説明

皮革様シート状物及びその製造方法

【課題】引裂強度などの機械的強度が高いにも関わらず、軟らかな風合いを兼ね備えた皮革様シート状物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】繊維構造体と高分子弾性体からなる皮革様シート状物であって、該繊維構造体が芳香族ポリアミド繊維を含み、かつ該芳香族ポリアミド繊維がフィブリル化していることを特徴とする皮革様シート状物。さらには該芳香族ポリアミド繊維のフィブリル化部分の直径が0.01〜5.0μmであることや、該高分子弾性体が溶剤系ポリウレタンであること、該芳香族ポリアミド繊維がパラ型芳香族ポリアミド繊維であること、該繊維構造体がポリエステル繊維を含むものであることが好ましい。また、皮革様シート状物の製造方法は、芳香族ポリアミド繊維を含む繊維構造体に衝撃処理を行い、次いで該繊維構造体に高分子弾性体を含浸することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮革様シート状物に関し、さらに詳しくは強度と風合いが両立した皮革様シート状物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然皮革類似の皮革様シート状物の中でも、人工皮革は高強度であり、かつ一定品質のものを大量生産できる点で特に優れており、各種靴類、鞄類、各種競技用ボール、運動用具、装丁材あるいは家具、車輌シート等の幅広い用途に用いられている。そして特にスポーツ靴用途などの分野においては、より軽量・高強度な材料が要求されてきている。しかしながら材料を減量して軽量化を進めると強度の保持が困難となるという問題があった。
【0003】
そこで、例えば特許文献1では、人工皮革を構成する繊維構造体の一部に高強度繊維を混入させ、軽量性と強度とが両立した人工皮革が開示されている。より具体的には、ポリエステルやナイロンからなる通常の合成繊維からなる繊維構造体に、パラ型芳香族ポリアミド繊維(いわゆるアラミド繊維)等の高強度・高弾性率繊維を混入させ、引張強度、引裂強度、剥離強度等の物性を向上させる技術である。
【0004】
しかし、このような人工皮革では、繊維構造体を構成する繊維に高弾性率繊維、つまり硬い繊維を混入しているために、どうしても作成された人工皮革にはボキボキ感が発現し、高級天然皮革に要求される小じわ感や、丸みを帯びた柔らかさを実現できないという問題があった。また剛性の高い繊維を用いているために、製造時には繊維構造体が嵩高となり、繊維構造体が低密度化するという問題があった。このような低密度の繊維構造体を用いた場合には、風合いに優れた皮革様シート状物を得ることは極めて困難となる。
【0005】
一方、当初より細繊度の高強度・高弾性率繊維を用いることにより、上記問題を解決しようとする方策も考えられる。しかし、繊維製造のみならず、ウェブや繊維構造体の作成においても高コストとなり、工業的・商業的には極めて不利であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−133576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、引裂強度などの機械的強度が高いにも関わらず、軟らかな風合いを兼ね備えた皮革様シート状物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の皮革様シート状物は、繊維構造体と高分子弾性体からなる皮革様シート状物であって、該繊維構造体が芳香族ポリアミド繊維を含み、かつ該芳香族ポリアミド繊維がフィブリル化していることを特徴とする。
【0009】
さらには該芳香族ポリアミド繊維のフィブリル化部分の直径が0.01〜5.0μmであることや、該高分子弾性体が溶剤系ポリウレタンであること、該芳香族ポリアミド繊維がパラ型芳香族ポリアミド繊維であること、該繊維構造体がポリエステル繊維を含むものであることが好ましい。
【0010】
また、もう一つの本発明の皮革様シート状物の製造方法は、芳香族ポリアミド繊維を含む繊維構造体に衝撃処理を行い、次いで該繊維構造体に高分子弾性体を含浸することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、引裂強度などの機械的強度が高いにも関わらず、軟らかな風合いを兼ね備えた皮革様シート状物及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の皮革様シート状物は、繊維構造体と高分子弾性体からなる皮革様シート状物であるが、この繊維構造体の構成成分として芳香族ポリアミド繊維を含み、かつ該芳香族ポリアミド繊維がフィブリル化していることを特徴とする。
【0013】
また本発明で用いられる芳香族ポリアミド繊維としては、パラ型芳香族ポリアミド繊維であることが好ましく、特には共重合パラ型芳香族ポリアミド繊維であることが最適である。より具体的には例えばパラ型芳香族ポリアミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ株式会社製「トワロン」など)を、共重合パラ型芳香族ポリアミド繊維としてはコポリパラフェニレン−3,4−ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ株式会社製「テクノーラ」)などを挙げることができる。これらの芳香族ポリアミド繊維は、高強度・高弾性率であり、皮革様シート状物の強度を高めると共に、フィブリル化がしやすく風合いが向上するという特徴がある。
