持されるか、乾燥してしまうかを判断した。
【0039】
【表1】

【0040】
表2に示すように、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(A)と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(B)の濃度に応じて、16種類の皮膜形成用組成物について、表面検査を行った。本発明に好適な濃度範囲でジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(A)と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(B)とを調製した皮膜形成用組成物は、実施例1〜11であり、好適な濃度範囲から逸した皮膜形成用組成物は、比較例1〜15として示している。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示すように、実施例1〜10では、光沢、弾き性、均一性、及び湿潤性は良好な結果を示した。しかし、実施例11では、弾き性と均一性は、実施例1〜10に比べて劣る結果となったが、ワーク表面の凹凸検査には適用可能な範囲であった。一方、比較例1〜5では、湿潤性は良好であるものの、光沢、弾き性、及び均一性については、いずれもワーク表面の凹凸検査には不適用であった。
【0043】
次いで、表3に示すように、皮膜形成用組成物中のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(B)の種類を変更した場合の、光沢、弾き性、均一性、及び湿潤性の判断を行った。B1はコハクールL−300、B2はコハクールL−40、B3はコハクールL−400、B4はコハクールNL−400、B5はエアロールCT−1L、B6はエアロールCT−1Pである(いずれも東邦化学工業社製)。本発明に好適な範囲のHLB(HLBが10以下)を有するポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(B)を調製した皮膜形成用組成物は、実施例12〜16であり、好適なHLB範囲から逸した(HLBが10を超えた)ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(B)は、比較例6として示している。
【0044】
【表3】

【0045】
表3に示すように、実施例12〜16では、光沢、弾き性、均一性、及び湿潤性は良好な結果を示した。一方、比較例6では、湿潤性は良好であるものの、光沢、弾き性、及び均一性については、いずれもワーク表面の凹凸検査には不適当であった。
【0046】
(金属加工用の皮膜形成用組成物の検討)
次いで、皮膜形成用組成物に、潤滑剤(C)を加えてワーク加工用の皮膜剤としての効果を検証した。ワークには、径80mm、厚さ0.8mm、絞り比2.0のSPCC−SDを用いた。表4に示すように、水と潤滑剤(C)からなる皮膜形成用組成物(比較例7)と、水とオクチルスルホコハク酸ナトリウム(A)と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(B)からなる皮膜形成用組成物(比較例8)と、水とオクチルスルホコハク酸ナトリウム(A)と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(B)と、潤滑剤(C)を5wt%加えた皮膜形成用組成物(実施例17,18)とを用意した。潤滑剤(C)には、オレイン酸を用いた。ワークを脱脂した後、それぞれの皮膜形成用組成物をワークに塗布して皮膜し、ワークをプレス機に設置した。プレス機のプレス部工具には、パンチR8とダイスR8を用いた。次いで、円筒深絞り試験として、30mm/minのパンチ加工速度で、しわ押さえ荷重を20kNとして、プレスを行った。
【0047】
表4は、皮膜形成用組成物を皮膜したワークを円筒深絞り試験した後の、ワーク表面におけるワレ発生の有無を示している。潤滑剤(C)を含む皮膜形成用組成物を皮膜したワークにはワレの発生が見られなかったが、潤滑剤(C)が含まれていない皮膜形成用組成物では、ワレの発生が確認された。さらに、水と潤滑剤(C)だけを含んだ皮膜でも、ワレの発生が確認された。
【0048】
【表4】

【0049】
以上のように、水と、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(A)と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(B)を含む皮膜形成用組成物は、ワークに皮膜することができる。また、この皮膜形成用組成物は、ワークの表面検査に適した光沢と、弾き性と、均一性と、湿潤性を有することができる。この皮膜形成用組成物は、水溶性であるため、表面検査後に洗浄によって容易に除去することができる。
【0050】
さらに、皮膜形成用組成物に潤滑剤(C)を加えることによって、金属加工用の皮膜剤として用いることができる。この皮膜形成用組成物をワークに皮膜しておくことによって、金属加工を行う際に、ワレの発生を低減することができる。また、この皮膜形成用組成物は、水溶性であるため、表面検査後に洗浄によって容易に除去することができる。
【0051】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0052】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に油性膜を有する金属材料の前記油性膜上に水溶性皮膜を形成する皮膜形成用組成物であって、
ジオクチルスルホコハク酸金属塩と、
ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、
を含む、組成物。
【請求項2】
全重量に対して、ジオクチルスルホコハク酸金属塩を2.5wt%以上32wt%以下含有し、
ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルを18wt%以上47.5wt%以下含有し、
残部が水性媒体である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
残部が水である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
ジオクチルスルホコハク酸金属塩がジオクチルスルホコハク酸ナトリウムである、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルのHLB値は、10以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの炭素数が10以上90以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記金属材料の表面検査用である、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
さらに、潤滑剤を含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記金属材料のプレス加工用である、請求項8に記載の組成物。