【0014】
そして本発明の皮革様シート状物は、その繊維構造体中に含まれる芳香族ポリアミド繊維がフィブリル化していることを必須とする。なお、ここで本発明でいうフィブリルとは、繊維構造体中に存在する各単糸が長さ方向に分割されて生じた細径繊維部分であって、直径が5.0μm以下となったものをいう。このような直径5μm以下のフィブリルは、元の単糸直径に対して充分に細く、風合いが驚くほど向上する。
【0015】
また、好ましい平均フィブリル径としては、0.005μm以上3.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.008μm以上1.0μm以下の範囲である。平均フィブリル径が大きい場合には、皮革様シート状物を内側に折り曲げたときに部分的に座屈が生じ、皮革様シートの品質にムラが出てくる傾向にある。また、さらに平均フィブリル径が大きくなった場合には、皮革様シート状物を内側に折り曲げたときの座屈が顕著となり、皮革様シート状物の風合いが硬くなる傾向にある。また平均フィブリル径は小さいほど柔らかい風合いにはなるが、小さすぎると皮革様シートにした際の緻密さが低下する傾向にある。また、さらに小さくすると皮革様シート状物の引張強度等の物性値が低下する傾向にある。
【0016】
なお、ここでいうフィブリル平均径は、走査型電子顕微鏡にて1000倍に拡大し、厚さ方向を含む切断面を10箇所撮影し、画面に現れた繊維切断面中の50本を測定したものの平均値である。なお、フィブリル(繊維)断面は必ずしも真円とはならないので、1本の直径は長径と短径の平均値とした。
【0017】
また繊維構造体としては、上記のフィブリル化した芳香族ポリアミド繊維以外に通常の合成繊維を含むことが好ましく、特にはポリエステル繊維を含むものであることが好ましい。例えばポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびこれらを主成分とする共重合ポリエステル等からなる繊維を挙げることができる。
これらの繊維構造体を構成する繊維は長繊維でもよいが、風合いを向上させる目的からは短繊維であることが好ましい。
【0018】
本発明の繊維構造体に用いられる芳香族ポリアミド繊維やその他の合成繊維の繊度としては、0.1dtex〜8.0dtexの範囲であることが好ましく、さらには0.2dtex〜3.0dtexの範囲にあることがより好ましい。繊度が太すぎる場合には、不織布とする際のカード機での生産効率こそ良好になるものの、その後行う繊維をフィブリル化させる工程において生産効率が悪化する傾向にある。またフィブリル化しない元の繊維が太いばかりでなく、発生するフィブリルの平均径も太径化する傾向にあるため、最終的に得られる皮革様シート状物のソフト性を確保することが困難となる傾向にある。また、フィブリル化しないその他の合成繊維は、芳香族ポリアミド繊維よりも細いことが好ましく、例えば0.2dtex〜3.0dtexの範囲であることが特に好ましい。このような範囲にある場合には、皮革様シートを内側に折り曲げたときに生じる大きな折れシワの発生を抑制することができ、均質な皮革様シート状物が得やすくなる。
【0019】
なお、繊維構造体を形成する繊維としては、細繊度であることが一般に品質的には好ましいが、繊度が細すぎると、カード機の生産効率が低下し、商業化が困難になる傾向にあるばかりか、皮革様シート状物の強度等の物性値が低下する傾向にある。
【0020】
また繊維構造体における芳香族ポリアミド繊維を混綿する混率としては、目的の不織布、および皮革様シート状物の目標とする目付、厚み、見かけ密度などにより適宜選択すれば良いが、原綿全重量に対して5%〜30%であることが好ましい。5%未満であれば不織布への物性向上効果が薄くなる傾向にあり、多すぎると風合いが硬くなる傾向にある。
【0021】
本発明の皮革様シート状物は、上記のような繊維構造体と高分子弾性体からなるものである。本発明で用いられる高分子弾性体としては、例えばポリウレタン、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマーなどや、あるいはポリブタジエン、ポリイソプロピレンなどの合成ゴムが挙げられる。これらの高分子弾性体は有機溶剤で溶解、あるいは分散された溶液、あるいは分散液として含浸に供される。特には多孔構造となる湿式凝固法で得られる多孔質高分子弾性体であることが好ましい。
【0022】
このような本発明の皮革様シート状物を構成する高分子弾性体としては、ポリウレタンであることがもっとも好ましく、そのようなポリウレタンとしては、人工皮革用として使用されるポリウレタンが最も適当である。より具体的には、有機ジイソシアネート、高分子ジオールおよび鎖伸長剤の重合反応で得られる従来公知の熱可塑性ポリウレタンが好ましく用いられる。ここで使用される有機ジイソシアネートとしては分子中にイソシアネート基を2個含有する脂肪族、脂環族または芳香族ジイソシアネート、特に4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。そして高分子ジオールとしては例えばグリコールと脂肪族ジカルボン酸の縮合重合で得られたポリエステルグリコール、ラクトンの開環重合で得られたポリラクトングリコール、脂肪族または芳香族ポリカーボネートグリコール、あるいはポリエーテルグリコールの少なくとも1種から選ばれた平均分子量が500〜4000のポリマーグリコールが挙げられる。そして鎖伸長剤としてはイソシアネートと反応しうる水素原子を2個含有する分子量500以下のジオール、例えばエチレングリコール、1,4ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、キシリレングリコール、シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
【0023】
また本発明の皮革状シート状物の表面には、その表面に着色表皮層が形成された銀付調皮革様シート状物であることも好ましい。このような着色表皮層としては、高分子弾性体からなり、従来公知の湿式凝固法や、乾式多孔成形法などで得られる中間表皮層に適した多孔質表皮層や、最表面に適した充実表皮層を挙げることができる。なお、最表面の充実表皮層は、繊維と高分子弾性体からなる皮革様シート状物上に直接形成しても良いが、上記の多孔質表皮層を介して皮革様シート状物上に形成することが風合い的には特に優れたものとなる。
【0024】
多孔質表皮層としては、湿式凝固法によるものが、孔の形状を制御しやすく、多孔質からなる表皮層を得るのに適している。また、充実表皮層を形成する方法としては、シート状物上に直接、コーティングなどにより形成する方法や、あるいは剥離性支持体上にて作成された着色表皮層をシート状物に接着剤により貼り合わせても良い。
【0025】
表皮層用の高分子弾性体としては、前記の含浸層に用いた高分子弾性体と同様のものが使用でき、いわゆる人工皮革用として使用されているポリウレタンであることが最も適当である。また、特に転写用の接着剤としては、従来から知られている接着剤が使用でき、その中でもポリウレタン系接着剤(ポリイソシアネート系接着剤)である有機溶剤系、あるいは水系の接着剤であることが好ましい。
【0026】
このような本発明の皮革様シート状物は、見掛け密度が、0.25〜0.45g/cmであることが好ましく、さらには0.25〜0.36g/cmの範囲であることが好ましい。このような範囲にするためには、繊維構造体(不織布)の密度、および繊維構造体に含浸されるポリウレタンなどの高分子弾性体の量、および表面形成用の高分子弾性体のコーティング量によって決定することができる。
【0027】
さてこのような本発明の皮革様シート状物は、たとえばもう一つの本発明である皮革様シート状物の製造方法により得ることができる。すなわち、芳香族ポリアミド繊維を含む繊維構造体に衝撃処理を行い、次いでその繊維構造体に高分子弾性体を含浸することを特徴とする皮革様シート状物の製造方法である。
【0028】
本発明にて用いられる衝撃処理を行う前の繊維構造体としては、芳香族ポリアミド繊維以外に通常の合成繊維を含むことが好ましく、特にはポリエステル繊維を含むものであることが好ましい。例えばポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびこれらを主成分とする共重合ポリエステル等からなる繊維を挙げることができる。
これらの繊維構造体を構成する繊維は長繊維でもよいが、風合いを向上させる目的からは短繊維であることが好ましい。
【0029】
本発明の繊維構造体に用いられる芳香族ポリアミド繊維やその他の合成繊維の繊度としては、0.1dtex〜8.0dtexの範囲であることが好ましく、さらには0.2dtex〜3.0dtexの範囲にあることがより好ましい。繊度が太すぎる場合には、不織布とする際のカード機での生産効率こそ良好になるものの、その後行う繊維をフィブリル化させる工程において生産効率が悪化する傾向にある。またフィブリル化しない元の繊維が太い場合は、発生するフィブリルの平均径も太径化する傾向にあるため、最終的に得られる皮革様シート状物のソフト性を確保することが困難となる傾向にある。また、フィブリル化しないその他の合成繊維は、芳香族ポリアミド繊維よりも細いことが好ましく、例えば0.2dtex〜3.0dtexの範囲であることが特に好ましい。このような範囲にある場合には、皮革様シートを内側に折り曲げたときに生じる大きな折れシワの発生を抑制することができ、均質な皮革様シート状物が得やすくなる。繊維構造体を形成する繊維としては、細繊度であることが一般に品質的には好ましいが、繊度が細すぎると、カード機の生産効率が低下し、商業化が困難になる傾向にあるばかりか、皮革様シート状物の強度等の物性値が低下する傾向にある。
【0030】
また繊維構造体における芳香族ポリアミド繊維を混綿する混率としては、目的の不織布、および皮革様シート状物の目標とする目付、厚み、見かけ密度などにより適宜選択すれば良いが、原綿全重量に対して5%〜30%であることが好ましい。5%未満であれば不織布への物性向上効果が薄くなる傾向にあり、多すぎると風合いが硬くなる傾向にある。
【0031】
本発明の製造方法においては上記のような繊維構造体を作成するために、上記配合の繊維を混綿し、カード機を通してウェブを作成し、ニードルパンチにより不織布を作成することが好ましい。不織布とするためのニードルパンチの針打ち込み密度としては、合計で800本/cm〜2000本/cmの範囲であることが好ましい。打ち込み本数が少ないと不織布の繊維間交絡が甘くなり、不織布および最終的に得られる皮革様シートの物性値が確保できなくなり好ましくない。逆に打ち込み本数が多すぎても繊維の切断がおこりやすく、不織布および皮革様シートの物性値が低下する傾向にある。
【0032】
さらに本発明の製造方法にて用いる繊維構造体を得るためには、原綿の一部に熱収縮性を有する原綿を混綿して不織布を作成し、温水中で収縮処理させることで高密度化した不織布とすることが好ましい。温水中での好ましい収縮処理としては、収縮率が5%〜50%の範囲にあることが好ましい。収縮率が少ないと、高密度化の効果が薄く風合いが向上しにくく、収縮率が大きすぎると、不織布表面を平滑に保つことが難しくなり、繊維質基材や皮革様シート状物に凹凸が生じやすい傾向にある。なお不織布を作成するためには、ニードルパンチのほかにもウォーターニードル等の公知の方法を用いることも可能である。
【0033】
このような衝撃処理を行う前の繊維構造体(不織布段階)での目付としては、130g/m〜700g/mであることが好ましい。目付けが低いと、最終的な皮革様シート状物の強度の確保が困難となり、目付けが高すぎると、皮革様シート状物の厚みの制御が困難となり、また表皮材として重すぎる傾向にある。また衝撃処理を行う前の繊維構造体(不織布段階)の厚みとしては、0.5mm〜3.0mmの範囲であることが好ましい。薄すぎると得られる皮革様シート状物の風合いがペーパーライクとなり、厚すぎると皮革様シート状物の厚みも厚くなりすぎるためである。
【0034】
このようにして得られた芳香族ポリアミド繊維を含む繊維構造体(不織布)に対し衝撃処理を行い、高分子弾性体を含浸処理するための繊維構造体とする。なお本発明の衝撃処理とは、表面を突起で打突し、繊維構造体を構成する単糸を長さ方向に分割してフィブリル化(細径化)させる工程である。
【0035】
例えば本発明に用いられる好ましい衝撃処理としては次のような方法が挙げられる。まず、繊維構造体に対し、その両面の側より挟むかたちで1対のボード板を設置する。ボード板の繊維構造体に面する側の表面に、それぞれ繊維構造体に衝撃を与えるための突起を複数配列する。突起形状は表面を平滑に保つためにも角を面取りした円柱、多角形柱状、円錐形状、多角形錐形状、半球形状、あるいは、繊維構造体に接触する円柱の先端部が曲面となるようにした形状などが好ましい。突起の材質は繊維からフィブリルを形成し、かつ出来るだけ繊維を切断しないようなものであり、かつ耐摩耗性に優れ、耐久性のある材質を選択するのが好ましい。1個当たりの突起の大きさは、繊維構造体に接する面の面積が0.1mm〜100mmであることが好ましい。突起の大きさが小さすぎると、繊維構造体を構成する繊維中を素抜けしてしまいフィブリルが得られにくくなる傾向にある。逆に突起の面積が大きすぎると突起から繊維構造体に対してかける圧力が小さくなり、フィブリルが得られにくくなる傾向にある。
【0036】
また、繊維構造体を構成する各単糸を、ムラ無くフィブリル化するためにはボード板面上の突起の配列は、突起中心間の距離が不規則となるように配列するのが好ましい。なお、ここで「突起間の距離が不規則である」とは突起間の距離が乱数であり、等間隔でないことをいう。また突起の密度は突起形状、処理する繊維構造体を構成する混綿条件(綿の材質、繊度)、繊維構造体を構成する短繊維の絡合状態、目付、厚みにもよるが、突起間の平均距離が0.5cm〜5.0cmの範囲であることが好ましい。間隔が狭すぎると不規則に各突起を配するのが困難となり、間隔が広すぎると、有効な衝撃を与えることが困難になり生産性が悪化する。またボード板上に存在する突起は、向かい合う一対のボード板に存在する両面の突起が互いにぶつからないよう、一方のボード板に存在する突起を通るボード板に対しての法線上には、他方のボード板の突起は存在しないように突起を配列するのが好ましい。ボード板は2枚1組で一方のボードは固定し、他方のボードを表面に対して垂直に往復運動させ、両ボード板上の突起が同時に繊維構造体にぶつかるようにしても良いし、両ボードを繊維構造体表面に対して往復運動させても良い。ボード板の動作方法は、繊維構造体に打突を与えて衝撃を付与することが出来れば特に制限は無い。また相対するボード板は生産方向に複数対設置しても良い。繊維構造体の流し方は、繊維をフィブリル化できるような方法を選択すれば良く、ボード板に対して、一方向一定速度で流しても良いし、往復させながら流しても良いし、間欠的に流すなど、任意の方法を選択することもできる。
【0037】
繊維構造体に対して突起が与えるべき衝撃回数は、繊維構造体の目付、厚さ、密度、構成される繊維の混率条件、絡合条件などにより適切な回数となるようにすればよいが、10回/cm〜300回/cmの範囲であることが好ましい。少なすぎると充分にフィブリル化しない恐れがあり、多すぎると生産性が悪化するため好ましくない。なお、ここで衝撃回数とは、ボード板に存在する1個の突起が繊維構造体両面いずれかに1回打突することを、繊維構造体に衝撃が1回加わった回数とする。
【0038】
このようにして衝撃処理された繊維構造体は、芳香族ポリアミド繊維がフィブリル化している。なお、ここで本発明でいうフィブリルとは、繊維構造体中に存在する各単糸が長さ方向に分割されて生じた細径繊維部分であって、直径が5.0μm以下となったものをいう。このような直径5μm以下のフィブリルは、元の単糸直径に対して充分に細く、風合いが驚くほど向上する。
【0039】
また、好ましい平均フィブリル径としては、0.005μm以上3.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.008μm以上1.0μm以下の範囲である。平均フィブリル径が大きい場合には、皮革様シート状物を内側に折り曲げたときに部分的に座屈が生じ、皮革様シートの品質にムラが出てくる傾向にある。また、さらに平均フィブリル径が大きくなった場合には、皮革様シート状物を内側に折り曲げたときの座屈が顕著となり、皮革様シート状物の風合いが硬くなる傾向にある。また平均フィブリル径は小さいほど柔らかい風合いにはなるが、小さすぎると皮革様シートにした際の緻密さが低下する傾向にある。また、さらに小さくすると皮革様シート状物の引張強度等の物性値が低下する傾向にある。なお、ここでいうフィブリル平均径は、走査型電子顕微鏡にて1000倍に拡大し、厚さ方向を含む切断面を10箇所撮影し、画面に現れた繊維切断面中の50本を測定したものの平均値である。なお、フィブリル(繊維)断面は必ずしも真円とはならないので、1本の直径は長径と短径の平均値とした。
【0040】
また、衝撃処理後の繊維構造体におけるフィブリルの存在量としては、繊維構造体の走査型電子顕微鏡で衝撃処理後の繊維構造体表面を300倍で観察した観察像においてクモの巣状に見えるフィブリル部が視野全体の25%以上覆っていることが好ましい。フィブリル部の面積が少ないと、皮革様シートの風合いが硬くなり、内側に折り曲げたときに部分的に座屈が生じ、皮革様シートの品質にムラが生じて好ましくない。
【0041】
本発明の皮革様シート状物の製造方法は、上記の方法にて得られた繊維構造体に高分子弾性体を含浸したものである。本発明で用いられる高分子弾性体としては、例えばポリウレタン、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマーなどや、あるいはポリブタジエン、ポリイソプロピレンなどの合成ゴムが挙げられる。これらの高分子弾性体は有機溶剤で溶解、あるいは分散された溶液、あるいは分散液として含浸に供される。特には高分子弾性体が多孔構造となるように、湿式凝固法にて製造することが好ましい。
【0042】
このような本発明の皮革様シート状物を構成する高分子弾性体としては、ポリウレタンであることがもっとも好ましく、好適なポリウレタンとしては、人工皮革用として使用される先に述べた含浸用の各種ポリウレタンを挙げることができる。
【0043】
より具体的に繊維構造体と高分子弾性体からなる皮革様シート状物を成形する方法を述べると、例えばポリウレタンの良溶剤でありかつ水との相溶性の有機溶剤にポリウレタンを溶解させ、このポリウレタン溶液を繊維構造体に含浸あるいはコートし、水浴中に浸漬して多孔凝固させるいわゆる湿式凝固法、またはポリウレタンを水との相溶性はないがポリウレタンを溶解あるいは分散できる有機溶剤に溶解、あるいは分散させた溶液、あるいは分散液を含浸あるいはコートし、水の蒸発を妨げながら有機溶剤を選択的に蒸発させる乾式多孔成形法などが挙げられる。このなかでも、湿式凝固法が孔の形状を制御しやすく、多孔質からなる含浸高分子弾性体を得るのに最も好ましい方法である。
【0044】
また本発明の皮革状シート状物の表面には、そのまま着色表皮層が形成された銀付調皮革様シート状物であることも好ましい。このような着色表皮層としては、高分子弾性体からなり、従来公知の湿式凝固法や、乾式多孔成形法などで得られる中間表皮層に適した多孔質表皮層や、最表面に適した充実表皮層を挙げることができる。
【0045】
より具体的にそのような多孔質表皮層を成形する方法を述べると、例えば高分子弾性体としてポリウレタンを用いる場合、
・ポリウレタンの良溶剤でありかつ水との相溶性の有機溶剤(例えばDMF)にポリウレタンを溶解させ、このポリウレタン溶液を任意の厚みで支持体上にコーティングし、水浴中に浸漬して多孔凝固させるいわゆる湿式凝固法。
・ポリウレタンを水との相溶性はないがポリウレタンを溶解あるいは分散できる有機溶剤(例えばMEK)に溶解、あるいは分散させた溶液、あるいは分散液を任意の厚みで支持体にコーティングし、水の蒸発を妨げながら有機溶剤を選択的に蒸発させる乾式多孔成形法。
・ポリウレタンの水溶液あるいは水分散液中に熱膨張性微粒子カプセルを分散させ任意の厚みで支持体上にコーティングし、乾燥しながら熱膨張性カプセルを膨張させる方法。
・ポリウレタンの分子末端にアルコール性水素を有するプレポリマーとポリイソシアネート、および水を混合し、直後に任意の厚みで支持体上にコーティングする方法。
・溶融ポリウレタン中に不活性ガスを分散させて任意の厚みで支持体上にコーティング、発泡させる方法。
・ケミカル発泡剤を混合したポリウレタン溶液あるいは任意の厚みで支持体上にコーティングする方法。
などの各種の方法を列挙することができる。特にこの中では、湿式凝固法が孔の形状を制御しやすく、多孔質からなる表皮層を得るのには最も好ましい方法である。
【0046】
また、最表面に適した充実表皮層を形成する方法としては、シート状物上に直接、コーティングなどにより形成する方法や、あるいは剥離性支持体上にて作成された着色表皮層をシート状物に接着剤により貼り合わせても良い。なお、この最表面の充実表皮層は、繊維と高分子弾性体からなる皮革様シート状物上に直接形成しても良く、特には上記の多孔質表皮層を介して皮革様シート状物上に形成することが風合い的にも優れたものとなるので好ましい。
【0047】
より具体的な充実表皮層を形成する方法としては、従来から知られている各種方法が採用でき、例えば、表皮用ポリマーの有機溶剤溶液、水溶液、あるいはこれらの分散液に染料、顔料などの着色剤を混合した液を用い、シート状物の最表面に、スプレー、コーティング、あるいは転写(ラミネート)などの方法により着色表皮層を形成する方法を例示することができる。
【0048】
以上のような表皮層用の高分子弾性体としては、前記の含浸層や多孔質表皮層に用いた高分子弾性体と同様のものが使用でき、いわゆる人工皮革用として使用されているポリウレタンであることが最も適当である。また、特に転写用の接着剤としては、従来から知られている接着剤が使用でき、その中でもポリウレタン系接着剤(ポリイソシアネート系接着剤)である有機溶剤系、あるいは水系の接着剤であることが好ましい。
【0049】
このような本発明の皮革様シート状物は、見掛け密度が、0.25〜0.45g/cmであることが好ましく、さらには0.25〜0.36g/cmの範囲であることが好ましい。このような範囲にするためには、繊維構造体(不織布)の密度、および繊維構造体に含浸されるポリウレタンなどの高分子弾性体の量、および表面形成用の高分子弾性体のコーティング量によって決定することができる。
【実施例】
【0050】
本発明をより具体的に説明するために実施例を以下に記す。ただし本発明の範囲は実施例に限定するものではない。各試料の各評価はそれぞれ以下に記述する方法にて実施した。
【0051】
(1)目付
JIS L1906:2000 5.2に基づき、20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量を秤量し、その平均値を1m当たりの質量で表した。
【0052】
(2)厚さ
JIS L1906:2000で準用するJIS L 1096:1999に準じて、試料の幅1m当たり10箇所について、厚さ測定器を用いて、直径22mmの加圧子による2kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定し、平均値を算出した。
【0053】
(3)フィブリル平均繊維径
走査型電子顕微鏡にて、1000倍の倍率で繊維構造体の厚さ方向を含む切断面を10箇所撮影した。その画面に現れた繊維切断面のうち、原綿として用いた繊維径の50%以下であるもの50本を選択し、測定値の平均値をフィブリル平均繊維径とした。なお、長径と短径の平均値を、そのフィブリル(繊維)1本の直径とした。
【0054】
(4)フィブリル量
走査型電子顕微鏡で繊維構造体表面を300倍に拡大した観察像より、画面全体にクモの巣状にフィブリルが覆っている面積比率をもとに、視覚判定した。観察像視野がフィブリルにより25%以上覆われていることを認めたときに、フィブリルが生じたと判定した。
【0055】
(5)風合い
当業者5名のパネリストにて、皮革様シート状物の風合いについて、官能評価(硬い、同じ、軟らかい)を行った。パネリスト全員が軟らかいと感じたときを◎、風合いが硬いと感じた人よりも軟らかいと感じた人が多いときに○、風合いが軟らかいと感じた人が1名以上いて、かつ風合いが軟らかいと感じた人よりも硬いと感じた人が多いか、同数のときに△、全員が同等か硬いと感じたときを×とした。
【0056】
(6)引張強度
JIS K6505に準拠して測定し、単位はN/cmで表す。
【0057】
(7)収縮率
収縮前の面積をS、収縮後の面積をSとする。収縮率は次の計算で求める。
収縮率(%)=(S−S)×100/S
【0058】
(8)繊度
JIS L−1010−7−5−1A法により測定し、単位はdtexで表す。
【0059】
[実施例1]
<芳香族ポリアミド繊維の作成>
窒素を内部にフローしている攪拌槽に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが等モルとなる様に秤量して投入し溶解させた。このジアミン溶液に、テレフタル酸ジクロライドを、ジアミン総モル量と略当モル、秤量し投入した。反応終了後、水酸化カルシウムで中和し、芳香族ポリアミドドープを得た。
上記ポリアミドドープを、温水中で紡糸し、高温延伸させて得た長繊維より、短繊維繊度が1.7dtex、カット長51mmの芳香族ポリアミド繊維(コポリパラフェニレン−3,4−ジフェニルエーテルテレフタールアミド繊維。以下、パラ型アラミド繊維(1)と記述する)を得た。
【0060】
<収縮ポリエステル繊維の作成>
酸化チタンを0.07重量%含有する、固有粘度0.64のポリエチレンテレフタレートをノズルから引き取って短繊維繊度が3.2dtexの未延伸糸を得た。得られた該未延伸糸を温度65℃の温水中で、延伸倍率3.5倍で1段延伸して、短繊維繊度が1.7dtex、カット長が51mmのポリエステルの短繊維(収縮ポリエステル繊維(1))を得た。なお、この収縮ポリエステル繊維(1)は、20分間の温水処理により45%収縮する繊維であった。
【0061】
<衝撃処理前の繊維構造体(1)の作成>
上記で作成した収縮ポリエステル繊維(1)を67部とパラアラミド繊維(1)を13部、および通常の非収縮ポリエチレンテレフタレート短繊維(帝人ファイバー株式会社製、2.0dtex、カット長51mm)を20部混綿した後、カード機を通してウェブを作成し、次いでバーブ1個を有する針を装着したニードルロッカールームで1200本/cmの打ち込み密度にてパンチングを行い繊維を交絡させて、目付200g/mのウェブを得た。そのウェブを70℃の温水中に2分間浸漬して、面積収縮が32%となるように収縮させ、次いで50℃で乾燥させて、150℃に加熱された金属ドラムと60メッシュのステンレスネットベルト間に把持しながら60秒間の加熱処理を施して目付310g/m、厚さ1.00mm、見かけ密度0.31g/cmの不織布(衝撃処理前の繊維構造体(1))を得た。
【0062】
<衝撃処理された繊維構造体(1’)の作成>
次いで、前項で作成した繊維構造体(1)(不織布)に衝撃処理を付与した。衝撃処理の条件は下記のとおりであった。
一方向一定速度で流れる繊維構造体(不織布)に対し、繊維構造体両面側より挟むかたちで1対のボード板を設置する。ボード板の繊維構造体に面する側の表面に、それぞれ繊維構造体に衝撃を与えるための突起を複数配列した。突起は底面の直径3mm、ボード板面から突起先端部までの高さは3mmの円柱形状でありボード板面に垂直に配列した。突起の材質はステンレス製であり、繊維構造体に接する側は角の面取り加工を施した。突起の配列は、ボード板上の突起中心間の距離が平均10mmではあるが、隣接する各突起中心間の距離は7mm、11mm、13mmのいずれかとし、突起間の距離が不規則(突起間の距離が乱数であり、等間隔でない)であるような配列となるようにした。またボード板上に存在する突起は、向かい合う一対のボード板に存在する両面の突起が互いにぶつからないよう、一方のボード板に存在する突起を通るボード板に対しての法線上には、他方のボード板の突起は存在しないように突起を配列した。ボード板は2枚1組で一方のボードは固定し、他方のボードを繊維構造体表面に対して垂直に往復運動させ、両ボード板上の突起が繊維構造体の表面にぶつかるよう打突を与えることで衝撃を付与した。なお、ボード板の突起は繊維構造体の両面から衝撃を与えることになるが、1個の突起が表裏両面のいずれかに1回打突したとき、繊維構造体に衝撃が1回加わったとする。
上記機械にて、ラインスピード1.0m/分で流れている繊維構造体に対し、繊維構造体に対して表裏両面より相対する2枚の突起付きボードを200ストローク/分の速度で往復運動させて衝撃処理を施すことにより、繊維がフィブリル化した繊維構造体(1’)を得た。当該処理により、繊維構造体1cmあたり平均180回衝撃が加わったことになる。
【0063】
<皮革様シート状物の作成>
上記の繊維がフィブリル化処理された繊維構造体(1’)を6重量%のポリウレタン(DIC株式会社製;クリスボンTF50P)−DMF溶液に浸漬させた後、繊維構造体表面に付着した余分な溶液をかきとり、基材厚さの90%の間隔でスクイズした。基材の圧縮が回復する前に20重量%のポリウレタン(DIC株式会社製;クリスボンTF50P)−DMF溶液を500g/mの目付けにて、表面にコーティングし、次いで水中に浸漬してポリウレタンを凝固させ、DMFを十分に洗浄除去した後、120℃で乾燥して、繊維と高分子弾性体(ポリウレタン多孔質)からなるシート表面に、ポリウレタン多孔質表皮層が形成された皮革様シート状物を得た。
さらに得られたポリウレタン多孔質表皮層を有するシートの最表面に、110メッシュのグラビアロールにて塗布と乾燥を4回繰り返し、白色表面充実皮膜を有する皮革様シート状物を得た。得られた皮革様シート状物は、目付けが401g/m、厚さが1.2mm、見かけ密度が0.33g/cmであった。この皮革様シート状物はソフトで厚み方向でのクッション性にも富み、表面を内側に曲げても大きなシワで折れることも無いものであった。評価結果を表1に示す。
【0064】
[実施例2]
実施例1で用いたパラ型アラミド繊維(1)の変わりに、芳香族ポリアミド繊維としてポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ株式会社製「トワロン1072」、1.7dtex、カット長50mm。以下、パラ型アラミド繊維(2)と表記する)を使用した以外は、実施例1と同様にして、目付310g/m、厚さ1.00mm、見かけ密度0.31g/cmの不織布(衝撃処理前の繊維構造体(2))を得た。
さらに、実施例1と同様の方法で上記不織布に衝撃処理を施して繊維構造体(2’)を作成した。若干、繊維構造体(1’)よりもフィブリル化の程度が少ないものの、充分フィブリル化していた。
引き続き実施例1と同様の方法にて溶剤系ポリウレタンによる加工を行い、皮革様シート状物(2)を作成した。得られた皮革様シート状物は、実施例1同様に厚み方向でクッション性に富み、表面を内側に曲げても大きなシワで折れることもないものであった。評価結果を表1に併せて示す。
【0065】
[実施例3、4]
衝撃処理を行う際の繊維構造体のラインスピードを1.0m/分から1.5m/分に変更した以外は、実施例1及び2と同様の条件にて作成し、それぞれ実施例3及び4とした。このとき繊維構造体(不織布)に対する単位面積あたりの衝撃回数は、180回/cmから120回/cmとなる。実施例3及び4の繊維構造体は、実施例1、2のものに対比して、平均フィブリル径が大きいものであった。
以下、実施例1、2に記載のものと同様の方法にて溶剤系ポリウレタンで加工を行い、皮革様シート状物を作成した。得られた皮革様シート状物は厚み方向でクッション性に富むものであった。しかし表面を内側に折り曲げた際、部分的にわずかに座屈が生じるところもあり、実施例1、2で作成した皮革様シートと比較すると品質にややムラのあるものであった。評価結果を表1に併せて示す。
【0066】
[比較例1]
衝撃処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、皮革様シート状物を作成した。皮革様シート状物を走査型電子顕微鏡によって観察したが、繊維構造体中には、繊維のフィブリルは確認されなかった。また作成した皮革様シート状物は硬い手触りであり、表面を内側に折り曲げると大きな座屈が生じ、風合いの劣るものであった。評価結果を表2に示す。
【0067】
[比較例2]
芳香族ポリアミド繊維の代わりに通常のポリエステル繊維を用い以外は実施例1と同様にして皮革様シート状物を作成した。
すなわち、収縮ポリエステル繊維(1)を67部と、通常の非収縮ポリエチレンテレフタレート短繊維(帝人ファイバー株式会社製、2.0dtex、カット長51mm)を33部混綿した後、カード機を通してウェブを作成し、次いでバーブ1個を有する針を装着したニードルロッカールームで1000本/cmの打ち込み密度にてパンチングを行い繊維を交絡させて、目付200g/mのウェブを得た。該ウェブを70℃の温水中に2分間浸漬して、面積収縮が32%となるように収縮させた。その後に50℃で乾燥させて、150℃に加熱された金属ドラムと60メッシュのステンレスネットベルト間に把持しながら60秒間の加熱処理を施して目付310g/m、厚さ1.00mm、見かけ密度0.31g/cmの不織布を得た。
次いで、衝撃処理を実施例1に記載のもの同様に実施した。その後実施例1に記載のものと同様の方法で溶剤系ポリウレタンで加工を行い、皮革様シート状物を作成した。走査型電子顕微鏡による観察では繊維構造体を構成する繊維には、フィブリルの存在は確認されなかった。また作成された皮革様シート状物は硬く、表面を内側に折り曲げると大きな座屈が生じ、風合いに劣るものであった。評価結果を表2に併せて示す。
【0068】
[比較例3]
衝撃処理を行わなかった以外は比較例2と同様にして、皮革様シート状物を作成した。作成した皮革様シート状物は硬い手触りであり、表面を内側に折り曲げると大きな座屈が生じ、風合いの劣るものであった。評価結果を表2に併せて示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の皮革様シート状物は、強度が高いにも関わらず風合いにも優れたものであり、靴類、鞄類、各種競技用ボール、運動用具、装丁材あるいは家具、車輌シートなどの幅広い用途に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造体と高分子弾性体からなる皮革様シート状物であって、該繊維構造体が芳香族ポリアミド繊維を含み、かつ該芳香族ポリアミド繊維がフィブリル化していることを特徴とする皮革様シート状物。
【請求項2】
該芳香族ポリアミド繊維のフィブリル化部分の直径が0.01〜5.0μmである請求項1記載の皮革様シート状物。
【請求項3】
該高分子弾性体が、溶剤系ポリウレタンである請求項1または2記載の皮革様シート状物。
【請求項4】
該芳香族ポリアミド繊維が、パラ型芳香族ポリアミド繊維である請求項1〜3のいずれか1項記載の皮革様シート状物。
【請求項5】
該繊維構造体が、ポリエステル繊維を含むものである請求項1〜4のいずれか1項記載の皮革様シート状物。
【請求項6】
芳香族ポリアミド繊維を含む繊維構造体に衝撃処理を行い、次いで該繊維構造体に高分子弾性体を含浸することを特徴とする皮革様シート状物の製造方法。

【公開番号】特開2010−270411(P2010−270411A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123120(P2009−123120)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】